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【熱い季節2020】第14回びわ湖ドラゴンボート1000m選手権大会(後編)

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2020年10月4日(日)に滋賀県大津市、滋賀県立琵琶湖
漕艇場にて開催された「第14回びわ湖ドラゴンボート
1000m選手権大会」(以下、1000m大会)の模様より、
後編。
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2020年、コロナ禍で、殆ど全てのドラゴン・ペーロン
系のボート競技の大会が中止となってしまった中、
滋賀県の「びわ湖」で、今年初めて行われたドラゴン
大会であり、恐らくは今年最後のびわ湖でのボート系
大会でもあろう。(注:大阪地区では、11月1日に
「大阪府民スポーツ大会・ドラゴンボートの部」が
実施される予定だ)

そして、本大会はコロナ対策により、自由に大会が
開催・運営されている状況では無く、様々な自主規制
が課せられている。
本観戦記事の前編では、本大会に関わる様々なコロナ
対策の手法が記載されているので、来年以降での各種
大会の開催時にも、参考になれば幸いだと思う。

さて、本後編記事では、前編で全く記載できなかった
レースの模様について紹介していく事としよう。

また、記事後半では、滋賀県ドラゴンボート協会
(SDBA)が、今後の大規模大会の開催に備えて準備
している、ドラゴンボート専用の新しい「艇庫」に
ついても紹介をしておく。
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本1000m大会であるが、会場となる「琵琶湖漕艇場」
が改装工事中である為、昨年は開催が出来なかった。
(2019年の工事中止の他に、大会初期と2017年の
2回が台風で中止となっている)
まあ、今年もまだ改装途中ではあるのだが、大会を
実施する為の最低限の設備は使用可能な状態である。

では前回、一昨年(2018年)の本大会の結果
(レース成績)をここに記載しておく。

【オープンの部】
1位:池の里Lakers!(滋賀県)
2位:IHI相生(兵庫県)
3位:龍衛者(どらえもん)(滋賀県+愛知県)

注:「池の里Lakers!」(滋賀県、冒頭写真)は
本大会では、2009~2010年、2013~2016年が
全て準優勝で、「万年二位」だと(口の悪い私から)
揶揄されて(=からかわれて)いたのだが・・
2018年、ついに本1000m大会での初優勝を遂げた。

なお、「池の里Lakers!」の、この時点までの優勝
回数5回は、全て「ペーロン」と名前が付く大会で
あったので、この6度目の優勝が、初めての
「ドラゴンボート」大会での優勝である。

また、2位の「IHI相生」(またはチーム名が異なる
場合もある)は、2014~2016年が三連覇で、
2017年は台風中止であったが、四連覇を目指して
いた、長距離に滅法強いチームだ。(詳細後述)

3位の龍衛者は、滋賀の「龍人」(どらんちゅ)
と、愛知の「闘龍者」(とうりゅうもん)のコラボ
チームである。なお、その後の時期においては、
滋賀(龍人)+愛知(闘龍者)+静岡(うみひ)の
とても珍しい「広域コラボ」を組む時もあった。

【(男女)混合の部】
1位:琵琶湖ドラゴンボートクラブ(滋賀県)
2位:未来バケッ吹(大阪府)
3位:乗せてはさんでミックスSand(大阪府)

注:前回優勝の「琵琶ドラ」(滋賀県、連覇中)は、
本大会でもダブルエントリーしている。前編記事で、
本大会での「琵琶ドラ」の写真を複数掲載している。

なお、2位、3位のチームは、大阪府協会(OABA)
所属の複数のチームでの混成メンバーからなるが、
今回は、前述のように越境参戦自粛となっている。

【グランドシニアの部】
(注:例年、本大会に併設されているが、正式には
別の大会という扱いだ)
1位:Rスポーツマンクラブ(大阪府)
2位:池の里Lakers!(滋賀県)
3位:小寺製作所A(滋賀県)

注:今年はグランドシニア(大会)は中止である。
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なお、今年の本1000m大会は、コロナ対策の為に
滋賀県・京都府に本拠を持つチーム限定の参加と
なっている。(越境参戦を減らす為だ)
なので、本大会での強豪である、相生(兵庫)や
大阪のチームは、今回は参戦していない。

下写真は、地元滋賀県の「GPO」チーム。
今年からチーム旗を、メンバーのデザインの物に
変更したとの事だ。
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それと、上の入賞の表での各々のチームのタイムは、
あえて記載していない。その理由であるが・・

本会場は、下流の水門(やダム)等の開閉による水流
の影響を受けやすく、長距離戦(1000m)である事も
あいまって、毎年の大会で、20秒~最大50秒もの
(優勝/入賞)タイム差が生じる場合があるからだ。

また、今年はコロナ対策により、20人艇を用いた
10人漕ぎ(=漕手の社会的距離確保である)となって
いる。加えて、2年前の使用艇と今回の艇は、まるで
仕様が異なり、新型艇は重量も旧艇の1/3程度しか
無いので、ますますタイムの比較は意味が無い。
(下写真は、2年前の前回大会での使用艇)
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それと、本大会当日の、他の環境条件であるが、
2020年10月4日(日)の琵琶湖において・・

大津市の最低気温約20℃、最高気温約25℃
と、暑くも寒くも無く、快適な気候だ。
湿度は約70%前後、数字だけ見ると高いが、
蒸し暑いという訳では無い。
一昨年は、長袖の選手も多かったが、今年は、
ほぼ全員が半袖で過ごしている。

風速は約1m以下で、ほとんど無風である。

琵琶湖の水位は約-34cm(これは、この時期に
おいては、雨が多い「洪水期」であるから、
琵琶湖の基準水位は-30cm迄に調節されている)
この事は、あまりレースには影響は無いであろう。

会場下流の「南郷(瀬田川)洗堰」の放流量は、
約15立法m(トン)/秒(=非常に少ない)である。
また、さらに下流の「天ヶ瀬ダム」の放流量も
約15~16立法m(トン)/秒と、これも少ない。
(これらは、琵琶湖増水時や台風襲来前後等では、
約750立法m/秒と、50倍にも増える場合がある)

すなわち、瀬田川に殆ど放流していない状態であり、
琵琶湖の湖水は、その「全て」が瀬田川に集中して
流れていくから、そこが止まっているので、本大会の
会場においても湖水の流速は極めて遅い。
(=これは、レースの観点からは無視できる。
 すなわち、水流や風の影響は全く無い)

こういう環境条件(暑くて、水が流れていない)で
良く課題となる「藻の発生」は少なく、すなわち、
ボートにおける、パドル(櫂)や舵を「藻」に取られ
て遅くなる影響は殆ど無く、レースを実施できる。

つまり、ほとんどが理想的な環境条件な訳だ。

私も、長年(15年間以上)のドラゴン・ペーロン系
大会を観戦していて、数百の大会での、万に近い数
のレースを見てきてはいるが、ここまで条件の良い
大会やレースは珍しいと思う。

参加チームも運営スタッフも、ベテランばかりだし、
コロナ対策はともかく、レースの運用上においては
トラブルは全く起こりそうも無い。この分だと
レーススケジュールも、大幅に「巻き」(前倒し)
になる(順調に早く終わる)事が予想される。

(注:他の一部の大会では、イベントの商業的
観点(例:観客の集客)の面からも、あまりに
早すぎる終了は推奨されないケースがある。
(→せっかく大会を見に来たのに終わっている等)
ただ、本大会の意義や状況、しかもコロナ禍の中で
の開催であるから、早目の終了は、むしろ望ましい)
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本大会の(レースの)見所であるが、まず地域
限定(少数チーム限定)でありながらも、強豪の
ベテランチームが勢ぞろいしている点がある。

【オープンの部】(漕手の男女性別無関係)では、
「琵琶湖の三国志」と私が呼んでいる、地元強豪
の3チーム、すなわち、「池の里Lakers!」
(前回2018年大会優勝、冒頭写真)および、
「小寺製作所」と「龍人(どらんちゅ)」
(注:本記事2枚目の写真で、後者2つのチーム
が直接対戦)が勢ぞろいしている。

「琵琶湖の三国志」は、過去十数年間の間、
琵琶湖での、各ドラゴン&ペーロン系大会において
数々の名勝負を繰り広げ、その中には後年にまで
語り継がれる「激闘」のレースもあった。

「びわ湖高島ペーロン大会」では、数年前の3年間で
上記の3チームが順番に優勝、という事もあった。
その当時の同大会では「優勝チーム予想(投票)」
という制度があったのだが、私もそれに投票するのに
毎年、それら3チームの名前を順次書いた事もある。

1度、「池の里」に投票した大会では、見事的中と
なったのだが、「正解者の中から賞品は抽選」と
なって、数回の抽選の当選者が、全員「池の里」の
選手達となって、「インチキだ~! 選手は権利
無しだろう!?」と、冗談で文句を言った事もある。
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さて、で、本来この大会では、過去3連覇を遂げた
超強豪「IHI相生」(兵庫県)が、オープンの部に
参戦していれば、さらに大会は混戦模様となって
観戦の立場からは興味深いのだが、あいにく前述の
ように、コロナ対策で「滋賀県・京都府」チーム限定
大会であるから、「IHI相生」は今年は不参加である。

「IHI相生」(2つ上の一昨年大会での写真)は、
そのチーム名の通り、兵庫県相生地区出身である。

その地域で、百年以上もの長い長い伝統を持つ
「相生ペーロン競漕」での、最初期からの立役者で
あり、現在においても、依然、同大会での「Ⅰ部」
(=実力入れ替え制での最上位カテゴリーである。
サッカーJリーグにおける、J1/J2のようなものだ)
に位置する強豪チームだ。

「相生ペーロン競漕」は、決勝900m戦の長丁場で
あり、同大会の伝統的な使用艇は大型で舷側が高く、
それを速く漕ぐには、漕手達はパドル(櫂)を
高い(舷側の)位置から、ほぼ垂直に水面(海面)
に落とし込むように入水し、そこから、思い切り、
後ろに引き、それを推進力とする漕法、いわゆる
「ストローク漕法」である事が有利な模様だ。

(注:これを、個人的には「相生ペーロン漕ぎ」と
呼んでいる。「相生ペーロン競漕」での強豪チーム
かつベテランの選手達(非常に長期に渡り、同大会に
参戦を続けているチーム)の中には、そういう漕ぎ方
をする漕手達が多い。まあ「IHI相生」は、その代表格
のようなチームである。

下写真は、一昨年2018年に本会場で開催された
「グランドシニア大会」に出場した「IHI相生」の
ベテラン漕手達による「相生ペーロン漕ぎ」の模様。
非常に高い位置からバドルを入水する特徴的な漕法だ。
同チームにおいても、若手の選手達よりベテラン選手
で特に、この漕ぎ方の傾向が強い)
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これは、近代におけるドラゴンボートとは対照的だ。
ドラゴン艇は舷側が低く、しかも、レースは短距離戦
(200~250m)が多く、漕手達は、やや前傾姿勢から
手数を多く繰り出して速い回転数で漕ぐ「ピッチ漕法」
が主流となっていて、ペーロン漕ぎやストローク漕法
とは、ずいぶんと異なっている。

で、本大会は、国内ドラゴンボート大会最長の
1000m大会である。
現在ドラゴン界で主流の、手数で漕ぐ「ピッチ漕法」
では、この長距離(時間は、およそ5分間にも及ぶ)は
正直、選手達の体力や瞬発力は持たないであろう。

よって、基本的には、長時間、安定した漕ぎが出来る
ペーロン漕ぎやストローク漕法の方が、本大会では
有利なのだと思われる。

事実、「琵琶湖の三国志」のような、ベテランチーム
であっても、本大会への参戦を開始した十数年前では、
皆、「ピッチ漕法」で長距離を漕ぎきろうとしても
持久力が持たず、1000m戦の終盤では、ヘロヘロと
なって、見るも無残な状態であった。


しかし、そこから10年以上が経過し、選手達は皆
年齢を重ねて体力も落ちているはずなのに、むしろ
終盤でもペースは落ちず、トータルでのタイムも
(水流の影響は強いが)平均的には向上している。

それは何故か? 恐らくだが、彼らは長距離戦に向く
漕法に、少しづつ改良していっているのであろう、
その究極は(相生)ペーロン漕ぎなのだろうが・・
「琵琶湖の三国志」が、ペーロン風漕ぎを取り入れて
いける理由の1つとしては前述の「高島ペーロン大会」
の存在が大きい。その、高島ペーロンでの使用艇は、
相生ペーロン艇を参考に、少しだけスケールダウンの
設計をした中大型艇であるからだ。

で、高島ペーロンでは「琵琶湖の三国志」チームは
参戦初期は、ヘロヘロの漕ぎであったのだが、数回の
出場後は高島ペーロン艇にも慣れ、それぞれ3チーム
とも毎年順次優勝した事は、前述の通りの歴史だ。
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(参考:上写真は、2018年の「高島ペーロン大会」
における、「伝説」とも言われる、「三国志」チーム
の準決勝戦および決勝戦の熱戦より。→未公開写真)

また、琵琶湖で行われる様々なボート系の大会は、
大会毎に、大きく使用艇の仕様(構造やサイズ等)が
異なる。だから、きっと「琵琶湖の三国志」チーム
等は、艇の種類、あるいはレースのレギュレーション
(例:レース距離や、直線のみかターン有りか?等)
に応じて、漕ぎ方を変えていくスキル(技能)を、
長年の各種の大会の参戦により、意識的か無意識か、
習得していっているのだと思われる。

これは、各(三国志)チームのレースの模様を、過去
十数年間での、百を超える彼等の参戦大会における
千を超えるレースの観戦撮影を、私は続けているので
だいたい、そんな様子である事がわかる訳だ。
(が、もしかすると、彼等は気付いていないかも・・)
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本大会における【オープンの部】は、この三国志
チームを中心とする優勝争いが、大きな注目点だ。

(参考:三国志チーム中、「池の里」のみ本大会で
優勝経験があり、「小寺」と「龍人」は未勝利だ。
特に「小寺製作所」(上写真)は、長距離戦に苦手
意識がある模様だが、他大会での500~600mの
中距離戦で「小寺」は複数回の優勝経験があり、単に
「長距離が苦手」という感覚だけなのかも知れない)
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【混合の部】(男女各4名以上の配分)
では、連覇中の「琵琶湖ドラゴンボートクラブ」
に注目だ。(上写真)


ただし、今回は「琵琶ドラ」はダブルエントリー
(2チームでの分割参戦)となっているので、漕手の
パワー配分にも影響があり、そもそも女性漕手の比率が
とても高い模様だ。
どちらかと言えば、連覇を狙うというよりも、純粋に
参戦を楽しむ、という雰囲気が見られる。
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「琵琶ドラ」に対抗するのは、京都府から参戦の
「すいすい丸」(上写真は、昨年11月の宇治川
体験乗船会から採用している、新ユニフォーム。
今年は大会が無かったので、初お披露目だ)である。

「すいすい丸」は、近年での急成長チームであり、
「日本選手権」クラスの大会でも上位に入賞できる
実力値をつけてきている。あと少しで「日本一」
という状況だ。実は、ここからがなかなか難しいし
さらには、日本一となった後、いったい何を目標と
するかも難しい(まあ、「世界」という選択肢は
あるだろう)

で、私の記憶が間違っていなければ「すいすい丸」
は、本1000m大会に初参戦ではなかっただろうか?

「すいすい丸」は例年5月の宇治川大会から始まり
シーズンを通じて活動(練習)や、大会参戦を
行う「専業チーム」ではあるが、どうも、参戦する
大会を絞って、そこに集中しているように見える。
つまり、参戦した大会では、必ず上位に入賞できる
ように、と練習や調子を上手くコントロールして
いるように見受けられる。

1000m戦は、ちょっと変則的だし(前述のように
漕ぎ方も異なる)、チームの調子全般、すなわち
漕ぎのペース(配分)や、フォーム(漕ぎ方)を
乱してしまうからかも知れない。
だが、今年はそんな事は言っていられない、他に
大会は無いからだ。

で、基本的な実力値が高い「すいすい丸」が
参戦した事で、「琵琶ドラ」との一騎打ちが見所と
なっている事は、観戦側の視点では好ましい。

なお、滋賀県(や京都府)には多数の企業チーム、
団体チーム、地域チーム、学生チーム等が存在し、
例年8月の「びわこペーロン大会」では、それらが
非常に多数参戦している。中には、ここ数年で大きく
実力値が上がったチームもあり、ドラゴン専業
チームに混じって決勝戦に進出するケースもあった。
(非専業チームの入賞はあるが、優勝はまだ無い)
また、「びわこペーロン」に留まらず、他地域の
大会にまで参戦範囲を広げる企業チーム等もある。

しかし、それらのチームは今回は未参戦である。
恐らくだが、(大)企業等では、社内でのコロナの
集団感染防止の対策として、密や社外イベントへの
参加を制限しているケースが多いのではなかろうか?
どこかのイベントに参加し、もし感染したせいで、
企業が操業停止ともなったら、目も当てられない。

また、滋賀県の某大学等でも、今年いっぱいは、
遠隔授業(Web配信)となってるケースもあると聞く。
だから、学生等もまだ、チーム活動やイベント参加を
再開できていない状態だと思われる。

ちなみに、この件は、大学等では、新しい授業形態
に移行できるチャンスかも知れない。いままでは
大学に通学し授業を聞く為に学生の数は制限せざるを
得なかったのが、遠隔授業であれば、日本全国や海外
からも非常に多数の受講生の存在が成り立つ訳だ。
大学側にも学生側にも利点がある話であり、今後の
大学のありかた(スタイル)を変える話かも知れない。

まあ、そんな訳で企業、学生、団体等のチームは
本大会には不参戦である。

----
さて、本1000m大会においては各カテゴリーで、
各チーム2本を漕いで合計タイムで競う
「2回戦制」が採用されている。
長距離戦なので、何度も漕げる訳ではなく、
「決勝戦」等のレースフローは省略されている。

初期の本大会(10数年前)では、重複出場で
都合4度も漕いだ(往復で計8000m!)選手も
居たのだが、若手だったので、なんとかクリア。
各チームメンバーが、やや高齢化している現状
では、ちょっとそれは酷な話であろう。

【オープンの部】のレースだが、順調に
昨年の覇者「池の里Lakers!」が、1回戦、
2回戦ともに、他チームを寄せ付けない4分台
のタイムで(他のオープンの部チームは、いずれも
5分台)独走模様で優勝(二連覇)である。
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「池の里」は、コロナ期間中も自主練習等を
欠かさなかったのであろうか? あまり体力等
の衰えを見せない漕ぎであった。

2位争いが微妙だ、「龍人(どらんちゅ)」と
「小寺製作所」が、2回戦ともに5分10秒台の
タイムで僅差となっている。ここは集計を行う
必要があるが、「龍人」が僅かに速そうだ。
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【(男女)混合の部】だが、連覇を狙う地元
「琵琶湖ドラゴンボートクラブ」「琵琶湖龍舟」
のダブルエントリー(分割二チーム参戦)に
対抗するのは、京都府から本大会初(?)参戦の
「すいすい丸」である。

「すいすい丸」(上写真)は、長距離戦には
やや不利と思われる前傾姿勢からの「ピッチ漕法」
でチャレンジする。基礎体力があり、コロナ期間
中でも基礎練習が出来ていたからだろうか? この
状況のまま、見事1000mを漕ぎきっている。

この為、(男女)混合の部としては異例のタイム
である4分53秒をマーク、池の里の最速4分52秒
には僅かに及んでいないが、このメンバーのまま
オープンの部に出たとしても、優勝争いに絡んで
来れた事であろう。

ただ、ピッチ漕法のままで1000mを漕ぎきるのは
相当に体力(持久力)的に無理をしている状態
だと思われる。しかし、楽をしようと、他の
フォームや漕法に転換するのは、この大会だけの
為の特殊な措置であるから、あまりチームとして
見れば得策では無い、つまり「乱れてしまう」
からだ。

これの対策としては、前述の「琵琶湖の三国志」
チームのように、多種多様の琵琶湖の大会の
レギュレーション(ルールや使用艇の差)に
合わせて柔軟に漕法を変えていかなくてはならない
のだが・・ 出場する大会を絞り、日本一を目指す為
に最適の漕法を編み出そうとしている「すいすい丸」
にとっては、あまり有益な方法論では無いかも
知れない。あくまで、短距離(スプリント)で最速
を目指し、特化した漕法の方が望ましいと思われる。
_c0032138_12123775.jpg
これで「すいすい丸」が見事に優勝(上写真)
以下、混合の部の2位、3位には「琵琶ドラ」の
2チームが入った。

なお、2位の「琵琶湖ドラゴンボートクラブ」
は、仮に、オープンの部に出場していても、
やはり2位の高成績であった。

長距離戦では、男女の体力差は縮まるので
あろうか? いや、やはりコロナ休止中での
(自主)練習量の差異が結果を左右している
ように思えてならないのだが、そのあたりは
選手達自身にしかわからない事だ。
_c0032138_12123745.jpg
もう一度結果をまとめておく。

2020年10月4日(日)  
第14回びわ湖ドラゴンボート1000m選手権大会

【オープンの部】
1位:池の里Lakers!(二連覇)
2位:龍人
3位:小寺製作所
特別賞:GPO

【混合の部】
1位:すいすい丸(本大会初優勝)
2位:琵琶湖ドラゴンボートクラブ
3位:琵琶湖龍舟
_c0032138_12124494.jpg
表彰式(兼・閉会式)は、上写真のように
各チームの代表者のみ召集されて、チーム
全員は集合しない、勿論「密」を防ぐ為である。
_c0032138_12124416.jpg
オープンの部2位の「龍人」の表彰式の模様。
わずかに「社会的距離」を意識しているようだが
気のせいか? まあでも、常に社会的距離を保つ
事は重要だ。


下は、同「龍人」の受賞後の集合写真。
_c0032138_12124476.jpg
こういう場合は、社会的距離は、もう守る事が
困難であるが、「チームは家族同様」という風に
解釈しておこう。 

異チーム間では、感染拡大予防の為、社会的距離
の遵守が望ましい。
_c0032138_12124540.jpg
さて、大会も無事終了し、この会場から300m
ほど南(下流)にある、SDBA(滋賀県協会)
新艇庫に向け、選手有志が艇を回航させている。
_c0032138_12125128.jpg
こちらが、艇庫の左半分。10人(スモール)艇
が9艘(他にもう1艘)と、なかなかの壮観で、
まるで「サンダーバード秘密基地」である(笑)
_c0032138_12125198.jpg
同、新艇庫の右半分。20人艇5艘+10人艇1艘、
が保管されている。

下から1段目、2段目は、人力で出し入れする
事が出来るが、最上段は、人の力では上がらない
為、別途クレーンが設置されていて、それを
用いて最上段にまで上げ降ろしをする。

来年以降の各大会で、これらの豊富な軽量艇が
デビューする事となるだろう。非常に恵まれた
環境だと思う。

それと、艇庫から琵琶湖までは数十mの距離では
あるが、軽量級とは言え、重たい艇を移動するので、
完全な人力だけでは、やや苦しい。

一応、艇庫には台車が1つだけあるのだが、
他地区、例えばODBA(大阪府協会)では、色々な
サイズ(高さ)の台車を準備していて、それらに
順次、艇を乗せ変えながら効率的な移動や出し入れ
を行えるようになっているので、参考まで。

また、艇の出し入れでは、FRP製の素材では、
船体の破損等の起こる確率も高い。
せっかくの新しい艇だ、メンテナンス(修理)
体制も整えておくのが望ましいと思われる。

----
では、本記事はこのあたりまでで。

今年は、もう1つだけ大阪の大会の実施が
予定されている。無事、開催と観戦が出来れば
また、記事で紹介する事としよう。


特殊レンズ・スーパーマニアックス(46)CANON New FD F2レンズ

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズをカテゴリー別に
紹介している。
今回は「CANON New FD F2レンズ」という主旨での特集だ。

1980年代のCANON製New FDレンズにおいては、開放F値が
F2のレンズは6本存在するが、その内の5本を紹介しよう。
_c0032138_14122426.jpg
なお、個々のレンズは全て過去記事で紹介済みであるので
本記事では、個々のレンズ毎の出自や評価等は最小限とし、
(New)FDレンズ全般の話を中心とした記事とする。
(注:(New)と括弧書にしている理由は、追って説明する)


----
ではまず、最初のシステム
_c0032138_14123739.jpg
レンズは、CANON (New) FD24mm/f2
(中古購入価格 30,000円)(以下、NFD24/2)
カメラは、FUJIFILM X-T10 (APS-C機)

1979年発売のMF単焦点広角レンズ。

まず、今回紹介するレンズは、全てMFレンズである。
1987年からCANONはEOS用EFマウントでAFに移行するが、
これらの(New)FDレンズは、その直前の時代の1980年代
前半に展開されたCANON MF時代での最終マウントである。

それと、近年のCANONの公式Webサイト「CANON CAMERA
MUSEUM」では、CANON製レンズの型番(FD、EF等)と
焦点距離の間に空白(スペース)を空けずに記載されていて、
同サイトでレンズを検索する場合も、空白ありのレンズ名称
の入力は(何故か)無効になってしまう。

(「FD24mm」と入力必須。「FD 24mm」では検索されない)

ただし、レンズ上の表記は、本レンズの場合では、
「CANON LENS FD 24mm 1:2」となっているので、
(注:他の(恐らく)全てのCANON製レンズの実物でも、
型番と焦点距離の間には、空白(スペース)がある)
何が正解なのか? 全くわからない。

まあ、「公式Webが全て間違っている」あるいは「Web
製作者が空白の有り無しの両対応を実現できなかった」
と見なすのが妥当ではあろうが・・ もしかるすると
「今後は、それ(空白なし)を正式名にしたい」という
メーカー側の意図もあるかも知れず、良くわからない。
以降、本記事では正確性が無いままの記載としておく。

(注:CANONに限らず、近年のNIKONのWebでも過去の
Ai型レンズを全てAIと記載したり、他にも大文字小文字
の区別やハイフンの記載が、実物とは異なる状態が頻発
している。Web製作者が実機を見ずにHTMLを記載し、
かつ誰もWeb情報の正確性をチェックできないまま、
それが公開されてしまうのであろう。で「公式Webだから

それが正解だ!」という視点から、(中古)流通市場や
他のWebでも、そうした情報を引用し、誤った情報が
どんどんと拡散されていく。まあ、残念な話である・・)
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本NFD24/2だが、旧来のFDマウント時代(概ね1970年代)
においては、24mmの焦点距離のレンズはF1.4版とF2.8版
が並存していたがF2版は無い。で、恐らくはF1.4とF2.8
の両者の価格は、ずいぶんとかけ離れていたと想像され、
New FDでF2版を設け、中間ラインナップを埋める戦略を
取ったのであろう。
(追記:後日調べた所、FD24/1.4が定価18万円、
FD24/2.8が定価3万円、NFD24/2が定価7万1000円)

さて、FDとNew FD、そして、さらに古いマウントである、
FLやRマウントのレンズは、何処が違うのであろうか?
実は、ここを語りだすと物凄く長くなってしまう(汗)
本記事では、ごく簡単に述べて置こう。

R :1950年代~1960年代前半のマウント、個人的には
  古すぎて実用価値無しとみなし、1本も所有していない。
 (所有していないので、詳細については割愛する。
  なお、2018年からのEOS RFマウントとは勿論別物だ)

FL:1960年代のマウント、スピゴット(締め付け)式。
  自動絞り(開放測光)には対応していたが、絞り込み測光
  方式である。前後の時代のRやFDとのマウント形状互換性は
  一応あるのだが、やや特殊な構造の為、完璧な互換性は無い。

  私は数本のFLレンズを所有しているが、FD初期の機体、
  CANON 旧F-1(1971年、銀塩一眼第1回)や、同時代の
  CANON FTbであれば、かろうじて使用できたのだが・・

  その後の時代のFD/NFDマウント機では、絞り込み測光が
  面倒で、AE(自動露出)にも対応していなかった為、
  FLレンズは、だんだんと使わなくなっていた。

  デジタル時代に入ると、これらFL/FD系レンズは、その
  フランジバック長の短さ(42mm)が仇になり、補正レンズ
  入りのマウントアダプターを介してしか使用できず、それは
  大幅な画質劣化を伴う為、事実上使用不能となってしまった。
  
  2010年代に入ると、ミラーレス機の普及により、FD系の
  マウントアダプターも販売されるようになった。しかし、
  過去記事「ミラーレス・マニアックス」の執筆の為に
  FLレンズを、およそ20年ぶり位に使おうとしたら、上手く
  マウントアダプターに装着できず、紹介を断念している。
  まあ、アダプターの種類によっては装着可能かも知れないが
  あまり試していない。ともかく古い時代のレンズであり、
  現代での実用価値は殆ど無い、と見なしているからだ。  

FD:1970年代のマウント、F-1(1971年)の発売に合わせて
  レンズはFDにリニューアルされた。スピゴット式は旧来と
  同様だが、AEに対応していて、後年の「両優先AE機」
 (例:CANON A-1、1978年)でも使えるという先進性が
  あった。(注:恐らく一部のFDレンズのみ両優先対応)

  FLやFDの意味(何かの略)は不明、もしかするとDは、
  両優先を目指したネーミングだったかも知れないが、
 (注:MINOLTA MDレンズのDはその意味だ)今となっては
  情報も殆ど残っておらず、詳細は不明だ。

  また、このFDレンズの時代からマルチコート化が始まり、
  無印、S.C.、S.S.C.などのコーティング仕様の差を表す
  略語がレンズ型番(名)に付けられている。
  まあ多層コート仕様のS.S.C.が優秀であるが、この名前が
  付く事だけで、中古相場がプレミアム化していたという、
  あまり好ましくない状況もあった。

  この時代、PENTAX等では、SMC仕様コーティングにより、
  多層コートは当然のスペックであり、これはCANONのS.S.C.
  と同等だ。だからCANON S.S.C.レンズに、特に性能優位性が
  ある訳ではなく、それでいて中古相場が高い事は個人的には
  納得がしずらく、S.S.C.銘レンズは殆ど購入していない。
  
  なお、この時代には各社から薄型(パンケーキ)レンズが
  発売されていたが、CANONではそれが1本も無かった。
  恐らくは、FD系レンズの複雑な構造は、当時としては小型
  化や、その際のAE化が大変困難であったのかも知れない。

  それと、FDレンズや次の世代のNew FDレンズは、レンズ
  単体においては絞り羽根の動作が確認できない。その為に
  中古購入時には注意する必要がある。その詳細は後述しよう。

New FD:1979年~1980年代のマウント。
  本記事で紹介のレンズ群の時代。
  New F-1(1981年)の発売に合わせてのリニューアルでは
  無く、その数年前からの発売開始だ。

  ボタンを押してレンズ交換が出来るようになったが、
 (注:この方式の、公式または一般的な呼称は無い)
  これは、旧来のスピゴット式(締め付け)マウントでは、
  レンズ脱着の利便性が悪い事に加え、恐らくだがレンズ
  とカメラ本体との間の情報伝達(例:開放絞り値等)や
  自動絞り機構等に課題があったのを改良したのであろう。
  新方式であれば、レンズとボディの装着は一定に収まる。

  なお、CANONでは、この時代以降はスピゴットマウントは
  生産していないが、世の中からそれが無くなった訳では無く
  TAMRONアダプトール2のFDマウント品は、スピゴット式で
  あったし、さらに後年でも、2000年代初頭のコシナ製
  フォクトレンダーSLレンズのFDマウント版もスピゴット式
  であった(恐らく、こちらが最後のスピゴット式だろう)
  
  ・・で、この時代では、多層コート仕様は当たり前と
  なったので、S.S.C.等の表記は「廃止」された。
  また、従前の1970年代ではOLYMPUS M-1/OM-1(1972)
  やPENTAX MX(1976)の小型軽量一眼レフがヒットし、
  各社でも一眼レフやレンズの小型化が推進された。
  FDレンズではφ55mmのフィルター径を持つ物が多かった
  のだが、New FDレンズでは、小型化に伴いφ52mm径の
  フィルターサイズである場合が大半だ。(注:勿論だが、
  大口径レンズや特殊なレンズを除く)

  なお、レンズシリーズ名は、正式にはNew FDでは無く、
  従前と同じ「FD」レンズである、何故名前を変えて
  いないのか?には理由があり、そこは後述する。
  だが、同じ名前では、消費者や流通(市場)は区別が
  出来ずに困ってしまう。だから、便宜上、新レンズは、
  New FD、ニューFD、NFDといった名称で区別された。
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さて、本NFD24/2の話に戻って、その描写力であるが、
New FDのF2級レンズは、絞り込むと解像感等の描写性能に
優れるものが多いが、逆に絞りを開けると、ボケ質破綻を
始め、なんだかボケ質が妙な雰囲気となる場合が大半だ。

これは、これらのレンズの設計コンセプトによるものかも
知れず、New FD最大級の開放F2の大口径化に際して、
そこで解像力に係わる球面収差やコマ収差、色収差の補正等
を優先的に行うと、どうしても像面湾曲や非点収差の補正が
苦しくなってくる。だからボケ質を犠牲にしたコンセプトの
設計である可能性が高いが、せっかくの大口径レンズなのに
ボケ質が悪いのは、ちょっと困ったものだ。
なお、多くのNew FD F2級レンズで、同様の課題を持つ為、
ラインナップ全体で、そういう設計思想で固めたのであろう。

私が所有していないF2級レンズはCANON New FD50mm/f2
(1980)の1本のみであるが、これは、極めて近いスペックの
New FD50mm/f1.8(1979)(ミラーレス第74回記事等)を
所有している為、購入を見送っていたのだ。そして、それら
CANONのMF時代の標準レンズ群は、全てを網羅するのが大変
困難であるほど、非常に種類が多い。(本シリーズ第35回
記事、CANON新旧標準レンズ編参照)
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で、本NFD24/2については今回の記事では、絞り込んだ
パンフォーカス撮影と、エフェクトを用いた写真のみを
掲載している。そこには、そのボケ質の課題の回避の意味も
あるし、現在、FD系レンズの主な母艦としているFUJIFILM
のミラーレス機が「精密なピント合わせに向かない」という
課題を持つ為、それを回避する意味もある。

マニア等で、多数のカメラやレンズを所有しているのであれば、
その組み合わせは「いい加減」ではなく、各々の長所短所を
良く考察し、最適なシステム(=弱点相殺型システム)を組む
必要がある。

だが、その決定は大変難しく、上級マニア層でも非常に困難で
あるとは思うが・・ かといって、全く逆に、初級マニア層等が
カメラとレンズの組み合わせにおいて、お互いの欠点を助長する
ような不適切なシステムを組んでるのを見ると、カメラとレンズ
の事が何もわかっていない様子で、極めて格好悪い。
マニアと言うならば、機材の事は、もっともっと深く考察する
のが望ましいであろう。

さて、個々のレンズの話は最小限に留め、ここでシステムを
交替する。
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レンズは、CANON (New) FD100mm/f2
(中古購入価格 19,000円)(以下、NFD100/2)
カメラは、FUJIFILM X-T1 (APS-C機)

1980年発売のMF単焦点中望遠レンズ。
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ボケ質の汚いレンズである。ボケ質破綻の回避も困難であり
使いこなしが非常に難しい。小型化と大口径化の両立の
弊害が如実に出てしまっているようにも思えてならない。

逆に旧型FDでの小口径版、CANON FD100mm/f2.8は、
そのあたりの配慮は余り必要が無く、多くの撮影条件で
安定した描写力が得られる。それ故に、ミラーレス・
マニアックス名玉編第1回記事で、オールドレンズ
ながらも、総合第19位にランクインしている次第だ。

旧型で小口径版の方が、新型の大口径よりも優れるという
のも、あまり納得がいかない話ではあるのだが、まあ、
この組み合わせ以外にも同様な実例はいくつもある。

必ずしも、新しいレンズや開放F値が明るいレンズの方が
描写力に優れる訳では無い、という事実は、初級中級層で
あれば必ず知っておかなくてはならない。

(注:本レンズは、かなり古い時代の、Rマウント版の
100mm/F2を復刻させたのではなかろうか?との推察も
している。しかし、確証は無く、そうする理由も不明だ。
だが、同じ1980年頃には、本レンズ以外にも、かなり
昔の時代の設計の望遠ズームレンズを、New FD版として
発売した実例もあり、ますます、その理由が不可解だ。
・・・まさか、それらの古い時代のレンズの設計者が
お偉いさんに昇進したから、それの、お祝いとして、
とかの理由では無いと思うが・・)
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まあ、低性能な本レンズの説明は最小限にとどめ、
New FDレンズに係わるエピソードの話を続けるとしよう。

New FDが何故、公式には「FDレンズ」であるか?の理由だ。

まずそれを知る為には、少し時代を遡らなければならない・・

1959年、NIKONは旗艦機「NIKON F」を発売し、高級一眼レフ
市場に確固たる足場を築いた。

CANONもほぼ同時期に一眼レフ、キヤノンフレックスを発売した
のだが、性能差や商業的な面において、1960年代を通じ
CANONの一眼レフは低迷し、NIKONとの差は開く一方であった。

この状況を打開する為に、CANONは約5年の開発期間をかけ、
CANON初の本格的旗艦機「F-1」が発売された。1971年の事だ。
(銀塩一眼レフ・クラッシックス第1回記事参照)

だが全く同じ年に、NIKONからも旗艦F2が発売されている。
(銀塩一眼レフ・クラッシックス第2回記事参照)

この頃のCANONは、NIKONを激しく意識していた事であろう
F-1の発表(発売)時に、CANONからは、とても有名な2つの
アナウンスがなされた。それが以下である。

1)今後10年間は、このF-1を変えない。(この機種で通す)
2)この機種が存在する限り、名前はF-1である。

この2つの「公約」は、マニア層等ではあまりに有名であり、
その後、数十年が経過しても、ずっと語り継がれていた。

内「10年間不変」については「フラッグシップ10年間隔説」に
話が拡張されていき、つまり「各社の銀塩旗艦機の発売間隔は、
およそ10年間である」という市場での認識となった。

ただし、CANON自身はこの公約を守り次機種New F-1は1981年
の発売となったが、NIKONでは10年間説に従っていた訳では無い。
その後、銀塩一眼レフはAF化の時代を迎え、そんなにのんびりと
10年も旗艦機を持たせられるような状況では無くなったからだ。

もう1つの「F-1で通す」という話だが、これは同時期発売の
NIKON F2が、FからF2に名前が変わった事への、完全なる
対抗意識であろう。

「10年不変」の話で、記者や関係者等から「では、次の機種は、
F-2になるのですか?」と聞かれたのかも知れず、それでは
まるでNIKONの後追いだ。なので、そこで弾みで「F-1で通す!」
と言ってしまったのも知れない(注:あくまで推測だが、まあ
有り得る話だ)

で、この「F-1で通す」の公約があったから、次機種New F-1
も、CANONでの公式には「F-1」という機種名である。
(銀塩一眼レフ・クラッシックス第9回記事参照)

でも、同じ名前では、市場や流通やユーザーは区別が出来ず
困ってしまう。だから、たいていの場合には新機種の方は
New F-1またはNF-1と呼ばれて区別されている。恐らくだが
説明書とか梱包箱や出荷伝票とかにも、「ニュー」等と明確に
区別されていた事だろう、「F-1」と書いてあるのはカメラ本体
だけの話である(まあ、下手をすれば、開発や製造や営業等の
現場の人達は”お偉いさんが「F-1で通す」と言ったから・・”
と、ブツブツ文句を言いながら作業をしていたのかも知れない)

で、New FDレンズも、これと全く同じ理由である。
(旧)F-1と同じ1971年にFDレンズが出来たから、これらは
一心同体だ、上記の2つの公約は、レンズにも影響が大きい。

そして、New FDレンズが出来た頃(1979年)には、もう次の
新F-1が発売されるであろう事は明白であったから、
カメラの名前が変わらないのならば、まさかレンズだけ
「New」と付ける訳にはいかない(汗)ここも、もしかすると
現場では文句を言いながらも、説明書や伝票だけに、Newの
文字を入れるか、あるいは「New」のハンコを押して対応して
いたのかも知れない訳だ。

なので、New FDレンズが存在しない、というのは、あくまで
CANONのF-1発売(発表)時の、勇み足的な「公約」から
来ている訳だ。

それと、そんなドタバタがあった事で、CANONにおいては
「過去の時代のカメラ名やレンズ名の正確性が保証されて
いない」という社風が残ってしまったのではなかろうか?
だから、前述の公式Webの「CANON CAMERA MUSEUM」
でも「カメラやレンズの名称が実物(実機)とは異なる」
という不条理が見逃されてしまっているのかも知れない。

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さて、ここで、またシステムを交替しよう。
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レンズは、CANON (New) FD35mm/f2
(中古購入価格 10,000円)(以下、NFD35/2)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

1979年発売のMF単焦点準広角レンズ。

8群10枚と、当時では、やたら複雑なレンズ構成だ。
後年のEFマウント版のEF35mm/f2(1990年、5群7枚、
ミラーレス・マニアックス第58回参照)とは、仕様は
似ているが、全くの別物のレンズである。
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本レンズの写りは悪く無く、何故AF化(EF版)に際して
レンズ構成を大幅に変えたのか? は、良くわからない。
まあ、FDから完全にマウントが変わった新規のEOS機を
普及させる為のコストダウンの要素もあったのかも知れない。
CANONでは同じ1990年には、やはりEOSの普及を意図した
史上初とも言える「エントリーレンズ」(匠の用語辞典
第9回記事参照)EF50mm/f1.8Ⅱを発売しているのだ。

(追記:EF50/1.8Ⅱは、近年に中国のYONGNUO社
から、コピー製品のYN50/1.8が発売されている。

同様にEF35/2にも、コピー製品のYN35/2が存在
している。すなわち、EF50/1.8ⅡやEF35/2は
海外(中国生産)とした、コストダウン型の製品で
あったのだろう→レンズマニアックス第35回記事予定)

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さて、ここからまたNew FDレンズの話に戻る。

New FDレンズでは、24mm/F1.4および50mm標準と
85mmの大口径レンズを除いては、各焦点距離の
ラインナップにおいて、 開放F2が最大口径である。


このラインナップは、当時のオリンパスのOM-SYSTEM用
レンズと同様である。恐らくだが、標準レンズ等を除いて
は、当時の技術において、描写力と開放F値を両立させる
バランス点は、開放F2であったと推測される。
つまり、それ以上明るい(大口径)レンズを作ったと
しても、諸収差が大きく、描写力が悪くなったのであろう。

でも、今回紹介の5本の開放F2レンズも、必ずしも
描写力が高いとは言い難いものもある。まあ解像感だけ
であれば及第点であっても、ボケ質がかなり汚かったり
するケースもある訳だ。
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New FD F2級レンズに共通する弱点と言えば、少し
前述したように、そのボケ質である。

光学的な話をするならば、像面湾曲および非点収差の
補正が上手く行き届いていない。
まあ、こういうレンズは、この時代以前には各社とも非常に
多かった。ここも想像だが、レンズの解像力を高める為に
球面収差、コマ収差、色収差を抑える設計とし、さらに
歪曲収差も抑えようとすると、像面湾曲および非点収差
の補正までは無理で、やむなくボケ質を犠牲にしたので
あろう。

あるいは、FD、およびNew FDレンズでは、レンズ毎の
カラーバランスを整える措置が行われたとの事だ。
(勿論、この時代にカラーフィルムが普及したからだ)
これは、それ以前の1960年代等の時代のレンズでは、
レンズ交換をすると、レンズ毎に色味の傾向がバラバラに
なってしまった問題を解決しようとした訳だ。
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で、あらゆる面で完璧な性能のレンズを設計する事は、
とても困難か、又は不可能な話である。
現代でこそ、コンピューター設計や新硝材・新技術により
諸収差を徹底的に排除した性能を持つ新鋭単焦点レンズも
いくつか発売されてはいるが、それらは大抵、大きく、重く、
高価、という「三重苦」レンズとなっている。

ハンドリングもコスパも、ある意味「性能」であるから、
いくら描写力だけが優れていても、使い勝手が悪かったり
高価であったりすれば、それらは「弱点」となり、やはり
これら新鋭レンズも「完璧な性能だ」とは呼び難い。

まあつまり、設計上や企画上で、レンズの、どの性能に
重点を置くかは、いつの時代においても、その時代環境を
考慮しつつ、設計者や技術者が考えなければならない事で
あり、その為に、何かの要素を優先すれば、別の何かが
犠牲になるのは、やむを得ない場合も多い。
この事は、一般に「トレード・オフ」と呼ばれ、光学や
技術の世界に限らず、どんな分野であっても起こる事だ。

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さて、ここで、またシステムを交替しよう。
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レンズは、CANON (New) FD28mm/f2
(中古購入価格 18,000円)(以下、NFD28/2)
カメラは、FUJIFILM X-E1 (APS-C機)

1979年発売のMF単焦点広角レンズ。

残念ながら、このレンズは経年劣化で描写力を落として
しまっている。詳細な原因は不明であるが、カビの発生
またはレンズ・コーティングや接着の劣化であろう。
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少しでも逆光状態になっただけで、フレアが発生し、
コントラストが大幅に低下してしまう。
なので、本レンズの実写掲載も最小限としよう。

銀塩時代に使っていた際には、良く写るレンズだという
評価だったので残念だ。しかし修理をする気は全く無い、
現代においては、もっと良く写る28mm広角は、いくらでも
存在するので、今更、という気がするからだ。

まあ、2000年代(デジタル初期)にFD系レンズを長期間
使えない時期があった事も災いして、劣化を助長して
しまったのだろうか・・
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全般の話に戻って、そのFD系レンズの「使用環境」であるが、
まあ、銀塩CANON一眼レフのFD系マウント機を使うならば、
勿論何も問題無い。新旧F-1やT90等は名機であり、かつ
現代では中古相場もかなり安価だ。A-1系の機体も悪くは
無いが、シャッター機構全般の耐久性が低いので、
もしA-1系を選ぶならば、上級マニアか中古専門店従事者
並みの高度な「目利き」(判断)が必要となるだろう。

デジタル機でFD(系)レンズを使う際は、各社デジタル
一眼レフでは、まず使用出来ない。マウント・アダプター
が存在していたとしても、補正レンズ入りで画質劣化するか
又は、補正レンズ無しの場合は無限遠撮影が出来ない。

なので、ミラーレス機を用いるのが簡便であろう。
殆ど全てのミラーレス機用でCANON FDマウントアダプター
が販売されているので、それを買って来て装着すれば良い。
ただし、FD/New FDはまず問題無く使えるが、FL/Rの旧型
レンズはアダプターに嵌らない可能性が高いと思っておく
のが無難だ。
また、FD/New FDであっても、アダプターへの装着方法は
ちょっと複雑であり、使用時でも絞りをLOCKする為の
リングの操作が必要だ。いずれも知識と慣れが要求される。

慣れと言えば、FD/New FDのレンズ(リア)キャップを
脱着する事にも慣れが必要であり、ビギナー層等では
リアキャップが嵌められ無いか、又はモタモタしてしまう。
中古カメラブームの際には、FD系レンズのリアキャップを
速やかに脱着する事が出来ると「上級マニア」と見なされて、
ちょっと尊敬されたり、格好良かったりしたものだ。

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では、ここでシステムを交替する、次がラストだ。
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レンズは、CANON (New) FD135mm/f2
(中古購入価格 43,000円)(以下、NFD135/2)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

1980年発売のMF単焦点望遠レンズ。

個人的には最も気に入っているNew FD F2レンズだ。
銀塩時代には、NIKON Aiでも同じスペックのレンズが
存在していたが、こちらがはるかに軽量かつ安価だ。
ただし、描写力は、ちょっとAi135/2に負けてしまう
雰囲気もある。NIKON Ai135/2は「ハイコスパレンズ
名玉編」でも、一応第38位にランクインしているのだ。
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まあでも、本レンズも決して悪くは無い。
しかし、現代においては、本レンズは若干だが中古相場が
プレミアム化(=不当に高騰する事)している節もある。
もし、あまりに高価に買ってしまうと、コスパが極めて悪化
する為、上限価格は3万円程度と認識するのが良いであろう。

135mmの優秀な大口径レンズが欲しければ、本レンズでは
無くとも、その後の時代から現代に至るまで、いくらでも
存在している。(注:本NFD135/2は、後日掲載予定の
「最強135mmレンズ選手権」記事では、その決勝戦には
ノミネートされていない。つまり、本レンズよりも優れた
135mm(大口径)レンズは多数存在している次第だ)


まあ、前述のS.S.C.レンズや蛍石レンズでの中古相場高騰と
同じ話であり、ある時代のレンズが、珍しい技術や仕様で
あったりすると、中級マニア位でもコロっと騙されてしまい、
「高価でも欲しい!」となってしまう。それらの特殊技術は
後年の時代では常識となったか、または代替技術が出来て
使われなくなった訳であり、間違いなく後年の製品の方が
優秀だ、何も古い技術の物を高値で買う必然性がまるで無い。
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さて、それとCANON FD/New FD系レンズの中古購入時の
「目利き」の話だが、チラりと前述したように、これらの
レンズのキャップを外し、絞り環を絞っても、絞り羽根は
絞り込まれたままで、全く動作しない。

レンズ後部の絞り込みレバーを倒しても同様に絞り羽根が
動かないので、一見故障しているように思えるのだが、
実は、これで正常な動作だ。
前述の「AE対応」等で、極めて複雑な構造になっている訳だ。

でも、この状態だと絞り羽根の動きの確認(粘りチェック)
や、絞りを開放にしてのキズやホコリ、カビ等の確認を
する事が出来ず、困ってしまう。

こんな場合、どうするか?だが、銀塩中古カメラブーム時
での中古(専門)店や、(超)上級マニア層においては、
FDレンズのリアキャップに大きな穴を開けた特製キャップ
を用意しておいたのだ。

この特製キャップをFD系レンズに装着すると、あら不思議、
まず絞り羽根が開放となり、かつ、絞り環の動作に応じて
絞り羽根がちゃんと連動して動くようになる。

この特製キャップを用いないと、FD系レンズの中古品は
動作確認が出来ず、「未チェック」のままで購入するしか
無い訳だ、家に帰ってカメラに装着し、絞りが動かな
かったり、レンズを開放にして見たらゴミやカビが入って
いたら、ちょっと困った事になる。
(注:現代であれば、FDのマウントアダプターを用いる
事で、同様なチェックを行う事が可能だ)

まあでも、「中古保証制度」は昔から比較的普及していたし、
(超)上級マニアともなれば、だいたいのレンズの外観を
見る位で、その使用状況等も推察できたので、内部動作が
正常である可能性が高いか否かは、「目利き」のスキルが
あれば、動作未チェックでも殆ど十分であったとも言える。
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本NFD135/2の総括だが、基本的に悪く無いレンズだ。
ただ、もしプレミアム相場となっていて高価すぎる場合は、
購入に値しない。その最大の理由だが、本レンズには、
小口径版のNew FD135mm/F2.8が並行ラインナップ
されている。そちらの小口径版の描写傾向とか特性は、
殆ど、本NFD135/2と類似(同等)であり、レンズ構成
すらも同じ5群6枚である。

この事は大口径版と小口径版の両レンズを同時に所有
しないと気づかなかった事であり、私も銀塩時代には、
本大口径版が常に優れていて、小口径版は「ショボい」
(性能が低い)から「不要だ」と勝手に思い込んでいて
一応は所有していた小口径版を、ずっと軽視していた訳だ。

両者が「ほとんど同じ」という事は、銀塩時代当時での
私は気付く事ができなかった。近年、ブログ記事執筆用
に、所有全レンズの撮り比べをしていた際、たまたま、
NFD135/2.8を付けていると、そのレンズもNFD135/2
も両レンズを所有している知人の上級マニア氏と御一緒

していて、その際に彼が言い出した事だった。

マ「単に、開放F値が違うだけで、同じ写りだよ」
私は「ああ、やっぱりな・・ 同じだよね!」
と強く同意した。実写検証をしている際に、私も丁度
同様な懸念事項を持ち始めていたところだったのだ。

この話はつまり・・
「もし、New FD135mm/f2 が、プレミアム中古相場等で
高価になりすぎている場合、超安価な中古相場となって
いる、New FD135mm/f2.8を買って代替すれば十分だ」
という事になる。

まあ、結局「大口径レンズが常に高性能である」等は、
初級中級ユーザーの持つ、単なる「幻想」なのであろう。

自分が高価に大口径レンズを買ってしまっているから、
どうしても、そちらが高性能だ、と思い込みたい気持ちは
良くわかるが・・ もし、少しだけ余裕があれば、
同じシリーズでの同じ焦点距離の小口径版レンズを買って、
両者を撮り比べてみれば良いと思う。

たいていの場合、小口径版の方が高描写力であったり、
あるいは同等である事が、とても良くわかるであろう・・
そんなレンズの買い方をする消費者は、殆どいないから
この事実は、あまり知られていなかっただけの話だ。

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では、今回の「CANON New FD F2編」は、このあたり迄で。
次回記事に続く。

銀塩コンパクト・クラッシックス(7) RICOH GR21/CONTAX T3

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本シリーズは、所有している銀塩コンパクトカメラを
順次紹介していく記事だ。
今回は2000年代初頭の、銀塩AF高級コンパクト機を
2台紹介する。
なお、今回の記事が本シリーズでの最終回となる。

では、まずは1機種目。
RICOH GR21 (2000年)
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本機は、希少な超広角単焦点AF高級コンパクトである。
一眼レフやレンジファインダー機の交換レンズであれば、
20mm前後の超広角は珍しくは無いが、レンズ固定の
コンパクト機、しかも単焦点となると、恐らく数える程
しか存在せず、かつAF機ともなると、本当に希少だ。

恒例のシミュレーター機だが、フルサイズ・ミラーレス
機のSONY α7に、Voigtlander SC SKOPAR 21mm/f4
(注:変母音省略)を装着して使用する。
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両者の画角は同じだが、最短撮影距離はGR21の30cmに
対して、SC SKOPAR 21/4は90cmと極めて長いが、まあ
例によって、シミュレーションは雰囲気だけ、という事だ。

GR21が希少なカメラであると同様にSC SKOPAR 21/4
も、現在では入手困難な幻のレンズだ。
以降、本システムで撮影した写真を交えながら、GR21に
ついて紹介して行こう。
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まず、GR21が発売される1年前の1999年に、GR21の
レンズがライカL39マウントで先行単体発売された。
限定品の「RICOH GR (L)21mm/f3.5」であるが、
私は当時、そのレンズを購入していた。

が、超広角でありながら、レンジ機用のレンズなので、
距離計連動の制限から最短撮影距離は50cmと長めで、
かなり(非常に)使い難く感じたレンズであった。
(注:実際には、一般的なL39マウントのライカ系
レンジ機用レンズは、距離計連動を前提として
最短撮影距離は70cm程度だ。まあだからGR(L)
21mm/f3.5単品レンズは、その制限は、少し緩和
されているので、頑張っている方の仕様である。
まあ、それでも「焦点距離10倍則」を満たさない
広角レンズは、現代の視点からは使い物にならない)

その翌年、本機GR21が発売された。GR21が発売される
事を知っていたら、単体版レンズは買わなかっただろう。
で、GR21は最短撮影距離が30cmと、やっと普通に
撮れる超広角であったので、GR(L)21/3.5を処分し、
本機に買い換えた次第だ。



なお、価格は単体レンズもGR21も10万円を軽くオーバー
する高値であったのだが、前記事第6回のGR1sの所で
書いたように、その頃の私は、RICOHのR/GRシリーズを
集中的に愛用していて、GRと見れば、何でも買って
しまいそうな勢いだったのだ(汗)
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まあ、約20年を経過した今となっては、GR熱もとっくに
冷め、手放したGR(L)21/3.5を惜しいとも思わないが・・
(注:勿論、このような希少レンズは「投機対象」である。
が、欲しければ何故、売っている時に買わないのだろうか?
その頃はカメラ等に興味が無かった、と言うならば、もう
自分の時代とは異なる製品は、すっぱり諦める手段もある。
今現在、販売されている商品に注目する方が得策だろう)

GR21購入後は、その当時(2000年代)に流行していた
フォクトレンダー・ベッサシリーズ等のレンジ機で、
その単体GRレンズを使えたのでは?とちょっと後悔も
していた。ただまあ10万円オーバーの高価なシステムで、
しかも同じ仕様の物を贅沢にいくつも同時に持てる筈も
なく、そのあたりはやむを得なかった節もあるが・・

さて、GRシリーズの年表については、本シリーズ第6回
記事に掲載済みだ。その中での本機GR21の位置付けは、
28mmの焦点距離では無い、唯一のGRである。

なお、APS(IX240)フィルムが流行していた時代なのに
APSのGRが発売されなかったのは、ちょっと不思議で
あった。同じく高級コンパクトを色々と発売していた

CONTAXですら、TixというAPS高級コンパクトが
存在していた。(本シリーズ第5回記事参照)

でも、RICOHは、当時APS陣営には参加しておらず、
GRに限らず普及コンパクトですらAPS機は無かったので、
当たり前と言えば当たり前ではあるが・・
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さて、21mmという超広角の焦点距離は、コンパクト機と
しては極めて異例だ。

古くは1960年代末に、ZEISS IKON Hologon(ホロゴン)
ウルトラワイド、という 15mm/F8の固定レンズの
カメラが発売されている。

ちなみに、このカメラは希少な超広角である上に、
写りも良かった模様で、その後「神格化」される程になる。
1970年代、ホロゴンはライカMマウント用レンズとして
単体発売されるが、玉数が少なく、現代では高額相場の
コレクター向けの超レア品である。

1994年、京セラよりCONTAX Gシリーズ用Hologon T*
16mm/F8が発売される。
神格化されていた希少レンズだけに、市場のインパクト
は凄く、高価なレンズではあったが、これを使う為、
あるいは、これを使う事を夢見る為に、CONTAX G1や
G2がマニア層に売れていた節もあった。
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その後、1999年にはコシナよりフォクトレンダーブランド
のSUPER WIDE-HELIAR 15mm/F4.5が発売された。
これの写りが極めて良かった事(ミラーレス・マニアックス
第16回、第66回記事等)および安価で、いつでも入手可能、
かつF4.5と明るかった事で、ツァイスに拘らないマニア層
でのホロゴン人気の一部は、SWHの人気にシフトした。
このコシナのレンズは、その後何度もバージョンアップ
され、現代でもSONY Eマウント用の超広角レンズとして
販売されていて、依然人気のあるレンズだ。

他の超広角機だが、1972年発売のKOWA UW190がある。
これは一見すると一眼レフの外観だが、レンズ交換できず、
19mm/F4の固定だ(未購入)

KOWA(興和)は、コルゲンコーワやキャベジンコーワ、
バンテリンコーワ等の製品で有名な医薬品メーカーとして
の顔の他、光学機器部門もあって、1970年代までは
一眼レフや交換レンズを多数発売していた。

その後、カメラではなくフィールドスコープ(野鳥観察
用等の地上用望遠鏡)等の市場でずっと活躍していたの
だが、2014年になって、久しぶりにカメラ市場に復帰し、
マイクロフォーサーズ用の「プロミナー」銘のMF広角
レンズを3本発売している。
(現在未購入だが、欲しいとは思っている)
内、最広角のレンズは8.5mm/F2.8で、これは換算
17mmとなり、UW190やコーワSW(28mm機)での、
銘広角レンズの印象を現代に蘇らせている。


他の広角機としては、FUJIFILM NATURA S(2001年)
が著名だ。

これは24mm/F1.9の大口径広角を搭載したAFコンパクト
機であり、ナチュラフィルム(ISO1600のカラーネガ)
を組み合わせ、暗所でもフラッシュを使わずに自然な
雰囲気で撮れる事を目的とした、変り種コンパクトだ。

NATURA Sは所有してはいなかったが、製品モニターを
行った事がある。
その評価だが、24mm大口径広角であるのに、最短
撮影距離が40cmと長く、近接撮影ではAFも合い難く、

せっかくのレンズ特性を活かせない短所があったので、
それらを厳しく(汗)レポートした。

なお、近年NATURA S(系)の中古相場がプレミアムと
なって、恐ろしく高価になっている(いた)模様だ。
(注:近年では「プレミアム」という言葉を「高級品」
として普及させたい、と各市場分野では考えている模様
なのだが、元々の意味は「不条理に高価」と、否定的な
要素が強い言葉である。本ブログで「プレミアム」と
書いた場合は、必ず否定的な意味で用いている)

そうなった理由は知らないのだが、そのカメラは確かに
希少なスペックではあるが、まあ現代での実用価値は、
さほど高く無いと思うので念の為。

(追記:さらに近年では、FUJIFILMの銀塩機全般が
プレミアム相場化している。恐らく流通市場が投機的な
理由により、特異な仕様(例:広角やパノラマ等)故に
販売数が少なく、結果的に、希少(レア)品となった
それらの機種群を高額相場に移行させたいのであろう。
ただまあ「カメラは全て実用品だ」と捉える実践派の
マニア的観点からは、カメラを骨董品のように投機的
な商品と捉える視点は、あまり賛同する事が出来ない)

プレミアム相場と言えば、本機GR21も相当なものだが、
まあ本機も、現代ではさほど実用価値のあるものでも
無いのは確かだと思う。

結局、超広角単焦点機と言うと、私が記憶している
範囲では、これ位しかなく、うちAF機は本機GR21と
FUJIFILM NATURA Sの2機種だけであろう。

デジタル時代に入っても、デジタルコンパクトでの
超広角機は少なく、換算20mm級の単焦点ではKODAKと
SIGMAに各1機種、ズーム機では、広角端20mm以下が
NIKONとCASIOに各1機種あった程度だった、と記憶
している。
他、アクションカメラや全天球カメラ等でも20mm以下
の超広角仕様のものが数機種ある模様だが、いずれに
してもデジタルであっても超広角機はさほど多くない。
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さて、前置きが極めて長くなったが、ここから本機
GR21の機体性能の話に入ろう。

GR21は、恐らくは銀塩AFコンパクトとしては最広角の
21mmレンズを搭載している。
このレンズは、周辺光量落ちが結構出るのだが、それは
それで「超広角らしい描写」とも言え、長所とも短所
とも判断できるであろう。

発売時の価格が138,000円と高価であり、28mmの
GR1シリーズ以上にマニア向けだ。

私は、他者でこのカメラを使っている人を見た事が
無く、発売数も、かなり少なかったのではなかろうか?

