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最強50mmレンズ選手権(4) 予選Dブロック MF50mm/f1.8

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本シリーズは、所有している一眼レフ用の50mm標準レンズを
AF/MF、開放F値等によるカテゴリー別で予選を行い、最後に
決勝で最強の50mmレンズを決定するという趣旨の記事である。

今回は「予選Dブロック」として「MF50mm/f1.8(級)」の
レンズを6本紹介(対戦)する。
ここでF1.8級とは、小口径標準(レンズ)と呼ばれる
概ねF1.7~F2.0の範囲のスペックの物とする。

それと、予選毎には勝ちあがりレンズは決定せず、
本シリーズ記事の終盤で決勝戦進出レンズを発表する。

なお、今回の記事では紹介したいMF小口径標準レンズの数が
多い為、いつもの1記事あたり4本ではなく、6本としている。
この為、レンズの実写紹介写真は各レンズあたり2枚とする。

それから、最初に書いておくが、今回の記事は各レンズの
紹介文章の内容に重複が多く、若干クドい(汗)
その理由は記事を読んでいけば明らかになってくるが、実は
今回紹介の各レンズの光学系設計や性能は、どのレンズも、
ほとんど同じなのだ! 全て読むと「ブランドとは何か?」
と言う点で、大きな疑問が湧いてくるかも知れない・・

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さて、今回最初のレンズ。
_c0032138_07104548.jpg
レンズ名:NIKON Ai NIKKOR 50mm/f1.8S
レンズ購入価格:14,000円(中古)
使用カメラ:NIKON Df (フルサイズ機)

ミラーレス・マニアックス第21回記事等で紹介の、
1980年代の、準パンケーキ型MF小口径標準レンズ。
_c0032138_07104586.jpg
本シリーズ第2回記事で紹介の AiAF50mm/f1.8の元祖の
MFレンズであり、AF化においてレンズ構成は変化していない。

ニコンFマウントであるが、ニコン製デジタル一眼レフで
使う場合は、高級機(Dヒトケタ、D三桁、D7000系、Df)
でないと露出計が動かない等、面倒だ。
むしろ、ニコン機以外の様々な一眼レフやミラーレス機で
使う方が遥かに簡便であるのだが、今回は雰囲気を重視して、
あえてニコン機に装着している。

本レンズだが、完成度の高いレンズと言える。
その根拠としては、1978年頃のAi型での初出から、Ai-S型、
シリーズE用、AiAF型、AiAF D型を経て 2011年にAF-S G型
において完全リニューアルされるまで、30年間以上も基本的な
レンズ構成に大きな変更が無かった事が上げられる。

すなわち、旧来のままでも十分な描写性能が得られていたので
光学系の変更の必要が無かったのであろう。
_c0032138_07104513.jpg
本レンズ Ai50/1.8は、本ブログでは久しぶりの登場となる、
・・と言うのも、これまで「ハイコスパ」系のシリーズ記事が
続いていたのであるが、本レンズの購入価格は14,000円と
若干高目であった為、コスパの観点からは評価が低くなって
しまっていたのだ。

価格が高いのは、定価がとても高い、という訳ではなく、
本レンズを入手したタイミングが悪く、1990年代の第一次
中古カメラブームの時代だったからであり、その時期では、
ニコンレンズの中古相場は若干高目であったのだ。

後年に入手したAF版のAiAF50mm/f1.8は(値切ったとは言え)
僅かに5,000円の入手価格であったので、ハイコスパ系の記事で
紹介、あるいはランキングにもノミネートされていたのだが、
紹介するのは、どうしてもAF版レンズとなってしまう。
中身は殆ど同じなのだから重複して紹介する必要も無いからだ。

Ai版にしてもAiAF版にしても、どちらも使っても写りには問題も
不満も無いであろう、ニコンユーザーであれば、どこかの時代の
小口径標準レンズは、是非抑えておくべきであると思う。

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さて、次のレンズ。
_c0032138_07110574.jpg
レンズ名:YASHICA ML 50mm/f1.7
レンズ購入価格:6,000円(中古)
使用カメラ:CANON EOS 6D (フルサイズ機)

ミラーレス・マニアックス第57回記事で紹介の、
1970年代後半~1980年代のMF小口径標準レンズ。
_c0032138_07110643.jpg
ヤシカのブランドが、京セラよりCONTAXレンズと併売されて
いた時代のレンズで、マウントはCONTAXと共通のY/C(RTS)
であり、京セラ時代のCONTAX MF一眼レフにも装着可能である。

現代においては、Y/C(ヤシカ・コンタックス)用のマウント
アダプター利用で、EOS等の一部の一眼レフ、および殆どの
ミラーレス機で使える。

さて、同じY/Cマウントには、同じスペックの50mm/f1.7で
CONTAX版のPlanar(プラナー)50mm/f1.7が存在する。

この時代の大多数の小口径標準レンズが5群6枚の変形ガウス型
構成である中、Planar 50/1.7は例外的に6群7枚だ。

この”レンズが1枚多い”という事実を持って、
「ヤシカ版よりもCONTAX版の方が写りが良い」と主張する
初級マニア等も居るのだが、事はそう単純では無いと思う。

P50/1.7は、生憎所有していないので描写力の詳細な差異に
ついての言及は避けるが、6群7枚構成と言うと、多くの
50mm/f1.4級の大口径標準レンズも、その構成であるが、
前記事AF50mm/f1.4編でも書いたように、6群7枚だから良い
と言う訳でもなく、むしろ個人的な好みとしては、5群6枚の
小口径標準の描写の方が好きな位だ。

で、各社F1.4級標準の最短撮影距離は、各社45cmで横並び
である。50mm/f1.4級は銀塩MF一眼とセットで販売された
「顔」のレンズであるので、ここに性能差があると、その
メーカーの一眼レフの評判や売り上げが落ちてしまうからだ。

しかし、小口径標準は廉価版として併売された為、各社で
最短撮影距離や開放F値の性能は、若干まちまちである。
本ML50/1.7の最短撮影距離は50cmと、F1.4級の45cmと
大差無いのだが、Planar 50/1.7は最短60cmと長めだ。


この事は、恐らくCONTAXブランドでの主力標準のP50/1.4
との差別化スペックであろうと思われる。


すなわち、P50/1.4の方が15cmも寄れるので、被写界深度が
浅くとれる為、初級ユーザー層等に対する営業的(商品価値的)
な説明が容易になるのだ。その具体的な説明例としては、

営業「F1.4版の方がF1.7版より背景が良くボケます、だから
   F1.4版は値段が高いのですよ・・」となる。

このセールス・トークは勿論、単純なトリックだ。
でも初級層を納得させるには十分な差別化要因であろう。

その仕掛けの意味がわかってしまえば、あまり好ましいトーク
とは思えない。何と言うか、子供だまし的にユーザー知識を下に
見ている雰囲気だし、そもそも、単純にボケ量が大きい方が
良いレンズだ、という図式も全く成り立たないからだ。

それと、別シリーズ記事の「銀塩一眼レフ・クラッシックス
第5回記事、CONTAX RTS(1975)」のところでも説明したが、
このRTSの時代から、絞りを開けて撮る撮影技法が一般層に
広まってきた。だから、RTSのキットレンズでありCONTAXの
主力(看板)レンズでもあるP50/1.4は、その立場相応に
「良いものだ」という神話を作り上げる必要が、メーカー側の
販売戦略として重要であったと思うので、こういう(差別化の)
措置も、やむを得ないようにも思われる。

そしてYASHICAの場合は、同じ京セラ製とは言えCONTAXレンズ
ほどシビアなブランドイメージ戦略を取らなかったのであろうか、
最短撮影距離ダウンの性能制限は最小限に留まっている。

まあ、CONTAXやYASHICAの例のみならず、この時代(1970年代)
には、大口径標準と小口径標準の並列ラインナップにおいて
よく、こうした些細な仕様差別化が行われていた訳だ。

しかし、マニア心理としては、そういう差別化のトリックに
騙されるのはしゃくなので(笑)上級マニアになればなるほど、
むしろ「ヤシカ」のレンズに興味を示すようになって来る。

上級マニア的に言えば、
マ「だって、同じ富岡光学製でしょう? だったら、品質や
  描写力は、ヤシカ銘もコンタックス銘も同等だよ。
  それならば安い方が良いし、しかもヤシカの小口径版
  (=本レンズの事)ならば、最短撮影距離もプラナーより
  短くて良いよ」
という論理になってしまう訳だ。

事実、この視点でヤシカレンズを志向した上級マニアは多い。
_c0032138_07110680.jpg
まあともかく、何度も書くが、各社小口径標準は、どれも
同じようなものだ、どれを買っても問題無い。
ユーザーの好き好き、あるいは使用マウント環境において
どれでも好きなものを買えば良いだけだ。

しかし、銀塩時代であればそういう話なのだが、現代で
ミラーレス機で(一部のデジタル一眼レフでも)マウント
アダプターを介して使うならば、どのマウントのレンズでも
装着が出来る、であれば、あまり沢山のメーカーの小口径
標準を持っていても意味が無く、本当に個人の好き好きで
選べば良いだけの話である。

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さて、次のレンズ。
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レンズ名:OLYMPUS OM-SYSYTEM ZUIKO 50mm/f1.8

ミラーレス・マニアックス第26回記事で紹介の
1970~1980年代のレンズで、これも良く写るレンズだ。
しかし、当該前出記事でも説明した通り、カビの発生が酷く
なってきていて、フレア等が多発する為、実写に適さない。

やむなく、本OM50/1.8は「故障欠場」とし、補欠出場として
代替レンズを紹介しよう。
_c0032138_07112781.jpg
レンズ名:KONICA HEXANON AR50mm/f1.7
レンズ購入価格:4,000円~5,000円(?)(中古)
使用カメラ:OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)

ミラーレス・マニアックス第48回記事および
ハイコスパレンズ・マニアックス第3回記事で紹介の
1970年代頃のMF小口径標準レンズ。

正確な購入価格が不明なのは、何かのボディとのセットで
購入した為だ。
_c0032138_07112750.jpg
「補欠出場」とは言え、あなどりがたい実力を持つレンズだ。
なお、本シリーズでは私が所有している全ての(標準)レンズ
を紹介している訳ではなく、適宜選別している。

中には、上記のOM50/1.8のような半故障品であるとか、
あるいは、設計や製造の品質の問題か?少々悪い写りで、
紹介には値しない標準レンズも中にはあるからだ・・
まあだから逆に、紹介するレンズは、ほぼ全て描写力的には
問題の無いものばかりである。

さて、コニカAR系マウントは、ミラーレス機用にマウント
アダプターが発売されている場合が多いが、あまり一般的な
マウントでは無い事は確かだ。
フランジバックが短いので、AF/デジタル一眼ではアダプター
を使って装着すると近接撮影専用になる等、苦しい制限事項が
出てくるので、まあ、ミラーレス機で使うのが賢明だ。

本レンズについても、描写力は殆ど問題にならない。
何度も書いてきた話だが、実のところ多くの50mm/f1.8級
レンズは、AF・MF問わず、そのレンズ構成は5群6枚の
変形ダブルガウス型であり、描写力は似たようなものだ。
(上記CONTAX P50/1.7のような例外はある)

まあ、同じ5群6枚構成でも、微妙に構成レンズのパワー配置
(=屈折の度合い)を変えて設計している場合もあるだろうし、
それから、ガラス材質(屈折率等)やコーティングの性能差も
あるので、全ての小口径標準(50mm/f1.8級)が、全く同じ
写りであると言う訳では無いのだが、だが、それでも差異は
微妙であり、撮影条件を整えて(極端な逆光を避ける等)
撮れば、ほとんど写りは見分けがつくような状態でもない
から、極論を言ってしまえば「どの小口径標準を買っても
写りは一緒」と考えても差し支え無いであろう。

その「写りは一緒」という点であるが、これは「悪い」と言う
意味ではなく、小口径標準の写りは一級品なのだ。


で、あるユーザーが、自身の保有するカメラのマウントに
合わせて、そのメーカー製の小口径標準レンズを買ったとする。
その際、いずれのメーカーのケースでも、そのユーザーが満足
できる描写性能が得られるという事になる。

例えば、ニコンのAi50/1.8の写りを見て、ニコン党の
初級中級者は「やはりニコンのレンズは写りが良い」と思う
事であろう。

ところがこれは、オリンパス党、キヤノン党、ペンタックス党
その他、どのメーカーの「信者」であっても、いずれも同様に
これらの小口径標準の写りは良く感じてしまうのだ。

したがって、古くはPENTAX SMCT55/1.8が「銀のタクマー」と
呼ばれて、ペンタックス党ユーザーや初級マニア層に神格化され
たり、同様にCANON EF50mm/f1.8Ⅱ(1990年~2000年代)
が、キヤノン(EOS)党の初級中級者に絶賛されたのも、いずれも
まあ、その通りなので、納得行く話なのだ。
_c0032138_07112857.jpg
本レンズAR50/1.7も同様だ。
往年の(1950年代・レンジ機用)「コニカ・ヘキサノン」は、
当時の市場では他社に比べて描写力的アドバンテージがあった
と聞く、だから、そのクラッシックな「ヘキサノン」の
ブランドイメージを知っているベテラン・マニア等であれば、
本レンズAR50/1.7の写りを見て
マ「さすがヘキサンノン、良く写るな!」
という評価を下すかも知れない。

だけど、何度も書くように、実際のところは、どのメーカーの
小口径標準を買ったとしても、写りはほぼ同等の高性能である。
それを利用者自身が信奉する(又は、ファンである)ブランド
(メーカー)の物だけでは無かった事実には、殆ど誰も気が
ついてはいなかったのだ。

まあ、その事に皆が気がつかないのはしかたない、いったい
誰が好き好んで、大多数のメーカーの小口径標準を沢山買い
揃えるだろうか? 
そういう事をするのは、よほどの「標準レンズマニア」だけだ。

まあ、初級マニアであれば、多くても2~3本までであろう、
この範囲であれば、「全て同じ」という事実には、まだ気が
つかない、「ニコンも良いが、ミノルタも良く写るなあ・・」
とか、せいぜいそんな感想だ。

すなわち、概ね1970年代~2000年代位までの期間であれば、
どの時代でも、MFでもAFでも同じだ、つまりそれらはどれも
「だいたい同じ設計」であったからだ。
ただ、2010年代からは、前述のNIKONのG型のように、まったく
の新設計の小口径標準レンズも各社から出始めている。

この理由は恐らくだが、まず従来、小口径標準は安価な製品で
あったので、メーカーとしては、これに付加価値をつけたい事、
つまり超音波モーターやらを内蔵し、値段(利益)を上げたい
からだ。2010年代はスマホやミラーレス機の台頭があって、
一眼レフ市場は縮退している為、販売数が少なくても、それを
カバーできる(利益の取れる)商品展開をしていかなくては、
メーカーとしてもカメラ事業を維持できないのであろう。

が、そういう「メーカーの都合」ばかりがリニューアルの理由
でも無いであろう。恐らくだが2000年代からコンピューターを
使った光学系自動設計技術が発達してきたのだと思われる。
そうであれば、これまで判で押したような、「小口径標準は
5群6枚、最短撮影距離45cm」というスペックから脱却でき、
旧来のスタンダードな設計と、同等またはそれ以上の描写力、
あるいは解像度を高めたり、最短撮影距離を短縮するような
高性能を与える設計が可能になって来たのだと思われる。

勿論、レンズの材料代や部品代、組立て費用等のコストには、
旧来のものも新型も大きな差異は無い、まあ、あるとすれば
超音波モーター代くらいの差だろうが、だからと言って、
定価が2倍にも3倍にも高価になるはずも無い。
が、開発にかかった経費は勿論、償却しなければならない、
この費用が定価に乗ってくる割合はかなり大きいと思うが、
それでも旧来の製品を安価な定価で売るよりも、多くの利益は
出るようになっている事だろう、さも無いと、交換レンズの
販売数の減少をカバーできないという理屈だからだ。

この事をどう考えるかは、あくまでユーザー次第だ。
「高価なレンズは良いものだ」と信じきっているならば、
まあ、それはそれでやむを得ない、そこには「所有満足度」
という要素もあり、その心理は否定できないからだ。

それとは逆に「同じ性能であれば、1円でも安い方が嬉しい」
と考えるのであれば・・
まあ、このシリーズや、過去のハイコスパ系の記事を読んで
貰ったらわかるが、MFの小口径標準なら、ジャンク等では
およそ1000円程度から入手が可能なものも多々ある訳だ。
「コスパ派」には、その事実は朗報だと思う、わずか1000円
のレンズで、その何十倍もする高価なレンズと同等な描写力
を得る事が出来るのだから・・

余談が極めて長くなった(汗) AR50/1.7独自の話が
ちっとも出て来ないが、まあ、他記事でも何度か紹介して
いるので、重複説明はあえて避ける事としよう。

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さて、次のレンズ。
_c0032138_07114996.jpg
レンズ名:RICOH RIKENON(リケノン) XR 50mm/f2.0
レンズ購入価格: 6,000円相当(中古)
使用カメラ:SONY NEX-7(APS-C機)

ハイコスパ第3回記事で紹介の、1978~1990年代のMF
小口径標準レンズ。前期型と後期型があるが、鏡筒の
サイズが異なるだけで光学系は同一だと思われる。
_c0032138_07114956.jpg
本レンズは、1990年代に、中級マニア層等から
「和製ズミクロン」と呼ばれて人気があったレンズだ。
ただここもまた、他の小口径標準が良く写る事と同様の話だ。

本XR50/2の場合、最短撮影距離が60cmと長く、開放F値もやや
暗いので、近接でボケを活かした撮影技法の実施が難しい。
だから、少し絞って中遠距離被写体に特化する撮り方になるが
こうした状態では、小口径標準ではMTFが向上、つまり解像力
が高くなるので、高い描写力があるように見えてしまう。

このレンズは個人的には、ボケ質があまり好きでは無いので、
その点からも、いずれにしても中遠距離被写体専用になって
しまう。これでは、ますます現代的な撮影技法に適さないので、
あまり面白味が有るとは思い難いレンズだ。
_c0032138_07114929.jpg
情報だが、RICOH XRマウントは、PENTAX Kマウントと、ほぼ
互換性があるので銀塩一眼レフであれば殆どのPENTAX Kマウント
機で使用可能だ。だが現代のPENTAX製デジタル一眼レフでは
KAタイプ以前の絞り自動位置(A位置)が無いレンズは
かなり使い難い(または使えない) XRレンズもA位置が無い
ので無理にPENTAX機(一眼レフ)で使わず、PKマウント・
アダプターを用いてミラーレス機で使うのが簡便だ。

1990年代の第一次中古カメラブーム時は、中級マニア層による
「神格化」により、本レンズの中古流通量は極めて少なかった
のであるが、2000年代以降では流通が復活。現代では、やや
少ないが全く見ないという訳では無い。しかし、従前の時代の
「神格化」により中古相場は1万円弱とやや高目の場合もある。
その価格で入手するならコスパが悪い、代わりに他社の
小口径標準の安いものを買えば、それで済む話だからだ・・

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さて、次のレンズ。
_c0032138_07121030.jpg
レンズ名: CANON (New) FD50mm/f1.8
レンズ購入価格:2,000円(中古)
使用カメラ:FUJIFILM X-T1(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第74回記事で紹介の
1980年頃に発売のMF小口径標準レンズ。

キヤノンFD系マウントなので、ほとんどのミラーレス機で
利用可能だが、デジタル一眼レフには装着困難だ。
_c0032138_07121081.jpg
さて、このレンズも最短撮影距離が60cmと、制限された
スペックの類だ。これは同じキヤノンの大口径標準F1.4級
(最短45cm)との仕様的差別化だと思うが、ユーザーから
見れば、こうした性能の出し惜しみは、あまり好ましい印象
を持てない。

で、描写傾向や撮影技法的には、上記XR50/2とほぼ同等だ、
無理に近接撮影に持ち込むと、若干のボケ質破綻が出る
場合がある。まあ勿論、本FD50/1.8も他の小口径標準と同じく
基本的には良く写るのは確かなのだが、最短60cm型標準は、
個人的には、あまり好みでは無いので、詳細説明は最小限に
しておこう。

なお、キヤノンFD系レンズには実に多種類の標準レンズが
存在する。まあどれを買っても性能や描写力に大差がある
訳では無いので、一般的には、どれでもお好みのが1本あれば
十分であろう。
_c0032138_07121026.jpg
FD系レンズは、2000年代にはデジタル一眼レフには装着
困難であった為に、そこで中古相場が大きく下落している。
2010年代以降、ミラーレス機によるマウントアダプターで
FD系レンズは自由に使えるようになったのだが、中古相場は
下がったままだ、だから逆に言えば、コスパの良いマウント
であるとも言える。

そして勿論、値段の高い(FD系)レンズの方が必ず良く写る、
という訳では全く無いので念の為。
そのあたりは、例えば同じ焦点距離のFD系レンズにおいて
高価な物(例えば、大口径、Lレンズ系、SSC系、レア物系)
と安価な物を、自身で両方買ってみて撮り比べてみれば容易に
実感できる筈だ。下手をすると、安い物の方が良く写る場合
すらあって、「レンズの価格(価値)って何だろう?」と
考えさせられてしまう場合もある。

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では、今回ラストのレンズ。
_c0032138_07123048.jpg
レンズ名:MINOTA MC ROKKOR PF 50mm/f1.7
レンズ購入価格:2,000円(中古)
使用カメラ:SONY α7 (フルサイズ機)

ミラーレス・マニアックス名玉編第2回(11位相当)および
ハイ・コスパレンズBEST40 第12回(3位)で紹介の、
1970年代のMF小口径標準レンズ。

上記ランキング記事で、いずれも上位に入賞した、コスパ
の極めて良い銘玉だ。
_c0032138_07123105.jpg
ミノルタMC/MD系マウントであるので、ほとんどのミラーレス
機では利用可能だが、デジタル一眼レフには装着しずらい。

PF銘であるから、P=ペンタ=5群、F=アルファベット6番目の
文字=6枚。すなわち、これまた5群6枚構成という事である。

で、この構成の小口径標準はいずれも良く写るが、本レンズは
なんだか描写傾向が他のレンズとは微妙に違うような気もする。
だから、MF小口径標準の中で、どれか1本を取り上げる場合
たいていその代表は、本MC50/1.7となる。(次点がPENTAX
SMCT55/1.8という感じになるだろうか?)

