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銀塩コンパクト・クラッシックス(2) NIKON MINI/ハリネズミ

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本シリーズは、所有している「銀塩コンパクトカメラ」
(ハーフ判,35mm判,APS,110等)を順次紹介していく記事だ。

銀塩時代には多数(恐らく50台を優に超える)コンパクト
機を所有し、実際にその全てを使っていたが、デジタル時代
に入ってから、その大多数を処分してしまっていた。
今なお手元に残っている銀塩コンパクト機は僅か十数台に
過ぎないが、どれも個性的で歴史的価値の高いものばかりだ。

今回は1990年代の普及版AFコンパクト機を1機種紹介するが、
記事後半では変り種トイ・コンパクトも1機種取り上げよう。

まずは今回の1機種目、
NIKON AF600 (QD)(28mm/F3.5) (NIKON MINI)
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1993年に発売された広角単焦点レンズ搭載AFコンパクト
機だ。


通称は「NIKON MINI」と呼ばれていて、AF600(QD)
という機種名よりも「ニコン・ミニ」と言った方が、
ずっと通りが良い。


本シリーズ記事では、紹介銀塩機での撮影は行わず、
シミュレーターと呼んでいる紹介機と仕様の近いデジタル・
システムで撮影した写真を掲載し、当該機種の「雰囲気」を
伝える事としている。

掲載写真は、いずれも1~2年前に撮影したものである、
コロナ禍が早く収束し、また外に写真を撮りに行ける日が
来る事を待ち望む次第である。
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今回は、ニコン機の紹介という事で、フルサイズ・
デジタル一眼レフNIKON DfにNIKON AiAF28mm/F2.8S
レンズを装着し、プログラムAE専用である本機AF600の
特性に近くする為、絞り値をF5.6前後で撮影してみよう。
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28mm広角の(35mm判フィルム使用)銀塩AFコンパクト
機というと、誰もが最初に連想するのは、「RICOH GR1」
シリーズ(1996年~)だと思われるが、実はGR1は最初の
28mmAF機では無く、本機AF600の方が発売がやや古い。

GR1の他には、(35mm判フィルム使用機で)
NIKON 28Ti(1994)、FUJIFILM TIARA (1994)
MINOLTA TC-1(1996)、FUJIFILM TIARAⅡ(1997) 、
FUJIFILM KRASSE W(2006)あたりのAFコンパクト機が
28mm単焦点レンズ搭載機である。
これらは、いずれも本機AF600以降の製品だ。
ただし、MF時代においてはOLYMPUS XA-4 (1985)があった。

この機種数は意外に少ないが、一般的な28mm広角単焦点機は、
大体これくらいか? 詳しく調べるのが大変なので、今回は
記憶に頼って書いているので正確性には欠けるかも知れないが、
もし他にあったとしても特殊な機体(例:FUJIの二焦点機)や
海外製機など、あまり一般的では無いカメラであろう。

そもそも、ニコンの銀塩コンパクト機の発売は1983年から
と遅い。他の記事でも書いたが、これは、それ迄のニコンは
高級MF一眼レフのシェアが高かった為、付加価値の低い
低価格なコンパクト機の発売を躊躇ったのであろう。

ただ、1983年時点では、まだニコンの一眼レフはAF化して
いない。
同年、1983年にNIKON F3AFが発売されたが、これはAFの
試作機のような機種であり、ニコン初の実用的AF一眼レフは、
NIKON F-501(1986)が最初と言えよう。

まあこの時代は、各社がAF一眼レフの開発を進めていた
時代であり、ニコン初のAFコンンパクト、ピカイチ
(L35シリーズ)(1983)は、一眼レフにAF技術を転用する
為のパイロット的な製品だったかも知れない。

ちなみに最初(世界初)のAFコンパクト機は、KONICA
「ジャスピンコニカ」C35AF(1977)である。
これはAF一眼レフの登場よりだいぶ早い。
そして、初の実用的AF一眼レフは、MINOLTA α-7000
(1985)であると言え、これは「αショック」と呼ばれて
カメラ界に衝撃を与えた事は良く知られた歴史だ。
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さて、ニコンがコンパクト機の市場に参入してから丁度
10年後の1993年に発売されたのが本機であったのだが、
それまで10年間、どうもニコンは、パっとした(目を引く)
コンパクト機を発売していない。
まあでも、それは、あまりに優秀なコンパクト機を売って
しまうと、自社の高級一眼レフの販売機会を損失する訳
だから、わからない話でも無い。
事実、1990年代を通してニコンは低価格帯の銀塩一眼レフ
にあまり力を入れていなかった。これも同様に旗艦機等の
高級一眼レフを売る為の戦略の一環であろう。

この時代「ニコンは普及一眼レフを作るのが下手だ」と
市場やマニア層の間では良く言われていたのだが、それは
ある意味、確信犯的に高級機を買わせる為のマーケティング
戦略だったかも知れないのだ。(・・と言うか、間違いなく
その通りであろう)

少し余談だが、ニコンは1990年代にAPSフィルム(IX240)
の新規格の開発・推進に係わっていたが、1990年代末に
発売された、APSコンパクトの「Nuvis」(ニュービス)
シリーズも、APS一眼レフの「Pronea」(プロネア)
シリーズも、商業的には成功したと言えない。
今から考えると、これらもまた、あまり力を入れたい
製品では無かったかも知れない。(個人的にも、
魅力を全く感じなかった為、これらの製品は未所有だ)


で、ニコンの銀塩AF一眼レフの普及機・中級機の性能や
仕様が急に向上するのは2000年頃の機種(F80,u2等)
からであり、これは恐らく、続くデジタル一眼レフ時代
(2003年前後~)への布石であったと思われる。

つまり、初級中級層に高性能エントリー銀塩機を買って
もらって、そのままデジタル一眼レフへ移行してもらう
というシナリオだ。(銀塩用交換レンズ等は、そのまま
同社デジタル機でも使える)

なお、これはニコンだけの戦略ではなく、キヤノンも
ミノルタもペンタックスも、2000年前後の銀塩一眼レフ
の普及機・中級機は、たいてい極めて高性能であった。
(特にMINOLTA α-SweetⅡは初及機の中では、超名機
であろう。他に中級機EOS 7やα-7も凄かった。
→銀塩一眼レフ第27回、第26回、第29回記事)

それと、近年においては、ニコンのミラーレス市場への
参入が2011年末頃から、と他社に比べて遅かったのも、
ここまでの理由と同様に、自社一眼レフ市場が低価格な
ミラーレス機でコンフリクト(衝突)する事を嫌ったから
であろう。(注:キヤノンも同様だ、EOS Mシリーズでの
市場参入は、ニコンよりさらに遅かった。
ちなみに、ニコンの1シリーズ・ミラーレス機展開は、
現在では終焉して、「高付加価値型」のZシリーズに
移行している。キヤノンもまた、EOS Rシリーズで、
その戦略に追従したが、EOS Mシリーズは併売だ)
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さて、そういう事で、ニコンは1980年代を通じて、銀塩
コンパクト機にあまり力を入れて来なかったのであったが、
おしりも1990年代初頭には、バブル景気も崩壊し、
これまでの高付加価値(高級品)戦略を、市場の動向に
合わせて、多少見直す必要もあったのかも知れない。

この頃、世の中全般の傾向として、新たなビジネスモデル
が発生した。
それは、消費者層に、安価な製品を購入してもらったり、
無料の製品を使って貰って、そこから、より高価な製品を
買ってもらう「囲い込み」戦略、あるいは「お試し版」の
戦略である。

例えば、パソコンの世界では、フリーソフトが登場し、
あるいは数年後の写真DPE業界での「0円プリント」の
ビジネスモデルであったり・・
ペットビジネスの世界では、セキセイインコやカメ等を、
まず安価に販売し、その後、餌や周辺商品を沢山買って
もらうとか、さらに、もう少し後年では、携帯電話を
無料で配布し、通話料で稼ぐとか、インターネット回線の
設置でも同様なビジネスモデルがあった。

つまり、バブル期前までは「商品単体で決算が赤字になる」
ような商品の販売は、常識的に有り得なかったのが、
バブル崩壊後では、サービス、オプション、周辺消費等を
含む”トータルでの収支が黒字になれば良い”という
「損しても得取れ」的な考え方の回収型ビジネスモデルに
市場の意識が変わってきた訳だ。

で、ニコンにおいても、これまでのように「高い一眼レフ
を売ったら儲かるからそれで良い」と言う訳には行かなく
なってしまったのであろう。自社がそれをやらなくても、
他社が新しい戦略を取れば、多少なりとも影響は出る。

例えば本機AF600と同じ1993年には、キヤノンは一眼
レフの普及機EOS Kiss(初代)を発売し、それを女性や
ファミリー層という新しいカメラユーザーの市場において
大ヒットさせている。

キヤノンとて利益の観点から言えば、EOS-1/HS等の高級
カメラや、Lレンズ等の高付加価値商品を販売したいの
だろうが、別に、これまでのユーザー層がEOS Kissを
買って、EOS-1が売れなくなるという訳でも無いのだ。
新規ユーザー層が、最初はKissから一眼レフに興味を
持ってくれれば、いずれ高級機も高級レンズも買って
くれるかも知れない訳だ。
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そういう事で、ニコンにおいても新たな「囲い込み戦略」
において、これまでの時代よりも気合を入れて作った
コンパクト機が本機AF600だったと思う。


「ニコン・ミニ」の愛称は、コンパクト機をエントリー
機とし、「ニコン党」として囲い込む為、あるいは、
ニコン高級一眼レフを所有している層に、「サブ機」と
してもコンパクト機を使ってもらって、さらにニコンに
対するブランド信奉を高める狙いがあった事であろう。
(=ファン層の囲い込み)
(参考:1980年前後のNIKON SERISE Eの交換レンズは
「NIKKOR」の名前を冠する事が出来ず、「NIKON LENS」と
”ブランドの差別化”があった。本機は「NIKON MINI」の
愛称を打ち出し、NIKON製である事を主張している)

本機AF600の描写力は定評がある。特に「ニコン党」からは
「コンパクト機でこの描写力は凄い!」と、神格化される
ような評価も多々あったと思う。

ただ、実際のところそれはどうか? 3群3枚の単純な
トリプレット型のレンズ構成は、仕様的には他社28mm機
に対して優位性があるとは思えないし、実際に使っていた

感覚でも、他社広角機より、特に優れているという印象は、
私は持てなかった。

でも、「ニコン党」と呼ばれる人達は、基本的にはニコン
製品しか使わない。そういった背景で、今までニコンでは、
まともな性能のコンパクト機が無かった中で、初めて、
まあ普通に良く写るコンパクトが登場したのだ、彼らが
これを絶賛しても不思議では無い。

そして、ブランド信奉(信者)においては、他社の例えば
XA-4やTIARA、あるいは後年のGR1等と比較する事で、
”正しい評価を行おう”という発想も、そうしたユーザー
層(ニコン党)では、あまり無かったかも知れない。
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・・という事で、絶対的な描写力については、本機AF600
においては、大きなアドバンテージとは言えない。
だが、弱点という訳でも無く、3群3枚という単純構成
レンズでも、ちゃんと低分散ガラスのレンズを使用して
いる贅沢な設計であり、プログラムAEで、少し絞り
込まれた状態では、そこそこちゃんと写ってしまうのだ。

まあ、広角レンズは、たいていそんなものであり、一眼
レフ用広角レンズではむしろ、ミラーボックスの制約から
レトロフォーカス型の設計にせざるを得ず、レンジ機や
コンパクト機の広角レンズの方が、設計自由度が高くて
小型で良く写る事は、銀塩時代での常識であった。

描写力よりも、希少な28mm広角単焦点機である事が
本機AF600の重要な特徴だと思う。
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マニアからは「28mm広角ならばGR1を使う方が安心だよ」
という意見もあるだろう。しかし、まず、本機AF600の発売
時点ではGR1は、まだ登場していない、それは後年の話だ。
(ちなみに、GR1もTIARAもまだ出て無かったから、本機の
広角の特徴が余計に際立った事であろう、よって、その分、
過剰な好評価になっていた事は否めない)

それと、実はGR1もTIARAも「柔(やわ)なカメラ」なのだ、
RICOH GR1(1996)においては、普及機R1(1994)の内部構造
をベースとしていて、モーター等の駆動系がパワー不足だ。

その為、使用中に負荷により故障してしまうリスクを抱えて
いる。事実、私のGR1も知人のGR1も、その問題に遭遇して
故障し、私は後年に小改良機のGR1sに買い換えている。
それに加えて、GR1はマグネシウム合金の外装素材だが、
マグネシウムは力が加わると脆く、ポキッっと折れて
しまう場合があり、細い部分(底面電池BOXの周囲等)は、
特に危ない。

私のGR1は、ビーチで数十cmの高さから砂に落として
しまっただけで底部が割れてしまった。
この「脆さ」もGR1(シリーズ)の弱点だ。
おまけに高価である、GR1シリーズは、いずれも10万円
前後の定価であり、高すぎる。

まあ、「高級コンパクト」という新ジャンルのカメラの
草分け的な存在であるから、GR1の値段が高いのはやむを
得ない。それはつまりユーザーから見れば「付加価値」
であり、メーカーから見れば「利益」そのものである。
ぶっちゃけ言えば、高いカメラを、皆が欲しがって
買ってくれれば、それでカメラ市場は潤うのだ。

だが、高価なカメラは、もし上記のGR1のような(注:
TIARAも同様)「壊れやすい」という弱点がある場合、
ラフな使用を躊躇ってしまう問題がある。
雨や潮風、埃、猛暑や酷寒、どこかにぶつけやすい環境、
盗難や犯罪リスクのある場所、等では使い難いのだ。


これは、同時代からのチタン製ボディの高級コンパクト
であっても同様だ。チタン外装であっても耐久性が格段に
向上する訳では無い。むしろGR1よりさらに高価(11万円
~17万円)であった、超高額チタン製コンパクト機は、

より神経質に、気をつけて扱う事になるから、必然的に
故障リスクも減るのだ。


チタン機の耐久性が高いのは、そのように「甘やかして」
使う、という心理的要素の方が、本体自体の剛性や耐久性
よりも遥かに大きい。(それに、現代となっては、もはや
四半世紀も前のチタン機は、内部電子部品の寿命が尽き
かけている。いくら外装だけ耐久性を高めても、中身から
壊れてしまったら、無意味であろう・・)
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で、本機AF600だが、定価37,000円と、高級コンパクト
機群のおよそ1/3の価格である。
プラスチッキーな外観で、プログラムAEモードしか無く、
高級感は欠片も無いカメラだが、そこそこ良く写り、
安価である事とあいまって、「厳しい環境でも平気で
使える」という心理的な安心感が大きい。

プログラムAEの件だが、もし「絞り優先AE」がついていた
としても、当時の銀塩コンパクト機では、それを有効に
活用できない、という大きな課題がある。
これはどういう事か?と言うと、レンズシャッター構成の
コンパクト機では、シャッター速度の上限が低すぎるのだ。

具体的には、本機AF600の最高シャッター速度は1/350秒
でしかなく、高級機GR1(/s/v)ですら1/500秒までだ。
コンパクト機(レンズシャッター機)のシャッター速度の
限界値は、後年(2001年)のCONTAX T3(後日紹介予定)
での1/1200秒が恐らく最速であった事であろう。
(注:デジタルコンパクト機+撮像素子シャッターでは、
2003年のMINOLTA DiMAGE A1が1/16000秒で最速)

で、最速1/500秒のGR1を、日中晴天時に使うとしよう。
GR1は絞り優先AE機なので、F2.8~F16を手動制御できる。
ここで、ISO感度100のフィルムを装填した場合、
最高1/500秒のシャッターでは、絞りF8迄で打ち止めだ。
それ以上絞りを開けるとシャッター速度オーバーで撮れない。

「晴天時ばかりで撮る事も無いから」とISO400のフィルムを
入れていた場合は、さらにシャッター速度オーバーになって、
F16の最大絞り値でしか、晴天時には撮れない事になる。

勿論、後年のGR Digitalのような、デジタルND(減光)
フィルター等の機能は銀塩機には入っていないし、
アナログのNDフィルターはGR1ならば装着できない訳では
無いが、別売アダプター必須とか特殊なフィルター径の
ものであるから、面倒で使えないであろう。

つまり、GR1では日中の屋外での使用で絞り優先モードでは、
常にシャッター速度オーバーとのにらめっこになり使い難い。
設定した絞り値で適正露出が得られない場合に、絞り値を
シフトするような露出安全機構が入っていれば良いのだが、
そういう機種は一眼レフではあったものの、コンパクト機
では珍しく、CONTAX Tvsシリーズとか、かなり限られて
いたと思う。

よってGR1では「日中、絞り優先が使えない」と言っても
過言では無く、上手な使い方としては、こういう状況では、
あえてPモードにセットしてプログラムAEで撮る。
広角での中遠距離撮影においては、絞りを開ける被写界
深度の効果は殆ど得られず、むしろGRレンズでのMTF特性
が向上するF5.6ないしF8程度で撮った方が好ましいのだ。

GR1で絞りの効果が影響するのは、絞りを開けられる
日陰や屋内において、かつ近接撮影の場合だが、GR1の
最短撮影距離は35cmと物足りなく、どのような状況でも、
絞り値による被写界深度変更の効果は十分では無い。


で、あれば、絞りをどういう風に使うのか?と言えば、
これはシャッター速度の調整が主目的となる。

すなわち、弱暗所でのスナップ撮影等で、ある瞬間を
切り取る際に、シャッター速度の調整で、止める、ブラす
等の動感効果をコントロールする、という意味である。

これは、ブレッソン等のマグナム派のような海外写真家等が
得意とする撮り方であるから、GR1を超本格的に使おうと
する人達の中には、憧れの海外写真家風のスナップ写真を
撮る事に志向した上級者も居たのだ。(小型軽量で地味な
外観のカメラの為、街中スナップ等でも目立たない)

しかし1990年代は肖像権等の配慮がうるさくなり始めた
時代でもあり、見知らぬ人を街中で撮影する事については
トラブル等のリスクも多々あって、1950~1960年代での
スナップ写真のように自由に(=ある意味、無配慮に)
写真を撮る事は、時代背景的には、既に出来なくなって
いたのだ。

(注:その後の時代では、肖像権問題はさらに厳しく
なっている。現代においても、シニア層等で、見知らぬ
他人や、京都の舞妓さん(変身舞妓含む)等に、平気で
カメラを向ける人達が依然多いが、現代では、それは
「盗撮」として、「犯罪扱い」となり、取締りの対象とも
なっている。なお若年層でも、芸能人等にスマホカメラを
向ける場合があるが、これも同様に肖像権違反となる。
いずれにしても、基本は、撮影者のモラル意識であるとか
コンプライアンスやマナーの意識の問題であるし、
あるいは、「そういう対象しか、被写体として見られない」
事もまた「超ビギナー的な写真の概念」そのものでもある。
他人を盗撮し、それが「写真」や「作品」になるのだろうか?
又、撮影者の手柄では無い「映え」画像を記録して、それを
SNSにアップした所で、イイネを貰えると思うのだろうか?
本当にイイネをするべきは、その撮影者自身の発想や努力や
技能や才能に対してであろう。他者・他の物体は無関係だ。
結局、そういった行為をしないようにする事が大原則だ)

これらから、本機AF600がPモードしか無いという状況は、
本機の仕様(広角28mm/F3.5、最高シャッター速度1/350秒)
では何ら問題無い。絞り優先を使う意味が殆ど無いからだ。
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ところで、前記事「オールド編」が1960年代のコンパクト
機であったのが、今回第2回記事では、いきなり1990年代
のカメラとなっている。

「その間、1970年代~1980年代のコンパクト機はどうした
のだ?」と言う声が聞こえてきそうである。この理由だが、
これらの時代のコンパクト機は、多数持っていたには
持っていたが、あまり魅力的な機種が無く、2000年代の
デジタル時代に入ってから、その殆どを譲渡あるいは
処分してしまっていたのだ。

この話は、「本機AF600が一部の層に高く評価された」
という歴史と微妙に関連がある。
つまり各社の1980年代のAFコンパクト機は性能や仕様的に、
マニアや中上級者層に満足の行く機体が、殆ど無かった、
という状況なのだ。
まあだから、描写性能の高い本機AF600や高級コンパクトが
1990年代にマニア層等に熱狂的に受け入れられた訳である。

ちなみに、1970年代~1980年代のMFコンパクト機において、
(既に処分・譲渡してしまったが)名機と呼べるような
ものは、私の所有機の中では、
OLYMPUS XAシリーズ(特にマニュアル機XAや広角機XA-4)
YASHICA エレクトロ35シリーズ(MC等)
RICOH FF-1シリーズ、MINOX (35mm判使用の35GT等)
など、あまり多くない。
まあ、逆に言えば、これらの機種位しか、その時代の
コンパクト機は、欲しいとは思えなかったのだ。

なのでまあ、コンパクト機がマニア受けするようになった
のは、1990年代がむしろ始まりだったとも言えよう。
(というか、この僅かな期間しか「黄金期」が無かった)
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さて、ここで本機の総合評価を9項目で示す。

NIKON (MINI) AF600 1993年
【基本・付加性能】★★
【描写力・表現力】★★★☆
【操作性・操作系】★★☆
【質感・高級感 】★★
【マニアック度 】★★★★
【エンジョイ度 】★★★☆
【購入時コスパ 】★★★★ (中古購入価格 7,000円)
【完成度(当時)】★★★☆
【歴史的価値  】★★★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.2点

購入価格が安価であり、コスパの項目が高く評価された。
ニコン初の普及版高性能コンパクトとして、歴史的価値も
高いであろう。広角単焦点の仕様は、マニアック度も高い。
ただ、他の特徴はほとんど無く、全体的にはやはり普及機の
枠を出ない、ごく普通のコンパクト機である。

なお、「ニコン党」においては、高級コンパクト機の
NIKON 28Ti(1994)との差異が気になるかも知れないが、
そちらはむしろ「高付加価値」型の投機層向け商品である。
私は、コスパが悪いと思って、興味を持つ事は無かった・・

---
さて、今回の2機種目は「補足編」としてトイカメラだ。
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正式名称は「IKIMONO(いきもの)110 (ハリネズミ)」
だと思うが、情報が少なく、良く分からない(汗)
まあ「ハリネズミ カメラ」と言えば、それで通じると思う。

本機は、2005年頃(?)に発売された、110(ワンテン)
フィルム使用のトイカメラだ。

時代的には今回紹介のNIKON AF600よりも、ずっと後の
カメラなのだが、本記事は、AF600をメインとしていたので、
本機「ハリネズミ」の紹介は、補足(おまけ)という感じ
である。

実は、本機は数回しか使用した事が無い。
時代はすでにデジタルであり、110フィルムの入手も難しく
なってきていて、この数年後には110フィルムは通常の
ルートでは生産が中止になってしまう。
まあ、生産中止になった後にも「トイカメラ」の特殊市場
では、110フィルムは若干の流通があったのだが、勿論
高価であり、現像も大変だし、描写力的にも魅力が少ない。

1990年代~2000年代初頭では、前述の高級コンパクト
や、高性能AF一眼レフと高性能レンズにより、写真における
描写力は、それまでの時代よりも格段に向上した。
そうした状況の中で、高忠実性(Hi-Fi)写真に反発する、
「Lo-Fi」(低描写力)の文化が育った事がトイカメラの
普及の理由である事は、他の記事でも何度か述べている。

だが、2000年代中期からは、デジタル(PC)でのレタッチ
編集により、トイカメラ風のLo-Fi写真を「創造」する事は
さほど難しく無くなった。そういう中で、(銀塩)トイ
カメラの用途が急速に無くなってきた時代であったと思う。
_c0032138_14080050.jpg
さて、本機「ハリネズミ」のシミュレーターの選択であるが、
「ハリネズミ」は、レンズの開放F値がF11のパンフォーカス
である、という情報以外、焦点距離とかのスペックも何も
公開されていない状態であって、シミュレーター機を
決めようが無い。
本機は、確かにトイカメラの名に恥じない(?)、Lo-Fiな
写りであったと思うので、あえて酷い写りのトイシステムを
選んでみよう。
_c0032138_14080040.jpg
PENTAX Q7 + HOLGA LENS 10mm/f8(HL-PQ)

このシステムは現代のトイカメラと呼べる程に写りが悪い。
まあ、同じ「Lo-Fi」と言っても、ハリネズミでの傾向とは
全く違うとは思うが、そのあたりはあくまで「雰囲気」だ。

なお、110フィルムのサイズは17mmx13mmであり、これは
現代のμ4/3のセンサーサイズとほぼ同じで、縦横比も
同様に4:3だ。そしてPENTAX Q7は1/1.7型センサーであり、
これは110フィルムの縦横を各々半分位にした位の大きさだ。

それからPENTAX Q7には、かつてPENTAX が販売していた
史上唯一の”レンズ交換式110フィルム一眼レフ”である
Auto 110 シリーズ(1979年~)をシミュレートした
「Auto 110モード」のエフェクトが搭載されている。
このモードを選ぶと、コントラストも解像感も低下し、
いわゆる「Lo-Fi」の写りが強調される。
_c0032138_14081093.jpg
ただ、HOLGA LENS HL-PQの写りは「Auto 110モード」を
あえて使わなくとも、同様の「ボケボケ」の写りとなるので、
シミュレーションでは、被写体の状況に応じて、エフェクト
有り無しで適宜撮っていく事にしている。

さて、この「ハリネズミ」だが、知人のカメラ好きの若い
女性から貰ったプレゼント品であった。よって価格は不明
であるが、トイカメラ故に、さほど高価なものでは無いで
あろう。(おそらく2000円前後?)
電池は使用せず、110フィルムを装填したら、後は手動で
シャッターを切り、手動でフィルムを送る。
原始的な仕組みであるし、露出とかピントとか、そんな事は
完全に無視であるが、まあそれでも写真はなんとか撮れる。
_c0032138_14081199.jpg
評価を行う必要すらないかもしれないが、一応やってみよう。

ハリネズミカメ 2005年頃?詳細不明
【基本・付加性能】★
【描写力・表現力】★★
【操作性・操作系】★☆
【質感・高級感 】★
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★
【購入時コスパ 】★★★★★(贈答品)
【完成度(当時)】★★
【歴史的価値  】★★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】2.5点

まあ、お遊び用のトイカメラなので、評価はこんなもので・・

なお、ハリネズミは現代でも在庫品が継続販売されている
模様だが、さすがにもう110フィルムの入手と現像が困難だ。

その後、2009年頃からは、「デジタルハリネズミ」という
「トイデジ」(トイ・デジタルカメラ)が発売されていた。
それは、トイ描写の各種モードを備えた、なかなか楽しそうな
カメラであったが、価格もヒトケタ高価になり、これも
恐らくは現在では生産中止となっていて、好事家等の間では
結構高額な相場で取引されている模様だ。
_c0032138_14081146.jpg
まあ、本機「ハリネズミ」は、あくまでトイカメラである。
これを代替するには、

現代の高機能エフェクト搭載カメラ(各社ミラーレス機や、
特に今回使用のPENTAX Q7等)にトイレンズ(PENTAX Q
シリーズ純正、ロモ、ホルガ等)を装着し、本体エフェクト
やPC等によるレタッチを駆使する事で、銀塩トイカメラと
同等以上の事が出来てしまい、「Lo-Fi」のコンセプトを
実現する上でも、それで十分であろう。


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さて、今回の記事はこのあたりまで。次回銀塩コンパクト
記事に続く。次回は1990年代の普及AFコンパクト機を
2機種紹介する予定だ。



レンズ・マニアックス(26)

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過去の本ブログのレンズ紹介記事では未紹介のマニアックな
レンズを主に紹介するシリーズ記事。
今回も、未紹介レンズを中心に取り上げるが、内1本は
過去紹介レンズの再購入品である。

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まず、今回最初のレンズ
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レンズは、7 Artisans 25mm/f1.8
(新品購入価格 12,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T1 (APS-C機)

2018年に発売された、中国製の各社ミラーレス機マウント
用のMF広角(準広角画角)単焦点レンズ(APS-C型対応)。
メーカー(ブランド)銘は、7 Artisans/7artisans等
の複数の英字記載があり、正式な記法が不明であるが、
日本名では「七工匠」(しちこうしょう)と呼ばれている。

なお、今回のコロナ禍における、中国での一連の施策や
対応には批判の声もある模様だが、まあ、それ(政治)
と、これ(製品や技術)の話は、全く別問題であろう。
ここからは、単なる「製品」として、評価を行ってみる。

ちなみに、新型コロナウィルスが金属(ステンレス)や
プラスチックに付着した場合、その残存期間は、概ね
3日程度だという研究結果が多い。したがって、輸入した
商品等では、仮にウィルスがあっても死滅しているものと
考えられるが、勿論、その後の屋外使用時でのウィルス
付着については要注意だ。
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さて、前記事でも書いたがFUJIFILM Xマウント・システム
を組む上で、なかなかコスパに優れたレンズが存在しない、
という課題があって、本レンズは、Xマウント版での購入
となった。

Xマウント機は、ピーキング精度やMF操作系の課題があって
MF性能が劣るのであるが、そんな状況において、この
広角気味のMFレンズが使い物になるのか?という視点での
「限界性能テスト」用の意味(購入動機)も強くある。
・・と言うのも、テスト用に購入できるほど、本レンズは
安価である。新品でも1万円強、中古も数度見かけたが、
そちらは7000円台~8000円台であった。

何故安価なのか?は、余計な機能を排しているからだ。
AF無し、勿論超音波モーターなども無し、手ブレ補正無し、
非球面レンズ無し、異常低分散ガラス無し、での
変形ダブルガウス型の5群7枚構成。すなわち少し前の時代
1970年代頃の銀塩MF標準レンズ(50mm/F1.8級)の
完成度が非常に高い設計を、全体に約半分にサイズダウンし、
APS-C機用のイメージサークルとバックフォーカスに合わせた
訳であろう。(注:ここで上手く調整しないと、周辺減光
が発生してしまう→本レンズでは、それが見られる)


まあつまり、コストのかかる設計や構造部品を何も持って
おらず、「枯れた技術」(=従前の時代から一般的であり
開発費の減価償却が掛っていないオーソドックスな技術)
を用いて作られている。

しかし、外観や絞り機構には手を抜いておらず、金属
(アルミニウム合金)を用いた高い質感を持ち、MFの
トルクも良好。絞り羽根は、ロシアンレンズ風の多数
(12枚)の羽根を搭載し、無段階絞りを実現している。

これで1万円強、何も問題は無いではないか・・
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なお、上記にあげたような「付加価値要素」を入れたから
と言って、部品コストが何十倍も大きくなる訳では無い。
現代の国産新鋭レンズが高価なのは、部品代が高価とか
性能が良いからでは無く、「高く売って、利益を出さないと
レンズ事業が維持できないから」である。


高価に売る為には、初級中級消費者から見て、魅力的と
思える付加機能(超音波モーターやら、手ブレ補正や
高解像力性能など)を入れて、製品の「付加価値」を
上げなければならない。時には、その付加価値向上の為に
新しい技術の実用化の為の、莫大な費用も必要であろう。
その研究開発費を、販売数が縮退しているレンズ販売本数
で割って乗せて償却するわけだから、レンズの価格は
必然的に高価になり、部品代の差の要素は殆ど無くなる。

まあ、ごく当たり前の市場原理だ。今時のビジネスマンで
この市場構造が理解できないようだと、むしろそれが問題だ。
「良い部品を使っているから、このレンズは高価なのだ」
等と言っていたら、まるっきり世の中の仕組みがわかって
いない「浮世離れ」のようになってしまう。

でも、そういう事がわかっていない人達は極めて多い。
念の為に、さらに他の市場分野での例をあげておく、
それは医薬品における、メーカー純正薬品とジェネリック
薬品の価格の差がある。

一般消費者は、「ジェネリック薬品は、安い成分などを
使っていて効能が低いから、安価なのだ」と大誤解を
しているケースが大半だと思うが、そうでは無い。

ジェネリックと純正薬品の成分は全く同じである。

それを理解する上で、まず、医薬品の研究、つまり新薬の
開発は試行錯誤の連続だが、それはとても困難な事である。
人体の仕組みを調べ、薬効成分を探し出し、適切な配合を
したとしても、実際にそれが効くかどうかは多数の被験者
に長い時間をかけて臨床実験を行わなければならない。
(注:コロナの対策の薬品開発も、ここが大変な訳だ)

その新薬開発の成功率は、2万件~3万件に1件程度だと
言われている。つまり、ほとんど全ての研究は失敗して
しまう前提であり、上手く新薬が出来る方が奇跡的なのだ。
・・で、ある程度できたら特許を出願する、これもまた
費用や手間がかかる事だ。

さらに、無事新薬ができたとしても、それが正当な薬品と
して認可される為には、また厳しくて手間のかかるテスト
を行わなければならない、まあ、変な副作用のある薬品
等が世の中に出ると大変な事になるだからだ。
その認可の為には、また莫大な手間や時間がかかり、当然
多大な費用もかかる。
また、新薬に必要な薬効成分を生成したり抽出する為の
システム(機械)も、もしそれが全くの新規のもので
あれば、そこでもまた、膨大な設備投資等が発生する。


そうやって、1つの新薬が出来た時点では、それはまるで
「氷山の一角」であるがごとく、その背後にはとてつもなく
膨大な、研究や製造にかかった費用が隠されている訳だ。

では、その新薬の値段はいくらか? ここで、まさか、
この成分が単価いくらで0.1g、こちらが単価いくらで0.05g
のように製造に必要な原価だけを計算して、その何倍とかで
値段を決めるわけにはいかない、そんな事をしたら、かかった
膨大な研究開発費の全部が大赤字になってしまう。
・・まあだから、新薬には、投資した研究開発費を上乗せして
販売しなければならない。高価になるが、やむを得ないだろう。

さて、「ジェネリック薬品」であるが、もし安い成分を使う等
の措置をしたら、またそれも「新薬」となる。それが効くか
どうかを調べたり、市場に出す為の認可を取るのが大変だ。
そうやったら高価になってしまい、安価な薬品は作れない。

だから、既に販売されていて、効能もわかっていて、認可も
取れていて、古くからある為に特許も切れている薬品を
製造すれば良い。製造販売の許可は必要かもしれないが、
新薬を新たに開発するよりは、はるかに手間がかからず、
安価に薬品を作れる訳だ。

効能も純正薬品とまるで同じである。ただ「昔の設計」で
あるから、最新の、とても良く効く成分などは配合されては
いない。けどまあ、昔から皆、その薬を飲んできた訳だから
別に効能が酷く劣っている訳では無いのだ。

余談が長くなったが、本レンズ七工匠25mm/f1.8は、
まさにその「ジェネリック」である。昔からある設計を元に
できるだけコストがかからない方法論で製造をしている、
だから製品を安価に出来る訳である。

「安い素材を使っているから安価だ、だから性能も低い」
などと考えていたら、今時の世の中の仕組みが全くわかって
いないようで、周囲から笑われてしまう事であろう。
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簡単に本レンズの長所短所をまとめておこう
<長所>
*非常に安価、作りも良く、コスパが良い
*銀塩時代のプラナーと類似のレンズ構成、そこそこ良く写る
*開放F1.8と、大口径
*最短撮影距離18cmは、かなり優秀である

<短所>
*僅かな歪曲収差と、周辺減光が少々出る
*MFレンズなので、ビギナー層向けでは無い
*新しい技術要素は何もなく、やや物足りない
*銀塩標準レンズ相当なので、感動的と言える迄の写りではない

まあ、こんなところか。
ちなみに、FUJI Xマウント機との組み合わせは、やはり本体
側のMF性能が厳しい。(ピーキングの精度が低い等)

少し絞る事で被写界深度が深くなるので、MFの課題は回避
できるが、開放F1.8と最短18cmを活用するには、母艦の
MFの精度は、もっと欲しい訳だ・・


あと、周辺減光の件は、銀塩フルサイズ対応のレンズ構成を
1/2にスケールダウンしてAPS-C型以下機種対応とする事は、
イメージサークルの関係でやや厳しいと思う。せいぜいが
2/3へのスケールダウンであろう、その為か、その後の時代
の中国製等「ジェネリック・レンズ」では、2/3の縮小率
に留めた設計も多い模様だ。(後日、順次紹介予定)

まあつまり、本レンズでは、50mmレンズの設計を半分の
25mmに縮小設計した事で、フルサイズの1.5分の1相当で
あるAPS-C機においては、イメージサークルが僅かに足りて
おらず、周辺減光や周辺収差の発生に繋がっている。
(注:フルサイズ機の半分の対角線長のμ4/3機で
使用する(μ4/3マウント版を買う)ならば、この、
設計上より起因する問題点は発生しない)

総括だが、MFが使いこなせる技量と機材環境があるならば、
お試し的に購入してみるのも悪くないだろう。
描写力や製造品質上の不満は少ないだろうから、レンズの
コスパとは何か? について考えさせられる事もあるかも
しれない。

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さて、次のシステム
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ユニットは、RICOH GR LENS A12 50mm/f2.5 MACRO
(中古購入価格 20,000円相当)(以下、A50/2.5)
カメラは、RICOH GXR (中古購入価格 10,000円相当)

特殊レンズ・スーパーマニアックス第10回記事等、多数の
過去記事で紹介済みの、GXRシステム専用のマクロユニット
である。(APS-C型センサー搭載、レンズ実焦点距離33mm)
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しかし、これは「買いなおし品」だ。

旧来愛用していたA12 50/2.5ユニットが2018年頃に故障。
修理対応期間終了製品という事で廃棄処分となったのだが、
このマクロユニットの描写力は捨てがたく、買いなおす事
とした。しばらく中古市場をウォッチしたが、ユニット単体の
中古がなかなか出て来ず、やむなくGXRボディとのセットでの
購入となった、GXRボディが2台となってしまったが、まあ
こちらは予備機という事にしよう。勿論、中古相場は前回の
数年前の購入時よりもだいぶ安価になっていた。
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本システムに関する解説は、過去記事で何度も紹介して
いて重複する為に、大幅に割愛しよう。

簡単に言えば、長所としては
*非常に高い描写力のマクロである事
*その高描写力が、小型軽量のボディから得られる事
である。

短所としては
*システムとしてのAF精度が悪く、ピントが殆ど合わない
*システムとしてのMF操作系も悪い
*既に終焉しているシステムであり、後継機も何も無い
*GXR専用のシステムであり、ユニットを他に転用できない

まあ、こんな感じであろうか。
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発売後10年以上を経過し、「仕様老朽化寿命」も来ている
システムであるので、今からの購入は勿論推奨できない。

発売当時は、ユニット交換式というユニークなコンセプトは
注目されていたのだが、「閉じた」システムである事が
大きな課題となってしまった。すなわちその後のデジタル
技術の進歩に追従できなくなってしまった訳だ。

もう少しだけ製品寿命が長ければ、像面位相差AF搭載型の
ユニット等、最新技術を搭載したものも発売する事も
出来たのかも知れないが、時既に遅しという様相であった。


そして、仮に像面位相差AFユニットが発売されたとしても
ユニットは買いなおしだ、本A12 50/2.5のような旧型は
新製品により「全否定」されてしまう、それは面白く無い。
さすがに、そういう戦略は取れなかったため、本GXRは、
発売当時の技術水準で「凍結」されてしまった・・
まあ、時代の狭間で生まれた不運なシステムである。

だが、私としては、このA12 50/2.5マクロユニットの
描写力はとても気に入っていて、高く評価している。
この2本目が壊れるまで、ちゃんと使い潰す事としよう・・

ただ、2019年初頭に、一度このシステムは不調になっている。
またしても電子部品の問題で、動作不安定になって、撮影時に
モニター画面がぐちゃぐちゃに乱れるようになってしまったのだ。
酷寒とも言える低温環境だったからかも知れない、まあ、
しばらくすると自然復活したのだが、ちょっと動作が怪しい。
そして、その後も、たまにAWBでのカラーバランスが狂う等の
怪しい動作が見られる。
発売から約10年、もうコンデンサー部品等の経年劣化による
故障リスクが高い状態だ、なるべく丁寧に使う事としよう。

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さて、次のレンズ
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レンズは、SIGMA ZOOM 28-80mm/f3.5-5.6 MACRO
ASPHELICAL(ジャンク購入価格 1,000円)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

出自不明、恐らくは1990年代と思われるAF標準ズーム。

ニコンFマウントのジャンク品であるが、レンズキャップが
欠品していた位で、全体の程度も良く、AFも無事動作した。
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ごくありふれたスペックの廉価版標準ズームであるのだが、
その特徴は、まず小型軽量である事だ。
また、望遠端80mmにおいてマクロモードに手動で切り替える
事が出来る。この時の最短撮影距離はNORMAL時の50cm
から約25cmに短縮され、最大撮影倍率は約1/2倍のハーフ
マクロとして使用できる、・・との事であるが、実際に撮影
範囲の計算をしてみると、1/3倍強程度の撮影倍率となった。

まあでも、マクロレンズがまだ一般的では無かった時代の
製品である。ビギナー層にとってはマクロ機能は魅力的な
付加価値となった事だろう。

ただし、このマクロモードの手動切換えが若干面倒だ。
ズームを80mm端にセットしない限り、マクロのスイッチ
が動作しないので、随時のマクロ撮影が出来ない。

そしてマクロモードに入れたら、今度はズーミングが動作
しないのだ。

面倒だ、という同じ感覚を持ったユーザーも多いのであろう、
この切換スイッチを破壊してしまい、一々切換をせずに済む
ような改造を施した例や、あるいは破壊は乱暴なので、レンズ
を分解し、複雑な改造を行った実例も聞いた事がある。

ただまあ、そこまで手間やリスクを負っての改造が必須な
程の酷い欠点では無いであろう。
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この時代の直前の1980年代では、MFズームレンズにおいて
スペック競争的な意味から、カタログ記載上の最大撮影倍率
(または最短撮影距離)を上げる必要があり、しかしながら
ズーム全域で最短撮影距離を短縮する事は当時の技術的には
困難であった為、やはり本レンズと同様に、望遠端(や稀に
広角端)にズーム焦点距離をセットした後、特定の操作で
マクロ域の撮影を可能とする(ズーム)レンズはいくらでも
存在していた。
しかし、それらの操作を行ったからと言って、最短撮影距離
の短縮はたいしたものではなく、最大撮影倍率が1/3倍や
1/4倍程度のレンズですら堂々と「マクロ」と記載されていた。

まあでも、1980年代の本格的単焦点マクロレンズですら
最大撮影倍率は1/2倍までであったので、1/4倍程度でも
マクロと呼ぶ事はかろうじてセーフであったのかも知れない。

だが、1990年代、TAMRONを始めとして等倍(1倍、1:1)
マクロレンズが発売されるようになると、業界内で何らかの
用語統一の気運があったのだろうか? 2000年位からは
1/2倍程度以上の撮影倍率が無いと「マクロ」とは書かれなく
なってきていた。ただ、これは「自主規制」のようなもので
あったかも知れず、1/3倍程度の最大撮影倍率でもマクロと
称するレンズも、まだ残っていたのも確かではある。

この事実が何を意味するか?と言えば、1/3倍とか1/4倍
とかでは、やはり本格的なマクロとは言い難い、という状態
にも繋がり、結局、近接(マクロ)撮影を要望する場合には、
純粋なマクロレンズ、しかも出来れば等倍のものを入手して
使うのが本筋であっただろう。

現代のデジタル時代においては、センサーサイズが小さい
(APS-C機やμ4/3機)機体を使ったり、クロップ機能とか
ミラーレス機の多くに備わるデジタル拡大機能を用いれば
見かけ上の撮影倍率を、大きく上げる事ができる。
だが、銀塩時代には当然そのような機能はカメラには搭載
されていないし、仮にトリミングをして同じ鑑賞サイズに
までプリントする際には、拡大する事となり、通常の場合
よりも画質が劣化してしまう。


(注:デジタル機の場合、画素をトリミングで切り詰めても、
その結果が鑑賞サイズや印刷DPI値に耐えうるならば原理的に
画質劣化は発生しない。
だが、この事はデジタル技術の初心者には理解が困難な為、
2000年代では、銀塩時代の感覚のまま「デジタルでも
トリミングはするべきでは無い」という意見が大半であった。
まあ、デジタルの原理理解が進み、かつカメラの画素数も
大幅に増えた、その後の時代では、そのような間違った
概念を言う人は皆無になっていくのだが・・
残念ながら世代層によっては、依然、デジタル技術の原理
理解は進んでいない状況だ)

で、デジタルではレンズスペック上の撮影倍率は気にする
必要はあまり無いのだが、銀塩時代は違う。1/2倍マクロ
でも近接撮影的には物足りず、やはり新鋭の等倍マクロが
皆、欲しかった訳だ。
だから、1/3倍や1/4倍というスペックでは「どうでも良い」
と思う要素も多々あったかも知れない。

けど、近接撮影に限らずに撮影技法全般を通して見れば
やはりレンズの最短撮影距離は短ければ短い程、好ましい。
特に広角撮影では、主要被写体に寄る事で背景構図自由度が
格段に向上するので、「最短の長い広角レンズは、お話にも
ならない」という風潮が銀塩時代からも既に出始めていた。

私が銀塩時代においても(当時人気の)レンジファインダー
機に殆ど興味を持てなかったのは、レンジ機の構造的な
制約により、(広角)レンズの最短撮影距離が、70cm~
90cmにまで伸びてしまう状態が非常に不満であった事が
最大の理由だ。これでは中遠距離のスナップや風景しか
撮れない、という用途制限の強いカメラになってしまう。
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さて、余談が長くなった。


本レンズSIGMA28-80mmであるが、前後の時代にも派生型
が色々と存在している模様であり、かつ、今や殆ど情報すら
も残っていない状況だ。まあ、ある時代における一般的な
普及版レンズとは言えるが、マクロ機構を搭載している事で、
他の同等仕様の標準ズームよりも注目される要素は、当時は
大きかった事であろう。

描写力は、コントラストが低い事、そしてマクロ時、等での
ボケ質の破綻は弱点として目立つが、総合的には、さほど悪く
無い。非球面レンズ搭載だから・・とかそういう技術的な事は
どうでも良く、結果としての性能が使い物になるか否か?だ。
まあ、そういう観点では、現代において、記録撮影的な用途や
過酷な撮影環境での「消耗用レンズ」として使うのも有りな
感じであろう。

ただ、そのようなイベント等の記録撮影用途などでは、
このレンズの焦点域から考えて、フルサイズ機が必須だ。
安価なAPS-C型機を母艦とするのが消耗用途には適するが、
それだと42-120mmの画角となり広角域が用途的に足りない。

高価なフルサイズ機に、本レンズ(僅かに1000円だ)を
装着する事は「オフサイド状態」が甚だしく、好ましく無い。
レンズは消耗用でも、カメラは消耗させたくないからだ。

すると、安価なAPS-C機で使用した際の用途に困ってしまう。
自然観察用途(草花や昆虫)に向くかも知れないが、マクロ
の仕様や描写性能的には、もう一声、という要素があるので、
他に本格的なマクロレンズを所有しているならば、そちらを
持ち出す方が被写体汎用性が高く、望ましい。

これが、たとえジャンクレンズであっても望遠ズームであれば
自然観察用途での被写体汎用性は意外に高く、近距離の草花
から遠距離の野鳥等まで、様々に対応する事ができる。
MFズームであっても、むしろ空を飛ぶ鳥や昆虫にもAFレンズ
よりも正確にピント合わせが出来るので、自然観察用途では
AFレンズよりもMFズームの方が利便性が高い場合も多々ある
位である。特にミラーレス機を母艦とする場合には、その
特徴が顕著に現れ、さらにPanasonicのDMC-G6(2013年)
であれば、オールドMF望遠ズームと完璧と言えるマッチング
が得られる。

まあ、そういう意味で、私はこれまでジャンクレンズを購入
する場合でも単焦点または望遠ズームに特化していたのだが
今回、久しぶりに標準ズームのジャンクを購入してみると
使い道の無さ(=用途開発の難しさ)を再認識した次第だ。

でもまあ、私も近年では、そういう様々な「研究」を行う為に
ジャンクレンズを買うようになって来ている。単純にそれらの
性能とかを評価するのでは無く、時代背景からなる存在意義
とか、同時代の市場における優位性とか、現代での利用価値
とか、そういう要素を色々と探る為の「研究材料」として、
これらのジャンクレンズを捉えている訳だ。

さらには、性能が低く、使いこなしが難しい古いレンズを、
あれこれと弱点を回避して、まともに使おう、という為の
練習用の「教材」としての価値もある。

その研究や練習の為の対価としてのジャンク価格(つまり
500円~2000円程度)は、まあ惜しく無いのではなかろうか?
(=いわゆる「ワンコイン・レッスン」という概念)

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次は今回ラストのレンズ
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レンズは、OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm/f1.8
(中古購入価格 59,000円)(以下、ED75/1.8)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)

2012年に発売されたμ4/3機専用の明るい中望遠AF単焦点
レンズ。素(す)の焦点距離的に、ポートレート専用レンズ
だと誤解され易いし、オリンパスのWEBサイトにも、何故か
そのように書かれてはいるのだが、μ4/3機に装着した場合の
画角は150mm相当となる為、人物撮影用途にはやや長く、
用途開発の難しいレンズである。
おまけに高額であり、発売時定価は12万円を超える。
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2009年からのオリンパスμ4/3機の初期時代においては、
コントラストAF技術の未成熟により、このような被写界深度
の浅いレンズの使用は難しかった事であろう。だが、この
時代(2012年)頃から、だんだんとOLYMPUS製μ4/3機用AF
レンズの開放F値もF1.8級の物の発売が増えてきている。

特に、同時代に新発売された機体、OM-D(E-M5)シリーズ
との組み合わせを意識している事で、本格的な撮影用途にも
μ4/3機が耐えられる事を世に示す意味もあった事であろう。
(さらに2013年には、像面位相差AF搭載機のOM-D E-M1
が発売され、μ4/3大口径レンズの実用性が高まった)

また、4/3時代に定評があった高性能望遠レンズの
「ZUIKO DIGITAL ED 150mm/F2」の光学性能を
リファレンス(参照)として、その半分の焦点距離ながら、
それの代替用途も、企画上ではあったと思われる。
(μ4/3機の2倍デジタルテレコンを用いれば、同一の画角
が得られる)


発売時から個人的に非常に興味があったレンズであったが
問題はその価格であった、12万円超えはさすがに高価すぎる、
しばらくして中古も出てくるようになったが、それでもまだ
7~8万円もしていた。
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2014年頃であったか?、知人の上級マニア氏が、
「LUMIX DMC-GH3を中古で買った」と言って、それを見せて
くれた。まあGH3は高級機ではあるが、後継機GH4が新規に
出たところだったので中古相場が下がったのであろう。

だが、そのマニア氏、μ4/3用の交換レンズをあまり持って
おらず、せっかくの高性能機体に安価なズームレンズを
付けている状態であった。これは「オフサイド状態」
(=カメラの価格がレンズよりも高価すぎてアンバランス、
さらには、ボディ側の高性能が活かしきれないという意味も)
なので、私はそのマニア氏に向かって

匠「う~ん、こういう良いカメラを買ったならば、レンズ
  にも、お金を掛けないとね・・ 例えば、OLYMPUSの
  ED75/1.8などはどうですか?」
と言ったのであるのだが、実を言えば、私はその時点では
本レンズは所有しておらず、単に「良さそうだ」という
推測のみで、そういう意見を述べたに過ぎない(汗)
(また、当時、GH3とED75/1.8の中古相場が、ほぼ同等で
あったので「高いボディを買わずに、良いレンズを買え」
という意味も、その発言の裏の真意として含まれていた)

が、所有もしていない機材について、あれこれと語る事は、
「マニア道」的には、ご法度である。自分でもちょっと
反省し、「いつかED75/1.8を買おう」と思った次第だ。

だが、その後、μ4/3機用のレンズを色々と揃えていくと
やはり、ピントリングが無限回転式仕様である事で、
MF時の操作性を大幅に悪化させる事が非常に気になり、
どうしても高価な高性能μ4/3純正AFレンズが買い難い。
つまり、AFが合わない、MFでも使い難いという状況ならば、
撮影は必ずストレスの塊となってしまうからだ。

それと、当時所有していたμ4/3機が、像面位相差AFやら
空間認識AF等も搭載していない古い時代の機体が全てで
あったので、それらAF性能の低い機体で、高精度なAF合焦
が要求される大口径AFレンズを買っても、使えないとも
思っていた。だから、μ4/3機はいずれも、オールドMF
レンズのアダプター母艦とするか、あるいは純正AFレンズ
でも、被写界深度が深い広角レンズなど、厳密なAF精度が
要求されないレンズの使用に限る状態が続いていた。

さらに数年し、2017年頃になってようやく、新方式の
AF機能を持つμ4/3機の中古相場が下落し、それらを
入手する事ができるようになった。
で、あれば・・ という事で、ようやく本ED75/1.8の
購入検討を開始した次第である。

中古相場は従前より下がっていたが、それでも6~7万円
もして高価だ。だが、価格についてはリファレンス(参照)
の価値感覚があり、つまり、銀塩時代の傑作レンズPENTAX
FA77/1.8 Limitedや新鋭超高性能レンズTAMRON SP85/1.8
は、いずれも本ED75/1.8と類似のスペックであり、その
性能も、ほぼ同等であると推察していた。前者2つは
いずれも7万円台の購入であったので、価値感覚としては
「まあ、超名玉の2本に少しだけ劣る、という感じならば
 6万円台、というのが妥当な相場かな・・?」という風に
入手価格を想定することとした。

しばらく中古市場をウォッチしていると、フードに小キズ
有りのB級品が、6万円を切る相場で出てきたので、やっと
本レンズの購入に至った次第である。
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想定用途としては、ライブ等のステージ上の中距離人物撮影。
ただしこの用途では前述のFA77/1.8やSP85/1.8が
丁度その目的にはぴったりであり、会場の状況に合わせて
それらをAPS-C機やフルサイズ機で画角調整して使えば良い。
特にFA77/1.8は、すでにその用途で10数年間の撮影実績が
あり、信頼性は十分だ。新しいSP85/1.8も数年間だが
同様に使用実績がある。

ED75/1.8では、それらより僅かに長い150mm相当の画角
が得られ、デジタルテレコンを用いれば300mm/F1.8と

それこそ、オリンパスが意図した4/3時代のED150/2と
同等の利用用途となるだろう。これらにおいて、従来の
一眼レフ用レンズよりもミラーレス機でメリットが出る
のではなかろうか? と思っていた。

他の撮影用途としては、自然観察撮影がある。草花・昆虫や
小動物に適切であろう。オリンパスのWEBサイトでの作例も
そのような被写体が殆どであり、むしろ「ポートレート用だ」
と何故記載しているか?が、とても不思議な位であった。

WEBページの構成やキャッチコピーを考える人達は、写真等
余り撮らない人達なのかも知れず、75mmという実焦点距離
だけを見て、画角が150mm相当になる感覚が、わからない
のかも知れない。
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手にした本レンズは、フードが大きい事が気になった、
クランプ式ネジにより装着するが、脱着が手間なので、
装着しっぱなしとなるが、カメラバッグへの収納性に
やや劣る。だが、全体にクラシカルな雰囲気をかもし出し、
シルバー塗装ながら真鍮のような質感もあって好ましい。
銀塩OM-3Tiのイメージを踏襲したOM-D E-M5Ⅱ Limited
とのデザイン的なマッチングも悪く無い。

やや大きく重いが、TAMRON SP85/1.8ほどの大柄では無く、
ハンドリング性能は悪く無い。フィルター径はφ58mmと
中庸であり、銀色枠の保護フィルターを装着した。

さて、実際にフィールド(野外)に持ち出してみると、
AF速度とAF精度に課題がある事がすぐわかった。
空を飛ぶ鳥を狙ってみるが、スポットAFでもピントが
合い難く、「S-AF+MF」モードでシームレスMFとしても
ピーキングは出るものの、無限回転式のピントリングで
あるが故にMF操作性が悪く、高速で飛ぶ鳥などにはまず
ピントが合わない。その後、飛ぶ鳥の撮影はだいぶ練習
したが、やはりシステムの機構上の課題により、そうした
用途には向かない事も明らかになってきた。
(注:今回はコントラストAFしか無いE-M5Ⅱを母艦と
している事も原因の1つだ、DUAL FAST AF(像面位相差AF)
搭載のOM-D E-M1系列ならば、少しはマシになる)

描写力は確かに高い、だが、静止被写体しか撮れないのでは、
自然観察用途だろうが、ステージ撮影だろうが、著しく
制限が出てきてしまう。

まあ、「惜しい状態」とは言えるであろう。
優れた描写力(評価点4.5点)を、システムの制約上で
有効に活かす事ができないのだ。


ただまあ、「どうにもならない」という訳でも無い。
まずはE-M1等を母艦として、もう少しマシな状態としつつ、
今後、μ4/3機のAF性能や、MF操作系やアシスト機能が
さらに発達するならば、本レンズのパフォーマンスを最大に
活用する事が出来るようになるだろうからだ。
その改良が、いつになるのかはわからないが、それまでは
本レンズは限られた用途の範囲で使っていくとしよう。

優れたレンズであれば、その性能は、そんなにすぐには
色褪せるものでも無い。10年や20年間は、新鋭レンズにも
見劣りせずに平気で使う事すらもできるのだ。
この事もまた「カメラ本体に金をかけるな、良いレンズ
を買え」という、「オフサイドの法則(持論)」に
繋がっていく要素でもある訳だ。

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さて、今回の第26回記事は、このあたり迄で、次回記事に続く。

カメラの変遷(2) CANON編(中編)

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本シリーズは、各カメラメーカーが発売した銀塩および
デジタルのカメラを、およそ1970年代から現代2020年代
に至る迄の約50年間の変遷の歴史を辿る記事群である。

主に「自分の為の研究メモ」という感じの記事群であるが
ただ単に、仕様等の「二次情報」を纏めたものではなく、
自身の経験や、所有カメラの評価、時代における世情や
他の出来事を加味した、あくまでオリジナルな内容である。

今回はCANON編(中編)として、主に1990年代のCANON
銀塩機を紹介するが、この期間は、デジタルカメラの
時代が直前に迫る、カメラ界の激変期である。
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紹介機は、現在なお所有しているカメラで、かつ実際に
使っている(いた)ものに限る。かつて所有していて、現在は
持っていないものはあるが、勿論、完璧にCANON等のカメラ
の変遷の歴史を網羅できる訳では無い。
ただ、私はおよそ殆どのカメラメーカーの各時代の代表機を
所有している(いた)為、同時代の他社機との比較もできる
ので、単にスペックだけを見て性能を語ったり、そのメーカー
のファン(党)で、かたっぱしから集めていたりするケース
よりも客観的かつ正確な評価は出来る事であろう。

それから本シリーズ記事での掲載写真であるが、カメラの
紹介写真に加えての写真は、デジタル機では当該カメラで撮影、
銀塩機では当該機種そのものではなく、その時代のレンズを
後年のデジタル機に装着して「シミュレート撮影」をした物だ。
また、場合によっては、その時代のフィルム性能(発色等)を
鑑みて、適宜、低画質に設定して当時の雰囲気を出している。

コロナ禍の影響もまだ強く、掲載写真は、最近の撮影では
無く、いずれも数年前に撮影したものである。

さて、では、1990年代のCANONカメラよりスタートする。

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CANON編第1回記事で述べた通り、初期の銀塩EOS機の
型番は、わけがわからない。

具体的には、EOS 650,620,750,850,630,1,10,700,
1000,100,5・・・となっているのだが、仮に上級マニア
やベテラン中古店店員であっても、これらの機種群の詳細な

スペックの差異を、すらすらと言える人は皆無であろう。
職業写真家や評論家層でも勿論無理だし、一般ユーザー
ならば、なおさらチンプンカンプンである。

なお、型番最後のQD(クオーツ・デート:日付写しこみ機能)や
P(パノラマ)は適宜省略している。(この点は以下も同様)

ちなみにEOSは1番機のみハイフンが入り(EOS-1,EOS-1HS等)
その他の機種にはハイフンが入らない(EOS 650,EOS 5 QD等)
ただし、後年のEOS-3(1998年)のみ例外である。
(このルールは、銀塩時代を通じ、さらにデジタル時代まで
踏襲されている。・・と言うか、変えれないのであろう)
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余談だが、マニア層であれば後年にこの時代(1990年前後)
のEOS中古機を買おうとする場合、何かしらの特徴がある
機種を選んで買うケースが大半だ、具体的には以下である。

EOS 620:EOS最初期の高級機、1/4000秒、プログラムシフト可
EOS-1HS:EOS初の旗艦機、高速連写、1/8000秒
EOS RT :EOS初のペリクルミラー搭載、タイムラグ8mS
EOS 10 :EOS初の多点測距離、AIフォーカス機能初搭載
EOS 100:EOS初のサイレント機構搭載、1/4000秒
EOS 5 :EOS初の視線入力AF搭載(横一列5点)

これらの歴史的価値のある機体の他は、後年の中古カメラブーム
の際にも不人気であった。まあ、と言うか、1990年代後半の
中古カメラブームでは、バブル崩壊および阪神淡路大震災後の
消費者ニーズの激変により、当時かそれ以前に発売されていた
AF一眼レフはまったく不人気であり、一眼レフであれば1970~
1980年代の、カメラらしいMF旗艦機等に人気が集中していて、
それ以外ではレンジファインダー機、そして新鋭の銀塩高級
コンパクト機、さらにはポツポツと市場に出始めていた
デジタル・コンパクト機に人気が集中していたのだ。

マニアの誰も、AF一眼レフには興味を持てなかったのであるが
まあそれでも、上記にあげたEOS機は、マニアックな視点からは
かろうじて流通していた次第であった。
私も当該機種群の中から4機種を所有(現存品は2機種)していた。
(注:EOS Kissは、この直後の時代の最大のヒット一眼では
あるが、マニア層は、その機体に興味を持つ事は、まず無い)

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ここからCANONカメラの話に戻るが、
まず前記事では1992年までの歴史を述べたが、ここで世の中は
「バブル崩壊」が起こってしまう。

この事による経済的ダメージは大きいのだが、それと同様に
精神的な変化も大きい。すなわち消費行動が激変してしまい、
華美で派手なスペック等を搭載した高付加価値(つまり高価な)
商品は、世の中でまったく売れなくなってしまう。

カメラの場合、商品企画があって、それから開発がスタート
する為、実際の製品発売は数年ほど遅れる。
この間に世の中が激変したとしても、ある程度開発が進んで
いる場合は、途中で止める訳にもいかず、そのまま商品が
市場に出てきてしまうケースも多い。

すなわち、1980年代末のバブル期の「イケイケ・ドンドン」
のムードで企画された商品群が、この時期1990年代初頭に
発売されてしまうのだ。消費者心理とのズレは「微妙」という
レベルを超えて「かなり」違和感のあるケースも多かった事で
あろう。カメラ界でのその顕著な例は、ミノルタ xiシリーズの
機種群(1991~1992)であった。いずれ解説するが、この時期
のミノルタには他に不幸な出来事もあって、これらのカメラは
超高機能ながら、まったくの不人気となってしまった。

CANONも同様、EOS 10 QD(1990)やEOS 5 QD(1992)は
高機能を「てんこ盛り」とした機種であるが、どうも変化した
当時の消費者ニーズとは微妙なズレがある。
後年の中古マニア層でも、その詳細な原因の分析はしない迄も、
「感覚的」に、なんだか受け入れ難い点があったと思う。

これはMINOLTAやCANONに限らず、AF一眼を発売する各社が
そんな感じである。私は各社の各時代のカメラを所有しているが
「銀塩一眼レフ・クラッシックス」シリーズ記事でも述べた通り
この時代(1990年~1996年)の各社(AF)一眼レフは、歴史的に
貴重な「PENTAX Z-1」を除き、他は1台も残していない。
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他機は所有していたとしても、全て現在は雲散霧消・・ つまり
この時代に「後世に残したい」と思えるカメラが1台も無いのだ。
PENTAX Z-1ですらも個人的には好きな機種では無く、PENTAX
初のAF旗艦、そして「ハイパープログラム」の初搭載、という
歴史的価値を除いては所有する意義のある機体だとは思えない。

で、バブル期において株価のピークは1989年末で約4万円も
あり、そこから後は株価は急落し、1991年にはおよそ半分の
2万円位まで落ち込んでいた。
バブル崩壊の気配、および1991年前後に発売されたカメラの
不評を察知したカメラメーカー側でも、この頃から新しい
コンセプトの銀塩AF一眼レフの企画を開始していたであろう。

さて、こうして出てきた新世代のCANON一眼機の話だ・・

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1993年 EOS Kiss
旧来、訳が分からなかったEOSの型番を整理、そして一眼レフ
としては恐らく初めてのブランディング(ネーミング)戦略を
行った歴史的な機種。大ヒット商品となったのだが、販売数
よりも、女性やファミリ-層といった、新たな市場開拓が
出来た事自体が、特筆するべき、このカメラの功績である。

すなわち「もうAF一眼を旧来の中上級層に売るのは無理だ、
だから他の人達に売るのだ」という戦略だ。が、諦めムードと
いうよりは、こういう「新規市場開拓」は、飽和した市場分野
に置いては必ず実施しなければならない戦略である。

その後、銀塩時代を超えて、デジタル一眼レフ、ミラーレス機
でもKissの名前は使われ、CANONのエントリー市場戦略の要と
なっている。

しかし、Kissシリーズの特徴として一般に言われる「初心者でも
使い易い」という点は、私はどの時代でも大きく懐疑的であった。
これらの操作性・操作系を見ると、中上級機よりも圧倒的に弱く、
「使いやすい」どころか「スピーディに使えないのでイライラ
する」という問題を感じた訳だ。まあ、でもここはユーザー層の
ターゲットが異なるのでやむを得ない。結局私は銀塩、デジタル
を通してKiss型番の付いたカメラを1台も購入していない。

まあ、今までのカメラ操作の概念や用語をすべて初級者向けに
置き換える、などは不可能な話だ。絞りF5.6はF5.6であって、
他の言葉に変えて説明するのは無理だ(後年、ミラーレス時代に
「ボケ味コントロール」といった用語で、これを代替しようとした
メーカーもいくつかあったが、成功したとは言えないであろう。
そこで絞りや被写界深度の概念を理解しない限り、その後の
ステップアップも無く、カメラが「使い捨て」になってしまう。
その機種だけ売れればよい、という方針ならばそうでも良いが、
そうなると、ただでさえ縮退している本格派カメラ市場が完全に
崩壊して、スマホ等の安直な撮影機器に制圧されてしまう)

まあすなわち、EOS Kissの場合は「使いやすそうだ」という
初級層の思い込み(または周囲の人や店員がそう言っていた)
という単純な理由でヒットしたのだと思う。でもそれで良い。
 
そもそも全くの初級者がカメラの何がわかっていて、何がわから
ないのかは、そのユーザー個々のバックグラウンド(経験、知識、
趣向などによる理解力や素養等の全般)で、まちまちであり、
その点は、企画・開発側はもとより、販売側、周囲の先輩達も
誰も把握できない。その初級ユーザー個別に色々と聞き出して
疑問点を解決して、理解を深めて貰わなくてはならないのだ。

だから、結局のところEOS Kissの操作性や操作系等はどうでも
良かったとも言える。「使いやすそうだから」とまずは購入して
もらって、そこからだんだんカメラに慣れていって貰わなくては
ならない。
そういう点では、EOS Kissの根幹は「イメージ戦略」であり、
まあ、これが見事に成功した例と言えるだろう。

各社、EOS Kissの成功を見て「イメージ戦略」の重要性を知るが
これはまた別の記事で解説しよう(参考:このあたりの内容は、
銀塩一眼レフ・クラッシックス記事群にも沢山書いてある)

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1994年 EOS-1N
EOS-1(1989)のマイナーチェンジ版であるが、完成度の高い
高性能旗艦だ。私自身はこの機体を直接的には自身で所有して
いなかったが、家族がこれを愛用していたので、私も何度も
使った事がある。

特に、EOS-1HSは極めて大きく重いカメラであったのだが、
パワーブースターを取り外してEOS-1仕様とすると、とたんに
ヘロヘロの性能になったのが、本機EOS-1Nは(秒3コマと、
さほど高速連写性能は高く無いものの)ノーマル状態でも、
そこそこ快適に撮影が出来るし、当然ながら、かなり軽い。
なによりEOS-1のようなシャッター音のうるささが無いので、
その実用性は雲泥の差であった。
自分用にも欲しかった事は言うまでも無いが、EOS-1HSに
加えてEOS-1Nまで買うのはコスト的に困難であり、やむなく
見送った。

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1995年 EOS 55
視線入力を縦横に配置した実用機。EOS 5の後継機と言えるが
バランスの取れた高性能機であり、後年には中古も安価になった
事から、銀塩EOS機で写真を始めたい/学びたいと思う本格派の
初級層に対してはCANON機最大のオススメ機種となった。

私自身はこの機体は保有していなかったが、周囲の初級中級層で
これを使っていた数は非常に多く、概ね2000年代中頃の銀塩末期
まで長らく現役機でありつづけた隠れた名機であると言えよう。
また、銀色ボデイが併売されていたので、一眼レフの黒一色で
地味なイメージを嫌う女性層において特に人気が高かった。

ただ、世の中の出来事として、この年1995年には、未曾有の
大災害である「阪神淡路大震災」が起こってしまう。
直接の被害を免れた地域においても、精神的ショックは大きく
従前のバブル崩壊もあいまって、消費行動は激減してしまう。

「この大変な時代に、カメラなど買ってられないよ」という
風潮が世の中にも広まっていた事であろう。
他社を見渡しても、この頃にヒットしたAF一眼レフは1台も無い。
まあそれは、NIKON F5(1996)やCANON EOS-1N(1994)等の
高性能旗艦は、それなりに話題性はあったのだが、誰にでも
買える(というか、必要とされる)カメラでは無いであろう。

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ここから1~2年、EOSの新規発売は旧機種のマイナーチェンジ
を除いて止まってしまう。
新機種が無い事、および出てきたとしても魅力的な機種が殆ど
無いので、マニアを中心としたユーザー層は、ここから空前の
「第一次中古カメラブーム」に突入してしまうのだ。

まずはNIKON F/F2/F3といったMF旗艦機の中古が売れ始め、
ライカM3/M6、NIKON S、CONTAX Ⅱ/Ⅲ、MINOLTA CL
/CLE といった銀塩レンジファインダー機にも人気が及ぶ。

さらには各社銀塩旗艦機、高級機、歴史的名機、交換レンズ
などが売れ始め、世の中は完全な「フィーバー」状態だ。
これらの人気機種を仕入れて転売して利益を稼ぐ「投機層」
まで現れて、まるで10年程前の土地バブル期と同様だ。

まだインターネットはあまり普及していなかったが、いわゆる
「パソコン通信」レベルでも様々な情報が流れ、世の中では
中古カメラ専門雑誌が多数刊行され、カメラ誌では無い一般誌
までもが(あまり正確性の無い)中古カメラ関連情報を流す。
街中には中古カメラ専門店が多数林立し、旧来のDPE店でも
多数の中古カメラやレンズを在庫する事が当たり前となった。

マニアと呼ばれる人達は、毎日のように多数の中古店を巡り
そこで他のマニア達と交流し、情報交換を行う。
非常に大量のカメラ情報が口コミを中心に流れていた時代で
あった。その個々の情報の真偽は、今となっては、ほとんどが
あまり信憑性の高い物では無かったように思えるが、それでも
情報の量は十分だ、この時代に、ユーザー全体のカメラ知識は
大きく向上した(レンズ群の知識はさほどでもなかったか?)

