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特殊レンズ・スーパーマニアックス(5)SIGMA DN レンズ

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。

当初は「物凄く特殊なレンズ」のみを紹介する予定で
あったし、ここまでもそういう感じの記事展開であったが、
それだと、あっと言うまにシリーズも終わってしまう。
せっかくなので、少し「マニアック度」を落とし、「やや
特殊なレンズ」に迄紹介範囲を広げ、およそ全50回程度、
レンス数の総計200本強のシリーズ記事とする予定だ。
いずれの記事も「カテゴリー」を意識し、何らかの共通性
を持つレンズ群の紹介とする、まあいわば「総集編」だ。

今回の記事では、SIGMA製DN型番のレンズを4本紹介しよう。
c0032138_17484776.jpg
SIGMAにおける「DN」とは、Digital Neo(デジタル ネオ)
の略であり「ミラーレス機(APS-C型以下)専用のレンズ」
という意味だ。
なお、「DC」は「APS-C型以下」という意味であるが、
こちらは、ミラーレス機以外の一眼レフでも付けられる
型番である。

今回の記事では、APS-C機以下のミラーレス機専用(μ4/3
およびSONY Eマウント)の交換レンズ、つまりDC DN型番
のレンズを取り上げるが、DN型番のみで販売されている
レンズもあるので、便宜上「DNレンズ」と呼んでいる。

このDN型番のレンズは2019年現在、6本のレンズが存在して
いる。Art Lineに3本
(A19/2.8DN,A30/2.8DN,A60/2.8DN)
Contemporary Lineに3本
(C16/1,4DC DN,C30/1.4DC DN,C56/1.4DC DN)
・・なのだが、私の所有している物は、C30/1.4と新鋭の
C56/1.4を除く4本のみで、今回、それらを順次紹介する。

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まず最初のシステム
c0032138_17485883.jpg
レンズは、SIGMA 60mm/f2.8 DN | Art
(中古購入価格 14,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)

2013年発売の小型単焦点中望遠相当レンズ。
μ4/3機用マウント(他にSONY EマウントAPS-C対応版あり)
での購入につき、120mm相当の中望遠画角となる。
最短撮影距離は50cmと、さほど寄れる仕様では無い為、
マクロレンズ的な用法は苦しい。
(つまり、MF/AFの50mm標準レンズを使えば、普通45cm
まで寄れるので、本レンズと大差無い)

しかし、μ4/3機はオリンパス機にもパナソニック機でも
デジタル拡大機能を備えている機種が殆どなので、撮影倍率
自体の不満は(仮想的に)やや解消できる(注:かと言って、
デジタル拡大をしても、寄れるようになる訳では無いので、
撮影アングル等の制約=どの角度からでもは自由に撮れない、
は元のままだ)
c0032138_17485873.jpg
本レンズは、開放F値もF2.8と控え目であって、SIGMA
[Art Line]のレンズ群の特徴である「多大なボケ量」
(すなわちArt Lineの単焦点レンズは、殆どが開放F1.4だ)
は期待できない。

まあ、そうやって弱点をあげていくと「では、このレンズを
どんな被写体に使うのか?」という疑問が沸いてくるだろう。
そう、その「用途不明」な点が、本レンズの最大の課題である。

しかし、このレンズ、そういう不満を払拭してくれるくらいに
ともかく良く写る。解像感、ボケ質、逆光耐性、ボケ質破綻が
少ない等、いずれも文句のつけようが無いくらいであり、
しかも最大の特徴として「非常に安価」だ。

定価で24,000円、新品実売1万円台後半、中古は現在では
1万円前後から入手できる。この価格帯で、この良好な描写力で
あれば、コスパ的な不満は一切無く、「高コスパレンズ」の
筆頭格と言っても過言は無いであろう。