他との写りの差は微々たるものだ、しかしコスパの採点が
絡んでくると、本レンズは2010年前後の「大放出時代」に
2000円で購入したものであるから、1万円以上も出して買った
他社の小口径標準と比べて、写りが同等であれば、本レンズの
方がコスパ点が良いので、総合評価点が上がる訳だ。
_c0032138_07123172.jpg
本レンズMC50/1.7は中古流通量が比較的多い。相場もさほど
高く無いし、ジャンクとして売られている場合も良く見かける、
2000円程度までならば、試しに買ってみても決して損は無い、
ハイコスパ名玉編で、何百本のレンズの中から、コスパ面で
総合3位となった実力は、決して侮れない事実だ。
本レンズの出自や詳細は、何度もレンズ系の記事に登場して
いるので、重複説明は避ける事にしよう。
まあ、本MC50/1.7は、マニア必携レンズであると言える。

---
さて、ここまでで「最強50mmレンズ選手権」における
予選Dブロック「MF50mm/f1.8」の記事は終了だ。

今回の記事は普段のレンズ4本ではなく、故障欠場を含めて
7本もの小口径標準を紹介した、で、実は、まだこれ以外
にも何本ものMF小口径標準レンズが手元にはある。
(注:焦点距離が50mmでは無い小口径標準レンズは
 別の予選ブロックで対戦予定)

で、それらの一部は設計品質等の根源的な理由、またはカビや
劣化等による後天的な理由で描写力が落ちるものもあって、
紹介を控えた。けど、そういう点を抜きにすれば、どの小口径
標準も、どれも同様な設計で、どれも非常に良く写るのだ。


それに気がつくまで、10数本もの小口径標準レンズを買って
しまったのは(汗)ある意味、無駄な話ではあるが、ただ
そこから得られる経験則は大きい・・ 
つまり「メーカーなんて、どれを選んでもほぼ一緒」という
点である。まあ現代の各社のデジタルカメラは製造技術の進歩、
使用部品の共通化や、市場競争の激化により、品質差はさらに
殆ど無いに等しいが、今回記事の時代(1970年代~1980年代)
でも、結局、小口径標準レンズに関してはメーカー間の性能差
が無い状態であった事が実感できる。

自身が使っているメーカー(ブランド)のものは一番良い、と
信じ込んでいる初級者層には是非知って貰いたい事実である。

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さて、次回の記事は、予選Eブロック「MF50mm/f1.4 Part 2」
となる予定だ。


レンズ・マニアックス(23)補足編~高マニアック・高描写力レンズ特集(後編)

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「レンズ・マニアックス」シリーズの補足編として、
「マニアック度が高く、かつ高い描写表現力を持つ」
12本のレンズを紹介する3部作記事の後編。

今回は残りの描写表現力5点満点のレンズを4本紹介する。
今回紹介レンズ群もまた、「マニアック度」が高過ぎるので、
上級マニア御用達であり、一般層には推奨しない。

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まずは最初のレンズ
_c0032138_22190306.jpg
レンズは、COSINA Carl Zeiss Milvus 50mm/f1.4 ZF2
(中古購入価格 85,000円)(以下、Milvus50/1.4)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

2016年に発売の高解像力仕様MF大口径標準レンズ。
フルサイズ対応であり、ZF2仕様はCPU内蔵であるから
全てのNIKON機において、レンズ情報手動設定の必要が
無い他、絞り環のあるレンズながらも勿論ボディ側
からの電子ダイヤルでの絞り操作も受け付ける。
(注:NIKONの低価格帯一眼レフでは、MF性能が壊滅的に
NGであり、MFの本レンズを実用的に使用するのは無理だ)

また、この仕様では当然ながら、マウントアダプターを
介して、あらゆるミラーレス機(等)で利用可能だ。
_c0032138_22190341.jpg
本レンズの最大の特徴だが、標準レンズとしては個性的
かつ先進的な「レンズ構成」である。

カール・ツァイス(正確には、ヤシカ/京セラCONTAX)
では、旧来の銀塩時代より一眼レフ用の広角レンズに
「ディスタゴン」(Distagon)の名称を与える事が
通例であったが、本Milvus50/1.4は、標準レンズで
ありながらも、「ディスタゴン」を発展させたレンズ
構成になっている。

ディスタゴンとは、距離(=ディスタンス)に、レンズ
を表す接尾語の「ゴン(オン)」をつけた造語だ。

「何が”距離”なのか?」と言う点だが、一眼レフでは
ミラーボックスが存在し、その奥行きが数十mm程度も
ある為、レンズマウントの位置を、その分だけ前に
離さなければならない(=これがフランジバック長、
その長さは、各メーカー(マウント)毎で異なるが、
だいたい45mm前後が多い)

そして、この状態では、例えば、広角レンズで28mm
という焦点距離を設計したい場合、普通であればレンズの
中心部(主点)から、だいたい28mm前後の距離に光路が
焦点を結ぶのだが、そうした設計で広角レンズを作ると、
それをミラーボックスのあたりに配置しなければならない。
それでは当然、ミラーが当たって一眼レフは動作しない。

そこで、ミラーボックスの距離(≒フランジバック長)
の分、光路の焦点を延ばす仕組みの設計が必要となる。
単純に言えば、凹レンズ等を追加して光路(バックフォーカス)
を延ばす訳だ。こうした構成の(広角)レンズを「逆望遠型」
または「レトロ・フォーカス型」と呼ぶ。

なお、ここでの「レトロ」とは、「懐古主義」ではなく
「遅れた」という意味(つまり「距離を伸ばす」)である。
さらに言えば「逆望遠型」の「望遠」とは、「焦点距離が
長い」という意味ではなく「焦点距離に比べてレンズ全長
(又は、”バックフォーカス”という定義もある)が短い」
という意味が本来である。だから「逆望遠」型とは、
「レンズ焦点距離よりも全長(orバックフォーカス)の
 長いレンズ」という定義だ。

(注:これは光学分野での用語だが、この技術分野は古く
からあり、かつ一般層にも十分に様々な商品が普及していて、
用語定義がきちんと定まらず、かなり混迷してしまっている。
この事も、ちゃんと光学技術を学ぼうとする際に弊害となる。
上記で挙げた「望遠」の定義も、物凄く曖昧な状態だ。)

で、カール・ツァイス社では、レトロフォーカス型構成の
(広角)レンズに、”距離がある、距離を伸ばす”という
意味から、ディスタンス+ゴンの、「ディスタゴン」の
名称を与えた。(注:京セラ時代での話だと思うので、
そういう名前を「拝領した」という事なのかも知れない)

ただし、同じカール・ツァイスのレンズでも、レンジ
ファインダー機用のレンズでは、ミラーボックスを
持たず、フランジバック長も短い為に、広角レンズで
あっても、このような「ディスタゴン」(=レトロ
フォーカス)構成を持たせる必要がなく、対称型構成
などで設計を行う事ができた。
その代表的なものには「ビオゴン」の名称を与えており、
勿論これは、「ディスタゴン」の構成とは全く異なる
ものである。

(ビオゴンの「bi」は、「2つの」という意味であろう。
恐らくは、対称(風)の構成で、2つのレンズ群が向き
合っている事が語源であろうか・・?)

銀塩時代、特に、レンジ機と一眼レフの混在期の
1960年代~1970年代頃においては、この事実をもって
「レンジ機の広角の方が、一眼レフ用より良く写る、
 何故ならば、レンジ機の広角は対称型設計であり、
 その構成では、前後レンズ群の収差が打ち消し合って
 描写力が優れるからだ。一眼用のレトロフォーカス
 型では、こうはいかない」
という話が、専門的知識を持つ上級マニア層等の間で
広まっていた。(その話は、その後、数十年がすぎた
1990年代の中古カメラブームの際でも同様であった)

が、これは噂話や流言の類ではなく、技術的視点からは
正しい事だ。ただし「旧来技術で普通に設計をすれば」
という条件付きである。

その後の時代、レンズ設計技術は非常に進歩していて、
非球面レンズや異常低分散ガラスの使用等で、そうした
従来技術的手法での優位性等の差異はもう無くなっている。

以下余談だが、1996年に京セラCONTAXから、銀塩AF
レンジ機の新型機「CONTAX G2」と、その交換レンズ群
である「ビオゴン」(21mm)等が新発売された。
私は、その展示説明会に行き、ビオゴン21mm/F2.8
レンズを手にして見ていた。

すると、説明員の営業マンが近寄ってきて・・
営「いかがですか? 新設計のビオゴンですよ、
  対称型設計なので、とても良く写ります」
匠「ほほう・・ すると、(一眼レフ用の)レトロ
  フォーカス型では無い、という事ですね?」
営「さすが、お客様、よくご存知ですね!
  その通りです、ディスタゴンより良く写ります」
という、やりとりがあった。

その営業マンは「このお客さんは、絶対にCONTAX G2と
ビオゴン21mm広角を買ってくれるな、しめしめ」と信じて、
営業レポートにも「好評価」と記載したのかも知れないが、
実は、このやりとりで、私はG2を買うのを保留したのだ。

それは何故か?と言えば、それまで、さんざんCONTAXは
一眼用のディスタゴンを高価な価格で売っていたでは
ないか、私も、そうしたディスタゴンを、それまでに
何本か高値で購入していた訳だ。

匠「これまでの自社製品を全否定してどうするんだ?」
という気持ちになり、一瞬で「ビオゴン」には興味が
無くなってしまったのだ・・

さらに言えば、その後「ディスタゴン」も殆ど購入
していない。つまり「なんだ、もっと技術的には
改良するべき余地があるのではないか! ツァイスと
言っても、常に最高の性能である訳でも無いのだな」
という感想(感覚)も明確に得られたからだ。

まあ、ずいぶんと「捻くれた客」とは言えるが(汗)
これは、もう時効の話であろう・・
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さて、本レンズMilvus 50/1.4を購入検討するにあたり
このレンズはコシナ製ではあるが、上記の約20年前の
京セラCONTAX説明員とのやりとりを思い出していた。

匠「あれから20年か・・ 当時のRTS用ディスタゴンも
  かなり複雑なレンズ構成ではあったが、基本的には
  オーソドックスな光学設計ではあっただろう。
  このMilvus50/1.4のディスタゴンは、8群10枚と
  複雑ではあるが、当時の設計とレンズ枚数は大差無い
  ようだ。しかし勿論、こちらは標準レンズであるので
  広角では無い。それに非球面レンズや、異常部分分散
  レンズも使ったコンピューター設計となっている。
  いったいどういう写りになるのか?非常に興味深い」

という考えかあって、本レンズ購入に至った次第である。

さて、手にしたMilvus50/1.4であるが、非常に重い(汗)
重さは900gもあって、既に所有していて、重量級だと
思っていた、SIGMA A50/1.4(815g)よりもさらに重い。
現在では、これ以上に重い標準レンズも数本存在するが、
それらの中でも、ワーストの重量ランキングには確実に
入る事であろう。
でもまあ、重たいのは購入前から覚悟していた事だ。

問題は描写力だ、いったいどんなものか?
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まあでも、ここから先は、既に本レンズについての
紹介記事「レンズ・マニアックス第17回」と同じ内容
になってしまうであろう。よって、細かいところは
もう割愛する、そちらの記事を参照していただいきい。
本記事では、特集シリーズ記事の一環として、従来での
紹介記事とは、また別の視点で記事を書いている次第だ。

基本的には、悪く無いレンズである。2点だけ注意点と
しては、まず逆光耐性があまり強くないので、できるだけ
フードを装着し、光線状況にも配慮する事だ。
それを守れば、気持ちの良い高コントラストの描写力が
得られる。

また、ディスタゴン構成のレンズは、「ピントの山が掴み
難い」という特性(短所)を持つ、と私は分析している。
本レンズも同様、MFでのピント操作は難しく、銀塩時代の
広角ディスタゴンとは異なる大口径標準なので、慎重に
ピント合わせを行う必要がある。

ニコンマウント版(ZF2)を買っておけば、ニコン一眼レフ
の他、あらゆるミラーレス機や、一部の多社一眼レフ
にもアダプターを解して装着できる。
でも、ミラーレス機の方が、各種MFアシスト機能の利用で
使い易くなるのは確かであろう。(前述のMFの課題回避)

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では、次のシステム
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レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 90mm/f3.5 SL
Close Focus(新品購入価格 47,000円)
(注:原語綴りでの変母音の記載は省略)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)

2000年代初頭に発売の、高描写力MF小口径中望遠レンズ。
後継バージョンがあるが、本レンズは初期型である。
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さて、こちらもマニアックなレンズである。
このレンズの発売前後、私は当時のフォクトレンダー製品の
高性能と高コスパにハマっていて、本レンズも発売直後に
新品購入し、とても機嫌良く使っていた。
(注:現代のフォクトレンダーレンズは、残念ながらコスパ
が良いとは思い難い。けどこれは、カメラ市場の縮退による
値上げ、という理由もあるから、ある程度やむを得ない)

しばらくすると、カメラの専門誌に、本レンズの描写力の
数値性能評価が載った。そこでの「数字」が示していた物
は、本レンズが「非の打ち所が無い完璧な性能」に近い
という事であり、数値評価者も、その点を褒めていた。

私は「ああ、やっぱりな」という感想を持った、
というのも、しばらく使っていて、本レンズの性能に
何も不満を感じていなかったからだ。
ただ、数値性能がイコール描写力という訳では無い、
収差や解像力等の「数字」だけでは、読み取れない様々な
性能がレンズには存在する、でもまあ、そういう点も含めて、
本レンズには個人的にも不満点が無かったのだ。

だが、私の他に本レンズを購入していたのは、一部の
上級マニア層だけであった、何故ならば、本レンズは
「カタログスペック」が弱いからである。
特に、開放F値3.5は、初級中級ユーザー層から見れば、
「暗くて性能が低いレンズ、廉価版、良く写る筈が無い」
という印象に直結し、誰も欲しいとは思わなかったのだ。

どうせ90mmを買うならば、90mm/F2.8のマクロレンズも
とても人気であったし、ちょっと焦点距離を変えて85mmに
すれば、85mm/F1.4の「憧れのポートレート用レンズ」も
色々と存在しているからだ。
これでは初級中級層や初級マニア層が、本レンズに興味
を持つ筈も無い。

だが、製造元のコシナとしても「最高傑作」という風に
本レンズを評価していたのだろう。後年には外観等を
リニューアルし、短期生産が多いコシナとしては珍しく
10年近くのロングセラー製品となっていたと思う。

しかし、いつの時代であっても、カタログスペックだけ
しか見ないユーザー層には、本レンズの価値はわからない
と思う。だから、所有者も多くないし、レビュー等も
当然少ない。仮に、専門的な雑誌やレビュー記事などで
あっても、対象の購買層が極めて少ないと思われる
製品には、手間をかけてレビューを行う事はしない。

レビューを書くならば、初級中級層が欲しがるような
大三元レンズ(開放F2.8ズーム群)等の記事を書く訳だ。
それであれば読者が喜ぶので、雑誌の売り上げが増えたり
WEBのアクセス数が増加したりする。メーカーや流通側と
しても利益率の高い商品を宣伝してもらえる方が助かる。


なにもわざわざ、誰も興味を持たないだろうアポランター
等のレビューを(手間やお金をかけて)する筈が無いでは
ないか。「こういうレンズが何月何日に発売されました」
と書いてあるだけの記事で終わりである。

ますますアポランターは知られず、売れず、世の中では、
有名または人気がある、あるいは「誰かが良いと言った」
レンズばかりが出回る・・という訳だ。
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まあ、こういう事は、ある意味当然の市場原理である。
でも、残念ながら世の中の大多数のユーザー層は、
そういう風に「作られた市場での評判」に振り回されて
しまっている訳だ。

別に、それでも誰も損はしないのだが、1つだけ課題が
存在する。もし、そうした生産数の少ない、あるいは既に
生産中止となっている名レンズ等に、発言力や影響力の
高い誰かが注目し、「これは良い」などと言ったら、
それだけで、他人の言う事に、ただ従う一般消費者層は
一斉にそれに注目し「そのレンズをどうしても欲しい!」
等と言い出す訳だ。この傾向は、昔の時代からあったが
SNS等が発達した現代ではなおさらだ、そこで拡散された
情報は、9割以上もの「何もわかっていない、単なる
受動的情報受信者」において「ネットで調べた事は真実だ」
という”誤まった認識”で瞬時に広まる。

で、そうなると「投機層」と呼ばれる人達が動く、
つまり、そうして急速に評判が高くなった製品等を
買占めしたりし、さらに好評価の噂話を広める等して
価格(相場)を吊り上げる。それでも買う人達が居る
から十分な差額利益が得られる訳だ。

投機層は個人とは限らず、流通業界や企業等で組織的
かつ大規模に行われる事もある、大量に行えば行う程
利益も大きくなるからである。が、これは単に悪事だ
とも言い切れず、正当な範囲内で行うのであれば、
「付加価値の高い商品を高値で売る」事はビジネスに
おける基本的な原理とも言える。
TVのCM等がその最たるものであろう、有名女優等が、
「私も使っています」と言えば、皆がそれを欲しがる。

(注:最近の新型ウィルス騒ぎで、マスク等を買占め
高額に売ろうとしたり、紙類が無くなる等のデマを
流し、品薄となった商品を高値で販売するなどは、
現時点では法的に取り締まる手段は無いと思うが
倫理的には明らかに「不当」であろう。
そして、カメラやレンズの売買においても似たような
形での「投機」を、そこまでのレベルで、やって
しまったら、もうそれは正当では無い事となる。

実際に、そういう事をやってきた業者等をいくつか
知っているが、それが分かったら、もう2度と、その
手の関連店舗等では商品を購入しない事としている。
そもそも生活必需品で無いカメラ等では、価値感覚が
分からずに高値でも買ってしまう側にも責任があり、
皆が無視すれば、売れない商品は必ず相場は下落する)

余談だが、「ウーロン茶」が日本で一般的になったのは
1970年代に、当時人気絶頂であった「ピンクレディー」が
「私達も飲んでいます」と言ったからだ、と聞く。

あるいは、「付加価値の創造」の話をするならば、
例えば戦国時代、配下の武将への恩賞としては「土地」
を与える事が通例であった。新たに支配した土地を
功労のあった武将に与え、モチベーションとする訳だ。

ただ、戦国末期、信長や秀吉等により天下が平定しつつ
あると、もう、そうした恩賞としての新たな「土地」が
無くなっていた。そこで信長や秀吉が行った施策と
しては、茶道等に用いる「茶器」を、土地に代わる
新たな「高付加価値」な品物として創り上げる事だ。
「この器には、日ノ本の国の半分の価値がある」
等と言う価値観を新たに作り、それを拝領した武将達は
「はは~っ」と、ありがたがって、それで満足する訳だ。

これも別に悪い事では無い、皆がそういう風に茶器に
価値を感じるのであれば、世の中はそれで上手く廻る。
でも、よくよく考えてみれば、茶器にそこまでの
(付加)価値があるのは、創り上げられた幻想なのだ。

現代におけるビジネスモデルも、どうやって、そういう
新たな価値観(付加価値)を創り上げるか?という点が
基本となっている。もう普通の「モノ」は世の中に溢れて
いて、誰も新しいモノを欲しいとは思わないからだ。

カメラやレンズでもそれは同等だ。だから、これまでも
「画素数の大きいカメラ」とか「フルサイズのカメラ」
とかが、付加価値が高いものだ、と世間一般(メーカー
や流通市場、雑誌等の情報市場等)において言い続け、
その事を、多くの一般消費者層が、そう信じるように
刷り込まれていった訳だ。

これも別に市場倫理(戦略)としては悪い事ではない。
でも、気づくと、新しく出るカメラやレンズなどは、
そうした付加価値で、とんでもなく高価となっている。
たとえば一眼レフ用新型50mm標準レンズが1本20万円、
新規フルサイズ・ミラーレス機が50万円。
でも、皆は「それらは、良いモノだから高価なのだ」と
信じて疑わない。

それは正しい状況なのだろうか? もしこのままユーザー
側の価値観がどんどんと、そういう方向に偏って行けば
それこそ戦国時代の茶器のように「これ1個で何百億円」
という価値観も受け入れるようになってしまうかも知れない。

まあ、余談がとても長くなったが、でもこれは重要な事だ。
消費者それぞれが確固たる価値感覚を持つ事が必要だが、
それを持っていない消費者層の存在により、ビジネスや
市場そのものが支えられている事もまた事実である。

難しい話ではあるが、そこは個人個人が各々に判断する
しか無いであろう。
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総括だが、この「アポランター90/3.5」は現在入手が
難しいセミレア品となっている。だが、もし現代において
これの再評価により、中古相場がプレミアム化(不条理
なまでの高騰)などの状況に陥った場合、その価値を
しっかりと購入側では把握(判断)しなければならない。


なお、本レンズに限らないが、近年の本ブログでは、
レンズ紹介記事には購入時の価格を必ず記載している。
これは、私の価値感覚において、レンズの本来の価値と
ほぼ同等である。何故ならば、「高すぎる」と思われる
レンズは殆ど購入しないからだ。

よって、これらの購入価格を参照し、現代において
これ以上の価格に高騰している場合は、それが本当に
許容できるかどうか?は、消費者側で検討・判断をする
必要があるだろうと思われる。

基本的には、本ブログで記載された価格以上では
買わない事が賢明だ、誰も買わなければ、中古相場等は
いずれ必ず下落する。

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では、3本目の高マニアックレンズ
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レンズは、SONY FE 100mm/f2.8 STF GM OSS
(SEL100F28GM)(中古購入価格 129,000円)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、SONY α6000(APS-C機)

2017年発売の、史上4本目のアポダイゼーションレンズ。
AFのアポダイゼーション搭載レンズとしては、2014年に
発売のFUJIFILM XF56/1.2R APD 以来の2本目だ。

こちらのレンズもマニアックであり、しかも高価だ。
一般的に推奨できるようなものでは勿論無い。
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このレンズが発売された翌年位に、イベント会場で
たまたま知り合った新人マニア氏(SONYと旧ミノルタの
α-Eおよびα-Aマウントの機体とレンズを、短期間で
集中的に多数購入し、恐らく、その金額は1年間ほどで
200万円にも及んでいる模様だった・汗)の方と、
本レンズの話題で盛り上がった。

だが、その新人マニア氏は、「高価なレンズは高性能で
良く写る」と信じ込んでいたので、「それは、そうとも
限りません」と私は言い、「高価な製品は、多額の開発費を
少ない販売台数で割って上乗せするから、高くなるのです」
とも補足しておいた。「なるほど」と納得していた模様だが
それまで数百万円を投資していたのならば、もはやその
助言も手遅れであったかも知れない(汗)

また、その新人マニア氏は、より高価で、よりレアな
レンズをも欲しい、と言ったので、「そのレンズは
持っていますが、単にレアものなのでプレミアム価格に
なっているだけで、実際の写りはたいしたことありません」
と、釘を刺しておいた。

まあ、いくらお金を使っているとは言え、初級マニアだ、
「値段の高いものは、高性能な良く写るレンズだ」と
思い込んでしまうのも、やむを得ないであろう。

彼が、もう少し段階が進んで、安価でも良く写るレンズを
沢山入手して、加えてその頃には性能や描写力の絶対的な
評価が出来るようになれば、高額製品が本当にその価格に
見合う価値があるかどうかは、判断できるようになる。

しかしながら、高価なレンズを買った事で、それを所有
満足感に繋げてしまうと、安価なレンズを「安かろう
悪かろう」と、最初から馬鹿にして買わなくなるので、
なかなか中級マニアのステップに進む事も難しい訳だ。
_c0032138_22193258.jpg
さて、本FE100/2.8STFだが、高価なレンズだけど
性能はどうか? この比率を示す「コスパ」の評価点だが
私のデータベースには1.5点(5点満点)が書き込まれている。
まあつまり「相当にコスパが悪い」という事だ(汗)

では何故、そうしたレンズを購入しているのか?
それはもう、本レンズが世の中に4機種しか存在しない
希少なアポダイゼーションレンズであるからだ。

だが、ここもそう単純に考えてしまうのも危険思想だ。
前述の、戦国時代の「価値の高い茶器」と同じで、
「希少なものであれば、高価で当然」という考え方では
本レンズがいくら高くでも許せる事になってしまう。
まあそうでは無いだろう、だからコスパをしっかりと
意識しなければならない。
で、コスパ評価点は前述の通り低評価である(汗)
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・・とは言うものの写りは悪く無い、なにせ描写表現力
の評価は5点満点である。