しかしカメラマニアは中古ばかりに注目していた訳では無い、
新製品も当然欲しいのだ、だが、AF一眼レフでは、そういう
機種が殆ど無い。

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そこに救世主(?)となったのは、「銀塩高級コンパクト」
である。CONTAX T2(1990)から始まり、NIKON 28Ti,35Ti,
そして極め付きは、RICOH GR1(1996)であろう、ここで
高級コンパクトは一気にフィーバー。MINOLTA TC-1やら
GR1sやら、CONTAX G2(注:レンジ機)やらと、次々と出る
高級コンパクトにマニア層は夢中になり、波及して初級中級層
や女性層にも、これらが売れ始めた。

つまり、マニア層としては「新しいカメラが欲しいけど、
買う物が無い(=魅力的な一眼レフが無い)」という状況で
あった訳だ、このニーズに高級コンパクトはズバリと嵌った。

だが、CANONは、何故かこの高級コンパクトの市場に1台も
カメラをリリースしていない。1990年代に展開していたのは
古いオートボーイシリーズの派生機であり、マニア的には
魅力のある機体ではなかった。

まあ、それはメーカーのポリシーでもあった事だろう。
高級コンパクト市場では、ブランド力が重要である、その為、
CONTAX、ニコン、ライカ等の誰にでも訴求力があるブランドの
製品しか売り難かった訳だ。ブランド力の無いRICOHでは
わざわざRICOHのロゴを前面から外して「GR1」を作った位だ。
まあこれは「RICOHではなく、GRという新しいブランドだ」
という決意の表明であろう。

ブランド力があれば外装をチタン仕様とした高価なカメラも
売る事ができる、そうやって10万~17万円もする高価な
高級コンパクト機が出揃った。これは当時のAF一眼レフの
高級機よりも高価な価格帯である。

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さて、もう1つの市場革新が、この時代に行われた。
それはAPS(アドバンスド・フォト・システム)である。
APSは新規格のIX240フィルムを使い、旧来の35mm判の
フィルムよりも格段にユーザー利便性が高く、おまけに
(カメラ本体も)小型軽量だ。

CANONは、高級コンパクト市場には参入しなかったのだが、
こちらのAPS市場へは積極的に製品を展開した。

1996年 CANON IXY
後年のデジタル時代にまで続くIXY(イクシ)の初号機は
APS機として発売された。これは大ヒット商品となったのだが
この理由をよくよく見れば、「EOS Kiss」で実施された
「ブランディング(ネーミング)」戦略を上手く踏襲して
いる事があげられる。

IXYは、スタイリッシュ(お洒落)なカメラであり、多数の
人が集まる場所(パーティ、披露宴、キャンプ、イベント等)
で取り出して記念撮影をするのに最適なカメラであった。
ここでもEOS Kissに続き、新たな「市場開拓」をCANONは
成功させた事になる。

ただ、マニア的視点、特に私の目からは、初代IXYは搭載
ズームレンズの性能が、私の求める水準に達しておらず、
この機体を購入する事は躊躇した。

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この時代、DPE(現像からプリントまでを行う)店では、
新規のAPS(IX240)フィルムの現像を出来るようにするため、
新型の自動現像機(QSS等)が、ほぼ全てのDPE店に導入された。
高価な機器だが、リースやレンタルという選択肢もあった事で
あろう。

この為、DPE市場では、この時代1996~1997年頃から
安価な「0円プリント」のビジネスモデルが急速に普及する。
この自動現像機を扱うのは専門的知識が不要な為、アルバイト
やパートの人でも難なくDPE業務が可能だったからだ。しかも
短時間(数十分)でDPEプロセスが全て完了する。

そこで、大量にこのDPE業務をこなす事で利益が得られる為、
現像代からプリント代までをセットとして600円~800円
の定額料金でDPEがこなせる。「おまけ」としてフィルムを
1本タダでつけてくれる店まで現れた。

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現像代が格安化された為、前述の中古カメラブームで様々な
カメラを購入したマニア層や一般層でも、「写真」を沢山撮る
ようになる。この点は重要な事であり、それ以前の時代、又は
それ以後の時代では、マニアといえどもコレクション(収集)
や投機(転売)が主目的であり、実際にカメラにフィルムを
入れて撮影する人などは、ほとんど居なかった訳だ。

実際に写真を撮れば、色々な事がわかってきて、また面白い。
特に交換レンズを揃えていくと、その差異が明白で興味深い為
この頃から、カメラ本体のみならず、さまざまな中古レンズの
流通も加速される。世の中に「レンズマニア」と呼ばれる層が
増えてきて、中には「レンズ沼」にハマって、ズブズブと多数
のレンズを、次から次に買い求めるマニア層も増えてきた。
(まあ、私もその類かも知れないが・・汗)

----
さて、前述のCANON APS機のIXYシリーズであるが、
いちいち機種名を書けない程の大量(十数機種)のカメラ群が、
この数年間の時代に、市場に集中投下された。


その中で私が注目したのはCANON IXY310(1997)であった。
この機種はIXYの中では希少な単焦点機であり、私が問題と
していた初代IXYのズームレンズの描写力が改善されていると
想像できたからだ。
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珍しく発売後すぐに新品購入。とは言え、APSの市場普及を
狙ったカメラであるから、35mm判高級コンパクトのように
10万円もする訳ではなく、新品で29,000円と安価であった。

描写力であるが、予想していた通り秀逸だ。私はその後多数
(市場に出ていたほぼ全て)のAPS単焦点機を所有する事に
なるのだが、IXY 310を超えるレンズ描写力を持つAPS機は、
「CONTAX Tix」のみであり、それは高価な機体であったから
このIXY 310が「APS最強の高コスパ機」だ。

よって、この機体は銀塩末期まで愛用する事になるのだが、
2000年代中頃からはAPS(IX240)フィルムの入手性が低下し、
かつ、あれだけあった「0円プリント」店もデジタル化の影響で
ほぼ全滅状態、実際には、その頃からAPS機はもう使用不能と
なっていた。

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さて、デジタル化の話が出たが、この時代1990年代中頃には
デジタルコンパクト機もチラホラと出現している。

最も有名なのは、CASIO QV-10(1994/5年)であろう。
まだ実用的レベルとは言い難いカメラであったが、6万円台
という低価格は衝撃的であり、「デジカメ」の将来可能性を
市場に示してくれた歴史的に重要な機種だ。

実用レベルにおいては、CASIO QV-10A(1996)が良好だ、
これらは所有はしていなかったが、周囲でも持っている人は
多く、何度も使った事がある。その描写性能はともかく、
撮影画像の、パソコン通信、プライベートプリント、
そしてオフィス用途(業務記録、報告、情報共有等)に
おけるアプリケーション(用途)の拡大は画期的であった。

ちなみに、2018年にCASIOはデジタルカメラ事業からの撤退
を表明、デジカメの草分け的存在で、およそ四半世紀も続いた

事業からの撤退は確かに惜しいのではあるが、実際のところ
私はCASIOのカメラを1台も所有する機会に恵まれていない。

その理由はマニア的視点からでは、魅力的な機体が無かった
事であり、別に意図的にCASIO機の購入を避けていた訳では
無いのだ、単に欲しいと思うカメラが無かっただけである。
ちなみにCASIOの電卓や時計は昔から愛用している。
(ただ、CASIOの楽器もカメラと同様の理由で欲しい物が
無かった)

しかし、マニア的視点を除いたとして、一般層においても
CASIOのデジカメの市場競争力が少なかったのは確かであり、
2010年代のモデルは、アクションカメラ的用途のFRシリーズ
や、GZEシリーズという人気時計「G-SHOCK」の進化形の
特殊カメラに主力が限定されていたので、これらはそうした
用途があれば良いが、用途が無ければ買う理由も無い訳だ・・

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さて、余談が長くなった、CANONの話に戻る。
CANONのデジタルカメラの展開は、まずデジタル一眼レフの
試作機から始まり、EOS DCS1/DCS3(1995)やEOS D2000/
D6000(1998)があるが、いずれも試作機レベルで、かつ
数百万円と非常に高価であり、一般層で買えるものでは無い。
この時代には、「デジタル一眼レフの価格は、1万画素
あたりで1万円」とも言われていて、そのレベルの話では
200万画素機で200万円!だ(汗)

コンパクト機の展開は、まずPowerShotであり、初代は
1996年発売で、派生数機種が1997年頃まで展開された。
以降、PowerShot Aシリーズ(1998~)となるが、
実はこのシリーズも私は1台も保有していない。
なんというか、このあたりもマニア心をくすぐる要素が無い
からであり、この頃(1990年代後半)の初期デジタル・
コンパクト機は、私はOLYMPUSやFUJIFILM、MINOLTA
の製品に興味が行っていた。


CANONのデジタルコンパクトに私が興味を持ったのは、
銀塩APSでの好評価のIXY 310のデジタル版とも言える
単焦点レンズを搭載したIXY Lシリーズの発売からであり、
IXY (DIGITAL) L(2003)、IXY (DIGITAL) L2(2004)は、
その希少な単焦点デジタルIXYで、これらは都合3台を
所有していて、2020年代の現代に至るまで IXY L2の2台を
ずっと愛用している。私が所有するデジタル機の中で
発売後20年を超えてまで実用レベルにあるのは、きっと
この機種しか無い事であろう。

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少しだけIXY (DIGITAL) L2について述べておく。既に
*コンパクト・デジタル・クラッシックス第1回記事
*ハイ・コスパレンズ・マニアックス第20回記事
でも詳細を紹介しているので、多くは書かないが、
青空の発色が濃いので、「晴天専用カメラ」としての
用途である。これは当時の画像処理システムの技術的な
限界であり、2000年代前半の他社のデジタル機の一部でも
同等の発色傾向があるが(例:初期GRDや、オリンパス・
ブルーと呼ばれた機種群)個人的に好みである為、長らく
愛用している次第だ(下写真)
(注:青味の優れた発色傾向を持つデジカメは、より
短波長の紫色ではアンバランスになってしまう事が多い)

ただ、IXY L系の他の基本性能は、とてつもなく古い
(例:最高ISO感度は僅かにISO400、実用的にはISO200が
限界値)ので、IXY L2を使いこなすには高度な技能が必要だ。
なお、それ以降のIXYでは、単焦点レンズ搭載機は存在しない。
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さて、CANON銀塩機の話に戻ろう。

1998年 CANON EOS-3
EOS-1N以来4年ぶりの本格的な上級機。
45点AF、等の「超絶性能」機の走りとなっている。

私は、この機体は「過剰なスペック」と見なして購入して
いない。そしてもう1つは「操作系」の問題があった。
他の記事でも良く書いたが、この頃のEOS-1系列の操作系は
最初期のEOS-1の流れを踏襲している。これは職業写真家層
などで、後継機で操作系が大きく変わるのを嫌う事への対策
だとは思うが・・ 残念ながら増えすぎた新機能に対して、
操作性や操作系の整備・改善が対応できていない。


この時代では他社機が、どんどんと新しい優れた操作系を
搭載していくのに対し(例:同年発売のMINOLTA α-9、
そして、その究極の進化形は2000年のMINOLTA α-7だ)
EOS-1系やEOS-3は、他社からのビハインド(遅れ)が
大きいと感じ、興味が持ちにくかった。


これについては、銀塩EOS最後の旗艦
2000年 EOS-1V
でも同様な所感を持った為、この機種の購入も見送った。
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2000年 EOS 7

銀塩一眼レフ・クラッシックス第26回記事参照。
この時代のEOS機の操作系に不満があった点を見事に
解消してくれた隠れた名機。

私が称する「銀塩EOS最強の操作系の機体」である。
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詳細は当該記事に詳しいので割愛するが、基本性能にも
優れており、銀塩EOS中、最もバランスが良い機体だ。
隠れた特徴として、アダプターで他社MFレンズを装着しても
フォーカスエイドが効き、これは後年のデジタルEOSでは
「排他的仕様」により、効能が削られてしまっている事に
対する寛容的な仕様であり、「汎用化思想」からは好ましい。
(というか、こういう機能を使えなくする方が意地悪だ)

惜しむらくは、もう銀塩末期であった事であり、この機体の
活躍期間は極めて短く、続くデジタルEOS機に主力が移っていく。
なお、後継機「EOS 7s」(2004)が存在し、これが実質的な
銀塩EOS最終機となった。(注:EOS-1Vの在庫品販売は
2010年代後半まで継続された)
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1999年~2004年 普及機種群
この時期、CANONはEOS Kiss Ⅲ、EOS Kiss ⅢL、
EOS Kiss 5、EOS Kiss Lite、EOS Kiss 7と、多数の
低価格帯普及機群を発売している。後年にEOS機が極めて沢山
あったように感じていたのは、この時期にこうした多数の機体
が発売されたからであって、実際の製品ラッシュはEOS最初期
の1987~1991年頃と、この時期の2つに集中していて、
その間、つまり本記事で紹介した時代では、1年に1機種程度
しか発売されていない。


何故この時期に多数の普及機が発売されたか?と言えば、これは
明確な理由があり、数年後のすぐ先に迫るデジタル化時代において
各社は銀塩AF一眼レフと同一のマウントとする事が基本戦略で
あった。すなわち銀塩AF転換時のように、それまでのマウントを
切り捨ててしまうような戦略は、この時代ではもう「有り得ない」
という判断であろう。
で、ユーザー層に、デジタル一眼レフにスムースに移行して
もらうためには、この時期に、まず銀塩一眼レフを買って貰わ
なければならない。そして数年後にまた、CANONのデジタル
一眼レフにレンズ等をそのままで乗り換えてもらう筋書きだ。

この戦略はCANONだけのものではなく、NIKONやMINOLTA
でも同様に、この時期に多数の普及機を発売しているし、
PENTAXやCONTAXからも、少数ながら同様の高性能普及機が
発売された。

で、これらの普及機群は、いわゆるデジタルへの「繋ぎ」であり
使い捨ての要素もあるように感じられるのだが、中には普及機
ながらも上位機種に負けない高性能を詰め込んだ機種もあり、
(というか、買ってもらう為に、殆どがそういう類の機体だ)
その手の機体は「コスパが非常に良い」と見なせるであろう。

しかし、残念ながら私はEOS Kissシリーズのこうした普及機は
所有していない。スペック的に興味を持てなかったのが主因で
あるが、後からよく調べてみると、EOS Kiss 7(2004)は、
かなりの高性能機体である事が判明、しかしながら、時代は
もうすでにデジタルだ、今更銀塩機が必要な状態ではなく
残念ながら「手遅れ」であり、購入はできなかった。

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さて、そういう状況で、EOSデジタル一眼レフの方だが、
2000年にはEOS D30が発売された。
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デジタル一眼レフ・クラッシックス第23回補足編記事で
紹介したCANON初の一般向けデジタル一眼レフである。

仕様や長所短所は、その記事に詳しい為、今回は割愛するが、
まあ最初期のデジタル一眼である為、性能的にはとても古い。
しかも、定価は358,000円と高価である。(注:これでも
黎明期のデジタル一眼レフの中では十分に安価だ)

まあでも、歴史的価値は非常に高いカメラである。
今でも問題なく動作する為、ごく稀に持ち出して遊んでいる。
下写真はEOS D30で撮った写真を加工処理したものである。
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さて、ここから先は完全なデジタル時代だ、続く後編記事に
譲ろう。

レンズ・マニアックス(27)補足編~薄型軽量レンズ(前編)

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コロナ禍の影響が長引き、写真活動はもとより生活への
様々な影響が相当に厳しくなってきている状況だが・・ 
過去撮影写真を元にした執筆済み記事の掲載を続けよう。

今回は補足編として、薄型で軽量なレンズを4本紹介する。
(いずれも過去記事で登場済みのレンズ群だ)
なお、近日中に「後編」記事を掲載予定である。
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今回の記事では、個々のレンズの詳細は全て、過去記事で
紹介済みであるので、別の視点での記載としよう。
特に今回は、薄型(軽量)レンズの歴史と、それをとりまく
市場環境の話がメインとなる。

まあでも、とりあえず、いつものシリーズ記事と同様に、
各レンズ毎に、そのシステムで撮った写真を掲載しながら、
話を進めていく。
後、薄型レンズを装着する母艦(カメラ)も、できるだけ
小型軽量のものを使用し、トータルとしてのシステム全体
での小型軽量化をも図っている。

まずは最初の薄型レンズ。
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レンズは、CANON EF40mm/f2.8 STM
(中古購入価格 11,000円)
カメラは、CANON EOS 8000D (APS-C機)

2012年に発売されたCANON史上初とも言える薄型交換レンズ。
(レンズ・マニアックス第10回記事で紹介)


型番だが、CANONのWEB上では、EFと焦点距離の間は
「スペース」(空白)は無し、同じくCANONのWeb上の
CANON CAMERA MUSEUMでも、「空白無し」でないと
製品名の検索が出来ない。だが実際のレンズ製品上では
上写真のように、EF 40mm 1:2.8と、「空白有り」の
表記となっている。統一性が取れていないが、今回の
記事では、まあ、あまり気にせずに話を進めよう。


さて、前出の紹介記事で書いたように、汎用性(他社互換性)
が無いレンズであり、私の機材購入コンセプトに反しているが、

「CANON初の薄型レンズ」(注:他に、EF-S/EF-M版あり)
という歴史的価値の高さを重んじて購入したレンズである。

描写力はまあ普通、あくまで「薄型」である事が付加価値と
なるレンズである。APS-C機EOS 8000Dとの組み合わせでは
非常に小型軽量な「常用システム」として適し、あるいは
EOS 6Dと組み合わせれば、「フルサイズ一眼レフ最軽量」の
システムが出来上がる。(注:本レンズはフルサイズ対応だ)
まあ今回の組み合わせにおいても、一眼レフとしては、最軽量
では無いとは思うか、相当な上位の小型軽量システムとなる。
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さて、ここからは個別のレンズの話ではなく、総合的な
話としよう。
以下、本記事のほぼ全てが、薄型レンズの歴史の話となる。

まず、写真用(一眼レフ用)の薄型交換レンズの黎明期だが、
銀塩時代の1960年代~1970年代頃にかけて登場している。

テッサー型(3群4枚)等の簡素なレンズ構成を用いて、それを
マウント面あたりに集中配置する事で、フランジバック長と
ほぼ同じ焦点距離(45mm前後)を持つ薄型(そして軽量)
の写真用交換レンズが実現する。


何故、そういったレンズが作られたのか?の理由は、
現代となっては、もう不明である。

推測ではあるが、このおよそ50年前の世情においては
技術者は、ある程度好きな製品を作る事が出来た時代だ。

つまり、上記原理から「こんな薄型のレンズを試しに作って
みましたが、いかがでしょう? 売れますかね?」という風に
技術主導または技術者主導による、「シーズ優先型」すなわち
「プロダクト・アウト型」の企画開発が普通であった時代だ。
(例えば、SONYのウォークマン等のヒット商品も、技術者が
試作したものが製品化された、という話は有名であろう)

この考え方は、まだ「モノ」が消費者全般に十分に行き渡って
いない高度成長期などの日本ではマッチする。つまり、様々な
アイデア商品で、消費者のニーズを喚起した訳だ。
(参考:1970年代の家電製品などは、非常にユニークな、
商品企画コンセプトのものが多くて、とても興味深い)

だから当時の技術者(エンジニア)は、アイデアマンである
事も要求されていた。まあ、一般的なイメージで言えば、
発明王「エジソン」のような感じを想像してもらえれば、
当たらずとも遠からずだと思うし、あるいは「平賀源内」や
「レオナルド・ダ・ヴィンチ」のように、研究や発明のみならず
芸術やら広告の分野にいたるまで、マルチな才能を持つ事が
理想的なエンジニアとされた時代であったと思う。
まあつまり「創造性」が技術者の資質として最重要であった
訳だ。
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ところが平成の時代に入り、消費税の導入、そして1990年代の
バブル崩壊と阪神淡路大震災の発生、インターネットの普及等に
よる環境の変化で、消費者ニーズの激変が起こる。
それに、もう「モノ」は、既に消費者層には十分に行き渡って
いた為、新しく欲しい「モノ」など、もうほとんど無い訳だ。

「マーケティング」の学術分野では、この市場状況を分析し
「プロダクト・アウトからマーケット・インへ」という概念が
広まっていく。つまり、製品を作ってから「これ売れますかね?」
と考えるやりかたはもう時代にマッチしていない。これからは
「消費者がこういう物を欲しがるから、それを作れ」という
風に、商品の企画開発のやり方が変化していった訳だ。

また同時に、それまでは「製品」と呼んでいたのだが、
それでは「モノ」を連想してしまう。新しい時代においては、
モノ以外にも、サービスとかソフトウェアとかの「形の無い物」
も増えた為、それらを総括して「商品」と呼ぶようになった。

その概念が切り替わった時期は、1990年代後半から2000年代
前半にかけてであろう、まあ私は、20世紀型 vs 21世紀型と、
これを区分して言う事が多い。カメラの世界においても、丁度
銀塩(フィルム)から、デジタルへの激変期であった時代だ。

現代のエンジニアは、マーケットのニーズによる商品の企画
開発を行う事が普通だ。ただ、私の感覚では、その結果、
昔の時代のように、設計者のアイデアや個性が入った製品は
激減してしまって、ある意味面白く無い製品ばかりが並んでいる
ようにも見える、まあ現代のデジタルカメラもその類であろう。

こういうのを作らされる技術者も仕事が面白く無いだろう事は
想像されるし、技術者に必要なスキルも、以前の「創造性」
よりも、むしろ「専門性」が強く要求されるようになった。

だから、現代では昔の「エジソン」のようなスーパー発明王は、
まず登場できない環境となっている。
たとえば、あるエンジニアが全く新しいカメラを考え出したと
しても、その構造全て、つまり撮像センサーからAF機構から
レンズ光学設計から筐体構造に至るまで、1人の技術者で全て
まかなえる(作れる)ものでは無い事は言うまでも無いであろう。

もう全体が複雑すぎて1人の手に負えない訳だ、この複雑さも
また、個性的な(カメラ)製品が出ない理由となっている。
そして、それぞれの要素技術の開発には、膨大な開発費を湯水の
ように使うので、あまり無茶な発想を安易に採用する事も
出来ないわけだ、もしそれに失敗したら、大メーカーとて、
潰れてしまう程の経営ダメージを受けてしまうからだ。
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さて、話が脱線してしまった(汗)薄型レンズの話に戻ろう。

ではここから、次の薄型レンズを使ってみよう。
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レンズは、GIZMON Utulens 32mm/f16
(新品購入価格 5,000円 マウントアダプター付き)
カメラは、FUJIFILM X-E1 (APS-C機)

2017年発売の、「写ルンです」レンズ再利用品トイレンズ。
(レンズ・マニアックス第18回記事で紹介)

本レンズは、正規の写真用交換レンズとは言い難いが、
まあ、薄型軽量レンズである事は確かである。

「写ルンです」のレンズに、シンプルな機能の「X-E1」を
組み合わせる事で「デジタル写ルンです」と、私は本システム
を呼んでいる。パンフォーカス型レンズなので、X-E1の持つ
AF/MFに関する重欠点は完全に回避でき、快適に使用できる
システムとなる。
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では、薄型レンズの歴史の話に戻ろう。

1970年代~1980年代にかけ、数社から発売されたMF一眼
レフ用の薄型レンズは、正直言えばいずれも不人気であった。

これはまあ「プロダクト・アウト」型の商品の弱点がモロに
出たのであろう。「こんなの作ってみました」は良いのだが
消費者のニーズとしては「不要」と見なされてしまったのだ。

その典型的な消費者側の理由を、1つ考察してみよう、
消「そんな貧相なレンズはいらないよ。
  せっかく高価なカメラ(一眼レフ)を買ったのだから、
  もっと、堂々と大きく見えるレンズを買わないと、
  偉そうに見えないし、周囲にも自慢できないよ」
となる。

まあそうだろう、当時の一眼レフは現代の貨幣価値で言えば
デジタル一眼レフの旗艦機級の価格帯に相当する贅沢品である、
それを所有する事が、ユーザーにとって「ステータス」(誇り)
になるから、薄型の安っぽいレンズをつけていたら、むしろ
格好悪い。残念ながら、これらの薄型MFレンズは普及せず、
市場においても、ひっそりと数少なく存在していたに過ぎない。
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そして、おりしも1980年代後半から、ミノルタ「αショック」
を受けて、各社のカメラ・レンズ開発は「AF化」「ズーム化」
が強く推進された。

当時の技術水準では、薄型レンズにAF機構などを入れる事は
出来ない。いや既に1970年代後半~1980年代前半の
一眼レフのマルチモードAE化(絞り優先、シャッター優先、
プログラムAE)に対しても、絞りをカメラ側から自在に制御
できる「自動絞り機構」がレンズに対して要求されたが、
これも薄型レンズでは、それの搭載が困難であったのだ。

(注:この課題があった為に、FD系レンズで両優先AEの
実現を意識していたCANONでは、銀塩時代にパンケーキレンズ
を1本も発売する事が出来無かったのであろうか・・?)


よって、AF化の時代において、各社の薄型レンズはほぼ全て
生産中止となり、市場からは忘れられた存在になっていた。

そこから十数年を経過した1990年代後半、バブル崩壊や
阪神淡路大震災等の影響により、消費者ニーズが前述のように
激変してしまうと、カメラ界においても同様に、バブル時代に
企画された、華美なスペックを盛り込んで、高機能、自動化を
「てんこ盛り」とした新鋭AFカメラ群は消費者(特にマニア層)
のニーズとの「ズレ」が顕著になっていく。

マニア層は、新鋭AF一眼レフに興味が持てず、古いMF時代の
銀塩一眼レフや、銀塩レンジファインダー機、そして新分野の
「(銀塩)AF高級コンパクトカメラ」に皆が夢中になった。

古いカメラが飛ぶように売れ出すと、市場では中古カメラ店
などが林立し、中古カメラに関する書籍や雑誌等も沢山
刊行された。あるいは、中古カメラの売買で利益を稼ぐ
「投機層」まで現れるようになり、すなわちカメラ市場は
空前の「カメラバブル」の時代となった。

これを本ブログでは「第一次中古カメラブーム」と呼んでいる。
概ね1990年代後半から、2000年代初頭までの期間であり
その後、デジタルカメラの普及が始まると、この中古カメラ
ブームは急速に沈静化している。

その1990年代後半には、「珍しいカメラ」が、希少性から
もてはやされ、マニアや投機層が、こぞってこれらを買い漁る
のであるが、とは言え、珍しいカメラは機種的にも数量的にも
限りがある。相場高騰は厳しいが、それでも少し無理をして
10台程度も買えば、もう欲しいカメラは殆ど残っていない。
すると、次に向かうのは「交換レンズ」である。

一部のマニアは1980年代頃に絶滅していた「薄型レンズ」
に目をつけた。当時は「貧相に見える」とか、あるいは
「AEやAFの自動化が出来なかった」という理由で売れずに、
殆ど市場に出回っていない、すなわち「珍しいレンズ」だ。
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この頃、どこかのマニア氏がCONTAX テッサー45mm/f2.8
を入手した。1982年に初出であるが、すぐに生産中止となった、
前述のように時代背景的にも売れる要素は無かったからだ。
ましてや天下のCONTAXだ、そのユーザー層は最もブランド意識
の強い層である、貧相な「テッサー」が売れるはずも無い。


しかし、テッサーは1993年頃に再生産が開始されている。
これも理由は前述の分析の通りであり、この中古ブームの
直前には、既に、一部の先進的なマニアは「珍しいレンズ」
への志向性がとても強くなっていた時代である。
そしてここも、”ましてやCONTAX”である、つまり「富裕層」
やら「金満家」といった初級ユーザー層の他には、純粋に
ツァイスレンズの描写力に付加価値を感じる「上級マニア層」
のユーザーも非常に多く、それらのニーズが混在している
ブランドがCONTAXなのである。

で、そうした上級マニアが、入手しやすくなった新発売の
T45/2.8MMを、自慢の大型旗艦機「CONTAX RTSⅢ」に
装着した。
大きな母艦に、薄型のテッサーがちょこんと付いている姿は
非常に新鮮であり、そうした画像がマニア向け写真専門雑誌
等で広まると、皆がそれを真似したがった。

この頃、こうした薄型レンズを「パンケーキ」と呼ぶように
なっていく。海外が発祥か、国内で言われ始めたのかはわから
無いが、もし国内であればセンスがとても良いネーミングだ、
つまりまるで、2010年代の「パンケーキ」(食品)のブームを
20年も先取りしているからである。

当時の国内で、もし言葉を考えるのであれば「ホットケーキ」
と呼ばれたかも知れない(汗)「パンケーキ」という言葉自体
が、当時の日本では全く知られていなかった訳だからだ・・

まあ、海外では元々「パンケーキ」と呼ぶのが普通だった。
つまり、1990年代のカメラマニアのオジサン達も、現代の
ギャル達も、単純に、聞きなれないお洒落な「パンケーキ」の
言葉の響きに過敏に反応してしまった訳であろう。

この直後の時代、1990年代後半には、一部の上級マニアから
始まった「パンケーキレンズは格好良い!」という文化が
急速に一般マニア層にまで拡散されていく。

マニアの誰もが、ほとんど市場に残っていない薄型レンズを
探し始め、NIKON,OLYMPUS,PENTAX,MINOLTA,KONICA,
RICOHの生産終了した薄型レンズが、とんでもなく高騰して、

その性能(1万円前後の価値しか無い)からは、信じられない
位の、10万円もの高額相場で取引されるようになってしまった。

当時の現行製品であるCONTAX T45/2.8MMまで、中古品が
高価となり、新品価格に近い中古相場となった。



なお、ちなみにCANONでは薄型レンズは発売していなかった。
恐らくは「性能の向上が見込めない」といったメーカー側の
企画ポリシーであろう。(だから、2010年代に、今回紹介の、
EF40/2.8が新発売されたことは、非常に歴史的価値がある)

一大「パンケーキブーム」により、NIKONでは、とても古い
時代のGN45/2.8が10万円越えで取引されている状況を見て、
慌てて新型薄型レンズ「Ai45/2.8P」の開発を開始するが、
その発売は、やや遅れて2001年迄ずれこみ、もうその頃には、
中上級マニア層でのパンケーキブームは終焉していた
(まあつまり、集められる個体数が少なく、かつ高騰して
しまって、コスパ的に買う価値が無かったからだ)のだが、
シニア層等のブームに遅れて付いて来る人達は、2000年代
でも、この「ニコンのパンケーキ」は、まだ売れた模様だ。
(注:近年、2010年代後半でも、Ai45/2.8Pは、相場の
高騰を招き、「プレミアム価格化」してしまっている)

私は、いち早くこのパンケーキには注目していたので
高価になりすぎていたOLYMPUS OM40/2以外のパンケーキは
全てブーム前に所有していたが、どれも性能的に満足できない
(=MF操作性が悪すぎる、最短撮影距離が長い、開放F値が暗い、
描写力が優れない、ボケ質が悪い、焦点移動が出る、など)
レベルであったので、デジタル時代に入った頃には譲渡等で
雲散霧消してしまい、現代でも残しているものは、数本しか
無いし、それらを常用する事も無い。中には絞りが故障した
個体もあるが、もう直す気すら起こらない状況である(汗)

---
では、ここでまた別のシステムを紹介する。
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レンズは、PENTAX 07 MOUNT SHIELD LENS
11.5mm/f9 (新品購入価格 4,000円)

カメラは、PENTAX Q(1/2.3型センサー機)

2013年発売のQマウント専用単焦点薄型トイ標準レンズ。
(ハイコスパ・レンズ第24回記事等で紹介)

強い「収差」の発生する個性派のボディキャップ型レンズ。
非常に小型軽量なレンズであり、その重量は全交換レンズ中、
最軽量の8gである。

収差の描写は、Qマウント1/1.7型機(Q7,Q-S1)の方が
強く出るが、今回は効果が控えめなPENTAX Qで使用する。

これが、恐らく、レンズ交換型デジタルカメラとして
最も小型軽量なシステムとなるであろう。
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さて、さらにパンケーキレンズの歴史の話だが、
2000年前後にMFパンケーキが急速に中古市場での
人気を失っていく背景には、以下の理由があったと思われる。


1)銀塩中古カメラブームの終焉(→デジタルの普及)
2)格好良いが、操作性や性能がイマイチ
3)中古相場が高騰し、高価になりすぎた
等が容易に想像できると思うが、もうひとつ重要な要素が
ある。

4)新時代のAFパンケーキの登場
最初は、1997年のsmc PENTAX-FA 43mm/f1.9 Limited
であろうか? これは準パンケーキ型ではあるが、旧来の
MFパンケーキの弱点を全て解消している、高性能な名レンズ
であった。(特殊レンズ第9回記事等)

FA43/1.9は、私がMFパンケーキに興味を失う理由ともなった
レンズであり、これを1998年頃に入手し、使ってみると、
もう、MFパンケーキは「とてつもなく古い時代の、不満足な
性能のレンズ」に見えてしまった訳だ。

その後、2000年代にはsmc PENTAX-DA 40mm/f2.8
Limited(未所有)等も発売されるが、あまりに薄いレンズは

操作性の課題も残っている為、上級マニア層などはあまり
興味を持てなかったのではなかろうか? まあつまり
「もうパンケーキはこりごりだよ」といった感覚である。
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そして2010年代、ミラーレス機の時代に入ると、
銀塩MFパンケーキは、マイナーマウント(CONTAX Y/Cを
はじめ、 MINOLTA MDやKONICA AR等)であってもマウント
アダプターで装着が可能となった。これまで2000年代の
デジタル一眼レフでは、これらのマイナーマウントレンズは
装着できないか、あるいは使用困難という課題があったのだ。

でも、ミラーレス機+アダプターで、銀塩時代のMFパンケーキ
を使ったとしても、薄型に見えずに格好悪い。

それは、ミラーレス機のフランジバック長は、銀塩一眼レフ
よりも、およそ3cm弱も短く、マウントアダプターの厚みも
同様に3cm前後が必須だったからだ。この状態で薄型レンズを
つけても、全長はどうしても長くなってしまう。
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で、各種マウントアダプターの普及は(デジタル)一眼レフに
おいても、僅かにパンケーキを利用できる可能性も生じた。
例えば、EOS(EF)マウントに、CONTAX(Y/C,RTS)レンズを
装着できるアダプターが存在している。
これで、テッサー45mm/f2.8を装着したらどうか?


しかし、この組み合わせに限って言えば、フルサイズEOS機では
ミラーが干渉して使えない。APS-C型のEOS機では、なんとか
使用できるが、まあ色々と制約がある事は、ややこしい。
この時代、マニア層は、なんとか工夫して銀塩時代のパンケーキ
を「格好良く」使おうとするが、あまりに制限が大きい状態だ。

そうこうしているうちに、2010年前後から、ミラーレス機用
の薄型レンズが色々と発売されるようになった。

すなわち、一眼レフ用パンケーキレンズの設計と同様の方式で
一眼レフのフランジバック長(45mm前後)よりも、短くなった
ミラーレス機のフランジバック長(20mm弱)あたりに、
テッサー型、あるいはコンピューター新設計となった現代風の
構成を持つレンズを配置すれば、14~20mm程度の焦点距離
を持つミラーレス機専用の薄型(パンケーキ)レンズが、実現
できるでは無いか。


具体例としては、
Panasonic G20mm/f1.7(2009)、
OLYMPUS MZ17nm/f2.8(2009)、
SONY E16mm/f2.8(2010)、
Panasonic G14mm/f2.5(2010)
(注:機種名省略表記)あたりが草分けであろう。

ここで、紹介システムを上記のミラーレス機用パンケーキに
交換しよう。
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レンズは、PANASONIC G14mm/f2.5 (H-H014)
(中古購入価格 13,000円)
カメラは、PANASONIC LUMIX DMC-GX7(μ4/3機)

2010年発売のμ4/3機用AF単焦点広角レンズ。
(ハイコスパ・レンズ第22回記事等で紹介)
本レンズは、LUMIX DMC-GF2(2010年)のキットレンズ
(カメラ本体とセット販売)としての発売となっている。

本システムが、「EVF搭載式」のμ4/3機と実用AFレンズ
としては、かなりの(最も?)小型軽量なセットとなるだろう。

(参考:NEX-7/α6000+E16/2.8も、相当に小型軽量だ)

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初期ミラーレス機(2009~2010)のキットレンズが
このような広角パンケーキが多かった理由は以下となる。

1)初期ミラーレス機は、まったくの新マウントであり
  比較的安価な単焦点レンズをセットして発売する必要性
  があった。

2)ミラーレス機が、一眼レフに比べて圧倒的に小型軽量である
  事を市場にアピールする為には、このような小型軽量レンズ
  をセットするのが望ましかった。

3) 初期ミラーレス機のターゲット(販売ユーザー層)は、まだ
  不明な時代であり、新規ユーザー層(女性等)にアピール
  する為には、薄型レンズの「お洒落」「格好良い」という
  ファッショナブルな要素をもアピールする必要がある。
  また、カメラマニア層に対しても、直前のおよそ10年間は
  パンケーキレンズは事実上使用できない状況であったので、
  ミラーレス機で新たに「これが新時代のパンケーキです」と
  言えば、ベテランマニア層でも反応する可能性がある。

上記3点はコストや見た目など、まあミラーレス機を普及させる
耐えの市場的(マーケティング的)要素であるが、テクニカル
(技術)的には、重要な以下の理由3点がある。

4) 初期ミラーレス機は、コントラストAF機構のみの搭載であり
  すなわち精密ピント型のレンズ(大口径、マクロ、超望遠)
  との相性が悪い(=それらはピントが合わない) しかし
  被写界深度の深い広角(17mm未満)で小口径(F2.5以上)の
 レンズであれば、初期ミラーレス機の貧弱なコントラスト
  AF性能でも、なんとかピントが合う可能性が高い。

5) 小型軽量のレンズで、AF駆動(モーター)の負担を減らす。
  AF合焦速度、AF精度(=止める)の向上。そして消費電力
 (=初期ミラーレス機では常時ライブビューなので、バッテリー
  の持ちが厳しい)といった課題への対策の意味があった。

6) カメラへのデジタルズーム機能の搭載が始まり、初級者の持つ
 「望遠で撮りたい」「ズーム機能が欲しい」というニーズに
  対して、デジタル拡大(ズーム)処理で代用ができた。
  例えばSONYの初期NEX-3/5では、E16/2.8とデジタルズーム
  との組み合わせで、フルサイズ換算24~240mmの仮想
 ズーム として使用するのが前提であった。

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まあ、上記のテクニカルな理由は、すなわち「広角パンケーキ
位しか、初期ミラーレス機でまともに使えるレンズが無かった」
と言う状況も暗に示している

しかし、その後2010年代前半頃から、ミラーレス機は性能的に
向上した。例えば、旧来のコントラストAFに加えて、像面位相差
AF(注:各メーカーで呼び名は異なる)が利用できるようになり、
広角レンズをキットレンズとしなくても、一般レンズでもAF精度が
実用レベルに到達する。また、同時にユーザー層も変化し、旧来の
ようにエントリー層(カメラ入門者)をターゲットとしなくても
一眼レフユーザーの中上級層に至るまで、ミラーレス機を普通に
実用的に使うようになる、すなわち「ミラーレス機がカメラと
しての認知を得た」という事であろう。

すると、前述のような初期ミラーレス機用のパンケーキレンズも
もう役目を終える事となった。より本格的な高性能レンズ、例えば
大口径単焦点、望遠ズーム、マクロレンズ等も自由に作って売れる
ようになった訳だ、まあつまり、旧来のコントラストAF機に
これらのレンズをつけても、まずピントが合わなかった状況から
やっと解放された事になる。

よって、2010年代中頃からは、各ミラーレス機用のパンケーキ
(単焦点)レンズは(役目を終え)殆ど新発売されていない。

単焦点パンケーキに変わって出てきたミラーレス用薄型レンズは、
1つは標準ズーム等が薄型化され、単焦点パンケーキと見まがう
ようになった事。そしてもう1つは「ボディキャップ・レンズ」
と呼ばれる類のものがある。 例えば前述のPENTAX 07は、
トイレンズではあるが、一種のボディ・キャップレンズとも
言える。他にもOLYMPUS BCL-1580、同BCL-0980や、
FUJIFILM FILTER LENS(XM-FL)などが発売されている。

これらは全て過去記事で紹介済みであり、その一部は後編記事
でも紹介するが、まあそれでもあまり種類が多いものでは無く、
結局、数える程しか無い存在だ。
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さて、ここまで写真用薄型レンズの歴史を、銀塩MF時代、
銀塩AF時代、デジタル一眼レフ時代、ミラーレス時代において
述べてきたが、世の中に存在する単焦点薄型レンズは、ほとんど
この記事で書いてきた範囲に集約される。まあ、つまり種類が
限られているという事が言えるし、裏を返せば「さほど必要性の
高いレンズ群でも無い」(=又は、爆発的に売れるものでは無い)
という事であろう。

銀塩時代に中古ブームで高騰したのは、あくまでその希少性
(つまり、あまり売れていなかった、よって出回る数も少ない)
からの投機的な観点(=珍しいものならば高く売る事が出来る)
という話であって、パンケーキ等の薄型(軽量)レンズが性能が
優れているから高価に売れた、という訳では決して無いのだ・・

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さて、今回の記事は、このあたり迄とする。次回後編記事では、
単焦点薄型軽量レンズを、後4本紹介するとともに、それらの
薄型(軽量)レンズ全般における、長所や短所等を説明していく
ことにする。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(27)高描写力MFマクロ レンズ

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回の記事では「高描写力MFマクロ レンズ」を5本紹介する。

この意味は簡単に言えば、「良く写るMFマクロレンズ」だ。
「何故、MFと限定しているのか? AFではダメなのか?」
という疑問に関してだが、銀塩MF時代(1980年代頃迄)
のマクロレンズは、一般的に描写力が高いものは少ない。
だからこそ、MF時代のマクロで高性能(高描写力)な
レンズは希少である、という意味だ。
(追記:本記事執筆後、この条件に当てはまりそうな
MFマクロ(TOKINA AT-X 90/2.5)を、追加で購入
出来たが、それはまた別記事での紹介に譲る)

なお、基本的には本シリーズでは4本のレンズ紹介だが、
本記事では比較の為、ラストには現代設計の新鋭の
MFマクロを1本追加している。

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まず、最初のMFマクロシステム
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レンズは、CONTAX Makro-Planar T* 100mm/f2.8
(中古購入価格 82,000円)(以下、MP100/2.8)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

発売年不明、恐らくは1980年代の後半頃と思われる
MF中望遠等倍(1:1)マクロレンズ。
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ドイツ語であるから、Macroではなく「Makro」だ。

で、CONTAX党に言わせると 仕様は「2.8/100」のように
「ドイツ式表記」が正しい、という事なのだが、個人的
には、他社が全て焦点距離→絞り値の順で書いているのに
特定のメーカーだけ、他者と異なる表記法とする事には
賛同できず、まず、そのあたりの用語やその表記法等を
全メーカー間で統一するべきだと思っている。

それに、オリジナルの表記に拘るのであれば、本レンズの
正式な表記は 「Makro-Planar 1:2.8 f=100mm」と
レンズ上には記載がある。(しかし、マニア層や流通市場
でも、そうした書き方はしていない) 

なお、本ブログでの記載法も独自であり、正確とは言い難いが
結局、メーカー毎に表記が統一されていないので、とりあえず
何かの方法に固定するしかない。よって本ブログ開設当初から
ずっと、100mm/f2.8といった暫定記載法を踏襲している。

それから、京セラCONTAXレンズには、AE型とMM型があり、
本レンズは最小絞り値に緑色の指標が無いAE型であり、
これはマルチモード対応では無いので、銀塩CONTAX機での
シャッター優先やプログラムAE機能が使えない。
だが、いまさら銀塩CONTAX機を使う筈もなく、アダプターで
デジタル機で使用するならば、もはやどうでも良い仕様だ。
(注:そもそも本MP100/2.8にはMM型は無いかも知れない?)

さらに言えば、ドイツ製造(G型)版と、国内製造版があり、
本レンズは日本製(J型)である。(AE Jのように記載する)
若干高価な独国版を購入した金満家が「独国版は日本版より
はるかに写りが良い」と主張するのだが、真偽は不明だ。

恐らくは、使用部品(部材)は、両者全く同一であろうし、
両者を同時に購入して、厳密に比較した例も無いだろうし
あったとしても、撮影条件や撮影者のスキルでも、写りは
ずいぶんと変化してしまう。つまり、「腕前次第」という
事になろうから、そこ(製造国)を気にする必要も無い。

こうした様々な「都市伝説」には、振り回される必要は無い。
それよりも現代において、最も注意するべきは、このレンズ
のデジタル母艦をどうするのが良いのか?と言う話だ。

まあ、ミラーレス機で使うのが簡便であろう。フルサイズ
機でも、APS-Cでも、μ4/3でも、よりどりみどりだ。
等倍で難しいピント合わせも、ミラーレス機の高精細EVFで
ピーキングや拡大機能と組み合わせれば課題は緩和される。

撮影倍率も、μ4/3機ならば最大2倍相当になるし、
デジタル拡大機能を使って、さらに倍率を高めても良い。
又、センサーサイズが小さい方が銀塩用レンズの周辺収差が
消えて、より高画質を得られるが、反面、あまりにピクセル
ピッチが細かい母艦を選ぶと、レンズ側解像力が不足する
恐れもある。ただし、本MP100/2.8では、そうした性能や
描写力面での弱点は少ないので、どれを母艦としても良い。
_c0032138_22135907.jpg
今回、EOSフルサイズ機を使用しているが、これは実は、問題
有りの組み合わせだ。ヤシコン(Y/C)→EF(EOS)のアダプター
を用いて、CONTAXレンズをEOSフルサイズ機(一眼レフ)に
装着すると、多くの場合、ミラー等が内部干渉してしまい、
これは故障してしまうリスクが極めて高い。

ただ、その問題が出るのは、比較的焦点距離が短い
(25~50mm)のCONTAX(Y/C)レンズが主であり、
望遠系は若干出難い。

しかし、この事実を良く認識しておかないと、高価なカメラ
を壊してしまう恐れがある。装着して実験する事すら危険な
状況であるので、できればEOSフルサイズ機は一切使わない
事がベターだ。今回使用のケースは、たまたま使えている
だけに過ぎず、同じ組み合わせであっても、個々のカメラや
レンズの個体差があって、上手く行かないかも知れない。

それから、EOS機ではフォーカスエイドが効かないので
ピント合わせが困難だ。母艦のEOS 6DはMF用のEg-Sの
スクリーンに換装しているが、それの大きな効果は無い。
(まあつまり、基本的にはミラーレス機で用いる方が、
様々な課題を解消できて望ましい。今回のシステムは
「限界性能テスト」の目的が大きい、という次第だ)
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さて、システム上の様々な問題点が認識できたところで、
次はレンズ側の課題だ。
まず、大きく、重く、高価だ、という「三重苦レンズ」で
ある事に加えて、ヘリコイドの回転角が異常に大きい。
無限遠から最短撮影距離まで、実に平均14回ものレンズの
持ち替えが必須となり、「何かの修行をしているのでは?」
と思えるほど疲労し、極めて使い難い。

様々な課題があるレンズなので、とても万人に推奨できる
レンズは無いのだが、幸いにして描写力には優れている。
とは言え、それも「銀塩MFマクロにしては」という但し書き
が付く、この値段(定価約20万円)を出すのであれば、
現代の新鋭マクロを数本買った方が、描写力の面からは、
遥かに得策であろう。(参考:現代での中古相場は、
程度や製造国によりけりで、3万円台~8万円台程度)

本レンズを買う理由はただ1つ、「京セラCONTAX時代の
銘マクロの性能を知っておく為」である。

まあそれにしても、銀塩時代より、およそ20年以上使い
続けているが、いつ何時、どんなシステムで使っても、
全く楽しく無いレンズである(汗)
すなわち「エンジョイ度」評価が、極めて低いレンズだ。
(ちなみに、別記事「使いこなしが困難なレンズ特集」
では、数百本の所有レンズ中、ワーストの5位のレンズだ)

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では、次のシステム
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レンズは、TAMRON SP 90mm/f2.5 (Model 52BB)
(中古購入価格 20,000円)(以下、SP90/2.5)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1 (μ4/3機)

1988年発売のMF中望遠1/2倍「元祖90マクロ」である、
いや、正確には「元祖」は、1979年の「52B型」であり
本レンズ「52BB型」は、その外観変更後継版であるが、
光学設計などは初期型との変更点は無い。

「90マクロ」は、最も著名なマクロレンズであり、
マニア的には必ず知って(買って)おかなけれはならない
レンズであろう。
(注:本レンズには、Macroの名称は入らない)

ただ、およそ40年間の歴史があるから、どの時代のもの
を買うかは微妙であるが、初期型に近い90マクロの特性も
知っておく必要はあると思う。

(注:一部のマニア層での「タムキュー」(Tamron90の略)
という呼称は非推奨だ。
TAMRON製90mmMacroは、時代により、様々なバージョン
が存在し、どれの事を指しているかが不明だからだ。
まあ、「90Macro」と言っても、同じ事だが・・・汗
でも、「タムキュー」では、間違いなく語呂が悪いし、
自身で所有しているならば、必ずModel名で識別するから、
単に、それを持っていない人達での俗称/蔑称なのか?
ちなみに現在、90マクロシリーズは全世代の光学系の
ものを入手して評価研究中だ。→別途比較記事を準備中)
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で、本SP90/2.5の描写特性は、ちょっとクセがある。
銀塩時代から現代に至るまで、レンズを設計する際には
「どの撮影距離の性能を優先するか?」の要素が存在する。

(注:一部の層で、その事を「設計基準」と呼ぶのも非推奨。
光学の「設計」業務では、多数の、決めなければならない
様々な「基準」が存在する訳だから、単に「撮影距離」だけ
の事を指す訳では無く、あまりに狭い意味となってしまう)

現代のレンズでは、コンピューター光学設計等で効率化
されている為、様々な撮影距離を基準として、いずれも
高性能を得るような設計が可能となってきたが、そうすると
普通は「大きく重く高価」という「三重苦レンズ」となる。

そして銀塩時代では、人間が手動計算で設計しているので、
とても大変である。勿論、全ての撮影距離で優良な描写力を
得る設計等は、職人芸的な技法を持ってしても困難であろう。

一般的なレンズでは、その撮影距離の基準は無限遠である。
よって、近接撮影になるほどに、様々な収差により描写力
(つまり性能)が悪化してしまう。
それがあまりに酷い場合は、最短撮影距離の仕様を大幅に
制限し、寄って撮影できないようにしてしまうしか無い。

銀塩後期(概ね1990年代後半)のAF時代の一眼レフ用の
マクロレンズでは等倍仕様化(注:それまでは1/2倍の
仕様が一般的、これは前述の撮影距離制限とも関連がある)
したとともに、設計の基準となる撮影距離を近接側に変更
したものが多い。よって、これらの銀塩AF等倍マクロは
近接撮影で良好な描写力を発揮し、MF時代の多くの
マクロでは歯が立たないが、反面、中遠距離撮影になると
ボケ質破綻が出たり、色々と描写力を悪化させる要因が
出てくるケースも多い。

さて、では、本SP90/2.5の場合はどうか?
これ以前の時代の、いわゆる「平面マクロ」では近接時の
性能を優先し、またマクロ以外のレンズでは遠距離撮影の
性能を優先している。しかし、本SP90/2.5の場合は、
中近距離を主体にしながらも、フォーカシング変動による
諸収差の発生を抑えた先進的な設計だ(当時のTAMRONでは、
これを「O.A.C型」と呼んでいたが、動作原理不明。まあ、
後年のフローティング方式と同様な原理ではなかろうか?)
その結果、様々な撮影距離で汎用的に使えるし、様々な
撮影条件でも画質が破綻しにくい、という設計コンセプト
が与えられているように感じる。
_c0032138_22141952.jpg
初期型の52B型(1979年)の時代に、初めて「SP」の名が
冠されるようになり、その後1980年代前半では多数のレンズ
に「SP」銘が付けられたので、「SPの大安売」の印象すら
あるが、本90マクロ系は、「SP」の名に恥じない、まぎれも
無い高性能レンズである。


本SP90/2.5の初期型発売時のTAMORONにおけるキャッチ
コピーは「ポートレートマクロ」である。
これは中距離から近距離まで対応可能、という意味を表して
いるのだと思われる。

ただ、その高性能が故に、単純に本レンズが名玉と称された
のでは無いようにも思われる・・
その分析だが、当時(1970年代末)の銀塩時代では、単焦点
レンズを揃える事が、ユーザー側では主であった。
ズームレンズは勿論存在していたが「画質が単焦点より悪い」
という評価が大半であった事だろう。

で、当時のユーザー層は、50mm標準レンズを購入したら、
その上の焦点距離の単焦点は、135mm、そして200mm
という風に望遠を伸ばしていく事が普通だ。
あまり細かく焦点距離を刻んでも、レンズだらけとなり、
相応にコストもかかる。


まあつまり85mm級レンズが、すっぽりと欠けていた訳だ、
そこに「90mmmで、人物撮影にも適し、近接撮影も可能」
というレンズが、5万円弱という手頃な価格(注:これは
定価なので、実売は、もっとずっと安価であろう)で発売
されたらどうなるか?
それはもう、多くの消費者層が喜んで飛びつくであろう。

こうして、本SP90/2.5(の初期型)はヒット商品となり、
評判も良く、その後約40年間も続く「TAMRON 90マクロ」
という、銘マクロの代名詞としての礎を築いた訳だ。

本レンズがマニア必携である、と書いたのは、そういう意味
がある。この歴史的に重要な価値のあるレンズは、どんな
世情において、どんな設計コンセプトで生まれてきたのか?
という歴史を知る必要があるからだ。

本SP90/2.5は、アダプトール2仕様であるから、ユーザーが
好きなマウントに換装できる。
私も銀塩時代には殆ど全てのMFマウント機を使っていたので
アダプトール2さえ揃えておけば「どのカメラでも本レンズ
が使える」という点では非常に重宝したのだ。

ただまあ、現代においては、アダプトール2を、わざわざ
探すよりも、マウントアダプターを購入した方が簡便な為、
もし本レンズを購入する際は、マウントには拘る必要性は
あまり無いであろう。
_c0032138_22141975.jpg
本P90/2.5の総評だが、現代の視点で使ってみると
「なんだかパンチに欠ける」という印象が強いかも知れない、
まあ確かに、様々な撮影条件で汎用的に使える利点はあるが
なんと言うか、大きな特徴や個性が無いのである。

よって、「本レンズでなくてはならない」という必然性も
少ない為、「どうせマクロとして使うならば、後継のAF
等倍版を持っていった方が、写りが良いか・・」等と
考えてしまう訳だ。


初期型を含め、本レンズを所有する意味は、前述のように
その歴史的価値の高さと、当時の世情を理解する為、である。
その為だけに本レンズを購入するのは意味が無いようにも
思えるだろうが、幸いにして現代の中古相場は1万円そこそこ
と安価だ。高額な現代レンズを買うついでに、ちょっとだけ
予算を工面して本レンズを買ってみるのも悪く無い。

意外なまでに、本レンズの描写力が現代でも通じる事に
驚くかも知れない訳だ、そうなると、「レンズの値段って
どういう事?」という疑問も沸いてくるだろう。
ビギナー層において、それは悪い傾向では無い、そこを
検証するだけでも、ずいぶんと意義がある事になると思う。

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では、3本目のシステム
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レンズは、smc PENTAX-A Macro 50mm/f2.8
(中古購入価格 20,000円)(以下、A50/2.8)
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)

正確な出自は不明であるが、PENTAX Aシリーズカメラに
合わせて登場したレンズだと思われ、概ね1980年代前半
の発売だと思われる。
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当時の1/2倍MF標準マクロは、殆どが開放F3.5級か又は
それ以下(PENTAX旧版は、M50mm/F4)であったので、
本A50/2.8の開放F2.8は希少だ。

前モデルM50/4は、銀塩時代に所有していて、私としては
珍しく「描写が気に入らない」と拗ねて処分してしまって
いた。本A50/2.8に買い換えた後は、その比較もあった
からか、「ずいぶんと良くなった」と好印象となった。

まあしかし、今から思い起こすと、変形テッサータイプの
前モデルM50/4も、上手く使いこなすのであれば、そこそこ
個性的な描写が得られていたのかも知れない。

つまり、写りが気に入らないのは、使う側の問題であって、
レンズそのものの問題では無い、という意味だ。どんな
レンズであっても必ず有効な「使い道」は存在すると思う。
その「用途開発」が出来ないのは、単に使う側の未熟だ。

本A50/2.8は4群6枚構成である。これは同時代の他の開放
F3.5級マクロと同じである場合も多いのだが、たとえ同じ
レンズ構成であっても、同じ写りになるという訳では無い。

レンズにおけるガラス材質(屈折率、アッベ数等)とか
曲率とか空間配置とか、口径とか、コーティングの良否
とかの様々な差異がそこにはある。さらに加えて前述の
設計の基準となる撮影距離も違うかも知れない。

本レンズは汎用的な撮影用途に向く。近接撮影は1/2倍
(ハーフマクロ)ながら、高描写力であるし、ボケ質の
破綻は出る事は出るが、その頻度は少ない。
まあ、今回使用しているようなデジタル一眼レフのシステム
の光学ファインダーではボケ質はわからず、その回避も困難
ではあるが(上写真ではボケ質が破綻している)、まあ

本レンズはミラーレス機でも、さんざん使った経験がある。

なお、A型レンズであるから、現代のPENTAX機に装着しても
電子ダイヤルで絞りの制御が効くので、使用に問題は無い。
これがもし、M型とか、無印(K/P)であると、殆どの
ケースで使用が困難または使用不能となる(その場合には、
当該レンズはミラーレス機でしか使えない)
_c0032138_22143116.jpg
本A50/2.8は、特に大きな弱点は見当たらず、銀塩MF標準
ハーフマクロとしては、「ベストに近い」という認識だ。

それ故に過去記事のミラーレス・マニアックスの名玉編にも
ノミネートされていた位だ。(注:特性が似ている、後継の
FA50/2.8がランクインした為、本A50/2.8は、あえて外した)

なお、後継のFA Macro50/2.8は、等倍化の為かレンズ構成が
7群8枚と、かなり変化しているが描写傾向は良く似ている。
まあ、このあたりは「レンズ設計コンセプトが類似である」
という風にも言い換える事ができるかも知れない。

詳しくは調べていないし、調べようも無いが、もしかすると
両者は同一設計者の手によるものかも知れず、そういう場合
「設計思想のテイストが似てくる」という事も十分ありうる。

そういう意味では、本A50/2.8が欲しい場合は、ややレア品
なので、FA50/2.8を探すほうが簡便ではある。FA版ならば
AFが効くし、等倍だし、本A50/2.8と似ている高描写力で
あるし、中古の入手性も高いし、下手をすれば、本レンズ
よりも相場が安価だ。

ただ、FA50/2.8は、デザインが壊滅的にNGなのだ(汗)
たとえハーフマクロであっても、デザイン的な格好良さを
重視し、本A50/2.8を付けて行きたいと思う場合は多々ある。

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では、次のシステム
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レンズは、OLYMPUS OM-SYSTEM ZUIKO 90mm/f2 Macro
(中古購入価格 50,000円)(以下、OM90/2)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

発売年不明、恐らくは1980年代後半頃と思われる
MF中望遠1/2倍マクロレンズ。、
OMシステムの登場が1970年代前半だから、少々後発だ。
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「銘マクロ」として著名なレンズではあるが、過剰評価も
入っているのではなかろうか? 本OM90/2の最大の課題は
大きく重く高価な「三重苦」レンズであるという点であり、
現代では、レア度から、希少性が加わってプレミアム相場と
なって、上にあげた価格では、とても入手する事は出来ない。

高価でレアな物を買えば自慢したいのが人間の心理であるし
それに、そこまで高値を投資したのであれば。「これは必ず
良いレンズである筈だ、いや、そうでなければならない!」
という心理も強く働くであろう、さもないと自分が取った
行動や選択や価値観を否定する事にも繋がるからだ。


世の初級中級層によるレビュー等は、たいていの場合、
そうした、人間心理による「思い込み」の要素が強いので
残念ながら、参考に値するものは多くは無い。
また、販売サイドのレビューも「高価に売りたい」が為の
過剰な迄の高評価も多く、これも参考にはならない。

さて、冷静に本レンズを分析しよう。

まず、一眼レフ用の開放F2のマクロは珍しい。私が知って
いる限りでは、全てでも数える程しか存在せず、銀塩時代の
頃であれば、同じくオリンパス医療用特殊マクロ20mm/f2
(注:近年に中一光学によりFreeWalker 20/2として復刻)
を除き、一眼レフ用の通常マクロレンズでは、本OM90/2と、
OM50/2の2本しか存在していないと思う。
OM20/2を除き、いずれも最大撮影倍率は1/2倍仕様だ。

ただ、当時のOMシステムは、「21mmから250mmまで
開放F2で揃えられる」事も「売り文句」となっていて、

著名な設計者、米谷技師による強い拘りの思想を持っていた。
その設計思想の一環としての、F2級マクロであっただろう。

なお「F2だからF2.8版よりも描写力が高い」とは思わない
方が良い。口径比を上げると、それにともない、様々な
設計上の問題点が生じるのだ。銀塩時代のレンズは概ね
同じメーカーで同じ焦点距離であれば、小口径版の方が
描写力が優れるケースが多い(注:本OM90/2には小口径
版は存在しない)

