新規購入等の理由で、過去の本ブログのレンズ紹介記事では
未紹介のマニアックなレンズ群を紹介するシリーズ記事。
今回第4回目は、引き続き未紹介レンズを4本あげる
まずは最初のシステム
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レンズは、日本光学 NIKKOR-P 10.5cm/f2.5
(中古購入価格 15,000円)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)
ニコンSシリーズ用のMF単焦点中望遠レンズ、
発売は1953年と古く、65年も前のレンズだ。
型番のPはペンタ、つまり5枚レンズという意味であり
ツァイス・ゾナー型の3群5枚構成を採用していて、
1970年代以降のニコン一眼用105mm/f2.5の4群5枚
(クセノター型)とはレンズ構成が異なっている。
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まず、簡単に「ニコンSシリーズ」について述べておくが、
これは1940年代~1960年頃まで生産された、ニコン初期の
レンジファインダー機である。
ドイツのCONTAX(レンジ機)を、大幅に参考にしていて、
ほとんど同じ仕様と考えて良い。
なお、CONTAXレンジ機はライバルのライカを強く意識して、
操作性等をライカ機とは全て逆にして設計されていた。
ニコンはCONTAXの仕様をコピーしてSシリーズを作り、
Sシリーズが元になってニコンFが誕生した為、これが現代に
至る迄、ニコン製一眼レフが他社の一眼と、レンズ装着方向、
絞り値設定方向、露出補正の方向、露出補正スケールの方向
等が、全て逆になっている理由である。
今から80年も前のライカとCONTAXの意地の張り合いが
現代に至るまでニコン一眼を他社機と併用する際に、使い難い
原因の1つになっているのは、なんとも残念な話である。
(ニコンも途中で、他社と調整して操作性を標準化すれば
良かった訳だが、ここも又、ニコンも意地を張って、それを
行わなかった。これもカメラ界の歴史からすれば残念だ)
ニコンSシリーズの話に戻るが、1959年のニコンF発売より
ニコンは一眼レフに開発方針を転換し、レンジファインダーの
製造を止めてしまう。これは一説には1954年に発売された
ライカM3の完成度が高かった為、それと同じ土俵で勝負する事を
避けたからだ、という噂があるが、そこそこ信憑性のある話だ。
しかし、ニコンSシリーズには固定的なファン層が居て、
生産中止後も中古市場では人気が継続していた。
1990年代後半、「第一次中古カメラブーム」が起こると、
ニコンは、そのブームに積極的に乗り、複数の
クラッシックな製品を復刻または新発売した。
代表的な新製品としては、MF一眼レフのFM3A(2001年)、
MFレンズではAi45mmf/2.8P(2001)
レンジ機としては、復刻S3(2000),復刻SP(2005)がある。
復刻S3(ミレニアム)の際には、まだ第一中古カメラブームの
熱も覚めやらぬ時期であり、カメラマニアのみならず、後年の
価格高騰を狙った投機層までこのカメラを購入し、限定生産数は
あっと言うまに売り切れた、後日追加生産があったが、それは、
あまり売れなかったと記憶している。
また、復刻SP(2005)は、さすがに中古カメラブームも去った
後であり、すでにデジタルの時代に突入していたし、
高価だった事もあり、だいぶ売れ残っていた模様だった。
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さて、ニコンSシリーズは、CONTAXレンジ機(Ⅱa/Ⅲa型等)と
マウント形状互換であったのだが、実際には両者は少しだけ
仕様が異なる。
具体的には、ヘリコイドによるピント繰り出し量が異なり、
この為、被写界深度の深い広角レンズであれば、ニコンSでも
CONTAX Ⅲaに装着しても問題無く撮れるのであるが、
50mmを越える焦点距離のレンズでは、両者の互換性は無くなる。
この事を間接的に分かりやすく説明した商品群としては、
2002年にコシナ社よりフォクトレンダーブランドで
発売されたベッサ(BESSA)R2SとベッサR2Cがある。
この両者は外観的には同一に見えるが、R2SがニコンS互換、
R2CがCONTAX Cマウント互換だ(後日紹介予定)
同時期にコシナ社より発売された交換レンズは、以下の
ように区分されていた。
SCスコパー 21mm,25mm,35mm
Sノクトン50mm,Sスコパー50mm,Sヘリアー50mm
Sアポランター85mm
すなわち、SCという広角レンズは、ニコンSでもCONTAX C
でも使えるが、50mm以上のSのレンズは、ベッサR2Sまたは
ニコンSシリーズでしか使用できない。
Sシリーズのレンズラインナップが多いのは、勿論この時期に
ニコンS3やSPが復刻されたからであり、それらのユーザー層に
向けた交換レンズ群である。
いずれのSC/Sレンズも生産数は数百本程度と、かなり少なく、
若干高価でもある。
ただ、SC/Sレンズは思いの他、長く売れ残っていた様子であり、
これはつまりニコンS3/SPの復刻版を購入したユーザーのうち、
実際にそれで撮影を行う人達は少なかったからだと想像される。
(発売後15年以上になるが、私はそれらの機体で撮影を
している人を一度も見かけた事が無い。つまり殆ど全ての
販売機体は、コレクション又は投機目的であった)
なお、SCスコパー21mm/f4については、ミラーレス第6回、
SCスコパー35mm/f2.5は同第5回、補足編第3回で
各々紹介済みだ。
さて、ちっとも本題の10.5cm/f2.5の話が出来ないのだが、
最低限の歴史は説明せざるを得ない。
今時の初級マニアでは、この分野の製品の事は知らない事で
あろうから、「ニコンのレンズだ」と間違って買ったら、
どうやっても自分のニコン製一眼レフに装着できないので
困ってしまう事であろう。(あるいは、マウント等を意識
せず「ニコン銘の珍しいレンズだから」と、値上がり目的で
買うという投機層もまた、現代に至るまで大変多い。
ただ、これは投機層側の問題では無く、そういう商品を
有り難がって高価でも買ってしまう側の問題であろう。
後述するが、不勉強な購買行動をする事は、決して
「マニア」とは呼べない)
勿論、ニコンSマウント用レンズは、ニコン機に限らず、
他の一眼レフにも装着できない。
使うならばミラーレス機にニコンS用のマウントアダプターを
用いるしか無い。
なお、ニコンS用アダプターを用いて、CONTAX Cマウントの
レンズを使用する事は可能である。
(ミラーレス第29回、CマウントJupiter-9)
ただし、この場合、ピント繰り出し量が異なるので、距離指標
と撮影距離が異なる他、無限遠は出ると思うが、最短撮影距離
が伸びてしまう(オーバーインフだったか?、ともかくかなり
使い難い事は確かだ)
さて、やっと本NIKKOR-P 10.5cm/f2.5の話だが、
まず本レンズの購入動機であるが、銀塩時代にAi105/2.5を
機嫌よく使っていたが、訳あって2000年代に知人に譲渡した。
近年、もう一度そのレンズが欲しくなって買おうとしたのだが、
中古相場が「ふざけるな!」と言う位に高価になっていた。
なのでAi105/2.5を諦め(レンズ構成は異なるが)マニアックな
Sマウント版を入手した次第だ。
なお、相場が高騰している理由の推測はできる。
2010年代、MFレンズで高騰しているものは、ニコン、ライカ、
コンタックスのみで、その他のメーカーのものは二束三文だ。
これはつまり、誰でも知っている有名ブランドの物であれば
高く売れるからであり、中古店側のみならず、それを投機対象
としたり、ネット等で転売して利潤を稼ぐという職業的な
バイヤー(ブローカー)も存在しているからだ。
が、「マニアらしく無い」と、投機や転売行為を責めるのは、
ちょっと筋違いだろう。問題なのは、有名ブランドの名前が
ついていれば良いレンズだと勘違いして、高価でも購入する
ビギナー側だと思う、そちらの方がよほどマニアらしく無い。
世間では、珍しいモノを買う人達がマニアだ、と思っている
かも知れないが、真のマニアとは「モノの価値が分かる人」
の事を言うべきだと思う。
買う側でも常に商品の価値を正確に把握する必要がある、
それは購入者の責任である。ちゃんと勉強等をやらないで
何でもかんでも高値で買おうとするから、Ai105/2.5等が
「ふざけるな!」という程に高騰してしまう訳だ。
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本NIKKOR-P 10.5cm/f2.5は、65年前のレンズとしては
良く写るが、別に他社のオールドレンズと大きな差異が
ある訳では無い、変に本レンズだけを褒めると、また
中古相場が上がってしまう危険性もある。
まあ「さすがに古いレンズなので、その時代の写りだよ」
という結論に、あえてしておこう・・
こういうレンズは、あくまで上級マニア向けだ、
ビギナーや初級マニアが手を出して良いものでは無い。
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さて、次のシステム
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レンズは、LENSBABY MUSE Pinhole/Zoneplate Optic
(中古購入価格4,000円)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)
本シリーズ第1回記事では、型遅れ(生産中止)になった
