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レンズ・マニアックス(13)

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新規購入等の理由で、過去の本ブログのレンズ関連記事では
未紹介のマニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。
補足編の「使いこなしが難しいレンズ特集」前後編を挟んで
いたが、今回は、引き続き未紹介レンズを4本取りあげる。

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まずは、今回最初のシステム(レンズ)
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レンズは、HD PENTAX-DA 35mm/f2.8 Macro Limited
(中古購入価格 26,000円)(以下、HD35/2.8)
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)

2013年発売のAPS-C機専用準広角(標準画角)AF等倍
マクロレンズ。
c0032138_20141530.jpg
この時代、PENTAXレンズの一部は、旧来のsmc型番から
HD型番に変わってきている。

ちなみに、smcとは「Super-Multi-Coated」の略であり、
「多層コーティング」の事だ。
1970年代前後にレンズのコーティング技術が発達した際、
PENTAXは早い時期に多層(マルチ)コーティング技術を採用し、
他社レンズに対する性能優位性を築いた、という歴史がある。
これは、当時それなりにセンセーショナルな出来事であった。
c0032138_20142969.jpg
で、当初はPENTAX SMC Takumarというレンズ名称だったのが
その後、SMC技術の方が有名で「ブランドバリューがある」と
PENTAXは思ったのであろうか? 多くのレンズ名称をsmc PENTAX
として、これは近年に至るまで続く慣習となった。
(例:smc PENTAX-DA 50mmF1.8)

なお、製品名におけるsmc表記は、当初発売時には、大文字も
小文字も混在していたと思うが、PENTAXのレンズ名の最初に
冠されるようになってからは小文字表記に統一された。

それから、PENTAXの後にハイフン入りで-DAや、-FAという
表記が正確だ。

さらに言えば、焦点距離と開放F値は、35mmF2.8のように
記すのがPENTAX流だが、この記載法はメーカーによって
まちまちなので、本ブログにおいては開設当初から慣習的に
35mm/f2.8という風に全てのレンズ仕様を記述している。

で、近年ではハイフンの有り無し、大文字小文字の差異により
機種型番が混同しやすい例も多々ある(例:α7とα-7)
よって、本ブログでは旧来よりも慎重に機種型番を記載する
事としているが・・ まあ世間一般的にはこのあたりは極めて
アバウトであり、上級マニアや公式情報に近い立場のWEBで
さえも機材型番記載の正確性は残念ながら期待できない状態だ。

ただ、その事により、そのWEB等における掲載情報の信頼度を
類推する事もある。
すなわち、機材型番や用語の記載がいいかげんであるサイト
の情報は、信用するに値しない、と見なす事もでき、事実
私はそう判断している。

具体的な根拠として、自身の所有する機材の型番を間違える
ような表記は、マニア的には有りえない。世間で言えば、それは
まるで恋人の名前を間違えて呼ぶようなものだからだ(汗)

つまり、誤った記載がある場合は、その機材を所有していない
(下手をすれば見た事すら無い)可能性もあると推測できる。
自分で持ってもいないカメラやレンズの事を、あれこれと
語るスタンスは絶対に納得できないし、信用もできない。

そんな記事で検索ヒットでアクセス数を稼ぎ、あわよくば
アフィリエイト広告の収益を稼ぎたい、と言うのであれば
個人的な信条での「マニア道」からすれば、むしろそういう
世界とは無縁でいたい。

ネット上の仕掛けにより、本ブログでは、本文記事で書いた
カメラメーカー等の広告が自動表示される場合もあるが・・
本文では酷評しているケースでも、最後にそのメーカーの
広告が出たら、なんともチグハグだ(汗)
c0032138_20142997.jpg
さて、本レンズは、smc型番からHD型番に変更されている。
HDコーティングはPENTAXが2012年に発表した、旧来の
smcコーティングに替わる新世代の技術ではあるが、まあ
そこで言う「従来比」は、あまり意味が無い。

というのも、旧来のsmcコーティングも十分に優秀であり、
1970年代には各社は「PENTAXのsmc技術に追いつけ追い越せ」
とばかりに、コーティング技術の改良を推進した訳だ。