画質は、超広角故にGR1シリーズのGRレンズのように
「画面の隅々までシャープ」といった印象は無い。
だが、これが良いものなのか、悪いものなのか?は、
あまり比較する対象が無いので、評価が結構難しい。

一眼レフ用の21mm級レンズは色々と所有しているが、
逆望遠(レトロフォーカス)型のレンズとの比較は
ちょっとフェアでは無い。すると、レンジ機用レンズと
なるのだが、著名な21mmは、スーパーアンギュロン系
21mmと、CONTAX(G)ビオゴン系の21mmなのだが、
あいにく、どちらも所有していない。
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同時代での比較可能な製品として唯一持っているのが、
今回のシミュレーターとして使用している、コシナ製
SCスコパー21mm/F4なのだが・・
今回このレンズを使っていると、ともかく寄れない
(最短90cm)なので、極めて腹立たしい。
これを、30cmまで寄れるGR21と比較するのは全く
意味が無い事であろう、何故ならば両者は撮影技法が、

まるで異なってくるからだ。

最短が長いレンジ機用超広角は、中遠距離の被写体
(風景等)を平面的に撮る、古い技法しか使えない。
近接で被写体と背景の遠近感を強調する等の現代的な
技法はレンジ機用超広角では、まるっきり無理なのだ。

まあ、画質の評価など、今となってはどうでも良いで
あろう、GR21を所有している私ですら、今更本機に
フィルムを入れて撮影しよう、などと言う気には
一切なれないのだ。
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それに、久しぶりに本機を取り出して見てみると、
購入後20年も経っていないし、かつ保存状態も悪く
無かった筈なのに、ボタン類の塗装の一部等が、
ところどころ劣化してハゲている。
高価なカメラであったのに・・ まあ、耐用年数
オーバーという事であろう。

カメラとしての仕様は、レンズのスペックを除いて、
前記事GR1sと大きく変わるものでは無い。
ほとんど同じと言っても差し支えないが、違う部分
だけ述べておく。

まず、P/絞り優先のダイヤルのF22の後ろに「ISO」
の表記があり、ここにセットして手動でISO感度を

変えられる。まあこれは、当時のフィルムは殆ど
DXコード対応(感度自動読み取り)で、本機GR21も
それを読めるのだが、手動ISO設定は増感・減感現像
用途等に使える。が、ISO25~ISO3200と意外に狭い
可変範囲だ(例えば、ISO1600のフィルムは1段まで
しか増感出来ない。ただ、ネガではあまり増感現像
の効果は無く、当時のポジでは、そこまで高感度の
フィルムは無かったと思うので、この仕様でも十分か)

次いで、スポットAFモードが追加されている。
まあこれは、スポットでもワイドでも、どうせ測距点は
画面の中央部にしかないので、あまり意味が無い。
MFモードは無いが、GR1シリーズ同様に、山(無限遠)
と、SNAP(人物2人マーク、2m固定)がある。

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21mmレンズの被写界深度を計算すると、SNAPモード
(撮影距離2m)で、F8以上に絞れば完全パンフォーカス
となるので、実質的には、AFは殆ど不要だ。
だが、低感度フィルム、かつ暗所でF8は厳しいので、
もし、これを絞り開放F3.5とすると、2.5m程度の
被写界深度の奥行きしか得られず、この場合は、AFを
ちゃんと使った方が良いであろう。

なお、無限遠の風景等の場合は、山のマークに設定した
方がパッシブ式AFが迷う事なく、確実、かつ速い。
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それと、ABC(Abc)モードが追加された。これはオート
ブラケット(自動露出ずらし)であり、3枚が連写される。

この機能は、シャッターボタンを途中で離しても、必ず
3枚が連写されるので要注意だ。


あと、フィルターがアダプターを使わずとも、そのまま
装着できるようになった。
φ30.5mmの市販フィルターが使えるが、CONTAX G
ホロゴン16mm/F8の付属品にあった、センターND型の
「グラデーション・フィルター」(つまり画面中央部を
減光させ、レンズの周辺光量落ちを中和させる)は、
純正では用意されていない。
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まあ、GR1sとの差異はそんなものだろうか・・・

他に長所は特に無く、希少なAF超広角コンパクトである
という事だ。

短所だが、色々とある。

まずは、レンズが沈胴しない。
これは21mm超広角だから、大型化はしかたが無い
のかも知れないが、一々レンズキャップを嵌めるのは、
面倒を感じる。


大型レンズのせいで、ファインダーを覗くと画面下の
3分の1程度にレンズ鏡筒が見えてしまい、邪魔で
構図が決めれず、鬱陶しい。
さらには、内蔵フラッシュを使った場合、レンズの影が
出てしまう危険性や、周辺まで届かない可能性があるが、
ここは、ちゃんと実験した記憶が無い(汗)

それとGR1シリーズの例によって、最高シャッター速度は、
1/500秒でしか無い。これだとやはり日中はPモードで
使うのが、シャッター速度オーバーのリスクが少なく
良いであろう。
一々、シャッター速度オーバーにならないように絞りを
調整するのは、専用ダイヤルがあるとは言え面倒なのだ。

それと、露出がややプラス目に出るという噂もあったが
まあ、シャッター速度オーバー回避と、超広角機では、
空の明るさを意識しての、そういう味付けであろう。
リバーサルではなく、ネガフィルムを使う以上、なんら
問題は無いし、むしろプラス目の露出はネガフィルムの
ラティチュードを有効に使え、そして少しでも
シャッター速度オーバーを防ぐ為には役立つと思う。
(注:現代でも良くあるが、中級ユーザー層あたりの
「ここがダメだ」評価は、あまり真に受けない方が
良いであろう。上級クラスになれば、そうした弱点は
百も承知の上で、それを、生かすも殺すも、自在に
コントロールする事ができるだろうからだ)

他の弱点は、やはり高価すぎる事であろう。
定価138,000円は、今にして思えば、さすがに
「ふざけるな!」という感覚だが、まあそれも、
21mmという超広角の付加価値であろう・・

つまり、高くても売れるカメラであるからであり、
まんまとその戦略に乗ってしまった訳である(汗)
まあ現在の感覚であれば、私はこのカメラを買わない
と思う、実用カメラ目的では、さすがに「コスパ」が
酷すぎるからだ。
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さて、ここで本機の総合評価を9項目で示す。

RICOH GR21 2000年
【基本・付加性能】★★★
【描写力・表現力】★★★
【操作性・操作系】★★★
【質感・高級感 】★★★☆
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★☆
【購入時コスパ 】☆ (新品購入価格108,000円)
【完成度(当時)】★★☆
【歴史的価値  】★★★★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.1点

3.0点以下の低評価になると思っていたが、意外にも
まずまずだ。
予想通り、「コスパ」の評価は史上最低点であるが、
マニアック度と歴史的価値が満点なのが、コスパの
悪さを打ち消している。

他の評価項目は、いずれも平均点付近となった。
超広角である、という特徴の他は平凡な性能であり、
現代における実用性はあまり無い。
ましてやプレミアム相場になるような事は、ある筈が
無いカメラだ。

当時、このカメラを買った人等は殆ど居ない、
高すぎたからだ。

生産中止が知らされてから、「高くても売ってくれ」
と言って来た周囲のマニアも複数居たが、そのいずれに
対しても・・
「そんなに欲しかったのなら、何故売っている間に
 買わなかったのだ?!」
と厳しく断った。
そのズレた感覚は、まるで、有名ミュージシャンが
亡くなってから、慌ててCDを買いに行く一般大衆と
同じだ。・・およそマニアらしく無い。


現代において、その希少性から投機(転売)目的を
画策して買ったとしても、きっと塗装がハゲてきて
転売価値は暴落する事であろう。
中古カメラ等の不条理な高騰は、モノの真の価値が
わからず、無意味に高いお金を出して買う側に、
殆どの責任がある問題だ。

---
では、次いで2機種目、これでラストとなる。

CONTAX T3 (Titan Black)
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2001年に発売されたCONTAX最後の高級コンパクト。
勿論チタン外装で、定価は98,000円+税と、ようやく
ここでTシリーズとしては初めて値下げ傾向となった。

まあ、さすがに21世紀では、高級銀塩コンパクトも
時代遅れになりつつあった事であろう。
デジタルコンパクトも色々出ている中で、10万円を
超える高額な銀塩カメラ等は、誰も見向きもしない。

ただ、本機はCONTAX T3 チタンブラックという仕様で
あり、シルバーより3ヶ月程後に発売され、こちらは
108,000円+税の定価と、依然高価である。
_c0032138_15593041.jpg
シミュレーター機だが、フルサイズ・デジタル一眼の
CANON EOS 6Dに、T3搭載レンズと同じスペックの
CONTAX Distagon T* 35mm/f2.8を装着する。
ただし、レンズ構成は大きく異なるので、例によって
「雰囲気のみ」のシミュレーションだ。
_c0032138_15593009.jpg
T3のレンズは新設計のゾナータイプ、35mm/F2.8で
4群6枚構成だ。

が、今の時代ともなったら、もう「ゾナー銘だから
高画質だ」などの古い常識は通用しない。

(参考:80年程前に「ゾナーは高画質だ」と評価
された理由だが、当時の光学設計技術ではレンズ毎の
隙間を開けると、表面反射により光線透過率が下がり、
かつ内部乱反射により、コントラストが低下したので、
ゾナー構成では、できるだけ「レンズ貼り合わせ」の
面(群)を増やす事で、その課題に対処した。
3群5枚とか3群7枚等、群数が少ない仕様が特徴だ。


その後の時代では、レンズ毎に表面コーティングを施す
事で、この課題を解決し、ゾナー構成の必要性が減った。
また、一眼レフ用のゾナーは、構成上、中望遠レンズ
以上の長い焦点距離の物しか作れなかった事も、課題の
1つであった。→だから銀塩一眼レフ用MF標準レンズは、
ゾナー構成では無く、プラナー(変形ダブルガウス)型
を採用した。ただし、バックフォーカスの短いレンジ機
やコンパクト機では、標準や準広角のゾナーも作れる。


また「バリオゾナー」と呼ばれているズームレンズでは
一眼レフ用でも広角域からの焦点距離が可能ではあるが、
もうその時代では、元々の「ゾナー」の意味も曖昧であり
単なる「商標」「商品名」としての要素も大きくなった)

近代はコンピューター(PC可)を用いた、レンズ光学
シミュレーションによる「自動設計技術」が発達し、
ゾナーだとかプラナーだとか言った、オーソドックス
なレンズ構成とは似ても似つかぬ、非球面レンズとか
低分散ガラスなどを多用した、今まで見た事も聞いた事
も無い、特殊な設計の高性能レンズが沢山出てきている。
昔の光学設計とは、時代背景がまるで異なる訳だ。


また、1990年代から2000年代位までは、一眼レフ
用においても、単焦点レンズよりもズームレンズの
新規開発と改良設計を優先していた節もあった。
つまりズームの方が良く売れたからであろう。

逆に言えば、その時期の(一眼レフ用)単焦点レンズは
古い設計のままであり、下手をすれば1980年代以前の
設計を、AF化しただけで、そのままずっと売っている
ケースも各社で極めて多かった。
なのでまあ、そうであれば、昔のレンズを使っても、
たいして性能的な差異は無かったのだ。

ただ、2010年代になってから、各社とも高性能単焦点を
新規設計で発売している。これは前述のように、設計の
合理化が行われた事も理由ではあるが、それよりも、
国内一眼レフ市場が縮退した事で、高付加価値(つまり
高利益)の商品を出さざるを得なくなったからだ。

ズームはもう限界に近い(性能もいっぱいいっぱいだし、
既に普及もしきっている)のであれば、超絶的な高描写力
を持つ、新規の単焦点レンズを出すしか無いと言う訳だ。
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例えば一眼レフ用の50mm標準レンズを考察すれば、
CONTAXのY/C(RTS)マウントの物(1975~2005年)
は、50/1.4においては、プラナー(変形ダブルガウス)
型の6群7枚構成であったが・・

現代の標準レンズ、例えばSIGMA ART 50mm/F1.4
DG HSM(2014年)は、8群13枚(内、非球面1枚、
低分散3枚)である。


私は両レンズを所有しているが、確かにP50/1.4は、
銀塩時代であれば、かなり優秀な標準レンズであったが、
現代においては、残念ながらSIGMA A50/1.4の描写
性能の足元にも及ば無い。
_c0032138_17020847.jpg
まあそういう風に、時代が変われば技術も変化する、
という事だ。だから「ゾナーはキレが凄い」とか
「プラナーはボケが綺麗」などの話は、現代においては、
もう何ら意味が無い、古い常識となってしまっている。
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さて本機T3だが、前機種T2(1990年)からは、
実に11年振りのモデルチェンジとなった。

T2には色々弱点があり、まずレンズ描写力がイマイチ
である事、AFが合わない(背景に抜ける)、最短撮影
距離が70cmと異様に長い、最高シャッター速度が遅い、
そして、やや大きく重く、高価(12万円)である事だ。

T2のAFに関しては回避技法があり、丸形のAFフレーム
を信じず、「フレームの枠で引っ掛ける」ように使う。
これでは説明がわかりにくいが、つまりAFフレームが
ズレているので、AFロックしながら使うのだ。でも
これは元々はT2の重欠点であるので、問題は問題だ。
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で、T3では、これらのT2の弱点をほぼ全て解決している。
レンズは新設計であり、さすがに11年の時代差があれば
格段に高画質となった。
まあその当時のレンズ設計の技術的な進歩は11年間でも、
あまり無かったのかも知れないが、それでも旧機種より
悪い性能の物を発売できる筈も無いので、レンズ描写力
については十分に吟味され、改善されたのであろう。

AFもちゃんと合い、レンズの最短撮影距離は70cm→
35cmまで短縮された。
なお、CONTAXにAF技術の蓄積が無かったのは、
1990年頃のT2の時代迄だ。1990年代後半のG2やTix、
そして2000年代のNシステムや本機T3では、AFは
問題無い。


最高シャッター速度は、1/500→1/1200秒に向上、
ただ、T3の1/1200秒はレンズシャッター機最速クラス
ではあるが、絞り開放では動作が追いつかず、最高
1/500秒に制限されてしまう、という実使用上の矛盾
(絞りを開けたくても開けられない)がある。

重量は、295g→230gと若干の軽減だが、サイズは
ずいぶんと小さくなった印象だ。

なお、T3では小型フードが装着できるようになったが、
純正品はシルバー仕上げしかなく、ブラックが無い、
一応持ってはいるが、色がちぐはくで格好悪いのだ(汗)


さて、本機T3の最大の特徴だが、銀塩AF高級コンパクトの
末期の製品だけに、完成度が高い事だ。
他の機種は高級コンパクトと言っても色々と弱点や不満点
があったのだが、本機T3では、それが殆ど無い。
_c0032138_15593736.jpg
T3の操作系もまた長所だ。
MODEボタンで変更したい機能を選び、無限回転式の
デジタルダイヤルで、そのパラメーターを選ぶ。

この操作系の概念は、従来のカメラとはずいぶん異なる
のだが、この当時(2001年頃)の一眼レフのMINOLTA
α-SweetⅡや、CANON EOS 7でも採用された「操作系」
であり、先進的で、評価できる。
なお、近年(2017年)のPENTAX KP等でも使われており、
特に、そのKPは、圧倒的な使い易さを誇っている。

本機T3では、そうした先進一眼レフ群までの使い易さは
無いが、小型機でボタン類の操作子を減らしたい状況の
中では、最善の操作系設計であろう。
ただ、当時の一般ユーザー層が、使い易いと思ったか
どうか?は不明だ。

それまでのカメラの古い概念(単なる「操作性」のみを
評価し、「操作系」の意味がわからない)に縛られて
いると、なかなか理解され難かったかも知れない。
(まあ、現代でも「操作系」の良否を評価できる人は
非常に少ないので、いまだに同様かも知れない)
_c0032138_15593791.jpg
余談だが、結局2005年にカメラ事業から撤退してしまった
「京セラ」であるが、このT3の直前の時代1990年代は、
一眼レフ事業が振るわなかった。
他社機が全てAF化する中、CONTAX一眼は、ずっとMF機
が主力だったのだ(AF化に出遅れていた、とも言える)


これは後に「Nシステム」の開発に繋がるが、その商業的な
失敗が、京セラにとって致命傷となったのは、他の様々な
記事でも書いた通りの「悲運の歴史」だ。
なのでまあ、その時代はTシリーズとGシリーズで、京セラの
カメラ事業を支えていた、と言っても過言では無いであろう。

Nシステムは個人的には嫌いでは無いし、一部所有しており、
悪い性能でも無いと思うが、「タイミングが悪かった」、
という印象だ。
ただ、その悪いタイミングの不運は、Nシステムの方だけに
集中してしまい、本機T3では、そのタイミングはCONTAX
の長い銀塩高級コンパクト開発のノウハウを、上手く集約

できた形として実ったと思う。
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さらに言えば、銀塩Nシステムの旗艦CONTAX N1は、
本機T3の前年2000年に発売されているのだが、操作系
の優れたカメラであった。(銀塩一眼第24回記事)

つまり、写真を撮る、という目的には、非常に適した
カメラであり、この当時のCONTAX技術陣の優秀さが
わかる設計だ。

ただ、そうした事が、当時における、旧来からの
保守的なCONTAXのファン層に理解できたかどうか?
は、大いに疑問である。
ビギナーの富裕層・シニア層が大半であるCOTAX党に
おいては、「使い難い」「ややこしい」「わからない」
という評価が大半であろう。
まあ、そういう点もまた「タイミングが悪かった」と
言える事であろう。
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さて、最後に本機の総合評価を9項目で示す。

CONTAX T3 2001年
【基本・付加性能】★★★★
【描写力・表現力】★★★★☆
【操作性・操作系】★★★☆
【質感・高級感 】★★★★
【マニアック度 】★★★☆
【エンジョイ度 】★★★★
【購入時コスパ 】★★  (中古購入価格 52,000円)
【完成度(当時)】★★★★☆
【歴史的価値  】★★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.7点

好評価だ。
まあ、第3回記事のOLYMPUS μ-Ⅱの3.8点には僅かに
負けたが、本シリーズでは第2位の高得点となっている。
これはもう名機だ。

本機は、銀塩最後の高級コンパクトとして、デジタル
時代に入っても、フィルムが、まだなんとか使えた
2000年代後半位のギリギリまで愛用したカメラである。
_c0032138_15594084.jpg
現代における実用性は、まだあると思う。
しかし中古の玉数は少なく、あってもかなり高値になって
しまうかも知れない。(何度か20万円近くという高額相場
の個体を見かけたが、当然ながら、そこまでの価値は無い)

実用性が高いカメラなので、実際に本機にフィルムを
入れて使うのであれば良いのだが、ただ飾っておくだけ
であれば、持っていても、あまり意味の無いカメラだ。
また、中身の電子部品の経年劣化は「そろそろ危ない」
という事も、注意点として挙げておく。

さて、本シリーズはこれにて終了。
今後、銀塩コンパクトを新たに購入する事はまず無いと
思うので、続編や補足編は無しとするつもりだ。

なお、この時代(2000年代初頭)以降の、デジタルの
コンパクト機の歴史は、過去のシリーズ「コンパクト・
デジタル・クラッシックス」記事群に詳しいので、
適宜参照されたし。

μ4/3用レンズ・マニアックス(2)標準編

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本シリーズ「μ4/3(マイクロフォーサーズ)用レンズ
マニアックス」は、μ4/3機用のAF/MF/トイレンズ等を
順次焦点距離毎(広角、標準、望遠等)に紹介している。

今回の記事は「標準編」として、フルサイズ換算画角
が50mm前後となるレンズ、すなわちμ4/3機用では、
実焦点距離が20mm~28mm程度となるレンズとする。

各レンズの紹介順は、基本的には実焦点距離順とする。
その他、実写においては様々な取り決めが存在するが、
詳しくは本シリーズ第1回記事を参照の事。

----
では、まず最初のμ4/3レンズ
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レンズは、PANASONIC LUMIX G 20mm/f1.7Ⅱ ASPH.
(型番:H-H020A)
(中古購入価格 23,000円)(以下G20/1.7)
カメラは、OLYMPUS PEN-F (μ4/3機)

2013年に発売された薄型AF準標準画角レンズ。
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本レンズの初期型は、2009年にPANASONIC DMC-GF1
のキットレンズ(DMC-GF1C)として発売されているが、
その翌年のDMC-GF2Cのキットレンズは、G14/2.5と
なった為、2011年頃に在庫処分品で恐ろしく安価
(定価の半額以下)となったDMC-GF1Cを入手した
エントリー(入門)層やビギナー層が、初めて見る
大口径(F1.7級)レンズの写りに感動したのか?
「神レンズだ」等という初級評価を広めてしまった。

その結果G20/1.7(Ⅰ)はビギナー層全般に好評価が
広まった事から、投機層あるいは投機的視点を持った
流通層が組織的に動き、G20/1.7(Ⅰ型)を買占め、
さらに高評価を流す等を行い、品薄となった所で、
高値の相場で、それらの内の少数を、中古市場に
再放出した。(=つまり、転売利益を狙った)

私は、ちょうどその時期(2012年頃)に、必要が
あってG20/1.7を入手しようと考えていたのだが、
ビギナー層等による「風評被害」により、本来の
性能や仕様から想定される相場よりも遥かに高価と
なったG20/1.7(Ⅰ)を購入する事が困難になって
しまった。
勿論だが、コスパが悪すぎて入手に値しないし、
市場での投機的要素(情報操作)に振り回されるのも、
非常に、いまいましい話だからだ。

その後、後継機のG20/1.7Ⅱ型(本レンズ)が、
2013年にPANASONIC DMC-GX7のキットレンズ
(DMC-GX7C)として発売されると、初期型G20/1.7
は投機的要素が無効化され、買い占められていた
物が放出され、中古市場での流通が復活。
追って新型G20/1.7Ⅱの中古流通も始まった為、
2014年頃に正常化された中古市場において、
(ケチがついた)初期型の購入を、あえて避け、
本Ⅱ型を中古購入した次第だ。

まあ、ここまでの話は、本レンズの紹介時に必ず
毎回書いている事だ。
それは「投機」(すなわち、転売による儲けを狙う)
事は、実用的機器であるカメラやレンズの世界では
あってはならない事だ、と私は思っているからであり、
そういう視点(転売の対象)で撮影機材の事を捉える
人達の事も「マニア」だとは決して見なしていない。

本ブログで定義する「マニア」とは、「モノの正しい
価値を自力で判断できるユーザー層」の事だ。

決して、世間一般的に想像するような「希少で高価な
ものを平然と買ってしまう人達」がマニアでは無い。
(それでは単なる「浪費家」や「好事家」であろう)
まあつまり、「真のマニア」であれば、モノの価値
よりも値段(相場)が高すぎる場合には、絶対に購入
する事は無いからである。
_c0032138_15582303.jpg
さて、本レンズに関する評価は、ばっさりと割愛する。
μ4/3システム上、必要としているレンズであるので、
例えば、ビギナー層等が、再び無意味な高評価等を
広めて相場が高騰してしまったら、故障時の再購入等
の場合に面倒な事になるからだ。

---
さて、次のμ4/3レンズは、トイレンズだ。
_c0032138_15582893.jpg
レンズは、Lomography Experimental Lens Kit
Standard Lens 24mm/f8
(新品購入価格 3,000円相当)
カメラは、OLYMPUS E-PL2 (μ4/3機)

2013年頃に発売されたμ4/3専用トイレンズ3本セット
(「LOMOGRAPHY MICRO 4/3 EXPERIMENTAL」
とレンズ上には記載)の内の1本。
μ4/3機専用の為、換算48mmの標準レンズ相当の画角
となるMFトイレンズ(ピントリング有り)だ。

3本セット(+付属品)で、発売時定価が約9,000円と
安価な価格であった。後年、2010年代末頃には、
新品在庫処分品が定価の半額以下で売られていたが
現在では生産を、ほぼ終了している模様だ。
_c0032138_15582910.jpg
これもまあ、「値下げの後で生産終了」であるから、
下手をすると、上記のG20/1.7と同様に「投機層」
が動いてしまいそうな製品だ。

でも、このトイレンズキットには実用価値は殆ど
存在しない。「トイレンズ」に求めるLo-Fi要素が
あまり無いからだ。(例:周辺減光特性も無い)

そもそも、ビギナー層等は、何故、商品が販売終了
となった後で、慌てて、その品物を欲しがるので
あろうか? その状態は例えば、アーティストが
亡くなったとか引退したとかで、慌ててCDを買いに
走る「にわかファン」みたいで極めて格好が悪いし、
あるいは、販売している期間中に、何故、その商品の
価値を見抜けずに、欲しいと思わないのであろうか?

私の所へも、生産終了となったカメラやレンズを
「是非、売ってくれ」と言ってくるビギナー層が
まれに居るのだが。そんな時は、
「そんなに欲しいのならば、何故、売っている時に
 買わなかったのだ!!」と、ものすごく強く断る
事としている。

何故、私が怒っているのか?が、わからずに、言い
出した方も慌ててしまうのだが、その発言の裏には
「不勉強」「情報収集不足」「転売利益狙いが明白」
「モノの価値が判断できない」「マニア道に外れる」
等、個人的に賛同できない要素が、多々含まれている
からだ。

さて、苦言はこのあたりまでにしておき、レンズの
話に戻ろう。

本Lomography Experimental Lens Kit は、
LOMO(カメラ)等のトイカメラ全般を扱う「商社」
であったLomography社(オーストリア)が、銀塩
ビジネスの縮退を受けて、自社ブランドのレンズ事業
に乗り出した際に発売された、初のレンズ(キット)
である為、歴史的価値は高い。

しかし、課題であったのは、銀塩LOMOやHOLGAに
あった「強いLo-Fi感」が、本キットでは得られな
かった。つまり、「そこそこ普通に写り、LOMOの
名前から期待されるトイレンズ感が少ない」という
問題点である。
_c0032138_15582907.jpg
その為か、本キットは、あまり話題になる事も無く、
Lomography社としても、新規(レンズ)事業への
手ごたえを感じられなかったのではなかろうか?

結局、「トイレンズ/トイカメラの価格帯で勝負
しても無理だ」という判断からか? この直後に、
同社は高付加価値型(=高級、高額)レンズの開発
販売に方針転換をする。

新規開発には資金が必要だが、LOMO/Lomography
社は世界的に十分に著名である為、2013年からの

インターネットを用いたクラウドファンディング
(資金調達)により、初の本格的高付加価値レンズ
「New Petzval Art Lens 85mm/F2.2」を発売。
以降、年々、ユニークかつ優れた機能を持つ
レンズを改良しつつ発売し、今やLomography社
と言えば、私の感覚では「高級レンズメーカー」だ。

参考関連記事:(掲載予定を含む)
*レンズマニアックス第37回ペッツヴァール対決
*特殊レンズ超マニアックス第61回LOMO編

本レンズキットは、在庫品完売後では、入手する事は
困難であろう。が、無理をして探すまでの実用性は
無い事も確かだ。あえてLomography社の製品を

志向するならば、Petzval系レンズの方が、ずっと
エンジョイ度が高い。まあ、それらは高価であるし、
使いこなしも難しいが、それこそ中上級マニア向け
には推奨できる。

(例:μ4/3マウント版でなくSONY FE版だが、
「Lomography New Petzval 55mm/f1.7 MKⅡ」
(2019年)は、非常にエンジョイ度が高いレンズ
であり、個人DBでの総合評価4.2点(5点満点中)
は、久しぶりの名玉(総合4点以上)の高評価と
なっている)

----
では、3本目のシステムは、μ4/3標準画角となる。
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レンズは、mEiKe 25mm/f1.8 (MK25F18M4/3)
(新品購入価格 約9,000円)(以下、Meike25/1.8)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

2019年に発売された、APS-C型以下マウント用の
MF広角(準標準~μ4/3で標準画角相当)レンズ。
レンズ本体では「mEiKE」と大文字小文字混じりの
ロゴデザインであるが、以下は「Meike」と記載する。

5群7枚の銀塩小口径標準のダウンサイジングによる
ジェネリックに近い構成と思われるが、レンズの
構成図が見当たらず、詳細は不明である。
_c0032138_15583862.jpg
描写力はさほど悪く無いのだが、ピントリングに
課題があり、「オーバーインフ」となってしまう。

無限遠を超えてピントリングが廻ると、MF撮影時に
遠距離被写体を捉える際、ピントリングをいっぱい
まで廻しながらカメラを構える操作が必須なのだが、
その「MF技法」が使えない。いっぱいに廻しても
ピンボケになってしまうからだ。

勿論、オーバインフ状態から、ピントリングを少し
戻したり、加えて、ピーキング機能等を用いれば、
MF合焦は、さほど困難では無いのだが・・
MFレンズに備わる、最も有益な性能である「速写性」
が失われてしまう事が最大の問題点であり、私は
これ(オーバーインフ)は、「MFレンズとしては
重欠点である」と見なしている。

Meike製レンズは何本か所有しているが、どうも
ピントリング周りの構造や製造精度に若干の課題が
あるケースが散見(所有レンズの大半)される。
ただまあ、「低品質だ」というまでのレベルでは
無く、少し気になる程度だ。
それと、描写性能も、さほど低くは無く、中には、
かなり高い描写力を持つMeike製レンズも存在する
為、全般的にはコスパが良い。
_c0032138_15583904.jpg
Meikeレンズは、あまり積極的に収集する事はしては
いないが、各ミラーレス機マウントで、ユーザー側の
「レンズラインナップ」(=各焦点距離のレンズを、
どのように揃えていくか?)の穴を埋める為に購入
するケースが多い。

具体例としては、
「FUJIFILM Xマウント機用で適切な広角レンズが無い」
「CANON EOS M機用で適切な単焦点レンズが無い」
といった際に、Meike(や七工匠等)の安価なレンズを
購入し、そのマウントでの(ユーザー側)ラインナップ
のバランスを取っている次第である。


実質的には、新鋭中国製のレンズ群は技術的にも
市場戦略的にも、まだ発展途上であろう。
だから、少し待ってから買うのも1つの方向性では
あるのだが、気になる点としては、Meikeでは、
当初は激安レンズで日本市場に参入したのだが、
2020年頃から、やや高価な高付加価値型レンズ
(例:シネ対応レンズ等)の販売を開始した
事例がある、つまり、「もう名前が売れたから、
高いレンズを出しても大丈夫だろう」という
段階的な市場参入戦略であろうか・・?
(注:他の一部の海外メーカーでも同様なケース
があった)


そうなると、ちょっと待っていたつもりが、
いつの間にか、高額なレンズばかりとなっていて
「それでは国産レンズと同じではないか・・」
という風に、海外製(中国製等)レンズにおける
価格メリットが失われてしまう懸念だ。

そんな状態になるのだとしたら、その安価なレンズ
の性能や仕様に、多少の課題があったとしても、
それらを弱点回避しながら使う方が、合理的、かつ
楽しいかも知れない・・

----
では、4本目のシステムもμ4/3標準画角だ。
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レンズは、PANASONIC G25mm/f1.7 ASPH.(H-H025M)(新古品購入価格 14,000円)

カメラは、PANASONIC DMC-GX7 (μ4/3機)

2015年頃に発売のμ4/3機専用のAF標準(画角)
レンズ。後年にDC-GF9(2017年)用の 、ダブル
レンズキット(DC-GF9W)とする為の外装変更等
(例:シルバー外装化)が行われた為、その直前の
2016年後半頃には、旧型である本レンズの単品
(H-H025M/K)は、中古流通市場に「新古品」
(=中古扱いの新品)として大量に放出された。

こういう状況では、恐らくは、メーカーからの
在庫処分価格(定価の25~30%程度?)で流通側
では仕入れているだろうから、販売価格も相当に安価
になるし、もし売れなければ、流通側では利益が出る

ギリギリまで、さらに価格を下げるので、消費者側
では、それらの動向を見極めながら好きなタイミング
で買えば良い。
_c0032138_15584565.jpg
私の場合は、このレンズの定価が37,000円+税
であった為、1/3の価格の「税込み約14,000円
が新品適正価格の目安だ」と見なしていたので、

当初では、17,000円前後で販売されていたのを
全て見送り、相場下落を待つ事とした。 

だが、このあたりの「コスパ感覚」や「市場での
相場変動の見極め」は、なかなか難しい。
まあ、税込み17,000円でも定価の半額以下なので、
「お、安いな!」と、手を出してしまっても不思議
では無いからだ。しかし「人気のレンズでは無い」
とも思っていたので、「そう多くの人は買わないで
あろう」という判断があった。
 
案の定、殆ど売れずに、14,000円あたりまで
相場が下がってきたが、ここで注意点がある。
1つは、さらなる相場下落を待っていると、「もう
このあたりが価格妥協点だ」と感じる消費者層は
一斉に、それを購入、瞬時に売り切れてしまい、
入手不能になってしまうケースだ。

もう1つは、購入者は実用派の個人とは限らず、
投機層(個人や組織)が、転売目的で購入する
ケースも存在する事だ。
例えば、14,000円で購入した本レンズを、ネット
オークションや通販サイト等で出品すれば
「定価の半額、税込み2万円」といった価格でも
何も知らない一般層には、売れる可能性が高い
からである。(それで約6,000円の儲けだ)
後者は、あまり倫理的に賛同できない行為である
から、そういう状態を見かけるのは面白くは無い。

そして勿論、中古流通側でも、そういうケースが
存在する事は知っているし、誰かがやらんでも、
流通店舗そのものが、そうやって「定価の半額」
で売れば良いだけの話だ。

店舗等が、そうしないのは「大々的に売り出しても
多くは売れない」という判断があるからである。
毎日毎日、多数のレンズを販売していれば、どの
レンズが、どれだけ売れるかは、流通側では良く
知っている。(勿論、統計等も取っているであろう)
よって、本レンズの適正販売価格も、消費者側での
妥協点も、だいたい事前にわかっている訳だ。

結局、商品を必要以上に高価に買ってしまうのは
全て消費者側でのコスト・コスパ感覚の無さが
課題になっているのだろう、と思っている。

本レンズの話がちっとも出てこないが、まあ、
普通に悪く無い描写力を持つ標準画角レンズだ。


冒頭に紹介したG20/1.7と類似の描写傾向を
持っていて、そちらがビギナー層に「神レンズだ」
と称されたのであれば、何故、本G25/1.7が
「神レンズ」では無いのか? そこが疑問である。

結局のところ、ビギナー層では、レンズの絶対的
評価を行う事ができず、「思い込み評価」しか
しない、という事実を如実に表す結果であろう。
(あるいは前述のように、G20/1.7の神格化は
投機層が意図的に流した「情報操作」であった、
という可能性も捨てきれない)
_c0032138_15584505.jpg
課題は、些細な点だが、フードの装着時に専用
リングを付け外しする事が煩雑な点だ。
安価なレンズであり、衝撃保護の必要性は低いし、
逆光耐性も、さほど悪くは無いので、いっそ
フード無しで使う方が簡便であろう。

注意点として、後年では、この新品入手価格より
中古相場が、若干だが高額になっている事であり、
15,000円~17,000円にもなるケースがある。
まあ、高価での購入は、推奨できるレンズでは
無いとは思う。

----
さて、5本目のシステムは、超大口径標準画角だ。
_c0032138_15585382.jpg
レンズは、Voigtlander NOKTON 25mm/f0.95(初期型)
(フォクトレンダー ノクトン)(注:変母音省略)
(新品購入価格 84,000円)(以下、NOKTON25)
カメラは、PANASONIC (LUMIX) DMC-G1 (μ4/3機)

2011年発売のμ4/3機専用超大口径MF標準画角レンズ。
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コシナ・フォクトレンダーは、2000年代前半では、
一眼レフおよびレンジファインダー用のマニアック
な単焦点レンズを、比較的安価(5万円程度)で
販売していた。当時の最も高価な類のレンズで
あっても、マクロアポランター125/2.5SLの
9万5000円程度の定価だ。(注:このレンズは
後年に投機対象となってしまい、この2倍程度の
高額中古相場で取引されている。が、非常に使い
こなしが難しいレンズでもあるので、要注意だ。
→レンズ・マニアックス第12回記事参照)

だが、2000年代後半には、デジタル一眼レフの
普及が加速されたので、コシナはこの時期では
主にレンジファインダー機用のレンズ群に注力する。
まあ、この時代迄では、まだまだ銀塩レンジ機を
志向するマニア層も多かったからだ。

でも、マニア向けに特殊なレンズを少数販売
するだけでは、それを低価格で売ってしまうと
利益構造が成り立たない。その事はわかってはいる
だろうが、単純に「値上げ」をする事も出来ないから、
レンズを高価格とする為の大義名分(つまり付加価値)
が、コシナにとって必要になってきた訳だ。
(注:他のメーカーも同様。よって2010年代から
の交換レンズは、それまでの時代よりも、遥かに
(数倍も)高額な販売価格となっている)

そして、2000年代末には、ミラーレス機が登場、
当初、マニア層は、μ4/3機やSONY NEX機を、
「どんなマウントのレンズも付けられる、夢の
 オールドレンズ母艦」として捕らえ、そうした
オールドレンズ群に再注目の動きもあった。

だが、このブームはマニア層だけの範疇に留まり、
1990年代後半のような、一般層までを巻き込んだ
「第一次中古カメラブーム」(カメラ・バブル)
に迄は至らなかった。

ここでコシナが取った戦略としては、μ4/3機に
着目するマニアのユーザー層に向け、F0.95という
超大口径化を「付加価値」とした新型レンズ群を
高価(それまで販売してきたレンズ群の価格帯の
2倍程度の、10万円以上の定価)に発売する事だ。

私も、この戦略にまんまと乗せられてしまい(汗)
高価な本レンズを新品で購入する事とした。

まあ、とは言え、コシナはマニア心理を非常に良く
理解していて、ピンポイントでマニア層が欲しがる
レンズを作ってくる。これはもう、買わされて
しまってもやむを得ない。新品を買わないで中古を
待ったとしても、マニア層は入手したレンズを殆ど
手放す事はしないし、少数生産しか行っていないから
いつの間にか販売終了となり、入手不能になって
しまう事が通例であった(だから、2000年代前半に
発売された一眼レフ用SLレンズ群は、後年2010年代
後半になって希少価値から投機対象となり、定価の
およそ2倍の高額相場で取引されている)
よって、後年に、そうした不条理な価格で入手する
事態を避ける為にも、できるだけ販売期間中に新品で

入手するしかない訳だ。
_c0032138_15585335.jpg
さて、本NOKTON25/0.95だが、多数(3万枚以上)
を撮影したレンズである。
私は、レンズには「減価償却ルール」(カメラでは
「一枚3円の法則」により、元が取れたかを判断する)
を特に設けては居ないが、仮にそれを適用しても、
十分に元が取れているレベルだ。

描写力自体は、たいした事は無い。絞り開放近くでは
球面収差を始めとする諸収差の発生により、軟焦点化
したボケボケの写りとなってしまう。

しかし、F0.95の超大口径に加え、異常とも言える
レベルの高い近接性能(最短=17cm)により、
極薄の被写界深度の描写が得られる事は、本レンズ
や他のNOKTON F0.95シリーズでの最大の特徴だ。

この仕様から得られる独特の描写傾向は、他に類する
ものは殆ど無く、近年の他社製品で同等品があったと
しても、非常に高額(100万円以上)のレンズと
なったりで、それでは、まず入手不能だ。
NOKTONシリーズであれば、価格的に、なんとか手の
届く範囲で、この独特の世界観を体感できる。

幸いにしてNOKTONシリーズは、少数生産が殆どの
コシナ(フォクトレンダー)製品としては、異例の
ロングセラーだ。本レンズは、外装が小改良されて
Ⅱ型となって販売が継続されている。
長期の販売で、新品実勢価格も低下し、中古流通も
そこそこ見かける、勿論だが「投機対象」にも
なっていない。(=いつでも容易に買えるから)

繰り返すが、「描写力的には優れない」という課題
を持ってはいるが、「表現力」は一級品である。
超大口径の世界観が、どんなものだかを知りたい
上級マニア層には推奨できるレンズである。

----
では、次は今回ラストのμ4/3システム
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レンズは、安原製作所 MOMO 100 28mm/f6.4 Soft
(新品購入価格 21,800円)(以下、MOMO100)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1(μ4/3機)

2016年に発売された、希少な広角ソフトレンズ。
一眼レフ用のソフト(フォーカス)レンズでは、
焦点距離28mmというレベルにまで広角なものは、
他には殆ど存在していなかったと思われる。
(まあ、LENSBABY TORIO 28くらいか?)
(追記:2020年にLENSBABY Velvet 28が新発売)

ただまあ、広角化した事で、ソフト(軟焦点)
効果が少ない事は確かではある。

・・というか、銀塩時代にはいくつかあったソフト
レンズも、現代ではすっかり見なくなってしまい、
ソフトレンズそのものの新発売が貴重な状態だ。
_c0032138_15585878.jpg
で、ソフト(フォーカス)レンズの最大の弱点と
しては、MFでの「ピント合わせ」がある。
これは、(一眼レフの)光学ファインダーや
ミラーレス機のEVFや背面モニターでの目視による
ピント合わせは、ほぼ不可能であり、さらには
ミラーレス機のピーキング機能も殆ど動作しない。


過去、ごく一部にAFのソフトレンズも存在はしたが、
現代においては非常にレアであり入手困難だ。
(参考:特殊レンズ超マニアックス第7回、
「ソフト(フォーカス)レンズ編」記事)

だが、本レンズMOMO100の場合は、広角レンズで
ある事もあいまって、被写界深度が他の標準~
中望遠ソフトレンズよりも深く取れ、ピント合わせ
の負担が若干だが軽減される。
よって、ソフトレンズの入門用としては優れた
仕様であるようにも思う。

前述のように現代ではソフト(フォーカス)レンズ
の販売は少なく、数える程の現行機種しか存在しない。


まあ、その理由は「ソフト効果は、カメラ内の
エフェクトでも実現できるし、レタッチソフトで
その効果を得るのも容易だよ」という感じであろう。

ただまあ、いつもソフトレンズの紹介記事で書いて
いるが、ホンモノのソフトレンズは、エフェクト、
レタッチ、ソフトフィルターなどのいずれとも異なる
描写特性を持ち、全くの別物だ。だから、そうした
光学的ソフトレンズの存在意義は、まだ存在する事も
確かである。

注意点としては、こうしたソフトレンズで撮って
しまったら、もう、その軟焦点効果は、後になって
「不要だから取り消したい」と思っても、レタッチ
編集等では、ソフト効果を取り除くのはまず不可能で
ある、という点だ。この弱点に関してだけ言えば、
エフェクトや後編集で、望む写真だけに軟焦点効果
を付与する概念の方が優れている。
_c0032138_15585960.jpg
また、軟焦点効果の主原因である球面収差を減少
させるには、単純に絞りを絞ってあげれば良い。
有効径(≒絞り値)の三乗に比例して、球面収差は
急速に減り、軟焦点効果も急激に収まる訳だ。
(参考:匠の写真用語辞典第29回記事)

ただし、上の説明は「理論上ではそうなる」という
だけの話だ、実際にその措置(絞りを絞る)を
行うと、確かに軟焦点効果は減る。しかしながら
その(ソフト)レンズの光学的構成によっては、
思わぬ副作用が出る場合があり、具体例としては
「映像の輪郭線が、パキッパキに固くなる」という
実例がある。(注:これはこれで面白い)


また、レンズ構成によっては「焦点移動」が発生する
ケースも多々あり、本MOMO100でも、絞り込んだ際
でのピント合わせの位置を異ならせる為の「指標」が
別途、描かれている。


しかしながら、そうした独特な特性も含めて、
レンズの使いこなしの楽しさには繋がる。つまり
テクニカル的な「エンジョイ度」が高いレンズ群と
なり得る可能性が高い、という訳だ。

勿論、こうした楽しみ方を志向するには、ユーザー
側にも高いスキルが要求される。よって、単に
珍しいものや希少なものを志向するような層には
推奨できない。ソフトレンズ全般については、高い
スキルを持つ実践派中上級マニア層向け、という
結論にしておこう。

(追記:本記事執筆後に、本MOMO 100の開発者の
安原氏が2020年3月に急逝した、との情報が入って
来た。ユニークなカメラやレンズを多数開発した
「世界最小のメーカー」安原製作所の、アイデアマン
の安原氏であったので、惜しい人を亡くしたと思う。
→くれぐれも、本レンズや、他の安原製作所製の
レンズが「投機対象」にならない事を願うばかりだ)

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では、今回の「μ4/3用レンズ・マニアックス標準編」
は、このあたり迄で、次回記事は「中望遠編」となる
予定だ。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(47)準標準マクロ

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー
別に紹介している。

今回は「準標準マクロ」レンズを6本紹介しよう。

ここで「準標準マクロ」とは、以下と定義する。
*APS-C型以下のセンサー機に対応のマクロレンズであり、
*焦点距離が25~40mm程度で、フルサイズ換算で50mm
 前後の標準画角となり、
*近接撮影から無限遠撮影までが可能で、
*最大撮影倍率が1/2倍以上のもの。

ちなみに、一眼レフ用フルサイズ対応のこうしたマクロ
レンズは存在せず、50mm以上の焦点距離となるか、
又は、焦点距離がそれ以下と短いものでは、1/2倍を
超える最大撮影倍率は持たない。
(注1:特殊な近接撮影専用(超マクロ)レンズ
 及び、超広角マクロLAOWA 15mm/F4は除く)
(注2:TAMRON M1:2 シリーズ(2019年~)は、20mm、
 24mm、35mmのフルサイズ対応で1/2倍となっている。
 ただし、一眼レフ用では無くミラーレス機専用だ)

なお、今回紹介レンズは全て過去記事で紹介済みである為、
本記事においては、個々のレンズの説明は最小限とし、
準標準マクロや標準マクロ全般の歴史や、市場の状況、
といった全体的な視点での話を中心とする。

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ではまず、最初のシステム
_c0032138_16163783.jpg
レンズは、OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL 30mm/f3.5 Macro
(中古購入価格 22,000円)(以下、MZ30/3.5)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5Ⅱ Limited (μ4/3機)

2016年に発売された、μ4/3機専用、AF高倍率(1.25倍)
準標準マクロ。(レンズ・マニアックス第7回記事参照)
_c0032138_16163719.jpg
なお、本記事では、レンズ単体での「最大撮影倍率」
(以下、「撮影倍率」と適宜省略する)は記載するが、
その仕様は個々のセンサーサイズに対応する数値である。
それをフルサイズに換算して・・ といった表現は避ける。

基本的にミラーレス機の場合には、たいてい備わっている
デジタル拡大機能(デジタルズーム/デジタルテレコン)を
用いる事で、見かけ上の撮影倍率をいくらでも上げる事が
出来る訳だ。
あるいは、フルサイズ用のマクロレンズをμ4/3機等に
装着しても、同様に撮影倍率を簡単に高める事が出来る。
だから、撮影倍率のスペックは、殆ど意味の無い数値だ。

それから、あまりに撮影倍率が高い「超マクロレンズ」
(匠の写真用語辞典第3回記事参照)ともなると、撮影自体
が大変困難となり、その用途もかなり限られて来る。

まあ、ビギナー層が憧れる「超望遠レンズ」のケースと
同じであり、「より大きく写したい」というニーズで超望遠
レンズを買ったが、大きく重すぎて実際の用途もあまり無く、
使いこなせず、中古市場にそれらが溢れかえっている状況だ。

「超マクロ」は機種数も少なく中古品が溢れている状態では
無い。まあ「超」の領域を使わずに、通常のマクロレンズと
して使える場合には、なんとでも用途はあるとは思うが、
「超近接」しか出来ない仕様のマクロの場合は、実際の所
「学術分野」くらいにしか用途が無いと思う。

で、「超」ではない一般的なマクロレンズでも、他機種との
数値スペックの差別化の為に、近年では少しづつ撮影倍率の
数値仕様が上がってきている。(前述したが、1倍でも1.25
倍でも実用上の差異は無い。この数値を見て「1.25倍の
方が高性能だ」と思う消費者感覚は褒められた話では無い)
_c0032138_16163789.jpg
本MZ30/3.5は、「超マクロ」と言うまでには撮影倍率が
高くなく、一般的なマクロレンズだと捉えれば良い。

本MZ30/3.5固有の特徴としては、
まず長所としては、

・高い描写力
・非常に小型軽量
・比較的安価でコスパが良い

があり、逆に短所としては

・(システム的に)AFの精度不足
・無限回転式ピントリングでありMF操作が壊滅的に悪い

がある。でもまあ、この短所の方は、本レンズに限らず、
本記事で紹介のミラーレス機用の準標準マクロは、どれも
同じ課題を持っている。(注:一眼レフ用では、さほどの
問題点にはならない)

AFの問題だが、現代のミラーレス機(一眼レフでも)では
例え、像面位相差AF等の新技術が搭載されていたとしても、
撮影倍率が高い、又は被写界深度が極めて浅い状態では、
ピントが合い難く、もう少しだけAF技術自身の進化を
待つ必要があるだろう・・


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では、ここで、次のマクロレンズに交替する。
_c0032138_16164323.jpg
レンズは、SONY E 30mm/f3.5 Macro (SEL30M35)
(中古購入価格 14,000円)(以下、E30/3.5)
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)

2011年発売のAPS-C機専用準標準AF等倍マクロレンズ。

典型的な「カリカリ(描写)マクロ」である。
(用語の意味は、匠の写真用語辞典第5回記事参照)
輪郭線が極めて強い描写であり、その為に被写体の種類を
著しく選んでしまう。(花等を柔らかく撮るのに向かない)

あまり一般的な近接撮影に向くとは言い難く、いったい
何故、こんな描写特性のレンズを発売したのか? そこは
良くわからないが(注:SNS投稿用レンズとしてのテスト・
マーケティング製品であるとも分析しているが、確証は無い)
まあそれでも、ここまで極端な特徴があれば、それはそれで
興味深く「この描写が向く被写体を探し出して使えば良い」
という事になるだろう。
(=「用途開発」が必要なレンズだ、と言える)
_c0032138_16164380.jpg
さて、ここで標準マクロレンズの歴史の話であるが・・

銀塩MF時代から一眼レフ用の標準マクロ(50~60mm程度の
焦点距離、撮影倍率は最大でも1/2倍程度)は存在していた。

最初のマクロが何だったかは真面目に調べてはいないが・・
海外製のKERN MACRO SWITAR(ケルン・マクロ・スイター)
や、KILFITT (MACRO) KILAR(キルフィット・キラー)が

1950年代位の発売であり、恐らく、それらが元祖であろう。
だが、それらは希少価値から、中古市場では長年、高額な
取引が続いている(未所有)


国産ではNIKON Micro-NIKKOR Auto 55mm/f3.5あたりが
1963年の発売だ(後継のAi版(1970年代)は、レンズ・
マニアックス第16回記事で紹介)、また、同じ1960年代
初頭ではPENTAXからもテッサー型構成のMacro-Takumar
(マクロ タクマー。後年には大文字MACRO-TAKUMAR表記)
50mm/f4が発売されていたと記憶している(現在未所有) 

1970年代位は、一眼レフ用のMF標準マクロは一般的なレンズ
となり、各社から同様なスペックのレンズが発売されている。
仕様は、殆ど全てが最大撮影倍率1/2倍であり、等倍撮影を
実現する為に、専用または汎用の接写リング(アダプター)が
付属またはオプションで別売されていた。

この1960年代~1970年代では、まだコピー機が普及しては
いなかった為、標準マクロの用途には、文書や資料等を
複写するといった、学術用、医療用、各種業務用等の、
専門的分野での使用目的が多かった。(中望遠マクロより
画角が広いので、この用途においては望ましい)

一般ユーザーでは、専用のマクロレンズを別途購入はせず、
簡易的には「クローズアップ・レンズ」(凸レンズ1枚だけの
フィルターであり、拡大して写す事が出来るが、球面収差等
の発生で画質は劣化する)を用いて接写を行う事もあった。
また、接写リング(延長型の鏡筒)も色々と市販されては
いたが、この用法は、少しだけ専門的だ。

1980年代後半~1990年代前半の一眼レフAF転換期では、
MF版と同様の設計またはコンセプトのAF版標準マクロも
何本かあったが、時代は別の市場ニーズも生まれていた。
具体的には・・

1)1/2倍では物足りない、等倍が欲しい。

2)コピー機代替の学術・業務用途の平面カリカリマクロでは、
 一般撮影には向かない、もっと柔らかく、花等を撮りたい。

3)F3.5~F4級の開放F値では暗い、もう少し明るい物が欲しい。
(注:近接撮影では「露光(露出)倍数」が掛かるので、
 当時の機材環境では、手持ち近接撮影は困難であった)

4)一般レンズのように無限遠で最良の画質を発揮する設計基準
 ではなく、近接撮影で良好な画質となる設計の物が欲しい。

・・という事で、1990年前後からは、TAMRONの中望遠の
90マクロや、各社100mm級AF等倍中望遠マクロを皮ぎりに、
中望遠マクロレンズの普及が始まった。

標準マクロレンズの方でも、AFで等倍、開放F2.8級、
かつ「近接設計基準」(=最短撮影距離で最高性能が
発揮できる設計。一般レンズの無限遠基準とは逆)の
マクロが、1990年代には、各社から出揃った。

(注:この事(最良性能発揮の撮影距離)のみを指して
「設計基準」と呼ぶ風潮は誤りだ。「設計の為の基準」には、
軽く百を超える、様々な要素が存在していると思う。
技術者的には、多数ある設計基準要素の中から最良距離の
項目を指して「設計基準」と呼ぶ事は誤りでは無いのだが、
それを聞いた記者等の非技術者層が、設計基準=距離基準
の事、と勘違いしたのが原因で広まってしまったのだろう)

2000年代、デジタル時代に入っても、一眼レフ用標準マクロ
は、銀塩時代のものをそのまま利用できた。ただし、初期の
デジタル一眼レフは、ほとんどがAPS-C型機であった為、
標準マクロが中望遠マクロへ、中望遠マクロが望遠マクロへ、
と、画角が狭くなる課題があったが、反面、撮影倍率は、
最大1.5倍程度と高くなる為、ユーザー層からは、あまり
不満の声は上がらず、これら標準マクロは、細かい改変を
繰り返しながら販売が継続されている。

まあでも、マクロレンズにおける焦点距離の差は、被写体
自体の撮影倍率に差が出て来る訳では無い。たいていの
現代マクロは等倍(1:1)仕様なのだ(注:フルサイズ時)

では、被写体がほぼ同じ大きさに写るのに、何ゆえに
様々な焦点距離のマクロが必要か?と言えば、概ね5つ
くらいの理由がある。


1)各々、WD(ワーキング・ディスタンス)が異なるので、
 撮影条件に応じた被写体までの距離を調節する為。

2)背景の取り込み範囲が異なる。同じ被写体倍率で撮影
 しても、焦点距離の長いマクロ程、背景の写る範囲が狭い。

3)焦点距離の長いマクロの方が(同じ絞り値で、同じ被写体
 距離であれば)被写界深度を浅くする事が出来る。

4)通常レンズとして用いる場合、勿論画角の差がある。

5)レンズの焦点距離毎での「手ブレ限界」シャッター速度
 が各々異なる。(焦点距離が短いと、手ブレし難い)
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・・と言う事で、「やはり焦点距離の短いマクロレンズも
場合によっては必要では無いか」という話になったのだろう
APS-C機用の広角気味(準標準)のマクロレンズのニーズが
2000年代後半には高まって来た。

2007年にはTOKINAよりAT-X M35 PRO DX(35mm/f2.8)
が発売された。こちらがもしかすると、初の(APS-C専用)
準標準マクロだったであろうか?(別記事で紹介予定)

同じ頃、2000年代末になると、数社からミラーレス機が
新たに発売され、また、スマホの普及が始まり、従前から
の「携帯カメラ」と合わせて、そうした簡易撮影機材で
写真を撮る人が増えて来た。

一眼レフ市場の縮退を危惧したメーカーは、エントリーレンズ
(=安価で高性能な「お試し版レンズ」)を企画する。
その際、マクロレンズにおいても、一眼レフのAPS-C機
専用の準標準マクロが、エントリーレンズの一種として
ラインナップされる事もあった。(例:NIKON DX40/2.8や
SONY DT30/2.8等、いずれも本記事で紹介)

ただ、各社エントリーレンズの戦略は、2010年前半迄で
止まってしまっている。レンズ市場の縮退が急速だったので
「お試し版」等の悠長な戦略は、もう取れずに、直接的に
高付加価値型商品(レンズ)での値上げ戦略が始まったのだ。
しかし、一眼レフ市場はそうであったが、ミラーレス市場は
まだ伸びしろがあったので、もうすこし後年まで、低価格帯
マクロレンズの新発売は続いていた状況であった。

ここまでが現時点での準標準・標準マクロの歴史である。

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では、3本目のマクロ
_c0032138_16165026.jpg
レンズは、HD PENTAX-DA 35mm/f2.8 Macro Limited
(中古購入価格 26,000円)(以下、HD35/2.8)
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)

2013年発売の、APS-C機専用準標準AF等倍マクロレンズ。
(レンズ・マニアックス第13回記事参照)
_c0032138_16165085.jpg
PENTAX伝統の「smc」型番から、「HD」型番に、替わり
始めた頃の時代のレンズである。


HDは「High Definition」の略であり、直訳では、高精細、
高忠実度、という意味であり、様々な映像分野で同様の略語
が使われるのではあるが、PENTAXのレンズ型番においては、
新型のコーティング技術であり、「ゴーストやフレアを
抑えて逆光耐性を向上させた」という意味となる。


まあ、旧来の「smc」(Super Multi Coated/Coat)は、
1970年代の多層コーティング技術ではあるが、当時としては
先進的技術であったし、その後40年間以上も、その技術を
改良させなかった訳ではなく、勿論、段々と性能を上げていた。

まあだから、今更「HDになったから凄い!」という事は無い
のであるが、レンズ市場の縮退を受けて、「いつまでもsmc
のままでは目新しさが無い、型番を変えて高性能をアピール
しなくては」という「高付加価値化戦略」であろう。

ただ、高付加価値化で、あまり値上げをしない所については
「PENTAX(RICOH)は良心的である」とも言えよう。
他社においては、「高付加価値化=大きな値上げ」という
図式が、残念ながら成り立ってしまっている。
_c0032138_16165027.jpg
本レンズは、高性能である。目だった弱点は見当たらない。
しかも、価格や中古相場もあまり高く無く、コスパが良い。
APS-C機専用である事(=フルサイズ対応では無い)が、
初級層には気になるかも知れないが、そんな事は気にせずに、
PENTAX機ユーザーであれば必携のレンズであろう。
(PENTAX機では、フルサイズの機体が2機種しか無い為、
依然、APS-C機を主力としているユーザーが大半だと思う)

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さて、次のマクロシステム
_c0032138_16165669.jpg
レンズは、SONY DT 30mm/f2.8 Macro SAM (SAL30M28)
(中古購入価格 10,000円)(以下、DT30/2.8)
カメラは、SONY α65 (APS-C機)

2009年発売の、APS-C機専用準標準AF等倍マクロレンズ。
(ハイコスパレンズ・マニアックス第14回記事等参照)

典型的なエントリーレンズであるが、エントリーマクロは
珍しく、本DT30/2.8と、後述のNIKON DX40/2.8くらい
しか存在し無いであろう。


近年、本レンズの紹介をする時は、Soratama(宙玉)72
の「マスターレンズ」とするケースが殆どであったが、
今回は、本レンズ単体で使ってみる。
_c0032138_16165683.jpg
レンズ単体で等倍マクロが得られる仕様だ。
最短撮影距離は約13cmと、かなり短く、レンズ先端から
のWDは数cm程度しか無い。


WD(ワーキング・ディスタンス)の短さは、長所とも短所
とも言えるが、この特徴を活かして、通常では、本レンズに
「宙玉」 (ZENJIX soratama 72)を装着して使っている訳だ。

レンズ単体で用いた時の描写力であるが、可も無く不可も
無し、という感じであろうか。
前述のE30/3.5のような「カリカリマクロ」的描写では
無いし、あるいは、同じα(A)マウントでの(MINOLTA時代
から続く)名マクロのAF50/2.8Macro系のような、圧倒的
とも言える高描写力は持たない。(注:本DT30/2.8は、
AF50/2.8系の2/3倍縮小設計ジェネリック・レンズ
では無く、若干の光学系の簡略化が図られている模様だ)

APS-C機専用という事で小型軽量なのは良いが、軽量化の
為にプラスチック成型品であり、相当に安っぽい印象がある。

近年では、中国製等の安価なミラーレス機用単焦点レンズ
が色々発売されているが、その多くは金属鏡筒で、しっかり
とした質感を持つので、それらと比べてしまうと、同等の
1万円台の新品実売価格とは言え、本DT30/2.8のコストダウン
による低感触性能(=安っぽさ)が特に目立つ。

まあ、レンズに限らず、もう国産品では、安価で高品質な
製品は作れないのであろう。労働賃金や製造コストの上昇とか、
色々と理由や原因はあるとは思うが、「国際競争力」という
視点では、もはや厳しいであろう事が、こうしたレンズ商品の
1つを見ていても、とても良くわかる。

国産カメラ(レンズ)の国際的な優位点は、「電子技術」は
まだあるとは思うが、それもいずれは新興国に追いつかれて
しまう。だとすると、残るは「ブランド力」だけであろうか?

まるでドイツの高級カメラ群が1970年代前後に、日本製の
カメラの一眼レフ化やAE化戦略に追従できず、競争優位性を
失って、カメラ市場から殆ど撤退してしまい、その後は、
「ブランド」を売って生きながらえてる状況を彷彿させる。

日本製カメラも、そうなってしまわないようにする為には、
高付加価値戦略等と言った利益向上の為の受動的な市場戦略を
取らずに、もっと何か革新的でアクティブな戦略を取らざるを
得ないのではなかろうか・・?(注:「それがフルサイズの
ミラーレス機だ!」と言うならば、そこはちょっと違う。
それについては、他の様々な記事でも再三述べている事だ)
_c0032138_16165631.jpg
余談が長くなったが、こういう話は、個々のレンズの性能を
どうのこうの、と言うよりも、ずっと重要な事だと思う。

高価になりすぎた近年の国産新鋭カメラ・レンズを見て
「値段が高いならば、さぞかし性能が良くなったに違い無い」
などと、呑気な感想を言っているだけでは、その裏に隠れる
本質を、まるっきり見落としてしまいかねない・・

新製品の値段が高くなったのは、単に「売れないから」である。
では何故売れないのか? そこをメーカー側や市場のみならず
ユーザー側でも良く良く考えてみる必要があるだろう。
「さもないとカメラ市場が崩壊してしまう!」位の危機感を
ユーザー側においても持っておかなければならないと思う。
魅力的な新製品カメラが何も発売されずに困ってしまうのは、
消費者層においても、やはり問題点ではあろう。

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では、5本目のマクロシステム
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ユニットは、RICOH GR LENS A12 50mm/f2.5 MACRO
(中古購入価格 20,000円)(以下、A50/2.5)
カメラは、RICOH GXR (A12型ユニット使用時、APS-C機)

2009年発売のGXR専用APS-C型センサー内蔵AF1/2倍マクロ
ユニット。(本シリーズ第10回等、多数の記事で紹介)

本システムは、2015年位に中古相場が新発売時の1/3程度
まで下落したのを機に購入したのだが、本A50/2.5に
関しては、思いもよらず非常に高描写力なマクロユニット
であり、驚きを隠せなかった。

とても機嫌良く4年間程使っていたのだが、2019年頃に
電子的故障を起こし、今更の修理も困難であり、やむなく
廃棄処分となった。
_c0032138_16173743.jpg
しかし、本A50/2.5の描写力は捨てがたく、もう一度同じ
ユニットを購入した、という「買いなおし品」である。

前回購入時より、さらに中古相場は下落していたのだが、
ユニット(レンズ)単体での中古商品が無く、やむなく
GXRボディとのセットでの購入となった。

現代となっては既に「仕様老朽化寿命」(=持論では、
デジタル製品では発売後10年間が限界=2019年まで)が
来ている状況ではあったが、まあ、本システムは、
壊れるまで、きっちり使い潰してしまう事としよう。

「仕様老朽化寿命」での最大の問題点は、GXRシステムが
最初期のミラーレス(?)システムであり、貧弱な性能の
「コントラストAF」しか搭載されていない事である。
まあ、技術的なタイミング的には、やむを得ない話であり
「像面位相差AF」等がミラーレス機に搭載されるのは、
本システムから数年後の話である。

なお、GXRシステムは、ユニット交換式という特異な仕様で
あった事が災いした。他社ミラーレスシステムでは、新型の
像面位相差AF等を搭載したボディに買い換えれば、それで
AF性能を高める事が出来たのだが、GXRではそれは無理だ。
ユニットは間違いなく買い替えの必要があり、下手をすれば
ボディも買い替えとなり、それでは何も残らず(汗)
「新しいシステムを買え」と言っている事と等価になる・・

結局、「GXRシリーズ」の展開は、初号機の1機種だけで、
凍結されてしまった、という悲運のシステムである。

・・まあだから、本GXRシステムでは、AFが殆ど合わない。
しかし、MFに切り替えても、操作性や表示系の性能がやはり
貧弱であり、MFも殆ど使えない。であれば、結局のところは、
合わないAFにイライラしながら使わざるを得ない状況だが、
まあでも、たまに上手くピントが決まった場合の描写力は、
他の何物にも代えがたい魅力がある。

相当にクセがあり、かつマニアックではあるが、まあこれが
GXRシステムの真骨頂であり、とっくに老朽化している
本システムを、いつまでも使い続けたい、というニーズにも
繋がっている。

現代において、GXRシステムを新規に購入しようという酔狂
は、決して勧めることは出来ないのだが・・
まあ、いつの日か、新型GXRシステムがまた発売される事を
願うとしようか。

ただまあ、カメラ市場縮退の現代においては、そんな異質な
製品を市場に投入する事は出来ないであろう。もっと堅実に
(かつ高価に)売れるカメラやレンズを発売するしか無い、
という状況だと思われる。

結局、こういう点が「市場に面白味のあるカメラやレンズが
1つも無くなってしまった」という原因であり、マニア層は
高価なだけで魅力に欠ける新製品に、全く興味を持てない。

だから「市場崩壊の危機だ」と再三言っている訳であり、
「ユーザー側もまた、市場について良く考える必要がある」
という事でもある。まあ現代のマーケティング手法では、
ユーザーが欲しがる商品を企画するのだが、ユーザーが
欲しがらないような商品については、その声をしっかりと
メーカー側に届ける事が必須であろう。
(例:不要な迄の非実用的な超高感度性能はいらない、等)
さも無いと、メーカーも市場流通もユーザーも、お互いが
不幸になるだけだ。

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では、今回ラストのマクロシステム
_c0032138_16173775.jpg
レンズは、NIKON AF-S DX Micro NIKKOR 40mm/f2.8G
(中古購入価格 20,000円)(以下、DX40/2.8)
カメラは、NIKON D5300 (APS-C機)

2011年発売の、APS-C機専用準標準AF等倍マクロレンズ。
(レンズ・マニアックス第33回記事参照)

ブランド力で高付加価値製品を売る戦略のNIKONとしては
希少なエントリーレンズ、しかもマクロ(Micro)であり、
結構面白いコンセプトのレンズである。

ちなみに、NIKONではマクロ(Macro)では無く、Micro
(マイクロ)と呼ぶ、こちらの用語の方が本来の意味的
には正しいが、他社が全てMacroなので、なんとも不自然な
状況だが、もはや市場全般での用語統一は困難であろう。

さらにちなみに、旧来ではMicro-NIKKOR(ハイフン有り、
大文字小文字注意)とレンズ等に記載されていたが、
現代の本レンズ等では、Micro NIKKORと、ハイフンは無い。
(注1:各種資料等で、このあたりの間違いがとても多い)
(注2:開放F値の表記はNIKONでは、f/2.8と記載するが、
この記法も各社バラバラであり、本ブログでは開設当初から、
各社共通で、40mm/f2.8という暫定表記で統一している)
_c0032138_16174593.jpg
さて、本DX40/2.8だが、現代の感覚からは、やや古い
コンセプトに感じるレンズだ。
本レンズの発売後、2012年は「フルサイズ(一眼レフ)元年」
である、と定義していて、この後、いっきに各社一眼レフは
従来のAPS-C型機に代わってフルサイズ機が主流となった。

だから、DX型(APS-C機専用)レンズは、不人気となり、
その後の年月の経過とともに、中古相場はどんどんと下落
していった。本レンズは発売当初から欲しかったレンズでは
あるが、その中古相場の低下をウオッチしつづけ、発売時に
自身で決めた「想定購入価格」である「2万円」に到達した
のが、発売後8年(も)経った2019年初頭の事である。

だが、少々長く待ち続けてしまったかも知れない(汗)
持論では、レンズに関しては「仕様老朽化寿命」を厳密には
設定しておらず、別に発売後10年間迄等と制限している訳
では無い、所有しているレンズは、30年や40年前の古い物
であっても完全に現役だ。

ただ、色々と研究をしていると、流石に50年以上も前の
レンズは古すぎると感じてしまう。だから、いつの時期でも、
だいたい「50年前迄」を目処として、それより古いものは、
処分あるいは「休眠」、という措置を取るようにしている。

さて、本DX40/2.8の描写力であるが、ボケ質破綻が
頻発するのが大きな課題だ。

まるで、1990年代のAi AF Micro-NIKKOR 60mm/f2.8D
(ミラーレス・マニアックス第57回記事参照)のような
描写傾向であり、全般的にボケが固い。
この特性は、個人的には好みでは無く、AiAF60/2.8も
低評価であって、銀塩時代から代替レンズをずっと模索
していた状況であったのだ。

(注:AiAF60/2.8は、NIKONのWebでは「AIAF」の記載が
あるが、NIKON自身、昔からAiの「i」は小文字表記だ。
AiレンズをAF化したのだから、「Ai AF」が順当な筈。
そして、スペースが入るか否か?も定かでは無い。
ちなみに、レンズには、AF以降の型番しか書かれていない。
どこかのタイミングで表記法を変えたのかも知れないが、
メーカー自体でも記載法がまちまち、という状況は少々困る)

・・で、おまけに、このボケ質は、光学ファインダーでは
殆ど確認できないので対処のしようがなく、今回の母艦
D5300(初級機)との組み合わせでは、AFもMFも性能不足
であり、ピントの不安が常に付きまとう。
(注:何故初級機を使っているか?は、「限界性能テスト」
および「オフサイド法則の緩和」からである。
各々、匠の写真用語辞典第27回記事、第16回記事参照)

本レンズのような描写力に課題を持つレンズを使う際には
一眼レフでは無く、ミラーレス機を用いて、様々な弱点回避
技法を使わない限りは、レンズ性能をちゃんと発揮させる
事は困難であろう。
_c0032138_16174533.jpg
それと、AiAF60/2.8と本DX40/2.8は、約20年の時を隔てて、
何故、描写傾向が似ているのだろうか? 両者のレンズ構成
は、僅かに異なるが、設計のベースは類似かも知れない。

だとすると、考えられる理由は、2つしかなく、
1)AiAF60/2.8の設計をAPS-C機用にダウンサイジングした。
2)マクロレンズの場合、こういう特性にするべきだ、
 という設計コンセプトがある。

内、1)は「ジェネリックレンズ」として、設計の手間を
削減してコストダウンに繋がるので、あまり問題は無いが、
2)の理由であったら、少々やっかいであり、すなわち
特にマニア層等が嫌がる特性のレンズを作っているという事だ。

そうなる理由の推察だが、2)の設計コンセプトにおいて、
球面収差(やコマ収差)、色収差、周辺減光、歪曲収差を
優先的に補正し、反して像面湾曲や非点収差の補正、
そしてボケの遷移状態、ボケ質等への配慮は設計優先度が
低い、という事になるのだろう。

まあつまり、初級中級層とか評論家層のユーザー側において
簡単に指摘されやすい課題のみを、重点的に改善させている、
という事になる。

・・もしそうであれば、やや保守的な製品開発コンセプトだ。
優等生的な「文句を言われ難い」という「守りの姿勢」の
レンズよりも、積極的に攻めた「個性的な特徴」を持つ
レンズが欲しいと思う消費者層も多いとは思うのだが・・

で、普通、マクロレンズは1990年代以降のAF&等倍の
製品であれば、どの時代のどのメーカーの物を取りあげても、
殆ど非の打ち所の無い程の、高描写力である事が常である。
そんな状況の中では、本DX40/2.8に課題が色々とある点は、
周囲の他社マクロレンズと比較しても若干見劣りしてしまう。

まあ、いずれにしても、あまり好みでは無いレンズだ。

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では、今回の「準標準マクロ編」は、このあたり迄で。
次回記事に続く。

レンズ・マニアックス(35)補足編~35mmAFレンズ検証

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今回は第35回記事にちなみに、実焦点距離が35mm
(前後)のAFレンズを7本取り上げる。
内、1本が未紹介レンズで、他の6本は過去記事で
紹介済みだが、描写力等の比較の参考とする。

なお、今回紹介の35mm級レンズは、フルサイズ対応、
APS-C機専用、ミラーレス機用等の区別は問わないが、
35mm級のマクロレンズは除外する。

ではまず、最初の35mmレンズ
_c0032138_15363532.jpg
レンズは、YONGNUO(ヨンヌオ) YN35mm/f2N
(中古購入価格 8,000円)(以下、YN35/2)
カメラは、NIKON D5300(APS-C機)

2018年頃(?)に発売された、中国製のフルサイズ対応
AF準広角レンズ。

このレンズは、CANONが1990年頃~2012年頃に販売
していたEF35mm/f2 の完全(デッド)コピー品である。
(EF35/2については、次の項目のレンズとして紹介する)

同様な出自のレンズで、YN50/1.8(本シリーズ第20回)
を既に紹介しているが、本YN35/2はオリジナルのCANON
EFマウント版では無く、NIKON Fマウント版だ。
_c0032138_15363576.jpg
で、銀塩時代のMFレンズの場合では、マウントの形状を
変えれば、他社マウント品への変換が容易であったのだが、
(例:TAMRONの銀塩MF時代の「アダプトール2」型交換式
マウント)AF(/デジタル)レンズでは、そう簡単では無い。

カメラ側との情報伝達プロトコルとか、様々なAF駆動方式
や、付加機能等にも対応しなければならないからである。

本レンズの場合は、マウント形状を差し替えたのみならず、
NIKONのレンズプロトコルやAF方式に対応している為、
本YN35/2(N)はNIKON機でAFが効き、レンズ情報手動入力
の必要も無く、また、元々CANON EF用レンズであった故に、
AFモーターを内蔵しているので、今回使用のD5300でも、
AFがちゃんと駆動する(参考:NIKON D5000シリーズおよび
D3000シリーズにおいてはレンズ内モーター非搭載の場合は、
MFでしか撮影が出来ない。また、NIKON通信プロトコルに対応
していない各社MFレンズや、マウントアダプター使用時には、
「レンズ未装着エラー」となって、撮影が出来ない。
・・これは「仕様的差別化」であるが、まあやむを得ない。
これらが問題となる場合は、NIKON上位機種を使うしか無い)

でもまあ、初級機D5300でも動作する格安レンズとして、
本YN35/2(N)は、なかなかコスパが良く感じる。

ニコンFマウントである他は、CANON EF35/2と全く同じ
性能である。レンズ構成はもとより、最短撮影距離も同じだ。
(注:最短25cmと、かなり優秀だ。このスペックは、
全35mmレンズ中、(マクロを覗き、通常レンズの中では)
TOP 5の位置に相当する。)

コーティング性能のオリジナルとの差は良くわからないが、
逆光耐性等において特に問題となる様子は無い。

弱点は特に見当たらないが、MF時のピントリングの回転
方向が、距離指標と逆になっている事が少々気になる。
(CANON EFレンズをNIKON用に転用したが故か・・?)
_c0032138_15363521.jpg
結局の所、YONGNUO YN50/1.8とCANON EF50/1.8Ⅱの
関係のように、本YN35/2(N)と、CANON EF35/2の関係も
「中身は殆ど同一のレンズ」という事となる。

(追記:その後の、さらなる検証で、SIGMA MC-11や
CANON EF-EOS M等の電子マウントアダプターを使用
した際、これらYONGNUO製レンズと、CANON純正レンズ
では、プロトコル上での差異、つまり動作の差異が確認
された。まあつまり電子部品や、そのファームウェアは
純正オリジナル品とは若干の差異がある、という話だ。
→しかし、通常の利用法では、その差異は表面化しない)

「何故、こんな”完全コピーレンズ”が作れるのか?」
という件だが、その理由は、あまり表立って言えないような
何らかの裏事情が存在するのだろうと推察している。

ここでその詳細を書くのはやめておくが、一般に公開されて
いる情報として・・
1)25年間も続いたEF50/1.8Ⅱが生産中止となり、
 EF50/1.8STMが新発売された(2015年)
2)EF50/1.8Ⅱの偽物が市場に出回った事件(2016年頃)
3)YN50/1.8の発売の時期(2014年頃~)
・・といった情報から、だいたい推理は出来ると思う。

まあ、「いわく付き」のレンズではあるが、そのあたりの
裏事情は、基本的には消費者側には関係の無い話である。
「お金を出して、どのレンズを買おうが、本人の自由だ」
という訳であるから、YONGNUO(ヨンヌオ)を買っては
ならない理由は無い。
_c0032138_15363568.jpg
本レンズは、ベースとなったEF35/2譲りの高性能が
安価で得られる事が魅力のレンズである。
一般的撮影においては性能不足を感じる事は無いであろう
が、若干のボケ質破綻が発生するケースがある。

また、コストが安価なので、厳しい撮影環境等での消耗用
レンズとして使い潰ししてしまう事にも向いている。

ちなみに、今回使用のD5300との組み合わせにおいては、
計3万円そこそこの中古価格でシステムが構築できてしまい、
おまけに、小型軽量でありながらも、かなり本格的なデジタル
での「標準画角」システムであるから、汎用性はとても高い。
例えば、このまま旅行等に持っていっても十分であり、
おまけにシステム全体が安価であるから、仮に旅先で注意力が
散漫となって、何らかの過失により機材にダメージ等を与えて
しまっても、さして気に病む必要も無いであろう。

そうした目的には最適のシステムではなかろうか・・?