じゃあ、その「用途不明な点」はどう解決するのか?
う~ん、そこが、やはり問題点だ・・

実は、他のDNシリーズのArt Lineのレンズは、シグマの高性能
(高級)コンパクトの「dpシリーズ」の搭載レンズを単体発売
したものだ。

すなわち、
Art 19/2.8 DN=dp1(メリル以降)の搭載レンズ
Art 30/2.8 DN=dp2の搭載レンズ
となっている。

で、dpシリーズは、dp0からdp3まで4機種が展開されていて、
超広角、広角、標準、中望遠、の単焦点をそれぞれ搭載している、
という非常にマニアックなラインアップである。

中でも、dp3は、さすがに中望遠の単焦点では用途がかなり
制限されるからか? 50mm(換算75mm相当)の準マクロ(1/3倍)
レンズを搭載していて、そういう近接用途に向いたカメラだ。

dp1,dp2用レンズが先に単体発売され、本Art 60/2.8の発売が
遅れた為、私は当初は「dp3と同じ、50mm/f2.8準マクロが
単体発売される筈だ」と思い込んでいた。

しかし、蓋をあけてみると、新発売された本レンズは、
60mm/f2.8の仕様で、準マクロでもない。

少々がっかりはしたが、まあ良く考えてみれば50mm/f2.8の
レンズは銀塩時代から現代に至るまで「標準マクロレンズ」
の代表格として、非常にありふれたスペックである。
しかも他の標準マクロは、最低でも1/2倍、普通は等倍だ。
そこに新たに1/3倍の準マクロを投入しても勝ち目は無い。
それを買うよりも、巷に新品でも中古でも溢れかえっている
「標準マクロ」を買った方が手っ取り早い訳だ。

なので、「あえてスペック被りを避けて60/2.8にした」という
想像が妥当だと思われる。
でも、これが結局、本レンズが「用途不明」となってしまった
原因なのだろう。

では発想を逆転しよう、「用途開発」を検討する訳だ。
本レンズをどんな用途に使うべきか?
この視点からは、考えられる被写体ジャンルとしては
「人物撮影」「フィールド(自然)撮影」、「中望遠スナップ」
がある。
だが、これらのジャンルにおいては、代替できるレンズも多い、
例えば50mm/F1.4,85mm/F1.4,90mm/F2.8Macro等を持ち出せば
それらの「定番レンズ」の方が、被写体適合性が高い。
(背景をボカす自由度が高かったり、寄れて撮影できたりする)

そこで私が出した結論は、本レンズは「消耗用レンズ」として
使う事だ、すなわち、小型軽量でハンドリング性能が優れていて、
安価なので過酷な環境で壊しても問題無い、しかも写りは文句
なし。なので「小旅行、雨天、予備レンズ」といった用途に
用いる訳だ。その目的であれば、まあ使えない訳では無い。

「ハンドリング」において欠点が1つある。
それは、本レンズ(およびA19/2.8,A30/2.8も同じ)では、
小型軽量な点は良いが、このレンズを持ち運ぶ際、カメラに
未装着または装着してカメラの電源が入っていない状態で、
「カタカタ」と内部から音がする事だ。

これは一応正常であり、カメラの電源を入れると、その浮遊して
いたAF系の部品が電磁的に正しい位置にセットされる(のか?)
全く音がしなくなるが・・ どうにも気持ちが悪いし、カメラを
首から下げていて、ずっとカタカタと鳴っていると、周囲の人
からも「何それ? 壊れているの?」と不審がられてしまう。
私は数百本のレンズを所有しているが、こういう特性があるのは
SIGMA Art DNの3本だけであり、なんとも仕様的に不満だ。
c0032138_17485823.jpg
他の欠点だが、Art DNの鏡筒デザインは、銀色または黒色の
鏡面塗装版を選べるのだが、まず、銀色鏡筒版を購入しても、
付属のフードは黒色のものだ。これはデザイン的にアンバランス
である為、私の場合は、色の似ている社外品銀色フードを別途
購入したのだが、この状態では、フードを装着したままレンズ
キャップが微妙に嵌らない。
そして銀鏡筒版は指紋等がつきやすく、毎回使用後に鏡筒を
清掃する必要がある。

