安価な中古ミラーレス機とマニアックなレンズで、
コスパの良いアダプター遊びを楽しむシリーズ、46回目。
今回は、このシステムから。
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カメラは、X-E1、操作系全般に課題を持ち、AF/MF共に
ピント合わせに弱点を持つ。特に操作系については「未完成」
とも言える非常に使い難いカメラであるが「絵作りが良い」
という長所を持つ。
今回は、少々難しいレンズを用いて、そのMF限界性能を試して
みよう。
レンズは、Nikon AiAF ニッコール 50mm/f1.4S に、
KENKO マクロテレプラスMC7を装着している。
マスター(主)レンズのAiAF50/1.4は、1980年代後半の
AFレンズ、概ねNIKON F4と同じ時代のAFレンズである。
この時代はまだ MF/AF一眼の混在の時代であったし、ボディ側で
絞りを制御するシステムも一般的ではなく、本レンズには絞り環が
存在する。よって、ミラーレス機とマウントアダプターで用いる
には適しているが、AFレンズであるので、本来ならばNIKONの
AF/デジタル一眼で用いるのが良い。
だが今回は、MF精度・MF操作系に問題があるX-E1の限界性能
チェックであるから、そのあたりのボディとの相性は考慮していない。
また、秘密兵器の「マクロテレプラス」を使うので、どちらに
してもAF機能は無効となってしまう。
マクロテレプラスMC7は、50mmのレンズで等倍撮影を可能とする
銀塩時代のアクセサリーだ。だが、レンズ焦点距離もf値も2倍に
なってしまう。
APS-C機のX-E1に装着し、AiAF50/1.4を使った場合の画角は、
50mmx1.5(APS-C) x2(MC7)で150mm相当となり、
開放f値は、f1.4 x2(MC7)でf2.8と暗くなる。
撮影倍率は、推奨の50mmレンズを用いているので、一応等倍で
あるが、ここもAPS-Cの為、35mm判銀塩換算で1.5倍の撮影倍率
を得る事ができる。
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小さい花を写してみる。マクロテレプラスは接写リングとは
異なり、ヘリコイド繰り出し方式なので、ヘリコイドを動かさず
∞位置にしておけば、マスターレンズは無限遠から最短撮影距離
の45cmまで自在に撮影が出来る。
最短を超えたマクロ域の撮影をする場合はヘリコイドを繰り出すと、
等倍撮影まで任意の倍率が可能だ、その際の撮影倍率はヘリコイド
上に目盛りがあるが、まあ、APS-C機ではその値にはならないし、
そもそも、1/2倍で撮ろうとか、そんな事を考えながら撮る訳でも
無いので、目盛りは意識する必要はない。
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「等倍」とは何か?と言えば、35mm判フィルムの36mmx24mm
のサイズと等しい大きさで被写体が写る、という意味であり、
つまり撮影範囲が36mmx24mm になる。
ただし、APS-C機のX-E1のセンサーサイズは 23.6mm×15.6mm
であり、36mmx24mmの撮影範囲は、フィルムで言えば等倍だが
センサーサイズを基準とすれば約1.5倍になるという事だ。
最大倍率までしてしまうと、3つの問題点が出てくる、
1つ目は、ピント合わせが非常に困難な事、
これは、X-E1のMF性能ではまず無理だ。EVFはまずまずの性能
ながら、EVFだけでMFのピント合わせはできない。なので拡大
またはピーキングを使うが、拡大操作系は極めて劣悪であり、
画面中央部拡大以外のケースでは実質的に使い物にならない。
また、ピーキングは精度が悪く、おまけにシャッター半押しで
ピーキング機能が停止してしまう(良し悪しある仕様だが、
私としては、ぎりぎりまで見ていたい)
加えて、上記と関連するが被写界深度が極めて浅くなる事だ、
これもピント合わせの弊害となる。
2つ目の課題は、露出倍数がかかる事だ、これは簡単に言えば
ヘリコイドでマスターレンズを繰り出すと、鏡筒の長さが長く
なるが、有効径は変わらないので、f値が暗くなるという意味だ。
正確なところは不明だが、ヘリコイド∞位置と、最大繰り出し
位置で、シャッター速度がおよそ 2/3程度に遅くなる。
なので、撮影倍率を上げるとともにISO感度も上げていきたい
のであるが、何と、X-E1にはISO感度用のボタンが無い。
(Fnキー等にアサイン可能であるが、そこには他の機能を設定
したい)
メニューから呼ぶしかないが、おまけに、メニュー位置メモリー
