コストパフォーマンスに優れたマニアックなレンズを
カテゴリー別に紹介するシリーズ記事。
第23回目は、望遠レンズ編の第2回目とする。
まずは、最初のシステム、
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カメラは、SONY NEX-7(APS-C機)
レンズは、PENTAX SMC Takmar 120mm/f2.8
(中古購入価格 20,000円)
ミラーレス・マニアックス第21回記事で紹介の、
1970年代初頭のMF単焦点(中)望遠レンズ。
![c0032138_17353903.jpg]()
SMC-TタイプのM42マウントのレンズは、PENTAX ES(1971年)
向けに、絞り優先の新機能に対応したレンズであるのだが、
それまでのM42規格とは互換性が失われてきていた。
M42規格は1950年代末から1970年代まで続いたユニバーサル
(ここでは”各社共通仕様”という意味)なマウントで
あるのだが、開放測光や絞り優先機能等が市場ニーズとして
生じた結果、各社は独自の付加機能をM42レンズに追加して
いった為、汎用性・互換性が失われ、酷い場合は同じM42
であっても他社機には、装着できない、あるいは外れない!
(ミラーレス第45回記事)等の問題が発生する事があった。
この時代の他社、例えばニコンは、現代まで続くFマウント
を採用していて、ニコマートEL(1972年)でFマウントの
まま、絞り優先機能を実現していた。
こうした時代背景の中、PENTAXのM42機は1974年のSPⅡで
終焉し、1975年にはKマウント機のK2,KX,KMが発売された。
以降、現代に至るまで同じKマウントでAF化やデジタル化に
対応しつつ、40年以上もマウント互換性を維持している、
M42マウントの一眼レフは、例えばFUJIFILMでは1970年代
を通じてフジカSTシリーズの販売を続けたが、こちらも
絞り優先や開放測光に対応させる為、他社M42機とのレンズ
互換性は失われていた(ミラーレス第73回記事参照)
その後、M42マウント機は、海外製一眼レフ等では見かけて
も国内においては、すっかり消滅し、各社独自のマウント
での展開を行うようになる。
しかし、2003年に突如、コシナ・フォクトレンダーから
M42マウントの銀塩MF一眼「Bessaflex TM」が発売された。
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上写真が同機(黒色版)である、何故この時期にこうした古い
規格の新製品が出たか?というと、1990年代後半に起こった、
「第一次中古カメラ(レンズ)ブーム」を受けての事である。
(ちなみに、他のBESSAシリーズ機は、全て大文字で書くのが
正しい製品名だが、この機体のみBessaflexと綴る)
M42マウントのレンズは日本製を始め世界各国のオールド
レンズが中古市場で大量に流通していた他、コシナ社自身でも
この時期、新製品のM42レンズをフォクトレンダーブランド等
で販売していた。
が、コシナ社だけが流行に乗った製品を出した訳ではなく、
ニコンですらも、銀塩MF一眼FM3AやMFレンズAi45mm/f2.8P
を2001年頃に新発売している。
さて、もし、M42の終焉の時代(1970年代)に各社の一眼
レフのマウントが統一規格となっていたら、その後の
一眼レフの歴史は大きく変わったと思われる。
つまり、現代のように「どのマウントのレンズを買うか?」
といった無駄な悩みや出費も減った事であろう。
ちなみに、電子楽器の世界では、デジタル化が、カメラの
世界よりおよそ15年早く行われたのだが、各社の電子楽器
を共通して制御できるプロトコル「MIDI規格」が提唱され
それが実現したのは、1980年代前半の事である。
その後、30年以上が経過したが、MIDIは、プロトコルを
若干変更しつつも、現在に至るまで基本部分は変更されて
おらず、30年前の電子楽器と現代の電子楽器やPCを接続可能
であるし、あるいは音響関連全般や映像機器すらも接続する
事ができる。これは音楽関連業界にとって、演奏、制作、公演、
通信等、全ての面で多大なるメリットである事は言うまでも無い。
余談だが、MIDIの規格制定の中心人物となった梯郁太郎氏
(ローランド等の企業の創業者、グラミー賞受賞)は、
2017年4月に亡くなっている(ご冥福をお祈りいたします)
カメラ界でも、2008年にμ4/3(マイクロフォーサーズ)
規格が提唱され、オリンパスやパナソニックを主体に
マウントの標準化を目指したが、ここでも他社の多くは
それに追従する事は無かった。
まあ、各社、それぞれ市場戦略はあると思うが、マウント
違いで、ユーザー利便性が失われている事は間違いない。
例えばもし現在、メモリーカードが各社のデジカメ毎で
異なっていたら、非常に使い難い状況であったであろう。
ただ、それはたまたたまSD系カードがデファクトになった
からだけの事であり、ほんの10数年前までは、デジカメの
メモリーは、スマードメディア、CF,SD,メモリースティック、
xDなど、各社で完全にバラバラの規格を採用していたのだ。
ただ、近年でもまたXQDなど新たな規格が出てきている
SD系ではデータ転送速度が高解像度動画系等で追いつかない
ので新規の規格制定はやむを得ない節もあるが、やはり一部
のメーカーだけ先行していて、一般的に広まる保証は無い。
(注:高速連写機NIKON D500はXQDとSDのデュアルスロットで、
XQDの使用が勿論望ましいが、SDでも連写性能の低下は無い為、
私の場合は(高価な)XQDを使用していない)
まあ、現代の感覚から言うと、各市場分野での「標準化」は
必須であり、カメラ界での「マウント互換性の無い」状況は、
ユーザーの立場からは「何とかして欲しい!」としか言い
ようが無い。
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さて、余談が長くなったが、本レンズSMC-T120/2.8である。
本レンズは120mmという中途半端な焦点距離であるが、
その当時のPENTAXの設計思想として「望遠レンズの
焦点距離は、標準レンズの2.5倍までは手ブレしにくい」
という理念があったからだと聞く。
(注:より複雑な事情があると思われるが、また機会が
あれば他の記事で説明する)
この120mmの他にもPENTAXでは30mm,40mm,105mm,
150mmといった半端な焦点距離のレンズがあった。
その後、2000年前後にもFA Limitedシリーズで、
31mm,43mm,77mmという半端シリーズが発売されている。
(ミラーレス第60回、第64回、第40回等)
まあ、もしかすると、ライカ社が決めたと言われている
28mm,35mm,50mm,90mm,135mmという焦点距離系列に
反発していただけなのかも知れない。
さて、変わった焦点距離のレンズは、後年にはレアものに
なりやすい。本レンズもかなりレアであり、入手に手間
取った事はミラーレス第21回記事に書いた通りだ。
![c0032138_17353981.jpg]()
本レンズの長所としては、高い描写性能がある。
およそ45年程前のオールドレンズという事を忘れてしまう
程であり、なかなか素晴らしい。
ボケ質破綻も出難く、逆光耐性も悪くない。
弱点は特に無い。小型の望遠の割りには、ずっしりとした
重みがあるが、これは、さしたる欠点とは言えないであろう。、
![c0032138_17360222.jpg]()
購入価格2万円は少々高かったが、レアものであるが故に
やむを得ない所もある。
もし、1万円台前半とかで買えるのであれば、コスパは
極めて良いと言える。SMC-TのM42版レンズ群の中では
55/1.8や200/4と並び、最大のお勧めだ。
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さて、次のシステム、
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カメラは、CANON EOS 7D(APS-C機)
レンズは、TAMRON AF200-400mm/f5.6 LD (Model 75D)
(中古購入価格 26,000円)
ミラーレス・マニアックス第71回記事で紹介の、
1990年代のAF超望遠ズーム(開放F値固定)レンズ。
本レンズは、正確に言うとミラーレス第71回記事で紹介の
α(A)マウント版ではなく、EFマウントの予備レンズだ。
私は(サードパーティ製で)絶対に必要なレンズに関して、
同じものをマウント違いで保有しているケースがある。
特に超望遠ズームはボート系競技の撮影で多用する為、
本レンズの他、TAMRON SP AF200-500/5-6.3(A08)
(ミラーレス第65回記事)も、2マウントで使用している。
以下、ドラゴン、ペーロン系の写真を中心に紹介する。
![c0032138_17360223.jpg]()
さて、古い本レンズを未だにボート撮影の現役で使用して
いる理由だが、まず下記の表を見ていただきたい
1994~2004 200-400mm (75D) 約1.2kg 定価約7万円