まあでも、これらは、あくまでデザインや見た目の問題であり
撮影や描写力という点に関しては、全く関係は無い。
撮影に関係する弱点としては、鏡面仕上げである為に、表面が
ツルツルで、MF操作性が劣る事である。
まあ、ゴムやらのピントリングの方が廻し易いのは確かであり
これはデザインを優先した結果であろう。

ただ、「MF操作性」に関しては、より深刻な問題点があり、
これらのミラーレス機用レンズ群は「無限回転式ピントリング」
を採用している。これはArt DN型に限らず、他社製品も含め、
ほぼ全てのミラーレス機用普及AFレンズで、その仕様である。
しかしこれでは、手指の感触で無限遠から最短撮影距離までを
自在に扱う「MFの基本撮影技法」を行う事が出来ない。

この結果、ミラーレス純正レンズを「正しく」MFで操作する
ことは、どれも不可能であると言え、正当では無いMF使用法を
行うしかない。

「正当では無いMF使用法」とは・・
1)常にAFを基本として被写体にピントを合わせようとする。
2)AFが上手く合わない場合、または、測距点の位置や精度の
 問題で、好ましい合焦距離(位置)が得られない場合、
 シームレスMF操作に移行し、レンズ側の無限回転式ピント
 リングを廻すと、速やかにMFモードに入る。
3)MFモードに移行した場合のみ、ピーキングやMFアシストの
 機能が使える。
となっている。

この「MF操作系仕様」は、メーカーが決めたものではあるが、
正当なMF使用法からすると誤りで、正しくは、以下になる。

1)被写体条件に応じて、MFでしか合わないだろうと予め予測する
2)カメラをMFモードに予め切り替える、その時点で、ピーキング等
 のMFアシスト機能は必須であるが、自動画面拡大機能は構図確認
 が出来なくなる為に不用だ。
3)レンズ側の有限回転式ピントリングを、予め、被写体距離に
 応じてセットする、又は、出現した被写体距離にほぼ合致する
 ピント位置を手指の感触で調整しておく。
4)MFレンズで絞り環が存在する場合には、被写界深度も意識して
 予め絞り値を必要な値にセットする。
5)空を見上げて撮る等で露出補正が必要になったり、シャッター
 速度オーバーの可能性があるならば、それらもこの段階で
 調整する。
6)ここで初めてカメラを構え、ファインダーを覗く。
 殆ど撮影距離も合っていてカメラ設定も終了している為、再度の
 カメラの構えなおしは不用だ、ここでピントのみ微調整をして
 ピーキング等で被写体を捉えたら、速やかにシャッターを切る。

これの実例としては、空を飛ぶ野鳥、空を飛ぶ昆虫、などの
高速かつ不規則動体の撮影において、顕著に分かる事であろう。

それらは「正当なMF使用法」を使わない限り撮影は出来ない。
現代のミラーレス機等のMF仕様では撮影は絶対に不可能とも言え、
勿論、どんなに優秀なAFを使おうが、空を不規則に飛び回る
小さいトンボ等には絶対にピントは合わない。
で、実際に、こういう例は結構多く、特に望遠系の自然撮影分野
では必須だ。
しかも、この技法を練習しておけば、それ以外のMF撮影はずっと
難易度が低い為、楽に撮れる。

基本的には、様々な撮影シーンにおいて、カメラを構える前に
各種カメラ設定(ピントも含む)を、予め行ってからカメラを
構える事が必須である。そうでないと、カメラを構えた後に
カメラ設定操作がまた必要となって、多くの場合、それはカメラ
の構えを一旦解く必要があって、重要な撮影機会を逃してしまう。

カメラを構えてから撮影するまでは、少なくとも数秒以内、
できれば1秒間以内で撮影を行いたいのだ。それもまた撮影機会
を逃さない為の必須技法である。
(参考:別途「匠の写真用語辞典第11回、第12回記事」の、
<MF技法・MF関連>編を参照の事)
c0032138_17485804.jpg
余談が長くなった・・
本レンズA60/2.8の描写性能そのものには不満は無い、
あるとすれば、ミラーレス機や一部の一眼レフ用レンズでの
MF操作性仕様の問題点だけだ、それは本レンズの責任では無い
ので、ここでは不問だ。

