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ハイ・コスパレンズ・マニアックス(19)ロシアンレンズ編

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コストパフォーマンスに優れたマニアックなレンズを
カテゴリー別に紹介するシリーズ記事。
今回第19回目は、主にロシア製(ウクライナ製等含む)
レンズを紹介する。
「コスパ」と言うよりも、マニアック度に重点を置いた
記事になりそうだ。

まずは、最初のロシアン、
c0032138_20105476.jpg
カメラは、PANASONIC LUMIX DMC-G6
レンズは、アルセナール MC KALEINAR-5N 100mm/f2.8
(中古購入価格 3,000円)

ミラーレス・マニアックス第11回記事で紹介の、
1980年代頃の製造と思われるMF単焦点中望遠レンズ。

これはロシア製というよりは、恐らくウクライナ製である。

マニアの間では少し有名な「KIEV-19」(キエフ19)という
銀塩MF一眼レフ用のレンズだが、このKIEV一眼マウントは、
ほぼニコンFマウントと同じだ。そしてレンズ名の最後のNは
(注、Nは英語アルファベット読みで、キリル文字ではHだ)
ニコンという意味だ。
c0032138_20105438.jpg
ただし、重要な事をまず最初に書いておくが、KIEV用レンズは
ニコンマウントと「ほぼ同じ」なのだが、「完全に同じ」では
決してない。
よって、一部のニコン製の一眼レフなどに装着すると、
「装着できない、あるいは、装着したまま外れない!」(汗)
というトラブルが発生する危険がある。

事実、このレンズは2本所有していたのだが、1本は銀塩ニコン
一眼レフに(固くて)装着できず、廃棄処分としてしまった。

【注意】本レンズ、あるいはロシア製ニコンマウントレンズを
直接ニコン製一眼レフに装着するのは危険である。
出来れば今回使用しているようにニコンFマウントアダプター
を介して、ミラーレス機や他社一眼レフで使うのが安全だ。

この方法であれば、最悪アダプターから外れなくなったとしても
アダプターが1個、そのレンズ専用になってしまうだけで、
大きな問題にはならない。

そもそも、ロシアンレンズは個体差も大きく、同じレンズで
あっても(前述のように)1本1本微妙に製造精度が異なり、
特定のカメラで使えたり使えなかったりする事がある。
(この為、銀塩時代に東京にあった「ロシアンレンズ専門店」
では、購入者が自身のカメラを持ち込み、装着状態を確認して
から販売するシステムであった)

ニコン風マウント以外のロシアンレンズも同様で、例えば
M42マウントであっても、ピッチが正確に1mmではなく多少
異なる個体が存在する、この場合、M42機やアダプターに
ねじ込むと途中で止まってしまい、無理にねじ込むと
ネジ山を潰して壊しててしまうリスクがある。

【注意】いずれにしても、ロシアンレンズは基本的に
マウントアダプターを介して使うのが安全だ。
(一眼レフよりもミラーレス機がさらに安全)
c0032138_20105400.jpg
さて、本レンズの長所であるが、値段の割りにそこそこ良く
写ることが第一であろう。こういうあたりがロシアンレンズの
全般に共通する特徴なのだ。

第二の長所であるが、最短撮影距離が80cmと、100mmレンズの
標準性能である1m(注:焦点距離の10倍の法則)より、だいぶ
短く、優秀な点がある。

まあでも、これについては、例えばOLYMPUS OM100mm/f2は、
70cmの最短撮影距離だ(ミラーレス第19回,ハイコスパ第17回)
そして、100mmよりも焦点距離の長い SONY ZA135mm/f1.8は
72cmである(ハイコスパ第16回記事参照)

本レンズより最短の短い100mmレンズは、まあ、ある事はある
とは言え、かなりのハイレベルだ、近接撮影を試してみるのも
良いであろう。
c0032138_20105334.jpg
しかし実際には、弱点としてボケ質の破綻が激しい点がある。
この問題点があるので、近接撮影でボケ量を大きくした場合、
ボケ質破綻の回避技法を用いる事が必須である。

「ボケ質破綻回避」については、ミラーレス・マニアックス
シリーズ記事で、何度も何度も書いてきた事だ、必要とあれば
ミラーレス第12回記事で具体例を上げて解説しているので、
それを参照されたし。

