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特殊レンズ・スーパーマニアックス(12)SIGMA ART LINE

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。

今回の記事ではSIGMA製の「ART LINE」に属するレンズを
4本紹介しよう。


このART LINEのカテゴリーでは、多数の、主に大口径の
レンズが発売されているが、高価な事もあって、本記事執筆
時点では私が所有している範囲は4本のみだ。


しかし、製品コンセプトが優秀であり、どれも描写力が極めて
高く、個人的には気に入っているので、今後このART LINEの
レンズの所有数は順次増えていくと思われる。
(追記:本記事執筆後に、Art 40mm/F1.4を購入して
いるが、評価が間に合っていなかった為、別記事での
紹介とする)

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まず最初のシステム
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レンズは、SIGMA 50mm/f1.4 DG HSM | Art
(中古購入価格 72,000円)(以下、A50/1.4)
カメラは、CANON EOS 6D(フルサイズ機)
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SIGMA ART LINEを代表する1本である。
SIGMAでは、2010年前後からのミラーレス機やスマホの
台頭による、一眼レフ・交換レンズ市場縮退への対抗策と
して、「用途別カテゴリー分け」の製品戦略を2013年頃に
採用した。
それは、スポーツ、コンテンポラリー、アートの3つがあるが、
内「ART LINE」は、最も硬派であり、最も付加価値が高い
カテゴリーである。

付加価値が高い、という状態は、単純に言えば、値段が高い、
という事であり、メーカーから見れば利益を得る為の製品群だ。
これをユーザー側から見れば「コスパが悪い」という事に
他ならないが、でも、コストが高いという事と、コスパが
悪いという事は、必ずしもイコールでは無い。
多少値段(コスト)が高価であっても、その値段に見合う
性能(パフォーマンス)があれば、コスパは許容範囲となる。

真に「コスパが悪い」レンズとは、その性能に比べて値段が
高過ぎる物であり、例えば、希少性、投機性、ブランドイメージ、
開発コストの肥大と販売本数の少なさからの価格上昇、
高級レンズである事を示す称号(=メーカーからの押し付け)、
あるいは、有名人が良いと言ったから、等といった理由により
定価や中古相場が高額になっているものであり、そういう類の
レンズは、個人的には一切購入しないようにしている。

また、私の場合はレンズの価格上限も決めていて、それは
およそ13万円である(中古でも良い)、これを超える価格の
レンズは、たとえどんなに性能が良くても購入しない。
(注:本記事執筆後に、このルールは15万円迄に緩和)

それ以上のコスト投資は、趣味撮影としては過剰なレベルで
あり、仮に業務撮影用としても、設備投資比率が高すぎる。
(=つまり、同等品質の写真を納品して収益を得るならば、
できるだけ安価な機材で撮影した方が、利益率も収支も良く
なり好ましい。高価な機材を買っていたら赤字になるのだ)
_c0032138_20425111.jpg
で、「硬派である」と称している理由だが、具体的には
ART LINEのレンズには「手ブレ補正機構」が搭載されていない。

「それを内蔵する事で、構造が複雑になって、高価になったり
 描写力が落ちたり、重量が増えたりするくらいであれば、
 こういう大口径レンズでは、元々手ブレ補正の必要性は
 殆ど無いので、その製造コストの全てを、高描写力化の為に
 つぎ込んでもらいたい!」
という上級ユーザー層でのニーズがあり、それに応えた
コンセプトの製品として このART LINEが存在しているが
故にである。

これは、「手ブレ補正が入っていなきゃ、ズームでなきゃ」
といった、一般的な初級中級層での、ある意味「軟弱な」
ニーズとは対極をなすものであり、それ故に「ART LINEは
硬派だ」と称している訳だ。

私はどうも、そういう「硬派」な商品が好きな模様であり
「便利だ」とか「性能が高い」と称されて、自分には不用な
機能や仕様が入っている商品は、基本的には好みでは無い。

他の市場分野での例は、直接的には思いつかないが・・
まあ1つの典型的な例は、私が1990年代に購入した、
YAMAHA SRX600(3SX型)というオートバイが、
その「硬派」の類であろうか・・