「用途不明」な点は気になるが、描写力自体は高いレンズであり
様々な撮影用途における予備レンズまたは消耗用レンズとして
推奨できる。勿論、圧倒的にコスパが優れる点は大きな長所だ。

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では、次のシステム
c0032138_17491164.jpg
レンズは、SIGMA 19mm/f2.8 EX DN
(新古品購入価格 7,000円)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機だが、APS-Cモードで使用)

本レンズはSIGMAの初代dp1の後に発売された、dp1メリル(以降)
の搭載レンズが単体発売されたものである。

高描写力で、広角レンズとして必須の逆光耐性は高いし、
フードも付属している。また、歪曲収差も全く気にならない。
最短撮影距離は20cmと、19mmレンズとしては標準的な性能で
もう一声寄れては欲しいのだが、まあそれは無い物ねだりだろう。
c0032138_17491167.jpg
また、本レンズは、SIGMAがArt LineやContemporary等の
ラインナップ整備を行った2013年の、直前の2012年に
発売されたレンズであり、当時の名称でEX DN型となっている。
その後にラインナップ整備により、Art Lineに統合されて
外観変更を行い(注:内部レンズ構成は同一)、価格変更も
なくて、名称が19mm/f2.8 DN | Art となった訳だが・・

その年、この旧型レンズは中古市場に「新古品」として大量に
流通した、私もその在庫処分品を購入したので、極めて安価に
購入する事ができた。

で、本来開放F2.8程度のスペックであれば、大口径レンズが
大半のArt LineではなくContemporary(現代的な仕様の
ズームレンズや高コスパレンズが分類される)に入っても
おかしくは無かったとも思われるのであるが・・
その点については、SIGMA自慢の高級コンパクトdpシリーズの
搭載レンズであるから、高性能の証のArt Lineを謳わなくては
ならない、という政治的・販売戦略的な理由が想像される。

でもまあ、さすがにdp1搭載のレンズである、これもまた描写力
的には、何も不満は無い。しかも価格も恐ろしく安価だ。
(新型のArt版であっても、中古は1万円前後で購入可能)
c0032138_17491132.jpg
想定される用途としては「風景」「スナップ」「集合写真」
「イベント全景等の説明用・記録用写真」「建築物」などが
あると思うが、私の場合、本レンズを「舞台・ステージ撮影」
に持ち出す事もあった。

ただ、暗所で行われる場合が多いステージ・イベントであるから、
ISO感度を適宜高めるなどの必要性があったのは確かであり、
その目的には、後年の大口径仕様のC16/1.4 DC DN(後述)
の方が適している事もあって、現在では、そちらのレンズが
その用途としての主力レンズと想定している(それでも色々と
課題はある、それは当該レンズの説明で後述する)
c0032138_17491114.jpg
さて、本レンズの弱点は特には無い、小型軽量で高描写力かつ
コストが安価である事から、常用から消耗用まで、なんとでも
活躍の場はある。

なお、画角的には、1.5倍となるAPS-C(SONY E)機で使うと、
28mmと慣れた広角画角となって使い易いが、μ/3機では、
38mmと、ちょっと広角用途には厳しくなってしまう。
(それ故に、SONY Eマウント版を購入した)

ただ、本レンズの発売以降、SONY Eマウント機はα7系/α9系
のフルサイズ機が主流となってしまい、それらに本レンズを装着
した場合、「APS-C撮影」に自動または手動で切り替えて使う
事となる。α7では、自動切り替えが一瞬だけ遅れる場合も
あるが、そこは大きな問題では無い。むしろAPS-Cに自動切り替え
されると記録画素数が大幅に減少するので、所望する解像度に
満たなくなる場合がある為、予めLまたはMサイズと、大きめの
画素数を選択しておく必要がある。
まあ、面倒であれば、NEX系やα5000/6000系で使用した方が
そうした心配(画素数が減る)が無いので使い易いであろう。