まあ、「アポダイゼーションに付加価値を見出す事が
できる」という、一部の特定層向けのレンズである。
マニア層も含め、一般的にはまったく推奨は出来ない。

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では、今回ラストのレンズ、
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レンズは、Voigtlander NOKTON 25mm/f0.95(初期型)
(新品購入価格 84,000円)(以下、NOKTON25)
描写・表現力=★★★★★
マニアック度=★★★★★
カメラは、PANASONIC DMC-G1 (μ4/3機)

2011年発売のμ4/3機専用超大口径MF標準画角レンズ。
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これもまた同じ話だ、「F0.95というスペックならば
F2.8や、F1.4のレンズに比べて、どんなに高性能
なのだろう?」と考える初級中級層は多いと思う。

けど、もし意を決して、高額なこのレンズを購入したら
きっと驚く事になる。
「なんじゃこりゃ~、ボケボケの酷い写りではないか!」
という感想になると思う。

確かにこのレンズの開放近くの「描写力」は、決して
褒められたものでは無い。超大口径化で設計に相当に
無理をしているのか、球面収差を始めとする諸収差の
オンパレードであり、「ボケボケの甘い写り」と
思われてしまっても不思議では無い。描写力だけを
見れば、3点、あるいはそれ以下の評価点しか与え
られず、これは2つ前の記事での「NOKTON 42.5mm/
F0.95」と、ほぼ同様の評価傾向となるだろう。

だが、当該記事でも書いたが、このレンズには開放
F0.95の超大口径と、異常とも言える近接性能
(最短撮影距離=17cm)があるのだ。

これによる、極薄の被写界深度と、多大なボケ量、
そして球面収差等による軟焦点感は、上手く利用すれば、
他のレンズでは、まず味わえない独特の「表現力」を
得る事ができる。だから、私のデータベースでは
「描写力」ではなく「描写・表現力」の評価項目なので、
本レンズが5点満点を獲得できる所以となっているのだ。

しかし、であれば、このレンズを上手く使いこなす事が
出来なければ、その恩恵に預かる事は難しい筈だ。
つまりユーザー側に要求するレベルが高い、という事と
なり、それ故に「マニアック度」の評価が満点なのだ。
_c0032138_22195744.jpg
すなわち、「マニアック度」とは世間一般的に想像する
ように、「金満家の人が、他の誰もが買わないような
高価で珍しいモノを平気で買ってしまう」という行為を
示すような得点では決して無い。

これの真の意味は「モノの価値を理解する、また、
そのモノの価値を高めようと自分なりに努力する」
という事を表している。

だから、本ブログにおけるマニアック度の高い製品
(カメラやレンズ)は、高価なものばかりではなく、
比較的安価なものも含まれている。
でも、使いこなしがとても難しく、その製品の真の実力
(性能)を発揮し難いものが殆どだ。

だから、使いこなしのスキル(技能や経験、知識等)が
低い初級ユーザー層においては、「マニアック度」が
高い事が災いして、「酷いレンズ(カメラ)だ、ちっとも
上手く撮れないではないか、マニア向けと言うのは
ウソか?」と思われてしまっても不思議では無い。

つまり、本ブログでのマニア向けというのは、本当に
ちゃんと使うのが困難であるものばかりだ、
でも、たとえその製品がそう(高価、困難)であっても、
「せっかく買ったのだから」と、製品の弱点に文句も
言わず、なんとか価値を高めようとして努力するならば、
向上心や知的探究心を持っている事になり、もうそれは
「真のマニア」であろう。

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本シリーズ補足編「高マニアック3部作」(前編、中編、
後編)で登場しているレンズ群は、勿論その名の通り
高マニアック度であり、つまりそういうマニアックな類の
ユーザー層にしか受け入れる事ができないレンズばかり
となっている。

ビギナー層が安易に手を出してしまったら、まるっきり
使いこなせず、投資した金額が完全に無駄になるリスクが
大きいので、それ故に「上級マニア御用達」と言っている
訳である。

まあでも、その事を理解した上で、とても難しくて
クセのあるレンズを購入し、それで練習や勉強や研究を
しようと言うならば、それは止めはしない。
それはむしろ、必ず役に立つ事だからだ。

結局のところ、どう考えるかは個々の消費者次第であり、
まあそれ故に「機材の評価など、使う人次第である」
ともいつも言っているし、さらに言えば「他人の評価は
全くあてにならない」とも、いつも書いている訳だ。

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さて、今回の補足編シリーズはこのあたりまでで・・
次回記事からは再度、通常の「レンズ・マニアックス」
記事のコンセプトに戻ってシリーズを続ける。

銀塩一眼レフ・クラッシックス(31)総集編

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所有している銀塩一眼レフカメラを紹介するシリーズ記事。
今回は最終回として、これまで本シリーズで紹介してきた
銀塩一眼レフ(一部は銀塩レンジ機)の計30台を、
項目別のランキング形式で紹介しよう。
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なお、「たかが30台でランキングとは?!」と否定的に思う
上級マニアも居るかも知れないが、私は実際は、もっと
遥かに多数の銀塩機を所有し、実際に使っていた。
だが、それらの大半をデジタル時代に入って「もう使わない」
と言う理由で処分してしまっていたのであって、ここに
残したカメラは全てマニアック度や歴史的価値の高い機体
ばかりだ。つまり、この30台は、各々の時代の一眼レフの
歴史を代表するものばかりであり、かつ、実際に長期に
渡って使って来たものであるから、その長所も短所も良く
わかっている。そして、処分された他の多数のカメラは、
元々ランキングには入って来る筈も無いものだ。

加えて、同一メーカーのカメラばかりという訳でも無い、
と言う点も重要だ。贔屓の同メーカー製機体ばかりでは
どうしても他社機との差異がわからなくなってしまう。
なので、このランキングの精度は高いと言えると思う。
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ランキングを決める項目だが、10項目とする。
以下は本シリーズ第1回記事からのものだが、再掲する。

【基本・付加性能】は、最高シャッター速度、システム拡張
性等の汎用性。そして後の時代のAFカメラでは連写性能や
AF測点数等の性能や機能全般も含まれる。
なお、若干だが、発売時の技術水準を考慮しているので、
後年のカメラの方が常に高得点であるという訳でも無い。

【操作性・操作系】は、ボタン・ダイヤル類の種類や配置や
その操作のしやすさなどの「操作性」を評価するが、後年の
機種ではメニュー操作や必要な設定操作での有機的な連携等、
「操作系」と呼ばれる、UI・UX設計全般の良否を示す。

【ファインダー】は、MF機においては、実用的にピント合わせ
が可能かどうか?そしてファインダーやスクリーンが交換可能
かどうか。また、後年の機種も含め、ファインダー内部での
各種撮影情報の表示機能等を示す。

【感触性能全般】は、巻き上げ感触、シャッター音、
シャッターのレリーズ感、フィルム巻き戻し感触など、
カメラを感覚的に気持ちよく使えるかどうかを示す。
なお、ファインダー性能は、上の項目で別途評価する。

【質感・高級感】は、カメラ全般の作り(外装、接合部)の
仕上げや精密感などを示す。ファインダー等交換部品などでも、
それがぴったりと嵌るか、なども評価対象となる。

【マニアック度】は、一般に注目されているかどうか?という
点が主だが、他機には無い唯一の特殊な構造であったり、
あるいは中古でのレア度も含まれる。

【エンジョイ度】は、そのカメラ独自の特徴的な機能を使って
撮影時にどれだけ楽しめるか?気持ち良く撮影できるか?
という要素を示す。

【購入時コスパ】は説明する必要も無いであろう、ただし時代
や発売後の経過年月によってもカメラの価格は変化するので
私が購入時の状況を考慮している。

【完成度(当時)】当時における仕様や性能的な面のみならず、
耐久性や信頼性という要素も含める。

【歴史的価値】勿論、時代背景を考慮するが、実験的機種で
ある場合もあり、実際に市場に与えたインパクト等も含む。

-----
これらの各項目においては、各5点満点とする。
各々の項目において上位(概ね4.5点以上)の機種を
ランクインさせ、最後に総合評価を行う。

さて、では順次上記項目別に上位機種を書き出してみよう。

----
採点項目1:【基本・付加性能】
★★★★★(評価点5.0)
MINOLTA α-SweetⅡ

★★★★☆(評価点4.5)
PENTAX LX,NIKON FE2,CANON EOS-1HS,NIKON F4,NIKON F5
MINOLTA α-7 

評価点4.5には各社の旗艦級がずらりと並び、誰もが納得が
いく評価だとは思うが、5点満点となった「α-SweetⅡ」
だけが意外かも知れない。
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α-SweetⅡ(本シリーズ第27回記事)は初級機の位置づけ
ながら恐ろしいまでの高性能を詰め込んだ「スーパーサブ機」
(定義は、匠の写真用語辞典第20回記事参照)である。
当時の他社高級機並みの数値スペックである事に加えて、
ボデイ重量は、恐らく銀塩AF一眼レフ最軽量の335gだ。
「軽さは最大の武器」と言うよりも、スペック自体で他機を
上回るのだから、性能面で文句のつけようが無い。

あらゆるシーンで活躍できる軽快なハンドリング性能は、私が
実際に銀塩AF一眼を出動させた回数の中でも上位となっていた。

「旗艦」として数値スペック的には凄い性能を誇りながらも、
重厚長大すぎて殆ど出動機会が無かったという、まるで
「戦艦大和」的なNIKON F5やCANON EOS-1HSと比べると
大差とも言える大活躍だ。
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まあ、そういう”マニアックな例え話”をするのであれば、
α-SweetⅡは第二次大戦の日本海軍で言えば「駆逐艦 雪風」
に相応するポジションのカメラだと思える。

(雪風:駆逐艦という小型の艦船でありながら16回以上の激戦に
耐え終戦まで唯一生き残った歴戦の軍艦。通称「奇跡の駆逐艦」。
軍港等での停泊時にもエンジンをアイドリング状態のままにし、
いつでも戦闘できるように備えた等、様々な逸話がある。
後年には小説/アニメ「戦闘妖精・雪風」のモチーフとなったり
(=情報収集任務を終えて必ず帰還する「ブーメラン戦隊」)
擬人化戦艦シミュレーションゲームのキャラクターにもなった)

なお、CANON新旧F-1,NIKON F2等の旗艦は次点(評価4点)
である。

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採点項目2:【操作性・操作系】
★★★★★(評価点5.0)
MINOLTA α-7 

★★★★☆(評価点4.5)
CANON EOS 7

こちらの項目は、やや厳しい評価となって、上位機種は2つのみ
となっている。
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まあ、私はこの「操作系」については、常に厳し目の評価をする
事も理由ではあるのだが、逆説的に言えば、いつの時代においても
カメラの高機能化において「操作系の整備が全く追いついていない」
という点が大きな不満事項なのだ。

銀塩MF一眼レフでは、例えAE化されたと言っても、その時点では
まだ「操作系」の概念は生まれておらず、むしろ不要であったかも
知れない。その時代では、ボタンやダイヤルの位置や廻しやすさ
等の表面的な「操作性」にのみに着目しておけば良かった訳だ。

しかし銀塩AF一眼レフでは、AEやAF全般の機能が複雑にからみ
機能が肥大していき、その時代では、それらを”有機的に連携”
し、かつ写真を撮るという行為の中の様々なシーンにおいて、
”効率的で無駄が無い”という「操作系」の概念が必要になってきた。
が、多くのAF一眼レフでは、設計側がまだそこまでの配慮が
出来ておらず、極めて使い難いカメラが多数存在した。


その中において「MINOLTA α-7」(本シリーズ第29回記事)の
操作系は、完璧とは言えないまでも、特筆すべき優秀な物であり
一度、当該記事を参照してもらえれば分かるが、他機とは一線を
画すハイレベルなもので、銀塩撮影に極めて精通した開発陣か、
あるいは外部スタッフの手による事が推察できる。
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なお、後年のデジタル一眼レフにおいて、α-7の操作系を踏襲
した「KONICA MINOLTA α-7 Digital」(デジタル一眼レフ・
クラッシックス第3回記事)では、銀塩撮影に必要な操作系と、
デジタルに必要な操作系は異なる為、あまり使いやすく無い。

しかし、それでもまだマシな方であり、続く各社のデジタル一眼
レフでは、増えすぎた機能を制御する為の操作系は混迷を極め、
使い難いカメラばかりがズラリと勢ぞろいしてしまっている。
(デジタル一眼レフ・クラッシックスのシリーズ各記事参照)

まあ、デジタル時代の話はさておき、銀塩AF一眼レフにおいては
この「MINOLTA α-7」が最良の操作系を誇る傑作機と言えよう。

ちなみに、第2位の「CANON EOS 7」も悪く無い。
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EOS機は、銀塩・デジタルを通じて性能重視型で、操作系の整備が
遅れている機種が多い中、この機種だけは例外的に優れている。
EOS史上最強の操作系、と言っても過言では無いかも知れない。

なお、次点(評価4点)としては、PENTAX MZ-3,CONTAX N1等
がある。

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採点項目3:【ファインダー】
★★★★★(評価点5.0)
MINOLTA α-9,PENTAX LX,CANON New F-1

★★★★☆(評価点4.5)
MINOLTA X-700

これはもう”決まり”である、本ブログ初期の十数年前の記事
から現在に至るまで、ファインダーのMF性能においては、全く
この評価点傾向は変わっていない。
ただ、この評価点はMF機でのファインダー内情報表示の良否は
あまり考慮していない、でもMF機ではピント性能が最重要であろう。
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AF機を含む銀塩一眼名ファインダー機は、α-9,LX,New F-1で
間違いなく、AF機を除いてMF一眼のみでのランキングであれば、
X-700が繰り上がって3位だ。

なお、次点(評価4点)としてはNIKON F4,MINOLTA α-7がある。

注意点だが、5点満点の3機種は全てスクリーンをオプションの
ものに換装してある。私の用途としては「大口径レンズによる
精密なピント合わせ」が主眼であり、当該機種では開放F値が
F2より暗いレンズの使用は元より想定していない。

開放F値がF2.8級より暗い小口径レンズ(F2.8級ズームも同様)
を使う際は、より一般的なスクリーンの方が適切な場合も
あると思うが、そんな場合はこれらの機種では無くても大差は
無いであろうから、別のカメラを使う訳だ。
複数のカメラを使用するのであれば、それぞれの最大の性能を
活かせるように使い分けるのが基本である。
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なおLXやNew F-1の発売年は1980年、X-700が1981年発売
である。
この頃にファインダー&スクリーンの技術革新があったと言う
事であろう(例、アキュートマット等)
(注:一部のオプション交換スクリーンは、カメラ発売年より
若干後年に発売されたものもある)

これ以前の時代(1970年代迄)のMF一眼レフ第一~第二世代の
スクリーンはまだ技術的に未発達であり、暗く、ピントの山も
見え難い。
なお、一部のマニア等の間で、第一世代機位の時代の特定機種の
スクリーンが良いという評価も聞くが、それは「その時代の中では」
と言う話に過ぎず、後年の例えばα-9と比べてみれば一目瞭然で
あり、とてもそうした古い物が優秀と言う事は出来ないであろう。

レンズであれば、古くても良く写る物も多いのだが、スクリーン
等の構成部品は、日進月歩の技術革新の世界だ、新しい物は、
その”方向性”さえ間違えなければ確実に良くなって行く。
(注:方向性が食い違った例もある。ミラーレス機EVF用144万
ドット/カラー液晶に対して新型の144万ドット有機ELは、映像が
明るくはなったが、ピントの山が掴み難くなりMF性能を落とした。
後述するがデジタル一眼レフ用電子化スクリーンも同様だ)
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なお、α-9はストロボ内蔵機である、それ以前の時代の旗艦機では
「ストロボを内蔵するとファインダー性能が落ちるから」という
常識(言い訳?)により旗艦機にはストロボを内蔵しなかった。
(注:”用途に応じた外付けフラッシュを使いなさい”という
コンセプト、または付属品販売戦略もあったと思う)

しかし、α-9は、その常識を軽く簡単に覆してくれた機体であり、
設計次第ではストロボを内蔵しなからも史上最強のファインダー
性能を持つ旗艦機が出来るという事を実践してくれた訳だ。

それから、これより後の時代のデジタル一眼レフでは、当初は、
APS-C機等の小型センサー中心で倍率等も低く、銀塩一眼ほどの
MFピント合わせ性能は持たなかったのだが、さらに後年になると
電子化スクリーン(測距点、格子線や各種設定情報のスーパー
インポーズ等)により、さらにMF性能は悪化していく、
結局の所、上記の銀塩一眼レフのファインダー・トップ3を超える
デジタル一眼レフ機は1台も登場していない。


ただまあ、とは言うものの、近年のミラーレス機における
高精細なEVF(概ね236万ドット以上)と、様々なMFアシスト機能
(ピーキング、拡大、2画面、デジタル・スプリットイメージ等)
の搭載機種では、「MF操作を行う」と言う点において銀塩一眼
レフでのMF性能を「実用上」上回る機種群も一部出てきている。

なので「デジタル一眼レフのMF性能が低い」と嘆く必要性も
あまり無く、MFで撮るならばミラーレス機を使えば済む話だ。

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採点項目4:【感触性能全般】
★★★★★(評価点5.0)
PENTAX LX

★★★★☆(評価点4.5)
NIKON F3/T

ここも順当に「工芸品」と称された「PENTAX LX」がダントツだ。
(本シリーズ第7回記事参照)
この機体を触ってしまうと、その後のどんなデジタル一眼レフの
高級機ですらも玩具のように感じてしまう。
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レンジ機の「ライカM3」を所有していれば、LXと良い勝負に
なったかも知れないが、あいにく所有していないし、正直言えば、
以前も今後も所有する気にはなれない。感触性能がいくら高くても
写真を撮る道具として使い難い部分があったり、おまけに高価で
あれば、趣味性だけのカメラになってしまうからだ。

なお、所有していないカメラの評価をする事は、本ブログの主旨に
まったくそぐわないので、このあたりで留めておく。
必ず「自分でお金を出して買ったカメラ」かつ「実際に使っている
カメラ」しか、正当に評価出来ない事は言うまでもなく当然の事だ。
この基本原則が守られていないレビュー等が世の中には余りに多い。
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それから、2位の「NIKON F3/T」も感触性能は悪く無い。
特に巻き上げ系の感触については、PENTAX LXをも軽く上回り、
銀塩MF一眼レフ中最強である。
ただ、NIKON F3に関して言えば、本シリーズ第8回記事で色々と
述べたように、その他の項目の評価が伸びず、平均的な評価点に
しかなっていない、旗艦機ではあるが名機とは呼びにくいのだ。

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採点項目5:【質感・高級感】
★★★★★(評価点5.0)
なし
★★★★☆(評価点4.5)
KONICA AUTOREFLEX T3,NIKON F3/T,CANON New F-1,
CANON EOS-1HS,MINOLTA X-1

1位が空位で、2位に多数の機種が並ぶ結果となった。
2位の機種の中で注目すべきは「KONICA AUTOREFLEX T3」
であろう。
本シリーズ第3回記事で紹介したカメラだが、およそ、マニア層ですら
あまり良く知らないだろうし、注目もされていないだろう機体だ。
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だが、まるで銀塩一眼の手本のような優美なデザインが秀逸であり、
金属質のボディは高級感が抜群だ。その点については、同率2位の
チタン外装の「NIKON F3/T」に勝るとも劣らない。
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それと「CANON EOS-1HS」も意外なランクインだ。
旗艦機とは言え、後年のEOSのイメージでは「プラスチッキーな
量産品」という感じであるが、旗艦機級は例外であり、よく見ると
かなりの質感や高級感、すなわち「存在感」がそこにある。
(存在感という点では、同率の「MINOLTA X-1」も極めて強い)

余談だが、EOS機の銀塩・デジタル一眼レフの中級機以下では、
この評価をすると恐らくボロボロになるだろうが、唯一の例外が
あり、それはキヤノンのデジタル一眼レフの実用機としては初の
EOS D30(2000年、デジタル一眼レフ・クラッシックス第23回
補足編記事で紹介)がある。
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EOS D30は定価35万8000円もした「黎明期」のデジタル一眼レフ
だが、その値段で安っぽい作りであったら購入者が怒ってしまう、
小型機ながら、かなりの高級感があり、EOS機の中では例外的だ。
(なお、現在でも所有していて、一応完動するが、実用性能が
殆ど無い為、長期間の休眠状態になっている・・汗)

それから、未所有だが銀塩EOSの最終機「EOS 7s」(2004年)も
そこそこ高級感があったように記憶している。ちょっと欲しいな
とは思ったのだが、前機種EOS 7を所有していたし、既に世の中は
デジタル機が全盛であった為、見送った。

なお、次点(評価4点)としてはNIKON F2,MINOLTA α-9等がある。

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採点項目6:【マニアック度】
★★★★★(評価点5.0)
MINOLTA X-1,CONTAX 159MM,CANON EOS RT,
CONTAX AX,CONTAX N1,Voigtlander BESSA-T,
Voigtlander BESSA-R2C,Voigtlander Bessaflex TM

★★★★☆(評価点4.5)
CONTAX RTS,PENTAX LX,CANON EOS-1HS,
YASHICA FX-3 Super2000,OLYMPUS OM2000


実にマニアックな機体がゾロゾロと上位にランクイン。
まあそれもそのはず、私が欲しいと思う、そして、今なお手元に
残して所有している機体は、殆どがマニアックなカメラばかりだ。
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この為、本シリーズ登場の銀塩機30機種の「平均マニアック度」
の評価は4.0点にも達し、評価項目中、最も平均点が高い。

同率1位にはフォクトレンダーの3機種が入ったが、まあこれは
元々マニアック度全開のカメラ故に、当然の結果であろう。
(一眼レフの記事の中にレンジ機を例外的に混ぜているのも
このマニアックさが所以である)

注目すべきは「CONTAX 159MM」(本シリーズ第13回記事)だが、
この機種は本来はあまり目立たないカメラだ、しかし当該カメラは
「159MM CONTAX 10周年記念モデル」という、ちょっとレアな
仕様な為、マニアック度を若干加点した結果だ。

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その他、マニアック度の説明は書き出すときりがない、
詳細は各々の記事を参照して頂く事にする。

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採点項目7:【エンジョイ度】
★★★★★(評価点5.0)
MINOLTA α-7
★★★★☆(評価点4.5)
NIKON FE2,NIKON F4,PENTAX MZ-3,MINOLTA α-SweetⅡ

「エンジョイ度」とは、本来ならば「気持ち良く撮影できるか?」
という要素の指標なのだが、これの評価の上位に入った機種を
良く良く見れば、私が銀塩時代に「最も良く使った」カメラの
順位と、ほとんど同じとなっている。(これは驚きだった)

なお、次点(評価4点)としてはPENTAX LX,MINOLTA X-700等
がある。これらも確かに、良く使ったカメラであった。

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すなわち「趣味撮影」においては「使っていて楽しいカメラ」で
ないと、屋外に持ち出して撮ろうという気にはなれない、という
事実が歴然とわかる評価結果となった訳だ。

まあつまり、いくら性能が凄かろうが、見た目が格好よかろうか
購入価格が高い高級品であろうが、マニアックな機体であろうが、
写真を撮るという行為の上では、何れも殆ど意味が無いという
事であって、結局、撮影していて”楽しい”と思えない限りは、
「そのカメラは使わなくなる」と言う状況に確実に陥ってしまう。

ちなみに、この結果が非常に興味深かったので、所有している
デジタル一眼レフとミラーレス機でも同様な評価を行ってみたの
だが、やっぱり「ドンピシャ」の結果であり、エンジョイ度が
高く評価されたカメラの上位が、最も使用頻度が高かった!