LENSBABY MUSEの4/3版の新品在庫を安価に入手して紹介
したが、その後、いつくかのOptic(交換光学系)を入手
できたので、ここで紹介しよう。
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本Opticは、ピンホールとゾーンプレートの切り替え式
であり、シリーズ中、最もマニアックな光学系だと思う。
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切り替えは上写真のようにスライド式のスイッチで行うが、
他のOpticのように、磁石式の絞りディスクは使用できない。
その理由は、ピンホールもゾーンプレートも、付属している
絞りディスクよりも小さいF値で、
ピンホール=50mm,F117
ゾーンプレート=50mm,F19
であるからだ。
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さて、ピンホール・モードによる写真を紹介しているが、
ピンホールの原理は容易であり、本ブログでは何度も紹介
しているので、詳しい説明は諸略する。
問題はゾーンプレートだ。
これは特殊レンズであるが、これを搭載しているデジカメ用
の交換レンズは、まず他には見当たらない。
(注:後述のフレネル型レンズは、僅かに存在する)
確か、学研の付録付き実験雑誌「大人の科学」で、かつて
付録カメラのオプション部品(別売)のゾーンプレートが
あっただけであり、他には無かったようにも思う。
で、ゾーンプレートとは、一種の「フレネルレンズ」である。
フレネルレンズとは、同心円状に配置された構成のレンズ
であり、光の回折(干渉)を利用して像を結ぶ仕組みだ。
これは、フランスのフレネルという科学者により1800年代に
発明された。身近な例では灯台あるいは投光器で同心円状の
レンズが見られるが、あれがフレネルレンズである。
写真用高精度フレネルレンズは、キヤノンのDOレンズや
ニコンの望遠レンズ(PF型)にも採用された事がある。
ゾーンプレートの実際の写りだが、以下のような感じだ。
![c0032138_18224367.jpg]()
ピンホールよりも、さらにボケボケの写りであるが
まあ、 ゾーンプレートだからそうなるという訳でもなく
あくまでレンズ設計次第であろう。
フレネルの精度を上げれば、ピンホールと同等の写りにする
事も出来るとは思うが、LENBABY MUSEはあくまでトイレンズ
なので、高画質は不要とも言える。
ゾーンプレートの方がピンホールよりも圧倒的に明るい事は
利点であり、本Opticの場合でもF117とF19との差異がある。
これはおよそ5段の露出差なので、同一光線状況であれば
シャッター速度は30倍以上も速くできる。
つまり、ピンホールではF値が暗すぎて手持ち撮影が困難で
あったのが、ゾーンプレートでは、なんとか手持ちで撮れる
という意味だ。
が、本MUSEが発売されていたのは、2000年代後半からなので、
当時のデジタル一眼レフでは。そうだったかも知れないが、
2010年代に入ってデジタル一眼やミラーレス機は恐ろしく
高感度となった。F117程度であればISO感度を12800以上
に上げれば、問題なく手持ちで撮影ができる。
(今回は高感度が使えるNEX-7を使用している)
![c0032138_18224415.jpg]()
注意点だが、MUSEはティルト式のシステムであるが、基本的に
ピンホールではティルトの効果は得られない(ミラーレス
補足編第2回記事での実験結果参照)
ゾーンプレートの場合には光学原理的にはティルト効果が
現れる可能性があるのだが、このようなボケボケな写りなので、
その効果は残念ながら良くわからない。
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さて、次のシステムもLENSBABY MUSEだ
![c0032138_18232181.jpg]()
レンズは、LENSBABY MUSE Double Glass Optic
(中古購入価格3,000円)
カメラは、SONY NEX-3 (APS-C機)
こちらは、MUSEの交換光学系(Optic)の中では、最も
しっかりと写る「ダブルグラス」タイプだ。
(下は、逆ティルトでパンフォーカス風とした写真)
![c0032138_18232122.jpg]()
仕様は、50mm/f2 1群2枚,コーティング有りだ、
なお、発売時のOpticの実勢価格は、ダブルグラスが1万円強、
その他が5000円位となっていたが、何故か中古では
ピンホール/ゾーンプレートの方が若干高かった。
(まあ、希少な商品は、販売側でも高値を付ける訳だ)
Opticの交換はちょっと注意が必要だ。
![c0032138_18232192.jpg]()
上写真のように、単品Optic購入時にケースとなっている
底蓋の3箇所の突起部をOptic側の窪みに嵌めて廻すと
Opticが外れる。取り付ける際には、この専用蓋使用の他、
手で締める事も可能だ。
Opeicを外す作業は、一般的な市販工具では難しく、試しに
「カニ目レンチ」等を使ってみたが無理だった。
この底蓋は、LENSBABY MUSE本体には付属していない、
交換Opticを中古等で購入時には、必ずケース(の底蓋)が
付属している事を確認する必要がある。
もしこれが付いていないと、前述のように一般工具では
交換が困難だ。
![c0032138_18232044.jpg]()
さて、本MUSE用のDouble Glass Opticは、LENSBAVY 3G
(ミラーレス・マニアックス第11回、第14回、第40回、
ハイコスパ第7回)の光学系とほとんど同じだと思うが、
微妙に異なるかも知れない。
まあ、そのあたりは、いずれもトイレンズなので、あまり
神経質になる必要もないであろう。
で、LENSBABY 3Gは、基本的に操作性の悪いレンズであるが、
色々試してみたところ、SONY NEX-3との組み合わせが最も
しっくりきていた。
LENSBABY MUSEは在庫処分の4/3マウント版で購入したので
本シリーズ第1回ではOLYMPUS E-410に装着して使ってみたが、
やはりピーキング機能が無いと、「スイートスポット」
(ティルト時にピントの合う場所)がわかりにくい。
そこで、4/3→Eのマウントアダプターを購入し、3Gよりも
操作性が改善されたMUSEもNEX-3で使えるようにした。
なお、4/3レンズは基本的には電子接点で制御されるので
4/3→Eの機械的なアダプターを用いて通常の4/3用レンズを
装着する事は無理だ、この場合、絞りが開放のままとなり、
MFでのピントリングも全く動作しない。
(つまり純正4/3レンズでは電子アダプターの利用が必須、
かつ、イメージサークルの関係で、μ4/3機にしか装着
する事ができない)
ただ、LENSBABY 3GやMUSEのような、電子接点を持たない
MFレンズの場合には、単にマウント形状だけ変換してやれば
良いので、4/3→Eの簡易アダプターは使用可能だ。
(MUSEはフルサイズ対応なので、α7系などのフルサイズ
ミラーレス機でも利用可能だ)
![c0032138_18232061.jpg]()
本Double Glass Opticだが、どうもLENSBABY 3Gよりピント
合わせが難しく感じる。
絞りディスクの差による絞り値の差か?と思い、色々試したが
どれも同様だ。
ちなみに、3GとMUSEは同じ絞りディスクが使用可能だが、
3Gの付属ディスクの方が枚数(絞り値)が多い。
まあでも、前述のように、基本的にはどうでも良い事だ、
LENSBABYは、本格的なティルト(あおり)レンズではなく
あくまでトイレンズだ、写り(高描写力)はどうでも良い。
むしろ、「ダブルグラス」のような、しっかりした写りを
する方が「異端」であって、本シリーズ第1回のプラスティック
や本記事のピンホール&ゾーンプレートの方が本来のLENSBABY
の使用目的には合うかも知れない。
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さて、トイレンズの紹介ばかりでは面白く無いであろう、
本記事のラストは本格派レンズだ。
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レンズは、TAMRON SP 85mm/f1.8 Di VC USD(F016)
(新古購入価格70,000円)
カメラは、NIKON D300 (APS-C機)
本レンズは、2016年初頭に発売された新鋭のAF中望遠
レンズだ。
個人的には、名玉のPENTAX FA77/1.8 Limitedの代替を
目的に購入したレンズである。
初めに書いておくが、非常に描写力の高いレンズであり、
今から「名玉編」に、追加ノミネートしたい位のレンズだ。
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しかし、姉妹レンズのSP35/1.8(F012),SP45/1.8(F013)
(いずれも2015年末の発売)とともに不人気であったのか?
発売から1年強の2017年の春以降にはアウトレット品が多数、
中古市場に流通していた(姉妹レンズは後日紹介予定)
不人気である理由は推察できる。
ズバリ「F1.8だから」だ。
現代の初級中級ユーザー層であれば、小三元(F4通しズームを
広角から望遠まで3本揃える事)よりも開放F値の明るい大三元
(F2.8ズームを3本揃える事)が夢となっている。
大三元や小三元には、私個人的には、何ら興味が無い事だが、
それでも世間一般的にはそうだ。
そうした初級中級層が、単焦点レンズが欲しいと言った場合、