機能が無い!幸い、ISO感度のメニューは最も上の位置にあるので
最小限の操作で済むが、これは偶然とも言え、そもそもISOボタン
が無い方がおかしい。
ちなみに、AUTO ISOは、拡張ISO設定の範囲には無効で、
200~6400の範囲しか効かない、上限の12800はどうせ使わない
ので良いとして、日中に大口径レンズを使う際では、
AUTO ISOのままでは、LO拡張設定のISO100にならないのだ。
これらは非常にまずい仕様であるが、まあでも、AUTO ISO時
の最低シャッター速度を設定できるのはメリットであり、
特にオールド望遠レンズ(200mm以上)を使う場合などでは、
他のカメラのAUTO ISOでは、1/30秒あたりのシャッター速度
にまで落ち込み。手ぶれ必至で実用的ではなく、手動ISO設定を
強いられるが、X-E1では、例えば1/125秒以下でISO感度が1段
上がるように設定できるので、望遠ではむしろAUTO ISOで
快適に使うことができる。
3つ目の課題はマクロ域にすると画質が劣化する事だ。
まあでも、基本的にマクロテレプラスは、(銀塩MF時代より
完成の域に達していて高画質な)50mm標準レンズを使う事が
前提のリア・コンバーターであり、それゆえにマスターレンズ
の性能に助けられて、あまり画質の劣化は目立ちにくい。
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・・で、色々問題があるし、おまけに、X-E1のMF操作系では
やってられなくなってきたので、マクロに拘らず、一般的な
撮影スタイルに切り替えてみた。
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マクロテレプラスには補正レンズが入っているので、
マクロ機能を使わなくても画質は劣化する、ただしその度合いは
一般的なテレコン並みであるので、さほど目立たない。
この状態で150mm/f2.8相当のレンズだ、せっかくの50/1.4が、
ちょっと面白みの無いスペックのレンズに化けてしまった・・
まあ、でも暗くなる事前提で、今回はf1.4レンズであっても
ND(減光)フィルターは用いてない、f2.8の小口径レンズ
になるので、ISO100であれば、1/4000秒の最高シャッター
速度を超えるケースはあまり無いと見ている。
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本システムの購入価格だが、マクロテレプラス MC7は、
第18回記事で紹介したのと同じニコンマウント版で1990年代に
13000円程(中古では無く新品だったかも? 他マウント版は
もっと安価に購入している)
AiAF50/1.4(非Dタイプ)は、同じく1990年代に中古で16000円程
で購入、まあ妥当な相場であろう。
50/1.4は、MFでもAFでも15000円程度迄が性能からの適正価格だ、
別にニコンだからと言って、他より性能が良い訳では無い。
ごく近年の最新設計の50/1.4を除き、銀塩時代の50/1.4は、
どのメーカーでもレンズ構成も、性能も、殆ど同じなのだ。
まあそれはそうだろう、銀塩時代は、皆、ボディに50mmレンズを
つけて購入していた。
それで、他社より写りが悪かったら、そのメーカーのカメラだけ
売れなくなってしまう。そうではなく、どのメーカーのカメラも
生き残っていたという事は、各社とも凌ぎを削って最良のものを
提供してきたからであり、結局、50mm標準レンズの性能なんて
どのメーカーのもの殆ど同じなのだ。
まあ、その事に気づいたのは、結局、全メーカーの50/1.4を
買った後での話であったが・・(汗)
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さて、次のシステム。
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カメラは NEX-3
「トイレンズ母艦」と言いながらも、ここ暫くは限界性能テスト
で難しいレンズばかりをつけて苦戦していたので、たまには、
まともな(?)トイレンズをつけてみよう。
レンズは、RISING すでに第3回記事で紹介しているので再登場
となる、詳細については割愛するが、つまりピンホールレンズだ。
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写りはこんな感じ、このレンズは、NEX用のWIDE-Vタイプを
購入した。WEBの製品一覧表では最も画角が広いものを選んだ