なお、一眼レフではこの技法を使うのは難しい。ミラーレス機
しかも高精細のEVFを持つカメラを用いた時にのみ成り立つ
撮影技法であり、加えて少々高度な技術である。

銀塩時代の昔から、レンズは特定の条件でボケ質が悪くなる事
は、マニアまたは中上級者であれば誰でも知っている事実で
あったが、具体的にその因果関係や、それを回避する技法に
ついての情報は、まず殆ど存在していない。
その理由は、これは一眼レフの光学ファインダーでは良く
わからない事、また、開放測光である事、加えて、銀塩時代は、
現像するまでボケ質については事前にはわからなかったからだ。

なので現像した特定の写真を見て「このレンズはボケ味が良い」
とか、逆に「ボケ味が悪い」とか言っていた訳だ。

けど、この「ボケ質破綻」の発生可能性について理解しない限り
あるレンズで撮った写真を数枚程度見ただけで、そのレンズの
「ボケ質の良し悪し」を判断してはならないと思う。

さて、本レンズの購入価格3000円だが、これはジャンク価格だ。
2000年頃に中古店で「ロシアン福袋」というものを買った。
ジャンクのロシアン・東欧レンズが7本入っていて価格は2万円
であった。中には使えない(装着不能)レンズもあったが、
まあ、1本あたり3000円相当と、安くて良い買い物であった。
c0032138_20105359.jpg
本レンズは、1990年代には輸入新品が専門店で売られていて
その際の新品定価は約2万円位であったと思われる。

現在は生産完了品だが、もし安価な中古を見つけたら、
コスパが良いレンズなので買いであろう。

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さて、次のシステム、
c0032138_20111188.jpg
カメラは、SONY NEX-7
レンズは、HELIOS-44-2 58mm/f2
(中古購入価格 7,000円)

ミラーレス・マニアックス第6回記事で紹介の、
1980年代頃と思われるMF単焦点標準レンズ。
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このレンズはCarl Zeiss Jena BIOTARのコピー品と言われて
いる。まあ、大戦における東西ドイツ分断から、ツァイス系の
レンズ技術が東欧あるいは旧ソ連に流れ、その後数十年に渡って
製造が続けられていた、と言う、ちょっと重たい歴史があるが、
その事により1960年代から1980年代頃迄の旧ソ連製レンズは
ツァイス等の技術を引き継いだ優秀なレンズが多い訳である。

長らくこの手のレンズは生産が続いたが、1991年のソ連崩壊
後は、あまり新しいレンズは作られていない可能性も高い。
それでも輸入業者等による日本への流入は1990年代を通じて
続き、おりしも1990年代後半の第一次中古カメラブームと
あいまって、多くのロシアンレンズがマニア等に知られる
ようになった。

ただ、1990年代は既にAF一眼レフの時代であり、ロシアン
レンズは、恐らく全てがMFレンズであった為、このブームは
マニアの枠を超えて一般ユーザーにまで広がることは無かった。

なお、2010年代に入って、これらのロシアンレンズの新品在庫
(デッドストック)を輸入販売している業者も出てきており、
2010年代前半の第二次中古(オールド)レンズブームに
おいても、これらロシアンレンズがまた知られるようになって
きている。

ただし、1990年代のこれらのロシアンレンズの相場は新品で
あっても、数千円から高くても2万円程度であったのだが、
近年では、その第一次ブームを知らない初級マニアも増えて
きている為、思いの他、高額な相場でこれらの中古ロシアン
レンズが取引される場合もあるようだ。

多分、第一次ブームを知る先輩マニアなどから、
「ロシアンレンズは良く写る」という評判を聞いての事かも
知れないが、「安価で」という重要項目を忘れてはならない。

正しくは「ロシアンレンズは安価な割に良く写る」なのだ。
これらのロシアンレンズは絶対性能から言えば、やはり
1万円以下程度というのが、正しい価値感覚であると思う。
c0032138_20111150.jpg
(上写真はエフェクト使用)

さて、本レンズHELIOS-44-2 58mm/f2であるが、
その特徴として、まず、絞りはプリセット型である。
ロシアンレンズにプリセット絞りは多く、これはアダプターで
使用する際には、絞り環を最大等に閉じておき、プリセット環で
絞り値を連続的に変更でき、被写界深度の微調整のみならず、
ボケ質破綻回避の微調整が可能であったり、あるいは、瞬時に
開放と絞り込んだ値を切り替えて使う事ができ、結構便利だ。