そのSRX600は、4ストローク単気筒エンジンを搭載し、
600ccでは最軽量クラスの車体であり、当時の他の
一般的バイクユーザーが、中型免許で乗れる400ccで
4気筒DOHC16バルブ高回転高馬力型エンジンの車種を
志向していた事とは対照的だ。

SRXの企画コンセプトが「くたばれ、お気楽、バゴーン!」
であると、開発秘話で読んだことがある。
(ここで「お気楽」とは、高性能だが安直な多気筒エンジン
の車種を指すのであろう。YAMAHAにもそれはあるが・・汗)

実用上のSRX600では、その非常にトルクフルなエンジンは、
「後ろから蹴られたような」強烈な瞬間加速感を生み出し、
信号発進等では、400cc多気筒はもとより、1000ccクラスの
ビッグバイクを含めた、ほぼ全ての他のバイクをも、軽く
凌駕する俊敏な加速性能があった。
峠道等のワインディングでも取り回しが良く、とても気持ち
よく乗れるバイクでもあった。
(ただし、高速クルージングは馬力不足と軽量で向かない)

長年、約20年間も乗り続けた名車ではあったが、走行距離が
とても増え、きちんとメンテナンスを続けてはいたものの、
老朽化が酷くなり、やむなく廃車してしまった次第だ。

余談が長くなったが、バイクに限らず、カメラでも同様で
初級中級層は、一般的に人気のあるハイエンド機(まあ
バイクで言えば、リッターバイクだ)にばかりに目が行き
ミドルクラスの本当に使い易いカメラには目が向かない。
または、初級中級層が欲しがる「大三元レンズ」のような
ものであろう。

まあ、それは当然であって、そういう細かい所に気づく為の
知識や経験や価値観が無い事と、高性能な機材で自身のスキル
の不足をカバーしようとする事が理由で、そういう状況である
からビギナーな訳だ。もしビギナーが細かい事までわかって
いて、機材の性能差等は何とでもするならば、既にそれは
ビギナーでは無い、という逆説的な話にも繋がる訳だ。

そして、現代のカメラ(レンズ)市場や大型バイク市場は、
縮退し、そうしたビギナー層により支えられている状態だ。
まあ、上級マニア層等が、興味を失うのも当然であろう。
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さて、本レンズA50/1.4の話がやっと始まるが、
「大きく、重く、高価」という、典型的な「三重苦レンズ」
である。
このレンズの重量はEFマウント版で800gオーバーであり
フィルター径はφ77mmもある。

このクラスの大型50mm標準レンズは、過去には無かった
程の規格外のサイズ感であり、これを超える標準レンズは

コシナ・ツァイスのOtus 55mm/f1.4 (φ77mm,約1kg)
しか無かったのではなかろうか? ただ、Otus55/1.4は
定価約46万円の超高額レンズであるから、一般的に簡単に
買えるようなものでは無い。(勿論、未所有)

コシナ・ツァイスの下位シリーズ Milvus 50mm/f1.4は
所有していて、そちらはフィルター径はφ67mmと
だいぶ小さいが、重さは本A50/1.4と同レベルの
約800gとなっている。

Milvusも、そこそこ高価なので「三重苦レンズ」では
あるが、まあ、描写力は悪くは無い。

本A50/1.4も定価では14万円弱と、Milvus 50/1.4の
16万円弱よりも若干は安価だが、依然、標準レンズと
しては非常に高価ではある。

(追記:これらを超える価格帯の標準レンズでは、近年の
HD PENTAX-D FA★50mm/f1.4 SDM AW 定価約18万
円がある、こちらも約900gと非常に重い様子だ(未所有)

また、Tokinaからもopera 50mm F1.4 FFが
950gという重量級で発売された。→これも未所有)

で、価格に関しては、SIGMA製品は、ツァイス製品よりも
新品値引率や中古相場の下落が大きく、遥かに買いやすく
なっている。
現代での本A50/1.4の中古相場は6万円台後半であって、
このレベルであれば、まあ標準レンズとしては割高だが、
高性能レンズと考えれば、有り得ない価格帯では無い。

描写力としては、勿論何も問題はなく、大きく重く高価な
「三重苦」以外の欠点は何も無い。
内蔵手ブレ補正が無い事については、中級者以上であれば
カメラ設定や撮影技能により、なんとでもなるので不問だ。