なお、デジタル機では総撮影枚数が分かるので、それが多い
機種がイコール「使用頻度が高いカメラ」であるか?と言えば、
そういう話でも無い。
例えば、依頼撮影・業務撮影などで、大量の写真を撮れば
そのカメラの撮影枚数は増える、けど、それは「楽しい撮影である」
とは言い切れないかも知れない。
まあ、趣味的な撮影であるから楽しいのであって、そういう場合
では、撮影枚数が増える事とはイコールでは無い。
例えば毎日のように持ち出すお気に入りのカメラがあったとして、
それは1日あたり、ほんの数枚しか撮らないかも知れない。
そんな場合は総撮影枚数が多く無くても使用頻度が高いと言える。

結局のところ「本当に楽しめるカメラ」が、最も優れたカメラ
なのだろうと思う。その選択基準は、人によりけりなのかも
知れないが、そういうカメラに巡り会えるか否か?あるいは
その「本質」が見抜ける眼力があるかどうか? そのあたりが
「カメラライフ」においては特に重要なポイントだと思う。

高価なカメラや、有名なブランドであるから、良いカメラだ、と
勘違いしているビギナー層には、是非知っておいて貰いたい事だ。

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採点項目8:【購入時コスパ】
★★★★★(評価点5.0)
なし
★★★★☆(評価点4.5)
YASHICA FX-3 Super2000

この項目は、個々のカメラの評価をする上では重要であるが、
点数の高い順に並べ替える事は、あまり意味が無かった。

例えば、デジタル時代の今になって、二束三文となった銀塩機の
名機を購入すれば、コスパはとんでも無い高得点となって
しまう・・
まあ、この項目に関しては、ノーコメントという事にしておこう。
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採点項目9:【完成度(当時)】
★★★★★(評価点5.0)
NIKON F3,MINOLTA X-700,MINOLTA α-7

★★★★☆(評価点4.5)
NIKON F2,PENTAX LX,CANON New F-1,
NIKON FE2,NIKON F4,CANON EOS-1HS,
MINOLTA α-9,CANON EOS 7,MINOLTA α-SweetⅡ

多くの機種が同率で上位となったが、結果的にズラリと名機が
並ぶ状態になった。
ただ、1位の機種のうち、NIKON F3とMINOLTA X-700に関しては、
どちらかと言えば「ロングセラー機」である(故に完成度も高い)
という印象に基づいているような評価傾向だ。
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で、良く良く結果を見れば、完成度が高いという事はイコール
名機であるとは言い難い模様だ。
まあ、上位にあがったカメラは、いわゆる「良いカメラ」である
とは言えると思う。
しかしながら、私の個人的な「好き嫌い」の主観とは一致しない
結果になっている事も、参考までに述べておこう・・

そうなると「名機とは何か?」と言う定義の話になってくると
思うのだが、それについては明確な回答を用意してある。

すなわち、本記事での、範囲が広くて厳しい10項目の評価を
全て高得点で切り抜け、結果的に総合評価が高かったカメラが、
イコール「名機」であると思う。

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採点項目10:【歴史的価値】
★★★★★(評価点5.0)
CONTAX RTS,CANON EOS RT,CONTAX AX,
Voigtlander BESSA-R2C,Voigtlander Bessaflex TM

★★★★☆(評価点4.5)
CANON F-1(旧),MINOLTA X-1,MINOLTA XD,
CONTAX N1,MINOLTA α-7

こちらの項目は、比較的”客観的”な評価結果となった。
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ただし、一部の重要な機種が、残念ながら抜けている。

具体的には、
*一眼レフ黎明期のロングセラー名機 ASAHI PENTAX SP
*一眼レフの販売台数記録を樹立した RICOH XR500
*宮崎美子さんのCMで大ヒットした MINOLTA X-7
*「αショック」の社会現象となった MINOLTA α-7000
が、歴史的価値が高く、

次点としてNIKOMAT FTn,PENTAX ES,OLYMPUS OM-1,
CANON A-1,PENTAX MX・・等があげられると思う。

だが実は、これらも「α-7000」以外は所有していた事があり、
α-7000に関しても、同年発売で、より高性能な「α-9000」を
長年愛用していた。(故障廃棄)

それらの機種を全て処分したのは、基本性能が低く(古く)、
実用価値が殆ど無かった為であり、仮に、それらの機種を残して
「歴史的評価=満点」をゲットしたとしても、他の項目の
評価点が低ければ、総合上位に入るようなカメラには決して
成り得ない訳だ。

まあ、それほどまでに「総合評価」で上位に入るのは難しい
という事である・・
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では、という事で、いよいよ以下が総合評価のランキング
上位のカメラだ。

【総合評価】(全10項目の評価平均点)
1位 4.10点 PENTAX LX 
2位 4.00点 MINOLTA α-7
3位 3.80点 NIKON FE2
4位 3.75点 CANON New F-1
5位 3.70点 MINOLTA α-9
次点 NIKON F4,CANON F-1(旧),MINOLTA α-SweetⅡ

まあ、極めて順当な評価となった、
ここに上げた機種が「名機」であると言っても過言では無い。
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「他のニコン旗艦機はどうした?」「OMはどうした?」とか
「CONTAXやライカが何故入っていない?」などと、それぞれ
自分の好みで、好き勝手な意見が聞こえてきそうだが、
それらの機種は何か問題があったから上位には入らなかったのだ。
(というか、所有すらしていない機体もある、つまり「購入には
値しない」と思っているから、最初から買っていないのだ。
自分で買わなければ評価できないのは当然であるが、それでも
これだけ沢山のカメラを使っていれば、カメラを買う前に、
仕様や性能から、ある程度その機体の必要性は予見できる訳だ)

また、「交換レンズの性能を考えるべきだ」という意見は確かに
あるだろう、だが、実際の所、レンズ毎に個々に性能差はあった
としても、全体的視点からはメーカ毎のレンズ性能の差は無い。
もし、それ(メーカーによりレンズの性能が低い)があれば、
そのメーカーの製品は全く売れなくなる。

そしてレンズの感覚評価は、ユーザーの「思い込み」の要素が
極めて大きく、ユーザー側の撮影スキルにも大きく依存する。
少なくとも何百本ものレンズを長期に渡り実際に使わない限りは、
レンズの性能差など、なかなかわかりようも無い。
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で、評価項目が広範囲になればなるほど、仮に、ある1つの
側面で好評価が得られたとしても、別の弱点があれば総合点は
必ず落ちてしまう。

弱点とは性能的な面のみならず、価格(コスパ)とか操作系とか
エンジョイ度とか、様々な全ての評価項目に係わってくる。
すなわち今回総合上位にランクインした機種は、広範囲の視点に
おいても、それらの弱点も総合的に少なかったカメラなのだ。

全ての点で完璧なカメラは存在しない。もしそれがあれば、その
1台だけを保有していれば、他機は持つ必要は無いではないか。
これは純然たる事実であり、個人の好みの話とは次元が異なる。

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さて、これにて「銀塩一眼レフ・クラッシックス」のシリーズは
全て終了する。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(21)変則レンズ

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本シリーズは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー
別に紹介している上級マニア層向けの記事である。
今回の記事では「変則的レンズ」を6本紹介しよう。

「変則(的)レンズとは何か?」と言うと、これを
ちゃんと定義する事は難しい。
まあ、あまり一般的では無い描写傾向を持っていたり、
あまり一般的では無いシステム構成のレンズである、
としておこう。

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まず最初のシステム
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レンズは、KENKO LENSBABY TWIST 60mm/f2.5
(新品購入価格 39,000円)(以下、TWIST)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

2016年発売の「ぐるぐるボケ」特殊レンズ。

レンズマニアックス第2回記事、ハイコスパ名玉編
第3回記事等で紹介済みである為、本TWISTの仕様等に
ついては、ばっさりと割愛しよう。

最大の特徴は、その、なんとも言えない「ぐるぐるボケ」
の発生である。
これは「ぐるぐるボケ」の他「渦巻きボケ」と呼ばれる
事もあるが、言葉であれこれ説明するよりも、写真を
見てもらった方が一目瞭然であろう。
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なお、このボケ効果は、フルサイズ機の方が、APS-C機や
μ4/3機よりも出易い。(像面湾曲と非点収差は、画角の
2乗に比例して増加するからだ)

本TWISTは各種一眼レフ/ミラーレス機用のマウントで
販売されているが、私の場合はNIKON (F)マウント版を
選択している。このマウントであれば、およそ他の
どのカメラにも(アダプターを介して)装着が可能だ。
(本レンズに限らず、特殊レンズ・変則レンズは
基本的に、NIKON F(/Ai)マウント品を購入するのが
他機種利用での汎用性を高める意味で効率的だ)

さて、本レンズの特徴は、その「ぐるぐるボケ」であるが、
この発生量は絞り値で制御できる。
「ぐるぐるボケ」の発生要因を説明や理解をする事は
高度で専門的な光学知識が必要となる為、割愛するが
まあ、簡単に言えば「収差」の類であり、基本的に収差は
絞りを絞り込む事で、それが低減するものも多い。
(絞ると、どの収差が、どれくらい低減するか?は、
近いうちに「匠の写真用語辞典」で解説する予定だ)

「ぐるぐるボケ」が発生する事で、TWISTは「トイレンズ」
の類だ、と勘違いされてしまう事も多いと思うが・・
本TWISTは、そんなに「Lo-Fi」な写りでは無い。
ピント面、あるいは画面中央部は極めてシャープであり、
他の一般レンズに勝るとも劣らない。

それもその筈、このレンズ構成の基礎となった設計は
1800年代(19世紀)に発明されて、20世紀半ば位
までは人物撮影用の写真レンズとして非常に長い期間
「定番」の構成であったのだ。(ペッツヴァール型構成)

ただし、それらの古い時代であっても、ここまでは
「ぐるぐるボケ」は酷くは無い、あくまで本レンズの
場合は、その特徴を誇張した設計になっている。

戦後(1950年頃)では、テッサー型やプラナー型と
いった、他のレンズ構成がポピュラーになってきた為、
ペッツヴァール型は減ってきたのだが、「画面中央部の
解像力が高い」という特徴から、望遠鏡(天体・地上)
や、写真用簡易望遠レンズの構成としては引き続き定番
として使用されている。
望遠鏡では、背景のボケ質を重視する必要がなく、多少
ぐるぐるボケが発生していても問題無いからだ。

なお、「(写真用)簡易望遠レンズ」とは何かと言うと、
天体望遠鏡のような2群4枚(ペッツヴァール型)等の
構成を正立像(注:天体望遠鏡は「倒立像」である)
となるようにした簡便で安価な構成の(超)望遠レンズ
である。(注:他のレンズ構成も勿論存在している)
1970年代~1980年代頃に、銀塩一眼レフが一般層にも
普及した際、ビギナー層には「望遠レンズが欲しい」
というニーズが大きかったが、メーカー純正のレンズは
「大きく重く高価」な三重苦なので、ビギナー層が買える
ものではなかった。そんな時、主に海外等の光学機器
(非カメラ)メーカー等から、安価に発売された事が
あった。(例:ミラーレス・マニアックス第63回記事で
紹介の「SP-500」(500mm/f8)、メーカー名等は不明)

同様な構造でカメラメーカー純正では「ニコンおもしろ
レンズ工房400mm/f8(どどっと400)」(ミラーレス・

マニアックス第38回記事、本シリーズ第11回記事)
もあった(下写真)
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これらの「簡易望遠レンズ」の弱点は、焦点距離が
長くなると、それに応じて鏡筒の全長も非常に長くなって
いく事であり、例えば「どどっと400」は、全長30cmも
ある為、そのままではハンドリング性能が悪く、分解し、
折りたたんで(入れ子にして)持ち運ぶのだ。

焦点距離に対して、レンズ全長が長いものは、すなわち
「望遠比(テレ比)が大きい」レンズとなる、
さらに言えば、焦点距離よりも短い全長となるような
設計を目指したものが「望遠レンズ」(まれに短焦点とも)
であり、これが「望遠」の本来の意味だ。
(注:「焦点距離とバックフォーカスの比である」という
解釈もあり、ちゃんと用語の定義が決まっていない)

つまり、「遠くの物を大きく写す」のが望遠レンズの
意味では無く、「焦点距離よりも全長が短いレンズ」
(又は、焦点距離よりもバックフォーカスが短いレンズ)
の事を、本来は「望遠レンズ」と言う訳だ。

だが、いつも記事で書くように「光学設計(専門)用語」
は、古くから発達してきた学術分野であるが故にか、用語の
統一が行われていない。光学用語は、研究者や実務者により、
さまざまな呼び方や意味があり、これが正解というものは
どうやら無い様子だ。ネット上の情報はもとより、専門書
毎でも、それぞれ用語の定義や呼び方が異なっているので、
この分野を勉強しようとすると、非常に困ってしまう他、
カメラマンのビギナー層等が様々な解釈で不正確な情報を
色々と流す為、ますます、光学分野に対する正確な知識が
世の中に定着していかない。これは残念な状況である。
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さて、余談がとても長くなった。
本TWISTの話に戻るが、この描写を言葉で色々と説明する
のは困難である、まあ、「こういう特殊な写りだ」
という事がわかれば、それで良いのではなかろうか?

私の場合、本レンズにおいて困っている事がある。
それは、購入以降、あまり「用途開発」が進んでいない事だ。
「用途開発」つまり、レンズをどんな用途(被写体の種類、
被写体の状況、撮り方、使用目的)に使うかを、考えたり
試したりしていく事なのだが・・

使用2~3年になるものの、これといった有益な使い方が
まだ見つかっていない(汗)
他記事でも書いたが、もし人物撮影に使った場合、
遊びやアート用途であれば良いが、依頼(業務)撮影では
この個性的な描写がクライアント等に受け入れて貰える
かは不明である(というか、まず無理だろう)
まあ、引き続き「用途開発」を進めていくしか無い、とも
思っている。

やや高価なレンズであり、中古はまず出ないと思う、
用途が難しいので、誰にでも推奨できるレンズでは無い。

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さて、次のシステム
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レンズは、GIZMON Utulens 32mm/f16
(新品購入価格 5,000円 マウントアダプター付き価格)
カメラは、FUJIFILM X-E1 (APS-C機)

2017年発売の、銀塩「レンズ付きフィルム・写ルンです」
(FUJIFILM製)の搭載レンズを再利用した単品トイレンズ。
この機種名の「Utulens」(うつれんず)は、その事を
由来としている。

銀塩「写ルンです」の写真の雰囲気そのままに撮れる、
というのが触れ込みではあるが・・
_c0032138_07050239.jpg
実際の所は、銀塩「写ルンです」では、レンズの持つ収差
を低減するために、フィルムを湾曲して装填する、という
トリッキーな特殊構造であったが、デジタルでは、それは
さすがに無理だ。(=現代の撮像センサーは湾曲しない。
ただ、近代では「曲がる太陽電池」も存在する模様なので、
将来、撮像センサーが曲がるようになっても驚かないが)


よって、そのまま「写ルンです」のレンズを使っても、
銀塩時代よりもデジタルの方が写りが悪くなってしまう。

この問題の対策の為、この「Utulens」では、簡易絞り
機構を設けて像面湾曲等の収差を低減している。
しかし、その分、銀塩「写ルンです」の口径比F10~F11
程度よりも若干暗くなって、本「Utulens」は、F16
相当の固定絞りである。

まあ、デジタル機で使う分には(開放)F値の暗さは、
ISO感度を上げる等で対応可能である。日中ではまず
手ブレ等は起きないし、カメラの機種によってはボデイ
内蔵手ブレ補正機能も利用できる。
ただ、ISO感度や手ブレ補正焦点距離等を正しく設定
しないと、日中晴天以外では、手ブレや被写体ブレの
リスクがある。

しかし、本レンズは基本的にはトイレンズである。
フィルム風の「Lo-Fi描写」を目的とするならば、
初級中級層であれば「偶然の手ブレ」等を作品の意図と
する事もできるであろうし、上級層であれば、意図的に
手ブレや被写体ブレを発生せる「Lo-Fi技法」すらも
使う事が出来るであろう。

本「Utulens」は、パンフォーカス設定であり、ピント
調整機構(ヘリコイド)は無い。
しかし、基本的にはLマウント(M39/L39)対応品なので、
Lマウントアダプター(付属または市販品)を使用すれば
アダプターへの装着時のねじ込みを緩める事で、ほんの
僅かだが近接撮影を行う事もできる。

ただし、この用法では最短数10cm程度と、思ったよりも
近接できていない事と、ねじ込みを緩める事で、レンズの
脱落(落下故障、紛失)のリスクが極めて高い。
まあ基本的には、そうした凝った使い方をせず、中遠距離
のパンフォーカス撮影に特化した方が賢明かつ安全である。
(または、Lマウント・ヘリコイドアダプターを使うかだ)

描写は結構「Lo-Fi」だ、確かにこれだと、銀塩の
「写ルンです」の方が良く写った印象もある。
まあ、「写ルンです」は、それなりに良く考えて設計
されていたという事であろう。
まあでも、「銀塩っぽい」描写表現力を得る事もできる。


ちなみに、2000年代後半~2010年代前半頃、主に
「女子カメラ層」「アート層」などで、フィルムカメラの
見直しのブームが起こりかけた事もあった。
まあ、銀塩カメラ自体は、とても安価になったから、
「機材にお金をかけたく無い層」(=アンチ「ブルジョア」、
これはいつの時代にも多い)にもウケるだろう、という
世情もあったし、世の中が皆デジタル写真で「Hi-Fi」化
したから、それに対抗する「Lo-Fi」の意味もあった。

しかし、私が気になったのは、それらの雑誌やWEB等で
「これがフィルム写真です」と紹介される写真の作品や
作例の画質が、「ウソだろう!」という位に、極めて
低画質であった事だ。

銀塩写真は、ちゃんとした機材(高性能レンズや高画質
フィルム)や現像環境を用いれば、現代のデジタル写真に
勝るとも劣らない位の高画質な写真を撮る事が出来る。
(参考:下写真は、ポジ(リバーサル)フィルムによる
撮影。フィルム撮影の証拠として、スキャン時にわざと
僅かにずらして、パーフォレーション(フィルム送り穴)
を画面内に入れている)
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なのに、世の中の「銀塩っぽい写真」は、なにゆえに、
そこまで低画質なのだろうか?

まあ考えられる原因は2つあり、1つは意図的にそうした
低画質(Lo-Fi)な写真を選んで掲載している状況だ。
それはまあ、「フィルムっぽい」という特徴や意図を
出す上では、デジタルのように綺麗に写っている写真を
載せたら区別ができないし、わざわざフィルムで撮る
意味も無いからだ。

もう1つは、そうした作品を提示して来るアマチュア層が、
必ずしも銀塩写真での、機材選択、撮影技法、DPEプロセス、
スキャン等でのデジタル化、画像編集等、の全ての工程に
精通している保証が無い、という事だ。

つまり、どこかで、いい加減な扱いをやっているから画質が
落ちてしまう。これは基本的にはスキル不足、あるいはミス
なのだが、まあでも、それはそれで上記1)の理由に合致し、
「フィルムっぽい」写真となる事から、それで何ら問題は
無い。あまり綺麗に写りすぎる(Hi-Fi)写真は、こうした
用途には適さないのだ。
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さて、余談ばかりだが、本Utulensについては、他記事でも
紹介済みなので、重複する説明は避けよう。
それに、トイレンズなので、あれこれと長所や短所を
語るべきものでもない。

ちなみに、今回の使用法は、FUJIFILM(ご存知、
「写ルンです」の製造元)のミラーレス機 X-E1との
組み合わせで、「デジタル写ルンです」の構成を意識して
使っている。
X-E1は、AF/MF性能に課題のある機種だが、こうした用法
では、それらの欠点が解消されて快適だ。
(注:勿論、システム構成上、それを意図している。
 こうした措置を「弱点相殺型システム」と呼んでいる)

で、本来「Lo-Fi」撮影においては「エフェクト」の併用
が望ましいが、X-E1にはエフェクトは搭載されていない
ので、その優秀な「フィルムシミュレーション機能」を
代わりに使う事とした。

被写体条件などを上手く選んでカメラ設定にも留意すれば、
そこそこ、ちゃんと(Hi-Fiに)写す事も可能である。
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本Utulensは、安価なレンズであるので、購入の敷居は
低いとは思うが、実際の用途があるかどうか?が
課題であろう、まあ、参考まで。

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さて、3本目のシステム
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ンズは、LENSBABY 3G
(中古購入価格 10,000円)(以下、LENSBABY 3G)
カメラは、SONY NEX-3 (APS-C機)

2007年発売の、ティルト機構付き特殊レンズ。
過去記事で何度も紹介している為、重複する説明は避けよう。
「逆アオリ」による、特殊な描写が得られるレンズである。
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母艦としているSONY NEX-3は、本レンズとの形状的な
相性が良く、私の手には良く馴染んでいる。
というのも本LENSBABY 3Gは、操作性および使いこなしが
極めて困難なレンズである為、どのカメラに装着するかに
よっても評価が変わってきてしまうのだ。

ただし、NEX-3はSONY最初期(2010年)のミラーレス機
である為、エフェクト等の付加機能が搭載されていない。
「トイレンズ母艦」として使っている上で、その点のみ
不満点であるのだが、代替できる適正な後継機が無い為、
ずっと、このクラッシックな機体を使い続けている。
(注:近年にα6000を購入していて、近い将来に、それを
トイレンズ母艦としてNEX-3と交替予定である)

本レンズは、発売時には4万円位と結構高価であった、
その後、KENKOが輸入代理店となった事等で、LENSBABY
シリーズの価格は少し下がったのだが、同時に、何度も
新製品にリニューアルした事で、都度、機能(仕様)の
改良とともに、価格も上昇してきている。

2010年代後半からは、交換レンズ市場の縮退を受けて、
LENSBABYも「高付加価値型商品」を主力とするようになった、
つまり、販売数の減少を利益でカバーしないと市場が維持
できない訳であり、この結果、新製品の価格帯は4万円~
8万円あたりまで高騰している。

反面、旧世代のLENSBABY製品、たとえば本3Gであるとか、
後で紹介の「MUSE」等は、1万円を切る安価な中古相場
となっている為、かなりお買い得感が強い。
(古い機種でも、ティルトとしての性能はほぼ同等だ)

まあでも、やはり本3Gも「特殊用途」のレンズである。
これを買ったとしても、よほどこの効果に入れ込んでいる
専門マニア(LENSBABYの言葉を借りれば「フリーク」と
言うべきか。まあ「マニア」の中でも、特定のジャンルに
非常に強く拘る人達を、世間一般的に「フリーク」と呼ぶ
場合もある。
なお、「フェチ」も似た意味の用語ではあるが、そちらは
身体の一部などを好む「嗜好」としての意味で使われる
事が多いから、レンズ等の用語としては、少々不適切だ)