そしてプリセット絞り型の場合の絞り羽根は、多数(十数枚)
の事が多く、「ボケ形状」を良くする事に役立っている。

ただしこれは、イコールボケ質が良くなる、という訳では無い。
近年でも円形絞りを採用したレンズがあり、その説明文では
「ボケ味が綺麗になる」という風に書いてある場合があるが、
これはグレーな表現であり、ボケ質は絞りの形状とは基本的
には直結しない。あくまでボケの中に光源等がある場合に、
その「ボケ形状」が綺麗になるだけである。

で、本レンズのボケ質は極めて悪い。「ぐるぐるボケ」が
出る他、多くの撮影状況でボケ質破綻は避けられない。
「ぐるぐるボケ」はレンズの重欠点ではあるのだが、
近年、こうした「ぐるぐるボケ」が発生する事を逆手にとって
「面白いボケが出るレンズ」という商品コンセプトで、
LOMOやLENSBABYから新開発のレンズが出ている。

まあ、ここ50年以上、レンズ性能の進歩により「ぐるぐるボケ」
が発生するようなレンズは皆無となってしまっていた、
そういう意味では、このような特性を持つレンズは、新規の
初級中級ユーザーにはむしろ新鮮なのであろう。

そして、この事は個人的には悪い傾向とは思わない。
「レンズの欠点も逆に特徴に変えてしまえ」という発想は、
上級者や上級マニアでのセオリーだと思うので、そういう発想が
広まる事は、悪くないと思う。
つまり、写真は「表現」であるから、綺麗に写るレンズばかりが
「良いものだ」という訳では決して無いのだ。

本レンズのもう1つの弱点は、逆光に極めて弱い事だ。
まあでも、このあたりはしかたがない、ほとんどのロシアン
レンズには同様な弱点がある。たとえツァイスの設計を引き継いだ
と言っても、それは戦前のレベルだ。「コーティング技術」は
国内では1970年代頃に大きく発達したのだが、ロシアンでは
それは無い。古い時代のままの製造技術(性能)なのだ。
おまけに個体差も大きい模様で、レンズにより当たり外れはある。
c0032138_20111144.jpg
余談だが、ロシアンレンズで第一次ブームのマニアの間で有名
かつ人気があったレンズとして Jupitar-9 85mm/f2がある。
(ミラーレス第26回記事およびCマウント版で第29回記事)
このレンズは安価(新品6000円程度)で、使い易いスペック、
おまけに、ツァイスの設計をデッドコピーしたものとして
1990年代にはマニア必携のレンズであった。

が、これがまた逆光に弱い。一部のマニアの間の話では
「舞台撮影の照明でゴーストが出たよ」などがあった位だ。
(注:実際にはゴーストでは無く「ハレーション」であろう)

ただ、これは個体差があったので、逆に他のマニアでは、
「オレのジュピターはゴーストが出ない、これはハズレだ!」
と言う場合があった。

この話は、前述の「欠点を特徴に変えてしまう」という事と
連動していて興味深い。つまりマニアにおいては、1990年代の
当時から、新しいレンズが「良く写りすぎる」ことに不満を
持っていたという事になる。何故それが不満なのか?と言えば
(写真において)「個性が出せない」からである。

この考え方は2000年代にアート系の女子カメラマンなどで
「トイカメラ」ブームを引き起こした他、2010年代の
ミラーレス&スマホ時代においても、様々なエフェクトを
写真にかけて個性を主張する、という流れにも繋がっていく。

高価な一眼レフと高価なレンズで綺麗な写真を撮る事を目指して
いる初級中級層のカメラマンには、なかなか理解しずらい事かと
思うが、こういう志向性(Lo-Fi志向)は確実に存在している。

さて、余談が長くなったが、本レンズHELIOS-44-2の総括だが、
ぶっちゃけ言うと、ハイコスパレンズと言うには、少々性能面が
厳しいかも知れない。値段はまあ安価で入手できるレンズかも
知れないが、性能面の低さを考えると必携レンズとはちょっと
言いがたい所がある。

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さて、次のシステム、
c0032138_20112326.jpg
カメラは、FUJIFILM X-E1
レンズは、アルセナール MIR-24(H) 35mm/f2
(新品購入価格 8,000円)