しかし、そういう時代背景ながら、幸いにして本OM90/2は
描写力的な弱点は持たず、むしろ本記事で取り上げている
ように、高描写力の類である事が長所だ。
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設計上のコンセプトは、あまり特定の撮影距離に依存して
性能を上げようとはしていない事。この点では、前述の
TAMRON SP90/2.5と類似のコンセプトであるように見受け
られるが、どうも、そのSP90/2.5が、あまり鮮烈な印象が
無い事に比べると、本OM90/2は、フローティングとかの
ややこしい事をせずとも、ワンランク上の描写力を持つ
ように感じる。すなわちオーソドックスながら基本性能の
優秀さを感じるし、レンズ構成は9群9枚と、当時では
他に類似の例を持たない独特のユニークな設計だ。
(参考:本レンズでは無いが、中望遠F2級の姉妹レンズ
は、レンズ光学設計の教科書にも載っている位だ)

なお、姉妹マクロのOM50/2だが、プレミアム相場品
につき、残念ながら未所有であり、比較が出来ない。

その代わりに、デジタル時代の4/3機用のZUIKO DIGITAL
50mm/F2を所有しているが(本シリーズ第2回記事等)
それと比較するのは、時代もずいぶんと異なる為、公平
では無いだろうから、なんとも言えない。

最大の弱点は、前述の「三重苦レンズ」である事。
私は、本レンズを銀塩時代から約20年使用しているが、
銀塩機OM-4Ti等との組み合わせでは、レンズが大きく重く
バランスが悪く感じるとともに、絞り環の位置も、他の
OMレンズとは異なるレンズの根元なので違和感があった。

ただ、デジタル時代初期においては、もうOM機は使えず、
母艦となるカメラ本体も大型化し、絞り環の操作性もまあ
他社レンズと同様であるので、その違和感は無くなった。

2000年代の4/3時代にOMアダプターで本レンズを使用した
際は、180mm相当の画角で、若干長すぎるように感じたが、
反面、等倍相当の最大撮影倍率となる為、望遠マクロ的な
用途で、かつ中遠距離撮影も可能であり、フィールド(屋外)
自然撮影には重宝したレンズだ。

ミラーレス時代の2010年代からは、本レンズをいかなる
ミラーレス機にも装着できるので、画角の自由度は増えたが
まあそこはあまり重要なポイントでは無い。どんな画角と
なっても、それに応じてそれなりに用途はあるし、本レンズ
の高い描写力をさらに高める為にも、今回使用のDMC-G6の
ように、センサーサイズを狭めて使う用法もある。

特に、この望遠母艦DMC-G6との組み合わせは非常に快適で
あり、今回の掲載写真のような自然観察用途でのレンズとして
現代の様々なレンズ群まで含めても上位を争う「適合性能」を
持つ。(「適合性能」とは、つまり、「その用途においては
ベストマッチングである」という事だ)

まあでも、それは「用途開発」を様々に考察した結果であり、
ただなんとなく本レンズを使用するのでは、最適な用途は
発見しにくいかも知れない。私でも本レンズは銀塩時代には
人物撮影等に使って、それで評価していたのだが、そういう
目的には、他にもライバルとなりうる高性能レンズは
星の数ほどある為、本レンズの独自の有益性が発揮でき
なかった状況でもあった訳だ。だから、その後は85/1.4
とかのミーハーな(笑)レンズが人物撮影には適する等と
思い込んで(注:勿論、そんな単純な話では無い)
本レンズの使用頻度が減り、その真の特徴が見えなくなって
いたかも知れない(汗)
まあ、近年になって、「やっと安住の地を得た」という
感じであろうか・・

「現代では入手困難」という重欠点があるので、推奨は
しずらいレンズではあるが、まあ一応参考まで。

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では、今回ラストの(新鋭)マクロシステム
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レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 65mm/f2.0
(フォクトレンダー マクロ アポランター)(変母音省略)
(新品購入価格 122,000円)(以下、MAP65/2)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

2017年に発売された、現代的なフルサイズ対応大口径
MF準中望遠画角1/2倍マクロレンズ。
SONY FEマウント専用品であり、他記事で紹介の際は、
フルサイズ機SONY α7を使用していたが、重量バランスが
悪く感じ、MFの操作性等が悪化している評価だった。
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試しに、より小型軽量なNEX-7と組み合わせると、トップ
ヘビーながらも快適に使用できたため、以降はNEX-7
(又はα6000)を本MAP65/2の主力の母艦としている。

NEX-7等では、換算画角が約100mm相当と、中望遠マクロ
として慣れ親しんだ画角となり、65mmという、あまり
画角感覚データベースに入っていない(つまり慣れていない)
画角への違和感も消える。さらには最大撮影倍率が1/2倍
と、現代マクロとしては不満な仕様も、APS-C機の使用で、
約3/4倍マクロ(+デジタルズーム可)となり、使い易い。

弱点は、「三重苦レンズ」であるという事だ、本レンズを
入手する前には、TAMRON SP60/2(G005)のサイズ感を
想像していたのが、本レンズを手にして、大きさも重さも
SP60/2の、およそ倍というサイズ感に驚いた。
「これはちょっと、ハンドリング性能に問題ありかも・・」
という印象を持ち、おまけに価格もとても高価だ、SP60/2の
類似スペック製品と考えれば、およそ6倍も高価であった。

まあでも、フォクトレンダー製のレンズは銀塩時代から
生産数が限られているケースが多く、いつの間にか生産完了
となって、後から入手したくても困難である事が多かった。
まあ、やむなく発売期間中に新品で買うのだが、
そうやって何本のレンズを買わさせられただろうか?(汗)

どうも、メーカー側の「希少化」戦略に乗せられている
ように思えてならない。
そもそも、2000年代初頭のマクロアポランター125/2.5で
あれば新品で7万円台で買えたのが、本レンズでは約12万円。
そして、本記事では紹介しないが、さらに新しい「マクロ
アポランター110/2.5」は、新品で15万円以上もする。

交換レンズ市場の縮退による高付加価値化戦略製品なので、
値上げは、やむを得ない節もあるのかも知れないが、もう
これ以上高価になってしまうと、私の機材購入ポリシーの
「レンズは高くても13万円まで」に反する事となり、まあ
それは自分で決めたルールなのではあるが、それを破ると
「なし崩し」になる為に、基本的には従う必要があるので、
もう新鋭レンズを買えなくなってしまう(泣)
(注:記事執筆後に価格上限を15万円迄に改めた)
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さて、本MAP65/2の長所であるが、高い描写力がある。
確かに銀塩時代のMFマクロとは一線を画す描写性能だ。

解像感は高目、ボケ質も良く破綻も出にくい、逆光耐性も高く、
コントラスト特性が優れていて、総合的には、マクロレンズ
として使う上では何ら不満は無いが・・
中遠距離のごちゃごちゃした被写体(空間周波数が高い)の
場合には、ちょっと輪郭の強さが過剰に感じる場合もある。

ただ、そのあたりも使用するカメラのセンサー仕様や、撮影
設定の状況にも依存する事であろうから、本レンズも今後
「用途開発」を続ける必要がある。
すなわち、どんな被写体をどのように撮った際に、最大の
パフォーマンスが発揮できるか?を研究し考察する訳だ。

まあ既に「万能マクロに近い」と言う事はできるのだが、
それでは沢山のレンズを所有する意味が無い。
それぞれのレンズには、それぞれの最適の用途があり、
それ故に、様々なレンズを使い分ける理由となる。
まあ、それは必須の事では無いが、「マニア道」を極める
意味ではとても重要なテーマであり、モチベーションとなる。
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そういう状況においては、本レンズがSONY FEマウント
専用品である事は若干不満であり、これがもしNIKON F
マウントで発売されていたら、およそどんなデジタル機
でも使用できた為、新しい用途開発の幅が広がっていた
かも知れないと思う。FEマウント専用レンズは、他の
カメラでは一切(殆ど)使う事が出来ないのだ。

SONY FEマウント機は、ごく近年の高額な新鋭機種を除き、
連写性能や高感度性能が低く、旧機種しかコスパが優れない
為、現時点では、あまりシステムの優位性を感じない。
その優位性が有効になるのは、現代のα7系Ⅲ型機やα9の
中古相場が安価になり、10万円を切る価格帯になってから
の話であろう、その時点でやっとコスパが許せるレベルだ。



その根拠は、その中古価格帯のデジタル一眼レフの性能を
見て、比較してもらえれば容易にわかるだろう。
現状、SONY FE機は、コスパが悪すぎるのだ。
FE機のコスパが適正になるのは、まだ数年先になると思う
ので、それまでは、バランスが良いNEX-7やα6000との
組み合わせで、本レンズの用途開発を進めていくしか無いと
思っている。

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さて、今回の記事「高描写力MFマクロ レンズ特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・

レンズ・マニアックス(28)補足編~薄型軽量レンズ(後編)

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今回は補足編として、前編記事に引き続き、薄型で
軽量なレンズを4本紹介する。
(いずれも過去記事で紹介済みのレンズ群である)
本記事では、薄型レンズ全般での得失の話が主体となる。

まずは最初の薄型レンズ。
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レンズは、smc PENTAX-DA 40mm/f2.8 XS
(中古購入価格 12,000円)(以下、XS40/2.8)
カメラは、PENTAX K-30 (APS-C機)

2012年に発売されたAPS-C機専用超薄型AF準標準レンズ。
(レンズ・マニアックス第6回記事で紹介)

薄さ9mmは恐らく歴代トップのAFレンズであり、重さ52g
は、こちらもAF交換レンズ中トップの軽さかと思われる。


軽量なPENTAX K-30との組み合わせで、一眼レフ最軽量
とは言えないまでも、かなり上位の軽量システムとなる。
_c0032138_08223746.jpg
また、この組み合わせにおいては、デザイン的な観点からの
イメージについても着目するべきであろう。
スポーティーな外観を持つK-30との組み合わせでは、軽快な
印象(雰囲気)を強調する。

で、さらに、この外観イメージは、使用する母艦(カメラ)の
種類によっても大きく変化する。

例えば、超個性的なデザインのK-01との組み合わせによっては
およそこれがカメラとは思えない程の、ファッショナブルで
エキセントリックな印象となる(下写真)
_c0032138_08225219.jpg
さらには、ダイヤル数が多くて本格的カメラの印象がある
KPとの組み合わせでは、精密感のある「メカメカしい」
つまり、機械らしさのイメージが出てくる(下写真)
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まあ、薄型レンズ(パンケーキ、ビスケット、ボディキャップ、
トイレンズ)の利用法として、写真における描写力よりも
むしろ、こうした外観イメージの変化を楽しみ、結果的に
写真を撮る(カメラを持ち出す)楽しさを得る事が主眼となる。

すなわち、薄型レンズは「エンジョイ度」の高いレンズ
(又はカメラも含めたシステム)となる訳だ。

本ブログでのカメラやレンズの評価項目に含まれている
「エンジョイ度」の意味(定義)であるが・・

「そのカメラやレンズ独自の特徴的な機能や性能を使い、
 撮影時にどれだけ楽しめるか?気持ち良く撮影できるか?」
という指標となる。(匠の用語辞典第21回記事参照)

これはカメラやレンズ自身の性能とは直接的には関係ない。
例えば、「超絶性能」(匠の用語辞典第1回記事)を持つ
カメラを持ち出してみれば、大きく重く高価な為(=三重苦)
持って歩くのも大変だし、写真を撮る際にも色々と気を使う
(=故障、破損、盗難、周囲からの目、などに対する配慮を
常にしなければならない)のであれば、あまり撮っていても
楽しく無い事も多々あるのではなかろうか?

かと言って、常に三重苦の反対(=小型軽量で安価)の機材
を持っていけば「エンジョイ度」の評価が高まるのか?
と言えば、そう言う訳でも無い。
例えハンドリング(持ち運び、構えなど)は容易であっても、
あまりに性能が低かったり、使いにくかったり、外観が格好
悪いなどの状態であれば、それもまた「エンジョイ度」を
低める原因となってしまう。

で、そうではなくて、カメラとレンズの組み合わせにより、
その撮影の快適さ(エンジョイ度)は変わるのだ。
最もシンプルな例を挙げれば、上で少し紹介したPENTAX K-01
は、AF/MF性能の両方に致命的と言える程の欠点を持ち、一般的
なレンズでは、ピント合わせに大変苦心し、楽しめない状況で
あるのだが、そこへ「ピンホール」等のピント合わせが不要な
レンズを装着する事で、K-01の重欠点が全て消せる他、K-01の
持つ、エフェクト系機能や操作系、連写性能、高感度性能、等
の長所のみを活かせるようになる。すなわちレンズの選択1つ
で「エンジョイ度」の評価が大きく変化してしまうのだ。

だから厳密に言えば、カメラやレンズ単体では「エンジョイ度」
の評価は出来ず、カメラとレンズとの組み合わせ(=システム)
において総合的に考えるべき評価項目ではあろうが、そうして
しまうと煩雑すぎる。例えば、使いこなしが難しいレンズは、
どんな母艦(ボディ)に装着したとしても、たいてい大差は
無く、常に難しいレンズとなり「エンジョイ度」が低くなる訳だ。
(参考:本シリーズ第11回および第12回、「使いこなしが
難しいレンズ特集」記事)
_c0032138_08225879.jpg
本レンズXS40/2.8であるが、やはりカメラとの組み合わせに
おいて、若干「エンジョイ度」が変化するレンズである。
元々は、K-01のキットレンズとして発売された個性派デザイン
のレンズである(両者を同じ工業デザイナーが担当している)

だが、K-01のコントラストAFとの組み合わせでは、遠距離で
やや絞った場合はともかく、近接撮影で絞りを開けた状態では
まずピントが合わない。かと言って、MFに切り替えようにも、
非常に狭くて距離指標の無いピントリングや、K-01本体側でも
解像度が低い背面モニター(EVF無し)と、貧弱なピーキングの
精度、さらにはモニター再生部分の「持病」(注:これは
この時代2012年頃の各社ミラーレス機数機種の背面モニター
において、JPEGのプログレッシブ型式再生が途中で停止して
はっきりとした画像が再生できない、というバグまたは不良)
により、すなわち「MFでピントを合わせる事が非常に困難な
性能・仕様」である(=よって「エンジョイ度」が極めて低い)

だから、その状態でイライラしながら撮るよりも、いっそ
そういう撮影技法を使う事が無理なので、長所のみを活かす
ような撮り方をすれば良い訳だ。すなわちK-01とXS40/2.8
を組み合わせる場合には、遠距離撮影+エフェクト利用が
最もその威力を効果的に発揮できる撮影スタイルとなる。
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また、今回のK-30+XS40/2.8の組み合わせでは、近接撮影の
ピント精度は、最短撮影距離付近以外では問題は無い。
しかし、エフェクトの使い勝手は、一眼レフ故に、ミラーレス
機よりも遥かに落ちる。だから、この場合には中距離を中心
とした「スポーティーなスナップシューター」として使うのが
良いであろう、例えばイベントなどにおける人物撮影に使えば、
カメラとしての「威圧感」が殆ど無いシステムであるので、
自然な表情、自然な雰囲気の写真を撮る事が出来ると思う。

そういう場(イベント、パーティ等、人が集まる場)に、
大型の旗艦機と大型レンズを持っていくなどの機材選択は、
「空気を読まない」的外れな撮影システムとなってしまう。
(自慢げに、そうした高額機材を持っていくアマチュア層や、
あるいは、あまりに本格的な機材で周囲を威圧するほどの職業
写真家層、そのどちらの場合も、その場の(楽しい)雰囲気を
壊してしまう、良く無い機材選択スタンスである)

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さて、ここで次の薄型レンズを紹介しよう。
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レンズは、FUJIFILM FILTER LENS XM-FL(S) 24mm/f8
(中古購入価格 5,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T10 (APS-C機)

2010年代のXマウント専用アクセサリーレンズ。
(ハイコスパレンズ第5回記事等で紹介)

フォーカス機構が無く、固定焦点(パンフォーカス)型である。
ただし、本来そうした仕様の際は、被写界深度を十分に稼ぐ為、
だいたいF11位の口径比(開放F値)にする必要があるのだが、
本レンズは、F8止まりである。
これによる被写界深度を概算すると、近距離と遠距離は
被写界深度外となり、すなわち中距離以外はピントが合って
いない。

しかし、本レンズは、そういう細かい事を気にする類の
レンズではない。内蔵されているフィルター効果(ソフト
フォーカス、およびクロスフィルター)を活用して、一種の
特殊効果トイレンズとして使えば良い訳だ。
_c0032138_08231102.jpg
さて、本記事での紹介レンズは、いずれも過去記事で登場して
いるので、長所や短所の紹介をしても重複してしまう。
そこで、本記事においては、より広い視点で、薄型レンズの
得失を紹介している次第である。

薄型レンズの課題の1つとしてフォーカシング(ピント合わせ)が
ある。まず小型ゆえにAF化が難しく1997年のsmc PENTAX-FA
43mm/f1.9の準パンケーキ型レンズ以前では、AFの薄型レンズ
は技術的な課題により実現が出来なかった訳なのだが・・
その後はまあ、薄型レンズにもAFが搭載できるようになり、
その究極は本記事冒頭で紹介したsmc PENTAX-DA 40mm/f2.8
XSである。

まあでも、MFや固定焦点(パンフォーカス)型の薄型レンズも
現代の現行製品として、他にいくつか存在している。その内の
1本が今回紹介のFILTER LENS XM-FLである。
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パンフォーカス(近距離から遠距離まで全てにピントが合って
いる)状態を実現するには、比較的広角のレンズを使って、
絞りを絞れば良い、という技法はカメラ中級者以上であれば
誰もが知っている。でも、では、何故絞り込むと被写界深度が
深くなるかの原理を理解している、または説明できる人は
居るだろうか? ここの概念理解はかなり難しく、恐らくは
上級者、マニア層、職業写真家層であっても説明不能であろう。

「絞るとピントが深くなる」、この単純な事実を説明するにも
光学設計の専門家レベルの知識と、それを一般層に説明する
だけの表現スキル(能力)が必要となる。
この説明力を持ち合わせている人は、ごく一握りしか居ない。

だが、写真や撮影原理を学ぼうとする人達は星の数程の多数だ、
このアンバランスが、一般層の写真原理の理解が進まない理由の
1つにもなっている。つまり、光学の原理理解は難しすぎるのだ。

中級層やベテラン層では、経験的に写真原理を理解できるが、
それを初級層などに正しく説明できる術(すべ)や能力を
残念ながら誰も持っていない。(テキトーな説明とか、
誤まった概念説明等になってしまう)

また、経験的に得た知識は、必ずしも常に正しいとは言えず、
思い込みや勘違いも多数存在している。
そんな状況である為、写真界における初級中級層においては、
様々な間違った常識、誤まった原理理解が、非常に多数蔓延して
いる状態だ。いや、むしろ正しい情報が流れている方が稀であり
巷の殆どの情報が誤まったものであると言っても過言では無い。

ごく簡単な例だけあげておこう。「画素数が多かったり、
センサーサイズが大きいカメラは、常に良く写るカメラである」
というのが一般常識だが、これは単純にそうとも言い切れない。
組み合わせるレンズの性能や特性、センサーの仕様、カメラ設定、
撮影技法、編集技法、被写体選定、用途や目的、そういう様々な
要素が絡み合って、良く写るかどうか、すなわち画質は決まって
くるのである。

まあ、ビギナーが高価な最新カメラを買っただけで、綺麗な写真
が撮れる訳では無い事は、中級者以上であれば誰もが知っている
「真実」であろう・・

(参考:これはカメラやレンズに限らず、他の市場分野でも
同様である。例えば、とても高価なフォークギターを買った
ところで、ビギナーが良い音で演奏できる訳では無い。
特にアコースティック楽器の場合は、その出音の音質の
およそ8割は演奏技法(スキル)で変わってきてしまうのだ。
この事実を逆手に取って、例えばTVのバラエティ番組等では、
高価な名楽器を、わざと手を抜いて演奏した状態と、安価な
普及楽器を最良の技法で演奏したものを聴き比べ、芸能人等
の誰もが両者の区別ができない事を、面白おかしく紹介する
ケースが良くある。・・まあつまり、「モノ」の性能を
活かすのは、あくまで使い手の技能次第なのだ)
_c0032138_08231162.jpg
さて余談が長くなった。
本レンズは、パンフォーカス、クロスフィルター、ソフト
フィルター効果を切り替える事ができるという、使いように
よっては楽しいレンズである。

で、一般に、パンケーキ型、ボディキャップ型、トイレンズ型の
薄型レンズにおいては、AFは搭載困難、MFも操作性が困難であり、
結果、できるだけフォーカシング(ピント合わせ)において
合焦精度的な負担が起きない仕様として設計するのが望ましい。

すなわち、被写界深度が深い仕様とするべきであり、この実現
の為には、
1)焦点距離を短くする(=広角化)
2)口径比を小さくする(=開放F値が大きい、暗い)
レンズとする事が望ましい。

こうしたレンズであれば、AFでもMFでもピント合わせの負担は
減り、場合によっては、ほぼパンフォーカスとなる為、
近接撮影以外ではピントを合わせる必要も無い訳だ。

そうした、準固定焦点型の薄型レンズを以下に紹介しよう。
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レンズは、OLYMPUS BODY CAP LENS BCL-0980 9mm/f8
(新品購入価格 8,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)

2010年代のμ4/3(マイクロフォーサーズ)専用、
ボデイキャップ型MF対角線魚眼(風)レンズ。

(ハイコスパレンズ第5回記事等で紹介)

非常に薄型であり、安価でもあるので一見トイレンズに
思えるかも知れないが、思ったよりも本格的な魚眼描写が
得られる、コスパ評価の高いレンズである、
(注:本BCL-0980の画角は140°であり、本格的な
魚眼レンズとは言い難く、魚眼「風」レンズとしている)
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対角線魚眼レンズの場合、重要なのは、その撮影画角であり、
概ね160°~180°といった広視野(範囲)が写せる事が
対角線魚眼レンズとしての条件となる。その際の焦点距離は
あまり関係が無い(=一般レンズのように、焦点距離の数値が
小さい方が広角で広い範囲(画角)が写る、という訳では無い)

ただ、本レンズの場合は実焦点距離が9mmと短いし、かつ
μ4/3機の4/3型センサーは(フルサイズ機に比べ)小さい
ので、より被写界深度を稼ぐ(深くする)事が可能となる。

よって、本レンズでは、フォーカシング(ピント)レバーを、
∞(無限遠)よりも少し手前にあるパンフォーカス位置に
設定する(注:クリック・ストップが存在する)ようにして
おけば、通常撮影の殆どの場合に、ピント合わせの必要性が
無い。あえてこのレバーを動かすケースは、50cm以下の
近接撮影の状況のみである。
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ピント合わせの負担が皆無のレンズであるので、本来であれば、
母艦のAF/MF性能は無視できる。すなわちE-M5Ⅱのような
高性能機を使わずに、OLYMPUS PEN LiteシリーズやPanasonic
GFシリーズ等の、EVF非搭載型の軽量ボディとの組み合わせが
システム効率的な側面からは望ましい。
で、今回のような、カメラ側だけが高性能で高価な状態を
「オフサイド」(匠の写真用語辞典第16回記事)と、本ブログ
では呼んでいて、これを戒めるルール(持論)としている。

ただ、今回のケースではちょっとオフサイドは緩和している、
1つは、これまで本レンズの母艦としていた OLYMPUS E-PL2
(非EVF、初期オリンパスミラーレス機の名機、2011年)が
仕様老朽化寿命と、物理的老朽化による不調で、そろそろ
使用が困難になってきた事がある。
そしてもう1つの理由は、今回の記事においては、薄型レンズ
を使用する上での様々な得失を考察し、優れたシステムを
見出す(探し出す)事も目的となっているからだ。

具体的な後者の内容としては、E-M5Ⅱ LimitedとBCL-0980
の組み合わせのデザイン(外観)マッチングを確認する事と、

E-M5Ⅱの優れたエフェクト機能で、特殊な魚眼表現が可能に
なるのではなかろうか? という視点である。
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まあでも、魚眼レンズの撮影は本当に難しい。

毎回魚眼レンズの紹介記事で書いている事であるが、
画面中央部から周囲に放射線状に伸びる直線上に乗る被写体は
直線が歪む事なく写り、そうならない被写体部分は曲がって写る、
これを構図的にコントロールする事が、非常に高難易度な撮影
技法を要求される事となるからだ。

この特性を逆に利用し、魚眼レンズを「構図トレーニング」
の為の練習機材とする事も、私は良く行うようになった。

ビギナー層の知人などにも、この「魚眼トレーニング」を薦めた
事もあるのだが「上手く撮れました」という報告を全く聞かない。
まあ、難易度がとても高いので、そう簡単に出来るものでは無い、
5年や10年はかかっても不思議では無いであろう(汗)

そもそも、魚眼レンズを持ち出す機会というのが多くは無い。
魚眼レンズを所有している中上級層またはマニア層であっても、
その使用率(撮影枚数)は通常レンズに比べて、1%以下である
事は確実であり、よほどの「魚眼マニア/魚眼撮影専門家」で
なければ、それ以上の比率の魚眼撮影をする事は無いであろう。

そして、そのように「滅多に使わない」「使うのが難しい」
という魚眼レンズだから、いきなり本格的で高価な魚眼レンズ
(新品で5万円~15万円もする)を買うのは、あまり効率的な
買い物とは言えないであろう。

そういう(魚眼)写真を志向する意思があったとしても、
まずは魚眼コンバーターであるとか、又は本レンズのような
簡易版魚眼レンズであれば、安価であるので、魚眼撮影の
「お試し版」のような使用法が可能となる。
そして、もしかすると使用頻度とかの面から考えても、本レンズ
のような簡易版で十分であり、それ以上の本格派魚眼レンズは
「必要度」や「コスパ」が低いかも知れない訳だ。

具体的なコスパ計算の例を挙げれば、本ブログにおいては
レンズの減価償却ルールは特に設けてはいないのではあるが
仮にデジタルカメラと同様な「1枚3円の法則」を適用する
のであれば、15万円で購入した本格魚眼レンズは、5万枚の
撮影をこなさないと、アマチュア層では元を取ったとは言えない。
あるいは職業写真家層であれば、魚眼撮影で15万円以上の利益
を生み出す事が出来なければ、機材購入費が赤字となってしまう。
いずれも、正直いえば、誰にでも出来るような簡単な話ではなく
かなり困難なように思えてしまう。
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まあ、そんな場合、本レンズのような簡易版魚眼で、本格用途
を代替する(または試してみる)のも良い選択肢であると思う。
つまり薄型レンズにおける「価格の安さ」は、それはそれで
コスパメリットが大きい訳だ。
(逆に言えば、1990年代の「パンケーキブーム」の際に、
希少価値から相場高騰した薄型レンズを購入する事は、コスパ
メリットが極めて低く、推奨できない機材購入スタンスとなる)

---
さて、次は本記事ラストの薄型レンズ。
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レンズは、SONY E16mm/f2.8 (SEL16F28)
(中古購入価格 7,000円)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)

2010年発売のEマウント(APS-C)専用AF薄型広角レンズ。
(ハイコスパ名玉編第2回記事等で紹介)
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前記事「前編」でも少し紹介したが、初期ミラーレス機の
AF性能(貧弱なコントラストAFのみ)の課題を緩和する為、
SONY最初期のミラーレス機、NEX-3/5のキットレンズと
して採用されたレンズである。


「超小型なAPS-C機」を売りにした、NEX-3/5とのバランス
を意識し、薄型(パンケーキ)タイプとなっている。
AF性能は殆ど問題にならず、最短撮影距離付近での撮影以外
ではまず問題なくAFは合うし、いざとなればNEX/αに備わる
優秀なピーキング性能を頼りにMF撮影としても問題は無い。

でも結局、薄型レンズの弱点としては、「ピント合わせ」が
最大の課題となる事は、本記事の前編、後編を通じて説明して
きた通りである。


他の課題も再掲しておくが、薄型レンズ全般、すなわち
MFパンケーキ、AFパンケーキ、ボディキャップ、薄型トイ
レンズを通して、全般的に以下のような課題が存在する。


1)AF精度の低さ(得に近接撮影時)
2)MF操作性の悪さ
3)絞り環の操作性の悪さ(MFパンケーキの場合)
4)最短撮影距離が長い(焦点距離10倍則を満たさない)
5)開放F値が暗い(大口径化が出来ない)
6)描写力が優れない(解像力、各種収差補正等)
7)ボケ質が悪い(またはボケ質破綻回避が困難である)
8)焦点移動が出る(特にテッサー型の場合)
9)コスパが悪い(性能対価格比を厳密に評価した場合)

中には、これらの課題の多くを解消している薄型レンズも
存在してはいるが、全般的に、どれかいずれかの課題には
当たってしまう事であろう。


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そして、薄型レンズの長所は以下である

A)小型軽量であり、ハンドリング性能が高い
B)安価な場合がある(エントリー向けにも良い。上記弱点の
  コスパと矛盾しそうだが、ここでは単純にコストの話だ)
C)格好良い、またはファッショナブルであり、かつ、
  使用する母艦との組み合わせで、様々な外観イメージが
  楽しめる。あるいは目立つ(=珍しい)
D)練習用レンズとして使える場合がある(魚眼等)
E)特殊効果が得られる場合がある(魚眼、効果、収差等)
F)撮影時に被写体や周囲に威圧感を与えない
G)マニアック度が高い(または、所有満足感がある)

まあ、こんなところであろうか・・・

全体的な傾向からすれば、短所はほぼ全て、描写性能とか
撮影技法に係わるものであり、すなわち写真を撮る為の
道具としては、あまり適正な機材では無いという点だ。

逆に長所としては、外観や感覚的な格好良さが殆どであり
加えて安価な場合には、エントリーや教材レンズとしての
コスパメリットが出て来る事である。
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まあ、薄型レンズの得失の本質的な部分は、こんな所で
あろうか。ベテランのマニア層では、1990年代後半での
パンケーキブームの際の「投機的要素」による相場高騰が
悪印象として残っているかも知れないし、それから四半世紀
が過ぎた現代に至るまで、一部の中古専門店などでは、依然
レア(希少)なパンケーキに、プレミアム相場をつけている
事もあるのだが、まあ、ここは結局ユーザーの考え方(機材
の購入コンセプト、ポリシー)次第であろう。

個人的には、「レアなものを収集する」行為に関しては
それが美術品やら骨董品やらの実用性が無い分野については
その分野のマニア層の習性として、わからない話でもないが
カメラ・レンズやら、時計、万年筆、車やバイクなどの
実用品については、実用価値の無いものをただ単に収集する
事は、正しいマニア道では無いように思えてならない。
特に、カメラやレンズに関しては、「使ってナンボ」という
世界であろう、ただ単に機材を集めているだけで写真を撮らない
というのは、マニア道として正統とは、どうにも思えないのだ。

よって、パンケーキ(薄型レンズ)は、コレクターズアイテム
では決して無いと思う。まあ確かに一般レンズに比べて描写力
上の弱点はどうしても出てくる、小さい筐体に色々な部品や
機能や性能を閉じ込めることは、技術的にも困難であるからだ。
だが、だから(=描写力が低いから)実用価値が無い、とも
言い切れない部分もあるだろう、そこが写真というジャンルが
実用的に映像を記録するという要素の他にも、趣味的、又は
アート的(表現的)、エンジョイ的、な用途がある、という
部分にも関係が出てくる。

まあ、カメラやレンズ機材においては、楽しく使えるのであれば
それで良いし、あるいは、楽しく使えるための要素を探し出して
使えば、なお良い訳だ。
なにも機材の弱点ばかりを気にして、ストレスを溜めていたら
何のための「趣味」なのかわからない。
そういう考えは精神衛生上でも良く無いし、そしてさらに上級の
レベルを目指そうとするならば、機材の欠点など全て承知の上で
それを回避して使う様々な、条件、技法、用途等を探していけば
良い訳だ、それがむしろ本来の「マニア道」なのではなかろうか
と常々思っている。
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薄型(軽量)レンズ特集記事の総括であるが、
これらのレンズ群は、それぞれ長所短所を抱えている。
だから、その性能限界を良く見極めて使用する事が必須であり
かつ長所も良く理解し、それを活かして使う事が望ましい。

全体的に機種数が少なく、かつレアなものが多いが、銀塩時代
の特に希少なレンズでは無い限り、現行品かそれに近いものも
多く、中古相場も、せいぜい1万円強程度までで購入できる
安価なものが多い。
マニアであれば、いずれかの、いや、複数の薄型レンズは
所有してくべきであろう、そしてその得失を、自分なりに良く
研究して理解しておくのが望ましいと思う。

マニア層に限らず初級中級層にも推奨できなくは無いのだが、
恐らく、その層では、薄型(軽量)レンズの弱点ばかりが
目についてしまうかもしれない。弱点ばかり気にしてしまう
事は、前述のようにストレスになるので、そういう場合には
薄型レンズの何処が(何が)優れているのかを探していくのが
良いと思う、それを研究(実践し、分析する)する事自体が
良い勉強になるだろうと思うからだ。

いずれにしても、薄型レンズはコレクターズアイテムという
訳では無い。どんなに珍しくても、性能が低いレンズで高価で
あればコスパは悪すぎるので、誰も欲しがらなくなれば、必ず
中古相場は下落する、よって、投機的な要素を持つ機材には
本来成り得ないものであった訳だ。1990年代後半の相場高騰は
あくまで「バブル状態」に過ぎず、実質的には、さほど価値の
高い類のレンズには成り得ないものである。

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さて、今回の記事は、このあたり迄とし、次回記事に続く。

最強50mmレンズ選手権(10) 予選Jブロック AF50mm相当

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所有している一眼レフ等用の50mm標準レンズを、
AF/MFや開放F値等による区分でのカテゴリー別で
予選を行い、最後に決勝で最強の50mmレンズを
決定する、という趣旨のシリーズ記事。

今回は、予選Jブロックとして「AF50mm相当」の
レンズを4本紹介(対戦)する。

なお、「50mm相当」とは、非フルサイズ対応レンズで
換算画角が50mm近辺となるレンズ、すなわち
APS-C機用専用レンズでは焦点距離が32~35mm程度、
μ4/3機用専用レンズでは焦点距離が25mm前後
のものを指す。

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さて、まずは今回最初のレンズ。
_c0032138_12580013.jpg
レンズ名:NIKON AF-S DX NIKKOR 35mm/f1.8G
レンズ購入価格:18,000円(中古)(以下、DX35/1.8)
使用カメラ:NIKON D300(APS-C機)

レンズ・マニアックス第1回記事等で紹介の、
2009年発売の、DXフォーマット(APS-C)機専用、
AF準広角レンズ。

準広角の焦点距離であるが、DX機専用なので52.5mm
相当となる標準画角レンズである。
_c0032138_12580005.jpg
本レンズをニコン・フルサイズ一眼レフで使う場合、
撮影範囲をDX(APS-C)にクロップする事を自動で行える。
その場合は、光学ファインダーの視野が狭くなる事と、
記録画素数が大幅に減る事は注意する必要がある。
(例えば、中間サイズMの画素数で撮っていたら、
クロップ操作とともに、大画素設定に変更する、等。
ただこれも、あくまで用途によりけりであり、WEB掲載用
等であれば小画素での撮影でも全く余裕だ。趣味撮影でも
大伸ばしをしなければ小~中画素設定でも十分だろう。
しかし業務用途撮影であれば、納品時の必要画素数を
必ず意識する必要がある)

G型対応マウントアダプター等を用いてミラーレス機に
装着する場合は、APS-C機以下のセンサーサイズであれば
そのまま、またはフルサイズ機の場合は手動でAPS-C範囲
撮影、等を選択すれば良い(ここも画素数減少に要注意)

ただし、EOSフルサイズ機では、APS-Cにクロップ出来ない
場合が殆ど(注:EOS 5DR系機種等では可)だと思うので、
その場合には、トリミングして使うしか無いのだが、
そもそも、本レンズは絞り環の無いG型レンズであるから、
Ai(F)→EOS(EF)型のマウントアダプター(一般的には
薄型である)では対応しずらいであろう。
(参考:EFマウントでのAPS-C専用純正レンズEF-S型は、
EOSフルサイズ一眼には装着できない仕様となっている)

ミラーレス機で使う場合においても、絞り制御レバーを
手動で絞り込む操作を機械的に行える「ニコンG型対応
アダプター」あるいは(高価な)電子アダプターを
使うしか無い。

なお、本レンズ以降の時代での、電磁絞り対応(E型)
レンズでは、絞り制御レバーが存在しないので、
「機械式G型対応アダプター」では対応が出来ない。

色々と制約が面倒なので、本レンズ等は、シンプルに
ニコン機(デジタル一眼レフ)で使うのが簡便だ。

さて、ニコンのDX型番のレンズだが、意外に登場が
遅く、魚眼レンズを除き、本レンズが最初(2009年)
であったと思う。
それより10年前、1999年頃から、既にニコンでは
デジタル一眼レフ(D1)を発売し、その後のラインナップ
も、殆どがDX(APS-C)機であったにも係わらずだ。

そして既に2007年にはD3、2008年にはD700といった
FX(フルサイズ)機が発売されていた位なので、一層
今更のDX専用レンズの新登場が不思議に思えたのだが、
これの理由はまあ、以前の記事でも書いたのであるが、
この時代から各社で始まった「エントリーレンズ」戦略
にも関連が強いかも知れない。

すなわち、本レンズDX35/1.8の発売前年の2008年には
初のミラーレス機、Panasonic DMC-G1が発売され、
スマートフォンであるiPhoneも、初代は米国で2007年に
発売済み、2008年にはiPhone 3Gが国内発売されている。

これらの「一眼レフ以外の撮影機器」の状況を見れば
近い将来に、一眼レフ市場を食い荒らす脅威になると
この時点においては予想されるだろう。

一眼レフ陣営も、早急な対策に迫られていたのであろう。
勿論、一眼レフをフルサイズ化し、かつ安価にすれば、
センサーサイズの圧倒的な差で、スマホやミラーレス機
との差別化は可能だ。だが、この2000年代末期では、
まだフルサイズセンサーは高価であり、それを搭載する
機体も高価にならざるを得ない。
(参考:CANONにおいては自社製CMOSフルサイズセンサー
を使用でき、2002年のEOS-1Dsや2005年のEOS 5Dと、
既にフルサイズ機を多数ラインナップしていて、それが
市場競争力の原点となっていた)

その後、一眼レフ陣営のフルサイズ機の普及化戦略が
実現されるのは本レンズの発売3年後の2012年であり、
その時点であっても、依然フルサイズ機は割高である
事には変わりが無かった。
_c0032138_12580143.jpg
・・で、しばらくの間、フルサイズ機でミラーレス機や
スマホに対抗できないのであれば、この時代(2009年~
2012年頃)の一眼レフ陣営各社が考えた市場戦略として、
「エントリーレンズ」の発売がある。

これは、「交換レンズのお試し版」であり、いままで
大多数の一眼レフ初級ユーザー層が購入を躊躇っていた
(価格が高い、どのレンズを買っていいか分からない為)
「交換レンズ」を、安価で身近な価格帯で提供し、初級層
に、レンズ交換の楽しさや、その高性能を味わってもらい、
以降、より高級な交換レンズの販売促進に繋げるとともに、
ユーザーが多数の交換レンズを所有する事で、自社の
一眼レフユーザーとして固定化し(=囲い込み戦略)
他社機や、他の撮影機器への乗り換えを防ぐ措置である。

しかし、単に低価格であるだけで、性能の低いレンズを
販売したら、恐らく初級ユーザー層は「こんなものか」と
がっかりして、次の交換レンズを買ってくれない。

だから、多くの「エントリーレンズ」には、価格帯からは
想像できない水準の高性能(高仕様)を与える事も普通だ。
よって、殆どの「エントリーレンズ」は、消費者側から
見れば、極めてコスパの良いレンズとなる。
まあ、メーカーから見れば「赤字覚悟」ではあろうが、
次に交換レンズや新型一眼レフを買って貰えれば十分だ、

こうした「損して得とれ」的な市場戦略は既に1990年代
初頭のバブル経済崩壊後に、様々な市場において発生
していた事だし、カメラ界においても、デジタル機に
切り替わる直前の1990年代末~2000年代初頭にかけ、
各メーカーの様々な初級銀塩一眼レフに、信じられない
程の高機能を搭載し「デジタルに切り替わっても、自社の
一眼レフを使ってもらう」という普及(囲い込み)戦略を
取った事がある(代表例:MINOLTA α-SweetⅡ 2001年,
銀塩一眼レフ・クラッシックス第27回記事参照)
もっとも、この時期は運悪く第一次中古カメラブームに
ぶつかっていて、この時期の多くのユーザー層は、古い
MF機等に価値を求めていて、新規の初級AF機などには、
あまり見向きをしなかった、という状況であったが・・

さて、という事で本DX35/1.8もエントリーレンズの
一種である、発売が遅かった理由もそれで説明できる。

で、本レンズはDX(APS-C機)専用という使用制限を
かけて付加価値をあえて抑え、その分、低価格で売れる
(安く売っても良い)というコンセプトであろう。
事実、本DX35/1.8は、超音波モーター搭載等、レンズ
の性能的には上位レンズとの差異は殆ど無い、
ただ単に「フルサイズでは使えません」という点だけだ、
それでいて、定価35000円は安価であり、ニコンにしては
珍しく大盤振る舞いの印象もある。
(ニコンは基本的に高付加価値型商品を売るメーカーである
=低価格帯の商品を売る事を嫌う戦略だ、とも言い換えれる)

後年、2010年代中頃までは、本レンズの中古相場は結構
高価であった時期が続いたのだが・・
(注:ニコンレンズの中古相場は、定価の6割が通例と
なっていて、その計算式では、21000円が通常相場だ)
その後、ニコンフルサイズ機が、ようやくユーザー層に
普及した2010年代後半からは、本レンズの中古相場も
下落し、1万円台前半から入手可能となってきている。

なお、2012年以降に各社のエントリーレンズの新発売が
減ったのは、各社ともフルサイズ機による高付加価値化戦略に
移行したからであって、フルサイズ機を買って貰いたいのに
APS-C機用レンズを売っていたら、戦略的に矛盾するからだ。
_c0032138_12580112.jpg
総括として、本DX35/1.8は、描写力やMF操作性の面で、
細かい課題がいくつか存在するレンズではあるが、
それらは重欠点ではなく、総合的には、コスパはかなり
良いレンズと見なす事が出来る。
特に、全体に高価で中古相場も高いニコンレンズの中では
相場が下落した現在においては、相当にお買い得感が強い
レンズであり、DX機のみならずニコン・フルサイズ機で
あっても、クロップして使えば何ら問題無い為、
フルサイズ機ユーザー層にもお勧めだ。

以下は完全に余談だが、先日、ニコンAPS-C機(DX機)を
使っている知人(初級者の中年女性)から、
「フルサイズ用のレンズが欲しいのですが(自分の)DX機
には使えないと、周囲の(シニアの)人達に言われました、
フルサイズ機はどれも高いのですが、どれがオススメですか?」
と聞かれて、びっくり仰天してしまった。

勿論、FX(フルサイズ)用レンズは、DX機で何も問題なく
使える。ニコンユーザーは初級層が極めて多く、シニア層
もまた多く、デジタルに関する知識レベルが、とても低い
事は”言わずもがな”の状況であるのだが、それにしても
”FXレンズを使うにはFXの機体でなくてはならない”
という大誤解は、あまりに酷すぎないであろうか?

勿論、FXレンズをDX機に装着は可能であるし、その逆に
本レンズのようなDXレンズをFX機に装着しても、クロップ
されるだけで、何ら問題なく使える。 

ちなみに、その初級者中年女性は「クロップすると
画素数が減って画質が落ちるから、してはならない」とも
周囲のシニアの人達に言われたようで、
「もう、そう言う、わかったような間違いを平気で言う
 人達の話は聞かないようにしてください」と伝えておいた。

勿論、必要画素数は利用者の閲覧用途環境に応じて
決定される。小さい(解像度の低い)画面で写真を見たり、
小さいサイズでのプリントでは、さほどの高画素(解像度)
は必要とされない等は前述の通りだ。

もう、そんな事は、現代では言わずもがなの常識であろう。
もっとも2000年代では、皆フィルムカメラから持ち替えた
ばかりで、そうした基本的なデジタルの原理すらわかって
いないユーザーが、世の中の大多数であったが・・

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では、次のレンズ。
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レンズ名: PANASONIC G25mm/f1.7 (H-H025M)
レンズ購入価格:14,000円(新古品)
使用カメラ:PANASONIC LUMIX DMC-G6(μ4/3機)

ミラーレス・マニアックス補足編第3回記事で紹介の、
2010年代のμ4/3専用AFレンズ。(以下G25/1.7)
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このレンズには、後にDC-GF9のキットレンズとなった
後継型が存在し、デザインの古い旧型(本レンズ)は
新古品(新品在庫品)が、DC-GF9の発売直前に中古市場
に安価に多数流通した為、その時に入手した物だ。

(注:PANAのミラーレス機は、旧来はDMC型番であった
(DMC-G6等)これは、デジタル・メディア・カメラの
略語とも思われるが、GF9の時代から、何故か「DC型番」
に改められている。その理由は良くわからないが、3文字で
あるので識別可能性が出て、商標類似等の問題だろうか?)

さて、本G25/1.7であるが、いくつかの理由で個人的には
あまり好きなレンズでは無い。だが、コスパの評価点は
そこそこ高く、その為、ハイコスパレンズ・マニアックス
の第4回記事でも取り上げている。

嫌いな理由は、1つは、このレンズだけの弱点では
無いのだが、μ4/3機等のミラーレス機の純正AFレンズの
殆どは無限回転式のピントリングであり、これはAF/MF
をシームレスに切り替える機能を実現する為のものだが、
反面、旧来の有限回転式のピントリングを持つAF/MF
レンズと比較して、MF時の操作性が圧倒的に劣る。

この「MF性能」という視点からは、殆どの無限回転式の
ミラーレス機用(一部、近年の一眼レフ用も)のレンズは
「失格」という評価になってしまう。
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何故こうした仕様のレンズが広まってきているのか?は、
想像だが「AF/MFのシームレス切り替えが出来れば良い」
という見かけ上のメリットを得る事のみに終始していて、
メーカー等の設計側(開発側)でも、MF使用時の高度な
撮影技法を理解または認識していないのではなかろうか?
と思われる。

初の実用的AF一眼レフMINOLTA α-7000(1985年)が
登場してから、本レンズの時代では、既に30年が経過、
その間、AF一眼レフやデジタル一眼レフのAF性能は進化が
続き、今やほぼ全ての、初級から上級までのユーザー層が
AFを使って写真を撮る時代だ。勿論メーカーでの開発側も
同様であり、若手のエンジニアであれば、MF撮影技法等を
良く知らないどころか、やった事すら無いかも知れない。
だから「AFが上手く合わない時に、MFに切り替われば良い」
程度の甘い認識しか持っていない可能性も極めて高い。

だが、マニア層は違う、ミラーレス時代に入ったら
「得たりやおう」(=都合が良い、しめしめ)とばかり
オールドレンズを持ち出してMFで撮る、それが日常だ。
マニア層等におけるMF撮影のスキル(技能)は、どんどん
と高まり、低性能のAFで撮るより、よほど効率的な撮影が
出来るようになって来るだろう。



ミラーレス機のAF性能には最初から期待していない。
初期のミラーレス機のAF性能は、目も当てられない程
酷かったからだ、それはマニアあるいは中上級者ならば
誰でも知っている事実だ。

その後、いくらミラーレス機のAF性能が日々進化して
いたとしても、マニア的観点からは「AFを使うならば、
高性能の一眼レフを持ち出せば済む」という方向になる。
だって、その方がずっと快適に撮影できるからだ。

あるいはミラーレス機のAFが進化したら、その技術革新を
一眼レフにも一部取り入れれば、また一眼レフも進化する
(例:CANONの「デュアルピクセルCMOS AF」技術等)
よって、ミラーレス機独自の方法論を考え出さない限りは、
いつまでたっても一眼とミラーレスのAF性能の差は縮まらない。

で、中上級層やマニア層は、ミラーレス機のAF性能では
我慢できないから、必然的にMFに切り替えて使うケースが
多くなる。この時に、いくらAFからMFへシームレスに移行
できると言っても、無限回転式のピントリングでは
高度なMF操作技法を行う上では、お話にもならないのだ。
この詳細は他の様々な記事でも書いてきたので、今回は
これ以上は割愛するが、ともかくNGなものはNGだ。
_c0032138_12581137.jpg
さて、本レンズの固有の弱点では、フードの装着方法が
面倒であったり、デザインが野暮ったく、高級感(所有
満足度)が殆ど無い事がある(しかし、その分軽量だ)

まあ、描写性能的には、あまり問題が無く、むしろ
良く写る類のレンズだ(それ故に、コスパ評価も高い)
しかし、ビギナー向け要素が強すぎ、マニアック度が
欠片も無い事が、マニア的視点からの本レンズの弱点と
なっている。

ミラーレス機でAFのみで撮る初級層には、単焦点レンズの
楽しさや性能を知る、という点で、かなり推奨できるが、
既に単焦点のMFレンズを保有し、十分に使いこなせる中上級者
又はマニア層には、まったくお勧めできないレンズである。

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では、次のレンズ。
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レンズ名:SONY DT 35mm/f1.8 SAM(SAL35F18)
レンズ購入価格:12,000円(中古)
使用カメラ:SONY α77Ⅱ(APS-C機)

ハイコスパレンズ第10回記事等、複数回紹介の
2010年代のAF大口径単焦点準広角レンズ。

DT型番(Digital Typeの略だと聞く)である本レンズ
は、APS-C機専用なので、換算画角は52.5mm相当と
これも標準画角(相当)となる。
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典型的な「エントリーレンズ」であり、高性能で
コスパが極めて高い。この為、過去記事のミラーレス・
マニアックス名玉編では第14位にランクインした逸品だ。


現代では、SONYはEマウントのミラーレス機に主軸を
移し、縮退しているAマウント用で、しかも時代遅れの
印象すらあるAPS-C機専用レンズだ。
本DT35/1.8の中古相場は、私の購入時点よりさらに下落し、
現在では1万円以下と、その本来の性能からすると、異常
とも言える程に安価で、極めてコスパが良くなってきている。


DT35/1.8は、本ブログでは何度も紹介しているレンズで
あるので、今回はごく簡単に特徴を述べておくが・・

まず、最短撮影距離23cmは、35mmの焦点距離のAFレンズ
ではマクロを除いて当時第1位の性能であり、後年にTAMRON
SP35mm/f1.8(2015年、レンズマニアックス第13回)が、
最短20cmで記録を更新するまで本DT35/1.8の独壇場であった。
(注:オールドレンズと、マイナーな海外製35mmレンズで、
最短18cmのMFレンズがあるが、あまり一般的では無い)
_c0032138_12583791.jpg
さて、以下は余談(悪い評価の手法)だが・・

TAMRON SP35/1.8はフルサイズ対応レンズである。
フルサイズ機で使用時の被写界深度の浅さ(ボケ量)は
SP35/1.8が、本DT35/1.8を上回るのだが、撮影倍率は
APS-C機で使用時の本DT35/1.8とほぼ同等になる。

そして、αフタケタAPS-C機には、デジタルテレコン機能が
搭載されているので、簡便に、さらに最大2倍まで見かけ上
の撮影倍率を高める事が可能だ。

本DT35/1.8の仕様上の撮影倍率は1/4倍であるが
αフタケタAPS-C機でフルサイズ換算時、かつデジタル
テレコン2倍時では最大3/4倍(0,75倍)にまで達し、
フルサイズで使用時のSP35/1.8の0.4倍を遥かに上回る。
ただしSP35/1.8でも、SONYマウント版を入手し、それを
αフタケタAPS-C機で使えば、同様に最大1.2倍にまで撮影
倍率を高められる・・

・・とまあ、こんな調子で、デジタルでは、なんとでも撮影
倍率を変えれるし、そもそも、こういうカタログスペック上
での「数字の遊び」は、ほとんど評価としての情報価値が
無い、という結論にも繋がる。

上記の「スペック数字遊び」は、その悪い例の評価手法だ。
こんな類の内容であれば、仮にそのレンズ(機材)を
所有していなくても、スペックを見るだけで、いくらでも
レビュー記事等が書けてしまう、そうした、頭でっかちな
評論家的スタンスは、全く好ましく無い。
レンズ等の機材は、実際に徹底的に使いこんでみないと、
絶対に、その真の性能は分からないのだ。
_c0032138_12583703.jpg
・・さて、余談が長くなった、本DT35/1.8の特徴に戻る。
小型軽量であり、エントリーレンズながら、ちゃんと有限の
ピントリングでMF操作性も及第点であり、アダプターでの
ミラーレス機での使用にも耐えられる。
まあでも、αフタケタ機の一眼レフは、ミラーレス機と
同様の構造なので、それを所有しているのであれば
何ら問題は無い、まあ、どちらでもお好みで。

弱点は安っぽい作りで高級感が無く、描写力もスペシャル
という訳ではなく、普通に良く写る、ありふれたレンズ
(でしか無い)という点だ。(注:銀塩時代の小口径
標準レンズの、スケールダウン版ジェネリック設計で
ある可能性も高い。まあつまり「定番の光学系」だ)

しかし、弱点を帳消しに出来る程の高コスパレンズで
ある事は間違いなく、コスパを重視した評価のシリーズ
記事「ハイコスパ名玉編」では、300本以上の所有レンズ中、
堂々の第2位となった優秀なレンズでもある。

あれこれ言わずに、買ってしまう事がオススメのレンズだ、
本レンズであれば、間違いなく本シリーズの「決勝リーグ」
に進出確実であろう。

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では、今回ラストのレンズ。
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レンズ名:Carl Zeiss Touit 32mm/f1.8
レンズ購入価格:54,000円(中古)
使用カメラ:FUJIFILM X-E1(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス名玉編第2回記事等で紹介の、
2010年代のミラーレス(EマウントAPS-C機、および
Xマウント用)専用、AF準広角(標準画角)レンズ。
Touitは、「トゥイート」or「ツイート」と読む。

_c0032138_12585290.jpg
高価な本レンズであるが、ミラーレス名玉編において、
第12位相当と、前出の、名玉確実の高コスパのDT35/1.8
(第14位)より何故高い順位なのか?と言えば、実は両者の
得点は平均4.1と全く同点であり、他にも同得点のレンズ
が何本かあって、細かい順位はどうでも良い状況だった。
本レンズは、コスパこそ、あまり高得点では無いが、
他の「マニアック度」や「必要度」の評価が高いレンズで
あったから、便宜上で高順位に上げただけである。

その「必要度」という視点からすれば、今回使用のX-E1
(2012年)は、FUJIFILM最初期のミラーレス機であり、
AF・MF性能共に致命的な弱点を持つカメラであるが、
後年の像面位相差AF搭載の、例えばX-T1(2014年)を
持ち出す必要も無く、本Touit 32/1.8であれば、
X-E1でも、なんとか実用的に使えてしまうからだ。

その1つの理由としては、カールツァイス製レンズ
(注:実際の製造工場は非公開、OEM品である可能性も大)
としては珍しくAF仕様である事で、しかも、そこそこ
AF性能も良く、AF・MF性能共に貧弱なX-E1で使っても
ストレスを感じる事が少なかった状況だ。

この為、本レンズの存在により、X-E1購入時には、とうてい
達成不能だと思った(AFもMFもNGだからだ)持論の減価
償却のルール(1枚2円の法則)を早々にクリアでき、
後継として、X-T1を無事購入できる運びになった訳だ。

(注:前機種を減価償却する(使いきる)迄は、次機種に
安直には手を出してはいけない、というルールである)

X-T1に本Touit 32/1.8を装着すれば、さらに快適に使用
が出来るのだが、マニア的思考法の1つのパターンから
すれば、X-E1の弱点を相殺できるのであれば、本レンズは
X-E1で使うのがベターだ。

AF性能が向上されたX-T1には、さらにAF性能が酷いレンズ
(例:FUJIFILM XF56/1.2R APD)等を使用して、
レンズの弱点を補完する事が、適切な利用法である。

(このように、「マニア道」としては、常に最適となる
システム性を考慮する事が非常に重要だ→この考え方を
「弱点相殺型システム」(を組む)と呼んでいる)

本レンズはAPS-C機専用である為、その後、フルサイズが
基本となったSONY Eマウント版は不人気である。
発売期間が短い、あるいは販売数が少ない可能性もあり
中古市場では、やや入手しにくくなってしまうかも知れない。
(また、ツァイス銘であるが故に、相場が下がり難い)
_c0032138_12585618.jpg
1つだけ重要なポイントであるが、高価なCarl Zeiss製
レンズであるからと言って、高性能である根拠はまるで
無い。特に本レンズは逆光耐性が低く、ボケ質破綻も発生
しやすい為、ちゃんとした写りを得る為には、かなりの
高度な撮影技法が要求される。初級中級層や初級マニア層
では本レンズの性能を十分に発揮できない可能性も高い為
「ツァイスだから良く写る」と安直に購入する事は決して
推奨できない、いや、むしろ価格の高さから考えれば
初級層等では買う必要性の少ない(買ってはならない)
レンズであるとも言えるかも知れない。

なにせ前述のSONY DT35/1.8、あるいは冒頭のNIKON
DX35/1.8は、本レンズとほぼ同等の描写性能で、かつ、
一部には本レンズを上回る仕様(DT35/1.8の近接性能、
DX35/1.8の超音波モーター等)を持ちながらも、
DT35/1.8は、本レンズの1/5以下の中古相場、
やや高価なDX35/1.8ですら、およそ1/4の相場なのだ、
コスパの観点からすれば、本レンズはライバルの同等
仕様の他社レンズに比べると、あまりに高価すぎる。
(勿論、本Touit 32/1.8は、それらのエントリーレンズ
とは異なる正統派のレンズで、仕上げもさほど悪く無いが
それでも、この個体ではゴム製のピントリングの滑り止め
接着が緩んできて、補修に難儀した。そういう意味では
必ずしも”作りが良い”とも言い切れない)
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でも、まあ、世間一般にも知られる高級ブランドの
「Carl Zeiss」を保有する事、あるいは悪い言い方を
すれば、”それを保有している事を自慢する”といった
「所有満足度」は高いレンズではあると思うが、
あくまで、レンズとは実用的に写真を撮る為の道具でしか
無い、そういう視点で本レンズの真の性能をちゃんと
評価できる絶対的価値感覚を持たなければならない。
くれぐれも「ツァイスだから良く写る」といった安直な
誤解や評価をしてはならない事は、何度でも繰り返し
述べておく。

ちなみに、この傾向は、これは銀塩MF時代の(京セラ)
CONTAXレンズではさらに顕著となる。ツァイスとは言え
さすがに40年以上も前の古いレンズだ、設計技法なども
コンピューター・シミュレーション等で、高度に進化して
いる現代の新鋭レンズに勝てる道理が無い。

---
さて、ここまでで「最強50mmレンズ選手権」における
予選Jブロック「AF50mm相当」の記事は終了だ。

次回の本シリーズ記事は、予選Kブロック
「50mm相当AFマクロ(APS-C機専用等)」となる予定だ。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(28)魚眼レンズ

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本シリーズでは、所有しているやや特殊な交換レンズ
をカテゴリー別に紹介している。

今回の記事では、魚眼(Fish Eye)レンズを5本紹介
しよう。

なお、魚眼レンズには「対角線魚眼」と「円周魚眼」が
あるが、本記事では、ほとんどが「対角線魚眼」である。
また、本格的な魚眼レンズは高価である場合が多く、
本記事では「魚眼風」等と呼ばれる「トイレンズ」相当
の製品も適宜混ぜて紹介する。
その理由は、魚眼レンズは特殊な仕様の製品である為、
個人的には実用的な用途が極めて少なく、本格的な魚眼
レンズはコスパの観点からは買い難い製品であるからだ。

それと、各社での魚眼レンズの表記法は、Fish-Eye、
Fisheye、Fish eye、Fish-eye、Fish Eye、そして、
それらの大文字表記等、かなり、まちまちである。
一応、レンズ上に記載されている記述で紹介するが
各社Webページ等の情報でも、実際のレンズ上の記載
とは異なる場合すらある。

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まず最初の魚眼システム
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レンズは、PENTAX Fish-Eye-Takumar 17mm/f4
(中古購入価格 30,000円)(以下 Takumar17/4)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)

1960年前後のMF魚眼レンズ。元々はM42版だ。
同仕様の後継型レンズ(SMC等)では、レンズ上の表記が、
「FISH-EYE-TAKUMAR」と、全て大文字となっている。

PENTAX M42マウントからNIKON Fマウントへの改造品
である。 何故こういうレンズがあるか? と言えば、
1960年代から1970年代において、ニコン機、例えば
NIKON FやNIKON F2で魚眼レンズを使いたくても
ニコン純正では、適切な製品が無かったからだ、と
思われる。具体的にはFisheye-NIKKOR 16mm/3.5
は1973年の発売であり、これはNIKON F2の発売年

よりも、さらに遅い。

よって、報道系やアート系等での職業写真家層や、
ハイアマチュア層が「こぞってPENTAXの魚眼レンズを
ニコンFマウントに改造して、FやF2で使ったのだ」と
いう状況であったと聞き及んでいる。(注:恐らくは
報道系等からの要望で、多数のTakumar魚眼のFマウント
改造を行った業者等が居たのだろう)

後年には勿論NIKON純正の魚眼レンズも入手が容易となった
為、不要になったこれら改造品が中古市場に流通していた。
私が入手したのは、1990年代の中古カメラブームの頃で
あったが、市場では「レアもの」扱いで、若干高く買って
しまった(汗)まあ、価値としては1万円以下が妥当だ。
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そして、ニコンFマウントへの改造品は、ただ物理的に
ニコン機に嵌るだけであり、Ai機構にも対応していない為、
現代ニコン機の中では、最もオールドレンズ互換性の高い
NIKON Dfを持ってしても、少々使い難い。

具体的には、Dfでは非Aiレンズ側の絞りを廻した際、
その数値に合わせて、本体側の電子ダイアルでも同じ
絞り値に設定しないと、正しい露出値が得られない。

これは非効率的な「二重操作」になる事に加え、電子
ダイヤルは「常に1/3段絞りステップ」なので壊滅的だ。
(両者が1段刻みであれば、手指の感触だけで操作可能だが、
そうで無いので、指操作の回数の暗黙の同期が取れない。
これだと、一々絞り環と設定絞り値を都度確認しないと
使えない。これは「設計ミス」に等しい劣悪な操作系だ、
電子ダイヤルのステップ幅を可変できるだけで良かった)

勿論、ミラーレス機や他社一眼レフで使った場合には
実絞り測光となり、この問題は発生しないので、遥かに
容易に使えるのだが、今回はあえて、本レンズの時代
背景を意識して、ニコン機で使いたいと思い、この
自虐的(笑)な使用法で用いている。

さて、一応ちゃんとした(本格的)魚眼レンズなのだが、
描写力はかなり低い。まあ基本設計が、およそ60年前の
1950年代後半のレンズだと思え、時代の古さを鑑みると
やむを得ない節がある。

そういう意味でも、このLo-Fi描写は、ミラーレス機での
エフェクト機能と組み合わせて、「個性的な表現」と
してしまえば良いのだろうが、幸いにしてNIKON Dfにも
若干ながらエフェクトが搭載されている。

ニコン高級機では、エフェクト機能が省略されている
場合が多いが(注:中級機以下には搭載されている)
それを省略してしまう理由がわからない。
恐らくは、高級機のターゲットユーザー層がシニア層など
極めて保守的な層である事が主な理由だと思われるが、
そうであっても納得が行く話では無い。

まあ、NIKON Dfは、色々と重欠点を持つ機体ではあるが
(デジタル一眼レフ・クラッシックス記事過去最低評価点)
その点(エフェクト搭載)においては、かろうじて
及第点だ。(注:今回はエフェクトは使わず、ピクチャー
コントロール機能だけの利用に留めておく)
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さて、いまさら本魚眼レンズを入手したいと思うマニアも
居ない事であろう。私が、所有をし続けている理由は、
あくまで、「この時代、ニコンマウントへの改造が
多く行われた」という歴史的事実の証人であるが故の事で、
その歴史的価値を鑑みての理由だけだ。

なお、「希少品」という事で、やや高価に買ってしまった
ことは大きな反省点だ。機材は、希少価値で買うもの
ではなく、あくまで実用価値からコスパを判断する事が
必須であると思う。

特に、魚眼レンズの場合は、専門的な撮影ジャンル
(例:気象観測で雲量を測る等)以外の場合は、趣味撮影
等において、あまり用途は無いであろうから、撮影枚数は
あまり増えないと思われる。まあ、だからこそ、あまりに
高価な本格的魚眼レンズを購入してしまうと、必然的に
コスパは極めて悪くなってしまうのだ。

私の場合、交換レンズでの減価償却(=元を取る)ルール
は特に設けていないが、もしデジタルカメラ同様に
「1枚3円の法則」を適用するのであれば、本レンズは
3万円での購入なので、1万枚撮らなくてはならない。
すでに長期間使用はしているが、本レンズの総撮影枚数は、
とても1万枚には到達できていない事であろう・・
やはり、どう見てもコスパが悪かった(汗)

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では、次のシステム
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レンズは、Lomography Experimental Lens Kit
Fisheye Lens 160° F8
(新品購入価格 3,000円相当)(以下、LOMO Fisheye)
カメラは、OLYMPUS PEN Lite E-PL2(μ4/3機)

2010年代に発売のμ4/3機専用のレンズ3本セットの中の
1本の魚眼タイプであり、典型的な「TOY魚眼」である。
3本セットで約9,000円の新品購入だったので、本レンズ
は3,000円相当としておく(なお、近年では在庫品処分
により新品価格も下落している/していた。→在庫僅少)
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160度の画角で、円周魚眼風の画像が得られるが、
対角線魚眼っぽい要素もあり何だか良くわからない(笑)
この手のトイレンズの場合、高描写力を期待するのは
筋違いであり、むしろ逆に、徹底的に低描写力
(すなわち Lo-Fi)である事を期待するのが良い。

トイレンズの表現力としての「Lo-Fi」の必要性について
は、本ブログでは何度も何度も説明してきているので
(例:匠の写真用語辞典第5回記事等参照)
今回の記事では割愛する。

Lo-Fi等の必要性が理解できない、または賛同できない
消費者層の場合、いくら安価だからと言ってトイレンズ
を購入する意味は無い。満足できずに、あるいは用途が
わからずに、無駄な出費になるだろうからだ。

まあ、現代では、スマホ等でのエフェクト使用も普通
である時代になって来ているので、こうした思想の
必要性への理解も上がってきているだろう。しかし
たとえスマホでそれを使用する同じユーザーであっても
一眼レフ等のHi-Fi機材を手にしたら「あくまで高画質の
写真を撮らなければならない」という固定観念に縛られて
しまう恐れもある。まあ、その目的(Hi-Fi写真を撮る)
の為に、高価な高性能撮影機材を買い、かつ、様々な
練習等で撮影技能や経験値を上げているのだろうから、
やむを得ない節もあるが、たまには異なる方向を向いて
見るのも良いのではなかろうか・・
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さて、という事で、本LOMO Fisheyeに関しての
一般的な視点での評価は、まったく行う事が出来ない。
Lo-Fi描写を期待するならば、むしろ、写りが悪い事が
価値であるのだが、そう単純なものでも無いであろう。