・・・で、その「フリーク」では無い限り、ティルト系
レンズを常用する、という事は少ないであろう。
だから、本3Gや後継機種が必要かどうかは、個人の
嗜好次第である。
_c0032138_07052854.jpg
まあでも、本記事でも、紹介レンズの半数ほどが、
LENSBABY製品となっている。私もちょっと「フリーク」が
入って来てしまっているかも知れない(汗)

近年、新型のLENSBABY製品が色々と出ているので、欲しい
という気持ちが強いのだが、前述のように高付加価値型
商品となって高価すぎる為、多数は所有できていない。
(2本程度は、後日、別記事で紹介予定だ)

まあでも、そうやって「フリーク」化したマニア達を
ターゲットに、高価なLENSBANBY製品を売るのだとすれば、
マーケティング戦略的には、とても正解なのだろう。
危ない危ない、新製品に目移りする事は、程ほどにして
おこう・・・

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さて、次のシステム
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レンズは、KONICA MACRO HEXANON AR 105mm/f4
(中古購入価格 9,000円)(以下、AR105/4)
カメラは、PANASONIC DMC-G1 (μ4/3機)

レンズそのものは、1970年台後半の発売と思われる
MF小口径中望遠マクロだが、レンズ単体では使用できず、
ベローズ(蛇腹状の延長鏡筒)または専用ヘリコイドを
必ず使用する必要がある。

本システムは、ベローズ付きで9,000円という安価な
中古価格であった、まあ現代において、これを利用する
適正な環境が無いので、一種の「ジャンク扱い」である。
ベローズをフルに使用すると、かなり大掛かりな構成と
なって、室内等の固定環境でしか使えない。

そこで、ベローズから不要な部品を全て取り外し、
(=ダイエット、と呼んでいる)屋外での手持ち利用を
可能とした状態が、上写真のシステム構成である。

_c0032138_07055796.jpg
ただまあ、これでも相当に「冗長」なシステムである。
一応手持ち撮影は可能であるが、カメラバッグには、
これは入らず、ハンドリングが悪い。
さらに言えば、操作性的に撮影の難易度がかなり高く、
加えて、縦位置での手持ち撮影が相当に困難である事、
おまけに、システム全体の重心をホールドする場所が
無く、下手をすると、蛇腹を無意識に手で掴んでしまい
「ぐにゃり」とした感触で、慌てて、故障(破損)して
いないか?を疑う事の繰り返しだ。

描写力自体は悪く無い、しかし、レンズ構成やスペックが
NIKON Ai Micro-NIKKOR 105mm/f4
(レンズマニアックス第16回記事)と、全く同じであり、
描写傾向も極めて酷似している。
なので、一般的なフィールド(屋外)撮影では、
Ai105/4の方が遥かに使い易い為に、本AR105/4を
わざわざベローズ付きで持ち出す理由が殆ど無い。

まあ、本AR105/4の方がAi105/4よりも最大撮影倍率は
高いし、おまけにWD(ワーキング・ディスタンス)を
長く取れる、という僅かな利点は存在する。

しかし、現代のミラーレス時代においては、デジタル
拡大機能の利用も容易である為、(マクロ)レンズ自体
の最大撮影倍率スペックは、あまり重要では無い。
それに、あまりに撮影倍率を上げて撮ろうとすると、
今度は、撮影技法そのものの超高難易度が襲いかかる。
(匠の写真用語辞典第3回「超マクロレンズ」参照)
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まあ、あくまで本システムは「変則レンズ」であり、
上級マニア、あるいは「好事家」向けであろう。
入手性も困難であるし、「指名買い」の必要性も無い。

別に「ヘキサノン」というブランドがあるから銘玉という
訳でも無いし・・ これであったら、全ての点でNIKONの
Ai105/4を購入した方がベターであろう。
ちなみに、Ai105/4は本ベローズシステムよりも安価な
8,000円(税込)で中古購入している。

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さて、5本目のシステム
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レンズは、LENSBABY MUSE Pinhole/Zoneplate Optic
(中古購入価格 4,000円)(以下、MUSE ZP)
カメラは、OLYMPUS E-410 (4/3機)

さて、また説明が非常にややこしいシステムだ(汗)
今回は「本MUSE オプテイックのゾーンプレートモードを
使用して撮影する」が、この時点で言葉の意味が何の事
やら、さっぱりわからないかも知れない(汗)

幸い「レンズ・マニアックス第4回記事」で、本システム
についての詳細を説明しているので、そちらを参考に
してもらえば良いと思う。
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ともかく「ボケボケ」の写りとなる。
これはこれで面白いのではあるが、やはり「有効な用途」が
見つけ難いレンズでもある。

それと、今回は、このMUSEのユニットが4/3機用の為
(注:終焉した4/3システム用であったため、在庫処分で
安価に新品購入する事ができた)OLYMPUS E-410の
4/3機を使用しているが、この機体は低感度である為、
少々使い勝手が悪い。

以降、レンズはそのままMUSE ZPを使用するが、
簡易4/3→Eマウントアダプター(電子接点なし)を
介して、カメラをSONY NEX-7 (APS-C機)に交換しよう。
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普通、4/3のレンズは、電子接点が無いと全く動作
しないのだが、本MUSEの場合、そうした電気的なやり取り
が不要なトイレンズの為に、アダプターは単にマウント形状を
変換するだけの簡単な構造の物で良い。

NEX-7を母艦とするならば、優秀なエフェクト機能を
併用するのも面白いであろう。なお、さらにエフェクトが
優秀なオリンパスのミラーレス機(OM-D E-M1等)で使った
方が良かったかも知れないが、勿論搭載エフェクトの仕様は
機種毎に異なるので、まあ、使っているカメラの搭載範囲内
で選べば良いだけの話だ。エフェクトの件に限らないが、
カメラの機能や性能が高いからと言って、それを根拠に

良い写真が撮れる訳でも無い。あくまで、どの機能を、
どのように使うかが肝心である。
これは、ごく当たり前の話ではあるが、残念ながら多くの
初級者は、この事が理解できず、機能や性能仕様の高い
(しかし高額な)カメラばかりを欲しがってしまうのだ。

でも、10年前であれば、それは「腕に見合わず、格好悪い」
と、切り捨ててしまえたのだが、現代においては、カメラ
市場が極端に縮退してしまっている為、初級中級層に
高価な最新高性能カメラを買ってもらって市場を潤さないと
本当にカメラ市場が崩壊してしまう。そうなると、勿論
皆が困るので、せっせとビギナー層に高価な最新機材を
買ってもらって、私は、古くなってコスパがとても良く
なった旧世代の機材を、中古で買う事にしようか。
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余談が長くなったが、本MUSE ZPについては、これという
特別な用途は考えにくいかも知れない。
だがまあ、今回の記事の「変則レンズ」は、全てが同様だ、
いずれの機材(レンズ)も、あまり特別な用途を持たない
ものばかりである。勿論、初級中級層に推奨できるような
ものは少なく、買ったとしても用途が無くて、持て余して
しまう事であろう。
まあ、あくまで「参考まで」というスタンスである。

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では、今回ラストのシステム
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レンズは、SONY DT30mm/f2.8Macro SAM(SAL30M28)
(中古購入価格 10,000円)(以下、DT30/2.8)
カメラは、SONY α65 (APS-C機)

ハイコスパ第14回記事等で紹介の、2009年発売のAPS-C機
専用AF単焦点準広角(標準画角)マクロレンズ。

エントリー・マクロレンズとしては優秀な類である。
一応等倍撮影が出来るし、有限回転式ピントリングの為に、
近接MF技法が使え、αフタケタ機に備わるピーキング機能
を併用する事で、快適なマクロ撮影を可能とする。

描写力は「感動的」という要素は無いが、悪いという話
でも無い。
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一般にマクロレンズは近接撮影を主眼として設計されて
いるため、通常レンズに比較して近距離の撮影においては
「非常に描写力が優れる」という印象を持つ事が多い。
(注:「設計基準が最短側、無限遠側」と、ざっくりと区別
される事が多いが、「設計基準」では、あまりに広範囲で
曖昧な言葉なので、設計開発の実務を全く理解していない
門外漢の用語と判断し、本ブログでは滅多にそうは呼ばない)

まあ、その手の「本格的なマクロレンズ」に比べると、
本レンズの描写力は、やや物足りない印象もあるだろう。
しかし、1万円の中古価格(注:現代ではさらに相場が
安価になっている)で買えるレンズとして考えると、
極めてコスパが良い。

最大の特徴として、WD(ワーキング・ディスタンス)が
極めて短い(数cm)事がある。
まあ、準広角(標準画角)マクロで等倍仕様であれば、
だいたいWDは短くはなるが、それにしても、この短さは
トップクラスである(他にもミラーレス機用の、30mm級
等倍マクロ等も、同様にWDが非常に短いものがある)

WDが短い事は長所であるとは言い切れず、被写体に非常に
近接して撮影する場合、屋外撮影ではカメラやレンズの
影が被写体にかかってしまうとか、昆虫等は逃げてしまう
とか、誤って被写体に接触してしまう(例:花粉やら
料理の脂分等がレンズにつく、模型を壊してしまう等)
そもそも、どうしても被写体に接近できない環境もある
(例:花壇とか、頭上の木々の花等)だろう。
まあ、被写体に近接出来ないケースでは、中望遠マクロや
望遠マクロ等のWDが長い機材を使う必要があると言う事だ。

だが、WDが短い事を意外な長所にする事もできる。
それは、「ZENJIX soratama 72(宙玉)」の利用だ。
以降、SONY DT30/2.8を、マスター(主)レンズとして、、
そのアタッチメントをつけてみよう。
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「ZENJIX soratama 72」は、ミラーレス・マニアックス
第61回、第69回記事等の多数で紹介済みの、2010年代
発売の特殊アタッチメント型レンズである。

(新品購入価格 6,000円)

このアタッチメント(注:「付属品」という意味。勿論
アタッチメントには「フィルター径」という意味は無いが
WEB上で誤用が目立つ)は、ガラス玉(宙玉)に映る映像を
撮影するものだが、レンズ前部に非常に近接して「宙玉」を
配置しなければならない。たいていのレンズではWDが長い
為にピントが合わず、「宙玉」を、かなり遠い位置に置く
必要があり、その構造を工作する等が面倒であったり、
構造が脆くなったり、加えて「宙玉」が小さく写りすぎて
しまう。
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(注:「宙玉」では上下反転して映る為、上写真では上下を
逆転して掲載している)

本DT30/2.8であれば、WDが数cmであるから、「宙玉」を
ある程度大きく写す事が可能であるし、装着する為の
構造もシンプルかつ小型化できるので、ハンドリングが楽だ。

それから「もっとWDが短いレンズは無いのか?」というと、
実は、そういったレンズも存在している。
具体的には、本シリーズ第17回記事等で紹介した、
LAOWA 15mm/f4 であり、その「等倍広角マクロ」では、
WDは数mm程度しかない。その場合「宙玉」を、ほとんど
ダイレクトにレンズ前に装着出来る為、さらにコンパクトに
なるのだが、「宙玉」自体の構造上、レンズ前数mmまで
近接しての配置ができず、むしろ「宙玉」が小さく写って
しまうという課題があった(当該記事参照)

まあ、やはり、本DT30/2.8が、「宙玉」のマスターレンズ
としては適正なのではなかろうか・・?

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さて、今回の記事「変則レンズ特集」は、このあたり迄で、
次回記事に続く・・

最強50mmレンズ選手権(5) 予選Eブロック MF50mm/f1.4 Part 2

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所有している一眼レフ用の50mm標準レンズを、AF/MF、
開放F値等によるカテゴリー別で予選を行い、最後に決勝で
最強の50mmレンズを決定するというシリーズ記事。


今回は、予選Eブロックとして「MF50mm/f1.4(Part2)」の
該当レンズを6本(+棄権1本)紹介(対戦)する。
紹介レンズ本数がいつもの4本より多いので、今回の記事では、
各レンズの実写掲載は2枚づつとする。

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まずは今回最初のレンズ。
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レンズ名:CANON FD50mm/f1.4
レンズ購入価格:5,000円相当(中古ボディとセット購入)
使用カメラ:FUJIFILM X-T1 (APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第12回記事で紹介の、
1971年発売のMF大口径標準レンズ。
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キヤノンの標準レンズは極めて種類が多いが、本レンズは
CANON (旧)F-1(銀塩一眼レフ・クラッシックス第1回記事)
発売時にキットレンズとして付属されたもので、S.S.C.
という仕様では無い、旧バージョンだ。


S.S.C.とは「スーパー・スペクトラ・コーティング」という
意味で、今となっては詳細は不明だが、多層コーティング
技術の一種であろう。

と言うのも、本レンズの発売年の1971年には、PENTAXより
現代でも名前を引き継ぐ SMC (Super Multi Coated)技術を
搭載したレンズ群が発売され、そのSMCタクマーシリーズは、
描写力、色再現性、逆光耐性などが当時のレンズ性能の水準
からは頭1つ飛びぬけて優れていた為、CANONにおいても、
「PENTAXに追従せよ」といった感じで、自社開発のS.S.C.
技術を搭載したレンズに改良、そのFD50/1.4 S.S.C. を
本レンズの2年後の1973年に発売している。

FD50/1.4 S.S.C.は若干レアなレンズだが、近年、ジャンクを
見つけた事がある。1500円と安価ではあったが、程度があまり
良くなく、本FD50/1.4とコーティング性能が異なるだけだろう
と判断して購入を見送った。

多層(マルチ)コーティング技術は、1970年代後半においては、
当たり前の技術となり、各社も製品名等でそれを誇示する事は
無くなった。後年1979年からは本レンズのシリーズも New FD
タイプとなり、その新型レンズ群にはS.S.C.の表記は無い。
(注:いずれもレンズ構成等の光学系には大きな変更は無い)

このように、カメラやレンズの長い歴史を見れば、ある一瞬
だけ、あるメーカーの技術が優れていたとしても、ほんの数年
で他社はそれに追いついてしまうのだ。もし、いつまでも性能
改善を怠っていたら、そのメーカーの製品の性能は他社より
劣ったままとなってしまい、そのメーカーは市場での競争力を
失ってしまう。下手をすれば悪評がたって、カメラ事業から
撤退せざるを得なくなってしまうだろう。だから各メーカーは
必死で新技術開発を行い性能を改善するし、結果的に長い目で
見れば、メーカー(ブランド)における性能差は無いと言える。
(この話は、記事後半でもう少し補足する)

よく初級者層から聞かれる質問が以下だ、
初「どのメーカーのレンズが良く写るのですか?」
が、こういう質問には答えようが無い訳だ、
どのメーカーのものを買っても基本的には同じようなものだし、
レンズの僅かな性能差よりも、カメラ設定や撮影や画像編集の
スキルに、写真の画質は依存する要素がはるかに大きい。
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さて、余談が長くなった。本題に戻していこう。
FD系マウントレンズは、AF一眼レフ時代(1990年代)や
デジタル一眼レフ時代(2000年代)では、マウントアダプター
互換性が低く、使用するのが困難なレンズではあったが、
ミラーレス時代(2010年代)となって、殆どのミラーレス機
でアダプターを介しての使用が可能となった。
長期間(20年間以上)使用不可だったレンズ群故に、中古市場
での相場はさほど高くは無い、性能的には他社50mm/f1.4
級標準と同等であり、コスパは良いと見なす事ができる。

---
さて、次のレンズ。
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レンズ名:MINOLTA (New) MD 50mm/f1.4
レンズ購入価格:1,000円(中古)
使用カメラ:SONY α7 (フルサイズ機)

ミラーレス・マニアックス第32回記事で紹介の、
1980年代前半発売のMD系マウント大口径MF標準レンズ。
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一般にNew MDと呼んでいるが、レンズにはNewと書かれて
いない、まあこれは、CANONがFDからNew FDレンズに
リニューアルした際も同様であり、メーカー側としては
MDはMD、FDはFDと言い張る事で、市場での余計な混乱を
避けたいのであろう。
Newとつけて区別をするのは、販売店やユーザー(購入者)、
あるいはマニア層等で新旧を明確に区別する為の要素が大きい。

ちなみに、この時期に発売された銀塩一眼レフMINOLTA
X-700(1981)はロングセラー機で前期型と後期型が存在する。
(銀塩一眼レフ・クラッシックス第10回記事参照)
勿論市場ではNew X-700等と、両者を区別するが、この機体
にもカメラ本体にはNewの文字は書かれてはいない。
ただ、後期型の取扱説明書には「New X-700」とちゃんと
書かれている。もし単体で説明書が流通した際など、前期型と
New型では、わずかに操作子(AEロック)も、その操作方法も
違うので、メーカーでも説明書を明確に区分したのであろう。

レンズのNew MDとMDもレンズの操作方法が若干だが異なる、
具体的には、MDレンズではMINOLTA XD(1977)からの
シャッター優先機能を実現する際、各レンズの最小絞り値に
設定する。よって、最小絞り値を緑色で表記しているのだが
(注:自動化をわかりやすくする、ミノルタの「グリーン・
グリーン・グリーン・システム」の一環だ)
MDレンズでは、これのロック機能が無かった。
(銀塩一眼レフ・クラッシックス第6回記事参照)

しかしNew MDレンズの時代のX-700等に搭載された「MPS」
(ミノルタ・プログラム・システム)ではプログラムAEが
実現した事で、ビギナー層などでも、露出概念を意識せずに
プログラム露出だけで撮影する事も可能となった。
その際、ロックの無いMDレンズでは、絞り環が最小絞り値から
外れてしまうと、プログラムAEが効かなくなる。ビギナー層の
このミスへの安全対策で、New MDレンズでは、最小絞り値の
ロック機構が備わっている。(もしかしたら、この操作性の
差異がある為、New MDレンズの説明書には「New」と書かれて
区分しているかもしれない。これらの説明書はもう手元に
残っていないので、今となっては不明ではあるが・・)

この機構は、後年のNIKON AiAFレンズにおいて、絞り操作を
旧来のように絞り環で行うか、あるいは、NIKON F5のような
ダイヤル操作機で、絞りをダイヤルで操作するか?の選択で
最小絞り値のロック機構が付いた状態と、見かけ上の仕組みは
ほぼ同じなのだが、それぞれのロック機構の目的が全く異なる
事は要注意だ。

なお、これらのロック機構は、あえてロック操作をしなければ
何ら制限が無くそのまま用いる事ができる。
これが本来あるべき「ロック機構の操作性」であろう。

例えば、銀塩NIKON機のF3,F4,F5、あるいは近年のデジタル
一眼NIKON Df、それからミラーレス機のFUJIFILM X-T1等では、
露出補正とかのロック機構が、デフォルトでロック状態に
なっていて、それを一々解除しないと使えない仕様だ。

これが合理的な操作性では無い事は、誰が見ても明らかである。
EOS等では電子的なロック機構でON/OFFをユーザーが選べ、
OLYMPUS OM-D等では機械的にロックのON/OFFを選べる。
が、NIKON機では長らく頑なまでに、この誤まった設計思想を
ユーザーに強要する事を続けていた。残念な話である。
ロック機構は、ユーザーがそれをするかしないか?を、
必ず選択できる仕様になっていなくてはならない、これは、
あまりに当然な結論だ。
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-さて、余談が無くなった。本NMD 50/1.4だが、個人的にあまり
好きではないレンズである。それは、当時の市場のトレンドの
「小型化」への対応で、旧型より性能を落としてしまったから
であり、その設計思想そのもの(改悪する)に賛同できない
からだ。その話は、他の様々な記事でも詳細を書いているので
くどくなる為、今回はもう割愛する。

嫌いなレンズだからラフに扱ってしまうのか?実は5年程前に
本レンズは、撮影中に何処かにぶつけてしまい、フィルター枠
が少し曲がってしまった(汗)
まあ元々、2010年頃の「大放出時代」に、ジャンク品並みの
1000円と言う激安価格で購入したものだ(注:程度は悪く無い)
惜しいという価格では無い。

しかし、購入価格と製品価値は直接の関係は無い、本レンズの
価値は、個人的には8000円程度だと認識している。

ちなみに、実際の価値よりも購入価格が安価なレンズ等を
「コスパが良い」、と私は定義している。
「価値よりも価格が高価なレンズ等」は私は絶対に購入しない。
(ブランドだけ有名だとか、誰かが良いと言っただけの物とか)

で、アタリ(衝撃による変形)が起こったレンズだが、光学的
には問題無かった模様だ。ぶつけた箇所を無理やり曲げ戻して、
そこに保護フィルターを装着して見た目をわからなくしたが・・
今度は、保護フィルターが簡単には外れなくなった(汗)
F1.4級の大口径レンズで日中に絞りをフルレンジで使用する
為には、ND4~ND8級の減光フィルターの装着が望ましいが、
その付け替えが面倒だ。
あるいは、APS-C機では、保護+NDの二重装着でも問題無いが、
フルサイズ機ではケラれるかもしれない。

本NMD50/1.4のフィルター径はφ49mmと、旧MD50/1.4の
φ55mmから大幅ダウンしている、つまり(入射)瞳径が小さく
なっているのだ。これは小型化には役立っているが、たとえば
口径食が出る可能性も高くなるし、変な厚手のフィルターを
つけるたり二枚重ねにするとケラれる可能性も高い。

なお、50mm/f1.4レンズでの原理上の最小瞳径は、50÷1.4の
計算式で得られ、φ約35mmである(普通、それよりも前玉径は
はるかに大きく、余裕を持たせた設計となる)

まあ、アタリの問題を除いても、色々と訳有りなレンズだ。
あまり指名買いの必要性は無い。どうしてもミノルタ製の
MF標準レンズが欲しい場合は、ROKKOR銘がついている
MCまたは旧MD型をオススメする。
(注:New MD型からは、ROKKOR銘が省略されている)

---
さて、3本目のレンズ。
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レンズ名:KONICA HEXANON AR 57mm/f1.4
レンズ購入価格:9,000円(中古)
使用カメラ:PANASONIC DMC-G1 (μ4/3機)

ミラーレス・マニアックス第15回記事で紹介の、
1970年代前後のコニカAR系マウント用大口径MF標準レンズ。
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出自が良くわからないレンズだ、ARマウントのコニカ機は
1960年代から1980年代の長きに渡って販売されていたが、
国内ではあまり人気が無く、むしろ輸出が主流であったのでは
なかろうか?