2004~2014 200-500mm (A08) 約1.2kg 定価 13万円
2013~ 150-600mm (A011) 約1.9kg 定価 14万円
2016~ 150-600mm (A022) 約2.0kg 定価 16万円
これは、TAMRON社の超望遠ズームの一覧表である。
時代とともに焦点距離のレンジ(特に望遠側)が広がり、
同時に重量が増えてきている、そして勿論価格も
どんどん高価になっている(後述するが、これは2017年
時点での状況だ、2017年末には軽量の100-400mmが
発売されている)
ちなみに、SIGMAにおいても、ほぼ同時期に、ほぼ同一の
スペックの超望遠ズームを発売している、まあ、ライバル
メーカー同士であるから、性能(仕様)競争が起こるのは
必然であり、当然、スペックも同等になる(そうして
いかないと他社に販売面でリードされてしまうからだ)
ただ、SIGMA製の超望遠ズームは、どの時代においても
TMARONよりも重たい、この点において、軽量の超望遠を
必要とする私の選択肢からは外れてしまっていた。
安価な中古から選ぶ場合、重量という点からすると
TAMRON200-400(75D)と200-500(A08)の約1.2kgしか
選びようが無かった。
望遠端600mmは、まあ、あればあったで便利であろうが、
そのせいで5割増し以上の重量増加は望ましくない。
こういう状況なので、75DとA08を各々2本づつ使用して
いた訳だ。本来であれば望遠端が600mmに伸びた機種が
発売されたとしても、旧来の400mmや500mmが併売で
残っていたり、リニューアルされても良かったはずだ、
しかし、ばっさりと生産終了(注:後継製品の話は後述)
「大は小を兼ねる」という訳であるから「600mmがあれば
400mmや500mmはいらない」と考えたのであろうか?
新製品が高価になるのもやむを得ない、超音波モーターや
内蔵手ブレ補正などの新技術が投入されているからだ、
しかし、それらの部品を使ったからとは言え、本来ならば
価格が2倍になるはずも無い、つまり、そうした新機能や
望遠端の拡大という「付加価値」から価格が上がっている
訳だ。
600mm級モデルは、おいそれとは買えない価格帯になり、
かつ非常に重くて、振り回せない(持ち歩けない)といった
レンズになってしまっていた。
そして、そもそもこの焦点距離レンジを使うユーザー層も
少ないであろう、まあ業務上の撮影であれば、絶対確実に
被写体を撮らなければ話にならないので、大きく重く高価
になっても、しかたが無いと思うのかも知れない。
例えば、一部のスポーツ専業写真家等ならばそういうニーズ
も確かにあると思う。けど、カメラ界は、そうした一部の
専門家の製品購入により支えられている訳ではなく、
大多数の一般(アマチュア)ユーザーが製品を購入する
事で市場が成り立っている訳だ。
それに、専門家等は「広告塔」でしか無い場合も有りうる。
専門家層が自分が必要として買った機材でなかったとしても
宣伝広告の為に、その機材を使う場合すら多々あるだろう。
その市場原理を良く理解しないと、「プロも使っているから」
と、”ユーザー自身の利用目的とは全く関係の無い理由”で
高価な新製品を買わされてしまうのだ。
その傾向は特にビギナー層に強い、マニア層や上級者層は、
そんな事には振り回されず、自身の価値感覚を持っている。
けどまあ、振り回されるビギナー層により、カメラ(レンズ)
市場が成り立っている事も、紛れも無い事実である。
他の分野で言えば、「有名人が美味しいと言った店だから」
という理由で、飲食店で行列して食べるようなものだろう。
その有名人や芸能人の味覚センスが、どれくらい正確だか
わからない状態でもだ、結局そこに並ぶのは「食のビギナー」
ではあると思うが・・
![c0032138_17360385.jpg]()
余談が長くなった、機材重量の話に戻る。
現代の初級中級ユーザーが良く言うのは、
「一度ミラーレス機を使ってしまうと、もう一眼レフには
戻りたくないよ、なにせ、重たいし、大きいし・・」
事実、TAMRONとSIGMAの600mmズームは、中古市場に
大量に出回っている。超望遠レンズに憧れて購入した
初級中級層が、重たくて使い切れず、手放したのであろう。
が、一眼レフや交換レンズの市場が縮退してきている現代に
おいては、より高価なレンズを売らないとメーカーの利益が
維持できない、だから「高付加価値」の製品を開発して、
高価な定価(販売価格)とする。まあそれはビジネス的に
見れば、正しい発想だと思う。
でも、そこで言う「付加価値」とは何か?
要らない機能を色々と付けて、値段が高い事をユーザーに
納得してもらう為の「付加価値」であれば、それはちょっと
違うと思う。
本来の「付加価値」とは、原材料等のコストから算出される
以上の製品の魅力(価値)を得る事であり、つまりユーザー
が欲しいと思う要素(魅力)があるから、それが「付加価値」
となる訳だ。
ユーザーが要らないと思う要素を、色々と入れられて
それを「ほら、こんな新機能があるから、凄いでしょう!」
と喧伝(宣伝)されても、ちょっと困ってしまう。
「高性能で良い品物を作れば、黙っていても売れるだろう」
というのは、20世紀の高度成長期的な発想だ。
21世紀では、皆が欲しいものは既に持っている、だから
宣伝とか、口コミとか、ネット戦略とか、ブランド力とか、
イメージ戦略とか、有名人が使っているとか、そういう
製品の本質とは無関係な要素で、ユーザーのニーズを喚起
しないと、モノが売れない時代だ。
さらに言えば、21世紀ではもうモノは売れず、サービスとか
「消費娯楽」に対して、ユーザーはお金を使ってしまう・・
だから、今の時代は製品を作っても、その販売戦略が難しい
事は良くわかる。メーカーとしても苦しい状況であろう。
けど、ユーザー不在は、やはりまずいのではなかろうか?
何故、400mm級が生産中止になってしまったのか?
望遠端焦点距離は400mmで十分だから、より軽量なものが
欲しい、そして超音波モーターや手ブレ補正といった
付加機能も要らないから、値段を安価にして欲しい、
というユーザーニーズもあるはずだ・・・
さて、私は2016年頃まで、ずっとそう思っていたのだが、
ようやく2017年になってSIGMAより400mm級新型レンズ
Contemporary Line 100-400mm/f5-8.3 DG OS HSM
が発売された、小型軽量・高性能をコンセプトとしたレンズ
ではあるが、重量は1160gと、あまり軽量化されていない。
当然、超音波モーターと手ブレ補正入りであり、価格は
さほど安価という訳でもない。
(注:若干高価であったが早めに購入し、2017年からの
ドラゴンボート競技で使用し、観戦記事等で掲載している)
さらには2017年末には、TAMRONからも新型100-400mmが発売
されている、こちらも入手済みで現役使用中、後日に記事
で紹介予定だ。
まあ、つい先年までは、そんな時代であったので、中古が
安価な一眼レフ用400mm級ズームは貴重だった。
本レンズを2本所有し、おまけに予備でTOKINA80-400mm
(ミラーレス第62回,ハイコスパ第8回)まで使用して
いるのは、どんどん大きく重たく高価になっていく現代の
超望遠に対するアンチテーゼ、あるいは防衛手段という事だ。
![c0032138_17360244.jpg]()
本TAMRON 200-400 の性能は何も問題ない。
もちろん古い時代のレンズなので、解像感等は後継機より
劣るが、それは被写体やカメラ設定によりけりであるし、
過酷な撮影環境で使って壊しても惜しくない価格だ。
本レンズは、自身の分、そして友人知人用として、都合8本
程度の中古品を購入した、おかげで大阪近郊の中古品を
買いつくしてしまった雰囲気だ、現在、本レンズの中古は
残念ながら殆ど見かけない。
---
さて、次のシステム、
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カメラは、NIKON D2H(APS-C機)
レンズは、中一光学 CREATOR 85mm/f2
(新品購入価格 22,000円)
ミラーレス・マニアックス第62回、補足編第1回で紹介した、
2014年発売のMF中望遠レンズ。
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近年、海外製のマニアックな一眼/ミラーレス用交換レンズ
が色々と日本に輸入されていて、入手がしやすくなっている。
このあたり、第二次中古レンズブームがあった事も理由と
思われる、1990年代の第一次ブームの際も、海外製のレンズ
の輸入が盛んであったのだ。
ただ、海外製レンズは、かなり特殊なスペックの物も多い、
超広角、超大口径、高倍率マクロ、シフト、トイレンズ、
魚眼、ぐるぐるボケ、ティルト、アポダイゼーション等
である。
そして海外製レンズは、その大半がMFレンズであり、
当然、超音波モーターや手ブレ補正は入っていない。
そういうスペックで国産の最新レンズに対抗する訳だから
特殊な仕様となるのも当然なのであろう。
ただ、逆に言えば、AFも超音波も手ブレ補正も要らない、
というユーザー層が多い、という意味にも繋がる。
そして「唯一のスペックを持つ、ユニークなレンズ」とも