少しでも明るいF1.4級を欲しがる。
F2.8ズームの事を「大口径」と言う位のユーザー層で
あるから、F1.4レンズは「夢の大口径」だ。
85mmならばなおさらだ、各社とも昔から「憧れの85/1.4」が
色々と発売されている。
そんな中、85mm/f1.8レンズを出した所で、初級中級層が
興味を持つ筈が無いではないか・・
「85mmクラスで初の手ブレ補正機能が入った」等と言っても
殆ど意味が無い。F値の明るいレンズであれば、そもそも
手ブレ補正機能など、あまり有効な使い道が無いからだ。
で、TAMRONのライバルのSIGMAにおいても、現在の
「ARTライン」の製品カテゴリーにおいては、35mmも50mmも
85mmも105mmも、他の多くの焦点距離も、開放F1.4で揃えて
ラインナップされている。
まあでも、上級層や中上級マニアであれば、85mm/f1.4が
必ずしも使い易いレンズでは無い事は承知であろう。
本ブログでも、過去、多くの85/1.4級レンズを紹介してきて
いるが、いずれの紹介記事でも「85mm/f1.4は使い難い」と
結論づけていたと思う。
歩留まり(成功率)が悪い、という他にも、何だか85/1.4
のレンズそのものが、あまり高い描写力を持たないようにも
感じてならない。まあ最新の50万円もする85/1.4の性能は
知らないが、定価20万円以下級であれば、従来のそれらは、
どれをとっても概ねそんな感じだ。
ニコンやキヤノンにしても、古くから、大口径版
(F1.2やF1.4)と、小口径版(F1.8やF2)の85mmレンズを
並行してラインナップしていた、もし総ての面で大口径版が
優れるのであればF1.8版は存在価値が無いのではなかろうか?
両者が並存しているという事は、小口径版にも、それなりの
利点があるという事だ。
事実、私も、銀塩時代にニコンAiAF85mm/f1.4を使用して
いたのが、どうにも描写力が気に入らず、2000年代に、
F1.4版を処分してAiAF85mm/f1.8Dにダウングレードした。
しかしF1.8版は非常に気に入って、以来ずっと愛用している。
(ミラーレス第66回、ハイコスパ第12回)
85mmに限らず、大口径版と小口径版の両者が同時ラインナップ
されているケースでは「たいてい、小口径版の方が良く写る」
という風に、これまでの本ブログでは何度も述べている。
まあ、同じメーカーの同時代の同じ焦点距離で開放F値の異なる
レンズを両方所有しているユーザー層は少ないだろうから、
そういう事実も、世間一般的には、あまり知られていなかった
かも知れない。
基本的には、開放F値が明るいレンズは、必ず設計上に
どこか無理が出てくる、その無理を、どのように解決するかは
技術者が言うところの「トレードオフ」である。何を優先して
何処を犠牲にするかは、あくまで設計のコンセプト次第だ。
そして、全ての弱点を消す事など、まず不可能である。
まあ、そういう事もあるから、F1.8級は、F1.4級に対して、
決して「安物」や「廉価版」という訳では無い。
![c0032138_18233802.jpg]()
さて、本レンズSP85mm/f1.8だが、その優れた描写力が
最大の長所であろう。
ボケ質も基本的には優れ、ボケ質破綻が若干出るが、気になる
レベルでは無いし、その回避はデジタル一眼レフでは難しい。
(注:何故ミラーレス機で使わないかは弱点の所で後述する)
特に人物ポートレートに適していると思われるが、
今回はニコンのフルサイズ・デジタル機を使用していない。
(別途、NIKON Dfの紹介記事、デジタル一眼レフ第17回で
本レンズを人物撮影に使っている)
今回使用のAPS-C機のD300では、約127mm相当の望遠画角
となり人物撮影にはやや長い。
個人的には「フルサイズ機の利点」は殆ど感じないのだが、
ポートレートに関しては例外だ。
この画角だと、人物撮影と言っても、ステージ等の中距離の
被写体が適正だ、まあ今回はノラ猫の写真に留めておこう(笑)
本レンズの弱点だが、ニコンマウント版を購入したのにも
かかわらず「電磁絞り」を採用している事だ。
「電磁絞り」とは、絞り羽根を機械式のレバーでは無く、
電気信号で絞り羽根を動かすという構造だ。
キヤノンEF(EOS)等の他社では絞り環の無い事で、当初から、
そういう仕様であるが、ニコンとペンタックスの一眼レフ
では、旧来の絞り環を持つ仕様との互換性を持たせる為に、
なかなかこの「電磁絞り」仕様のレンズは多くはなかった。
ニコンでは「E」という型番が電磁絞りレンズを示すが、
これに対応しているのは、概ね2007年発売のNIKON D3や
D300(本記事)以降のボディであり、それ以前の一眼レフ
では、電磁絞りレンズは絞りが動かない。
なお、ニコンFマウントは、M42マウントと並び最も汎用性
が高いレンズであり、他社一眼レフやミラーレス機の殆どで
利用可能だ。だからこそ現代のミラーレス時代においては、
ニコンFマウント版のレンズを購入するのがセオリーである。
(その逆に、ニコン機(一眼レフ)は最も他社のレンズを
装着し難いので買いにくい)
絞り環が無いニコンF用レンズでも、Gタイプであれば
絞りレバーを機械的に動かせる「Gアダプター」で問題なく
使える物の、Eタイプの電磁絞りは、高価な電子アダプターを
使わない限り、一般的なアダプターでは使え無い。
互換性を排除してまでも、電磁絞りにする理由であるが、
まあ「機械絞りは露出が安定しない」事が一番であろう。
古くからニコン一眼レフには高速連写機が存在している、
例えば銀塩時代のNIKON F5(後日紹介)やデジタル初期の
NIKON D2H(デジタル一眼レフ第1回)である。
両機を私は保有しているが、せっかく毎秒8コマもの高速
連写性能がありながら、大口径レンズや、絞り羽根がやや
粘っているオールドレンズでは、絞り羽根が設定した絞り値
まで、毎秒8回も正確に動く事は出来ず、露出値がばらつく。
すなわち、高速連写すると写真の1枚1枚の明るさが異なって
しまう。
今回使用のD300も、まあ高速連写機の類なので、機械絞りの
通常レンズであれば、同様に露出がバラつくリスクがある。
今回高速連写を何度も試してみたが、そうした露出のばらつき
は本SP85/1.8では発生しなかったので、それなりに電磁絞り
の効果は出ているのであろう(もし絞りが粘ると、連写不能に
なるリスクが存在するが)
ただ、他機で使える汎用性が無いのはさすがに困る。
が、この問題をクリアする手段は一応存在する。
具体的には、EOSマウント用などの「絞り羽根内蔵」の
機械式アダプターとニコン→EOSのアダプターを組み合わせて
利用する事だ。
これにより、レンズ本体の絞りとは別途、機械絞り羽根を
用いて絞り込む事が可能となる。
が、この時レンズ内部の本来の絞り羽根は開放のままであり、
機械絞り羽根は、レンズ後玉からの光束を遮っているに過ぎず
(視野絞り)、本来の絞り(開口絞り)の効果(被写界深度や
ボケ質の調整)は、殆ど効果が出ず、単に露出値の調整位
でしか無い。
![c0032138_18233865.jpg]()
なお、一説によると、本レンズは「焦点移動」が出るとの
事である。
「焦点移動」とは絞り開放の際のピント位置と、絞り込んだ
時のピント位置が異なってしまう現象の事で、これは古く
から多くのレンズで発生していた。
例えば、有名なCONTAX RTS/ツァイス プラナー85mm/f1.4
(ミラーレス第43回)、同テッサー 45mm/f2.8(同第47回)
安原製作所ソフトレンズMOMO100(同補足編第7回)等で
焦点移動は発生する。
焦点移動は、開放測光の一眼レフでは若干問題となるが、
ミラーレス機で絞込み(実絞り)測光とする事で、簡単に
回避できる。
ただし、本SP85/1.8は前述のように「電磁絞り」であるから、
ミラーレス機で使うのは困難であり、焦点移動の問題は残る。
まあ、本レンズの用途からの絞り値設定幅は小さく、焦点移動
が発生していたとしても問題となる範囲では無いであろう。
それに、絞り込むと当然ながら被写界深度が深くなるので
昔から、焦点移動が重欠点とされたケースはあまり無い。
(つまり、大口径レンズの使用状況からは、「想定外」だ)
・・というか、焦点移動やら歪曲収差、周辺減光といった、
誰にでも簡単に測定できる内容のみを見て、レンズ全体の
良し悪しを決め付けてしまう評価スタンスは好きでは無い。
そんな弱点がある事は、設計側は完璧にわかっている。
それを犠牲にしても、もっと優先すべてき性能(解像力や
ボケ質等)があったから、やむなく「トレードオフ」した
訳であって、その設計コンセプト全体が理解できないので
あれば、評価する意味も無い事であろう。
その他、一般的な撮影状況においての本レンズの弱点は無い。
大きく、多少重たい(700g)と、高価だ、という位か。
![c0032138_18233704.jpg]()
今後、少なくとも20年は使えるであろう優秀なレンズだ、
代替を意識したFA77/1.8(ミラーレス名玉編第1位)に
勝るとも劣らない良いレンズである、
とは言え、名レンズの「ナナナナ」が色あせる事は無いが。
新しく高価なレンズが常に優れているわけでは決して無い、
数十年も前の古いレンズや、あるいはジャンクで僅かに
1000円で購入したレンズが、近年の非常に高価なレンズの
描写力すらも時に上回ってしまう事は、特に初級中級者は
必ず知っておく必要がある事実だ。
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さて本記事はここまで、次回シリーズ記事に続く・・
未紹介のマニアックなレンズ群を紹介するシリーズ記事。
今回第4回目は、引き続き未紹介レンズを4本あげる
まずは最初のシステム