1990年代の中古カメラブームの際には、既にコニカのMF一眼
は、とっくに生産を辞めていたし、加えて、スペック的魅力が
無かった事で不人気であった。
むしろ人気があったのは、コニカ・レンジファインダー機用の
「元祖ヘキサノン」レンズであり、そちらは高価な相場で取引
されていた。
2000年代のデジタル時代に入ると、フランジバックの短い
ARヘキサノンは、ほぼ全てのデジタル一眼レフで使用不可で、
ますます不人気になっていく。
2010年代、ミラーレス機の普及で、やっとマウントアダプター
を介してARレンズを再度使用できる環境となったが、多くの
マニアは既にARレンズを手放していた。

2010年代にARレンズは、中古店のジャンクコーナー等に
ひっそりと目立たず置かれている様相になり、マニアが手に
取ったとしても「ARかあ・・使えないな」と、さらに売れ残る
状態であっただろう。
まあでも、ARレンズの中には、伝説の「ヘキサノン」を彷彿
させる良い写りを持つものもある。
私のお気に入りは、AR35/2.8等であるが、本AR57/1.4も
さほど悪く無い。

問題は上記のように「レア品」である事だ、もはや本レンズを
中古市場で探す事は難しい。
本レンズには、上位バージョンのAR57mm/f1.2が存在する
模様だが、さらにレアであり、一度も見た事が無い。

なお「F1.2だから、F1.4版より、さらに良く写るのか?」と
言えば、全くそんな事は無い。その話は本記事では割愛するが
近々、本シリーズでMF50mm/f1.2級の予選リーグを行うので
その際に説明する事としよう。
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HEXANONはもとより、HEXANON ARも上級マニア向けのレンズだ、
実際の描写力よりも、どちらかと言えば「マニアック度」に
価値観の主眼が移るレンズであり、一般ユーザー層が無理をして
探して入手するものでは無いと思う。

---
さて、次のレンズ。
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レンズ名:TOPCOR 58mm/f1.4(限定復刻版)
レンズ購入価格:43,000円(新品)
使用カメラ:SONY α65(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第20回記事、および名玉編第1回
(第20位)記事で紹介の、2000年代のMF大口径標準レンズ。
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1960年代頃の東京光学(トプコン)の名レンズ「トプコール」
58mm/f1.4を、コシナ社が限定復刻生産したものである。
(M42とニコンFのマウントで各々限定800本の販売数)

本レンズには、ちょっとした裏話があって、両マウントの
限定品を所有している。その話は過去記事で再三書いたので
今回は割愛する。

描写特性に、ややクセのあるレンズであり、ビギナー層での
使用は推奨できず、あくまで上級マニア向けだ。

なお、限定版は現在入手不能なほどレア品となっている。
どうしてもこのレンズが欲しい場合だが、TOPCOR銘に拘らない
ならば、現代でも、コシナ社からフォクトレンダー銘で
NOKTON 58mm/f1.4SL(シリーズ)というレンズが
ニコンFマウント(CPU対応)で発売されている。
中身のレンズ構成は、限定復刻TOPCORと全く同じなので、
そちらを買えば、実用上での目的は達成できる。
(長期間発売されているレンズで、後継版になるに従い、
若干だが値上げ傾向。2016年からのバージョンでは、
65,000円の定価と、やや高目のレンズだ)


なお、現行版NOKTON58/1.4 SL ⅡSは、往年の
ニッコールレンズを彷彿させる秀逸なデザインに加えて、
ブラックリムとシルバーリムが選べる超マニアックな仕様
となっているので、TOPCOR版を所有している私ですら、
そちらの現行品も欲しい位だ。


レンズの性格(描写傾向)については、従前の記事と被る
ので割愛する。ただ、本レンズ(および現行NOKTON)は
メーカー側のキャッチコピーでは、「開放で柔らかな描写、
絞るとシャープな結像」と、マニアックな撮影技法を推奨
する節もあるのだが・・

その後、ミラーレス・マニアックスや本「最強50mm選手権」
のシリーズ記事で色々と50mm/f1.4級レンズの検証を続けて
いくと、6群7枚の変形ダブルガウス構成の50mm/f1.4級の
オールドレンズは、どれをとっても、ほぼ同じ描写特性を
持ち、復刻TOPCORだけの特徴では無い事も判明してきている。
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まあそれでも本レンズを推すのは「マニアック度」の評価が
極めて高いところだ、これはマニアであれば見逃せない。
コシナ社は、1990年代迄は技術力に優れたOEMメーカーで
一般には殆どブランド名が知られる事は無かったが、
フォクトレンダーのブランド商標を取得した1999年から、
2000年代以降、マニア向けの製品企画を中心として、力を
つけてきている。それは単にレンズ製品の性能(描写力)を
高める技術力のみならず、「マニア心理」を良く理解した
製品企画にも、だいぶ助けられている事であろう。

特に、近年の各社の「高付加価値戦略」(カメラやレンズの
市場が縮退しているので、魅力的なスペックで値上げを図る)
がフォクトレンダーでも顕著に出ていて、リニューアルの
度に価格が上昇している。しかも、同じマニアック戦略は
長期間は通用しない、マニア購買層の数は有限だからだ、
また、発売期間も長くはなく、コシナ社ではまず再生産を
しないので、ある期間のバージョン(例、現行のニッコールに
似せたバージョン)が欲しければ、それの発売期間に買うしか
無いのだ。これは難しい判断ではあるが、あくまでコスパの
概念を最優先にして、購入するかどうかを考える必要がある。

---
さて、5本目のレンズ。
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レンズ名:PENTAX Super Takumar 50mm/f1.4
レンズ購入価格:1,000円(中古)
使用カメラ:SONY NEX-7 (APS-C機)

レンズマニアックス第13回記事で紹介した
1960年代頃のMF単焦点大口径標準レンズ。
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もはや50年以上も前のオールドレンズだ。
「放射能レンズ(アトムレンズ)」として有名(悪名?)な
レンズだが、そうなっている理由や、そして、あまり気に
しないでも良い事は、当該紹介記事で書いたので割愛しよう。

まだ大口径標準レンズの完成度が低い時代の物ではあるが
本レンズは比較的描写力(解像力、ボケ質)には優れる。
弱点はコントラストの低さと逆光耐性の低さであるが、
まあこれは、この時代、まだコーティング技術が発達して
いなかった為、やむを得ないと思う。
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なお、上記の描写力の高さは「この時代のレンズにしては」
という但し書きを付ける必要があるかも知れない、
MF大口径標準レンズ全般としては、完成度が高まるのは
1970年代後半~AF時代直前の1980年代前半くらいであり、
それ以前の時代のものは、色々と欠点は目につくかも知れない。

---
では、今回ラストのレンズ。
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レンズ名:YASHICA ML 50mm/f1.4
レンズ購入価格:8,000円(中古)
使用カメラ:CANON EOS 6D(フルサイズ機)

ミラーレス・マニアックス第25回記事、ハイコスパ第2回
記事等で紹介の、1970年代後半の京セラ・コンタックス
RTS系マウントのMF大口径標準レンズ。
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過去の紹介記事では、同マウント(ヤシカ・コンタックス)
で同スペックの CONTAX Planar T* 50mm/f1.4
(本シリーズ第1回記事)との比較が気になるのでは?
という話を良く書いた。まあ、だけど、その差異は基本的には
大きなものでは無いし、どのような被写体をどのように撮るか
と言う、ケースバイケースでも変わってくる。

それに、本シリーズでは、本記事の段階でも、すでに
20本以上の50mm標準レンズを紹介している(まだまだ続く)
のだが、正直言えば、記事を書いている自分でも、いいかげん
嫌になってくるくらい、各社の標準レンズの性能上の差異は
殆ど無い。つまり、どのメーカーのどれを買っても問題無く、
極端に言えば、どれも写りは一緒であり、どれも良く写る。

まあ、それもそのはず、ブランドでの性能差の話しは、少し
前述したが、もう少し詳しく書けば・・


銀塩MF一眼レフ時代は、ユーザーが一眼レフを買う際に
付属してくる(キット)レンズは50mm標準レンズであった。


もし他社よりも極端に性能の低いレンズが付属していたら、
事の本質がわからない初級ユーザー層等から、
「XX社のカメラは写りが悪い」という悪評が立って、
そのメーカーのカメラが売れなくなってしまう。
だから、どのメーカーにおいても、他社と同等以上の高性能と
高品質を目指して設計製造を行うのだ。


仮に、あるメーカーがある時点では、優れていたとしても、
他社は、その優れたレンズを買って来て、バラバラに分解し
細かく分析して、それより高性能のレンズの設計を行う。
だから、数年で皆、各社のレンズ性能は同等になる。

これは昔でもそうだし、現代でもそうだ、だから結局どの
メーカーのレンズを買っても、性能に大きな差異は無い、
差があるとすれば、その「他社が先行した、ある一定期間」
だけでの優位だけであり、もし、それがどうしても気になる
ならば、買い換えても、買い増しをしても済む話だ。

まあ、各社の標準レンズが、どれも似たよう性能である
という点は、上記のような状況を考えてみれば、容易に
わかりそうなものであったのだが、私自身も、銀塩時代に
何十本も標準レンズを買い揃える迄、そこに気付かなかった。
だから、「こちらのメーカーの標準レンズは、どんな写りなの
だろうか?」と、期待しながら購入を続けていたのだ(汗)
でも、結局どれも同じである事に、やっと気付いた訳だ。
_c0032138_18070341.jpg
で、YASHICA ML50/1.4と、CONTAX Planar 50/1.4も
極論すれば似たようなものだ、どっちを買っても問題無い。
どうしても微細な差が気になるならば、両方買ってしまっても
良いではないか? それで自身の眼力を鍛えて、両者の差異を
綿密に分析したら、良い勉強(研究)にもなる。

そして、もともとこれらは、40年以上も前のレンズだ、
今更、逆光耐性がどうのこうの、ボケ質がどうのこうの、
などと言っても始まらない。そういうのは撮影技法で回避して
使えば良い程度の欠点であり、あるいは逆に欠点を強調した
撮影技法を行って、いわゆる「オールドレンズらしさ」を
出せば良いのではなかろうか?

銀塩時代は、撮ったその場では写真がわからない為、撮影条件
の再現が困難であった。例えば、ボケ質が悪かったとしても、
開放測光の光学ファインダーでは、それが確認できない。
だから、撮影後に現像された写真の、ごくごく一部を見て、
このレンズはボケ質が良いとか悪いとかの評価を、マニアや
一般ユーザーや評論家の誰もが行っていたのだ。
これでは残念ながら、レンズの性能の本質はわからない。

デジタルでは撮影コストを気にする必要がなく、例えば絞り値を
変えて何枚でも撮影できるし、高精細EVF機であれば、撮る前
にも、ある程度の範囲でボケ質の確認もできる。
だから、撮影条件の再現が比較的容易であり、言葉を変えれば、
レンズの欠点も、それらのデータの蓄積から、回避技法の考察が
可能だ。つまりデジタルではレンズの欠点は、ほとんど出さない
ようにも撮影が出来てしまうのだ。

で、完璧な標準レンズなんてありえない。ごく近年の新製品で
最新の設計技術を使い、殆どの収差等の欠点を解消した凄い
標準レンズが出ていたとしても、それは、必ず「大きく、重く、
高価」という「三悪(三重苦)」の弱点が存在する事であろう。
「レンズマニアックス」記事では、そうした最新鋭の標準レンズも
何本か紹介している(本シリーズ記事でも、今後登場予定)
が、それらは、やはり「三悪」が障害となっている事は確かだ。
(だから、ハイコスパ名玉編にノミネートされなかった)

ましてや、オールドレンズで、ブランドの付加価値だけで
不当なプレミアム相場がついているものなど、余計に有り得ない。
古いレンズは、必ず、なにかしらの欠点を持つのだ。
だから、どうしてもヤシカML50/1.4とCONTAX Planar 50/1.4
を比べたいのであれば、もういっそ、価格も含めたコスパの
観点で比較を行うべきであろう。

この点では、YASHICA ML50/1.4は、セミレア品であるが、
見つかれば1万円以下で買える相場だ。P50/1.4はとても
その値段では買えない、場合により3万円以上してしまうだろう。
よって、コスパ面を考えれば、ML50/1.4に、はるかに分がある
事は述べておく。

ちなみに、過去シリーズ記事「ハイコスパ名玉編」では
どちらのレンズもランキング圏外だ、まあ、それくらいの
位置づけのレンズであるので、両者の細かい差異など、
ある意味、どうでも良い事だろう。

それから、ここまで色々とMF標準レンズを紹介してきたが、
F1.4級の大口径版であっても、どれも中古購入価格は、概ね
1万円前後までである。このクラスのレンズの性能からくる
価値も、だいたいそのあたりの価格が妥当な範囲であり、
中古で3万円以上も出して買うべき物では無い事は述べておく。

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他にも「MINOLTA AUTO ROKKOR-PF 58mm/f1.4」を
紹介しようと思ったが、絞り粘り(故障)の為、「棄権欠場」
とする。(下写真)

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このレンズは、レンズ・マニアックス第8回記事で紹介
しているので、興味があれば参照されたし。
なお、上手く使うと「虹のようなゴースト」を出す事が
出来るという、面白い(エンジョイ度が高い)レンズだ。
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さて、ここまでで「最強50mmレンズ選手権」における
予選Eブロック「MF50mm/f1.4 Part2」の記事は終了だ。

次回の本シリーズ記事は、
予選Fブロック「AF50mm/f1.4 Part2」となる予定。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(22)フォクトレンダー・レンジ機用レンズ

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回の記事では、Voigtlander(フォクトレンダー)
(注:記事記載の便宜上で通常のASCIIコードで書きたい為、
aの変母音(ウムラウト)の記号記載は省略する)の、
レンジファインダー機(以下、適宜、「レンジ機」と略す)
用の交換レンズを4本紹介しよう。

なお、ここで言う「フォクトレンダー製」とは、1999年に
その商標を取得した、日本のコシナ社製のものである。

それから、現代のコシナ・フォクトレンダーは、むしろ
レンジファインダー用のレンズよりも、ミラーレス機用の
高級レンズ(マクロ・アポランター等)のブランドとして
著名であろう。本シリーズでは、第11回記事で、既に、
その手のレンズの特集も行っているが、今回の記事では
レンジ機用のものに限定して紹介する。

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まず最初のシステム
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レンズは、SUPER WIDE-HELIAR 15mm/f4.5(初期型)
(中古購入価格: 35,000円)(以下、SWH15/4.5)
カメラは、FUJIFILM X-E1 (APS-C機)

1999年に発売された、高描写力単焦点超広角レンズ。
初期型であり、ライカLマウント(M39,L39と記載、現代の
ライカ製等のミラーレス機用Lマウントとは異なる)
対応品である。

その後、2005年頃にライカMマウント対応(VMマウント)
のⅡ型となり、距離計連動型となった。
2015年には、レンズ構成を改良した(注:やや大型化した)
Ⅲ型となり、VMマウント用の他、2016年には、SONY E(FE)
マウント版も追加された。
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1999年の最初期型はセンセーショナルなデビューであった。
まず、「フォクトレンダー」という最古の光学機器メーカー
のブランドが突如国産品として蘇ったのが衝撃的だ。

その当時は「中古カメラブーム」である。銀塩からデジタル
まで、あらゆるタイプのカメラが新規に発売された混迷期だ。

銀塩レンジファインダー機も勿論人気で、M型ライカや
バルナックライカはもとより、ニコンSシリーズ、旧CONTAX
ミノルタやコニカのレンジ機など、マニアあるいは投機層は
ありとあらゆる新旧機種を買い漁っていた時代だ。

世間では、「ニコンから復刻版Sシリーズが発売される」
という噂(注:S3ミレニアム、2000年、発売時48万円)
も流れていたくらいなので、新製品の銀塩レンジ機が
今更ながら新発売されたとしても誰も驚かない。

旧「フォクトレンダー」については、上級マニア層が注目
するブランドであった。レンジ機では無いが、ヴィトーや
ヴィテッサ等の、美しく格好良いカメラが中古で流通して
いたので、それらを入手するマニアも居た。

(余談:熱心なファンも居る人気機種である。後年2010年代
には、TVアニメ「有頂天家族2」でも作品中にヴィテッサが
登場している。中古カメラブームの際は高額ゆえに、入手が
出来なかったが、20年が経過した現代では、老舗中古専門店
等で2万円前後で見かける場合もある。→しかし、未所有)

コシナは老舗OEMメーカーである。OEMとは他のカメラメーカー
から依頼されて、そのメーカーのブランドでカメラやレンズを
製造するという意味だ。場合により設計も担当する訳であり、
自社ブランドの名前が世の中に出ないだけで、とても技術力の
高いメーカーであった。

(余談:銀塩時代でも、こういった風に、製造等は、様々な
企業で分業されている為、「ブランド」という意味は希薄だ。
ビギナーが良く言う「どこのメーカーのカメラが良いのか?」
という質問は意味が無く、結局、どこの物を買っても同じだ。
この傾向はデジタル時代に入ってさらに顕著となり、それは
とても1社だけでは作れず、各社共通の部品などを使いまわし、
もはや、カメラについているロゴ名だけが異なるという状況だ。
あるいは「自社製センサーだから」とか「XXという新技術
を搭載しているから」とかの細かい事は言わないのが賢明だ。
もし他社製品に比べて、明らかな性能差がある場合、そこは
「追いつけ、追い越せ」で、少し時間がたてば、必ず各社の
機器の性能は同等レベルに落ち着く次第だ)

コシナは1990年代までは、ブランドの知名度が無く、よって
たまにコシナ自社名で発売するカメラやレンズは、新品でも
「定価の7割引き」とかの不自然な価格で販売されていた。
つまり、そこまで安価にしないと売れない訳だ。すなわち皆、
「コシナなんてメーカーは知らない、どうせ性能も悪かろう。
 まあ、7割引きなら試しに買ってみようか」
という感じであった。
これはコシナの高い技術力からすれば、とてもアンバランス
な状態だ。

まあ、不勉強な消費者側(コシナを知らない、ブランドを
意味も無く信奉する)にも問題点があるのも確かではあるが、
一部の上級マニア層では、こうした不条理な安値で売られて
いるコシナ製品を入手し「意外に良く写ってびっくり、しかも
とても安い、これはなかなかコスパが良い」と、夢中になった
人も数多く居た。

で、こんな状態なので、コシナは「ブランド」を強く欲した。
しかし、1970年代にヤシカが「CONTAX」のブランドを買った
際には(それだけが理由とは言い切れないが)、資金繰りが

厳しくなって、経営破綻してしまい、京セラの資本投下で
なんとかCONTAXの販売を継続できた、という歴史がある。
(ここも、初級マニアが良く言う「CONTAXって凄い性能なの
でしょう?」という思い込みに関連して、良く理解する必要が
ある歴史だ)

で、コシナが、またあまりに強力なブランドを高値で買って
しまうと同様に資金的な負担が過剰になってヤバい事となる。
で、その当時、宙に浮いていた適正(適価)なブランドが
「フォクトレンダー」であった、という事なのだろう。

が、日本では、この老舗ブランドもあまり知られていない。
中古カメラブームとは言え、海外カメラ市場などにも詳しい
マニアは、かなりの上級層であり、一般的には、NIKON、
ライカ、CONTAX(カール・ツァイス)しか、知られておらず
そうしたカメラは投機的要素で高値で売れるのだ。
(つまり、何もわかっていないビギナー層が高値で買うから、
売る側も高値で売ろうとする。あるいは、さらなる値上げを
期待して購入する。そうやって、どんどんと際限なく相場が
吊り上り、結果「カメラバブル」となった訳だ。これは勿論、
買う側がしっかりと製品価値を判断すれば止まる話だ)

まあしかし、コシナが出した新製品においては、
「フォクトレンダーとは・・」等と、その歴史を紹介する
雑誌等のメディアも多く、好意的に受け入れられた。

そこから、畳み掛けるようにコシナ社はフォクトレンダー
ブランドのカメラやレンズを2000年代前半にかけて非常に
多数展開する、その数は多すぎて紹介できないくらいだ。

すなわち、もうとっくにそれらの設計は完了していたので
あろう、「後は名前をつけるだけ」という状態だったと思う。
それに、恐らくは非常に高いお金を出して購入したブランドだ、
早く、沢山の製品を出して、そこにブランド名の利益を乗せて
購入金額を回収しないとならない、さもないと他社の前例の
ように資金繰りが悪化して経営がヤバくなる。

で、「ブランド」なんて、結局、そんなものなのだ。
例えば、現代のスマホのカメラでも、ごく普通の設計のレンズ
に有名光学機器メーカーの名前をつけて、それを「付加価値」
としているケースも多々ある。
それにより、機器販売側は、ブランドの使用料で払った分を
定価に上乗せして、そこで釣り合いを取る訳だ。
面白味の乏しい事業構造であるが、そういうブランド名を
ありがたがる初級ユーザーが居る事で、世の中は上手く回る
仕組みなので、そういう人達にせっせと業界に貢いでもらおう。

私はカメラ業界とは何も関係が無いが、欲しい機材を適価で
購入したいので、市場は潤ってもらうことが望ましい。
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さて、コシナ・フォクトレンダーの製品群は、とっても
マニアックであった。
まず「マニアを落とす事」が、このブランドでの基本戦略だ。
どうせビギナー層では、「フォクトレンダーやらを買っても
廻りの人達は知らないから自慢できない、買うならばニコン
やライカを買うよ」という超下世話な論理になってしまう。

マニナ層に受けるために、国産フォクトレンダーは初期から
現代までを通じて、極めてマニアックな仕様を貫いている。
ここは企画側が、マニア心理を非常によく理解していると
思われる。というか、コシナの殆どのメンバーがマニアなの
だろう。そうでないと、そういう製品企画は出来ない。


他の大メーカーの製品は、「優等生的」等とよく称されるが、
それは褒め言葉でもあるが、マニア的な視点からは
「何も面白味が無い製品」という状態と等価である。
まあ、マニア受けを狙わず、一般に誰にでも広く受け入れ
られる製品企画なのだろうと思う。(そして下手をすれば
大メーカーの企画や開発の担当者とは言っても、殆ど
写真など撮っていないかも知れないのだ。そう思う根拠
としては、そのカメラやレンズを持って、ものの1時間も
撮影すれば、誰でも気づくだろう重欠点を持つ機材等が、
平気で販売されている状況だからだ)

コシナ・フォクトレンダー最初期の機種、BESSA-L(1999年)
は、変わった仕様のレンジファインダー機だ。
(注:Bessa L等と、小文字で書いたりハイフン無しは間違い)

ファインダーを持たず、今回紹介レンズのSWH15/4.5との
セットで発売された状態では、「目測式カメラ」となる。
付属15mm用ファインダーは外付けが出来るが、近接撮影では
パララックス(視差)が発生するし、勿論このファインダーは
ピント合わせもボケ確認も出来ない、構図確認用の素通しだ。
よって、ノーファインダーで撮るマニアも多かった。
(ただし、このファインダー像は、とても綺麗で好ましい)

ピント合わせは、目測またはパンフォーカス技法を用いる。
露出計は内蔵されているが、機械式カメラ故に電池が無くても
撮影可能だ。パンフォーカス方式で絞りをF8~F16に設定
するのであれば、「Sunny Sixteen」や「感度分の16」による
「勘露出決定技法」が使えるため、最悪電池切れになっても
問題なく撮影が継続でき、さらにマニアックに使うならば
電池をあえて抜いてしまう。
そうすると、初級中級者では「どうやって撮るのだ?」という
撮影不能のカメラとなり、マニア層または上級者のみが使える
カメラとなる事で、周囲に対して鼻が高い(自慢できる)訳だ。

さて、BESSA-Lの余談が長くなった。
同時に発売された、本レンズSWH15/4.5は、非常にインパクト
のあるレンズであった。
これまでのレンジ機用超広角レンズと言えば、ツァイスの
Hologon(ホロゴン)が著名で、オリジナルは「幻のレンズ」
であった事から、1990年代の京セラCONTAXのGシリーズの
AFレンジ機用に新発売された「ホロゴン」にマニアは夢中に
なっていた。しかし、リバイバル版も定価20万円台という
極めて高価なレンズなので、おいそれと購入できない。