あとは、こうした「高付加価値型標準レンズ」
(A50/1.4,Milvus50/1.4,DFA50/1.4,opera50/1.4等)
を買う意味があるのか無いか?という、ユーザー側での
ニーズと、機材選択の価値感覚につきるであろう。

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では、次のシステム
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レンズは、SIGMA 70mm/f2.8 DG MACRO | Art
(新古品購入価格 44,000円)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)

旧製品のSIGMA 70mmマクロ(EX版)は知人が所有していて
気になってはいたが、残念ながらレア品で、中古が全くと
言って良い程に出ず、購入の機会に恵まれなかった。
(追記:本記事執筆後に入手済み、別途紹介予定)

2018年に新発売された本ART版において、やっと入手性が
高まった故の購入である。
_c0032138_20425925.jpg
さて、本レンズをSIGMAでは「カミソリマクロ」と称している。
その真の意味は不明だが、まあ、「解像力に優れている」
という事であろう。旧版の紹介記事で、ライターにより
その名前が使われた事が由来だと思うが、その名称が
マニア層に広まっていたとは思い難い。(前述のように
旧版製品はセミレアで所有者が少なかったからだと思う)

この語源の余談だが、昔のプロ野球で「カミソリシュート」
という球種があった、高速で変化のキレの良い変化球の事だ。
(また、サッカー漫画でも、この名前の「シュート」が
あったと思う)
で、この球種を使いこなし、201勝を上げた事で有名な
「平松投手」が、2018年の第100回夏の甲子園(高校野球)
で始球式に登場。
「お!伝説のカミソリシュートが見れるか?」と期待したが
平松投手は既に70歳を越えていて、山なりボールであった。

さて、もし、マクロレンズであまりに解像力の高いものは
例えば「平面マクロ」や「カリカリマクロ」と私が称する
ように、「被写体を限定する」等の他の問題点も誘発する。
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本A70/2.8の長所としては、勿論その解像力だ。
レンズ設計技術的に言えば、画面中央部の解像力に重点を
置くと、画面周辺の解像力が落ちてしまう事もあるだろう、
また、ピクセルピッチの狭いカメラの方がバランスも良い。
そういう点では、本レンズはフルサイズ機よりもAPS-C機
に装着した方が、レンズの長所をより強調できる。
(ただ、さほど周辺画質劣化の傾向は無さそうだ)

当初、EF(EOS)マウント用で購入予定であったが、
なかなか中古が出て来ない。やむなくSONY E(FE)マウント
用の新古品を購入した次第である。

やむなく、と書いたが、本レンズはEFマウント版でも
課題があると思われた。
それは、本レンズA70/2.8のEOS(EF)マウント版では、
カメラ本体からの電源供給が無いとMF操作が出来ないのだ。
(量販店の店頭で動作を確認済み)

これは、本レンズに限らず、CANON純正レンズであっても
EF85mm/F1.2L(Ⅰ/Ⅱ型)や、STM型番のEF40/2.8STM
等でも同様の欠点があり、事実上これらのレンズはEOS機に

装着しないと使えない「排他的仕様」であった。
(すなわち、他マウント機で通常アダプターで使えない)
より実用的な課題としては、「ピントリングを廻しながら
カメラの電源を入れ、カメラを構えた状態では、ほぼ
ピントが合っていて、ゼロタイムで被写体を視認する事が
できる」という「上級MF技法」が一切使えない。
(匠の写真用語辞典、第11回、第12回記事参照)

でもSIGMA製レンズでは珍しい事だ、排他的にする意味も
殆ど無いし、私が持っている他のART LINEレンズでは、
全て、そのような事は無い。
結局、駆動モーターの仕様が違うということなのだろうが、
そういえば、この70mmにはHSM型番がついていないし、
ドル箱とも言える、NIKON Fマウント版も発売されていない。

価格を押さえる為に、モーターでコストダウンしている
のだろうか? まあ、マクロ撮影ではAFの俊敏性は問題では
無いので、それは正しい企画コンセプトとは言えるだろう。

けど、その結果の影響が大きすぎる。
まず、Eマウント版においてはAFが極めて遅い(汗)
MFは無限回転式ピントリングで極めて使い難い為、困った
状態だが、まあでも、SONY機の優秀なピーキング機能で
一応なんとかはなる。
でも全般に、EOS機またはSONY Eマウント機でしか
使えないのであれば興味が半減だ。
Eマウント版でも他マウント機で使う事は簡単には出来ない、
なので、「もうどちらのマウントでも良い」という判断と
なった次第である