それから、旧型はデザインが地味である。まあでも新型の
鏡面仕上げになったところで、大きな差異は無いとは思う。
無限回転式ピントリングである事は、広角レンズであるが故に
ほぼ100%がAF撮影となり、MF操作はまず行わない為に不問だ。

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では、次のシステム
c0032138_17493246.jpg
レンズは、SIGMA 30mm/f2.8 EX DN
(新古品購入価格 7,000円)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7(μ4/3機)

こちらも前述の19mm/2.8 EX DNと同様に、Art型になる前の
2012年発売の旧型レンズで、在庫処分品として極めて安価に
購入する事ができた物だ。
Art型との差異は、例によって外観が異なるだけであるが、
この旧型にはフードは付属していなかった(最初から付属して
いないのか、または欠品だったか?)

最短撮影距離は30cmと、30mmレンズとしては標準的。
(最短=焦点距離の10倍の法則)
そして開放F値も2.8と、総合的に、あまりに地味なスペックで
あるので、本レンズによる特別な撮影用途は考え難い。
そこで、μ4/3機用の「常用標準レンズ」(60mm相当の画角)
または「消耗用標準レンズ」としての購入となった。
c0032138_17493266.jpg
特別な撮影用途が殆ど無い為、今回の試写では、DMC-GX7に
備わるデジタル拡大(テレコン)機能を用いて、撮影倍率を
高めた「擬似的なマクロ撮影」を主体としよう。
(注:これは一種の「用途開発」だ。つまり様々な用法を想定
して、その目的に適切かどうかを試してみている訳だ)

なお、DMC-GX7のデジタルズームは画素減少による物で画質劣化
は無いが、デジタルテレコンでは拡大処理が入るために、画質が
劣化する。具体的には、4倍とかに拡大率を高めると、輪郭線が
極めて強く出て不自然な描写となるが、それは十分承知の上で、、
それもまた「面白い描写特性」として捉えるのが良いであろう。

それから、DMC-GX7には内蔵手ブレ補正機能があり、本レンズ
を装着時には、何も焦点距離設定を行わずとも有効である。
シームレスMF機能を用いれば、ピントリングを廻す事で、
ピーキングや自動拡大、距離指標表示等を任意に設定可能だ。

ただ、例によって「無限回転式ピントリング」であるから、
最短撮影距離の限界近くでの近接撮影では、極めて操作性が
悪くなる。その理由は、本記事で前述しているのであるが、
いったいなぜ、どのミラーレス機用のレンズも、このような
不条理な仕様となってしまったのであろうか?

その原因は、以下のようなものしか考えられない。
1)設計側(メーカー)が、正当なMF使用技法を知らない。
2)ユーザー(利用者)側が、正当なMF使用技法を知らない為
 利便性の高い(注:誤解だ)と思われる仕様を望んでいる。
3)設計側は正当なMF技法を知ってはいるが、なんらかの理由で
 それを搭載できない。その理由とは
 3A)ミラーレス機の場合は「無限回転式ピントリングとする」
   という協定またはルールが業界内で決められてしまっている。
 3B)「初級者がミラーレス機の主要ユーザー層である」と仮定
  している為、高度なMF利用法をあえて無視し、理解が容易な
  仕様としている。

しかし、どの理由であったとしても、あまり納得が行く話では無い、
特に3B)は非常にまずく、それはまあ、ミラーレス機が出てきた
ばかりの2010年前後であれば、そのユーザー層は、ほとんどが
ビギナー級であったのだが、2013年にSONYからフルサイズの
ミラーレス機が発売されてからは、他社においてもハイエンド級の
機体には、上級者または職業写真家層でも使えるレベルの性能や
仕様を与えているではないか。近年ならばなおさらであり、
2018年秋からの各社一斉のミラーレス機のフルサイズ化戦略
(注:一眼レフの市場縮退を受けての戦略転換だ)により、
ミラーレス機のユーザーニーズは大きく変化して来ている。