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では引き続き、関連するレンズを紹介する。
_c0032138_15364746.jpg
レンズは、CANON EF35mm/f2 (以下、EF35/2)
(中古購入価格 17万ウオン=約17,000円)
カメラは、CANON EOS 8000D(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第68回記事等で紹介の、
1990年発売のフルサイズ対応AF準広角レンズ。

前項のYONGNUO YN35/2(N)のコピー元となったレンズ
である。
_c0032138_15364760.jpg
本EF35/2は既に生産完了していて、後継機の現行レンズは、
2013年発売の、EF 35mm/f2 IS USM(未所有)であり、
そちらは手ブレ補正及び、超音波モーター内蔵の現代的な
スペックとなっており、光学系も変化している。
(最短撮影距離もさらに1cm縮まり、近代35mmレンズ
中ではTOP3のレベルとなった)

本レンズの購入は、2000年頃の韓国/ソウルの中古店での
入手であり、その当時、本レンズの国内相場は25,000円
以上していたと思うので、まあ安価に買えたと思う。
(注:韓国へは旅行と言うより、上級マニア数名での
「買出しツアー」であった。当然、各カメラやレンズの
中古相場を熟知しているメンバーばかりであるので、
国内市場よりも高価に買う等という事態は有り得ない)
_c0032138_15364828.jpg
本レンズは旧型とは言え、完成度は低くなく、特に
実用上の不満は感じられない。超音波モーター(USM)搭載
仕様では無いので、AFの精度や速度に不安を感じる向きも
あるかも知れないが、小型レンズであるし、さほどの精密
なピント精度が必要なレンズでも無いので、そのあたりは
さほど気にする必要は無いであろう。
解像感はあるが、大口径を生かした、被写界深度を浅く
した撮影では、ボケ質破綻が発生するケースもある。

それから、後継型はレンズ構成が変化している。
当然ながら本レンズよりも、より高描写力を得る為の
改良であろう。まあ、このあたりは、CANONの良い所で
あり、ちゃんと後継機種では、それなりの性能改善を
行っている訳だ。他社の一部では、何十年もの間、
レンズ光学系を全く変化させず(注:新規光学系開発は
とても費用がかかる理由もあるだろう)、そのままの
光学系に「手ブレ補正が入りました、超音波モーターが
入りました」と言って、価格が大幅にアップされた例も
多々ある状態だ。

まあ、その事を逆に好意的に捉えれば、新機種において
「光学系を改善させる必要が無いほど、旧来からの設計の
完成度が高かった」と見なす事もできるのだが・・ 全てが
そうしたケースばかりでもなく、中には単なる「値上げの
為の理由」として手ブレ補正等を追加しただけのレンズも
存在している。どのレンズがそうで、どれがそうで無いかは
そのレンズだけを見ていてもわからず、旧機種や後継機、
あるいはその時代の状況等を綿密に分析していけば、大体は
わかってくるのだが、それは上級マニア層位しか出来ない
分析であろうから、結局、初級中級層では、コスパの悪い
モノを掴まされてしまう事もあるかも知れない。

もう少し具体的に言えば、手ブレ補正や超音波モーターが
入っていなくても撮影用途(目的)的に問題無い場合も
多々ある。そんな場合は、安価に相場が低下した旧型の
中古でも、光学系が同じであれば、描写力は同一であり、
圧倒的にコスパが良くなる訳である。
_c0032138_15364892.jpg
余談が長くなった。本EF35/2は、比較的コスパが良い
レンズではある。ただし、本EF35/2も冒頭のYN35/2も、
いずれも約30年も前のセミ・オールドレンズではある。
だから、細かい問題点は存在しているので、それをちゃんと
回避して使わなければならない、そして撮影者自身に安定した
撮影技法が身についていなければ、写真の描写力もまた
バラつきが起こってしまう。EF35/2とYN35/2とは元々同じ
レンズであるから、条件を整えて使うならば両者全く同等の
描写力となる。それが出来ない初級中級層等においては、
「やはり国産のCANONの方が良く写る、中華レンズはダメだ」
等と言っている評価があるならば、それは撮影者自身が
安定した撮影技能を持っていない、という事と等価であるから、
そんな事を言っている時点で、自身のスキル不足を公言して
いる、という状態にもなり得る話だ。

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さて、次からは、各種35mmレンズを、比較用として
順次紹介する。
_c0032138_15365694.jpg
レンズは、NIKON AF-S DX NIKKOR 35mm/f1.8G
(中古購入価格 18,000円)(以下、DX35/1.8)
カメラは、NIKON D500 (APS-C機)

2009年発売のDXフォーマット(APS-C型)専用AF準広角
(標準画角)レンズ。

少々割高に買ってしまったレンズであるが、2016年頃の
購入時点、及び、その後の中古相場は、もっと高価であった。
だが、2018年頃より急速に中古相場が下落、現在では
1万円台前半で入手が可能であろう。
_c0032138_15365704.jpg
相場下落の要因だが、2010年代後半よりNIKONの上位機種が
殆どフルサイズ機となってしまった事がある。勿論、それ以前
からもNIKONにはフルサイズ一眼レフがあったが、高価なので
あまり一般的には普及していなかった。

で、2010年代からのカメラ市場の縮退を受けて、ビギナー層が
NIKON上位機種の主力ユーザーになってしまった。(すなわち
中上級者は、市場縮退の影響での高付加価値化戦略により、
高価になりすぎた新鋭機には、あまり興味が持てない為だ)

その結果、ビギナー層では単純に「フルサイズ機が優れている
今時、APS-C機を使っていたら格好悪い」という偏った概念で
機材選びを行うようになり、本DX35/1.8のようなAPS-C機
専用レンズが急速に不人気になった訳だ。
なので、本レンズの新品価格は大幅に下落、それに連動して
中古相場も安価になった次第だ。

NIKONフルサイズ一眼レフのオーナーのビギナー層の中には、
「DXと書いてあるレンズはフルサイズ機では使えない」
という大きな誤解をしている人もかなり多く、それもまた、
本レンズの相場下落の要因となったのであろう。

ちなみに、NIKONフルサイズ一眼レフに本DX35/1.8を装着
すると、自動的にクロップされるが、何も問題なく使用できる。

ただ、こうした動作をする事がわかっているユーザーであっても、
1)ファインダーの視野が狭くなって気持ち悪い
2)記録画素数が小さくなるので画質が低下する(と思い込む)
の、2つの理由から、DX用レンズは嫌われる場合も多いと聞く。

ただまあ、画素数の件は、用途によりけりで、どうても良い話
ではあるし、逆にクロップする事で、テレコン代わりとして
撮影倍率を高めたり、測距点選択を有効に使えたり、露出輝度
分布が変化してより精度が高まるなど、メリットも多いのだが
残念ながらビギナー層(まれに中級層も)では、そうした
用法は理解できず、それよりもむしろ、「カメラやレンズに
弱点がある事を非常に嫌う」訳だ。


何故ならば、ビギナー層は、常に自身の撮影スキルに不安を
持っているからであり、だから、高性能のカメラやレンズを
購入して、その不安を払拭しようとするのだろう。

クロップ時の課題など、どうても良い話であり、むしろ利点を
良く認識して、撮影シーンでの必要度に応じて、その機能を
活用したり、あるいはもう最初から母艦を安価なAPS-C機として
持ち出せば、ビギナー層が嫌がる画素数低下は起こらない。
(この場合、「オフサイド状態」にもならず、好ましい)

また、一部のAPS-C機では、DXレンズをさらにクロップして
μ4/3機相当の2倍の画角(換算焦点距離)で用いる事も
可能である。その場合、本レンズは「準標準マクロ」と
しての用途も出てくる。(最短撮影距離30cmでの撮影で、
フルサイズ換算撮影倍率は約1/4倍となる。勿論専用マクロ
レンズよりも最大撮影倍率はずっと低いが、開放F1.8は、
F2.8級マクロの2倍以上も明るいので、それを活かせば良い。
さらに言えば、露光(露出)倍数の掛り方も、専用マクロ
よりも緩和され、より速いシャッター速度で撮影が可能だ)

本レンズ自体は、NIKON初の「エントリーレンズ」であり、
コスパが極めて高い他、歴史的価値も高いレンズだ。
ビギナー層がフルサイズ機を買った事で処分してしまう類の
レンズには成り得ない筈なのだが・・

ちなみに、冒頭のYONGNUO YN35/2(N)を用いるよりも、
AF性能(速度、精度)が優れていて、フルサイズ機でも
APS-C機でも気持ちよく使える。描写力もエントリーレンズ
であるが故にあまり手を抜いておらず(すなわち「お試し版」
レンズとしての責務がある。これを買ったビギナー層が色々と
不満を持ってしまったら、二度とNIKONの高級(高額)レンズ
は買ってくれなくなってしまう)・・なので、まあ、総合的
には何も問題の無いレンズだ。

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さて、次の比較用35mmレンズ。
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レンズは、TAMRON SP 35mm/f1.8 Di VC USD (F012)
(中古購入価格 41,000円)(以下、SP35/1.8)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

レンズ・マニアックス第13回記事等で紹介の
2016年発売のフルサイズ対応AF準広角レンズ。

同じようなスペックのレンズばかりが続くが、その比較が
本記事における主眼だ。
_c0032138_15370364.jpg
本レンズは、極めて描写力の高い新鋭高付加価値型レンズ
である。

しかし、手ブレ補正(VC)や、超音波モーター(USD)の
搭載は、個人的には(このクラスの準広角レンズでは)
どうでも良い話であり、それらを入れた事で高価になって
いるのであれば(発売時定価は、90,000円+税と、やや
高価すぎると思う)・・
「そんな付加機能はいらないから、その分安くしてくれ」
というニーズすら出てくるし、そもそも私の場合、その手の
高付加価値型レンズは「コスパが悪いから買わない」という
選択になるケースが大半であるのだが、本SP35/1.8の場合
は特例であり、それは、本レンズの開放F1.8というスペック
を見て(特にライバルのSIGMAがART35/1.4をラインナップ
していた為に、比較するとF1.8は見劣りしてしまう)・・

レンズ市場縮退状態での主要購買層のビギナー層においては、
「開放F1.8のレンズは、F1.4に比べて、低性能の安物だ」
という酷い誤解を持っているので、残念ながら本SP35/1.8は
市場では不人気レンズとなってしまった。

つい先年までは、レンズ購買層(ユーザー層)は、ちゃんと
レンズの描写力や特徴的性能を評価して、そのレンズを
購入するかどうかを決めていたのだが、レンズ購買層が皆
ビギナーばかりになってしまった為、カタログスペックだけを
見て「F1.8の方が劣る」といった事を言い出してしまう。

これはTAMRONとしても企画上の大誤算であろう。なにせ、
そんなに急速に、市場での購買層のレベル(知識、経験値、
評価スキル等)が大きく低下しているとは、さすがに思いも
よらなかっただろうからだ。これまでの時代であれば、優れた
レンズを発売すれば、必ずユーザー層は高く評価してくれて
いた訳だ。(すなわち、中上級層やマニア層が、新鋭機材を
殆ど買わなくなり、新規購買層が、ビギナー層ばかりに
なってしまっているからだ)

TAMRONでは、あわてて2019年に後継レンズである
SP35/1.4 Di USDを発売するのだが、手ブレ補正機能は
非搭載となり、最短撮影距離は伸び、重量級レンズとなり、
価格も、さらに跳ね上がってしまった。(未所有)

さて、本SP35/1.8の最大の特徴は、最短撮影距離20cm
というスペックである。これはマクロを除く35mmレンズ
の中ではトップクラスの性能だ。
この長所および、本レンズの歴史的価値は、とても大きい。

(参考:本レンズをNIKON APS-C機で1.3倍クロップ
モードで使った場合、仕様上からは0.8倍マクロとなる。

なお、かなり古い旧ソ連製レンズ、および近代の中国製
レンズで最短18cmの35mmレンズが存在するが、それらは
あまり一般的に入手が容易なレンズと言う訳では無い。
また、同じTAMRONから、ミラーレス機用の35mm/F2.8
(Model F053)が、最短15cmという驚異的な性能で
2019年末に発売されたが、これは準マクロであり、
かつ、所有している姉妹レンズ(F050)での近接撮影時
のAF/MF性能の低さを鑑みて、F053型は購入していない。
「使えない性能」では残念ながら好評価は出来ない訳だ)


本SP35/1.8の描写力は、何一つ不満は無い。
おまけに不人気で中古相場の下落がとても早かったので、
発売1年ちょっとの時点で、定価の半額以下という価格で
中古購入する事が出来た。


まあ、それでも他の廉価版の35mmレンズの2~3倍も高価
な取得価格ではあるが、最短20cmの超絶性能と高い描写力

を判断すれば、多少のコスト高は容認できるであろう。
(コストが高価であっても、パフォーマンスが高ければ
コスパ的には及第点だ。本当にダメなレンズ、というのは
値段だけ高くて、性能はイマイチ、といった類のレンズだ。
まあ、ブランドレンズの中には、そういうものがいくらでも
存在する。高価なものが常に良いレンズでは無い訳だ)

本記事の主眼である、YONGNUO YN35mm/f2Nとの比較に
おいては、似たようなスペックであるのに購入価格が5倍も
高いという点では、初級層の容認できるものでは無いかも
知れない、確かに5倍までの性能差は無いと言えるので、
難しい判断にはなるとは思うが「35mmレンズ最強クラス
の近接性能と高い描写力」を評価するのであれば、多少の
値段の高さは問題にはならないと思う。

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では、次の比較用35mmレンズ。
_c0032138_15371038.jpg
レンズは、SONY DT 35mm/f1.8 (SAL35F18)
(中古購入価格 12,000円)
カメラは、SONY α65(APS-C機)

ハイコスパ名玉編第2位、ミラーレス・マニアックス
名玉編第14位にランクインした、2010年発売のAPS-C機
専用「エントリーレンズ」の名玉である。

何度も紹介している名玉なので、本記事においては、
ごく簡単な解説とし、詳細は大幅に割愛する。
_c0032138_15371054.jpg
まず長所としては、最短撮影距離が23cmと極めて短い事
であり、これは一眼レフ用の実焦点距離が35mmのレンズ
中ではマクロレンズを除き第2位の性能だ。
(1位は、前項目のSP35/1.8。→いくつか例外はある。
ただし、本レンズはAPS-C機専用であるので、公平な比較
とは言えないかも知れない)

短所としては、コストダウン要素が厳しくて、非常に
安っぽい作りとなっている事だ。ただ、そのあたりは
個人的には重欠点とは思えず、まあ、故に、様々な名玉編
系記事で、好評価となっている次第である。


現代では、私の購入時よりさらに安価な中古相場となって
おり、1万円以下で楽々買えるであろう。
SONY α、Aマウント一眼レフユーザーならば必携のレンズ
であると思う。

---
では、次の比較用35mmレンズ。
_c0032138_15371589.jpg
レンズは、Carl Zeiss Touit 32mm/f1.8
(中古購入価格 54,000円)(以下、Touit32/1.8)
カメラは、FUJIFILM X-T10 (APS-C機)

ミラーレス・マニアックス名玉編第2回記事等で紹介の、
2013年発売のAPS-C型専用AF準広角(標準画角)レンズ。

ツァイスとしては珍しいAFレンズ、しかも、これも珍しい
ミラーレス機専用であり、一眼レフ用には、このスペックの
レンズは発売されていない。

・・言うまでも無いが、現在、カール・ツァイスブランドの
写真用レンズは全て日本製である。他のツァイス・レンズ群は
製造企業名が公開されている場合も多いが、本Touit32/1.8
に関しては、製造メーカー名は非公開である。
_c0032138_15371547.jpg
描写力は、個人的には、あまり好みの感じでは無い。
特に、逆光耐性に劣りフレアっぽくなり易い為、本レンズに
関しては、日中は必ずフードを装着する事にしている。
ちなみに、現代の新鋭レンズの多くは逆光耐性に優れる為、
殆どフードを装着する必要性が無いにも係わらずだ・・

別に、カール・ツァイスのブランド銘が付いているから
と言って、「優秀なボケ味」だとか「深みのある描写力」

などの、単なる直感的な「思い込み評価」をするのは、
ちょっとそれは違うだろう。
本レンズの製造元も、他に一般的な自社ブランドのレンズ
を作っているに過ぎず、特にツァイス銘だからと言って、
物凄く特別な設計や製造を行える筈も無いであろう・・

でも、悪い描写力のレンズでは無い事は確かである。
ツァイス銘をせっかく使っているのに、もし酷い写りの
レンズを出してしまったら、ツァイスのブランドイメージ
に傷がついてしまう、だから、そういう事は許されない訳
である。
ただ、「ブランド料」が加味されているから、相当に割高
なレンズである印象は強い。例えば、NIKON DX35/1.8と
同等のスペックで、同等の描写力だ、と評価するならば、
中古相場は、4倍程も高価な訳だ。

そう考えると、ツァイスのブランド料は、相当に高額なので
あろうとも推察できる。まあ、10万円や20万円もする高額
レンズであれば、ツァイスのブランド料の比率は、高値に
紛れて、わからなく(気にならなく)なってしまうのかも
知れないが、中古5万円クラスのレンズでは、どうしても
高価な製造コスト(や高額な開発費の償却)は掛けれない
だろうから、ブランド料の比率が大きくなって、結果的に
コスパが低下してしまう。

あと、それと、専門評価者等のレビューにおいても、
ツァイスの商品を悪く言う事が出来ない、という不自然な
状況が、もうおよそ45年間も続いている。

それはつまり、ヤシカ(京セラ)CONTAX RTSの発売年
(1975年)からの話だ。その時代以降、ツァイスは、
写真用交換レンズを自社では製造しておらず、ほぼ全て
が日本製になっている。だが、戦前から続く、「カール・

ツァイス神話」は、全世界で絶対的なブランド力を持つ
為に、誰であっても「ツァイスはたいした事が無い」と
でも言おうものなら、熱狂的なツァイス信者等を全て敵に
廻してしまう。また、せっかくツァイスを国産化するの
だから、日本の技術を低く言う事も、許されない話だ。
だから、公開されるレビュー記事等では、その全てが
「さすがツァイス、とても良く写る」という評価になる
事が、ある意味「お約束」な訳だ。

ただ、その事実をどう思うかは、結局のところ、ユーザー
次第である。高級ブランド商品の「所有満足度」は高いで
あろうし、高価な商品を買った事で、ちゃんと使いこなして
やろう、という真摯なスタンスと向上心があるならば、きっと
ツァイスレンズは、その期待には応えてくれる事であろう。
(まあ、収集した事だけで満足してはいけない、という意味だ)

それから、1つ程度のブランドのレンズを所有した事で、
たとえそれが高性能なレンズであると個人的に判断しても
「このメーカーのレンズは最高だ!」といった感覚を持って
はならないと思う。
当然の事だが、レンズは個々に設計に優劣、または個々に
許されるコストというものがあり、メーカー毎にざっくりと
良し悪しを語る事はできない筈だ。

それから、もし市場において圧倒的に他社より優れる機材
(レンズやカメラ)が存在するのであれば、皆がその機材しか
買わなくなってしまう。それでは他社は皆、潰れてしまう訳
だから、先行した高性能機材に対抗する為に、さらに高性能
な機材を目標として、他社においては開発が進む訳である。

この事を理解するのは簡単だ、少なくとも類似のスペックの
他社製品をいくつか買ってみて、自身で比較してみたら良い。

その際には、「高級ブランド品だから」とか「有名だから」
といった先入観は捨ててかかるのが良いであろう。
(まあ、本記事でやっている事と同等だ、本記事は元々
中国製の格安レンズの紹介から始まり、その事において
「安かろう、悪かろう」という「思い込み」が生じない
ように、他社の安価な同等品から、同等スペックの超高性能
レンズまで、振り幅を広げた比較評価を行っている訳だ、
こういう事を繰り返すと、絶対的スケール(評価の物差し)
感覚が身に付き、新たなレンズを購入した際に、先入観に
囚われずに、「このレンズの描写力は、何点」という評価が
出来るようになっていく)

なお、別シリーズ「特殊レンズ・超マニアックス第19回
記事」でも(国産)ツァイスレンズ特集を掲載している。

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さて、次は今回ラストの比較用35mmレンズ。
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レンズは、smc PENTAX-FA 31mm/f1.8 AL Limited
(新品購入価格 90,000円)(以下、FA31/1.8)
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第60回記事等で紹介の、
2001年発売のフルサイズ対応AF準広角レンズ。

「嫌いなレンズである」と毎回のように本レンズの紹介
の際には述べている(汗)
でも、「嫌い」という印象は、本レンズ購入時点の
約20年近くも前での話でもある。
その当時、私は、FA Limitedシリーズの高い描写性能に
ハマっていて、従前からのFA43/1.9、FA77/1.8に続いて、
本レンズも、調子に乗って発売直後に新品で高価に買って
しまったのだ。
しかし「ヨンサン」や「ナナナナ」ほどの感動的な描写力は、
本レンズでは得られず、「高いだけだ、失敗した!」と評価し、
その後、本レンズは活躍の機会を失ってしまったのだ。
で、たまに持ち出しても、愛着が持てないからか、ラフに扱い
いつのまにかレンズ外装もキズだらけとなっている(汗)

まあでも、近年になって、やっと本レンズも個人的には
「再評価」の機運が高まっている。

それは、いくつか理由があるが、根幹的な話をするならば
「コスパが悪い」という第一印象は、本レンズに過剰な
までの期待を持ってしまった事がある。

まあ、別の分野での話をすれば、例えば憧れの異性が居て、
なんとか口説き落として同棲や結婚をしたとしよう、だが、
いざ一緒に生活してみると、あれこれと細かい点が気になる。
でもそれは、ごく普通の状況でもあるのだが、その相手に
過剰なまでの期待を持って「美化」してしまっていたから、
そうした細かい欠点が許せない程になる訳だ。
_c0032138_15372188.jpg
で、近年の私の持論として「レンズの欠点を回避して使い
こなす事がユーザーの責務である」という風に思っている。

まあつまり「レンズやカメラの性能に文句ばかりを言って
いるようでは、永久に初級中級レベルから抜け出せない」
という厳しい意味でもある。だから、どんなに欠点がある
機材であっても、必ずそれを使いこなせなくてはならない
そうできないのは「ユーザーの負け」の状況であろう。

せっかくお金を払って入手した機材だ、その投資金額以上
の見返りは貰わないと意味が無い。
で、その練習の為に、近年私は性能が低いオールドレンズや
ジャンクレンズを良く購入する、中にはとても性能(描写力)
の低いものも多々存在するのだが、そういうレンズでこそ
欠点が明確な為に、その回避を行う練習にも役に立つ。

本FA31/1.8のような元々高性能(高描写力)なレンズでは
欠点は微々たるものであり、逆に言えば、その欠点を
ちゃんと理解したり、それを回避する事は結構難しい。
まあつまり、弱点回避を行うには、トップクラスの高難易度
のレンズである、という事だ。

で、レンズの言うがままに写して、たまたま良い感じの写真と
なれば「このレンズは良い(凄い)!」となり、逆にたまたま
条件が悪くて、気に入らない描写となれば「高いレンズの
くせに、イマイチだ!」という事にもなってしまう。
でも、そういう評価では初級中級レベル止まりという事だ。
レンズの隅から隅まで、長所も短所も完全に把握する必要が
ある。それが出来ない間は、ちゃんとした評価も出来ない。

本レンズFA31/1.8は、非常に高いレベルの評価スキルを
必要とされるレンズだ。まあ、20年やそこら、本レンズで
撮っていても、まだまだわからない事も多いような気も
している。ましてや、新製品の紹介記事のように、どこか
からか借りてきて1週間やそこら使った程度では、絶対に
評価不能の難解なレンズであるとも言えよう。
なお、細かい長所や短所は他の紹介記事でも書いてあるので
割愛する。
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本記事の総括であるが、同じようなスペックの35mmレンズ
を6本紹介した。そこでの、安いものと高いものとの(購入)
価格差は10倍以上にもなる、だが、10倍もの値段の差に
相応するような描写力の開きは、勿論無い。

まあそれが、「レンズの価格」というものの本質である。
「値段の高いもの」や「有名なもの」、あるいは「誰かが
良いといったもの」が必ずしも良いレンズである保証は無い。
必ず、自分自身により、実際に所有し、撮影して様々な面を
比較する事が最も重要であろう。

その「評価」自体も、勿論難しい。でも、そこについては、
「評価スキル」をユーザーが自ら高めようとしなければ
ならないだろう、単なる思い込みで「これは良いレンズだ」と
言っているのは絶対にNGである。
評価の基準がわからなけらば、わからないなりに、何十年間も、
何十万枚も撮影するしか無い、そこまでやって、初めて理解
できる事も少なくはない訳だ・・

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さて、今回の補足編記事は、このあたり迄とする。
次回記事は、また未紹介レンズの記事に戻ろう。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(48)CONTAX PLANAR

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー
別に紹介している。
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今回は「CONTAX PLANAR」(コンタックス プラナー)
編という主旨で、ヤシカ/京セラ製を主とした、プラナー
銘を冠する国産レンズを6本紹介しよう。
時代背景は1975年~2002年の、およそ30年間弱である。

なお、「プラナー」(注:レンズ上の表記は、Planar)
の意味や出自については、記事中で追々説明する。

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ではまず、最初のプラナー
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レンズは、CONTAX Planar T* 50mm/f1.4(Y/Cマウント)
(中古購入価格 19,000円)(以下、P50/1.4)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

1975年に(ヤシカ)CONTAX RTS(銀塩一眼第5回記事)
の登場に合わせて発売された大口径MF標準レンズである。
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さて、「Planar」とは、英単語においては「平面」という
意味がある。ドイツ発祥の命名なので、「平坦」という
意味の独語「Plan」から来ているそうだ。

元々の命名は1897年と古い。カール・ツァイス社の
著名な設計者の「ルドルフ氏」の手によるものであり、
レンズの収差の殆どを、良好に補正しているという
高性能レンズ(アナスチグマートと呼ぶ)に与えられた
称号だ。この発明(設計)時点でのプラナーは、前後
対称型の「ダブルガウス構成」である。

ただ、発明後、一般的なレンジファインダー機や一眼レフ
用のレンズ名としては、殆ど使われておらず、産業用等の
特殊な用途で存在していたにすぎない。

その理由は恐らく、設計上では高性能ではあったが、実際
の製造上で技術的な課題が残っていた為ではなかろうか?
(例:レンズの貼り合わせ数が少なく、コーティング技術が
まだ無かった時代では、レンズ内面(内部)反射による、
光線透過率の減少が防げない等。注:推測につき詳細不明)
あるいは、完全なダブルガウス型構成では、(特に一眼
レフ用の場合では)バックフォーカスの確保が難しかった
のかも知れない。

プラナーが写真用交換レンズとして一般的になったのは、
(・・1960年代のContarex用があるが、これは非常に
高価なシステムであった為、あまり普及したとは言えず)
やはり本レンズP50/1.4の発売が契機となったと思われる。

まあ、とは言え、プラナーとはつまり、ダブルガウス型
構成であるから、本レンズ登場(市販)以前の1950年代~
1960年代においても、元祖のプラナー型構成を元にした
「変形ダブルガウス型」構成の一眼レフ用レンズは、各社
から色々と登場していた訳であり、その発展期において、
やっと本P50/1.4が、「こちらが本家プラナーだ!」
という感じでの、遅れ馳せながらの参入であった。

その間、本家カール・ツァイスは何をやっていたのか?
と言えば、第二次大戦後の東西分断のゴタゴタがあって、
その後、西側のツァイスおいては「コンタフレックス」や
「コンタレックス」等の一眼レフを販売してはいたが、
プラナー銘の交換レンズは少なかった(数機種程度か??)
と思われる(注:レンズ交換式や固定式があって、かなり
ややこしい状況だが、殆どがテッサー型等だ。またレンジ機
や二眼レフ用においては、Sonnar型構成の物も多かった。
コーティング技術が未発達な時代ならば、レンズ構成での
貼り合わせが多いゾナー型が有利だろう。ただ、ゾナーは
バックフォーカスを保たなくてはならないので、一眼レフ
用での「広角のゾナー」は、ズームを除き存在しない)

よって、プラナー銘(構成)のレンズは、本家ツァイスに
おいても、殆ど発展していなかったように思える。

そして1970年代には、ツァイスは、写真用カメラ事業から
撤退してしまう。(まあ、日本製一眼レフの台頭が主因だ)
その事により、1970年代前半に日本のヤシカはツァイス系
の「商標」の使用権を獲得し、1975年には「CONTAX」や、
「プラナー」等の交換レンズ名称も使えるようになっていて、

それらの製品が発売された訳だ。

でも、本P50/1.4は、元祖プラナーの設計とはずいぶんと
異なっている。まあ、元祖はこの時点でも、既に80年近くも
前の設計であり、その間の技術的進歩(例:屈折率や色分散の
異なるガラス素材の種類の増加や、多層コーティング技術の
発達等)もあった訳であるし、そもそも元祖プラナー型の
完全対称型構成では、一眼レフ用にバックフォーカスを稼ぐ
事は難しい。だから、国産の一眼レフ用標準レンズでは、
プラナー型の構成をベースに、時代と共に改良が続けられて
来た訳であり、それについては例えば、本シリーズ第43回
「MINOLTA ROKKOR標準レンズ」編でも説明したように、
1950年代~1980年代にかけて、変形ダブルガウス型
構成標準レンズでは、様々な改良の歴史があった訳だ。
_c0032138_19293614.jpg
まあ、そんな時代の中で、本P50/1.4の位置づけであるが、
既に一眼レフ用の大口径標準レンズの変形ダブルガウス型
構成の改良が進められて来た状況において、それら新技術
を参考にしながら、さらにその1歩上を行っていたと思う。

具体的には、他社の同等仕様品が、5群6枚、または稀に
5群7枚の構成であったのが、本P50/1.4は、6群7枚である。
少し贅沢な設計が許されたのは、「CONTAX」のブランド
力があったからであり、当時の国産標準レンズでは、
「一眼レフカメラの市場への普及」の大命題もあった為、
そうした贅沢な設計の高額レンズを作りたくても作り難い。
(=高いカメラ・レンズを売る訳にはいかない、ただでさえ
1970年代は、物価が大きく上昇した時代である)

だが、「新生CONTAX」の市場での地位を磐石にする為にも、
そして既に神格化される程に著名であったツァイスのブランド
イメージを維持する為にも、あまり中途半端な製品を作る事は
許されなかったのであろう。
当時としては、頭ひとつ飛び抜けている高性能レンズだ。

(参考:本レンズの5年後の1980年には、CANONよりNew FD
50mm/F1.2Lが登場している、本P50/1.4の市場での好評価を
意識したか? これを超える6群8枚、内非球面1枚という
贅沢な設計として、打倒P50/1.4を狙ったのかも知れない。
(注:単にFD55/1.2ALの改良版かも知れないが・・)
だが、少々高価すぎたかも知れない。NFD50/1.2Lの販売数は
伸びず、後年にはコレクターズ・アイテムとなってしまった。
→本シリーズ第35回、CANON新旧標準レンズ編参照)

まあ、しかしながら、現代の視点からは本P50/1.4は、
「使いこなしが難しいレンズである」とも言える。
その最大の理由は「ボケ質破綻」が頻発するからである。
(下写真に実例)
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当時、他社一眼レフ・システムより高価であったCONTAXの
システムが購入できたのは、一部の富裕層が主であろう。
・・で、相当に写真をやっていない限りは、ボケ質の判断や
評価をする事は困難だ。

それと、マニア層もまたCONTAX一眼システムのターゲット
ユーザー層である、しかし、目の肥えたマニア層の中には、
このP50/1.4のボケ質問題にいち早く気がついた人も居て
その状態を「プラナーボケ」と評した事もあった。

まあ、当時からCONTAXやツァイスは神格化されていた為、
「プラナーボケ」と言うだけでは、長所とも短所とも言えず
普通に会話していても何も問題にはならない訳だ。
つまり、「ツァイス党」に対して気をつかわないで済む
(忖度する)という事だ。

けど、マニア間では、これは明らかにネガティブな用語だ。
マ「あちゃ~、せっかく良い写真が撮れたと思ったのに、
  プラナーボケが出ているよ、困ったものだ」
という感じである。

銀塩時代の機材環境では、ボカ質破綻回避の技法は、まず
使えない。だから偶然、写り(ボケ質)が良くなっている
写真を選別する事しか出来ず、それ以外の「問題あり」の
写真は、皆、全て隠し通した。まあ、せっかく(高価な)
プラナーを使っているのだから、あまり酷い写りの写真を
周囲に見せる訳にもいかない。周囲から、「さすがに
ツァイスのプラナーだ、とんでもなく良く写る!」と
言って欲しい訳である。

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さて、ちょっと話が長くなりすぎた、そろそろ次の
プラナーに進もう。
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レンズは、CONTAX Makro-Planar T* 100mm/f2.8 AEJ
(中古購入価格 82,000円)(以下、MP100/2.8)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5Ⅱ Limited (μ4/3機)

1980年代後半に発売と思われるMF中望遠等倍マクロ。

こちらも「神格化」されたレンズである、
その理由は、約20万円(注:1990年代時点、税別)
という高額な定価だ。これだけ値段が高いと、誰しもが
「良く写る」と思い込んでしまうだろうし、こうした
高額レンズを購入したオーナーも、高価で購入した弁明や
周囲への自慢の要素もあるから、「凄いレンズだ!」と
しか評価しない。だから、評判がどんどんと高まり、
結果的に、「憧れのマクロプラナー」のような状況と
なってしまった。
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だが、本レンズも現代的視点からは「極めて使いこなしが難しいレンズ」である、と断言できる。

その理由は長くなるので割愛するが、参考記事としては
「レンズ・マニアックス第11回~使いこなしが難しい
レンズ編(前編)」で、比較的詳しく述べている。

まあ、ともかく難しいレンズであり、銀塩時代に、この
MP100/2.8を正しく評価する事は当時の機材環境を鑑みても
とても難しい話であっただろう。まあつまり、ぶっちゃけ
言えば、誰も本レンズを使いこなしていない状態において
「とても良く写る」と思い込み、あるいは「神格化」して
いたに過ぎないと思う。

基本的な描写力は悪く無い。けど、操作性の悪さと、重量
の重さと、浅い被写界深度と、露光(露出)倍数による
シャッター速度の低下と、ボケ質破綻、といった課題が、
複合的に押し寄せて来るので、恐ろしく困難なレンズだ。

この手のレンズの事を「修行レンズ」と、本ブログでは
呼んでいる。まあつまり、良い写りを得る為に、修行または
苦行とも呼べる努力をすれば、それが報われる場合もある
だろうが、その労力は、あまり楽しく無い事。それに加えて、
高いスキル(知識や技能全般)も必要とされるし、頑張って
そうしたとしても、良い写真が撮れる確率は極めて低い。

まあ、実用的観点からは、歩留まり(成功率)が低すぎて
あまり使いたく無い類のレンズであるとも言える。
(=「エンジョイ度」評価点が低いレンズとなる)

人気の高いレンズでありながらも、銀塩時代から中古市場
では良く流通していたレンズである。まあ、高い評判を
聞いて買ったものの、使いこなしが難しいと思ったか?
そもそも、それ以前の段階で、ピンボケや手ブレを頻発し、
全く使いこなせずに放出してしまったユーザーが多かった
のであろう。高価なレンズであるが故に、収集型のマニア
や富裕層等の、あまり沢山写真を撮らない人達が買っても、
まず、使いこなせなかったのだろうと思われる。
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後年、デジタル時代に入ってからも中古流通は活発であり、
現代においては、4万円台前後という安価な中古相場で
購入する事が出来る。全てのミラーレス機において、マウント
アダプター経由で装着する事は可能ではあるが、前述のように
使いこなしが難しいレンズである事は、現代の機材環境でも
一緒である。一度「修行レンズ」なるものが、どんなもの
であるかを「怖いもの見たさ」で体感してみたいのであれば、
まあ、値段もこなれているので購入を慰留する事はしないが、
かなり大変な事になってしまう状況は確かであろう。

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では、3本目のプラナー
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レンズは、Carl Zeiss Planar T* 85mm/f1.4 ZF(コシナ版)
(新品購入価格 101,000円)(以下、ZF85/1.4)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

本レンズそのものは、2006年にコシナより発売された
異マウントでのリバイバル版だが、元来のRTS版P85/1.4は、
前述のCONTAX RTSと同時期1975年に発売されたものだ。

(注:その直前1974年に、本家の西独ツァイスより、
Contarex用のP85/1.4が発売された模様だが、販売数が
少ない「幻のレンズ」であり、またRTS版P85/1.4とは、
レンズ構成も異なっていたと聞く→未所有)
_c0032138_19301317.jpg
本P85/1.4(元祖)も、前記P50/1.4と同様に、国内市場
での「新生CONTAX」の地位を磐石にする為に投入された、
スーパー・ウェポン(兵器)である。

ただ、このレンズ、あるいは元祖となったRTS P85/1.4は、
前述のMP100/2.8以上に使いこなしが困難なレンズだ。

元祖RTS P85/1.4は、MP100/2.8程に高価では無く、
発売当初から、10万円を切る価格帯であったと思われる。
(注:当時の詳細な資料が、もう殆ど残っていない)

だから、CONTAXとしては比較的良く売れたレンズであり、
CONTAXを、そして「プラナー」を代表するレンズであった。

けど、中古市場に玉数が溢れかえっていた事も確かだ。
何故ならば、まともに使う事が難しいレンズであるからで、
その理由については、「レンズ・マニアックス第12回~
使いこなしが難しいレンズ編(後編)」で、詳しく解説
しているので、今回は割愛する。
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本レンズを紹介する際、近年では、たいていNIKON Dfを
母艦としているが、これは最適の組み合わせとは言い難い。

総論としては、本レンズ、または元祖RTS P85/1.4は、
一眼レフにおいて、光学ファインダーと開放測光で用いる
のは、少々無理がある状態だ。

一眼レフでは無く、ミラーレス機+高精細EVF+実絞り
測光+各種MFアシスト機能で用いるのが妥当だと思う。
それにより、本レンズの使いこなしの難しさの課題の
大半はクリアできる筈なのだが、まあ、そうしたとしても、
ビギナー層では、お手上げであろう。

有名なレンズではあるが、あまり推奨は出来ない状況だ。

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では、4本目のプラナー
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レンズは、CONTAX N Planar T* 50mm/f1.4 (Nマウント版)
(新品購入価格 33,000円)(以下、NP50/1.4)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7 (μ4/3機)

2001年に発売された、Nマウント専用AF大口径標準レンズ。

本レンズの発売時、Nシステムは市場で超不人気となっていた。
京セラCONTAXが社運を掛けて開発したNシステムは、価格の
高さや、製品ラインナップの少なさが仇となり、結果的に、
京セラCONTAXは、Nシステムの商業的な失敗から、数年後に
カメラ事業から撤退してしまう事となる。

本NP50/1.4の発売も、マニア層に歓迎された訳では無い。
6群7枚という、26年前のP50/1.4と同じレンズ構成を見て、
一部のマニア層からは、以下のような噂話が流れた。
マ「NP50/1.4は、P50/1.4にAFの側(がわ)を被せただけだ。
 だから大きくなった、昔のP50/1.4を持っていれば十分だよ」

この話は、またたくまにマニア層全体に伝播、それを聞いた
マニア達は皆、Nシステムを買い控えした。
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ただ、本NP50/1.4はP50/1.4と全くの別物のレンズである。
それは両者を同時に保有し、比較してみれば容易にわかる。

まず、後玉等の外観からしてまるで異なるのだ。こちらは
デジタル時代を見据えて、テレセントリック特性を高めている
事が良くわかる。さすがに、26年前の設計をそのまま使う訳
にはいかないであろう、時代や市場背景が違いすぎるのだ。

まあ、それにしても根拠の無い噂話は怖いものだ。メーカー
のビジネスそのものを崩壊させてしまう程の力がある・・

今更本レンズを買うのは酔狂であろう。中古の玉数は少ない
レア品であるし、現代において、この電子接点型のレンズを
正しく使える機材環境も無い。
本記事においては、機械式絞り羽根内蔵アダプターを用いて
なんとか使用しているが、絞りの構造・効能がまるで異なる。
(本来の「開口絞り」が使えず、「視野絞り」となり、光学
特性が異なる他、コントローラビリティが無くなってしまう)

まあ、なので、本レンズの評価は早々に切り上げよう。
時代の狭間に生まれた、非運のレンズであるのだ。

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さて、次のプラナー
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レンズは、CONTAX Planar T* 100mm/f2 MMJ(Y/C版)
(新品購入価格 106,000円)(以下、P100/2)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

1980年代後半頃に発売されたMF中望遠レンズ。

本ブログでは何度も紹介している「名レンズ」であるから、
今回は説明は大幅に省略する。
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RTS系Planarの中では、個人的に最も高く評価している
レンズであり、様々な撮影条件においても安定した描写力を
提供してくれる(例:ボケ質破綻も少ない)

弱点は、販売されていた時点での定価が178,000円(+税)
と高価すぎた事であり、この結果、所有者も少なく、本レンズ
における正当な評価の情報も殆ど存在していなかった。

幸いにして「投機対象」にはなっておらず、現代においても、
中古市場では稀に適価で見かける事がある。
まあ、RTS版のPlanarを買うならば、本P100/2が、最大の
推奨レンズである。
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さて、ここでCONTAXのレンズ型番について説明しておく。

T*:ティー スターと読み、ツァイス方式の多層コーティング
 技術を採用しているという意味。1970年代から付けられて
 いるが、他社の、例えばPENTAX SMC(1970年代初頭~)や
 CANON S.S.C.等と類似技術であり、このT* 技術そのものに、
 他社と比べての大きな性能的優位点は無い。

 なお、2010年代後半のCOSINA製ツァイスレンズでは、
 T*の記載は外れている。(もはや、多層コーティング技術は

「当たり前」という事で、省略されているのだろうか?
 あるいは、2000年代のSONY製ツァイスでも、T*銘は記載
 されていないので、ツァイス社から「T*を名乗りたければ
 我が社から技術ライセンス供与を受け、お金を払いなさい」
 という交渉があったのかも知れない。
 しかし、多層コーティング技術は、現代の日本でも進んで
 いるので、そうした申し出は受けない事であろう・・)

AE:カメラ側の露出方式での絞り優先とM露出に対応している
 という意味。逆に言えば、自動絞り機構では無いという事だ。

MM:1985年のCONTAX 159MM(銀塩一眼第12回)の、マルチ
 モード露出機能搭載に合わせ、レンズ側でもシャッター優先
 やプログラム露出に対応した自動絞り機構を搭載した物。

 現代において、CONTAXレンズをマウントアダプターで使用
 する場合には、AE/MM、どちらでも問題無い(差異が無い)
 また、銀塩時代においても、CONTAXシステムは、絞り優先
 露出での使用を推奨していたので、MM型であると言っても
 人気や実用性が高い訳では無かった。

J/G:Jは日本製造版、Gは西独(後に東西統一)製造品、
 ただし、使用部品や製造規格は全く同じと思われる。
 CONTAXが全てが日本製になってしまうと、ブランドイメージ
 が低下する事を避けての措置であろう。また、西独ツァイスが
 1970年代前半にカメラ事業から撤退した事で、残った関連
 工場等での操業を確保する為の理由もあったかも知れない。
 Gの付くレンズ機種は最初から少なく、後年には皆無となる。
(まあ、ツァイス系工場が操業を辞めたと言う事であろう)

 いずれにしても、JでもGでも性能は全く同じであるが、
 銀塩時代では、輸入関税が乗る西独版は若干高価であった
 事から、初級マニア層等では「独国版の方が良く写る」と
 信じられていた。(勿論、そのような差異は無い筈だ)

焦点距離と開放F値の記載:
 CONTAXシステムでは、1.4/85(1:1.4 f=85mm)のような
 表記をする事が通例だ。しかしこれは各カメラメーカー毎で
 異なる表記法である(ドイツ式、アメリカ式、独自式、等
 色々ある) カメラ界では、これの記法が統一されている
 訳ではなく、CONTAXの場合は下手をすると、1930年代に
「ライバル他社と同じ書き方をしたく無い」といった理由で、
 意図的にこの記法を採用した可能性もある。

 現代においても、依然、各社で記法はまちまちではあるが、
 それでもだいたい、焦点距離→開放絞り値の順で記載する
 事がデファクト・スタンダード(事実上の標準方式)と
 なって来ている。近代のSONY版ツァイスレンズでも、
 焦点距離→絞り値の順だが、本家ツァイスにレンズを
 供給する立場のコシナでは、絞り値→焦点距離の順だ。

 ややこしく、かつ、いつまでもカメラ界全体での「標準化」
 が出来ていない状態は、個人的には賛同できない為、
 本ブログでは、開設当初から 85mm/f1.4といった記法で
 各社のレンズスペックを記載している。この記法は必ずしも
 正しいとは言えないが、世に公式の標準規格(記法)が存在
 しない以上、やむを得ない措置である。

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では、今回ラストのプラナー
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レンズは、CONTAX N Planar T* 85mm/f1.4 (Nマウント版)
(新品購入価格 115,000円)(以下、NP85/1.4)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

2002年に発売された、京セラCONTAX最後のプラナー。
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この後、2005年には、京セラはカメラ事業から撤退して
しまう、そして、その後は、CONTAXの名称(商標)は、
どこも使用していない。

1975年から、僅か30年の国産CONTAXの歴史ではあるが、
カメラ界、そしてマニア層に与えた影響は大きかった。

カメラのAF化、デジタル化という大きな時代の変遷において、
京セラが上手くそれらに対応できなかった事が主因だとは
言えるのだが、変わる事を拒んだのは、ユーザー側での
ニーズや志向に責任が無かったとは言えず、京セラ側
そのものにも、技術力的な問題点があった訳では無い。
良くも悪くも「CONTAX」というビッグブランドの魔力に
誰しもが翻弄されてしまった時代であったのだろう。

本NP85/1.4についての詳細の話も、最小限にとどめておく
入手困難であるし、入手しても、これを正しく使う術(すべ)
が無いので、もう、どうしようも無いのだ。
機械式絞り羽根での「視野絞り」で使用して「ボケが綺麗だ」
とか評価しても、それは本レンズの性能の、ごく一部を
語っているのに過ぎない、ちゃんと使える環境が無いので、
全く評価の術が無いのだ。
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けれども、国産CONTAXの歴史の最後を語る「生き証人」
として、本P85/1.4の存在意義、そして歴史的価値は極めて
高い。高価な(高価すぎる)レンズではあったが、これを
所有しつづける事、そして後年に、その歴史を伝える事は、
マニアとして必須の責務であろうとも思っている。

・・で、Nシステムにおけるプラナーは、本レンズNP85/1.4
と前述のNP50/1.4の、たった2本のみである。
(注:Nシステムには、645中判があり、そこに、さらに2本
のプラナーが存在していた模様だが、不人気システムであり
かつて一度も、新品、中古ともに見た事も無いという、幻の
レンズとなってしまっている)

そして、旧来のRTSマウントであっても、プラナーの数は
さほど多くは無い。特殊な限定版レンズ(例:P135/2等)
を除いては、P50/1.4、MP60/2.8が2機種(現在未所有)
P85/1.4、P100/2、MP100/2.8しか存在せず、このうちの
殆どは本記事で紹介しているし、MP60/2.8(C)もかつては
所有していた。投機対象となってしまった限定版レンズを
除いては、一般的に入手可能な京セラ版のCONTAX Planar
は、これで全部である。


「Planar」の総評であるが、いずれも、確かに描写力の
高いレンズであると思う。しかしながら、その高描写力を
引き出すには、ユーザー側に相当に高いレベルのスキルが
要求され、かつ、それに加えて膨大な数の試写(試行錯誤)
も必要だ、つまり「いずれも、そう簡単に使いこなせる
レンズでは無い」という事は確実に言えると思う。
_c0032138_19303896.jpg
で、CONTAX銘のPlanarは、下手をすれば、もう二度と発売
されない状況ではあるのだが・・
でもまあ、2006年からは、コシナ社がツァイスのレンズ
製造を引き継いでくれている。また、SONYもツァイスの
商標使用権を取得している。コシナ/SONYのブランドに
おいては、新設計のPlanarも色々と発売されているので、
現代においては、わざわざ、こうした古い時代のCONTAX版
Planarを探す必要も無く、新品で買える現行版Planarを
使えば良い、という事になるだろう。

ちなみに、コシナ版の新鋭プラナーは、もはやPlanarとも
名乗っていない。例えばOtusやMilvusの一部がそれであるが、
それらは、銀塩時代のPlanarの設計のテイストを、僅かに
引き継いではいるが、非球面レンズや特殊低分散ガラスを
ふんだんに使用した、とても現代的で贅沢な設計である。

「もはや、それらはプラナーとは呼べ無い、別物である」
という事からの新規名称なのかも知れない。
まあ、レンズ構成を見れば、1897年のダブルガウス型の
プラナーとは、まるっきり別物であり、例えば10群12枚
の複雑な構成をプラナーと呼ぶ方が、むしろ不自然であろう。
(注:カタログ上には「プラナータイプ」と書かれている)

しかしながら、そうした新鋭プラナー改のレンズ群は非常に
高価であり、中には定価が60万円を超えるものすらある
ので、そう簡単に入手できる状況では無い。
まあ、いつの日か、それらを入手する機会に恵まれたら、
ガンガンに使って評価するとしよう・・

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では、今回の「CONTAX PLANAR編」は、このあたり迄で。
次回記事に続く。

「紅葉予測」ソフトのプログラミング

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「画像処理プログラミング」シリーズ第7回記事。

本シリーズ記事では、「全く新しいPC用画像処理ソフト」
を、完全独自で自力開発する事を主眼としていて、その
ソフト開発のプロセス(経緯、方法)を紹介している。
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これは仕事では無く、完全に趣味でのプログラミング開発
の為、気が向いた時、および何かアイデアが出て来た時に
しか作業は行わない。
なので、本シリーズ記事は不定期連載となっているが、
もう数年間も連載を続けているので、結構ユニークな
自作ソフトウェア(アプリ)が貯まって来ているし、
最近掲載のものは、2020年のコロナ禍での外出自粛
(ステイホーム)期間中に「作り貯め」をした物も多い。

過去の本シリーズ記事でのテーマを紹介しよう。
ついでに、作ったソフトの概要と課題等も書いておく。

第0回:比較明合成ソフト
 概要→巷によくある「比較明合成」処理の自作版。
 課題→目的や仕様が平凡すぎる為、面白く無い、ボツ。
 成否→△(ちゃんと動作はするが、ボツ)

(↑まあ要は、世の中に他にあるものを真似して作っても
面白く無い事に気づいた訳だ。以降は、過去、誰も試した
事も無い、完全独自の画像処理の開発を中心に進めている)

第1回:「横浜写真」生成ソフト
 概要→明治初期の工芸品の「横濱写真」を自動で再現。
 課題→入力画像を選ぶが、そこそこの成功例。
 成否→○(実用的)

第2回:「擬似紅葉」生成ソフト
 概要→紅葉では無い季節に撮った写真を自動で紅葉化。
 課題→自動生成した紅葉の雰囲気が、現実味にやや欠ける。
 成否→△(あまり使っていない)

第3回:「高精度ピーキング」比較ソフト
 概要→写真撮影後に、その写真のピント合焦部を表示する。
 課題→とても高精度ではあるが、計算処理が遅い。
 成否→○(実用的)

第4回:「ロココ調」変換ソフト
 概要→ロココ絵画調の柔らかい描写に、写真を自動変換。
 課題→「何を持ってロココとするか?」が不明。失敗作。
 成否→X(ボツ)

第5回:「ボケ質解析」ソフト
 概要→レンズ毎のボケの遷移状態を色とりどりに解析表示。
 課題→まずまずの成功例、ボケ質の点数化が未着手。
 成否→○(実用的)

第6回:「ぐるぐるボケ」生成ソフト
 概要→「特殊効果レンズ」で撮った写真風に自動加工処理。
 課題→あまり加工精度が高く無い。入力画像を選ぶ。
 成否→△(用途があまり無い)

第7回:「紅葉予測」ソフト
 概要→今回記事

で、これらの画像処理内容(アルゴリズム)は、世に前例が
無い全く新しいものなので、これは「研究」でもあり、その
成功率は、あまり高くは無い。でもまあ、一般的な「研究」
であれば1割も上手く行けば良い方だと思うので、これらの
成功例(○)は3割~5割程度あるので、まあ良しとしている。

では、今回の「紅葉予測」とは何か? というと・・

「紅葉の季節の直前に撮った写真を入力し、
 その紅葉(の赤味)が物足りなく感じた際、
 このソフトに掛けて計算すると、数日後?の
 紅葉の様子(の映像)が予測できる」

・・というアイデアである。

まあ、カメラマンなら良く体験する事であろう・・
「紅葉の名所」等に撮影に行ったのは良いのだが、
ちょっとタイミングが早かった。

カ「しまった、来週位に来ればもっと綺麗だったか?」

・・と思うのだが、良く考えてみれば、もし翌週位に
再度来ると、今度は観光客だらけで、紅葉を楽しめず
混雑して、下手をすると写真も撮れないかも知れない。
また、近年の話では、混雑する場所はコロナ等の感染も
心配になる事であろう。

カ「まあいいかあ・・ この景色が紅葉になったら・・
  と、想像するだけで良しとしよう」

・・と、諦めかけた時に、このソフトがあれば、何と!
中途半端な紅葉の写真を、時間を進めて来週の見ごろの
紅葉にしてしまう! ・・という夢の画像処理ソフトだ。

「そんなタイムマシンのような事が理論的に可能なのか?」
・・いや、まず無理だろう。だから、あくまで「それっぽい」
ような動作をすれば良い。

「すると、AI(人工知能)に考えさせるのか?」
・・いや、多分、それも無理だ。AIを使うならば、大量の
”紅葉になりかけ/なった後の画像”を教え込ませなくては
ならない、そんな写真データを集めている人は皆無であろう。

「じゃあ、どうやって予測するのだ?」
・・まあ、色々方法論はあるとは思うが、ここでは自然界
での紅葉の仕組みを、まず考えてみる。

紅葉は、夏場に葉にある葉緑素(クロロフィル)が、
秋や冬になって気温が下がると、それが壊れてしまったり
糖分と結合して「アントシアニン(赤色色素)」に変化
する事が原因だ。
細かく言えば、もっと色々と仕組みがあるとは思うが、
ここでは基本原理だけを考えてみれば良い。

まあつまり、紅葉は葉の中での、化合物の状態の変化だ。
ここで、「紅葉になりかけ」という状態については、仮に、
”その化学反応が周囲に伝播していく”と仮定した場合、
(注:実際にはそうでは無く、一斉に変化するのかも
知れない。ただしまあ、なんらかの仮定は必要である)
画像処理的には「紅葉の赤色が周囲の緑色へ伝播していく」
と考えれば良い。

では、元の「紅葉のなりかけ」の写真からは、赤色の部分を
抽出し、周囲の緑色(葉っぱ)にそれを広げていけば良い。

これが今回の画像処理の基本概念(アルゴリズム)である、

やる事(基本仕様)が決まったので、では、さっそく
プログラミングを開始して行こう。
(注:やる事(仕様)を決めないで、プログラミングを
始めてはならない、これは鉄則だ→詳細後述)
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こちらは、GUI(グラフィカル・ユーザーインターフェース)
部の開発中画面。

これは、Microsoft Visual Studio 2017年版を開発環境
として、C#(.NET)言語でプログラミングしていく。
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こちらはGUI部から呼び出させる計算(画像処理)エンジン
である、こちらはC++言語でプログラミングする。
(注:同じVisual Studio 2017上でプログラミング言語
を変える事ができるが、出来上がるものは、各々別々の
成果物(.exe:実行ファイル)となる)

なぜ2つのプログラミング言語を使うのか?は、それぞれの
言語には得手不得手があるからだ。

具体的には、C#言語は「イベント・ドリブン」であり
(=ボタンを押したりの操作に応じてプログラムが動く)
C++言語で書いてある部分は「バッチ処理」(シーケンシャル
制御/フロー制御とも。要は、順番に計算処理が行われる)
のように使い分けている。

まあ、あらゆる「作業」の分野においても、「道具」を
色々と使い分けるのは、当たり前の話であろう。
大工道具、調理器具、ゴルフのクラブ・・ 何でもそうだ。
勿論それは、カメラやレンズの世界でも同じ事であり
被写体とか撮影の目的に応じて、カメラやレンズを交換
するのは「常識」である。
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これでとりあえず完成。
まるで「あっと言うまに出来た」かのように書いているが、
実は、ここまで、丸2年もかかっている(汗)

本シリーズでの他の開発ソフトは、たいてい1日か2日で
出来上がっているのに、何で本ソフトは、そんなに時間が
かかったのか?は、最初に、本ソフトのプログラミングに
着手した際、そのまま進めても、どうにも完成しそうに
ない事が予想できたからだ。

つまり、細かいところにまで、検討が及んでいなかった。
いつも本プログラミング関連の記事で書いている事だが、
「仕様」つまり、やるべき処理の内容が細かいところまで
決まっていない限り、プログラミングは、いつになっても
永久に完成しない。・・その状態になりかけたので、
あえて手を止めて、冷静に仕様を考え直す事とした訳だ。

業務(仕事)上でプログラミングをしているのならば、
こんな状況は許されない為、そういう(業務上の)場合は、
必ず最初に詳細な仕様(書)作りから始める訳だ。
仕様が書けない、という状態は「やる事が決まっていない」
という状況と等価である。

つまり、これがプログラミングの開発上で、最も重要な
事であり、ここに「プログラミング思考」という論理性が
強く要求される。
「ここで、こうなって、ああなって・・」と、コンピュター
がケースバイケースで、どう動作するかを、全て頭の中で
考えないとならない。

小学校で「プログラミング教育」が始まって、親や教師が
不安になっていると聞く。だが「コンピューターの勉強を
するから」と言って、教材のコンピューターを買い与えた
だけでは無駄かも知れない。また、プログラミング言語の
文法やコマンドを勉強する事も、ちょっと違うと思う。

要は、「論理性」、つまり「プログラミング思考」が
無ければ、何1つ始まらない訳だ。
(注:学校の「プログラミング教育」でも、この部分に
重点を置いている筈だ。というか、そこしか教えていない
かも知れず、「プログラムを作る事」は、重要視されて
いないと思われる。まあ、きっと、プログラミング言語
等は10年もすれば環境も変わってしまうし、現在私が
主力としているC#やC++言語も、もはやクラッシックだ)

さて、仕様書の件だが、まあでも本シリーズにおける開発
作業は、仕事では無く趣味である。だから、仕様書作りも
手を抜いてやっていない(汗)

・・で、しばらく、作りかけのこのプログラムを放置した
まま、1年位して、何かふと思いついて、手を入れてみる。
気が向いたら・・という状況だから、次に手を入れたのは、
さらに1年も過ぎてしまっていた。でも今回は、ちゃんと
計算部のアルゴリズムは考え抜いた。かなり複雑なので、
仕様書、とまではいかないが、簡易版のフローチャートを
一応書いてから、計算部の開発に着手した。

で、計算エンジン部のソースコード46KB(4万6000文字、
外部ライブラリ無しの完全自立計算)を作り上げ、
GUI部とのドッキングが完了。

ちなみに、「画像処理」と言うと、「OpenCV」を使って
作るものだと思い込んでいるエンジニアは多いと思うが、
私は、その手法は好まない。世の中の他には無い、全くの
新しいものを創り出そうとするには、既存のもの(範疇)
から脱却する事が、まず第一歩だと思っているからだ。

まあでも今回、JPEG画像の読み込み時に、特定の複雑な
条件下でエラーとなる変なバグが出てしまったが(汗)
ややこしいので、もう、やむを得ず、として放置しよう。
外に出す「製品」では無く、自分専用のソフトなので、
これの対策としては、BITMAP形式の画像を読み込めば、
特に問題は無い。(注:実際には、計算エンジン側に
画像を渡す直前に、様々な形式のGUI処理中画像を一旦
BITMAPに変換している。後ろ向きな対策だが、計算
エンジン側の自作JPEG読み込みコードは、複雑なので、
あまり触りたく無いのだ。それに他の自作ソフトでは
その部分は問題無く動いているので、余計に今回だけ
での原因特定が難しい)
_c0032138_16571663.jpg
さて、まずは、こんな画像を読み込んでみた。

この写真は被写界深度が浅く、背景にボケが発生して
いる。しかし、この自作の画像処理アルゴリズムは、
ボケの影響は、あまり受けない筈だ。(→形状よりも
色に反応する為、ボケていても画像処理が可能だ)

GUI画面上に「TIME LINE」(タイムライン/時間軸)と
書かれたスライダー(Track Bar)を設けてあるので、
これを右に進めると「将来」の紅葉予測が出来る。
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TIME LINEを12まで進めた。
これの単位の意味は、自分でも良くわからない(汗)
とりあえず、1から96まで目盛りを振ってある。

この数字に合わせて画像処理の度合い(処理の効き具合)
を変える仕組みだが、最大の96は「96時間」というよりは
もっと長いだろうし、「96日」よりは少ないとは思う。
(だいたい1~2週間、という時間感覚であろうか?)
まあ、気に入らなければ、目盛の振り方だけの問題なので、
いずれ適切な値に変えて行こう。

画像の様子だが・・
手前の木の、葉の緑の部分が、かなり赤色に入れ替わって
いる。「ここが紅葉になった」という処理結果である。
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TIME LINEを24まで進めてみた。
また少し、葉の赤味が増えてきている。

TIME LINEに応じて紅葉が進んでいく様相が見えるので
このソフトウェアは順調に動作している模様だ。

ただし、少々効果が地味に見える。
もっと、色味が派手に赤色に急激に変っていかないと、
「紅葉になりました」とは言い難い。

この課題は、以前の「擬似紅葉」ソフトを作った時にも
同様な感覚を持った・・ 「色が地味である」と。

多分、人間の「記憶色」としては、もっと凄い赤色の
紅葉なのであろう。

それはまあ、「紅葉を見に行きます」と言って出かけて
実際にそうした場所に着いたら、「おお、真っ赤だ」と
感激して写真を撮るのだが、家に帰って写真を見ると
「あれ? 意外に地味な赤色だなあ」と思う場合も
多々あると思う。

つまり、人間は「色を誇張して記憶している」のでは
なかろうか?