筈なのに、イメージサークルがマイクロフォーサーズ並みに小さく
加えて、仕様通りの画角が得られていない。
まあ、所詮トイレンズなので「仕様に偽りあり」などとクレームを
つける気は無いが、NEXでは画面の多くに無駄な黒い部分が出て
しまうので、今回それはトリミングしている。
Vタイプは、ヴィネッティングという事で、すなわち周辺光量
低下が出るタイプだ(トンネル効果は俗語でありNGだ)
ただ、イメージサークルが小さい事とあいまって、周辺光量低下
なのか、ケラれなのか、そのあたりの区別は曖昧だ。
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レンズの焦点距離は仕様上では9mmだが、ここもちょっと怪しい。
そもそもピンホールの焦点距離はセンサー面から、穴のあいた
位置までの距離で変わる。NEX-3のフランジバックは18mmなので、
本来ならば、その18mmというのがピンホールの正しい焦点距離だ。
もし、それより近い距離に穴位置を設定してしまうと、イメージ
サークルが小さくなってしまう可能性もある。
具体的には、NEX-3の場合、9mmの焦点距離での水平画角は、
104度(RIGING の仕様どおり)、18mmでは水平66度となる。
実際、どう見ても104度の画角は得られておらず、狭い範囲しか
写っていないように見える。このあたりなんだか良くわからない
ので、いずれ、ヘリコイドアダプター等を用いて、ピンホール
の焦点距離、画角、イメージサークルの関係を実験してみよう。
f値は、f41という事だが、まあここは納得できる。
しかし、通常のピンホールレンズは、穴径0.2mm程度で、
焦点距離はフランジバックと同じなので、一眼用なら45mm前後
したがって、f値は45÷0.2=225 でf225程度。まあ、誤差を
含めf180~f250位だと思えば良い。
それに対して、f41と言うのは、あまりに明るくないだろうか?
明るいというのは、ピンホール(穴)の径が大きいという事だ
f値と想定焦点距離から、開口径を計算すると 18÷41≒0.44
つまり穴径は、0.44mmと、一般的なピンホールの2倍程度だ。
(仕様どおりの9mmならば、穴径は0.22mm)
ピンホール径が大きいと、あまり焦点が定まらず、ボヤーッと
した写真となる。
その代わり、f41というのは、手持ちピンホール撮影が可能な
明るさである。このf値が正しいかどうか保証は無いのだが、
実際に使った感じだと、ISOは手動で6400に設定しておくのが
基本で、これだ多くの光線シチュエーションで、数十分の1秒
のシャッター速度が得られ、楽々手持ち撮影できる。
晴天時の明所の被写体では、ISOを3200まで下げてもOKだ。
若干暗い被写体ではNEX-3 最大のISO12800に変更するが、
さらに暗所だと、数分の1秒のシャッター速度となり手ブレ必至だ。
なお、NEX-3のソフトキーBは、AF純正レンズ装着時には、
プレシジョン・デジタルズームとし、MFレンズ(アダプター)
装着時は、ISO感度設定に自動的に切り替わるように設定している。
これは実は、NEX-3の仕様上の制限、すなわち「純正単焦点レンズ
以外では、デジタルズームが効かない」という弱点を、逆手に
利用したものであり、偶然の産物だが便利に使えている。
ちなみに、NEX-7ではMFレンズでもデジタルズームが効くので
ソフトキーは(使用不可の理由では)自動的には切り替わらず、
常にデジタルズームのままだ。だが、NEX-7は優秀な3ダイヤル
操作系であるから、常に(=ファンクションを変えた時でも)
ISOはダイヤル等で直接変更可能なように設定をしてあるので、
ISOボタンに自動で切り替わらなくても何ら問題は無い。
ちなみに、1つ注意点だが、f200前後のピンホールは、
撮像素子(センサー)のゴミが非常に良く写りこんでしまう、
センサーのゴミの影は、レンズの絞りを絞るほど出るので、
f200ではもう極限だ、ゴミだらけの写真が撮れてしまう(汗)
f41の本レンズは、さほどゴミは写らないないので、ちょっと
安心だ。
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本レンズの購入価格は2010年代に新品で6000円ほどであった、
ピンホールレンズは、本来自作するものである、ただ、自作
ピンホールは真円の穴を開けるのはかなり難しく、画質的に
イマイチなものが出来る場合が多い。10数年前に自作した物が
あった筈で、今回、それを紹介するつもりだったのだが
どうしても見つからず、やむなくRISING再登場となった訳だ。