さらに言えば、EOS版では電源OFF時に、もし鏡筒が伸びて
いる状態であると、それを手動では短く戻す事が出来ない。
この仕様に関連して、使える機体にも機種制限が出てしまう。
ただし、本SONY版では、電源OFF時に自動収納されるように
なっている(注1:そうするようにカメラ側で設定できる)
(注2:EOSの機種によっては、電源OFF時の収納設定が
可能なものもある)
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今後、非HSM仕様のSIGMAレンズが、皆この仕様になって
しまうと非常に困る。なんとか改善してもらいたいと思うが、
基本的な設計構造上、それは無理かも知れない。
(・・であれば、企画段階で、こうした「排他的仕様」の
強いレンズは企画してもらいたくない。今後も、あまりに
こういう事が続くならば、せっかく個人的に好みであった
ART LINEへの信頼感も落としてしまう状況だ)

それから、本A70/2.8と、α6000の組み合わせでは、
何故かデジタルズーム機能が動作しない、他のAF/MF
単焦点レンズは、ほぼ全て動作するし、本レンズを
NEX-7に装着しても動作する(ただしα7との組み合わせ
ではNG)ここはプロトコル上の問題だろうが、何故そう
なっているかの理由は不明だ、でも、不便な事は確かだ。
(追記;2018年末のファームウェアVer.02以降で、
この不具合は解消されている、勿論ファームアップ必須だ)

SIGMA製品では、USB DOCKというアクセサリーを購入
すれば、レンズ側ファームウェアの購入後のアップデート
が可能なので、初期ロットでのバグや完成度は旧来よりも
大目に見ているのかも知れない。まあ、カメラ側も日々
仕様変更しているから、その考え方は分からないでも無い。
でも、買ってきた製品に色々問題点があるのは困った話
であるし、他数の異マウントのレンズを持っていると、
一々全マウントでUSB DOCKを買う訳にも行かないし、
個々のレンズのファームアップの情報も、各々調べるのも
大変面倒だ・・
(注:SONY Eマウント品であれば、USB DOCKを使わず
とも、α機本体を経由してファームアップが可能である)


まあ、あまり好ましく無い状況なので、本レンズの紹介や
評価は早々に終了としよう。もっと汎用性が高いバージョン
が出てきたら(例:ニコン版)、改めてそれを入手した上で
評価する。(注:上記構造上で、「ニコン版は作れない」
と開発者が語っていた。そうであれば、後継機待ちか?)

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では、次のシステム
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レンズは、SIGMA 135mm/f1.8 DG HSM | ART
(中古購入価格 102,000円)(以下、A135/1.8)
カメラは、CANON EOS 7D MarkⅡ(APS-C機)

2017年発売の高描写力AF大口径望遠レンズ。
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本A135/1.8は、描写力的にはお気に入りのレンズである。
ただし、これもまた、大きく重く高価な三重苦レンズだ。

フィルター径φ82mmは、かろうじてセーフ、これを超えて
φ86mmとなると、保護フィルターもNDフィルターも
特注品に近い状況となり、入手が面倒、かつ高価となるし、

中古もあまり見かけない。

135mmレンズで口径比(開放)F1.8を実現する為には、
135÷1.8=φ75mm以上の前玉径が必須の計算になるので、
まあ、これをフィルター径φ82mmに抑えている事は、
設計上では頑張っている状況だとも思う。

余談だが、他のこれより短い焦点距離のART LINE単焦点
レンズが、殆ど全てF1.4の口径比を実現している事から、
「本135mmもF1.4であって欲しかった」などの極めて
安直なレビューを見かけた事があったが・・

もしF1.4にしようとすると、必要な前玉径は計算上では
135÷1.4=φ96mm以上、実質的には、鏡筒径には余裕が
必要な為、軽くφ105mm以上のフィルター径となるだろう。

ちなみに、下の焦点距離機種のSIGMA 105mm/F1.4 ARTが、
φ105mm、約1.6kgの仕様なので、135mmでF1.4を作れば
それをも軽く上回り、もう規格外のサイズと重量となる。