この課題がある為、近代の紅葉名所の観光用ポスター
や観光パンフレット、観光Web等に掲載されている
紅葉名所の写真は、HDR(ハイダイナミックレンジ)機能
を使って撮られていたり、また、Photoshop等の画像編集
ソフトを用いて、「彩度」を思い切り強調したような
写真ばかりとなっている。

個人的には「いくらなんでも、ここまで現実離れした
写真にするのは、加工のやりすぎだろう?」と思って
しまう。

あまりに気になったので、駅でそうした「過剰演出写真」
のパンフレットを貰って来て、あえて、写真をやらない
人達の何人かに、それを見てもらった。
「この紅葉の写真どうよ?」と聞いてみるわけだ。

すると「綺麗ですね~ 行ってみたいな」という返答が
ほぼ100%、誰からも得られる。

私が期待した回答は
「これ、本当の景色ですか? なんか、盛って(加工して)
 ませんか??」
という風に、これが「誇大広告」すれすれである点を
見抜く力を、世間の皆が持ち合わせている事であったが、
どうやら、それは無理な模様だ。
「記憶色が強すぎる」とか「そもそも映像感性が低い」
とか、まあ、残念ながら、見る側の感覚値の課題であろう。

(広告等を)見る側が、そういうレベルであるから、
段々、紅葉(や、桜の季節等)の宣伝写真が、有り得ない
程にまで加工されて、年々エスカレートしていく訳だ。

それで、そうした過剰に加工された写真を見て、現地に
赴く観光客の中には、「ポスターやパンフレットで
見た写真ほど、綺麗で無い!」と文句を言う人が居る
みたいだ。

現地係員等に詰め寄るケースもあるらしいが、係員では
どうしようも無い。
係「ああ、その写真は去年の紅葉ですね。
  今年は、ちょっと色味が良く無い模様で・・ 
  残念でしたね」
・・程度の返答がある事で済んでしまう模様だ。

まあでも、そろそろ世間的にも「過剰広告」は、問題視
されるかも知れない。
_c0032138_16572720.jpg
さらに、TIME LINEを48まで進めたところで、木の下の
芝(?)の部分にまで赤色が発生してしまった。

これは、「紅葉処理」の影響が強すぎて、あえて紅葉に
しなくても良い場所にまで”紅葉が侵食してしまった”
という状況であろう。

まあ、TIME LINEを48まで送ったのは、やりすぎである
から、この写真の場合は、そこまで時間を進めずに、
TIME LINEを 24~40あたりまでで留めておくのが
良さそうである。

このように、きっと、個々の写真の様相に応じて、
適正な時間の進め方(の限界値)があると思われる。

課題としては、やはり色味の地味さがあるだろうか?
コンピューターは正しく計算をしているのにも係わらず
それを見る人間の方は「もっと派手な色味(紅葉)」を
要求/期待してしまう。

この問題の解決策として、本シリーズ第2回記事での
「擬似紅葉」生成ソフトでは、「エンハンス」(強調)
ボタンを設け、それを押して計算すると、紅葉の赤味を
何十%か、誇張するように作ってあった。

・・だけど、なんか、わざとらしい。
前述の「現実には有り得ない紅葉ポスター」と同じ感覚
を受けてしまい、「加工しました、盛りました」という
状況がモロばれだ。

自分で作り、自分が使うソフトである、気に入らない
機能等は搭載する必要は無いであろう。
「紅葉っぽくない」でもいいじゃあないか、これらの
写真が実際の景色では無く、既に、パソコンにより
自動生成された風景である事に気づく人は、きっと
誰も居ない事であろう。
そういう風に、「軽くお化粧をする」程度のソフトに
留めておけば良い、という事だ。
_c0032138_16573244.jpg
それから、このソフトのGUI部には、沢山のツマミ
(スライダー)や、沢山のボタンが付いている。

これらの詳細は、冗長になるので説明を省略するが、
画像とともに計算エンジン側に送る「パラメーター」
(=媒介変数。計算を行う為の設定値群の事)であり、
これは、13個もあるのだ。

その13個の数字を全て上手く微調整しないと、適切な
紅葉(予測)変換を行う事は出来ない。
_c0032138_16573307.jpg
では、またしても「中途半端な紅葉写真」を入力してみる。

実は、こういう「中途半端」な紅葉写真を集めるのも結構
難しい。「本ソフトの開発が2年もかかった」と書いたが
時間がかかった理由の1つに、サンプルとなるべき
「中途半端な紅葉写真」を撮るのが大変だったからだ。
(=滅多に中途半端な紅葉には出くわさない・・)

・・さて、上記の13個のパラメーターだが、ツマミを
触っただけでは、どんな風に計算処理がされるか?が
さっぱり予測がつかない。

そこで、このGUIには、一種のプレビュー(確認)機能
を搭載してある。

それは2段階あって、まずは、写真の紅葉部を事前に
解析する処理のプレビューが以下の画像だ。
_c0032138_16573838.jpg
次いで、その解析した紅葉部が、周囲の葉にどのように
影響を与えていくか?を予測処理する部分のプレビュー
が以下となる。
_c0032138_16573835.jpg
まあつまり、上記の赤い「紅葉部」が、「緑色の葉」の
部分に伝播していく訳だ。

TIME LINEを進めて、計算結果を出力させてみよう。
_c0032138_16573998.jpg
手前の赤い紅葉部が変化していないので、少しわかり
難いかも知れないが、背景でボケている緑の葉の部分が
結構、紅葉化されているのがわかると思う。

まあでも、このプレビュー画面は、少々わかりにくい。

そこで、本シリーズ第1回記事の「横浜写真」生成ソフトの
際に開発した技術を応用して、本ソフトにも「横浜写真」風
モードを追加し、それでプレビューしてみるのはどうか?
_c0032138_16574377.jpg
うん、こちらはだいぶわかりやすい。

左側の入力画像を、いったんモノクロ化し、そこに
「紅葉化処理」の影響を受ける「緑色の葉」の部分のみ
カラーで重ね合わせ(スーパーインポーズ)してある。

ここから、TIME LINEを80程度(ほぼいっぱい)にまで
廻してみて、どのように紅葉化されたかを確認しよう。
_c0032138_16574612.jpg
多少粗い(緑色の葉の部分が、綺麗に全て紅葉化
される訳ではなく、赤色のつぶつぶが出来てしまって
いる事もある)が、まあ、こんな感じで良いか・・ 

後は、また「中途半端な紅葉」の写真を撮り貯めて、
それらを本ソフトに入れて実験をしてみよう。

このソフトのアルゴリズムのクセは、自分で作ったから
全てわかっている。だから撮る写真も、そのクセに合う
ように撮れば、より良い結果が得られるに違い無い。

まあ、他の分野で言えば「シンガー・ソングライター」
のようなものであり、自分で作った曲を、自身が歌うの
だから、そのマッチング(声域とか、クセとか、リズム、
歌詞のイメージとか)は、バッチリであろう。
これが、作曲家や作詞家だと、その曲を提供する歌手に
応じて、音域やら歌詞の内容やらを微調整するので
何かと面倒なのかも知れない。

まあつまり、自分で撮った写真を自分で作ったソフトで
加工するのだから、どんなに撮影技法やソフト上の処理に
クセがあったとしても、そこは破綻しない、という事だ。
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それから、「色」についても少し説明しておく。
本記事で書いている「赤色」や「緑色」といった
「色」については、そういう単独の(波長の)色が
ある訳では無く、ざっくりとした「範囲」を持つ。

上のGUI操作部の一部の図がわかりやすいであろう。
これは「紅葉の赤を検出・解析」する部分だが、
赤色と一口に言っても、上の色相環(しきそうかん)
の三角形で表示されているように、色(光の波長)の
範囲を指定している訳だ。

ところが、世間一般では「赤色」「緑色」といった
「特定の色」が存在するかのように解釈されている。

この理由は、恐らくだが、誰もが幼少の頃から
親しんできた、「クレヨン」「色鉛筆」「絵の具」
のような絵画用の画材に、それぞれ明確な「色」と、
その「名前」が存在しているからだろう。

加えて、12色とか、48色とかの商品が存在し、
色数が多いセットは、当然ながら、高価な高級品で
あるから、皆が多色セットを欲しがり、それを持って
いる子供達(や大人)は周囲に自慢をする。

さらには、そういう多色セットでの個々の色の名称は、
あまり普段の生活では聞いた事が無い「ビリジアン」
とか「セルリアンブルー」とか、変った色名が入って
いて、そうした名前が、またエキゾチック(異国情緒)
な感覚を得られるから、ますます、子供達は(大人も)
多色セットに憧れる訳だ。(まあ、色数が多いから、
と言って、優れた絵が描ける訳では無いのだが・・
でもそれは、カメラでも同じだ、画素数が多いカメラ
だ、と言っても、綺麗な写真が撮れる訳でも無い)

で、この時点では、
「色というのは沢山あって、個々の色には名称がある」
という感覚を、誰もが刷り込まれてしまう訳だ。
でも、実際には、ちょっと違う。

写真用レンズ等で、光学を学ぶ際、あるいは、それらを
設計したり評価する際、ざっくりと「赤」やら「青」
とは、勿論呼ばない。かと言って、絵の具のように
「カドミウムレッド」だとか「ウルトラマリン」の
ように、(無限に存在するとも思える)特殊で独自の
色名を使う訳でも無い。

そもそも、絵の具等の色は、自らは光らない「物体色」
(反射色)であるし、光は「光源色」であるからして
原理とか概念も、まるで変ってくるから、両者を同じ
ような「色」として捉える事は出来ない。

だから、光学(レンズ等)の世界では、光源波長に
応じて、C線、D線、d線、e線、F線(注:大文字
小文字の区別は必須)のように波長(色)を表す。

これらは、代表的な”1つの波長”であるから、
「C線の光は赤色に見える」とは、まあ言えるが、逆に
「赤色と言えば、それはC線だ」は、成り立たない。

で、世間一般では、このように「色」「波長」「光」等
の概念がごちゃごちゃになってしまっている。
だから、この状態でレンズの「光学」を学ぼうとしても
もう色の基本的な概念が、幼少期の「クレヨン」等から
始まって、ずっと混乱してしまっているままなので・・

例えば、高級レンズの評価をする際にも、
「アポの名前がついているレンズは、赤色、緑色、青色
 の3色の色収差を補正しているのだ!」(注:誤り)
などという、ちょっと概念が混乱していて、ズレて
しまっているような事しか言わない。

余談だが、以前、英国人と英語で話をしていて、
英「このPCは、いったい何色が表示できるのか?」
と聞かれたので、24bit full color表示であるから、
匠「え~と、about 16million colors (1677万色)だ」
と答えると、
英「16ミリオン? 俺は、そんなに色の名前を知らないぞ
  red,yellow,blue,green・・ 他に何がある??」
と言われた。
まあ、これが世間一般的な色の概念の典型例であろう。

匠「Redが50%、Greenが20%、Blueが30%のように、
  混ざった色の種類が沢山あるのですよ・・」
と、一応英国人には説明しておいたのだが、この概念は
RGBのディスプレイ(モニター)の原理においては正しいが、
光学の全般で、いつでもこの概念が通用する訳でも無い。

---
余談が長くなったが、「色」や「光学」は、それなり
に難しい。「画像処理」も、このあたりの原理等が
強く関連してくるので、さほど簡単な技術では無い、
という事である。

さて、話を「紅葉予測」に戻そう・・

「中途半端な紅葉」の写真を撮り集めてくるのが大変、
と前述したのだが・・
匠「そうだ、アレがあるじゃあないか!」

アレとは、本シリーズ第2回記事で開発した「擬似紅葉」
生成ソフトである。

「擬似紅葉」ソフトは、「全く紅葉していない写真を入力し、
あたかも紅葉したような風景を、擬似的に創り出す」もの
である。

つまり「通常風景→擬似紅葉→紅葉伝播予測」という風に
2つのソフトを組み合わせて、連続処理する訳だ。
その事で、何でも無い風景を紅葉化し、さらにそれを強調
させる処理ができる。

・・ではさっそく、以前の擬似紅葉ソフトを探して使おう。
_c0032138_16575530.jpg
こちらが「擬似紅葉」生成ソフトの画面だ。

左側の入力画像(紅葉では無い)が、
右側の出力画像(擬似的な紅葉)に変化する。

この「擬似紅葉」生成ソフトの出力画像を、
今度は「紅葉予測」ソフトへの入力画像とする。
_c0032138_16575522.jpg
上では「横浜写真」モードとし、(擬似的な)紅葉が、
さらに周囲の緑色部(葉の葉緑素)に、影響を与える
範囲をプレビュー(確認)している。

これで良さそうだ。TIME LINEを、ほぼいっぱいの
90あたりまで進めて、紅葉予測を行ってみよう。
_c0032138_16580311.jpg
こちらが処理結果(最終出力)だ。

「この写真は、紅葉の季節に撮りました」と言っても、
そう違和感は無いのではなかろうか?

ちなみに、元写真(紅葉では無い時期に撮った)を
下に再掲してみる。
_c0032138_16580703.jpg
まあ、その差は一目瞭然だ。

これでだいたい今回のプログラミングは終わりである。

今回の研究開発の成否は? というと、まあ「△」
(現状では不明。様々な画像で追加検証が必要)という
感じだと思われる。

ただ、今回の基本アルゴリズム、すなわち
「何かの状態が、周囲に伝播していく」という様子は、
自然界における、様々な「状況」に応用が効きそうだ。
また何か思いついたら、これを応用し、また世の中に無い
新しいものを考えていく事にしよう。

---
さて、では本記事はこのあたりまでで。
本「プログラミング・シリーズ」だが、個人的には、気が
向いた時にしか、プログラミングをしないので、不定期の
連載となっている。


カメラの変遷(8) SONY編

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本シリーズは、各カメラメーカーが発売した銀塩及び
デジタルのカメラを、およそ1970年代から、現代に
至る迄の、約50年間の変遷の歴史を辿る記事である。

今回はSONY編として、主に2000年代から2010年代
中頃までのSONY デジタル機(コンパクト、一眼レフ、
ミラーレス)を中心に紹介する。
_c0032138_17053329.jpg
本シリーズでの紹介機は、現在所有しているカメラで、
かつ実際に使っているものに限るルールであるが、
SONYがデジタル一眼レフ市場に参入してからは、まだ
期間が短いので、所有カメラ数は、さほど多くない。


挿入している写真は、SONY製カメラの紹介写真、
および、それらのカメラで撮影した写真を適宜掲載する。


で、どのカテゴリーのカメラも近年2010年代後半からは
「高付加価値型カメラ」化してしまい、購入していない。
すなわち、高価すぎる状況であるので、コスパが悪いと
判断しているのだが、旧型機になると急速に中古相場が
安価になる状況もある為、個人的に納得する中古相場に
なれば、適宜それらの近代カメラも購入する予定である。
_c0032138_17053305.jpg
さて、SONYのカメラ史であるが、銀塩時代の概ね1990年代
前半までは、写真用の静止画カメラは、特殊なデジタル機を
除いて発売していない。つまりSONYは写真市場には本格参入
してはいなかった訳だ。勿論、銀塩一眼レフ等は1台も無い。

ただ、ご存知のようにSONYは、著名な「映像機器メーカー」
である。その一般的な「感覚」(ブランド力)は、どこから
生まれて来たのであろうか?

まず最初の重要な技術革新は「トリニトロン」方式のカラー
TVであろう。これは1960年代末に発売されて1970年代
には、一般に普及したものだが、旧来のカラーテレビが
RGB3色の電子ビームを独立して照射していたのに対し、
1つの(大型の)電子銃から、三色のカラーフィルター
(アパーチャーグリル)を透過させている仕組みであり、
旧来方式に対して画質や輝度再現性が圧倒的に向上した。

この発明の詳しい内容は一般消費者層には理解しずらかった
とは思うが「3を1にすれば2になる」という開発者の談話
(3つのビームを1つにまとめたら、性能が倍になったという
主旨)が広まり、TV CMでも「ワンガンスリービーム」という
「なんだか凄そうだ」と思わせる技術アピールを行っていた。

折りしも1969年のアポロブーム(アポロ11号が、初めて
月面に有人軟着陸し、搭乗員が月面を歩いた)に乗って、
カラーTVの一般家庭への爆発的な普及が始まっていた頃で
あったので、低価格よりも、画質を求める消費者層には
「トリニトロン」は神格化される程の人気を博す。

そんな中、TV放送の家庭での録画のニーズが増えてきて、
ここでもSONYは、1975年より「ベータマックス」の
家庭用VTRを発売し、ヒット商品となる。


しかし、徐々にVHS規格に押され、1980年代頃より
ベータ(β)方式は縮小の一途を辿り、2000年頃には
ほぼ消滅していまった。
ただし、「ベータマックスは高画質である」という風に
マニア層や業務層に広まり(あるいは、βが生き残る
為に、そういう話を流した人達が居たのか?)まあ、
この頃から、ベータカム(BETACAM)というβ方式対応の
ビデオカメラが普及し、業務用機としてスタンダードと
なっていく。

さらに、映像分野とは関係ないが、1980年前後には、
「ウォークマン」を世界中で大ヒットさせる、この
頃から、一般的な消費者の認識も「技術のSONY」という
感覚(ブランドイメージ)が広まっていく。
_c0032138_17053412.jpg
この1980年代頃の黄金期から、「SONY党」といった
マニア的なユーザー層が多数現れ、多くのSONY製品を
所有するようになっていく。

・・で、ここから先は想像であるが、「SONY党」の存在に
より、SONYは自社の製品間、例えばTV、VTR、VCR、PC、
音響機器、映像機器、ゲーム機・・などの「相互連携」を
強く意識して製品開発を行ったように見える。

つまり、そうして「SONY製品で固めて」いれば、その
使用利便性は高まる訳だが、逆に言えば、SONY以外の
他社製品との連携を拒む「排他的仕様」が強くなってきた
ようにも思えてならない。

その典型例は、1990年代の「iLINK」や同年代末の
「メモリースティック」が上げられるかも知れない。

「iLINK」は、PCおよびデジタルAV機器同士を接続する
バス規格であるが、後に「IEEE1394」という形で一般化
している。また「メモリースティック」は、ご存知、
記録媒体であり、SONY製デジタルカメラの他でも、
TV、PC、ウォークマン 携帯電話、ゲーム機などで
共通で使用できる使用利便性が存在している。

しかし、前者「iLINK」は、各社共通規格に変化した
事で、SONY単独でのブランド優位性を失ってしまい、
ご存知、「メモリースティック」は、技術の進歩が速い
デジタル業界においては、沢山の種類(Duo、Pro等)が
出来てしまって、ユーザー層からは「わかりにくい」
という印象に繋がったであろう。2000年代のカメラ市場
においては「SDカード」が、デファクト・スタンダード
(=実質的な標準)になっていき、2010年代のSONY製
のデジタルカメラにおいては、SDとMSの共用スロット
(実質、SD系での使用)という状況になってきていて、
残念ながらMSに関してはカメラ市場では縮退気味だ。

その後はカメラにおける高精細動画や超高画素化を見据えて
「XQD」の新メモリーカード規格をニコン等とともに
作り上げている。この為、2010年代後半のニコン機の
一部では、XQDカードを使用する機体が増えてきている。
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さて、ここからは私見であるが、20世紀(1980年代~
1990年代)の電子機器においては、自社製品間での
使用利便性を高める戦略は悪く無い。そして、自社が
産み出した規格(フォーマット)が世界中に広まれば、
実質的に大きな利益を得る事ができる。

それは例えば、PCのOSのWindowsがその典型例だが、
市場の雰囲気は、それらの「一人勝ち」企業に反発する
様相も出てきていた。
そういう「感覚」が広まり、例えばWindowsに反発する
「LINUX」等が出てきているし、ベータ(β)マックスが
廃れたのも、メモリースティックが廃れたのも、あるいは、
動画規格の「AVCHD」(SONYとパナソニックの共同開発)
も、あまり一般的には広まっていないのも、そういう風に

「メーカーの色がついた商品」に反発するユーザー層の
深層心理が微妙に影響していたのではなかろうか?
と個人的には思っている訳だ。

21世紀、2000年代以降においては汎用的(ユニバーサル)
である事が、デジタル業界においては、ある意味「美徳」
となっていく風潮が出て来ている。デジタル界は進歩が
速い為、次々と新しい「規格」が出来てくると、ユーザー
利便性を失い、混乱するからだ。

その混乱が一般層に大きく認識されたのは、2000年代
前半に、実に沢山のDVDメディアの規格が出来てしまい、
どれを買ったら良いかわからず、それらの互換性も
全く無く、短期間でその多くの規格が絶滅してしまった事
(せっかく買った機器やメディアが使えなくなった)も
重要な「負の歴史」であった頃だろう。

だから、PCにおいて長年の間使用されているCD(-ROM)
やUSBなどの一種の「レガシーデバイス」は、利便性が
高く、メーカーの色もついていない為、将来的にも
安心して利用できるし、新規格を入れる際にもできるだけ
旧来機種との互換性を持たせるようにも配慮されている。
(例:USB 2.0→USB 3.0や、USB Micro端子など)

まあだから、2010年代頃から現代においては、新規格を
作り上げても、あまりそれを「自社の手柄」のように
喧伝する事は、各社も控えているのではなかろうか?
例えば、ハイレゾ(リューション)オーディオや、XQDも
SONYが関与しているが、20世紀のように「技術のSONY!」
と言うことは無いし、「XQD」にいたっては、SONYの
カメラでは当初使用しておらず、先にNIKON機に搭載して
「様子見」という雰囲気もあった。


なお、単純に「様子見」だけではなく、AVCHDもXQDも
ハイレゾも、SONY単独ではなく、他社との協業で成立して
いる規格である。だからここでも、20世紀の時代にように
あまり1つのメーカーだけが「自社で発明しました!」等と
声を大にしてアピールする事も難しいし、それをやっても
逆に市場やユーザー層からは嫌われてしまう。

1980年代頃からの熱心なSONY製品ユーザー(=SONY党)
では、むしろPC/AV機器間の使用利便性の恩恵に預かって
来た訳だから、ここで述べたような感覚は理解しずらい
かも知れない。だが、現代において、SONY機と他社機を
色々と併用する際、SONY機の「排他的仕様」は特に目立ち
「異端である」という印象に繋がってしまうのも否めない。

ここまで余談が長くなったが、ユーザー層としては、
どうしても理解しておくべき歴史だ。「技術のSONY」と
世界中に名前がとどろいた企業とは言え、決して常に
順風満帆だったともいえず、色々と紆余曲折があった訳だ。
_c0032138_17054578.jpg
さて、では、SONYのカメラ機器の変遷についての話に
進もう。

まず、「ビデオカメラ」の分野に関しては、個人的には、
殆ど興味が無く、製品も1つも所有していないので
ばっさりと割愛するが、1つだけ・・

DCR-VX2000(2000年)という「3CCD方式」のビデオ
カメラは、高性能と評判で、ハイアマチュア向けや
業務用機としても、なかなかの人気であったと記憶して
いる。(38万円と高額な商品だが、私の知人にも、
これを買った人が数人居た)
一般的なビデオカメラが1つのCCD(撮像素子)で
映像を得ていたのに対し、色別のCCDを搭載する事は、
前述のTVにおける「トリニトロン」と、全く反対の
発想で、技術のアイデアとしては、なかなか興味深い。

さて、以下はSONY静止画デジタル機の歴史となる。
----
*電子スティルビデオカメラ(マビカ)
 CCD等の撮像素子は、デジタルカメラよりも
 ビデオカメラの方が古くから使われていたが、
 このデジタル動画像を静止画として、フロッピーディスク
 に記録する方式が、各カメラメーカーにおいて研究されて
 いた。
 中でも有名なものは、SONYが1981年に試作した
 「マビカ」であろう。

 ただし、フロッピーディスクに記録された画像は、
 アナログ形式であり、まあ、カメラが完全にデジタル化
 する前の過渡期の製品である。

*SONYのデジタル・コンパクト機
 SONYは上記「マビカ」を進化させ、1997年には
 「デジタルマビカ」として、同じくフロッピー
 ディスクにデジタル静止画像を書き込めるコンパクト
 機を発売した。


 これ以前に他社から発売された(デジタル)コンパクト
 機(例えば、CASIO QV-10,1995年)等は、記録媒体を
 持たず、内蔵メモリーに記録する方式であったので、
 リムーバブル(取り外し可)な記録媒体を持たせた事は
 「デジタルマビカ」の特徴ではあった。
 しかし、1990年代末頃から、撮像素子の画素数は
 急速に増加していき、フロッピーディスクでは記録
 できる枚数が限られてきた事や、外部記録媒体として
 他社では「スマート・メディア」が、そしてSONYでは、
 「メモリー・スティック」が使われるようになり、
 フロッピー方式は急速に廃れてしまう。

 SONYでは、「デジタル・マビカ」以外にも、
 1996年より「Cyber-shot」(サイバーショット)の
 シリーズ展開を始めていて、これが現代に至るまで
 SONY製(デジタル)コンパクト機のブランド名称として
 続いている。

 ここで1機種だけ、所有機を紹介しておこう。

2005年 SONY Cyber-Shot DSC-T7
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 非常に薄型のカメラである。
(コンパクト・デジタル・クラッシックス第2回記事)

 SONYのコンパクト機の型番は、シリーズのコンセプト
 毎に名称がついていて、Tシリーズは、恐らくは「Thin」
 という単語から、屈曲光学系を用いた薄型のコンセプト
 の機体である。(注:屈曲光学系とは、旧来のカメラの
 レンズは前方に真っ直ぐ伸びていたのに対し、ミラー
 などを使って光路を曲げ、カメラ前方にレンズが突出
 しない構造である。初出は2002年のMINOLTA DiMAGE X
 であるが、それ以前では「光を曲げると精度が出ない」
 という理由から「禁断の光学系」等と呼ばれていた)

 なお、この時代のコンパクト機は、様々なメーカー製で
 あっても、その大半が同一のOEMメーカー(工場)で
 製造されていたのは良く知られた事実であり、よって、
 メーカー毎の性能差や品質差は、その「企画的要素」を
 除いて、さほど大きいものでは無かった。
 私は、その点で、SONY機は「メモリースティック」を
 使用するから他社互換性が無くて、敬遠していた要素も
 大きかったので、SONYコンパクト機は、ほんの数機種
 しか購入していなかったし、現在でも残している機体は
 本機DSC-T7しか無い。

 また、ビデオカメラの販売においては、独ツァイス社
 と提携して、ツァイスのレンズ銘をつけている事も
 なんだかちょっと気に触っていた。「Tスター」の
 コーティング名が無く、その点で僅かにブランド銘の
 使用の制限があったと思われるが、私個人的には、
 「一眼レフを作っていないSONYでは本格的な高性能の
  レンズが作れるはずも無い、名前を買っただけだ!」
 と、むしろ反発する要素も強かった。

 カール・ツァイス社が、もう何十年もレンズは作って
 おらず、全て日本製である事はカメラマニアの常識だ。
 そして、このツァイス銘がビデオカメラのみならず、
 コンパクト機にも使われるようになったので、その点に
 おいても、SONYのコンパクト機の購入や所有を躊躇する
 理由が強くなった(=ブランド銘を使うと割高になるから)

 だが、本機DSC-T7だけは例外だ。
 DSC-T7の最大の特徴は「厚み 9.8mm」という薄さだ。
 これは当時世界最薄であった他、恐らくだがその後も
 本機を超える薄さのコンパクト機は登場していない。
 その1つの理由としては、後継機DSC-T9(未所有)
 以降では、内蔵手ブレ補正機能が搭載された事で
 厚みが増してしまった事もある。
 
 私は、このように「唯一無二の特徴を持つ」という
 カメラがとても好きなので、本機をずっと所有つづけ
 発売後10年以上の長きに渡り愛用していた。
 上の紹介写真でもわかると思うが、レンズバリアー部
 の塗装がはげてしまい、汚くなりかけたので、紙やすり
 で磨いている。機体当初の外観とは、もう別物だ(汗)
(下写真は、T7による近接撮影)
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 その後も、サイバーショットの製品展開は続いているが
 2010年代からは、大型センサーを搭載した高付加価値型
 の機体ばかりとなってしまい、コスパが悪すぎて現状では
 購入していないが、まあ、それら高級機も発売後の年月が
 過ぎれば適価な中古相場となるので、気が向けば購入する
 かも知れない。

*デジタル一眼レフ
 2006年~2009年 α三桁シリーズ

 ご存知のように、ミノルタ(1985~2002)、そして
 コニカミノルタ(2003~2005)と引き継がれた、
 一眼レフ/デジタル一眼レフの名称「α」は、2006年に、
 SONYにその事業(名称、技術など一式)が引き継がれる
 事となった(本シリーズ第7回記事参照)

 最初期のα100(2006年、未所有)は、コニミノとの
 共同開発で、中身はほぼα-Sweet DIGITAL(2005)と
 同等と思われる。


 交換レンズ群は、殆どがミノルタ時代のものをSONY銘
 に外観変更したものだ(ただし、20%前後値上げされた)
 全てがミノルタ製だと「SONYは交換レンズが作れない
 のではなかろうか?」と市場から悪評が立ってしまうので、
 ビデオカメラ、およびコンパクト機の搭載レンズで
 用いていたカールツァイス社の商標利用の権利を拡張し、
 Sonnar T* 135mm/F1.8 ZAなど、3本のツァイス銘の
 レンズを2006年に新発売した(レンズ・マニアックス
 第18回記事等、下写真)
_c0032138_17054544.jpg
 ただし、ツァイス銘は、その前年2005年に、コシナ社も
 取得していた為(注:京セラがCONTAXの事業を2005年
 に終了し、ツァイスとの提携が切れた為だ)、これらの
 ツァイス銘の、取り合いやら、二股売りなどは、どうも
 ビジネス色が強すぎて、マニア的観点からは、あまり
 気持ち良いものではなかった。すなわち、ツァイスの
 名前がついていれば、消費者層が、ありがたがって買う
 訳であり、「その名前の出自などは、皆は、どうでも
 良いのかよ?!」という、一種の憤りがあった訳だ。
_c0032138_17055146.jpg
2007年 SONY α700
 伝統の「7番機」の登場だ。ミノルタ時代よりの
 革新的な機種につけられる型番であるが、本機は、
 SONY初の完全自社開発の(デジタル)一眼レフである。

 とは言え、さほど革新的な機能や性能が搭載されて
 いる訳でもない。(デジタル一眼レフ第7回記事参照)

 この時代の直前、MINOLTAや京セラがカメラ事業から撤退
 した事で、それらの企業に居た優秀なベテラン・カメラ
 エンジニア達は、PanasonicやSONYに流れて、新規カメラ
 の開発に従事したか?と個人的には推察しているのだが、
 Panasonicが、この時代、μ4/3機の試作機開発等で
 革新的な開発を行った事に対し、SONYでは従来型一眼レフ
 の延長線上での企画開発、のように見える。
 それか、この時点では一眼レフは「場つなぎ」であって、
 将来(数年後の)αフタケタ機や、ミラーレスのNEXに
 新規開発のリソース(資源)を集中させたのであろうか?
 このあたりは、両社の社風や市場における「立ち位置」の
 違いからの差異だろうと思うが、この時代の製品の詳細を
 見ていくと、なかなか興味深い。
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 また、この時代には、SONY初のフルサイズデジタル一眼
 レフα900(2008年、未所有)が発売されている。

2010年~  α二桁シリーズ

 旧来型式でのデジタル一眼レフ市場においては、SONYは
 他社に比べて大きく後発だ。このまま後追いは不利と
 見たのか? SONY α55(2010年、未所有)において、
 革新的と言える「トランスルーセントミラー」搭載の、
 α二桁シリーズの発売を開始する。これを簡単に言えば、
 一眼レフとミラーレス機のハイブリッドのようなカメラだ。

2011年 SONY α77(Aマウント APS-C機)
 連写性能を高めた高性能機。前述のα55が革新的な
 仕様であるのに、「何故7番機にしない?」と、私は
 不審に思っていたのだが、本機がやっと7番機として登場。
 もしかすると、本来この機体を先に発売したかったのが、
 開発が遅れたのかも知れない?との想像もできる。

 というのも、本機には、制御ソフトウェア上での弱点が
 存在し、操作全般が重く感じるのだ。この弱点の軽減の
 為に長期間のソフト構造の見直しを行ったのかも知れない。
 本機は、その検証の為、2010年代後半に安価になった
 中古品を購入、予想通りの弱点を確認した後、すぐに
 知人に譲渡してしまっている為、本ブログのカメラ紹介
 記事には一切登場していない。

2012年 SONY α99(Aマウント フルサイズ機)
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 SONYの2代目の旗艦(フラッグシップ)機である。

 本記事執筆頃に、α(A)マウント機の絶滅が危惧されて
 いた為に、同マウントの予備機として購入した。
 他記事では未紹介だが、ここで追記しておこう。

 上記α77で挙げた「操作系の鈍重さ」の課題が
 最も顕著な機体である。後日、詳しく調べてみると
 それまでのSONY機では「組み込み用OS」を搭載して
 いたのが、α77等や本機の時代から「汎用OS」の
 使用に切り替わり、その初期の製品で、かつ高機能で
 操作子が多い機体では、壊滅的な迄の「操作の遅さ」
 の重欠点を持つ、と分析している。まあ、それ以外では
 そこそこ優秀な機体ではあるとは思うが・・・

2012年 SONY α65(Aマウント APS-C機)
_c0032138_17055121.jpg
 デジタル一眼レフ第13回記事参照。
 中級機の位置づけではあるが、これをαフタケタ機
 としては初めて入手して使ってみると、一眼レフと
 ミラーレスの良い所取りのような好印象で、しかも
 小型軽量、なかなかのお気に入りのカメラとなった。

2014年 SONY α77Ⅱ(Aマウント APS-C機)
_c0032138_17055856.jpg
 デジタル一眼レフ第18回記事参照。
 α65が思いの他、良かったので、正当な栄光の型番
 である7番機、α77Ⅱを続けて購入。
 こちらが現在でのα(Aマウント)主力機として活躍
 している。

2016年 SONY α99Ⅱ(Aマウント フルサイズ機、未所有)
 2013年より、SONYはミラーレス機(E/FEマウント)に
 主軸を移し、一眼レフ(Aマウント)は縮退している。
 現在、Aマウント機は、α77Ⅱとα99Ⅱの2機種しか
 国内では販売されていない状況だ。
 将来的にはミラーレス機に一本化される可能性が高いが、
 まあでも、本機α99Ⅱあたりは、中古相場が安価になった
 頃に入手しておきたいと考えている。(追記:なかなか
 中古相場が下がらない為、前述のα99を代替購入した)
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*SONY ミラーレス機

2010年~2012年 NEX期(Eマウント・ミラーレス)

 市場では、ミラーレスのμ4/3機は、すでに2008年末頃
 より展開が始まっていて、新規市場として好調であった。
 SONYもAPS-C型ミラーレス「NEX」シリーズで、2010年
 より、この市場に参入した。

2010年 NEX-3 (Eマウント APS-C機)

_c0032138_17055830.jpg
 ミラーレス・クラッシックス第4回記事参照。


 NEX-5とともに発売されたSONY初のミラーレス機。
 μ4/3機よりもセンサーサイズが大きく、かつμ4/3機
 よりも小型軽量であった為、市場での話題性が大きかった。

 ミラーレスは新規市場であった為、この当時、SONYでは、
 どのユーザー層に、どのようなカメラを販売するかの
 ターゲット戦略がまだ定まっておらず、機種毎に、様々な
 試行錯誤(コンセプトや仕様のばらつき)が見られる。
(注:「テストマーケティング」として、あえてそうして
 ユーザー層の反応を見ていたのかも知れない)
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 ただまあ、NEXは個人的に好みのシリーズであり、長期間
 に渡って現役愛用していて、すでにボロボロになっている。

2012年 NEX-7 (Eマウント APS-C機)
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 ミラーレス・クラッシックス第8回記事参照。

 究極の「動的操作系」を持つ、NEXシリーズのほぼ最終機。
 個人的にも最も高く評価しているNEXであり「傑作機」とも
 言えるが、その高度で難解な操作系は、残念ながら世間一般
 層には理解されず、使いこなしも困難であった為、続くα
 E/FEマウントシリーズ機では、より安易な操作系にダウン・
 グレードされてしまった。

2013年~  α期(E/FEマウント・ミラーレス)

 2013年、α7(FEマウント フルサイズ機)
_c0032138_17063777.jpg
 ミラーレス・クラッシックス第13回記事参照。

 世界初のフルサイズ・ミラーレス機(α7Rと同時発売)
 まさしく革新的な7番機であるが、まあ製造原価が
 下がってきたフルサイズセンサーをミラーレス機にも
 搭載しただけ、と、厳しい見方も出来ない事も無い。
 既に前年2012年には、一眼レフでは「フルサイズ元年」
 と呼ばれる程、各社からフルサイズ機が多数発売されて
 いた世情だ。

 ただ、本機α7は、それらどのフルサイズ一眼レフよりも
 遥かに小型軽量であり、かつ安価でもあった。
 まあ、縮退しつつある一眼レフ市場を、新規のミラーレス
 機と、そのフルサイズ・ミラーレス対応高額レンズの発売
 で、代替しよう、と言う戦略も大きかった事であろう。

 ブランド戦略も、この機体から、旧来のNEX名をやめて
 「α」に統一する事となった。(つまり、将来的には
 一眼レフではなく、ミラーレス機の方が「α」になって
 いく、という意味だ)

2014年、α6000 (Eマウント APS-C機)
_c0032138_17063915.jpg
 ミラーレス・クラッシックス第16回記事参照。


 個人的にお気に入りのNEX-7が、酷使による老朽化で古く
 なってしまったことによる、リリーフ機としての購入。
 
 ダウングレードされた操作系はマニアック度を減らして
 しまったのだが、純正等小型AFレンズや、トイレンズの
 母艦としての用途を想定した購入であった。
 なお、個人的にはフルサイズ機のメリットをあまり感じず
 むしろコスパ面ではデメリットが大きいとも思っているので、
 APS-C機でも十分である。

 ただまあ、αにおいては、α7系、α9系のフルサイズ機
 の方が、宣伝やプロモーションも大きいし、その結果として
 初級中級層はフルサイズαばかりを欲しがってしまう。
 APS-C型αの開発販売は、SONYとしても、あまり力を入れて
 いない事が明白だ。その理由は勿論フルサイズ機の方が
 付加価値が高い、すなわち利益が大きい商品であるからだ。
(注:EVF非搭載のα5000系機体は、現在では絶滅して
 しまっている)

 その戦略の一環か? SONY α7系/α9系のカメラ群は、
 後継機種においては、どんどんと高額になっていく、
 という過剰なまでの高付加価値化の状況が見られる。
(確信犯的なロードマップ戦略だろう、とも分析している)

 まあでも、その結果として、フルサイズα系は、モデル
 チェンジの期間が短く、2010年代末頃よりは、旧製品の
 中古相場の低下が少し早くなってきている。この事により、
 旧型機であれば、フルサイズ機でもコスパが悪く無い状況に
 なりつつある為、今後は、そのあたりの様子を見ながら
 自身の使用機材のローテーションをしていきたい。
_c0032138_17060652.jpg
 他の様々な記事でも説明しているが、デジタルカメラの
「仕様老朽化寿命」は、発売後約10年であり、それを超えて
 使用する事は、たとえ機体が壊れていなかったとしても、
「周囲の新機種に酷く見劣りする性能」の為に、使いたく
 なくなってしまう訳だ。
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2014年、α7S (Eマウント フルサイズ機)

 超高感度機である本機α7Sについては、他記事では
 未紹介であるが、ここで詳細を述べていくと長くなる
 為、近日中に、「ミラーレス・クラッシックス」記事で
 紹介する事としよう。基本的には、前述の通りの
 状況で、高額すぎるα7Ⅱ型系機体を避けて購入した
 ローテーション目的の機種である。(酷使により
 老朽化したα7の代替カメラ)

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 さて、ここまでが手持ちのSONY機の全てである。
 これより新しい時代のSONY機は、カメラ市場縮退に係わる
 高付加価値化戦略で、コスパが悪いという事で未購入で
 あるが、高付加価値化(すなわち高価格化)は、2013年~
 2018年の間、SONY機が「フルサイズ・ミラーレス機」の
 市場を独占していた事も原因の1つである。
(つまり、他にライバル機が無かった。よって、ある程度
 は、自由な価格設定が可能であった)

 だが、2018年末よりの各社ミラーレス機のフルサイズ化に
 より、SONYフルサイズ・ミラーレス機の市場優位性は
 失われて来ている。なので、SONY機(特にフルサイズ・
 ミラーレス機)の購入に関しては、中古相場下落待ち、
 という選択肢があり、実際にもそうしていく予定である。

(追記:2018年末よりの他社ミラーレス機は意外に振るわず、
 2020年現在では、SONY機の一人勝ち状態が続いていて、
 中古相場もあまり下がって来ていない。この分では当面
 は他社製品が盛り返すまで、市場の変化を待つしか無い。
 ・・まあ、だからその期間では、前述のα7S等を繋ぎの
 機体として購入している次第だ。だが、カメラ市場縮退に
 加えてのコロナ禍により、カメラが全く売れていない
 世情になってしまった為、市場の変化の予想が見え難く
 なって来ている。まあ確実に言える事は、今後の新製品は
 その数も少なく、かつ、恐ろしく値上げしたものとなる
 だろうから、そういう高付加価値(=高額)商品には、
 全く興味を持てなくなっていく事は確かであろう・・)

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では、今回の「カメラの変遷」は、このあたりまでで・・
次回記事は、少し主旨を変えた補足編としよう。

μ4/3用レンズ・マニアックス(3)中望遠編

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本シリーズ「μ4/3(マイクロフォーサーズ)用レンズ
・マニアックス」は、μ4/3機用のAF/MF/トイレンズ
等を順次焦点距離毎(広角、標準、中望遠、望遠)に
紹介する全4回の短期シリーズ記事だ。

今回の記事は「中望遠編」として、フルサイズ換算画角
が60~90mm前後となるレンズ、すなわちμ4/3用では、
実焦点距離が30~45mm程度のレンズを6本紹介する。

では、まず最初のμ4/3レンズ
_c0032138_17145247.jpg
レンズは、SIGMA 30mm/f2.8 EX DN
(新古品購入価格 7,000円)(以下、EX30/2.8)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7(μ4/3機)

2012年に、μ4/3機用およびSONY NEX用として
発売された小型軽量高描写力AF単焦点レンズ。

同年、2012年に発売されたSIGMA DP2 Merrill
(固定レンズ搭載型、高級デジタルコンパクト機)
の搭載30mmレンズを、単体発売した形となる。
(注:旧来のSIGMA DP2(2009年)の搭載レンズ
とは、仕様が異なっている)

_c0032138_17145280.jpg
本レンズは、EX DN型の型番であり、定価も
24,000円(+税)と安価である。
当時、「飛ぶ鳥を落とす勢い」で普及していた
ミラーレス機の市場に向け、安価に大量に販売
する市場戦略であっただろう。(注:SIGMAは
主にレンズメーカーであるから、本レンズを
「囲い込み戦略」の為の「エントリーレンズ」だと
見なす事は難しい。次に繋げる商品が少ないからだ)

だがSIGMAでは、その同年末又は翌年の2013年に、
レンズのラインナップを整備し、Art/Sports/
Contemporaryの3Lineとした。

その際、本レンズはSIGMAの誇る高性能コンパクト機
DPシリーズの搭載レンズであるから、低価格帯の
Contemporaryのラインに含ませてしまう事は難しい。
高性能レンズらしく、最高性能を誇るArt Lineに
属させる必要性があった訳だ。

その為、本レンズは外観変更を施し、30mm/F2.8
DN | Art にリニューアルされる事となった。
(注:定価は従前のEX DN型と同じ)

新型のArt型が発売されてしまったら、旧型の
EX DN型は売れなくなってしまう。そこで、旧型の
在庫処分品が、まさしく「大量に」中古流通市場に
「新古品」(中古扱いの新品。保証書などを抜く
ケースが多い) として放出される事となった。

前記事、Panasonic G25/1.7でも(後年だが)
同様な事があった、と説明した。こんな場合は、
消費者側では適正と思われる購入価格を想定し
その値段になったら買えば良い。

売り切れてしまう事は、あまり心配する必要は無い、
こういう売り方をするレンズは、そう簡単には、
大量に売れる事も無いからだ。
私が想定した購入価格は、これもG25/1.7と同じく
定価の約1/3の「税込み8,000円以内」である。

例によって、こういうケースでの新古流通の開始
販売価格は定価の50%~40%である事が通例だ。
当初、1万円程度での販売商品を全て見送った。

すると販売後数ヶ月で価格が下落、8,000円程度
までになったが、これまでの売れ行きが芳しく無い
様子で、”相場はまだ下がる”と見て待機した。

結局、税込み7,000円強の、下げ止まり価格
(恐らくは、仕入価格が定価の25%の6,000円と
見れば、これでぎりぎり)で、入手した次第だ。

安価に購入した事は良かったのであるが・・
描写力は、そこそこ高いけどスペックはかなり平凡だ。
最短撮影距離は30cmと30mmレンズとしては標準的。
(焦点距離10倍則どおり) そして開放F値も2.8と、
総合的に、地味なスペックである。

高級コンパクトカメラに搭載し、中遠距離撮影に
特化するのならば、このスペックでも問題無いが、
ミラーレス機で使用するには、もう少し被写界深度
のコントローラビリティが欲しい。まあ、つまり、
”寄れないし絞りも開けれない”という不満がある。

その後の本レンズの「用途開発」は、難航を極め
購入後何年たっても、なかなか本レンズの独自の
特徴を活用した有益な用途が1つも思いつかない。

まあ、SIGMA DP2(やDP2 Merrill)が新発売
された時には、その標準画角(換算45mm程度)
を、「気軽に持ち出して、スナップ撮影をする
のに良いかな?」と考えて、それらの購入を画策
していた事もあったのだが、本EX30/2.8 を
入手し、いざ、それが実現すると、前述のように
用途が少ない為、「(高価な)DP2を買わないで
良かった」と、捻くれた感想を持つようにも
なっていた。まあでも、実際にDP2系カメラを
買っていれば、それはそれで、所有満足感とか
元を取る義務感もあるし、スナップ用途にも適正
であろうから、それを頻繁に使う事になっては
いただろう。
_c0032138_17145218.jpg
本レンズは、あまりに安価に買ってしまった事が
むしろ仇(あだ)になってしまい、あまりこれを
ちゃんと使う気になれないのだ(汗)

後年では、本当の消耗用途、つまり雨天や過酷な
撮影環境において「いつ壊しても惜しく無い、
しかし、ちゃんとまともに写るレンズ」としての
利用を行うようにはなるが、これはあまり正当な
「用途」とも言えず、なんとも中途半端な状態だ。

弱点は、フードが付属していなかった事(欠品か?
それ故の安価だろうか? または最初から付属品
ではなかったか? 詳細不明)
それと、本レンズ(や、他のDN系レンズ)では、
電源OFF時に、レンズから「カタコト」と部品の
動く音がしてしまう。(注:これは正常との事)
よって「故障しているのか?」と心配になる事だ。

ただまあ、全般にコスパは良く、本EX30/2.8は、
ハイコスパレンズBEST40記事で、堂々の第10位に
ランクインしている。

他の、同シリーズのレンズ(19mm、60mm)を
含めた詳細については・・

特殊レンズ第5回「SIGMA DN レンズ」編記事を
参照されたし。

---
さて、次のμ4/3レンズはマクロである。
_c0032138_17150121.jpg
レンズは、OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm/f3.5
Macro
(中古購入価格 22,000円)(以下、MZ30/3.5)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited (μ4/3機)

2016年発売のμ4/3専用AF単焦点標準画角マクロレンズ。

レンズ単体で、等倍を越える1.25倍の撮影倍率を得る
事ができる。「フルサイズ換算では2.5倍となる」
というのが、メーカー側の売り文句ではあるが、
ミラーレス機では、デジタル拡大機能を備える場合も
多いので、見かけ上の撮影範囲からなる撮影倍率は
必要に応じて、さらに高める事は可能であるので
最大撮影倍率のスペックは、あまり重要では無い。

だが、「実用限界」というものもあって、あまりに
高倍率でのマクロ撮影は、用途も少ないし、場合に
よっては、撮影も非常に高難易度になってしまう。
_c0032138_17150190.jpg
本レンズの描写力は悪くは無い。オリンパスの
レンズは、銀塩時代から医療用途での評価が高く
(世界初の内視鏡を実用化したメーカーだからだ)
マクロレンズの性能にも定評があった。
(参考:特殊レンズ超マニアックス第2回
「新旧オリンパスマクロレンズ編」記事)

そうしたメーカーとしてのブランドイメージもあり
かつ、本MZ30/3.5は、比較的後発のマクロレンズ
でもあるから、描写性能的には、手を抜いた様子は
一切見受けられず、高い描写力を特徴としている。

そして価格や中古相場もあまり高額では無いので
描写性能面でのコスパに優れるレンズではあるが・・

課題は、無限回転式ピントリング仕様である為、
MF操作に全く向かず、実用的近接撮影が困難で
ある事が、重欠点に近い問題点となっている。

まあ、母艦であるOM-D E-M5Ⅱに備わる新鋭機能の、
「フォーカスブラケット」や「被写界深度合成」も
試しては見たが、それらの機能は操作系的には
簡単には呼び出せず、また求める結果(効能)も、
「MFで精密なピント合わせを行う」という用途とは
勿論、乖離して(かけ離れて)しまっている。

「ピーキングを使えば良いのでは?」とは言う
なかれ、オリンパス機のピーキング性能は、
その精度が、私が求めるレベルに達していない。

勿論、ピーキング強度を自在に変更できる事や、
背景の輝度をピーキング向けに調整できる機能が
ある事は知っているが・・ それらを行っても
差異は微々たるものだし、多種多様に変化する
実際の被写体毎の撮影シーンにおいて、頻繁に
それらの機能を設定変更する事は煩雑すぎる。

他社機では、設定に係わる機能をショートカット
できる事も普通であるが、オリンパス機の場合では、
各種ショートカットボタンにアサインできるのは、
ピーキングのON/OFFだけであり、ピーキングに
係わる設定は無理だ。
だから、一々その機能をメニューの奥深くから
呼び出して設定する事になり、その「操作系」は
当然ながら、全く効率的では無い。

で、そもそも課題は、MFでピントが合うか合わないか?
なのではなく「MF操作を効率的にする事が、出来るか
出来ないのか?」である。ここは、なかなかややこしい
話なので、詳細は冗長になるので割愛する。


結局、本MZ30/3.5で、本格的なマクロ撮影を行う
には無理がある。描写力やスペック的には高い性能を
持つ魅力的なレンズであるのに、惜しい限りだ。


このあたりのアンバランスは、近年のオリンパス
μ4/3機の製品ラインナップと、実際のユーザー層
が、マッチしていない事も原因だと考えられる。

近年のカメラ市場の縮退により、オリンパスとしても
高付加価値型商品(すなわち高性能で高価なカメラ
やレンズ)を作って売りたい訳だ。そういう製品で
あれば、販売数が減少しても利益率が高いので事業
構造を維持できる。
実際に、他のカメラメーカーでは、殆どがその
方向性に(2010年代後半より)転換済みである。

だが、オリンパス機では、一応E-M1/Ⅱ/Ⅲ/X
をハイエンド機として「プロユース市場」を推進
してはいるが、「小型軽量の望遠システムが構築
可能」という他には、それらは、あまり他社高級機
システムと比較しての実用・業務撮影上における
優位点は存在せず、結局、マニア層向けの製品群と
なってしまっている。

その証拠として、E-M1シリーズは、新機種が出ると
旧機種の新品販売価格が大きく下落し、同時に一斉に
旧機種が中古市場に溢れ、かつその中古相場も下落が
極めて速い。
で、業務用途機として普及している機材の場合では、
あまりこういう事は起こらない(旧機種でも実用的に
あまり問題無いからだ。だからオーナーは売らないし、
消費者も買うから、相場は下がらない)

加えて、それらの中古機体を見ても、業務用途で
ボロボロになるまで酷使した機体は流通しておらず、
殆ど全てが、あまり撮影した様子が無い、程度の良い
個体ばかりだ。

まあつまり、この状況は、最新機種を追い求める
一定数の熱心なファン層(オリンパス党)が、それら
高級機を順次ローテーション使用(買い換え)して
いるのだと思われる。

そして実際に世の中(観光地や撮影スポット、街中等)
で目にするオリンパス機は、その殆どが中級機以下で
あり、オーナーもビギナー層に見える。いや、むしろ
その分野(初級層向け)においては、オリンパス機の
シェアはそこそこ高く、健闘しているようにも見える。

すなわち、オリンパス製品(カメラ・レンズ)において
メーカーが期待する市場戦略(高付加価値型機を
プロユースとして使ってもらう)と、実際の市場状況
(入門層は初級機を買い、ファン層が高級機を買う)
とが乖離してしまっているように思える。

この状況だと、交換レンズの製品企画は必然的に、
ビギナーでも扱える非常に簡便な仕様のレンズ群と
マニア層やハイアマチュア層が志向する高級(高価)
レンズ群に、見事に、二分化されてしまう事になって
来るだろう。

しかし、オリンパスでは、元々、通称「松竹梅」と
呼ばれる3つのレンズ製品カテゴリー、すなわち、
M.ZUIKO PRO/M.ZUIKO PREMIUM/M.ZUIKO で
ユーザーニーズに対応する枠組みが出来上がっていた。
だから、この「松竹梅」に沿って交換レンズ群の
仕様・性能や価格帯を決めれば良い話なのだが・・

前述の、実際のユーザー層の状況(二分化)と
3カテゴリーはマッチしておらず、例えば中間層の
M.ZUIKO PREMIUMでは、個々のレンズ毎に企画
(つまりターゲットとするユーザーは誰か?)の
コンセプトが大きく異なる様相が見られる。
_c0032138_17150196.jpg
現状、未購入なのだが本MZ30/3.5の姉妹レンズの
MZ60/2.8 Macroであれば、特殊な距離指標を持ち、
実用的なマクロ(近接)撮影に耐えられる仕様に
なっているように見て取れる。(いずれ、これを
入手して検証してみようと思う)

まあつまり、本MZ30/3.5は、ビギナー層向けの
マクロレンズとして企画・設計されてしまって
いる事が明白であり、「MFでの撮影などは生涯で
一度も行った事が無い」ようなユーザー層向けだ。
本格的な近接撮影用途には向かない事は、結果的
に明らかであり、中上級層にとっては実用的に
かなりストレスとなるレンズである。

なので、近年では本レンズは近接撮影用途ではなく、
その高い描写力を活かして、標準レンズ代わりに
(換算60mm相当)使うケースも多くなっている。

(追記:本記事執筆直後の2020年6月に、オリンパス
はカメラ事業からの撤退(実際には分社化と移譲)を
表明、やはり厳しい市場状況であった、という訳だ)

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では、3本目のシステム。
_c0032138_17150601.jpg
レンズは、七工匠 35mm/f1.2
(新品購入価格 20,000円)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

2018年頃に発売された各社ミラーレス機マウント用
APS-C機以下対応MF標準(相当画角)レンズ。

2020年頃には銀色外装版が追加発売されている。
_c0032138_17150641.jpg
正直言えば、本レンズの購入は失敗であった。
これは、元はと言えば、銀塩時代のF1.2級MF標準
レンズの縮小コピー版ジェネリックレンズであろう。

ただ、元になった設計が、1960年代~1970年代
に各社が一眼レフ用の標準レンズの「大口径化に

凌ぎを削った」時代のものであり、その時代では
技術的に大口径レンズを作れるまでのレベルには
達していなかった。
(例:非球面レンズは、まだ実用的な段階では無い。
最初に(標準レンズに)それが使われたのは、
恐らくはCANON FD 55mm/F1.2 AL(1971年)で、
次が、NIKON Ai Noct-NIKKOR 58mm/F1.2
だと思われる、こちらは1977年の発売だ。
いずれも職人芸的製造工程で非常に高価であった)

つまり、その時代での各社は、開放F値を他社より
0.1でも下げる為の競争をしていて、「描写力は
二の次」という状況であったのだろう。
(参考:最強50mm選手権第7回「MF50mm/F1.2編」
記事。そこでは当時の大口径MF標準レンズを5本
紹介している→が、どれも低性能だ)

で、その未成熟な時代のF1.2級レンズの構成を
参照して、それを2/3にスケールダウンして、
七工匠35/1.2が作られた訳だから、これはまあ、
描写性能的には、正直言って使い物にならない。

その理由は「50年前の古い設計だから」とかでは
無い。たとえ50年前であっても、現代でも通用する
描写力を持つレンズは稀に存在している。
これは、「開発競争をしていた時代のレンズ」で
ある事が問題なのであって、その事は、時代の古さ
とは、あまり関連していない。

では何故、こうしたF1.2級のレンズを作るのか?
と言えば、まず、初級中級層が「開放F値が少し
でも明るいレンズを欲しがる」そして「そういう
商品は高価でも売れる」からである。

よって、前述の1970年代のMF50mm/F1.2級標準
も中古相場が高価で、現代に至っても3万円や

5万円もしてしまう事すらあるのだ。
実際のところは、僅か2000円程度で買える
50mm/F1.8級MF小口径標準に対して、描写力的
には手も足も出ない性能であるにも係わらずだ。
(参照:最強50mm選手権シリーズの各記事)

また、各社が大口径レンズの開発競争に走って
しまった結果、もうユーザー利便性等はあまり関係
が無くなり、「他社がより大口径のレンズを出せば、
自社も、それと同等かそれ以上の大口径を開発
しないと、自社のブランドイメージが損なわれる」
という方向性に走ってしまったのであろう・・

ある意味、性能の低いレンズを高価に売った事で
ユーザーの事をないがしろにした、とも言えるし、
ちょっと残念な時代であった。

七工匠が、本レンズを企画した際に、これらの
歴史的事情や、あるいはF1.2級標準レンズの
実際の描写性能をどこまで理解していたのか?は
良くわからない。わかった上で本レンズを作った
のか? あるいは全く知らずに、F1.2級レンズが
現代でも市場訴求力や付加価値があると見たのか?
_c0032138_17150625.jpg
総括だが、「ジェネリックレンズ」といっても、
その全てが、良く写ってコスパが良い、という訳
でも無く、「設計の元になったレンズの特徴が、
良くも悪くも出てきてしまう」という事だ。

本、七工匠35/1.2は、基本的には非推奨である。
ただし、その50年前の大口径開発競争のテイストが
少し味わえる(当時の様相が再現、理解できる)
レンズでもある。歴史的な価値を鑑みて研究用途
としての目的で本レンズを買うのは、無きにしも
あらずだと思う。

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では、4本目のシステム。
_c0032138_17151303.jpg
レンズは、Docooler 35mm/f1.6
(中古購入価格 9,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1 (μ4/3機)

発売年不明、正確なメーカー名も不明。
中国製と思われる単焦点MFレンズ。
_c0032138_17151311.jpg
通販での限定数販売と思われ、上記中古購入価格は
販売期間中の価格と同等か、やや高価な位だ。
近年では、海外製のレンズの一部で、中古相場の
初出価格が、そのような状態になる事が良くある。

まあつまり「もう入手不能であるから、多少高目
の相場でも買う人は居るだろう」という販売側の
思惑だ。その考え方は、個人的には好まないのだが
いつも言うように「コスパ感覚」があるので、
現代の市場においては、中国製等の海外製MF単焦点
レンズの価値感覚は、「およそ1万円」と個人的には
解釈している。だから「9,000円程度ならば買い」
の判断になった訳だ。

でも、本レンズは正解だ。出自も何もわからないが
だからと言って、性能も低いレンズでは無かった。
意外なまでに良く写り、これならば購入価格に対して
コスパが良い、と見なす事が出来る。
_c0032138_17151307.jpg
弱点は、短期間だけで販売されていたレンズだと
思われ、入手性が極めて悪い事だ。中古品を偶然
見つけたとしても、どのあたりの相場感覚となる
かは不明だ(売る方も買う方も、値段がわからない)

私の感覚値を述べておけば、本Docooler 35/1.6の
性能(描写力、品質等の全般)からなる絶対的な
価値は1万円以下程度、というところだと思う。
その値段以下で見かけたら、購入の選択も悪く無い。

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さて、5本目は超大口径レンズだ。
_c0032138_17151974.jpg
レンズは、Voigtlander NOKTON 42.5mm/f0.95
(新品購入価格 90,000円)(以下、NOKTON42.5)
カメラは、PANASONIC (LUMIX) DMC-G5 (μ4/3機)

2013年発売のμ4/3機専用超大口径MF中望遠画角レンズ。
中途半端な焦点距離ではあるが、μ4/3で2倍して85mm
になる事から、意味の無い焦点距離では無い。
_c0032138_17151975.jpg
本レンズの発売当時では、F0.95のレンズとしては
往年のCANON 50mm/F0.95(レンジ機用)の特殊
レンズを除き、近代レンズの中では最も長い焦点距離
であったかも知れず、レンズの焦点距離が長ければ
被写界深度も浅くなる道理で、本レンズの企画意図は
そのあたりにあったのかも知れない。

しかし、その後、他社でも、中一光学、ライカ、
SLR Magic、NIKON等より、50~58mmの焦点距離
を持つF0.95レンズが発売されると、本NOKTON
での42.5mmは、最長の焦点距離とはもう言え無い。

そこで、コシナは2020年に本レンズより7年ぶりに
NOKTON F0.95の新製品 60mm/F0.95を発売し、
世界最長焦点距離のF0.95レンズの座を奪回し、
話題性を得ようとしたのであろう。
(追記:当該レンズは、本記事執筆後に入手済み
だが、本シリーズ記事には間に合っていなかった)

さて、本NOKTON42.5/0.95だが、過去記事で多数
紹介済みなので、詳細は、ばっさりと割愛する。

最大の注意点は「使いこなしが極めて困難」な
レンズである事で、レンズ・マニアックス第11回、
第12回の「使いこなしが難しいレンズ」特集
記事において、ワースト2位となったのが、
本レンズNOKTON42.5/0.95である。
_c0032138_17151961.jpg
2015年頃であったか? 知人の初級マニア氏が
本レンズに興味を持ち、私のシステムで試写も
行った上で「このレンズがどうしても欲しい」と
言い出した。私は
「やめておけ、とは言わないよ。
 面白いレンズだけど、使いこなしがとても難しい。
 多分、すぐには思いどおりには撮れないだろうから、
 買ってから2~3年はメゲずに我慢して使いこなす
 練習をする覚悟が必要だよ・・」
と伝えた。

結局、知人は「それでも本レンズを買うと」言って、
私は大阪のカメラ専門店巡りに同行し、何軒目かで、
最も安かった店舗で新品購入した次第だ。

その際、ND8(減光3段)のフィルターも同時に
探して、それを買うようにアドバイスもした。
さもないと、開放F0.95は日中撮影では、シャッター
速度オーバーになって使えない。絞って使うならば
本レンズの超大口径の意味が無いからだ。

知人には「これはサングラスだ。このレンズを
昼間使う時には、これを掛ける。室内や夜では、
サングラスを外して使うようにすれば良いよ」
と伝え、NDフィルターを使う概念をわかりやすく
説明しておいた。

まあ、ここまで述べてきたように、本レンズ
NOKTON42.5/0.95を他者に推奨する際の感覚は
まさにこれと同じである。初級中級層や初級マニア
層に対しては「買ってから2~3年は修行が必要。
最初は全くちゃんと撮れないと思うが、メゲずに
練習を続けるのが必須」というアドバイスだ。

そして、そのユーザーが、どれくらいの頻度で、
どれくらいの真剣度で写真を撮っているか?にも
依存するであろう。月に何度か程度の外出の際に
カメラを持っていき、100枚やそこらを撮る程度
のビギナー層では、本レンズは一生かかっても
使いこなす事は出来ない。少なくとも数万枚を
本レンズで撮る(撮ろうとする)ようなユーザー
でないと、全く推奨できないレンズである。

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では、次は今回ラストのμ4/3システム
_c0032138_17152754.jpg
レンズは、OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL 45mm/f1.8
(中古購入価格 16,000円)(以下、MZ45/1.8)
カメラは、OLYMPUS PEN-F (μ4/3機)

2011年に発売された中望遠画角AF単焦点レンズ。
OLYMPUSのWEBでは「ママのためのファミリーポート
レートレンズ」として紹介されている。
_c0032138_17152738.jpg
これも前述のように、オリンパスにおける企画と
実際の特性が、あまりマッチしていないレンズである。

描写力は極めて高い、これはM.ZUIKO PREMIUMの
ラインナップにされているから、あまり手を抜いた
設計にはしていないのだと思われる。
しかし価格が安価だ、こういう状況は、すなわち
「エントリーレンズ」である。

前述のように、2010年代におけるオリンパス機の
ユーザー層は、エントリー(入門)および初級層と、
マニア層(オリンパス党)に、大きく二分されて
いた。そこで、エントリー層に向けて高性能な
交換レンズを「お試し価格」で安価に売れば、
それを買ったユーザーは「なんと良く写るレンズだ、
オリンパスは凄い! これであれば、もっと高価な
レンズやカメラを買えば、どれだけ凄い写りに
なるのだろう?」と思ってくれるので、これでもう
「オリンパス党」に囲い込む戦略が完遂できる。

だが、これも前述のMZ30/3.5と同じ弱点を持って
いて、無限回転式・距離指標無しのピントリング
では、MF技法がいっさい使えず、大いに不満だ。

知人の上級マニア氏(MF技法がちゃんと使える)が、
本レンズを所有していて、同様の不満を持っていた
ので、私は、
「まあそうだよね。でも、考え方を変えれば、
 本レンズを買わずとしても、銀塩MF50mm/F1.8
 をμ4/3機で使えば、はるかに使い易いよ」
と答えたのだが・・

では、銀塩MF標準(50mm/F1.8級)レンズと、
銀塩AF標準(50mm/F1.8級)および本MZ45/1.8は、
スペック的にどの程度異なるのであろうか?