本レンズの必要性だが、これは100%趣味的なレンズであり
実用的要素はない。まあ、ピンホールは写真の原点の
「カメラ・オブスキュラ(オブスクラ)」であるから、
写真を1から勉強してみたい人には、教材としては
面白いかも知れない。
(カメラ・オブスキュラ、とは何か?などと興味を持てば、
まあ、それが学習の第一歩だ。何であっても「わからない」、
「知らない」と諦めてしまったら、もうそこで成長は無い。)
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さて、次のシステム
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カメラはお馴染みDMC-G1である、マイクロフォーサーズ
(ミラーレス)初号機であるが、その完成度は特筆すべきで、
同じくFUJIの 初号機に近いX-E1(冒頭)と比較すると、
描写性能はともかく、操作系の完成度には雲泥の差がある。
設計者がどれだけカメラや写真の事を理解しているかで、
これだけの差がついてしまう。機械モノというのは、それを
触ることで、設計思想までも理解するができる、しかし、それが
見透かされてしまうというのは、実際恐ろしい事であると思う。
何故ならば、その設計思想が優秀か否かというのは、その機器の
評価に直結する事であり、最重要ポイントだからだ。
しかし、カメラの世界ではそれが甘い。レビュー記事などでも
良い事しか書いていないし、多くのユーザーが評価する点も
画素数、ISO感度、AF精度、センサーサイズ、連写性能など、
目に見える数値化可能な部分だけ表面的に評価し、数値化
できない操作系やら感触性能などは、ほとんど気にしない。
勿論それは大問題だ、まず、機械は使ってナンボのものなので、
使いにくい機械は、その存在意義の大部分を失ってしまう事。
そして、それに気がつかないユーザーも、また問題だ、
ユーザーからの意見が正しくフィードバックされないから、
いつまでもカメラは使い難いまま、改善されない事になる。
さて、余談が長くなったが、レンズだ。
ミノルタMCロッコール PG58mm/f1.2 である。
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1970年代のMFレンズ、f1.2の(超)大口径であるが、その当時は、
ちょうど「超大口径ブーム」で、一眼レフではf1.2、レンジ機では、
f1.1や、f0.95のレンズすらも登場している。
まあ、現代の f0.95ブームと似ている部分もあるかも知れない、
コシナ・フォクトレンダーのノクトンf0.95や、中一光学のf0.95
さらには監視カメラ(産業用Cマウントレンズ)にも、f0.95
ハイスピード(f値が明るい=シャッター速度が速い)レンズが
ラインナップされている。ちなみに、開放f値はどこまでも
明るくなる訳ではなく、原理上f0.5程度で頭打ちとなると聞く。
で、1960~1970年代の超大口径ブームの時代は、残念ながら
技術がそれを無難に実現できるレベルに至っていなかった。
例えばボケ質の破綻、あるいは解像度の低下、最短撮影距離が
伸びる、焦点距離が伸びる、レンズの巨大化など、様々な問題点が
生じていた。
本レンズの場合は、MF一眼レフ用超大口径(f1.2)に共通する
課題が出ている。まず、50mmという焦点距離が実現できず
58mmとなっている(55~60mmとなるケースが多い)
そして、最短撮影距離は、一般的な50mm/f1.4の45cmに対し、
60cmと長い。さらには、ボケ質が良くない(破綻しやすい)
まあ、そうした弱点は承知の上だ、それでもやはりf1.2は
魅力的だ。
しかし・・ 問題発生(汗)
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絞りが動いていない!つまり「絞りネバリ」が発生して
開放でしか撮れないのだ。レンズ装着前に一応確認したの
だが、元々絞り込んであったのを開放にする方向しか確認して
いなかった、その瞬間、2度と絞れなくなってしまったのだ(汗)
まあ、今日は、f1.2の超大口径であるから、ND4フィルターを
装着しているので、シャッター速度オーバーのリスクは少なく
写真を撮る上では、絞り開放のみでも、あまり大きな問題は無い。
特に、上写真のような中遠距離被写体においては、絞り調整の
意味は、被写界深度調整ではなく、MTF特性(つまり解像度)
の向上を目指しての物であるから、絞り値はあまり関係無い。
(しかし、本レンズは、思ったよりも開放からシャープだ!)