そういうレンズでは手持ち撮影もできないだろうし、
ハンドリング性能も極めて悪くなる、当然価格も高価だ。
例えば、135mm/F1.4 フィルター径φ112mm 重量3kg超え
価格35万円、そんなレンズを欲しがるユーザーが多数居るの
だろうか?(注:海外製レンズで、殆どこのスペックの
製品が存在するが、通常販売では無く、受注生産である)

冷静に考えれば、本レンズがF1.8で仕様限界点である事は
明白な事実であり、メーカー側もその点は重々承知の上で
製品の企画や設計を行っている。

ユーザー側で好き放題、あれが欲しい、この性能が欲しい
等と「無いものねだり」をする評価は、全く好ましく無い。
そんなレビューが増えたらメーカー側の企画コンセプトも
混乱してブレてしまう。「正しい製品」を作って貰う
為にも、安易に無意味な評価は行うべきでは無い。
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さらに余談だが、SIGMAでは銀塩MF時代に社外の職業写真
家層による「望遠でもパンフォーカスが欲しい」という
「無いものねだり」の意見をまともに受け、最大絞り値
F64という135mmMFレンズを発売している(未所有)
このレンズには「パンテレ」という愛称がつけられた。

しかし、その効能は一般ユーザー層には理解はされず、
勿論、実用性自体も大いに疑問である為、当然ながら
販売数は伸びず、商業的には失敗してしまっている。
まあ未所有レンズなので、あまり細かい事は言えないが、
周囲の意見に惑わされてしまうのも良く無いという事だ。

メーカー側がそうした失敗を繰り返してしまうと、次の
製品は損失をカバーする為に、さらに高価なものとなる。
ユーザー側にとっても、勿論、それは好ましく無い状況だ。
どう考えても「無いものねだり」の評価は避けるべきだろう。
_c0032138_20431613.jpg
本レンズの弱点としては、大型かつ重量級(1100g以上)
な故に、ホールディング性能が厳しい事がある。
これはカメラとの重量バランスや、重心の意識で解決できる
レベルでは無く、手ブレ補正が入っていない事とあいまって
手持ちの低速シャッター撮影では手ブレを頻発する。

具体的には、本レンズを購入するような上級者レベルで
あっても、フルサイズ機で1/100秒以上、APS-C機では
1/150秒のシャッター速度をキープする必要性があり、
CANON機やNIKON機でのAUTO ISOの低速限界を、少なく
とも、この値に設定しておくか、又は手動ISO設定で手ブレ
限界速度を下回らないようにするのが基本的な対策だ。


試しにAPS-C機のEOS 7D MarkⅡで1/20秒~1/60秒
程度の低速シャター撮影を色々試した結果、どんなに
慎重に撮ったとしても、原則上の手ブレ限界(約1/200秒)
を、2段下回るシャター速度(約1/50秒)以下では、
著しく歩留まりが低下し、もう偶然で無いと撮れない。
_c0032138_20432979.jpg
上写真は、超遠距離(約4km)の花火の、本システムでの
低速シャッター手持ち撮影だ。
これは基本的には「有り得ない撮影技法」だが、こういう
特殊な被写体状況では、手ブレ限界を試す事ができる。

まあ、他のレンズでは、手ブレ限界の3段落ち程度までは
頑張れば撮れるケースもあるので、本レンズはその重量
故に、手ブレ限界点を低めているのであろう。

銀塩時代には「重量の重たいシステムの方が手ブレしにくい」
と良く言われていたが、物理的及び撮影者の肉体的な面での
根拠の無い「俗説」の類であり、それを信用しない方が良い。

軽量カメラEOS 8000Dの紹介記事(デジタル一眼第21回)
でも、本レンズを装着して実写および説明をしているが、
システムの総重量は出来るだけ軽い方が実用上望ましい。
「重たい方が良い」というのは、高額機材を売りたいが為の
「広告宣伝的」な方策(方便)であったようにも思えてしまう。