(中古購入価格 15,000円)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)
ニコンSシリーズ用のMF単焦点中望遠レンズ、
発売は1953年と古く、65年も前のレンズだ。
型番のPはペンタ、つまり5枚レンズという意味であり
ツァイス・ゾナー型の3群5枚構成を採用していて、
1970年代以降のニコン一眼用105mm/f2.5の4群5枚
(クセノター型)とはレンズ構成が異なっている。

これは1940年代~1960年頃まで生産された、ニコン初期の
レンジファインダー機である。
ドイツのCONTAX(レンジ機)を、大幅に参考にしていて、
ほとんど同じ仕様と考えて良い。
なお、CONTAXレンジ機はライバルのライカを強く意識して、
操作性等をライカ機とは全て逆にして設計されていた。
ニコンはCONTAXの仕様をコピーしてSシリーズを作り、
Sシリーズが元になってニコンFが誕生した為、これが現代に
至る迄、ニコン製一眼レフが他社の一眼と、レンズ装着方向、
絞り値設定方向、露出補正の方向、露出補正スケールの方向
等が、全て逆になっている理由である。
今から80年も前のライカとCONTAXの意地の張り合いが
現代に至るまでニコン一眼を他社機と併用する際に、使い難い
原因の1つになっているのは、なんとも残念な話である。
(ニコンも途中で、他社と調整して操作性を標準化すれば
良かった訳だが、ここも又、ニコンも意地を張って、それを
行わなかった。これもカメラ界の歴史からすれば残念だ)
ニコンSシリーズの話に戻るが、1959年のニコンF発売より
ニコンは一眼レフに開発方針を転換し、レンジファインダーの
製造を止めてしまう。これは一説には1954年に発売された
ライカM3の完成度が高かった為、それと同じ土俵で勝負する事を
避けたからだ、という噂があるが、そこそこ信憑性のある話だ。
しかし、ニコンSシリーズには固定的なファン層が居て、
生産中止後も中古市場では人気が継続していた。
1990年代後半、「第一次中古カメラブーム」が起こると、
ニコンは、そのブームに積極的に乗り、複数の
クラッシックな製品を復刻または新発売した。
代表的な新製品としては、MF一眼レフのFM3A(2001年)、
MFレンズではAi45mmf/2.8P(2001)
レンジ機としては、復刻S3(2000),復刻SP(2005)がある。
復刻S3(ミレニアム)の際には、まだ第一中古カメラブームの
熱も覚めやらぬ時期であり、カメラマニアのみならず、後年の
価格高騰を狙った投機層までこのカメラを購入し、限定生産数は
あっと言うまに売り切れた、後日追加生産があったが、それは、
あまり売れなかったと記憶している。
また、復刻SP(2005)は、さすがに中古カメラブームも去った
後であり、すでにデジタルの時代に突入していたし、
高価だった事もあり、だいぶ売れ残っていた模様だった。