問題は2点、被写界深度の調整が一切できない事、そして
高度な技術だが「ボケ質破綻の回避」が出来ない事だ。
で、絞りが動かなくなったらどうするか、といえばまずは
応急修理、それは絞りを動かすレバーを数十回~数百回動かして
ネバリの改善や絞りの再動作を狙う事だが、それは試したが
効果が無かった。
次の手段は修理である、自身で出来れば良いが技術(技能)が
必要なので、私は過去、試した事は無い(まあ、いずれ習得したい
技能であるとは思っている)なのでまあ、メーカー修理という
事になるのだが、古いレンズなので、受け付けてくれるかどうか?
あるいは、修理専門ショップというのも存在しているが、専門職
なので修理代は高価だ。
打つ手無し、かと思いきや、ちょっと思いつく妙手があった、
ここで説明すると長くなるので、また別の記事で紹介しよう。
多数のレンズを所有していると、絞りネバリが何本かあっても
やむを得ない、私の所有レンズの中でも、これで4本目だったか
5本目だったか・・(?)
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絞りが動かないので、レンズの評価に関する事は避けておこう、
基本的には「レアな名レンズ」として、巷では噂されている
模様であるが、開放のみで使った感じからすると、ボケ質破綻
の問題が、少し気になる。
まあ、いずれ、絞り故障の回避手段を行ってから、再登場して
もらうとするか・・
本レンズの購入価格であるが、2000年代に2万円であった、
レアものとしては、適正相場あるいはちょっと安い位だ。
外観がちょっとくたびれていた事も価格が安い理由。
しかし、今回は、本来の性能が発揮できていない状態なので
本レンズの価格が適正かどうかの判断も保留しておくとしよう。
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さて、次は今回のラスト
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カメラは、お馴染み NEX-7
レンズは、AiニッコールED180mm/f2.8S
1980年代のMF望遠レンズであり、NIKON F3と同時代のもの。
EDとは、Extra low Dispersion の略であり、特殊低分散や
異常低分散、とも呼ばれているガラス素材技術と同じだ。
ニコンの場合には「異常」と言う用語のユーザーへの悪印象を
嫌ったのか「特殊」と呼んでいる模様。
これは、普通のガラスで作ったレンズだと、スペクトル(波長)
によって、屈折率が異なるため、たとえば、赤と緑と青の光では
フィルムやセンサー面に、色毎に異なる距離で結像してしまい、
白い被写体などで色の滲みが出てしまう、これを色収差と呼ぶ。
(「しきしゅうさ」が本来の読み方だが、そう読めない人が多く、
近年では「いろしゅうさ」でも可となっている模様だ。
先日ライカ社の医療用顕微鏡の営業マンと話をしていた時、
私が「アポですから”しき収差”が無いですね」と言ったら、
彼は「そう”いろ収差”が少ないんですよ」と答えていた)
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色収差を改善する1つの手法は、APO(アポ)であり、
屈折率の異なる2枚のレンズを貼り合わせ、スペクトル毎の
差を減らしている。昔からある手法で、アポ何とかという
名前の(オールド望遠)レンズは、その手法を用いている。
ただ、アポあるいはアポクロマートは、ツアイスが
100年以上前に発明した手法であり、その後、レンズ技術や
素材の発展で、その定義があいまいになってしまったと聞く。
で、アポ方式は完璧ではなく、全ての波長(色)で補正は
できていない。例えば、虹の7色の端の青(紫)と赤の