さて、描写力的には何も問題の無い高性能レンズではあるが、
一般層では「用途に困る」レンズであるかも知れない。

私の場合は、本来は「暗所のステージ撮影」を意図して
購入したレンズだ。その目的には、旧来SONY製135/1.8ZA
を使用していたが、発売10年を超えて、仕様的老朽化が
目立つ状態となった(例:超音波モーター無し)
そのZA135/1.8の代替が本レンズの購入目的ではあったが
この「手ブレ補正無し」の問題が、暗所においては意外に
回避が困難である事がわかってきた為、ステージ撮影に
持ち出す事は、現状ではあまり無い。
_c0032138_20432918.jpg
なお、暗所のステージ撮影で、AUTO ISOで使用する場合
(注:照明がころころと変化する場合、手動ISOでは操作が
煩雑になってしまう為)前述のAUTO ISO低速限界速度は、
少なくとも1/250秒以上に高めておく必要がある。

その理由は、動きのあるパフォーマー(人物)を止めて
写すには、それ位のシャッター速度が必要となるからだ。
さらに速い動き(ダンス等)では、もっとシャッター速度を
速めるか、又は逆に、ある程度遅くして、ブラして動感を
得る事になる。だが、いずれにしても、カメラ設定の操作が
かなり煩雑で、なかなか設定が間に合わない事が課題だ。

ただし、1/250秒を維持する為に、暗いシーンではAUTO
ISO機能が勝手に感度を非常に高めてしまうケースも
あるので要注意である。しかし、それを嫌ってか、知人の
初級職業写真家は、ステージ撮影で手動ISO設定としていたが
撮った写真を見せてもらうと、ステージで極端に照明条件が
変化した場合に、露出値(レンズのF値やカメラのシャッター
速度)が追従できず、オーバーやアンダー露出となって
しまっていた。これを回避するには頻繁な手動ISO設定変更が
必要だが、そこまでは、残念ながら手が廻らない事であろう。
やはりAUTO ISO機能を使う事が、そうした暗所ステージの
撮影条件では必須だと思われる。


本レンズの総括だが、とても高性能(高描写力)ではあるが、
その「用途・目的」の課題(何に使うか?)があり、誰にでも
薦められるレンズでは無い事は明白だ。

ポートレート用等に使う事は勿論可能ではあるが、
ART LINEには、他に85/1.4や105/1.4もある為、本レンズの
135mmという焦点距離を、どう住み分けて使うのかは難しい。

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では、今回ラストのシステム
_c0032138_20434055.jpg
レンズは、SIGMA 85mm/f1.4 DG HSM | ART
(中古購入価格 94,000円)(以下、A85/1.4)
カメラは、CANON EOS 7D (APS-C機)

2016年発売のAF大口径中望遠レンズ。
_c0032138_20433966.jpg
こちらも、SIGMA ART LINEを代表するレンズであるが、
これも手放しでは褒められず、色々とクセがあるレンズだ。

まずは例によって三重苦、こちらは85mmレンズでありながら
フィルター径がφ86mmもある。
「焦点距離を越えるフィルター径ならば、計算上は開放
 F1.0まで可能だろう? 何故こんなに大きい!」と、悪態を
つきながら、φ86mmのNDフィルターを探す事になったのだが、
その口径のNDは、まず中古で見かけない。

新品は1万円を超えるので、もしそれを買ったら、持論の
「フィルター5%の法則」(保護フィルター等の付属品は
レンズ購入価格の5%を超えない事、という持論)を
破ってしまう、ルールを遵守しなければならない事も無いが、
つまり「付属品コストが無視できない状態」という事だ。

やむなく、ステップダウンリングを購入し、本A85/1.4の
φ86mm径をφ82mmまで狭めて、所有しているφ82mmの
ND4を使う事にした。ケラれる危険性がある使用法だが
APS-C機で使う上では何ら問題が無く、フルサイズ機でも
なんとかセーフである。(鏡筒径に余裕を持つ設計だと
見なせるが、逆に言えば「肥大化」しているという事だ)

何故NDフィルターが必要かは、日中に開放F1.4迄を
使おうとすると、ISO100でも最大1/16000秒のシャッター
速度が必要となる、例えばEOS 6Dでは1/4000秒機なので
これを2段減光するND4の装着が必須だ。
(注:EOS 7D/5D系等であれば、ND2でも大丈夫だが
AUTO ISO時での最低感度の設定方法に注意が必要だ)

勿論、暗所とか、絞り込めば、この問題は起こらないし、
EOS上級機では「セイフティシフト」機能により、自動的に
絞り込んでシャッター速度オーバーを回避する事はできる。
けど、常に最大限にパフォーマンスを発揮できるように、
すなわち絞り値の自由度は、高ければ高いほど好ましい。