まあ、あれこれと考える前に、トイレンズ等は、たとえ
Hi-Fi志向のマニア層やハイアマチュア層、ベテラン層
であっても、「それがどういう物か」は、必ず知って
おかなければならない機材分野であると思う。

本レンズに関しては、長所短所を評価する類のものでも
無いので、まあ、一応の参考まで。

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では、3本目の魚眼システム
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レンズは、PENTAX Q System 03 FISHI-EYE 3.2mm/f5.6
(中古購入価格 5,000円)(以下、03 FISH-EYE)
カメラは、PENTAX Q(1/2.3型機)

2010年代発売の、Qシステム専用対角線魚眼風トイレンズ。
PENTAXでは「ユニークレンズ」シリーズとしての
カテゴリーの製品だ。
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対角線画角は173°である。最短撮影距離は9cmと
短いので、近接撮影にもそこそこ強い。
しかし、PENTAX Qシステム全般ではMF性能が低い為に
ピント合わせはかなり難しい。

一応、有限回転式のヘリコイドである為に、Near Farと
書かれた指標に合わせて、いっぱいに廻せばピントが
合うように思うのだが、実際には、何故かその手法でも
ピントは合わず、不規則にピント距離が変わってしまう。

まあでも、トイレンズ故に、その弱点を気にする評価は
有り得ない。むしろ「ちょっとピンボケ」や「ユルい」
写りを皆が期待する為、欠点とは見なされていない事で
あろう。
もし、ピント位置がランダムに変わるような仕掛けが
入っていれば確信犯的に凄い話ではあるが、まあそういう
機能は画像処理技術を使ったとしても少々困難だ。
その必要性も少なく、小細工は入っていないと思われる
ので、ますますピントの不安定さは謎が残る。

が、個人的には、あまりに気になったので、旧来保有して
いたPENTAX Q7(2013年、1/1.7型、ミラーレス第11回)
に加えて、PENTAX Q(2011年、1/2.3型、本記事で使用)
を追加購入して、色々と検証や研究をしているのだが、
依然、ピント問題の理由や原因は、まだ不明だ。

まあそこは良い。本03 FISH-EYEであるが、トイレンズ
と言ってしまう程にはLo-Fi感は無く、そこそこ普通に
良く写る。
結局のところ、カメラメーカー純正でトイレンズを
発売した前例は(ニコン「おもしろレンズ工房」を
含めても)全く無く、あまりにLo-Fi感を出してしまうと
何も知らずに購入したビギナーユーザー層などから、
「なんだこの酷い写りは、こんな不良品を売りつけるのか?」
とクレームの嵐になってしまう事を避ける為であろう。

まあ、市場のユーザー側の知識や意識が低い、と言い換える
事もできるが、このあたりの水準でLo-Fi感を押さえざるを
得ないという状況は、よくわかっているメーカー(開発)
側としては、ちょっと歯がゆいものもあるかも知れない。

結局のところ、強いLo-Fi感を得ようとすれば、前述の
LOMOや、HOLGAといった、海外サードパーティ製の
トイレンズに頼るしか無い現状なのだ。


本03 FISH-EYE、および「ユニークレンズ」の04広角、
05望遠、については、同様な物足りなさを感じるかも
知れない。だがまあ、「07収差レンズ」については
十分なLo-Fi感が得られる面白いレンズだ。
このあたりに興味があれば、本シリーズ第16回の
「PENTAX TOYLENS」特集記事を参照されたし。
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なお「収差」という用語が出てきたが。レンズの性能を
述べる際に、極めて良く出てくる言葉だ。

しかし、これが何か?という点を説明するのは、相当に
大変であり、専門的な概念や用語を使わない限りは困難だ。

これについて、ちゃんと理解したい場合は様々な専門的な
文献などに目を通す必要があるが、それらは非常に難解な
記述である場合が大半だ。

一般ユーザーにおいては、レンズに「収差」という物が
ある事については知っていなくてはならないのだが、
その細かい意味は、あまり気にする必要は無いであろう。

特に、近代の高性能レンズでは、様々な「収差」は、殆ど
問題の無いレベルにまで良く補正されている。

むしろ、普及版ズームレンズのような広角側で歪曲収差が
出やすいレンズを使って、四角い被写体等を撮り、
「このレンズは(歪曲)収差が出るからいかん!」といった、
ビギナー的な評価をするのは、あまり好ましく無いと思う。

そのレンズでは、他の、もっと画質に直接的に影響が出易い
収差を優先的に補正した為に、その歪曲収差が若干残って
しまったのかも知れない訳だ。
そういうコンセプトのレンズ設計であれば、他の収差を上手く
補正した事を評価するべきであって、多少の歪曲収差等は
あまり画質に直接的な影響は無いから、ある意味どうでも良い。

それに、いざとなればレタッチソフトでも歪曲収差は補正可能
だし、あるいは近年のカメラと近年のレンズでは、システム的
にカメラ内部で画像処理による歪曲収差補正機能を備えた物も
多い為、ますます歪曲収差を、あまり気にする必要は無くなる。

これは、歪曲収差が「四角い物を撮る」という事で、誰にでも
簡単に目視測定ができるから、そういう「1面的な評価」に
なってしまうのであろう。
まあ、他の諸収差は、そう簡単には、誰でもが測定ができる
物ではないからだ。
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それから、今回の記事は「魚眼レンズ」特集であるが、
良く、魚眼レンズを解説する際に「歪曲収差を利用して・・」
といった説明が見られる。だが、この解説、あまり説明に
なっていない(汗) 

魚眼レンズの描写ならば、カメラに係わらない一般の人でも
大体知っているだろうが、歪曲収差の方は、よほどカメラや
レンズに詳しくないと理解できない。なので、説明しようと
したのだが、説明した内容の方が、むしろ難しい訳だ。

それに、厳密に言えば「歪曲収差」とは、「本来真っ直ぐに
写っていなければならない映像が歪んでしまう事(の度合い)」
であるから、これは、ネガティブな要因(良く無い状態)だ。

けど魚眼レンズでは、最初から「歪んで写って欲しい」のだ。
だから、この場合の歪曲はネガティブな要因(=収差)では
無い。

魚眼レンズが歪む理由は「等距離射影」という光学原理から
なるが、これも専門的すぎて難解であろう。理解する為の
有益な参考文献等も、かなり見つけ難いかも知れない。

だからまあ、魚眼レンズが歪むのは、正確には歪曲収差に
よるものでは無い訳であり、あえてギリギリセーフの表現で
あれば「魚眼レンズとは歪曲収差を積極的に利用したもの」
という程度までが適切であろう。
だが、前述のように「歪曲収差」が理解しずらいのであれば
これもまた、全く説明になっていない(汗)

結局のところ、魚眼レンズで歪んだ画像を見せて、
「これが魚眼レンズの写りです」と説明した方がはるかに
理解が容易だと思う。

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では、次の魚眼システム
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レンズは、OLYMPUS FISHEYE Body Cap Lens
(BCL-0980)(9mm/f8.0 FISHEYE)
(新品購入価格 9,000円)(以下、BCL-0980)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)

本ブログでは何度も紹介している、2014年発売の
魚眼型ボディキャップレンズ(アクセサリー)である。
対角線画角は、およそ140°なので「魚眼風」レンズだ。
(注:本格的対角線魚眼レンズであれば、180°となる
場合が多いが、それは必須条件では無い。例えば180°を
超える対角線画角の魚眼レンズも、ニコン等で存在したし
本格的な魚眼レンズでも、180°に僅かに満たない画角の
ものも存在する)
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MF用ピントレバーを持ち、最短撮影距離は20cmである。
(注:もう少し寄れて欲しい気もする。ただし被写界深度
が深いので、前方被写界深度を数cmだけ稼げてはいる)
4群5枚、内、非球面2枚と、非常に本格的なレンズ構成
であるが、固定絞り(F8)仕様だ。

なお、「無理やりSONY EマウントAPS-C機に装着すれば
画角がさらに広くなるか?」と期待して実験したが、
案の定、本BCL-0980のイメージサークルは、μ4/3機用の
ぎりぎりで殆ど余裕が無く、APS-C機では円周状にケラれる
だけで、画角の拡張の効果は無かった。

それと、本レンズは知人のシニアの方に推奨した事がある。
「魚眼レンズが、構図練習に極めて役に立つ」という
理由である。

「(対角線)魚眼レンズが、画面中央の点から放射線上に
 伸びる直線上に置いた被写体の直線部は歪まず、そうで
 無い(角度が合わない)部分は大きく歪む」という
原理を説明した上での練習用途であり、その退役シニアの
方はNIKON F2/NIKON F3の昔から、それらを使っていて、
従前はDPE業界に係わっていた中級レベルのベテランでは
あるが、実際に購入した本レンズで撮ってみたところ・・


シ「魚眼レンズでの、その練習はとても難しい、
  直線を維持して構図を決めるのは非常に大変だ」
という感想を言われていた。

まあ、さもありなん。まずビギナー層では、魚眼レンズを
そういう風に厳密に使用する経験や知識は無いので、
その用法は困難であり、ただ単に「面白く歪んだ」等と
喜んでいるだけであろう。次いで、仮に中級層であっても
一般的な「構図の練習」と言えば、三分割とかS字構図とか、
あるいは、画面内の水平や垂直をキープする等の平面的な
視点であり、それは下手をすれば、三脚使用が前提の
銀塩時代の昔の時代での撮影技法(の練習)であった。
銀塩時代からのベテラン(シニア)層であれば、多分、
そんな練習しかして来なかった事であろう。

「手持ち」での魚眼レンズ使用時には、ロール、ピッチ、
ヨー、という三軸の回転方向に加えて、レベル(垂直
位置)など、さらに三次元的な諸要素が加わり、構図を
思うがままにコントロールするのは、上級者以上の
高いスキルが要求される。手持ちで画面全体を見ながら
それを厳密に制御するのは、本当に容易では無い。

「三分割構図」等の話だが、三脚を使ったとしても
ローリング方向に対して水平を見る為に水準器を使用する
程度で、その他の、ピッチ(上下角)や、ヨーイング
(左右の捻り)や、レベル(高さ)には、概ね無頓着で
ある事が殆どであっただろう。

一般写真レンズでは、そのあたりが適当であっても、
出来上がりの写真には殆ど影響が無い。
けど、魚眼レンズでは、被写体直線部の歪みで、その
「適当さ」が、モロに写真に現れてしまうのだ。
これを自由自在にコントロールする事は非常に難しい。

三脚を使っても、三次元的な制御は理解しずらいので
いっそ手持ちで自由度を上げて、それをトライするのが
正解だ、ただ、勿論さらに難易度が上がるので大変だ。

前述のシニアの方には
匠「そう簡単にできるものでは無いです。
  でも、何年か、それを練習していると、きっと、
  構図感覚が、ものすごくシビアになってくる筈です、
  とても良い練習になるので、今後も続けてください」
と伝えておいた。
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本BCL-0980は、本格的に近い描写力を持つ対角線魚眼(風)
レンズながら、かなり安価(中古7000円前後)であるので
この構図練習目的には最適のレンズであると思う。

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では、今回ラストのシステム
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レンズは、KMZ (MC) ZENITAR 16mm/f2.8 FISH-EYE
(新品購入価格 20,000円)(以下、ZENITAR16/2.8)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

恐らくは、1980年代前後に、ロシア(旧ソ連)の
KMZ(クラスノゴルスク機械工場)で生産されていた
対角線魚眼レンズである。
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マウントはM42であるが、AUTO(自動絞り)位置を
持たない構造なので、絞り羽根制御ピンを押し込める
タイプのM42アダプターで使用するのが望ましい。

仮に、PENTAX純正の「マウントアダプターK」等で
使用した場合は、絞りが開放のままになってしまう。

先年も、本レンズが、そういう仕様であった事をつい
忘れて、PENTAX K-01(Kマウントミラーレス機)に
「マウントアダプターK」経由で本レンズを装着してしまい、
その状態になった。


匠「あ、しまった(汗)、これは、やってはいけない
  組み合わせだった!」
と後悔しても、あとの祭り。この状況からは、機材交換しない
限り問題解決の手段は無いが、撮影先だったので対処不能だ。

まあ、被写界深度が深い魚眼レンズ故に、絞りが開放のまま
でも写真は撮れない事は無いが、魚眼では、広く明るい場所に
向けて撮るケースが多くなるだろうから、日中ではすぐに
シャッター速度オーバーになるので、とても不便だ。
やはり、その問題(絞り制御)が解決できる機材、例えば
ミラーレス機用のM42マウントアダプターを用いるのが良い。

それとミラーレス・クラッシックス第13回SONY α7の記事
でも書いたが、使用するM42アダプターの種類によっては、
真っ直ぐに装着できず、APS-C機以下ならば問題は無いが、
フルサイズ機では、レンズ側固定フードにより、画面周辺が
ケラれてしまう場合もある。これはアダプターのネジを
緩めて角度調整をしても直らない場合もあり、今回の記事
では、比較的アダプターとの相性の良かったM42→EFを
用いて、フルサイズ機EOS 6Dに装着している。

用法上の注意点は、それら装着時の課題だけである。

さて、「KMZ」であるが、当該ロシア工場は「Industar」
シリーズのレンズや、カメラでも「ゼニット」や「ゾルキー」
を生産した事でマニア層には知られており、まあロシア製の
中でも高品質・高性能な事で定評がある工場だ。

本ZENITAR16/2.8も、比較的高描写力で、本格的な
魚眼レンズだ。
1990年代のソビエト崩壊後に、ロシアでの在庫品を
輸入販売する専門店からの通販で購入したものである。
価格2万円は、国産本格魚眼レンズに比べると安価だが
ロシアンレンズとして考えると、やや高価な部類だ。
この当時は、Jupiter-9(ユピテル-9)等の高性能
ロシアンでも、新品で5000円台で買えた程であった。
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さて、本レンズも、本ブログでは過去沢山の記事で
紹介している。中でも比較的ユニークでインパクトがあった
用法としては、本レンズを、ティルトアダプターを介して
装着し、「ティルト魚眼」とする事であった。
が、今回はその用法をやめ、フルサイズ機で普通の魚眼効果
を出してみよう。

本レンズに特に欠点はない、負通に良く写る対角線魚眼
レンズである。
実は、銀塩時代に本レンズを適価で入手して、これで
実用的には満足いくレベルであったので、その後の
時代では、他に本格的な魚眼レンズを購入する必要性が
あまり無かった。だからまあ、本記事でも「TOY魚眼」
の比率が多い訳である。

まあ1点注意点としては、2000年代からデジタル時代に
突入すると、初期のデジタル一眼レフは、その殆どが
APS-C型センサー機であった事だ。

APS-C機に対角線魚眼レンズを装着すると、魚眼での
デフォルメ効果があまり発生せず、「少し歪んだ広角
レンズ」のような写りにしかならない。

この為、2000年代には、APS-C機対応(専用)の
対角線魚眼レンズおよび円周魚眼レンズが何本か
発売されていた。けど、使用頻度の低さを鑑み、それら
のAPS-C機用魚眼は、私は購入する事は無かった。
(注:2010年代後半から、中国製等でのミラーレス機用
APS-C機以下対応の対角線魚眼レンズの新発売が増えて
きている。それらは安価ではあるが、まだ購入には至って
いないので、詳細説明や評価は出来ない段階だ)

だが、2010年代後半からは、デジタル一眼レフ等では
フルサイズ機が主流になってきた為、こうした銀塩時代の
魚眼レンズでも、本来のデフォルメ効果が得られるように
なった訳だ。

ある意味、2000年代にAPS-C機用魚眼を購入せずに
良かったとも思うが、今後さらに時代が進んで、
フルサイズ機の比率がさらに増えれば、そうした
APS-C機専用魚眼は不人気となり、中古相場が大きく
落ちるだろうから、その頃になったら、そうした
レンズを入手するのも、コスパの面から得策だとも
思っている。APS-C機は沢山所有しているので、
将来にわたっても、全てが(故障して)使えなくなる
事は無いだろうからだ。まあ、将来的なカメラの性能は
さらに上がるだろうが、魚眼写真を撮る上では、
超絶的な性能(多数の測距点、高速連写、超高感度等)
は一切必要無い事であろう・・
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本ZENITAR16/2.8の総括だが、悪くは無い魚眼レンズだ、
中古はまず見かけないと思うが、皆無という訳ではなく、
過去、2~3度、中古専門店等で見かけた事がある。
1万円台前半とか、安価な相場であったら、購入に値する
レンズだと思うが、前述のように、魚眼レンズの使用頻度は
趣味撮影ではさほど高く無いと思われるので、実際の必要性
やコスパ面は、十分に意識するのが良いと思う。

特に、近年の中古市場では、ロシアンレンズは「希少品」
という扱いになってきていて、それらが実際に新品流通
していた1990年代の新品価格に対し、同等~7倍もの
高額な中古相場になっているケースも多いので、ますます
コスパ面の検討は購入前の時点において、要注意である。

ロシアンレンズは、あくまで「低価格の割りに良く写る」
という評価であって、高価なロシアンは実用価値が低い。
高額相場の対価を出すのであれば、同等中古相場の近代の
国産レンズの方が、遥かに描写力や諸性能が高いからだ。

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さて、今回の記事「魚眼レンズ特集」は、このあたり迄で、
次回記事に続く・・


カメラの変遷(3) CANON編(後編)

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本シリーズは、各カメラメーカーが発売した銀塩・
デジタルのカメラを、およそ1970年代から現代の
2020年代に至る迄の、約50年間の変遷の歴史を
辿る記事群である。


今回は、CANON編(後編)として、主に2000年代から
2010年代中頃までのCANONデジタル一眼レフ(EOS)
を中心に紹介する。
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紹介機は、現在なお所有しているカメラで、かつ実際に
使っているものに限るが、1機種だけ故障廃棄している。
また、挿入している写真は、その機体(と、紹介機体写真
に装着しているレンズ)で撮影したものであるが、写真と
記事の内容とは、特に関連は無い。


では、2000年代の、CANONデジタル一眼レフの
歴史説明より開始する。
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2000年 EOS D30
史上初の民生用デジタル一眼レフ(上写真)
(デジタル一眼第23回記事で紹介)

2001年 EOS-1D
民生・業務用ハイエンドモデル、約400万画素。
最高シャッター速度1/16000秒、45点AF、秒8コマ。

2002年 EOS-1Ds
民生・業務用ハイエンドモデル、約1100万画素。
EOSデジタル初のフルサイズ機。発売時95万円前後。

2002年 EOS D60
D30の改良機、自社製CMOS 約600万画素。定価は33万円

この時代のデジタル機種群は個人的には、まだ「黎明期」
(デジタル一眼レフ・クラッシックスで定義する第0世代)
だと見なし、「実用レベルには満たない」と思っている。
(よって、歴史的に貴重なEOS D30以外は未所有だ。
 なお、下写真は、そのEOS D30での撮影。
 以下同様に紹介機での撮影写真を挟んで行こう)


まあ、EOS-1D系列であれば十分使えただろうとは思うが、
非常に高価であり、例の「操作系」への不満もあったので
後年に中古が安価になった状態でも購入していない。
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2003年 EOS 10D(未所有)
EOSフタケタD機の実質的な最初のモデル。
それ以前にD30とD60が存在しているが、まだ実用レベル
では無いし、価格も30万円以上と高価であった。

このEOS 10Dが実用的な機種としては最初であろう。
発売時価格も20万円を切り(注:オープン価格)
やっとアマチュア層でも手が届く価格帯となった。
SNS(BLOG)が普及しはじめた2000年代中頃においては、
この機体を使用していた写真ブロガーも何人か居た。

2003年 EOS Kiss Digital(未所有)
発売時価格が約12万円台と、史上最も安価なデジタル
一眼レフとして登場した。

だが、その点については、この機体は普及機の性能であり
翌2004年には、本格的中高級機のNIKON D70が約15万円で
発売、さらに同2004年にPENTAX *istDsが10万円を切る
低価格で発売されたので「少し待てばいくらでもデジタル
一眼レフの価格は下がる」と予想できた時代でもあった。

ちなみに、ニコンにおいてもEOS Kiss Digitalの発売は
脅威と見たのか、NIKON D70の開発発表を、かなり前倒し
してKiss Digital発売と同時期に行った経緯がある。
(参考:NIKON D70は発売直前まで定価が不明であった。
市場の様子を見ながら、戦略的に価格を最終決定した様相が
見て取れる。つまり、製造原価から定価が決まるのでは無く、
「いくらならば売れるのか?」という視点での、21世紀型
の販売(マーケティング)戦略の走りであったと言える)

これら2003~2004年に発売された初期デジタル一眼レフは
実用的レベルに達してはいた、という個人的判断だったが、
その価格低下の要点があった為、私は、この時期の各社の
カメラは、いずれも1年程度待ってから中古で購入している。
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2003年 EF-Sレンズの発売

EOS Kiss Digitalの発売に合わせたAPS-C機専用のレンズ群。
(上写真は、最初期のCANON EF-S18-55mm/f3.5-5.6
USM。ただし、後年のEOS機に装着している)

イメージサークルが小さいので、小型軽量化、そして
低価格化が可能である。
またズームでは18mm位からの広角端焦点距離となっていて
「APS-C機でフルサイズ用レンズを使うと、広角画角が
足りない」という課題にも対応しているし、被写界深度が
深くなる為、AF精度の向上や、ビギナー層でのピンボケの
リスクも減少させる事ができる。


一見して良い事ばかりであるが、1つだけ重要な問題点があり、
それは、「EF-Sレンズは、フルサイズのEOS機(一眼レフ)
では、使用できない(装着不可となる仕様)」事である。


私は、その事実を知って「じゃあ、CANONのAPS-C機を使って
いてEF-Sレンズを買ったら、将来フルサイズEOSに買い換えた
場合に全部使えなくなるじゃあないか、一体、どうするんだ?」
という疑問が生じた。まあ、私個人であれば問題無い、きっと
そういうケースでもフルサイズ機とAPS-C機を並行して所有する
だろうからだ。しかし一般ユーザーではそうでも無いであろう。

で、結局のところ、そこから長期間、私は、EF-Sレンズを
1本も購入しなかった。CANON純正では無くサードパーティー
製のレンズでも同様だ、つまりEOSにおいては必ずフルサイズ
用レンズを購入する事にしている、そうであればフルサイズ機
でもAPS-C機でも、どちらでも問題なく利用できるからだ。
(注:2010年代後半に、技術的な視点における研究の為、
歴史的に重要と思われるEF-Sレンズを2本購入している)

ちなみに、CANON以外の他社でもAPS-C機とフルサイズ機を
並存させる事は普通であるが、どの場合でもAPS-C用レンズ
がフルサイズ機に装着できない、と言う制限は無い。

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2004年 EOS 20D
EOS 10Dからさらに実用性能を増した中級機、この機体は
私は1年程待ってから中古購入後、長らく愛用したのだが、
2010年を過ぎた頃に露出計が故障してしまい、やむなく
廃棄処分となった。よって現在では実機の紹介が出来ない。

カタログスペックに現れない長所としては、バッテリ-の
持ちが極めて良い事である。この機体より前のデジタル機は
バッテリー消耗が早く、丸一日の撮影は不可能とも言えたが、
このEOS 20Dで、やっとそれが可能となった。
(同年発売のNIKON D70も同様にバッテリーの持ちが良い)

2004年 EOS-1D MarkⅡ、EOS-1Ds MarkⅡ
旗艦級ハイエンド機であるが、この頃から私はEOSの旗艦機に
興味を持てなくなってしまい、以降でもEOS-1D系列の機体を
1台も所有していない。
最大の理由は価格が高価な事だ、そして重量も重く、実用機
として使おうとしても、ちょっと限界点を超えているという
判断だ。さらに様々な記事で述べている「操作系」の課題が
大きく、あまり興味が持てないのだ。

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さて、この年2004年は各社からデジタル一眼レフが出揃った
年でもある。NIKON等では、それまでも旗艦機級や高級機の
デジタル一眼レフを発売していたが、いずれも高価すぎた。

2004年に軽快な中高級機NIKON D70が発売。
(デジタル一眼レフ・クラッシックス第4回記事)
またPENTAXでも *istDsを史上最安値で発売。
(デジタル一眼レフ・クラッシックス第2回記事)
さらに、合併したKONICA MINOLTAも、史上初の手ブレ
補正内蔵一眼レフである、α-7 DIGITALを発売した。
(デジタル一眼レフ・クラッシックス第3回記事)
また、オリンパスもフォーサーズシステムの2機種目である
E-300をレンズキット版として発売している(故障廃棄)
(デジタル一眼レフ・クラッシックス第8回記事で少し説明)

私はこの2004年を「デジタル一眼レフ元年」と定義している。

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2005年 EOS 5D
EOS-1D系列が超高性能を持ちながらも価格帯が高価すぎた
課題を受け、ハイアマチュア層等であっても購入できる
価格帯で発売された、初のフルサイズデジタル一眼レフ。
ただし、安価とは言え、40万円程度と依然コスパが悪い。

この機種の登場により、私は逆に「アンチ・フルサイズ」の
意識が芽生えてしまった。この時代の各社ASP-C機であれば
中古で数万円という、手頃な価格帯で買えるのに、何故、
フルサイズ機はそんなに高価なのだ?たかがセンサー面積が
2倍になるだけだろう・・と。 
結局、私は、その後2010年代半ばになるまで、フルサイズ機
を1台も購入しない「アレルギー症状」となる。

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この年2005年、RICOHからGR DIGITALが発売される。
デジタルでは実質初の高級コンパクトである。
銀塩時代からGR1シリーズを愛用していた為、GR DIGITALも
発売当日に購入。以降15年を超えてまで現役使用している。
*コンパクト・デジタル・クラッシックス第2回記事
*ハイ・コスパレンズ・マニアックス第20回記事
等を参照の事。

2004年製の各社デジタル一眼レフが、いずれも低価格で
かつ実用性能に達していたのと、それらの5機種を全て中古で
購入できた為、私はこの時期、GR DIGITAL等のコンパクト機
と合わせて、デジタル機には不自由しなかった。

全メーカーのデジタル機を入手するのは贅沢な話ではあるが、
購入コスト削減の要因として、1つは全て中古で購入した事、
(デジタル機が次々に発売される為、最大でも1年も待てば
十分に安価な中古機が出て来た)もう1つは、新規の4/3
システムを除き、他のデジタル一眼レフのマウントは全て
銀塩時代と共通であった。よって、交換レンズを1本も新規
に購入せず、銀塩時代の交換レンズ群を全てそのまま
活用できた訳だ。(ただし、いずれもAPS-C型以下機で
あった為、既存銀塩用レンズでは広角画角が不足した。
これをGR DIGITAL(28mm相当)の併用で解決していたので、
GRDの重要性が非常に高く、撮影枚数が膨大になった)

これらの「ケチケチ作戦」(笑)により、デジタル一眼レフ
の旗艦機級を新品で1台買うよりも、むしろ安価に、全ての
マウントのデジタルシステムが揃った訳だ。

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この頃に迷ったのは、銀塩システムの扱いであった。
銀塩一眼レフはまあ、まだフィルムで撮る可能性もあるとは
言え、もうほんの数年で、それも無理になるであろう・・
あまりに古い銀塩機体は処分(譲渡や売却)せざるを得ない。

では、交換レンズ群はどうするのか?
特に問題でなのはCANON FDやMINOLTA MD、KONICA AR、
CONTAX Nシステムといったマイナーマウントのレンズ群だ。

他のマウント、例えばNIKON Aiは、無理をすればデジタル
一眼レフで使用可能だ、同様にPENTAX KやM42もOKだ。
OLYMPUS OMは、E-300購入時にOMアダプターをメーカー
から無償で送って貰ったので使う事ができる。
CONTAX Y/C(RTS)は、CANON EOS用または4/3用のアダプター
を入手すれば、まあ使えた。

レンジ機用の、ライカマウント(L/M)や旧CONTAXマウントは
デジタルでは使い難いが、まあ、あまり本数も持っていないし
デジタル・レンジ機であるEPSON R-D1(2004)という機種も
出ていたので、いずれその手のカメラが普及すれば、装着する
事もできるだろうと思った。

私は結局、多くのMFマウントのレンズを残す事にした。
マイナーマウントは、ここから数年間は全く利用不可であった
のだが、幸いにして数年後の2010年頃からミラーレス機の
時代に入り、およそどんなMFマウントのオールドレンズも、
マウントアダプターで装着可能になった次第だ。
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2006年 EOS 30D
EOS 20Dのマイナーチェンジ版、市場においては、優秀であった
EOS 20Dの後継機であるから、ずいぶんと性能が改善されて
いるだろう事を期待する声が大きかったのだが、蓋をあけて
みれば、EOS 20Dと画素数も同じ(約800万画素)で、がっかり
した声が上がった。

まあ、この当時は「画素数競争」が顕著であり、やっと市場に
普及したデジタル一眼レフを選ぶ際、少しでも画素数が高い
機種を皆が欲しがったのだ。
・・とは言え、つい1~2年前までは、アマチュア層は、皆
フィルムで撮っていた訳だ、デジタルの詳細な原理がわかる
筈もなく、ただ単純に、画素数の大きいカメラを追い求めて
いた状況に過ぎない。

私の場合、後年2010年頃に故障したEOS 20Dの代替機として
このEOS 30Dを選んだ。世の中には既に40Dも50Dも60D
も出ていたので、30Dの中古購入価格は15,000円と超格安

であった。値段が安価で、使い潰しても良い事に加えて、
所有しているEOS D30と名前が似ていて、マニア的視点
からは面白い。
EOS 30Dについては、デジタル一眼レフ・クラッシックス
第5回記事で紹介している。

購入後は、雨天等の厳しい撮影環境で、消耗用機体として
使用を続けていたが、発売後10年に至るまで何ら問題なく
使えていた。ただ、さすがにボロボロになっていたので、
後年では代替機を模索しはじめる事になる。
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2007年 EOS 40D、EOS-1D MarkⅢ、EOS-1Ds MarkⅢ
この頃、キヤノンのデジタル一眼レフは、旗艦機、上級機、
中級機、普及機のラインナップを堅守し、各々のランクの
モデルチェンジは1~2年で行われ、極めてあわただしい。
ここでは紹介していないが、普及機Kiss Digitalシリーズも
ほぼ毎年のモデルチェンジだ。

この頃の私は、「このようにモデルチェンジが早いと、
旧機種はすぐに見劣りしてしまう」(仕様老朽化寿命が短い)
という懸念を持つようになり、あまり新機種に興味を持たない
ようにしていた、「2~3世代変わってから買っても十分」
という考え方もあった訳だ。

2008年 EOS 50D、EOS 5D MarkⅡ
引き続き、モデルチェンジが早すぎて興味が持てず。
この時代ではEOS 20Dをずっと使い続けていたし、その機体は
バランスが取れた優秀なカメラで何ら不満は無かったからだ。
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2009年 EOS 7D
この時代、初めて「おっと!」と、注目に値するEOS機が
登場した、新しい番号のEOSヒトケタ機シリーズであるし、
銀塩EOS 7(2000年)は優秀な中高級機であった為、型番が
似ているこの機種にも、それなりの期待感があった。

加えて個人的にアンチ化していたフルサイズ機では無い事も
良いし、「高速連写機」というコンセプトも非常に好みだ。

本シリーズ第1回記事でEOS-1HSを紹介したが、その機体は
高速連写機能を主眼としての購入だった。後年にNIKON F5
(銀塩一眼レフ・クラッシックス第19回記事)も同様な
用途で購入したが、いずれも、銀塩での高速連写機は
コンセプト的に無理があり、実用的では無かった次第だ。

デジタル時代に入って、高速連写機NIKON D2Hを入手した。
(デジタル一眼レフ・クラッシックス第1回記事)
その快適かつ実用的な連写性能は様々な撮影シーンで極めて
重宝したのだが、2000年代後半から2010年代ともなると
さすがに400万画素機というのは実用的に満たない性能に
なっていた。
EOS 7Dは、D2Hの代替機として最適では無いか?という
判断が出てきた。

EOS 7Dは発売時20万円程の高価な機体であったので、
すぐには購入が出来なかった。
結局、数年後の2010年代前半になるまで入手できなかった
が、その時点では中古価格も4万円弱まで落ちていたので、
極めてコスパの良い買い物となった訳だ。

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本機EOS 7Dで書きたい事は多々あるが、デジタル一眼レフ・
クラッシックス第10回記事と重複するので、割愛する。

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2000年代のCANONデジタルコンパクト機

この時期、CANONでは、基本のPowerShotシリーズと
スタイリッシュなIXYシリーズの両面展開をしている。
PowerShotは、さらに価格帯により仕様が細分化されていて
その機種数は極めて多い。毎年のように多数の新機種が
出てくるので、マニアック度の無さや、仕様老朽化寿命の
短さにより、個人的には全く興味が持てなかった。

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2010年 EOS 60D
ここに来て、CANONのEOS新機種発売ペースが、やや鈍化。
その原因は明白だ、2000年代末頃からミラーレス機とスマホ
の急速な普及により、消費者層の多くはデジタル一眼レフに
興味を持たなくなってしまったのだ。

それに、もう消費者層にアピールする内容が殆ど無い。
2000年代のように「画素数が上がりましたよ」といつまでも
言い続ける訳にもいかない、製造技術的な限界点も勿論あるし、
それに、この頃では、ユーザー層の皆がデジタルの原理に
ついても理解してきている。単純に「画素数を上げれば
写りが良くなる」訳では無い事は、皆、もう知っているのだ。

ではどうするのか?ここはCANONとしても迷いどころであろう。
その答えは、もう少し後の時代になって明らかになる。

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2011年
この年の3月、東日本大震災が起こる。
これも大きな出来事であり、1995年の阪神淡路大震災と
同様に、直接の被害を免れた人達の間にも精神的なショックが
あった事で、これは消費行動にも大きく影響する。
CANONでは、3月に発売されたEOS Kiss X5/X50を除き、
震災後のこの年のデジタル一眼レフの新発売を控えた模様だ。

恐らく、この休止期間において、製品研究開発が促進され、
続くフルサイズ化時代への準備期間となったのであろう。

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2012年 EOS-1D X
ここにきて、フルサイズ機にも高速連写性能を持たせた
超絶性能機が初登場。

というのも、これまでの時代、いや、この機体の後でも
2016年くらいまでの各社のデジタル一眼レフにおいては
「フルサイズ機は連写が遅く、APS-C機は連写が速い」
という、明白な住み分けを行っていた。
技術的には、両者を統合するのは(同じ画素数であれば)
さほど難しく無い筈であるが(注:フルサイズ機の方が、
ミラー駆動がやや重いか?)これは市場戦略上の狙いが
あったのかもしれない(あわよくば両者を買って貰いたい)

だが、前述のように、デジタル一眼レフは「飽和市場」で
縮退が始まっている事と、スマホやミラーレス機に押された
状況においては、もうそれらの安価な機体では到底到達不能
な「超絶性能」を持たせて差別化するしか無いではないか・・

そして、こういう高付加価値型カメラは価格を上げる事が
できる、「デジタル一眼レフの販売数が減っているならば、
1台あたりの利益を上げるしか無い」という理屈である。

その後の時代では各社で当たり前となった、「超絶性能」
戦略の走りとなったのが、このEOS-1D Xであったと思う。

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2012年 EOS 5D MarkⅢ、EOS Kiss X6i
前年2011年が震災の年であった為、開発や製造や発売が
遅れていた機種もあるかも知れない。どの機種がどうだとか
までは分からないが、この2012年には、CANONはもとより
各社でも、デジタル一眼レフを始め、ミラーレス機や
コンパクト機等の多くの機種の新発売が復活している。

まあ、もしかすると、この頃に伸びのピークを迎えた
ミラーレス市場への牽制の要素もあったかも知れない。
(CANON機は色々と新発売があって、面白いよ・・と)
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2012年 EOS 6D
ミラーレス機やスマホの台頭に対する、CANONの1つの回答と
なったと思われる、新シリーズモデル。

フルサイズ・デジタル一眼レフとして最軽量(本体680g)
のボディである、またフルサイズ機としては最も安価な
18万円台(発売時実勢価格)でもある。(注:依然高価だ)
(参照:デジタル一眼レフ・クラッシックス第16回記事)
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この年、他社からもフルサイズ機が多数新規発売された、
具体的には、
CANONからはEOS-1D X,EOS 5D MarkⅢ,EOS 6D
NIKONではD4,D800,D800E,D600 そして
SONY α99やSONY DSC-RX1(コンパクト機)がある。
私は、この状況をもって「2012年はフルサイズ元年」と
定義している。

まあ、フルサイズ型センサーがコストダウンされたという
製造上の理由もあるだろう。安くなったものを高く売れば
利益が増えて、縮退したデジタル一眼レフ市場を支えられる。

加えて、フルサイズ機は、μ4/3やAPS-Cが中心であった
ミラーレス機陣営に対しても優位性を謳える事が出来る。
つまり「フルサイズはミラーレスよりも圧倒的に面積が大きく、
よって圧倒的に画質が良い!」と消費者層に言える訳だ。

でも、そういう話を聞いた、(わかっている)消費者層は
「はい、そうですか、ではフルサイズ機を買います」等と
素直には反応してくれない。

たとえば
「おいおい、つい2~3年前までは、画素数が多いカメラの
 方が良く写るとか言って、そういう高いカメラを買わされた
 ではないか、今度はセンサーが大きい方が良く写るだと?
 いったい何台、高価なカメラを買わせるつもりなんだ!」
と思う中上級ユーザーも多かった事であろう。

デジタル時代に突入して既に10年近く、結果ユーザー側にも
それなりにデジタルの原理理解や知識がついてきている訳だ。
もう、そんなに簡単に、ユーザー層は乗ってこない。

フルサイズ化されて騒いでいるのは初級層のみという状況だ。
(でも、初級層ではこうした高価なカメラは買い難い)
結局、この時期2010年代初頭、ほとんどの消費者層は、
ミラーレス機の方に夢中になってしまったと思う。

これでは、一眼レフはますますヤバイ状態になるではないか、
起死回生のフルサイズ化戦略も、はたして効果があったか
否か・・?
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2010年代のCANONデジタルコンパクト機

2012年には、PowerShot G1 Xが発売。これはセンサー
サイズを1.5型(注:μ4/3より若干大きい)に大型化した
モデルである。センサーの大型化は上記EOS 6Dで説明した
理由とまったく同じだ。以降、PowerShot G-Xシリーズは
1型センサーに若干サイズダウンしたり、APS-Cに大型化
されたりしたが、依然、大型のセンサーを搭載したハイエンド
(高級)コンパクトとしてシリーズ展開を続けている。

なお、コンパクト市場は一眼レフ以上に市場縮退の要素が
大きく、こうした高付加価値の高価格帯(いずれも10万円
以上もする)カメラを、マニア層やビギナー層に売って
いかないと市場維持が難しい状態だ。

ただ、私は個人的には、残念ながらこれらの製品群に興味を
持てない。APS-Cセンサー機が欲しいのであれば2000年代の
デジタル一眼レフや、2010年頃の初期のミラーレス機で
あれば、1万円あたりから安価に購入する事が可能だからだ。
つまり「高級コンパクトはコスパが悪い」と見なしている。

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2012年 EOS M
キヤノン初のミラーレス機、キヤノンの同市場への参入は
他社に比べて最も遅く、この年からである。

これは同社が2000年代には自社製CMOSセンサーの優位点を
主眼に「高付加価値化戦略」を取っていた事情からであり、
つまり「高性能のEOS一眼レフを売って利益を得る」という
ビジネスモデルだからだ。もしここで安価なミラーレス機を
売ってしまうと、消費者はそちらを買って満足してしまって
高価な一眼レフの販売機会を逃してしまうかも知れない訳だ。

だが、市場におけるミラーレス機の伸びは、この時代は驚異的
であり、CANONも「いつ迄もこの市場を無視する事は出来ない」
という判断に至ったのであろう。それと、一眼レフの方は
この年から「超絶性能化」しているので、ミラーレス機とは
明確に「差別化」する事ができる点も重要なポイントだ。
なお、マウントが新規のEF-Mとなっていて、一眼用のEFや
EF-Sレンズはアダプターを介さないと使えない。


個人的には、EOS Mシリーズは後発である為、初期の製品群
は、性能的に未成熟と見なして購入していなかった。
(例:EOS M3までは像面位相差無しのコントラストAFのみ)
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2013年 SONY α7/α7R発売。
ここでキヤノンの話から一旦それる。
初のフルサイズ・ミラーレス機、α7系は、前年の各社の
一眼レフ・フルサイズ化戦略をひっくり返してしまった。

マニアであったら、きっと以下のように思う事であろう。
「だって、これでミラーレスと言っても、フルサイズだから
 性能は一眼レフと同等だし、最軽量のEOS 6Dとか言っても、
 α7ならば、その2/3程度の僅かに415g(本体のみ)だろう?
 それにα7であれば、どんなオールドレンズもマウント
 アダプターで遊べる。EOSもまあ、アダプターは何種類か
 使えるのだろうが、オールドレンズをつけたら、フォーカス
 エイドすら効かないし、勿論、拡大やらピーキングやら
 そういう小技は不可能ではないか。
 それに、そもそも値段だって、EOS 6Dよりもα7の方が
 安価(発売時15万円台)だ、こっちを買った方が、ずっと
 お買い得だろう?」

・・という感じで、マニア層は、いっせいにα7に傾倒した。
せっかくの一眼レフ陣営の起死回生のフルサイズ化戦略も、
ちょっと陰りを見せてしまった。それに、これではもう
「ミラーレス機はセンサーが小さいから、うんぬん・・」という
話は、μ4/3機を指名しての悪口でしか言えなくなってしまう。
それはさすがにフェアでは無い。

様々な「流言」(真偽とりまぜて、市場の思想を思惑どおりの
方向に誘導する)を流す「(ネット)情報戦略」は、もう
この時代では当たり前ではあるが、そこに「大義名分」が無い
限りは、そうした「流言」は、一般層に拡散されては行かない。

この時代に流れた、「μ4/3機は、フルサイズの1/4しか
面積が無いので、良く写る筈が無い!」という、恐らくは
業界内での敵対勢力関係を起因とした、悪意のある流言は、
一般層にまでは広まる事は無かった。

・・・さて、こんな状況の中、デジタル一眼レフは、一体
どこに向かって行くのだろうか?
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2014年 EOS 7D MarkⅡ
「超絶性能機」の一種である。APS-C機ながら、秒10コマの
高速連写性能を持ち、遠距離動体被写体に無類の対応力を持つ。
(参照:デジタル一眼レフ・クラッシックス第19回記事)

現状、個人的には最も気に入っているEOS機であるが、
まあ用途が極めて限定されている為に、趣味撮影には向かない
業務用途専用機である事は言うまでも無いであろう。
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直接のライバル機は、同等の性能を持つNIKON D500(2016)
(参照:デジタル一眼レフ・クラッシックス第20回記事)
であるが、こちらの機種の方が発売が早く、D500よりも
中古相場が、かなり安価なのでコスパが良い。

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2015年 EOS 8000D
(参照:デジタル一眼レフ・クラッシックス第21回記事)

EOS Kiss Digitalの上位機種としての新シリーズの発売。
小型軽量でありながらスペックをあまり制限していない。
(=仕様的差別化の要因が少ない)
内部部品は、Kiss (X8i)と同じだが、「操作系」的には、
EOSフタケタDシリーズの中級機と同等であろう。


小型軽量な事はハンドリング性能が高く、個人的には好み
のコンセプトである。惜しむらくは同等の性能を持つEOS

フタケタDシリーズよりも、むしろ中古相場が高価になって
しまう点があったが、2018年頃に少々高目で購入している。
後継機にEOS 9000D(2017年)がある。
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2016年 EOS M5 (APS-C型ミラーレス機)

前述のとおり、EOS Mシリーズは、各社ミラーレス機と
比べて最後発の、2012年からの展開であった。

従前のEOS Mシリーズは、コントラストAFのみの
仕様であったが、本機EOS M5から、「像面位相差AF」
(デュアルピクセルCMOS AF)が搭載された為、「実用的な
レベルに達した」という判断で、近年に購入している。

フルサイズ・ミラーレス機のEOS Rシリーズが新発売
された為、APS-C機のEOS Mシリーズの中古相場が急激に
低下し、コスパが良くなった事も購入の一因だ。
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使用開始から、まだ日が浅い為、詳細の説明は避ける。
いずれミラーレス・クラッシック記事等で紹介しよう。

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2015年以降のCANON 一眼レフの展開

EOS-1D X MarkⅡ(2016)、EOS 5Ds/R(2015)、
EOS 5D MarkⅣ(2016)、EOS 6D MarkⅡ(2017)、
EOS 90D(2019) などが代表的機体だ。

このあたりは非常にざっくりとした時代区分だが、
まだこれらの近年の機種は、所有もしていないので、
詳細には触れられないが、ごく簡単に述べておこう。

まずこれらの機種は「出し惜しみしないスペック」となった。
すなわち、何度も述べている国内一眼レフ市場の縮退の
事実を受け、高性能を「これでもか」と「てんこ盛り」にした
機種群である。
これは、CANONだけの戦略ではなく、他社もまったく同様に
この時期からの上級機種群に同様な「超絶性能」を与えている。

これらは「付加価値」であるから、価格を上げる事ができる。
つまり一眼レフの数が売れないのであれば、利益率を上げる
しか無いわけであり、メーカーの論理としては正しい。


しかしながら消費者側から見れば、自身が必要としない性能
(例えば超高感度や、超高速連写)が入って、それで価格が
高くなっているのであれば、それは、「コスパ」の意味を
もう一度、自身に問い直してみる必要性があるだろう。
ユーザーが不要な機能・性能は、無駄にお金を払っている
のと同等になってしまうからだ。


だが、コスパを判断できない初級中級層が、こうした超絶性能
機を欲しがって新品購入してくれる事で、国内一眼レフ市場は、
かろうじて支えられているとも言える。
これはCANONに限らず、他社でも全く同様の状況である。

なんとも複雑な時代になってしまった物だ、デジタルカメラは
現代、大きな転機を迎えているのかも知れない・・

ただ、それをあまり憂う必要は無く、記事で述べてきたように
一眼レフへの転換期、AFへの転換期、デジタルへの転換期で
各メーカーは、それなりに苦労して、新しい時代に対応しようと
していた。それについて行けずに撤退したメーカーも多々あれど
今生き残っているメーカーは、そうした大変革の経験を多数
積んできた老舗ばかりなのだ。また新しい形態のカメラに、
きっとうまく対応してくれるに違い無い。
まあ、既に各社はフルサイズ・ミラーレス機で、その変革を
行おうとしている状況だが・・

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CANON フルサイズ・ミラーレス機の展開

2018年~
新規フルサイズ・ミラーレス EOS Rシリーズを発売。

これについては所有もしていないし、調査もしていない。
正直、あまり興味が無いからだ。一眼レフ市場がもう限界
なので、無理やりミラーレス機に戦略転換した印象がある。

そして、既にEFマウントで多数の交換レンズを所有して
いる訳だから、たとえそれらがマウントアダプターで利用
可能とは言っても、これらのRマウントでの新鋭レンズ群
(注:魅力的に見せる為の、高付加価値化の工夫がある)
を、高価に重複購入させられるのは、コスト的に辛すぎる。

まあ、将来、これらの新鋭機種を入手する機会があれば、
本記事の「続編」を書くかも知れない。

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さて、ここまでがCANONの全カメラの歴史である。
今回紹介した機種群以外にも、実際にはもっと多くの機種が
存在しているが、書きたい事も色々あって、何回記事を重ねた
としても書きつくせるものでは無い。
それに、自身で所有した事が無い機種については、あまり
あれこれと書く事は、本ブログのコンセプトに外れる。


まあでも、これで新鋭Rシリーズの関連を除き、概ねCANON製
のカメラの変遷については、殆ど網羅できたと思っている。

Rシリーズについては、もし入手したら続編を書くが、
「対応レンズを全て新規購入する」という点で、ユーザーに
出費を強いる市場戦略が明白な為、今の所、購入予定は無い。

なお、当然ながら、こういうケースでは、従来マウント
では実現不可能であった仕様等のレンズを新規発売して
新マウント(レンズ)の優位性をメーカー側はアピールする。
(例:NIKON NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct とか、
CANON RF85mm F1.2 L USM DS等の高付加価値レンズ)
その戦略に、モロにひっかかってしまうと、膨大な金額の
新規投資を強いられてしまう(それでは「メーカーの勝ち、
消費者の負け」の状態だ)ので、要注意だと思っている。

最後に、CANONの製品群では、本シリーズで紹介した
約50年間の間に、何度もの「排他的戦略」を取っている。
まあつまり、自社製品(システム)で固めて使う場合に
のみ高性能が得られ、結果、「汎用性を重視せず、他社
製品の利用を排除する」という企画設計思想だ。
まあ、メーカーが生き残る為、あるいは機材の性能向上
の為には、やむない戦略だ、とも考える事も出来るが。
それが度を越すと、気分を害して、「買わない」という
選択肢も、消費者側からは必ず出て来る事であろう。

CANONには限らず、本ブログでは全く紹介していない特定
のメーカーの製品群、あるいは特定のシリーズ製品群が
あるのだが、それらは個人的には「購入ポリシーにおける
我慢の限度を超えているから、一切購入しない」という
選択が既になされている状態の製品群な訳だ・・・

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では、次回記事は「PENTAX編」としよう。

最強50mmレンズ選手権(11) 予選Kブロック 50mm相当AFマクロ

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所有している一眼レフ等用の50mm標準レンズを、AF/MF
や開放F値等によるカテゴリー別で予選を行い、最後に
決勝で最強の50mmレンズを決定するというシリーズ記事。

今回は、予選Kブロックとして「50mm相当AFマクロ」の
レンズを5本紹介(対戦)する。

なお、「50mm相当マクロ」とは、デジタル時代における
非フルサイズ対応レンズで、換算画角が50mm近辺となり、
かつ、レンズ単体で、センサーサイズ換算撮影倍率が
1/2倍以上となるものを差す。
一眼レフ用、ミラーレス用は問わない。

つまり、焦点距離に関しては、
APS-C機専用レンズでは、焦点距離が30~35mm程度、
μ4/3機専用レンズでは、焦点距離が25~30mm前後
となり、撮影倍率に関しては、一般的なスペック表記では
各々の機種のセンサーサイズ換算であるが、フルサイズに
換算すれば、仮に等倍マクロであれば、
APS-C機では、約1.5倍、μ4/3機では約2倍となる。

また、ミラーレス機等では、さらにデジタル拡大機能により、
見かけ上の撮影倍率を上げる事が容易に可能であり、
もはや銀塩時代の「撮影倍率が、1/2倍、等倍」という
概念や住み分けも殆ど意味が無くなってきている状況だ。

それとこの条件に合えばMF/AFは問わないつもりだったが、
所有しているこのカテゴリーのレンズは全てAFレンズで
あったので、今回はMFレンズの紹介(対戦)は無い。

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さて、まずは今回最初のマクロレンズ。
_c0032138_17240217.jpg
レンズ名:SONY DT 30mm/f2.8Macro SAM(SAL30M28)
レンズ購入価格:10,000円(中古)
使用カメラ:SONY α65(APS-C機)

ハイコスパ第14回記事等で紹介の、2009年発売のAPS-C機
専用AF単焦点準広角(標準画角)等倍マクロレンズ。
_c0032138_17240221.jpg
本レンズは小型軽量の「エントリー(マクロ)レンズ」である。
描写力は他の一般的なマクロレンズに比べスペシャルな要素は
殆ど無く、まあ普通に、そこそこ良く写るマクロレンズだ。

だが、一般的にマクロレンズは特に近接域での画質を最優先に
設計されている為、マクロでは無い通常型のレンズに比べて
(それらは無限遠で最高画質を得れるように設計されているから)
マクロの方が描写力が高いと感じる事が殆どだ。

だから本レンズは、そうした高画質な「専門マクロ」に比べると
描写力が低く感じてしまうのはやむを得ないのだが、それでも
通常レンズよりかは若干のアドバンテージがあり、本レンズが
エントリーレンズのカテゴリーで極めて安価に購入できる事から
とてもコスパの良いレンズとなる。
_c0032138_17240265.jpg
特徴として、WD(レンズ前からの最短撮影距離)が短い事がある。
これは一般的な近接撮影では長所にも短所にも成り得る。

その長所としては、被写体に非常に近接し、360度どの方向
からも撮影が可能な為、背景の取り込み等を含めた構図の
自由度が極めて高い事だ。

短所としては、近接しないと大きな撮影倍率が得られない為
被写体に寄れない状況(物理的にそれ以上近寄れないとか、
被写体が例えば昆虫等で逃げてしまう、または刺されるので
危険等)では不利になるし、カメラやレンズの影が被写体に
かかってしまう場合もある。

しかし他の意外な長所もあり、具体的には、WDが短いレンズ
でないと装着が難しいアタッチメント(付属品)の使用だ。
その1例として「ZENJIX soratama 72(宙玉)」を使用する
際には、本DT30/2.8は極めて相性が良い(以下写真)
_c0032138_17240187.jpg
本レンズで「宙玉」を使った際の写真は、ハイコスパ第21回
記事等に掲載しているので興味があれば参照されたし。

その他、あまり特徴は無いレンズだ。
あくまでエントリーレンズであるので、作りの安っぽさ等の
課題はある。また、ピントリングもスカスカな感触で
いわゆる「トルク感」も無く、MF主体が必須となる近接撮影
においては、若干の「操作性」上の不満を感じてしまう。

ただ、かろうじてピントリングは「有限回転式」であるので、
本記事で紹介(対戦)する、他の「近代マクロ」レンズの
無限回転式ピントリングに比べては、本レンズがMF操作性上
では絶対的に優位である。

値段も安価な為、SONY α(Aマウント)ユーザーでは必携の
レンズであろう。

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では、次のマクロレンズ。
_c0032138_17241208.jpg
レンズ名:SONY E30mm/f3.5 Macro (SEL30M35)
レンズ購入価格:14,000円(中古)
使用カメラ:SONY NEX-7(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第72回記事、補足編第2回で紹介の、
2010年代のEマウントAPS-C機用AF等倍マクロレンズ。
_c0032138_17241246.jpg
本レンズはミラーレス機用で、しかも現代ではフルサイズの
FEマウントが主力となっているSONY製品であるから、APS-C機
用のレンズとして、古くて、ニーズも少ないだろうから、若干

不人気かも知れない。しかし中古相場はその時代により変動し、
1万円台前半まで下がったり、また1万円台後半まで上がったり
と、原因不明の相場挙動を示している。
(注:恐らくだが、SONYフルサイズ機の商品展開タイミングに
影響されている模様だ。同様な例はニコンのDXレンズにもある)

本レンズには長所とも短所とも言える強い個性的な特徴があり、
それは「輪郭線がとても強く、カリカリの描写になる」という
点である(「カリカリ描写」については、匠の写真用語辞典
第5回記事参照)

これは面白い特徴であるが、撮影側としてはこの特徴を良く
認識した上で被写体を慎重に選択しなければならない。
「マクロレンズだから花の撮影等に向くだろう」と思って、
花の名所や植物園等に行って本レンズを使うと、(カメラの
モニター上では目立たないが)後で撮った写真をPC等で見ると、
「ひぇ~ どの花も、みんなカリカリに写っているよ(汗)」
などの状況になってしまう。

まあすなわち、解像力が強いカリカリ描写は、それが必要な
被写体、たとえば細かいパターンがある風景とか、
製品基板や電子部品などの精密機械の撮影とか、医療用や
学術用で、患部や検体等のサンプルを撮影する場合とか、
かなり限られてくる訳だ。
これらは技術用語では、いずれも「空間周波数分布が高い画像」
と言い換える事も出来る。、

まあ、銀塩時代の「平面マクロ」(匠の写真用語辞典第5回記事)
では、最初からそういう用途(医療、学術、複写)を想定した
コンセプトで設計されたレンズもいくつかあったのだが、
近年ではこうした特性を持つマクロレンズは珍しいので、
本 E30/3.5のこの特徴を欠点とは思わず、むしろ用途を定めて
積極的に活用するのが良いであろう。
_c0032138_17241133.jpg
本レンズでは、描写特性を除いた欠点もある。
まず無限回転式ピントリングであるから、最短撮影距離が指の
感触ではわからず、結果MF操作には向かず、AF頼りになる事だ。
しかし、NEXシリーズ等の初期SONYミラーレス機はコントラスト
AFのみの搭載であり、AF精度があまりよろしく無い。

特に本レンズの場合、近接付近でオートマクロ動作が入って
いる様子も見られ、特定の距離範囲では、ピント精度の狭間に
なって、ほとんどAFではピントが合わなくなる。
この状態でのピント問題は「重欠点」のレベルだ。

だが、後年のαシリーズ・Eマウント機での像面位相差AFを
組み合わせた「ファスト・ハイブリッドAF」を使えば、若干
マシになるとは思う。しかし本E30/3.5の場合は、当初販売
時点では、ファスト・ハイブリッドAFには対応しておらず、
それを有効にするには、レンズ側のアップデートが必要だ。
が、手順が少々面倒なので、まだこのアップデートはやって
いない。現状本レンズは、NEX機で使う事が殆どなので関係
ない訳だ。(追記:本記事執筆後に、この課題を放置した
ままではまずいと思い、SONYの像面位相差AF搭載機を経由
して、レンズ側をVer.02にアップデートした。
像面位相差AF機では、AFの課題は、だいぶ改善された模様
ではあるが、逆に同機能の非搭載機(NEX-7等)での用途が
減ってしまった(組み合わせると低性能で面白く無い)
ので、なんだか良し悪しあったかも知れない)

また、WDが短い特徴があるが、それは前述のDT30/2.8と
同様に、長所にも短所にも成り得る。

価格が比較的安価なので、SONY E/FEマウントユーザーで
あれば、持っていても悪く無いレンズではある、しかし
この個性的な描写特徴は、被写体をかなり限定すると思うので、
「この1本を持っていれば、Eマウント用マクロとして十分」
という状況には、まずならないので、必ず他のマクロレンズを
(Eマウントでも、他マウントでも)併用する必要があるだろう。

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では、次のマクロレンズ。
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レンズ名:OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm/f3.5 Macro
レンズ購入価格:22,000円(中古)
使用カメラ:OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited (μ4/3機)

レンズ・マニアックス第7回記事等で紹介の、
2016年発売のμ4/3専用単焦点標準画角マクロレンズ。
レンズ単体で等倍を越え、1.25倍の撮影倍率となる。
_c0032138_17242096.jpg
オリンパスでは、本レンズの撮影倍率をμ4/3からフルサイズ
に換算し「2.5倍相当のマクロレンズ」と呼んでいる場合も
あるが、本記事の冒頭に述べたように、現代では、もはやその
撮影倍率の定義もあまり重要な意味を持たなくなってきている。

さて、本MZ30/3.5であるが、価格が比較的安価でありながら
十分な描写力を持つ事が長所である。
「解像力重視」という設計コンセプトがある点は、近代マクロ
としては良くある話なのだが、かといって、それらのレンズに
よくある「ボケ質の汚さ」または「ボケ質破綻の発生」の
頻度はあまり多くは見られない、
すなわち、「バランスが取れた高性能マクロレンズ」である。

レンズ構成は6群7枚と、数字だけ聞けばあまり複雑には見えない
が、DSA(Dual Super Aspheric=大偏肉両面非球面)、
EDA(Extra-low Dispersion Aspheric=特殊低分散非球面)
などの新型ガラス素材を使っていて、気合の入った設計だ。

ただ、「新技術を使えば常に良くなっている」という訳では
無い事は言うまでも無い。ある時代のある瞬間に出てきた新技術
は、その後の時代まで生き残れるかどうか?という点が課題だ、

具体的には、製造や素材コストが適正か否か? あるいは他社が
その新技術をさらに上回る最新技術を投入してきた際でも、
性能優位性を維持できるか否か? その技術は自社の固有な
ものであるかどうか?などの点である。
これらの「技術競争」により、数年後になって初めてその新技術
が本当に有益であったのかどうかが判断できる訳だ。

あえてこの時代のみで評価するとすれば、オリンパスは元々
医療分野において世界初の内視鏡を作ったなど、「マクロ」が
ひとつの看板商品となっている。銀塩時代からを通じて、
優秀なマクロレンズを開発し販売する事は、オリンパスの企業と
してのブランドイメージを維持する意味でも重要な命題であり、
まあつまり、高性能なマクロレンズが多かったという歴史だ。

この傾向はデジタル時代に入っても当然続いているのだが、
ミラーレス時代に入ってからのオリンパスマクロレンズの
ラインナップ数はあまり多くはなかった(2012年発売の
M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm/F2.8 Macroがあったのみ)
_c0032138_17242032.jpg
本MZ30/3.5は、2016年と遅ればせながら発売された(標準)
マクロであるが故に、オリンパスのブランドイメージ維持の為
の気合が入ったレンズであると思う。価格があまり高価では無い
事は、この時代、フルサイズ一眼レフ陣営に押され気味である
μ4/3の普及戦略として、赤字覚悟の「出血大サービス」の
可能性もあると思う。(=エントリーレンズ的な企画方針)
よって、本レンズは、価格からすれば「コスパの良いマクロ」
と見なす事が出来るだろう。

弱点であるが、ミラーレス機の例に漏れず、AF精度が足らず、
近接ではピントが合い難いのが大きな課題だ。
(注:E-M1等、像面位相差AF搭載機では若干マシになる)

加えて、これも毎回毎回書いている、ミラーレス機用レンズ
の殆どで採用されている無限回転式ヘリコイドの問題がある。
これではMF撮影は致命的と言えるまでの操作性の悪化を招いて
しまうのだが、E-M5Ⅱにおいては、S-AF+MFモードで使えば
「AFが合わなかった場合」にのみ、MFに容易に移行は可能で
その際、MFアシスト機能も自動的に使用する事ができる。

ただ、この設計思想は「AFが主体で、MFは、あくまでAFが
合わない場合の補助」というスタンスであろう。
本来であれば、近接撮影では、ほぼ100%がMF撮影だ。よって、
このシステム設計思想は、一般撮影(ズームレンズを主体とした
中遠距離撮影)では有効だが、マクロレンズや、(被写界深度
が浅い)大口径単焦点レンズを使った場合での撮影には適さない。

まあ、カメラを含めたシステムそのものに問題があるという事
であり、本レンズの描写力そのものには、まず不満は無いだろう。

なお、被写界深度合成やフォーカスブラケット等のオリンパス
μ4/3機(概ね2010年代後半よりの機体)の新鋭機能には、
本レンズは対応している。(ただし、それらの追加機能は
母艦側で、それらを呼び出す操作系があまり練れていない点が
大きな課題だ。また、深度合成等は、手持ち撮影では非常に
難易度が高くなるのも弱点だ。三脚使用オンリーであれば
せっかくのユニークな機能も用途制限が厳しくなる)

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さらに、次のマクロレンズ。
_c0032138_17243235.jpg
ユニット名:RICOH GR LENS A12 50mm/f2.5 MACRO
レンズ購入価格:24,000円(中古)
使用カメラ:RICOH GXR(A12 ユニット使用時APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第1回,第10回,第28回,第70回
ハイコスパ第17回等、多数の記事で紹介した2000年代末の
AF単焦点標準画角1/2倍(ハーフ)マクロユニット。

本レンズにおける50mm表記はフルサイズ換算画角であり
レンズの実焦点距離は33mmとなっている。
_c0032138_17243297.jpg
何度も紹介しているレンズなので、殆どの長所と短所は
書き尽くしている。おまけに、GXRは古いシステムであり
「仕様老朽化寿命」が来ている事から、今からの入手は
もはや手遅れであり、全く推奨が出来ない。

結局、いまさら書く事は殆ど無いのであるが、まあいつもの
紹介記事の抜粋として長所と短所のみ簡潔にまとめれば

長所:
・上手くピントや撮影条件が決まった場合の、とんでもなく
 優秀な描写力、この点では、下手をすれば近代の最新鋭
 マクロにも勝てそうで、感動的と言える描写表現力を持つ。
・その高描写力が小型軽量のGXRシステムで得られる事。

短所:
・AFでもMFでも殆どピントが合わない。
 なので、実用レベルでは使い物にならない。
 まあこれはGXRシステムが最初期のミラーレス機であった為
 時代背景的な技術レベルの問題であり、やむを得ない。
・現在このGXRシステムは勿論生産完了、古くて中古入手も
 困難であるし、無理して入手しても、仕様老朽化寿命により
 実用性が殆ど無い。

まあ、すなわち、もう過去の時代のシステムであり、現代に
おいて紹介する価値もあまり無いものだ。

で、1つだけ注意点だが、本システムではなくても、古い時代の
レンズとかカメラで、かつ現代では入手困難である状況において、
「非常に写りが良い」等の過剰で偏った評価がされる事が良くある。
そういった場合、そのレビューを読んでいる側は、その機材を
持っていないし、入手も困難だから、その真偽を判断しようが無い。

そして写りが良いと言った側において、例えば作例写真が掲載
されていたとしても、それがどれくらい手間をかけて撮られた
ものだかは良くわからない。

具体例としては銀塩時代のCONTAX (RTS) Planar 85mm/f1.4は、
大変良く写るレンズとして「神格化」されてはいたものの、
ピント精度やボケ質破綻の問題で、まともな写真が撮れる成功率
は私の経験上、約3%程度であった(36枚撮りフィルム中、1枚程度
まともに写っているものがあれば嬉しい、という比率)

つまり、そういう「凄い写りの写真」の裏には、膨大な数の
「ボツ写真」が隠れていたケースも多々あるという事だ。
そうした機材の評価・評判を信じて買った他のユーザーは
機材の性能的な弱点で「あれ?上手く撮れないよ」と思っても、
その事は公表しない、だって他の人がちゃんと撮れているならば
自分が撮れないのは、自分が下手である、という事を認めて
公表するようなものだ、だからそういった「ネガティブな情報」
は絶対に世の中には出て来ない。

だから、良い写りの「現物証拠」があったとしても、それを
頭から信用するわけにはいかないのだ。写真を撮る行為には
有限の時間しか無い、ひたすらP85/1.4で一生撮り続けるのは、
業務撮影はもとより、たとえ趣味撮影においても無理な話だ。

さて、RTS Planar 85/1.4の例に限らず、本GXR+A50/2.5も
恐らくは、もっと歩留まり(成功率)が低いシステムであろう、
撮影時点ではピントが合っているから、3%以下という事には
ならないとは思うが、そもそも撮影前にピントが合わない状態
が続くので、ジーコ、ジーコと無駄な動きをするAFシステムの
回数まで考慮すれば、このシステムでの成功率は0.5%以下か、
もっと低い比率でしか無い。