なれば、それを「付加価値」としてみなすマニアックな
ユーザー層も依然多い、という事になる。
![c0032138_17362358.jpg]()
まあ、ターゲットユーザーが違うと言えば違う、
国内メーカーが見ているターゲット層は、あくまで
(製品の数が出る)初級中級層であり、マニアでは無い。
第一次(中古)ブームの際に言われていた事だが、
「上級マニアの数は、およそ8000人程度」という数字だ、
が、第一次ブームの際は、それらのマニアは、たいていの
ものは購入した。限定発売のプレミアムなカメラが出ると
予約が殺到し、半数の4000台位まではすぐにハケた、だが、
それ以上作っても、もう1台も売れなくなってしまっていた、
限定800本というレンズもいくつか出た、1割が購入という
目安であろう、すなわち上級マニアの数は有限なのだ。
確実に買ってくれるマニア層に狙いを絞るか、あるいは、
初級中級者が口コミや他人の評価を見て聞いてモノを買う
事を頼りにしターゲットとするか、それはメーカーの戦略だ。
そして、それらのユーザー層は絶対にかぶらない。
例えば上級マニア向けのLAOWAのアポダイゼーションを
購入する初級中級層はまず居ない。
![c0032138_17362257.jpg]()
さて、そんな状況の中、本レンズCreator 85mm/f2.0は
スペック的には、何も奇をてらっておらず、極めて
オーソドックスだ。
最大の特徴は何か?と言えば、その価格であろう。
新品で2万円強というのは、国産のレンズの相場に比べ、
とても安価だ。
かつ、その値段でも、国産の「エントリーレンズ」のように
エンジニアリング・プラスチックス製のヘナヘナな外装と
チープな作りではなく、ちゃんと金属製の高級感のある
作りだ。中国や韓国の製品というと、シニア層であれば
「安かろう、悪かろう」という先入観があるかと思うが、
近年はそうでは無い、むしろ日本では労働コストの関係
で作れないような製品を、ちゃんと作ってくる訳だ。
国産レンズは機能肥大化、市場縮退、生産コスト増加等の
前述したような理由で、高価になりすぎてしまった。
今、シンプルなこうしたレンズが欲しいというニーズも
確かにあるのだ、そういう意味では、たとえ定価が安価
であったとしても、本レンズには、本来の意味での
欲しいと思わせる「付加価値」は十分に存在している。
(=ユーザー側視点から言えば、不要な手ブレ補正やら
超音波モーターを入れて価格を吊り上げる事を「付加価値」
だ、とは言って欲しく無い)
性能だが、若干のボケ質破綻が出るが、回避可能な範囲だ、
逆光耐性も若干怪しいが、SAMYANG 85mm/f1.4
(ミラーレス第64回、補足編第6回、ハイコスパ第13回)
のような酷さは全く無い。まあ、後年に色々な中一光学製
のレンズを入手した感じでは、同社のコーティング技術は
さほど悪く無い感じだ。
![c0032138_17362325.jpg]()
総合的には、高性能なレンズであると思う。
まあ、比較的地味なスペックなので、買い難いレンズなの
かも知れないが、地味な仕様だからこそ、ごまかしが
効かないとも言えるし、旧来からの「枯れた」技術を用いて
設計製造が出来るから、安価で安定した性能が得られるので
あろう。生産本数が多ければ当然開発費や金型償却も早い。
まあ、コスパか極めて優秀だと言えるレンズだ。
マニアのみならず、初級中級者層にも推奨できるレンズでは
あるが、ビギナー層では、そもそも用途が無いであろう。
また、MFが不安だという向きもあるかもしれない、
ちなみに、発売されているのは一眼レフ用マウントであるが、
ピーキング等のMF性能が高いEVF搭載ミラーレスで使った方が、
MF精度,被写界深度確認、ボケ質確認、暗くならないEVF、
などの点で圧倒的に便利だと思う。
(注:今回はファインダー性能が比較的高い、オールド
デジタル一眼のNIKON D2Hを試験的に使用していた)
---
次は今回ラストのシステム、
![c0032138_17363601.jpg]()
カメラは、SONY α700(APS-C機)
レンズは、MINOLTA HI-SPEED APO AF200mm/f2.8
(中古購入価格 44,000円)
ミラーレス・マニアックス第67回記事で紹介の
1990年代のAF単焦点望遠レンズ。
「ハイスピード」とは「速いシャッター速度が得られる」
という意味の欧米的な表現であり、すなわちそれは開放
絞り値が明るいレンズであるという事と等価である。
これは、海外においては一般的な写真用語である。
日本風に言えば「大口径レンズ」となる。
ただ、本レンズの場合は、暗に「錯覚の効果」を狙って
いるのでは?と勘ぐってしまう要素もある。
というのは、ミノルタα用レンズの型番は「AFなにがし」
なのであるが、本レンズの鏡筒には「HI SPPED AF]と、
見えるようにデザインしてシルク印刷されているので
初級中級者、または初級マニアあたり迄は、ほぼ全員が
「このレンズには、ハイスピードのAFと書いてある、
よほどAFが速くて、良くピントが合うに違いない」
と勘違いしてしまうのだ。
実際にはそういう事はなく、AFはさほど速く無い(汗)
まあ超音波モーターや他種のレンズ内モーターも持たず
αのカメラ本体側からのAF駆動軸を元にAFが動いているし、
しかも200mmのF2.8級ともなれば、φ72mmのフィルター径
いっぱいまで詰まって大型で重いレンズ群を、ボディ側から
せっせと駆動制御するので、AFが速くなる筈も無いのだ。
![c0032138_17363606.jpg]()
本レンズの最大の特徴は、その「完璧」とも言える描写性能
である。1990年代当時のミノルタのカタログでは、Gレンズ
(=同社では高性能なレンズ製品につける称号)に混じって、
本レンズのMTF特性曲線が掲載されていて、しかも、本レンズ
のその特性が、Gレンズを超えてトップクラスであったのだ。
まあ、MTFの特性が良いからと言って、良いレンズだ、
という訳ではまるで無い。MTFはレンズの性能のごく一部、
そう、私の感覚では、あくまで1割程度の性能しか示して
いないように思える。
本レンズの特徴を述べるとすれば
解像度が高く、コントラストも高く、ボケ質の破綻が無い、
逆光耐性も良く、最短撮影距離は1.5mと200mmレンズと
してはかなり優秀だ。
![c0032138_17363623.jpg]()
弱点はほとんど無く、極めて優秀なレンズであるが、
あえて言えば、その高価な価格である。
現代においても、7~8万円の高額な相場で取引されている。
発売時定価は不明だが、恐らく13万円ないし15万円位
していたと思うので、定価の半額相場であればそんな物だ。
本レンズは、ミラーレス・マニアックス名玉編の
第20位~第16位相当にノミネートされたのだが、
他レンズの紹介の為、やむなくランキングから外した。
まあ、高い描写力を誇るが、フィールド(屋外)撮影では、
APS-C機では300mm相当と、あまり用途の無い画角となるから
持ち出し難い、という隠れた理由(弱点)もあったのだ。
でも、高性能レンズである事は間違いが無い、さもないと
所有している数百本のレンズの中から、ランキング上位に
ノミネートされる事は有りえないのだ。
本レンズの最大の用途は、(音楽)ライブ撮影である、
フルサイズ換算300mm/f2.8相当の画角が、ステージ上の
プレーヤーの表情や楽器演奏のアップ撮影に丁度良い。
![c0032138_17363687.jpg]()
この用途だけ取ってみても、本レンズの存在意義は十分に
ある、ただ、それはあまり一般的な用途では無いと思うし
価格もやや高価なので、あくまで、マニアあるいは上級者
向けのレンズとしておこう。
(注:2010年代のα(A)マウント機では、デジタルテレコン
機能が搭載された為、135mm級大口径レンズの方がステージ
撮影等での汎用性が高くなっている。まあ、この意味でも
今回は2000年代のAマウント機であるα700を使用している)
ちなみに、F2.8通しの70(80)mm-200mm級ズームとの
比較等は、あまり意味が無い。もしズームの方が全てが
優れたレンズだったら、本レンズの存在意義が無くなる。
ミノルタ時代においても、望遠端200mmのF2.8ズームと
200mm/f2.8単焦点が併売されているという事からしても
200/2.8に、それなりの優位点が存在しているという事だ。
一般的には、ボケ質とかを見れば一目瞭然であると思うし
相対的に軽量で安価である事も利点だ。
![c0032138_17363653.jpg]()
なお、αのSONYへの移管時、本レンズはラインナップから
外れ生産終了となった。「70-200mm/f2.8があれば不要」
と見なされたのかも知れない。移管時のSONYに、一眼の文化は
無かったからだろう。数値スペックだけ見たらそうなってしまう。
しかしその後、本レンズの中古相場が上がってしまった、
「200/2.8を必要とする人は必ず居るはず」との中古市場側
での判断であろう・・
---
さて、今回の記事は、このあたりまでとする。
次回は、個性派レンズ編の記事とする。
カテゴリー別に紹介するシリーズ記事。
第23回目は、望遠レンズ編の第2回目とする。
まずは、最初のシステム、