そんな中、本SWH15/4.5は、発売時定価の詳細はもう記録
が残っておらず不明ではあるが、恐らくは5万円台くらいの

定価だったと思うので、やっと普通に買える価格帯の
レンジ機用の高性能な超広角レンズが出た訳だ。


マニア層は、これを入手し「ホロゴンと同等の写りだ」
(「プアマンズ・ホロゴン」という呼び名も多かった)
と賞賛した。(注:本当にホロゴンを知っているかは疑問)
ホロゴンでは強くあった、レンズ設計上の「周辺減光」は
賛否両論あったが、特徴ではあった。
本SWH15/4.5でも比較的強い周辺減光が出る。

ただ、これについては、後年のデジタル時代では、周辺減光
の効果は、レタッチ(画像編集)でも簡単に後付けできるので
最初から周辺減光がある事は、あまり望ましくない場合もある。
この為、本SWH15/4.5もⅢ型あたりからは周辺減光が減って
いると聞く。(注:未所有)
今回、私の使用法では、本レンズをAPS-C機のFUJI X-E1に
装着し、周辺減光をある程度カットして使っている。
画角は超広角らしくない約22mm相当にまで狭くなるが
まあそれは、撮りたい被写体用途次第とも言え、15mmを
フルサイズ機で使うと、あまりに広すぎ、パースペクティブ
が大きく、その歪みもあって、被写体の制限が厳しすぎる
ケースもあるからだ。
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本SWH15/4.5の初期型は熱心なマニアが居て、中古市場での
入手はまず不可能、欲しければ後年のレンジ機用のⅡ型か、
現行のミラーレス機用Ⅲ型を買うしか無い。
描写傾向はⅢ型では恐らく変わっているとは思うし、価格も
だいぶ高価にはなっているが、まあ、それもまたユーザーの
捉え方次第であろう。ともかくマニアックなレンズなのだ、
必須のレンズとは全く言い難いが、欲しければ買うしか無い。

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では、次のシステム
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レンズは、COLOR-SKOPAR 50mm/f2.5
(新品購入価格: 44,000円)(以下、CS50/2.5)
カメラは、SONY NEX-7(APS-C機)


前記SWH15/4.5より後の2002年に発売された 
レンジ機用Lマウント仕様の小口径高品質標準レンズ。

独フォクトレンダー時代の「スコパー」とは、テッサー型
の単純な3群4枚レンズ構成のものを示していたが、
本スコパーは6群7枚の変形ガウス型構成となっている。

小口径である事で、諸収差が良く補正されていると思われ、
きわめて良く写るレンズで、個人的にもお気に入りだ。
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レンジ機の仕様上の制限(欠点)である最短撮影距離の
長さは、本レンズの場合では75cmと、これは依然、
一眼レフ用の標準レンズの最短(平均)45cmより、だいぶ
長いのではあるが・・
それでも、望遠になればなるほど、その不満は緩和される
(例:90mmレンズで最短90cmならば、一眼レフもレンジ機も
同じだ)

それに現代は「ヘリコイドアダプター」や「デジタルズーム」
で、物理的または仮想的に最短撮影距離を短縮可能だ。
本記事で使用するアダプターはヘリコイド型では無いが、
優秀なデジタルズーム機能を持つNEX-7を使用し、その機能も
必要に応じて使う事とする。最短撮影距離は縮まらないが
そもそもAPS-C機で75mm相当の画角で最短75cmは標準的であり
デジタルズームで撮影倍率は、いくらでも上げる事ができる。
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描写力の高さが本SC50/2.5の最大の特徴ではあるが
レンズ自体の極めて高い質感や感触性能も、さらなる長所だ。
超小型でありながら真鍮製の鏡筒は、208gと
ずっしりとした重さがあり、ピントレバーがあって回転の
感触も極めて良い。

価格はそう高くない(発売時定価45,000円、銀色版)
のではあるが、開放F2.5と地味なスペックの標準レンズで
あるが故にか?あまり流通していないレンズであり、後年や
現代において中古で入手するのは結構困難であろうと思う。

あまり褒めてしまって、中古がプレミアム相場になって
しまったらかなわない。あまり褒めれらない要素もあげて
おくならば、本レンズそのものの欠点は殆ど無いものの、
この仕様であれば「世の中に代替できるレンズはいくらでも
存在する」という点だ。

たとえば、50mm/f1.8級の一眼レフ用小口径標準レンズで
本レンズに勝るとも劣らない描写力を持つものは、銀塩時代
1970年代以降のMFレンズにおいて、何本でも存在する。
そうした旧型のMF標準レンズは、現代ではジャンク価格で、
1000円から購入できるし、AB級のまともな個体でも5000円
も出せば十分だ。それらの小口径標準の方が、最短撮影距離
も開放F値も優れており、劣る部分はレンズの「質感」の
要素だけである。
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レンジ機用レンズは現代のデジタル環境では使い難い、
デジタルのライカを使わない限りでは、一眼レフやミラーレス
機で本レンズを使うくらいならば、一般的な一眼レフ用レンズ
を使った方が、はるかに実用的な利便性は高い。

まあ結局、本CS50/2.5も、極めて趣味性の高いレンズで
あるという事であろう。

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では、次のシステム
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レンズは、SC SKOPAR 35mm/f2.5
(新品購入価格: 30,000円)(以下、SC35/2.5)
カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)

またしても歴史を語るのが面倒な(汗)レンズの登場だ。
前述の中古カメラブームを受け、ニコンがS3ミレニアムと、
後に復刻SPを発売した。
それに便乗して、コシナ・フォクトレンダーでも、NIKON S
マウントおよび旧CONTAX Cマウントの極めてマニアックな
カメラを発売した。
それがBESSA-R2S/R2C (2002年)であり、それにともない、
ニコンS機、コシナ新型機、および旧製品のNIKON S,CONTAX
C機で使用可能なレンズ群を、8種類ほど限定発売した内の
1本が本SC35/2.5である。(注:正確に言えば、本レンズ
等はR2S/R2C発売以前の、S3ミレニアムの時代からの製品)
SCとは、NIKON SおよびCONTAX Cで使える、という意味だ。
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上記のような機種群を所有するユーザー層に広く対応できる
だろう、とコシナは企画したのだろうが、蓋を開けてみると
SCシリーズは極めて不人気なレンズ群となってしまった。

その理由は、50万円以上と高価なNINKON Sシリーズを
購入するユーザー層は、ほとんどがコレクション(愛蔵品)
か、投機(転売による利益確保)を目的としたユーザー層で
「実際に写真を撮る」オーナー等は失礼ながら皆無であった
訳だ。事実、それらの機体で写真を撮っている人を、以降
発売後20余年、私は一度も見かけた事が無い。

コシナが「写真を撮る為の道具」としてカメラやレンズを
設計するのは、当然の論理だ。特に上級マニア層に向けての
製品戦略であれば、そこは必ず意識する必要がある。

しかし、市場のユーザーは、実際にはそうとも限らない、
特にこの手の機体では、誰も写真を撮らないし、愛蔵版
カメラ等では、使ったら価値が落ちるので、なおさらだ。
これはコシナ等のメーカー側からしてみれば「残念な事実」
だと思う(ただ、愛蔵版を作るニコンからは、それは想定内
の製品戦略だ。他に実用カメラを買って貰えれば、なお良い)
それにしても、せっかく買った機材を死蔵させてしまう事は、
マニア的視点からも残念な話だ。

で、「写真を撮らないのであれば、交換レンズも買わない」
この、ごくシンプルな理由で、これらのSCレンズ群は
各々数百本(800本位?)の少数限定販売でありながらも、
販売店側でも在庫を持て余すようになってくる。

発売から1~2年経った頃、在庫品を持て余した販売店から
「匠さん、SCレンズ買ってくれないかな? 安くしておくよ」
という申し出があった。
実は、その頃、前述の(超レア機)BESSA-R2Cも、その店で
新品購入していたので、店主は私が買う筈だと睨んだので
あろう。

でも私は、BESSA-R2Cには、旧ソ連KIEV(キエフ)用の
ジュピター・シリーズのレンズを装着して使うつもりで、
ボチボチとそれらを探し集めていたのだ。
ジュピター(ユピテル)は独ツァイス製品のデッドコピー
レンズであり、コスパが良くマニアックだ。


現代のコシナ・フォクトレンダー製品は、あまりに良く
写りすぎてしまうだろう事は明白で、私が想定している
機材利用コンセプトにそぐわないし、それにSCレンズは
そうした「富裕層」向けの「高付加価値型商品」であり
価格が高価すぎて、コスパが極めて悪い。

匠「う~ん、どうしようかなあ」と一旦は保留したが、
店主はさらに値引した価格を提示してきたので、
やむなく(笑)、本SC35/2.5と、後述のSC21/4を
合わせて購入する事にした。

さて、購入したSC35/2.5は、デザインが格好良く、
そこそこ作りは良い。しかし、既にライカL39マウント版で
発売されていたスコパー35/2.5と中身は同じレンズであり、
外観の変更だけで高価になっているのは、どうにも納得が
いかない。
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まあ確かに写りは良い、しかし、35mmの準広角ながら、
最短撮影距離は90cmと極めて長く(注:レンジ機での
距離計連動での制限)、中遠距離のスナップや風景など
ありきたりの撮影技法での、ありきたりの被写体にしか
向かず、急速に興味を失っていった。
(注:今回の使用では、μ4/3機+デジタルテレコンで
撮影倍率の低さの弱点を緩和している)



その直後にデジタル時代になった為、SCレンズや他の
レンジ機用レンズは、デジタル一眼レフでは使いようもなく、
たまにマニアの集まりに「珍品」として持ち出す程度で、
長年、防湿庫に眠る羽目となったが・・

さらに後年、2010年前後からミラーレス時代となり、
L39マウントやNIKON Sマウントのアダプターが発売される
ようになって、やっと復活する運びになった次第だ。

だが、いくらアダプターがあるとは言え、これらのSCレンズ
が主力となる事は有り得ない。最短撮影距離も長すぎるし、
SCレンズは、ピントの繰り出し量が中途半端な設計の為
(すなわち、NIKON SとCONTAX Cのマウントは形状互換
だが、ピント繰り出し量が異なり、完全な互換性は無い。
そこで、広角レンズのみ、被写界深度の深さで、どちらの
マウントにも対応できるような中間的な構造となっている)
・・の為、アダプター使用時のピント合わせも不自然な
状態となって使い難い。

結局、アダプター使用時にも、少し絞り込んで、
被写界深度を稼いで、ミラーレス機のピーキング便りに
撮るしか無く、結局中遠距離の被写体を、銀塩時代と
同じ技法で撮る事になり、テクニカルな要素が何もなく
エンジョイ度の極めて低いレンズとなってしまう訳だ。

まあ、レンジ機全てで、同様な課題があった事実は
私も、いくつかのレンジ機を銀塩時代に購入した時点で
良くわかっていた。「これらは、真面目に写真を撮る為の
道具ではなく、コレクション向きだ!」という感覚が強く
出た為、私は、フォクトレンダー系での最小限(2台)の
レンジ機と最小限の交換レンズを残し、他は全て処分(譲渡)
さらには、ライカや旧コンタックス等の、ある種の志向性は
全て封印(購入停止)する事とした。
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総論だが、本レンズSC35/2.5に関しては、生産本数も希少で
超レア品の為、いまさら中古市場に出てくるものでもないし
プレミアム価格で買うものでも無いし、さらにはっきり言えば
実用価値も全く無い。あくまでコレクション向けのレンズで
あると思う。

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では、今回ラストのシステム
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レンズは、SC SKOPAR 21mm/f4
(新品購入価格: 55,000円)(以下、SC21/4)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

上記SC 35/2.5とまったく同じ出自の限定版超広角レンズ。
先に結論から言えば、本レンズも殆ど実用価値は無い。
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だが、そうやって使わないままで死蔵してしまったら、
単なる「コレクション」になってしまう。
なんとか、このレンズの使い道が無いか?と、年に数回だが
持ち出して撮るようにもしている。

実は、こういう(レンジ機用レンズの)記事を書いている
のも、本レンズを使う意味を見出す為の理由もある。
さもなければ、本当に死蔵したままになってしまいそう
だからだ(汗)

まあ、撮影技法的には遠距離被写体を少し絞って撮る
だけなので、何ら面白味が無いのではあるが、それでも
本レンズの描写力が高い点は長所であろう。

周辺減光もフルサイズ機では良く現れるので、これを
作画上の特徴にしてしまうのも良いのではあるが、
この技法では、構図上の注目点を中央部に置かなければ
ならない。いわゆる「日の丸構図」であるから、その点でも
やはり普通すぎる撮り方にしかならない。
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で、レンジ機用の広角レンズは、小型なものであっても
高性能である事は確かだ。これは、一眼レフ用の広角レンズ
では、焦点距離の短いレンズでは、カメラのミラーボックス
の奥にあるフィルム面に焦点を結ばない為に、これを伸ばす
「レトロフォーカス型」設計を行わなければならない。
この為、どうしても余分なレンズ群が入ってしまい、その分
収差の補正等の性能面で不利な設計にならざるを得ない。

まあ、その事実から「レンジ機用の広角レンズは優れている」
と銀塩時代には、その事が「常識」ではあったのだが、
ただ、デジタル時代になっては、そうとも言い切れなくなって
いる。簡単な例を挙げれば、レンジ機よりもさらにフランジ
バックが短いミラーレス機用の広角レンズでは、レンジ機と
同様な設計メリットを得る事も出来るだろうからだ。
それに、そういう場合には、レンジ機の制限である距離計連動
上での最短撮影距離の長さ、という重欠点も回避可能である。

結局のところ現代において、レンジ機用レンズには、殆ど
実用的価値は無い訳だが、まあ、そういう「不便なレンズ」
を楽しむのも、一種のマニアックな使い方なのかも知れない。

でも、そういうマニア的な楽しみ方を語るならば、本SC21/4
のような近代的設計のレンズは、どうにも良く写りすぎる
ようにも感じてしまうのだ。

オールドやクラッシックなレンズであれば、それなりに
様々な弱点がある、それを許容して楽しむ事は、一般的には
「レンズの味を楽しむ」と言われるのだが、それだと曖昧
すぎるし、弱点がある事をはっきりといわず、オブラートで
包み込んで隠してしまっているような悪印象すらある。

だから、もっとはっきり言えば、「レンズの弱点は、それを
逆用して作画に生かす」と考えれば、よりポジティブだ。
それこそ、現代のレンズは、このSC21/4の時代よりも
20年近くを経過し、さらに描写力が高くなっている。
そんな中、オールドレンズの存在意義は高く、現代レンズ
では決して得られない描写が、たとえそれがレンズの欠点で
あっても得られる訳だ。
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本SC21/4は、規格の上ではクラッシックすぎる状況であるが
写りは決してオールドでは無い、その点は、その時代に
おいては、クラッシックな機体の旧CONTAXや旧NIKON Sでも
現代的な写真が撮れるメリットではあったかも知れないが、
少し時代が経つと、また、そうとも言い切れなくなっている
という事だ。

本レンズは、使い方や、そこに何を求めるか?が、極めて
難しいレンズではあるが、まあ、歴史的価値は高く、
マニアック度も高いレンズだ。
決して今からの購入は推奨しないが、まあ、参考まで・・

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さて、今回の記事「フォクトレンダー・レンジ機用レンズ」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・

最強50mmレンズ選手権(6) 予選Fブロック AF50mm/f1.4 Part 2

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所有している一眼レフ用の50mm(前後の)標準レンズを、
カテゴリー毎に予選を行い、最後に最強の50mmレンズを
決定する、というシリーズ記事。

今回は予選Fブロックとして「AF50mm/f1.4(Part2)」の
カテゴリーのレンズを5本(AF4本、および番外1本)
紹介(対戦)する。

ここまで5回の記事は、殆どが銀塩時代(~1990年代)の
標準レンズばかり紹介して来たのだが、どれも同じような
レンズ構成、描写傾向、性能仕様ばかりで、個性が無く、
書いている自身でさえ、少々嫌になってきていた。
記事を読む方も、さぞかし大変だったであろう(汗)
結局「どのメーカーの標準レンズを買っても同じ」という
事実は、嫌と言う程に理解したのではなかろうか・・?

だが、今回第6回記事は、全て2000年代以降の新世代の
標準レンズであり、これまでの時代の変形ダブルガウス型
構成では無いレンズが大半だ、やっとここで個性あるレンズ
群の紹介が出来ることになり、少々ほっとしている。

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まず今回最初のレンズ。
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レンズ名:SIGMA 50mm/f1.4 DG HSM | Art
レンズ購入価格:71,000円(中古)
使用カメラ:CANON EOS 7D MarkⅡ (APS-C機)

レンズマニアックス第2回記事等で紹介の、2014年発売の
大口径AF標準レンズ(以下A50/1.4と表記)
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まずレンズ構成を上げれば、8群13枚という、これまでに
無い複雑な構成となっている。変形ダブルガウス型とかの
そういう用語も全く当てはまらず、コンピューター設計の
申し子のような新世代の標準レンズである。

ただ、この複雑なレンズ構成により、本レンズの重量は
815gと極めて重い、これは過去の一般的な50mm標準
レンズの約3倍から7倍にも及ぶ重さだ。

フィルター径はφ77mmもあり、全体にかなり大柄だ。

おまけに価格も高い、発売時定価は税込みで14万円近くで、
標準レンズとしては、まさしく異例だ。

「大きく、重く、高価」この「三重苦(三悪)」により、
ハイコスパ名玉編には、ノミネートすらされなかった、
まあ、「コスパ面」では、お話にもならないレンズだ。

近年の一眼レフ市場の縮退により、当然、交換レンズの
販売本数も減っているであろう。
SIGMAのような(殆ど)レンズ専業メーカーでは、
交換レンズが売れないと事業が継続できない。

そこで、SIGMAは2013年頃から戦略転換をした。
これまで販売していたレンズ群の多くを生産中止として、
高級レンズ(すなわち、高性能なレンズであり、高価な値づけ
ができる。つまり数が売れなくても、1本売れば十分な利益が
出る製品)の開発に力を入れたのだ。

その最右翼が「Art Line」と呼ばれる、高性能単焦点
レンズ群だ、具体的に機種名を上げよう。
14mm/f1.8 DG HSM
20mm/f1.4 DG HSM
24mm/f1.4 DG HSM
28mm/f1.4 DG HSM
35mm/f1.4 DG HSM
35mm/f1.2 DG DN (注:ミラーレス機用のみ)

40mm/f1.4 DG HSM
50mm/f1.4 DG HSM
85mm/f1.4 DG HSM
105mm/f1.4 DG HSM
135mm/f1.8 DG HSM
これ以外にも、超大口径ズーム、マクロや、ミラーレス機用
の高性能単焦点(DNシリーズ)もArt Lineに属している。

単焦点は、ほとんどが開放F1.4級であり、超広角14mmと、
望遠135mmだけが開放F1.8だ。

これらの単焦点シリーズは、4本程所有している。
Art Line単焦点は確かに高価だとは思うが、思い切って
手ブレ補正機能を排除するなど、硬派な仕様である事が
個人的には気にいっている。

つまり「大口径レンズなので、軟弱な手ブレ補正などは
不要なので、その分、レンズ性能を上げてくれ」
という意味だ。その価値感覚を満たしてくれるコンセプト
であれば、それは直接的な購買動機に繋がる。
これは、かなり正当な「付加価値」である。

(注:Art Lineは、いずれも超重量級のレンズなので、
業務用途専用で、かつ三脚利用が前提の故に、手ブレ補正
無しの仕様なのかも知れないが、個人的には、基本的に
三脚は使用しないポリシーである)
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消費者側から見て不当な付加価値とは、例えば「手ブレ補正
と超音波モーターを入れたから、その分値段が上がりました」
と言われても、こういう機能が本来の用途上からは不要な筈の
マクロや広角レンズに迄も、それらが入ってしまう等である。


カメラ側でも同様、「最高感度がISO160万になったから
高価なのです」等と言われても、実際にはノイズだらけで、
その高感度は使い物にならなかったりする。

つまり、カタログ上の数値や性能ばかりを強調して、中身や
実用性が伴っていない事等は、不当な付加価値だ。おまけに
それで高価になった製品を買わせられるのだから、たまった
ものではない。こういう矛盾点は、消費者側で見抜いて
「買わない」等の対処をする必要があるのだが、まあ皆が
それをしてしまうと、縮退したカメラ市場が崩壊する。
結局、「付加価値の正当性」を見抜けない消費者層には
そうした高価な製品を買ってもらわなければならない訳だ。
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余談が長くなった・・
価格(定価)が高価である事が、直接的に描写性能に結びつく
訳では決して無いのであるが、本レンズの場合は、幸いな事に
描写性能的には、殆ど問題点は見られない。
解像感が高く、最短撮影距離も40cmと短く、ボケ質破綻も
起こりにくい、では申し分無いではないか?という点だが・・

最大の課題は、この「大きく、重く、高価」という三重苦を
ユーザー側で、どう評価するか?だ。
これらの課題が容認できるのであれば、悪く無いレンズだ。

---
では次のレンズ。
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レンズ名:smc PENTAX-DA★55mm/f1.4 SDM
レンズ購入価格:42,000円(中古)
使用カメラ:PENTAX KP(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス名玉編第4回(第3位)
ハイコスパ名玉編第10回(第9位)記事等で紹介した、
2009年発売のAPS-C機専用AF標準(中望遠画角)レンズ。
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先のA50/1.4と同様、本レンズも超音波モーター(SDM)
搭載であるが、内蔵手ブレ補正機能は入ってない。
(注:PENTAX機用なので、ボディ内にその機能がある)
まあ、と言うか手ブレ補正が入っている標準(級)レンズ
は極めて限られていて、私が知る範囲では、2015年の
TAMRON SP 45mm/f1.8 Di VC USD (Model F013)
くらいしか知らない。(レンズマニアックス第7回記事)

本DA★55/1.4だが、過去紹介記事でいずれも評価点が
高かった名玉である。
比較的新しい設計でありながら、その後の2010年代製品
のような過度な高付加価値型ではなく、発売時の実勢価格は
およそ8万円程度。オープン価格であるので、その後の
新品価格は6万円台位まで低下、中古相場は4万円以下に
まで落ちてきているので、近代の高性能標準レンズに比べ
買いやすい価格帯である。すなわちコスパがなかなか良い。
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細かい特徴だが、smc銘であるが旧来のsmc型コーティング
に加えて、新方式のエアロ・ブライト・コーティングを
採用している。
ただ、ある新技術を搭載しているからと言って、だから良い、
とか言う理由にはならず、技術はあくまで結果を得る為の
1つの手段にしか過ぎない。肝心な事は、トータルで優れた
描写性能が得られているか否か?である。

そういう視点では、本レンズの描写力は満足の行くレベル
である。APS-C機専用レンズなので、中望遠画角になって
しまうのがちょっとしたネックではあるが、これは元々、
銀塩時代のPENTAX FA★85/1.4(ミラーレス名玉編第1回)
のAPS-C機用代替レンズとして企画され、同一設計者の手に
よるものであるから、換算画角が82.5mmとなるのは当然だ。
(注:恐らくは、FA85の構成を2/3にスケールダウンした、
 ジェネリック型設計であろう)

その出自から、(現在となってはセミレア品となっている)
「幻の名玉FA★85/1.4」の、やや独特な雰囲気の描写力
(この事が、言葉では伝え難いのがなんとも歯がゆい、と、
当該レンズの紹介記事では何度か述べている)が、本レンズ
においても、よく再現されている。