で、もう1つの課題。そういった「入手困難」の機材に対して
好評価が発生すると、元々レア物の中古相場が際限無く高騰して
しまう事だ。つまり「それだけ良い、凄いと言われているならば
何としてでも入手して、その写りを確かめてみたい!」という
願望が消費者側(特にマニア層)に現れるからだ。

下手をすれば、そうやって相場を吊り上げたい(高く売りたい)
からが故に、過剰なまでの高い評価をしている人が居るのでは
なかろうか? と、疑った見方すらできてしまう。
_c0032138_17243294.jpg
本GR LENS A12 50mm/f2.5 MACRO も、そろそろ入手困難品
となっている。これに対して、過剰なまでの好評価をしてしまう

と、相場が上がってさらに入手不能となったりするし、
その原因が本ブログの評価だ、などと言われたらかなわない。

それに、こういう事は「逃がした魚は大きい」という、一種の
変な自慢(錯覚)と同じであり、今現在で評価がしにくいものは、
どんどんと妄想が膨らんで、「あれは凄かった!」などの
根拠の無い話になってしまうのだ。(その実例は多数ある)

要は、機材はそれが販売(中古流通含む)している時点において、
ちゃんとその機材の真の実力や価値を見抜き、必要とあれば、
その時点で購入する事が、「マニア道」として重要な事だ。
入手困難になった機材を、いつまでも未練たらしく思っていても
意味の無い事だ、それは失恋をした相手にいつまでもグズグズ
した感情を持ち続ける事と同様で、前向きな状況では無い。
その機材が入手不能であれば、もうすっぱりと諦める事だ。

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では、今回ラストのマクロレンズ。
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レンズ名:HD PENTAX-DA 35mm/f2.8 Macro Limited
レンズ購入価格:26,000円(中古)
使用カメラ:PENTAX KP (APS-C機)

レンズマニアックス第13回記事で紹介の、2013年発売の
APS-C機専用準広角(標準画角)AF等倍マクロレンズ。
_c0032138_17243752.jpg
当該紹介記事でも書いたのだが、旧来のPENTAXのsmcコーテイング
からHDコーティングに置き換わった時代のレンズである。
勿論HDコーティングの効果は逆光耐性の向上など、そこそこの
改善効果はある。・・と言うか、それ以前の時代のsmcでも十分に
優秀であったし、逆に一部の安価なsmc DAレンズ群の中には正直
言えば逆光耐性が低いものもあったのだ、これは安価に設計する
上での性能上の限界点であったかも知れず、smcは古くて、HDが
新しくて良い、等とは、簡単に決め付ける訳には行かない。

本レンズの長所であるが、まずその描写力は
バランスが取れた性能であり、他の近代マクロレンズのように
変に解像度優先で設計されてはおらず、様々な被写体状況に
おいて汎用性が高く、なかなか使いやすい。
レンズ自体の仕上げも良く、金属質感すら無いが、デザインが
優れているので、あまり不満は無いであろう。
有限回転式のピントリングを採用している為、MFで使う場合が
殆どのマクロレンズとして、及第点である。

しかし、今回の母艦のPENTAX KPでは、ライブビュー時にのみ
ピーキングが出る、という一眼レフでは希少な機能を搭載して
いるものの、光学ファインダーは旧来の型式であるから、
フォーカスエイドの他は、何一つMFをアシストする機能は無い。

このあたり、現代のミラーレス機に比べて、デジタル一眼レフ
でのMF操作は、だいぶビハインド(遅れ)が大きくなってきて
いて、正直言えば、デジタル一眼レフで、マクロレンズや
MF大口径レンズ(注:これらを「精密ピント合わせ型」と
呼んでいる)を使いたく無くなってきている。

それから、PENTAX-DA型レンズであれば、まだ機械式の
絞り込み機構であるので(=電子制御や電磁絞りでは無い)
絞り込みレバーを搭載したKマウントアダプターを購入すれば
MF性能に優れた任意のミラーレス機で使用が可能なので、
AFを殆ど使わない本レンズのようなマクロでは、その方が
簡便に利用できる可能性がある、という事になる。

前述のように、ミラーレス機用純正マクロは、無限回転式の
ピントリングの問題で、MF操作に向かない為、こういう課題の
回避方法もありうるという事だ。
であれば、PENTAXの例で言えば、絞り環のあるDFA/FA型
マクロや、さらに古い時代のA型マクロであれば、一般的な
アダプターで使え、操作性も良いからさらに有利となる。

ただ問題なのは、このクラス、例えばFA50/2.8 Macroは
当時のAF時代(1990年代)としては極めて優秀なマクロでは
あったが、さすがに近代のマクロレンズ(例:本HD35/2.8
は、FAの時代よりおよそ20年後だ)に比べてしまうと、
色々と描写力上の課題が見えてきてしまう、という事だ。

それから、SONYのαフタケタ機(デジタル一眼レフ)であれば
EVF方式であり、優秀なピーキング機能を利用できる、
しかしながら、α(Aマウント)用のマクロレンズは
ミノルタ時代の1980年代~1990年代あたりから設計を変更
されておらず、これも当時としては極めて優秀ではあったが
現代の最新マクロに比べると見劣りするであろう。
そこで例えば、本記事冒頭のDT30/2.8であるが、これは
エントリーレンズであるから、そこまでの高い描写力を
期待するには荷が重過ぎる。

結局、一眼レフを見ても、ミラーレス機を見ても、近代の
描写性能を持ちながら、近接撮影での操作性にまで優れる
マクロシステム的な組み合わせは殆ど有り得ない状況だ。

例外としては、新鋭のフォクトレンダー マクロアポランター
65mm/F2を、SONY FEマウントで使用した場合なのだが、
レンズマニアックス第10回記事で評価・紹介した通り、
当該MAP65/2は、重量バランスや操作性に若干の課題を持つ
レンズである。それに、そもそも高価すぎてコスパが悪い。

結局、どんな機材をどう組み合わせたとしても、有益な
マクロシステムを構築する事は難しい。なので今回はもう
安直に一眼レフ用マクロを一眼レフで使っている訳だ。
勿論PENTAX KPとHD35/2.8の組み合わせではAF主体となり
かつその精度は期待できない、屋外(フィールド)撮影では
なおさらであり、風で揺れる被写体などには、AFではまず
ピントが合う事は無い。

これはボディKPやレンズの性能が問題では無く、AF一眼
マクロシステムにおける構造上の限界点であると思う。
昔から、こういうシステムではピントが合った試しが無いのだ。
被写界深度が浅すぎるし、そこまでの超絶AF精度は、仮に最新
のシステムであっても、とこにも存在しない。
MFに切り替えても、一眼レフの光学ファインダーでは厳密な
ピント合わせは困難だ。

だが、一眼マクロシステムが実用範囲外、という情報はあまり
世の中には流れていない。まあ、それは例えばこうした一眼
マクロシステムで10万枚以上とかの膨大な撮影経験がある
人など、そうそう多くは無いと思うし、仮に数百枚程度撮った
だけでは、ピントが合いやすい、合い難いといった評価も
殆ど出来ない事は明白なので、評価のしようが無いのだ。
_c0032138_17243770.jpg
まあともかく、一眼用マクロシステムは相当に使い難い事を
承知の上で買う必要があるだろう。とは言え、ミラーレスの
システムでも同様であり、あえて言えば銀塩時代のMFマクロを
ミラーレスで使えば操作性的には快適だが描写力はかなり劣る。

結局、これらの課題を全てを根本的に解決できるシステムは
殆ど存在しない、だからまあ、あれこれの不満とかでイライラ
とせずに、あまり気にしないで使うしか無い、という事になって
しまうのだろうか・・

---
さて、ここまでで「最強50mmレンズ選手権」における
予選Kブロック「50mm相当AFマクロ」の記事は終了だ。

この予選Kブロックは「コスパに優れる」レンズ多かったので
あるが、決勝戦に進むには絶対的なパンチ力には少々欠けると
思われる。総合評価は多岐に渡るのでコスパが良いだけでは
勝ち残れない訳だ・・

次回の本シリーズ記事は、予選Lブロック
「50mm相当トイレンズ」となる予定だ。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(29)AiAFニッコール単焦点

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やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に紹介するシリーズ
記事。
今回の記事では、ニコン製交換レンズで、AiAF NIKKOR銘の
1980年代~1990年代の単焦点AFレンズを5本紹介する。

かなりオーソドックスなレンズばかりで「特殊な」という
要素は全く無いが、まあシリーズ中、たまには、こういう
記事があっても良いであろう。
カメラは、全てNIKONデジタル一眼レフを使用する。

なお、Ai AFとスペースを開けるのが正式名称だと思うが
本記事では、適宜スペースを省略してAiAFと記載する。

それと、近年のNIKONのWebでは「Ai」では無く「AI」と
記載されているが、旧来、ずっとNIKON製品では「Ai」と
記していた筈である、どこかで大文字に変更したのか?
(カタログや実機では、[Ai]というマークが残っている)
またはWebが全て間違っているか?の、いずれかだろうが、
本記事では旧来からの慣習に沿って「Ai」と記載する。

(まさか、「AI(人工知能)技術」が流行しているから、
その技術を使っていると勘違いさせる為の確信犯とか?
WEBの検索ヒット率を上げる(例:AI レンズ と検索する。
検索時には大文字小文字の区別が無くても、検索結果に
AIと書いてあるのを見つけたら、見に来る人は出てくる)
為の措置では無い事を祈るが・・ そんな小さい事で
40年間も続いてきた伝統が崩れてしまうのは勿体無い。

ちなみに、近年のNIKONのWEBでは旧製品の名称の誤記
も目立つ。まあWEB制作担当者が、皆、カメラマニアだ
という訳でも無いだろうから、やむを得ない話か・・

それと、NIKONに限らず、昔からいつの時代においても
製品名の誤記は、様々な資料上で極めて多い。
(実機上の記載と、説明書記載名が異なる場合すらある)
だから、「まとめ情報」「まとめ記事」等においても、
正規に出典文献の記載があったとしても、その引用文献
が常に正しいという保証はまるで無いので、要注意だ。)

また、「ニッコール」はレンズ上では、「NIKKOR」と
全て大文字で記載されている為、以下もそれに習う。

絞り値表記は、NIKONでは、f/ または1:2.8等の記載が
正式だが、本ブログでは独自の記載法としている。
(注:メーカー毎に独自の記法や名称をつけている事は
現代的な標準化・汎用化の風潮からは賛同できない為、
本ブログ開設当初から折衷案としての記載法を取っている)

こういう細かい事は、私もあまり言いたくは無いのだが、
世の中のWEBや書籍には間違った情報がいくらでもある。
実際にカメラやレンズを見れば書いてある事を間違って
いるので、それらは機材を所有すらしていないで情報提供を
行っているという事であり、どうにもそれが気に入らない。
「自分が所有していない機材の評価等は、してはならない」
というのが本ブログでの強い持論である。

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では、まず最初のAiAFニッコール
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レンズは、NIKON Ai AF NIKKOR 85mm/f1.8D
(中古購入価格 23,000円)
カメラは、NIKON D2H (APS-C機)

1994年発売のAF中望遠レンズ。D型対応品である。
軽快でハンドリング性能が良く、描写力もまずまず、
それらから、汎用的な被写体に向く中望遠レンズであり
非常に長期にわたって趣味/依頼撮影に役立っている。

より大口径のAiAF85/1.4では、被写体状況を選び、
歩留まり(成功率)が低い事が気に入らず、それを譲渡
して本AiAF85/1.8に買い換えて満足した、という話は、
様々な本レンズの紹介過去記事に書いた通りだ。

現代となっては、コントラスト、逆光耐性、解像感、
ボケ質破綻等で、色々不満(古さ)も感じられるが、
「室内での使用に特化する」など、使い方を考えれば、
まだまだ現役で使える。
利便性の極めて高い、コスパの良いレンズである。

カメラ本体はデジタル最初期のNIKON D2H(2003年)
を使用する。古い事は確かだが、このシステムで撮った

枚数はかなり多い。現代において使うには、発色傾向や
画素数(僅かに400万画素)において厳しいが、まあ
当時の雰囲気も味わってみよう。
では、以降、本システムで撮影した写真を交えながら
記事を進めていく。
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さて本記事で紹介するAiAF銘NIKKORレンズは、無印(S型)
またはD型である。AiAF銘は、概ねNIKON銀塩一眼レフの
AF化時代から銀塩末期(デジタル化以前)の範囲で
使われていた名称であり、1986年~2000年の発売だ。

これらのAiAFレンズには絞り環があり、現代のミラーレス機で
マウントアダプター経由で使う上では、露出制御に関しては
絞り込み(実絞り)測光となるが、実用上では何も問題無い。

勿論Ai対応であるから、例えば、銀塩機では1970年代の
NIKON F2A(銀塩一眼レフ・クラッシックス第2回記事)
以降、F3、F4あたりの時代の1980年代のNIKON銀塩機で
使う上では、絞り環の直接操作で、露出に矛盾は起きない。

また、1990年代以降(NIKON F5等)のNIKON銀塩一眼レフ
や、2000年代以降のNIKON製デジタル一眼レフで使う際には、

絞り環を最小位置(オレンジ色となっている)にセットすると、
カメラ側の電子(コマンド)ダイヤルで絞り値を制御できる。

それと、NIKON Df(2013年)等の現代機では、絞り環と
電子ダイヤルのどちらで絞り値を変えるかを設定可能だ。

つまり、現代のデジタル高級機で使っても何ら問題が無い。

で、無印(S型、1980年代後半~1990年代前半)と、
D型(1990年代前半~2000年)の何処が違うのか?と言えば、
D型は、ピントリングに「距離エンコーダー」が入っている。
(Dは、恐らく「Distance」=距離、の略称であろう)

が、これの意味はエンジニア以外の一般層にはわかり難く、
その為、1990年代の「第一次中古カメラブーム」の際には、
初級マニア層やシニア層は「NIKONのD型レンズは最新型
だから良く写る。無印(やS型)は買ってはならない」と、
大きな誤解をしている人が(残念ながら)殆どであった。

しかし、新型のD型が売れれば(下手をすれば、S型等から
買い換えてくれれば)メーカーあるいは流通業は儲かる。
また、D型の原理と効能がわかっている中上級マニアであれば、
中古市場に流通が増えた旧S型のレンズを、安く買えば良い、
だって、レンズの中身は全く同じだからだ。

結局、D型が売れる事で、誰も損をしないから、D型とS型の
差異については、市場ではあまり追求される事は無かった。
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では、D型の「距離エンコーダー」とは何をするものなのか?

以下、恐らく本記事の大半を費やすくらいの膨大な解説と
なるが、これは各レンズの紹介よりも、むしろ重要な事だ。

それに、ニコン機のユーザー層は、その大半がビギナーか
あるいはベテラン・シニア層であっても、写真関連技術の
内容をまったく理解していない事で、ビギナーと同等の
ケースが殆どだ、この事実は非常に気になるのであるが、
ここでは、その件は深堀りしない。
以下、あくまで、D型レンズの話に特化していこう。

なお、説明の途中で、適宜紹介レンズを交換していく。

さで、ではD型レンズの「距離エンコーダー」であるが、
簡単に言えば「AFまたはMFにより、ピントがあった際に、
そのピントリングの(合焦)距離が、カメラ側に伝わる」
という仕組みだ。

これによる効能だが、カメラ側が十分に賢ければ(つまり、
撮影距離をパラメーターとする各種の計算式が入っていれば)
露出計とかフラッシュ(ニコンではスピードライトと呼ぶ)
の露出・露光の精度が上がる「かもしれない」という事だ。

何故「かもしれない」と書いたかは、距離に対応したとしても
露出値等を決定する事は、そう簡単なものでは無いからだ。

かつて銀塩NIKON機ではNIKON FA(1983年、現在未所有)
で、世界初の多分割測光方式を採用したが、この方式は、
ただ単にハードウェア的な部品を搭載すれば、それで
(露出の)性能(精度)が上がる、という訳では無い。

このFAの5分割測光においては、5つの画面上の場所の、
どこが明るく、どこが暗い際に、どんな露出値を提示するか、
という計算方式(=一般にアルゴリズムと呼ぶ)があって、
それの良し悪しで、露出精度がまるで変わってくるのだ。

露出計算アルゴリズムの考え方の具体的をあげる。
下図のようにカメラの5分割測光部に番号をつけよう。
[1] [2]
 [3]
[4] [5]

この5分割で、横位置構図での撮影の際、画面の明るさが、
1=明、2=明、3=暗、4=中、5=中 という輝度(測光)
値が得られたとしよう。

これは具体的にば、1と2は空、3が人物、4と5が地面等、
ビーチや観光地での逆光状態だったという感じの輝度分布だ。

この場合は、1と2の明るい空の輝度値を無視して、3の人物と
4,5の地面の明るさから、カメラは露出値を計算すれば良い。
すると、暗部と中部が多いので、多少プラス気味に補正された
露出値が算出される、という事になるだろう。

他にも、明暗の分布パターンに応じて、様々に露出計算式は
変わるだろう。計算式で出すかデータベースを参照するかは
まちまちだと思うが、こうした露出決定の方法論全般が
「アルゴリズム」(計算の手順、手続き、算法)になる。

後年、NIKON F4(1988年、銀塩一眼第15回記事)では、
この5分割測光での輝度パターンを1~2万点のデータベース
(DB)から参照して露出を決定するアルゴリズムが採用された。

その話を聞くと、「数万点のDB」というのは、一見凄い量に
聞こえるけど、たとえば1つの測光部が、明~中~暗の輝度を
8段階(=3bitという事)で測れたとすると、これで測光部が
5つあるから、その組み合わせは8の5乗=32768通りになる。
データベース参照数は、この総組み合わせ数より少ないので
輝度を8段階では測っておらず、もっと粗い段階数で
計算していたのだと推測できる(例:7段階で約16000通り)
(あるいは、同じ輝度パターンが重複していたのか?だ)

これをパターンマッチング処理で参照していたのか、あるいは
一般的な計算式に落とし込んだのかは、アルゴリズムは非公開
である為にわからない。当時のCPU周辺のROMの容量は少ないと
思われるので、計算式か、あるいはニューラルネットワーク
を使ったとしても、シンプルな樹形探索とか、そんな感じか?
これをDB(データベース)化していたとしても、1データ
あたり数Byteで、計数十KByteがせいぜいであろう。

だが、こうした技術論はともかく、実際のNIKON F4の露出
精度は、当時の他社機・他機に比べてダントツであった!

ネガはもとより、ポジ(リバーサル)でも、ほとんど意図
通りの露出値が得られ、この結果、絞り優先などのAE時に
露出補正の必要性が皆無に近い。この為、NIKON F4の
露出補正ダイヤルに「ロック機構がついている」という
「致命的とも言える重欠点」を、ほぼ回避する事ができた。
(=露出補正ダイヤルを使わないから、使い難くてもOK)

なので、F4の場合「露出決定アルゴリズムが優れている」
という評価になる、これで既に実用上は何ら問題が無い。
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だが、1990年代初頭、時代はバブル期である。世の中は
「もっと凄いもの」を要求していたので、エンジニアは
この(NIKON F4で)既に完成の域に近かった技術をさらに
改良する事を求められただろう。

その結果「では、露出決定のアルゴリズムに被写体までの
距離の情報を、さらに加えたらどうだろうか?」という
アイデアが発案され、その結果として、レンズ側から
(合焦)距離の情報をカメラ側に伝達する、すなわち
「距離エンコーダー」内蔵型の「D型」レンズの新規開発と、
カメラ側で、その距離情報を前述の「露出決定アルゴリズム」
に追加する「3D マルチパターン測光」(注:これはNIKON
での名称、他社はそうは呼ばない)の技術が開発された。

その初搭載は、NIKON F90(1992年、未所有)である。

同時期にD型レンズの発売が始まった。しかしながら
レンズ構成は殆ど全てが旧来の無印(S型)と同じである。

つまり、カメラ側が、3D測光等の計算方式を採用していない
限り、これまでのレンズと露出値や写りは何ら差が無い。
だから、たとえば既に(高価な)NIKON F4を使っている
アマチュアのブルジョワ層が「D型レンズに買い換えたら
良く写るようになったよ、さすがに新型だな」と言っても、
それは完全な「誤解、思い込み、錯覚」に過ぎない訳だ。

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説明が長くなってきたので、ここで紹介システムを交換する。
2本目のAiAFニッコールだ。
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レンズは、NIKON Ai AF NIKKOR 50mm/f1.4S
(中古購入価格 16,000円)
カメラは、NIKON D300(APS-C機)

1986年発売のAF大口径標準レンズ。
1991年に後期型となっている模様だが、両者の何処が違うの
かは良くわからない(最小絞り位置のロック機構の有無か?)

本レンズは、銀塩MF時代1977年発売のAi NIKKOR 50/1.4
の設計(レンズ構成)を踏襲していると思われる。
1980年代の一眼レフのAF化は大事業であったし、当時は
ズームレンズの開発に各社とも注力していたと思われ、
多くの単焦点レンズは、安易にMF版の中身のままでAF化
されただけのものが殆どであったのだ。

ところが個人的には、この時代か、または少し前の時代の
NIKON製の50mm/f1.4レンズの描写特性は好みでは無い。

だが、本レンズを中古で入手した1990年代では、私も
そこまでのNIKONレンズの歴史的な変遷を理解していなかった。
だから、購入はしたものの「なんだか好みでは無いなあ・・」
という印象をずっと持ち続けていて、もっぱらMFまたはAF
時代の50mm/F1.8小口径標準レンズを主力としていたのだ。

まあ、という事でNIKONのF1.4版標準は、あまり好きな
レンズでは無いが、たまには使ってあげる事にしよう。
現代においては、私は「レンズの性能に問題点があれば、
その事には文句を言わず、その弱点を回避して使うべし」
という考え方に変わっている。
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さて、D型レンズの距離エンコーダーの話に戻る。

では、距離を加えた露出アルゴリズムはどういう感じに
なるだろうか? もう既にF90の時代(1992年)では、
5分割ではなく、さらに分割数が増えているが、ここは仮に
前述のNIKON FAと同じ5分割パターンだったとしよう。
[1] [2]
 [3]
[4] [5]

ここで、1=明、2=明、3=暗、4=中、5=中の輝度分布でも
この場合の、3での合焦距離(注:当時の多くのAF一眼
レフは中央1点測距である)に遠近の差があったとする。

この輝度パターン全体が遠距離にある場合、これは、風景等
という可能性も多々ある。だから、1、2の明部の輝度値を
あまり大胆に無視する事なく、全体を平均的に捉えて
露出値を計算して提示する必要があるだろう。

しかし、同じ輝度パターンで合焦距離が数mという近距離で
あった場合、ここで3の暗部は、恐らくだが、人物などの
逆光被写体だ。だから、ここでは3を適性かまたは、やや
プラス気味の露出となるような計算結果を出せば良い。
つまり、同じ輝度分布パターンであっても、撮影距離が
変れば、正解と思われる露出値も異なって来るという事だ。

けど、これらの露出決定アルゴリズムは、あくまで
写真家などの経験的なノウハウを用いて「これが適正で
あろう」という平均的・標準的な露出値として決められる
ものであって、これが常に正解という訳では無い。

例えば「逆光の人物」をシルエット的に表現したい場合も
当然あるだろう、だから、いくら距離情報がついたからと
いって、常に露出精度が劇的に向上するとは限らない。

まあ、精度が向上するのは「フラッシュ(スピードライト)
の調光」であろう、これは距離が近いと、フラッシュ光は
強すぎる場合が多々あるので、距離を測って調整して
貰った方が助かる。事実、この時代のニコンのフラッシュ
(スピードライト)は、明るさが丁度良い(調光が優れて
いる)事で定評があったのだ。

だが、これについても他社では、TTL調光技術(フラッシュ
から光が発せられ、被写体からの反射光をレンズを通して
(Thru The Lens=TTL)測り、強すぎる場合等では、フラッシュ
の発光量またはカメラの露出値を調整して適性露光を得る)
が発達し、時代を追ってそれらの性能は、ほぼ同等になる。
(=もし他社より劣っていると、商売に負けるからだ)
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ニコンは、さらに1996年のNIKON F5(銀塩一眼第19回)
では、被写体の色まで判別して露出精度を高めようとする
「3D-RGB測光」技術を採用した。F5は、発売時期こそ
遅かったが、バブル期に企画されたバブリーなカメラで
あったのだ。
誰もが、びっくりするような「超絶性能」を与える事が
その機体の製品コンセプトであった訳だ。
・・ただ、もう、どう見ても「やりすぎ」である(汗)

この時期が丁度「第一次中古カメラブーム」でもあった
事で、私は非常に多数の銀塩一眼レフを入手し、それらを
実際に使って撮り比べていた。
すると、その分割測光における「露出決定アルゴリズム」
において、カメラ毎の性能差が大きい事に気がついた。

それもその筈、カメラ側は「こんな値でどうでしょうか?」
と単に提案してくるだけだが、その計算方式は無限に考え
られるし、そもそも初心者向けとか、上級者向けの露出値
すら有りうる。たとえば前述の「逆光人物撮影」において、
これを安易に露出値をプラスに持ち上げようとすることは
初級者に対しては「人物撮影で失敗し難い」事で利点だが、
その結果、背景がすべて白トビしてしまったら、上級者層
には、「ここまで背景を真っ白にしたく無いんだよね。
ここは人物は多少アンダーになっても背景のトーンをもっと
残したい」という高度な意図があるかも知れない訳だ。

で、この頃から、私は銀塩カメラの「分割測光」機能を
あまり使わなくなってしまった。
だって「カメラの中で、どんな風に露出値を計算して
いるかが全くわからない」訳だから、非常に不安なのだ。

デジタルであれば、撮影後にすぐ結果を確認できるが、
フィルムでは撮った後、現像に出すまで、どう撮れたかは
わからない。そんな状態において、「誰がどういう意図で
考えたかも良くわからない、分割測光のアルゴリズム」に
全幅の信頼を置くなど、到底できるものではなかったのだ。

だから、銀塩末期やデジタル初期では、主に中央重点測光が
メインであり、仮に複雑な光線状況で、露出が良くわからない
(つまり経験則が生かせない)状態では、運を天に任せて(笑)
分割測光を使う事もあった。デジタル機では、少しこれの
精度が上がってきていたので、分割測光を良く使うものの、
露出値が気に入らず、再生画面を見てから頻繁に露出補正を
行っていた(だから露出補正の操作性・操作系が優れた
カメラでないと、お話にもならなかった時代だ)

私が分割測光をメインとして使い始めるのは、およそ15年
以上が過ぎた2010年代からだ、この時代のミラーレス機
において、カメラが提示する露出値が、やっとEVF等に
反映されて撮影前に感覚的に理解できる状態となった。
気に入らなかったら、その場で露出補正をかけてから
撮れば良い。これで、事実上、分割測光のアルゴリズムの
良否は無関係となった訳だ。

・・という事で、長々と説明してきたが、D型レンズの
効能は上記の通りだ、決して「無印(S型)に対して新型
だから写りが良い」と言う訳では無いのだ。

いつの時代でも、カメラの初級中級ユーザー層は、
「なんとか、・・という新しい技術が出来たから」と、
必要以上に、新技術や新機能に期待してしまい、それらに
安易に飛びついてしまう。
まあもっとも、現代ではカメラ市場が縮退している為、
そういう新しいもの好きのユーザーが居ないと、本当に
市場が崩壊してしまう危険性もあるので、むしろどんどん
新しいカメラを買って貰えれば良いのであるが・・

それにしても、少しわかっている中上級ユーザー層で
あれば、新技術や新機能の原理や効能をちゃんと理解して、
新規機材の購入を検討するのが良いであろう。

その新技術が、自身の利用目的にマッチしないと感じる
ならば、あえて「型遅れ」となった旧機材を安く買う
選択肢も多いにある。「新製品の、自分には不要な新機能」
が入っていない事で、旧機材を安価に買えるならば、
「願ったりかなったり」の状況だからだ。

ただ、ここも又、皆がそうした「えげつない買い方」を
してしまうと、さらにカメラ市場縮退が進んでしまうので
この是非については、なんとも言えないところだ。
むしろ、何もわからずに新機能や新技術を単純に盲信する
消費者が沢山増えてくれた方が、世の中の皆が助かるの
かも知れない訳だ・・


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では、ここでまたレンズを交換する。
3本目のAiAFニッコール
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レンズは、NIKON Ai AF NIKKOR 20mm/f2.8S
(中古購入価格 30,000円)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)

1989年発売のAF超広角単焦点レンズ。
またしても個人的には嫌いなレンズである。
元となったレンズは、1984年発売のMFレンズ
「Ai NIKKOR 20mm/f2.8S」であろう、
これをAF化しただけのものだ。

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何故嫌いなのかは、「コスパが悪い」からである。
まあ要は、数が出ず、売れていないから高い訳だ。

ここで銀塩MF一眼レフ時代(概ね1960年代~1980年代前半)
における、交換レンズ市場の話を述べておく。

銀塩MF時代のカメラユーザー層は、単焦点レンズを中心に
ラインナップ(=所有している目的別レンズ群)を組む事が
普通であった。当時からズームはあったが、単焦点レンズに
大きく見劣りする性能でしかなく、しかも高価であった。

ビギナー層は、今も昔も、カメラは買っても交換レンズを
殆ど購入しない。その理由は「どれを買ったら良いか
わからない」と「レンズが高価すぎる」からである。
ここは様々な他記事でも何度も説明しているので、今回は、
これ以上の詳細は割愛する。
例えば、匠の写真用語辞典第9~10回記事あたりに詳しい
ので適宜参照されたし。

で、それでも「せっかく一眼レフを買ったのだから、
レンズ交換をしないと意味が無い」と考える初級中級層も
勿論居る。その際に、銀塩MF一眼レフのキットレンズである
50mmの次に買うレンズは、広角であれば28mm、望遠の方は
135mmである。これで、広角、標準、望遠の3本セットが
揃い、最低限のシステムとしては、これで十分だ。

さらに凝ってくれば、それに加えて、24mm,35mm,85mm
105mm,200mm,300mm,マクロレンズ、あたりから、
適宜、撮影目的に応じて数本を購入する程度であろう。
これで、ほぼ中上級者向けのセットとなる。

だが、それ以外の特殊レンズは、まず誰も購入しなかった。
例えば、魚眼、20mm以下の超広角、F1.4を下回る超大口径、
400mm以上の超望遠、その他特殊用途(ソフト、シフト等)
である。
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さて、20世紀の工業製品の経済原理は、「沢山製造し、
沢山売って、原価を下げる、または、品質を安定させる」
という好循環の元に成り立っていた。これが20世紀の後半に

日本製の工業製品が世界を席巻した大きな理由の1つである。
つまり「高性能で、品質が良く、しかも安価だ」という事だ。

ここから余談であるが、SF小説の世界で「ロボット三原則」
というものがある、これは作家アイザック・アシモフ氏
(1920年~1992年)により考え出されたものだが、
彼の存命中には、勿論、高度な知能を持つロボットは
存在していなかったので、あくまで想像上の産物だが、
これは以下となる。(長いので原文からは適宜省略する)

・第一条(人間への安全性)
 ロボットは人間に危害を加えてはならない(以下略)

・第二条(命令への服従)
 ロボットは人間から与えられた命令に服従しなければ
 ならない。(以下略)

・第三条(自己防衛)
 ロボットは、第一条および第二条に反しないかぎり、
 自己を守らなければならない。(適宜略)

まあ、大変よくできた原理である。この原則はアシモフ氏の
1950年の「われはロボット」(I Robot)の著書に書かれて
いた事が始まりだが、後年には、あらゆるロボット工学分野
に定説として広まる。たとえば、かの「鉄腕アトム」も
この原理に沿って行動をする模様が何度も描かれているし、
後年において実際にロボットが作られるようになった上でも
この原則がロボットの基本行動原理として使われている。
(また、上記「われはロボット」の小説の原題は、後年に
ロボット掃除機のメーカー名「iRobot」にも使われた)

で、他の国内SF作家においては、この「ロボット三原則」
をもじった「家電製品三原則」も唱えられ、それはつまり
「安全である」「使い易い」「壊れ難い」となっている。

つまり、よくよく考えてみれば、このロボット三原則は
ロボットに限らず、あらゆる工業製品において、必須の
要件となっている訳だ。もちろんカメラも同様であろう。

「安全で、使い易く、壊れ難い」そして前述の
「高性能で、品質が高く、安価」という要素が加われば
ますます最強な訳だ。

ちなみに、牛丼チェーン店大手の「吉野家」のキャッチ
フレースも「早い、うまい、安い」であって、
(注:時代に応じて、これらの単語の順番は違う模様だ)
まあ、そうした「三要素」「三原則」のようなものが、
あらゆる商品全体において普遍的に存在するという事に
なるのだろう。

余談が長くなったが、話を少しづつ元に戻していこう、
「なぜ、AiAF20mm/2.8がコスパが悪いのか?」という
話だ、だが、また答えにはたどり着かない。

話が長丁場になるのはやむを得なく、このあたりで、
レンズも交換しておく、4本目のAiAFニッコールだ。
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レンズは、NIKON Ai AF NIKKOR 28mm/f2.8S
(中古購入価格 12,000円)
カメラは、NIKON D70(APS-C機)

1986年発売の、AF広角単焦点レンズ。
あまり特徴のあるレンズとは言えず、これも個人的に
好みでは無いが、まあ、このレンズの話は置いておいて、
状況をもう少し深堀りする。
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1986年は、NIKON AF一眼レフの元年と呼べる年であり
この年にNIKON F-501が発売されている。
ちなみに、同じ1986年に発売された Ai AF NIKKOR
単焦点レンズは24mm/f2.8、28mm/f2.8、50mm/f1.4、
50mm/f1.8、180mm/f2.8、300mm/f2.8の
6本があるが、まあだいたい使用頻度の高い焦点距離で、
かつMF時代から定評があったレンズを、AF化で焼き直し
したものが殆どだ。

で、このあたりが前述の「20mm/f2.8がコスパが悪い」
という話とからんでくる。
ここで言う「使用頻度の高い焦点距離」がポイントだ。

使用頻度と言うよりは、ユーザーにおける必要性であり
さらに言えば、多くの消費者層が買うか否か?である。

前述のように、単焦点主体のラインナップを組むユーザー
層における、この時代(AF初期)の中級者の典型例を
挙げるとすれば、24mm(MF時代のもの)、28mm(AF)、
50mm(AF)、90mmマクロ(他社品)、135mm(MF)、
180mm(AF or MF)、まあ、こんな感じであろう。

つまり、先の話の続きを述べれば、20mm以下の超広角
レンズなど、誰も必要としていなかったのだ。

でも、メーカーの「レンズ製品ラインナップ」上では、
超広角から超望遠までズラリと揃えなくてはならない。
「どんなニーズにも応えられるシステムですよ」という
風にアピールしなくてはならないからだ。これはいつの
時代でも同様であり、交換レンズの種類が乏しいメーカー
やら新マウントは、消費者側では魅力を感じない。

(参考:1970年代のOLYMPUS OM-SYSTEMの開発時
において「宇宙からバクテリアまで」何でも撮れる
ようにと、交換レンズのラインナップを充実させよう、
という企画コンセプトがあった。
また、1985年の「αショック」(MINOLTAが、初の
実用的AF一眼レフα-7000を発売した)の際でも、
本当に凄かったのは、α-7000等のカメラ本体の
AF性能では無く、広角から望遠まで、極めて多数の
AFレンズをラインナップした事が高く評価されていた)
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で、20世紀型の工業製品の原理においては、売れる商品は
好循環が発生して「性能が高い、品質が良い、安い」と
なるが、数が出ない商品の場合は、研究開発費の償却やら
部品単価のコストアップ、金型償却費、営業経費といった
全ての要素が積みあがって高価になる。
よって、性能や品質に対する価格の比、つまりコスパが
極めて悪化してしまう訳だ。
(ちなみに、AiAF20/2.8Sは、本レンズAiAF28/2.8Sの
2倍以上高価な、64,000円の定価であった)

なお、これは中古で買ってもコストダウンできない。
「ニコン製品の中古相場は定価の60%である」というのが
銀塩中古市場での暗黙の了解であった、だから様々な
コストアップにより定価が高かったレンズは、中古でも
やはり割高な事は否めない。

ここまでの話を総括すれば「売れないレンズは高価だ」
という、ごく当たり前の経済原理に行き着く。
よって、「高価なレンズは、高性能で良く写る」という
理屈にはならないので、ここは十分意識する必要がある。

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さて、ここで今回ラストのAiAFニッコール
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レンズは、NIKON Ai AF DC-NIKKOR 105mm/f2D
(中古購入価格 70,000円)
カメラは、NIKON D500(APS-C機)

1993年発売のAF大口径中望遠レンズ。
レンズ上の記載ではDC-NIKKORの間にはハイフンが入る。
DC機構については、ミラーレス・マニアックス第35回
記事等、多数で紹介しているので今回は割愛するが、
結構難解な機能なので、本レンズを正当に評価している
事例は少ない事はポイントである。
(つまり、皆、良くわかっていない)
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本レンズは、D型のみの販売で、前機種は無いし
後継レンズも無い。まあ、ボケ質を制御するならば、
アポダイゼーション光学エレメントを利用する方が
有利だと思われるので、時代(技術)の過渡期的な
レンズなのであろう。

(アポダイゼーションも過去記事で多数紹介しているが、
近年では、本シリーズ第0回記事「アポダイゼーション・
グランドスラム」でも詳しい)

まあでも、本レンズは悪く無い。価格が高い(発売時
定価は12万円、現在でも中古相場は8万円程度する)
のが難点ではあるが、唯一(注:他にDC135/2がある)
の機構であれば、一般的に言うコスパは無視できる。
つまり、必要とするか否か?という選択だ。

DCの原理が難解な上に、一眼レフの光学ファインダー
では、効能も良くわからない。
古いレンズなので、勿論手ブレ補正や超音波モーターで
武装されている訳でも無い。
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ただまあ、個人的には好きなレンズである。希少なDC機構が
ついた、この極めてマニアックなレンズを買うかどうかは
もう消費者側の判断にまかせるしか無い事であろう。

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さて、今回の記事「AiAFニッコール単焦点」特集は、
このあたり迄で。難しい話が続いたが、単に、公開されて
いる情報や、容易に推測可能な情報を纏めただけの話だ。
これを難しいと思ってしまう以上、もう、それでは完全に
ビギナー層であろう。

そう、現代においては、NIKON機のユーザー層の大半が
そうしたビギナー層である。だからそうしたビギナー層に
向けての企画・仕様上の様々な問題点がニコン機に存在
している。(例:新機能や高度な機能は、ビギナー層が
不用意にそれを使わないように、わざわざ使い難くしている)
この課題が、ニコン機を実用的に使おうとする中上級者層に
とっては、非常に大きな問題点となる訳だ。

そして、ニコンは高付加価値型メーカーだ。本来であれば、
先進的で高度な機能を搭載した優秀なカメラやレンズを
売って行きたい筈だ。なのに、実際のユーザー層はそれとは
正反対で、新機能が、いったい、どういう原理や効能なのかを
全く理解する事すら出来ないビギナーが大多数という状況だ。
ここがニコン機やニコンレンズに係わる大きな矛盾点となる。

次回記事に続く・・

銀塩コンパクト・クラッシックス(3) OLYMPUS μ-Ⅱ LIMITED/RICOH ELLE

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本シリーズは、所有している銀塩コンパクトカメラ
(ハーフ判、35mm判、APS判)を紹介していく記事だ。
今回は、1990年代の普及版AFコンパクト機
(35mm判フィルム使用)を2台取り上げる。

まずは、
OLYMPUS μ-Ⅱ (LIMITED)
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原型は1997年に発売されたμ(ミュー)-Ⅱであるが、
本機は記念モデルとして外装の異なるμ-Ⅱ LIMITEDで、
1998年の発売だ。
他記事でもチラホラと何度か紹介した名機である。

本シリーズでは紹介機でのフィルム撮影は行わず、デジタル
のシミュレーター機を使う取り決めであるが、今回は
フルサイズ・ミラーレス機のSONY α7と、装着レンズは
スペックが同じOLYMPUS OM-SYSTEM ZUIKO 35mm/F2.8
を使用する。
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なお、後述するが、この一眼レフ用交換レンズよりも、
本機μ-Ⅱの搭載レンズの方が高画質だ。
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さて、オリンパスにおいては、第1回記事で紹介した、銀塩
PENシリーズは1980年代迄のロングセラーが続いていたが、
AF時代に入ると、さすがにPENの性能や仕様では古すぎた。

オリンパスはAFコンパクト機でもμシリーズ(1991年~)を
展開してヒット作となり、μの累計販売台数が1000万台に
到達したのを記念した限定モデルが、本機μ-Ⅱ LIMITEDだ。

(注:オリンパスでは、先年2018年に、銀塩PENシリーズの
累計販売台数データを1700万台→800万台に下方修正している。
銀塩PENよりもμ(ミュー)の方が売れたとは思い難く、この
1000万台の記念も、現代となっては信頼できる数字では無い)

これ以前、AF時代に入る前の1980年代には、オリンパスは
名機「XAシリーズ」を展開していた。
スタイリッシュで高性能なそれもまた人気が高く、これらの
結果、1980年代~1990年代には、オリンパスは一眼レフ
(OM)を殆ど新設計していなかったのにも係わらず、こうした
コンパクト機の人気によりカメラ事業が支えられていた状況だ。

XAシリーズも、ペンやOMと同じく天才設計者の「米谷」氏に
よるものだ。「XA」は所有していたが、デジタル時代に入って
知人に譲渡してしまい、現在は所有していない。
「XA」は元々人気の商品ではあったが、マニュアルで設定する
要素が多く、一般大衆向けには、やや敷居の高いカメラでも
あった。

後年、XAがマニア間で有名になったのは、1990年代発売の
「銘機礼賛」というカメラマニア向けの書籍の中に、
「オリンパスXAの女」という叙情的な名作エッセイがあって、
それを読んだマニアが、こぞって「XA」を欲しがった事がある。

この結果、1990年代後半には中古入手困難となってしまったが、
2000年代のデジタル時代になってポツポツとXAの流通が復活、
そして2010年代には、いったいどこからどう話が変わったのか?
「若い女性のフィルムカメラ入門機にXAは最適」という話となり
近年では、XAやXA2の中古が結構な数で流通していた模様だ。

「オリンパスXAの女」の原作は、主人公の浮気相手の若い女性が
浮気がバレた事から、彼女は一人でXAで写真を撮り始め、ついに
注目の新人写真家となるのだが・・(以下、ネタバレ省略)
・・という、まあ、ちょっと切ない話だ。
別に「若い女性はXAを使うのが良い」という話では無いのだが・・

余談が長くなった、私がそのロマンチックな「XA」を保有し
続ける事を辞めてまで、本機「μ-Ⅱ」を残したのは、私が
思うところの銀塩AFコンパクトの最高傑作機が本機「μ-Ⅱ」
であるからだ。
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「μ-Ⅱ」(LIMITEDも同じ)の仕様だが、
35mm判フルサイズ銀塩コンパクト
レンズは、非球面35mm/F2.8、4群4枚(テッサーでは無い)
3点AF、最短撮影距離35cm(自動マクロ)
最高シャッター速度は非公開、非表示
高精度フラッシュ(オートカラーバランス、ソフトフラッシュ等)
見やすい実像式ファインダー、簡易防水機能、超小型軽量(140g)

と申し分が無い。

露出制御はプログラムAEのみだが、元々35mm/F2.8程度の仕様
のレンズで絞り値を色々と変更してもあまり写真表現効果は無い。
まあ、少し暗い状態か低感度フィルムでは、絞りが開放近くと
なり、近接撮影で使う事で背景を軽くボカして撮る事も可能だ。
(ただしシャッター速度が非表示なので手ブレには注意する)
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この搭載レンズの描写力は只者ではなく、当時最高クラスだ。


1997年にTV放送が始まったアニメ「ポケモン」と、その登場
キャラクターの「ミュウツー」にちなんで、本機はマニアの間で
「ポケットモンスター」(=ポケットに入る超絶性能機)と
呼ばれていた高性能カメラである。

今回シミュレーターとして使用している、1970年代のオールド
レンズOM ZUIKO 35mm/F2.8とは、約20年もの時代の開きがあり
同じカタログスペックながらも、写りは雲泥の差があるだろう。
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ただまあ、さらにそこから約20年が経過した現代においては、
「良く写る事だけがカメラ(レンズ)の価値では無い」という
風に世の中の考え方も変化してきており、なんとも言えない。 

単純な話をするならば、この時代1990年代にはトイカメラ
なるものは殆ど流通しておらず、存在していたとしても、
それらは「低性能なカメラ」として、誰も見向きもしなかった
状況だ。当時は「高画質なものが良い」という性能至上主義、
とも言えたかも知れないが、まあ現代はそういう時代では無い。

余談だが、カメラの世界より15年もデジタル化が早かった音楽
(音響、楽器)業界では、1980年代に録音技術や楽器のデジタル
化が進み、その進化が、ある程度頂点に達した1990年代には、
”高音質化”に反発した「Lo-Fi」(低音質志向)の流行が、
既に生まれていた位である。
それは当初は、ずいぶん異質な物に思われたが、なんなく音楽
シーンに定着し、その後、音楽は「何でも有りの時代」となった。

高級なHi-Fiオーディオセットで高音質なクラッシックやジャズを
聞くという志向性は今やごく一部のマニアにしか生き残っていない。
現代で音楽を聴くのであれば、ポータブル・オーディオ機器に
高性能イヤホンを組み合わせた方が音質的には優れている場合も
多々あって、これが安価で手軽で簡便だし、元々の音源(ソース)
も、全てが必ずしも高音質を狙ったものだけでは無い。

これは別に、どちらの手法が優れている、とか言う話ではなく、
「ユーザーのニーズに応じて、多種多様な楽しみ方が出来る」
という環境/時代になって来ている、という事だ。

カメラや写真もいずれ、音楽・音響の世界と同様に雑多な用途に
分別変化していくと思うが、その最初の15年間の時代の開きが
ある為、現代においても、依然「高画質な写真は良い写真」
という文化や常識が残っている部分が大きい。

ちなみに現代では、映画やTV CMの世界では、とっくに映像の
個性化が進んでいて、だた単に高画質な映像ばかりでは、もう
誰も目に留めない時代である。
高画質化をアピールするのは、4K/8K TVの店頭デモ位であり、
それとて実際に購入しても、いつでもHi-Fiの映像コンテンツ
が見たい(あるいはそういうソースが常にある)という訳では
無いであろう。
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余談が長くなったが、μ-Ⅱについて最後に1つだけ。


本機を2000年頃、酷寒の冬の北海道旅行で使った事があった、
他に色々と持っていった一眼レフ(機械式、AF式)等は寒さに
よる電圧低下やシャッター凍結等の動作不良を起こし、あるいは
室内の暖所との温度差でレンズに結露が発生して、使い物に
ならなかったが、本機μ-Ⅱは、簡易防水機能とか、それこそ
ポケットで暖めながら使える事などで、全く問題なく使用でき、
そのツアー中で最も頼りになるカメラとして活躍した。
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さて、ここで本機の総合評価を9項目で示す。

OLYMPUS μ-Ⅱ LIMITED 1998年
【基本・付加性能】★★★★
【描写力・表現力】★★★★☆
【操作性・操作系】★★★
【質感・高級感 】★★★☆
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★★☆
【購入時コスパ 】★★★☆ (新品購入価格28,000円)
【完成度(当時)】★★★★☆
【歴史的価値  】★★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.8点

かなりの好評価だ、この後の紹介の銀塩コンパクト群の中では
1,2を争うトップクラスである事は間違い無いであろう。
ちなみに、他記事では(評価の項目が違うが)本機は、
4点以上の高得点となった事もあり、疑う事無き名機である。
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惜しむらくは、本機は、単なる普及AFコンパクト機である為
現存している個体は少ないであろう事と、中古流通も殆ど無い
事である、今から入手するのは困難であると思える。

が、仮に無理して入手したとしても、20年前と今では時代が
異なる。当時の最高傑作機は、現代において使用したとしても、
最高のパフォーマンスを得られる保証が無いのは言うまでも無い。
そして、いくら良く写っても、現像するまでは、すぐに写真が
見られないのでは、やはりコントローラビリティは低いし、
フィルムの感度やシャッター速度と絞り値の関係で、本機が
良い写りを発揮できる状況も、現代のデジカメ程は幅広くは
無い。(夜間や室内ではまず無理)

---
さて、今回の2機種目

RICOH ELLE(エル)
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1997年発売の、35mm判普及AFコンパクト機だ。
レンズは単焦点30mm/F3.5を搭載している。

シミュレーター機の選択は、ちょっと難しいのだが・・
RICOHつながりで、PENTAX KP(APS-C機)を使用し
レンズは焦点距離だけ似ている FA31mm/F1.8 Limitedを
少し絞って使ってみよう。
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画角も画質も元のカメラとは、ずいぶんと異なるが(汗)
まあシミュレーター機の厳密性は本シリーズ記事での論点では
無いので、あくまで「雰囲気だけ」という事で・・
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さて、本機ELLEの出自や保有理由を記載していくのは長い歴史が
あって非常に大変だ、できるだけかいつまんで話をして行こう。

本機ELLEのルーツは、隠れた名機「RICOH R1」である。

1994年に発売されたR1は、本機と同じ30mm/F3.5、4群4枚
レンズを搭載した超薄型AFコンパクト機だ。このカメラは
後に、超有名機 RICOH GR1(1996年)のベースとなる。

「R1」には、パノラマモードがついている。
パノラマ写真とは、1990年代前半に流行した撮影モードで
フィルムの上下を切り詰めて撮影し、それをプリントすると、
横3対縦1の比率の、非常に横長な写真となる方式だ。
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(上写真はパノラマ写真の縦横比にトリミングしたもの)

ユーザーから見ればパノラマ写真は目新しさがあるし、カメラ
メーカー側は、その機構を搭載するのは技術的に難しく無いし、
DPE店側からすれば、その当時は「ゼロ円同時プリント」が始まり
かけていた時代であるから、なかなか利益構造が得られない
状況の中、パノラマプリントであれば、そこそこのプリント代が
取れたので、結果、皆が嬉しい(Win-Win)方式であった。

だが、通常の画角のレンズで撮った写真の上下を切り詰めても
横長なだけで、ワイドな遠近感のある写真にはならないのは当然だ。
そこで、「R1」には、パノラマモードとすると、上下から
フィルムを切り詰めるバリヤー(遮蔽幕)が出てくると同時に、
凹レンズが2枚追加され、6群6枚の24mm/f8のレンズとして
広角でダイナミックなパノラマ写真が撮れるという、凝った仕掛け
が内蔵されていた。

「R1」の翌年1995年に、小改良された「R1s」が発売されると
一部のマニア達は、新古または中古で安価になった「R1」を
入手した。実際にそれを使ってみると、汎用性の高い画角の
単焦点で、そこそこ良く写り、薄型で格好良い。
「これはコンパクト機としてなかなか優れているのでは無いか」
と、評価するようになったのだ。

ただ、当時はインターネットもまだ普及しておらず、あったと
しても「パソコン通信」の時代である。だから、こういう話は
殆どがマニア間での「口コミ」で広がっていったのである。

実はインターネットの普及の一因として、1995年1月に起きた
未曾有の大災害、「阪神淡路大震災」があると思われる。
この時、水道、電気、ガスなどのライフラインは途絶し、
電話の通信インフラも機能していなかった際、インターネット
だけは生きていたのだ。これが主な要因とは言い切れないが、
インターネット業界では、結構その話が伝説的に伝わっていて、
「インターネットは災害に強い」といった理由から、その後、
急速に、インターネットの通信インフラが整備されたのは、
確かな事実である。

ちなみに、この震災の時、ペットボトルの水が重宝された事から
それまで普及がまったく進んでいなかった、「普通の水」
(ミネラルウォーター)の販売が、その後いっきに広まった。
つまりそれまでは「水は水道管から出てくる、タダ同然のもの
高いお金を払って普通の水を買うなんて、とんでもない贅沢だ」
といった感じが世間一般層での常識であったのが、震災を機に
「水は貴重な物、命を救うもの、だからお金を出しても買う」
という風に市場認識が変化したと思われる。

(ちなみに現代では、さらに市場感覚が変化し、関西では、
大阪市、交野市、京都市等における水道水(高度浄水処理水)
が、逆にペットボトルで販売されている時代だ。
さらにちなみにだが、昨今のコロナ禍により、テレワークが
推奨され、TV電話通信等の普及が起こった。もう少し時代が
過ぎないとわからないが、これは恐らく、映像通信や、映像
サービスとしての歴史的なターニングポイントとなるだろう)
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さて、余談はともかく、「R1」や「R1s」を入手したマニアの
一部は、そのパノラマ機構に着目した。


「せっかく24mmの広角がついているのに、これをパノラマの
 モードでしか使えないのは勿体無い」という視点である。

で、「R1」のパノラマ遮蔽幕を良く見ると、片側(上側)だけ
降りないように押さえておけば、下からも上がってこない。
そこで、マニアの誰かが、遮蔽幕を降りないようにストッパー
をつけることを考えたのだ。
これで、パノラマモードではなくR1/R1sを、30mm/F3.5と
24mm/F8の「二焦点切替式カメラ」として利用する事ができる。
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この話をどこかから聞いてきた私も、慌てて「R1」を入手する。
そして、遮蔽幕をよく見ると、その下部にある小さい穴に、
爪楊枝を差込み、それを適切な長さでカットするだけ、という
ごく簡単な、30秒程で出来る改造を施すだけで、その「二焦点
カメラ」となる事を私も発見した。(上写真は本機ELLEだ、
本機にはパノラマ遮蔽幕は無いが、上記の穴は残っている)

嬉しくなって、R1に加えてR1sも入手、さらに後年には
「ローライ・プレーゴ・ミクロン」という、R1をローライの
ブランドでOEM化した製品(1995年製)も入手した。
その3台全てに、「爪楊枝改造」を施して使っていたのだ。

これらのカメラは、1990年代後半を通じて「旅行用」として
大変重宝した。30mmと24mmの広角系二焦点で風景撮りに
適し、しかも超薄型軽量であり、かつ安価だ(中古1万円程度)

旅先で紛失・盗難等のトラブルに見舞われても惜しくないし
海外旅行等でも、高価な一眼レフを下げていたら悪人に目を
つけられるリスクもあるが、この地味なコンパクト機ならば
全くその心配は無い。実際に何度かの海外旅行にも、R1系を
持ち出していたのだ。

ちなみに、FUJIFILM の「カルディア・トラベル・ミニ」
(1991年頃?)も、28mmと45mmの二焦点式であり、
このカメラも旅行用としてマニアには受けていた。
一度購入したが、あまり好みの描写ではなく(45mm側が
写りが悪い、という評判もあった)すぐに手放してしまい、
もっぱら「R1」系をこの目的に使った。


だが「R1」系も、しばらく使っていると、ちょっと気になる
点が色々と出て来た。


まず「R1」と「ローライ・プレーゴ・ミクロン」は、全く同じ
30mm/F3.5レンズを使っているが、これの写りがイマイチだ。
が、「R1s」は、そこそこ良く写った。

調べてみると「R1s」は、レンズのコーティングが変わっている
らしい。つまり「R1」の描写性能に問題があったから、RICOHと
しては、翌年にすぐ改良型の「R1s」を出した、という仕掛けが
理解できた訳だ(=R1sは、「ごめんなさい製品」である)

さらに問題点として、パノラマ機構を止めた24mm/F8の描写が
あまり良く無い。特に画面周辺の画質劣化が甚だしく、これでは
広角に改造した意味が無い。
これはまあ、改造をしたのは自己責任だし、メーカー側と
しても、本来のレンズ構成に、フロントコンバーター的に
2枚の別レンズが加わった状態に迄、画面全体での高画質が
保証できる話でも無い。

私は、これらの「R1」系に対し急速に興味を失っていた。
というのも「R1s」の翌年1996年に、同じリコーから「GR1」
が発売されたからだ。
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この「GR1」は高級コンパクトの走りとも言える名機であり、
(注:上写真は、後継型の「GR1s」)
その描写力は「R1s」とは比較にならず、しかも「R1」系の
30mmと(使えない)24mmの両者をカバーしうる広角28mm
仕様だ。 

私は、しばらくの間「GR1」と、その改良型の「GR1s」
(1998年)に夢中になり、いつのまにか、3台あった「R1」系
カメラは、全て譲渡したりして手放してしまっていた。


だが、2000年を少し過ぎた頃となって、当時発売されていた
各社高級コンパクト機も一通り買い揃えた頃、なんとなく、
それらに対する「過剰な期待」が重く感じるようになって来た。

と言うのも、本記事の1機種目で紹介した「μ-Ⅱ」の存在が
大きかったのだ。それは安価な普及機でありながらも、各社の
高級コンパクト機と同等か、下手をすれば高級コンパクトをも
上回る描写力を魅せてくれたのだ。
「だったら、高級コンパクトって何? 高性能レンズとか、
 チタン外装とか言っているけど、結局、高いだけじゃん!」
と、捻くれた感覚を持つようにもなって来た。

折りしも1990年代にあれだけ流行った「第一中古カメラブーム」
は沈静化の傾向にあった。それはその当時からチラホラと出現
していた「デジタルカメラ(デジタル・コンパクト)」が実用の
レベルに近づいて来た事もあったし、あるいはカメラブームは
結局、その後期には「投機の対象」となってしまっていて、
まるで1990年頃のバブル期での土地の売買のように、業者等が
組織的な売買で価格を吊り上げていたような傾向も見られ、
おまけに、カメラブームに乗った大メーカーまでが、高価な
マニュアル機の新製品まで(=投機専用機として)作るように
なると、私は、それらに踊らされ、沢山の「高すぎるカメラ」
を買った事を深く反省するようになった。

いやまあ、カメラを買うのは、マニアならばやむを得ない、
それがカメラマニアの本能だからだ(笑)
しかし「無駄に高価すぎるカメラを買うのは良く無い!」と
強く思った。

「カメラは、その性能や価値に見合ったコストがあるはずだ」
私はそう考え、「コストパフォーマンスの悪いカメラ」には
以降、まるっきり興味が無くなってしまった。

ただ、コスパを意識する為には、それらのカメラの正しい性能や
価値を見抜く眼力が必要となる。それ以降、カメラについての
猛勉強が始まったのだ。

前置きが非常に長くなったが、やっと本機に関する話題だ。
2000年代初頭、「もう、つまらないカメラは買わない」と
思っていた私の前に、ひょっこりとRICOH ELLEの中古が現れた。
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私は勉強した知識で、このカメラの購入前評価を行う。
「え~と、これの中身はR1sと同じだった筈だけど、パノラマが
 省略されていたな。まあでも、たとえ遮蔽幕の改造をしても
 ”使えないパノラマモード”であれば、無くても同じかあ・・
 これまでGR1sとか使ってきたけど、持っていくのが、どうも
 ”重いん”(大げさ)だよね、マニアとかが、”お、GR1ですね”
 とか、わかったような、わからならいような話をして来るし・・
 まあ、GR1のように気取って使う必要も無いシーンで良いかな?」

私は、中古カメラ店の店長に話しかける
匠「おっちゃん、このELLE(エル)って、いくら?」
店「女性向けでマニアには売れないしね・・ 4000円でいいよ」
匠「じゃあ買います」
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つまらないカメラかどうかは微妙だ。
しかしコスパは抜群に良い、後日調べてみると1999年の発売で
定価は32,000円もしていたのだ。
「R1s」譲りのレンズであれば、そこそこ良く写る事は知っている。

普通に持ち出して撮っても高価なGR1系である事を心配せずに済む。
つまり、落としたり、壊したりしても気にならないという事だ。
なにせ初代GR1は落下破損させたり、GR1の構造上の弱点である
モーターが壊れたりして、散々な修理代出費を強いられたのだ。
「だからGR1sに買い換えた」とも言えるのだが、結局GR1系は
総額で結構な出費になってしまった訳であり、こういう点でも
コスパが悪いカメラを買うと酷い目に合う、と思っていた。

あるいは、他人の目というのもある。あまり注目されない
カメラは海外等では逆に危険度も低い、と先に書いたが、
他のケースとして、例えば最新の「GR1v」(2001年)等を
持って来て自慢しているような、初級中級マニアの集まりに
行ったとしても・・

マ「おや、お宅のGR1は、まだ古いGR1sかい?ボクのはGR1vさ」
などと、鼻につく嫌な事を言われないでも済む(笑)

匠「このカメラ知ってますか? GR1の原点であった、リコー
  R1シリーズの、最終進化系ですよ~。
  ELLEって、フランスの雑誌とか、ファッションブランドで
  若い女性とかに有名なんですよ、ご存知??」
マ「へ~、そうなんだ・・(汗)」
と、逆に、初級マニア諸氏を煙に巻く事ができる(笑)

まあでも基本的に、「マニア道」としても、他人のカメラとの
比較などは、まるで意味が無い。
そもそも、カメラは写真を撮る道具であるし、そういう点を全く
無視した「機材マニア」(写真を撮らない)であったとしても、
それはそれで機材を収集する為の、なんらかの拘り(コンセプト)
があってしかるべきであろう。

ただ最新の高価なカメラを持っているだけで、それを自慢する
というのは、あまりにレベルの低い話であり、誰でも、お金を
出せば、それが出来てしまう事で、あくまで「初級マニア」
とか、「金満家」「好事家」といった世界の話だ。

それよりも、そのマニアが、いったいどういう観点から、その
カメラに目をつけたのか? といった論理性とかポリシーとか
趣味志向の話が聞けるのであれば、そのマニアの「価値感覚」も
合わせて見えてきて、とても興味深い話になる訳だ。

余談が長くなって、ちっとも性能の話とかは出て来ないのだが、
そういうのを必死に書く事は、もう辞めておこう。R1やR1sの
仕様とかは、世の中にいくらでも資料や情報が残っている。
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最後に、本機の評価を上げておく。

RICOH ELLE 1999年
【基本・付加性能】★★
【描写力・表現力】★★★☆
【操作性・操作系】★★☆
【質感・高級感 】★★
【マニアック度 】★★★★☆
【エンジョイ度 】★★★
【購入時コスパ 】★★★★☆ (中古購入価格4,000円)
【完成度(当時)】★★★
【歴史的価値  】★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.0点

評価は、ちょうど平均点になったが、マニアック度とコスパが、
飛びぬけて良い点数であったからだ、まあそれらを抜けば、
平均値以下の平凡なカメラであるのかも知れない。

しかし、1994年のR1から始まった「GRの血脈」は
カメラ史において非常に重要だ。

まず銀塩では、1996年には名機GR1に進化、そこから多数
の派生機が出てきて、デジタル時代に入ってからも、
2005年のGR Digitalとなり、さらには、2013年のGRや
2015年のGRⅡ・・と、現代にまで脈々と続く名ブランド
「GR」が、「R1」から始まったという事になる。
その「R1」の進化の中で派生して横別れした、最後の銀塩
機種が、本機「ELLE」である訳だ。

ちなみに最後に余談だが、本機「ELLE」には、姉妹機として、
2002年に発売された、ELLEのロゴが無い「RICOH R10」
という機種が存在した(中身は同じものだ)

これは銀塩末期の製品で、レアものであり、私も見た事が
無いのだが、その事はさておき、RICOHにはデジタル時代の
2008年に発売された高倍率ズーム搭載デジタルコンパクト
機の「RICOH R10」が別途存在している。

これ、もしかすると、全く同じ名称で被った(重複した)
カメラ名が存在する唯一の珍事例かも知れない・・(?)
だとしたら、むしろ珍しくて貴重か? 両者をコンプリート
するのは、とてもマニアックな話かも・・(汗)
(まあ、オススメはしないが・・)

ちなみに、MINOLTA α-7/α-9とSONY α7/α9は、
ハイフンの有り無しとメーカー名が違う。
同様に、PENTAX Z-50P(1993)とNIKON Z50(2019)も
メーカー名とハイフンの有無が違う。1990年代初頭の
PENTAX銀塩AF一眼レフZシリーズでは、パノラマ対応では
無い「Pなし」のモデルも多かったが、Z-50という製品は
偶然無く、Z-50Pがあるのみである。(注:NIKONでは
ミラーレス機Zシリーズにおいて、この時代のPENTAX Z
シリーズと微妙に被らない製品名を採用している模様だ。
PENTAX Z-1とZ-5は存在しているので、その理由から
NIKONの初代機は、Z6とZ7になったのではなかろうか?)

次回コンパクト機記事に続く・・

最強50mmレンズ選手権(12) 予選Lブロック 50mm相当トイレンズ

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所有している一眼レフ等用の50mm標準レンズを、AF/MF
や開放F値等によるカテゴリー別で予選を行い、最後に
決勝で最強の50mmレンズを決定するというシリーズ記事。

今回は、予選Lブロックとして「50mm相当トイレンズ」
をを6本紹介(対戦)する。

なお、「50mm相当トイレンズ」とは、定義が難しいが、
まず、一般レンズのように描写力を優先せずに、個性的な
描写傾向を持つレンズを「トイレンズ」と呼んでいる。
国内カメラメーカーの純正品は非常に稀であり、ほとんど
が海外製のサードパーティ・レンズメーカー製だ。

概ね非常に安価で、新品で数千円程度で購入できるが、
近年は、TILT機構搭載やぐるぐるボケ等の効果が出る
特殊レンズもトイレンズの一種と見なされるケースも
あり、そうしたレンズは高価(3万円~8万円程度)に
なる場合もある。

焦点距離や開放F値の仕様に関しては、各トイレンズにより
まちまちである。中にはあまり焦点距離という概念の無い
「ピンホール」(レンズ)も含まれているが、本予選
リーグでは、概ね50mm前後の画角となるものとする。

対応マウントも色々とある為、ほぼ全てのデジタル機
(一眼レフ、ミラーレス)で何らかのトイレンズを使用
する事が出来る、殆どが電子接点の無いMFレンズばかり
なのでマウントアダプターでの装着・使用も容易だ。

まあ、今回はあまり厳密にカテゴリーの条件を定義せず
適宜、条件に合いそうなトイレンズをここで紹介しよう。

なお、勿論であるが、描写は全て「Lo-Fi」(低忠実度・
低画質)である。トイレンズの場合は、より「Lo-Fi」
である事に価値がある為、世間一般での「Hi-Fi」志向
(高画質な写真を撮る)とは、まるで逆の方向性となる。

---
さて、まずは今回最初のトイレンズ。
_c0032138_19544678.jpg
レンズ名:HOLGA HL-PQ 10mm/f8
レンズ購入価格:3,000円(新品)
使用カメラ:PENTAX Q7(1/1.7型機)

ミラーレス・マニアックス第68回記事等で紹介の、
2010年代の中国製ミラーレス機用トイレンズ。

本レンズと同シリーズとして60mm/f8(一眼レフマウント用)
と25mm/f8(ミラーレス機マウント用)がある。
そして本10mm/f8はPENTAX Qシリーズ専用である。

10mmの焦点距離はPENTAX Q7に装着時には46mm相当
の画角で、すなわち標準画角相当になり、このカテゴリー
で紹介している。

_c0032138_19544666.jpg
さて、このレンズの出自であるが、既に、特殊レンズ
第3回「HOLGA LENS」編に詳しいが、軽く再掲しておく。

元々は1980年代頃から、中国製銀塩中判トイカメラの
「HOLGA 120シリーズ」があった。
その固定レンズが60mm/f8で、ブローニー(120)の6x6判
フィルムを使った。
スクエア(真四角、1対1)のフォーマットの写真が撮れるが、
搭載レンズはイメージサークルがやや小さく、周辺光量落ち
(≒ヴィネッティング)が出るのが特徴であった。

6x6判で60mmの焦点距離は、35mm判(フルサイズ)では
いくつか?