レンズは、PENTAX SMC Takmar 120mm/f2.8
(中古購入価格 20,000円)
ミラーレス・マニアックス第21回記事で紹介の、
1970年代初頭のMF単焦点(中)望遠レンズ。

向けに、絞り優先の新機能に対応したレンズであるのだが、
それまでのM42規格とは互換性が失われてきていた。
M42規格は1950年代末から1970年代まで続いたユニバーサル
(ここでは”各社共通仕様”という意味)なマウントで
あるのだが、開放測光や絞り優先機能等が市場ニーズとして
生じた結果、各社は独自の付加機能をM42レンズに追加して
いった為、汎用性・互換性が失われ、酷い場合は同じM42
であっても他社機には、装着できない、あるいは外れない!
(ミラーレス第45回記事)等の問題が発生する事があった。
この時代の他社、例えばニコンは、現代まで続くFマウント
を採用していて、ニコマートEL(1972年)でFマウントの
まま、絞り優先機能を実現していた。
こうした時代背景の中、PENTAXのM42機は1974年のSPⅡで
終焉し、1975年にはKマウント機のK2,KX,KMが発売された。
以降、現代に至るまで同じKマウントでAF化やデジタル化に
対応しつつ、40年以上もマウント互換性を維持している、
M42マウントの一眼レフは、例えばFUJIFILMでは1970年代
を通じてフジカSTシリーズの販売を続けたが、こちらも
絞り優先や開放測光に対応させる為、他社M42機とのレンズ
互換性は失われていた(ミラーレス第73回記事参照)
その後、M42マウント機は、海外製一眼レフ等では見かけて
も国内においては、すっかり消滅し、各社独自のマウント
での展開を行うようになる。
しかし、2003年に突如、コシナ・フォクトレンダーから
M42マウントの銀塩MF一眼「Bessaflex TM」が発売された。