ミラーレス・マニアックス第14回,第55回,名玉編第1回で
紹介の1980年代頃のMF単焦点準広角レンズ。

これは冒頭に紹介したKALEINAR-5N と同じメーカー(工場)
製のウクライナ製レンズで、KIEV-19用マウントである。
(注:旧ソ連では、メーカーという概念は無く、国営工場
が複数あるシステムとなっていた模様だ)
名玉編に登場し、第17位相当となった優秀なレンズだ。
c0032138_20112345.jpg
まず長所だが、高い描写力、加えて最短撮影距離が24cmと
極めて短い。これを超える35mmレンズはSONY DT35mm/f1.8
(ミラーレス第60回、名玉編第2回)の最短23cmと、近年の
TAMRON SP35mm/f1.8の最短20cm(後日紹介予定)の、
2本しか無いと思う。(注:マクロレンズを除く)

本レンズはニコンマウントとほぼ類似であるが、前述のように
ニコン製の一眼レフへの直接装着は危険である。

特に危険性が高いと思われるニコン銀塩一眼は、FG,FAや
FE,F4等の機種で、内FA等は「瞬間絞込み測光」の機能を内蔵
している、他の機種も通常のFマウントと若干構造が異なる。
詳しくは試していないが、それらの特殊機能用の部品が
干渉する恐れがある。それらの機種は全て所有していたが、
外れなくなるリスクがあったので、殆どロシアンレンズの
装着を試してはいない。

現代のデジタル一眼の場合は良くわからない、試した事が無い
からだ。なお銀塩の上記一眼は比較的ニコンレンズの互換性の
高い機種である(ニコンのレンズは同じFマウントと言っても、
微妙に仕様の差異があり、機能互換性が無い場合も多々ある)
デジタル一眼で最もFマウントのレンズ互換性が高い機種は、
NIKON Df(デジタル一眼第17回記事)であるが、高価なDfに
無理をして怪しげなレンズを装着する気には、とてもなれない。
c0032138_20112338.jpg
さて、という訳で、今回も安全の為、ニコン用アダプターを
介しての使用だ、X-E1はAF/MF性能に難有りのカメラではあるが
絵作りは良いので、ピント歩留まりの悪ささえ我慢すれば
趣味撮影ではなんとか使えるカメラだ。

本レンズの弱点であるが、ロシアンレンズの例に漏れず、
逆光耐性が低く、ボケ質の破綻が少々出る。ボケ質破綻は
本レンズでは近接撮影かつ開放近くで出やすいが、状況を確認
しながら、例えば少し絞れば、回避はし易いと思われる。

X-E1は、純正AFレンズを使った場合、半押しで絞込み測光という
やや特殊な仕様であるが、アダプター使用時は当然ながら
絞込み(実絞り)測光となる、EVFは高精細なので、ボケ質を
確認しながらボケ質破綻の回避を行えば良い。
c0032138_20112365.jpg
他の弱点は殆ど無い、かなり優秀なレンズである。
それ故、ミラーレスマニアックス名玉編に、ロシアンレンズと
しては、ただ1本、ノミネートされた訳だ。

中古購入価格の8000円というのは、1990年代後半の話だ。
当時は新品もあった様子で、確か2万円ほどであったと思う。

現代ではレアになってしまった。というか、ロシアンレンズ
全般が、殆ど中古市場に流通していない。
1990年代後半の第一次中古カメラブームにおいては、全国の
多数のカメラ屋(DPE店)において、中古カメラや中古レンズを
扱っていて、様々な土地に行くと、さまざまなレンズを扱う
店があり、なかなか面白い時代であった。

だが2000年代のデジタル期に入ると、それまで地方DPE店の
主力であった現像・プリント業務が激減し、ビジネスモデルが
崩壊してしまう。加えて、中古カメラや中古レンズも、銀塩用
の機材は、もう売れなくなってしまった。こうした市場や事業
構造の大変革に耐えられず廃業した店舗も非常に多かった。

それらの廃業店舗の中古カメラやレンズの在庫は、2000年代後半
に「中央」に集められ、再整備され、2010年頃にカメラチェーン
店舗等で売られた、ただ、その際に商品価値の選別が行われた
模様であり、売れそうに無い物や程度の悪い物は、ジャンク販売
あるいは廃棄処分となったと思われる。