これらの上級者層が「AFで合わなかったから、MFに切り替えよう」
などという非効率的な撮影技法を使うはずが無い。難しい被写体
条件であれば最初からMFで確実なピント合わせを行う事は明白だ。

結局、現在のミラーレス機専用レンズでは、どんなレンズを
購入しても、ほとんど場合、MF性能(操作性)は失格である。
(注:ごく稀に、有限区間式の無限回転ピントリング仕様の高級
レンズもあり、その場合、かろうじて手指の感触と、搭載されて
いる距離指標により、正当なMF使用技法が実現できる。
だが、最初からMFに切り替えておく必要があり、やや煩雑だ)

あまりにこういう状態が酷くなると、上級層や職業写真家層は
いったんミラーレス機に傾きかけた状態から、また一眼レフに
戻ってしまうかも知れない。(まあ、もっとも近年の一眼レフ用
レンズも、同様に無限回転式となっているので、不満がある)
c0032138_17493251.jpg
まあ、私個人的には、必要に応じて、ミラーレス機と一眼レフを
使い分けているので、基本的には、どうでも良い事ではあるが、
一般的な視点からは、一部の本格的ミラーレス機製造メーカーは、
もう一眼レフには注力していないか、または一眼のラインナップは
皆無である為、上級ユーザー層がまた一眼レフに戻ってしまったら
とても困る事になるだろう。
(注:一眼レフ用の交換レンズが無限回転式となっても、
一眼レフの方が全般的にミラーレス機よりAF精度/速度の
性能に優れる為、AFの使用頻度が高くなり、MFの頻度が少なく
ピントリング仕様は、課題となりにくい)

その結果、カメラ市場が混迷して、さらに縮退してしまったら、
カメラ価格が高くなったり、魅力的な新機種が出なくなったり、
中古流通が減ってしまったり、最悪はカメラ事業から撤退する
メーカーがまた出てきて機材の保守や更新が出来なくなるなど、
ユーザー側への影響(デメリット)も非常に大きくなってしまう。

「たかがピントリングの仕様だ」等とは思うなかれ、
操作性や操作系は、写真撮影において、極めて重要な比率を
持つ要素だ。
現代では、ユーザー層もメーカー側も、その点にあまり注目して
おらず、カタログスペックばかりを気にしている。
けど基本的にそれは間違いだ、何故ならば、もう現代のデジタル
機は、一眼レフでもミラーレスでも、性能的な改善の余地が殆ど
無いまでに進化のピークを迎えてしまっている。
だからもう、ISO感度が何百万になろうが、連写速度が秒何十コマ
になろうが、実用的には全てオーバースペックなのだ。
よって、今の性能のままでも、よりその性能を引き出すために、
あるいは、より速やかな撮影が出来るように、そういう視点で
カメラの操作性や操作系を改善しなくてはならないと思う。

その論理は当然であろう、そうして行かないと、あるタイミングで
ユーザーは皆、そっぽを向いてしまうかも知れない。
(実際に、もう一眼レフはそっぽを向かれているかも知れない。
だからこその、2018年からの各社一斉のフルサイズ・ミラーレス
機への戦略転換か・・)

1990年代のAF時代、ユーザー層の誰もが新機種のAF一眼レフへの
興味を失い、中古のMF一眼レフやレンジ機、高級コンパクトに
興味が行ってしまった。これを世間では「中古カメラブーム」と
呼んだが、実際は一眼レフメーカーには大打撃であった事だろう。

現代では、その頃からは、メーカーの開発陣もユーザー層も
世代が入れ替わり、その事は忘れてしまったのかも知れないが、
そういう悲劇を繰り返さない為にも、1990年代と同じような
「過剰なスペック競争」は行うべきでは無い。