マウント形状互換であったのだが、実際には両者は少しだけ
仕様が異なる。
具体的には、ヘリコイドによるピント繰り出し量が異なり、
この為、被写界深度の深い広角レンズであれば、ニコンSでも
CONTAX Ⅲaに装着しても問題無く撮れるのであるが、
50mmを越える焦点距離のレンズでは、両者の互換性は無くなる。
この事を間接的に分かりやすく説明した商品群としては、
2002年にコシナ社よりフォクトレンダーブランドで
発売されたベッサ(BESSA)R2SとベッサR2Cがある。
この両者は外観的には同一に見えるが、R2SがニコンS互換、
R2CがCONTAX Cマウント互換だ(後日紹介予定)
同時期にコシナ社より発売された交換レンズは、以下の
ように区分されていた。
SCスコパー 21mm,25mm,35mm
Sノクトン50mm,Sスコパー50mm,Sヘリアー50mm
Sアポランター85mm
すなわち、SCという広角レンズは、ニコンSでもCONTAX C
でも使えるが、50mm以上のSのレンズは、ベッサR2Sまたは
ニコンSシリーズでしか使用できない。
Sシリーズのレンズラインナップが多いのは、勿論この時期に
ニコンS3やSPが復刻されたからであり、それらのユーザー層に
向けた交換レンズ群である。
いずれのSC/Sレンズも生産数は数百本程度と、かなり少なく、
若干高価でもある。
ただ、SC/Sレンズは思いの他、長く売れ残っていた様子であり、
これはつまりニコンS3/SPの復刻版を購入したユーザーのうち、
実際にそれで撮影を行う人達は少なかったからだと想像される。
(発売後15年以上になるが、私はそれらの機体で撮影を
している人を一度も見かけた事が無い。つまり殆ど全ての
販売機体は、コレクション又は投機目的であった)
なお、SCスコパー21mm/f4については、ミラーレス第6回、
SCスコパー35mm/f2.5は同第5回、補足編第3回で
各々紹介済みだ。
さて、ちっとも本題の10.5cm/f2.5の話が出来ないのだが、
最低限の歴史は説明せざるを得ない。
今時の初級マニアでは、この分野の製品の事は知らない事で
あろうから、「ニコンのレンズだ」と間違って買ったら、
どうやっても自分のニコン製一眼レフに装着できないので
困ってしまう事であろう。(あるいは、マウント等を意識
せず「ニコン銘の珍しいレンズだから」と、値上がり目的で
買うという投機層もまた、現代に至るまで大変多い。
ただ、これは投機層側の問題では無く、そういう商品を
有り難がって高価でも買ってしまう側の問題であろう。
後述するが、不勉強な購買行動をする事は、決して
「マニア」とは呼べない)
勿論、ニコンSマウント用レンズは、ニコン機に限らず、
他の一眼レフにも装着できない。
使うならばミラーレス機にニコンS用のマウントアダプターを
用いるしか無い。
なお、ニコンS用アダプターを用いて、CONTAX Cマウントの
レンズを使用する事は可能である。
(ミラーレス第29回、CマウントJupiter-9)
ただし、この場合、ピント繰り出し量が異なるので、距離指標
と撮影距離が異なる他、無限遠は出ると思うが、最短撮影距離
が伸びてしまう(オーバーインフだったか?、ともかくかなり
使い難い事は確かだ)
さて、やっと本NIKKOR-P 10.5cm/f2.5の話だが、
まず本レンズの購入動機であるが、銀塩時代にAi105/2.5を
機嫌よく使っていたが、訳あって2000年代に知人に譲渡した。
近年、もう一度そのレンズが欲しくなって買おうとしたのだが、
中古相場が「ふざけるな!」と言う位に高価になっていた。
なのでAi105/2.5を諦め(レンズ構成は異なるが)マニアックな
Sマウント版を入手した次第だ。
なお、相場が高騰している理由の推測はできる。
2010年代、MFレンズで高騰しているものは、ニコン、ライカ、
コンタックスのみで、その他のメーカーのものは二束三文だ。
これはつまり、誰でも知っている有名ブランドの物であれば
高く売れるからであり、中古店側のみならず、それを投機対象
としたり、ネット等で転売して利潤を稼ぐという職業的な
バイヤー(ブローカー)も存在しているからだ。
が、「マニアらしく無い」と、投機や転売行為を責めるのは、
ちょっと筋違いだろう。問題なのは、有名ブランドの名前が
ついていれば良いレンズだと勘違いして、高価でも購入する
ビギナー側だと思う、そちらの方がよほどマニアらしく無い。
世間では、珍しいモノを買う人達がマニアだ、と思っている
かも知れないが、真のマニアとは「モノの価値が分かる人」
の事を言うべきだと思う。
買う側でも常に商品の価値を正確に把握する必要がある、
それは購入者の責任である。ちゃんと勉強等をやらないで
何でもかんでも高値で買おうとするから、Ai105/2.5等が
「ふざけるな!」という程に高騰してしまう訳だ。