*焦点距離と開放F値は全て同等。
*レンズ構成
MF50/1.8:5群6枚、変形ダブルガウス型が一般的
AF50/1.8:5群6枚、変形ダブルガウス型が一般的
MZ45/1.8:8群9枚、低分散(E-HR)レンズ2枚使用
*最短撮影距離
MF50/1.8:50cm~60cmが一般的
AF50/1.8:45cmが一般的、稀にそれより長い
MZ45/1.8:50cm
*MF操作性
MF50/1.8:良好
AF50/1.8:悪い、たいていトルク感が不足する
MZ45/1.8:劣悪な為、ほぼAF使用専用

・・という感じだ。

簡単に言ってしまえば、銀塩用MF(AF)小口径
標準はMF性能に優れ、本MZ45/1.8は、AF専用での
使用となるが描写力に優れる、という差異になる。

ただし、銀塩時代の小口径標準レンズは、
NIKON Ai(AF)50/1.8、PENTAX SMC-T55/1.8、
RICOH XR50/2、MINOLTA MC50/1.7、
KONICA AR40/1.8、CONTAX P50/1.7、
CANON EF50/1.8(Ⅱ)等は、いずれも描写力に
優れ、それぞれ、初級マニア層等において
「安くて写りが良い、神レンズだ」と

「神格化」されたレンズも極めて多い。

(というか、CONTAX P50/1.7(未所有)を除き、
他の銀塩用小口径標準(全て所有)は、いずれも
5群6枚の酷似したレンズ構成であり、いずれも
同様に良く写る。つまり、全メーカーの銀塩用
小口径標準は、描写力的に及第点であり、かつ、
どのレンズを買っても同じくらいの描写性能だ。
→最強50mm選手権シリーズ第2回、第4回記事
を参照の事)
_c0032138_17152791.jpg
まあ、という事で、本レンズMZ45/1.8の総括
であるが、AFでの人物撮影用および汎用中望遠
レンズとして、高い描写力を誇り、かつ比較的
安価である事がメリットである。
これは入門層、および初級層には向く特性だ。

しかし中上級層に向けては、AF精度が不足した
場合での精密ピント合わせ用途には向かずに、
被写体条件の制限が厳しく、せっかくの高描写力
レンズの汎用性が低く、ストレスになるであろう。

マニア層に向けては、銀塩時代のMF小口径標準を
マウントアダプターを介して装着した方が、
実用性が高いし、描写力も悪く無いので、総合的に
「エンジョイ度」が高くなると思う。
おまけに、それらの中古相場は恐ろしく安価
(1000円~5000円程度)であるから、「コスパ」
の評価が極めて高くなる。

結局、ユーザー側でのレンズの利用目的および
スキル(技能全般)に応じて、本レンズMZ45/1.8
が推奨できるか否かが決まる次第となる。

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今回の「μ4/3用レンズ・マニアックス中望遠編」は、
このあたり迄で、次回最終回記事は、「望遠編」
となる予定だ。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(49)AF標準ズーム・ヒストリー

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズをカテゴリー
別に紹介しているが、今回紹介するレンズ群は、ごく
ポピュラーなものである。

今回は「AF標準ズーム」の歴史と発展を追う記事とし、
1990年代~2010年代の標準ズームを年代順に、
10本紹介しよう。紹介本数が多いので、実写掲載は、
各レンズあたり1枚のみとする。

「(AF)標準ズーム」の定義だが、まずAF対応である事。
それと、フルサイズ換算で「50mm」の標準画角を含む
ものとし、ズーム比(望遠端焦点距離を広角端焦点距離で
割った数値、単位無し(無名数)。一般的に言われている
「何倍ズーム」は不適切な用語として本ブログでは非推奨)
・・は問わない。

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では、1990年代のAF標準ズームからスタートしよう。

<1990年代>
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レンズは、SIGMA ZOOM 28-80mm/f3.5-5.6 MACRO
ASPHELICAL
(ジャンク購入価格 1,000円)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

詳細な出自は、もはや不明だが、恐らくは1990年代頃
のAF標準ズームであろう。

本記事では、銀塩AF時代、つまり1990年前後から以降の
(AF)標準ズームの発展の歴史を紹介するのだが、これ以前
の銀塩MF時代でも、(MF)ズームレンズは勿論存在している。

まず最初に、簡単にズームレンズの歴史を述べておく。

35mm版一眼レフ用の世界初のズームレンズは、
旧フォクトレンダー(キルフィット製)「ズーマー」が、
1959年に発売されている。このレンズが最初にあったから
「ズーム」という言葉が写真用語として一般的になった訳だ。

国産における、初期のMFズームレンズは、1960年前後から
発売されていたと思うが、いずれも望遠ズームである。
まあ、一眼レフカメラのフランジバック長(概ね45mm前後)
を下回るような焦点距離の(標準、広角)ズームの構造の
設計が、とても難しかったからであろう。

最初の標準ズームはNIKON Zoom-NIKKOR AUTO 43-86mm
/f3.5(通称:ヨンサンハチロク)が、1963年の発売だ。

(後継型をハイコスパレンズ・マニアックス第9回等で紹介)

以降、銀塩MF時代を通じて「標準ズーム」は改良が続くが、
1980年代位までは、標準ズームは、ズーム比が小さく、
広角端が足りず(例:35mm始まり等)、開放F値が暗く、
最短撮影距離が長く、おまけに描写力が低いといった多数の
弱点が目につき、依然、単焦点レンズが主流であった。
(標準ズーム内の画角で言えば28mm,35mm,50mmの各
単焦点レンズを揃える事がユーザーにおいて一般的であった)


1985年の「αショック」以降、急速にAF時代に突入すると
同時に、レンズ側での絞り操作もカメラ本体側から行える
機種が増えて行く。ピントも自動であれば、レンズ側で何も
操作する必要が無くなってしまう、これは良い事でもあるし
物足りなさもあるだろう。よって、何かレンズ側で操作を
するならば、画角を調整する事(ズーミング)がベストだ。

ちょうど、新時代(AF時代)の幕開けを強調する意味でも、
ズームレンズの開発に各社は力を入れ、この頃から前述の
様々なズームの欠点も改良されていき、1990年代ではもう、
それまでのMF時代のように、”一眼レフには50mmの単焦点
レンズをセットして販売する”のではなく、標準ズーム
レンズとのキット(セット)販売が、一般的になっていく。

さて、本記事では、この(AF)標準ズームレンズが実用レベル
に達した、1990年代からのスタートだ。

いや、ぶっちゃけ言えば、これ以前のMF時代の標準ズームは
もう殆ど手元に残っていないので、紹介や解説ができない。
まあ、勿論色々と持ってはいたが、どれも「実用価値なし」と
見なし、いつのまにか譲渡や処分で雲散霧消してしまっている。
残っているのは、前述の歴史的価値の高い「ヨンサンハチロク」
(ただし後継型)くらいであり、他は何処へ行ったのやら・・
_c0032138_18095638.jpg
本レンズ、SIGMA 28-80mm/f3.5-5.6であるが、意外にも
完成度の高いレンズだ。ズーム比こそ小さいが、常用の
焦点距離範囲としては、銀塩35mm判またはデジタルでの
フルサイズ機用としては十分。80mm端ではマクロモード
(仕様上1/2倍、実測1/3倍)が使えるし、非球面レンズ
を使った構成により、描写力もさほど悪く無い。

(注:それ以前の時代では非常に高価であった非球面
レンズだが、この時代では、安価なズームレンズにも
非球面が使われている。恐らくだが、通常のガラス球面
レンズにプラスチックス(樹脂)非球面を貼りあわせた
「複合(型)非球面」レンズ等の技術が、この時代に
開発され、安価に量産が可能となったのであろう。
ちなみに1980年代後半には、既に「写ルンです」で
プラスチックス成型非球面レンズが使われている)

現代ではジャンク品扱いとなっている位の、古く不人気の
レンズだが、コスパは悪く無い。

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では、1990年代の2本目の標準ズーム。
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レンズは、smc PENTAX-FA 28-70mm/f4 AL
(中古購入価格 3,980円)
リバース(リング)・アダプター使用。
カメラは、PENTAX K-5(APS-C機)

出自不明、恐らくは1990年代中頃のAF標準ズームであろう。
当初PENTAX MZ-3(1997年)のキットレンズとして購入して
いたのだが、MZ-3SE(1998年、名玉FA43/1.9Limited
がキットレンズ。銀塩一眼第21回記事)に買い換える為に
下取りしてしまっていた。が、「なかなか良く写ったレンズ
だった」という記憶があり、2010年代に再購入したものだ。
(注:AL型番は、前述の複合非球面レンズの意味であろう)

特徴は「F4通し」(開放F値固定)のズームであり、この
仕様はズーミングの変化における、シャッター速度の維持、
ボケ量や手ブレ限界が焦点距離に比例する、など、かなり
メリットのある仕様である。

私は銀塩時代においては、ズーム嫌い(コスパが悪いから)
の時期が続いていたが、開放F値固定ズームは、別格であり、
そういうズームのみを買っていた。

2010年代での再購入の理由の1つとして、本FA28-70/4
が「リバースシステム」として最適である事もあった。
それについて説明しだすと長くなる、興味があれば詳しくは
「匠の写真用語辞典第2回記事」等を参照していただきたいが、
簡単に言えば「超マクロ」を普通のレンズで実現する手段だ。
_c0032138_18095600.jpg
ただし、どんな(普通の)レンズでも、この用法が、実現
できる訳では無い、細かい条件が色々とあるのだ。

それらの条件を全て満たした上で、さらにリバースシステム
として最も実用的だと思われるレンズがFA28-70/4である。

さて、これら2本の1990年代のAF標準ズーム以外で現在所有
しているものは無い。もはや四半世紀も前の時代であるし、
元々ズーム嫌いであったし、実際には実用価値の低いものを
あまり集めたいとも思っていない訳だ。
(追記:本記事執筆後、レンズ設計技術の変遷を研究する
 目的で、何本かのAF標準ズームを追加購入している)

では、2000年代のAF標準ズームに進もう。


<2000年代>
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レンズは、TAMRON AF28-200mm Super Zoom f3.8-5.6
Aspherical XR [IF] MACRO(A03) (以下、200XRと記載)
(中古購入価格 17,000円)
カメラは、CANON EOS 6D(フルサイズ機)

とんでもなく長い製品名だ。まあ、この時代のTAMRONは
細かい採用技術の名称を、全てレンズ名に冠している為、
こんな長い名前になってしまう。この傾向は、2010年頃に
改められ、Aspherical、IF、LDといった、当たり前の
技術名は、もう書かれなくなった。

まあでも、「それだけ沢山の技術革新が行われていた」と
好意的に解釈する事も出来る。

本レンズは、2001年の発売だ。
しかし、TAMRONでは1990年代始め頃から、このような
高倍率ズーム(=ズーム比が大きい)の開発には熱心であり、
1992年のModel71Dでは初めて28-200mmを実現している。
(注:他社でKIRON 28-210という、あまり一般的では無い
高倍率MFズームはあった。レンズマニアックス第13回)

ただし、1990年代の初期の高倍率ズームの性能は酷いもの
であり、例えば最短撮影距離は2.1mと、恐ろしく長く
描写力もイマイチ、そして大きく重いレンズでもあった。

高倍率ズームが実用的になったのは、本200XRからであり、
この「XR仕様」では、旧来よりも大幅に小型軽量化され、
描写力も高く、最短撮影距離はズーム全域で49cmと
驚異的であり、この年(2001年)のレンズ関連の賞を
総なめにしたと記憶している。
初の実用高倍率ズームとして、本200XRの歴史的価値は
極めて高い。
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翌2002年には、望遠端を300mmに拡張した姉妹レンズ
もXR仕様で発売されている(Model A06)

そちらも所有しているが、本200XRに比べてズーム比が
大きい分、設計に無理をしているのか? 本200XRの方が
高画質であり、かつ、だいぶコンパクトだ。
(参考:200XR=354g、300XR=420g)

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では、2000年代の2本目のAF標準ズーム。
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レンズは、smc PENTAX-DA 16-45mm/f4 ED AL
(中古購入価格 11,000円)(以下、DA16-45)
カメラは、PENTAX K10D (APS-C機)

2003年発売のデジタル(APS-C機)専用標準ズームレンズ。

この2000年代では、銀塩末期の混迷期(中古カメラブームが
起こり、およそあらゆる種類の銀塩/デジタルカメラが発売
された)も過ぎ、完全デジタル時代への転換期である。

2000年~2004年の(黎明期)に発売されたデジタル
一眼レフは、非常に高価(80万円~約100万円)な
フルサイズ機である「CANON EOS-1Ds」系と、
「CONTAX N Digital」を除き、他は全て、APS-C型
(以下)の機体である。


各社デジタル機では、旧来の銀塩AF用(ズーム)レンズを
引き続き使用できる規格とはなっていたが、APS-C以下機で、
銀塩用レンズを用いた場合、焦点距離(画角)が、1.5倍
から2倍程度に長く(狭く)なってしまう。

まあ、望遠(ズーム)レンズであれば、より被写体を
大きく写せるので好ましいが、広角や標準ズームはまずい、
つまり、広い範囲を写す事が出来なくなってしまう。

銀塩AF標準ズームは、だいたい28mmが広角端であるものが
殆どであった。この時代から、「デジタル(APS-C)専用
標準ズーム」として、広角端が16mmないし18mm程度
から開始される標準ズームの発売が始まる。

本DA16-45が、PENTAXにおけるDA型番(APS-C機専用)
の初のレンズであると思う。(注:その歴史的価値の
高さから、本レンズを購入している)
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16-45mmの焦点距離はフルサイズ換算で約24-約68mm
となる。PENTAXお得意の小口径F4通し(開放F値固定)
のズームであり、まあ、前述のFA28-70の、ほぼデジタル
対応品の立場となっている。

しかし、本レンズは、イメージサークルの小さいAPS-C機
専用でありながら、前述のFA28-70/4よりも、はるかに
大きく重いレンズになってしまった。
その理由や原因は不明、どうみても大型化は納得のいく
措置では無いと思う。
勿論、ここまで大型でフィルターサイズも大きいと、
FA28-70/4のような「リバースシステム」としての用途
にも適さない。

あまり用途の無いレンズではあるが、「DA型番初のレンズ」
という歴史的価値の高さを重んじての購入である。

また、天候耐性の高いPENTAX機(防塵、防滴仕様)と
組み合わせると、本レンズは防水(WR)仕様では無いが、
中古相場が安価な為、過酷な撮影環境(雨天等)にも
適したレンズとなる。何度かボート競技の撮影に持ち出した
事もあるが、「描写力がイマイチ」という課題があって、
やはり「用途開発」は、なかなか難しい。

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では、3本目の2000年代のAF標準ズーム。
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レンズは、OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 14-45mm/f3.5-5.6
(新古購入価格 13,000円相当)(以下、ZD14-45)
カメラは、OLYMPUS E-410 (4/3機)

前述のように、2000年代前半は銀塩から完全デジタル
時代への転換期である。

この時代以前、1980年代後半のAF化時代に銀塩一眼レフの
AF化に事実上失敗し、約20年間も(銀塩)一眼レフを新規に
開発していなかったOLYMPUSも、この時代に新規の「4/3」
(フォーサーズ)規格で、(デジタル)一眼レフ市場に
(再)参入を開始する。(2003年、OLYMPUS E-1発売)

ただ、いきなりのE-1は旗艦機であり高価だ。おまけに
新マウントの4/3機は、過去のレンズ資産が活かせない。
(他社デジタル一眼レフは、全て銀塩AF時代のものが流用
できた)すぐさまOLYMPUSは、E-300といった低価格機群
の販売を開始する(2004年)、本レンズZD14-45は、
そのE-300のキットレンズとして、2004年に発売された

フォーサーズ機専用のローコスト標準ズームである。

広角気味の焦点距離だが、4/3の換算焦点距離は2倍なので
28-90mm相当の画角となる一般的な標準ズームだ。
_c0032138_18103138.jpg
他社マウントとの互換性は無く、唯一、電子アダプター
(MMF-1~3等)を用いて、現代のμ4/3機でも使用可能だ。
まあ、4/3の小さいセンサーに適合したイメージサークルや
テレセントリック特性になっている為、元々、他のサイズの
センサー機への装着は無理だし、カメラ側からレンズに電源
を供給しないと、絞りもピントリングも何も動かない。

従前の時代では、他社のレンズをマウントアダプターで
使用した場合でも、レンズが絞り環を備えていれば、MFで
なんとか使う事は出来ていたのだが、まあ、この時代から、
本レンズのような「特定のデジタル機専用」のレンズが
発売され始めた、という事である。

本レンズは、2005年頃から2010年代中頃まで約10年間
も、ボート系大会の記録撮影で長期に渡って活躍した。
それは別に、本レンズの描写力が高かったからでは無いし、
防滴・防水などの安全処置が施されている訳でも無い。
その理由は、「安価な、使い潰し型(消耗用)」レンズで
あったからだ。しかし、このレンズ、全く壊れない(笑)

雨天や酷暑等の過酷な環境での長期使用で、母艦としていた
E-300は、とうに電気的な故障で廃棄処分、母艦をE-410に
買い換えて、さらに長期で使ったが、それでも本ZD14-45は、
ビクともせずに、淡々と記録撮影をこなしていた。
恐らくはその撮影枚数は、優に5万枚を超え、多分、私の
所有レンズの中で最も多く撮影したレンズの上位に入る事は
間違い無いであろう。

あまりに壊れないので、現在は「強制引退」という感じに
なっている(汗)さすがに発売後15年を超えてまで使い
続ける事は「仕様老朽化寿命」が来てしまっていて、周囲の
新鋭レンズの性能に対して見劣りしてしまう。

でもまあ、適切な後継または代替レンズが無い事も確かで
あり、場合により、再度の現役復帰もあり得るかも知れない。
超音波モーターやらが入っていたとしても、実用撮影では
殆ど無意味であるし、高価な新鋭レンズは、勿論、厳しい
撮影環境では使いようもなく、安全な撮影環境で甘やかして
使うしか無いのだ。

(追記:本記事執筆後に後継のOLYMPUS ZUIKO DIGITAL
ED 14-42mm/f3.5-5.6を研究用に購入しているのだが、
そちらはかなり小型軽量化されている(=本ZD14-45が
「大型すぎる」と市場で不評であったからだ)のだが、
ED(異常低分散)ガラスレンズを新たに使っているのに、
どうも、描写力が高まっている印象が無い。
無理をした小型化の弊害であろうか・・?)

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では、4本目の2000年代のAF標準ズーム。
こちらは、「レンズ」では無く、正確には「ユニット」だ。
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ユニットは、RICOH LENS S10 24-72mm/f2.5-4.4 VC
(1/1.7型)
(中古購入価格 7,000円相当)(以下、S10)
カメラは、RICOH GXR

史上稀に見る、稀有な商品コンセプトである「RICOH GXR」
(2009年)の、専用ユニット(レンズ+撮像センサー)
である。GXRのキットとして、同じ2009年に発売された。

GXRシステムを、どのカメラのカテゴリーに入れるかは
微妙だが、本ブログでは「ミラーレス機」の一種として
捉えている(ミラーレス・クラッシックス第4回記事、
本シリーズ第10回「RICOH GXR」編参照)

本ユニットも、既に本シリーズ第10回で紹介済みなので
重複する為、詳細の説明は最小限としよう。
_c0032138_18103707.jpg
まあ、発売当時の市場の状況としては、前年2008年に
史上初のミラーレス機、PANASONIC DMC-G1が発売済み。
同年の2009年には、OLYMPUSからもμ4/3機が発売。

(デジタル)一眼レフは、画素数競争も一段落して
進化の踊り場に達し、一般普及率も高く、あまり魅力的
な新製品が出て来ない。スマホの販売が始まっていて
従前からの携帯電話内蔵カメラもあるので、ユーザー層は
携帯やスマホで写真を撮る事が普通になっていた。

また(デジタル)コンパクト機は、普及が始まったのが
1990年代後半からと、(デジタル)一眼レフよりも早く、
この2009年では、もう誰でも持っているので、これ以上の
普及は難しい。

RICOHにおいては、2005年からマニア向け高級コンパクト
GR DIGITALの発売を開始、この時代には、既にⅢ型機と
なっていた。

でも、APS-C型の大型センサーを搭載するコンパクト機や
ミラーレス機は、この時点(2009年)では存在せず、
唯一、このGXRのA12型ユニットの2本(50mm/F2.5と
翌年の28mm/F2.5)が存在するのみであり、その点では
マニア層への「GXR」のインパクトは非常に大きかった。
(注:翌2010年、SONY NEX-3/5が、超小型軽量の
APS-C型センサー搭載ミラーレス機として発売)

ただまあ、GXRシステムは、高価すぎたかも知れない。
一応、本S10ユニットを使うならば、だいぶシステムの
初期投資コストを削減できるが、それでも1/1.7型の
センサーでは、これまでのGR DIGITALや、他社の高性能
コンパクト機と大差ない。だからまあ本ユニットはあまり
注目されておらず、「とりあえずGXRで写す為に買った」
という感じのユーザーが大半であろう。

でもまあ、冷静に見ると、描写力はあまり悪く無い標準
ズームである。近接撮影に強く、その際やや独特のボケ質
となるのだが、初代GR DIGITALのボケ質に類似していて、
その感じは、個人的には好みである。

現代ではGXRシステムは仕様老朽化寿命が酷く、完全に
終焉しているので、今からの購入は全く推奨できないが
私の場合、現在、このセットは「ビジネス用途」として
依然活躍している、つまり、日常の仕事(業務)において
打ち合わせ、商談、出張、新製品など、様々な記録と
しての撮影を行い、報告書等に写真を貼り付けて使う用途だ。
「コンパクト機やスマホで十分」とも言える用途だが、
せっかく買った高級カメラである、できるだけ長く使って
あげたいと思っている。

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では、ここからは2010年代のAF標準ズームだ。

<2010年代>
まず2010年代の1本目、本記事通算で7本目の標準ズーム。
_c0032138_18104420.jpg
レンズは、SONY E18-55mm/f3.5-5.6 OSS (SEL1855)
(中古購入価格 8,000円相当)(以下、E18-55)
カメラは、SONY NEX-3(APS-C機)

本レンズは、SONYの初期ミラーレス機、NEXシリーズ
(2010~2012年)での、標準的なキットズームである。
(本レンズ以外にも、広角単焦点等のキットもあった)
発売開始は2010年であるが、本レンズはNEX-7(2012)
とのセットで購入したものである。

Eマウント(APS-C)専用であり、他マウントの機体に
装着する事は出来ない。(注:NIKON Zへ変換できる
マウントアダプターは存在する模様だが、本レンズは
フルサイズ対応では無い)
換算焦点距離(画角)は1.5倍で約27mm~約83mm
相当となる、一般的な標準ズームだ。
一応、手ブレ補正機能(OSS)を内蔵している。
_c0032138_18104409.jpg
特徴だが、ミラーレス機専用の標準ズームは、どれも
一眼レフ用よりも相当に小型軽量化されている点がある。
まあ、イメージサークルが小さくフランジバック長も短く、
かつ、ミラーBOXの制約も無い為、小型化の設計が容易
なのであろう。


性能は、可も無く不可も無し。というか、目だった長所も
短所も無いという、ある意味、なんとも面白く無いレンズ
である。(まあでも、写りはさほど悪く無い)
本レンズに限らず、「標準ズーム」は、どれも同様に
「個性が無い、面白く無い、使っていて楽しく無い」という
弱点が存在する。

一般ユーザーにとっては、最も使用頻度が高く、かつ実用的
なレンズが標準ズームではあろうが、レンズ資産を多数持つ
マニア層にとっては、他に面白い(個性的な)レンズや
高性能(高描写力)のレンズを多数保有している為に、
標準ズームは、「最も興味の無いカテゴリー」のレンズ
となってしまうのだ。

事実、現在私が所有している標準ズームは、本記事で紹介の
10本のみであるし、これらもあくまで「現時点」での話だがら、
今後、処分や新規購入等、若干の入れ替えがある可能性もある。
(追記:本記事執筆後に研究用に何本か追加購入している)
全所有レンズ数は常に変動はあるが、およそ400本強にも
及ぶ為、その中での標準ズームの割合は、僅かに3%以下の
比率でしかない。
つまり「殆ど標準ズームは持っていない」という事と等価だ。

まあ、それくらいの位置づけであり、本音を言えば、
ビギナー層にも、標準ズームはできるだけ買って貰いたく
無いのだ、もしそれで実用的に満足してしまったら、永久に
「交換レンズの魅力」などは理解できないだろうからだ。
ただまあ・・ ビギナー層を「レンズ沼」にひきずり込むのも
好ましく無い話かもしれない(汗) まあ、程ほどの意見に
留めておこうか。

---
では、2010年代の2本目の標準ズーム。
_c0032138_18104592.jpg
レンズは、TAMRON 18-270mm/f3.5-6.3 DiⅡ VC PZD
(Model B008)(中古購入価格 17,000円)
カメラは、NIKON D500 (APS-C機)

2010年発売のAPS-C機(デジタル一眼)専用小型軽量
高倍率ズームレンズ。

ズーム比15、手ブレ補正内蔵、PZD(ピエゾ・ドライブ。
=圧電素子応用の小型モーター)内蔵と、現代的な
ハイテク・ハイスペックな標準ズームである。

2000年代では、ビギナー層がデジタル一眼レフを新規
購入する際、たいていダブルズームキットを選んでいた。
まあ、ボディを単体で買っても、その後、交換レンズを
どれを選んだら良いかわからないから、その選択肢は無い。

そして、標準ズーム1本のみのセットと、ダブルズームの
セットは、絶妙な価格差となっていて、1万円程度の差で
あれば、誰もが望遠ズーム付きのセットを買っていたのだ。

だが、2010年代以降、本18-270mmや、それ以上の
高ズーム比である18-300、16-300、18-400といった
レンズが一般的となると、ダブルズームでの望遠ズームの
焦点域も、これら高倍率(高ズーム比)ズームレンズで
カバーできるようになってしまう。

よって、ビギナー層がデジタル一眼レフ購入時に、旧来の
ダブルズームキットでは無く、レンズ交換が不要で
所有レンズも1本で済む、こうした高倍率ズームを買う
ケースも増えてきた(店員からの推奨や、こういう高倍率
のレンズキットも稀にある為)

だから、逆に言えば、2010年台後半あたりの時代で、
こういう高倍率ズームを新鋭一眼レフにつけているような
人を見ていると、大半が、まったくのビギナー層であった。
実際に話を聞くと、その通りであるし、話を聞くまでも無く
その人が持っているカメラを見れば(カメラ発売年は全て
暗記しているため)カメラ歴がまだ1年とか、2年とかが
完全にバレてしまうのだ。

もし、それ以前からカメラをやっている、ベテラン層とか
中級層であれば、カメラを始めた時代のレンズを引き続き
使っている筈である。カメラが新しくても、単に新型機に
買い換えただけであろう。私はレンズの発売年も、完璧では
無いが、誤差数年程度で全て暗記しているため、旧レンズを
つけていた場合も、そのカメラマンのキャリアは、簡単に
推察できる。

でもマニア層は別だ、彼らは、およそあらゆる時代のレンズ
を使っている。私もそうであり、過去50~60年間の間に
発売されたレンズを、趣味撮影であれば、その日の主要被写体、
あるいはその時の気分、天候または撮影環境、および何らかの
研究や練習テーマに合わせて、選択して持っていく。

だから、マニア層のスキルや経験値は、持っている機材だけ
では推測が出来ない訳だ。(まあ、その事を逆手に取って、
ピカピカの新鋭機材を持ってたら、外から見て「初心者
みたいなので、格好が悪い」と思われたく無い為、皆が誰も
知らないレンズを持ち出したいと思うマニア層も居るだろう)
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さて、余談が長くなった、本レンズ(Model B008)であるが、
現代的な高倍率(高ズーム比)のレンズである。
フルスペックで、通常の撮影には、あまり描写力上の
不満は無いが、ただ、望遠端に近くなると、急激に収差が
増大して描写力が低下する傾向が見てとれる。
よって、広い焦点域を全て実用的に使える訳では無い。

私の場合、趣味撮影よりも、どちらかと言えば業務用途専用
のレンズであり、被写体距離が数m~数十mの間で連続的
かつ高速で変化するケースでの専用レンズに近い。
具体的には、屋外小規模会場でのスポーツ系イベントであり、
ボート系競技とか、やや特殊な競技だが「階段上り」にも
特に最適だ。
一般用途であれば、「運動会」等にも適しているだろう。

業務用途等で、望遠域の欠点を、もっと気にする必要があり、
もう少しちゃんとした画質で撮りたい場合は、同じTAMRON
製ズームでも、SP70-300mmや新鋭100-400mmといった、
望遠専門のズームの方が、遥かに望遠域画質に優れるので、
それらを持ち出す事となる。

まあ、高倍率ズームは、この2010年代初頭では、まだ発展
途上という認識だ。その後の時代のものは購入していないが
恐らく似たようなものであろう。もし、同一焦点距離範囲でも
描写力を高めようとするコンセプトならば納得が行くが、
現代では、むしろ望遠端焦点距離を、どんどんと伸ばすような
設計コンセプトとなっているので、それではいつまでたっても、
望遠端近くでの画質は、限界ギリギリのヤバイ状況になって
いるだろう事が容易に想像できるからだ。
まあ、現状では、新鋭高倍率ズームはコスパが悪すぎる。
後10年程したら、次(新)世代の高倍率ズームを購入し、
そこでまた検証してみるとしようか。

---
では、2010年代の3本目の標準ズーム。
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レンズは、PENTAX 02 Standard Zoom (5-15mm/f2.8-4.5)
(中古購入価格 7,000円相当)
カメラは、PENTAX Q7 (1/1.7型機)

史上稀に見る、超小型レンズ交換式カメラ(ミラーレス機)
PENTAX Qシステム用の標準ズームであり、2011年発売だ。
まあ、Qシステム自体は、歴史的価値の高い機体だと思う。
(ミラーレス・クラッシックス第11回記事参照)

しかし、その標準ズームの方には、残念ながら歴史的価値を
見出す事は出来ない、
_c0032138_18105100.jpg
で、本レンズは、PENTAX Q7中古購入時に、たまたまキット
として付いてきたものである。ボディ単体の中古もある事は
あったが、Qシステムは独自マウントな為、他のレンズを
自由には使えない。まあ、やむなく買った「おまけレンズ」

である。で、こういう「おまけレンズ」は、後になって処遇に
困ってしまう。私の場合でのQシステムの用途は、トイレンズ
母艦、エフェクト母艦、マシンビジョン用母艦、という
特殊用途がある為、普通のズームで普通の写真を撮るという
用途は想定外なのだ。用途が無いので本ズームレンズも撮影
枚数はかなり少なく、恐らくは3000~4000枚が良いところで
あろう。 まあ、そういう風に、カメラはいずれ様々な
用途で使う事になる訳だから、その購入時に「標準ズーム」
を一緒に買ってしまうのも良し悪しある、という事だ。
ビギナー層には、ピンと来ない話かもしれないが、何度か
それを繰り返せば、「標準ズームなど、いらない」といった
感覚になったとしても不思議では無い。


---
では、2010年代の4本目の標準ズーム。
これが本記事のラストのレンズだ。
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レンズは、HD PENTAX-DA 18-50mm/f4-5.6 DC WR RE
(中古購入価格 16,000円)(以下、HD18-50)
カメラは、PENTAX K-30 (APS-C機)

2015年に発売された、APS-C機(一眼レフ)専用
AF標準ズーム。

WR型番は、簡易防滴仕様(Water Resistant)を表し、
RE型番は、レンズを小さくして収納できる「沈胴式」仕様
(型番の意味は不明。リトラクタブル(Retractable)か?)
である。

本レンズは100%業務用途である。前述のOLYMPUS 4/3用
ZD14-45が、10年を超える業務使用で、実質「強制引退」
した事での、後継レンズが本HD18-50だ。

そのZD14-45は、「雨天で使い続けても壊れなかった」と
記載したが、その耐久性は、実際には、あくまで偶然であり、
まあ、あえて言うならば、レンズに無茶をさせながらでも
限界点を、ちゃんと見極めていて、故障に直結するような
無謀な使い方はしていなかったからだ。

だが、「雨でも壊れない」というのは、信頼性という意味で
圧倒的な長所になる事は、長年のそのレンズの使用で、よく
理解できた、いつ壊れるかも知れないレンズ(やカメラ)を
業務用途で使用するなどは有り得ない話である。

なので、後継システムでは、念のため、カメラもレンズも
防塵および防滴仕様のものを使う事とした。既に3シーズン
(3年間)の撮影をこなしているが、特に問題点は無く
無事に動作している。防滴仕様は、やはり雨天や水辺では
役に立ち、RE沈胴式は、可搬(ハンドリング)性能に優れる。
_c0032138_18105195.jpg
本レンズ自体の弱点としては、歪曲収差が酷い、という点
であり、一応本レンズの専用母艦K-30には、歪曲収差補正
の機能が入っているのだが、それをONにすると、連写性能が
極端に落ちてしまう重欠点が存在している。

よって、「連写を使わない」か、または「撮影後に1枚1枚
PCで歪曲収差補正の編集を行う」の、悪魔の二択となり、
どちらを選んでもまともな結果にはならない。

でもまあ、被写体状況に合わせて頻繁に歪曲収差補正機能の
ON/OFFを決定する、という高度な撮影技法も、少しづつ
研究や練習を重ねており、まあいずれそれも自在に出来る
ようになるだろうから、それで課題は回避できそうだ。

---
さて、ここまで、1990年代~2010年代でのAF標準ズーム
の変遷の歴史を紹介してきたが・・ どうだろう?、この
30年間で大きな技術的なブレークスルーは無かったように
も思う。まあ、高ズーム比化、手ブレ補正内蔵、超音波等
のモーター内蔵、といった変化はあるが、それらが描写力
そのものに決定的な進化をもたらした訳でも無い。

後、ここでは大口径(F2.8級)ズームは紹介していないが、
口径比が大きくなっても描写力はさほど上がらないどころか
むしろ設計上不利になり、結果的に大きく重く高価な三重苦
ズームになってしまうので、個人的にはそれは好まないのだ。

まあ、高描写力を得たかったら高性能単焦点レンズが圧倒的に
有利である事は間違いないし、そもそも、これら標準ズームは
使っていて「面白く無い」(エンジョイ度が低い)レンズだ。
世の中には、もっともっと個性的なレンズがいくらでもある。
それは、本シリーズの約50回で、さんざん紹介して来たので
本ブログの読者であれば、良くわかっている事であろう。

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では、今回の「AF標準ズーム・ヒストリー編」は、
このあたり迄で。次回記事に続く。


最強35mmレンズ選手権(3)決勝戦

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実焦点距離または換算焦点距離が35mmとなるレンズ
群の中から、最強のレンズを決定するという主旨の
シリーズ記事。

「B決勝戦」の2つの記事を経て、今回は、最強の
35mmレンズを決める「決勝戦」となる。


今回記事では、決勝戦にノミネートされた、35mm
(級)レンズを6本紹介(対戦)しよう。


いよいよ、35mmレンズの最高峰が決まる事になる。

なお、「投機対象」等となっていて、単に値段が高い
だけの「ブランドレンズ」等は、本シリーズ記事には
一切出てこない。
あくまでコスパや性能優先でレンズを選んでいる。

そもそも、本決勝戦に進出できるクラスの35mmレンズ
であれば、まぎれもなくトップクラスの描写性能だ、
値段が高いとか有名であるというだけで、そのレベル
までの高性能が得られる訳では決して無い。

それほどまでに本決勝戦はハイレベルであるし、しかも
中には1万円程度の低価格35mmレンズまで含まれている。
レンズの価値とは? 価格とは? ブランドとは?
そういう事を考え直すきっかけとなるかも知れない。

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では、まずは最初の35mm決勝進出レンズ。
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レンズ名:SONY DT 35mm/f1.8 SAM (SAL35F18)
レンズ購入価格:11,000円(中古)
使用カメラ:SONY α77Ⅱ(APS-C機)

2010年に発売されたAPS-C機専用準広角(標準画角)
単焦点エントリーレンズ。


(注:本「最強(35mm)レンズ選手権」シリーズ
では、レンズの「実焦点距離」又は「換算焦点距離」
で、「カテゴリー分け」を行なっている。
よって、レンズ自体の対応フォーマット(例えば、
フルサイズ対応とか、APS-C機用、μ4/3機専用等)
・・については無関係としている)

本DT35/1.8は、過去シリーズ「ハイコスパレンズ
BEST40」編で、第2位となった名レンズである。
まあ、当該記事は、コスパを重視した評価なので、
価格が安価で性能が優れた本レンズは、高順位と
なるのは当然とも言えた。

本「決勝戦」では総合評価なので、本レンズが優勝
できるかどうかは、記事のラストで評価点を計算して
みないとわからないが、かなりの上位となるであろう。
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ただまあ、厳密に言えば、本レンズは35mmという
カテゴリーでは、確かに実焦点距離はその通りだが、
APS-C型センサーに対応したイメージサークルしか
持たない為、小型化やら低価格化、あるいは高性能化
という面で、フルサイズ対応レンズよりも若干の有利は
あると思う。

本レンズの高性能とは具体的に何か?と言えば、
最大の特徴は最短撮影距離の短さであり、最短
23cmは、全35mmレンズ中、TOP5に入る。
(注:その上位の内、2本は、オールドレンズと
非一般的なレンズで入手困難、さらに1本は新鋭の
高額な高性能レンズであり、それらを除くと、
長らく一般的35mmレンズの中では本DT35/1.8が、
最強の近接性能を誇る時代が続いていた)

で、レンズ構成は、5群6枚の変形ダブルガウス
構成で、これは銀塩MF時代の50mm/F1.8級の
構成と類似であり、そのレンズ構成は、各社で
1970年代~1980年代にかけ、ほぼ完成の域に
到達していた状況であった。
その事実は、その後、数十年間に渡り、その構成の
レンズが発売継続されていた事でわかる。
(つまり、完成度が低かったならば、その数十年間の
間に、いくらでも改善のメスが入れられていた筈だ)


さらに言うならば、初級中級層や初級マニア層等が
「神レンズだ」と神格化してしまう、安価で写りが
良いSMCT55/1.8、EF50/1.8Ⅱ・・・等の
小口径標準は、全て、ほぼ同じレンズ構成である。

つまり、どのメーカーの小口径標準レンズを買った
としても、いずれも良好な描写力を誇り、かつ安価だ。
初級層等では、PENTAXやCANONと言った特定のメーカー
の機材(レンズ)しか使っていなかった為、他社の
レンズが同等の性能を持つ事を知らなかっただけである。

で、その銀塩MF時代の50mm/F1.8を、2/3のサイズに
縮小して設計したとする、そうすると、だいたい、
33mm/F1.8というAPS-C型センサー対応のレンズが
出来上がる。そして、そうした設計技法においては、
性能や特徴は、縮小元となったレンズの状態を、ほぼ
引き継ぐ事になる。まあつまり、銀塩時代の完成度が
高かった高性能レンズのミニチュア版が出来る訳だ。
本レンズは、恐らくだが、その設計手法であろう。

なお、近年、大量に出回っている海外(中国製等)
新鋭レンズの多くは、同様の設計手法により古今東西
の名レンズを1/2~2/3程度にスケールダウンして、
ミラーレス機用等に再設計されている製品だ。
この手法を私は「ジェネリックレンズ」と呼んでいる。
医薬品の「ジェネリック」と同様に、過去の製品を
コピーして製造する事で低価格化が実現するからだ。

この手法が使えるようになったのは、近年において
コンピューター光学設計ソフトが進歩した事も大きな
理由の1つである。

ただし、元となるレンズに弱点がある場合は、その弱点
も、縮小レンズに引き継がれてしまう。

具体例としては、銀塩MF時代の55mm/F1.2級大口径
標準レンズは、開放F値こそ明るいが、描写力には様々な
弱点が目立ち、まあいわば、たいした事が無い写りだ。
それを2/3縮小設計した35mm/F1.2というジェネリック
レンズは、モロに元レンズの欠点を引き継いでしまって
いて、やはりたいした写りでは無い。
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色々と余談が長くなったが、本DT35/1.8は、
スケールダウン型レンズながら、優秀なコピー元の
特徴を引き継ぎ、特に大きな描写力上の弱点を持たない。
低価格で、コスパが非常に良いレンズである。

---
では、次の35mmレンズ。
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レンズ名:TAMRON SP 35mm/f1.8 Di VC USD
(Model F012)
レンズ購入価格:41,000円(中古)
使用カメラ:NIKON Df (フルサイズ機)

2015年に発売された高描写力単焦点準広角レンズ。

最大の特徴は最短撮影距離が20cmと極めて優秀であり、
それまでトップクラスであった前述のSONY DT35/1.8
の23cmを、久々に上回る性能となった。
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最短撮影距離に限らず、描写力も35mm級レンズ中、
間違いなくトップクラスである。これを使用する上で、
何ひとつ不満は無い事であろう。

では、本レンズが優勝(35mm最強)なのか?と
言えば、それはそう単純な話でも無い。
まあ、姉妹レンズSP45mm/F1.8は50mm選手権で優勝
しているものの、今回も予定調和だと面白く無い(笑)

さて、TAMRONは、本レンズ以前の時代の60年間程、
あえてカメラメーカーの一般的な仕様のレンズとは
被らない(バッティングしない)スペックのレンズを
販売し続けていた。その結果として、特にマクロレンズ
と高倍率ズームの製品分野ではTAMRON製品は高く評価
された。まあ「そういうブランドイメージが付いた」
という次第である。

で、本レンズは、TAMRONとしては初の、当たり前の
スペック(カメラメーカー等と被る)のレンズだ。

そういう分野で勝負する以上、性能には妥協していない。
コンピューター設計の9群10枚、異常低分散ガラスや
非球面レンズを贅沢に使った近代的なレンズ構成だ。


その分高価(定価9万円)となったが、それはまあ
高価な高付加価値レンズを発売しないと、縮退した
交換レンズ市場を支えられないので「やむをえない
製品企画だ」とも言える。

ただ、本レンズは商業的には失敗してしまった。
殆ど売れず、発売数年後には、在庫処分の新古品が
中古市場に大量に流通したのだ。本レンズは、その
安くなったタイミングで入手した次第だ。

最大の課題は、マーケティング(企画)ミスであろう、
初めて35mmレンズを発売するのだから、もっとユーザー
層の実態を探っておくべきであったと思う。

まず、35mmというのは極めて普遍的なレンズであり、
中上級者クラスでも2~3本、上級マニア層ともなれば、
20~30本の35mmレンズを持っていてもおかしく無い。
そこに高価な新鋭レンズを発売したとしても、
「35mmは、もう持っているからいらんよ、高いし・・」
となってしまう。

結局、初級層にしか売る対象が無いのであるが、
現代のその層は、残念ながら銀塩時代よりも勉強不足だ、
そこに開放F1.8のレンズをぶつけたとしても、
「F1.4の方が良く写るに決まっているじゃん、F1.8は
 廉価版だよ、それなのに9万円とは、高いなあ」
となってしまう(これは後述のように誤まった判断だ)

まあ、昔の時代とかで、そんな事を言っていたのは、
1970年代頃のユーザー層であり、その時代では、
銀塩MF一眼レフに50mm/F1.4か50mm/F1.8を
付けて販売していたが、F1.4セットの方が1万円以上

も高価であったので、当時の殆どの消費者層は、
「F1.4レンズの方が、高価で高級品で良く写る」
と大誤解をしていたのだ。(実際には正反対である。
もしF1.4版が全ての面で優れていたのならば、
わざわざ、性能の低いF1.8セットを別途販売する
筈が無い。F1.4版に一本化してしまえば済む話だ。
実際には当時の50mmレンズはF1.8版の方が完成度が
高く描写力も高かった為、併売せざるを得なかった)

まあ、その後、何度かの中古カメラブーム等を経て
ユーザー層のカメラ・レンズ知識は格段に向上していった、
・・しかし、2010年代よりカメラ・レンズ市場が縮退
してしまい、結果、事業を維持する為にカメラやレンズが
どんどんと高価格化(値上げ)していくと、もう中上級層
は新鋭機材に興味をなくしてしまった。まずは高価すぎる
し、あるいは現在所有している多少古い時代の機材でも、
腕前さえあれば、ちゃんと写真を撮る事ができるからだ。

そういう状態であるので、本質がわかっていない初級者層
だけが、新製品に興味を持ち、結果的に50年も前の時代に
遡るほどに、ユーザー層のレベルが低下してしまった。

そしてネット文化の普及も功罪がある。そこに流れている
情報が常に正しいものである保証は全く無く、例えば
より高価なF1.4級を売った方が、メーカーも流通市場も
皆が儲かるならば、評論家等にも、その旨を書かせて、
新製品を過剰な迄に高く評価する訳だし、高価なそれらを
買ったビギナー層等も、玩具を自慢したい子供のように、
それを褒めちぎる。


結局、TAMRONとしては大誤算だ。
現代の初級ユーザーにとって、そのレンズの描写力等は
まるっきりわからない状態に等しかった訳だ。

いくらなんでも、ここまで急激にユーザー層がレベル
ダウンしている事は、老舗のTAMRONでも、想像しようが
無かった事であろう・・


残念すぎる事実であるが、結局、超高描写力の本SP35/1.8
は市場から全く注目されず、TAMRONはやむなく2019年に
新製品SP35/1.4(ただし、寄れない)に、開放F値を
明るくリニューアルせざるを得なくなった状況だ。
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せっかくの超高性能レンズが評価されないのは、TAMRONに
とって屈辱的かも知れないが、まあ、その問題点の大半は
著しくレベルダウンしたユーザー側にあり、残る課題は、
その酷さが見抜けなかったTAMRONの企画側と、こうした
低迷市場にしてしまったカメラ界全体にあると思う。

つまり、スマホ等の台頭に対し、何ら有効な対策を打てず、
減少した機材販売数を、不要な迄の性能による付加価値で
値上げをする事しか行ってこなかった市場戦略であろう・・
そんな、高いだけの機材は、少しわかっている人ならば
誰も欲しいとは思わない、買うのはビギナーだけである。

ネット情報からマーケティング(市場調査)する風潮も
また問題なのであろう、今時のネット上の書き込みは、
信憑性の無いものか、あるいは意図的な情報操作か、
はたまた超初級者による思い込みの情報ばかりだ。

本当に真面目に、メーカー側が市場調査をするならば、
自分の足で、あらゆる場所に出向いて、カメラを持って
いる人から、かたっぱしからヒアリングしてみたら良い。
そこからは生の声やユーザーの実態が良くわかるであろう、

メーカーの企画部門とかでは無いし、業界とは無関係の
私ですら、そうした情報収集は日常的に行っている事だ。
それは興味があるからやっている訳であり、メーカー等が
ネット調査しかしないのであれば、それは、真の市場調査
では無いのではなかろうか?と思えてしまう。

そして、ネットで調べる事は「効率的」でもなんでもない、
価値の無い情報を、いくらインプットしても、何も答えは
出て来ないのだ。

こうした状態を、「Garbage In Garbage Out」と言う、
「ゴミを入れても、ゴミしか出て来ない」という意味だ。
これは、もう60年も前のコンピューター(情報技術)の
黎明期に生まれた名言(しかし、真実だ)であり、
情報技術者であれば、誰でも知っている(勉強をして
きている)話である。

ともかく、本SP35/1.8が全く評価されない現状は
全くもって、残念な話であろう。

---
さて、3本目の35mmレンズ。
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レンズ名:Carl Zeiss Touit 32mm/f1.8
レンズ購入価格:55,000円(中古)
使用カメラ:FUJIFILM X-T10 (APS-C機)

2013年発売のAPS-C型ミラーレス機(FUJI X,SONY E)
専用、AF準広角(標準画角)レンズ。

これを購入したのは、「ちょっと失敗」であった。
まあ、ぶっちゃけ言えば、コスパが悪いのである。
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冒頭紹介のSONY DT35/1.8と、同等のスペックで、
同等の描写力、しかし、最短撮影距離仕様は平凡、
となったら、いくらなんでも、ツァイスの名前が
ついているだけの国産レンズに、5倍も6倍もの金額
を投資する方が、どうかしている・・(汗)

まあつまり、ツァイスのブランド使用料を鑑みると
あまり安価なレンズを作る事は無理であり、少なくとも
定価20万円以上の高価な価格帯にしない限り、
贅沢で高性能な設計のレンズは作れないのであろう・・

ただまあ、そういう状況がわかったのは、本レンズを
購入し、研究を続けた結果でもある。
まあ、「授業料」という事にしておこう。

ちなみに、DT35/1.8と同等(まあ、逆光耐性が劣るが)
であれば、さほど悪い描写力では無い。
弱点は、ただ価格が高いだけである、それをブランド
の付加価値と見なせるかどうかで、本レンズの評価は
大きく変わるであろう。
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・・で、勿論、本レンズは日本製である。
カール・ツァイスは、もう50年位も前から写真用交換
レンズを生産していない。それはマニアの間では常識の
話ではあるが、世間一般層では「カール・ツァイスと
言えば世界最高峰の光学機器メーカーである」と単純に
思い込んでしまう訳だ・・・

これで入手価格が1万円ならば、本レンズが間違い無く
35mm編では優勝なのだが・・・

---
では、4本目の35mmレンズ。
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レンズ名:アルセナール MIR-24N 35mm/f2
レンズ購入価格: 8,000円(中古)
使用カメラ:SONY α7 (フルサイズ機)

旧ソ連製レンズである、ただし、ウクライナ製なので
「ロシアン」と言ってしまうと、微妙に定義が異なる
かもしれない。
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本レンズは、過去記事「ミラーレス・マニアックス
名玉編」において、ロシアン系レンズの中から、
ただ1本、ランクインした高性能レンズである。

普通「ロシアン」と言えば、「80年程前のツァイスの
設計をコピーした(注:正確には、第二次大戦の敗戦
により、東側ツァイスの技術や資産が、旧ソ連に接収
されてしまい、ツァイスの設計や資材を継承して生産
されたレンズ)物であり、安価なのでオールド名レンズ
の描写を格安で楽しめる」・・という感じなのだが、
アルセナール社は旧ソ連時代では国営工場であったもの
の、現代では、光学機器メーカーとして独立している。
つまり技術力が高いという次第である。

そこで作られたオリジナル設計の本レンズであるから、
そこそこ描写力が高く、さらに最短撮影距離は24cmと、
冒頭のDT35/1.8に迫る性能であり、フルサイズ対応
35mmレンズとしては、恐らく史上第3位(フレクトゴン、
SP35/1.8、本MIR-24)という高性能だ。

(注:フレクトゴンの設計をコピーしたのか?とも
思って調べたが、それはMIR-1であり、本MIR-24は
元になる設計の情報が見当たらない。よって本記事
においては、本レンズを独自設計だと仮定している)
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ただまあ、アルセナールのMIRならば、どれも高性能
なのか?と言えば、そういう訳でも無いであろう。
沢山のMIR銘レンズを所有してはいないので、明言は
避けるが、個々のレンズ設計次第だと思われる。

もはや現代での入手性は低い本レンズではあるが、
たまたまめぐり合い、8000円程度まであれば絶対に
「買い」のレンズだ。迷う事は何も無い・・ 

---
さて、5本目の35mmレンズ。
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レンズ名:smc PENTAX-FA 31mm/f1.8 AL Limited
レンズ購入価格:90,000円(新品)
使用カメラ:PENTAX KP(APS-C機)

2001年発売の、変則焦点距離AF準広角レンズ。

これも若干失敗レンズだ(汗)かなりコスパが悪い。
本レンズ以前、FA43/1.9と、FA77/1.8を入手し、
それらの描写表現力に心酔して、本レンズも発売
直後に新品購入してしまったのだが、本レンズは
FA-Limitedの3本の中では、最も平凡な描写力で
あったので、たいそうがっかりした。
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購入後10年程は、メゲていて、ほとんど持ち出す事も
無かったのだが(注:その間の、デジタル転換期に
本レンズが「APS-C機で標準画角相当となる」という
単純すぎる理由から、相場高騰を招いてしまい、それを
「ケチがついた」と思って、余計に持ち出さなかった)

2010年代、ミラーレス時代になって、本レンズを真面目
に使ってみると、「さほど悪いレンズでは無いな・・」
という事がわかり、以降の時代では結構愛用している。

最大の長所は、逆光耐性の高さであり、これは
直射日光を直接入れる等の、かなり無茶な使い方を
した際でも、ちょこんと点像のゴーストが出る程度
であり、一般的な逆光条件なら、まず問題は無い。


そして、そもそもLimited仕様のレンズである、作り
や高級感は問題なく、所有満足度も高い。
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確かに、もう一声描写力を高めてもらわないと、
超名玉FA77/1.8と比べると、見劣りしてしまうが、
もう、そこは不問にしよう。

誰にでも薦める訳にはいかないが、上級マニア層
とか「PENTAX党」であれば、FA-Limited の3本を
コンプリートする事は、決して悪い選択肢では無い。


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次は本記事ラストの35mm級レンズだ。
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レンズ名:SIGMA 40mm/f1.4 DG HSM | Art
レンズ購入価格:100,000円(新古)
使用カメラ:CANON EOS 6D (フルサイズ機)

丁度35mmにはならないが、本カテゴリーで
取り上げる事としよう。

2018年発売の高描写力AF単焦点大口径準標準レンズ。

大きく重く高価であり、典型的な「三重苦」レンズ
である。特に重さはいけない、1.2kgを超えて、
ハンドリング性能が極めて悪い。

もう、スタジオ撮影とか動画撮影等で、三脚使用必須、
という設計コンセプトなのかも知れないのだが、
ぎりぎり手持ち撮影ができる重量でもあるから、
この(超)高性能レンズを、屋内等の限られた状況
だけでしか使わない事は、極めて勿体無いと思える。
どこへでも持ち出し、何でも撮ってみるべきレンズだ。
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直接太陽光を入射させる等、無理をした使い方をすると、
さすがにヘロヘロのフレアっぽい写りとなる。まあ
レンズ構成が多く(故に重い)レンズ間で、内面反射
が多数起こっているのだと思われる。

ただまあ、そういう無茶な使用法をしない限りは、
極めて良く写る超高性能(高描写力)レンズである。

しかし、かなり高価である事は、やはりコスパ点を
押し下げるレンズであるので、総合評価はさほど
上がらず、本レンズが優勝、という事態にはならない
と思われる。

そして、ここまで完璧にやらなくても良いから、
もう少しだけコストダウンし、もう少し軽くした、
Art40mm/F1.6等のレンズがあれば、私の用途には
ぴったりマッチするとは思うのだが・・
まあ要は、オーバースペックである、と、ただそれだけ
である。大きさ、重さ、価格を容認できるのであれば、
最大のオススメの35mm級レンズとなる。

なお、SIGMAには、Art Line初期の時代から、
Art35mm/F1.4という類似スペックのレンズが存在
している。それとの比較はわからない、A35/1.4
は未所有だからだ(というか、A35/1.4を探して
いたのだが、たまたま本レンズの新古品を見かけ
たので、こちらを先に購入した次第である)

ほとんど業務撮影専用レンズとも言え、一般層には
全く推奨できないレンズである。

しかしまあ、超高性能のレンズの描写力が、いったい
どれくらいのレベルにあるか? という事を知りたい
(研究したい)のであれば、本レンズの購入は
さほど悪く無いとは思う、なにせ私の所有する約400本
のレンズ中、個人評価点の「描写表現力」が5点満点の
レンズは、約20本しか存在しない。
つまり、全所有レンズ中、およそ5%しか存在しない
高描写力上位ランカーとして、本レンズはトップクラス
に属している訳である。なお、私は高価格な高性能
ズームレンズは購入しないルールとしているが、
単焦点は、かなり高額であっても買ってしまう。

基本的に単焦点レンズの描写力は、必ずズームレンズ
を上回るわけだから、私の所有範囲のレンズは、ほぼ
世の中に存在する高性能写真用交換レンズの範囲と
だいたい等価になる。その中でトップ(ハイ)ランカー
なのだから、事実上では、「描写表現力」5点満点の
レンズは、史上最強クラスに相当する訳だ。
_c0032138_17054727.jpg
まあでも、コスパの悪さがあるから、本レンズでも
優勝は出来ないであろう・・ 評価については後述する。

---
さて、ここまでで「決勝戦」は終了だ。

個人用レンズ評価データベースを参照し、一応だが、この
6本のレンズに順位をつけておこう。評価基準は色々あるが
今回はあくまで総合(平均)評価点のみでのランキングだ。
(注:「特別加点」を行うべきか微妙な判断だが、
元々汎用性の高い35mmレンズなので、今回は「特別加点」
は無しとする)

1位:4.1点:SONY DT35/1.8
2位:4.0点:MIR-24
3位:3.9点:TAMRON SP35/1.8
4位:3.8点:Touit 32/1.8
5位:3.5点:SIGMA ART 40/1.4
6位:3.1点:PENTAX FA31/1.8

1位の、DT35/1.8は高性能なエントリーレンズなので
コスパを含めた総合点は良かった、ただし、かなり古い
時代のレンズ設計である事も確かだし、作りも安っぽい。
α(A)マウント機の販売が縮退している世情もあり、
ビギナー層が嫌がる「非フルサイズ対応レンズ」だから、
必ずしも推奨できるレンズとは言い難いかも知れない。

2位、MIR-24は、ロシアンレンズでマニア向けだ、
現代では入手性も悪く、完全非推奨である。

3位、SP35/1.8は、近年にSP35/1.4にリニューアルされて
いる、つまり小口径(F1.8)レンズは市場で受け入れられず
失敗作となってしまっている。SP35/1.4は未所有につき
比較は避けておこう。だが、新製品の発売で、旧製品の
相場が下がっているならば、抑えておいて損は無いレンズだ。
50mm選手権で、姉妹レンズSP45/1.8が優勝しているので、
今回の35mm編も、特別加点を行うと、このレンズが優勝に
なりそうだったので、同じ部類のレンズばかりが好評価に
ならないように、と、若干、忖度した状況もある。

4位、Touit32/1.8は、ツァイス銘のブランド力があるが、
あまり特徴は無いレンズだ、初級マニア層向けという感じか。

5位、Art40/1.4は、描写力的には何も問題なく、そこだけ
を見れば、本カテゴリーで優勝もできたと思うが、大きく
重く高価な「三重苦」レンズである事が最大の課題だ。
業務撮影専用レンズで、アマチュア層には非推奨である。

6位、FA31/1.8も、もはやオールドレンズと言えよう。
所有者が少なく、かつ高価なレンズなので、市場では
好評価も多いかも知れないが、個人的な感覚では、
そこまでの特筆すべき性能は持っていないレンズである。

---
さて、ここまでで「最強35mmレンズ選手権」における
「決勝戦」の記事は終了だ。
次回の最強シリーズ記事は「100mm選手権」となる予定。

【熱い季節2020】大阪府民スポーツ大会~ドラゴンボートの部

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2020年11月1日(日)に、大阪府・高石市の
「大阪府立漕艇センター」にて行なわれた、
「大阪府民スポーツ大会:ドラゴンボートの部」
の模様より。
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先刻ご承知のように、コロナ禍の影響により、本年の
全国におけるドラゴンボート&ペーロン系ボート大会は、
その、ことごとくが中止となってしまっている。

行なわれた試合は、10月の滋賀県での「ドラゴン
1000m選手権大会」(注:滋賀県・京都府のチーム
限定)、そして本「大阪府民スポーツ大会」のみだ。

琵琶湖(滋賀県)の大会は参加チームが地域限定で
あったので、他の関西圏のドラゴン系の選手達は
参加できる大会が無く、漕ぎたい気持ちが高まって
いただろう。
そこに、本年唯一、大阪で行われた本大会である。

参加チーム数は、例年より多い12チームとなった。
「三密」防止対策により、選手(漕手)数を限定
したレギュレーション(ルール)ではあるが、
総参加者数は100名規模となる。

ちなみに、大阪府の「新型コロナウイルス感染症
対策の基本的対処方針」によると、大阪府では
屋外のイベントにおける参加人数の制限は、
2020年7月以降は5000人以下となっているので、
勿論、このガイドラインは余裕でクリアしている。

また、後述するが、滋賀県の「1000m選手権」で
様々なコロナ対策が行われていて、そのノウハウ
も、いち早く本大会でも継承されている。
_c0032138_14453263.jpg
会場となる「大阪府立漕艇センター」は(毎回の
説明となるが)「浜寺水路」とも呼ばれていて、
水路幅は約200m、水路全長(ボート航行範囲)は
2.7kmにもなり、最長2000mの各種ボート競技の
公式会場となっている。

大阪府ドラゴンボート協会(ODBA)全体の練習拠点
である他、本大会に出場している、女子チームの
「TEAM 河童」(下写真)の練習拠点でもある。
_c0032138_14455261.jpg
大会当日(11月1日)の気候だが・・

*天候:晴れ時々曇り
*午前 9時の気温:約16℃
*正午12時の気温:約20℃
 季節柄、選手達やスタッフは皆長袖であるが、
 11月としては「小春日和」で、気温20℃とも
 なると、日が差すと、やや暑い。

 
 ただ、本大会の後、11月中旬頃では関西圏で
 最高気温25℃ともなる日が続き、今年は冬の
 訪れが遅い模様である。

*風向は東北東で、これは会場の浜寺水路に対し
 丁度、フォロー(追い風)となっている。
 レース開始直後の午前9時半頃では、風速は3m/s
 程度あり、レース序盤に発走するチームは
 追い風により、やや有利な状態だった。
 だが、レース開始から1時間もすると、風速は
 1m/s~2m/s程度にまで収まり、風向も、やや
 変わって、横風に近い状態。これらの条件から
 各チームのタイムは、後のレースになると、
 数秒間程度はスローダウンしていたと思われる。

まあでも、これらの気象条件の変化が、レースに
与える影響は、さほど大きくは無いと思われる。
「1本勝負」では無いから、あまり不公平感は無い。
基本的には「絶好のドラゴン日和」であろう。

本大会のレギュレーションだが、以下となる。

*「ドラゴンボート・スプリント(短距離)レース」
 および「舵取りコンテスト」の2種目を実施。
_c0032138_14455240.jpg
*「スプリント戦」(上写真)は、
 10人艇を用いた6人漕ぎ、鼓手、舵手あり。
 約200m戦、直線、2艘建てマッチレース。
 カテゴリー(男女性別等)は無し、ハンデも無し。
 漕手数が足りないチームは、混成チーム編成可。
 2回戦制、合計タイムで順位を競う。

>想定入賞タイム、1レース60秒以下、2レース
 合計2分以内。
_c0032138_14455690.jpg
*「舵取りコンテスト」は自由参加、事前申し込み制。
 ビギナーコース or エキスパートコース自由選択。
 漕手(最大6名)の数と、鼓手の起用の有無は
 その舵手の任意で選択する事が出来る。
 舵手の所属するチーム以外の漕手を起用しても良い。
(レンタル舵ならぬ、レンタル漕手制度)

*各カテゴリー毎にタイム順で集計はするが
 特に「順位」はつけず、「舵取り認定証」と
 参加賞が配られる。

*「ビギナーコース」(上図)は、200m区間に
 ブイを50m毎に5個設置、そのブイ間を
 交互にスラロームする。

>想定上位タイム、1レース1分10秒程度
_c0032138_14455911.jpg
*「エキスパートコース」(上図)は、
 同上のブイの4つ目迄は直線で進み、その150m
 地点のブイを完全に一周する。

>想定上位タイム、1レース1分40秒程度

---- 
また、コロナ感染対策だが、以下となる。

*レースの際、艇には定員まで乗船せず、
 10人艇を用いた6人漕ぎとなる。
*大会の際の開会式は無し、表彰式は
 チーム代表等の最小限の人数とする。
*大会の際には、名簿に体温、体調に関する
 チェック項目に記入する。
*消毒、手洗い、うがい等感染予防措置をとる。
*艇や使用機材は一回の使用ごとに消毒を行なう。
*できるだけソーシャルディスタンスを意識し
 「密」を避ける。
*マスク等を着用し飛沫感染予防に努める。
(選手等のみならず、一般の観戦/見学者も同様)
*ただしレース時においては、紙・布製マスクは
 酸欠状態となったり、転覆時に危険を伴う可能性
 があるため、できるだけ使用せず、代わりに
 フェイスガート等を着用する事が望ましい。
(注:フェイスガード(口元タイプ)は、本大会では
 選手・スタッフ全員に支給される、下写真右)
_c0032138_14461020.jpg
さて、万全の体制の中、いきなりスプリント戦の
レースのスタートである。まあ、開会式が無いから
そうなるのだが、参加する選手達も運営するスタッフ
達も、いずれもベテランだから特に慌てる事も無い。
_c0032138_14461098.jpg
この会場での撮影は、朝のうちは、かなりの逆光と
なり、レースの模様は撮り難い。今のうちに、
各チームのスナップや集合写真等を抑えておこう。
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上写真は、大阪の「Rスポーツマンクラブ」
ベテランチームであり、大阪や東京の大会に
30年近くも連続出場し、表彰された事もある。
ベテランだが、依然強豪であり、本大会では、
2016年、2019年と近年では2度優勝している。

本大会は、漕手数が6名と少ない為、「R」は、
「Aチーム」、「Bチーム」のダブルエントリー
となっている。
昨年優勝に続き、連覇を狙いたいところだが、
今回は強力なライバルチームが参戦している。
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・・そう、言わずと知れた「bp」(上写真)だ。

「新鋭チーム」のような感覚も依然あるのだが、
2012年末の結成からは、早、8年となる。

その間、全国の様々な大会に「皆勤賞」とも言える
驚愕の参戦ペースで出場し、その殆ど全てで
「優勝」の栄冠を得ているという、全国でもトップ
クラスの「超強豪」チームである。


本大会には久しぶりの参戦。まあ、普段であれば
参戦チーム数も少ない小規模大会ではあるし、
ローカル大会だから、「bp」クラスの「全国区」の
チームだと優勝は間違い無い為、「bp」としても
参戦は多少「遠慮している」状態もあっただろう。

だが、今年は、他に実施された大会も無かった為
「bp」も実戦の機会が全く無かった訳だ。
新人選手達の育成も兼ねての参戦だと思われる。
「bp」および「bp next」のダブルエントリーだ。

なお、コロナ禍における、各チームの練習状況だが、
緊急事態宣言発令中は、勿論練習は無し。
緊急事態明けの夏頃からは、各チームとも
ぼちぼちと練習を再開しているのだが、中には
職場(企業)等からの通達で、社外イベントへの
参加を制限されているケースも多いと聞く。
まあ、職場でクラスターを起こしてしまったら、
経営上でもまずい事となるので、そうする企業も
多いであろう。

まあ一応、練習は可能ではあるが、あまりちゃんと
練習が出来ていない(メンバーが集まらない)
ケースも多々あると聞く。
それと、本大会の後では「コロナ第3波」の
様相も見られるので、ますます練習機会は減って
いるかも知れない。


また、「目標となる大会が無い」というのも、
今回、あるいは前月の琵琶湖の大会でも、選手達
から良く聞く話であった。


・・まあ、その場合は、なかなかモチベーション
の維持が大変そうである。その状態でも、しっかり
と練習を続けるのは、「日本一を目指す」とかの、
大きな目標を持つ、ごく一部の本格派チームだけに
なってしまう。
「bp」は、その類のチームだから、きっとコロナ禍
においても、練習を欠かさなかったと推察できる。
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上写真は、「からしれんこん+パイレーツ」

「パイレーツ」は、大阪のベテランチームで
あるが、本大会では参加選手数が少ない為、
「混成(コラボ)チーム」としての出場だ。

「からしれんこん」は、数年前(2015年頃?)に
結成された新鋭チームであるが、元々は、様々な
チームのOB選手であり、ベテラン故に、高い
実力値を持つ。 

近年の戦績で特筆すべきは、2018年、2019年に
滋賀県の「高島ペーロン」で2連覇している。

この大会は、特殊な(不安定な)専用艇、
600m中距離でターン有り、と変則的ルールで
難しい大会ではあるが、「からしれんこん」は、
2016年の同大会初参戦以来、僅か3年目で初優勝
(「からしれんこん」としても初優勝)の栄冠を
勝ち得ている。
また、歴史の長い高島ペーロン大会で、地元の
滋賀県以外のチームの優勝は珍しく、かつ連覇
ともなれば、前例が全く無い状況である。


チームとしての課題は、基本メンバー数が少ない
事であろうか? 「高島ペーロン」が、今や彼らの
「ホーム大会」であり、その際には、各所から
メンバーを集めて参戦してはいるが、他の大会では
他の専業チームの不足メンバーを補う形で参戦する
ケースも多い。
本人達は「からしレンタルです」と、良く言って
いる次第だ。

まあ、新規メンバー加入の問題は、どのチームに
とっても、切実な課題となっている。
「世間一般に、あまり知られていないマイナーな
 スポーツである」というのが重要なポイントに
なるようにも思える。
ただもう、これについては、段々とドラゴンや
ペーロンの知名度を高めていくしか無いであろう。 

反面、マイナースポーツである事のメリットも
あり、例えば、ドラゴン競技の選手達の多くは、
海外大会への出場経験を持つ。
他のメジャースポーツで、「世界大会への出場」
とか言ったら、それこそ寝食を忘れる程に過酷な
トレーニングを繰り返し、それでもやっと、ごく
一握りの選手達が、その夢を叶えられる程度だ。

だが、ドラゴンであれば、「世界がとても近い」
訳であり、これは非常に大きなメリットだ。
歳を取ってから、「オレは(私は)、若い頃に
ボートの世界大会に出場した!」とか言えれば、
それは、野球で「甲子園に出た!」位の、一生の
宝物(自慢?)になるかも知れない。
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さて、チームの紹介は、続けていくとキリが無い
ので、ほどほどにしておこう、全参加チーム名は
後で一覧にまとめておく。

上写真は「スプリント(短距離)戦」の
1回戦の模様。

前述の通り、最初の数レースは、追い風条件で
タイムが若干良く、加えて超強豪の「bp」も
序盤に出場していた為、1分を切る好タイムが
頻発している。

まあ、本来の「bp」の実力値であれば、
10人漕ぎ200m戦であれば、50秒台前半という
感じなのだが、今回は「6人漕ぎ」であるから、
「エンジンのパワー」は40%ダウンである。
1分を下回れば上々、というイメージであろう。

序盤の数レースの後は、気象条件(風向)が
変化し、各チーム、1分04秒~1分10秒程度の
タイムに収まってきている。
このあたり、各チームは実力伯仲であり、僅差
でもある。差がつくとしたら、レース条件よりも
むしろ基礎練習量であろう。コロナ禍において
どれだけ練習ができていたか? そこが結果に
影響するようにも思える。

第1回戦を終え、上位5チームは以下となった。
暫定1位:0分56秒:bp next
暫定2位:0分58秒:bp
暫定3位:0分59秒:RスポーツマンクラブB
暫定4位:1分04秒:吹田龍舟倶楽部
暫定5位:1分05秒:からしれんこん・パイレーツ

他の7チームもタイム的には大差が無い状態だ
「bp」の2チームのワンツーフィニッシュは堅い
状態だと思われるが、3位争いが見ものになる。

まあつまり、第二回戦で全てが決まる事となる。
風は弱まり、ほとんどフラットなレース条件だ。

純粋な実力勝負となるが、特に影響が大きいのは
基礎練習の多寡による「スタミナ」であろう。
仮に、夏から秋にかけ、まったく練習していない
状態であったら、いきなりの連続出場は、選手と
言えども、さすがに体力的に厳しいと思われる。
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2回戦は、午前11時~正午の時間帯で行なわれた。
本大会は、参加チーム数が多いので、12分間隔と
短めにレース時刻を設定しているが、艇や漕手の
消毒などの対策・準備もあり、少しだけ慌しい。

僅かにスケジュールに対して、押し(遅れ)気味
であり、20分から30分の遅延という感じか。
大会の運営には非常に手馴れたスタッフであるから、
普通は遅延する事は、まず無く、むしろどんどんと
巻き(早まる)になってしまう位だ。

だが、本大会では、そう遅い時間帯(夕方等)迄は
行なう予定は無いので、30分程度の遅れは許容範囲
であろう。
なお、従前は本大会は、大阪の「北港」で行なわれて
いた。その際は、バーベキューが可能な設備があった
ので、大会後の昼食は、皆でBBQを楽しむのが常で
あった。

しかし、2014年頃に「北港」の施設が廃止され、
その後、大阪府協会(ODBA)は、本会場(大阪府
漕艇センター)に練習/大会拠点を移したのだが・・
本会場では、BBQが可能な設備が無く、やるならば、
少し離れた場所に、全員、移動しなければならない。

が、「そろそろBBQを復活させようか」という話も
何度か出ていて、今年あたりは、その開催を検討して
いた様子だが、あいにくのコロナ禍で、BBQの
復活は持ち越しだ。

で、BBQがある場合は、昼頃になると、お腹がすいた
選手やスタッフ達は、「急いで大会を終わらせて、
BBQをやろう!」と、早いテンポでレースを進行
させる事が常であった(笑)

が、今回は、BBQなしである事は事前に知らされて
いたし、午後の「舵取りコンテスト」がある事も、
皆わかっているから、適宜、コンビニ弁当等を
持参してきている選手やスタッフ達が大半である。

昼食の心配(早く食べたい・笑)が無ければ、
本大会は、のんびり進めても、何も問題が無い。
いやむしろ、久しぶり(約1年ぶり)の大会だ、
参加者達は、皆、大会の雰囲気を満喫していて、
長く、この雰囲気に浸っていたいとも思っている
事であろう。
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さて、2回戦のタイムだが、蓋を開けてみると、
各チームとも、1回戦のタイムと殆ど差が無く、
差があったとしても、1秒かそこらであった。

まあつまり、風や気象条件等の影響は殆ど無く、
加えて、スタミナ等を課題とするチームも殆ど
無かった、という結果になった訳だ。

なので、2回戦合計タイムでの順位の変動も
あまり無く、最終結果は以下となった。

1位:bp next
2位:bp
3位:RスポーツマンクラブB
4位:吹田龍舟倶楽部
5位:チーム未来A

予想どおり「bp」系2のチームが、「ワンツー
フィニッシュ」を実現している。
まあ、「超強豪」の実力値から言えば、当然の
結果であろう。

なお、ドラゴンボートやペーロンの世界では、
殆ど「番狂わせ」は起こらず、ほぼ全てのレースが、
各チームの実力値に応じた、予想どおりのタイムや
順位となる。

これにより、例えば、「カーレース」のように
「抜いたり抜かれたり」というケースは、まず
起こらない。速いチームは、先行し、そのまま
リードを広げて、所定の時間でゴールする訳だ。
観戦側からすれば、常に予定調和の競技なので、
ちょっと物足りない点もあるかも知れない。

ただ、競技の撮影におけるメリットはあって、
対戦するチーム名を聞けば、レースの順位や、
何m地点で、各チーム間に、どれくらいの差が
出るかも、事前に、高い確率で予想が出来る。

だから、各レースにおいて、見所になりそうな
シーンを想定し、それを撮るのに適切な撮影地点、
撮影アングルになるように、常に移動をしながら
撮影する訳だ。

今年は、殆ど一般観客が来ないが、例年の各地の
大会では、大会観戦とともに、撮影を志向する
アマチュアカメラマンの来場も多い。
彼らの多くは、持ち上がらない程の重量級の
望遠レンズを持ち、三脚にそれをセットする。
下手をすると「場所取り」のような、まるで
花見でもするような様相もあるのだが・・(汗)

また、競技には無関係なカメラマンのみならず、
大会参戦チームの応援撮影メンバーであるとか、
地元の自治体広報や、新聞の記者等で、写真を
撮っている人達も多数居る。

そうした、カメラマン達に話しかけてみると
カ「この競技は、どのポイント(地点)から
  撮影するのが良いのですか?」という
質問をされるケースが大変多い。

そんな場合だが、以下のように答えている。
匠「それはレース次第ですね・・
  例えば次のレースは、約3秒、ボートに
  して1艘分(1艇身)のタイム差が出る事が
  予想できます。
  これをどう撮るか? 接戦というイメージ
  なのか? 独走・大差というイメージで
  撮るのか?等により、どこの撮影地点から、
  どのアングルで撮るのかが変わって来ます」

まあ、チーム応援カメラマン等では、この話の
後半部は、特に重要事項であろう。
自身が応援するチームが、勝った所等を、写真で
記録したい訳だから・・

で、この話をすると、カメラマン等からは、
カ「ふ~ん、奥が深いのですね」
という返事となる事が、ほぼ毎回である。

まあでも、それがわかるのも、長期間に渡り
膨大な数のレースを観戦して来たからでもある。

いつも思う事は「知らない被写体は撮れない」
という点だ。撮影対象に対して、何の予備知識も
持たない場合は、いくら腕前があったとしても、
いくら高価な高性能機材を持っていたとしても、
もう完全に「お手上げ」であろう・・
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さて、以下、引き続き全チームの最終順位を
挙げておこう。

6位:からしれんこん・パイレーツ
7位:RスポーツマンクラブA
8位:Team Banana
9位:チーム風
10位:TEAM 河童
11位:チーム未来B
12位:フォーティーズ

なお、下位チームも含めて、全体に大きなタイム
差があった訳でも無く、僅差の中での最終順位だ。
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では、次は「舵取りコンテスト」の種目である。

上写真は、本競技(のエキスパートコース)を
説明する為のデモンストレーション走行(漕行)。
舵手は、「チーム未来」のベテランのT氏であり、
タイムは1分42秒であった。これが1つの基準と
なるであろう。(これよりも速ければ上位となる
と思われる)

参加予定の舵手(だしゅ)数は9名、ただし
1名が棄権となったので、計8名の参戦だ。
舵取りコンテストは、200mレースで行なわれる
ので、8レースが追加される事となる。

12分間隔で廻しても1時間半程にはなるだろう。
長丁場ではあるが、このレースは単独走行だから、
次のレースに出る艇を交互に事前回航が可能だ。

だから、1時間前後程度にまでレース時間は
短縮でき、スプリント戦での若干の押し(遅れ)
を取り戻す事ができそうだ。
だがまあ、前述のように、時間の制限や選手達の
昼食の心配は無い訳だから、まあ、のんびり楽しく
やってもらえれば良い状況だ。

それに、「舵手だけの試合」では無く、漕手達に
とっては、1レース余分に練習が出来るのだから、
「専業チーム」(=日常的にボート競技の練習を
繰り返し、技術の向上や、大会での上位入賞を
目指す本格派チームの事)ばかりの本大会で
あるから、追加練習は望むところであろう。

で、昨年の本大会での「舵取りコンテスト」は
初回であったので、難易度が低い「スラローム戦」
だけであった。

まあ、初めて舵を取る選手達にも興味を持って
貰いたかった点もあるし、最初からあまり難しい
コースを設定し、仮に沈没・転覆事故が多発して
しまったりしたら、継続開催が危ぶまれる。

だが、昨年の様子を見ていると「スラローム戦」
であれば、例え舵手に初挑戦の選手(普段は漕手
や鼓手)であっても、難なくそれをこなしていた。

そこで今年の大会では、「ビギナーコース」が
「スラローム戦」であり、より難易度の高い
「エキスパートコース」が「360度ターン戦」
として追加された。

このどちらに参戦するか?は、大会直前に、
参加する舵手選手の希望により決められる。

周囲で見物をしている選手達の間では・・
選A「エキスパートコースは難しそうだな、
   殆ど皆、ビギナーコースではなかろうか?」
選B「エキスパートは、チン(=沈没の事)
   する事も、十分ありそうだなあ」
選C「チンしたら寒いぞ~ 水の中はそうでも
  無いけど、陸に上がったら震えるぞ~」
選D「それに、舵手だけの落水ならばまだしも、
   もしチンしたら、漕手達も皆、巻き添えだよ、
   そりゃ酷な話だ。 う~ん、やはりここは
   無難なビギナーコースを選ぶ人が多いかな?」

ところが実際に蓋を開けてみると、舵手の誰かが、
「オレはエキスパートで出てみる」と言い出すと
他の人たちも「じゃあ、オレもエキスパートだ!」
と、負けん気が出始めてしまった(汗)

この結果、8人の舵手中、5人がエキスパート
コースでの出場となってしまった次第だ。
だが、顔ぶれを見渡すと、いずれも舵手としては、
各チームの、正舵手または副舵手という立場の
ベテランばかりだ。
まあ、これならば、転覆や、岸壁への衝突(汗)
といった、大きなトラブルには、なりそうも無い。

ただ・・ 私は、静岡ドラゴンボート協会で、
「会場のコース長が取れないから、ターン戦を
 試してみたい」と言っていた話を、数年前に
聞いていた。

実際に、SDBA(静岡協会)において、ターンの
実施試験を行なってみると・・
静「レース速度(=速い)のまま、ターンを
  行なうと、舵への物理的な負担が大きく、
  舵手の落水、または舵の破損の危険性がある」
という結果が出た模様だ。

したがって、静岡の大会ではターン戦を見送り
以降は、超短距離(150m戦)のレースを行なう
事となったのだが・・

その話を聞いていた私は、今回の大会で
「負けん気を出して、高速のまま360度回転を
 すると、舵手が放り出されるかも知れない」
という危惧を持っていた。
(参考:前述の「高島ペーロン大会」は、ターン
戦であり、ターン時に、舵手が落水するケースが
多発する)

・・まあでも、本来、水上アスリートにとっては、
転覆や落水は日常茶飯事である。カヌーやヨット等
の競技では、水に漬かってしまう前提で、選手達は
服装や持ち物等に留意している次第だ。


しかし、ドラゴンの転覆率は意外にもかなり低い。
私が長年レースを見てきた中では、その転覆率は、
0.2%程度でしか無い。まあ500レースあって、
その中で1回転覆(沈没)するという低確率だ。

・・であれば、皆、あまり落水に慣れていないかも
知れない、スマホやアクションカメラ等を持って
いたら、水没して回収不能になるかも知れない。
財布とかもヤバいし、あるいは昨今の世情では、
マスクをしたままで転覆すると呼吸の面で危険性
がある。
まあ、落水は起こるかも知れないので、そうなる
前提で舵手や漕手達も、準備を怠らないようにして
おく事が望ましいであろう。
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で、実際の「エキスパートコース」だが、
やはり、難易度が高そうである。

速度を落とせば良いというものでも無いし、
適切な速度とライン取り、さらには漕手達とも、
上手く呼吸を合わせないとならない。
回転軸の内側の漕手の漕ぎが止まってしまっても
上手くターンはできない。全てが高難易度だ。

だが、軽量化と艇の重心位置の後退を狙って
(つまり、後ろ重心は舵の効きが良くなる)
「鼓手」(ドラマー)を起用していないチーム
も半数以上居る。この場合、いったい誰が、
難しいタイミング合わせの指示を行なうのか?