ちなみに、1990年代後半から、ひっそりと存在していたAF一眼
レフの「名機」は、いずれも操作系に極めて優れる機体ばかりだ。
その件が評価されなかったのは、その後にすぐにデジタル時代に
入ってしまい、中古カメラブームも終焉して皆が新しいデジタル
一眼レフに興味を示した結果「うやむや」になっただけであって、
現代の状況では、スペック競争は必ず行き詰まりを見せる。
その際、操作系や操作性やらの配慮が重要である事に気づいたと
しても、もう手遅れかも知れない訳だ。

あるいは、上記の1990年代後半の名機の操作系についても、
ユーザー側の誰も、その利点を理解できなかったか、だ。
高価な新機種をどんどんと買ってくれるユーザー層は、殆どが
初級者である為、そうした高度な操作系等への理解は不可能だ。
c0032138_17493206.jpg
余談ばかりで、本レンズ 30/2.8 DNの話がちっとも出てこないが
総括としては、あまりに地味なレンズであり、これもまた
「用途不明」であろう、ただ、描写力もコスパも、勿論文句なし
ではあるので、ユーザー毎で、うまく「用途開発」をして
使う必要があると思う。

----
では、今回ラストのシステム
c0032138_17495980.jpg
レンズは、SIGMA 16mm/f1.4 DC DN | Contemporary
(新古品購入価格 38,000円)(以下、C16/1.4)
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)(一部NEX-7も使用)

2017年に発売の新鋭レンズ、恐らくは展示品と思われる
最初に出た中古品を購入したので、若干高価であった。
c0032138_17495908.jpg
本レンズは、コンテンポラリー・ラインに属する事と、
DNに加え、DCの型番が付くことが特徴だ。
SIGMAにおける「DC」とは、「APS-C機専用」という意味だが、
2000年代からこの用語が使われていた為、一般的には
「デジタル専用」と呼ばれる場合もある。

しかし、2010年代後半の現代では、デジタルカメラの主流は
一眼レフもミラーレスもフルサイズ機である為、これまでの
「デジタル専用」の呼び名が、そぐわない、または適正では
無い場合も多々ある。
なので、SIGMAや、それ以外のメーカーのレンズであっても、
中古流通とか、一般会話、一般資料等においての
「デジタル専用」の呼び方は、現代では曖昧なので非推奨だ。

SIGMAにおける「DC」型番が「APS-C機専用」という事ならば
それは意味がある。何故ならば、Contemporary Lineのレンズ
には、フルサイズ対応と、APS-C(以下)専用との2種類が
混在している訳で、明確にそれは区別しなくてはならない。

まあ、SONYやNIKONのフルサイズ一眼レフに装着する場合は、
自動的にAPS-Cに切り替わるので、画素数減少の件を除き、
大きな問題にはならないが、例えばEF(EOS)マウント版等では、
フルサイズ機には、そもそも装着できない場合もあるので、
間違えて購入しない為にも、DC型番で明確に区別しておく
必要性がある。

さて本レンズであるが、大柄である。これは大口径開放F1.4
を実現する為だと思うが、それにしても、他のこれまで紹介した
DNレンズ3本が、いずれも100g台の重量であったのに、本レンズ
C16/1.4は400gを超えて、サイズ感がまるで違う。
当然フィルター径もφ67mmと大きい(他はφ46mm)

この大きさは、使用するカメラとの組み合わせに制限が出て
きてしまい、例えばSONY α7(初代。α7系では最軽量で
本C16/1.4と、ほぼ同じ重量)との組み合わせは、持ち難くく、
バランスが悪い。

これはカメラ本体の重量が増えれば改善されるという訳でもなく、
ホールディング時の重心位置とかにも微妙に関係があり、
私の場合、α7よりも100g以上も軽量なα6000(あるいは
NEX-7)で使用した方がバランスが良く感じる。
その為に、今回はα6000を母艦として使用している他、
通常時でもα60000又はNEX-7に装着する事にしている。

SONY機に装着時の換算画角は24mm相当。他にμ4/3機用の
バージョンが存在するが、広角である特徴を活かすならば、
Eマウント版しか選択肢が無い(他に希望するのは、現在は
無いFUJIFILM Xマウント版の発売だ、そのマウントには
本レンズと同じスペックの XF16mm/f1.4 R WRの純正レンズ
が存在するが、本レンズの3倍ほど高価なので、入手し難い)