これはアスペクト(縦横比)が異なるので換算しにくいが、
対角線長を計算すると、6x6判が約80mmとなり、35mm判の
約43mmに対して、約0.55倍程度の焦点距離換算倍数となる。
この為、HOLGA120シリーズは、フルサイズ換算で約32mm
程度の準広角画角だ。


HOLGA120等のトイカメラは1990年代後半から2000年代
前半にかけ、特にアート系女性カメラマンに流行した。

HOLGA120(未所有)では、カメラ本体の価格は、さほど
高価ではなく、5000円もしなかったと思う。
(注:ただしフィルム代や現像代はそれなりに高額である)

プラスチックレンズによる独特な描写の甘さ、そしてシャッター
速度や絞りの制御も殆ど利かなかった為、露出はばらつくし、
レンズ収差や逆光耐性の低さ等で、現像してみるまでどんな写りに
なるか想像も出来ない。かつ、いい感じに周辺光量が落ちてくれる。

こうした、「Lo-Fi」感覚、あるいは、「突然変異的」な
アンコントローラブルな写真(匠の写真用語辞典第5回記事)は、
正攻法の写真に行き詰った等のアート系女性カメラマン達には、
「秘密兵器」としての役割を十分に持って、大人気だった。

さて、2000年代後半になると、時代は完全にデジタルであり、
トイカメラのブームは終息したのであるが、「Lo-Fi」のニーズ
は完全に消えた訳では無い。HOLGAは、120シリーズのレンズを
デジタル一眼レフのマウント用で単品発売した。

しかし、元々中判用の広いイメージサークルに対応していたのが
HOLGAレンズである。APS-Cまたはフルサイズのデジタル一眼では
周辺光量落ちが全く出ず、最初の商品は不評であった。

そこで2011年前後に、周辺光量落ちを出すレンコン状の特殊な
フィルター(ブラック・コーナー・エフェクト)を搭載した
「BC型」レンズにリニューアルされた。
が、60mmの焦点距離はAPS-C機や新鋭のミラーレス機では
かなりの望遠画角となって、HOLGAらしさを出しにくい事から
その後、ミラーレス(APS-C,μ4/3)用のHOLGAレンズは25mmの
焦点距離となって発売された。その流れで本HL-PQは、10mmの
焦点距離と、このシリーズの中では最も焦点距離が短い。

ただ、HOLGAのレンズは、周辺光量落ちが出るし、どの
レンズをどの(センサーサイズの)カメラで使うかでも、
ずいぶんとその様相が変わる(注:私は60mmを2本、25mmと
10mmを各1本の、計4本のこのシリーズを所有している。
全レンズは特殊レンズ第3回「HOLGA LENS」編記事で紹介)
だから結局「撮影画角」なんて、あって無いようなものなのだ。

で、描写力も「あって無いようなもの」である(汗)
解像感などは無いに等しく、ピントが合っているのか否かも
判断不能だ。Q7のピーキング機能も殆ど効かない。
_c0032138_19544681.jpg
「Lo-Fi描写」であるから、当然エフェクトとの相性が良い、
そしてエフェクト操作系に優れるPENTAX Q7であるから、
比較的快適に使え、「アンコントローラブル」にはならない
ギリギリの段階で「テクニカルに」使う事ができる。

ただ、このあたりを自在に制御することは、上級レベルの
(デジタル)カメラや画像に係わる知識や技能が必要だ、
なので、銀塩時代のトイカメラを使っていた初級中級層等では、
デジタルのトイレンズをカメラ側設定を含めて使いこなすのは
そう簡単な事では無いと思う。

結局、ターゲット・ユーザー層のプロファイルが良く見えて
来ない商品となってしまったのが、現代のトイレンズだと
思うのだが、それこそ「写真表現の為の秘密兵器」と捉えれば
どのユーザー層においても、極めて有効なアイテムであろう。

---
では、次のトイレンズ。
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レンズ名:Lomography Experimental Lens Kit 24mm/f8
レンズ購入価格:3,000円(新品)
使用カメラ:OLYMPUS E-PL2(μ4/3機)

ミラーレス・マニアックス第26回記事で紹介した、
2010年代のμ4/3機専用MFトイレンズセットの中の1本。
_c0032138_19551123.jpg
このレンズにはホルガのような大きな周辺光量落ちの特徴も
無いし、写りもさほどLo-Fiでは無い、画角もμ4/3機では
換算48mmと、普通の標準画角であるし、なんと言うか、
面白味に欠けるトイレンズであると思う。

3本セットで新品9000円(注:発売時定価。後年には在庫
処分で、半額以下で買えた)という安価な価格帯である。


本レンズ以外の2本は、魚眼風、12mm/f8広角であるから、
本24mmは余り個性がなく、どうしても使用頻度は低くなる。

なお、レンズ単体で多重露光が可能なレバーを搭載しているの
だが、カメラ側をバルブモードにして使う、などで面倒だし、
その際は露出値が不明となるので、あまり合理的な使用法とは
言えず、私は結局は使っていない。まあ、それをする位ならば
多重露光機能を搭載しているカメラで使うか、あるいはPC上で
「比較明合成」でも掛けたいところである。
(過去記事「比較明合成ソフトのプログラミング」参照)
この機能は、LOMOでも大々的には謳わず「実験的に多重露光
が可能」と記載がある。(まあ、それゆえに「Experimental」
=実験的 と言う商品名なのであろう)

さて今回使用のOLYMPUS E-PL2だが、初期ミラーレス機故に
AF性能が貧弱であり、ずっと「トイレンズ母艦」として使用
しているのだが、2011年の発売後から年月も経ち、いわゆる
仕様老朽化寿命が来ている状態だ。だが、その目的に適切な
後継機が殆ど無く(=トイレンズ母艦としての様々な条件を
本ブログでは定義しているが、その条件に見合うカメラが
ほとんど存在していない)少々困っている。
_c0032138_19551187.jpg
別にE-PL2でも問題無い、とは言えるのだが、トイレンズと
相性が良いエフェクトの種類が少ない事がネックなのだ。

別途所有しているOLYMPUS PEN-Fあたりとの組み合わせ
であれば、エフェクト表現力は十分なのだが、その場合は
やはり本ブログでのルールである「オフサイドの法則」
(カメラ本体の価格を、レンズ価格よりも高すぎる状態に
してはならない=何故ならば性能的にアンバランスだから)
にひっかかるので、そういう使用法は想定していないのだ。

本レンズはあまりトイレンズらしく無い要素があるが、
基本的に3本セットであるから、全体的な使いではある、
μ4/3機ユーザーならば購入検討の余地はあるだろう。

---
では、3本目のトイレンズ。
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レンズ名: KENKO PINHOLE (LENS) 02
レンズ購入価格:3,000円(新品)
使用カメラ:PENTAX K-01(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第59回、同補足編第5回、ハイコスパ
第7回記事等で紹介の、2000年代の市販ピンホール(レンズ)
_c0032138_19552070.jpg
今回使用しているPENTAX K-01は「ピンホール母艦」である。
本ブログでは、他にも「トイレンズ母艦」やら「エフェクト母艦」
「MF望遠ズーム母艦」、そして極めつきは「ノクトン母艦」という
特定のレンズ専用の機体すらあって、ともかく母艦の数が多い。

この理由は、そうした母艦になるカメラは、ほぼ必ず何らかの
性能的な弱点を持っている状況がある。
けど、その弱点は一般的な撮影シーン全体を見渡した場合の話
であって、上記の「ナントカ母艦」に仕立てあげた状態では、
そのカメラの持つ弱点が消えて、極めて使いやすいシステムに
変貌するのだ。(=「弱点相殺型システム」と呼んでいる)

具体的に今回の例で言えば、PENTAXの孤高のKマウントミラーレス
機K-01は、問題児とも言えるカメラであり、AF・MF性能が壊滅的
に低く、殆どのレンズで、まともなピント合わせが出来ない。

まあ普通は「こんなのはダメカメラだ!」と腹を立てて処分して
しまうところであるのだが、では、そのピントが合わないカメラ
にピンホール(レンズ)を装着したらどうなるのか?
ピンホールは、ピント合わせの必要が無い、つまりK-01のピント
関連の弱点は綺麗さっぱり消えてなくなる。

おまけにK-01は内蔵手ブレ補正や、自動で最高感度まで到達する
AUTO-ISO特性を持ち、優秀なエフェクト操作系では、撮影前に
エフェクト(デジタル・フィルター)の効果を確認(プレビュー)
しながらの撮影が可能だ。

つまりピンホール撮影時には何ひとつ不満の無いカメラとなる、
これが「ピンホール母艦K-01」の所以である。

こういう使い方をすれば、古いカメラでも「仕様老朽化寿命」を
あまり気にする必要がなくなるし、新しいカメラを買った際に
古いカメラの処遇に困る事も少ない訳だ。
(すなわち、一般的には新しいカメラを買えば古いものは不要に
なるだろうが、下取りをしても二束三文だし、かといって残して
おいても普通は使い道が全くなく、困ってしまう事であろう)

じゃあ、こういう「ナントカ母艦」の使い方はどうやって
見つけるか?といえば、まずはそのカメラの長所と短所を
良く自分なりに分析する事が第一(その”自分自身の為”という
目的もあり、本ブログではカメラの評価記事を色々と書いている)
さらに、所有しているレンズ群においても、やはり長所と
短所を考えてみる。
そこで、両者の短所と短所を組み合わせた場合、それが
短所にならずに、相殺できる条件を探し、考察する事だ。

そう簡単な事では無いとは思うが、「このカメラ(やレンズ)
の、ここが気に入らない」と、ブツブツ文句を言って、ストレス
を抱えながら撮影をするよりも、はるかに建設的で創造的な
事であろう、これが出来れば中級者の踊り場から脱却できる
と言っても過言では無いと思う。

ちなみに、ピンホール母艦でのピンホール+エフェクトの
撮影は、なかなか奥が深くてとても面白い。

購入時、AF/MF性能ともに壊滅的なK-01を見て呆然としてしまい、
「これはとても減価償却ルール(1枚2円の法則)は、クリア
できそうも無いな」と思ったのだが、ピンホールまたは広角系
のAF負担が少ないレンズを装着しエフェクトを積極的に活用する
事で、用途やエンジョイ度が向上、ものの数年で減価償却完了。
で、普通は、そのくらいのタイミングで後継機を買い増しする
のだが、生憎、この孤高のK-01に後継機は無い為、
「別の色のボディでも買っておくか?」と、一時期は真剣に
考えたくらいである。
まあ、実際には、やはり仕様老朽化寿命が顕著である為
(というか、発売時点の最初から性能が低い問題児だ)
色違いボディは(今のところ)購入していない。
_c0032138_19552051.jpg
最後に「PINHOLE 02」レンズの使用方法を書いておくが、
これはPマウントであり、M42マウントと、ほぼ等価だ。
(デジタル)一眼レフで使用する場合は、まず高感度機を
使う(ISO25600以上必須)、装着にはKENKOのPマウント
アダプター(NIKON、EOS用)を購入するか、市販のM42
アダプターでも利用可能だ、PENTAX機では(昔は安価で
あった)薄型の純正「マウントアダプターK」で利用できる。

そして内蔵手ブレ補正のある一眼レフのPENTAX(K),SONY(A)
ではM42アダプター利用でも、それが効く機種がある。
手ブレ補正焦点距離設定がある場合は、フランジバック長と
同じにする、だいたい45mmに設定すれば十分だ。

焦点距離という概念はほとんど無いが、フランジバック長と
同様の45mm前後になるであろう。
F値は45mm前後をφ0.2mmで割るので、およそF200~F250
になると思う。

ISO感度を12800~51200程度まで高めて撮れば、シャッター
速度が数十分の1秒となり、手持ち撮影が可能なのだが、
光学ファインダーは真っ暗で見えない為、ライブビューモード
とするか、勘でノーファインダーか、内蔵フラッシュを開けて
(発光禁止とし)その隙間を簡易ファインダー代わりにして
撮影する。

高感度の点を除けば銀塩一眼レフでも使用できる、その場合は
シャッター速度が1~8秒程度と遅くなるので、三脚使用か
あるいは、カメラをどこかに置いて撮影する。
この時の露出計算は難しいが、過去関連記事で説明済みだ。
で、さらに高度な技法を使うならば、長秒時露光中にカメラを
持ったまま振ったりして、特殊な表現を狙う事もできる。

ミラーレス機の場合は、M42マウントアダプター使用でOK
であり、他は一眼レフ同様だが、装着方法を工夫すれば、
(短い)フランジバック長の近くで使え、画角を広く、F値を
明るくする事も可能だ。
内蔵手ブレ補正を持つミラーレス機も多く、概ね、一眼レフ
よりもミラーレス機の方が使いやすいであろう。

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では、次のトイレンズ。
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レンズ名:自作ピンホール 約45mm/約f225
レンズ購入価格: 200円(注:材料代)
使用カメラ:PENTAX K-30(APS-C機)

レンズ・マニアックス第14回記事で紹介の自作ピンホール。

PENTAX Kマウントのボディキャップを元に作製。
銀塩時代に自分で作った物で、しばらく行方不明であったが
近年、カメラ用品の箱の中から発見できたので、再度使用を
開始している。
_c0032138_19552658.jpg
穴径は約φ0.2mm、偶然に真円度または工作精度が高かった
模様で描写力はさほど悪くない。

普通、自作ピンホールは穴の工作精度が出ずに、写りが悪い
等の問題が良く出る。そこで上記のKENKO PINHOLE 02等の
市販ピンホールが穴の工作精度の面で品質が高く、結果的に
使いやすいピンホールとなるのだが、自作でも運が良ければ
市販品と同等の描写力になる場合もある。

それに、もし変な写りのピンホールが出来たとしても、
それはそれで使い道はあるだろう。
なにせ、現代であれば、写真表現は「何でもあり」の時代
である、私も上記市販ピンホールを何度か使っていて、
「もっと面白い表現は得られないか?」と、ティルト(アオリ)
型アダプターを試した事もあった。もしピンホールでピント面を
傾ける事が出来るのであれば、それは新表現の発見になるからだ。

だが、実際にやってみたところ(ミラーレス・マニアックス
補足編第2回記事参照)ピンホールは、レンズではなく、
単に穴が開いているだけなので、ティルトでのアオリ効果は
一切出ず、がっかりした事もあったのだ。

であれば「穴の開け方がおかしい失敗ピンホール」とかの方が
むしろ面白かったかも知れない。

そういう考え方は、本記事での「トイレンズ」による「Lo-Fi」
感覚に近いものがある。
_c0032138_19552631.jpg
初級層、シニア層、マニア層、職業写真家層、などでは
「Lo-Fi」の概念は理解していないか、あるいはわかっては
いても使いたく無いか、そのいずれかであろう。
であれば、結局こうしたトイレンズとか、ローファイとかは
ごく限られた範囲でのユーザーしか使わないかも知れない。
でも確実に、この方向性は存在しているし、ここにハマる
マニアが居てもおかしくは無い、まあでも基本的にはこの手の
トイレンズは中上級層、しかもアート志向者に限定されるであろう。

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では、5本目のトイレンズ。
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レンズ名:LENSBABY MUSE (Double Glass Optic)
レンズ購入価格:6,000円+3,000円(MUSE新品、Optic中古品)
使用カメラ:SONY NEX-3(APS-C機)

レンズ・マニアックス第4回記事で紹介の、2000年代の
テイルト型特殊レンズ母体に、ダブルグラス光学系を
追加しての組み合わせである。
_c0032138_19553396.jpg
ダブルグラスはMUSEの交換光学系の中では、最もしっかりと
写り、50mm/f2、1群2枚のコーティング有りだ。
前機種である、LENSBABY 3Gの固定光学系と、非常に
良く似た写りをするので、同様な光学系ではなかろうか?と
推察している。


MUSE本体は、終焉してしまった4/3(フォーサーズ)マウント
版の新品在庫を安価に購入、それにはプラスティック光学系が
付属していた。後日、本ダブルグラスと、ピンホール&ゾーン
プレートの光学系を追加購入している。

4/3機に直接装着しても勿論使えるのだが、TILTレンズの場合、
ピーキング機能が無いとスイートスポットがわかりにくい。
よって、アダプターでNEX-3で使用しているのだが、この時の
4/3→Eアダプターは、普及品であり電子接点が無いので、
純正4/3レンズはピントも絞りも動かず、使用できない。
だが、こうしたトイレンズ系であれば、電子接点は何も無い為、
4/3→Eアダプターは単なるマウント形状の変換だけで十分だ。
_c0032138_19553987.jpg
さて、使いこなしであるが、あいかわらず、この手のLENSBABY
製のTILTレンズは難しい。レンズマニアックス記事の補足編で
「使いこなしの困難なレンズ特集」を行った際、LENSBABY 3G
とLENSBABY MUSEは、数百本のレンズ中、第3位となった。
これは「極めて難しい」というレベルであり、初級中級層はおろか、
上級層または職業写真家層であったとしても、こういう分野の
レンズの使用経験を沢山積まない限り、まず手に負えない事であろう。

だからまあ、LENSBABYを使いこなしている一般ユーザーなど、
実際には殆ど何処にもいないのだ。ごく一部のマニアだけが、
これを使う為に集中的に鍛錬して、やっと使えるようになる。
(注:こうしたユーザー層を、LENSBABY社やマニア層等では
  「フリーク」(=熱中する人)と呼ぶ事もある)
よって、これを買って、上手く使えなかったといっても落胆
する必要は無い、それほど難しいレンズであるからだ。

そして、極めてマニアック度が高いレンズなので、一般消費者
層での購入はあまり推奨できないが、「フリーク」になりたい
気があるならば、まあ、引きとめる理由は何も無い。

---
では、今回ラストのトイレンズ。
_c0032138_19555078.jpg
レンズ名:PENTAX 07 MOUNT SHIELD LENS 11.5mm/f9
レンズ購入価格:4,000円(新品)
使用カメラ:PENTAX Q (1/2.3型機)

ミラーレス・マニアックス第4回,第14回,第34回や
ハイコスパ第24回等、多数の記事で紹介の2013年発売の
Qマウント専用、個性派単焦点標準画角レンズ。

本レンズの重量は8gと、交換レンズ史上最軽量である。
そして、いわゆる「収差レンズ」である。
_c0032138_19555066.jpg
固定焦点であり、パンフォーカスになる程の深い被写界深度
を持たない為、数十cm~数m程度の中距離範囲の他空間は
ピンボケとなる、そして単レンズ(1枚)構成であるから、
画面の中央部分以外の周囲は画像が大きく流れてしまう。

これらから、被写体を三次元的に見た場合に、まともに写る
範囲としての「空間」は狭い。

ここの概念は初級層には難解だと思うが、簡単な例を挙げれば
たとえば野球で言うところの「ストライクゾーン」を想像
してもらえれば良い、この「ゾーン」は空間であって、
そこの何処かをボールが通ればストライクだ。

直球(ストレート)であれば、このゾーンは、ピッチャーや
バッター等から見て、ほぼ二次元的とも言えるのであるが、
スライダーやフォークといった変化球の場合は、三次元の
「ストライクゾーン」空間を掠めてもストライクとなる訳だ。
(つまり初級者においては、写真画角を平面的に見ているだけ
の状態であり、この三次元の空間画角の理解は難しい)

あるいは、アンダースローやサイドスローの投手であれば、この
ゾーンを通るボールの軌道は色々とアングル的なバリエーション
があるだろう、そこも三次元と二次元の差になる。

さて、では本07レンズの場合、まともに写る空間は三次元的な
「ゾーン」であるから、主要被写体がその範囲に入った場合と
そうで無い場合は、大きく写り方が異なってしまう。
_c0032138_19555113.jpg
「では、常に被写体をゾーンに入れるように意識して撮るのか?」
と言えば、そうであるとも限らない。

ここが写真を「記録」ではなく「表現」として捉える場合の
最も難しい点だ。まあ確かに写真を記録的な目的で撮るならば
どんな被写体であっても、ちゃんと写っている事が望ましい。

でも、それだけでは「表現」にはならない、つまりなんらかの
意図を映像に加えていかないと、写真としての意味が無いのだ。
ここは残念ながら、現代のベテラン層(シニア層)では完全に
理解不能な話であろう、今まで撮って来た銀塩写真の概念とは
文字通り、まるで「次元が違う」話だからだ。

近年、デジタル時代の写真の教科書などでは、カリキュラムが
進化し、やっとそうした「独創的・個性的な写真を撮る事が必要」
のように書かれて来るようになったが、ベテラン層等では、
今更そうした近代参考書を読む事も無いし、銀塩時代のままの
「写真とは真を写すと書く」(=あるがままに撮らなくては
ならない)といった、古い概念を持ち続けている。

先年「京都国際写真祭」というイベントがあり、様々な場所で
写真展示をやっていた、その中に「小学生の撮った写真展」が
あり、見学をしたのだが、学校ぐるみで、ちゃんと近代的な
写真教育を受けていて、視点や被写体の選び方が独創的だ。

写真選別のセンスも抜群で、ゴーストを入れての「成長」の
表現や、ジャンプしてブレた写真での「躍動」の表現など、
偶然か必然か、小学生とは思えない程の、かなり高度な表現力だ。
(まあ、指導講師が作品を選んだのだとは思うが・・)

100枚程度の写真は、どれも極めて面白く、子供特有の低い目線
や、凝視的手法(大人より視野が狭く、特定の被写体に注目
する度合いが大きい)も見られ、例えばシニア層等の撮った
綺麗な風景や花の写真などと比べて、はるかに印象的であった。
私は、会場に詰めて居た担当の講師を絶賛して帰ってきた。

さて、余談はともかく、もう少し説明を続けると、すなわち
ゾーンに入った部分と、そうで無い部分の対比をどう考えるのか? 
という事が本レンズ07では重要になってくる、その対比がうまく
いけば、このレンズは様々な個性的な表現力を持つ唯一無二の
レンズとなりうる。
_c0032138_19560354.jpg
加えてエフェクト(デジタルフィルター)の併用も重要だ、
基本的に本レンズは「ゾーン」が狭いのと、描写力が低いので、
まともな写りは望めない、まずそこをエフェクトの併用で
カバーすると同時に、掛けるエフェクトの種類で、なんらかの
異なる表現力(意味)を加えようと模索する訳だ。

そしてエフェクトには概ね、「空間フィルター系画像処理」
「色変換系画像処理」「ダイナミックレンジ系画像処理」
「領域分割系画像処理」など、いくつかのパターンがある。
これらの画像処理原理全般を理解するのは、工学専門家レベルの
知識が必要である。そして、それらのエフェクトが、どのような
被写体状況において有効か?とかは、もはや専門家でも理解や
想像は不可能であり、それこそ「神のみぞ知る領域」だ。
_c0032138_19561078.jpg
本レンズや、Q7を加えたシステムは決して初級者向けでは無い、
むしろ極めて高度な知識と技能を要求される為、非常に困難な
使いこなしとなる。仮に、マニア等が膨大な撮影枚数をこなした
ところで、まず、コントローラブルな使いこなしは無理であろう、
あくまで最終的には偶然に頼る必要性があるが、それでも本レンズや
システムの仕組みを意識しながらと、そうではなく、ただがむしゃら
に撮っている状態とでは、雲泥の差が出ると思われる。

よく考えて、しかも沢山撮って、それでも思ったような結果には
ならないという極めて高度で困難なシステムであるが、まあこの
困難に挑戦する価値は、それなりにあるかも知れない・・
_c0032138_19561017.jpg
さて、ここまでで「最強50mmレンズ選手権」における
予選Lブロック「50mm相当トイレンズ」の記事は終了だ。

ここは面白い予選ブロックではあったが、勿論、このような
トイレンズ群は総合的評価では残念ながら高い点数は望めない、
よって、50mm決勝戦に進めるレンズは1本も無いであろう。

(そろそろ、個人的な評価項目を、時代とともに変えていく
必要性も感じている。今現在で用いている評価手法では、
こうしたLo-Fi系レンズ等は、箸にも棒にも掛らないからだ。
まあつまり、評価システムが古くなって来ているという意味
であり、これ自体をアップデートしていかないとならない)

次回の本シリーズ記事は、予選Mブロック
「MF焦点距離違い」となる予定だ。

【玄人専科】匠の写真用語辞典(28)補足編~アラカルト(4)

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本シリーズでは、写真撮影に係わる用語で、本ブログの範囲
でのみ使われたり、一般的では無い専門用語を解説している。
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現在、シリーズ本編は終了していて、以降は補足編として、
これまで書きそびれた用語や、新たに使用している独自用語を、
順不同、かつ雑多な「アラカルト」として紹介している。
この為、本シリーズ記事の掲載は「不定期」となっている。

では、早速始めよう。

★ワンハンドズーム 
 メーカー用語、マニア用語、独自用語。
_c0032138_14494670.jpg
 上写真のレンズはTAMRON 70-150mm/f3.5 (Model 20A)
 である。1980年発売のMF中望遠ズームレンズだ。

 このレンズでは、ズームリングとピントリングが同一
(共用)の構造をしていて、幅広のリングを前後に動かすと
 ズーミング(焦点距離変更)を行え、これを回転させると
 MFによる合焦操作を行える。つまり片手のみで簡便に
 ズームとピントの操作が同時に両立できる。
 なお、ズーミングをしてもレンズ全長は変動しない。

 この形式の構造を持つレンズを私は「ワンハンドズーム」と
 呼んでいるのだが、当時のメーカー(タムロン)での呼称は
「ワンハンド・スリー・アクション」である(注:何が
 スリー(3)なのか?については、このレンズはマクロ域を
 持ち、ズーム、ピント、マクロの3つの操作が効くという
 意味を指しているのかも知れないし? あるいは絞り環の
 操作も含めて左手のみで出来るという意味か?→詳細不明)

「ワンハンドズーム」は、本ブログ独自用語という訳でも無く、
 ごく稀に、マニア用語として使われるケースもあると思う。

 で、これに慣れるとMFとズーミングの両者の操作を、同時
 かつ非常に速やかに行える。
 具体例としては、遠距離に飛ぶ鳥を見つけた、その際、
 カメラを構えながら、ズーミングをテレ端(最大望遠)に
 動かすと同時にピントを∞(無限遠)に廻す。
 この操作は1秒以内に完了するだろうから、あとは構図を
 整えるだけで、すぐに撮影体制に入れる、
_c0032138_14494683.jpg
 このスピーディーな操作感・操作性には現代のAF望遠ズーム
 では追従が困難であり、どんなにAF性能に優れた(デジタル)
 一眼レフやミラーレス機でも、まずこの状況ではピントが
 合わない為、本方式に圧倒的なメリットがあるだろう。

 このレンズ(TAMRON 20A型)以外であっても、同社製の
 1980年頃のMF望遠系ズームの多くがこの構造を持ち、
 他社であっても、やはり1970年代~1980年代前半の
 MF望遠系ズームで同様の構造・機構である場合が多い。

(ただし、ワンハンドズーム風の構造でも中にはピントリング
 の回転角が非常に大きいものもあり、その持ち替えが発生
 すると速写性を失う。そういう場合には、撮影距離を予め
 遠距離または近距離等に限定しておき、できるだけ
 ピントリングの持ち替えを起こり難くしておく)
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 上写真は、CANON New FD70-210mm/f4 である。
 同様な構造であり、やはり1980年頃の発売となっている。
 なお、メーカーあるいはレンズ毎によって、ズームリングを
 前に押し出すと望遠になる場合、また逆に、手前に引くと
 望遠になる場合があり、まちまちだが、そこはレンズ個別に
 慣れるしか無い。

 ちなみに、この構造を持つものは、全てMFレンズであり、
 特に望遠系ズームレンズである場合が殆どだ。
 ワンハンドズームと組み合わせる母艦(カメラ)としては、
 PANASONIC製のDMC-G6(2013年、本項目の冒頭写真)が
 最善・最強である。その理由は4つあり

 1)優秀なEVFを持ち、かつピーキング機能が常時動作し、
  MF精度が高く、ピント合わせが容易である。
 2)簡便なデジタルズーム機能の操作性で、レバー1つで
  1.1倍~2倍までの連続デジタル拡大操作が出来、
  光学ズームとの自在な組み合わせが可能である。
 3)MFが不安な場合、優れた操作系で画面拡大表示が出来る。
 4)μ4/3機であり、望遠レンズの画角を2倍に強調できる。

 これら4つの特徴を併せ持つ機体は、DMC-G6しか存在
 しない。他社機や他機では、どれかの条件が外れてしまう。

 次善の機体としてはPANASONIC DMC-G5(2012年、上写真)
 となる、この機体はピーキング機能を持たないが、EVFでの
 ピントの山が見易く、他の特徴要件は全て満たしている。
 また、PanaのDMC-G7以降の機体や他社ミラーレス機では、
 上記の条件を全て満たす事は無い。

 一度、DMC-G6で、ワンハンドズームと組み合わせて
 野鳥等の望遠撮影を試してみると良いと思う。その快適な
 操作性・操作感は、現代のいかなる高性能AFシステムをも
 軽く上回る快適性と速写性がある。

 何故、この便利な方式が廃れてしまったか? と言えば、
 勿論、1980年代後半より一眼レフは、AF時代に突入し、
 MFでのピント合わせへの利便性や操作性、速写性などに
 配慮しなくても良くなったからである。
 けど、時代の流れとは言え、それはMF性能的には改悪だ。

 でも、まあ、近代AFシステムの全てがNGか?というと
 近い操作性を持つAF望遠系ズームレンズも稀に存在する。
 具体的には、TAMRON AF 200-400mm/f5.6 LD-IF(75D)
(1994年)があり、このレンズはワンハンド構造では無いが、
「直進式ズーム」であり、かつレンズ先端を持って引き出す
 ようにしながら、レンズ前部のピントリングを同時に廻す
 事が可能である(下写真)
_c0032138_14495971.jpg
 このModel 75Dは、1990年代と古い時代のレンズなので
 AF速度が致命的に遅い。それ故に、MF操作で、その課題を
 相殺しようとするのだが、その操作性は快適だ。
 だからこのレンズは2010年代中頃まで、ボート競技撮影
 での主力望遠レンズとして長期間活躍する事が出来た。
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 より新しいレンズではSIGMA 100-400mm/f5-6.3 DG OS HSM
 Contemporary (2017年、上写真)が、類似の操作性であり、
 レンズ先端を引き出して直進的ズーミング操作を行う事が
 出来る。(メーカー推奨の用法)

 ただし、ピントリングは別途独立の回転式である為、実際は
「ワンハンド」の構造では無い。したがって、このレンズを
 使う際には、AF性能が強力な機体(例:CANON EOS 7D
 MarkⅡ 2014年や、NIKON D500 2016年等)と、必ず
 組み合わせる必要がある、さも無いと、いくらズーミングを
 素早くしても、もしAFが合わなかったら、ピントリングを
 廻すのに左手の持ち替え動作が発生し、それでは操作性を
 早める意味が無いからだ。(注:実際にはMF移行操作では無く
 AFの合わせ直しになるだろう、でも非効率である事は確かだ)

 まあでも、やはり現代AFシステムよりも、どう考えても
 MF時代の「ワンハンドズーム」の方が快適に望遠撮影が
 可能であろう。その時代(1970年代~1980年代前半)
 の望遠ズームは描写力は現代レンズよりも勿論劣るのだが、
 幸いな事に、超不人気なカテゴリーのレンズであって、
 ジャンク同然の価格帯(中古で500円~2000円程度)で
 中古購入する事が出来る。上手く条件がハマれば、または 
 高度な技法を用いて描写力上の欠点を緩和する技能があれば
 なかなか捨てたものでは無い写りをするレンズもある。

 まあ、「練習」という意味、あるいは、この快適な操作性
 の「体験」あるいは「研究」という目的において、
 1000円前後の投資は惜しくは無い事であろう。
 是非、実際に試してみる事を推奨する。

 もしかすると「MFが苦手だ」と思い込んでいる初級中級層
 でも、あまりにMFが快適になるので、逆にMF撮影が楽しくなり、
 興味を持つようになるかも知れない。現代のAFシステムでは、
 残念ながらMFの効率的な操作が出来る状況では無い事も、
 MFが苦手だと思い込んでしまう原因にもなっている。それは
 機材側の問題であって、利用者側の問題はむしろ少ないのだ。

★フートキャンドル
 専門用語(旧単位)、独自解釈含む。

 フートキャンドル(Footcandle/fc、ft_c、または「フート
 カンデラ」)とは、「照度」の(旧)単位である。

 恐らくその語源は、1フット(1フィート=約30cm)の
 距離にロウソクの炎を置き、その明るさを表した単位
 であろう。つまり、人間の感覚値としては最も暗い照明が
 1フートキャンドルであり、逆に最も明るい照明、すなわち
 日中快晴時の太陽光は、約1万フートキャンドルとなる。
 1から1万迄の値で、明るさの幅を感覚的に捉える単位だ。
 
 で、こういう「人間の感覚値的」な古い単位は個人的には
 結構好みだ。まあ「ヤード・ポンド法」等がそれなのだが、
 例えば 華氏(Fahrenheit/°F)は、水の凝固点と沸点から
 計算(定義)される温度の単位ではあるが・・

 私の想像では、それは後年に厳密に決められた定義であり、
 当初、ファーレンハイト氏(独国、ファを華と書いた)が
 この単位を考えた際には、恐らくは、人間が得られる最も低い
 温度は、寒剤(例えば、氷に食塩等を混ぜると温度が下がる)
 で得られる低温であるとか、独国での自然環境での最低気温が
 -20°C前後であり、つまりその低温が華氏0°Fであって、
 逆に上は、人間の体温又は独国での最高気温の値37°Cを
 華氏100°Fと決めたような気がしてならない。
(まあ、ちゃんと調べてはないが、そういう可能性はあるし、
 そう考える方が楽しい・笑)
 つまり日常生活では0°Fから100°Fの範囲内で、たいていの
 有り得る温度は表現できる訳だ(結構感覚的に分かり易い)

 余談だが、華氏451度(Fahrenheit 451)という、SF作品
(レイ・ブラッドベリ氏原作のSF小説、1966年に映画化)
 がある。これは紙が燃える温度が、華氏451°Fであり
 その小説では、思想統制により書物を読むことを禁じられた
 架空の社会において、「ファイアーマン」と呼ばれる職業、
 つまり、禁書を焼いてしまう(=焚書)が任務という、
「逆消防士」が主人公となる叙情的な作品である。
 名作であり、私は原書(英語)を頑張って読破したが、
 映画は日本語吹き替え版をレンタルで見ている(笑)
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 ちなみに、レイ・ブラッドベリはSF界の巨匠(2012年没)
 であり、名作を多数生み出していて、国内でのSF作家等に
 与えた影響も極めて強い。まあ「SFファン」であれば、
 彼を知らない人は居ないであろう。

 なお、「米国同時多発テロ事件」をモチーフとした映画、
「華氏911」は、マイケル・ムーア監督の2004年の作品で
 あるが、当時、ブラッドベリ氏は存命であり、この題名には
「勝手に真似した」と不満を持っていた様子ではあるが・・
(注:さらに近年では、新作「華氏119」も話題となった)
 まあ、初出から40年を超えても、まだまだ影響力がある
「華氏451」が、とても偉大な作品である、という事だろう。

 余談が長くなった・・ で、フートキャンドル単位も後年
 には「ルクス」に標準化されてしまい、1フートキャンドルは、
 約10(10.76)ルクス(lx)と定義されている。
 これは、摂氏と華氏の換算のように9分の5倍とかの面倒な
 係数を掛けなくても良く、10倍すれば良いので計算は容易だ。
 まあだいたい、韓国の「ウォン」と「日本円」の両替比率の
 感覚だと思えば良い(笑)

 しかし、現代においてフートキャンドル単位を一般生活で
 目にするケースはまず無いと思う。そして多分、一般層の
 百人に聞いても、誰一人知っている人はいない単位であろう。
 だが、写真関係においては、この単位が現代でも生きている。
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 上写真は、単体(外部)入射式露出計の超定番製品の
「SECONIC STUDIO DELUXE Ⅱ L-398Ⅱ」通称「スタデラ」だ。
 初期型は恐らく1960~1970年代位(注:詳細不明)から
 発売されている超ロングセラー製品だ。で、これも想像だが
 まだ、この時代の日本では、尺貫法やヤード・ポンド法と
 いった旧単位も色々と使われていて、メートル法へは完全に
 統一されていなかったのではなかろうか?
(一応、日本では1966年にメートル法が完全実施されたとの事)

 よって、この「スタデラ」では、照度を測る単位は、古い
「フートキャンドル」となっている。
(注:機器上には「フートキャンドル」とは書かれておらず
 単に数値が書いてあるだけだ。だが取扱説明書には、この
 機器の照度単位がフートキャンドルである旨、記載がある)

 なお、「スタデラ」は、何度かの小改良が続いていて、
 現行製品は、「スタジオデラックスⅢ、L-398A型」と
 なっているが、旧来製品からの互換性を保つ為に、
 依然、照度計測単位は「フートキャンドル」である。
 まあ、この露出計のユーザーは世界中に極めて多数居る為、
 いまさらルクス等に変えられたら困る、という事であろう。

 でもまあ、この話については、好意的に聞けるのだが・・
 他、写真界全般で 銀塩時代の古いままの概念、常識、習慣
 等が、いつまでも抜けない保守的な状況は、あまり褒められた
 話では無いと思う。まあ、それも又、銀塩時代の「生き残り」
 ユーザー層がまだ多い現状では、やむを得ない節もあるとは
 思うが・・ シニア層になってから、新たにデジタルの原理を
 勉強・理解する、と言うのも、あまりに「酷な話」であろう。

★ルクスとルーメン
 一般用語に近い単位

 カメラの世界とは、あまり接点の無い用語(単位)であるが
 前項目で「ルクス」(lx)が出て来たので補足的に。
_c0032138_14500668.jpg
 ルクスもルーメン(lm)も、明るさを表す単位であるが、
 一般的に差異が分かり難い。

 異分野での、わかり易い説明をすれば、例えば「地震」の
 報道において、震源地においての地震そのものの強さを表す
「マグニチュード」と、それぞれの場所での揺れを表す「震度」
 があるのだが、まあ、それと同様な概念である。
 
 つまり「ルーメン」が、その照明機器等の光源の発する
「光の強さ」そのものであり、「ルクス」は、その光源に
 照らされた場所での明るさだ。

 旧来「ルーメン」という単位は、あまり世間では使われ
 なかったが、近年では蛍光灯(LED蛍光灯)の仕様表記を
 中心に広まってきている。

 蛍光灯の明るさの表記は旧来は「W」(ワット)であったが
 これは元々「消費電力」つまり、使う電気の量を表す単位
 であり、微妙に光源の強さとは意味が異っている。


 例えば、100V(ボルト)の家庭用(交流)電源を使って、
 蛍光灯に1A(アンペア)の電気(電流)が流れれば、
 100x1の計算で100W(ワット)となる。

 一々こういう計算をしなくても、だいたい20Wとか60Wとか
 言えば、照明が、どのくらいの明るさかは、経験的に皆が
 わかっていた。

 ちなみに、Wは、ある瞬間の電力値であり、この照明等の
 機器を一時間使うとWh(ワット・アワー)という単位となり、
 まあ、これが積み上がってトータルの電気代になる訳だ。
(注:実際には、機器で使った電気の量は全部がエネルギー
 とはならずに無駄が出る。ワットは有効な電力を表し、
 見かけ上でかかった電力(皮相電力)では、厳密には
 VA(ボルト・アンペア)の単位が使われる場合もある)

 で、照明機器は、旧来はW(ワット)表記で十分であったが
 近年、消費電力がとても低いLED照明が出てくると、単に
 LED機器で使った電力で示されても意味が違って来る。
 また、LEDの技術の進歩で、同じ電気を流しても、より
 明るい照明が将来には出来て来るかもしれない。

 そこで、近年では、LED照明等の、そのものの明るさを表す
「ルーメン」が、仕様として書かれるようになった。
 現状では、ルーメンの数値は、ワットよりもだいたい
 ヒトケタ大きい値である(400ルーメンが40W相当、等)
 が、これはLED照明機器の種類で効率が異なるので、単純に
 いつも10で割れば良い、とかいうものでも無い。
 まあ、当面の間はルーメンとともに「40W相当」という
 表記があると思うので、それを参考にすれば良いであろう。

★ジンバル
 やや専門的な市場用語

 元々は「ジャイロ」装置の一種(類似)を表す用語だ。
 回転力により、傾けても一定の角度を保つ機器であり、
 昔の玩具にあった「地球ゴマ」であるとか、船や飛行機に
 積む計器であるとか、車載GPSとかで用いられている
 一般的な機器の一種である。
 
 写真関連における「ジンバル」の用途は、「安定装置」
 つまりスタビライザーであり、一眼レフ、ミラーレス機
 動画(ビデオ)カメラ、コンパクト機、スマホ、ドローン等
 のカメラ全般において、ジンバルの上にカメラを装着すると
 動画撮影時のブレを防いだり、撮影姿勢が変化した場合でも
 カメラの角度を一定に保ったりする。静止画撮影においても
 若干のブレ防止や姿勢制御効果があるだろう。

 実際の機器としては、以下写真のような感じだ。
_c0032138_14500680.jpg
 こちらは、「PILOTFLY Adventurer」というジンバルで
 3軸での傾きの補正が出来る、まあ一眼レフ用であろう。

 結構高価(10万円程)であるが、知人から譲渡してもらった
 ものだ(その知人も誰かから貰ったそうだ)「用途が無い」
 という事で「たらい廻し」になっている状況だが(汗)
 実は、私も動画を撮らないので、用途が無い(苦笑)

 実際に使ってみると、組み立てが面倒で、充電も面倒、
 それに、かなり大きく、持ち運び等ハンドリングが大変だ。
 電源ONでピロリーと周囲にまで目立つ大きな音がする。
(組み立てが面倒なので、上写真でもケースに入れたままの
 横着をしている・汗 でもまあ「面倒だと言いたい」から、
 そのように撮っている訳だ)

 カメラを装着すると確かに角度は安定するが、反面、
 きちんとした構えが出来なくなるし、全体重量が重い。
 よって、静止画撮影においては、ジンバルを使わない方が
 ブレを防げる。あくまで動画撮影専用の補助器具であろう。

 なお、装着するカメラの種類によりジンバルの種類は
 変えるべきであろう。このクラスでは結構大きく重いので 
 スマホ動画撮影用には、もっと小さくて簡便なものが良い
 だろうし、映画撮影等の本格的用途には、もっと大掛かりな、
 体に巻きつける、「駅弁売り」とか「大リーグボール養成
 ギプス」(笑)のような形態の大型装置が向くだろうと思う。

 いずれにしても殆ど使っていないので、詳細な説明は避ける。
 趣味撮影においては個人的な用途が無いので、何かの特別な
 動画撮影用途の際に用いるか・・ まあ、きっといずれは
 知人等に譲渡してしまうかも知れない。

★アルゴリズム
 技術用語、又は、やや専門的な市場用語

 広くは、コンピューター等で計算を行う為の「計算方法」
(算法)を示す専門用語である。 
 ただ、これはそれが使われる分野で狭い意味で用いられる
 場合が多く、写真関連で言えば、概ね以下のような感じだ。

 1)AF機構でピントを素早く正確に合わせる為の計算手法。
 2)AE機構で多分割測光から、正確、または希望する適正な
  露出値を得る為の計算手法。
 3)センサーから得た画像を、より高精細あるいは高忠実性を
  得る為に様々な補正処理(例:AWB、連写合成等)を行う
  為の計算手法。
 4)センサーから得た通常画像に、さらに画像効果(エフェクト)
  を加える為の、様々な種類の計算手法。
 5)センサーから得た通常画像に、補助機能(例:ピーキング)
  を付加する為の計算手法。
 6)カメラ等で得た画像に対して別途PCやCPU等で計算処理を
  行い、判断、解析、分析、診断、行動制御等を行う為の
  画像処理手順の全般または個々の計算手法。

 まだ色々あるだろうが、詳細すぎる為に、この辺で・・

 また、カメラ以外の市場分野でも、それぞれアルゴリズムが
 使われる。数学などの分野では勿論であり、例えば電子楽器
 などでも様々に音声を加工変調する方法論も、その分野での
「アルゴリズム」である。本ブログの最初期での電子楽器の
 解説記事で、そうしたアルゴリズムの実例を記載していたが、
 当時の時代であれば、全く理解されなかった専門技術用語だ。

 が、その後の世の中も、どんどん専門化していて、それぞれ、
 の市場関連技術に、相当に精通して無いと、やはりその詳細
 とかは理解不能であろうし、どう定義するかも分からない。

 例えば、乗用車の自動運転等での判断・計算手法の方法論を
 アルゴリズムと呼ぶかどうかは、門外漢であれば分からない。
 それに、仮にAIとかを使って開発された判定手法である場合、
 アルゴリズムそのものは作った人でもわからない状況もある。

 そして、殆どの「アルゴリズム」は、その個々の専門分野に
 おいて「門外不出」の極秘技術となり、最も強い知的財産権に
 係わる技術となる。だから詳細の内容解説も世の中には殆ど
 無いし、それを外から理解をしているユーザーも皆無に近い。

 けど、門外漢であっても「アルゴリズムが良い」とか「悪い」
 とかは、カメラ等の評価でも、近年では良く聞くように
 なってきている。アルゴリズムの中身そのものは、絶対に 
 外部の人では知りようが無いが、まあでも、そういう用語を
 使う上では、少なくとも「アルゴリズム」が何を示すかの
 概念は理解していないとならない。それをわかっていないで
 適当にその用語を使うのは、あまり褒められた状況では無い。
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 けどまあ、例えば、ミラーレス機等の「ピーキング」処理とか、
 カメラ全般での「オートホワイトバランス」処理などが、
 それぞれどのような「アルゴリズム」で実現されているかは
 動作の振る舞いを見ていると、外からでも、だいたいは推測が
 出来る場合もあり、それぞれの機能は、私も個人的な趣味/研究的
 な観点から、それらをパソコン上で再現するアルゴリズムを
 自身でC言語等でプログラミングして作った事がある。
(「プログラミング・シリーズ」記事群を参照)

 意外な事に、自身で再現したピーキング・アルゴリズムの方が
 カメラに搭載されているものよりも高精度ではあったのだが、
 でもそれは計算量がかかりすぎて、毎秒2~3回しか計算を
 行う事が出来なかった。カメラのモニター内で、毎秒30コマ
 や60コマでピーキングを計算するには「精度より速度を重視した 
 アルゴリズムが必要なのだ」と、良く理解した研究結果である。

★富士フイルム
 一般名詞(企業名)
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 社名としては「富士フイルム」が正しく、「富士フィルム」は
 誤りである。 同様に「キヤノン」が正しく「キャノン」は
 誤りだ。マニア層あるいは専門評価者等においては、これを
 間違えてはならない。

★ライフセーバーの法則
 独自用語。

 レンズ光学設計とか、そこまで行かない迄も、レンズの原理を
 学ぶ際に「光の屈折」が起こる事は誰でも知っているであろう。

 屈折率は、ガラスの素材とか、水とか、そこに空気中から
 光が入る場合などで様々である事も良く知られているとは
 思うが、じゃあ、「何故光は屈折するか?」、それについて
 概念を理解している人は、結構少ないかも知れない。

 私は、「光の屈折」の概念を説明する際に、良く「ライフ
 セーバーの法則」という用語を使う。この用語自体は独自
 ではあるが、同様の概念で説明される場合も一般的に多い。
_c0032138_14501450.gif
 上は、ごく簡単な概念図。オレンジ色と青の部分は、
 屈折率が異なる媒質なのだが、ここでオレンジ部を「砂浜」
 そして青色部を「海」、の「海水浴場」と仮定する。

 A地点で子供が溺れていた、これは大変だ!
 B地点で「ライフセーバー」(海難救助員)が双眼鏡で
 それを発見する。サーフボードや浮き輪等を持って、
 すぐに助けに向かわなければならない。

 で、ライフセーバーは、赤色線で表される直線での
 最短距離(B→C→A)を進んで助けに行く訳では無い。
 そのコースは、海に入ってからの泳ぐ時間が長くなって、
 それでは遅いので、救助が遅れてしまうからだ。

 なので、ライフセーバーは出来るだけ長く砂浜を走って
 時間を最も短縮できるコースを取る。具体的には青色線
 で表される最短時間コース(B→D→A)となるだろう。
 これで時間を稼ぎ、無事、溺れている子供を救出できた。

 これは「最短距離ではなく、最短時間を進む」という
 意味である。「光の屈折」も、まったく同じ原理であり、
 光が進む場合に、光の速度が遅くなる媒体(媒質)を避ける
 ように、最短時間となるように、自ら屈折するのだ。

 この話を聞くと「え~?! 光は自らそれを考えるのか?
 なんて賢いのだ!」と思うかも知れない。

 まあ、勿論、光に意思がある訳ではない。
 例えば、山からの雨水が集まって川となるような物であり、 
 光や水は、自分達が通り易いルートを選んでいるだけだ。
 けどまあ、自然現象とは言え、結構、賢い振る舞いをする
 事は確かだと思う。

 ちなみに、水の中での光の速度は3割減、ガラスの中では
 4割減、ダイヤモンド中では半分以下に遅くなってしまう
 ので、それぞれの数値に合わせて光は曲がる(屈折する)
(注:どれくらい曲がるのか? は「スネルの法則」により
 求まる。式は、n1・sinθ1=n2・sinθ2 詳細省略)

 実際のカメラ用のレンズでも、この性質に合わせて、
 ガラスの材質(硝材)を色々と変えて、光の曲げ方を
 変えて、レンズ全体の(光学)設計が行われている。

 ただし、この曲がり方は、光の色(波長)によっては
 均一では無く、色毎に異なっている(色分散、アッベ数)
 なので、レンズの光学設計は、ものすごく複雑で大変だ。

 計算機(コンピューター)が出来る前は、技術者が全て
 手計算でこれを行っていた、勿論とんでもない手間なので、
 近年では、ほぼ全てがコンピューターを用いた自動設計
 となってる。

 私も、その手法をレンズメーカーで見学した事があるが、
 まあ確かに、PCを使えば計算は圧倒的に楽にはなる。

 でも、課題としては、コンピューターは、どんどんと優秀な
 設計になるように自動的に良いレンズを設計してしまうのだ。
 色分散が上手く合わなければ、高価な「異常低分散ガラスを
 使え」と言ってくるし、球面収差がまだ全体に残っていれば
 解像力が下がってピントが甘い描写になってしまうから、
 もっと高価な「非球面レンズを使え」と言ってくる。

 けど、それでは、複雑で大きく重くて高価な交換レンズが
 自動設計されてしまうのだ。テッサーやプラナーといった
 単純だが、そこそこ性能が良い高コスパのレンズの設計が
 むしろ難しい。コンピューターは「適当に手を抜く」という
 ことは出来ないので、そのバランスは設計者側が、どこまで
 不要な性能に対して手を抜けるかの経験値とか設計センスに
 強く係わってくるだろう。
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 設計者は、手を抜くとユーザー側から文句が来るかも知れない
 事が怖いから、なかなかそうは出来ない。そしてメーカー側
 としても高価なレンズを売った方が儲かるし、レンズ市場が
 縮退して、交換レンズが売れないから、そういう高級品を
 販売せざるを得ない。このようにして、市場にはどんどんと
 過剰なまでの高い性能を持ち、高価すぎる交換レンズが
 出揃っていく訳である。
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 なんだかなあ・・ と疑問を感じる部分も多々あるのだが、
 まあ、そういう世情なので、やむを得ない事なのだろう。

 もし高価すぎるレンズが売れなければ、また市場は自ら
 良いバランス点を求めて、安価な製品が出回って来る。
 すでに海外(中国製)レンズの普及等で、そうした動きは
 出てきている。これもまた、市場自らに意思がある訳では
 無いのだが、「光の屈折の話」と同様に一番都合の良い所に、
 勝手に収まっていくわけであり、それが自然の摂理だ。

---
さて、今回の用語辞典記事はここまでで、
次回補足編の掲載は、また説明が必要な用語がいくつか
溜まった頃とし、そのタイミングは「不定期」としておく。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(30)ボディキャップ レンズ

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回の記事では、ボディキャップ(Body Cap)レンズを
5本紹介しよう。

本来の「ボディキャップ」とは、(今更説明の必要も無いが)
カメラを保管や移動する際に、レンズを装着しない場合に
おいてカメラの内部構造(センサー、ミラー等)を保護する
為にマウント面に嵌める、単なる「蓋(フタ)」の事である。

で、「ボディキャップ レンズ」とは、ボディキャップ形状の
写真用交換レンズ全般を指す。つまり普段はカメラを保護する
為の蓋として用いるが、内部にレンズが組み込まれていて、
一応それで写真も撮れる仕組みだ。

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では、まず最初のシステム
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レンズは、OLYMPUS Body Cap Lens BCL-1580 (15mm/f8)
(新品購入価格 5,000円)(以下 BCL-1580)
カメラは、OLYMPUS Pen Lite E-PL2(μ4/3機)

2012年発売のμ4/3機専用薄型MF広角レンズ。

「ボディキャップレンズ」の歴史を考察した場合、
本レンズ以前の時代にも海外製の「PC IN A CAP」(後述)
等のボディキャップ風レンズが発売されてはいたが・・
まあ、初めて一般ユーザー層にも認識されたボディキャップ
レンズとしては、本BCL-1580が最初であったと思う。

なお、ボディキャップレンズの多くには、「シールド位置」
があって、そこへ設定すると、レンズの前にバリアーが出て
完全な「蓋」になる。本BCL-1580にも、その機構があって、
これで実際にボディキャップ代わりになるのだが、まあ
「シールド位置」を持たないレンズもある為、この機構が
ある事が「ボディキャップレンズ」としての必須要件という
訳では無い。
_c0032138_17341576.jpg
さて、ミラーレス機における「フランジバック長」は短く、
銀塩時代の一眼レフ用「パンケーキレンズ」のような感覚で
マウント面付近の距離に、レンズを集中配置すると、薄型で
広角気味の焦点距離のレンズが出来る。これがすなわち、
ボディキャップレンズの要件を満たす設計だ。

本BCL-1580は、3群3枚構成のトリプレット型である。
銀塩パンケーキの多くは3群4枚のテッサー型であったが、
トリプレットは、そのテッサーの原型となったレンズ構成
であり、そのままでは描写力はテッサーに負けるが、適宜
絞り込む事で、描写力は、そこそこ良くなる。

本BCL-1580では、絞り固定型の開放F8として、画質を
確保している設計であろう。
非常に薄型で、重量は22gしか無い。
見た目は、まるで玩具のようだが、そこそこちゃんと写る。

ピントはMFのレバー式であり、無限遠から少し手前の
「パンフォーカス位置」にクリックストップがあり、普段は
そこにセットしておくと、中遠距離被写体ではピント合わせ
が不要となる。また遠距離撮影であれば、念の為に∞位置に
セットしても良いし、近接撮影であれば、適宜ピントリング
を廻す。今回使用機の古いE-PL2(2011年)には、EVFや
ピーキング機能は無いが、被写界深度が、ある程度深いので、
背面モニターで見るのと、目測の勘ピントでも十分だ。

なお、オリンパス機での内蔵手ブレ補正機能を使う際には、
手動で焦点距離を15mmにセットする事を忘れないように。
30mm相当の広角レンズなので、手ブレはしにくいのだが、
開放F8と暗い為、意図せずシャッター速度が遅くなる場合
はあるので、手ブレ/被写体ブレには注意する必要がある。

さて、このような「ボディキャップレンズ」の存在意義
だが・・ どうも微妙だ。
オリンパスはこのレンズを、正式な交換レンズでは無く
「アクセサリー」として扱っている。

銀塩時代の1970~1990年代、オリンパスでは、
OMシステムにおいて、完全なパンケーキレンズは作って
いなかったが、準パンケーキ型レンズとして、OM28/3.5,
OM40/2,OM50/1.8の3本が存在していた。

28/3.5と50/1.8は、当時も現代でも入手は容易であるが
40/2は極めてレア品で、1990年代のパンケーキブーム時代
には異常な高値で取引が行われていた。(相場が高価すぎて
コスパがとても悪かった為、購入は見送った)

で、パンケーキブームの際に、高級一眼レフ(大型機)に
薄型のパンケーキレンズを付ける事が、当時の上級マニア
の間では「格好良い組み合わせ」(=「大小効果」と
本ブログでは呼ぶ)として流行していたのだ。
(レンズ・マニアックス第27/28回「薄型軽量レンズ」
編記事参照)

まあ、CONTAX RTSⅢ+T45/2.8が、その典型例ではあるが、
オリンパスOMは、高級機でも小型であったので、その
「格好良さ」が得られなかった事も、私がOM40/2の購入を
見送った理由の1つにもなっている。
_c0032138_17341563.jpg
さて、時代は過ぎて、本レンズ発売後の翌年2013年、
オリンパスはμ4/3機初のフラッグシップ機「OM-D E-M1」
を発表するが、その際、ボディ単体発売において、
本BCL-1580がセットされていた。まあ「おまけ」としての
割安感を演出する意味が強いのだろうが、
「フラッグシップ機+薄型レンズ」という、およそ15年前の
流行をモチーフとしている事で、「なかなか、マニア心理を
ついた、上手い組み合わせだ」と思った。

(だが、私としては逆に、既にBCL-1580を所有していた為、
E-M1の購入意欲を、少しだけ損なってしまった。まあ元々
高価すぎる機体であった為、その時点で購入する事は絶対に
無かった。当時のμ4/3機は相場の下落が激しかった事もある。
E-M1は後年に中古が安価になったので、その後購入している。
なお、何故E-M1の中古相場が安価なのかは、後継機E-M1Ⅱ
での改良点が多く、初期型は「仕様老朽化」が目立つ事。
それと、近代ではハイエンド級機体をビギナー層が欲しがり、
「機体性能に頼る」ニーズが強い為、新機種に次々と買い替え
る傾向が強い点がある。この為、E-M1X/Ⅲが新発売されると
今度は、前機種E-M1Ⅱが中古市場に溢れかえった)

さて、本BCL-1580については、他記事でも何度も紹介
している為、説明はこのあたりまでで留めておく。

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では、次のシステム
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レンズは、LOREO PC IN A CAP 35mm/f11
(新品購入価格 2,000円)(以下 PC IN A CAP)
カメラは、SONY α65(APS-C機)

2005年に発売された、各種一眼レフマウント用の
ボディキャップ(風)パンフォーカスレンズ。
まあ、「トイレンズ」の一種と言っても良いであろう。

型番のPCとは「パースペクティブ・コントロール」の
意味で、いわゆる「シフト機能」だ。
ニコンの「PC-NIKKOR」も同様の機能を意味するので
良く知られた略語であろう。(注:現代でのニコン製PC
レンズでは「PC(-E) NIKKOR」と、ハイフンが入らない。
同じメーカーでも、時代により型番ルールはまちまちだ)

シフト量は上下左右に最大5mm、フルサイズ対応レンズ
であるのだが、2005年当時において、デジタル一眼レフは
APS-C機が主流だ。APS-C機では残念ながら、殆どシフト
効果は得られない。
_c0032138_17343553.jpg
この時代はまだ銀塩との混在期であったので、銀塩一眼で
の使用を想定していたのであろう。そういえば、当時の
資料を見ると、本レンズは、M42,FD,MD,OMなどの銀塩用
MFマウント版も発売されていた。

なお、そうした事情からか? APS-C機では効かないPC機能
を省略した「LOREO LENS IN A CAP」が、同時期か後年に
併売されていた模様である。
私は、後年に本「PC IN A CAP」は量販店で在庫処分品を
購入できたのであるが、「LENS IN A CAP」は簡単には
見つける事ができずに未購入だ。

なお、PC型の方は、どうやら現代でも稀に継続生産されて
いる模様なので、タイミングが合えば通販等で入手できる
かも知れない。
勿論、中古市場にはこうした安価なトイレンズは、まず
流れて来ないので、そこで探すのは不可能に近い。

本「PC IN A CAP」は、基本的にはトイレンズである。
だから写りをとやかく言う必要は無いし、むしろ酷い写り
での「Lo-Fi描写」すら期待してしまう。その点では、
「PC機構が無い型の方が写りが悪い」という情報もあるが、
所有していないので、わからない。元々、他人の評価は
それがどういう視点で評価されたのがわからない為、信用が
出来ないのだ。例えば、「トイレンズとしてのLo-Fi描写
を期待する」という視点の評価においては写りが悪いレンズ
を絶賛できるだろうし、そのLo-Fiの意味や用途がわからない
ユーザー層には、そうしたレンズは不要な商品となる。
逆に「このレンズは写りが悪い」と一刀両断した評価だった
としても、Lo-Fi描写が欲しいユーザーには必要な商品だ。
結局、トイレンズ系の評価とユーザーニーズは、いつでも
一致する訳では無い。

さて、シフト機能だが、実はAPS-C機で使った場合でも
僅かに効いている。
しかし、シフトを掛ける前後、等の比較の対象が無いと、
単に1枚の写真を見ただけでは、それは良くわからない。
(仮にそれをやっても、がっかりする程に差が少ないので
今回は割愛する)
_c0032138_17343524.jpg
それから、本レンズにはピント機構が無いパンフォーカス
仕様である。F11と十分に絞り値は大きいのだが、これでも
シフトさせた場合等で被写界深度が不足する状況がある。
その際、本レンズでは、F22の絞り値があって、そちらを
利用する事が出来る。
ただし、一眼レフの光学ファインダーでF22では、暗く
なりすぎて使い難い。そういうケースがありうる為、
今回はEVF型一眼レフのSONY α65を使用している。


なお、こうした安価なレンズを使う場合、母艦をあまりに
高価なカメラとするとアンバランスだ(持論の「オフサイド
の法則」)その意味でも、SONY α65のような、安価で
高性能な機体は、トイレンズ用母艦として向く。

なお、PC機構は、このシステムにおいては使い道が無い為、
本記事では、α65の内蔵エフェクトを使い、本レンズを
一種の「トイレンズ」として扱っている。

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では、3本目のボディキャップ
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レンズは、PENTAX Q System 07 MOUNT SHIELD LENS
11.5mm/f9(中古購入価格 4,000円)(以下、07MOUNT)
カメラは、PENTAX Q(1/2.3型機)

2013年に発売された、PENTAX Qシステム専用、固定絞り、
固定焦点パンフォーカス型ボディキャップレンズ。
厚さは約7mm、重量は8gと、史上最軽量の交換レンズだ。

1/2.3型機(Q/Q10)、1/1.7型機(Q7/Q-S1)の両者で使える
が、画角が広い1/1.7型機の方が、本レンズの特徴が顕著に

出る。だが、今回は試験的にPENTAX Qに装着してみよう。
その際の画角は、計算上では約63mm相当なるが、
PENTAX Qシステムは、途中でセンサーサイズが変わった際、
複雑な画像処理で両者の互換性を維持している為、正確な
換算画角については良くわからない。

まあ、だいたい標準画角だし、あまりそれを気にする必要も
無いであろう。
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最大の特徴は、1群1枚レンズである事で、これにより
「収差」が多く発生する、この収差により、まるで虫眼鏡で
風景を見たように、画面周囲に向かって強烈に画像が流れる
印象が得られる。
この効果は非常に独特であり、およそ他のレンズでは、
トイレンズも含め、このような描写傾向を持つものはない、
つまり、トイレンズの方がよほどちゃんと写る、という意味だ。

この効果を単体で、あるいは、Qシステムに備わる優秀な
エフェクト機能も含めて上手に使いこなす事が、アート表現と
しての重要なポイントとなる。

固定焦点型(パンフォーカス型)レンズとは言え、遠距離に
まで被写界深度がある訳では無い、むしろ中近距離1~2mが
主要な被写体距離であろう。

この感覚を理解するには、本レンズを使う前に、市販の
虫眼鏡を覗いてみるとわかりやすい。それは概ね近距離から
中距離でしかはっきり見えず、遠くの風景などは、むしろ
ボケて見える。これが、本07 MOUNTの距離感とほぼ同じだ。

また、虫眼鏡で見た際、画面中央部以外の周囲は、大きく
流れて写る、この特徴も本レンズと同じだ。

さて、では虫眼鏡で感覚をシミュレーションできたところで
本レンズをフィールド(屋外)に持ち出してみよう。
被写体がはっきり見える範囲は、数m先の立方体の空間だけだ。

この事を、本ブログでは「ストライクゾーン」と呼んでいる
ピッチャーから見て、打者の前にあるそのゾーンは直方体の
三次元空間である。これと同じような感覚で被写体を探せば
良い訳だ。つまりゾーンの外は、すべて「ボール」となる。

余談だが、近年の野球中継では、ストライクゾーンをバッター
毎に、白色枠や緑色枠で、CG合成してスーパーインポーズ
表示する場合がある。とてもわかりすくて好ましいのだが・・
1つだけ注意点、ストライクゾーンは実際は「三次元空間」で
あるから、CG枠のような二次元の長方形では無いのだ。
だから変化球などで、ゾーンを掠めてもストライクであり、
CGの枠とはイコールにならない場合も有りうるという事だ。

野球の件はさておき、写真においても全く同様の問題点があり
「構図」というものを、上記ストライク枠のような二次元の
長方形として認識してしまうと、実際の被写体が三次元で
ある事を忘れてしまうか、あるいは理解(認識)できていない、
という事に繋がってしまう。

そして、ビギナー層では100%、この感覚ができておらず
被写体を二次元平面として認識してしまう。
何故100%と断言できるか?と言えば、被写体を三次元として
認識できれば中上級者であり、それができなければ初級者
であるからだ。つまりこれは、それがわかるか、わらかないか
で、線引きをしている。

「魚眼レンズ」の記事でも述べたが、魚眼レンズの使いこなし
は、撮影側が三次元的にカメラの微妙なアングルを意識しないと
まともに撮れない、これも難しい事であり、初級中級層では
まず、それは出来ない。
魚眼ではレンズ側の課題であったが、同様に被写体も三次元的
であり、これが認識できないとならないのだが、それを練習
あるいは習得する為の機材が、世の中には殆ど存在しないのだ。

そこで本レンズ07 MOUNTである。これならば、その三次元的
感覚の練習用機材(教材)としても最適だ。
本レンズを何も考えずに使うと、単なる「写りが悪いレンズ」
になってしまうが、初級中級層では、残念ながら、そこまでの
使い方しか出来ない。

けど、これの「ストライクゾーン」を意識して、かつ、
ボールとなる領域には、どのような構図的な処置を加えるか
を考える事が、とても良い練習となる訳だ。
_c0032138_17344865.jpg
必要ならばエフェクトを使っても良い。これは「誤魔化す」
のではなく、エフェクトを組み合わせてまともな「表現」に
しようとすれば、さらに難易度が格段に上がるので、むしろ
練習のレベルを上げる為にも効果的だ。

まあ、とても難しい話ではある。そう簡単に出来る物でも
無いが、そういう風に本レンズを用いる事が本筋であって、
その為に、私もこれで練習を繰り返している。

PENTAXのシステムは、銀塩時代から現代に至るまで、
常に「ユーザーの考えの斜め上を行く」仕様となっている。
比較的安価な機材だから「初級者向けか?」と思ってしまうと
さにあらず、非常に高度な内容がその仕様や機能の裏に隠されて
いる場合が多々ある為、「PENTAX機は、いくら使っても、使い
こなし切れるものでは無い」という印象すらある。

PENTAX機は初級中級層に人気な為に、この事実に気づいて
いる人は極めて少ないのではあるが、上級マニア層等であれば
PENTAX機やPENTAXレンズを購入して、その「奥深さ」を
味わってみるのも良いと思う。

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では、次のボディキャップ
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レンズは、GIZMON Wtulens 17mm/f16
(新品購入価格 6,000円 マウントアダプター付き)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7(μ4/3機)

2018年発売の、「写ルンです」レンズ再利用品トイレンズ。
姉妹商品「Utulens」(うつれんず)や、本レンズ
「Wtulens」(読み方不明)の名前は、それを由来とする。

本レンズはLマウント(注:銀塩L39の事)対応品であり、
レンズ本体そのものが薄くても、ミラーレス機で使用時には
マウントアダプターが必須で、全体的にはボディキャップ
とは言い難い形状となるが、まあ、細かい事は言うまい。

本レンズは「写ルンです」レンズの再利用(移植)品で、
1群2枚、非球面メニスカス(三日月)型構成レンズを
2枚、前後に張り合わせて広角化したものである。

銀塩「写ルンです」では、フィルム面をあえて湾曲させて
レンズの像面湾曲収差を補正するという特殊構造であったが
デジタルでは、それは無理なので、簡易絞り機構を入れて
収差を減らし、画質を維持しようとしている。
この為、銀塩「写ルンです」がF10程度の明るさであったが
絞り機構、および張り合わせ構成により、本Wtulensでは
F16と、若干暗くなっている。
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銀塩「写ルンです」は、その内容や見かけよりも画質が
優れている事が特徴であった。
が、本Wtulensでは、2枚張り合わせと、前述の像面の
湾曲構造が実行不能である為、銀塩版よりも画質は
当然、かなり落ちる。
本Wtulens の使用上では、あまり銀塩時代の、良く写る
印象を損なわないように意識するのも、コンセプト的に
有りだし、それとは逆に、あくまで「写ルンです」は
銀塩時代の安価なシステムであるから、銀塩っぽくユルく
撮る方法論もある。

前者、Hi-Fi志向の場合、μ4/3機やAPS-C機を使って
みるのも良く、小さいセンサーで周辺収差を消して、
かつ露出やら光源状況やらにも留意して撮る。
小センサー機では画角が狭くなるが、そんな事は全く気に
する必要は無い、本Wtulensは17mmの広角ではあるが、
これをフルサイズ機で使っても、残念ながらケラれて
超広角画角は得られない弱点もある。
だから、最初から「準広角レンズだ」と思って撮れば良い。
それよりも、レンズの弱点に配慮しながら撮っていけば、
元々描写力の高いレンズだ、そこそこまともに写るであろう。

この結果、例えば、銀塩時代を知らない人にも、
「へ~、これが”写ルンです”のレンズか、当時から
 なかなか良く写っていたんだね」という印象を
与える事ができるかも知れない。

後者、Lo-Fi志向の場合は、元々銀塩「写ルンです」は
固定絞り、固定シャッター速度で、露出はネガフィルムの
ラティチュード(≒ダイナミックレンジ)頼みであった
事から(つまり、あまりに明るかったり暗かったりする
被写体には「写ルンです」は本来の性能が発揮できない)
・・デジタルでも、その弱味をシミュレートする為、
あえて逆光条件等の厳しい被写体状況で撮影したり、
収差が厳しく出るフルサイズ機を使ったり、あるいは
意図的に露出をバラつかしても良いだろう。
_c0032138_17345700.jpg
また、銀塩時代には無かった「エフェクト」の中から、
控え目な処理のものを使用しても(すなわち、若干ユルい系
の描写に加工する)、それなりに効果的であろう。

デジタルから写真を始めた人達や、写真をあまり撮らない
人達は、昔のフィルムカメラは、皆、酷い写りだったと
誤解しているのだが・・
実際にはそういう事は一切無くても、あえてそういう印象を
与えるような写真とする意図が有り得る。そうする事で
「なんだかフィルムっぽくて、懐かしい感じですね」と
いったイメージを、見る人に与える事ができる訳だ。

結局のところ、こういうトイレンズ系を使用する場合には、
どのように「コントローラブル」にするかは、撮影者の
考え方(コンセプト、意図)やスキル次第という事だ。

レンズの言うがままに撮っていたら、単にレンズ性能に
振り廻されているだけだ。高性能なレンズでも、低性能な
レンズでも、どのようにでも好きに撮れるようにしてくのが
重要であろう。さもないと、高価なレンズを買ったけど
「性能が気に入らない」とか言って、またさらに高価だったり
最新型だったりのレンズの方に、目が移ってしまう。
それは別に、問題だと言う訳ではないが、あまりに非効率的な
お金の使い方であるし、あまりに「機材の性能頼み」の状態だ。
「レンズを使いこなす」という意味は、「そのレンズの描写
性能までも管理下に置く事が望ましい」という意味でもある。

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では、今回ラストのシステム
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レンズは、FUJIFILM FILTER LENS XM-FL 24mm/f8
(中古購入価格 6,000円)(以下、FILTERLENS)
カメラは、FUJIFILM X-E1 (APS-C機)

2015年に発売されたFUJI Xマウント専用ボディキャップ型
効果フィルター内蔵、固定焦点型レンズ。
銀色版、黒色版が存在する(注:黒色版は生産完了か?)