いや、仮に「鼓手」が乗っていたとしても、
今まで誰もやった事が無い360度ターンだ、
鼓手が、その走行(漕行)ラインや漕手達への
指示を完璧に行なうのは難しいであろう。
_c0032138_14465727.jpg
やはり、ターンを行なうだけで、30秒程度の
時間が余分にかかる模様だ。
素(す)の200m直線戦で1分強であるから、
この競技は、1分30秒強が優勝ラインとなる。
(まあ、今回は「順位戦」にはしていないが、
それでも、皆、「1番」を取りたい事であろう)

走行(漕行)ライン取りの良否が、タイム差に
影響が大きい模様だ。回転半径は、小さい方が
良いとは思うが、艇の長さも10m近くある為、
それに適した回転半径があるかも知れない。

それと、舵はずっと水に着けておく訳でも無い、
もしそうすると、多分、抵抗が強くて、艇の
速度が低下したり、舵手が跳ね飛ばされたり
するのであろう。

上手な舵手は、断続的に舵を水に入れ、艇の
向きを変える。舵は、入れなければ入れない程、
良さそうな様相も見られるので、本当に速く
回ろうとすれば、漕手の左右において、
レートやストローク、あるいはパドルの角度等も
変えて、舵が無くても、漕ぎだけで回れる位の
状態が理想的なのであろう。

ただ、そこまでの漕ぎの高等テクニックを持つ
チームは、国内トップクラスの超強豪だけだ。

様々な大会での様々なレースでは、水流や風向
の影響で、真っ直ぐ進み難いコースもある。
そんな場合、超強豪チームは、漕手の左右での
漕ぎ方を微妙にずらし、速くかつ真っ直ぐに進む
為のノウハウを持っている(・・らしい)

これは実際に超強豪チームの選手達から聞いた
話ではあるが、「そこまで出来るのだろうか?」
という疑問が少しだけある。 でもまあ、多分
出来るのであろう、この世界でトップでやって
いける、というのは、そういう事なのだと思う。
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匠「あ、危ない!」

エキスパートコースでの回転時の抵抗が強く、
舵手が、弾き飛ばされそうになった(汗)
でも、見事なまでに、ここから持ち直し、
落水もせずに、無事ターンを終了している。

結果的に、全レースを終えて、誰も落水せず、
勿論、転覆等も無し。
観客側(選手も含め)としては、「誰かチン
するかも」という、ちょっとした期待感も
あったのだが(汗)実際にそれに巻き込まれる
選手達においては、笑い事ではない。

ちなみに、先ほどドラゴン艇の沈没率は0.2%
と書いたが、前述の「からしれんこん」が
連覇中の「高島ペーロン」大会は、専用艇の
操船が極めて難しく、沈没や衝突・蛇行等を
含めた「アクシデント率」全般は、何と20%
にも及ぶ、つまり、ドラゴンボートの100倍も
「デンジャラスな大会」な訳だ。

これはこれで観戦側としてはエキサイティングだ。
なにせ「ドラゴンでは追い抜きは稀である」と
前述したが、高島ペーロンでは、トップを走って
いたチームが、いきなり転覆して、最下位と
なってしまう事も日常茶飯事なのだ。

だが、高島ペーロン大会に限らず、何処かの
大会でも、何らかのアクシデントに見舞われると、
もう、翌年からは参戦しなくなってしまう
ビギナー等のチームも多い為、やはり観戦側の
密かな楽しみ(汗)よりも「安全第一」の方が
ずっと望ましいのであろう・・
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「舵取りコンテスト」の順位はつけないが、
出場者全員に参加賞(レトルトカレー)が
配られる。
上写真は、エキスパートコースで最速タイムを
出した、「熊野水軍」(和歌山)のM氏である。
ただ、「熊野水軍」チームは、本大会には
不参加な為、漕手は「bp」の若手が務めている。

この「舵取りコンテスト」の主眼であるが、
「舵手の育成」がある。

数年前から、大阪協会(ODBA)は、舵手の成り手
の少なさを問題視していたのだが、まあ、舵手は
技術も必要とされるし、責任も重いポジションで
あり、ちょっと敷居が高い。
まあ、そんな状況だからこそ、「舵手」を競技の
主役としてフィーチャーし、かつ、舵が未経験の
選手達にも、気軽に参加できる競技を考案した訳だ。

2年間見て来たが、なかなか面白い競技であるし、
目的も明白なので、続けるのが良いと思う。
ただ、舵が未経験者の参加者数の比率がやや少ない
ように思えるので、そのあたり、ビギナー参加者数
を増やす工夫が必要かも知れない。
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上写真は、スプリントの部の表彰式の模様だ。

総括だが、今年はコロナ禍で全くボート系大会が
出来なかったが、大阪地区で最初にして最後の
大会が無事実施できて、本当に良かったと思う。

選手、スタッフ達も、約1年ぶりの大会を非常に
満喫されていた模様だ。

来年はコロナ禍が明けて、平常どおり多数の大会が
出来る事を願うばかりである。

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では、今年の【熱い季節】ドラゴンボート系の記事は、
これにて終了だ。
(注:例年掲載している、BESTチーム/BEST大会編は
 今年は無しとする)

レンズ・マニアックス(36)

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過去の本ブログのレンズ紹介記事では未紹介の
マニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。

今回は、未紹介レンズ4本を取り上げる。

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まず、今回最初のレンズ
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レンズは、mEiKE (MK85F18EFAF) MK-85mm/f1.8
(Canon EOS AF)
(新品購入価格 23,000円)(以下、MK85/1.8)
カメラは、CANON EOS 8000D (APS-C機)

2018年末(?)~2019年初頭(?)頃に発売された、
中国製のCANON EFマウント専用のAF中望遠レンズ。
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レンズに記載されているロゴマークは「mEiKE」と大文字
小文字が混じったデザインであるが、以下は「Meike」と
記載する。

以前は「Neewer」というブランド銘であった様子だが、
2018年頃からの日本市場本格参入を機に「Meike」という
ブランド銘となったか?
(注:詳細情報なしで真偽不明。特にNeewer銘レンズは
Meike銘レンズとの性能・品質差が大きすぎて、同じ
メーカーが作ったものとは思い難い節が多々ある)

上記の型番は長すぎるが、()内は定義省略したとしても、
AFとMFの区別はしておく必要がある。 と言うのも、
Neewer時代に本レンズはMFバージョンで発売されていた
模様なのだ、そして、本レンズはAF版である。
(これはMeike初のAFレンズか?詳細は不明。ただし、
2019年の時点ではCANON EF版しか発売されていなかった。
ちなみに、NeewerのMF版85/1.8は記事執筆後に入手済みで、
後日紹介予定だが、両者は、全く異なる仕様・性能・品質
であり、Neewer=Meike説は、どうも信用が置けない)

AFと言っても、超音波モーターが搭載されている訳では無く、
AFは若干遅い。これは、 EOS 7D MarkⅡ等の高性能AF機に
装着した場合でも同様である。
・・まあ、とは言え、通常のレンズ内モーター仕様の
他のEFマウントAFレンズと同様の遅さであるから、さほどの
不満は感じ無い。「どうせAFは遅いから」と「オフサイドの
法則」を意識し、今回は初級機であるEOS 8000Dを母艦
としている。(つまり、高級機に安価なレンズを用いては
ならない、という法則だ。このケースでは、AFが遅いのは
高性能機体でも変わらない、であれば、高級機を使うのは
その高性能が無駄になるのでアンバランスだ、という意味)

AFが遅い場合のMF操作性だが、無限回転式ピントリングと
有限区間距離指標のハイブリッド式である。幸いにして
「シームレスMF」が(非正規の使用法ながら)効くので、
AF合焦後にMF移行は容易だ。
ただ、合焦までが遅いのと、フォーカスエイド機能が無効
となる為、シームレスMFのメリットは少ない。

一応、レンズ側SWをAFにしたままでもピントリングは
動作し、MFによるピント合わせを随時行う事はできる。
(注:フォーカスエイドは、AF合焦のまま固定される)
でも、その後にシャッターを切る為に、レリーズボタンを
押すと半押しAFが動作し、ピント位置が変わってしまう
ので、元の木阿弥だ。

AFスタートボタンを別建てとすれば、この問題は回避できるが
それだと、撮影時の操作系や指動線が確実に悪化してしまう。
だから、結局、MFで撮る場合は、事前にレンズ側SWをMFに
切り替える必要がある。

このあたりは、本レンズに限らず、他の、どの通常型AF
レンズでも同じ動作ではあるが、個人的には、これは
「MFを軽視した仕様」と見なしていて、あまり好みでは無い。
特に本レンズのようなAF速度が遅い場合だと「かったるくて、
AFなんぞ使っていられない!」と言う不満事項にも繋がる。

では、最初からMFのみで撮るのはどうか? この場合、今回
使用のEOS 8000Dではダメだ、カメラのラインナップ戦略上
での「仕様差別化」により、CANON下位機種のファインダー
およびスクリーン性能は、MF操作に一切向いていない。

つまり「安い機種ではMFは合わせられないから、高いカメラ
を買いなさい!」というメーカーの売り方の仕掛けである。
(注:かなり不条理で不愉快な市場戦略と言えよう)
_c0032138_17070789.jpg
でも実は高級機でも同様だ、EOS一眼レフの光学ファインダー
と情報表示型スクリーンの組み合わせでは、快適なMF操作が
出来るとは決して言えない。それから、まあ、本レンズの
場合は、かろうじてフォーカスエイド(合焦時に○マークが
表示される)が効くが、ここもCANON機での「排他的仕様」
により、EFレンズ用情報伝達プロトコルに則っていない
他社レンズや電子接点の無いMFレンズでは、そのフォーカス
エイドが出ない仕様となっている。

技術的には簡単にこれは実現できるし、それどころか銀塩の
EOS一眼レフ機では、多社MFレンズでもフォーカスエイドが
出来ていたのに、2000年頃に、それをあえて出来ないように
変更された。

この結果、フォーカスエイドの件のみならず、例えば
1990年代迄のSIGMA社製EFマウントレンズは、2000年以降
の銀塩/デジタルEOS一眼レフでは、プロトコルエラーとなって

全く使えなくなってしまった(怒)
まあつまり、CANONのカメラには自社純正レンズを使わないと
まともに動作しない、という、他社製品を排除する「排他的」
な措置を行ったという訳だ。これは好ましく無い話である。

さて、話がそれてきた、結局、EOS一眼レフは、いずれもが
MF性能に劣る。で、これの対策としては、スクリーン交換が
可能なEOS機(注:機種は限られる)であれば交換スクリーン
の型番に「-S」が付く「スーパープレシジョンマット」の
もの(例:Eg-S)に換装すると、若干だが、スクリーンでの
ピント確認が容易となる。ただし、このタイプのスクリーン
は光量が減り暗くなるので、開放F2.8よりも明るい大口径
レンズの使用が推奨となる。また、2010年代中頃以降の
EOS機では、スクリーン交換が可能な機種は皆無に近い。

さて、EOS機の問題点はもう良い、不愉快な「仕掛け」が
散見されるばかりの状況で、面白く無いからだ。
では、本レンズMeike85/1.8の話に戻ろう。 
_c0032138_17070718.jpg
長所としては、まず安価な事、そして解像感にそこそこ
優れる事。ボケ質破綻回避を行えば、ボケ質も悪く無い。
趣味的な用途であれば十分に使えるレンズだ。
ちなみに最短撮影距離は85cmと、標準的だ。

短所は、このクラスのレンズにしては、やや大きい事
(フィルター径φ67mm、420g)、AFがやや遅い、
ボケ質破綻が出る・・ まあ、そんな所だろうか。

使いこなし上の最大の注意点は、ボケ質破綻をどのように
回避していくか?だ。一眼レフでは困難な技法であるから、
手動絞りブラケット技法で、被写界深度を微妙に変えつつ
撮っておく必要があるだろう。その措置は、とても面倒
なので、基本的には趣味撮影専用レンズであり、業務用途
での使用は(AFの遅さもあり)まず無理であろう。


なお、絞り開放からでも実用的に使えるレベルの収差量で
あるので、日中の使用では、ND2等の減光フィルターの
装着が望ましい。これは、絞りをフルレンジで使用できて
表現力の増強に効果がある他、加えて前述のボケ質破綻の
回避の為の絞り値の自由度の増加の意味もある。

強く推奨できるレンズとは言い難いが、かと言って致命的
な弱点は持たず、安価でコスパが良いレンズであるので、
初級マニア層とかであれば、買っても悪くは無いと思う。

(追記:本記事執筆後、本レンズの使用機会が増えている。
細かい弱点群を回避しながら用いれば、なかなか悪く無い
レンズだと思えるようになったからだ。個人評価点も都度
修正しており、イベント撮影用の実用撮影にも用いて、
後年の視点では、むしろお気に入りレンズとなっている。
今後の、各種ランキング系記事でも、良い順位を得れる
ケースもあるかも知れない。
ただし、SIGMA製マウントコンバーターMC-11を用いて、
SONY α(E/FE)機で使用しようとした際、プロトコルエラー
となってしまい、SONY機で全く使用する事が出来なかった
のは、少々残念な事実である)

----
さて、次のレンズ
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レンズは、SIGMA 28mm/f1.8 EX DG ASPHERICAL MACRO
(中古購入価格 21,000円)(以下、EX28/1.8)
カメラは、SONY α77Ⅱ (APS-C機)

2001年に発売された、銀塩フルサイズ・デジタル兼用の
AF大口径広角単焦点準マクロレンズ。

いわゆる「SIGMA大口径広角3兄弟」と私が称している
シリーズの内の1本。
最短撮影距離は20cm、最大撮影倍率は1/2.9倍である。
_c0032138_17071314.jpg
「広角3兄弟」とは何か? と言うと、詳細を書くと
とても長くなるので、かいつまんで言えば・・

2000年代初頭の、銀塩からデジタルへの移行期において、
初期デジタル一眼レフのほぼ全てがAPS-C機であった為、
銀塩時代のレンズ群をデジタルで利用した場合、広角画角が
不足する事へ対応した大口径単焦点広角レンズ群であり、
20mm/F1.8、24mm/F1.8、本28mm/F1.8の3本が
存在する。

いずれのレンズも最短撮影距離が極めて短く、準マクロ
として使用できる他、F1.8の大口径を生かして被写体に
近接すると大きな背景ボケを得ながら背景を広く取り込める
という、かつて見た事が無い「広角マクロ」技法が使える。
(注:その後の時代を通じ(超)広角マクロは、極めて
機種数が少なく、数える程しか存在しない)

内、20/1.8と24/1.8は、発売直後に購入し、銀塩機で使う
場合は、前述の「広角マクロ」用レンズとして、そして
デジタルAPS-C機に装着した場合は、それぞれ換算30mm/
36mmの明るい広角・準広角レンズとして使えたので、
その後も長期に渡って愛用している。

ただ本28/1.8は発売から20年近くもの間、無視し続けた
レンズとなってしまっていた、その理由は大きく2つあり・・

1つは、発売当時、本レンズの旧型であるSIGMA HI-SPEED
WIDE 28/1.8(Ⅱ)というレンズを愛用していたからだ。
旧型は最短撮影距離が30cmと長い。だが小型軽量であり
描写力的にも十分、そして口径比も本レンズと同じだ。
わざわざ、大きく重く高価な「三重苦」の本レンズに買い
換える必要性は感じられなかった(旧型は現在未所有)

2つ目の理由は、本レンズのAPS-C機での換算画角は42mm
相当となり、ほぼ標準レンズである。これでは「広角が
足りない穴を埋める」という役割は当たえられず、おまけに
28mmならば銀塩時代のレンズを多数所有している。であれば
やはり、わざわざ本EX28/1.8を新規購入する必要性は無い。

ただまあ、旧型は、デジタル時代に入った頃に譲渡して
しまっていて現在未所有であったし、近年になって、
「やはりSIGMA広角3兄弟は揃えておく必要があるかな?」
と思っての購入である。既に発売後20年近くを経過した
準オールドレンズとなっていて、中古相場は比較的安価
であった。(発売時の実勢価格は、この2倍程度だった)
_c0032138_17071316.jpg
さて、SIGMA広角3兄弟全般での長所短所を述べておこう。

<長所>
・当時の広角レンズでは珍しい開放F1.8の大口径。
・全て最短撮影距離20cm以下であり、非常に寄れる。
・その結果、かつて無い「広角マクロ」技法が使える。
・さほど高価ではないので、コスパが良い。

<弱点>
・かなり大柄である(フィルター径φ77mm~φ82mm)
・逆光耐性がやや低い。特に広角である事とあいまって、
 逆光でゴーストが出易い。
・日中での撮影では、ND(減光)フィルターがほぼ必須。
・後継機は、「ART LINE」となって、さらに大きく重く
 なった他、最短撮影距離はいずれも長くなり、おまけに
 極めて高価となった。(よって、3兄弟の代替にはならず、
 仕様的老朽化は起こり難い)だが「3兄弟」の中古流通は
 玉数が少なく、やや入手性が悪い。
 
だいたい 上記の通りであるが、さらに本レンズ独自の
長所短所である

<EX28/1.8の長所>(上記<長所>に加えて)
*解像感がかなり高目で、シャープな印象がある。
*ボケ質破綻は、さほど出にくい。

<EX28/1.8の短所>(上記<短所>に加えて)
*AFの精度が、かなり悪い(注:故障しているのか?)
*フルサイズ機でもAPS-C機で用いても、平凡な画角。

まあ、こんな感じである。
課題の「ゴースト」であるが、わずかな逆光でも、
以下のような感じで発生する。(画面下部に紫の点)
_c0032138_17071345.jpg
今回は「限界性能テスト」の為に、あえてフードを装着
していないが、通常撮影ではフードを常用するのが
良いであろう。
ただし、ゴーストは作画意図に取り込む事も可能であり、
「暑い」「神々しい」「都会的な」といった、被写体
状況を表現したい場合、積極的にゴーストを入れるように
コントロールする事も十分にアリである。
 
・・なので、EX24mm/F1.8では、本レンズよりもさらに
ゴーストが発生しやすい為、もっぱら、そうした用途に
使っていた次第だ。

本EX28/1.8は、古いながら、悪い性能のレンズでは無く、
特に解像感については現代での使用でも、さほどの不満感
は無い。
_c0032138_17071958.jpg
現在、このシリーズは「ART LINE」としてリニューアルされ
開放F値はF1.8→F1.4と向上したが、その分、さらに大きく
重く高価となり、価格については中古相場でも3~5倍も
高くなってしまう、おまけに「ART LINE」は、近接性能を
重視しておらず、「広角3兄弟」よりも寄る事が出来ない。

「ART LINE」は「画質優先、手ブレ補正無し」と、硬派な
コンセプトで、嫌いなレンズでは無いので、少しづつ収集して
いる状況であるが、現状、全て標準~望遠の焦点距離のみの
購入となっている。その理由は、広角側では、まだこの古い
「広角3兄弟」が実用上優れている面もあり、かつコスパが
良いからだ。

まあでも、単純に「ART LINE」の最短撮影距離が短ければ
迷わずそちらに移行していたと思う、それほどまでに広角
レンズでの最短撮影距離は重要なスペックなのだ・・

現代において必須のレンズとは言い難いが、まあ、興味
があれば・・ 

参考関連記事:(掲載予定)
*特殊レンズ第52回「SIGMA広角3兄弟」編

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では、次のレンズ
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レンズは、CANON EF80-200mm/f4.5-5.6
(中古購入価格 1,000円)(以下、EF80-200)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

1990年頃発売の、小型軽量AF望遠ズームレンズ。
安価なジャンク品としての購入である。
ジャンクと言っても、特に状態(程度)には問題は無い、
要は「古い」という点で不人気なだけである。

望遠端200mmのズームレンズとしては非常に小型軽量
である。発売当時のCANONは、旧来のFDマウントとは
互換性の無いEF(EOS)マウントに変更したばかりであり、
EOS機の普及を狙っての、一種の「エントリーレンズ」で
あろう。(同年には、史上初のエントリーレンズとも
呼べるEF50/1.8Ⅱも発売されている)
_c0032138_17072537.jpg
しかし、小型軽量の他は、大きな長所は見当たらない。

本レンズを、当時のエントリーシステムの雰囲気を意識
して、現代の初級デジタルEOS機(例:EOS 8000D)
に装着してみると、優れた軽量システムとなるのだが、
残念ながら、現代の感覚では、こうした場合に、AFの
速度・精度に、かなりの不満を感じてしまう。

すなわち1990年代頃の、”超音波モーターでは無い”
通常仕様(直流系?)の内蔵モーターのEFレンズでは、
現代のデジタルEOSの普及機・初級機では、いずれも
同様にAF性能の不満が出てくる。

これの解決策だが、EOS上位機(上級機、高級機)を
用いる事である。これらであれば、AF性能の不満は
若干緩和されるので、今回はEOS 6Dを母艦としている。
(注:この措置はレンズによりけり。冒頭のMeike85/1.8
では、この対策は、あまり有効では無かった)

なお、この状態は、レンズ価格よりもカメラ価格が突出
する「オフサイド状態」であるので、あまり好ましく無い
組み合わせだ。まあしかし、オフサイド法則においては
「カメラ側の高性能が、低性能レンズにより無駄になる」
という状況を戒める意味もある。

今回のケースにおいては、レンズの低性能をカメラ側の
高性能でカバーする要素がある為、オフサイド状態とは
呼び難い。(むしろ「弱点相殺型システム」である)
_c0032138_17072589.jpg
さて、AFの課題が緩和されたところで、レンズの特徴を
見ていこう。 

まず、気になるのは逆光耐性の低さだ。
この時代、1990年代のレンズは全て多層コーティングで
はあるが、レンズ構成における内面まで、全てきちんと
コーティング処理が施されている保証は無い、つまり
一般的に言う「内面反射」が出ている状態かも知れない。

逆光耐性に関しては、撮影状況における光線状況を意識
して対応するしか無いし、その対策で、ある程度はカバー
できるであろう。

次いで、最短撮影距離の長さの課題がある。
まあ、このあたりは低価格帯レンズであるから、1つは
近接撮影を許す事での画質低下を防ぐ意味、さらには、
より高価格のレンズとの「仕様的差別化」もあるだろう。

すなわち、低価格帯のレンズにおいては、こうした細かい
性能的な不満(あるいは制限)が存在しているという事だ。
だから、それらの性能の低さを、許容(容認)して使うか、
あるいは、低性能の要因を理解して、それが欠点にならない
ように「課題回避」して用いる必要がある。
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「課題回避」は、高度な撮影スキルを必要とするのだが、
その練習または研究の為に、オールドレンズやジャンク
レンズといった低価格帯レンズを「教材」の意味で購入
するのは、悪く無い事だと思っている。


こうした措置を「ワンコイン・レッスン」と、本ブログ
では呼んでいる、本レンズの購入価格は、1,000円で
あったので、ワンコインとは言い難いが、まあそれでも
十分に安価な「授業料」であろう。

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次は、今回ラストのレンズだが、1つのレンズを
異なる2つのマウントで試用してみよう。
_c0032138_17073767.jpg
レンズは、7artisans(七工匠) 55mm/f1.4
(新品購入価格 16,000円)(以下、七工匠55/1.4)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7(μ4/3機)

2018年頃発売の、中国製ミラーレス機(APS-C機以下)
専用、MF大口径標準(中望遠画角)レンズ。
7artisansは、大文字有りの「7Artisans」かも知れず、
両者の表記が混在している状況で、正解が不明だ。
国内市場では「七工匠」と呼ばれるケースの方が多い。
_c0032138_17073718.jpg
七工匠(しちこうしょう)は、銀塩時代の一眼レフ用の
名レンズの設計をベースに、それらをミラーレス機用に
サイズダウン(スケールダウン)して、小型軽量で
安価なレンズとして販売する事を得意とするメーカーだ。

本ブログでは、この手の設計手法で作られた低価格レンズ
を「ジェネリック・レンズ」と呼んでいる。

まあつまり、薬品において、特許の切れた旧世代の薬品を
安価に販売する「ジェネリック薬品」と同じ手法である。

「新薬」を開発するには、一般の人達が想像できない程の
莫大な費用がかかる。ジェネリック薬品は、その経費を
削減する事で安価になる訳であり、効能に劣る訳では無い。
ただ、少し前の時代のものであるから、最新の薬効成分が
入っている訳では無いのだが、昔は皆、普通にそれらを
飲んでいたのだから、効かないという訳では勿論無い。
まあ、コスパは良い、と確実に言えるであろう。

ジェネリック・レンズも同様である、MFレンズであるし、
勿論手ブレ補正や超音波モーターが入っている訳では無い、
だけど、その中身は「往年の名レンズ」とほぼ類似だ。
だから、コスパは極めて良い。

具体的に本レンズ七工匠55/1.4のベースとなった設計だが
レンズ構成を見る限り、1970~1980年代頃の、各社
「プラナー系85mm/F1.4」の、3分の2スケールダウンだ。

すなわち、焦点距離を85mm→55mmと、2/3に縮小、
この時、全体のサイズが小さくなるが、開放F値、つまり
口径比は、焦点距離÷瞳径(前玉有効径)なので、
サイズが小さくなっても、F1.4と変化無し。

ただしフランジバック長が一眼レフとミラーレス機では
大幅に異なるので、後群または後玉の構成はオリジナル
とは僅かに変化させていると思う。
すなわち、このレンズは「プラナー系85/1.4」の
「ミニチュア版」である、と言える。

他のジェネリック・レンズも、だいたい同様な手法で
設計されている模様だ。近年の新鋭中国製レンズの
全てがジェネリック・レンズという訳では無いのだが、
これらのレンズ構成図と、過去の名玉の構成図を照らし
合わせてみれば、おおよそ、どのレンズがジェネリック
かの推察は容易であろう。
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さて、「あの有名な名玉のプラナー(系)85/1.4の設計と
同じならば写りは良いのか?」という疑問点があると思う。

これの回答は、YesともNoとも言える。
Yesという部分では、ベースとなった設計が優秀であるから
確かに本レンズは良く写る。

おまけに、40年以上前でも、10万円ほどしていた高級
レンズである。現代の貨幣価値との比較は、まあ商品に
よりけりであるが、概ね2~3倍と考えれば良く、これは
20~30万円に相当する高額レンズであったものが、
それが本レンズであれば、何と1万円台後半の価格だ。

これは「とてもコスパが良い」という話となる。

さて、話の途中だが、ここでレンズはそのままで、
カメラ本体を交換しよう。
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レンズは、7artisans(七工匠) 55mm/f1.4
カメラは、SONY α6000(APS-C機)

本レンズは、μ4/3マウント版で購入している。
電子接点を持たないMFレンズであるから、マウント
形状のみを変換するアダプターがあれば、複数の
ミラーレス機で同一レンズを使いまわしができる。
とは言え、その組み合わせが可能なのは、APS-C機以下
において、μ4/3レンズ→SONY Eマウントのみである。

まあ、こういう事情であるから、できるだけμ4/3機用
のジェネリック・レンズを購入する事が望ましいのだが
とは言え、これだとFUJIFILM Xマウント機や、その他の
ミラーレス機(APS-C以下)には装着不能であるから、
Xマウント機等へは、専用のレンズをあてがう必要はある。
(追記:本記事執筆後、このレンズの優秀さが良く認識
できた為、Xマウント用で本レンズを追加購入している)

さて、APS-C機α6000で使用する際、これの換算画角は
約82.5mmとなり、これでオリジナルのプラナー系に
近い、82.5mm/F1.4の換算スペックとなった。

オリジナルの85/1.4のミニチュアなので、ホンモノの
システムよりも、遥かに小型軽量であり、40年間の
時代の差を強く感じるシステムとなる。
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さて、話の続きだが、「ではプラナー(系)85/1.4と
同様に良く写るのか?」という疑問点に対する、
「No」の回答の部分である。

これはつまり、プラナー系と同じだから良く写るか?
というより前に、「そもそもプラナー系85/1.4が、
本当に良く写るレンズなのか?」という課題が大きい。

本ブログでは昔から、MF時代のプラナー系85/1.4の
使用上の課題(問題点)を色々とあげている、あまりに
何度も解説しているので、クドくなる為、今回は最小限
の弱点を簡単に述べておく

1)ピント歩留まりが悪い、すなわち被写界深度が
 浅すぎて、光学ファインダーでは、まともに撮れない。
2)ボケ質破綻が頻発する、つまり被写体条件によっては
 ボケが綺麗にはならず、汚い(硬い)。
3)焦点移動が出る、つまり開放測光一眼レフでは、
 撮影の瞬間に絞り込まれるが、その際に開放でのピント
 位置とズレてしまう。

・・という事で、銀塩時代の撮影機材では、この3点の
課題の回避は容易ではなく、むしろ「重欠点」に近い。

よって銀塩時代では、高価なプラナー系85/1.4に憧れる
マニア層や初級中級層等は極めて多かったのだが、
購入後、うまく使いこなす事ができず、手放してしまう
人達が急増、発売後10~20年が経過した1990年代の
中古カメラブーム時には、これらプラナー系85/1.4の
レンズが中古市場に溢れかえったこともあった。

まあつまり「上手く使えば、とても優れた描写を得る
事ができるが、そうなる確率は極めて低い」という事だ。

私の経験上では、プラナー系85/1.4においては、銀塩
撮影において、上記課題の1)により、歩留まり(成功率)
は、およそ10%以下となり、さらに2)の課題を主体として
総合成功率は、およそ3%以下となる。
具体的には、「36枚撮りフィルム中、気にいった写真が
1枚撮れていれば良い方である」という感じだ。

撮影スキルが低い、あるいはこれらの課題への認識が
甘ければ、成功率はさらに低下し、1%以下となる。
何枚撮ってもちゃんと撮れないならば、これは初級中級層
では「使いこなせない」と諦めてしまうのもやむを得ない。

でも、これらは銀塩時代での話だ。
現代のミラーレス機での使用環境においては・・

1)のピント歩留まりの課題は、ミラーレス機での様々な
 MFアシスト機能(ピーキング、画面拡大)等で、相当に
 緩和されるし、そもそも銀塩より被写界深度は深い。

2)のボケ質破綻は、ミラーレス機の高精細EVFと、
 「ボケ質破綻回避技法」を併用する事で、ある程度は
 カバー可能である(匠の写真用語辞典第13回記事参照)

3)の焦点移動は、そもそもジェネリック・レンズでは
 絞り込み(実絞り)測光であるから、発生しない。

・・・という事で、銀塩時代における課題の殆どが
綺麗に解消されている。
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しかしながら、問題点の解決は、中上級層における話だ。
ビギナー層等で、そもそもMF撮影のスキルが少ないとか、
あるいは、ボケ質に対する理解や配慮が無く、当然ながら
ボケ質破綻技法をも行わないのであれば、これは、もう
銀塩時代プラナー系85/1.4と同様、「じゃじゃ馬」や
「暴れ馬」の状態となって、コントロール不能となる。

銀塩時代のビギナー層が「ちっとも上手く撮れない」と
嘆いていた状態と全く同じとなって、そのジェネリック
である本七工匠55/1.4も、同様の課題を根源に抱えて
いるが故に、アンコントローラブルなレンズとなり、
「制御不能」となるだろう。つまり、稀に良く写る場合も
あるが、その確率は低く、殆どの場合に描写力が低下する
という羽目になる。

結局、撮り手のスキルに依存する典型的なレンズだ。
本七工匠55/1.4のスペックを、ビギナー層が見て
「F1.4は凄い大口径だ、しかも安い!」等と喜んで
買ってみても、上手く使いこなすのは至難の業となる。
「やはり中国製レンズだ、安かろう、悪かろう」
というネガティブな評価となる事が見えている。

だけど当然、それは自分自身の課題である。銀塩時代の
プラナー系85/1.4に比べて遥かに問題点が緩和されて
いる本レンズで難儀しているようでは、オリジナルの
プラナー系85/1.4の使いこなしは、まず無理だと思う。
(参考:レンズマニアックス第12回「使いこなしが
難しいレンズ特集「後編」記事)

ただまあ、「テクニカルでマニアックなレンズである」
とは言えるし、しかもコスパが大変良い。
弱点は、逆光耐性が弱い程度であり、他に重欠点は
殆ど見当たらない。

中上級マニア層に対しては文句なく推奨できるレンズだ、
また、初級中級層においても、「教材レンズ」として
撮影スキル向上の為の練習を行うレンズとしてならば
推奨する事ができる。

「ハイコスパ名玉編シリーズ」記事には、本レンズは発売が
新しく、評価が間に合わずにランクインを見送ったが、
今から追加で上位にランクインさせたい程の「ハイコスパ」
なレンズである。 

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さて、今回の第36回記事は、このあたり迄で、
次回記事に続く。

カメラの変遷(9)老舗ブランドとフォクトレンダー編

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本シリーズは、各カメラメーカーが発売した銀塩・デジタル
のカメラをおよそ1970年代から現代2020年代に至る迄の
約50年間の変遷の歴史を辿る記事である。
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今回の記事では、本来であれば「老舗ブランド編」という
事で、旧コンタックス、ライカ、ローライ、フォクトレンダー
ハッセルブラッド等のカメラ(主にドイツの著名ブランドだ)
を紹介したかったのだが・・

残念ながら個人的に、こういう「老舗ブランド」のカメラを
殆ど所有していない。何故ならば「興味が無い」からだ。
(興味が持てない理由は、本記事で詳しく解説する)

それに古い。本シリーズではおよそ近代の50年間のカメラを
紹介しているが、これら老舗ブランドの著名カメラの多くは
この期間内には入って来ない前時代のものである。
私の機材所有コンセプトとしては、「あまりに古くて実用に
適さないものは持たない」となっている。写真が撮れない
カメラは「道具」としての意味が無いからだ。

歴史を辿って記事を書けない事は無いが、所有してもいない
機材について語る事は、本ブログのコンセプトに反する為、
それも止めておこう、あくまで持っている機材のみの話だ。

まあでも、僅かに所有している老舗ブランド関連の機材は
ある事はある。それから、「フォクトレンダー」に関しては
1999年より日本のコシナ社がその「老舗ブランド」を取得
して、名前を引き継いでいる為、本記事では、その近代的な
コシナ・フォクトレンダー社製の機材の話が殆どとなる。
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さて、主にドイツの老舗ブランドのカメラが、殆ど現在では
流通していないのは、いくつか理由がある。

まず本来、カメラというものは精密機械工業製品であった。
第二次大戦前の1930年代では、ドイツ製のライカや
コンタックスが世界的に著名であったが、非常に高価
(現代の貨幣価値で、およそ300万円程)であった為、
これらは「憧れの高級品」として、世界にその名を轟かした。

(注:高価であったのは「軍事用途」であった事も理由かも
知れない、あまりカメラが敵国等に流通して欲しく無い訳だ。
ちなみに、これらのカメラが生まれた時代では、ドイツは
既にヒトラー政権であった。高性能なカメラやレンズの開発
そのものも、軍事目的であった可能性が極めて高い)

ところが、第二次大戦におけるドイツの敗戦により、ドイツは
1949年頃に東西に分割、ツァイス社も同様に分割され、その
企業としての形態に大きな影響を与えてしまった。

東側(ロシアや東欧圏)に流れた、当時のツァイスの優秀な
光学技術は、戦後、ロシアなどで光学産業として継承され、
いわゆる「ロシアンレンズ」として、「ツァイスと同等」等
の理由で、後年(1990年代頃)には、国内マニア層にも
もてはやされた。その例としては、Jupiterなどのレンズ群や、
KIEV等の、いわゆるコンタックス・デッドコピー品がある。

(注:「技術が流れた」と、穏やかに説明する資料が多いと
思うが、実際には、工場設備、仕掛り部品、材料、設計図、
人材等の丸々一式が東側に「接収」されていると思われる。
で、ツァイスが100%東側に取られず、東西分断されたのは、
同様に米国もツァイス社の設備の一部を、西独側に急遽移転
させたからだ、との情報も残っている。
東側では、同じ工場で、そのまま名前の違う製品を製造するの
だから(デッド)コピー品(=他社の真似をした製品)という
よりも、「全く同じ製品」とも考えられるであろう。
近年でも、類似の実例だと推測されるのが、中国YONGNUO
でのCANON EFレンズのコピー(?)製品がある)
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他のドイツ老舗ブランドは、第二次大戦の影響が大きく無かった
ケースもある。そして、元々ドイツの光学産業は相互に微妙に
関連している事もあり、ハッセルブラッドや、ローライ等も
カール・ツァイス製のレンズを使ったり、またはそのブランド
名だけを供与してもらっていたり、はたまた、製造工場が同一
なケースも色々とあったと思う。すなわちこれらは、日本人が
想像するような、個々の有名ブランドが林立していると言う
よりも、「ドイツ光学産業」という、ひとつの全体的な企業体
であったような状況にも思える。(これもまた、軍需の為か?)
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その黄金期は、1930年代~大戦を挟んで1960年代位であろう。
この頃の日本では、まあ一応カメラやレンズを作ってはいたが
光学産業の歴史の長さの差により、ドイツ製品には歯が立たない。

なにせ、フォクトレンダー社などは18世紀のモーツアルトや
マリーアントワネットの時代から存在している超老舗企業なのだ。
国産初のカメラ(コニカ・チェリー)は、20世紀の製品である、
この歴史の差は埋めようが無い。

戦前では、だから、ライカやコンタックスなどは、国内に
おいても超高級な憧れのブランドであり、「こららのカメラ
1台で家が建つ」とも言われていた程である。
(注:1930年代末で国内での文化住宅であれば、その建設費が
現代の300万円程であり、まあ一応ライカ等と同等の値段だ)
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戦後、日本では精密機械工業が発展し、ライカやコンタックス
の設計をコピーしたカメラが大量に作られていた。
(これらは、勿論「同じ設備/部品を使っている」訳ではなく、
他社の設計や仕様を真似た、「コピー商品」である)
噂によれば、その当時の国内カメラメーカーは「AからZまで、
全ての頭文字のメーカーが存在していた」そうである。
多少オーバーな表現ではあろうが、数十というメーカーが
あった事は事実であろう。
(私も、図書館でこの時代のカメラ製品を全て調べている。
確かに非常に多かったが、AからZまでは無かったと思われる)

まあでも、そのようにメーカーが林立すると、中には性能や
品質の粗悪なものもあっただろう。戦後、ますますドイツ製の
カメラは「高品質で高性能」という事から、ユーザー層には
憧れの製品、そしてメーカーにとっては「追いつくべき目標」
となっていた。

1954年、この年は、国内で「ゴジラ」が初上映された年だが
ライツ社からゴジラ級のモンスター「ライカM3」が発売された。
当時のニコンでは、「M3に追いつくことは無理だ」と判断し、
それまで旧コンタックスのコピーのNIKON Sシリーズを展開
していたのを諦め、新分野の一眼レフ開発に戦略転換した。

1959年、NIKON Fが発売されると、他社も一斉に一眼レフ
に追従。旧来のレンジファインダー機よりも様々なユーザー
メリットがある一眼レフは、瞬く間にスタンダードとなる。
しかし、その複雑な構造は、戦後林立していた様々な機械
カメラメーカーでは対応できない場合も多く、ここで沢山の
中小メーカーが淘汰されている。(まあ、一眼レフ化する
事で、多数の林立するメーカーを蹴落す意味もあっただろう)

この頃、その後に続く国内カメラメーカーが一通り出揃った
事となる(NIKON,CANON,PENTAX,OLYMPUS,MINOLTA,
YASHICA・・等)
これら国産一眼レフは、海外にも当然輸出され、このあたり

から国産カメラの大躍進が始まる訳だ。
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1970年代になると一眼レフはまた進化し、自動露出(AE)の
機能が搭載されるようになる。が、もうこうなるとカメラは
それまでの「精密機械工業」ではなく、「電気機械工業」
(メカトロニクス)製品である。
日本が「電子立国」としての発展期であったので、これら新技術
は、どんどんと進化していく。(マルチモードAE化、CPU搭載等)

だが、この時代に、これまで黄金期を築いていたドイツ光学産業
と、その老舗ブランドは、全て壊滅的とも言えるダメージを受けて
しまう。「電気化」というカメラ産業構造の大きな変革に耐える
事ができず、さしもの老舗ブランドも、日本メーカーの技術力を
得て、協業してカメラを作るか、あるいは、潔く撤退せざるを
得なくなった。

事実、この1970年代に、ツァイス(コンタックス)ですら
カメラ事業から撤退、それは日本のヤシカ(後に京セラ)に
ブランド移譲を行う事になった。以降、ツァイスの写真用交換
レンズは、ほぼ全てが日本のメーカーにより製造されている。
(一応、ツァイス社が監修している、という形になっている。
まあ、ブランドを売っている、というビジネスモデルである)

ただまあ、ドイツ老舗ブランドは強力な「商業的価値」がある。
詳しい歴史を良く知らない、現代のシニア層やビギナー層でも
ライカやツァイスといったブランド銘をありがたり「それらは
高級品で高性能である、だから高価なのだ」と信じて疑わない。
実際には、もう50年間も、カメラ事業(生産)を行っていない
にも係わらず・・である。

カール・ツァイスは巨大な総合光学機器メーカーなので、まあ
写真事業をやめても勿論生き残っている。ライカもブランド力が
高い為、ミノルタや、後にはパナソニック等、国内メーカーと
協業しながら現代に至っている。
しかし、ローライやフォクトレンダーは、とっくにカメラ事業から
撤退し、その名前(ブランド銘)だけが、1970年代以降に様々な
企業に買われて、転々としている状態であった。ある時期には、
その名前を買った企業が、ローライのブランドで二眼レフ等の
カメラを作っていたとしても、もはやクラッシックな製品だ。
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国産のカメラは、その後の時代でさらに進化し、1990年頃には
一眼レフもコンパクト機も殆ど全てAF(オートフォーカス)化
された。もうこのあたりで国産カメラは海外にも敵無しの状態
となっていく。そして2000年代からは、デジタル化の大激変で
ある、もうフィルム時代のカメラとは全くの別物であり、国内
大メーカーですら、その大変革に追従する事は簡単では無い。

国内の各カメラメーカーは、1960年代の一眼レフ化時代、
1970年代のAE化時代、1980年代後半のAF化時代、2000年代
のデジタル化時代のそれぞれの段階で、事業構造の激変について

いけず、撤退または脱落したメーカーが多数出てきていて、
もう現在では、カメラメーカーは数える程しか残っていない。

海外のメーカーも当然、そこまでの、どれかの段階で撤退して
しまっている、今でも残っているのは、単に「ブランド銘」だけ
という状態である。
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さて、日本のコシナ社は1970年代~1980年代にかけ、国内
の多数のメーカーのカメラやレンズを委託されて生産を行う、
いわゆる「OEM」メーカーであった。

この時代のOEMメーカーには他に「GOKO」社等があり、あるいは
後のデジカメ時代では「SANYO」社が知られている。
いずれもOEMとしては超大企業であり、ある時代の全カメラの
過半数を、そうしたOEMメーカーで生産していた事すらある状況だ。

OEMメーカーは世に知られていない、だからブランド力も無い、
ツァイスやライカの名前がついていれば高く売れるレンズでも、
たとえ同等の性能であったとしても、コシナ銘ブランドであれば、
高価に販売する事はできない。
何も知らない初級消費者層は、それらを見て、こう言う
消「何? コシナのレンズ? 知らないなあ、どうせ性能が
  低い三流メーカーの安物だよ、買うのはやめておこう」

だから1990年代のコシナ銘のレンズは、哀れ、定価の7割引
とかの酷い値付けで販売されていた。具体的には定価が5万円
と記載があるが、新品実売価格は14,800円等の状態であった。

まあこれは、どうせ1万円台程度でしか売れないから、そういう
風に定価を上げて書いてあるだけであり、よって、最初から
その販売価格に見合う低コストな設計しかしていない。
値引率に惹かれて買ったユーザーも「やっぱり性能が良く無い、
所詮は三流メーカーか」と、そういう風に評価したであろう。

ただ、コシナを知らないのは一般層のみであり、上級マニア層
では、コシナが各社のカメラやレンズを受託製造している巨大
企業(製造工場)である事は知っている。だから、これらの
コシナ製格安レンズをこぞって入手し、その弱点(例えば開放
近くでの収差発生による描写の甘さ等)を回避しながら使い、
「値段の割りによく写るハイコスパレンズだ!」という評価を
下す事となる。

そして、コシナ社自身も、この現状(ブランド知名度が無い)
事は良くわかっている。おりしもデジタル化時代も近い、
もしカメラがデジタル化したら、もうコシナ社に製造の依頼
が来る筈もない、コシナ社の生産ラインでは、MFのカメラや

レンズが主力であり、AFレンズですら製造は難しかったのだ、
そこにデジタル・・ もう、どうしようも無いでは無いか・・

コシナ社は「ブランド」を強く欲した。その結果、1990年代に
宙に浮いていた「フォクトレンダー」に目をつけ、これと交渉
し、1999年には、国産フォクトレンダーブランド初の銀塩
カメラ(BESSA-L)を発売、その後数年間で、畳み掛けるように
極めて多数のカメラとレンズ群をフォクトレンダー銘で発売。
恐らくは、もうとっくに設計は完了してあったのであろう、
「後は名前だけ」という状態であったに違い無い。
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ただ、せっかく高価に買ったブランド銘である、これまでの
自社ブランド品のような、コストダウン型の設計をしたら、
ブランド銘に傷がつく。だから、フォクトレンダー銘の
カメラやレンズは、品質や性能が第一となり、当初は非常に
高性能な製品が適価で発売されていた。
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ただし、これらは適価とは言え、これまでのコシナ社の
カメラやレンズ群よりもはるかに高価であり、5万円~10万円
という価格帯、そして新品値引きも殆ど無い。おまけに
あまりに多数の製品が次々に発売されるのだが、それらが継続的
に生産されることはなく、欲しいと思ったら買っておかないと
買いそびれてしまい、以降、入手困難になってしまうのだ。

私は、2000年代初頭、これら、フォクトレンダー銘で次々に
発売される新カメラや新レンズを買うのに忙しく(汗)
おまけに、ほとんど新品値引き無しで買わなくてはならず、
結構、いいようにフォクトレンダーの戦略に乗せられてしまって
財布が軽くなり続けた状態であった(汗)
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前述のように、これらの2000年代初期フォクトレンダー製品
の一部は生産数が少なくて、後年には入手困難になった為、
流通側や投機層により「プレミアム価格化」してしまった
ものも多くある。

しかし、私に言わせれば、まあ、初期フォクトレンダー製品は
確かに、そこそこ性能は優れているが、新品値引き無し販売で、
当時としても「コスパが若干悪い」と感じていた製品群であり、
後年に、その当時よりも高価に買う等は、ちょっと有り得ない
話であると思っている。後になって「欲しい」と言ったマニア
などには、必ず「何故、買える時に買っておかなかったのだ!」
と一喝する事にしている。

自身の価値感覚を持たず「誰がか良いと言ったから買う」等の
受動的な機材購入行動をするようでは、マニアとは呼べない。
優秀と思われるレンズは自力で探し出し、買える時に適切な
価格で買わないとならない、それが「マニア道」での鉄則だ。
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さて、初期フォクトレンダー製品は、2000年代前半を通じて
マニア層には人気であった。・・というか、あえて製品企画
をマニア向けにターゲットを絞り、マニア層が反応しそうな

製品群を小ロット(多くても数千本or台、これは上級マニア
層の実数とほぼ同じ)で生産して、個々に売り切っていたのだ。
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ところが、2000年代前半、一眼レフのデジタル化が進み、
一般層に普及したのみならず、銀塩マニア層ですらも、
デジタルカメラに主軸を移すようになると、さすがに初期
フォクトレンダーの戦略(銀塩レンジ機や、その交換レンズ群、
稀にMF銀塩一眼レフマウント用の交換レンズ群が主流)は
もう通用しない。
そこでコシナ社が意図した事は、新規ブランドの取得である。

京セラ・コンタックスが、デジタル化の事業構造の大変革に
耐えられず、2005年にカメラ事業から撤退。CONTAXが撤退
してしまうと、カール・ツァイス社もブランド提供先に困って
しまう。そこへコシナ社が名乗りをあげ、カール・ツァイス銘の
レンズ製造権を取得した。同様にコシナは「ツァイス・イコン」
も取得したが、この名称を用いた銀塩レンジ機は、1台だけ
発売されたものの、既に世の中ではデジタル化が進んでいて
銀塩カメラはもう注目されず、商業的に失敗に終わっている。
(注:ツァイス社からの委託生産品だった、という話もある)

しかし、ツァイスブランドのレンズの方は、2006年より
多数の高級レンズの展開を開始、こちらは初期フォクトレンダー
製品(レンズ)よりもさらに高価で、10万円~20万円もする
MFの一眼レフ用交換レンズ群であったが、ツァイス銘レンズの
復活は、マニア層にはウケが良かった。
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ただ、ツァイス銘を使用しているのはコシナ社だけでは無い。
SONYは、2000年代からビデオカメラやコンパクトカメラの
搭載レンズにおいて、テッサーなどのツァイス商標を部分的
に使用していた。しかし、コニカミノルタが2006年に上記の
京セラと同じ理由で、デジタル化に耐えられずカメラ事業から
撤退し、SONYにαブランドとカメラ製造ノウハウを譲渡
すると、SONYもコシナ同様に、一眼レフ用交換レンズでの
ツァイス銘の使用権を取得、2006年には、SONY製の初の
デジタル一眼レフα100の発売に合わせて、3本のツァイス銘
高級交換レンズを発売している。
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ツァイス銘を取得したコシナが、2006年から発売している
初期コシナ・ツァイス銘レンズの多くは、銀塩時代に
(ヤシカ・京セラ)コンタックスが、ツァイス社監修の元で
設計開発したレンズ群(例:RTSプラナー等)の設計をそのまま
踏襲して、コシナ社で製造したものを発売していた。

・・しかし、ここまでの話は全て事実ではあるが、ユーザーの
立場から見て、どう思うだろうか? 結局、ツァイスとか
ローライとかライカとかフォクトレンダーやらの老舗ブランド
銘は、現在では実際にはカメラやレンズを作っている訳ではなく
単に、その名前だけを国内外の各社が取り合って、自社製品に
その名前をつけてカメラやレンズを販売しているに過ぎない。

勿論、その名前の分だけ高価な商品になる、名前の提供元に
ライセンス料(=暖簾代)を支払わなければならないからだ。
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だけど、その中身は、コシナ製やSONY製やPanasonic製である、
私に言わせれば、そうしたメーカーにおいては、
「そこまで高性能な製品(レンズ)を作れる技術があるのならば
 もう「名前」はいらないから、その分だけ安く売って欲しい。
 あるいは、同じ値段でもいいから、ブランド名を外して、
 その分だけ、思い切り贅沢で高性能な設計にしてもらいたい」
というニーズが出てきてしまう訳だ。
(参考:SIGMA Art Lineレンズなどは、後者のコンセプト
であり、個人的に気に入っている。下写真)
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が、世間一般には、この理屈は通用しない。「有名なブランド
銘が入っていれば、高性能(高品質)であり、知らない名前の
製品は、三流の低品質な製品である。安かろう、悪かろう!」
と世間一般の大多数が、そういう誤まった価値感覚(常識)を
持っている状況である。

まあ、私に言わせれば、消費者側の無知も、ここまで行くと
情けない話である。下手をすれば、そういう人達と同列に
見られたくも無い為、意地でも有名ブランド銘の入った写真
用機材(製品)は買いたく無い、と思ってしまいかねない。

事実、私個人的には、その傾向(志向)が極めて強く、だから
銀塩時代から現代に至るまで、老舗ブランド銘の入った機材を
ほとんど所有していない。「どうせ、どこかの国内メーカーで
作っているものを、名前だけで高価に買うなど、意味が無い」
と強く思っているからだ。

冒頭に「ブランド製品には興味が無い」と書いたのは、
そういう事情があるからである。

でもまあ、「フォクトレンダー」に関しては、ギリギリで
セーフであった。このブランドを知っているのは、中上級
マニア層のみであり、逆に言えば、「知名度は無い」とも
言えるわけであり、一般層が欲しがったりする事も無いし
「投機層」が値上げや転売の為に目をつける事も無かった。
(注:2010年代後半では、残念ながら投機対象となってしまう)

他の海外老舗ブランドや、国内でもニコン製の限定品、などは
投機対象商品となってしまい、買占めとか相場高騰とか高額での
売買とか、すぐに、そうした「写真の本質」とは全く関係の無い
方向に行ってしまうのだ。
(注:2019年頃からは、一部の商品で「不正転売禁止法」
が施行されたが、全ての商品にそれが適用されてはいない)

これは、実用派マニアとしては、受け入れがたい世界であり、
せっかく買ったカメラやレンズを「価値が下がるから使わない」
などと言われてしまったら、非常にがっかりする。
カメラやレンズは写真を撮る為の「道具」である、道具として
生まれてきたのに、その使命を全うできないなどは、カメラや
レンズからすれば、なんて可哀想な話なのだろうか。

まあ、機材を投機対象とする人達は、道具としての愛着を
持たない人達(=写真を撮らない人達)が全てである。それは
まぎれもない事実だ、何故ならば、仮に私がそうした投機対象
にもなる希少な機材を買ったら、何が何でも使ってみたいと
思うであろう。それが知的好奇心であり、マニア道の原点だ。
そう思わず、カメラやレンズを、骨董品のように単なる取引上
での「商品」としか見なしていない人達でないと、とても、
使わずに転売などは出来ない筈だ。

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さて、余談が長くなったが、歴史の話に戻ろう。
コシナ・フォクトレンダーも2000年代後半には、その方向性
を見失ってしまっていたように見えた。


今更銀塩カメラを売り出しても、世の中は全てデジタル機
だから、もう売れない。
交換レンズは、好事家向けに、ライカマウントの製品の販売
が継続されてはいたが、出荷数はもう少ないだろう。
まあ、頼みの綱のツァイス銘レンズは、そこそこ売れていた
模様ではあるが、販売数は勿論少ない、だから売り上げ金額
の減少を利益率でカバーしなければ事業が維持できなくなる
ので、新製品は、ますます高価な「高付加価値型」商品となる。

「フォクトレンダーも同様な高付加価値化が必要だ」、
コシナ社はそう考えた事であろう、2010年頃にミラーレス機
(μ4/3)専用マウントで新発売された、フォクトレンダーの
新レンズ群は、実に、開放F0.95という超大口径レンズと
なっていた(「ノクトン」シリーズ。計6種が市販されている)
ここまで特殊なスペックは、十分に高付加価値化の理由となる、
販売数は少ないだろうが、欲しいというマニア層は居る。
だから、これまでのツァイス銘レンズと同様に、ここから
フォクトレンダー銘のレンズ群も、定価10万円オーバーの
高価格帯に突入してしまった。

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2013年に、SONYからフルサイズミラーレス機、α7/Rが
発売されると、中上級マニア層はそれを入手し、オールド
レンズのフルサイズ母艦としての利用を始める。


実際にα7は、オールドレンズの母艦には向かないのではあるが
(ミラーレス・クラッシックス第13回記事参照)、マニアとは
言っても全員が細かいカメラ評価技能に精通している訳でも無い。
世の中の流行や動向(ムーブメント)が、そうであれば、実際の
得失とは無関係に、それがデファクト(事実上の)スタンダート
(標準)となっていく。

巷では、α7系カメラや他のミラーレス機を用いて、オールド
レンズを装着した解説本や写真集などが多数刊行されていた、
そう、「第二次中古レンズブ-ム」の到来である。
(ただし、このブームは、1990年代の第一次ブームのように、
一般層まで波及することはなく、マニア層の範疇で留まった)

で、マニア層の市場動向の調査に余念が無いコシナ社がそれを
見逃すはずは無い。2010年代後半には、SONY E(FE)マウント
を意識し、これまでの他マウントのフォクトレンダー銘
レンズを、次々にEマウント化し、若干の設計変更などで
高付加価値化し、初期(2000年代前半)フォクトレンダーの
数倍という高額での発売を始めた。

しかし、単なる旧製品の焼き直しでは、上級マニア層が多い
コシナ・フォクトレンダー/ツァイスのユーザー層から、
不評を買ってしまう、まあレンズ改良は必須、デザイン性も
意識しなければならないし、さらには、全くの新設計の新鋭
レンズの発売も時には必要となるだろう。
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新製品としては、「マクロアポランター」シリーズがある。
2017年のフォクトレンダー マクロアポランター65mm/f2
2018年のフォクトレンダー マクロアポランター110mm/f2.5
がその代表格である。
定価が12万円~15万円もする高額レンズだ、もはやツァイス
でもフォクトレンダーでも高価な事には変わり無い。
でも、ツァイス銘レンズはもっと極端だ、Otusシリーズ等は、
定価が40万円~60万円もする。

僅か20年前の1990年代後半では、コシナ社製のレンズは、
1万円台前半で新品購入できたのだ、それが今では60万円、
20年間で、同じメーカーの同様な製品が、40倍も値段が
上がった国内での例は、私は他には知らない。

(注:海外諸国においては、稀に経済や世情の不安定を
原因として、3年間で2倍以上の物価高騰となる、
「ハイパーインフレーション」が起こる事も稀にある。
日本では、1970年代の狂乱物価や、1990年前後の
バブル景気があったが、同等の製品が40倍も価格が
高騰した例は無いと思う。かの「ゴルフ会員権(券)」
ですらも、バブル期での相場高騰は10倍程度だった)

事業構造の変革、世の中や市場の変化、ブランドの価値感覚、
いくつかの要因が絡み合って、この状況の変化が訪れた。

もはや、コシナの事を「三流メーカー」等と言うユーザーは
誰も居ない。「ああ、フォクトレンダーとかカールツァイス
とか、やたら高いレンズを作っている高級品メーカーが
コシナなのでしょう?」と、初級マニア層でも、ほぼ正確に
現在のコシナ社の立ち位置を理解している。

しかし、その結果、一部で弊害も起きている模様である。
入手困難となった初期フォクトレンダー(2000年代前半)
のレンズを、「コシナが作っていたレンズだから、恐ろしく
性能が高く、良く写るに違い無い」と、見た事も使った事も
無い人達の間で、それらが「神格化」されてしまったのだ。

そうして、マクロアポランター125mm/f2.5SL等は、発売時
定価(10万円以下、後年には5万円以下の新品販売価格)を
遥かに越える、20万円程度の高額相場で取引されていると聞く。
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まあでも、ちよっと待って欲しい。MAP125/2.5は、非常に
使いこなしが困難なレンズであり、本ブログの「使いこなし
が難しいレンズ特集」(レンズ・マニアックス第12回記事)
でも、ワーストワンとなった、いわくつきレンズなのだ。

それを使う位ならば、2010年代後半のマクロアポランター
の方がはるかに使い易いし、描写力も17年のもの時代の差
を経て、新機種が優れている。わざわざ昔のモノを探して
無理して高価に買う必要性は無いではないか。
それこそ、「何故買える時に、買っておかないのだ!」と
一喝する事になってしまう。

参考記事:特殊レンズ・スーパーマニアックス第11回
「マクロアポランター・グランドスラム編」記事参照。

さて、余談ばかりになって、ちっとも肝心の老舗ブランド
のカメラやレンズの個別の話ができていなかったのだが、
まあ逆に言えば、そうした二次情報は、世の中のどこにでも
存在している。本ブログでは、本ブログからでしか得られない
情報を提供したい、というコンセプトがある。

新生フォクトレンダーの話が主体ではあったが、老舗ブランド
と、それをとりまく歴史や世情、世の中の動向。それらは

マニア層であれば、必ず知っておかなくてはならない事では
なかろうか・・・

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さて、今回の記事は、このあたりまでで・・
次回は、引き続きカメラメーカーの歴史的な変遷の話とする。


特殊レンズ・スーパーマニアックス(50)中望遠マクロ レジェンド

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズをカテゴリー
別に紹介している。


今回は「中望遠マクロ レジェンド」という主旨で
銀塩MF時代より現代に至るまでの中望遠マクロレンズ
を年代順に8本紹介しよう。


なお、「中望遠マクロ」の定義だが、今回の記事では
*実焦点距離が概ね90mm~125mmまでの範囲 で
*最大撮影倍率が1/2倍以上のMFまたはAFレンズ
とする。

特に今回は「レジェンド」という主旨なので、銀塩時代の
古めのマクロが多く、結果的に全てのレンズがフルサイズ
対応となっている。そして、一眼レフ用のみならず、
一部にフルサイズ・ミラーレス機用マクロも含まれる。
また、全て単焦点レンズである。

なお、紹介本数が多いのと、各レンズは過去記事で紹介済
の為、個々のレンズの説明および写真掲載は最小限とする。

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ではまず、最初の中望遠マクロシステム
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レンズは、NIKON Ai Micro-NIKKOR 105mm/f4
(中古購入価格 8,000円)(以下、Ai105/4)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

1977年発売のMF小口径中望遠マイクロレンズ。
(1/2倍仕様)レンズ・マニアックス第16回記事で紹介。

「硬質」な描写傾向のイメージを持つオールドマクロだ、
「硬質」というのは、具体的には、「解像感が強く、
ボケが固い(=ボケ質破綻が出る)」という感覚である。
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まあ、その背景には、当時の世情もあり、それはこの時代
(1970年代頃まで)のマクロ(注:NIKONではマイクロと
呼ぶ)レンズは、まだ普及していなかったコピー機の代替
としての用途もあり、その為に、ボケ質よりも解像力等を
優先とした設計コンセプトになっていたからだと思われる。

同時代の他社マクロレンズ、あるいはNIKONのマイクロでも、
ほぼ同様の描写傾向を持つ物も多い。

ただ私は銀塩時代の末期、1990年代においては、こうした
描写傾向が好きでは無かった。何故ならば新鋭のAF&等倍
マクロ(例:後述のTAMRON SP90/2.8等)の描写傾向が
大変優れていた為、こうしたオールドマクロの描写特性が
「時代遅れ」に感じてしまっていたからだ。

なので、その頃に所有していたオールドマクロを何本か
処分してしまっていた。「新時代のマクロがあれば、古い
ものは要らない」という考えからである。

だが近年、2010年代になってからミラーレス機等を用いて
まだ手元に残っていた何本かのオールドマクロを試写して
みると「現代となっては、なかなか得られない個性だ」と
感じるようになった。
まあ、俗に言う「一周廻って新しい」という感覚に近い
物があるとは思う。


よって、近年では、こうしたオールドマクロを見つけると
購入するようにしている。中には過去に一度手放したレンズを
再購入したケースも何本かあって、無駄なような気もしたが
まあ、やむを得ない。つまり「好みが変わった」という状況だ。

後、本Ai105/4だが、同時代の「KONICA MACRO HEXANON
AR 105mm/f4」(レンズ・マニアックス第19回記事)に、
そっくりの描写傾向であるような気がしてならない。

ただ、そちらのAR105/4は、ベローズマクロという特殊な
仕様なので、厳密に条件を揃えて比較する事が困難だ。
KONICAのマクロレンズは、さほど数が多くなく、数機種程度
しか存在しなかったのではなかろうか? その状態でマクロ
設計のノウハウが溜まっているとは思い難く、「もしかすると
NIKONから設計を買ったのでは?」という変な想像も出てきて
しまう・・

あるいは、Ai105/4も、AR105/4も「ヘリアー型」
という、1900年頃に発明された3群5枚の伝統的な
レンズ構成を採用しているので、両者とも、コピー元が
同じであれば、同等の設計になったのかも知れない。

まあでも、そのあたりは、もう40年以上の昔の話であり、
その真相は闇の中だ。
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本Ai105/4の(AR105/4も)シャープな写りは、現代的な
マクロレンズの特性を見慣れていた感覚からは、そこそこ新鮮
であると思う。こうしたシャープさをどのように利用するかは
被写体の選択や、現代のデジタルカメラ側の設定や、PC等に
よる編集作業で、どうとでもコントロール出来るであろう。

逆に課題となるボケ質破綻については、ミラーレス機等で、
それを回避して用いれば良いという事となる。
本レンズの母艦としては、いつもNIKON Dfを使っているが、
このシステムではボケ質破綻の回避技法が使い難いのは
確かだ、だが、Dfはピクセルピッチが広くローパス有りの
仕様である為、レンズの強さに負けてカリカリ描写には
成り難い、このバランスが、なんとなく丁度良いような
気もしている訳だ。

母艦を色々と変更すると、描写傾向が変わるようにも思える。
まあ、あれこれと試して「研究」を行う為の、素材(教材)と
しては、なかなか面白いレンズではなかろうか・・?