当然、PENTAXもそれから40年もの間、smc技術を進化させな
かった訳ではなく、細かい技術改良を続けてきた事であろう。
例えば、このHD型番にする前の段階でも、上級レンズでは、
「Aero Bright Coating」という新技術を採用している。
(例:smc PENTAX-DA★55mm/f1.4 SDM 2009年、
ハイコスパ第1回記事等)


では何故こういう名称に変えたか?といえば、もうこれは
この2010年前半の時代背景特有の「差別化要因」だろう。
この時代、ミラーレス機やスマホの台頭により、国内デジタル
一眼レフ市場が急速に縮退を始めた。

だから、メーカー側は様々な「付加価値」、つまりユーザー
から見て魅力的と思える要素を提示しないと、製品を売り難い
状況となる。加えて、その「高付加価値戦略」は、メーカー
から見て利益の確保であり、下世話な言葉で言えば「値上げの
理由」となる。

すなわち旧来のsmc型番のままでは、たとえ細かい技術的な
改良が続いていたとしても、目新しさは無い。だからここで
HD型番とすれば、技術分野や市場原理に疎いユーザー層は
「HDという新技術が出来たならば、さぞかし写りが良くなった
に違い無い、値段は多少高いが、それは高性能の証であろう、
では、そのHDのレンズを買ってみよう」と思ってしまう訳だ。

技術に詳しいマニア層は、そうした考え方はしない。
「HD型が出たのならば、旧来のsmcタイプの中古が安くなる
から、むしろ、それらは買い頃だ」となる。

事実、私も2010年代前半には何本かの旧型smcの中古ばかりを
購入していた。
ただ、いつまでも、そういう捻くれた(笑)考え方を
続ける訳にもいかない。適当なタイミングで新技術の製品を
受け入れないと、時代遅れになってしまうからだ。

「時代遅れ」とは、使うユーザー側そのものの話というよりも、
デジタルにおける「仕様老朽化寿命」だ。これは技術の進歩の
速いデジタルでは、10年もすれば、その機材は周囲の最新の
機材に比べて大きく性能的に見劣りし「使いたくなくなって
しまう」という状況だ。

2010年代後半には、「そろそろ手持ちのsmcタイプレンズも、
少しづつHD型にリプレイス(置き換え、買い増し)していく
必要がある」と思うようになってきた。
そういう背景での本HD35/2.8の購入である。
c0032138_20142883.jpg
余談が長くなった、本HD35/2.8の話がちっとも出て来ないが
ここまで述べたような「新技術を盲信しない」という点は
むしろレンズの性能を、どうのこうの言うよりもずっと重要な
事だ。ここを理解しないと、市場に踊らされてしまうばかりだ。

さて、本題のHD35/2.8であるが、描写力は全般的に悪く無い。
解像感は高いが過剰すぎる事は無い。他社の近年の同クラス
のマクロでは、カリカリの描写の印象になるものもある中、
ちょうど良いバランスに仕上げられていると思う。

また、旧来のsmc型の安価なDA型単焦点の中には逆光耐性が
低いものも良くあったが、本レンズでは殆ど問題は無い。
新型コーテイング技術の成果が良く現れていると思う。

Limited仕上げでデザインも良い(ただし、FA Limited
シリーズのような金属的質感や高級感はさほど無い)
また、MF時の操作性(トルク感、有限回転式)も及第点。
小型軽量で、さほど高価でも無い事も利点だ。
c0032138_20142992.jpg
大きな弱点は特に見当たらず、APS-C機専用という点を
容認できるのであれば、コスパはかなり良い。
まあ「買い」のレンズであろう。

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さて、次のレンズ
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レンズは、PENTAX Super-Takumar 50mm/f1.4
(中古購入価格 1,000円)(以下、ST50/1.4)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

1960年代頃のMF単焦点大口径標準レンズ。
M42マウントであり、自動絞り機構を採用している。
(注:A/M切り替えスイッチで絞り込み測光が可)
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長期間の発売で前期型と後期型があるかも知れないが、その
見分け方は良くわからない(汗)
ポイントとしては、多層コーティング(SMC)化された
バージョンがあると言う事。
それから、放射性物質を含むガラスを使用しているバージョン
もあるという点だ。
ただ、どの特徴を持つものが前期で、どれが後期なのかは
残念ながら良く知らない。