良く写るが、別に他社のオールドレンズと大きな差異が
ある訳では無い、変に本レンズだけを褒めると、また
中古相場が上がってしまう危険性もある。
まあ「さすがに古いレンズなので、その時代の写りだよ」
という結論に、あえてしておこう・・
こういうレンズは、あくまで上級マニア向けだ、
ビギナーや初級マニアが手を出して良いものでは無い。
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さて、次のシステム

(中古購入価格4,000円)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)
本シリーズ第1回記事では、型遅れ(生産中止)になった
LENSBABY MUSEの4/3版の新品在庫を安価に入手して紹介
したが、その後、いつくかのOptic(交換光学系)を入手
できたので、ここで紹介しよう。

であり、シリーズ中、最もマニアックな光学系だと思う。

他のOpticのように、磁石式の絞りディスクは使用できない。
その理由は、ピンホールもゾーンプレートも、付属している
絞りディスクよりも小さいF値で、
ピンホール=50mm,F117
ゾーンプレート=50mm,F19
であるからだ。

ピンホールの原理は容易であり、本ブログでは何度も紹介
しているので、詳しい説明は諸略する。
問題はゾーンプレートだ。
これは特殊レンズであるが、これを搭載しているデジカメ用
の交換レンズは、まず他には見当たらない。
(注:後述のフレネル型レンズは、僅かに存在する)
確か、学研の付録付き実験雑誌「大人の科学」で、かつて
付録カメラのオプション部品(別売)のゾーンプレートが
あっただけであり、他には無かったようにも思う。
で、ゾーンプレートとは、一種の「フレネルレンズ」である。
フレネルレンズとは、同心円状に配置された構成のレンズ
であり、光の回折(干渉)を利用して像を結ぶ仕組みだ。
これは、フランスのフレネルという科学者により1800年代に
発明された。身近な例では灯台あるいは投光器で同心円状の
レンズが見られるが、あれがフレネルレンズである。
写真用高精度フレネルレンズは、キヤノンのDOレンズや
ニコンの望遠レンズ(PF型)にも採用された事がある。
ゾーンプレートの実際の写りだが、以下のような感じだ。

まあ、 ゾーンプレートだからそうなるという訳でもなく
あくまでレンズ設計次第であろう。
フレネルの精度を上げれば、ピンホールと同等の写りにする
事も出来るとは思うが、LENBABY MUSEはあくまでトイレンズ
なので、高画質は不要とも言える。
ゾーンプレートの方がピンホールよりも圧倒的に明るい事は
利点であり、本Opticの場合でもF117とF19との差異がある。
これはおよそ5段の露出差なので、同一光線状況であれば
シャッター速度は30倍以上も速くできる。
つまり、ピンホールではF値が暗すぎて手持ち撮影が困難で
あったのが、ゾーンプレートでは、なんとか手持ちで撮れる
という意味だ。
が、本MUSEが発売されていたのは、2000年代後半からなので、
当時のデジタル一眼レフでは。そうだったかも知れないが、
2010年代に入ってデジタル一眼やミラーレス機は恐ろしく
高感度となった。F117程度であればISO感度を12800以上
に上げれば、問題なく手持ちで撮影ができる。
(今回は高感度が使えるNEX-7を使用している)

ピンホールではティルトの効果は得られない(ミラーレス
補足編第2回記事での実験結果参照)
ゾーンプレートの場合には光学原理的にはティルト効果が
現れる可能性があるのだが、このようなボケボケな写りなので、
その効果は残念ながら良くわからない。
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さて、次のシステムもLENSBABY MUSEだ

(中古購入価格3,000円)
カメラは、SONY NEX-3 (APS-C機)
こちらは、MUSEの交換光学系(Optic)の中では、最も
しっかりと写る「ダブルグラス」タイプだ。
(下は、逆ティルトでパンフォーカス風とした写真)

なお、発売時のOpticの実勢価格は、ダブルグラスが1万円強、
その他が5000円位となっていたが、何故か中古では
ピンホール/ゾーンプレートの方が若干高かった。
(まあ、希少な商品は、販売側でも高値を付ける訳だ)
Opticの交換はちょっと注意が必要だ。