両方で補正をしても、中間の、緑とか、オレンジ色とかでは
うまく補正ができている保証は無い。
そこで、新素材である異常分散ガラスや、蛍石(フローライト)
ガラスを用いて、より精密な色収差補正が出来るようにした物が、
ED,AD,UDなどと呼ばれているレンズ群だ。
アポとEDとどっちが性能が上か?とかいう不毛な議論をしても
意味が無い。レンズには様々な収差があり、その1つを
どう改善するか?という課題にすぎないのだし、そもそも色収差
が改善されたとして、他の収差や、解像度やコントラスト、色味、
ボケ質等はまた別次元の話だ。
で、本レンズだが、かなりの高性能である。
もっとも、各社180~200mmのf2.8級単焦点望遠は、
いずれも高性能で、本ED180をはじめ、ゾナー180、
FD(/EF)200(第42回記事)。α200など、非常に良く写る
レンズばかりだ。
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ニコンF3の時代と言うと、報道写真分野ではニコンが強かった。
それが理由からか、ニコンの広角~標準は、解像度を重視して
いて、ボケ質にまで配慮したレンズは殆ど無かったと思う。
しかし、報道ではあまり使わないと思われる、中望遠~望遠
域の大口径レンズは、ボケ質に優れたものも何本か見られる。
ここから先は想像であるが、それをニコンの弱点と見たのか?
ライバルのキヤノンは報道スポーツ分野で使える解像度重視の
望遠を次々とリリース、さらにAF時代以降は、超音波モーター
技術を搭載し、AF速度・AF精度の面でも望遠域でニコンへの
優位性を作っていく。ニコンも当然類似技術で対抗するが、
結果として、1990~2000年代では、ニコンもキヤノンも
解像度重視でボケ質の悪いレンズばかりになってしまい、
私が欲しい特性のレンズでは完全になくなってしまった。
本シリーズ記事でも、AF大口径ズーム等が全く出てこないのは、
そういう背景もある。つまり、私としては、その時代のそうした
レンズは全く買う気がしないのだ。
ちなみに、2010年代、デジタル一眼の超高画素化に対応し、
最新の単焦点レンズは解像度のみならずボケ質まで配慮して
いるものがいくつか発売されてきている。まあ、1990年代の
AF単焦点レンズは、そのほとんどが、それ以前のMF時代の
単焦点をAF化しただけのものであったので、単焦点の基本
構成は1970~1980年代に、ほぼ固まっていたのであろう。
まあ、それから既に40年、さすがに時代の差は大きい、
最新設計の単焦点は、さぞや高性能になっているだろうと
思われるが、いつの間にか、数万円で買えていた筈の
単焦点レンズは、恐ろしく高価になってしまった。
さすがに定価20万円近くの標準レンズを買う気はしない、
いくら最新技術が入っているとは言え、所詮はガラスと金属だ、
コストの殆どは、技術開発の減価償却費であったり、あるいは
「高くても買う人が居るから高い」という市場原理に基づいての
事であるから、私の信条とする「コスパ」の概念とは、まったく
相受け入れない状況になってしまった。
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本ED180/2.8は、多少のボケ質破綻が出る他は、全くと言って
いいほど問題が無い優秀なレンズだ、
あえて言えば、1.8mという最短撮影距離は若干不満だ。
レンズの購入価格は1990年代に28000円であった(B級品)
現代の相場は4万円台後半以上と、かなり高価になっている。
まあ、高くても買う人が居るから高いのであろう。
そのあたりも、ニコンMFレンズ全般の課題かも知れない。
値段がもう少し安価で適正であれば「買い」のレンズであろう。
次回記事に続く・・