規格の新製品が出たか?というと、1990年代後半に起こった、
「第一次中古カメラ(レンズ)ブーム」を受けての事である。
(ちなみに、他のBESSAシリーズ機は、全て大文字で書くのが
正しい製品名だが、この機体のみBessaflexと綴る)
M42マウントのレンズは日本製を始め世界各国のオールド
レンズが中古市場で大量に流通していた他、コシナ社自身でも
この時期、新製品のM42レンズをフォクトレンダーブランド等
で販売していた。
が、コシナ社だけが流行に乗った製品を出した訳ではなく、
ニコンですらも、銀塩MF一眼FM3AやMFレンズAi45mm/f2.8P
を2001年頃に新発売している。
さて、もし、M42の終焉の時代(1970年代)に各社の一眼
レフのマウントが統一規格となっていたら、その後の
一眼レフの歴史は大きく変わったと思われる。
つまり、現代のように「どのマウントのレンズを買うか?」
といった無駄な悩みや出費も減った事であろう。
ちなみに、電子楽器の世界では、デジタル化が、カメラの
世界よりおよそ15年早く行われたのだが、各社の電子楽器
を共通して制御できるプロトコル「MIDI規格」が提唱され
それが実現したのは、1980年代前半の事である。
その後、30年以上が経過したが、MIDIは、プロトコルを
若干変更しつつも、現在に至るまで基本部分は変更されて
おらず、30年前の電子楽器と現代の電子楽器やPCを接続可能
であるし、あるいは音響関連全般や映像機器すらも接続する
事ができる。これは音楽関連業界にとって、演奏、制作、公演、
通信等、全ての面で多大なるメリットである事は言うまでも無い。
余談だが、MIDIの規格制定の中心人物となった梯郁太郎氏
(ローランド等の企業の創業者、グラミー賞受賞)は、
2017年4月に亡くなっている(ご冥福をお祈りいたします)
カメラ界でも、2008年にμ4/3(マイクロフォーサーズ)
規格が提唱され、オリンパスやパナソニックを主体に
マウントの標準化を目指したが、ここでも他社の多くは
それに追従する事は無かった。
まあ、各社、それぞれ市場戦略はあると思うが、マウント
違いで、ユーザー利便性が失われている事は間違いない。
例えばもし現在、メモリーカードが各社のデジカメ毎で
異なっていたら、非常に使い難い状況であったであろう。
ただ、それはたまたたまSD系カードがデファクトになった
からだけの事であり、ほんの10数年前までは、デジカメの
メモリーは、スマードメディア、CF,SD,メモリースティック、
xDなど、各社で完全にバラバラの規格を採用していたのだ。
ただ、近年でもまたXQDなど新たな規格が出てきている
SD系ではデータ転送速度が高解像度動画系等で追いつかない
ので新規の規格制定はやむを得ない節もあるが、やはり一部
のメーカーだけ先行していて、一般的に広まる保証は無い。
(注:高速連写機NIKON D500はXQDとSDのデュアルスロットで、
XQDの使用が勿論望ましいが、SDでも連写性能の低下は無い為、
私の場合は(高価な)XQDを使用していない)
まあ、現代の感覚から言うと、各市場分野での「標準化」は
必須であり、カメラ界での「マウント互換性の無い」状況は、
ユーザーの立場からは「何とかして欲しい!」としか言い
ようが無い。