「放射能レンズ」(他に、「アトムレンズ」あるいは
「トリウムレンズ」と呼ばれる場合も)は、マニア用語である。
1950年代~1960年代の各社の写真用レンズの一部には、
屈折率(や色分散)の異なるガラス素材を用いる場合、微量の
放射性元素を含むガラス素材を用いる事があった模様だ。

何故そんなガラス素材が必要なのか?と言えば、単一の
ガラス素材を使っていては屈折率等が全て同じであり、
レンズ設計上、様々な収差を補正する事が出来ない。
だから屈折率や色分散の異なるガラス素材を組み合わせて、
諸収差を補正し、良好な描写性能を得ようとする訳だ。

しかし、やはり放射能はユーザーにとっては怖い。
そしてこの時代でも、既にガラス素材は少なく見積もっても
数十種類の異なる屈折率等を持つものがあったと思う。
わざわざ放射性元素を含むガラスを使わなくても、その時代
あるいは後年では、代替できるガラス素材が他にも色々と
出てきたのであろう。

ちなみに現代では写真用レンズに限らず、様々な工業分野に
おいても様々な光学特性を持つガラスが必要になっている。
現代の光学ガラスは恐らくは数百種以上にもなると思われる。

それら光学ガラスの仕様の目安となる、屈折率と「アッベ数」を
(注:アッベ数とは、19世紀のカール・ツァイス社の研究所長
であったエルンスト・アッベ氏にちなむ「色分散」の数値指標)
縦横軸にとって、種類を並べると「日本列島」のような形となる。

よって、光学ガラスの専門家の間では、ガラスの種類を選ぶ際に
「太平洋側」「日本海側」という表現を使うと聞く。
(少し前の時代の呼び方であるか?とも思ったが、近年、光学
硝材メーカーの人達と話をした際、一応その用語でも通じた)
c0032138_20144783.jpg
ところで「放射能が怖い」というのは、現代人に刷り込まれた
常識となっている。だが放射線(注:放射能とは、放射線を
発する特性の事だ)は、微量であれば、地球上どこにでも、
あるいは多数の身近な物質(モノ、食品等)にでも存在する。

この辺は、単純に「放射能は怖い」等とは言わずに、正しい
科学的な知識を持って物事を語る必要があるだろう。

例えば、大阪の科学技術館(博物館)では、ガイガーカウンター
(GM計数管)で、いくつかの身近な物の放射線量を計測
できる展示がある(下写真)
c0032138_20144766.jpg
これを試して測ってみると、放射性元素ウラニウムを含む
ガラスの放射線量よりも、なんと海藻等の食材の方が放射能が
強かった(汗)また、世界各国の地域によっては、放射線量が
とても高い場所もある模様だ(特に高地などで顕著)

まあ、そこに展示している放射性物質は、展示側で適宜
意図的に選ばれたものであるから、あまり公平で適切な情報
とは言い切れないかも知れないが・・ まあでも、放射線も
微量であれば日常生活上、どこにでもありうるという事だ。

結局、「アトムレンズ」であるか否か?等は、まあどうでも
良い事であり、問題はどのような写りが得られるか?だ。

本レンズST50/1.4の時代、すなわち1960年代では、大口径
(F1.4級)標準レンズは、まだまだ完成度が低かったと思う。

私は、この時代以降、約50年間の各社の大口径標準レンズの
非常に多くを所有しているので、それらのレンズ群の時代の
変化と技術(描写力)の変遷が、とても良く分かる訳だ。

で、本レンズは、他社の同時代のレンズと比較して若干の
性能優位性があるように感じる。
他社同等品では、絞りを開けていくと解像感が低下するという
オールド大口径レンズの典型的な弱点が出る場合が多いが、
本ST50/1.4は、その弱点が出る程度が小さい。
c0032138_20145636.jpg
それからボケ質がかなり良く、ボケ質破綻も出にくい。
このあたりは本レンズの最大の長所かも知れない。
(ただし、撮影条件によっては、像面湾曲や非点収差の
影響による「ぐるぐるボケ」が目立つケースも稀にある)

解像力の高さと良好なボケ質を両立しているという事での
「収差が良く補正されている」という点では、このレンズは
高屈折率の放射性元素(トリウム?)を含むガラスを使用した
バージョンであり、いわゆる「アトムレンズ」かも知れない。