一眼レフでも、現代のミラーレス機と同様に、「高速電子
シャッター」又は「デジタルNDフィルター」が使えるように
なれば良いのだが、残念ながら、今の所、そうした機能を
持つ機種は極めて少なく、CANON機(EOS 一眼レフ)では
恐らく無いと思う。
_c0032138_21010781.jpg
さて、本A85/1.4の描写力についてだ。
基本的に私は85mmレンズは好きであり、銀塩時代からの
多数の85mmレンズを所有している。しかし、殆ど全メーカー
の85/1.4クラスを使ってみても、どうにも好みに合う描写力
を持つものが、あまり存在していなかったのだ。

そこで、2000年代頃からは、もう85/1.4クラスを買う事を
殆どやめてしまっていた。「どうせスペックの見かけ倒しだ」
と、捻くれた反発心もあったからだ。
それに、この時代の状況では、旧来の銀塩時代の85/1.4の
レンズ構成を踏襲した製品しか出てこず、それらは多少
外観が変わったとしても、中身は古いままだと思われたのだ。

だが、そこから十余年、やっと2010年代中頃になって、
本SIGMA 85/1.4のような、従来のプラナー型やらゾナー型
とは全くの別の新設計と思われる85mmレンズがチラホラと
出始め、「さすがに、そろそろ85/1.4も、性能が上がって
いるのではなかろうか?」と思っての購入であった。

じゃあ、このA85/1.4は、進化しているのか?
「う~ん、それは何とも言えない状況だ」というのが
本音の所だ。
_c0032138_21010983.jpg
実は、「旧来の85/1.4の描写力が気に入らない」という
点には、ほぼ全ての85/1.4で「使いこなしが困難」という
別の課題の存在が密接に関連している。

例えば、絞り開放付近での近距離撮影では、85/1.4は
その被写界深度の浅さからも、歩留まり(成功率)が
10%以下程度の、極めて難しいレンズとなる。
これはピントの問題のみならず、ボケ質破綻の問題も
関係していて、上手くピントが合っていても、ボケ質が
気に入らない、とか、逆にボケは綺麗なのに、微妙に
ピンボケだとか、そういうケースが多発し、すべての
面で、「よし、上手く撮れた」等と思うケースが滅多に
無い(概ね数%程度)からである。

だから、85/1.4のレンズを評価しようとしたら、少なくとも
何年間も、様々な条件で何万枚も撮影してから、良し悪しを
語るようにしか出来無いのではなかろうかとも思う。

たまたま上手くハマった写真が偶然1枚撮れたところで、
それが、その85mmレンズの性能を表すものでは無い。
銀塩時代での代表例をあげれば「CONTAX プラナー85/1.4」
がそれであろう、そのレンズは「名玉」と称されながらも、
実際にそれを使うと、「凄い! さすがCONTAX!」と
褒めれるような写りになるケースは、よほど上手く条件が
当たった場合で、それは100枚に1枚も無かったのだ・・・

むしろ理想を言えば、「なるべく失敗しにくく、どんな状況
においても、そこそこ及第点の写真が撮れる」といった
科学技術用語で言うところの「ロバスト性」(様々な外乱に
耐えうる性質)を備えた85mmレンズである方が(特に
業務用途が多い場合は)好ましいようにも思える訳だ。

で、85/1.4級では、殆ど全の製品が、まあ無理なのだが、
85/1.8級では、そういう性質を持つレンズも何本かある為、
重要な撮影では、そうした「安全なレンズ」を持ち出す
ケースが、とても多かった。

本A85/1.4は、残念ながら「安全なレンズ」では無い。
が、上手く被写体条件と撮影条件がハマれば、最強クラスの
描写力を得られるポテンシャルを持つレンズではあると思う、
まあ、CONTAX RTSプラナー85/1.4みたいな特性であろうか・・

そして、それを自在に引き出せるほど、私も本レンズで
大量の撮影をした訳では無いし、その経験的なノウハウを
まだ積んでいる訳でも無い。そして、そもそも、そう簡単に
性能を引き出せる類のレンズでは無い事も、だいたいは
わかってきている。