本レンズは120mmという中途半端な焦点距離であるが、
その当時のPENTAXの設計思想として「望遠レンズの
焦点距離は、標準レンズの2.5倍までは手ブレしにくい」
という理念があったからだと聞く。
(注:より複雑な事情があると思われるが、また機会が
あれば他の記事で説明する)
この120mmの他にもPENTAXでは30mm,40mm,105mm,
150mmといった半端な焦点距離のレンズがあった。
その後、2000年前後にもFA Limitedシリーズで、
31mm,43mm,77mmという半端シリーズが発売されている。
(ミラーレス第60回、第64回、第40回等)
まあ、もしかすると、ライカ社が決めたと言われている
28mm,35mm,50mm,90mm,135mmという焦点距離系列に
反発していただけなのかも知れない。
さて、変わった焦点距離のレンズは、後年にはレアものに
なりやすい。本レンズもかなりレアであり、入手に手間
取った事はミラーレス第21回記事に書いた通りだ。

およそ45年程前のオールドレンズという事を忘れてしまう
程であり、なかなか素晴らしい。
ボケ質破綻も出難く、逆光耐性も悪くない。
弱点は特に無い。小型の望遠の割りには、ずっしりとした
重みがあるが、これは、さしたる欠点とは言えないであろう。、

やむを得ない所もある。
もし、1万円台前半とかで買えるのであれば、コスパは
極めて良いと言える。SMC-TのM42版レンズ群の中では
55/1.8や200/4と並び、最大のお勧めだ。
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さて、次のシステム、

レンズは、TAMRON AF200-400mm/f5.6 LD (Model 75D)
(中古購入価格 26,000円)
ミラーレス・マニアックス第71回記事で紹介の、
1990年代のAF超望遠ズーム(開放F値固定)レンズ。
本レンズは、正確に言うとミラーレス第71回記事で紹介の
α(A)マウント版ではなく、EFマウントの予備レンズだ。
私は(サードパーティ製で)絶対に必要なレンズに関して、
同じものをマウント違いで保有しているケースがある。
特に超望遠ズームはボート系競技の撮影で多用する為、
本レンズの他、TAMRON SP AF200-500/5-6.3(A08)
(ミラーレス第65回記事)も、2マウントで使用している。
以下、ドラゴン、ペーロン系の写真を中心に紹介する。

いる理由だが、まず下記の表を見ていただきたい
1994~2004 200-400mm (75D) 約1.2kg 定価約7万円
2004~2014 200-500mm (A08) 約1.2kg 定価 13万円
2013~ 150-600mm (A011) 約1.9kg 定価 14万円
2016~ 150-600mm (A022) 約2.0kg 定価 16万円
これは、TAMRON社の超望遠ズームの一覧表である。
時代とともに焦点距離のレンジ(特に望遠側)が広がり、
同時に重量が増えてきている、そして勿論価格も
どんどん高価になっている(後述するが、これは2017年
時点での状況だ、2017年末には軽量の100-400mmが
発売されている)
ちなみに、SIGMAにおいても、ほぼ同時期に、ほぼ同一の
スペックの超望遠ズームを発売している、まあ、ライバル
メーカー同士であるから、性能(仕様)競争が起こるのは
必然であり、当然、スペックも同等になる(そうして
いかないと他社に販売面でリードされてしまうからだ)
ただ、SIGMA製の超望遠ズームは、どの時代においても
TMARONよりも重たい、この点において、軽量の超望遠を
必要とする私の選択肢からは外れてしまっていた。
安価な中古から選ぶ場合、重量という点からすると
TAMRON200-400(75D)と200-500(A08)の約1.2kgしか
選びようが無かった。
望遠端600mmは、まあ、あればあったで便利であろうが、
そのせいで5割増し以上の重量増加は望ましくない。
こういう状況なので、75DとA08を各々2本づつ使用して
いた訳だ。本来であれば望遠端が600mmに伸びた機種が
発売されたとしても、旧来の400mmや500mmが併売で
残っていたり、リニューアルされても良かったはずだ、
しかし、ばっさりと生産終了(注:後継製品の話は後述)
「大は小を兼ねる」という訳であるから「600mmがあれば
400mmや500mmはいらない」と考えたのであろうか?
新製品が高価になるのもやむを得ない、超音波モーターや
内蔵手ブレ補正などの新技術が投入されているからだ、
しかし、それらの部品を使ったからとは言え、本来ならば
価格が2倍になるはずも無い、つまり、そうした新機能や
望遠端の拡大という「付加価値」から価格が上がっている
訳だ。
600mm級モデルは、おいそれとは買えない価格帯になり、
かつ非常に重くて、振り回せない(持ち歩けない)といった
レンズになってしまっていた。
そして、そもそもこの焦点距離レンジを使うユーザー層も
少ないであろう、まあ業務上の撮影であれば、絶対確実に
被写体を撮らなければ話にならないので、大きく重く高価
になっても、しかたが無いと思うのかも知れない。
例えば、一部のスポーツ専業写真家等ならばそういうニーズ
も確かにあると思う。けど、カメラ界は、そうした一部の
専門家の製品購入により支えられている訳ではなく、
大多数の一般(アマチュア)ユーザーが製品を購入する
事で市場が成り立っている訳だ。
それに、専門家等は「広告塔」でしか無い場合も有りうる。
専門家層が自分が必要として買った機材でなかったとしても
宣伝広告の為に、その機材を使う場合すら多々あるだろう。
その市場原理を良く理解しないと、「プロも使っているから」
と、”ユーザー自身の利用目的とは全く関係の無い理由”で
高価な新製品を買わされてしまうのだ。
その傾向は特にビギナー層に強い、マニア層や上級者層は、
そんな事には振り回されず、自身の価値感覚を持っている。
けどまあ、振り回されるビギナー層により、カメラ(レンズ)
市場が成り立っている事も、紛れも無い事実である。
他の分野で言えば、「有名人が美味しいと言った店だから」
という理由で、飲食店で行列して食べるようなものだろう。
その有名人や芸能人の味覚センスが、どれくらい正確だか
わからない状態でもだ、結局そこに並ぶのは「食のビギナー」
ではあると思うが・・