ただし、コントラストは低目で逆光耐性も低いが、まあこれは
この時代のレンズ設計とコーテイング性能(おそらく本レンズ
はsmc仕様では無いであろう)では、やむを得ないと思う。

まあ、低コントラストはさておき、他の描写力が高いのは
好ましく、個人的にはアトムレンズであっても何ら問題は無い。
なにせ、前述の博物館で、自分で放射能ガラスの放射線量は
測っている、その値が、世の中の他の物質や食材や、地域と
比べても、さほど高く無い、という点も理解しているので、
単純に「放射能が怖い」と言う(思う)事も全く無い訳だ。

さて、本ST50/1.4の入手価格1000円は、ジャンク価格
という訳では無い。これは、昔からの馴染みの中古店に
行って色々と買い物をした際に、ほとんど「おまけ同然」に、
つけてくれた商品であり、便宜上1000円相当としている。

描写力からすると、5000円~8000円程度の中古相場が妥当で
あり、まあ十分にコスパが良い買い物であったと思う。

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さて、次のレンズ
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レンズは、キノ精密工業 KIRON 28-210mm/f4-5.6
(中古購入価格 500円)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

「キノ精密工業」とは聞き慣れないメーカー名だと思う。
キロン(KIRON)というブランド名で、数種類の一眼レフ用
交換レンズを国内発売していた模様だが、海外(米国)の
「Vivitar」へのOEM供給元の1つだった、という話もある。

これ以上の詳しい情報は殆ど残っていない。まあ、断片的な
情報はある事はあるが、確証が持てないので、そのあたりは
割愛しよう、興味があれば各自で調べてみれば良いと思う。
c0032138_20150802.jpg
で、本レンズはOM用マウント品であったので、恐らくは
OMシリーズ発売後(1972~)の、1970年代の製品であろう。

それにしては28-210mmのズーム比7.5は、その当時と
しては珍しいスペックだ、いわゆる「高倍率ズーム」の
先駆け的な製品であったと思われる。

私が28-200mm級の高倍率ズームが「やっと実用的になった」
と認めたのは、2001年発売のTAMRON 28-200XR(A03)
(注:機種名が長すぎるので適宜省略する、ミラーレス・
マニアックス補足編第4回記事参照)である。
この時代以前の高倍率ズームは、大きさ、描写力、最短
撮影距離等の性能が実用レベルに達していないという評価だ。

さて、本KIRON 28-210/f4-5.6はどうだろうか?

まず大きさはかなり大きい、望遠側210mmはまだしも、広角端
28mmで使っていると、通常の広角単焦点レンズは小さいので
「なんでこんなに大きいレンズを持ち出さなくてはならない!」
と悪態をつきたくもなってしまう。
c0032138_20150800.jpg
おまけに広角端28mmでの最短撮影距離は2.5mと、とてつもなく
遠い。一般的には焦点距離の10倍則により28cmまでは寄れて
もらわないと、現代的な広角撮影技法(主要被写体に寄って、
背景の取り込み範囲を広くする)が全くできず、中遠距離の
風景などの被写体を平面的にしか撮る事しかできない。

ただしまあ、この点は1970代当時の技術水準ではやむを得ず、
むしろ、よくこの高倍率ズームを作ったと感心するべきであろう。
なお、望遠側での最短撮影距離は1mと短く、むしろここは長所だ。

描写力は解像感が無く、極めてユルい写りだ、諸収差がかなり
残った設計であると思われ、それを回避する為には、ズーム
全域で、最低でもF8以上に絞って使う必要性がある。
この時のシャッター速度低下に合わせ、今回使用のG6では
(AUTO-ISOの低速限界速度設定が無い為)手動でISO設定を
適宜高めて使用する。

コントラストが低く、逆光耐性も極めて低い。順光であっても
常にフレアっぽい印象なので、被写体にあたる光線状況を考慮
する程度では回避できない。本来であればアフターレタッチで
トーンカーブを補正する必要があるが、本記事ではレンズ自身の
特徴を紹介する為に、その編集作業はあえて行っていない。
(他のレンズ紹介記事でも同様)
c0032138_20150882.jpg
まあ、全ての点で低性能である事が課題のレンズだ。
でも、それを少しでも上手く使いこなせるように色々と工夫
する事もテクニカルな面では面白いし、様々な撮影技能習得の
練習にもなる。