底蓋の3箇所の突起部をOptic側の窪みに嵌めて廻すと
Opticが外れる。取り付ける際には、この専用蓋使用の他、
手で締める事も可能だ。
Opeicを外す作業は、一般的な市販工具では難しく、試しに
「カニ目レンチ」等を使ってみたが無理だった。
この底蓋は、LENSBABY MUSE本体には付属していない、
交換Opticを中古等で購入時には、必ずケース(の底蓋)が
付属している事を確認する必要がある。
もしこれが付いていないと、前述のように一般工具では
交換が困難だ。

(ミラーレス・マニアックス第11回、第14回、第40回、
ハイコスパ第7回)の光学系とほとんど同じだと思うが、
微妙に異なるかも知れない。
まあ、そのあたりは、いずれもトイレンズなので、あまり
神経質になる必要もないであろう。
で、LENSBABY 3Gは、基本的に操作性の悪いレンズであるが、
色々試してみたところ、SONY NEX-3との組み合わせが最も
しっくりきていた。
LENSBABY MUSEは在庫処分の4/3マウント版で購入したので
本シリーズ第1回ではOLYMPUS E-410に装着して使ってみたが、
やはりピーキング機能が無いと、「スイートスポット」
(ティルト時にピントの合う場所)がわかりにくい。
そこで、4/3→Eのマウントアダプターを購入し、3Gよりも
操作性が改善されたMUSEもNEX-3で使えるようにした。
なお、4/3レンズは基本的には電子接点で制御されるので
4/3→Eの機械的なアダプターを用いて通常の4/3用レンズを
装着する事は無理だ、この場合、絞りが開放のままとなり、
MFでのピントリングも全く動作しない。
(つまり純正4/3レンズでは電子アダプターの利用が必須、
かつ、イメージサークルの関係で、μ4/3機にしか装着
する事ができない)
ただ、LENSBABY 3GやMUSEのような、電子接点を持たない
MFレンズの場合には、単にマウント形状だけ変換してやれば
良いので、4/3→Eの簡易アダプターは使用可能だ。
(MUSEはフルサイズ対応なので、α7系などのフルサイズ
ミラーレス機でも利用可能だ)

合わせが難しく感じる。
絞りディスクの差による絞り値の差か?と思い、色々試したが
どれも同様だ。
ちなみに、3GとMUSEは同じ絞りディスクが使用可能だが、
3Gの付属ディスクの方が枚数(絞り値)が多い。
まあでも、前述のように、基本的にはどうでも良い事だ、
LENSBABYは、本格的なティルト(あおり)レンズではなく
あくまでトイレンズだ、写り(高描写力)はどうでも良い。
むしろ、「ダブルグラス」のような、しっかりした写りを
する方が「異端」であって、本シリーズ第1回のプラスティック
や本記事のピンホール&ゾーンプレートの方が本来のLENSBABY
の使用目的には合うかも知れない。
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さて、トイレンズの紹介ばかりでは面白く無いであろう、
本記事のラストは本格派レンズだ。

(新古購入価格70,000円)
カメラは、NIKON D300 (APS-C機)
本レンズは、2016年初頭に発売された新鋭のAF中望遠
レンズだ。
個人的には、名玉のPENTAX FA77/1.8 Limitedの代替を
目的に購入したレンズである。
初めに書いておくが、非常に描写力の高いレンズであり、
今から「名玉編」に、追加ノミネートしたい位のレンズだ。

(いずれも2015年末の発売)とともに不人気であったのか?
発売から1年強の2017年の春以降にはアウトレット品が多数、
中古市場に流通していた(姉妹レンズは後日紹介予定)
不人気である理由は推察できる。
ズバリ「F1.8だから」だ。
現代の初級中級ユーザー層であれば、小三元(F4通しズームを
広角から望遠まで3本揃える事)よりも開放F値の明るい大三元
(F2.8ズームを3本揃える事)が夢となっている。
大三元や小三元には、私個人的には、何ら興味が無い事だが、
それでも世間一般的にはそうだ。
そうした初級中級層が、単焦点レンズが欲しいと言った場合、
少しでも明るいF1.4級を欲しがる。
F2.8ズームの事を「大口径」と言う位のユーザー層で
あるから、F1.4レンズは「夢の大口径」だ。
85mmならばなおさらだ、各社とも昔から「憧れの85/1.4」が
色々と発売されている。
そんな中、85mm/f1.8レンズを出した所で、初級中級層が
興味を持つ筈が無いではないか・・
「85mmクラスで初の手ブレ補正機能が入った」等と言っても
殆ど意味が無い。F値の明るいレンズであれば、そもそも
手ブレ補正機能など、あまり有効な使い道が無いからだ。
で、TAMRONのライバルのSIGMAにおいても、現在の
「ARTライン」の製品カテゴリーにおいては、35mmも50mmも
85mmも105mmも、他の多くの焦点距離も、開放F1.4で揃えて
ラインナップされている。
まあでも、上級層や中上級マニアであれば、85mm/f1.4が
必ずしも使い易いレンズでは無い事は承知であろう。
本ブログでも、過去、多くの85/1.4級レンズを紹介してきて
いるが、いずれの紹介記事でも「85mm/f1.4は使い難い」と
結論づけていたと思う。
歩留まり(成功率)が悪い、という他にも、何だか85/1.4
のレンズそのものが、あまり高い描写力を持たないようにも
感じてならない。まあ最新の50万円もする85/1.4の性能は
知らないが、定価20万円以下級であれば、従来のそれらは、
どれをとっても概ねそんな感じだ。
ニコンやキヤノンにしても、古くから、大口径版
(F1.2やF1.4)と、小口径版(F1.8やF2)の85mmレンズを
並行してラインナップしていた、もし総ての面で大口径版が
優れるのであればF1.8版は存在価値が無いのではなかろうか?
両者が並存しているという事は、小口径版にも、それなりの
利点があるという事だ。
事実、私も、銀塩時代にニコンAiAF85mm/f1.4を使用して
いたのが、どうにも描写力が気に入らず、2000年代に、
F1.4版を処分してAiAF85mm/f1.8Dにダウングレードした。
しかしF1.8版は非常に気に入って、以来ずっと愛用している。
(ミラーレス第66回、ハイコスパ第12回)
85mmに限らず、大口径版と小口径版の両者が同時ラインナップ
されているケースでは「たいてい、小口径版の方が良く写る」
という風に、これまでの本ブログでは何度も述べている。
まあ、同じメーカーの同時代の同じ焦点距離で開放F値の異なる
レンズを両方所有しているユーザー層は少ないだろうから、
そういう事実も、世間一般的には、あまり知られていなかった
かも知れない。
基本的には、開放F値が明るいレンズは、必ず設計上に
どこか無理が出てくる、その無理を、どのように解決するかは
技術者が言うところの「トレードオフ」である。何を優先して
何処を犠牲にするかは、あくまで設計のコンセプト次第だ。
そして、全ての弱点を消す事など、まず不可能である。
まあ、そういう事もあるから、F1.8級は、F1.4級に対して、
決して「安物」や「廉価版」という訳では無い。