ちなみに中古市場においては、後継の「F2.8版」(1984~)
が初級マニア層に人気だ、何故ならば後継レンズは大口径化
しているし、レンズ構成も複雑化しているからだ。
(本Ai105/4は3群5枚、Ai105/2.8は9群10枚)
だから、本F4版は比較的安価な中古相場で入手できる事も
メリットであると言えよう。

だが、初級層等では、そうした「数値スペック」だけを比較
してしまうので、後継レンズの方が、ずっと優れたレンズで
あるように錯覚してしまう。

現状、F2.8版を所有していないので、細かい言及は避けるが
このように大きくスペックが変更されたケースにおいては、
両者は「完全に別物である」と思っておくのが無難であろう。
つまり、どちらかだけを持っておけば済む、とか、どちらが
良いか?とかの話にはならないと思うので、その差が気に
なる場合は、両者を入手して比較してみるしか無い。

まあ、恐らくだが描写傾向も全く異なる事であろう。
そうなると、次に何をするべきかは、両者の特性を良く理解
した上で、被写体状況に合わせて使い分ける方法論を考察する
事である。これもある意味「用途開発」であり、それが出来る
ならば、個々のレンズは、それぞれを所有する意味が出て来る。

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さて、次のシステム
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レンズは、TOKINA AT-X M90 90mm/f2.5 Macro
(ジャンク購入価格 2,000円)(以下、ATX90/2.5)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)

1979年発売のMF中望遠マクロレンズ。(1/2倍仕様)
(レンズ・マニアックス第37回記事で紹介予定)

故障品である。ヘリコイドが無限遠まで廻らず、5m付近
までで停止してしまう。これは残念ながら購入前には
気がつかなかった。まあ、他には程度は良かったので、
「ジャンク品とは不思議だ、安すぎる」と思って購入した
のだが、とんだ「落とし穴」だった(汗)

まあ、幸いにして、マクロレンズであるから、近接撮影
専用として使えば良いであろう。
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・・で、その際の描写力だが、非常に高い。
この1979年と言えば、丁度TAMRONよりロングセラーの
名マクロ、SP90mm/f2.5(52B)が発売された年である。

何故、TAMRONの90マクロの方が有名になって、
本ATX90/2.5が全く注目されなかったのか?今となっては
不思議でならない、52BB型は後で紹介するが、それと
比べても、勝ると劣らない本ATX90/2.5である。

本レンズは、TOKINAのATX型番の初のレンズである。
ATXは、TAMRONのSPと同様、当時としては高性能レンズ
の証の型番であろう、気合の入った設計、という事だ。

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・・つくつく、何故本レンズが注目されなかったのか?
さっぱり意味(理由、原因)がわからない。
TOKINAがあまり注目されていないメーカーであったからか?

TOKINAが本レンズ以前の時代では、比較的安価なレンズ
ばかりを作っているレンズメーカーだった事もあるだろう、

ただ、それはあまりにもユーザー側の一方的な思い込みだ。

まあ、あまり褒めて中古相場が上がったりしたらかなわない、
なにせ、本レンズは殆ど中古市場に出て来ないレア物だ。
それに、もし完動品を見かけたら、私が真っ先に欲しい、
故障品で所有しているだけでは、あまりに惜しいレンズだ。

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では、3本目のマクロ
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レンズは、TAMRON SP 90mm/f2.5 (52BB)
(中古購入価格 20,000円)(以下、SP90/2.5)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1(μ4/3機)

1988年発売のMF中望遠マクロレンズ。(1/2倍仕様)
ハイコスパレンズ・マニアックス第15回記事等で紹介。

初期型の52Bは、前述のように1979年に発売されている。
本レンズは後継型ではあるが、初期型とは光学系に変更
は無かったと思われる。
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現代にも、その血脈が続く、いわずと知れた
「90マクロ」の初期のバージョンである。

ただ、F2.5版とF2.8版では、描写傾向が全く異なり、

F2.5版(1979~1996年、全てMF版)
は、中遠距離の撮影が高描写力でマクロはおまけ。

F2.8版(MF版1996年~後にAF版、後年にデジタル対応)
は、近接撮影時が高描写力で中遠距離撮影は弱い。
(注:光学系が変更されたF004以降は後日紹介予定)

・・という設計コンセプト上の大きな違いがある。
近距離から遠距離まで全て高画質に出来るのならば嬉しい
のだが、限られた条件(技術、設計、製造、コスト等)の
中では、何かを優先すれば何かが犠牲になるのはやむを得ない。
それを「トレードオフ」と言って、世の中では当たり前の話だ。

まあ、本レンズも、確かに「レジェンド」ではあるが、
さすがに現代の視点からは古さが目立つようになって来ている。
その「全てに高性能なマクロ」も、現代においては、有り得る
話だからだ、そのあたりは後述して行こう。

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では、4本目のマクロ
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レンズは、COSINA MC MACRO 100mmf/f3.5
(新品購入価格 14,000円)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

1980~1990年代頃(詳細不明)と思われるMF小口径
中望遠マクロレンズ。(1/2倍仕様) 

ハイコスパレンズ・マニアックス第15回記事等で紹介。

いわゆる「平面マクロ」であり、硬質の描写特性を持つ
事は、前述の1970年代マクロと大差が無い。
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まあ、このレンズの発売時、コシナは、まだ世の中では
無名のOEMメーカーであった。自社のブランド力が無く、
(仮の)定価の7割引の、1万円台で、安価なレンズを
売るしか無い状況であったのだ。

1999年にフォクトレンダーのブランドを取得してからの
コシナは、贅沢な設計の高価な商品を堂々と作れるように
なった。本記事のラストに登場する「マクロアポランター
110mm/F2.5」は、同じコシナ製品ながら価格が10倍も
異なる、これが「ブランド」の意味である。

ただ、結局、ビギナー層が「有名だから」という、全く根拠
が無く、自身の価値感覚も無い状況で製品を買う為、様々な
ブランド品は高額になってしまうのだ。
何もわかっていないビギナーが、だたブランド品を欲しがる
だけならば、まあ、やむを得ないのだが、その結果として
周囲にも影響が出ている。すなわち、私としては、例えば
マクロアポランターは「コシナ」銘のままでも良いから、
もっと安価に売ってもらいたい訳だ。つまり「ブランド」
なんか、そもそも不要であるし、元からそうした「名前だけ」
の要素に左右されるような価値感覚は一切持っていない。

本レンズの評価も最小限に留めておこう。
変に、「コシナのレンズって意外に良く写る」などという
話が広まって、「コシナ」そのものがブランド品になって
しまったら、それこそ購入者の立場での迷惑だからだ。

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さて、次のシステム
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レンズは、MINOLTA AF Macro 100mm/f2.8 (NEW)
(中古購入価格 18,000円)
カメラは、SONY α77Ⅱ (APS-C機)

1990年代のAF中望遠等倍マクロレンズ。
ミラーレス・マニアックス補足編第5回、本シリーズ第31回
「AFマクロ・レジェンド(1)]記事等で紹介。

銀塩時代に本レンズの初期型を使っていたが、同時代の
同社製の標準マクロのAF50/2.8 Macro(初期型)に比べ、
写りが気に入らず、短期間で処分してしまっていた。

しかし、冒頭のNIKON Ai105/4の所で書いたように、
現代においては、オールドマクロの特性も興味深く、
そのように「好みが変わった」故に、本レンズも近年に
買いなおした次第である。
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ただ、正直言って本レンズの描写はやはり、あまり好みでは
無い。具体的には解像感が低く感じる事が最大の課題であり、
それについては技法で回避する術が無く、被写体を選別する
事で対応するしか無いからだ。
まあ、カリカリマクロも使いこなしが難しいが、甘いマクロ
も難しい、丁度良いマクロというのも、なかなか少ない訳だ。
また、逆光耐性も弱い、この点、以前使っていた初期型の
方がマシであったとも記憶しているが、所有時期が20年も
時間が開いてしまったので正当に比較する術(すべ)が無い。

いずれにしても、まだ時代的(技術的)に、ほんの少し
完成度が低いように思える。
このような研究を繰り返していると、各社のAF(等倍)
マクロの完成度が高まった時代は、もう少し後、1990年代
後半位であったように思われる。

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では、6本目のマクロシステム
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レンズは、TAMRON SP 90mm/f2.8 Macro (172E)
(中古購入価格 20,000円)(以下、SP90/2.8)
カメラは、PENTAX K-5 (APS-C機)

1999年発売のAF中望遠等倍マクロレンズ。
ハイコスパレンズ・マニアックス第14回、本シリーズ第32回
「AFマクロ・レジェンド(2)」等、多数の過去記事で紹介。

高い完成度を誇る、誰もが知る名マクロレンズである。
基本的な光学系は、前モデルのF2.5系から変更されて
いる事は前述の通りだ
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この光学系(9群10枚)は、近年、2012年に至るまで
引き継がれていた、つまり、その間に「設計改良の必要性が
無かった」という優秀な設計である。

その間で唯一変更があったのは、2004年の272E型から、
後玉にコーティングを施し、デジタルカメラのセンサーでの
内面反射(画間反射)を抑える改良が施された事である。
その改良の効果だが、大差は無いと思われる。

何故、古いままのモデルを(しかも同型を2本も)使って
いるか?という点だが、その2004年の「デジタル対応」
の際、一部の発表で「テレセントリック特性を改善した」
という話があったように記憶している事が発端となった。

「テレセントリック」とは、正式な光学用語では少々複雑な
定義となるのだが、ごく簡単に必要な部分だけを述べれば、
「レンズの後玉からの光束が、センサーに真っ直ぐ当たる」
という意味が含まれている。(272Eでは、そのように後玉
を改良した、というレビューをどこかで見かけていた)

まあ、撮像センサーは、フィルムに比べて、斜めから入射
する光に弱い、だから真っ直ぐ上から当てた方が良く写るに
決まっている。よって私も「優秀なTAMRON 90マクロが、
さらにデジタル機に向くように改良された」と、勝手に
思い込んで、この新型(272E)を購入対象とした。

だが、すぐ買うのはしゃくだ、既に新旧まじえて3本の
90マクロを所有している、しかも2000年代では、デジタル
一眼は、ほぼ全てAPS-C機だ、90マクロは135mmレンズ
相当となり、やや長目のマクロで用途が限られている。


「後継機が出たら、272Eの中古を買うか・・」と思ったが
その後、なかなか後継型が出てこない。
それは遅れに遅れ、なんとフルサイズ機が身近になった、
2012年まで8年間も新製品(F004型)が出て来なかった。

で、後継機が出た時点で、やっと旧型272E型の仕様を
詳しくチェックしてみる、すると、2004年の当時には
「テレセントリック特性が・・」とか言われていた情報は
既に見当たらなく、TAMRONのWEBでは「後玉反射防止
コーティングが施された」という内容が乗っているだけ
であった。

これは私が勘違いしていたのか?、それとも、どこかの
レビュー記事が勘違いしていたのか?もう良くわからない、
あくまで、8年前の記憶に頼った話なのだ。
私は「なんだ、コーテイングだけの変更か」と、272E型
の購入を一旦保留する事とした。

ちなみに、それまでの時代の90マクロは、定価68000円、
新品実勢価格4万円台、中古2万円前後、とだいたい相場は
決まっていたのだが、後継のF004型は、定価9万円で
中古も5万円前後からと、入手可能価格は旧来の2倍も
高価になってしまっていた。その理由が「内蔵手ブレ補正
と超音波モーター」の新搭載である事は明白であったが、
すなわちそれは「高付加価値戦略」である。

しかし、近接撮影専用レンズであるから、手ブレ補正は
被写体状況にマッチせず、MFで使う頻度が高いから
超音波モーターも不要だ。

私は「不要な機能の搭載は、値上げの弁明だ」と、
好印象を持てず、F004型を無視する事とした、


が、後年、良く調べてみるとF004型は光学系も11群14枚に
変更され、異常低分散ガラスも使っている事がわかった。
・・まあ、興味が無かったのであまり調べてもいなかった訳
であり、所有もしていないレンズの事は良くわからない。
(なお、さらに後継のF017型は、F004と同じ光学系だ)
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結局、私としては20年間以上も新型を無視してきた状況だ。
しかし、F004型も既に2016年に生産中止となり、中古相場も
下がり続けている、もう少し安価となり、旧モデルでの相場と
同等の2万円程度に到達したら、F004を入手して、新旧の
光学系の比較をしてみよう、と考えている。
40年を超えるTAMRON 90マクロの歴史と技術の変遷を知る
上で、各時代の代表的な機種は研究対象としても有益だと
考えているからだ。
(追記:本記事執筆後に、相場が安価となった272E型と
F004型を無事購入できた。
これで「90マクロ」の全光学系が揃った事になる。
いずれ別記事で、全ての「90マクロ」を比較紹介予定だ)

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では、7本目のマクロ
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レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 125mm/f2.5 SL(注:スペル上の変母音の記載は便宜上省略している)

(新品購入価格 79,000円)(以下、MAP125/2.5)
カメラは、CANON EOS 6D(フルサイズ機)

2001年に発売されたMF(中)望遠等倍マクロレンズ。
本シリーズ第11回「マクロアポランター・グランドスラム」、
レンズ・マニアックス第32回「新旧マクロアポランター対決」
等、多数の過去記事で紹介済み。
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現代では入手困難なレンズである、残念な事に「投機対象」
となってしまい、たまに中古をみかけても、不条理な迄の
高額相場だ。

本レンズは、2000年代後半に4万円台の逆輸入新品を
販売している店もあった。一瞬「ナンピン買い」(安くなった
レンズを追加購入し、購入平均単価を下げる)をしようとも
思ったのだが、このレンズの特性を思い出して保留した。

その「特性」とは、「使いこなしが非常に難しい」レンズで
ある事だ、それについては、レンズマニアックス第12回
「使いこなしが難しいレンズ特集」記事で、堂々の(?)
ワースト・ワンとなったのが本MAP125/2.5であったからだ。
私の通称は「修行レンズ」。これを使いこなすのは、まさしく
「修行」や「苦行」であり、使っていても楽しめない、つまり
「エンジョイ度」評価が、とても低い(5点満点中1.5点)
レンズである(本シリーズ第11回記事参照)

勿論、誰にでも推奨できるレンズでは無い。
では何故記事で何度も取り上げるか?と言えば、このレンズ
の実際の「特性」を理解してもらいたいからである。

それと、どうしても欲しかったのならば、約10年前に定価の
半額で新品販売されていた状況を見逃すのも悪い、という
事も言いたい内容である。

「誰かが良いと言うまで、製品の価値がわからない」という
主体性の無さや、価値感覚の無さも褒められた話では無いし、
あるいは「誰かが良いと言った」「有名だ」等の根拠の無い
話を購買行動の理由とする事も、全く賛同の出来ない話だ。

レンズの評価や価値感覚は、あくまで自分自身で構築して
いかなければならない、それがマニア道の大原則である。

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では、今回ラストの新鋭マクロシステム
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レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 110mm/f2.5
(読み:フォクトレンダー マクロ アポランター)
(注:例によって独語綴り上の変母音は省略している)
(新品購入価格 138,000円)(以下、MAP110/2.5)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)

2018年に発売されたMF中望遠等倍マクロレンズ。
レンズ・マニアックス第25回記事、本シリーズ第11回
「マクロアポランター・グランドスラム」および、
レンズ・マニアックス第32回「新旧マクロアポランター対決」
等で紹介。
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前項目の「MAP125/2.5」と近いスペックであるが、17年間
の時を隔て、まったくの別物のレンズとして進化している。

外観デザインのイメージは旧型とはまるで異なっているが、
勿論、旧型の様々な弱点を良く改善している。

しかし、コシナ製品は、「マニア向け」とは言うものの、
様々な弱点を持つケースも多々ある。具体的には「使い難い」
という点であり、マニアックな仕様を、製品コンセプト上で
優先してしまうあまり、実際の使い易さ、すなわち実用性は
あまり考慮されていない事も多い。

コシナでは、完成させた製品を長く使い込んで、欠点を
洗い出していくような処置は、あまり行っていないのでは
なかろうか? 長く、かつ多数、同社製の製品を使っていて
どうにもそういう気がしてならない。

ただ、17年ぶりの新製品において、旧型の弱点を何も改善
していなかったら、それこそ怒ってしまう、「いったい
その間、何をやっていたのだ?」という事だ。
だが、幸いにしてそれは無かった。本MAP110/2.5は、
旧型とはうって変わって「エンジョイ度」評価は、3.5点
と平均値を超え、すなわち「使っていて楽しいレンズ」と
生まれ変わっている。

そして、マニアの中には、実用性よりも収集を主としている
人達も多く、よって、実用性における様々な弱点については
「うやむや」にされてしまう事も多いし、あまりガンガンと
写真を撮って使う人達も多く無いから、そうした製品群の
正確な情報や評価内容は、ほとんど世に出回らない。

情報があったとしても、その希少性から「このレンズは凄い」
等の、自慢あるいは投機的価値を高めるばかりの情報であり
それらは頭から信用するには値しない。
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では、本MAP110/2.5の実性能は、どうか?と言えば、
個人的な「描写表現力」評価点は、5点満点である。
このレベルに達しているレンズは、現在所有している
レンズ群およそ400本の中で、十数本しか存在しない、
つまり、ほんの数%しかない、トップクラスのレンズで
あるという事だ。

弱点は唯一、価格が恐ろしく高い、という事だけだ。
前述のコシナ100/3.5 Macroの10倍という新品価格は、
同じメーカーの類似スペックの商品としては、これほど
までに値上げされた例は、他の市場分野を見渡しても
珍しいかも知れない。まあその事が「高付加価値化」に
より、消費者に直接的に与えるダメージである。

ただ、どうして「高付加価値化」されてしまったのか?は、
勿論、交換レンズ市場が縮退してしまったからだ。
誰も交換レンズを買わないから、新製品は高価にせざるを
得ない、さもないとメーカーや流通は事業が成り立たない。

では、何故、交換レンズを誰も買わないのか?
その理由は明白だ。

*初級中級層は、どのレンズを買ったら良いか、わからない。
 種類が多すぎるし、性能差もわからないし、値段も高い。
 結局、どうせ買うならば、誰かが良い、とか言って、かつ
 カタログスペックが一番良さそうなものを買ってしまう。
 まあ結局、なんだか良くわからずにレンズを買っているか、
 そうしないのであれば、一切交換レンズを買わない訳だ。

*中上級層あるいはマニア層は、近年のレンズが旧来よりも
 高価になりすぎている事を知っているので、買う気が全く
 起こらない。所有している旧型でも、性能的には十分で
 あるし、買い換えるまたは買い足しする必然性が無い。

・・まあ、そういう事である。
当然、メーカー側でも、様々なマーケティング(市場調査)
により、こんな事はわかっているであろう。私が個人的に
外から見ているだけでも明白なのだから、専門家の人達は
当然、ちゃんと分析している。

だが、それに対応する市場戦略は難しい。誰も欲しがらない
ものを無理に買わせる訳にもいくまい。
唯一可能性があるのは、無理やり、新マウントのカメラを
開発し、そこで新しいマウントのレンズを半強制的に売って
しまう事である。まあ、それが2018年~2019年にかけて
各社で色々と行われたのは、皆が知っている事実であろう。

そして、市場がこれ以上縮退してしまわない為にも、メーカー
を始め、流通とか専門評価者、投機層を含む市場関係者全般
では、もう新製品の弱点を何も言わず、必ず「新製品はとても
良い」と評価する事が暗黙の了解となっている風潮だ。
(=新製品の弱点等の情報は皆無となってしまっている)


これはユーザーから見たら、正当な評価の情報がどこからも
入って来ないので、困った状態である。
新機種だって色々な弱点はある、見る人がみれば、それは
1発でわかってしまう。しかし、高価になりすぎた新製品を
買うユーザーは、ビギナー層ばかりになってしまったので、
新製品の欠点は理解できない。自分が高価で買ってしまった
弁明をする為にも、「これは良い」と褒める評価しかしない
ので、ユーザーレビューも、全くあてにならない状況だ。

結局、自分自身で、強い購買行動ルールやコンセプトを
決めて、それに従って機材を買うしか対処の方法が無い。


勿論、高く買いすぎてコスパが悪く、後悔する事もあるだろう、
だけど、それもまた勉強だ、高いものも安いものも、高性能な
ものも低性能なものも、いずれも実際に自分の目で見ない
限りは「価値感覚」は養われない。
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本レンズMAP110/2.5の総括だが、非常に高性能なマクロ
であり、描写力や実用性における不満は殆ど無い。ただし
コストが極めて高い為に、コスパ評価は低くなり、私の
データベースでの総合的評価平均点は3.9点となっている。

個人的には、「総合評価が4点を超えない限り、名玉とは
見なさない」というルールであるので、本レンズはそういう
ギリギリの位置づけである。

高価すぎて誰も買わないレンズであるから、後年に希少価値
で投機対象となってしまう危険性はある。どうしても欲しい
ならば、少々無理をしても買っておくべきであろう。
値段以外は、ほぼ弱点の無いマクロレンズであるからだ。

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では、今回の「中望遠マクロ レジェンド編」は、
このあたり迄で。次回記事に続く。

μ4/3用レンズ・マニアックス(4)望遠編

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本シリーズ「μ4/3(マイクロフォーサーズ)用
レンズ・マニアックス」は、μ4/3機用のレンズを
順次焦点距離(広角、標準、中望遠、望遠)毎に
紹介する、短期(全4回)シリーズであり、今回が
最終回となる。

今回の記事は「望遠編」として、フルサイズ換算画角が
100mm以上となるレンズ、すなわちμ4/3では実際の
焦点距離が50mm~300mmのレンズを6本紹介する。

まず最初のμ4/3レンズは大口径だ。
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レンズは、KAMLAN FS 50mm/f1.1 (初期型)
(新品購入価格 23,000円)(以下、FS50/1.1)
カメラは、PANASONIC (LUMIX) DMC-G6(μ4/3機)

2019年に国内販売開始された海外製レンズ。

台湾のメーカー(瑪暢光電有限公司/Sainsonic社)が
設計し、中国の「深セン」地区で製造されたレンズ。
(なので、純粋な中国製レンズとは言い難い)
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どうやら2010年代からの「深セン」には、有力な
レンズ工場が存在している、と推測している。

2020年初頭頃に「一度、視察に行ってみたいな」
とも思っていたのだが、コロナ禍の勃発により、
その計画も頓挫、結局行く事は出来ずに、外出自粛
の中で、テレワークならぬ、「テレ研究」を進める
しかなくなってしまった。

で、その「深セン」に対して中国あるいは他の国
(今回の台湾とか、日本からも・・)の企業が、
コンピューター設計をしたレンズの図面を送り、
そこで製造・組み立てが行われる訳だろう。

最終的な「組み立て」を行った国が「Made in・・」
の記載国となるから、それらのレンズは中国製だ、
とは言えるのだが、こういった製造の仕組みだと、
生産国、メーカー名(ブランド名)等は、もはや
あまり意味を持たなくなってしまう。

ビギナー層やシニア層が良く言うように、
ビ「どこのメーカーのレンズが良く写るのか?」
シ「ドイツ製のレンズは国産より性能が良いのか?」
といった質問は、もはや完全に無意味な世情だ。

そして、「深セン」あるいは近隣の「経済特区」
で製造されたレンズの製造品質は、かなり高い。
まあ、それでもたまに「あれっ?」と思うような
多少の課題が出る事もあるが、中国の技術は年々
進化しているので、数年前とか数年後の製品は
全くの別物のように感じるケースも多々ある。

まあ、そういう状況だとしても、レンズの設計上
の良否は、描写性能には影響が出て来る。

本FS50/1.1については、正直に言えば、光学設計
が未成熟だ。まあつまり、開放F1.1の超大口径を
実現するには、球面収差を始め、諸収差の低減を
目指す設計を行わないと、解像感が無いボケボケの
写りとなってしまうのだが、本レンズでは、僅かに
5群5枚の構成であり、異常低分散ガラスレンズ
を2枚使用しているが、非球面レンズは不採用
(注:2010年代までの中国製レンズでは、非球面
レンズは未登載だ。製造技術が、まだ追いついて
いなかったと思われる)・・であり、そこが課題と
なり、解像感の低いレンズとなってしまっている。

かなり(F11程度まで)絞り込むと、解像感は
やっとまともなレベルとなるが、せっかくの
開放F1.1が、まるで活用できない。

これは、レンズの設計上での重欠点であると思って
いる。市場からの反応も同様であったのか?
本レンズは発売後僅かに3ヶ月で、Ⅱ型(新型)に
リニューアルされている。そちらの後継型は未所有
だがレンズ構成が複雑化されていて、超大口径での
諸収差を低減していると思われる。
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まあつまり、本レンズは「失敗作」であるので、
これを指名買いする事は推奨できない。

ただまあ、個人的には「レンズを使いこなすのは
ユーザーの責務」という風な考え方にシフトして
きているので、レンズにどんな弱点があろうとも、
それを逆用して個性的な写真を撮れば良いと思う。

具体例だが、開放近くで生じる多大な球面収差は
ソフト的な描写を得る事が出来る。
そのような描写に向く被写体を探し、そうした
技法で、そういう「表現」を目指せば良い訳だ。

ただ、そう(弱点回避)するにしても、恐ろしく
難しいレンズである、Ⅱ型は未所有なので、詳細
を比較する事は無理だが、恐らくはだいぶ改良
されているだろう。(さもなければⅡ型を発売
する意味が無い)本初期型は非推奨としておく。

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さて、次はジェネリックレンズである。
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レンズは、7artisans(七工匠) 55mm/f1.4
(新品購入価格 16,000円)(以下、七工匠55/1.4)
カメラは、OLYMPUS PEN-F(μ4/3機)

2018年発売の中国製のミラーレス機(APS-C機以下)
専用、MF大口径標準(中望遠画角)レンズ。
7artisansは、大文字有りの「7Artisans」かも知れず、
両者の表記が混在している状況で、正解が不明だ。
国内市場では「七工匠」(しちこうしょう)と
呼ばれるケースの方が多い。
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このメーカーは「ジェネリック」を得意としている。
前述のKAMLAN FS50/1.1で「設計の未成熟により
描写力が優れない」と記載したが、まあ、それは
非球面レンズがまだ使えなかったり、市場戦略上
(=安く売りたい)での、製造コストの制約により、
諸収差を低減した贅沢な光学設計が出来ないならば
しかたが無い点もある。また、そもそも光学設計は
高い経験値が必要な専門職であり、いくらパソコンで
動く自動光学設計ソフトが出来たから、と言っても
上手な光学設計を、いきなりする事は至難の業だ。

そういう状況の1つの解決策としては、オールド
(概ね40~50年前)の、名レンズの設計を拝借し、
全体を縮小コピーし、ミラーレス機用にレンズ後群
等の構成を微調整すれば、あまり設計コストが掛らず、
かつ、優秀である事が保証されているレンズ設計が
可能となる。
この、過去の名レンズの縮小コピー設計の手法を、
本ブログでは「ジェネリック・レンズ」と呼んでいる。

本、七工匠55/1.4は、1970年代~1980年代での
各社の「プラナー型構成85mm/F1.4レンズ」の
ジェネリックであろう。それらを2/3程度に
スケールダウンしたものだ。

ただし、縮小してしまうと、イメージサークルも
小さくなるから、フルサイズ対応にはならない。
55mm(本レンズ)÷85mm(元レンズ)x 43mm
(フルサイズ対角線長)=約28mm の計算により、
これは、APS-C型センサー(対角線長約29mm前後)
以下に対応する事となる。

なお、ここで1mmとか2mmのイメージサークルの
差は、設計上の微調整でなんとでもなるだろう。
もし調整しきれていないケース(レンズ)では、
僅かな周辺減光が発生する状態となる。
ただ、それが気になるならば、デジタルズームの
使用、トリミング編集、μ4/3機の使用、等で
回避する事が出来る、要は使い方次第だ。

ちなみに、本レンズはμ4/3機用で購入しているが、
ここまでの設計手法を予想しての購入であったので
簡易なμ4/3→SONY Eのマウントアダプターを併用
する事で、今回使用のμ4/3機の他、SONY APS-C
型ミラーレス機(NEX、α6000シリーズ等)でも
そのまま使用できる。そしてAPS-C機で使う場合も
計算上および実際の撮影上でも、周辺減光は問題に
ならない事は確認済みだ。

さて、実使用上での不安が消えたところで、
本レンズの描写性能であるが、元レンズの設計が
良いので(なにせ、85mm/F1.4プラナー級だ)
非常に高い描写力を誇る。

ただし、銀塩85mm/F1.4プラナー系レンズでは、
1)ピント歩留まり 2)焦点移動 3)ボケ質破綻
の3つの重欠点が存在していて、銀塩時代の撮影
環境では、偶然以外では弱点回避が出来ず、滅多に
その本来持つ、高い描写力を発揮する事ができな
かった。(36枚撮りフィルム中1枚、つまり約3%
程度しか、気にいった写真を撮る事が出来ない)

だが、現代のミラーレス機で本レンズを使えば、
ピント歩留まり、焦点移動、ボケ質破綻のいずれも
高度な技能を用いれば回避が可能となっている。

つまり、銀塩時代では、誰も上手く使いこなす事
が出来なかった85mm/F1.4プラナー系レンズと
同等の描写力(画角も同等)を、ミラーレス機で
思う存分発揮する事が出来るようになる。

さらには、85mm/F1.4級の最短撮影距離が、
85cm~1mと、「焦点距離10倍則」を下回れ
無かった事に対し、本七工匠55mm/F1.4の最短は
35cmと「10倍則」を遥かに超えて優秀である。

おまけに銀塩時代のプラナー系レンズが10万円
前後もしていたのに対し、本レンズは1万円台
で中古/新品を入手可能であり、コスト比は
8倍~6倍だ、すなわちコスパが驚異的に高い。

こらによる個人DBでの本レンズの総合評価は
5点満点中4点。これが4点以上だと「名玉」と
呼んでいるが、本レンズ以前の約5~6年間は
「名玉」が1本も出ない状態が続いていたので、
久々の「名玉」の登場は嬉しい限りであった。
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この為に、後日、本レンズはFUJIFILM Xマウント
版を中古(購入価格 11,000円)で入手し、
異マウントでの「ナンピン買い」を実施した。
(=相場が安価になったものを追加で購入し、
平均購入価格を下げる措置)
これは勿論「2本所有するのに値する名玉」と
判断したからである。

注意点としては「七工匠」のジェネリック設計は
常に成功するとは限らず、中には、元となった
レンズ設計がダメダメのものも存在している。
元がNGならジェネリックもNGとなるのは道理であり、
ここで、そのレンズが何かは書かないが、過去記事の
いずれかでは、チラリとその状況を説明している。

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では、3本目のシステム。
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レンズは、SIGMA 60mm/f2.8 DN | Art
(中古購入価格 14,000円)(以下、A60/2.8)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5Ⅱ Limited(μ4/3機)

2013年発売の小型単焦点中望遠相当レンズ。
μ4/3機用マウント(他にSONY EマウントAPS-C対応版
あり)での購入で、120mm相当の中望遠画角となる。
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こちらは、前述の七工匠55/1.4のように、SONY E
マウント機と兼用する事は出来ない、何故ならば
AFレンズだし、絞りも電子制御だからだ。

μ4/3とSONY Eマウントの各フランジバック長は
僅かな差異しか無いので、アダプターは、マウント
形状を揃える為の、薄い1枚の金属板しか作れない。
電子回路を入れた電子アダプター等は作りようが無い。

この事で、本レンズ購入時には、μ4/3機用を買うか
SONY E(APS-C)用を買うか?を迷ったのだが、
SONY機はα7系がリリースされていた為、フルサイズ
機を志向している、と判断し、μ4/3用を選択した。
まあ、安価なレンズなので、もしSONY E用が必要と
されるならば、後日に買い増ししても良いと思った
わけだ(結局、SONY E用は買っていない)

本A60/2.8の描写力は極めて高い。描写表現力の
個人評価点は5点満点中4.5点であり、トップクラス
に位置する。おまけに安価なので、コスパ評価も
良いが、名玉の条件の総合評価4点には届かず、
3.7点に留まっているのは、描写力以外の他の魅力に
乏しいレンズであるからだ。

中望遠画角レンズであれば、大口径化や、マクロ化を
行う事で用途的な汎用性が高まり、望ましいのだが
本レンズは開放F2.8と普通であり、最短撮影距離も
50cmと平凡だ。(まあ、焦点距離10倍則は満たす)

もっとも、大口径化やマクロ化を目指してしまうと
それらは「精密ピント合わせ」が要求される。
本レンズの母艦となる機体は、当時は像面位相差AF
等の新テクノロジーを搭載しているものは、殆ど
存在しなかったので、精密ピント合わせは不可能
という設計(企画)コンセプトであったのだろう。

そんな状況から、本レンズの「用途開発」は
困難を極めた。まあすなわち、
「この高い描写力を持つレンズ死蔵するのは
 勿体無いが、この仕様では、いったい何に
 使えば良いのだろうか?」
という疑問と葛藤が出てくる訳だ。

で、実は、現在に至っても、まだその「用途開発」
が進んでいない(汗)
本来、レンズを購入するのは、その用途を意識
して買う必要がある、衝動買いとかは、あまり
望ましく無い訳だ。

しかし、本レンズの場合では、既にSIGMA DN
シリーズの他の2本(19mm/F2.8DN、30mm/F2.8DN)
を入手していたので、マニア層の悪い(?)習性の
「コンプリート願望」が出てしまった訳だ(汗)
全3本で2本を持っていたら、残りも集めたく
なるのは、マニアやコレクターであれば、ある程度
は、やむを得ない習性だ。

だが、この事には私も少々反省し、続くSIGMAの
DC DNシリーズ(16mm/F1.4、30mm/F1.4、45mm/F2.8
56mm/F1.4)や、TAMRONのM1:2シリーズ
(20mm/F2.8、24mm/F2.8、35mm/F2.8)では、
それぞれ、1本のみを入手した段階で
「決して全シリーズを揃えたいとは思わない事!」
と思うようにした。
(ただ・・ 後年に、そういうシリーズを偶然に
安価に見かけて入手していくと、「後、残り1本」
という状態になり、そこで、どうしてもコンプリート
願望が出て来てしまう・・汗)
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本A60/2.8の総括だが、高描写力、高コスパで
その点では不満は無い。ただし、何を撮るものか?
何に使うものなのか? は、ユーザーによりけりな
要素もあるとは思うが、そこを強く意識して購入を
検討する必要があるレンズだ。

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では、4本目のシステムはマクロだ
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レンズは、7 Artisans (七工匠)60mm/f2.8 Macro
(新品購入価格 24,000円)(以下、七工匠60/2.8)
カメラは、PANASONIC (LUMIX) DMC-G1(μ4/3機)

2019年に発売された、中国製のAPS-C機以下の
ミラーレス機対応MF中望遠等倍マクロレンズ。
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各種ミラーレス機マウント版が発売されているが、
μ4/3版を選択。こうしておくと、前述のように
SONY E機でもアダプターで共用可能だ。
(注:MFで絞り環のあるレンズのみで可能な措置)

さて、こちらは「七工匠」製であるが、どうやら
これは「ジェネリック」では無さそうである。
設計の元となったマクロレンズを発見する事が
出来ないのだ。
まあ、プラナーやゾナーといった著名なレンズ
構成の資料はネット上でも見つかるが、マクロの
レンズ構成は、なかなか見つからない事が常である。

そんな場合は、他の所有マクロレンズと撮り比べ、
似ている描写傾向を持つものを感覚的に探し出す
しか無い。幸いにして中望遠(90mm~105mm)
の(オールド)マクロレンズは、多数所有しては
いるので、個々に1対1比較をしていけば、似た
ものを探す事は可能ではある。しかし、物凄く手間
と時間がかかる作業であるし、そういう事をして
「やった、このレンズのコピーだったのか!」
という事実を発見したとしても、自分以外の誰も
嬉しく無い研究成果だ(汗)

まあ、あまりそこには拘らず、単に本レンズ単独
での描写力を見極めていく事にしよう。

そういう視点での本レンズの評価であるが、
どうも、あまり芳しく無い(汗)

なんというか、近代(1990年代後半以降)の
マクロレンズは、TAMRON、SIGMA、TOKINA等の
レンズメーカー製を中心に、恐ろしく高い描写力を
誇るものが多いのだが、それは、あくまで近代設計
である、という但し書きが付く。


その事は、銀塩MF時代(1970年代~1990年頃)
のマクロレンズとは一線を画する状態であり、
それらMFマクロレンズは新鋭AFマクロと比べて
古臭くて不満が多い描写力である傾向が強い。
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本レンズも同様であり、銀塩MF時代の古さ、を
なんとなく感じる。これはやはり、銀塩MF時代の
マクロの設計をコピーしているのかも知れないが、
前述のように、それを探るのは大変だし、そもそも
良質な描写力を持つものならば、「ルーツ探し」の
楽しみはあるが、そうでなければ、探す気もあまり
起きない状況だ。

入手価格も、少々高価であったし、「失敗レンズ」
の類となってしまったかも知れない(汗)

これであれば、例えばTAMRON SP60/2 MACROを
マウントアダプターで装着した方が、描写力を
はじめ、コスト的にも本レンズよりも安価に
中古購入できるので、全ての面で優れる事となる。

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では、5本目は高描写力レンズである
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レンズは、OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm/f1.8
(中古購入価格 59,000円)(以下、ED75/1.8)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1(μ4/3機)

2012年に発売されたμ4/3機専用の中望遠AF単焦点
レンズ。
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高描写力なレンズである。ただし、換算150mmと
なる画角は、どうにも適正な用途が見つけ難い。

本レンズの実焦点距離からポートレート用レンズ
だと誤解されやすく、様々な本レンズの紹介記事や
オリンパスの公式WEBサイトですらも、そのような
記述があるのだが・・

「メーカーのWEBに書かれている事を転記しただけ」
という「二次情報」サイトが、あまりにも多いという
情けない状態がある。

Webサイトに限らず、書籍・雑誌等も同様であり、
いずれも、本レンズを「ポートレート用だ」と、
元々のメーカーWebでの曖昧な情報を、そのまま引用
や信用し、例えば、無理やり「モデルさんの顔だけの
ポートレート撮影」を、作例としている状況等には、
完全に呆れ返ってしまった。ライター(執筆者)や
作例カメラマンは、自分では何もレンズの本質的な
特徴や用途を見出す事ができないのであろうか・・?

本件に限らず、何らかのレンズの情報検索をすると、
上位のサイトは全て、メーカー等が発信した内容と
「全く同じ文言」で機材等を紹介している。
(中には、かなり昔の、本ブログの記載内容と同じ
文言を引用している例もあり、笑ってしまった・・)

まあつまり、機材を買ってもおらず、評価もちゃんと
しておらず、独自(一次)情報も無く、ただ単に、
見出しやタイトルの文言でアクセス数の増加を狙った
だけのサイト群であろう。
勿論、そんなWebサイトは見に行く価値も無い。

・・で、余談はともかく、本ED75/1.8については
ポートレート用と書かれてはいるのだが、150mm
相当の画角は、当然、あまり人物撮影用途としては
適正では無く、オリンパスのWeb上でもポートレート
作例は皆無である。(そうであるに何故、Webが
そう(「ポートレート用」と)なっているのか?)

すなわち本レンズは、購買層から見れば、有益な
用途を想定しにくい画角であり、おまけに高額だ。
発売時定価は12万円を超えるので、あまり本レンズ
がバンバンと売れているという状況は考え難い。

よって、ユーザー層も極めて少ないと思われ、
本レンズに係わる適正な情報も流れていない状態
なのだろう(だから、「ポートレートに最適」等の
不確実なコピー(二次)情報しか、世の中には無い)
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そもそも、各メーカーの公式Webサイトだが、
誤記や誤解が、かなり多い事が気になっている。

まあ、Web製作者は専門職であり、あるいは外注
されるものであるから、カメラ等に関する詳しい
知識は、さほど持ち合わせていない事もあるだろう。

そして、そういう製作を依頼あるいは検収をする
企業内広報担当者も、Web等の分野では若手が多く、
これもまた、カメラやレンズの深い知識を持って
いるとは思い難い。これらの両者の間で「仕事が
閉じて」しまっていて、誤記や誤解等があった場合
でも、そのままOKが出されてしまうのであろう。

では、メーカー内の、カメラに詳しい技術者や
上層部がWebを見て「あれ? ここはおかしいぞ」
と指摘すれば良いのだろうが、まあ、どの企業の
社員でも自社のWebを、まじまじと見るような事は
まずしない。(社内でもやらないし、自宅なら、
なおさら、したくも無いだろう)

あるいは大企業なら大企業になる程、組織間での
「縦割り」が顕著になるので、仮に広報とは関係が
無い部署の社員がミスに気づいたとしても、それを
広報部に進言する訳にもいかない。煙たがれて
しまうかも知れないし、誤記も、明らかなミスだ
とは言えないほどの微細なもの(例:レンズ型番
の大文字と小文字の間違い等)の場合もある為、
ネチネチとそれを他部署に進言するのも嫌らしい。

結局、誰も気づかないままで、あるいは気づいても
言えないままで、メーカーの「顔」である、公式の
ホームページに、誤まった情報が載ったままに
なってしまうのだろう。
ちょっと情けない話だが、まあ、やむをえない事情
も理解はできる。

私の場合は、Web上の情報が疑わしい時には、
「製品上に記載されているものが正解」と見なして、
所有している(古い)カメラやレンズを取り出して、
その実物を確認する。
これが最も適切な方法論だが、前述のWeb担当者等
では、そんな手法を取る事は、まず困難であろう。

まあ、そのあたりは、どうでも良い話とも言えるが、
誤記や誤解等はともかくとして、一般サイトを含め
世の中にまともな情報が無いのであれば、いったい
購買層は、何を拠り所にしてレンズを買っているの
であろうか?いや、それはまず困難な話であるから
結局「通販サイトのユーザー評価」等の、ますます
「不確実な情報」しか頼る事が出来ないのであろう。

全くもって残念な世情であるが、レンズ市場が
大きく縮退している昨今の現状では、ビギナー層
しか新鋭レンズを買わないので、やむを得ない所
もあるかも知れない。近年の上級層やマニア層は、
高額になりすぎた新鋭レンズに、あまり興味を
示す事は無い訳だ。(今までの保有資産(レンズ)
でも、十分に撮れるからであろう)

でも、本レンズの高い描写力(個人評価DBでの
描写表現力評価は5点満点で4.5点とハイレベルだ)
は、基本的には、どのような被写体にも適合する。
_c0032138_16271160.jpg
ただ、課題としては、このクラスのレンズとも
なると、「精密ピント合わせ」が要求されるので
あるが、像面位相差AF等の高精度AF機能が搭載
されていない一般的なμ4/3機では、本レンズを
使う際のAF性能(速度・精度)が足りていない。

また、MFに切り替えて使おうにも、例によって
距離指標無しの無限回転式ピントリング仕様で
あるから、MF撮影には決して向いていない状態だ。

よって、本ED75/1.8の使いこなしには、それらの
弱点を回避しながらの高度なスキルが要求される。

少なくとも中級層以上のレベルや機材環境で
無いと、そう簡単に使えるレンズでは無いと思われ、
現代におけるμ4/3機のユーザー層は、その大半が
初級層であると思われるので、そうした一般層に
対しては、本レンズは完全に非推奨だ。

「そうであれば誰が本レンズを買って使うのか?」
・・そう、そこが本ED75/1.8の最大の課題であり、
誰が何の目的で買うレンズなのかが、良くわからない。

結局、そういう理由からも、本レンズは不人気なので
あろう。高い描写力を持つレンズであるのに、残念な
話である。

----
では、次は今回ラストの超望遠μ4/3システム
_c0032138_16271145.jpg
ミラーは、TOKINA Reflex 300mm/f6.3 MF MACRO
(中古購入価格 18,000円)(以下、MF300/6.3)
カメラは、PANASONIC (LUMIX) DMC-GX7 (μ4/3機)

2012年発売の近代的なミラー(レンズ)である。
μ4/3機装着時に換算600mm、電子接点にも対応して
いる。
DMC-GX7との組み合わせでは、焦点距離を手動で
入力する必要が無く、そのまま内蔵手ブレ補正機能
が使用可能であるし、AUTO ISO時の低速限界も、
望遠画角により自動的に、速めのシャッター速度に
設定される。
_c0032138_16271229.jpg
なお、μ4/3機で、AUTO ISO時の低速限界速度が
手動設定できる機種は、2015年以前においては
恐らく皆無であり、2016年からOLYMPUS PEN-Fや、
OM-D E-M1 MarkⅡ等の上級機で、ポツポツとその
機能が搭載され始めている状況だ。
(注:Panasonicの場合は、DC-GH5やDC-G9等
の最上位機で、2017年頃よりの同機能の搭載)

今回使用のDMC-GX7でも、低速限界の手動設定は
できない。その際、旧来のOLYMPUSのμ4/3機では、
低速限界シャッター速度が、本レンズ装着時でも
低いままとなっていて、本レンズの600mmという
超望遠の換算画角では、AUTO ISO時での1/125秒
程度のシャッター速度では、いくら優秀なOLYMPUS
の内蔵手ブレ補正でも、手ブレを防ぐ事が出来ない。

この問題点の対策としては、以下の3つがある。

1)AUTO ISOを使わず、必ず手動ISO設定とする。
 但し、システムにおける手ブレ補正機能の性能と、
 それによる自身の手ブレ限界を理解していないと
 この対策は使えない。

2)PANA機の場合、望遠レンズで低速限界が自動的
 に上がる機種を選んで使う。但し、どの機種が、
 そういう仕様か?までは、わからないので
 自分の所有機等で実験する必要がある。

3)OLYMPUS機の場合、2016年以降の上級機で、
 低速限界設定があるものを選び、かつそれを
 自身の手ブレ限界に合わせて正しく設定する。
 同、PANA機でも、2017年以降の上級機で
 同様の措置を行える。



・・いずれの対策も、初級層では理解ができず、
実施が困難な話であろう。でも、それらが
わからないから、と言って、内蔵手ブレ補正機能
に頼っているだけでは、本レンズの手ブレは
防ぐ事は困難だし、そもそもシャッター速度が
低下している状態で、かろうじて手ブレ補正が
効いていたとしても、今度は被写体ブレが頻繁
に発生する。

特に、本レンズは600mmの超望遠画角があるので
中遠距離の昆虫や野鳥等を撮るケースが多いで
あろう。
その際、各種AUTO設定で撮っていると、思わず
シャッター速度が低下していたりして、野鳥や
昆虫の動き等により被写体ブレが起こったり、
もっと顕著で深刻な課題は、鳥や昆虫が飛び
立ったりする際に、本能的にカメラをパンして
追っかけるのだが・・ シャッター速度が相応に
低下している状態においては、ただ単に「ブレた」
だけの、「失敗した流し撮り」のような写真を
連発してしまう、という状況がある。
_c0032138_16271486.jpg
基本的には悪いレンズでは無く、超望遠画角+
優れた近接能力(最短撮影距離=80cm)で、自然
観察撮影全般に「エンジョイ度」が極めて高く、
過去記事においても、ミラーレス・マニアックス
名玉編第13位、ハイコスパ名玉編第12位に
ランクインしているのだが、ブレとピンボケ対策
(MFも非常に困難なレンズだ)には、少なくとも
中級層以上クラスのスキル(技能)が必要だ。

やや難しいレンズ、とも言えるかも知れないが、
使いこなす事ができれば、非常に楽しいレンズ
となり、安価でもあるから、μ4/3機ユーザー
では必携のレンズ、とも言えるかも知れない。

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さて、今回の「μ4/3用レンズ・マニアックス望遠編」
は、このあたり迄で、本記事をシリーズの暫定最終回
とする。(注:補足編を1つ書くかも知れない)

本シリーズで紹介したレンズ群は、基本的には
かなりのマニア向けと言えるであろう。
現代ではビギナー層が主力ユーザーのμ4/3システム
ではあるが、「システム的な楽しみ方は色々とある」
という訳だ。せっかくレンズ交換ができるカメラ
(μ4/3機)を持っているのだから、カメラの購入時に
付属していたキットのダブルズームのレンズだけで
済ませてしまっているのでは、勿体無い話であろう。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(51)SONYエントリーレンズ

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー
別に紹介している。

今回は「SONY製エントリーレンズ」を4本紹介しよう。
なお、ここで紹介するレンズは全てSONY α「Aマウント」
版である。また「エントリーレンズ」の定義については、
記事文中で記載していくが、さらなる詳細については、
「匠の写真用語辞典第9回」記事も参照されたし。

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ではまず、最初のシステム
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レンズは、SONY DT 35mm/f1.8 SAM (SAL35F18)
(中古購入価格 11,000円)(以下、DT35/1.8)
カメラは、SONY α65 (APS-C機)

2010年に発売された、APS-C機(α Aマウント)専用
準広角(標準画角)AFエントリーレンズ。

「SAM」型番は、「Smooth AF Motor」、すなわち
直流(DC)モーターをレンズに内蔵している事を示す。
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この時代だが、スマホの販売開始、およびミラーレス機の
普及(Panasonic=2008年、OLYMPUS=2009年、そして
SONY=2010年)が始まっていて、一眼レフ市場がそれらに
喰われてしまう事を警戒しての「エントリーレンズ」発売の
戦略である。

つまり、安価で高性能の(主に)単焦点レンズを
一眼レフ初級層に販売し(注:通常、一眼レフ初級ユーザー
層は、昔も今も交換レンズを殆ど買わない)、その結果
レンズ交換の楽しさと高描写力とを購入者に実感して貰い、
さらに高額な自社製高性能レンズの販売に誘導すると共に、
そうやって数本の交換レンズが揃ったならば、もういまさら
他社ミラーレス機等に乗り換える事はしたくない、といった
ユーザー心理に誘導する為の商品群がエントリーレンズだ。

まあ、SONYでも当時は「はじめてレンズ」と、これらを
呼んだ訳なのだが・・
その後の時代、案の定、一眼レフ(と交換レンズ)市場は
大きく縮退してしまい、これらエントリーレンズを、まず
販売して・・ といった悠長な市場戦略は取り難くなった。

だから、より直接的に大きな利益が得られる「高付加価値」
型の製品戦略に、各社とも2013年頃から転換した訳で
あり、その後の時代では、各社からエントリーレンズは
殆ど発売されず、SONYにおいても本レンズDT35/1.8を
最後に、その後は1本もエントリーレンズの新発売が無い。
_c0032138_15401901.jpg
さて、時代背景を理解したところで、本レンズの性能だ。

最大の長所は、最短撮影距離が23cmと、異常にまで
寄れる事であり、35mmではマクロレンズを除きトップで
あった(注:この数値は2015年にTAMRON SP35/1.8が
20cmで更新するまで破られていない、ただしSP35/1.8
はフルサイズ用、本DT35/1.8はAPS-C機専用だ。
また、オールド海外製レンズと近代海外製レンズで、
20cm以下の最短撮影距離を持つ35mmレンズが2機種
存在するが、あまり一般的なものだとは見なしていない)

この近接性能を活かして撮影する事が、本DT35/1.8の
使いこなしのポイントだ、αフタケタ機(α65等)に
備わるデジタル(スマート)テレコン機能を併用すれば
見かけ上では、マクロレンズ並みの撮影倍率となる。

描写力は悪く無いが、基本的には可も無く不可も無し。
ボケ質破綻等の若干の課題はあるが回避は可能である。
まあでも、逆に言えば、感動的といった高い描写力は
持たない。もしかすると、銀塩用50mm/F1.8級の
完成度の高い小口径標準レンズの2/3倍縮小コピー
(=ジェネリック)レンズの可能性も高い。
(注:もしそうであれば、近接撮影時に若干の性能低下
が起こる事も、あり得る話で、上記の「描写力が平凡だ」
という印象にも繋がる事となる)

コスパが極めて良い事も長所ではあるが、反面コスト
ダウンで全体の作りはかなり安っぽい。所有満足度は
欠片も無いので、実用上でガンガン使って、使い潰して
しまう事が、本レンズの用途としては最適であろう。
_c0032138_15401915.jpg
本DT35/1.8については、過去記事で何度も紹介している
他、ハイコスパ系のランキング記事では、必ず上位に
ランクインするレンズだ(ハイコスパ名玉編総合第2位)
まあ、今回は詳細については割愛するが、SONY α(A)
ユーザーであれば「必携のレンズ」と言えると思う。

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では、次のエントリーレンズ
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レンズは、SONY DT 30mm/f2.8 Macro SAM (SAL30M28)
(中古購入価格 11,000円)(以下、DT30/2.8)
カメラは、SONY α700 (APS-C機)

2009年に発売された、APS-C機(α Aマウント)専用
準広角(標準画角)等倍マクロAFエントリーレンズ。

こちらもエントリーレンズでありながら、性能的には
あまり手を抜いていない。そして準標準等倍マクロと
しては、他社製品に比べて最も安価に入手できるので、
コスパが極めて良い。
_c0032138_15402490.jpg
最短撮影距離は約13cmと短い、まあ準標準等倍マクロで
あるので、そうなるのだが、結果的にWD(ワーキング・
ディスタンス=レンズ前から被写体までの撮影距離)は
全ての交換レンズ中、上位を争う近さ(恐らくは第4位?
LAOWA15/4、OLYMPUS MZ30/3.5、SONY E30/3.5、
あたりと良い勝負だ)であるが故に、WDの短さを
要求される特殊アタッチメント「soratama(宙玉)72」の
マスターレンズとしても良く利用している次第だ。
(その用法は、本シリーズ第21回記事等で紹介済み)

でも正直言って、他にめぼしい特徴は無い。
等倍マクロ仕様に対してのコスパの良さが最大の長所で
あり、次点が「宙玉母艦」としての利用がある。

_c0032138_15402474.jpg
弱点は、ボケ質破綻↑、近接撮影でのAF精度不足、安っぽい
作り、MF操作性の悪さ(でも、一応有限回転式で好ましい)
解像感の不足・・ だいたいそのあたりか。

だが、なんといってもコスパが光る。
この結果、本DT30/2.8も、ハイコスパレンズ名玉編では、
第21位に、一応だがランクインしている次第である。

α(A)ユーザーに必携のレンズ、とはあまり言い難いが、
まあそれでも、マクロが欲しいというユーザーニーズ
には最適であろうか。

ちなみに、SONY α(A)マウント機の古いもの(2010年以前)
ならば、1万円以下の低価格で中古購入できるし、さほど
性能が悪い訳では無い。(今回も、2007年のα700を使用、
1万円台だが当時の高級機であり、性能は不足していない)
そうした低価格機体と本レンズを組み合わせると、なんと
2万円以下で実用的なマクロシステムが構築できてしまう。

まあ、これが最も安価な実用マクロシステムであろう、
こういう用途であれば、SONY Aマウント機ユーザーである
必要性も無い、全く新たにカメラとレンズを購入しても、
他社のマクロレンズ1本を買うより安価なのだ。
_c0032138_15402488.jpg
また、たとえ最高性能のマクロレンズであっても、本レンズ
DT30/2.8よりも数倍も高性能な訳では無い、その描写力は
僅差であるが故に、本DT30/2.8のコスパが価値を持つ。

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では、3本目のシステム
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レンズは、SONY DT 50mm/f1.8 SAM (SAL50F18)
(中古購入価格 10,000円)(以下、DT50/1.8)
カメラは、SONY α77Ⅱ(APS-C機)

2010年に発売された、APS-C機(α Aマウント)専用
標準(中望遠画角)、AFエントリーレンズ。

SONY初のエントリーレンズである。ちなみに発売順は、
DT50/1.8→DT30/2.8Macro→SAM85/2.8→DT35/1.8
となっている。
_c0032138_15403325.jpg
あまり実用上の価値が無く、また個性が無い為に、個人的
には好みのレンズでは無いのだが・・
それでも50mm標準レンズとしてトップクラスの最短撮影
距離34cmは魅力的である(まあ、APS-C機専用という
条件はある。ちなみにフルサイズ対応では、マクロを除き、
TAMRON SP45/1.8のみが、本レンズを上回る最短29cmだ。
本シリーズ第8回TAMRON SP編記事参照)
(追記:2019年発売のSIGMA 45mm/F2.8 DG DN |
Contemporary(未所有)が最短24cmで、標準レンズと
しての記録を更新。ただし、ミラーレス機専用だ)

描写力もあまり高くは無いが、致命的と言える欠点では
なく、まあ、可も無く不可も無し、といった状態だ。
むしろ銀塩時代のMINOLTAから続く(SONYにも引き継がれた)
α用のAF50mm/f1.4大口径標準レンズよりも、本DT50/1.8
の方が描写力的に優れる部分もあるくらいであるし・・
最短撮影距離は、一般的な50mm/f1.4は各社横並びで45cmで
あるので本レンズの近接撮影能力は特筆すべきであろう。

この結果、本レンズも「ハイコスパレンズ名玉編」では
見事、第7位にランクインしている次第だ。

まあ、個人的な好みの傾向(志向)とは異なってはいたと
しても、データベースの評価点においては、そのように
はっきりとした結果となって表われている。

前述のDT35/1.8以上に、「思い入れ」が少ないレンズ
であるから、ますます「使い潰し型」の用途には最適で
あろう、これも前述のように、SONY 初期のαは、
1万円に満たない安価な中古相場であるし、本レンズも
同様な低価格相場である。1万円台中ほどで、実用的な
一眼レフシステムが組める。特に室内等のやや暗所を含む
人物撮影等では、本レンズの本領が発揮できると思うので
そうした用途であれば、最もコスパに優れたシステムと
なるであろう。
_c0032138_15403332.jpg
なお、当然の話だが、α一眼レフには、全て手ブレ補正が
内蔵されているので、レンズ側に手ブレ補正が入って
いなくても何ら問題にはならない。

「多軸対応の手ブレ補正では無い」といった、細かい点を
気にする必要は無い。そういう仔細なスペックを調べて
優劣を語るよりも、撮影技術(技能)を磨いて、手ブレ
しにくい方法を鍛えた方が賢明だ、

カメラやレンズ側の手ブレ補正の性能向上を待つよりも
自身で手ブレしにくい技術を鍛えた方がずっと早いし、
そもそも、ちゃんとした構えが出来ていない初級層では
いくら優秀な手ブレ補正機能であっても、カタログスペック
通りのブレ低減効果は得られない。

反対に、熟練した上級層であれば、カメラ等での
手ブレ補正性能よりも、さらに2段落ち(2段プラス)の
性能を得る事すらもできる。さらに超絶的な技法を鍛錬
すれば、この限界値は、3段落ち以上にまで高める事は
可能だ。いずれもあくまで撮影者自身の修練で身につく
技能である。まあ、カメラの性能に受動的に頼って撮影を
しているだけでは、永久にビギナークラスからの脱却は
出来ない訳だ。

ちなみに、この課題(コンプレックス)が初級層には
極めて多い為、近年においては、高性能の新鋭機種を
初級層ばかりが欲しがる。手ブレ補正が良くなったとか
そういう「ネガティブな理由」で新鋭機を欲しがる訳だ。
(=つまり、高性能の手ブレ補正が入っていないと、
自分のスキルでは手ブレしてしまうという恐怖心がある)

そういう課題は機器の性能向上をあてにするのではなく
あくまで自力で解決しなければならない課題であろう。

余談が長くなった、本DT50/1.8は、個人的には好みの
レンズでは無いが、あくまでそれは感覚的な話で
あって、その最大の理由は「マニアック度に欠ける」
(個性が無い)という、ただその1点だけだ。

実用上でのメリットは大きく、またコスパも極めて良い。
それと、初級層における撮影技法の練習用機材(教材)と
しての用途も考えられる為、そうした意味では、持って
おいて損は無いレンズであると思う。
_c0032138_15403458.jpg
まあ、「エントリーレンズは全て買い」というのが
私の持論でもある。圧倒的なコスパの良さを鑑みると
他社の高級(=高付加価値=低コスパ)のレンズを
1本買う予算があれば、全メーカーのエントリーレンズ
を全て買っても、まだまだお釣りが来る訳だ。

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では、今回ラストのエントリーレンズ
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レンズは、SONY 85mm/f2.8 SAM (SAL85F28)
(中古購入価格 16,000円)(以下、SAM85/2.8)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

2010年に発売された、AF単焦点中望遠レンズ。
なお、購入時期が早かった為、若干割高で入手している。
現在での中古相場は、もう3,000円前後安価であろう。
(今回紹介の、他のエントリーレンズも同様)
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今回紹介のSONY製エントリーレンズ中、本レンズのみが
フルサイズ対応である(よって、DT型番=APS-C機専用は
付かない)試験的にフルサイズ機α7で使用してみよう。

ちなみに、85mmという実焦点距離を持つレンズは
私が記憶している限り、殆ど全てがフルサイズ対応だ。
APS-C専用やμ4/3専用等の85mmレンズは希少である。

(注1:NIKON AF-S DX Micro NIKKOR 85mm/f3.5G
ED VR(2009年、未所有、準エントリーレンズ)
およびSAMYANG 85mm/F1.8(2018年、未所有)が、
それぞれAPS-C機以下対応である)

(注2:VILTROX 85mm/F1.8(2019年)は、当初
FUJIFILM Xマウント用として発売され、APS-C機専用か?
と疑ったのだが、その直後にSONY FEマウント版が
発売され、「実は最初からフルサイズ対応だった」
と思われる経緯があった→後日紹介予定)

これは「85mm=人物撮影」という、古くからの常識
(注:その常識は、その昔、レンズの販売促進の理由で
作られたものであるから、現代では、あまりその事を
気にする必要は無い)・・の為に、85mmの実画角を
得る為のものであろう。まあだから、本レンズは
SONY製エントリーレンズ中、唯一のフルサイズ対応で
あり、「ポートレートにも最適」という触れ込みで
あったのだと思われる。

今回、母艦をα7のミラーレス機とする件だが、
多くのSONY α(A)マウント用レンズにおいては、機械的
な絞り機構を搭載している為、SONY E(FE)マウント機へ
装着する場合、機械的に絞り込みレバーを動かせるタイプ
のマウントアダプターを使用する事で問題無く使える。

この構造においては、絞りは、本来のレンズ内部にある
「開口絞り」を用いる事となる。仮にそうでは無くCANON
EOS(EF)用のアダプター等で良くある、アダプター側に絞り
羽根を搭載する「視野絞り」機構とは異なり、光学的な
効能は、本来のレンズ通りの仕様と性能が得られる。

つまり、「視野絞り」は、レンズ後玉からの光束を遮る
だけの構造であるから露出値の調整には効果があるが、
被写界深度の調整や、レンズ収差の低減、ボケ質破綻の
回避などの目的には向かない(殆ど効能が無い)訳だ。

ただ、このタイプの機械的絞り込み連動型アダプターでは、
勿論カメラ本体に絞り値が伝達される訳でも無く、
今、実際に、Fいくつの絞りで撮っているかはわからない。
まあ、外部露出計を用いる等をすれば、F値は類推可能とは
なるが、それは煩雑すぎてやっていられないであろう。

ちなみに、余談だが、ビギナー層の中で、少しだけ
絞り値やシャッター速度の意味がわかりかけ、中級層まで
あと一歩という段階の人に、こうした絞り値不明の機材を
使ってもらうと「絞りがわからないので、とても不安だ」
と言って来る。まあ、その気持ちはわからなくも無いが、
厳密に「ここでは、絞りF5.6で撮らなければならない」
といった技法は、実用上では、ほとんど有り得ない話だ。

今から60年も昔の、露出計が無い銀塩カメラの時代では
「快晴時には、F11とする、晴れがF8で、雲りはF5.6」
といった撮影技法が推奨されていた。そういう事が当時の
フィルムには書かれていたし、それを頼りにしない限りは
内蔵露出計が無いので、写真を撮る事が困難であったからだ。

だから、そういう状況を自身で体験したシニア層、または
そうした層から指導を受けた次の世代のビギナー層においては
現代に至ってもなお、「今日の天気では、絞り値はいくつに
するのが良いのですか?」と聞いてきて、あきれる場合もある。

勿論、絞り値は作画意図に応じて被写界深度を調整する為に、
あるいは稀に作画意図上のシャッター速度の調整の為に用い
(注:絞り優先AE時、できれば手動ISO設定である事)
それから一部のユーザーでは、収差を低減させてMTF特性や
画質(解像感)を向上させる目的でも用い、さらに高度な
用法ではボケ質破綻を回避する為に、そして稀に、カメラに
おける性能限界(例:高速シャッター速度の限界)を回避する
為に(露出安全機構。自動化されている機種もある)用いる
ものである。
当然、その日の天候に応じて変えるようなものでは無い。

だが、前述のビギナー層卒業クラスであっても、絞りの実際
の効能が、どこまでわかっているか?そこは大いに疑問だ。

ビギナー層の持つ、開放F値の暗い標準ズーム等で、かつ
撮影技法的にも中遠距離の静止被写体を平面的に撮るだけでは、
絞り値の差による写真の写りには、差が殆ど出て来ないので、
絞りの実際の効能などを経験的に学ぶ術(すべ)は無い。

だから、もしかすると、「今日は晴れているからF8で撮る」
といった、50年以上も前の撮影技法の概念の一部が現代に
いたるまで引き次がれてしまっている可能性も無きにしも
あらずで、あるいは周囲のベテラン層から、そんな話を聞き
つけて、それを守って撮っていたかも知れない訳だ。

(「センパチで撮る」と1990年代位でも言われていた。
→「晴天時、ISO400のフィルムで絞りF8、1/1000秒
で撮る」という意味。ただし、これは「感度分の16」や
「Sunny 16」と呼ばれる、他の「勘露出技法」での
語呂合わせと、何故か1段(EV)弱、露出値が異なる。
しかし、その差異を追求している意見や資料は、過去
1度も見かけた事が無いので、結局、露出やその算出の
事は、皆、良くわかっていないのであろう・・
単に、テストに出る語呂合わせを覚えるような状態だ。
でもまあ、好意的に解釈すれば銀塩時代のISO400の
カラーネガフィルムは、2/3段(EV)前後、プラス
露出とした方が、フィルムのラティチュード(露出
許容範囲)を有効に使えるので、写りが良くなる。
なので「センパチ」は、厳密には、さほど悪く無い
勘露出の算出手法だ、しかし、そこまでの詳細が
わかっている人達は、ますます少ないであろう・・)

・・まあ、他に絞りの効能を自身で学ぶ手段など、
ビギナー層は持っていないのだから、やむを得ない。

そりゃあ、50mm/F1.4の大口径レンズがカメラを買うと
付いてきた40年程前の時代であれば、絞り値を色々と
変えてみて、自分自身で絞りの効能を学ぶ事は出来たかも
しれないが、そうであっても銀塩のISO100のフィルムで
日中においては、当時の最高1/1000秒シャッター機では、
絞りをF5.6以上に開けて撮影する事は出来ない。

ちなみに、日中快晴時にISO100での、絞り値と、適正露出
となるシャッター速度の一覧は以下となる。
(注:「センパチ」計算法では、以下と僅かに異なる)

F1.4→1/16000秒(銀塩時代にここまでの機種は存在しない)
F1.7→1/12000秒(MINOLTA α-9等、ごく一部の機種で実現)
F2.0→1/ 8000秒(AF時代以降の最高シャッター速度)
F2.8→1/ 4000秒(MF時代の機種の最高シャッター速度)
F4.0→1/ 2000秒(初期MF時代では旗艦機のみに搭載)
F5.6→1/ 1000秒(MF時代を通じて一般機での性能)

だからまあ、40年程前では、日中では絞りを開けて撮る
事はできなかった訳だ。

ちなみに、この状況は現代でもあまり変わっておらず、
デジタル機での最低ISO感度は、ほとんどの場合は、
ISO100(稀にベース感度ISO200といった高い機種もある)
であり、かつ中級機等では殆どが1/4000秒シャッター機
であるから、F2.8より明るい大口径レンズは日中では
絞りを開けて使用できない。

この課題の解決の為には、ND(減光)フィルターを使用
する事が簡便であり、私は近年においては、必ずと
言っていい程、NDフィルターを装着し、絞り設定の自由度
を高めている(開放にしてもシステムにおけるシャッター
速度オーバーにならないようにする)
NDの減光率は、ND2,ND4,ND8を各フィルター径で用意し、
それこそ、天候に応じて、適切なものを選んで装着する。
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さて、どんどん寄り道が長くなったが、少しづつ戻す。

まず、ビギナー層では、絞り値を自在に変更し、その効果
や効能を確かめる機材環境を持っておらず、加えて
撮影技法的にも、絞り値による被写界深度効果が顕著と
なるような「立体的被写体」を殆ど撮らない。

何故撮らないか?は「平面画角しか見えていない」からで
あって、主要被写体と背景被写体の関連性を配慮するような
撮り方が出来るのは、中級レベル以上である。
逆に言えば、平面でしか被写体が見えない限り、初級者だ。

なので、初級層は、絞りの実際の効能がわかっていない。
だけど、それを理解しない限りは、中級クラスにステップ
アップできない、という事も、良くわかっている事だろう。
だから実際の「絞り値」がいくつになっているか?を物凄く
気にする。

まあ、現代でこそ多くのカメラシステムにおいては、EXIF
(エクジフ)情報により、撮影後の写真の絞り値等を確認
する事が可能ではあるが・・

銀塩時代では、それを記録する為には、高価なオプション
部品である「データーバック」を別途購入して、カメラに
装着する必要があった。「それは高価すぎて買えない」という
初級卒業層においては、1枚1枚写真を撮るたびに、絞り値や
シャッター速度をメモする研究熱心な人達も非常に多かった。