そういうマニアック視点、および歴史的な重要性が本レンズの
特徴になるだろう。このレンズを手にして、その後40年間で、
いかに(高倍率)ズームレンズが進化したのかを、実感する事も
できるだろうからだ。

本レンズの購入価格はジャンクで500円であった、まあ喫茶店での
コーヒー1杯の値段で、色々な練習や勉強が出来るという事である。
(こうした状況を「教材レンズ」とか「ワンコイン・レッスン」と
呼ぶ事もある)

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では、今回ラストのレンズ
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レンズは、TAMRON SP 35mm/f1.8 Di VC USD (F012)
(中古購入価格 41,000円)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

2015年に発売された新鋭の高性能AF単焦点準広角レンズ。
既に本シリーズ記事では、姉妹レンズのSP85/1.8(F016)
を第4回記事で、SP45/1.8(F013)を第7回記事で紹介済みで
これで、このシリーズのレンズはコンプリートだ。
(注:2019年秋に、SP35/1.4 Di USDが発売予定との事)
c0032138_20152310.jpg
SP単焦点F1.8シリーズは、ニコン版およびキヤノン版では、
全てVC(手ブレ補正内蔵)およびUSD(超音波モーター内蔵)
仕様であり、フルサイズ機対応である。

SP85/1.8はニコン用でも電磁絞り(E型)対応であったが、
SP45/1.8および本レンズSP35/1.8は、ニコン版では旧来の
機械絞り連動レバーによる絞り機構である。

この仕様の差は良し悪しがあって、電磁絞りでは2007年製より
古いニコン機では使用できず、通常の機械式アダプターでは
他社機に装着する事もできない。
しかし高速連写時などでも絞りの追従性が良く、結果的に
露出精度が高まる(バラツキが起こり難い)

本SP35/1.8は旧来絞り機構なので他機での互換性、汎用性が高い。
高速連写の問題も、あまり絞り込まなければ露出のバラツキは
発生しないので、気にする必要も無い。
本レンズは大口径の類なので絞り込む撮影技法では、その長所は
活かせない。
さらに安全の為、フルサイズ機であまり連写速度の速く無い機種を
選ぶのが賢明であろう、そういう意味では、今回使用のNIKON Df
などは(Dfの操作系の課題はさておき)ベストマッチだ。
c0032138_20152352.jpg
さて、本レンズの特徴であるが、第一に挙げられるのが
最短撮影距離の短さであり、何と20cmである。

35mmの焦点距離では、焦点距離の10倍法則では35cmの
最短である事が標準的な性能だ。(だが、旧来から30cm
程度の最短のレンズが一般的であった)


以下、マクロレンズを除く35mmレンズで最短撮影距離の短い
ものをあげてみよう。

20cm TAMRON SP35/1.8(F012) 本レンズ
23cm SONY DT35/1.8(SAL35F18) (ハイコスパ第10回記事等)
24cm アルセナール MIR-24 35/2 (ハイコスパ第19回記事等)
    CANON EF 35/2 IS USM(未所有)
25cm NIKON AF-S NIKKOR 35/1.8G ED (未所有)
   CANON EF 35/2(ミラーレス第68回記事等)
   YONGNUO(ヨンヌオ)YN 35/2(後日紹介予定)

所有しているレンズ以外は記憶に頼っているので抜けがある
かも知れないが、大体こんな感じだと思う。いずれにしても
本レンズSP35/1.8の最短撮影距離が飛びぬけて短い。
(注:2位のSONY DT35/1.8は、APS-C機専用レンズだ)

なお、LENSBABY Burnside 35/2.8(未所有)は、最短WDが
約15cmと短いが、これはWD(レンズ先端からの撮影距離)表記
であり、最短撮影距離(撮像センサーまでの距離)では無い。
このレンズの最短撮影距離は、鏡筒長やフランジバック長が
加わり、26cm程度になると思う。