結局、今後、このレンズを使い続け、数年、あるいは10年
以上を経過した状態で、やっと本レンズの真の実力値が
見えてくるようになるのだと思う。
まあ、それまでは本レンズの評価は控えておく事としよう。

とは言うものの・・ では「今欲しい人」は、どうするのか?
「買ったら良いのか悪いのか、わからないではないか」
という不満があるかも知れない。

けど、原則論を言うならば、WEB上や雑誌上などでの
他人のレビューは、本質的にはまったく参考にならないのだ。
何故ならば、そのレビューでの撮影技法も、用途も、あるいは
評価を行う経験値も、価値感覚も、購入希望ユーザー側の
それらと完全に一致する事は有り得ないからだ。

だから、たとえ専門的な職業写真家が、非常に高度な技術や
技能を用いて、かつ、膨大な撮影枚数の中から、「これだ」と
選んだ作品や作例を見たとしても、では、ビギナーユーザー
が、それと同じ写真が撮れるか?といったら、それは絶対に
無理である。つまり、その掲載作例は、そのレンズの最大に
近いポテンシャルを提示してくれるだけであって、その最高
性能を発揮する為に、どれだけの労力や時間が必要なのかは
ユーザー側のスキルに、モロに依存してしまうだろう。

もしかすると、ビギナー層では何十年かかっても、その
レベルには到達できず、せっかく買った高性能レンズの
性能を全く引き出せないかも知れない。

だが、その事をどう捉えるかもユーザー次第だ、
「このレンズを買う時にカタログで見た、あの作品のような
写真が撮りたい」と思って、それがモチベーションとなって、
何年も精進できるかも知れないし、あるいは少し撮っただけで、
「難しい、使いこなせない」と諦めて、また別のレンズに
興味が行ったり、売却してしまったりする事も、それもまた
ユーザーの好き好きだとは思う。(CONTAX RTS P85/1.4
では後者のケースが多く、中古市場に溢れかえった・汗)

だから重要な点は、他人の評価の情報を集めたり参考に
したりする事ではなく、あくまで自分自身の価値観や
ルールをしっかり持つ事だ、それが無いと、他人の評価に
左右されて、流されて(踊らされて)しまう訳だ。
_c0032138_21011566.jpg
本レンズA85/1.4は使いこなしが難しい。それがわかれば、
上手く使いこなそうとスキルを上げる鍛錬をしてもよいし、
膨大な撮影枚数をこなして、そこから気に言った作品を
選んでも良いし。あるいは、撮影の確実性を要求される
重要な撮影用途でリスキーだと判断するならば、本レンズを
持ち出さないという選択肢もある。そのあたりはユーザーに
よりけりであり、それらを理解や判断した上で、本レンズの
ような高額商品は、購入するか否かを決めるべきであろう。

まあでも、単純に言ってしまえば、本レンズ、および他の
ART LINEレンズは、「ビギナー層では使いこなしは困難」
とは言えると思う。けど、ここもまた、それは承知の上で
なんとか使いこなせるようにする為の、教材としての投資
という考え方は十分にある。
つまり、「ここまで高価なレンズを買ってしまったら、
もう後には引けない」という覚悟が出来る事だ。

余談であるが、他の商品分野でもまったく同じケースを、
いくつか見た事がある、例えば、ギター教室に通う初級者
が60万円以上もする高額なアコースティックギターを、
ボーナスをはたいて購入した。

周囲から見れば「彼は、まだビギナーなのに、あんなに高価
なギターを買ってどうするのだ?」という懸念があったし、
冷笑する態度や、あるいは「妬み」もあったかも知れない。

が、その彼は、高価なギターを買った事で、毎日毎日必死に
練習をし、1年が過ぎる頃には、笑っていた周囲の人よりも
遥かに上達していた、という事例がある(これは実話だ)

だからまあ、ART LINEレンズにおいても「ビギナーだから
まだ無理」などと決め付けず、高価なこれらを買って
必死に練習したら、そのモチベーションによって、ビギナー
レベルから脱却できるかも知れない訳だ。

結局、どんなレンズを、どのような目的や価値感覚で買うかは
あくまで個々のユーザー次第だ。他人が「こうであれ」と
押し付けたり決め付けたりするものでは決して無い。

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さて、今回の記事「SIGMA ART LINE特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・


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