一種のボディキャップレンズであり、ピント機構を持たない。
しかし仕様的に「完全パンフォーカス」には、私の計算上では
なっていない様子なので、特に遠景ではピント感の甘さが
気になるかも知れない事は注意しておく必要があるだろう。

が、そういう撮り方をするならば、FUJI Xマウントには描写力
に優れたレンズが沢山あろうから、それらを使えば良い。
_c0032138_17351051.jpg
本レンズの使い方の最大の特徴は、本体内に内蔵されている
ノーマル、クロスフィルター、ソフトフィルターの3種類の
効果による描写を使い分ける事だ。

内、ノーマル撮影は、前述のように、他のより優秀なHi-Fi
仕様のレンズで代替すれば良い。
もしこの時、ノーマルモードで、トイレンズ風の写り(例えば
周辺減光や解像感の甘さ)が出るのであれば、それはそれで
ノーマルの使い道があった、でも本FILTERLENSは、4群4枚
という本格的なレンズ構成であり、そこそこちゃんと写って
しまい、むしろ中途半端に用途が無い。

それから、クロスフィルター効果は、まあ派手ではあるが
夜景撮影などでそれを入れて撮ってしまうと、後からその効果
をレタッチ等で消す事は不可能となる。加えて「弱めに掛ける」
とかの調整も出来ない。
さらに言えば、このフィルターを使用すると解像感も悪化する。
よって、本レンズのクロスフィルター効果は、レタッチ等で
後付けする方が、様々な面で簡便だとも思う。

対して、ソフトフィルター効果はなかなか使える。
本来、ソフト効果はフィルターよりも、実際の「ソフトレンズ」
を使った方が望ましい。それはコントローラブルである事や
物理フィルターでは得られない雰囲気が出せるからだ。
(本シリーズ第7回記事「ソフトレンズ編」参照)

だが、ソフト(フォーカス)レンズはピント合わせが困難で、
実際の使用時には、かなりストレスとなる。
そこで、本FILTERLENSのソフトフィルター効果であるが、
ピント合わせが不要な準パンフォーカスなので、使用が極めて
楽である。ここで課題となる「ソフト量調整不可」だが、
割合に丁度良い効果量となっている為、ほとんど不満は感じ
ない事であろう。それから、本レンズでのソフトフィルター
使用時の画角は、約36mm相当と準広角だ。
広角から準広角の「ソフトレンズ」は、他には安原製作所
MOMO 100(28mm)と、LENSBABY TRIO28 (未所有)の
2種類しか存在しないので、とても希少だ。


私は、本FILTERLENSを数年間使っているが、実用上では、
ソフトフィルター効果を主に使うのが良いではなかろうか?
と近年では思っている。
なお、その際にFUJIFILMのXシリーズミラーレス機に搭載
されている優秀なフィルムシミュレーション機能と併用する
のも良いであろう(特に、アスティア、モノクローム系、
セピア等)
さらには、最初期を除くXシリーズのカメラにはエフェクト
(アドバンスド・フィルター)機能も搭載されているので
それを組み合わせても良いが、FUJI機はエフェクト機能に
関しては後発であり、現状、あまり良い組み合わせが無い
かも知れない。
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まあ、いずれにしても、全てのボディキャップ系レンズは
画質やら表現やらを気にして撮るような類のものでも
無いかも知れない。それこそボディキャップの代わりに
常時装着しておき、「いざとなったら」それでも撮れる
という感じであろう。

ちなみに、「いざ」とはどんな状況か?と言えば、例えば
撮影に(超)望遠レンズを持ち出したが、それは、ある用途
(例:野鳥撮影やスポーツ撮影等)に使うものであり、
最初からそれをカメラに付けていっても、撮るものがないし
ハンドリング(持ち運び)も悪い。
そこで、撮影の現地に行く迄は、カメラ本体にはFILTERLENS
をつけておき、それでスナップ撮影や、記念撮影や、現場の
記録撮影等に使えば良い、と、まあそんな感じであろう。
こういう事が「いざという場合」なのであれば、本レンズ
におけるノーマルモード撮影でも十分に使い道が出てくる。

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さて、今回の記事「ボデイキャップ レンズ特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・


レンズ・マニアックス(29)

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過去の本ブログのレンズ紹介記事では未紹介のマニアック
なレンズを主に紹介するシリーズ記事。
今回も、未紹介レンズを3本取り上げるが、それに加えて、
過去記事で紹介済みレンズを1本、比較の意味で追加する。

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まず、今回最初のレンズ
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レンズは、SIGMA MACRO 70mm/f2.8 EX DG
(中古購入価格 28,000円)(以下、EX70/2.8)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

2006年発売のフルサイズ対応中望遠AF等倍マクロレンズ。
(注:正式な型番は良くわからない、MACROとかの部分的
な名称が、どの順番で入るか不明なのだ。
一応ここでは、SIGMAのサイトでの旧製品の項目を参考に
しているのと、例によっての本ブログ独自での共通表記法
をミックスしたものだ)

現在、このレンズには後継の新型がArt Lineに属して
販売されており、そちらは、本シリーズ第24回記事等で
紹介済みだが、比較の為に新型も後で再掲しよう。
_c0032138_09164691.jpg
さて、本レンズは初出の際の紹介記事(デジカメWatch)
で「カミソリマクロ」と称された。
言い得て妙ではあるが、残念ながら本レンズは、あまり
所有者の多くない「セミレア」レンズとなり、その呼称は
その後の時代でもマニア層等には広まっていなかった。

2009年頃、知人が本レンズを所有していた。私はそれを
借りて使った訳では無いのだが、見た目の仕様や知人が
撮った写真を見ると、なかなか良さそうであったので、
購入機材の候補としていたのだが・・
その後、長らく中古市場をウオッチしていても、殆ど
(全く)本レンズを見かけない。
「よほどレアなレンズなんだろうなあ・・」と思いつつ
入手が出来ないまま、9年の歳月が流れた。

2018年になって、本レンズの後継機種である「SIGMA
70mm/f2.8 DG | Art」が発売されると、私はそちらは
すぐに入手したのだが、そうなると逆に旧型との違いが
物凄く気になるようになってしまった(汗)
これは何としても旧型を入手しなければならない。

・・と、やっとその年に、旧型の中古が市場にポツポツと
数本だけ出てきた。恐らくだが旧型のユーザーが新型に
買い換えた事での下取り品であったのだろう。

そして私も無事旧型を入手、セミレア品扱いであったので
あろうか?中古価格は28,000円と、想定購入価格より
僅かに高目な印象(2万円台前後を想定)もあったが、まあ
不条理な程に高価な相場では無い、これは「買い」であろう。
_c0032138_09164637.jpg
SIGMA製のマクロレンズの購入は、これで7本目となる、
ただ、いずれもいわくつきだ。
いずれ「特殊レンズ・超マニアックス」記事でまとめて
解説予定だが、本記事でも簡単に述べておこう。

1980年代
・SIGMA 90mm/f2.8 Macro(現在未所有)
 1989年頃に発売された小型軽量のAFハーフマクロ。
 このレンズは、当時あるいは少し後の時代のTAMRON製
 90mmマクロ(F2.5版、F2.8版)と比較して描写力がかなり
 落ちると私は評価し、短期間で譲渡してしまっていた。
 描写力の課題はSIGMAでも意識していたのであろうか・・
 名マクロとして定評のあるTAMRON 90マクロと比較される
 のは、さすがに少々しんどいと思われる。
 以降の時代、SIGMAは90mmのマクロを1本も発売していない。

1990年代
・SIGMA AF MACRO 50mm/f2.8
 SIGMA AF MACRO 180mm/f2.8
 発売年等詳細不明、この頃のSIGMA製レンズの詳細な情報は
 殆ど残っておらず、おまけに正式な型番すら不明である。
 冒頭にも書いたが、SIGMAのレンズ自体には、断片的に
 型番の一部が順不同で書かれているだけであり、結局
 正式名称がどのような順番となるのか? 良くわからない。
 
 いずれもCANON EFマウントでの購入、特にAF50/2.8は
 描写力が高く、銀塩時代には愛用した。

 180/2.8の方はハーフマクロながら、非常に大型で重い
 レンズであったので、あまり活躍の機会が無かった。
 この課題もSIGMAは認識したのか? 後年には口径比を
 F3.5に落とし、若干小型軽量化されている。
 
 最大の課題は、これら1990年代製のSIGMA製のCANON EF
 マウント用AFレンズは、2000年頃迄のCANON EOS銀塩機
 であれば使用可能だが、2000年以降の銀塩/デジタルEOS
 機に装着すると、エラーとなって撮影不能になる事だ。
 よって、これまで使えていたSIGMA製レンズは新しいEOSに
 買い替え得ると使えずに、大変困った事になる。

 これは、サードパーティー製のレンズの台頭を良く思わない
 CANON側がレンズとの通信プロトコル(方式)を意図的に
 変更したのだと十分に推測できる。(=排他的仕様)
 まあ、ユーザーの事を全く考えない非情な措置であり、
 カメラ史上での汚点であると思う。(まあ「デジタル時代
 を見据えた機能(仕様)追加である」といった理由はある
 かも知れないが、それとて、CANON純正レンズでは古い物
 でも互換性があったので、他社製品を排除した事は一緒だ)

 結局、これら1990年代SIGMAレンズは、2000年代を通じて
 使用できず、腹がたって捨ててしまおうとも思ったが、
 別にSIGMAに非は無い。後年には新しいCANONプロトコル
 に対応したSIGMA製レンズが出てきて、その後の時代も
 SIGMA製レンズとEOS機とでの使用環境は何ら問題無い。

 やっと旧レンズが使えるようになったのは、2010年代
 からのミラーレス時代であり、絞り羽根内蔵等のEOS用
 マウントアダプターで、これらのレンズは無事復活した。
 ただし、絞り羽根内蔵アダプターは、光学的に言えば
「視野絞り」であり、これは露出値(光量)のみを調整する
 効果があるが、通常のレンズ内絞り(開口絞り)とは
 効能が異なる。よって、このアダプター・システムでは、
 ボケ量およびボケ質の細かい制御が、ほぼ不可能となる。

 加えて、1990年代のSIGMA製レンズは、コーティング又は
 バルサム(レンズを接着する材料)の劣化により、後年に
 おいて描写力が大きく低下する場合がある。久しぶりに
 持ち出してみると、フレアっぽい描写になってしまった
 ケースが、私の所有範囲ですら3~4件発生しているのだ。

 まあ、依然困ったままであるが・・ 20年を超える期間、
 色々と苦労して使った事で愛着も沸いてきて、なかなか
 新型レンズに買い換える気も起こらない。

2000年代
・SIGMA MACRO 105mm/f2.8 EX DG x2本
 例によって正式名や詳細情報は不明だ、まあ中望遠AF等倍
 マクロであるが、超音波モーターも手ブレ補正も入って
 いない旧型である(注:現行品は、それら付加機能を搭載)
 しかし、このレンズ、大変良く写る。気に入ったので
 異マウントで同じ物を2本所有している位である。
 詳細は過去記事でも何度も紹介しているので割愛しよう。

・SIGMA MACRO 50mm/f2.8 EX DG(後日紹介予定)

・SIGMA MACRO 70mm/f2.8 EX DG(本レンズ)

2010年代
・SIGMA APO MACRO 150mm/f2.8 EX DG OS HSM
(本記事執筆後に購入、後日紹介予定)

・SIGMA 70mm/f2.8 DG | Art
 本シリーズ第24回記事等で紹介、本記事でも再度紹介。

さて、所有しているSIGMA製マクロを非常にざっくりと
紹介したが、基本的に、どのレンズも高い描写力である。

一般的には、マクロと言えば、TAMRONやOLYMPUS製が高性能
であると連想するとは思うが、SIGMAのマクロも捨てがたい。
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さて、本EX70/2.8の話題に戻ろう。

長所としては、「通り名」の「カミソリマクロ」にも
あるように解像感が高い所だ。
しかし、この点に関しては、他のSIGMA製マクロの多くが
同様の特徴を持ち、本レンズだけの長所であるとは言い難い。

(多数のSIGMA製、または他社マクロレンズを所有していれば
その事は簡単に認識できるであろう。たった1本のマクロを
見ただけでは、その特徴を言い表すのは無理があると思う)

レンズ設計上、球面収差とコマ収差の両者を優先的に補正
した、いわゆる「アプラナート」型の光学設計の場合では、
解像感に優れるが、ボケ質に劣る事が常である。
しかし、本レンズの場合は、ボケ質の破綻は起こり難く、
優秀な設計である事が見て取れる。
総合的には、描写力上での不満点は殆ど無い。
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では、弱点は何か?と言えば、あえて上げるならばAF精度
であろうか? カメラ(デジタルEOS機)を色々と変えて
試してはいるが、どの機種を使ったとしても、AFでは良く
ピントを外してしまう。

なお、同じEFマウントでの同時代のSIGMA製マクロでは、
前述の105mm/f2.8を使用しているが、実はそれはAF故障品
で極めて安価に買ったものだ。MF100%の使用法では、全くと
言っていい程不満を感じていなかったので本レンズの場合も
いっそ「AFは使えないもの」と腹をくくって、MFオンリーで
使用すれば、その弱点は解消できそうだ。
その為もあって、今回は、MF用スクリーンに換装済みの
EOS 6Dを使っている訳である。

AF問題を除いては、チラリと前述したようにコスパがやや
悪く感じる。いくら優秀なレンズであるとは言え、マクロは
基本的に、どれも非常に良く写る。
・・であれば、2000年代マクロであれば、他の同等性能品
でも2万円程度の中古相場感覚となるので、28,000円は、
やや高額であったと思う。

これまでは希少なレンズであったが、新型の後継機の登場で、
やっと少しだけ中古流通が活性化している、見かけたら購入
検討対象とするのも悪く無いであろう。

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では次のレンズ、これは比較紹介(再掲)だ。
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レンズは、SIGMA 70mm/f2.8 DG | Art
(中古購入価格 44,000円)(以下、A70/2.8)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

2018年発売のフルサイズ対応中望遠AF等倍マクロレンズ。
上記EX70/2.8の正当な後継機種だが、実に12年ぶりの発売
となっている。その間、カメラ側ではミラーレス機が登場し
本レンズの対応マウントも、一眼レフ用に加えて、SONY FE
マウント版が販売されている。
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2013年に、SIGMAは製品ラインナップを使用目的別に整理。
これは、市場縮退による高付加価値化戦略の一環でもあり、
これにより多くのレンズは旧製品よりも大幅に値上げされて
いる。最も付加価値が高い(つまり、高価な)カテゴリーは
Art Lineであり、本A70/2.8もそこに属するのだが、定価は
他のArtレンズよりも半値から1/3程度と安価である。
そして、本レンズがArt Lineとしては初のマクロレンズだ。

長所や短所は、本シリーズ第24回記事で述べているので
詳細は割愛する。
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本レンズも描写力は高いが「新型のカミソリマクロだ」と
称される割には、あまりキリキリとした解像感は感じられず
むしろ2000年代SIGMA製マクロの方が、その称号にふさわしい。

外観や操作性は現代的なデザインと仕様となっているのだが
現代風の無限回転式ピントリングとなっている事で、MF操作に
適さず、この点、マクロレンズとしては大きな欠点だ。

いつもこの点は嘆いているのだが、現代においてはメーカーも
ユーザーも正しいMF撮影のノウハウを持っていないのであろう。
まあでも、そうだとしても、古いMF(マクロ)レンズで大量の
撮影をこなせば、そのあたりは自力でもわかって来る事だ、
つまり、殆ど誰もMFで撮っていないのだろう・・
マクロ(近接)撮影の場合、MFが絶対的に高効率であるのは
間違いない、ぜひともMFでの大量の撮影を行う事を推奨する。

MFの弱点はさておき、AFもNGだ。SONY α系機種では、どれも
AF速度も精度も出ない。本体側の像面位相差AFに正しく対応
していないのではなかろうか?と疑っているのだが、レンズの
ファームアップを期待したい所だ。

なお、従前の記事で「本レンズは、αミラーレス機の一部で
デジタルズーム機能が効かない」と記載したが、2018年末の
ファームウェアVer. 02以降で、この不具合は解消されている。

それと、近年のSIGMA製レンズでは、USB Dockという別売
付属品を買わないとレンズのファームアップが出来ずに
「鬱陶しい」と思っていたが、SONY機用のマウントであれば
PCからUSB接続でαカメラを経由したアップデートが可能だ。
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さて、本記事では、旧型EX70/2.8と、新型A70/2.8の
スペック上の比較もしておこう。

旧型:SIGMA MACRO 70mm/f2.8 EX DG
・発売年 2006年
・フィルター径 φ62mm
・最短撮影距離 25.7cm
・重量 525g
・レンズ構成 9群10枚 絞り羽根9枚

新型:SIGMA 70mm/f2.8 DG | Art
・発売年 2018年
・フィルター径 φ49mm
・最短撮影距離 25.8cm
・重量 515g
・レンズ構成 10群13枚 絞り羽根9枚

12年の時を隔て、新旧両レンズの印象は全くの別物であり
特に新型はフィルター径が小さく、「細くて長いレンズ」
という印象がある。旧型は、なんと言うか?「ビア樽」型だ。

例えば他社の、新旧マクロアポランター、のように新型が
圧倒的に優れている、という印象は受けない。
特に新型でのMF操作系の悪化が、かなりの弱点となる。

なお、新旧とも「FULL/LIMIT」の切換スイッチを持つ。
昔から現代に至るまで、多くのAFマクロレンズで、この切換
機構を備えているが、カメラのAF精度が未成熟であった
1990年代頃に主に必要とされた仕様であり、現代のマクロ
レンズでは、もう、あまり有益な機能では無いかも知れない。

特に本レンズでは距離指標を持たない無限回転式の為、
「FULL/LIMIT」が機械的な制限を設ける2段切換機構では無く、
電子的な3段階切換スイッチによるものなので、誤操作し易い
危険性がある、いっそ廃止してくれてもあまり問題は無い。

(ただまあ、マクロレンズ全般での最短撮影距離から無限遠
までのAF遷移時間は、たとえ超音波モーター搭載最新マクロ
であっても、とても遅く、そのイライラを緩和する為には、
LIMITスイッチは有効だ。でも、MFが自由に効く仕様にして
くれるのであれば、次に撮る被写体距離を想定して、MFで
事前にピントを推定で動かし、AF速度の課題を解消できる。
無限回転ピントリング仕様では、これが出来ないから不満だ)

本A70/2.8は、決して悪い性能のレンズでは無いが、本シリーズ
第24回記事でも書いたように、様々なクセの強いレンズだ。
あまり簡単には、誰にでも薦められるレンズでは無いと思う。

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さて、次のシステム
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レンズは、COSINA AF ZOOM 70-210mm/f4.5-5.6 MC MACRO
(ジャンク購入価格 300円)(以下、COSINA70-210)
カメラは、SONY α65 (APS-C機)

出自不明、恐らくは、1980年代末頃のAF望遠ズーム。
コシナ製のAFレンズは、かなり稀である。今となっては調べる
手段もあまり無いが「数える程しか無かった」と記憶している。
これは現代のフォクトレンダー/カールツァイス時代に至る迄
同様で、ほぼ全てがMFレンズであり、これはコシナの開発・
製造のプロセスが、MFレンズに特化しているからであろう。
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で、本レンズはMINOLTA αマウントであり、「LICENCED BY
MINOLTA」とレンズに書かれている。これはコシナ側が懇願
して技術供与を受けたのか? いや、想像だが恐らくは逆で
MINOLTAが「αショック」(1985年)以降、他社を圧倒して
いた「α」のポジションをさらに磐石とする為、「α陣営」を
増やそうとして、当時ニュートラル(中立)なOEMメーカーで
あった「コシナ」を引き込もうと、技術供給を行ったのかも
知れない。
もしそうだとすれば、当時としては、そうした「オープン戦略」
は先進的であろう。時代的に他社は、全て「クローズ」な
排他的思想が殆どであったからだ(前述したCANONのプロトコル
変更もしかり、排他的思想だ)

現代では、先端技術分野については、できるだけ「オープンな
思想」を持つ事が、企業から研究員・技術者に至るまで望ましい、
という常識になっている。何故ならば、テクノロジーが複雑かつ
高度になりすぎていて、1人とか1企業の単位で技術革新が
行える筈も無いからだ。皆が知恵を出し合って、新技術を
発展させなければならない。

もう19世紀の「エジソン」のように、「発明王」が出て来る
世情では、とうに無くなっている。
でも、そうなったのは、CPU、LSI、デジタル技術、Web、AI
等の新技術が急速に発展した、この数十年間での話である。

だからまあ、1980年代にオープン思想を持つ事は非常に
先進的であり、まるで電子楽器分野での「MIDI」(1980年代)
のような話だ。(その時代から既に、各社の電子楽器は
同じMIDIプロトコルに則って、連動して動かす事が出来る)
その後の時代でも、世の中の「偉い人」等は、この技術分野
における革新の仕組みが理解出来ておらず、いつまでも自社の
利益を第一に優先する排他的なクローズ思想を持つだけだ。

私は近年では、カメラに限らず様々な市場分野の製品において、
「クローズ思想」の強いメーカーの製品は、一切購入しない
ようにしている。つまり「クローズ思想」そのものが「製品の
購入を阻害する理由」となっている消費者も居る、という事だ。
これは商売優先のメーカーも良く認識しておく必要があるだろう。

さて、本レンズの話に戻る、これはジャンクレンズではあるが、
後玉に少しクモリがある程度で、他の動作は異常が無さそう
だったので購入したが・・・ 早速問題点が発生。

本レンズとα65(2012年)との組み合わせはで、AFと絞りが
動作しない。試しに他機に装着するとSONY α700(2007年)
やα77Ⅱ(2014年)であれば問題無く動作する。

古い機種も新しい機種でも動くのに、α65だけ動作しないと
いうのは何故なのだろうか? レンズとの通信プロトコル上の
問題である事は確実であろうが、まさかα65が中級機であるが
故に、他の上級機と差別化しているという事は無いだろうが・・

(つまり、安い機種では、使えるレンズを限定してしまう等の
意地悪を行う。「気に入らなければ、高いカメラや純正レンズ
を買え!」という仕掛けだが、そこまでは悪意が無くても、
下位機種の性能や仕様を色々と制限したり、他社システムとの
連携を拒む事(=仕様的差別化、排他的仕様)は、まあ現代の
デジタル時代では、ビジネス上では当然の措置であろうが・・
そうだとしても、何だか「とても残念な」製品戦略だ。
前記の「オープン思想」には完全に逆行している事になる。
そういう細かい意地悪を重ねてカメラの販売シェアを伸ばした
のだとしたら、外から見ていても、気分の良い話では無い。
いつの時代でもそうだが、「偉い人達」の思考プロセスは
決して褒められたものでは無い事が、大変良くある話だ)

さて、確かに面白く無い話だが、やむを得ない。α65の使用
を諦め、「オフサイド状態」(=カメラが無駄に高価過ぎる)
になるが、SONY α77Ⅱで試写を続行する事にしよう。
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カメラは変わって、SONY α77Ⅱ (APS-C機)

さて本COSINA70-210だが、平凡なスペックの普及望遠ズーム
である。恐らく発売時の価格も非常に安価であっただろう。

技術力が高いコシナではあるが、まずは市場戦略上の様々な
制限により、原価の高い(=性能が良い)レンズを作りにくい
状況にあった。それから(望遠)ズームレンズの設計における
当時の技術的限界というのもあって、個人的な分析においては、
1990年代になってからでないと、望遠ズームの、特に望遠側
での収差(画質)は、改善されていかない。
まあ、これらは他の記事でも良く書いている事であり、
それぞれ事情・理由があるので、そこを責めるのは筋違いだ。
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で、案の定、本レンズは、望遠側での諸収差の増大による
解像感の低下、低コントラスト、低い逆光耐性によるフレア感
等の様々な弱点が顕著だ。

例によって様々な弱点回避技法を駆使して使ってはいるが
それも限界がある。
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私の近年のジャンクレンズの購入目的は、その殆どが、
そうした弱点回避スキルの向上の為の研究およびトレーニング
が目的となっている。レンズ性能に色々と問題点があった方が、
スキルアップの為には、むしろ適切な「教材」となるのだ。
そのレッスンの為の、ジャンク価格(300円~2000円位)
の出費は全く惜しく無い。

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次は今回ラストのレンズ
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レンズは、mEiKE 12mm/f2.8
(新品購入価格 27,000円)(以下、Meike12/2.8)
カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機)

近年(2018年?)に発売された、中国製のAPS-C型対応
ミラーレス機用MF超広角単焦点レンズ。
「mEiKE」と、大文字小文字が入り乱れたロゴマークで
あるが、ややこしいので、以下はMeikeと記載する。

つい先年までは、このブランドはNEEWER(ニーワー)とも
聞いていたのだが、Meike(メイケ)は、交換レンズ用の
新たなブランド名だろうか? 
(注:NEEWERとMeike製品は、一部、ずいぶんと品質が
異なり、同じメーカーの製品とは思えない場合もある)
まあ、例によって中国製レンズは謎が多い。

なお、近年のコロナ禍における中国政府等の施策に
各方面から批判の声が出ていたが、中国製品の話とは
また別問題だ。政治の話と、製品や技術の話を混同する
のはどうか?とも思う。

古くは1980年代、フランスが対日貿易赤字の対抗策
で日本製ビデオデッキの輸入を制限した事があったが、
その際にフランスの民衆が日本製のビデオデッキを沢山
破壊している映像を見た事がある。それを見て思った事は
やはり、「あちゃ~、”政治”と”製品”は全く別モノ
なのになぁ・・」という技術屋視点での感想であった。

以下、Meikeレンズの技術や市場背景の話を進める。
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何故、2016年位から数年間で中国製レンズの急速な台頭
が起こったのか? と言えば、これは、日本製レンズが
市場縮退により高付加価値化してしまった事が要因であり、
すなわち国産レンズは、今や高すぎて、かつ価格が性能に
見合っていない、すなわちコスパが極めて悪い。

まあ、国内市場の様々な変化によって、国内メーカーは、もう
低価格帯のコスパ良い製品を作れるような状況では無いから、
そこに中国製(等)レンズの「付け入る隙」が出来た訳だ。
まあ、これは当たり前の市場原理、ビジネス戦略であろう。

初級中級層や初級マニア層では、これらを「中華レンズ」と
呼んで、「安かろう、悪かろう」と馬鹿にしながらも
試しに買ってみて、「思ったより良く写る、びっくり!」
等と言っている状況だが、ここも当たり前の話だ。

新鋭中国製レンズの一部では、数十年前の非常に完成度の高い
レンズ設計を探して来て、そのレンズ構成を殆どそのまま、
又はフランジバック長等を、少しだけ改善後、さらに例えば
2/3程度の寸法にダウン・サイジングして、イメージサークル
の小さいミラーレス機用(APS-C機用)にアジャストしている。
(注:メーカーによっては、その戦略を取らない場合もある)
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本レンズは、超広角で、10群12枚構成との事。
レンズ構成図が見当たらない為に詳細は不明ではあるが、
このあたりの多群構成は、その昔のカール・ツァイスの
高性能広角レンズ「ディスタゴン」構成とかの転用では
なかろうか? 

他の「七工匠」等の中国製レンズも同様な設計手法であり、
七工匠25mm/F1.8(本シリーズ第26回記事)は、5群7枚
の変形ダブルガウス構成であり、これはまあ、あえて
ざっくりとした言い方をすれば「殆どツァイスのプラナー」
である。

こうした、古い時代の完成度の高いレンズ構成を流用する
事については、仮に特許等があったとしても、とうに切れて
いるだろうから、何も問題はあるまい。
そうだとすれば、新設計等に係わる開発コストが限りなく
ゼロに近づくでは無いか・・ 
中国等でも自動光学設計ソフトは普及している事であろう、
ソフトでゼロから光学設計をすると、とてつもなく複雑で
高価な構成を提示してくるのだが(現代の国産レンズが
それだ)ベースとなる基本設計があって、それを現代の
多種多様な硝材等を使用した小改良をする程度は造作も無い。

よって、七工匠25/1.8の紹介記事では、そのレンズの事を
「ジェネリック」と称した。つまり、ジェネリック薬品も
既に世の中にある薬品の成分をコピーして製造する事で
新薬の研究開発や検証(臨床)・認可にかかる膨大な費用を
削減でき、安価に作れる訳である。

レンズも同様、全くの新規のレンズを設計し製造するには
莫大な費用がかかる。まあ、それでも沢山売れるならば
開発費や金型費等の製造コストを多数の製品に振り分けて
安価になるのだが・・(これは「大量生産」という意味であり
かつて数十年前に、日本の製造業が得意とした手法である)

もし市場が縮退して、製品の数があまり出なくなると、
個々の製品に乗せる償却費用が大きくなり、とんでも無く
高いレンズとなってしまう訳だ。
・・なので、30万円とか50万円とかの、不条理なまでに
高価なレンズが市場に出揃ってしまう。

それでも、初級中級層や初級マニア層等の一部では、そうした
一般常識的な「市場原理」が全くわかっていない状態において、
「それだけ高価ならば、きっと素晴らしい性能のレンズに
違い無い」と大誤解をして、無理をしても買ってくれるので、
かろうじて現代の縮退したレンズ市場は崩壊せずに、なんとか
ビジネスを継続できている訳だ。
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さて、では具体的に本レンズの長所短所はいかに?

長所だが、まず勿論コスパが良い事である。
ただ、他の格安中国製レンズに比べると、少々割高感は
あるが、まあ、そこは超広角の付加価値で相殺できる。
(注:最近では新品相場が大きく下落している。やはり
中国製レンズとしては高価過ぎる印象が強かったのであろう)

「FUJI Xシステムを成立させるのは難しい」と従前の
記事でも何度か書いている。まあつまりFUJI純正レンズは
種類が少なく、かつ市場シェアも小さいので、レンズ単価
が高くなってしまう。同等の性能を持つ他社レンズよりも
2倍前後も高価ならば、純正レンズを買い難い。
また、マイナーマウントに向けては、レンズメーカーも
製品を販売しない、前述の開発費等が償却出来ないから
面倒なのだ。

・・であれば、こうした新鋭海外製レンズを使用する等で、
FUJI Xシステムの基本ラインナップ(広角から望遠までを
実用レベルとして揃える事)を充実させるしか無い。

「全体の作り」や品質等も良く、むしろ国内の低価格帯レンズ
は、さまざまなコストダウンが市場戦略上で必須の状況なので
(=つまり、儲けを出さないとビジネスが継続出来ないから)
こうした新鋭海外製レンズの方が、はるかに品質が高く、
高級感がある。(=さも無いと、”安かろう、悪かろう”
では、本当に売れなくなってしまうからだ)

収差の類も少ない。超広角レンズで良く問題になる、
「歪曲収差」「周辺減光」「ゴースト」のいずれも少なく
及第点だ。ただし、僅かな「像面湾曲収差」が出ている
模様だが、これは実用上では気になる事は無いであろう。

短所であるが・・
これが特に見当たらない、ただ、非常に細かい点を言えば
最短撮影距離は10cmの仕様だが、そこまで距離指標は無く
15cmが最低で、実際の最短撮影距離は曖昧だ。
(追記:後日入手した他のMeike製レンズでも、距離指標
の問題点があった。詳細は不明だが、何かの製造技術的な
課題が背後に存在している可能性が高い)
ピントリングはやや重い、まあでも気になる程では無い。

他記事でも良く「ディスタゴン構成はピントが分かり難い」
と書いているが、本レンズもその傾向がある。近接撮影で
被写界深度が浅い場合、EVFでもピーキングでも、やはり
ピントの山が良くわからない。
結局、パンフォーカス撮影とする場合が多いので、被写界
深度目盛りがあると嬉しいが、残念ながら、それは無い。

説明書は中国語であり、一応日本語のものも付いているが、
「絞りを解放すると」といった、まるでビギナーのような
誤記がある。(勿論、正しくは「絞りを開放にすると」
であり、”解放”では”解き放つ”という意味だから、
まるで絞りの部品がレンズから外れて、すっ飛んでいって
しまいそうな表現だ・・汗 日本のビギナー層でも、その
誤記は極めて多いが、まあ、中学生以下レベルの国語能力だ)

ダウンサイジング設計は、少々光学的に無理が出る場合も
あるようで、本レンズに限らず、中国製レンズ全般で
画面周辺収差の増大、歪曲収差の発生、周辺減光等の
課題が生じる場合もあるが、本レンズでは僅かなレベルに
良く抑えられている。まあ、そもそも、元にした設計が
数十年前の物であれば、それら旧レンズに元々存在していた
弱点だったのかも知れない訳だ。

もし、あまりに気になるような場合は、周辺をカットして
使用する方法論もある。例えば簡便には、これらのレンズは
APS-C機対応イメージサークルだから、μ4/3機で使えば
周辺は写らない。またはトリミング編集するか・・だ。

歪曲収差で無ければ、絞ると改善する収差が殆どであるし、
歪曲収差は高機能編集ソフトならば、簡単に補正できる。

まあ、元々広角レンズが欲しくて買っているのでトリミング
は心理的に行い難いとは思うが、それも、写真での構図とか
意図とか目的によりけりであろう。
つまり本レンズに限らず、機材全般では、色々と考えて使う
事で、その弱点を回避するのが良い、という事だ。

それが出来ずに、カメラやレンズの文句ばかり言っているのは
工夫して使いこなす事が出来ない初級中級層だ、という事が
明白となる。練習や研究でスキルアップして、そこから脱出
しなければならない、その向上心が無ければ趣味は成り立たない。

余談だが、ビギナー層による「評価」の問題点を挙げておく。
ビギナー層は基本、自身の買った機材の悪口を言わない。
安価な中国製レンズでも「意外に良く写るよ」という評価が
大半だ。何故ならば、自身の消費行動(購入倫理)を否定
しない為であり、意識・無意識にかかわらず、もし自分が
買った「モノ」に満足がいかなかったら、「失敗した!」と
なって心理的に打撃を受けてしまうからだ。だからそれを
避けるためには「意外に良いよ」としか言わない。
これは、あらゆる「モノ」の購入時に同じ心理が発生する。

そして、「モノ」が多少わかっていて、その長所短所が自力で
判断できる中級者層となると、今度は、その買った「モノ」の
欠点ばかりを責めたてるようになる。


その心理は「期待して買ったのに、期待はずれであった」
という事だ。まあ、これもカメラやレンズに限らず全ての
商品分野で同様だし、商品でなくても、例えば、恋愛において
「美人だと思って、苦労してクドいたのだが、無事お付き合い
(や結婚)する事になったら、とんでもなく性格が悪かった!」
という話も世の中には大変多い事だろう。

でもこれは別に、相手が「悪女」だった訳でも無いケースも
大半であり、つまり男性側が相手を理想的な状態に迄「美化」
してしまっているから、その理想のレベルに対して、たとえ
些細な事であっても、皆、欠点として目についてしまう訳だ。

だが、これも外から見れば「あてにならない(信用に値しない)
評価内容」である。

こうした初級中級者的な評価方法は、多分に個人の「思い込み」
が入っている、これらを全て冷静に判断する為には、かなりの
経験値等のスキルが必要であり、そうなればもう、商品購入に
おいても、恋愛においても「上級者」であろう。
しかし、どの分野でも上級者の数はそう多くは無い。

したがって、たとえ現代が「インターネット時代であるから、
情報がいくらでも入る」と思っていても、そこで流れている
情報の大半は信用するに値しないものばかりだ。
イイネの数を頼りにしても無意味だし、製品の口コミサイトの
ユーザー評価を参照しても無意味だ、何故ならば、それらの
評価者は、自身の心理や個人的な印象には決して左右されない、
「絶対的価値感覚」を持つ程の「エキスパート」では無い事が
大半であるからだ。
_c0032138_09174816.jpg
余談が長くなった、本レンズMeike12/2.8であるが、
超広角という希少なスペックを見れば、一見してコスパは
良いので、「必要だ」と思えば買うのも良いであろう。
品質や性能は殆ど何も問題無いので、実用的には十分だ。

(追記:2020年の春頃から、本レンズの新品販売価格
は大きく下落、2万円そこそこで新品購入できるので
コスパがさらに良くなっている。もし、もっと下がったら
異マウントで追加購入(ナンピン買い)をするかも知れない)

でも、例えば広角端12mmの超広角ズームは、古い他マウント
のものであれば、1万円台で中古購入できる物も存在する。
それを買って来てFUJIFILM X機に装着する事は容易だ。
いずれもMF操作になるので同様、描写力的にも大差は無いで
あろうし、どちらでも不満を感じる事も少ないであろう。
この方法であれば導入コストは約半分に削減できる。

そのように、世の中の事を色々と知った上で、自身の購入
行動・購入倫理に反映していかなくてはならない。
難しい事ではあるが、そうして研究や経験を続けていく事が
前述のように「趣味」を続けていくための根幹となる。

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さて、今回の第29回記事は、このあたり迄で、次回記事に続く。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(31)AFマクロ・レジェンド(前編)

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回の記事では、AFマクロ・レジェンド(前編)という事で
現代では生産完了となっている、高い描写力を持つ
AF一眼レフ用マクロレンズを、前編後編合わせて計10本
紹介しよう。

生産時期はレンズによりけりだが、概ね1980年代後半~
2000年代位となる、この時代には優秀なAFマクロが
比較的多いが、それらの製造メーカーは、まちまちだ。
今回紹介のマクロ群以外にも、この時代で他の数機種を
所有していた事もあったが、一部のレンズは、描写が気に
入らなかったり、コスパが悪いなどの理由で譲渡処分して
しまっている。また、本記事執筆後に追加購入した当該
条件を満たすレンズも数本あるが、それはまた別記事での
紹介となる。

なお、今回の前後編では、レンズの製造年代順ではなく
ランダムな順番での紹介となる。

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では、まず最初のマクロ。
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レンズは、smc PENTAX-FA Macro 50mm/f2.8
(中古購入価格 24,000円)(以下 FA50/2.8)
カメラは、PENTAX K-5(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス名玉編第1回記事で総合16位に
ランクインした1990年代のAF標準等倍マクロレンズ。
_c0032138_14180898.jpg
「レジェンド」と言える優秀な描写力を持つマクロレンズ
である。発売後間もなく買ってしまった為、購入価格は
若干高目だ。この値段だと、コスパ評価に若干の影響が
ありそうなのだが、現在このレンズは1万円台で購入が
可能である為、状況を鑑み、コスパ点はちょっと甘くして
4点をつけている。この結果、ハイコスパ系のシリーズ記事
でも良く登場するマクロレンズとなっている。

さて、本シリーズ第27回記事で、「高描写力MFマクロ」
の特集を組んでいる、その記事でもチラリと書いたのだが
銀塩MF時代(概ね1960年代~1980年代)のマクロレンズ
は、描写力に優れるものが少ない、という事実だ。

その理由は、技術(レンズ設計、製造)的な未成熟も
あるが、マクロレンズに求める用途が現代とは異なる為、
レンズの設計コンセプトそのものが異なっていた点もある。

具体的には、1970年代前後のマクロレンズの用途は、
その殆どが、「複写」である。
複写とは、貴重な文書(文献、書籍、古文書、新聞等)や、
絵画、美術品、医療検体、などを写真でコピーし、それを
記録保存(アーカイブ)や、学術研究、医療診断等に
用いる目的である。
その当時は、「コピー機」はまだ普及していなかった為、
写真とマクロレンズによるこうした用途は重要であった。

しかし同時代に、コピー機がビジネスや研究シーンに
急速に普及し、写真用マクロレンズは、それまでの学術的
用途から離れ、アート的用途、すなわち草花や小動物等の
自然物、あるいは小物や工芸作品などの接写という一般
向け用途に急速に転換を迫られた訳だ。

なので、銀塩AF時代(1980年代後半~)のAFマクロ
レンズは、設計コンセプトの差異、およびレンズ設計技術
(製造技術を含む)の変化により、描写特性が、それまでの
MF時代のマクロとは大きく変わっている。
これは、現代の視点において一般的な近接撮影(学術用途等
では無い)を行う際、「その用途に適した描写特性である」
という感覚や評価にも繋がっている。

余談だが、1990年代の中古カメラブームの際、私は
多数のMF/AFマクロレンズを購入したのだが、その際、

匠「なんでMFマクロの多くは描写力が悪くて、AFマクロは
  まるで別物のように描写力が改善しているのだ?
  これはもしかすると、1990年頃に、非常に大きな
  技術革新があったのか?」
と考えていた。

だが実際には上記に説明した通りの状況があって、
つまり技術の進歩ではなく、時代の変化の要素が大きかった
のであろう、と今では分析している。

ところが、1990年代での私は、そうした理由もわからず
どうもその「MFマクロ」の特性が好きになれなかった。
匠「こんな写りの変なマクロはいらないよ。皆、処分して
  しまえ・・・」
と、せっかく購入したMFマクロレンズ群を、友人のマニア
等に譲渡したり売却したりしてしまっていたのだ(汗)

後年、2000年代では、それで全く後悔もしていなかった。
ちょうどデジタルへの転換期であったし、ますますMF
マクロレンズなど、使い道がなかったからだ。

だが、2010年代、ミラーレス時代となり、ここで私は
古今東西のあらゆるレンズがミラーレス機で使える事に
着目し、様々な所有レンズをミラーレス機で実写する
という、ほとんど「研究」とも言える趣味を始めた。
この模様は、過去記事「ミラーレス・マニアックス」を
2016年前後にシリーズで展開し、80以上もの記事で
300本以上のレンズを紹介している。

で、その「研究」において、多少の数は所有していて
死蔵していたMF時代のマクロレンズを、いくつか実写する
事で、それらのレンズの「真意」がやっと見えてきた訳だ。

であれば、MFマクロは、その設計コンセプトが歴史的にも
貴重である。私は慌てて、NIKON Ai55/3.5や、OLYMPUS
OM50/3.5など、代表的にその特徴が強いMFマクロを
買いなおす事とした。これらは過去に(良く意味がわからず)
処分してしまったマクロであった訳だ。
_c0032138_14180965.jpg
さて、余談が長くなった。
本レンズFA50/2.8であるが、現代において使用しても
描写力的な不満は感じ難いであろう。
その点は最大の長所である。

ただし、現代レンズのように超音波モーターで武装されて
いる訳では無い、AF性能に不満を感じるかも知れないが、
まあ、マクロレンズはMFで使用する事が基本だ。
他の弱点は、外観のデザインセンスが恐ろしく古い事、
この点において、あまり推奨し難いレンズとなっている。

まあ、後継のsmc PENTAX-D FA MACRO 50mm/f2.8
であれば、デザイン的に及第点であろうが、その場合
中古相場が2万円台と、本FA50/2.8の相場1万円台前半
よりも若干高目となる点と引き換えだ。

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では、次のマクロ
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レンズは、MINOLTA AF Macro 100mm/f2.8 (NEW)
(中古購入価格 18,000円)(以下、AF100/2.8)
カメラは、SONY α77Ⅱ(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス補足編第5回記事で紹介の、
1990年代のAF中望遠等倍マクロレンズ。
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銀塩時代に本レンズの初期型を使っていたが、もう
そのレンズは手元に残っておらず、2010年代の近年に
このNEW型を再入手した次第である。
その間(未所有の期間)では、αマウントの中望遠マクロ
は、TAMRON SP90/2.8Macro(172E)を使用していた。

ミノルタのα用レンズの初期(旧)型と、NEW型の差異は
ピントリングの形状と幅が違うだけ、というのは様々な
記事で説明している通りだ。初期型はプラスチックの
約4mm幅で、NEW型はゴム製の約8mm幅となっている。

描写力は、銀塩時代に記憶があった「比較的良く写る」
というイメージとはちょっと異なり、本レンズにおいては
中遠距離撮影時の解像感の低下が気になる。
加えて、中遠距離時には、逆光耐性の低さが関連して
フレアっぽい描写となり、コントラスト低下も起こる。
故障や経年劣化等を疑ったが、そういう様子も無いので、
こういった性能なのかも知れない。

まあでも、近接撮影に特化すれば、そこそこちゃんと
写るので、そのように弱点回避をすれば使えるであろう。

中古相場がそこそこ安価であり、現代では私の購入時価格
よりさらに少し下がっていて、1万円台前半から入手可能
だと思われる。
_c0032138_14185023.jpg
ただまあ、TANRONのSP90/2.8Macroも、AF初期の型
(72Eや172E型)であれば、そちらも1万台前半と、
本レンズと同等か、さらに安価な中古相場で入手可能だ。
場合により、SP90/2.8系の方が選択肢としては良いかも
知れない。

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では、3本目のマクロシステム
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レンズは、SIGMA (AF) Macro 50mm/f2.8(初期型)
(中古購入価格 14,000円)(以下、SIGMA50/2.8)
カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)

ミラーレス・マニアックス第25回、ハイコスパ第25回
記事等で紹介した1990年代のAF単焦点標準マクロレンズ。
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本レンズは、銀塩EOS用EFマウント品である。
既に他記事で何度か説明済みであるが、この時代1990年代
のSIGMA製EFマウントレンズは、おおむね2000年以降の
銀塩EOS/デジタルEOS機(一眼レフ)では使用できない。
装着時または撮影時にエラーになってしまうのだ。
(本レンズ+1999年以前の銀塩EOS機ならば使用可能。
また、2000年代以降のSIGMA製EFマウントレンズならば
2000年代以降の銀塩&デジタルEOS機で使用可能だ)

今回はこの問題回避の為に、EF→μ4/3 機械絞り内蔵
アダプターを使用する。このアタッチメントにおいては
絞りの位置が、本来のレンズ内の「開口絞り」ではなく
レンズ後群より後ろにある「視野絞り」となるので、
本来の絞りの効果である「被写界深度の調整」や
「ボケ質破綻の回避」の効能が殆ど出ない。
効果があるのは、露出値を変える程度であり、まあつまり
シャッター速度の調整やら、最高シャッター速度オーバー
の回避という感じである。

ただ、幸いな事に、本レンズの描写力はそこそこ優秀であり
正規の絞り構造による「ボケ質破綻の回避」の設定操作が
出来なくても、あまり壊滅的な写りとなる危険性は低い。

本レンズを(例えEFマウント以外であっても)、現代に
おいて購入する必要は無い。2000年代に後継レンズの
「SIGMA MACRO 50mm/f2.8 EX DG」となっているからだ、
こちらのEX DG型は、中古が安価なので、2000年代に、
何人かの友人知人に推奨した事もある。
描写力は、初期型譲りで何ら問題ないだろうからだ。
(追記:本記事執筆後に入手済み、別途紹介予定)

ちなみに、この後継型の姉妹レンズとしては
「カミソリマクロ」と称された、初代の
「SIGMA MACRO 70mm/f2.8 EX DG」が存在する。
こちらは友人が所有していて、私も欲しかったのだが、
買おうと思った頃(2000年代末)には、中古市場で
極端な品薄となってしまい、長期間、入手困難であった。
(追記:本記事執筆後に入手済み、レンズマニアックス
第29回記事で紹介済み)

「EX DG」の2本のマクロが短期間で生産終了となったのは
「ガラス材料が入手不能になった」という話も聞いた事が
あるが、これらの単焦点マクロの価格が安価すぎた
(50/2.8で、定価37,000円)のも理由かも知れない。
2010年代にSIGMAが目指している「高付加価値型」
(=利益の得られる)商品では無いからだ。
ガラス材料の件は「方便」かもしれない。

「初代カミソリマクロ」に関しては、近年、2018年に
「SIGMA 70mm/F2.8 DG MACRO | ART」
としてリニューアルされている。こちらは、本シリーズ
第12回「SIGMA ARTレンズ編」記事、および、初代と
合わせてレンズマニアックス第29回記事で紹介済みだ。



なお、余談であるが、1980年代末頃~1990年代初頭
頃の発売と思われる「SIGMA 90mm/f2.8 MACRO」

というレンズを、1990年代に入手した事があるが、
描写力が(TAMRON 90マクロ等に比べて)気に入らずに
早々に譲渡してしまっていた。
しかし、後年、「もしかすると、それなりに使い道も
あるかも」と思うようになったが、このレンズも極端に
レアで中古市場で見かける事も、ほぼ皆無であった。
_c0032138_14200081.jpg
まあ、いつの時代のSIGMAの単焦点マクロも、著名な
TAMRONのマクロレンズの影に隠れて目立たないのだが、
それぞれ個性的であるので、その個性(まあ弱点でもある)
を上手く特徴として利用できるのであれば、どれかを
所有していても悪く無いであろう。

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ここからはマクロレンズにおける補足情報だが、今回の
「AFマクロ・レジェンド」の前後編で紹介する10本の
マクロレンズは、全て、手ブレ補正機能が非内蔵である。

したがって、本記事においては、例えば使用カメラが
PENTAX K-5やSONY α77Ⅱならば、ボディ内手ブレ補正が
あるのでそれが有効となるが、このPANASONIC DMC-G6
や後で使用するNIKON Dfは、ボディ内手ブレ補正機能が

無い為に、システム全体としての手ブレ補正が無い。

まあ、これは、今回紹介のマクロレンズが全て
2000年代以前のものであるから、仕様が古いという
要素もある(=マクロレンズに手ブレ補正機能が内蔵
されるのは、概ね2010年前後の時代からである)

しかしながら、それよりももっと重要な事は、マクロレンズ
における「手ブレ補正機能の必要性」である。
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例えば、屋外でのマクロレンズを用いた近接撮影では、
手ブレ補正機能は無くても、特に問題が無いのだ。
風などで被写体は常に動いているし、撮影者本人の
前後ブレも頻繁に発生する。現代の手ブレ補正技術では、
被写体ブレや前後ブレは止められない(注:将来的に
3次元的パターン・マッチングや、高度なフォーカス・
ブラケット技術が発達すれば、止めれる可能性はある)
近年の新型マクロレンズでは「シフトブレ」を低減
させる事を謳っているものもあるが、未所有につき
その効能は不明。だがやはりシフトブレよりも前後ブレ
の方が、課題となる要素では大きいと思っている。

で、屋外の明所で、かつ、絞りを開け気味かISO感度を
上げる等して、数百分の1秒のシャッター速度が得られて
いるのであれば、通常は手ブレは起こらない。
(注:近接撮影において、見かけ上の口径比が小さく
なる「露光(露出)倍数」には注意する必要がある)

よって、マクロレンズで通常の手ブレ補正機能が必要な
シチュエーションは殆ど無い。もし暗所で近接撮影を
する等の酔狂な用途があるならば、近接撮影が可能な
F0.95超大口径レンズ等も存在するので、そういうレンズを
高感度の機体で使えば済む話だ。わざわざ、高々開放F2.8
と「暗い」マクロレンズを暗所で使う意味が無い。
(単焦点レンズを使った事も無いビギナー層は、開放F2.8
でも「大口径レンズ」と言っているが、世の中にはもっと
遥かに明るいレンズが星の数ほど存在している)

「手ブレが怖い、だから手ブレ補正機能が欲しい」と
言うのも、完全なビギナー心理(論理)である。

その初級者の不安要素を煽るように・・そして、その為に、
マクロレンズや広角レンズといった、本来、手ブレ補正機能
の効能や意味が殆ど無いレンズにまで、その機能をつけ、
その「付加価値」によりレンズの価格を吊り上げる事は
個人的には全く賛同できない。
(他の商品分野で言えば・・ 「菌が沢山ついているから、
除菌しなさい」と、消費者層の不安を煽るような売り方だ)

それから、近接撮影では、非常に多くの頻度でMF撮影を
多用する、したがって、マクロレンズへの超音波モーター
の搭載も殆ど無意味だ。(というか、MF技法を阻害する
要因が大きい為、むしろ搭載して貰いたくない)

だが、カメラ市場縮退におけるレンズの「高付加価値戦略」
においては、手ブレ補正機能や超音波モーターをマクロ
レンズにまで搭載して、価格を上げて利益を確保しなくては
ならない。さも無いと、減少した交換レンズ販売数において
この事業(商売)が維持できなくなるからだ。

価格の上昇については、たとえばマクロレンズで著名な
TAMRON社の例をあげる

2004年発売のSP90/2.8MACRO(272E)の定価は
68,000円である。ちなみにこの値段は、最初期の
1996年の72E型から値上げされていない。

しかし、2012年に、手ブレ補正と超音波モーターが
搭載され、高付加価値型のF004になった際に、定価は
90,000円と、一気に25%もアップされた。
(追記:F004型は後日紹介予定、ただし「辛辣な評価」
と、せざるを得ない状況だ)

さらに、CANONの100mmマクロの価格上昇の例を挙げる。
1990年 EF100mm/f2.8 Macro 定価 72,000円
これに、超音波モーターが搭載されると、
2000年 EF100mm/f2.8 Macro USM 定価 82,000円
さらに、手ブレ補正機能が内蔵されると、
2009年 EF100mm/f2.8L Macro IS USM 定価120,000円
となっている。
貨幣価値は、上記の20年間の間にさほど変わっていない
のに、価格は66%も上乗せされた。

なお、「最新型はL型の高画質仕様だから」とかは言うまい。
高画質かどうかを判断・評価するのは、あくまで利用者側
である。L型とか、GだとかPRO、SP、ART、S-Lineとかの
名前は、あくまでメーカー側の主張だ。そういう名前が
ついていれば付加価値が上がる(つまり、高価に出来る)
訳であって、ユーザー側はその「ブランド」や「型番」を
盲信せず、あくまでコスパを意識しなければならない。
まあ、高価なレンズであっても、それに見合う実際の性能
があれば、それはそれで良い訳だ。すなわち「名前だけを
聞いて性能を判断してはならない」という事である。

まあ交換レンズ市場の縮退により、事業が成り立たないから
様々な理由をつけた「値上げ」は、やむを得ないのだが・・
だがそうであっても、私個人では、不要な機能が入っていて、
それで価格が高価になるのは納得がいかない。私の最大の
機材価値判断基準である「コスパ」への影響が強すぎるからだ。

結局、「市場縮退」により、2010年代以降のマクロレンズは
殆どが、このように手ブレ補正や超音波モーターで武装する
形式になってしまっている。
で、私の対策は「これら高付加価値型マクロを買わない」
である。2010年代に購入したマクロレンズは、わざわざ
超音波モーター等が内蔵されていない機種を、主に買って
いる(超音波モーターが入ると、MF近接撮影時に、どんなに
酷い状況になるかは、いずれ様々な記事で詳しく説明する)
_c0032138_14203840.jpg
だから、今回の前後編記事で紹介しているマクロは
「レジェンド」と呼んではいるが、実は現役バリバリの
レンズである。余分な機能が入っていないし、この時代の
マクロの描写力は特に問題無いし、下手をすれば最新の
マクロと言っても、手ブレ補正と超音波モーターが
入っただけで、中身のレンズ光学系は殆ど従来のままで
ある物も多い。まあ別に無理に新設計せずとも、旧来の
もので十分に高い描写力を持っているからだ。もし仮に
性能が低いのであれば、とっくにレンズ構成も改良されて
いる事であろう。描写力的には、もう完成されていて、
何も触るところが無いから、改良と言っても描写性能とは
全く関係の無い機能を入れざるを得ない訳だ。

ここまでの話は「補足」ではあるが、ここに真理が詰まって
いる。この市場の状況や構造が理解できないのであれば
せっせと高い買い物をして業界に貢いでいる事になるのだ。
ただ、そういう人達が居ないと市場が成り立たなくなって
いるのもまた事実だ・・ まあ、なかなか難しい問題である。

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では、レンズの紹介に戻って、次は4本目のマクロ
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レンズは、NIKON Ai AF Micro-NIKKOR 60mm/f2.8D
(中古購入価格 38,000円)(以下、AiAF60/2.8)
カメラは、NIKON Df(フルサイズ機)

ミラーレス・マニアックス第57回記事等で紹介の、
1990年代のAF標準等倍マクロ(マイクロ)レンズ。
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ニコン製の(一眼レフ)カメラの仕様は、他社製品とは
様々な点で異なる事が多い。

操作性に関しては、レンズの装着、絞り環やピントリング
の回転方向、露出メーターのプラスマイナスの方向など・・

(注:露出メーターの逆向きは、流石に不自然なので
2010年代に、ようやく右がプラスに改められている。
しかし、この変更に至るまで、40年間もかかった!汗)

・・であるが、これは「旧CONTAXを踏襲した」と、それなり
に理由はある。しかし、さらに様々な用語記載においても、
絞り値の表記(f/)や、スピードライト(フラッシュの事)
や、マイクロレンズ(マクロの事)などと、他社と異なる。

これらは、ニコンにしてみれは、自社の方が早くから
それらの操作性や表記法を採用していた訳であり、
その後に追従する他社が、異なる操作性や名称を用いて
それがデファクト・スタンダード(=事実上の標準)に
なったとしても、「自社があえて他社に揃えて変える
必要は無い、これまでのユーザーだっているのだぞ」
という考え方なのかも知れないが・・

であれば、そういう乱れた操作性や用語を「市場レベル
で統一し、規格化・標準化する」という動きをやっても
良かったのではなかろうか?