また、マクロレンズでは、勿論最短撮影距離は短く、例えば
本記事の冒頭で紹介したHD35/2.8 Macroは約14cmだ。

本レンズSP35/1.8の最短撮影距離20cmでの撮影倍率は0.4倍
となっている。ただし今回使用のフルサイズ機NIKON Dfでは
DXフォーマットにクロップする事が容易に出来、その場合は
最短撮影距離は当然同じだが、撮影倍率は0.6倍まで上がる。

本SP35/1.8は電磁絞りを採用していないが、これを欠点とは
見ず利点とするならば、一般的なGタイプ用マウントアダプター
で本レンズは、およそあらゆるミラーレス機にも装着可能だ。
例えばμ4/3機に装着すれば、本レンズの最大撮影倍率は0.8倍
に上がり、さらに多くのミラーレス機に搭載されているデジタル
拡大機能を用いれば、容易に等倍(1倍)以上と、一眼レフの
マクロレンズ以上の換算撮影倍率を得る事が可能だ。

さて、最短撮影距離の特徴の話ばかりになっているが、本レンズ
の他の長所も勿論色々とある。

まずは描写力の高さだ、解像力が高くなっているのは近代単焦点
レンズの特徴であるが、旧来のレンズ構成枚数が少ない設計だと
こういう設計をするとボケ質が劣化してしまう危険性があった。


だが、近代の設計では、本レンズは9群10枚とレンズ構成が多く、
諸収差の補正が良く行き届いていて、結果的にボケ質もなかなか
良い。
また、レンズ構成が多い場合は光線透過率の減少や、表面反射の
問題が出てコントラストが低下する場合もあるが、コーティング
性能が優れているからか、そういう欠点は本レンズでは見られない。

まあ、総合的に言うと本レンズの描写力には特に問題が無い。
これは本レンズに限らず、SP45/1.8,SP85/1.8の同シリーズの
姉妹レンズ群も同様の長所を持つ。
c0032138_20152387.jpg
短所であるが、まずピントリングの操作性だ。
シームレスMF機構を実現する為に、例によって無限回転式の
ピントリングを採用している。ただし本レンズには距離指標が
あって、その区間であれば有限回転式だ。
この場合最短と無限遠の距離でピントリングの「停止感触」が
あるならば、他記事でも良く説明する上級MF技法が使え、
本レンズの最短撮影距離が短い長所とあいまって、強力な
MF性能を得る事が出来る。
ただ、本SP35/1.8の「停止感触」は弱く、僅かなクリック感が
ある程度で、そこから先も無限回転式ピントリングが廻ってしまう。

すなわち、ピントリングの操作性は、あまりよろしく無いという
点が本レンズにおける弱点だ。
ただまあ、シームレスMFの長所と、有限回転式MFの長所をうまく
妥協しつつハイブリット構成にするならば、実質的にこの構造に
するしか無いので、まあ、頑張っている仕様とは言えるであろう。

次の弱点は過剰スペックな点だ。
VC(内蔵手ブレ補正)は、この手のレンズでは殆ど不要である。
また、USD(超音波モーター)は、あまり高速では無い。
これらの機能で「高付加価値化」されているのであれば、
これらは不要なので、その分、価格を下げるか、または同じ
価格であっても高性能化して欲しいとも思う。

まあ、高付加価値化は、カメラ市場が縮退している現代の状況では
メーカーの利益確保の理由でもあるから、価格を安くする、という
選択肢は無い事はわかるのだが・・・
(注:本レンズの定価は9万円+税と、やや高価である。
また、本レンズには、SONY Aマウント用が存在するが、そちらは
VC機能が無い(SONY機はボディ内手ブレ補正)が、それでも
定価は同じである)

でも、例えばライバルのSIGMAの新鋭Art Lineの単焦点レンズは
思い切って手ブレ補正機能を廃している(高性能化優先?)まあ
その点ではArt Lineは潔さを感じて、好ましいコンセプトだ。

さて、本SP35/1.8の他の弱点だが、35mm/f1.8級レンズに
しては大型で重量級である事だ、本レンズの重量は450g以上も
あり、フィルター径もφ67mmと大柄である。


ライバル他社の同クラスのレンズの場合だが、以下の感じだ。
CANON EF35/2 IS USM 335g φ67mm
NIKON AF-S 35/1.8G 305g φ58mm