だが、良く考えてみれば、「露出値のメモ」は、実際にその
情報が参考になる可能性は殆ど無い。何故ならば、絞り値に
よる効能は、撮影距離と背景距離によっても、被写界深度は
変化してしまう為、そこまでの空間的な詳細情報が記録されて
いない限りは、絞り値だけでは、殆ど情報としての意味が無い。

また、シャッター速度は、動体被写体の動感表現に参考すべき
情報ではあるが、これも撮影者と動体被写体との距離や角度に
応じて相対移動角速度は変化してしまう為、あまり意味が無い
情報だ。たとえば駅のホームを通過する新幹線を近距離で撮影
するのと、数百m遠くに見かけた新幹線を撮影する場合には
同じ新幹線の速度と、同じカメラのシャッター速度であっても
動感がまるで違うのは当然の話である。

だから、絞りやシャッター速度をメモする実際の効能は無い。
だけど、そうやって「研究熱心」である事に、実際の価値が
あった訳であり、そういう風に「手間を惜しまない」人が
結局のところ、絞りやシャッター速度の実際の効能や原理も
他者より早く理解し、それらを実際の写真表現に応用できる
為のスキルを身につけていった訳である。

現代においては、そんな風に露出値をメモしているような
ビギナー層は、残念ながら皆無である。又、ちょっとわかって
いる人等では「そんな事は、EXIFを見ればわかるだろう?」
と言ってくるのだが・・ そう言う人に限って、EXIFを見て
研究(勉強)をする事は、まず無い。

「原理的に実現可能な事」と「心理的にやるかどうか」は
全く別物であり、そこが現代人が陥り易いジレンマだ。

他の例をあげれば「デジタルズームとトリミングは同じだ」
と言う中級層は多いが、撮影時に自分が撮りたい要素や意図を
含めてデジタルズームをかける事と、事後にトリミング編集
を行う事は、まるで心理的な意味が異なる。

多分「両者は同じだ」と言っている人は、事後にトリミング
編集など「面倒だから」と何もしないのであろう。そして
撮った時の心理などは、覚えていられる筈も無いのだから
そもそも「事後に自由に編集すればよい」等は、写真表現的
な観点からは、かなり困難な状況である訳だ。
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さて、回り道がまた長くなった(汗)
「絞り値が表示されない」事のデメリットは、ある事はあるが
初級卒業層が考えるほど、致命的な問題点には成り得ない。

つまり、絞り値は、まずは作画意図的な要素からすれば、
「開放近く」「中間絞り」「絞り込み」の3段階を把握して
いれば、それでだいたい事足りる。絞り値が表示されない
機械式アダプターでも、だいたいの手指の感触で、その
3段階くらいならば把握可能であろう。
勿論、シャッター速度はカメラ側に表示されるから、それで
殆ど全ての状況における作画表現意図はカバーできる。

次いで「厳密な描写傾向設定の為の絞り値調整」がある、
これは被写界深度、画質(収差)面、ボケ質破綻回避、
といった要素があるが故の操作だが、このあたりは中級層
クラスでもお手上げであり、上級者以上の撮影技法であるから
ビギナー層には無関係な話だ。そして、それをちゃんと実行
する上級層であっても、その場合は、ミラーレス機等に
備わる高精細EVFで、だいたいの様子を確認しながらの措置
となる(この為もあって、本記事ではα7を使用している)

EVFでは判断不能となる極めて微細な描写の差異については
「手動絞りブラケット」等の措置となる。こうした用途に
おいては、実は、機械式絞り連動機構アダプターは、概ね
無段階に絞り値が調整できるので、むしろ有利となる、

で、その際の実際の絞り値が、F3.5であろうがF3.87で
あろうが、もう、どうでも良い話だ。欲しいのはあくまで
「結果」としての写真であって、「絞り値を3.5にして撮った」
というプロセスについては、無意味な話なのだ。

・・ここも初級中級層は良く誤解している点だ、例えば、
「流し撮りがしてみたい」からと、シャッター優先AEとし、
シャッター速度を例えば1/45秒に設定する。どこかの写真
でそうしているのを見たからだ。でも、その参考写真には
被写体が時速何kmで動いていて、撮影者から何十mの距離に
あったのか迄は書かれていない、だから、1/45秒にしても
上手く撮れる場合もあるだろうが、それは稀であり、たいてい
の場合は失敗するだろう。そこで中級者は、「あれ? 
ちゃんと1/45秒に設定したのに上手くいかないや、やはり
流し撮りは難しいなあ・・」で終わってしまう訳であり、
そもそも、その考えでは目的と手段が逆転してしまっている。

大事なのは、自分が必要とする(流し撮りの)写真を撮る
事であり、決して「1/45秒で撮る練習をする」という事では
無いわけだ。

このあたりの、目的やプロセスを理解してない初級中級層
は極めて多い、いや、ここも理解してないから初級中級の
レベルで留まっている訳であり、上級にステップアップ
したいならば、目的を最優先として、それを実現する為の
手段は、多くの「引き出し」(経験値、技能)から選んで
使えば良い訳だ。
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余談が長くなりすぎた、本SAM85/2.8の総括であるが、
まず、長所は、最短撮影距離が60cmと短いところか。
また、描写力的にはさほど悪くは無いが、ちょっと用途的な
魅力に欠けるレンズである。何故ならば、85m単焦点には、
初級中級層が憧れる85mm/F1.4級のレンズ等がいくらでも
存在する激戦区である。そんな中で、F2.8級レンズは
初級中級層的には魅力を感じない事であろうし、さらに
言えば、初級中級層では「F1.4レンズの方がF2.8よりも
常に性能が高い」という大きな誤解を抱えている。

これについては、また長くなるので割愛するが、本ブログ
の読者であれば、良くわかっている事であろう。
(ちなみに私が所有している数十本の85mm前後の焦点距離
を持つレンズ群において、最も描写表現力の個人評価得点の
高いものはAPO-LANTHAR 90mm/F3.5である。
開放F値がF3.5だからと言っても、低性能で低描写力な
安物レンズでは決して無い)


本SAM85/2.8を買うかどうかは、あくまで個々の判断だ、
自身の撮影目的、用途において必要性があると思うならば
あまり高価でも無いので、買えば良いし、不要と思うならば
それはそれで良いと思う。大事なのは、他人の意見や評価に
左右される事なく、あくまで自分自身で機材購入ポリシー
や価値感覚を持つ事であると思う。

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今回の「SONY エントリーレンズ編」は、このあたり迄で、
次回記事に続く。

カメラの変遷(10)ヤシカ/京セラ・CONTAX編

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本シリーズは、各カメラメーカーが発売した銀塩・デジタル
のカメラをおよそ1970年代から現代2020年代に至る迄の
約50年間の変遷の歴史を辿る記事である。

今回は国産CONTAX編として、主に1975年から2005年迄の
30年間のヤシカ/京セラ・CONTAXの歴史を振り返ってみよう。
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1975年からの国産CONTAXの話の前に、何故、CONTAX
(コンタックス)というブランドが有名になったのか?
については、マニアであれば知っておく必要があるだろう。

まず、そのあたりの歴史をごく簡単に紹介しておこう。

*1930年代~大戦を挟んで1950年代
 ドイツ(東独)のツァイス・イコン社による、レンジ機
 CONTAX Ⅰ型の発売(1932年)の際に「CONTAX」という
 名前が社内公募で決まったというのが定説だが、諸説ある。

 この時期のCONTAX機は日本にも輸入されていたが、現代の
 貨幣価値で300万円にも相当する高額商品であった。同様の
 価格帯で販売されていたライカとともに、当時においては
「コンタックスやライカで家が一軒建つ」とも言われた。

 ただし、戦争前の時代であったので、こうした「光学兵器」
 が容易に海外敵国に流出しないよう、あえて超高額機器と
 していた可能性もある。(注:ヒトラー政権の時代だ)

 この話は、その後60年以上たった1990年代の中古カメラ
 ブームの際にも、マニア間において、オールド・ライカ等を
 手にし、「戦前は、このカメラ1台で家が買えたそうだ」と、
 多少誇張した自慢話で、ずっと語り継がれていた。
(注:1930年代では「文化住宅」という建築形態であれば
 現在の300万円程度で、ぎりぎり家が建ったそうである。
 ただ、土地を含め「家一軒を買う」のは無理であろう)

 カール・ツァイス設計のゾナーやビオゴン等の高性能交換
 レンズ群は世界的に高く評価され、CONTAXは一流ブランド
 として有名になる。

 しかし、大戦敗戦後、ドイツは東西に分断されてしまった。
 東独にあったツァイス社の工場設備、部材、設計図等の
 資産や技術、人員等は 旧ソ連に「接収」されてしまう。
 かろうじて西独側にもツァイスが残ったのは、米軍が
 慌ててツァイスの一部の設備や資材を西独に移動した為、
 という話も聞いた事がある。

 以降、東西各々でCONTAXは生産が継続されたが、この結果、
 後年に「CONTAX」を巡る商標の訴訟が起こってしまった。
 結局、その後、西側ツァイスでは戦前型の改良品の
 CONTAX Ⅱa型やⅢa型を1950年代を通じて引き続き生産し、
 東側ツァイス・イコンでは、ペンタコン、後にM42マウント
 の「プラクティカ」銘の一眼レフを製造する。

 この事で、M42マウントをPS(プラクティカ・スクリュー)
 と称する事になったが、1960年代には国産PENTAXのM42機
 が多数の販売で著名になった為、「PS」を「ペンタックス・
 スクリュー」の意味と解釈する様相もあった。

 その後、東西CONTAXは、日本製一眼レフの台頭等もあって
 経営状況が悪化、経営母体が変わる等、様々あったのだが、
 1960年代には事実上、休眠ブランドとなってしまう。

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歴史の話は、とりあえずここで一旦停止する。

CONTAXが著名になったのは、概ねこれだけの理由である。
数機種のカメラと、当時としては非常に高性能なレンズ群、
それだけである。しかし評価者の価値感覚を狂わせてしまう
高額な販売価格は、ほとんど誰もCONTAXシステムを買う
事が出来ない故に、さらに「神格化」を増す事であろう。


まあつまり、誰も買えないような高価な商品だから、それを
買えない人は、「きっと、どんなに凄い性能なのだろうか」と
期待と思い込みがあるのだろうし、運よくそれらのオーナーと
なった人達は、そのステータスの誇示の為にも「これは凄い」
と周囲に喧伝する訳だ。

これは「80年以上も前の話だから」という理由では無く、
いつの時代においても、そして現代においても、さらには
カメラやレンズ以外の全ての商品分野においても、ブランド
が神格化される様相は、概ね同一の状況であろう。

(余談だが、ミシュランガイド三ツ星や有名シェフの居る
レストラン等で、インスタント食品等を、お客さんに提供し、
それを、客が「店の名前に負けずに、見抜く事が出来るか?」
という実験をするTV番組が良くある。まあ、普通はブランドの
名前を信奉してしまい、正しくそれを指摘する事が出来る人の
割合は、極めて低い事が常だ)

・・で、本来であれば旧CONTAXと呼ばれるこれらのカメラを
実際に所有していれば、上記の話は、はっきりと言えるのだが、
あいにく所有していない。持ってもいないカメラについて
評価をするのは本意ではないので、ほどほどに留めておこう。

(注:自身が所有していない製品を評価してはならない。
これはどんな場合でも、どんな商品分野でも、大原則だ。
ちなみに私は、例え専門的評価者等が書いたレビュー等でも
執筆者がその製品を購入している様相が見られない場合は
「単なる広告記事だ」と見なして、その好評価内容は一切
参考にしないようにしている。まあ専門家層ならば、当然
知識も経験値も高いレベルにあるだろう、で、そういう人達
が、その製品を「買わない」と思うならば、逆に、最も信用
ができる「逆情報」になっているのかも知れない訳だ)

さて、ちなみに、1990年代の中古カメラブームの際、
戦後型の旧CONTAX Ⅱa/Ⅲa(西独製、1950年代)は、
良く中古市場に流通していた。
ただ、ボディも交換レンズもそれなりに高価で、10万円を
軽く超える相場であった。

投機的要素(=希少な商品を高額で転売し、利益を稼ぐ)が
入っている事は明白だったので、私は反発する考えもあった。
また、私が欲しいのは旧CONTAXの高性能なレンズ群であって、
旧CONTAXのボディそのものには、殆ど興味を持てなかった。
(「ギザギザの歯車」がむき出しのピント連動環を廻すだけで
指が痛くなり、実用的なカメラとは到底言えなかった点もある)

結局、私の場合は、東独CONTAX技術が旧ソ連に流れた「KIEV」
(キエフ、キーウ)に着目し、そのシステムを集めようと画策
したのだが、これらも希少であり、なかなか入手できない。
とりあえずゾナーのコピーのJupiter-9 85mm/F2(旧CONTAX
互換マウント、下写真)と、国産の旧CONTAXマウント新製品
「BESSA-R2C」(2002年、銀塩一眼第28回記事)を入手。
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ここから、旧CONTAXマウントの交換レンズ群を、東独製・
旧ソ連製問わずに集めていく予定であったが・・


時代は急速にデジタルに移行、もはやこうした懐古趣味的
な機材収集を続けられるような風潮や世情でも無くなって

しまった訳だ。(注:ちなみに、「BESSA-R2C」もまた
「ギザギザ歯車のピント環」搭載機種である、下写真)
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さて、ここからCONTAXの歴史の話に戻る。

*1970年代前半 CONTAXブランドの移譲

 休眠中のCONTAXのブランドを持て余した西独CONTAX
(ツァイス)は、日本のメーカーにブランドの譲渡を図る。
 自社のカメラ事業を廃業に追いやった憎き日本ではあるが、
 背に腹は変えられないし、それに、ブランド銘を必要以上に
 ありがたがる日本人消費者層に向けては、有名ブランドは
 高く売れる。(世界的にも、「日本人は金余りのカモだ」と
 見られていた世情であった事だろう。この時代での海外の
 風刺画(新聞や雑誌等のイラスト)等では、日本人は眼鏡を
 掛け、出っ歯で、高額そうなカメラを首から下げて、海外の
 名所を観光する姿が良く描かれていて、そんなイメージだ)

 当初、旭光学工業(PENTAX)に打診があったとの話だが、
 超有名ブランド故に、恐らくブランド使用権は、かなりの
 高額であった事だろう。(それに、銀塩時代のPENTAXは
「ブランド嫌い」の社風が、チラホラと見てとれる。
 有名他社の決めたスタンダード(標準的な仕様)に反発
 する仕様の商品が、あれこれと見受けられるのだ)

 で、PENTAXとの交渉は決裂、代わりに名乗りをあげた
 のが「YASHICA」(ヤシカ)であった。

 当時のヤシカは国内では、「大衆機を生産するメーカー」
 という印象も強かったとは思うが、海外輸出製品が多く、
 特に海外ではブランドが知られ、技術力も定評があった。
 また、ヤシカのレンズの多くは「富岡光学」製であり、
 その高い技術力は、知る人ぞ知る、という状況であった。
(後の中古カメラブームの際、上級マニア層においては、
 富岡光学製と思われるレンズ群を「ツァイスも認めた
 CONTAXと同等の高性能」という理由で買い集めた)
 
*1975年 国産CONTAX機初登場
 ヤシカによる初のCONTAX一眼レフ「CONTAX RTS」の
 登場である。
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「カール・ツァイスのレンズ、ポルシェ(社)のデザイン、
 ヤシカのボディ」という世界的ビッグネームの並んだ
 このカメラは、まさしく「鳴り物入り」という様相で
 市場から注目を浴びた。

 その模様の詳細は、ここで述べるには長くなりすぎる、
「銀塩一眼レフ・クラッシックス第5回 CONTAX RTS編」
 の記事を参照していただきたい。
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 なお、CONTAX RTS自身は「故障しやすい」という課題
 を持つ問題児カメラであったが、ツァイス銘のレンズは
 高く評価されていた。

 しかし、戦前から続いている「カール・ツァイス」
 ブランドへの、ユーザーの「神格化」の要素、そして
 価格が他社レンズよりも相対的に高価であった為
(注:カール・ツァイス社へのブランド使用料が入って
 いる為、当然、高価であろう)国産ツァイスレンズも
 高く評価された(・・と言うか、高く評価する事しか
 許されなかったという、不条理な世情であった)

 なお、この時代より(実際には、より以前から。そして
 後年の時代でもずっと)ツァイス社は、もうカメラ用の
 交換レンズの製造を行っておらず、ほぼ全てが日本製と
 なっているのであるが、それだとブランドイメージが
 低下してしまう、という課題がある。
(特殊レンズ第19回「国産ツァイス」編記事参照)

 そこで、Y/Cマウントの一部のレンズを、西独で部材の
 組み立てを行い、これを「ドイツ製」と称して逆輸入を
 行っている。中身は国産レンズと同じであるが、一部の
 ブランド信奉者の間では「ドイツ製は、さすがに良く写る」
 という根拠の無い噂も良く流れていた。
(まあ、そう思ってもらう為のブランド市場戦略でもあった)

 いずれにしても国産CONTAXの生命線は「ブランド力」だ。
 中級マニア層などでは、一部はそのブルジョア感に反発し、
 また別の一部のユーザー層では、そうしたブランド品を
 入手する事で「ステータス」(社会的地位)や所有満足感
 を得ようともしていた。

 これらは、物事の本質がわかっているマニア層や上級層
 には無関係(無縁)な話であったのかも知れないが・・・
 まあ、カメラ界においては、第二次大戦前の時代より、
 現代に至るまで、初級中級層の間においては、「ブランド」
 という概念が切っても切り離せない。

 現代においては、各社の協業生産により、メーカーという
 概念は既に希薄になっているし、カメラ自体も消耗家電製品
 となってブランドの意味も殆ど無いのだが、そうであっても
 ブランド品を欲しがる、生き残りユーザー層は依然多い。

 結局、消費者層において、「知らない」という点が最も
 大きな課題なのであろう。

 実は私も先年、知人への贈答品として万年筆を買おうと
 したのだが、勿論、製造メーカーが沢山ある。
 私はあまり良く知らない分野なので、著名なブランドの
 万年筆を選ぶしか方法がなかった。
「このメーカーならば、私も知っているし、貰った人も
 知っているから喜ぶだろう」という、あまりに単純すぎる
 超ビギナー的発想である。

 これがカメラであれば、勿論こんな買い方はしない、
 ちゃんとコスパが良くて、相手のニーズにも合った物を
 選ぶであろう。
 だが、万年筆(や高級筆記具)の事は、良く知らなかった
 ので、そういう風な買い物しか出来なかった訳だ。

 結局、「無知な故にブランド志向に走ってしまう」事が、
 私自身でも大変良く理解できたエピソードである。

(なお、その後、高級筆記具に興味が出てきた事と、上記の
「無知な事」に自身でも強く反省し、ボールペンについては
 中級品~高級品を20本程購入して、書き比べを続けている。
 その検証によりブランド銘や価格には、実用性は比例しない
 事は大変良くわかってきたが、この程度の数量や研究期間
 では、まだ「マニア」とは呼べないレベルな為、本ブログ
 記事では、「高級ボールペン」の紹介を控えている)

*1980年代

 上記RTSの発売直後、何とヤシカは経営破綻してしまう。
 その原因は不明だ、「CONTAXのブランドを高価に買って
 しまったから」という想像はつくが、まあ、それだけが
 理由では無いだろう、複雑な事情が色々あったと思われる。
(注:知っていても、あまり書きたくないという様相もある)

 ヤシカへの救済として、「京セラ」等が資本を投下し、
 後に、ヤシカは「京セラ」の完全子会社となる。

 当初、この国産CONTAX機は旧CONTAX機との区別の為に
「ヤシカ・コンタックス」と呼ばれたが、その後では
「京セラ・コンタックス」とも言われるようになる。

 しかし、RTSの登場以降、国産のYASHICA一眼レフも
 旧来のM42マウントを辞めて、RTSと同じバヨネット式の
 マウントを採用していた。
 このマウントの事を「ヤシカ/コンタックス」または
 Y/C、ヤシコン等と呼んだ為、「技術的な用語」としての
「ヤシコン(マウント)」と、ブランド(企業)名としての
「ヤシコン(機)」が混在してしまった事になる。

 なお、この混迷については、後の時代までずっと続く。
(注:その混乱を防ぐ為に、最初期の機体名にちなんで
 RTSマウントと呼ばれる事も中古市場等で非常に良くある)

 Y/Cマウント交換レンズは、現代機においては、それを直接
 装着できるカメラは無いが、マウントアダプターを用いれば
 殆ど全てのミラーレス機と一部の一眼レフで、CONTAX Y/C
 (RTS系)レンズを使用できる(注:AE版とMM版はアダプター
 では、どちらも変わり無く使用できる)
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*1985年 一眼レフのAF化

 この年は、歴史的な「αショック」が起きている。
 本格的AF一眼レフ「MINOLTA α-7000」の発売だ。
 この事については本ブログでは何度も説明しているので
 ばっさりと割愛しよう。

 京セラ・CONTAXは、AE化には注力していて、この年、
 プログラムAEや、プログラムライン変更機能を搭載した
「CONTAX 159MM」を発売している(銀塩一眼第12回記事)
 これ以降のマルチモードAE対応のY/Cマウントレンズは
 MM型となっている。(AE型は絞り優先とM露出で使用可)
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 しかし、AF化については出遅れている。Y/C(RTS)マウント
 のままでは、AF化の追従が難しかったのかも知れない。
 1980年代後半より京セラブランド(海外ではヤシカ銘)で、
 AF一眼レフを数機種発売するが、Y/Cマウントとの互換性
 は無く、少なくとも国内では商業的に成功したとは言えない。

 国内で売れなかった理由は、「ツァイス銘のレンズでは
 無かったから」と、メーカーや市場、ユーザーは解釈した
 かも知れない。確かに「京セラ」銘レンズではユーザーは
 あまり魅力を感じない。「ヤシカ」は海外ではブランド力が
 あるが、国内では「大衆機」のイメージが強すぎる。

 ちなみに、ヤシカ/京セラブランドで販売された銀塩AF
 コンパクト機のTシリーズ(1980年代後半~1990年代)
 では、「テッサー」や「バリオテッサー」のレンズ銘に
 より(注:T*(スター)表記無し)マニア層には人気の
 コンパクト機であった。

 個人的にはTシリーズではテッサー35mm/F3.5を搭載した
 Slim T(1992)、T Proof(1995)を所有していたが、
 譲渡により現在未所有。まあ、「テッサー」の名前が
 付いていれば他社製カメラよりも良く写るという大誤解を
 私も持っていたのであろう(汗)ちなみにテッサー型式の
 3群4枚レンズ構成を用いた(コンパクト等)カメラは、
 世の中に、星の数ほど多数存在している。

*1990年代 

 結局、Y/C(RTS)マウントのままでのAF化は、実現できな
 かった。もっとも、この時期に一眼レフのAF化を実現し
 それを商業ベースに持ち込めたのは、ミノルタの他では
 ニコン、キヤノン、ペンタックスしか無い。
 他のメーカーは全てAF化に失敗又は見送った形となった訳だ。

「ツァイス銘のレンズで付加価値があるY/C(RTS)マウントを
 安易に変えるべきでは無い」という意見が、社内外や
 ユーザー層からもあったのかも知れない。
 つまり、COTAX(RTS系)一眼レフのAF化見送りは、技術的
 な課題よりも、政治的な部分が大きかったという事だろう。

 後年、1996年に、Y/Cマウント機であるが、何とフィルム
 を動かして、全てのCONTAX(Y/C)レンズをAF化してしまう
 という特異なカメラ「CONTAX AX」が発売されている。

(参考:前述の京セラ/YASHICAのAF機、AF-200シリーズ用に、
 MFのY/Cレンズを装着しAF化する「KYOCERA AFコンバータ」
 が発売されていた模様だ。これはCONTAX AXよりも10年弱
 昔の時代となる。なお、同時代にNIKONおよびPENTAXからも
 類似構造の、MFレンズをAF化するコンバーターが発売されて
 いた。NIKONの製品(TC-16A)は所有しているが、これは
 残念ながらデジタル機では動作しない。→注:特殊な改造
 を施す事で、一部のNIKON製デジタル一眼レフでも使用可能
 となる模様だが、相当に面倒な改造なので、やっていない。
 それに、そこまでしてAFが欲しい訳でも無く、MFでもどうと
 でも撮れる技能を持っていれば、遅いAF等は無価値であろう)
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 CONTAX AXは、化物のような概念と構造のカメラではあるが、
「なんとしてもY/CマウントのままでAF化を実現するぞ」という
 気概の感じられるカメラだ(銀塩一眼第20回記事参照)
 これでは、むしろ、異マウントでAF化をした方が遥かに容易
 であった事だろう。

 なお、結局Y/C(RTS)マウントのAF化は「AX」を除いて
 実現しなかったのだが・・ 
 コンパクト機はそうでは無い。前述の京セラTシリーズや、
「サムライ」シリーズ(ハーフ判AF機、未所有)等では
 1980年代後半よりAF化は実現している(注:一眼レフと
 コンパクト機では、AF化に必要な合焦精度が異なり、
 勿論コンパクト機の方が、AF化が技術的に容易である)

 で、レンズにツァイス銘をつければ売れる、という事から
 CONTAXブランドでの高級コンパクトを、高付加価値型商品
(=つまり利益が取れる)として1990年代を通じて展開する。 
 すなわちT2(1990年、現在未所有)から、T3(2001年)
 に至る、高級コンパクト「CONTAX T」シリーズや、レンジ
 ファインダー機「G」シリーズ(1994年~、未所有)である。
 これらは勿論AF化を実現していて、どちらもマニア層を
 中心に 大人気であった。
(下写真は、「バリオゾナー」のズームレンズを搭載した
 銀塩高級コンパクト CONTAX Tvs 1993年。発売時17万円)
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 1990年代のCONTAXは、これらの高級機の人気(売り上げ)
 で支えられていたように思う。

 1990年代後半に登場した、新フィルム規格APS(IX240)
 にも、いち早く対応し、APS機唯一の高級コンパクトも
 発売していた(CONTAX Tix、1997年、下写真)
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 また、おりしも1990年代後半には「中古カメラブーム」
 が起きた事もCONTAXにとっては幸いしているであろう。
 他記事で色々書いているが、この時代の銀塩AF一眼レフには
 魅力的な製品が少なく、マニア層は、古いMF一眼レフや
 レンジ機、そして新分野の高級コンパクト等に夢中になって
 いたのだ。(下写真は、CONTAX T3 2001年)
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 だからまあ、CONTAXの一眼レフがMF機であった事には、
 マニア層は、さしたる違和感は持っていなかった。

 しかし、京セラ側の「事業」としての視点はどうか?
 この時期、他社のレンズがAF化等の名目(付加価値)で
 値上げが出来たのに対して、CONTAXのY/Cマウントの
 ツァイスレンズはMFのままの旧製品につき、簡単には
 値上げができない。同様にAF化を見送ったOLYMPUSでは
 OMズイコー銘MFレンズを何度か値上げし、ユーザー層
 から不評を買っていた状況であったのだ。
 結局、値上げのできないツァイスレンズは、市場の中で、
 相対的には、どんどんと安価になってしまう。

 1970年代に「高級品」として、そのブランド力で高値に
 販売できたツァイスであるが、例えば著名な「プラナー
 85mm/F1.4」でさえも、1990年代においても10万円程
 の定価のままであり、他社AF版85mm/F1.4が15万円程
 していた事よりも、むしろ、かなり割安感があった。

 ツァイスという高級ブランドの付加価値を持っているのに、
 他社同等品よりも安価なのは、京セラとしても、どうにも
 やっていられない。つまり事業の継続が難しい状況だ。
 やはり、だいぶ出遅れてはいるが、CONTAX一眼レフの
 AF化を図るしか無いではないか・・

 また、この時代、大きな流れとしての「デジタル化」が
 迫っていた、1990年代後半、既にCASIOを初めとして、
 数社よりデジタル・コンパクト機が発売されている。
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 上写真は、KYOCERA FINECAM SL400R (2004年)
(コンパクト・デジタル・クラッシックス第1回記事)

 京セラとしては、一眼レフのAF化に合わせて、近い将来
 のデジタル化をも見据えた対応をしなければならない。
 あれこれと同時に開発するべき内容が多く、なかなか
 大変な時代であったかもしれない。

*2000年代

 カメラ史上最も悲運なシステムと言える、「CONTAX
 Nシステム」が、ついに完成、これを発売する。
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 上写真は、新マウントの銀塩AF一眼レフ「CONTAX N1」
 である(2000年、銀塩一眼第24回記事参照)

 装着レンズはCONTAX N Planar T* 85mm/f1.4(2002年)
 27年ぶりにリニューアルされたプラナー85/1.4であり 
 大変高い描写力である事が特徴のレンズである。
(以下、写真3枚はDMC-G6 + NP85/1.4による撮影)

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 Nシステムは、銀塩AF一眼レフ以外にも、中判(645N)
 フルサイズ・デジタル一眼レフ(N Digital)により
 構成されていたのだが、これらの同時開発にかかった
 研究開発費は、恐らく膨大な金額となったのであろう。

 その開発費の償却からか? あるいはこれまで15年間
 以上も(AF化という)高付加価値商品を出せなかった事
 からの反動だろうか? これらの「Nシステム」は
 非常に高額であった。

 マニア層ですら、おいそれと買う事が出来ない価格だが、
 最大の問題点は「N Digital」(2002年、未所有)の
 不人気であろう。発売時80万円もしたこのデジタル一眼
 レフは、これを入手したブルジョワなマニア層の間で
「写りが悪い」という噂が急速に流れてしまった。

 まあ実際には、2002年当時では他社のデジタル一眼レフ
 も似たり寄ったりの写りであり、これは撮像センサーや
 画像処理エンジンの性能の時代的な未成熟である。

 デジタル技術を良く知らない金満家層による悪評が広まって
 しまったのは不幸な事実であるが、世情的にやむを得ない。
 他にも、NIKON D2H(2003年、デジタル一眼第1回記事)
 も同様に不当な評価が流れて商業的に失敗した事例がある。

 京セラは「N Digital」をメーカー回収し、調整を行った
 のだが、「それでも写りが悪い」という噂が流れてしまった。

 この話を聞き、マニア層は「Nシステム」全体を買い控えした。
「値段が高いので、どんなに凄い写りなのかと思ったけど、
 噂を聞くかぎり買わない方が良さそうだな」という状況に
 なった訳であり、「どうせお金を出すならば」と、すでに
 この時代に普及しつつあった、CANON EOS-1Dシリーズや
 NIKON Dシリーズに興味を持ち始める。これらの旗艦機等も
 勿論高額であったが、順次低価格機も出ており(EOS 20Dや
 NIKON D70等)お試し版的に、それらでデジタル機に移行
 するマニア層が大半であった。
 
 そしてCANONやNIKON機に反発するマニアも勿論多い。
 カメラに限らず、マニア層の多くは、誰でもが知っている
 ブランドの商品を購入する事を非常に嫌う。
 何故ならば「初級層が欲しがるモノを買ったら、それらと
 同じビギナーだ、と周囲に思われてしまうから」だ。


 なので、一部のマニア層は、2003年頃から出はじめた
 4/3機(OLYMPUS E-1等)やPENTAX機(*istD等)に注目する。
 まあ、確かにそれらを買えば、有名メーカーであるCANONや
 NIKON機を欲しがる初級中級層と同じだとは見なされない。

 さて、マニア以外の一般層はどうか? まあやはりこの分野
(デジタル一眼レフ)で先行中の、CANONおよびNIKONに皆が
 興味を持つのであろう。業務撮影分野では、この時代に急速
 にデジタルへの移行が進み、職業写真家層も勿論そうした。

 ただ、銀塩時代の撮影の技能や知識と、デジタルのそれとは
 全く似て非なるものだ。この為、ごく一部では「フィルムの
 常識はデジタルでの非常識」という標語(?)まで流れた程
 であったが、もっと具体的な内容で無いと、それも広まらない。

 と言うかデジタル撮影で覚えるべき新たな技術内容はフィルム
 時代の軽く100倍以上もあった為、「誰もついてこれなかった」 
 というのが実際の状況であっただろう。

 前述のNIKON D2Hの悪評もその1つだ、当時希少なISO6400
 を使ったら酷いノイズが乗るのは当たり前だが、銀塩機から
 持ち替えたばかりのユーザー層は、それに文句をつけた。
 私は不当な悪評判で売れ残ったD2Hを安価に購入し、20年間
 近くも愛用しているが、低感度で使用して、ノイズが多いと
 思った事は一度も無い。

 また、この件は下手をすればNIKON機の急速なデジタル化や
 同社開発の撮像センサーを良く思わない「対抗勢力」により、
 意図的に流されたデマのようなものだったとも思えてしまう。
 なにせ、この件で、NIKONは自社のセンサー部品(LBCAST)
 の開発方針に大きなダメージを受けてしまったのだ。
 (=以降のNIKONの自社撮像センサー開発は取りやめ)
 まあ、裏の世界には他者の成功の足をひっぱろうとする輩は
 いくらでも居る。

 ただまあ、そういう「流言」に簡単に振り回されてしまう
 ような人達、特に、昨日まで銀塩写真を撮っていたような
「デジタルの素人」である、上級層・マニア層・職業写真家層・
 評論家層等にも多大な問題点があった話ではなかろうか?
 そうした当時のオピニオンリーダー層が、ちゃんとデジタルの
 勉強をしていれば、何も問題は起こらなかった筈だ。 

 この混迷の時代は2000年代を通じて続くのだが、それでも
 だんだんとユーザー層全般はデジタルの世界に慣れていった。

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 余談が長くなった、「CONTAXの歴史」の話に戻るが、
 2000年代前半では、皆がデジタルに興味があった為、
 旗艦N Digitalが不評であったCONTAXは、かなり厳しい
 状況である。


 また、この時代、新規のカメラユーザー層から、
「CONTAX? 何それ? かぜ薬の事?」という話を初めて聞いた。
 それ以前では、ビギナー層であってもCONTAXやツァイスを
 知らない人は誰も居なかったのに・・ この状況である。

 その理由の1つは、20世紀から21世紀への移行もあるだろう。
 まあ別に西暦が変わった事自体に意味は無いが、バブル崩壊
 後にユーザーニーズは微妙に変化を続け、2000年ごろには、
 もう、消費者側に欲しい”モノ”は無くなっていたのだ。

 カメラに限らず、20世紀型商品であれば、「安くて性能や
 品質が良い」(コスパが良い)モノか、あるいは「高級で
 誰もが認める有名な商品」(ブランド力がある)という商品
 が売れた時代ではあるのが、21世紀型商品では、消費者が
 欲しいと思う「ニーズ」を様々な手段で作り出す事、つまり
「購買・消費行動の喚起」が主要なマーケティング技法となって
 いた訳である。
 つまり、CM等の宣伝、口コミ、ネット評価、有名人が良いと
 言った、流行っている、等、消費者側が欲しいと思わせる
 状況を作り出さないと、もう「モノ」が売れない時代である。
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 CONTAXのNシステムには消費者側(主にマニアであろう)が
 それを欲しいと思う市場要素は殆ど無かったし、むしろ悪評判
 が流れていた位である、これはもう残念ながら致命的であった。
 新規ユーザー層の誰も知らないブランド銘となっては、もはや
「CONTAXの神通力」も、残念ながら通用しない・・

*2005年
 京セラより「カメラ事業より撤退する」とのアナウンスが
 あった。
 1975年のCONTAX RTSより丁度30年、この僅かな期間
 だけが国産CONTAXの歴史である。


 思えば、ビッグネームである「CONTAX」に対して、
 ユーザー側もメーカー側も、そして市場全般においても過剰
 に期待してしまった要素が大きすぎたのであろう。
 戦前の時代から長らく「神格化」されていたブランドだけに、
 様々な点で、メーカーも市場も消費者層も、その名前に翻弄
 されてしまった。
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 フィルムでのMFの時代がずっと続いていれば、いまだCONTAX
 やツァイスは、依然ビッグネームのまま健在であっただろう。
 だが、AF化(αショック)、そしてデジタル化という大きな
 2つの波があった事は勿論であるが、バブル崩壊から続く
 消費者ニーズの変化、中古カメラブーム、ネットの普及に
 よる情報の流通、21世紀型のマーケティング等で、市場背景
 が変化した事も、CONTAXの悲運に繋がった事は、いまから
 振り返ればはっきりとわかる。だが、その時代の中においては
 それは誰にもわからなかった事なのかもしれない。

*その後のCONTAXとYASHICA
 
 カール・ツァイス社としては、日本での最大の提携先で
 あった「京セラ」を失ってしまった。

 翌2006年、SONYは、これも、カメラ事業を辞めてしまった
 KONICA MINOLTAより、カメラ事業「α」の譲渡を受ける。
 その際、それまで一部の(デジタル)コンパクト機と
 ビデオカメラ用のレンズで使用していた「ツァイス」の
 ブランド銘契約を、デジタル一眼レフ用レンズにも拡張。
 SONY銘レンズに混じり、一部の高級レンズをツァイス銘
 として販売、これは現在に至る。

 それと、COSINA社は1999年より「フォクトレンダー」
 のブランドを取得して成功していたが、ここでさらに
「カール・ツァイス」のブランドも取得、その後多数の
 ツァイス銘高級レンズを発売し、これも現代に至る。

 COSINA社の高い技術力がカールツァイス社に認められた
 という事にはなるのだが、これら「コシナ・ツァイス」の
 レンズもそれなりに高価であり、私は、まだ数本程度しか
 入手の機会に恵まれていない。そして、確かに良く写る
 高性能な設計ではあるが、贅沢すぎる要素もあり「コスパ
 が悪い」と基本的には見なしている。正直言って、今後も
 あまり積極的に収集したいとは思いにくいレンズ群だ。

 なお、COSINAは一時期「ツァイス・イコン」のブランド
 も取得し(注:カール・ツァイス社からの「製造委託」
 であった、という説もある)2005年にライカMマウント
 互換のレンジファインダー機を販売していたが、これは
 既に銀塩末期である為、派生型以外の後継機は出ていない。

 結局、「CONTAX」のブランドは、その後、どのメーカー
 にも委譲されていない。

 デジタル時代からの新規初級マニア層などが、現代で
「CONTAXとかツァイスって、凄い性能なのでしょう?」
 と聞いて来る事も稀にあるが、まあ本記事で述べたように
 各時代における変遷を良く意識しないかぎり、何も答える
 事はできない。決して順風満帆とは言えないし、むしろ
 時代の波に翻弄されてしまった「悲運のブランド」である
 とも言えるだろう。
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 ちなみにYACHICAであるが、京セラのカメラ事業撤退
 以降、そのブランド銘は海外の商社などの間で転売が 
 繰り返されている模様だ。

 2010年頃、とても変わった「赤外線カメラ」が国内で
 ヤシカ銘で発売された事もある。
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 上写真は、YASHICA EZ Digital F537 IR(2010年)
 コンパクト・デジタル・クラッシックス第4回記事参照。

 新品で7,000円位の激安で販売されていたカメラであり、
 私は、「恐らくは最後のYASHICA銘のカメラ」と見なし
 2台を保有している。(注:2018年頃、YASHIC銘を
 買った商社より、ユニークなコンパクト機YASHICA
 digifilm Y35が発売されているが、実用価値が低いと
 見なし、購入していない)

 1975年のCONTAX RTSから、2000年のCONTAX N1まで、
 それから、いくつかのCONTAX銀塩コンパクト機。
 私は、国産CONTAXの歴史を語る機種として、これらを
 今も大切に保管している。また、京セラ・ツァイス銘レンズ
 も多数所有していて、これらは現代なお、たまに持ち出して
 デジタル一眼レフやミラーレス機に装着して楽しんでいる。
 これらは「ブランド」に翻弄された悲運の歴史を語る希少な
 証人なのだ、決してそれらは「高性能なレジェンド」では
 無いと思う。

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さて、今回の記事は、このあたりまでで・・
次回記事に続く。

フォーサーズ用レンズ・マニアックス

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本シリーズは元々「μ4/3(マイクロフォーサーズ)」用
レンズの紹介記事であり、既に4回の短期連載を終了して
いる。ここで、補足編として、マイクロフォーサーズの
前身となった「フォーサーズ」(以下適宜「4/3」と記す)
用のレンズを、6本(OLYMPUS純正4/3用レンズ4本と、
他社製4/3用トイレンズ2本)紹介していこう。

では、まず最初の「4/3」(フォーサーズ)レンズ
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レンズは、OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 14-45mm/f3.5-5.6
(新古購入価格 13,000円相当?)(以下、ZD14-45)
カメラは、OLYMPUS E-410 (4/3機)

2004年に発売されたフォーサーズ機専用のローコスト
AF標準ズーム。

OLYMPUSの4/3用レンズの名称は「ZUIKO DIGITAL」と
なっていて、全て大文字で記載するのが正しい。
(注:銀塩OM-SYSTEMでも同様だが、一部では、先頭
のみが大文字の「Zuiko」表記もあったかも知れない)
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元来はOLYMPUS E-300(4/3機、2004年)のキット
レンズとして発売されたものであり、私はそのキットを
新古品で入手した次第で(注:当初はE-300のボディ
単品発売は無かった)よって、レンズ単体の購入価格は
不明である。適当な価格配分としておこう。

長年の過酷な使用で、元々のボディのE-300は、故障
廃棄となってしまったが、その後の4/3システムの市場
縮退(撤退)により、2010年頃に在庫処分品の
E-410(今回使用機、2007年発売)を安価に新品購入し、
本レンズは引き続き2010年代においても、実用レベル
の機材として使用していた。

で、「何が実用レベルか?」という意味であるが・・
4/3(マイクロ4/3も同じ)は、センサーサイズが
小さい規格だ。この為、使用するレンズは小型軽量化
が可能な他、本ZD14-45のように、実焦点距離が短い
標準ズームレンズ(等)を作る事が出来る。

まあつまり、14-45mmは、フルサイズ機換算で、
28-90mmの標準ズームと同等の画角になる。

で、この場合のメリットだが、「被写界深度を深く」
する事が出来る。

が、被写界深度を計算で求める際の「許容錯乱円」の
定義は、デジタル(光学)においては、凄く曖昧であり
参照する文献や、研究者、研究組織毎にまちまちだ。

その概念が統一できていない(研究が進んでいないか、
あるいは、銀塩とデジタルは基本原理が全く異なる為
両者で同一の考え方をする事が、そもそも出来ない)
事は、まあさておき、オリンパスにおいては、4/3や
μ4/3システムでは、0.016mm(35mm判フィルムの
半分)を「許容錯乱円」と定義している。


ただ、この数値で計算すると、実際に写真を撮っている
時の被写界深度の感覚とは、ずいぶんと異なってしまう。

私は4/3機やμ4/3機で、優に数十万枚の写真を撮影した
経験を持つが、正直言えば、デジタル(光学)の研究者
達が、これと同等以上の経験値・経験則を持ち、そこで
被写界深度を感覚的に捉え、「許容錯乱円の定義を厳密
に決めている」とは思えない。

「4/3(μ4/3)のセンサー対角線長は35mm判フィルム
の半分であるから、銀塩時代の許容錯乱円0.033mmを
半分にした0.016mmとしておこう」といった、単純な
計算で、これを決めているように思えてならないのだ。

私の個人的な感覚値では、APS-C機や4/3(μ4/3)機の
場合も「銀塩35mm判フィルムと同じ、0.033mm」を
許容錯乱円と定義した方が、すんなりと受け入れられる。

それに、もっと面倒な話をすれば、例えば、今回紹介して
いるような4/3(マウント)用レンズの中には、4/3機
専用では無く、フルサイズ機でも使える(フルサイズ対応)
のものも存在する。
では、そのレンズをAPS-C機やフルサイズ機に装着すれば、
センサーサイズが変わり、(仮定の)許容錯乱円も変る
ので、計算上での被写界深度も変ってくる。

でも、実写においては、そのような感覚は少ない。
レンズが同じであれば、センサーサイズの変化による
感覚的な被写界深度の変化は「さほど大きくは無い」と
私は思っている。

また、近年の一部の「マシンビジョン」(産業)用
レンズ業界においては、撮像センサーサイズがかなり
まちまちで、それに装着するレンズの対応イメージ
サークルもバラバラな、産業用システムにおいては、
「全てのレンズでの許容錯乱円を0.04mmで統一する」
としている様子である。

・・こんな状況なので、もう、あれこれと悩む事は
面倒であるし、そもそも、そうしたややこしい話を、
撮影者(ユーザー)側に「押し付けて」しまうのは、
「デジタル光学界全般での大きな課題」であろう。
何も、ユーザー側が悩む必要は無く、研究者がちゃんと
研究し、ちゃんと考えて決めて、ユーザー層に伝えれば
良い事だ。

・・という事で、本ブログにおいては、被写界深度の
説明をする際、全て、銀塩35mm判相当の0.033mmを、
許容錯乱円として計算を行っている。
これは、必ずしも正しい措置であるとは言い切れないが、
「世の中の誰も正解を決めれ無い」ならば、やむを得ない。
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さて、余談が長くなったが、余談とは言い切れず、この
許容錯乱円の他にも、デジタル光学、あるいはデジタルに
限らない「撮像光学」の世界では、曖昧な事が極めて沢山
存在する。(例:レンズ解像力LP/mmと、ベイヤー配列
等のセンサーのピクセルピッチとの関係性はいかに?)
だから、書籍、文献、Web等においても研究者毎に、
まちまちな事や解釈を言っているし、そこで使われる
光学用語の意味や定義すらも、まちまちだ。

そういう文献や情報を参照したユーザー(利用者層)も
「あっちの本に書いてあった事と、こっちのサイトに
書いてある事が違う」と、指摘をしたり文句を言う訳だ。

でも、そこまで気づいたならば、むしろ、たいしたものだ、
普通は、どこかから1つの情報を聞きかじっただけで、その
内容を盲信し、「それが正しい」と言い張る人達が殆どだ。

光学の世界での矛盾や課題に気づき掛けたのであれば、
それは”ちゃんと勉強する意思がある”という事であろう。
であれば、もう少しだけ、ちゃんと勉強してみるのも良い。

光学の専門書を10冊も買ってきて、ちゃんと読んだならば
専門書毎に、言っている事や用語定義が全く異なる事に
気づくであろう。まあ、そこで、勉強した人は思う・・
「書いてある事、まるっきりアテにならないではないか!」
と・・ そう、つまり、そういう事なのだ。

だから、自分なりに、正解と思う事を探求していかなくては
ならない。何か疑問に思ったら、必ず自分でそれを確かめる
必要がある。

「何十万枚も写真を撮る」と前述した。それは自身の疑問を
解消する為の研究と同等の行為である。
それをせずに、研究者が研究室の中だけでパソコンで計算して、
何かを考えて決めていたり、あるいは、ユーザー層においても
「こっちの本と、あっちのサイトが違う」とか文句を言って
いるだけでは、何も始まらない。
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では、話を元に戻す。
本ZD14-45レンズを日中晴天時のイベント撮影に使用する。
絞り優先AEで、例えば、絞り値をF7.1前後(F5.6、
F6.3、F7.1、F8あたり迄)に設定しつつ、2~3m程度
の距離で、人物スナップ撮影等を行うとする。

この場合の被写界深度は、F7.1、撮影距離3m、
許容錯乱円径0.033mmの条件で、焦点距離毎に・・

14mm広角側:約0.6m~∞(無限遠)
30mm中間 :約1.6m~約13m
45mm望遠側:約2.2m~約4.6m

・・となる。
これはすなわち、このシステムの”実用上”において、
「ズームを、あまり望遠側に設定さえしなければ、
 AFが何処かに合ってさえすれば、スナップ撮影で
 写真がピンボケになる事は、まず有り得ない」

という、多大な実用的メリットに繋がる。

簡単に言えば「(絶対に)失敗しない、撮影システム」
となる訳だ。(注:ブレには要注意だ、夕刻や弱暗所等で
手ブレや被写体ブレが発生しそうな場合は、ISO感度を
高めつつ、被写界深度を犠牲にしても絞り値を開けていく)

よって、「イベントの会場記録」等の業務撮影上では、
こういうシステムは非常に有益である。まず失敗しないの
だから、安心して大量の写真撮影に注力する事が出来る。

「所詮、安物のキットズームだ」と思うかも知れないが、
それもまた、業務/実用撮影等では多大なメリットである。
つまり「過酷な環境で用いて、壊れても惜しく無い」とか
「撮影コストと撮影実利の差が大きい=利益率が良い」
と言う事に繋がり、事実、本レンズは、十数回か、それ
以上の回数での「雨天撮影」でも大活躍している。

それに、それだけ酷使しても、何故か全く壊れない。
防水等の構造を謳っている訳では無いのだが、それに
しても、タフなレンズである。

---
さて、次の4/3レンズはマクロである。
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レンズは、OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 35mm/f3.5 Macro
(中古購入価格 8,000円)(以下、ZD35/3.5)
カメラは、OLYMPUS PEN-F(4/3機)
電子アダプターは、OLYMPUS MMF-2(4/3→μ4/3)

2005年発売のフォーサーズ用の軽量等倍マクロレンズ。

4/3システムは現在では終焉している為、こうした
4/3用レンズを使う際に、4/3機が無い場合には、
OLYMPUS製等の電子アダプターでμ4/3機に装着可能
である。(例:今回使用のOYMPUS MMF-2等。
他の用法については、本記事で追々紹介する)
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さて、ここでOLYMPUS 一眼レフ(銀塩OMおよび
4/3システム等)の歴史を少し紹介しておく。

1972年~1984年 銀塩OM-SYSTEM展開期

 天才と呼ばれた技師「米谷」氏の頭文字を取った
 銀塩Mシステムの開発と展開が進められた時代。
 Mシステムは、徹底的な「小型軽量化」「レンズ
 ラインナップの汎用性」「共通設計思想」等の
 拘りとも言える、強い特徴を持ち、一般大衆向けと
 ともに「オリンパス党」とも言える熱烈なファン層
 (マニア層)も生み出した。

 なお、Mシステムは、エルンスト・ライツ社(ライカ)
 からの「Mを使うな!」という、いいがかりにも近い
 クレームにより、「OMシステム」と名前を改める事と
 なっていた。(注:この事実は「オリンパス党」や
 上級マニア層等の人達からは、「ライカは度量が狭い」
 等と、酷く嫌われている歴史だ)

 この時代の代表機:
 M-1(1972)、OM-1(1973)、OM-2(1975)
 OM10(1979)、OM-4(1983)、OM-2SP(1984)
 OM-3(1984)
 (注:OMヒトケタ機以外は、ハイフンが入らない)

1986年~1988年 OM AFシステム試験期
 1985年、MINOLTAより世界初の実用的AF一眼レフ
 システムの発売。この通称「αショック」(事件)
 を受け、オリンパスもAF化に追従。
 しかし、MFのOM機とのレンズ互換性が無く、かつMF
 操作を軽視した仕様は、ユーザー層に受け入れられず、
 オリンパスOMのAF化は失敗し、開発は凍結されてしまう。

 この時代の代表機:
 OM707(1986)、OM101(1988)

1985年~1997年 銀塩OM-SYSTEM終焉期
 AF化に失敗したOM-SYSTEMだが、マニア層を中心に
 根強い人気はまだ残っている。この時代に全くの新規
 開発でのOM機は、もう発売されていないが、旧機種の
 リニューアルや、OEM生産版のOM機の発売はあった。

 この時代の代表機:
 OM-4Ti(1986)、OM-4Ti Black(1989)、
 OM-3Ti(1994)、OM2000(1997)

 ちなみに、私はここまで代表機として紹介した機体の
 内の多くを所有していたが、現有機は、OM-4Tiと
 OM2000のみであり、それぞれ「銀塩一眼レフ・
 クラッシックス第13回、第22回」記事で紹介済みだ。
 他のOM機は、デジタル時代に入った頃に「もはや
 実用価値に欠ける」と見なし、処分してしまっている。

2003年 4/3機販売開始
 デジタル時代に突入し、オリンパスも旗艦E-1で
 久しぶり(新規設計は十数年ぶり)にレンズ交換式
 カメラ(一眼レフ)市場に再参入。

 フォーサーズとは、4/3型撮像センサーを用いる規格
 からであり、これはフルサイズ機or銀塩35mm判機の
 約半分の対角線長で、その面積は約1/4である。
 今から思うと小さいセンサーだが、当時の他のデジタル
 一眼レフの大半はAPS-C機(フルサイズの半分の面積)で
 あったので、4/3と大差があるという訳では無かった。

2004年~2010年 4/3システム展開期
 この時期、オリンパスは積極的に4/3機およびその
 交換レンズ群を市場に展開する。
 2006年~2007年の期間では、オリンパスのみならず
 Panasonicからも4/3機が新発売された。
 この時代の4/3機では、ライブビュー撮影機能の搭載、
 手ブレ補正内蔵、アートフィルター(エフェクト)機能
 の搭載など、先進的な技術展開を行うのだが・・

 ただ、他社一眼レフ陣営は、画素数競争が顕著であった
 時代でもある。4/3機は当初500~800万画素、そして
 中期は1000万画素、終焉期で、やっと1200万画素と、
 他社一眼レフに対して見劣りするスペックであり、
 市場競争力を失っていく。

 画素数競争等のビギナー的視点では無く、マニア的
 視点からでの4/3システムの課題は3つあり、

 1)銀塩時代からの保有レンズ資産を、ほとんど活用
  する事が出来ない(=新規に4/3専用レンズを買う
  必要がある)
 2)4/3のレンズラインナップが少なく、魅力的な
  (仕様・性能)レンズも極めて少ない。
 3)レンズに通電しないとMFが出来ない。(=カメラ
  の電源をONするまで、ピントリングが廻らない。
  また、絞り環が無いので、同様に電源投入前の
  絞り値の「事前設定」が出来ない)

 上記1,2はともかく、3)は結構、致命的な課題だ。
 速写性に多大な影響があり、写真を撮る道具として
 実用性が低いと言わざるを得ない。

 4/3システムを設計する人達が、実際の写真撮影に、
 どの程度のノウハウを持っていたのか? どうも
 そのあたりが疑問である。銀塩OMの終焉期(1980年代
 後半)から、20年近くもOLYMPUSは一眼レフを
 新規開発しておらず、当然ながら、技術者達も、この
 長い期間の間に、総入れ替えとなった事であろう。

 写真撮影に関するノウハウが設計側で完全に失われて
 しまっていた可能性が高い。さもなければ、上記3)
 のような仕様で4/3システムを設計するという事が
 考え難い。なんだか、「動けば良いのです」という風に
 撮影時の利便性を考えない(あるいは全く知らない)まま、
 デジタルでの仕組みを設計したとしか思えないのだ。

 この時代の代表機:(注:オリンパス機のみ)
 E-300(2004)、E-500(2005)、E-330(2006)、
 E-410(2007)、E-510(2007)、E-3(2007)、
 E-30 (2008)、E-620(2009)、E-5(2010)

2008年 μ4/3(マイクロフォーサーズ)規格の発表
 OLYMPUSとPANASONICの共同で、新規格μ4/3が
 発表された。

 4/3の低迷を見かねての戦略転換だと思われるが・・
 個人的な想像だが、この少し前の時代にカメラ事業
 から撤退したMINOLTAや京セラの、カメラや写真撮影
 に極めて詳しいエンジニア達による、μ4/3規格の
 発案だろう、と分析している。

2009年 OLYMPUS初のμ4/3機の発売 
 μ4/3機(そしてミラーレス機でもある)の
 初号機は、PANASONIC DMC-G1(2008年)であった。

 μ4/3規格の発表からDMC-G1の発売までの期間が、
 やたら短かったのは、すでに量産試作機が存在して
 いて、後から規格制定が行われたのであろう。
(前述のμ4/3誕生の想像を裏付ける話である)

 OLYMPUSは、やや遅れ、2009年夏に、ようやく
 初号機としてOLYMPUS PEN E-P1が発売されている。

 銀塩PENシリーズのイメージを踏襲した、この機体は、
 マニア層からも大きな注目を浴びた。
(注:前述の天才技師「米谷」氏は、デジタルのPENが
 発売された同年同月に他界してしまった・・)

2013年 4/3終焉宣言
 OLYMPUSは、2010年頃からμ4/3システムを主軸とし
 4/3機の発売はE-5(2010年)のみに留まり、
 その機体が、結果的に4/3最終機となった。

 事前に誰が見ても4/3の終焉は明らかではあったが、
 一応、オリンパスも、この2013年のμ4/3旗艦機
 OM-D E-M1の発売時に「4/3とμ4/3を統合して・・」
 という主旨の発表を行った事により、ここで事実上
 4/3は終焉した事となった。
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思えば、4/3は僅か10年、実質としては7年間だけの
短い寿命であった。

公式資料、市場関係者、ファン層・・等であれば
「フォーサーズは、マイクロフォーサーズに発展したのだ」
という言い方をするとは思うが、例えば中古市場等では
4/3とμ4/3の両システムは、完全に別物の扱いであり、
4/3は終焉したシステムであるから、これはもう「実用
価値無し」と見て二束三文の中古相場(という価値感覚)
となる。まあ、それが当たり前の市場感覚であろう。

本レンズZD35/3.5の話が殆ど無いが、他記事と重複
する為、割愛する。例えば以下の記事を参照されたし。
「特殊レンズ第2回オリンパス新旧マクロレンズ編」

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では、3本目はトイレンズである。
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レンズは、HOLGA LENS 60mm/f8 HL-O
(新古品購入価格 1,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5Ⅱ Limited(μ4/3機)
アダプターは、OLYMPUS MMF-2(4/3→μ4/3)

2010年代初頭位に発売された、中国製トイレンズ。

まだミラーレス機用に対応していない時代であったので
このレンズは、各種(デジタル)一眼レフ用マウントで
販売されていた。
型番の最後の「-0」は、オリンパス用を意味し、これは、
この時代であれば、すなわち4/3マウント用レンズという
意味である。
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「4/3用レンズは、電源を投入しないとピントリングが
廻らない」と前述したが、こうしたトイレンズは例外で
あり、レンズ内AFモーターも無ければ、電子接点も無い。
まあつまり、物理的に4/3機やμ4/3機に嵌りさえすれば
使える、という事になる。

今回は電子アダプターMMF-2を使っているが、ここでは
電気的な通信が行われている訳では無く、単にマウント
形状やフランジバックを揃える為のアダプターにしか
なっていない。まあつまり、μ4/3機を使わずとも、
4/3→? の機械式マウントアダプターがあれば、その
?のマウントにおいて、本レンズを使用可能となる。

本レンズの新古品購入価格は、僅かに1,000円である。
まあ、元々定価も3,000円程度と高価では無いのだが、
これは「7割引」のディスカウント店で購入した次第だ。
ディスカウント(アウトレット)店では、商品価値の
低いもの、つまり「訳アリ」の商品を安価に仕入れ、
それを安価に販売するのだが・・

本レンズの何が「訳アリ」なのか? と言えば、もう
説明する必要も無いであろう。
既に終焉した4/3(フォーサーズ)用のレンズだからだ。
「古い規格、古いシステム、もう使えない・・」
そうであるから、使用するには何の問題も無い新品の
レンズでありながら、哀れ「7割引き」で売らざるを
得なくなってしまう。

まあこれが、本当の「市場価値」である。 
ファン層やマニア層等が、いくら「4/3は、μ4/3に発展
したのだ」と、差し障りの無い婉曲表現で物事を語ったと
しても・・ 実際の店舗に行けば「4/3製品は7割引き」
である。これが現実の世界であり、現実の価値感覚だ。
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さて、本レンズは「Lo-Fi」レンズである、
ここで「Lo-Fi」について説明をし始めると、記事文字数
を大幅に消費してしまい、冗長だ。
「Lo-Fi」については、本ブログではもう何十回も書いて
来ている事なので、今回は、ばっさりと割愛する。

まあ、中上級層や、中上級マニア層であれば、「Lo-Fi」
という概念も、十分に理解している事であろう・・

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では、4本目のシステム、こちらもトイレンズ風である。
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レンズは、LENSBABY MUSE Double Glass Optic
(新品+中古購入価格 計9,000円)(以下、MUSE DG)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)
アダプターは、ノーブランド(4/3→NEX)

2009年発売のティルト型レンズ(シリーズ)
この「MUSE」は光学系(Optic/オプティック)を
交換できる仕組みである。本MUSEシステムは、
交換光学系により、本格的な描写力から、トイレンズ
相当のLo-Fi描写までを選べるという稀有なシステムだ。
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で、これも、まだミラーレス機普及期以前の製品の為、
各種一眼レフ用マウント版での発売であり、本レンズは
4/3(フォーサーズ)マウント版である。
ここでは、4/3→SONY E(NEXと記載)の機械式マウント
アダプターであり、単にマウント形状を変換するだけ
のものである。

こうした単純アダプターでは、純正(AF等)4/3用レンズ
は、前述のようにレンズ側に通電が出来ず、ピントも
絞りも動かず、実質的に使用できないのであるが・・


本MUSEは、ピントも絞りも特殊な構造のMFレンズで
あるが故に、マウント形状だけ任意のカメラ用に揃えて
しまえば、問題なく使える(ちなみに、フルサイズ
対応レンズである)

で、そういう事であるから、本MUSEを購入した際、
他マウント(現役マウント)品は、1万円台だかして
いたのが、この4/3マウント用のみ、6000円とかの
新品価格に値下げされていたのだ。

ここも勿論、4/3は終焉したシステムだから、店舗側も
在庫する事を嫌った、在庫処分価格であった訳だ。

私としては、MUSEはマウント形状さえ変換してしまえば
どのカメラでも使える事がわかっていた為、あえて
この4/3マウント版を購入。

これで、4/3機、μ4/3機、SONY Eマウント機の3系統の
機体で本レンズを活用できる事になる。

ただし、本MUSEは、操作性が極めて難しいレンズで
あるから、使用する母艦の形状やサイズ感も、かなり
それを限定してしまう。利用者の手指のサイズとか
利用者が、どれくらい器用か?などの条件もあるが、
私の場合は、LENSBABY 3Gおよび本LENSBABY MUSE
の母艦としては、SONY NEX-3/NEX-7のいずれかの
機体を用いる事としている。これらのカメラであれば、
小型軽量であり、MUSE(や3G)の複雑な撮影操作を
なんとかこなす事ができる。他のカメラに装着して
試した事も勿論あるが、あまりにボディのサイズが
大きくなってしまうと、ティルト(傾ける)や、
ピント合わせの操作、および、それらの操作を維持
しながらシャッターを切る事が(私の手指では)困難
となるのだ。
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まあ、現代となって、あえて、このような4/3用の
特殊レンズを買う必要は無いであろう。

こうした特殊レンズを買う場合は、NIKON Fマウントで
買う事がセオリーである。そうしておけば、およそ
殆どの他社カメラで、マウントアダプター経由での
高い使用汎用性が得られる(注:むしろNIKON一眼レフ
で使う方が、色々と制限事項が多い。特に、NIKONの
初級機D3000/D5000シリーズ等では、まず使えない)

ただまあ、本レンズの場合は、4/3終焉により在庫処分
で安価になったものを購入した訳であり、これはこれで
筋が通っている。本レンズ購入時には、NIKON Fマウント
版は併売されてはいたが、現役商品であるが故に高価で
あった訳だ。

---
さて、5本目の4/3システム
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レンズは、OLYMPUS ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm/f4-5.6
(中古購入価格 5,000円相当)(以下、ED40-150)
カメラは、OLYMPUS E-520 (4/3機)

2007年頃に発売されたと思われる、フォーサーズ機用
の小型軽量AF望遠ズーム。
単品発売もあったが、多くはE三桁シリーズ機のダブル
ズームレンズキットとして販売されたと思われる。
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2004年~2006年頃にキット(標準ズーム)レンズと
なっていたZD14-45(本記事冒頭のレンズ)は、
やや大柄であった為、小型軽量の機体とはバランスが悪く
特に2007年発売のE-410(冒頭の機体)は、発売当時
世界最小・最軽量のデジタル一眼レフだった為、
E-410/510の発売に合わせて、ダブルズームキット用
レンズも大幅に小型軽量化されたのだと思われる。

本ED40-150も、その開発コンセプトのレンズであり、
フルサイズ換算300mm級の望遠ズームでありながら、
重量は僅かに222g(実測値)しか無い。

本レンズは近年の購入であり、4/3システムが終焉
してから、かなりの年月が経っていた為、相応に安価な
相場で中古購入する事が出来た。

今回使用の4/3機(E-410、E-520)を母艦とする他、
μ4/3機に装着し、さらに小型軽量な望遠システムを
構築する事が主目的での購入である。
(注:OLYMPUS MMF-1~3電子アダプター必須)

μ4/3機に装着時では、像面位相差AF(DUAL FAST AF)
を備える機種(OM-D E-M1系列等)であれば、4/3機と
同等レベルのAF性能(速度・精度)が得られる事は
実験済みである。ただし、コントラストAFのみの機種
(OM-D E-M5Ⅱ、PEN-F等)だと、4/3系レンズを
AFで使うには、ちょっと分が悪い(遅い、合わない等)
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描写力だが、ED(特殊低分散ガラス)を用いた設計
であり、ローコストレンズながら、あまり手を抜いて
いない点は良い。ただし、EDレンズの効能は、主に
小型化および、描写力面では、解像力や色収差低減に
向けられていると思われ、ボケ質の破綻が出やすい事、
および逆光耐性が低く撮影状況によってはコントラスト
が低下するのが課題だ。


----
では、次は今回ラストの4/3システム
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レンズは、OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 50mm/f2 Macro
(中古購入価格 22,000円)(以下、ZD50/2)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1(μ4/3機)
電子アダプターは、OLYMPUS MMF-2(4/3→μ4/3)

2003年発売の、フォーサーズ用の1/2倍マクロ。
4/3機ではシステム的に使い難い為「OLYMPUS MMF-2」
電子アダプターを介してμ4/3機で使用する。
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「精密ピント合わせ型」のレンズではあるが、この
システム(μ4/3機を母艦とする)の場合では、AF/MF
性能に、あまり不満を感じない。

まあ、前述のように、オリンパスは本機OM-D E-M1の
発売時に「4/3を、もう止めます」という発表をした
訳であるから、もし、本機E-M1で4/3用レンズを
使用時に実用以下の性能であったら、4/3ユーザーから
ブーイングの嵐となってしまう。まあつまり、E-M1では
像面位相差AF等が、ちゃんと4/3用レンズでも動作して
いる(ように慎重に設計されている)訳だ。

ちなみに、同じMMF-2電子アダプターを使ったとしても、
この記事での2つ目の組み合わせ、つまりZD35/3.5+
MMF-2+PEN-Fにおいては、AFは非常に遅く、いくら像面
位相差AF「非」搭載のPEN-Fとは言え「なんじゃこりゃ?
どこか故障しているのかいな?」と、疑ってしまった
位である。
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でもまあ、「精密ピント合わせ型」のマクロレンズで
あると、前述の「4/3は電源を入れないとピントリングが
廻らない」は、MF使用上での重欠点としてのしかかる。
まあつまり、「実用MF技法」が使えず、非常に厳しい。

ちなみに「AFで合わせて、もし合わない場合はシームレス
MFを用いてピントを合わせる」などというMF技法は、
初級も初級であり、MFの実用撮影上では、そんな撮り方を
する人は、ビギナー層以外、誰も居ない。

MF撮影は、予め、撮影距離に「アタリ」(目標とする)
をつける事で、速写性を高める等のメリットが存在する、
それが基本的なMF実用撮影技法である。

まあつまり、μ4/3機用レンズ等もそうだが、無限回転式
ピントリング搭載の純正レンズ等では、マクロ撮影や
MFでの精密ピント合わせ、遠距離高速動体等の撮影時
には、使い物にならないのだ。

そんな事は、ちょっと写真撮影がわかっている人ならば、
自社が開発したレンズを、実際にフィールド(屋外)に
持ち出してみれば、ものの30分で「あ、こりゃまずいや」
と理解できる筈だ。だが、そういう仕様のままの製品が
発売されてしまう・・ という事は、メーカーの開発部も
企画部も営業部も、誰ひとりとして自社製品で多数の
写真を撮らないまま、それが発売されてしまう、という事
だとしか考えようが無い。(だとすれば、残念な話だ)


それと、本レンズはヘリコイドの繰り出し量が大きい為、
近接撮影をして、そのままカメラの電源をOFFにすると、
レンズのヘリコイドが伸びたままになってしまい、カメラ
バッグ等への収納性が落ちる。
勿論、カメラの電源を再投入しないかぎりピントリングは
一切廻らないので、手でヘリコイドを引っ込める訳には
行かないのだ。(注:この課題は、MMF-2電子アダプター
使用時に発生する。オリジナルの4/3機に本レンズを
装着する場合では、電源OFF時に自動的にレンズを無限遠
まで引っ込めてくれる。(E-410/E-520で確認済み)
ただし、全ての4/3機が、そういう動作をするか?は不明。
また、毎回の電源再投入時にAFが無限遠からスタートする
ので、マクロレンズ等で近接撮影が主体な場合は、この
仕様は、あまり効率的とは言えない)
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まあ、もう4/3は「終焉したシステム」である。
今更、何を文句を言っても始まらないのであるが・・
それでも使い難い事は確かである。
「当時の4/3機のユーザー層は、良く、こういう点を
 我慢していたなあ・・」と、今にして、そう思う。

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では、今回の補足編「4/3用レンズ・マニアックス」
は、このあたり迄で。これにて本シリーズを終了する。

以降、本シリーズは、特定の条件下での機材紹介の
短期連載の記事群をグループとして続けていく予定だ。

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