他の業界(市場分野)では、そういう動きが出てきて
当然であるし、そうやって他分野では標準化が進んだ。
(まあ、上手くいかなかった例もある、ビデオテープ、
初期DVDフォーマット、メモリーカード(メディア)等だ)

しかしカメラ業界においては、ほとんど何も規格化や
標準化が出来ていない。たとえば、一眼レフのマウント
すらも全く統一できないまま、60年以上が経過している。
これはユーザー側から見れば、好ましい状況では無い。

ただまあ、本レンズの「マイクロ」の表記に関しては
客観的に見て、ニコン側の言い分に正当性がある。
マクロでは、「巨視的」という意味となって、それでは
レンズの効能と反対の意味だからだ。
これは「マイクロ=微視的」の用語が正しいだろう。
_c0032138_14201700.jpg
さて、余談はともかく、本レンズであるが、あまり
好きなレンズでは無い。理由を簡単に言えば「コスパが
悪いから」である。

まず(購入時期にもよるが)中古相場が高価だった。
同時代に、同等の仕様で、同等以上の優れた描写性能を
持つ、SIGMAやMINOLTAの標準マクロが1万円台そこそこ
だった事に比べると3倍も高価だ。

描写力の方だが、まず、本レンズ以前の銀塩MF時代の
「Ai系55mm/F3.5」のマイクロレンズは、本記事の
冒頭に述べたような、1970年代前後の「複写目的」に
使う為の典型例とも言えるコンセプトのレンズであった、

その後、銀塩AF時代に入り、これも冒頭で述べたように
他社のマクロレンズは、より汎用的な被写体(花や小物等)
の撮影に向く特性に、大きく設計コンセプトを転換させた
のであるが、本AiAF60/2.8は、そこまで旧55mm系マイクロ
からは、大きく設計コンセプトを転換できていない。

まあここも、旧ユーザー層への配慮があったかもしれない。

つまり、レンズがAF化したとしても、ニコン機ユーザー
であれば、学術や医療での複写の利用目的を踏襲する層は
居るだろう、という判断だ。もしここで、他社のように
汎用被写体に向く柔らかい描写特性を目指し、これまでの
55mm系の「カリッカリ」と言える解像感の特徴を失って
しまったら、旧来から続く複写目的のユーザー層から
ユ「あれ?新型のAFマイクロに買い換えたら、なんだか
  シャープさが無いなあ、これでは複写目的には困るよ」
というクレームに繋がってしまいかねない。

だからまあ、極端なレンズ設計コンセプトの方針転換は
できなかったのだろう、と推察される。
けど、その特性だと、正直言って、私の個人的な好みには
合わない。だから、本レンズは「コスパが悪い」と評価
せざるを得なくなってしまったのだ。

ただ、近年においては、「たとえ”カリッカリ”の描写で
あっても、それはそれで使い道はある」という考え方に
私も変わってきている。
だから、近年になって、かつて一度入手して手放した
経緯のある「NIKON Ai Micro-NIKKOR 55mm/f3.5」
(本シリーズ第20回「平面マクロ」編記事参照)
を再度入手した次第なのだ。

そして、さらに思った事としては、「複写用平面マクロ」
の代表格とも言える「Ai55/3.5」と比べると、どうも
本AiAF60/2.8の描写は「中途半端におとなしく」感じて
しまう、だから、やはり本レンズを再評価する事も出来ず、
コスパ評価点を加点する事もできない。
なんだか「様々な過去のしがらみにより、時代の変化に
対応しきれなかった悲運のレンズ」という印象すらある。

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では、今回ラストのマクロシステム
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レンズは、OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 35mm/f3.5 Macro
(中古購入価格 8,000円)(以下、ZD35/3.5)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)

2005年に発売の、フォーサーズ機用AF等倍マクロ。
フォーサーズ(4/3)マウントである。
本シリーズ第2回記事「オリンパス新旧マクロ編」との
重複紹介となるが、まあいいだろう。
当該記事では、4/3機のOLYMPUS E-410との組み合わせで
実写紹介しているが、今回は、4/3→μ4/3電子アダプター
OLYMPUS MMF-2を介してOM-D E-M5Ⅱで使用してみよう。

これでμ4/3機用レンズと同様に使える・・ 筈なのだが
どうも、この組み合わせでは、近接撮影において、
AFの精度も速度も極めて低い。まあ、構造上では、やむを
得ない(像面位相差AFも無い)、適宜MFを使って撮影を
行う事とする。
_c0032138_14203855.jpg
本レンズは、発売当時は、等倍マクロとして世界最軽量
重量(165g)であった。
ただまあ、だからと言って、別に「凄い」とか「便利だ」
といった要素は無い、肝心なのは、ちゃんと写るか否か
であろう。

本レンズは、解像感は高いが、ボケ質破綻が発生し易い。
これはまあ、レンズ設計上、両者は「トレードオフ」
(どちらかを立てれば、どちらかが立たない)の関係に
近いので、ある程度はやむを得ないであろう。

ただまあ、4/3機で使う上では、一応それは一眼レフ
であり、光学ファインダーであるから、ボケ質破綻回避
などの技法を使う事はできなかったのだが、今回使用の
E-M5Ⅱはμ4/3機でEVF仕様(しかも倍率が高く高精細だ)
であるし、電子アダプターMMF-2の使用で、ダイヤル
操作系もμ4/3純正レンズと同様であり、ある程度は
ボケ質破綻回避の技法が使える。

それから、ごく近年の一部のカメラには、「被写界深度
ブラケット」または「絞りブラケット」という機能が
搭載され始めている。
これは、ボケ質破綻の回避技法と原理的に類似だ。

実際には、その機能の搭載は最新PENTAX機(KAF系マウント)
および、PANASONICの最新μ4/3機なので、本レンズを
最新のパナのμ4/3機で使えば、いちおうその機能を
用いる事はできる。ただし、ボケ質破綻回避技法と同様に
使うには、まだそれらの新機能の仕様は練れていない。
(PENTAX KPでは設定操作系が煩雑すぎるし自由度も少ない。
操作系に優れたKPなのに、この状況は、あくまでこれは
「おまけ機能」だからであろう。

例えば、絞り優先で撮影中、任意に設定した基準絞り値から
ワンプッシュなどの簡単な操作で、1/2段または1/3段の
刻み幅で、基準値の前後±2~3段、範囲合計で最低5枚~
最大19枚程の自動連写機能が欲しい訳だ。
まあ、「被写界深度を変える為にある」機能であるから
ボケ質破綻回避技法に流用できない事はやむを得ない)

ともかく、まだ当面は、そうした新機能に頼る訳にも
いかないので、本レンズのようなボケ質破綻が出る
レンズにおいては、慎重に絞り値や撮影距離、撮影アングル
などを微調整し、破綻を回避していかなくてはならない。

ちなみに、初級者が良く「ブラケット」を「ブランケット」
と誤って書く事が多いが、それでは「毛布」の意味に
なってしまう(汗) 様々なカメラ用語は、ちゃんと意味や
原理を良く理解して使う事が肝要だ。
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まあでも、本レンズは終焉した4/3規格レンズであるので
現代の中古相場はかなり安価だ。
ちゃんと使いこなせるのであれば、コスパが良い事は
間違いない。

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さて、今回の記事「AFマクロ・レジェンド(前編)」は、
このあたり迄で、次回後編記事に続く・・


カメラの変遷(4) PENTAX編(前編)

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本シリーズは、各カメラメーカーが発売した銀塩・デジタル
のカメラを、およそ1970年代から現代2020年代に至る迄の
約50年間の変遷の歴史を辿る記事である。

今回はPENTAX編(前編)として、主に銀塩時代のPENTAX機を
中心に紹介する。
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現在、私が保有しているPENTAX機は1980年代以降の物に
限られる。それ以前の時代のPENTAX製カメラは、デジタル
時代に入った頃に「古すぎて実用価値なし」という判断で
処分してしまったのだ。

だが、歴史的には、勿論それ以前からPENTAXはカメラを
製造・販売している、まず、そのあたりを簡単に説明して
から、順次各時代のPENTAX機の変遷について紹介する。

挿入している写真は、紹介機種の外観、又は、その当時に
製造されたPENTAX製レンズで撮影したものである。
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1950年代 アサヒフレックス、アサヒペンタックス

まず最初に述べておくが、「PENTAX」とは、光学製品等
のブランド名であって、当初はメーカー名では無かった。
この時代、「旭光学工業(株式会社)」として一眼レフの
製造を開始した。

同社は、およそ今から100年前の1919年の創業だ。
2019年には、現在PENTAXブランドを保有する「リコー・
イメージング社」により、大々的に100周年記念イベント
が行われたのだが・・・
まず、現在「PENTAX」という企業は存在していないし、
おまけに、PENTAXというカメラ名の初出は、ペンタプリズム
を初採用した「ASAHI PENTAX」の1957年であったので、
「100周年」という呼び方には、個人的には大きな違和感
を持っていた。

PENTAX(RICOH)の例に限らないが、近年の様々な市場での
広告宣伝戦略は消費者の事を「下に見すぎて」いないだろうか?
消費者層の中にも、そうした広告宣伝を考える人達よりも、
ずっとずっと、その分野に詳しい人も居る訳だ・・

さて、余談はともかく、PENTAX(旭光学)の歴史の話だ。
1930年代には双眼鏡やカメラレンズ等を製造する光学
機器メーカーであった。(恐らくだが軍需用途も多かった
のではなかろうか?)

他のカメラメーカーはその黎明期には様々な種類のカメラを
製造し、そこから、より複雑な「一眼レフ」の製造を始める
ようになるのだが、旭光学工業(PENTAX)は、意外な事に
当初から一眼レフの開発に特化したメーカーであった。

最初期の製品は、アサヒフレックス(Asahiflex)Ⅰ型
(1952年)であり、M37型式のねじ込みマウントであった。
まだこの時代に、ペンタックス(PENTAX)の呼び名は無い。

ここから1950年代を通じ、アサヒフレックス・シリーズ機が
展開されるが、注目は世界初の「クイック・リターンミラー」
を搭載したアサヒフレックスⅡB(1954)であろう。
なお、これらの機種の発売時価格は不明だ。

この時代の国内の世情であるが、高度成長期に入った所であり、
「三種の神器」として、TV、冷蔵庫、洗濯機の普及が進む。
(白黒TV放送は1953年からスタートしていた)

1954年は、初代「ゴジラ」が公開された年だ。
ちなみにカメラ界でも、ゴジラ級のモンスター「ライカM3」
が登場している。(現代の価格で300万円程の超高価な
カメラであったが、完成度が非常に高く、ニコン等を始め
とする国内レンジファインダー機メーカーは、ライカへの
追従を断念し、一眼レフ開発へ戦略転換を行った)

この時代(のやや後)に、東京タワーの建設が進められて
いた事で、映画等での「三丁目の夕日」の世界を、思い
浮かべればドンピシャだと思う。
1958年には東京タワーが完成し、その年「チキンラーメン」
や、「缶コーヒー」(注:諸説あり)も発売されている。

さて、そんな時代背景の中、PENTAXのカメラであるが、
1957年には、これまでウエストレベルファインダーであった
アサヒフレックスを改良し、ペンタプリズムを搭載した
「アサヒペンタックス」(通称AP)が発売される。
旧来のウエストレベルでは、左右などが逆に見えるので
使い難いと思われるが、ペンタプリズムであれば正立像が
見れる事になり圧倒的に実用的だ。

「ペンタプリズム」とは五角形(5角柱)のプリズムである、
レンズを通った映像は本来は上下左右が反転しているのだが、
このプリズムを通すと内部で光が3回反射して上下と左右が
正しく見れるようになる。この仕組みは勿論現代の一眼レフ
でも使われているが、安価な機種ではガラス材質のプリズム
では無く、反射鏡を組み合わせた「ペンタミラー」の場合も
ある。
なお、5という数字は、ラテン語で「ペンタ」であり、
五角形は英語でペンタゴンだ。(例:米国防総省の建物が
五角形である為、”ペンタゴン”と呼ばれる場合がある)

PENTAXという名は勿論、この画期的な機構をカメラに
搭載した事から始まるが、長らく実際の社名は旭光学工業
のままで、PENTAXが正式社名になるのは2002年の近年の
話であるし、その後も吸収合併などで社名は変化している。

なお、上記APでは、M37マウントからM42マウントに変更
されている。

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1960年代 アサヒペンタックス SPシリーズ
この時代は、M42マウント一眼レフの全盛期だ。
PENTAXに限らず、国内外の非常に多くのメーカーがこの規格
を採用し「ユニバーサル(汎用的な)マウント」と呼ばれる。


東独「プラクチカ」(プラクティカ、PRAKTICA)が最初に
採用したM42スクリューマウントはPSマウントと略されるが、
後年ではPENTAXのM42機の方が広く普及した為、いつのまにか
「PS」マウントは「ペンタックス・スクリューの略である」
という解釈になってくる。

この時代においても、シリーズ名は「アサヒペンタックス」
(ASAHI PENTAX)であった。
(注:単なる「PENTAX」では無いのだが、本ブログでは記載の
便宜上、「PENTAX SP」等と書く場合が各記事では殆どだ)

ここで最大の注目製品は、アサヒペンタックスSP(1964)
であろう。TTL露出計内蔵機であり、絞り込み測光(ただし
開放でピント合わせ)で、やっと実用的な一眼レフとなった。
SPシリーズは大ヒット商品となり、累計販売台数は350万台
とも言われていて伝説的だ。

なお、アサヒペンタックス SPは1960年には既に試作機が
発表されていて、SPという名称も確定していた。ちなみに
それはSpotmatic(スポット測光機)という意味であったと
聞くが、実際の発売は4年も遅れ、しかもスポット測光では
なく平均測光機である。この4年間の間にSPは仕様上で
様々な試行錯誤が行われ、結果的に、この間に「世界初の
TTL露出計内蔵」という称号も、TOPCON RE Super(1963)
に奪われてしまった。(RE Superは開放測光でもある)

知人の上級マニア氏は、何と50台!ものSPを所有していたが
私は、このシリーズでの所有数は3台程であった。
(まあ、常識的な範囲か?笑 なお、現有数はゼロ台である)
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余談だが、1964年と言えば、東京オリンピックの開催の
年である。バレーボールの「東洋の魔女」などで日本中が
沸いた年であったが、高度成長期であり、様々な新製品も
発売されている。

食品の中にも、この年に発売され、その後超ロングセラー
になった商品として「ガーナ」(チョコレート)や
「かっぱえびせん」「ワンカップ大関」などがある。

洋画では 007シリーズが2本、高い配給収益を上げている
また、マイ・フェア・レディやシャレードといった名作も
ヒットしたのであるが、邦画はちょっとパッとしない。
「興行収入」という点では、近代のハリーポッターシリーズ
等が圧倒的に大きいのではあるが、この時代やその以前から
庶民の娯楽として、映画(洋画)鑑賞は、かなり一般的で
あった事であろう。

音楽(歌謡曲)では「御三家」と呼ばれた橋幸夫、舟木一夫、
西郷輝彦、そして坂本九(故人)、美空ひばり(故人)等
が活躍していた。
なお、ビートルズの来日や、グループサウンズの流行は
もう少し後の時代の1966年頃だ。

ちなみに、後年の1970年代では、「新御三家」と呼ばれた
郷ひろみ、西城秀樹(故人)、野口五郎が人気であった。
その後の時代でも、少年御三家、平成御三家など、この手の
呼び名が多いが、これは元々、江戸時代の尾張、紀州、水戸
の各徳川家を「御三家」と呼んだ事が最初である。

それから、この1960年代末では、アポロ11号の月面着陸
(1969年)が大きな出来事だ。このTV放送を見る為、
各家庭へのカラーTVの普及率が一気に立ち上がった。
(その後10年間で、ほぼ100%に到達)

ちなみに、1964年の東京オリンピックの時は、白黒TVの
世帯普及率は約90%となっている。一応カラー放送自体は
始まってはいたが、カラーTV自体が、まだ特殊な高価な
商品であった為、1964年での普及率は、ほぼゼロ%である。

1964年10月10日の東京オリンピック開会式の日は
「抜けるような青空であった」と良く聞くのだが、
その模様をカラーTVで見た人は殆ど誰も居なかった訳だ。

なお、この事から、10月10日は「晴天特異日」であると
いう説が広まり、この日が「体育の日」(1966~2000年)
の祝日に制定された為、「良く晴れるので運動会を行う」
という風習が、昭和の時代での定番であった。
(注1:実際には、10月10日は晴天特異日では無い)
(注2:体育の日は、2020年から「スポーツの日」に
 改められ、しかも2020年は、オリンピック開会式の
 日に当該祝日が移動している→2021年には10月に戻る
 予定であったが、五輪延期により引き続きの措置との事)

それから、アポロ11号の翌年、1970年には「大阪万博」
(日本万国博覧会、EXPO '70)が開催され、約半年の
開催期間中の来場者数は、驚異の約6400万人(!)である。
最大で1日で83万人を記録しており、迷子の数は計4万人
以上、救急患者計1万人以上、会場で結婚式を挙げた
ケースも多数あり、中には会場で出産した人も居た模様で、
全ての点で圧倒的かつ伝説的な記録である。

なお、大阪万博のシンボル「太陽の党」(岡本太郎 作、
故人)は、万博閉幕後も、その「万博記念公園」に残され、
2020年には50周年記念行事も行われる予定であったの
かも知れないが、コロナ禍により、詳細は不明だ。
(2020年2月に、東京で「大阪万博50周年記念展覧会」が
実施済み、という情報もある)
なお、同公園内には「EXPO'70 パビリオン」という資料館
が40周年の2010年に開かれ、そこで万博当時の盛況ぶりや、
様々な記録を見学・参照する事が出来る。

ちなみに、故・岡本太郎氏は「太陽の党」の作者として
著名であるが、芸術家には珍しくTV娯楽番組にも多数出演、
「芸術は爆発だ!」という名セリフは人気を博し、
多数の岡本太郎デザインのグッズが人気商品となった。
(現在でも、万博記念公園の売店で色々販売されているし
ガチャガチャ(カプセル玩具の販売機)すらある位だ)

2025年に予定されている2度目の大阪万博は、ここまでの
盛り上がりを見せるのだろうか?少々そこが心配である。

さて、この時代の余談が長くなった(汗)、PENTAX機の
歴史に戻ろう。
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1970年代前半 アサヒペンタックス SP/ESシリーズ
引き続きM42マウントのアサヒペンタックスのシリーズが
人気であったが、当時は開放測光やAE(自動露出)の
機能が市場から要望されていた。

M42マウントは単なるネジ込みなので、そのままでは
そうした新機能への対応は難しい。そこでM42規格を採用する
各社は各々独自にM42を改造し、これらの機能を実現しようと
する。PENTAXも同様であり、1971年のASAHI PENTAX ES
では、M42改で、世界初の絞り優先AEを搭載した。

が、この時点でM42の「ユニバーサル」という長所は失われ、
各社における独自のM42規格酷似のレンズが沢山発売される。

現代において、これらの「M42もどき」のレンズを使用する
場合には特に注意が必要だ。使用アダプターやボディとの
組み合わせによっては、装着できない、カメラから外れない
等の深刻な問題が発生する危険性がある。これを防ぐには、
必ずミラーレス機でM42アダプターを介して使用する事だ。
万が一外れなくなったとしても、そのアダプターがレンズ
専用になるだけで、カメラボディには影響が無い。

また、この時代(1971年頃)からのPENTAX製レンズには、
SMC(Super Multi Coated)の名称が付く。
(注:後年には、レンズ名の先頭で「smc」の小文字表記)
これは「多層(マルチ)コーティング」の事だが、この
技術の採用により、レンズ表面・内面の不要な反射が
避けられ、透過率の向上から、レンズの描写力的には
コントラスト性能や逆光耐性が大幅に向上した。
他社の、この時代の単層または2層のコーティングよりも、
頭ひとつ抜けた性能で、他社もこれを見て多層コーティング
技術の重要性を知り、PENTAXに追従していく。

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1972年 OLYMPUS M-1(後にOM-1)発売。
オリンパスのこの機種は、当時世界最小・最軽量の一眼レフ
として、市場に大きなインパクトを与えた。

この機種に最も過敏に反応したのはPENTAXであった事だろう、
OM-1を超える小ささを目指して、PENTAXは新型機の開発を
スタートする。

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1975年 アサヒペンタックス K2,KM,KX
高機能化(AE等の実現)の為、ついにM42マウントを諦め、
新マウントであるバヨネット式の「Kマウント」に移行。

3機種が同時発売。内、最上位機のK2は所有していて、
初期の本ブログでも紹介していたと思う(現在未所有)
K2は、PENTAX機の中ではLXと並んで希少なステンレス製
マウントを採用していた。ただし、3機種の外観的な差異
は殆ど無く、仕様上の差異も少ない。

Kマウントのフランジバック長は、約45.5mmであり、
旧来のM42マウントとまったく同一(注:M37も同じだった)
これにより、ごく簡単な構造の「マウントアダプターK」を
使用する事で、M42レンズのKマウント機での利用は容易だ。
(勿論、絞り込み測光になるが、その点ではPENTAX SP等
でも同様であった)

これは当然ながら、350万台以上とも言われるPENTAX SP
シリーズの多数の既存ユーザー層に配慮した措置である。
「マウントが変わりましたので、これまでのレンズは
使えません」では、ユーザー層から暴動が起こってしまう。

「マウントアダプターK」は、その後30年間も、1000円と
いう安価な定価で販売され続け、これは旧来のM42ユーザー
救済の意味が強いが、まあPENTAXの「良心」であろう。
(注:HOYAやRICOHに吸収された後、大きく値上げされた)

これらの措置により、後年のキヤノンFD→EF(EOS)であった
ような、「マウント変更、かつ、互換性無し」という事で
ユーザーの不評を買う事は無かったと思う。

バヨネット式のメリットであるが、レンズ装着角度が一定
となる為(注:M42では不定)、様々な機械的機構や、
近い将来の電子接点機構などを搭載可能とする為、AE化や
将来的なAF化に対応が可能だ。
また、レンズ交換作業もスピーディに行える。

交換レンズ群であるが、旧来のM42版TAKUMARシリーズから
smc PENTAX型となり(注:ここから、smcは小文字となる)
中身のレンズ構成は旧来と同一な物も多かったと思うが、
外観変更やフィルター径の若干の大型化が図られた。
 
なお、この時期のsmc PENTAXレンズは、固有のシリーズ
名称が無く、マニアや流通業界では、便宜上、この時代の
レンズを「K、P、無印」などの呼び名で区別する。

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1976年 PENTAX MX
前述のOLYMPUS M-1(OM-1)に過敏に反応したPENTAXは、
OM-1の寸法(W,H,D)を全て0.5mmづつ小さくした対抗心
のサイズでの世界最小機を4年の開発期間をかけて発売した。

(しかし、重量はMXの方が僅かに(5g)重い)
それと、このMXから、ペンタプリズム前部に書かれていた
「ASAHI」の文字が外され、単なる「PENTAX」表記となった。

さて、MXは小型軽量で、カメラらしい格好良い機体で
後年の中古カメラブームの際にもマニア層に人気であった。
私はOM-1(MD)もMXも所有していて銀塩時代に愛用していた。

両者の小型機は、歴史的に重要な機種ではあるものの、
後年のデジタル時代に処分してしまい、現在では実機を
紹介できない。(下写真はミニチュア玩具のMX)
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で、MXの開発に時間がかかった理由だが、カメラ本体の
小型化のみならず、レンズの小型化も並行して進めたから
だと思われる。カメラだけ小さくてレンズが大きければ
小型軽量化システムとしての利点が出ないからだ。

レンズはこの時代にMシリーズ(smc PENTAX-M)となり
十分に小型化されている(ただし、オリンパス OM ZUIKO
レンズのような、徹底的なフィルター径の統一感は無い)

ちなみにKマウントの時代からは「smc」は小文字で書く
のが正解。(レンズにはそのように書かれている)
よって様々なWeb等での「SMC」記載の情報は間違いだ。
(ただしsmcの表記フォントは大きな文字サイズだ)

M型は正式には、PENAX-Mのようにハイフンを入れて書く。
これは、この後の時代のPENTAXレンズでも現代に至るまで
全て同様だ。ただし、本ブログにおいては記事記載等での
便宜上、こうしたルールも適宜簡略化して記載しているが、
他の、公式情報に近い立場のサイトですらも、こうした
「型番の間違い」は極めて多いので閲覧時に注意が必要だ。

MX(やMシリーズ)はヒット商品となった為、前年の
Kシリーズや無印レンズ群は短命に終わった。

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1970年代後半 PENTAX ME,MV-1,ME Super
MXは人気機種ではあったが、機械式マニュアル露出機で
あった為、初級層には若干の敷居の高さがあった事であろう。
後期のMシリーズは、全て絞り優先AE機能搭載だ。
市場での販売台数はそこそこあった模様であるが、個人的には
MX以外のMシリーズには興味を持てず、これらは未所有だ。

なお、この時代はCANONのカメラの変遷記事でも記載したが
CPU(マイクロプロセッサ)の急激な発展期である。
PENTAXではCPUこそ使用していないまでも、新技術である
LSI(大規模集積回路)等を使用した電子化が図られている。
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1980年 PENTAX LX
旭光学の創立60周年を記念し、L(ローマ数字の50)
とX(ローマ数字の10)という観点でネーミングされた、
PENTAX初の銀塩旗艦機。
(注:旭光学創業は1919年という説も普通であり、これだと
61年目となって少し微妙だが、まあ、細かい事は言うまい)

一見して地味なスペックであり、高価なカメラでもある為
発売期間は約20年と長かったものの、一般層や初級マニア層
には、あまり注目されていないカメラであった。

ただ、過去シリーズ記事「銀塩一眼レフ・クラッシック」
では、LXの評価点は、並み居る強豪(名機)を抑えて、
堂々の1位であった(超傑作機MINOLTA α-7は僅差の2位だ)
これはLXに、ほとんど弱点が無い為であり、多数の評価項目
による多面的な評価において、減点項目が少ないからだ。

LXの長所を3点あげておく、1つはファインダー(スクリーン)
の見えの良さだ。ここは組み合わせるファインダーユニットと
スクリーンによっても変わるが、例えばアイレベルFA-2と
全面マット(SE-20/SE-60)であればMFのピント合わせは
非常に良好、全一眼レフ中Best3に入る高レベルである。

ただ、ここは装着レンズによっても若干評価は変わるかも
知れない、例えば大口径中望遠等が適切だが、この時代の
Mシリーズレンズにはあまり適正な性能や組み合わせが無い
かも知れない。むしろ旧M42時代のSMCT120/2.8とか、後年の
AF時代になってからのFA★85/1.4やFA77/1.8が特に良好だ。

FA77/1.8との組み合わせはベストに近く、2000年代にこの
システムによるファインダーの見えを周囲のマニア層等に
見てもらうと、「凄い!人物の皆が美男・美女に見える」と
非常に好評であった。

LXのもう1つの長所は、ダイレクト測光(OLYMPUS OM-2/4
系等にも採用された)に類似の「IDM測光」システムを搭載
している事だ、この機構の直接の利点は、長秒時のAEが
効く事であり、LXの場合、Automatic(絞り優先AE)時で
何と125秒(カメラ史上最長)まで自動露出が追従する。

この為、銀塩「ピンホール撮影」には最適であり、これは
日中でも2~16秒程度の露光時間が必須になり、露出計算も
面倒であるが、このLXであれば、AEのままで難なく撮影が
可能であった。
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そしてLXの最後の長所は「工芸品」とも言える作りの良さ
であり、この点で、感触性能、高級感、所有満足度のいずれも
高い評価が得られている。

なお、このLXの開発期間は、CPU等のデジタル技術が急速
に発展した時代ではあるが、開発開始がCPU普及前夜で
あった為、デジタル機構は採用していない。しかし耐久性は
高い模様で、発売から40年を超えても問題無く動作している。
(注:ただし、LXのオーバーホールや分解修理は、特殊な
構造である為、専門業者も嫌がり、かつ高価になると思う)

長期間発売された機体だけに、現代でもまだ中古は入手可能
であろう、しかし若干相場が高価なのが難点だ。

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1980年代前半 PENTAX Aシリーズ、Aレンズ
マルチモードAE(プログラムAEやシャッター優先AE)への
対応の為、自動絞りとしたAシリーズ・レンズへの転換。
およびボディ側もマルチモードとしたAシリーズ
(Super A、Program A等)が発売された。

この時代のカメラボディには個人的には興味が無いが、
Aシリーズレンズは、現代のPENTAXデジタル一眼レフでも
何も問題無く使用出来るため、その点は大きな長所だ。

また、この時代、AF試作機(ME-F、1981年)も発売
されているが、専用レンズが必要等、まだ実用的な性能に
至っていない。

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PENTAX auto 110シリーズ
ここでPENTAXの110(ワンテン)判フィルムを使用する
カメラについて、少し説明しておく。

PENTAX auto 110(1979)、PENTAX auto 110 SUPER
(1983)の2機種が存在する。


レンズ交換式一眼レフとしては、世界最小最軽量。
6種類の交換レンズが存在し、開放絞り値は全てF2.8で
統一され、レンズ側では絞り値を調整できないし、
(注:レンズシャッターを絞り機構の代用にする為)
プログラムAE専用機でもある。
唯一無二のマニアックな存在であり、マニア層にはそこそこ
人気があった、私も一時期「auto 100」を所有していた。
(譲渡により現在未所有)

なお、機種名は、autoは全て小文字、SUPERは全て大文字だ。
(注:後年のPENTAX Qシリーズに搭載されている「Auto110
モード」では、Autoの先頭のみ大文字で記載されている。
同一メーカーの製品とは言え、時代が異なれば、製品名の
表記の一貫性は失われてしまう→他社も同様な状況)

ちなみに後年2010年に、このauto 110のデザインを模した
コンパクト・デジタル機「PENTAX Optio I-10」が発売
されている。これはちょっと欲しかったが、翌年、さらに
レンズ交換式の超小型ミラーレス機 PENTAX Q(シリーズ)
が発売された為、個人的には、こちらが本命の auto 110
シリーズ後継機と見なして、Qシリーズ機に興味の対象が
移ってしまった。(下写真は、初代PENTAX Q)
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1980年代後半 PENTAX Pシリーズ
1985年の「αショック」を受けて、PENTAXも当然ながら
AF一眼レフの実用化を目指す。しかし、試作機ME-Fの
失敗からまだ日も浅く、そう簡単にAF機は出来上がらない。
この間では、P30(1985)、P50(1986)等のPシリーズが
繋ぎとなった。私は引き続き、このあたりの機種には興味
が持てず、未所有だ。

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1987年 PENTAX SF X発売 (SFシリーズ)
PENTAX初の実用的AF一眼レフ。SFとはSuper Focusの略で
この後、1980年代を通じてSFシリーズを展開する。

デザインの自由度を狙ったプラスチックス外装である。
「近未来的」と言えば聞こえは良いが、直線を基調とした
堅いデザインは、その当時であればバブル期の時代感覚に
マッチしていたかも知れないが、後年のプラスチッキーな
カメラが、全て曲線デザインを取り入れた事に対して
「無骨な」イメージが強い。

この為、後年の中古カメラブームの際でも極めて不人気な
シリーズであった。私もデザイン的な理由から、これらの
機種は購入していない。まあでも、この時期にAF化に失敗
したカメラメーカーもいくつもある中、PENTAXはこれらの
SFシリーズで何とかAF化に対応できた、とも言える。
まあ、後年に冷静に仕様等を見れば、最終機種のSF Xn
(1988)あたりは高機能で、実用性は高かったのかも知れない。
_c0032138_15495757.jpg
PENTAX 中判カメラ
ここでPENTAXの中判カメラについて少し紹介しておく。

まずMF機として、
PENTAX 6x7(1969),PENTAX 67(1989),PENTAX 67Ⅱ(1998)
PENTAX 645(1984)があり、いずれもロングセラー機だ。

AF機ではPENTAX 645N(1997),645NⅡ(2001)がある。
(注:デジタル中判機にPENTAX 645D(2010),645Z(2014)
等がある)

銀塩機では、35mm判一眼レフをそのまま巨大化したような
形状、そしてブローニーフィルムを直接装填する型式は、
一眼レフユーザーでも違和感なく使える中判機だ。
大面積フィルムによる圧倒的な高精細・高描写力には、
根強いファン層も多い。

だが、やはり重量はかなり重く、67判は、ボディのみで
1.6kg程度ともなり、そして交換レンズも勿論大きく重い。
しかし、中判カメラとしては、これでも軽量な方で、
なんとか手持ち撮影も可能なレベルではあると思われるが、
撮影可能な枚数も少なく、どうしても機動性は低まる。

精密な風景写真や人物集合写真等には向くと思うが、それら
の撮影分野では三脚も必須であり、よほどの必要性が無いと
なかなか購入できない類の重厚長大なカメラであろう。
私はこの重さに尻込みし、所有する気にはなれなかった・・

なお、撮影枚数が少ないという件であるが、銀塩だからとか
ブローニー判だから、という理由もあるのだが、こうした
中大判のカメラでは、1枚1枚を慎重に撮影する為「心理的な
理由で撮影枚数が減る」という理由もかなり大きい。

この為、銀塩時代には「撮影枚数はフィルム面積に反比例
する」等とも言われていた次第だ。
(注:だからと言って、ハーフ判、110判、ミノックス判、
APS機等での撮影枚数は、さほど多くは無かったとは思うが)

ちなみに、デジタル時代に入った2000年代、「デジタル機
ではフィルムの10倍(の枚数を)撮れ」というスローガン
が、良く実用派マニア層や写真学生の間で言われていたが、
こういう銀塩中判機の撮影枚数が、1日あたり数十枚で
あったならば、現代のデジタル時代では、数千枚の撮影が
標準的であるから、「フィルムの100倍撮れ!」が適正な
目標数値であろう。
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1990年代前半 PENTAX Zシリーズ
ハイパー操作系を搭載したPENTAX Z-1/Z-10発売(1991)
バブル期に企画された「バブリー」なカメラであり、特に
初のAF旗艦機Z-1は、高機能を「てんこ盛り」とした機種だ。
(銀塩一眼レフ・クラッシックス第17回記事参照)

この「Zシリーズ」は1990年代前半を通じて多数の機種が
発売されたのだが、時代は丁度バブル崩壊後であり、
消費者のニーズやマインドが大きく変化した事から、
このZシリーズの多機能なコンセプトは、若干の違和感を
消費者層では感じるようになってしまったと思う。

ただ、その点はPENTAXに限らず他社の同時代のカメラも
同様に「バブリー」であり、銀塩一眼記事でも何度も書いた
ように、私はこの時代(1990年代前半)の機種を、Z-1を
除き、現在1台も現有していない。勿論銀塩時代には色々と
使ってはいたが、いずれも「将来に残す歴史的価値は無い」
と見なして処分してしまった訳だ。

余談であるが、NIKONが、2018年に新型(フルサイズ)
ミラーレス機「Zシリーズ」の発売を開始した際、
この時代(1990年代前半)に存在した、PENTAX Z-1
やZ-5等の機種群との型番被りを避けて、あえてNIKON

Z6/Z7という半端な数字型番からスタートした、と推測
している。勿論、ハイフンの有り無しの差異はあるが、
現代のネット時代では「検索時の固有性」も重要な型番
戦略であるからだ。(例:Z7で検索したら、NIKON Z7
が一発で出てくるが、Z1だと、カワサキのバイクとなる)
しかしながら、2019年にはNIKON Z50が発売、これは
PENTAX Z-50P(1993年)と型番被りが生じてしまっている。
(注:低価格機は、「高付加価値型戦略」のNIKONとしては、
あまり売りたく無い商品だから検索性は重要では無いのか?)
_c0032138_15500930.jpg
1990年代後半 PENTAX MZシリーズ
Zシリーズでの行き過ぎた高機能化と、時代のニーズとの
ずれを修正する為の機種群。
MZ-5(1995)から始まり、2000年代初頭まで多数の機種が
発売されている。

なお、この1995年には阪神淡路大震災が起こっていて、
バブル崩壊(1992年頃)に引き続いての、国民の経済的・
精神的なショックが大きく、ここで消費者ニーズもまた
変化している。
この時代以降、主にカメラマニア層は新規のAF一眼レフの
コンセプトやテイストに全く興味を持てず、世の中は空前の
「第一次中古カメラブーム」に突入していく。

ただ、そんな時代背景の中でも、機能をあえて制限し、
バランスの良い中堅機として上手く纏めあげたPENTAX MZ-3
(1997)は特筆するべき注目の機体であろう。
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(MZ-3SE:1998として、銀塩一眼第21回記事で紹介)

このMZ-3は、なかなか優秀なカメラであるのだが、その長所は
単なるカタログ・スペック等の数字からでは、とても説明
しずらい、長くなるので詳細は上記当該記事を参照の事。
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PENTAXの銀塩コンパクト機
35mm判銀塩コンパクト機として、1980年代からのZOOM70
等のZOOMシリーズ、後年の「エスピオ」シリーズがある。
また、1990年代後半からのAPSコンパクト機として、
「エフィーナ」シリーズが存在するが、これらの機種には
興味が持てず、所有していなかったので詳細は省略する。

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2003年 PENTAX *ist (イスト)
時代はすでにデジタルである。
他社からは既にチラホラとデジタル一眼レフが発売されていて
PENTAXでも 同年2003年に*istDを発売、そしてこの翌年
2004年には、デジタル一眼レフ最安値(当時)の *istDsが
発売されている。

よって、この銀塩「*ist」は、全く注目されない最後の
銀塩機になってしまったのだが、少し後になってこの機体を
詳しく検討すると、なかなか完成度が高い優秀な銀塩一眼レフ
である事がわかった。
だが、もはや手遅れだ、今更これを買っても、数年使えれば
良い方である、個人的には、ちょっと未練を残したまま
時代は急速にデジタルに転換していく。
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さて、今回の記事はこのあたりまでで・・
丁度銀塩時代が終焉した頃である。次回記事は、PENTAX編の
後編として、主にデジタル機の変遷を紹介していこう。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(32)AFマクロ・レジェンド(後編)

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やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に紹介するシリーズ
記事。
今回の記事では、AFマクロ・レジェンド(後編)という事で
現代では生産完了となっていて、「レジェンド」とも呼べる
高描写力を持つAF一眼レフ用マクロレンズを5本紹介する。

なお、今回の前後編では、レンズの製造年代順ではなく
ランダムな順番での紹介となる。また、本記事では
本シリーズの過去記事との重複紹介レンズも多い。

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まずは今回最初のマクロ
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レンズは、MINOLTA AF Macro 50mm/f2.8(初期型)
(中古購入価格 15,000円)(以下 AF50/2.8)
カメラは、SONY α700(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス名玉編第4回(第4位相当)
等の記事で紹介の、1980年代後半のAF標準等倍マクロ。
_c0032138_10512709.jpg
「これぞ、本物のレジェンド」と呼べる銘マクロだ。
高い描写力に加えて、コスパが極めて良く、現代において
本レンズ(初期型)は軽く1万円を切る安価な中古相場で
入手できる。
この事実を持って、「ハイ・コスパレンズ名玉編」では
堂々の第1位にランクインしている。

銀塩時代から、友人知人に推薦した回数も多数あり、
私の周囲で、本レンズを所有していないかった人は
むしろ少ないくらいであった。

ただし、古いレンズ故に、色々と課題はある、
順次、そのポイントと回避の方法を述べていこう。

「手ブレ補正無し」に関しては、SONY α(A)機であれば
内蔵手ブレ補正が、こうした古いレンズであっても有効に
機能する。(注:α-7D等、コニカミノルタ機でもOK)
そして、そもそも、マクロレンズに手ブレ補正機能は
あっても無くても良い事は、前回の「前編」記事で説明
した通りである。

「超音波モーター無し」も、しかり。ここも前記事で
書いたように、近接撮影では、どうでも良い話である。
(むしろ、入っていない方が、ずっと有り難い)

「MFの操作性の悪さ」に関しては、ピントリング幅が
およそ4mmと狭い初期型(=MFを軽視した世情を反映)
であると、やや苦しいが、まあ、慣れれば問題は無い。
どうしても気になるならば、若干中古相場は上がるが、
NEW型、D型、SONY型のいずれかを選べば、後年の
機種になればなるほど、ピントリングの幅が広い。
なお、レンズ構成は、どのモデルでも同じなので、
あくまでMF操作性が気になるか否か?だけの話だ。

ちなみに、α機の機種によっては「DMF機構」が使え、
AFからMFへのシームレスな移行を可能とする為、
このDMFを上手に使えるのであれば(例:DMFはピントが
一旦合わないとMF移行できない為、合い難い被写体では
別距離でAFを仮ロックする等の高度な使用法で対処する。
なお、当たり前だが、そういう使い方をするならば、半押し
でのAEロックは「効かない設定」としておく必要がある)
・・そうすれば、現代の超音波モーターによるフルタイム
(シームレズ)MFと同等以上の操作性を得る事が出来る。
(今回使用のα700でも、一応DMF機能が使える。
ただし本レンズでは、DMF時に「MF表示」が出ない)

「画面周辺部の描写力低下」については、今回使用の
α700といった、APS-C機の利用で抑える事ができる。
なお、2010年代以降のαフタケタ機であれば、さらに
デジタル拡大(テレコン)機能により、画質無劣化で
画像をトリミングできるので、さらに画面中央部の
画質(解像力等)が良い部位のみを利用でき、かつ、
見かけ上の撮影倍率を高める事ができる。

この「スマート・テレコンバーター機能」を最大に
利用時には、いわゆる「最大撮影倍率」は、
1倍(等倍マクロ)x1.5(APS-C)x2(テレコン)で、
合計最大約3倍のマクロレンズとなる。
(注:今回使用のα700では、この機能は入っていない)

ただまあ、倍率が高ければ必ずしも良いというもの
でも無いが、作画の自由度が高まる事や、事後編集の
トリミングの作業コスト(手間)が低下する事は確かだ。
なお、いずれの場合にもWD(ワーキングディスタンス)
や最短撮影距離(約20cm)は、元のレンズのスペック
のままである。

「ボケ質の破綻」に関しては、本レンズはほとんど
出ないのであるが、破綻回避する必要は少なくても、
それでも最良のボケを得るポイントは存在するであろう。
ただ、これをコントロールする事は、α(A)マウント機
では少々難しい。例え、EVF仕様のαフタケタ機を
使ったとしても、それらは開放測光であるので、
一々絞り込みプレビューの操作が必要である。
(ただし、光学ファインダーに比べて、EVFは画面が
暗くならない為、はるかにこの目的には使い易い)

なお、「ボケ質破綻回避操作が不要」そして「あまり
極端なデジタル拡大も行わない」という視点で、
今回は、母艦として、それらがやりにくい(出来ない)
古いα700をあえて使用している。すなわち、母艦となる
カメラは、色々な機能が付いている事は勿論望ましいので
あるが、使用する目的に対して無駄となる機能を持つ事は
必ずしも効率的なシステムとは言えないからだ。

撮影前に用途を考察し、デジタル拡大やエフェクトが
必要だと想定するならば、αフタケタ機を持ち出せばよく、
それから、ボケ質破綻回避が頻繁に発生するαレンズを
使うのであれば、α一眼レフではなく、μ4/3機や
APS-C型ミラーレス機で、マウントアダプターを介して
使えば良い。その際にもα用レンズは、機械式レバーで
絞り値を制御する方式なので、絞り込み(実絞り)測光
となり、ボケ質破綻のチェックが若干やりやすい。
また、高価な電子アダプターを使う必要も無い訳だ。

さらには広角のαレンズを使うとか、画像周辺の画質を
チェックしたいならば、フルサイズのα一眼レフ又は
αミラーレス機を使えば良い。それで画面周辺が使い物に
ならなければ、それらの機種での各種デジタル拡大機能を
使うか、あるいは事後のトリミング処理で、画角を犠牲に
するか、画質を犠牲にするかを選べば良い。
そうしたチェックの後、課題があるならば、次回からは
APS-C機で使用すれば良い訳だ。

まあつまり、レンズによって、使うカメラは様々であり
万能の高級カメラを1台もっていれば、それで済む
(大は小を兼ねる)という訳でも無いのだ。
あまりに重厚長大な母艦に、小さいレンズをつけていく
等では、ハンドリング的なバランスが悪いであろう。
(ただし、大型機にパンケーキレンズを付けるなどで、
デザイン的な格好良さが出るケースもある)

デザインと言えば、
「本、初期型AF50/2.8のデザインの古さ」に関しては
もうどうしようも無い。30年以上も前で、かつプラスチック
成型技術が発展した時代の大量生産品的なレンズだからだ。
まあでも、「一周廻って格好良い」とも最近は思うように
なってきているので、このあたりは個人の好みであろう。
_c0032138_10512708.jpg
さて、こんな感じで、様々な弱点は個別に回避可能だ。
本AF50/2.8 Macroだが、まあ一言で言えば「銘マクロ」
であり、α(A)マウントユーザーであれば必携だ。

ただし、30年以上も前の古いレンズであり、現代の
安直なレンズに慣れたビギナー層では、使い難く感じる
事もあるだろう。上記で、たいていの課題を上げているが
まあ、それらは全て問題回避する方法があるという事だ。
(注:本ブログでは、レンズの評価において「問題回避」
が可能な項目については評価しない。例えば「AFが遅い」
というのは、高性能AF機を用いたりMF利用等で弱点回避
が出来る為、そのような項目は評価の対象にはならない)

なお、後継機種でも現代に至るまで、レンズ構成は全て
同じだと思われる、つまり発売開始時点から、既に完成
の域に近かったレンズだ。さもなければ、とうに様々な
改良が施されている(ただまあ、SONYにおいては2006年
にMINOLTAから引き継いだレンズ群は、外装変更を施した
だけで光学系には手を入れていない為、相当に古い時代
(1980年代~1990年代)の設計のままの商品も多い)

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では、次のマクロ
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レンズは、TAMRON SP AF 90mm/f2.8 MACRO[1:1]
(Model 172E)(中古購入価格 20,000円)
カメラは、PENTAX KP(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第31回記事等、多数の記事で
紹介の、1990年代後半のAF中望遠等倍マクロ。

本シリーズ記事でも、第8回「TAMRON SP特集」で
紹介している、重複するが、銘レンズ故に何度紹介
しても問題無いであろう。
_c0032138_10514492.jpg
言わずと知れた「TAMRON 90マクロ」である。
MF時代のF2.5版から、AF時代のF2.8版、そして
デジタル時代のDi版、高付加価値化時代のVC USD版、
いずれかの時代の「90マクロ」を所有していないという
マニアや中上級層は居るのだろうか? まあつまり、
「誰でも持っているレンズだ」という事である。

私は、F2.5版(Medel 52BB,1988年)と、F2.8版
(172E,1999年x2)の計3本を長年使用していて、
Di版(272E,2004年)以降は本記事執筆時点では
未所有であったが、後日これを2本入手している。
これで、各時代の光学系での90マクロが揃った事と
なったので、いずれ特集記事で比較検討してみよう。

Di版はデジタル機でのセンサー面の内部反射の防止で
レンズ後玉部にコーティングが加わっただけだ。
そして旧型でも、デジタル機での利用に特に問題点を
感じなかった為、積極的には購入に結びつかなかった。
近年のVC USD版(F004,2012年、F017,2016年)は、
手ブレ補正と超音波モーターで武装しているが、この手の
高付加価値型マクロはコスパ面で好きでは無い(前編記事
で詳細説明)のだが、研究目的で後日に購入している。

まあ、本「90マクロ」(172E)も、完成されたレンズ
である。長年に渡り、レンズ構成に変化は無かった。
予算に応じて、どれかの時代の「90マクロ」は必携だ。

ただ、完成されたレンズではあるが、完璧な性能とは
言い切れない部分もある。私が昔から気にしているのは
中距離の撮影でボケ質破綻が出る事だ。
これは、旧来の1/2倍マクロのF2.5版(52B等)から、
F2.8版(等倍、72EまたはMF版の72B)になった際に、
画質設計基準を近接側に変えたからだと思われる。

これはつまり、一般的な写真用レンズは、無限遠で
最良の性能(収差の低減等)が発揮できるように設計
されるのだが、その場合、近接撮影では画質が低下する。
しかし、マクロレンズの場合は、近接撮影において
最良の性能が出るように設計されているので、逆に
中距離や遠距離での描写力が低下してしまうのだ。

実は、銀塩MF時代のマクロレンズの多くは、通常レンズ
と同じく無限遠基準でに設計されているように思える。
(注:「近接基準」と「無限遠基準」は、非常に曖昧な
技術開発用語である為、個人的には推奨しない用語だが、
その件の詳細は長くなる為、本記事ではそのまま使う)
・・MFマクロレンズによっては、近接撮影をするよりも
中遠距離で撮影した方が良く写る場合もあるからだ。
TAMRONの旧F2.5版も同様であり、中距離あたりでの
ボケ質破綻が、新しいF2.8版よりも少ない。

もっとも、このあたりはメーカ側としては「確信犯」
であろう。他の記事でも良く書くが、1970年代頃
(最初の90マクロの52Bが発売された頃)の一眼レフ
ユーザーは交換レンズを殆ど買わず、持っていたとしても
28mm,50mm,135mmの3本が良いところであった。
その状況において、ユーザーが持っていない90mmという
中望遠、これは人物撮影にも向く、そしていざとなれば
1/2倍までの近接撮影が出来る、これはとても便利だ。
その特徴を示すため、52Bは「ポートレートマクロ」
というキャッチフレーズを持って発売された。

この製品コンセプトは見事に1970年代末の消費者層の
ニーズを捕らえ、そこから約40年間も続く「90マクロ」
の信頼への礎となった訳だ。
52B/52BBの「ポートレートマクロ」という呼び名は、
現代においてもなお、マニアの間では伝説として残っている。
(注:「タムキュー」という呼び名も良く使われるのだが
どの時代の物の話をしているのか?が不明なので非推奨だ)

もし最初期の52Bが、違うキャッチフレーズで発売されて
いたら、あるいは90mmでは無く別の焦点距離であったら
(例えば、既に当時のユーザー層の誰もが持っている
50mmや135mmで発売されていたら)、恐らくは現代に
至るまで続く「90マクロ」は、存在していなかったのでは
なかろうか。
_c0032138_10514420.jpg
ただ、F2.8版で、近接側に設計基準を移してしまったので
そこからはもう「ポートレートマクロ」というキャッチ
コピーは使えない。F2.8版で中距離人物撮影を行ったら
ボケ質破綻が出るし、そもそもF2.8ではボケ量も稼げない。

これは、1990年代では既に「ポートレートは85mm」が
常識となっていて(まあ1970年代のCONTAX(RTS)プラナー
85mm/F1.4がその走りであろう)各社から、F1.4級や
F1.8級の大口径85mmレンズが色々と発売されていた。

本格的な人物撮影を志向するユーザー層は、それらの
85mmレンズを買った訳であり、もう「ポートレートも
マクロも両方いけます」というコンセプトは通用しなく
なっていたのであろう。

という事で、F2.8版以降の「90マクロ」を使用する際は
中遠距離撮影を潔く諦め、近接撮影に特化して使う事が
得策であろう。そうした撮り方をするのであれば、
まず、描写力的な不満は感じる事は無いと思う。
さすがに、20年近くもレンズ構成を変える事なく通用
しつづけた、完成された「レジェンド・マクロ」である。

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では、3本目のマクロシステム
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レンズは、OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 50mm/f2 Macro
(中古購入価格 22,000円)(以下、ZD50/2)
電子アダプター:OLYMPUS MMF-2(4/3→μ4/3)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1(μ4/3機)

2003年発売の、フォーサーズ用の1/2倍マクロ。
標準(50mm)焦点距離だが4/3型センサー機専用の為、
換算100mm相当の中望遠画角、等倍マクロ相当となる。

本シリーズ第2回記事「OLYMPUS新旧マクロレンズ」
特集で紹介済みなので重複するので、今回は簡単な
紹介に留めよう。
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長所としては、希少なF2級マクロである事だ。
銀塩時代から現代に至るまで、開放F2の大口径マクロは
極めて数が少なく、OLYMPUS、COSINA、TAMRON等で
数える程しかない。で、その殆どは1/2倍マクロだ。
(注:TAMRON SP60/2のみ等倍、ただしAPS-C機専用だ)

本ZD50/2も1/2倍マクロである、ただし現代のμ4/3
機で使う上では、様々なデジタル拡大機能のと併用で
機種によっては、撮影倍率を非常に上げる事も可能で
あり、撮影倍率のスペックの低さは気にする必要も無い。
むしろ、μ4/3機で、あまりに拡大率を上げすぎると、
超望遠レンズ並みの800mm画角となってしまう事もある。

本レンズと今回使用のOM-D E-M1においては、
通常の利用で、100mm相当の画角、フルサイズ換算で
等倍相当。デジタルテレコン利用で200mm、2倍相当だ。

描写力だが、逆光耐性が低く、フレアが出てコントラスト
が低下する。これの回避の為に、まずフード装着は必須、
さらに、あまりレンズを、あちらこちらに向けずに、
近接撮影に特化すればよい。さらに、可能ならば曇天や
雨天などの「フラット光」下で持ち出すのも良いだろう。

本ZD50/2は、防滴構造にはなっていないが、今回使用の
母艦のE-M1は防塵防滴仕様であり、天候耐性が高い。
別にE-M1で無くても、オリンパスのカメラやレンズの
多くは、昔から天候耐性に優れたものが多く、様々な
カメラやレンズを雨天でも良く使用したが、多少の雨に
濡れただけで壊れてしまうような軟弱なカメラは1台も
無かった。
まあでも、このあたりは雨天でカメラを壊さずに使う
経験やノウハウが必要な話であり、ビギナー層では無理で
あろう。でも、「では、そういう経験をいつ積むのだ?」
という話にも繋がる。
観光地やイベントなどに、高価なカメラやレンズを
持ってきているアマチュア層は、急に雨が降ったりすると、
蜘蛛の子を散らすように、さ~っ、と、一斉に居なくなる。

大事な高価なカメラを壊すのが怖いのかも知れないが、
どう見ても、ある程度の天候耐性がある高級機ばかり
である。私は雨が予想されると、逆に「壊れても良い」
消耗機を持ち出す事が多いが、それらは殆どが古い時代の
安価な機種であるから、防塵防滴性能など、何も無い。
でもまあ、雨天でも、それらの機体を壊さずに使っている
訳であり、ビギナー層は、せっかく壊れ難い高級機を使って
いるのに、「雨が怖い」などとは、むしろ矛盾のある話だ。
本当に「壊しても良い機体」を使って、ギリギリの環境で
酷使するような経験を多数積む必要があるかも知れない。
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余談が長くなったが、本レンズにおいては前述のように
ある程度、撮影条件(環境)を整えてあげないと、
まともに写らない場合がある。ただ、その条件は決して
難しいものではなく、例えば、単に日陰で近接撮影を
すれば良いだけのような類だ。
そうやって撮影条件を整えてあげれば、本ZD50/2は
良く写るマクロとなる。

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では、4本目のマクロ
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レンズは、SIGMA 105mm/f2.8 EX DG Macro
(中古購入価格 5,000円)(以下、EX105/2.8)
カメラは、CANON EOS 6D(フルサイズ機)

ミラーレス・マニアックス第41回記事等で紹介の
2000年代のAF中望遠等倍マクロ。
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中古購入価格5,000円は破格であるが、これはAF故障品
をナンピン買いしたからだ。ここで言う「ナンピン買い」
とは、すでに本マクロと同型品をNIKONマウント版で
使用していたのだが、大変写りが良く、後年に異マウント
で買い足した次第なのだが、その際に故障品を買う事で
「2本の平均購入単価を大きく下げる事が出来た」
という次第である。


AFが全く動かない。EOS 6DでAFモードとすると
キューっと変な音がして、火を吹きそうで(汗)危険だ。

だが、MFで使用する上では何ら問題が無い。
マクロ撮影ではMFを多用する為、本レンズを使っていると
むしろ「マクロにAFなどは本当に必要なのか?」とも
思ってしまう位だ。

まあ、思ってしまう、ではなくて、これは事実であり、
私は、殆どのAFマクロレンズでは、MFで使う比率が
極めて高い。つまり、近接被写体で最短撮影距離付近で
ピントを合わせるのは、どんな優秀なAF性能を持つカメラと
組み合わせても、たとえレンズ側に各種モーターが内蔵
されていたとしても、まず無理な話だからだ。

こういう事は、自身で試してみれば容易に理解できる
筈である。というか、中級者以上においては、「常識」の
レベルであって、一々説明の必要も無い。

つまり「ピントが合い難い、カメラやレンズのせいだ!」
と言っているのは、初級者層だけ、という話であり、
そういう評価などを見かけたら、それはビギナー視点
での話なので、まったく聞く耳を持たなくても良い。
中級者以上であれば、AFが合わないと思ったら、速やかに
MFに切り替えて撮る、それで何も問題は無い。
あるいはもう最初から、合うか合わないかがわからない
AFに頼らず、全てMFで撮るか、だ。

この為、今回は、母艦としてMF用スクリーンEg-Sに
換装したEOS 6Dを使用している。他にもEOS機は色々
と持っているが、どれもスクリーンのMF性能が低くて
使い難いからだ。まあでもMF用スクリーンは「若干
暗くなる」という弱点もあるので、開放F値の暗い
超望遠ズームなどを良く使う機体では、ノーマルの
スクリーンのままとしている。
まあ、こういう意味においても、1台のカメラだけで
事足りるという事はなく、使用するレンズの特性に
合わせて複数のカメラが必要になる事は当然であろう。

今時のビギナー層は、高級機ばかりを欲しがるのだが、
それを買う予算があるならば、中級機を2台買って
さらに予算が余ったら、レンズ購入に充てるのが正解だ。
その方がずっと実用性が高くなる事は間違いは無い。

というか、もっと本筋を言うならば、ある機材購入予算
があった場合、その8割をレンズ購入に充てるのが
本ブログでの持論だ(1対4の法則) つまりレンズを
買って余った金額で、買える範囲のカメラを買う訳だ。

そうしないと、50万円のカメラに3万円の標準ズームを
付けるなど、極めてアンバランスで格好悪い状態になる。
何故ならば、写真の画質の大半はレンズの性能で決まる
為、それでは50万円のカメラの高性能が全く発揮できない。

それを買う予算があるならば、むしろ逆だ。10万円の
高性能単焦点レンズを5本買って、残りの3万円で
中級機または古い上級機を、中古で買えば良い。
きっとその方がはるかに写りが良く、かつ様々な被写体に
汎用的に高描写力が得られる機材ラインナップとなる。
_c0032138_10522020.jpg
余談が長くなったが、本EX105/2.8は、あまり目立たず、
好評価も殆ど聞こえてこないが、極めて描写力に優れた
銘マクロである。

私個人的には「TAMRON 90マクロ」とどっこいどっこい
(同等)の高描写力と評価している。

ただ、それについては「90マクロ」は初級中級層から
「神格化」されている為、「そんなバカな」という意見
となるだろう、でも買って使ってみれば、すぐわかる筈だ。
別に「90マクロ」だけが銘マクロでは無い訳だ。

さもなければ私も、たとえ「ナンピン買い」だと言っても、
同じレンズを2本も買う筈も無い、そういう事をするのは、
よほど優れたレンズの場合だけだ。
さらに言えば、本記事執筆後に、この時代のSIGMA MACRO
(EX DG版)の多くを入手している。それらの光学設計が
良質な事が良くわかってきたからでる。
(今後、長期の研究・検証後に記事に纏める予定だ)

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では、今回ラストのマクロシステム
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レンズは、TAMRON SP AF60mm/f2 DiⅡ LD [IF]

MACRO 1:1 (Model G005)

(中古購入価格 20,000円)(以下、SP60/2)

カメラは、SONY α65(APS-C機)

2009年発売の、APS-C機専用・中望遠画角・大口径等倍
AFマクロレンズ。
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こちらも過去記事で何度か紹介しており、本シリーズ記事
でも、第8回「TAMRON SP特集」で紹介している。
なお、シリーズ内等で紹介レンズが重複する場合には、
できるだけ使用カメラを変える等の措置を行っている。
勿論、紹介(評価)内容も、記事毎に全くまちまちであり、
「文章をコピー&ペーストして執筆終了」等にはしない。
すなわち、書きたい事があるから記事を書いているので
あって、記事を効率的に作る事が目的では無いからだ。

さて、本レンズは中古市場では人気が無い。何故ならば
APS-C機専用レンズだからだ。
フルサイズ人気が全盛の現代においては、APS-C機などは
初心者向けのシステムだと思われてしまうのであろう。
だけど、そう思っている時点で、すでに初級者である。

フルサイズやAPS-C、あるいはμ4/3や、さらに小型の
センサー機には、それぞれ長所短所があって、撮影の用途や
レンズとの組み合わせにより、最適のシステムは変化する。
だから、値段が高いフルサイズ機を1台持っていれば
それで全てに対応できる訳では無いのだ。

まあ、勿論ここらへんは中級者以上には「常識」の話だ。
だが、では何故、新品カメラ流通や中古市場が、そうした
初級者の志向性に左右されてしまうのか?と言えば、
現代のカメラ市場が、初級者により支えられているからだ。

何故ならば、カメラ市場縮退により、高付加価値化した、
つまり大きく値上がりした現代のカメラは、より以前の
時代を知る中上級層、マニア層、ベテラン層においては
コスパが極めて悪く感じ、魅力的な商品では無いからだ。

すなわち、中級者層以上であれば、前世代の、多少古い
カメラやレンズを使っても、別に不便を感じずに撮影が
出来てしまう、弱点を回避するスキルを持っているからだ。
つまり、そのスキルが無い初級層だけが、手ブレ補正が
入っていなくちゃ、高画素でなくちゃ、AFが良く合わなくちゃ、
連写が速くなくちゃ・・と、そういうものを欲しがるのだ。
何故ならば、そういう最新機能で武装しないと、「上手く
撮れない」という不安を常に抱えているからだ。

・・まあ良い、いずれ初級者層だって、その不条理さに
気づくタイミングが来る、そうなったら、機材使用の
志向性もガラリと変わるだろうから、何も問題は無い。

で、本レンズと、この話の何が関係するのか?と言えば、
本SP60/2は、APS-C機専用だ、だから現代では人気がなく、
よって中古相場も安価である。おまけに描写性能も優れて
いる。よって何も問題は無いのだが、その事実に誰も注目
しないのは、およそ10年前に発売のレンズであるからか?
だとしたら、いかにも、市場を見ている範囲が狭すぎる
というビギナー特有の状況ではなかろうか?という事だ。
(=過去の製品の歴史を知らず、今現時点で量販店等で
入手可能な製品の事しかわかっていない)
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そもそも、本レンズが企画・発売された2000年代後半、
その時代のデジタル一眼レフはAPS-C機が主流であった。
だからTAMRONの看板商品「90マクロ」も、APS-C機では
135mm相当の、かなり長目の望遠的なマクロとなる。
これはビギナー層にとっては、少々使い難い。

まあ中上級層であれば、近接撮影においては、レンズの
焦点距離(画角)の差は、通常撮影ほどの差異が無い事は
知っているだろう。よって、別に望遠画角になったからと
言って使い難いとは思わず、むしろ撮影倍率が1.5倍相当に
なる事は嬉しい話だったのだ。

まあでも、当時であっても市場での主力ターゲットは
ビギナー層だ、だから90マクロは、なかなか売り難い。

TAMRONは、2000年代、およそ8年間も「90マクロ」の
新機種更新を止めてしまっていた。まあ画角の問題等から
時代的に「タイミングが悪い」と思ったのであろう。
では、その間は「どう繋ぐか?」という回答の1つが、
本SP60/2であろう。

90マクロのAF版初代の72E型からは、十数年の歳月が
流れていて、コンピューター設計や、異常低分散ガラス、
非球面レンズ(注:本レンズでは未使用)等の技術革新が
ずいぶんと進んでいる。
いくら「90マクロ」が「レジェンド」だからといって、
様々な新技術で武装したバリバリの若手である本レンズに
勝てるのだろうか? いや、それは正直難しいであろう。

事実、ある面においては、本SP60/2は、90マクロ
(272E型以前)をも上回る高い描写性能を魅せてくれる。
「APS-C専用だから」など、もはやどうでも良い話だ。
安価な本レンズであるから、コスパは最強クラスに近い。

ただ、ハイコスパ名玉編記事のランキングでは、本SP60/2
は、兄貴分のSP90/2.8に僅かに負けてしまった。

その理由だが、本レンズは「ちょっとやりすぎて」
しまっていたのだ。

まず、その描写特性だが、色収差や球面収差の補正低減に
注力した結果だろうか? 極めて解像力は高いが、
その分、「カリッカリ」の描写特性になってしまっている。

通常被写体であれば、こういう特性は「現代的である」とも
言えるのだが、マクロ撮影の場合はそうとも言い切れない、
「自然物」のイメージとは、もっと「柔らかい」のだ。

余談だが、小説/アニメの「戦闘妖精・雪風」の登場人物で、
電子工学の専門家で、木製のブーメランを作る趣味のある
「ジェイムズ・ブッカー少佐」は、かつて人工知能搭載の
「絶対に戻ってくる完璧なブーメラン」を作ったのだが、
それは、思いも寄らぬ方向から凄い速度で戻ってきて、
彼は怪我を負ってしまった。

アニメ版では、少佐の顔に傷をつけたAIブーメランが落下後の
地上で、まるで生きているかのように、LEDを明滅させながら、
羽根をピクピクと動かしているシーンが不気味で印象的であった。
(注:元々、この原作は、人間が「ジャム」と言う、異星の
未知で理解不能の機械生命体(?)と戦うストーリーである。
ジャムに対抗する為に人間は、ジャムとある意味同じとも言える
人間と機械の複合生命体の「雪風」を切り札とするのだ。
つまり、この「AIブーメラン」は「ジャムと人間の戦い」の
メタファー(暗喩)となっている、だから不気味なのだ)

少佐は「機械が空を舞うのは硬すぎる」と言って、その後、
また、木製のブーメランを削る日々を過ごすのであった・・

で、なんだか、本SP60/2のネイチャー被写体の描写傾向は、
「雪風の人工知能(AI)ブーメラン」を連想してしまう。
すなわち、本レンズも「自然を撮るには硬すぎる」訳だ。

そして操作性、本レンズでは新しくフルタイムMF機構を
搭載したのだが、これは無限回転式ピントリングだ。
(注:距離指標は持っているが、停止感触が殆ど無い)
この機構がMF操作には全く向かない事は、様々な記事で
述べている通りである。
この点で、旧来のF2.8版90マクロ(Di仕様以前)より
MF操作性が悪化していて、近接撮影に適していない。

ただまあ、F2の大口径である事と、ボケ質破綻が少ない
事は、90マクロよりも優れている点である。
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本レンズの弱点を回避しようとすれば、AFを用いて
近接撮影を行わない事だ、中遠距離に特化すれば良い。
そうであれば、旧来のF2.5版90マクロのように
「ポートレートマクロ」のような用途には適している。
ただまあ、カリッカリ描写だから、たとえポートレートを
撮るとしても、女性よりも男性被写体向けかも知れない。

本SP60/2の総括だが、勿論悪いレンズでは無い、
ただ、上記のように、なかなかクセのあるレンズだ、
この特性を良く理解し、上手く使いこなせるのであれば
コスパは大変良く、文句のつけようも無いであろう。

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さて、今回の記事「AFマクロ・レジェンド(後編)」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・

【熱い季節2020】ドラゴンボート・ペーロン大会情報(中期)

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新型コロナウィルス感染拡大防止の観点により、
全国において大規模なイベントが自粛されている中、
本年度の各地のドラゴンボートやペーロン大会は、
中期(2020年7月~8月)の期間においても、
残念ながら(日本国内の)殆どの大会の、中止又は
延期が決定されている。
(掲載写真は、昨年2019年大会のもの)

予定されていた主要な各地の大会/イベント等の
状況について、ここで記載しておこう。
(注:2020年6月29日時点の情報)

2020年7月
*天神祭奉納日本国際ドラゴンボート選手権大会
(通称:「日本選手権」)(大阪市・天満橋)
 →中止

*東近江市ドラゴンカヌー大会(滋賀県・東近江市)
 →中止

*長崎ペーロン選手権大会(長崎県・長崎市)
 →中止

*第29回びわ湖高島ペーロン大会(滋賀県・高島市)
 →中止

*豊見城ハーリー大会、他ハーリー系大会(沖縄県)
 →中止(注:沖縄県では夏季を通じ、数多くの「ハーリー」
 大会が実施されているが、今年は、その多くの開催が中止
 されている。個別の大会の状況についてはHP等で要確認)

*いさドラゴンカップ2020(鹿児島県・伊佐市)
 →中止(5月頃→7月頃に延期の検討を行っていた大会)
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2020年8月
*第37回堅田湖族まつり 湖族船競争(滋賀県・大津市)
 →詳細不明 (上写真)

*第13回九頭龍ドラゴンボート大会(福井県・福井市)
 →詳細不明

*2020京丹後市ドラゴンカヌー選手権大会~メロンカップ~
(京都府・京丹後市・久美浜町)
 →中止

*第20回東郷湖ドラゴンカヌー大会(鳥取県・東郷湖)
 →中止

*第30回びわこペーロン(滋賀県・大津市)
 →中止 

*第17回KIX国際交流ドラゴンボート大会(大阪府・関西空港)
 →中止 (冒頭1枚目の写真)

*第15回びわ湖ドラゴンキッズ選手権大会(滋賀県・大津市)
 →中止 (下写真)

*第2回パワーバトルなぶらカップ(静岡県・御前崎市)
 →日程調整中
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なお、海外の大会の状況は不明(未調査)

以降、下期(2020年9月~11月)の大会予定は、
情報が入り次第、追って纏めていくことにする。

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