それが、いわゆる「大放出時代」である。その頃に最も
お買い得だったのは「MF標準レンズ」であり、1000~3000円
という安価な価格で販売された。私は、あるいは周囲のマニアも
それらを多数(何十本も)購入した。ミラーレス・マニアックス
シリーズ記事でも、その「放出レンズ」を多数紹介している。

で、ロシアンレンズは「大放出」の対象にならなかったようだ、
実際に店頭でも(ジャンクですら)殆ど見かけることが
無かった。
もしかすると、ロシアンレンズは扱いが難しいから、店頭には
並ばなかったのかも知れない。

仮に、そのようなレンズを売るとしても、ジャンク価格だ、
売っても儲からない。これを売って1000円や2000円儲けるより、
最新の超音波モーター&手ブレ補正内蔵のレンズを売った方が
ずっと多く儲けることができただろう。

そして、ユーザー層も店員も、昔とはすっかり入れ替わり、
ロシアンレンズの詳細について知っている人は皆無だ。

客「これ、何マウントですか?ボクのEOSにつきますか?」
と質問があっても、「さあ・・??」としか答えられないで
あろう、その対応の時間が無駄だし、仮に、何も知らない客が
買って帰って、「ボクのNIKON D3から外れなくなった!」等と
クレームが来ても店側は責任を取ることもできないであろう。

つまり「売るには面倒臭いレンズ」なのだ、あえて売らなかった
と想像するのが正解だろうと思う。もし売るのならば店頭では
なく、海外も含めたネット販売であろう。
c0032138_20112353.jpg
現代においては入手性の悪いレンズだ、けど、万が一見つけたら
値段次第では購入する意味や価値が十分にある。
そして、ロシアンレンズの注意点に十分に留意しつつ使用すれば
「ハイコスパレンズ」の真髄に触れる事が、きっと出来ると思う。

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次は今回ラストのシステム、
c0032138_20115073.jpg
カメラは、PANASONIC LUMIX DMC-G5
レンズは、キルフィット (テレ)キラー 150mm/f3.5
(中古購入価格 3,000円)

ミラーレス・マニアックス第54回,補足編第1回記事で紹介の、
1960年代頃?のMF単焦点望遠レンズ。

このレンズにはHeinz Kilfitt Munchen Kilarと書かれている。
ミュンヘンの名が示すとおり、ロシアンではなくドイツ製の
レンズである。「ロシアン特集」という今回の主旨とはちょっと
外れてしまうが、まあ固いことは抜きにしよう(笑)

さて、最大の特徴は長所かつ短所である、このレンズの描写だ。
それは、「絞り開放かつ逆光気味で、ソフト(軟焦点)レンズ
のような描写が得られる」という事だ。
その特徴を最大限に出してみよう。
c0032138_20115160.jpg
これは球面収差によるもので、直接的に言えばレンズの欠点だ。
だが、このソフト描写が極めて上品で、なかなか他のレンズでは
見られない特徴となっている。このため、ミラーレス補足編では
本レンズを「マクロキラーもどき」として使用する実験を
行った。まあ、これは概ね正解であった。

補足編1では、マクロ化する為に「接写リング」を用いたが、
これを使うと、無限遠が出なくなるなど、ちょっと使い難い
要素もあったので、今回はDMC-G5の優れたデジタル拡大機能
(デジタルテレコンとデジタルズーム)の操作系を用いて
バーチャル(仮想的)なマクロシステムとする事にしよう。

なお、「マクロキラー」とは何か?と言えば、
これは、今から60数年前の1955年に世界で初めて発売
されたマクロレンズである。

それは本レンズと同じキルフィット社から発売されたのだが、
同社は、ドイツ・ミュンヘンを元々の生産拠点とする他、
リヒテンシュタイン公国やモナコ公国など、多国籍で製造
あるいは販売を行っていた様子もあり、社名も何度か変わって
いるという、ちょっと不思議なメーカーだ。

なお、1959年には世界初のズームレンズ「ズーマー」も
発売したが、これはフォクトレンダー(現在のコシナとは
勿論異なる。コシナは1990年代末にフォクトレンダーの商標
を取得したのだ)にOEM供給され、そのブランドで発売された。

「マクロキラー」は、上級マニアの間では有名なレンズだが、
生産中止からずいぶんと年月も立ち、現在では入手が極めて
困難な、レアものレンズとなっている。私も見たことすらなく、
その写りがどんなものであったかは、わからない。