そして、フルサイズ対応ではなく、APS-C専用レンズならば
さらに軽く小さい。例えば、
SONY DT35/1.8 170g φ55mm
NIKON DX35/1.8 200g φ52mm
となっている。

これらに比べると、本SP35/1.8は、かなり大柄で重量級に
感じてしまう。

ただ、本レンズを含むSP F1.8シリーズの3本は、いずれも
φ67mmであり、ND(減光)フィルターの使いまわしは便利だ。
(注:最高シャッター速度1/4000秒機で使う場合、日中では、
ND2またはND4フィルターの装着が望ましい)
c0032138_20152314.jpg
他の弱点だが、ずばり、開放値がF1.8という点だ。
(注:私は全くそうは思っていない。ここで言う「弱点」とは
「このスペックでは、ビギナー層には売れない」という意味だ)

このSP F1.8シリーズのレンズ紹介をするたびに書く事だが、
現代のズーム主体の初級中級ユーザー層に対し、F1.8の
口径比(開放F値)は訴求力が少ない。

一般的な多くのユーザー層は、少しでも開放F値が明るいレンズ、
例えば開放F1.4の方が「高性能で描写力も高い」と勘違いして
魅力的なスペックに感じてしまうからだ。

本レンズの開放F1.8の仕様は、これ以上レンズのサイズや重量が
肥大化しない為もあるだろうし、加えて、開放F値(口径比)を
明るくする事で諸収差が補正が困難になったりする(すなわち
描写力が落ちる)事や、最短撮影距離が長くなる(近接域では
画質が設計限界を下回って劣化するのを防ぐ為、最短撮影距離を
長くするしかない)あるいは口径食が起こりやすくなる・・と
いったあたりの性能的なバランスを意識して、あえて開放f1.8で
抑えているのだと思う。

けど、これだと、一般ユーザーから見えるカタログスペックは
開放F値くらいしか無いため、F1.8は逆に低性能なレンズだと
勘違いされてしまうのだ。
残念な話だが、それが世間一般的なユーザーのレベルである。

少し前の時代であれば、マニア層や中上級者層は、描写力等
にも注目し、公正にレンズを選んでいたのだが、レンズ市場の
縮退による、レンズの高価格化により、マニア層等は、もう
高額すぎる新鋭レンズを欲しいとは思わない。だから現代の
新製品を買うユーザー層は、ビギナーばかりとなってしまい、
「F1.4の方が優れている」等の単純な数値比較判断になる。

これはTAMRONとしても大誤算であろう、ここまでユーザー層の
レベルが急激に低くなっているとは、そう簡単に想像出来ない。

でも、それは純然たる事実だ、何故ならば中上級ユーザー層は
現代のレンズを「高価すぎる」と思っている。過去からの長い
期間の市場を見てきて価格(相場)感覚が出来ているからだ。
で、ましてや35mmレンズは、マニア層であれば5本や10本も
持っていて当然だ。だから、高価すぎるように見える新鋭レンズ
には、中上級者層は正直、興味が持てない。

この結果、TAMRON SP F1.8シリーズのレンズは不人気だ。
発売後2年位で、本レンズの新品価格は定価のおよそ半額の
45000円前後まで落ちてきていた。
中古の玉数も多く、一時期は新品在庫の新古品が多数中古市場に
溢れかえった事もある(これがあると不人気レンズと見なせる)

私の場合、45mm/f1.8や35mm/f1.8は、4万円前後の中古購入
価格となっている。これは安価になった新品価格とそう変わらず、

その点では多少割高の印象も受けるのだが・・
絶対性能からすると、4万円位の相場は妥当な価値感覚である。
後年、3万円台前半位にまで相場が落ちれば、コスパはなかなか
良いレンズになると思う。

追記:本記事執筆後に、SP35/1.4の発売が予告されている。
まあつまり、本記事で書いてきたように、開放F1.8では
現代でのビギナー主体のターゲット・ユーザー層への訴求力が
無い事からの戦略転換であろう。だが、開放F1.4にした事で、
「レンズ市場全体が、なんだかチグハグになっている」という
問題点が解決する訳でも無く、なんとも変な話である。

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さて、今回の第13回記事は、このあたり迄で・・
次回記事に続く。


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