最大の長所であろう。
ボケ質も基本的には優れ、ボケ質破綻が若干出るが、気になる
レベルでは無いし、その回避はデジタル一眼レフでは難しい。
(注:何故ミラーレス機で使わないかは弱点の所で後述する)
特に人物ポートレートに適していると思われるが、
今回はニコンのフルサイズ・デジタル機を使用していない。
(別途、NIKON Dfの紹介記事、デジタル一眼レフ第17回で
本レンズを人物撮影に使っている)
今回使用のAPS-C機のD300では、約127mm相当の望遠画角
となり人物撮影にはやや長い。
個人的には「フルサイズ機の利点」は殆ど感じないのだが、
ポートレートに関しては例外だ。
この画角だと、人物撮影と言っても、ステージ等の中距離の
被写体が適正だ、まあ今回はノラ猫の写真に留めておこう(笑)
本レンズの弱点だが、ニコンマウント版を購入したのにも
かかわらず「電磁絞り」を採用している事だ。
「電磁絞り」とは、絞り羽根を機械式のレバーでは無く、
電気信号で絞り羽根を動かすという構造だ。
キヤノンEF(EOS)等の他社では絞り環の無い事で、当初から、
そういう仕様であるが、ニコンとペンタックスの一眼レフ
では、旧来の絞り環を持つ仕様との互換性を持たせる為に、
なかなかこの「電磁絞り」仕様のレンズは多くはなかった。
ニコンでは「E」という型番が電磁絞りレンズを示すが、
これに対応しているのは、概ね2007年発売のNIKON D3や
D300(本記事)以降のボディであり、それ以前の一眼レフ
では、電磁絞りレンズは絞りが動かない。
なお、ニコンFマウントは、M42マウントと並び最も汎用性
が高いレンズであり、他社一眼レフやミラーレス機の殆どで
利用可能だ。だからこそ現代のミラーレス時代においては、
ニコンFマウント版のレンズを購入するのがセオリーである。
(その逆に、ニコン機(一眼レフ)は最も他社のレンズを
装着し難いので買いにくい)
絞り環が無いニコンF用レンズでも、Gタイプであれば
絞りレバーを機械的に動かせる「Gアダプター」で問題なく
使える物の、Eタイプの電磁絞りは、高価な電子アダプターを
使わない限り、一般的なアダプターでは使え無い。
互換性を排除してまでも、電磁絞りにする理由であるが、
まあ「機械絞りは露出が安定しない」事が一番であろう。
古くからニコン一眼レフには高速連写機が存在している、
例えば銀塩時代のNIKON F5(後日紹介)やデジタル初期の
NIKON D2H(デジタル一眼レフ第1回)である。
両機を私は保有しているが、せっかく毎秒8コマもの高速
連写性能がありながら、大口径レンズや、絞り羽根がやや
粘っているオールドレンズでは、絞り羽根が設定した絞り値
まで、毎秒8回も正確に動く事は出来ず、露出値がばらつく。
すなわち、高速連写すると写真の1枚1枚の明るさが異なって
しまう。
今回使用のD300も、まあ高速連写機の類なので、機械絞りの
通常レンズであれば、同様に露出がバラつくリスクがある。
今回高速連写を何度も試してみたが、そうした露出のばらつき
は本SP85/1.8では発生しなかったので、それなりに電磁絞り
の効果は出ているのであろう(もし絞りが粘ると、連写不能に
なるリスクが存在するが)
ただ、他機で使える汎用性が無いのはさすがに困る。
が、この問題をクリアする手段は一応存在する。
具体的には、EOSマウント用などの「絞り羽根内蔵」の
機械式アダプターとニコン→EOSのアダプターを組み合わせて
利用する事だ。
これにより、レンズ本体の絞りとは別途、機械絞り羽根を
用いて絞り込む事が可能となる。
が、この時レンズ内部の本来の絞り羽根は開放のままであり、
機械絞り羽根は、レンズ後玉からの光束を遮っているに過ぎず
(視野絞り)、本来の絞り(開口絞り)の効果(被写界深度や
ボケ質の調整)は、殆ど効果が出ず、単に露出値の調整位
でしか無い。

事である。
「焦点移動」とは絞り開放の際のピント位置と、絞り込んだ
時のピント位置が異なってしまう現象の事で、これは古く
から多くのレンズで発生していた。
例えば、有名なCONTAX RTS/ツァイス プラナー85mm/f1.4
(ミラーレス第43回)、同テッサー 45mm/f2.8(同第47回)
安原製作所ソフトレンズMOMO100(同補足編第7回)等で
焦点移動は発生する。
焦点移動は、開放測光の一眼レフでは若干問題となるが、
ミラーレス機で絞込み(実絞り)測光とする事で、簡単に
回避できる。
ただし、本SP85/1.8は前述のように「電磁絞り」であるから、
ミラーレス機で使うのは困難であり、焦点移動の問題は残る。
まあ、本レンズの用途からの絞り値設定幅は小さく、焦点移動
が発生していたとしても問題となる範囲では無いであろう。
それに、絞り込むと当然ながら被写界深度が深くなるので
昔から、焦点移動が重欠点とされたケースはあまり無い。
(つまり、大口径レンズの使用状況からは、「想定外」だ)
・・というか、焦点移動やら歪曲収差、周辺減光といった、
誰にでも簡単に測定できる内容のみを見て、レンズ全体の
良し悪しを決め付けてしまう評価スタンスは好きでは無い。
そんな弱点がある事は、設計側は完璧にわかっている。
それを犠牲にしても、もっと優先すべてき性能(解像力や
ボケ質等)があったから、やむなく「トレードオフ」した
訳であって、その設計コンセプト全体が理解できないので
あれば、評価する意味も無い事であろう。
その他、一般的な撮影状況においての本レンズの弱点は無い。
大きく、多少重たい(700g)と、高価だ、という位か。

代替を意識したFA77/1.8(ミラーレス名玉編第1位)に
勝るとも劣らない良いレンズである、
とは言え、名レンズの「ナナナナ」が色あせる事は無いが。
新しく高価なレンズが常に優れているわけでは決して無い、
数十年も前の古いレンズや、あるいはジャンクで僅かに
1000円で購入したレンズが、近年の非常に高価なレンズの
描写力すらも時に上回ってしまう事は、特に初級中級者は
必ず知っておく必要がある事実だ。
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さて本記事はここまで、次回シリーズ記事に続く・・