現代の初級中級ユーザーが良く言うのは、
「一度ミラーレス機を使ってしまうと、もう一眼レフには
戻りたくないよ、なにせ、重たいし、大きいし・・」
事実、TAMRONとSIGMAの600mmズームは、中古市場に
大量に出回っている。超望遠レンズに憧れて購入した
初級中級層が、重たくて使い切れず、手放したのであろう。
が、一眼レフや交換レンズの市場が縮退してきている現代に
おいては、より高価なレンズを売らないとメーカーの利益が
維持できない、だから「高付加価値」の製品を開発して、
高価な定価(販売価格)とする。まあそれはビジネス的に
見れば、正しい発想だと思う。
でも、そこで言う「付加価値」とは何か?
要らない機能を色々と付けて、値段が高い事をユーザーに
納得してもらう為の「付加価値」であれば、それはちょっと
違うと思う。
本来の「付加価値」とは、原材料等のコストから算出される
以上の製品の魅力(価値)を得る事であり、つまりユーザー
が欲しいと思う要素(魅力)があるから、それが「付加価値」
となる訳だ。
ユーザーが要らないと思う要素を、色々と入れられて
それを「ほら、こんな新機能があるから、凄いでしょう!」
と喧伝(宣伝)されても、ちょっと困ってしまう。
「高性能で良い品物を作れば、黙っていても売れるだろう」
というのは、20世紀の高度成長期的な発想だ。
21世紀では、皆が欲しいものは既に持っている、だから
宣伝とか、口コミとか、ネット戦略とか、ブランド力とか、
イメージ戦略とか、有名人が使っているとか、そういう
製品の本質とは無関係な要素で、ユーザーのニーズを喚起
しないと、モノが売れない時代だ。
さらに言えば、21世紀ではもうモノは売れず、サービスとか
「消費娯楽」に対して、ユーザーはお金を使ってしまう・・
だから、今の時代は製品を作っても、その販売戦略が難しい
事は良くわかる。メーカーとしても苦しい状況であろう。
けど、ユーザー不在は、やはりまずいのではなかろうか?
何故、400mm級が生産中止になってしまったのか?
望遠端焦点距離は400mmで十分だから、より軽量なものが
欲しい、そして超音波モーターや手ブレ補正といった
付加機能も要らないから、値段を安価にして欲しい、
というユーザーニーズもあるはずだ・・・
さて、私は2016年頃まで、ずっとそう思っていたのだが、
ようやく2017年になってSIGMAより400mm級新型レンズ
Contemporary Line 100-400mm/f5-8.3 DG OS HSM
が発売された、小型軽量・高性能をコンセプトとしたレンズ
ではあるが、重量は1160gと、あまり軽量化されていない。
当然、超音波モーターと手ブレ補正入りであり、価格は
さほど安価という訳でもない。
(注:若干高価であったが早めに購入し、2017年からの
ドラゴンボート競技で使用し、観戦記事等で掲載している)
さらには2017年末には、TAMRONからも新型100-400mmが発売
されている、こちらも入手済みで現役使用中、後日に記事
で紹介予定だ。
まあ、つい先年までは、そんな時代であったので、中古が
安価な一眼レフ用400mm級ズームは貴重だった。
本レンズを2本所有し、おまけに予備でTOKINA80-400mm
(ミラーレス第62回,ハイコスパ第8回)まで使用して
いるのは、どんどん大きく重たく高価になっていく現代の
超望遠に対するアンチテーゼ、あるいは防衛手段という事だ。

もちろん古い時代のレンズなので、解像感等は後継機より
劣るが、それは被写体やカメラ設定によりけりであるし、
過酷な撮影環境で使って壊しても惜しくない価格だ。
本レンズは、自身の分、そして友人知人用として、都合8本
程度の中古品を購入した、おかげで大阪近郊の中古品を
買いつくしてしまった雰囲気だ、現在、本レンズの中古は
残念ながら殆ど見かけない。
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さて、次のシステム、

レンズは、中一光学 CREATOR 85mm/f2
(新品購入価格 22,000円)
ミラーレス・マニアックス第62回、補足編第1回で紹介した、
2014年発売のMF中望遠レンズ。

が色々と日本に輸入されていて、入手がしやすくなっている。
このあたり、第二次中古レンズブームがあった事も理由と
思われる、1990年代の第一次ブームの際も、海外製のレンズ
の輸入が盛んであったのだ。
ただ、海外製レンズは、かなり特殊なスペックの物も多い、
超広角、超大口径、高倍率マクロ、シフト、トイレンズ、
魚眼、ぐるぐるボケ、ティルト、アポダイゼーション等
である。
そして海外製レンズは、その大半がMFレンズであり、
当然、超音波モーターや手ブレ補正は入っていない。
そういうスペックで国産の最新レンズに対抗する訳だから
特殊な仕様となるのも当然なのであろう。
ただ、逆に言えば、AFも超音波も手ブレ補正も要らない、
というユーザー層が多い、という意味にも繋がる。
そして「唯一のスペックを持つ、ユニークなレンズ」とも
なれば、それを「付加価値」としてみなすマニアックな
ユーザー層も依然多い、という事になる。

国内メーカーが見ているターゲット層は、あくまで
(製品の数が出る)初級中級層であり、マニアでは無い。
第一次(中古)ブームの際に言われていた事だが、
「上級マニアの数は、およそ8000人程度」という数字だ、
が、第一次ブームの際は、それらのマニアは、たいていの
ものは購入した。限定発売のプレミアムなカメラが出ると
予約が殺到し、半数の4000台位まではすぐにハケた、だが、
それ以上作っても、もう1台も売れなくなってしまっていた、
限定800本というレンズもいくつか出た、1割が購入という
目安であろう、すなわち上級マニアの数は有限なのだ。
確実に買ってくれるマニア層に狙いを絞るか、あるいは、
初級中級者が口コミや他人の評価を見て聞いてモノを買う
事を頼りにしターゲットとするか、それはメーカーの戦略だ。
そして、それらのユーザー層は絶対にかぶらない。
例えば上級マニア向けのLAOWAのアポダイゼーションを
購入する初級中級層はまず居ない。