ただ、だいたい同時期に設計されたと思われる本レンズの
収差の特性を見れば、「マクロキラー」も、同様にわずかに
ソフトさがある上品な描写だったのかも?と想像はできる。
c0032138_20115072.jpg
さて、マクロキラーはともかく、本(テレ)キラーである。
150mmレンズであるから、μ4/3機のDMC-G5に装着時の
画角は、300mm相当の、かなりの望遠となる。
被写体選びに困りそうだが、今回は近接撮影が主体だ。
近接撮影では焦点距離(換算画角)よりも、むしろ最短撮影
距離がポイントとなる。本レンズの最短撮影距離は5フィート
との記載があるので、これはおよそ1.5mである。

μ4/3機で、150mmレンズで、1.5mの撮影距離であると、
撮影範囲を計算すると、およそ横17cmx縦13cmとなる。

これはμ4/3のセンサーサイズ、約17.3mmx13mmの各辺
約10倍の範囲なので、撮影倍率は1対10、つまり1/10倍マクロだ。

(注:今回の計算は全てセンサーサイズ換算だ。フルサイズ
換算では、さらにこの2倍の数値になるが、アスペクト比も
異なるし、このあたりは、そもそも定義が曖昧だ)

ここでデジタルテレコンやデジタルズーム機能を用いると
撮影倍率はどんどん上がる、しかし、DMC-G5での限界値は
テレコン最大4倍、ズーム最大2倍であり、これは同時利用が
出来るので都合8倍だ、まあ、だから、最大で0.8倍マクロ
にまでなるという事である。

もっとも、デジタルテレコンは画質が劣化する、それに
300mm相当の画角では撮影倍率を上げるとブレも非常に大きく
手に負えなくなってくる。まあ、なので、デジタル拡大3倍
つまり、撮影倍率 0.3倍マクロ(約1/3倍)位までにとどめて
おくのがよい、この時点で換算焦点距離は既に900mmだ、
これ以上は、手持ち撮影では相当に困難であろう。

使用感はまずまず快調、そして、収差によるソフト的な描写も
なかなか面白い。
しかし、最短1.5mはさすがにマクロレンズと比べて極めて長い、
つまり、ワーキングディスタンス(レンズ前から被写体までの
距離)が短ければ、被写体に対して、上からでも横からでも
下からでも、好きな角度で撮れるのであるが、それが、1.5m
もあるならば、殆ど、離れた水平位置でしか撮れない。

つまり、撮影アングル(注:アングルは角度なので位置を示す
ならば正しくは”レベル”であろう。例:アイレベル、ウエスト
レベル等)の自由度が極めて制限されるという意味だ。

なお、ソフト(軟焦点)化の原因となる球面収差であるが、
絞り込むと解消される。適正と思われるソフト量を絞り値で
調整するのが良い。
c0032138_20115031.jpg
本レンズの描写力的な弱点は色々あるが、まあ、そのあたりは
もうどうでも良い、今更50年も60年も前のレンズの欠点を
あれこれ言っても意味が無い。

オールドレンズは欠点を責めながら使うものではなく、
その欠点を含めた特徴を「個性」に変え、そして、それをいかに
写真表現に転化していくか、その点が最も重要な事だ。

まあ、描写力よりも、もっと大きな弱点はある、それは、現代、
このレンズが殆ど入手不能な事だ。
そして、あったとしても、エキザクタマウント版とかの、少々
希少なマウントになるかもしれない、元々は、エキザクタ版で
生産されたと思われるからだ。ただ、本レンズに関しては、
たまたまニコンマウントへの改造品であったので、アダプター
を別途買わずに済んだ、という次第だ。

もし安価に入手できるのであれば、そして、本レンズの特徴を
(欠点も含め)良く理解して使うのであれば、かなりコスパに
優れたレンズと言えるであろう。

----
さて、今回の記事は、このあたりまでとする。

最後に1つ、ロシアンやレアな海外製レンズは、ボディへの
装着の危険性という問題が必ずつきまとう、その点だけは
十分に注意する必要がある。そして基本的には使いこなしも
含め知識や技術も必要とされる、あくまで上級者向けであり、
初級中級者が安易に手を出す類のレンズでは無い。

次回記事は、コンパクトカメラを紹介する。


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