本C16/1.4の最短撮影距離は25cm、ここはもう一声、寄れて
欲しいところであり、例えば前述のFUJI純正品は、15cmまで
寄れるので、それは「焦点距離の10倍法則」を満たしている。
本レンズの仕様では希少な「広角マクロ」用途には向かない。
(例:2000年代のSIGMA AF24mm/f1.8 EX DGフルサイズ用
では、本レンズと同じ焦点距離で、18cmまで寄れて、
広角マクロとしての利用ができた)
(なお、この市場課題への対応の為か?近年の新鋭海外製
レンズでは、MFながら広角レンズでは最短撮影距離を短縮
したものも多い→七工匠やMeikeなど、後日紹介予定)

あと、問題点としては、開放F1.4は日中屋外の撮影では
明る過ぎる事である。母艦のα6000は1/4000秒機なので、
そのまま開放までは使用できず、日中はND4またはND8の
減光フィルターの使用が必須だ。

なお、絞り込めば勿論シャッター速度オーバーにはならないが、
そうであれば、例えば前述紹介の (A)19mm/f2.8を使った方が
遥かに小型軽量でハンドリングが良く、描写力もどちらも
良好で大差は無いし、おまけに19mmの方が遥かに安価だ。
c0032138_17495991.jpg
結局、本レンズもまた適正な用途が難しい。
私の場合は、本C16/1.4は「暗所のステージ撮影」を主目的
と想定して購入している。
16mmレンズであるから、被写界深度はそこそこ深く、多くの
ケースで舞台等での奥行きに対応できるし、A19mm等のF2.8版に
比べて、4倍速いシャッター速度か、または2段低いISO感度で
撮れるので、様々な点で有利である。
ただ、その手の撮影ではカメラ3台の手持ち体制である事が
普通であり、本レンズを含むシステムは重量がややかさむ為、
想定した用途では使い難い事もわかってしまった(汗)

他には、あまりこれと言った用途は考えられない。
以前、どこかの観光地で私と立ち話をした見知らぬカメラマニア
氏が、このレンズを”風景撮影用に欲しい”と言っていたので、
匠「風景撮影だったら、他のもっと小口径なレンズで十分です」
と答えておいた。
風景撮影ではどうせ使わない開放F1.4の為に「大きく重く高価」
という「三重苦」や、大口径化による諸収差の増加(設計上で
補正困難)は、褒められた話では無いからだ。

すなわち「口径比(開放F値)が明るいレンズの方が、高性能
で高描写力なのだ、だから高価なのだろう」と初級中級層が
思い込む事は大きな誤解であり、真実はむしろ真逆である。

「同一の技術水準」でレンズを設計するならば、開放F値は
暗ければ暗いほど、諸収差が減少して描写力は高くなる。
しかし、そんなF値が暗いレンズを発売しても、初級中級層は
興味を持たず、まず売れないし、無理に売ろうとしても定価を
下げざるを得ないから、メーカーも、そうしたレンズを作らず、
設計を無理して、大口径レンズを発売せざるを得ない状態だ。

本レンズは、使用目的が難しく、その用途によっては、
コスパもあまり良いとは言い難いレンズではあるが、まあ一応
参考まで・・
c0032138_17495927.jpg
最後に注意点だが、本記事で度々出てきた「用途開発」の件だが、
本来、レンズは購入する前に、その用途を想定してから買うのが
大原則だ。
だが、今回紹介の30/2.8は、在庫処分品で極めて安価だった為、
「衝動的に」購入してしまっていた(汗)
こういう場合、後から「何に使おうか?」等と考えるのも
「まあ、やむを得ない」と言い訳は出来るのだが、ラストの
C16/1.4等は高価なレンズ故に、買ってから用途を考えるのは
有り得ない。あくまで、最初から何の目的に使うかは、想定
して購入する必要がある訳だ。

----
さて、今回の記事「SIGMA DN レンズ特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・


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