スペック的には、何も奇をてらっておらず、極めて
オーソドックスだ。
最大の特徴は何か?と言えば、その価格であろう。
新品で2万円強というのは、国産のレンズの相場に比べ、
とても安価だ。
かつ、その値段でも、国産の「エントリーレンズ」のように
エンジニアリング・プラスチックス製のヘナヘナな外装と
チープな作りではなく、ちゃんと金属製の高級感のある
作りだ。中国や韓国の製品というと、シニア層であれば
「安かろう、悪かろう」という先入観があるかと思うが、
近年はそうでは無い、むしろ日本では労働コストの関係
で作れないような製品を、ちゃんと作ってくる訳だ。
国産レンズは機能肥大化、市場縮退、生産コスト増加等の
前述したような理由で、高価になりすぎてしまった。
今、シンプルなこうしたレンズが欲しいというニーズも
確かにあるのだ、そういう意味では、たとえ定価が安価
であったとしても、本レンズには、本来の意味での
欲しいと思わせる「付加価値」は十分に存在している。
(=ユーザー側視点から言えば、不要な手ブレ補正やら
超音波モーターを入れて価格を吊り上げる事を「付加価値」
だ、とは言って欲しく無い)
性能だが、若干のボケ質破綻が出るが、回避可能な範囲だ、
逆光耐性も若干怪しいが、SAMYANG 85mm/f1.4
(ミラーレス第64回、補足編第6回、ハイコスパ第13回)
のような酷さは全く無い。まあ、後年に色々な中一光学製
のレンズを入手した感じでは、同社のコーティング技術は
さほど悪く無い感じだ。

まあ、比較的地味なスペックなので、買い難いレンズなの
かも知れないが、地味な仕様だからこそ、ごまかしが
効かないとも言えるし、旧来からの「枯れた」技術を用いて
設計製造が出来るから、安価で安定した性能が得られるので
あろう。生産本数が多ければ当然開発費や金型償却も早い。
まあ、コスパか極めて優秀だと言えるレンズだ。
マニアのみならず、初級中級者層にも推奨できるレンズでは
あるが、ビギナー層では、そもそも用途が無いであろう。
また、MFが不安だという向きもあるかもしれない、
ちなみに、発売されているのは一眼レフ用マウントであるが、
ピーキング等のMF性能が高いEVF搭載ミラーレスで使った方が、
MF精度,被写界深度確認、ボケ質確認、暗くならないEVF、
などの点で圧倒的に便利だと思う。
(注:今回はファインダー性能が比較的高い、オールド
デジタル一眼のNIKON D2Hを試験的に使用していた)
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次は今回ラストのシステム、

レンズは、MINOLTA HI-SPEED APO AF200mm/f2.8
(中古購入価格 44,000円)
ミラーレス・マニアックス第67回記事で紹介の
1990年代のAF単焦点望遠レンズ。
「ハイスピード」とは「速いシャッター速度が得られる」
という意味の欧米的な表現であり、すなわちそれは開放
絞り値が明るいレンズであるという事と等価である。
これは、海外においては一般的な写真用語である。
日本風に言えば「大口径レンズ」となる。
ただ、本レンズの場合は、暗に「錯覚の効果」を狙って
いるのでは?と勘ぐってしまう要素もある。
というのは、ミノルタα用レンズの型番は「AFなにがし」
なのであるが、本レンズの鏡筒には「HI SPPED AF]と、
見えるようにデザインしてシルク印刷されているので
初級中級者、または初級マニアあたり迄は、ほぼ全員が
「このレンズには、ハイスピードのAFと書いてある、
よほどAFが速くて、良くピントが合うに違いない」
と勘違いしてしまうのだ。
実際にはそういう事はなく、AFはさほど速く無い(汗)
まあ超音波モーターや他種のレンズ内モーターも持たず
αのカメラ本体側からのAF駆動軸を元にAFが動いているし、
しかも200mmのF2.8級ともなれば、φ72mmのフィルター径
いっぱいまで詰まって大型で重いレンズ群を、ボディ側から
せっせと駆動制御するので、AFが速くなる筈も無いのだ。

である。1990年代当時のミノルタのカタログでは、Gレンズ
(=同社では高性能なレンズ製品につける称号)に混じって、
本レンズのMTF特性曲線が掲載されていて、しかも、本レンズ
のその特性が、Gレンズを超えてトップクラスであったのだ。
まあ、MTFの特性が良いからと言って、良いレンズだ、
という訳ではまるで無い。MTFはレンズの性能のごく一部、
そう、私の感覚では、あくまで1割程度の性能しか示して
いないように思える。
本レンズの特徴を述べるとすれば
解像度が高く、コントラストも高く、ボケ質の破綻が無い、
逆光耐性も良く、最短撮影距離は1.5mと200mmレンズと
してはかなり優秀だ。

あえて言えば、その高価な価格である。
現代においても、7~8万円の高額な相場で取引されている。
発売時定価は不明だが、恐らく13万円ないし15万円位
していたと思うので、定価の半額相場であればそんな物だ。
本レンズは、ミラーレス・マニアックス名玉編の
第20位~第16位相当にノミネートされたのだが、
他レンズの紹介の為、やむなくランキングから外した。
まあ、高い描写力を誇るが、フィールド(屋外)撮影では、
APS-C機では300mm相当と、あまり用途の無い画角となるから
持ち出し難い、という隠れた理由(弱点)もあったのだ。
でも、高性能レンズである事は間違いが無い、さもないと
所有している数百本のレンズの中から、ランキング上位に
ノミネートされる事は有りえないのだ。
本レンズの最大の用途は、(音楽)ライブ撮影である、
フルサイズ換算300mm/f2.8相当の画角が、ステージ上の
プレーヤーの表情や楽器演奏のアップ撮影に丁度良い。

ある、ただ、それはあまり一般的な用途では無いと思うし
価格もやや高価なので、あくまで、マニアあるいは上級者
向けのレンズとしておこう。
(注:2010年代のα(A)マウント機では、デジタルテレコン
機能が搭載された為、135mm級大口径レンズの方がステージ
撮影等での汎用性が高くなっている。まあ、この意味でも
今回は2000年代のAマウント機であるα700を使用している)
ちなみに、F2.8通しの70(80)mm-200mm級ズームとの
比較等は、あまり意味が無い。もしズームの方が全てが
優れたレンズだったら、本レンズの存在意義が無くなる。
ミノルタ時代においても、望遠端200mmのF2.8ズームと
200mm/f2.8単焦点が併売されているという事からしても
200/2.8に、それなりの優位点が存在しているという事だ。
一般的には、ボケ質とかを見れば一目瞭然であると思うし
相対的に軽量で安価である事も利点だ。

外れ生産終了となった。「70-200mm/f2.8があれば不要」
と見なされたのかも知れない。移管時のSONYに、一眼の文化は
無かったからだろう。数値スペックだけ見たらそうなってしまう。
しかしその後、本レンズの中古相場が上がってしまった、
「200/2.8を必要とする人は必ず居るはず」との中古市場側
での判断であろう・・
---
さて、今回の記事は、このあたりまでとする。
次回は、個性派レンズ編の記事とする。