本レンズや、FA★85/1.4、それからFA77/1.8あたりは
光学ファインダーで覗いて見るだけで、他のレンズとは
違う、何か独特の雰囲気を感じる事ができる。
PENTAXでは20年程前のカタログで、それを「空気感」と
表現していた。まあ、わからない感覚では無いが、やや
抽象的すぎる用語表現であろう。

本DA★55/14の弱点は、SDM超音波モーターの作動音が、
高周波の可聴帯域まで落ちてきていて、その「チーッ」と
いう音がうるさい事位であるが、他は概ね問題が無い。

APS-C機専用とした事で小型軽量化を実現、かつ高描写力で
近代レンズとしては、値段もさほど高価では無い事が
総合的には好評価に繋がる。

さらに新しい2018年発売のフルサイズ対応標準レンズ
HD PENTAX-D FA★50mm/f1.4 SDM AW
との差異が気になるかも知れないが、あいにくそちらは
未所有だ。
まあ、もし最新型の描写力がとても良かったとしても
「高付加価値型レンズ」の場合は、価格が高いので、
中古相場が十分下がるまで、指をくわえて見送るしかない。

それに比べて、本DA★55/1.4は、現在では比較的こなれた
中古相場で購入する事が可能だ。DFA型を入手する迄の間の
繋ぎで買っても問題無く、むしろ、本レンズの優れた描写力
を知れば、さらなる最新型レンズへの買い替えや買い増しは
不要、と思ってしまうかも知れない。
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本DA★55/1.4は、コスパに優れた名レンズであると思う。
本50mm選手権シリーズ記事の終盤に予定されている決勝戦
あるいはB決勝(下位決勝)に進出する事は確実だとは思うが、
また決勝戦近くになったら、その組み合わせを発表しよう。
なお、決勝戦では、個々の標準レンズの多項目による
評価点をあげ、それで優勝レンズを決定する予定だ。

---
では、3本目のレンズ。
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レンズ名:CONTAX N Planar T* 50mm/f1.4
レンズ購入価格:33,000円(新品在庫品)
使用カメラ:PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)

ミラーレス・マニアックス第9回、第50回記事で紹介の、
2001年発売のCONTAX Nシステム用大口径AF標準レンズ。
(以下、NP50/1.4)
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京セラ・コンタックスが2005年にカメラ事業から撤退して
しまう主因となった「CONTAX Nシステム」の悲運の歴史
については、本ブログの様々な過去記事で紹介済みだが、
近年の記事としては、「銀塩一眼レフ・クラッシックス
第24回 CONTAX N1」編に詳しい。

興味がある方は、当該記事等を参照していただきたいが、
そもそも、Nシステムを現代において再興させようとする
のは、かなり困難である事は最初に述べておく。

まず、機体が無い。Nシステムには銀塩35mm判、銀塩中判、
デジタル(フルサイズ)があるが、どれも現代では入手が
困難か、あるいは入手できても実用性が皆無だ。
レンズの方もセミレアであり、中古があったとしても
コレクター向けのプレミアム相場で、コスパが悪い。
そしてNマウントレンズをデジタル一眼レフやミラーレス
機で使用できるようにするのは、さらに困難である。
2000年代にはNマウントをEF(EOS)マウントに換装する
サービスが海外で行われていた模様だが、今はその話も
聞かない。

また、マウントアダプターは、ごく短期間だけ、いくつかの
メーカーから、電子接点型、および機械絞り羽根内蔵型が
発売されていたが、販売数が少なく、殆どが現在では生産
終了と思われ、アダプターの入手も困難だ。

それから、サポートあるいは情報収集も厳しい。
京セラがカメラ事業から撤退10年後の2015年には、サポート
(補修サービス)も終了し、現在の京セラのWEBページ
からは過去機の情報(取扱説明書含む)も削除されている。

WEB上にも(SNS等が普及前の時代であった為)、有力な
Nシステムに関する一次情報は殆ど見当たらない。
(注:スペック等を転記するだけの二次情報は稀に存在する)

なので、本ブログにおいて様々なNシステム関連の記事を
書く際には、手元にある限られた機材を触りながら、あるいは
記憶をたどりながら、はたまた同時代の他の写真機材環境から
類推しながら、「一次情報」をまとめていた状況である。
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さて本NP50/1.4であるが、大柄なレンズであるというのが
第一印象であろう。それでも、重量は310g程度に留まり、
本記事冒頭に紹介の(最)重量級標準SIGMA A50/1.4の
815gのおよそ1/3程度でしか無い。

前機種、RTSマウント版のPlanar T* 50/1.4
(本シリーズ第1回等)との比較であるが、レンズ構成は
同じ6群7枚であるが、レンズ後群の設計がずいぶんと異なる
ように見える。具体的には、旧来のP50/1.4は、後玉が
平面または少し凹だが、本NP50/1.4は後玉が凸面である。
これはデジタル化を見据えた、テレセントリック特性への
配慮だと思われる。

この設計の微妙な差異によるものか、本NP50/1.4は
旧来のP50/1.4よりも、ボケ質破綻(いわゆるプラナーボケ)
が出にくい。
この長所は実用上はかなり好ましく、1つは旧来のP50/1.4
は、撮影条件(撮影距離、絞り値、背景の図柄等)が整った
時にしか最良のボケ質を得る事が出来なかったのが、
本NP50/1.4では、多くの撮影条件で優れたボケ質を発揮
する事が出来る事だ。

もう1つは、これは使用機材の問題であるが、私が使用して
いるCONTAX N→μ4/3のマウントアダプターは、機械絞り羽根
内蔵型である、これはレンズ後群のさらに後ろに、絞り羽根が
存在する事となり(=視野絞り型)、後群からの光束を遮り、
露出値(光量)調整の意味はあるのだが、本来のレンズ内部に
絞り羽根が存在する状態(=開口絞り型)と比べて、絞り羽根に
よる被写界深度調整やボケ質のコントロールが殆ど効かない。

つまり絞り値によるボケ質破綻の回避の技法が使えない、という
事であり、もし旧来のP50/1.4のように、ボケ質破綻が頻繁に
発生するタイプのレンズだったら、このアダプター仕様では、
回避が困難で、お手上げであっただろうからだ。

ちなみに、何故、機械絞り羽根内蔵型のアダプターを使用
せざるを得ないか?と言えば、CONTAX Nマウントの絞り機構
は電子制御タイプであり、一般的なアダプターでは絞り羽根
が動かないからだ。
これは別にNマウントだけの仕様ではなく、他社のEOS EFや、
4/3(フォーサーズ)、ニコンE型レンズ(電磁絞り)等でも
同様である。
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さて、肝心の写りだが・・
初級マニア等であれば、CONTAXと名前が付けば、良く写る
レンズだと勘違いしてしまい、良く写るから高いのだと誤解
してしまい、さらにそれを無理して買えば、高く買ったの
だから良く写ると、どんどんと妄想の世界に入り込んでしまう。

冷静に本レンズの描写力を見れば、ここまで散々5回の記事で
紹介してきた数十本の「並の標準レンズ」と大差は無い。
だた、並だから、悪いのか?と言えば、そういう事も無く、
どの標準レンズでも普通に良く写る。
しかし、本NP50/1.4も、その範疇からは脱却できていない。

ちなみに、ほぼ同時期に発売されたNシステム用の
N Planar T* 85mm/f1.4(ミラーレス名玉編第3回、
第10位相当)は、とても気合を入れて開発されたレンズだった。

本レンズNP50/1.4は、当時のマニア層から
「旧型のRTS Planar 50mm/f1.4にAFの側を被せただけ」
と揶揄されていたのだが、それは間違った情報であった。
まあ、色々言っていた人達は、結局誰もNシステムを購入して
いなかったのだ。だから何が正しくて、何が間違っているの
かも、わかる筈も無い。

まあでも、正直言えば、そこまで悪く言う必要は無いが、
NP85/1.4への気合の入り方から比べると、本NP50/1.4は
少々手抜きして作られたレンズのようにも見えてしまう。
それは、旧来のP50/1.4に比較して、大幅に改善した点が
あまり見受けられないからだ。

で、何故NP85/1.4の場合は、旧来のP85/1.4に対して
相当に気合を入れて改良が計られたのか?と言えば、
それは、旧RTS Planar T* 85mm/f1.4が、初級マニア層
や金満家層から「神格化」されたレンズであったからだ。

RTS P85/1.4は、実際の性能的には様々な弱点を持つ
レンズではあるが、それをここで書いていくと際限なく
文字数が増えるので、ばっさり割愛しよう。

(以前の様々な記事でも、そこについては述べている)
でも神格化されていれば、CONTAXの「顔」(代表的な)
レンズである新型NシステムのNP85/1.4は、旧P85/1.4
の弱点を徹底的に改善しなければならない。
(そもそも、27年も発売時期が異なるのだ・・)

ボケ質破綻の改善や焦点移動の問題は、若干の改善が
図られたが、ピント精度による歩留まりの悪さの改善は
出来なかった。これはNP85/1.4に限らず、殆どの85/1.4級
レンズでの宿命であり、一般的に成功率は10%程度、つまり
10枚中9枚までは、ピントを外してしまう。

この問題の解決には、カメラ側にも新機能が搭載された。
CONTAX N1(2000年、銀塩一眼第24回記事)では、
「フォーカス・ブラケット」機能により、ピント位置を
わずかにずらしながら3連写を行う。
ここから、ピントの合っている写真を探す訳だ。

「その機能を使うと、フィルムが3倍無駄になる」等とは
言うなかれ、この機能を使わないと、前述のように、
10枚中9枚はピントが合わず、さらにフィルムが無駄に
なってしまうのだ(汗)

余談が長くなった、本P50/1.4は、NP85/1.4ほどには
気合を入れて作られたレンズでは無いが、とは言え、
問題があるレンズでは無い。ともかく銀塩用標準レンズは
どれも良く写るのだ。

---
では、4本目のレンズ。
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レンズ名:FUJIFILM XF 56mm/f1.2[T1.7] R APD
レンズ購入価格:110,000円(中古品)
使用カメラ:FUJIFILM X-T1(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス名玉編第3回(第6位)記事等
多数で紹介した、2014年発売のAPS-C機専用AF標準
(中望遠画角)アポダイゼーション・エレメント搭載型
特殊レンズ。
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このレンズ、あるいは、アポダイゼーションについて
述べていくと際限なく文字数が増えてしまう。過去記事
でも色々と詳細を書いているので、今回は割愛しよう。
(特殊レンズ第0回「アポダイゼーション・グランド
スラム」編記事等を参照の事)

簡単に言えば、「ボケ質の大変良い」レンズである。
グラデーション状に透過率が変わる(周辺が暗い)
光学フィルターを内蔵していて、これをアポダイゼーション
光学エレメントと呼ぶ。
この機能を搭載している(交換)レンズは4本のみであり
1998年より長らくは、MINOLTA STF135/2.8[T4.5]
(後にSONY版)(ミラーレス・マニアックス第17回記事等)

のみであったが、2014年、突如本レンズが発売された。

その後も、中国製LAOWA 105mm/f2が2016年に、
(ハイコスパ名玉編第1回記事等)
2017年にはSONY FE100mm/f2.8 STF GM(グランドスラム
記事等)と、アポダイゼーション機構を持つレンズが続けて
発売された。
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それと、本レンズ XF 56mm/f1.2[T1.7] R APDには
同スペックで、アポダイゼーションを搭載していない
XF 56mm/f1.2 Rが存在する。そちらは未所有なので
両者を比較する事はできないが、アポダイゼーションの
「付加価値」(=値段を高くする要素)が無いので、
新品定価はAPD版の20万6000円(+税)に対して、
ノーマル版は13万1000円(+税)と、かなり安目だ。

ノーマル版はアポダイゼーション光学エレメントが無い分、
実効F値であるT値を比較すると、T1.7対F1.2と明るい。
アポダイゼーションの有無により、解像度等、若干光学特性
が異なるかもしれず、ノーマル版もコスパ面では魅力的だ。

本APD版の弱点だが、極めて高価な事だ。
だがまあ、その点は「高付加価値型商品」であるから、
やむを得ない。

部品代の差は、アポダイゼーションの有無だけなので、
20世紀型のような製造原価からの定価決めの構造であれば
それだけで7万円も定価が上がる筈はなく、要は開発費の
減価償却が乗っている事とか、「この価格でも欲しい人は
買うだろうから」という市場原理上での値付けである。

これがまあ「高付加価値型商品」の特徴であり、
要は、「高くても売れる可能性がある商品だ」という事だ、
消費者側から見れば、どうしても欲しいと思えば、買うしか
無いし、コスパが悪すぎると思えば、買わないという選択だ。

では、このレンズを買う意味(意義)があるのかどうか?
そこは、コスパの感覚が多分に影響する事であろう。
「コスパ」を主要な購買論理とする私としては、
性能に比べて値段が高すぎる商品は買わない、という事が
殆どなのだが・・・
ここで言う「レンズの性能」とは、一般的に想像するだろう
写り(描写力)だけという訳ではなく、私の場合は、
他のレンズ評価記事で行うように、様々な評価要素を総合
して性能(価値)を決めていく。
本XF56/1.2APDの場合は、発売時には、史上2本目で16年
ぶりに新発売されたアポダイゼーションレンズであり、
かつ、史上初のAF対応だ(その後、SONY FE100/2.8STF
もAFで発売された)これらからの、マニアック度や
歴史的価値、所有必要度が高く、それらを総合的に考え、
購入を決めたのだが・・ 問題は価格であった。

定価税込み22万円強はさすがに高すぎる、新品市場価格は
18万円程であったが、それでも同様に非常に高価だ。
1年ほど中古が出るのを待って、税込み約11万円で、やっと
中古入手した次第である。

ちなみに、13万円を超える価格のレンズは、どんなに性能が
高くても買わないようなルールを設けている。
もしそういうレンズがあれば、中古が13万円より下がる迄、
何年でも待つのだ。(注:近年のレンズ価格の上昇を
鑑みて、最近、このルールは最大15万円迄に緩和した)

さて、描写性能的にはどうか? そこが優れていないと、
高価で買ったのが無駄になる、つまり、コスパの原点である
描写力が低ければ、どんなにマニアック度等が高くても
意味が無い。もし、そうなった場合は「ぼったくりレンズ」
として、個人的に嫌いなレンズの代表格となってしまい、
使わない、酷使して使い潰す、あるいは処分(譲渡)して
しまう、など、そういう措置になってしまうのだ。

「そんなもの(描写力)は、買う前にわかるだろう?」とは
言うなかれ、WEB上のレビュー記事などでの掲載作例等は
ある撮影条件で撮られたものであって、全ての撮影条件
まではカバーできないのは当然だ。
それに、良く写っている写真ばかりを掲載するのも、
まあ当然の措置であろう。であれば、例えば具体的には、
ボケ質破綻が発生する条件や、その場合の作例などは
いくらレビュー記事を検索しても、見つかる筈が無い。

結局、他人の評価は全く参考にする事が出来ず、自身で
購入後、しかも、何千枚も、何万枚も撮ってからでないと
レンズの真の性能(描写力)は見えてこないのだ。
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本XF56/1.2APDであるが、レンズ自体の性能として、
若干解像感が甘く感じ、ボケ質破綻も稀に発生する。
いくらアポダイゼーション・光学エレメントを搭載して
いるからと言って、ボケ質以外にも全てのレンズ性能が
向上する訳でも無い。むしろ、マスター(主)レンズの
基本性能が低いと、アポダイゼーションを搭載していても
意味が無い訳だ。まあ我慢できない程性能が低いという
訳では無いが、「高価なレンズなので、高い基本性能は
期待してしまう」という課題もある。

本レンズは、8群11枚のレンズ構成で、非球面レンズ1枚、
異常分散レンズ2枚と、まあ贅沢な設計ではあるが、
レンズ構成を複雑化するのと、性能が上がるのはイコール
だとは言い切れない。

なお、開放F1.2級の標準レンズは設計が難しいのか?
MF時代からも色々出ているが、あまり感動的という描写力
を持つレンズには、出くわした事は無い。
(次回記事で紹介予定)

ましてや、それ以上の大口径、F1.0やF0.95ともなれば
なおさらであり、大口径化と、様々な描写性能は、
トレードオフの関係(どちらかを優先すれば、どちらかが
成り立たない)ようにも思えてしまう。

本XF56/1.2APDは、悪くは無いレンズではあるが、
購入を検討する際は、コスパの悪さは覚悟しておく必要が
あるだろう。そのあたりも、購入側が、マニアック度や
歴史的価値をどう判断するか?のトレードオフだと思う。

---
では、今回ラストのレンズ。
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レンズ名:COSINA Zeiss Milvus 50mm/f1.4 ZF2
レンズ購入価格: 85,000円(中古品)
使用カメラ:NIKON Df (フルサイズ機)
(以下、Milvus50/1.4)

2016年に発売の高解像力仕様MF大口径標準レンズ。
レトロフォーカス(ツァイスで言う「ディスタコン」)
構成という極めて珍しい標準レンズだ。
MFレンズではあるが、新鋭レンズにつき、便宜上
この「AF50/1.4」のカテゴリーでの予選対戦とする。
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ツァイスのブランド銘ではあるが、日本のコシナ製だ。
まあ、現代のカール・ツァイス銘の写真用交換レンズは
正式に公表されてはいないが、全て日本製(コシナ、他)
である。

さて、本レンズは「高付加価値型商品」である、つまり
一眼レフ市場の縮退を受け、メーカーや流通が利益を確保
する類の商品であるから、ユーザーから見たコスパは悪い。

そして、8群10枚というレンズ構成は、重く(約900g)
大きく(フィルター径φ67mm)、そして高価(定価が
税込み16万円以上)であり、おまけにMFレンズという
「四重苦」である。まあでも、一部はSIGMA A50/1.4
(前述)やOtus55/1.4(未所有)より若干はマシだ。
MFである点も、ZF2マウント(ニコン用)を買っておけば
ニコン機や他社機のほぼ全てで(アダプターを介して)
装着して全く問題なく使用できるという長所に繋がる。

では、何故このような「四重苦」レンズを購入するのか?
と言えば、これはディスタゴン構成の標準レンズへの
知的好奇心が大きい、つまり「研究用」なのだ。

別に「(有名な)ツァイスだから良く写る」などと
初級中級者の持つ誤解のような考えは持っていないし、
そのブランド力をアテにしたり、所有満足度を得る為の
購入では無いのだ。
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本Milvus50/1.4の長所であるが、実用十分の描写性能を
持つ事である。特に不満点はなく、普通にとても良く写る。
特に優れた点はコントラストの高さであり、使用カメラが
変わったかのような印象を受ける。

しかし、この長所は、やはりコスパを意識しないとならない
であろう、いくら良く写るレンズでも、とんでもなく高価で
あったらコスパ評価は極めて悪くなる。

現状、私の評価データベースでの本レンズのコスパ評価は
5点満点で2点である、つまり平均的よりやや低い。
ただ、「壊滅的にコスパが悪い」とは言い切れず、
まあ、SIGMA A50/1.4と同等のコスパ点、および他の
評価傾向も、ほぼ同一である。(いずれも総合点4点)


先日、量販店の店頭で、ツァイスの営業(販売)担当者
が居たので、わざと、ちょっと意地悪な質問をしてみた。
匠「MilvusやOtus、なかなか良さそうですねえ。
  SIGMAのARTと迷っているのですが、どちらが良いですか?」
担「う~ん、SIGMAさんのARTシリーズも評判が良いですね」

まあ、そういう答えになるだろう。そこは予想済みだ。
結局、ツァイス側としても、SIGMA ART LINEは意識している
という、ライバル関係だと思われる。

私の評価では、どちらを買っても良いと思う。
AF(超音波モーター)で現代的な撮影技法を用い、
趣味撮影のみならず業務撮影用途も意識するならば、
SIGMA ART LINEが効率的だと思うし、
趣味撮影オンリーであれば、MFでマウント汎用性が高い
Milvusが好ましい。
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まあ、結局、レンズの性能としては、このクラスとも
なれば全く不満は無いだろうし、目につく弱点も無い。
消費者側としては、自身の用途に合わせて選択すれば良い
という事になる。迷って悩むならば、両方買ってしまう
という選択肢もある、多少強引で、予算も必要な話だが、
精神的にはそれで満足するだろうし、「最良のレベルの
標準レンズ」という価値観や判断基準が、どのあたりと
なるのか?も理解できる事であろう。

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さて、ここまでで「最強50mmレンズ選手権」における
予選Fブロック「AF50mm/f1.4 Part2」の記事は終了だ、
なお、本記事の紹介レンズの中には、決勝進出の可能性
が高いものが多いだろう事は述べておく。

次回の本シリーズ記事は、
予選Gブロック「MF50mm/f1.2」となる予定だ。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(23)ピンホール特集

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回の記事では、ピンホール(レンズ)を4本紹介しよう。

ピンホール(Pinhole)とは、「針穴」であり、単に小さい穴が
開いているだけけで、「レンズ」とは言い難いが、本記事では
適宜「レンズ」であるかのように記載する場合もある。

なお、いずれも「ボケボケ」の写りなので、見ているときっと
「眠くなる」(笑) あまり特集記事としては好ましくは
無いが、本シリーズは上級マニア層以上向けなので了承あれ。

それと、言う迄も無いが、ピンホールの写りは基本的には
「周辺減光」を伴うものでは無く、画面全般が均一の明るさで
写る(ピンホールは周辺が暗くなる、と誤解している人が多い
それが起こるのは、後述の「埋め込み型ピンホール」の場合
のみであり、むしろそちらの方が特殊なケースであろう)

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まず最初のシステム
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ピンホールは、LENSBABY MUSE PINHOLE OPTIC
(中古購入価格 4,000円 注:OPTICのみの価格)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

「ピンホール」、すなわち小さい穴(針穴)に光を通す事で
風景等の映像が写る事は、カメラ登場以前の非常に古い時代
(数千年前の古代中国とか古代ギリシャの時代)から知られ
ていた。

もっとも、この古代では、ピンホールと同様に水滴等を
通った光が屈折して像を結ぶ事も知られていて、すなわち
「レンズ」の原理も、既に理解されていたと思う。
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レンズよりも構造が簡単なピンホールは、古代における天体観測
(日食等)でも多く使用されていたし、その後の時代も同様だ。

16世紀頃になると、ピンホールは「絵画」の為の道具として
(絵を描く際にピンホールの像を見る)芸術家達にも広まる。
かの「レオナルド・ダ・ヴィンチ」もピンホールを使って絵を
描いた、と聞くと、「あの名作もピンホールのおかげか?」と、
ちょっと興味深くなってくる。
また、17世紀には、画家「フェルメール」も、正確な
遠近法を得る為に実用的にピンホールを使っていたと聞く。

それまでのピンホールは、1つの部屋を丸ごと使用するなど
大きい物であったが、18世紀頃になると、持ち運びが出来る
小型のものも生まれ、芸術家等は、ますますこれを、屋外で
絵を描く目的に使用するようになる。

これらのピンホール機器の名称は、「写真」の歴史を学ぶ人達
には非常に著名な「Camera obscura」(カメラ・オブスキュラ/
カメラ・オブスクラ)である。これは「暗い部屋」という意味
のラテン語であり、初期のカメラ・オブスキュラが、丸ごと
1部屋を使っていた大型設備であった事を彷彿させる。
(この「暗い部屋」を観光用にした例は、昔から世界でいくつも
あって、近年の日本でも東京ディズニーシー内にあると聞く)

この「camera」がそのまま現代の「カメラ」の語源となっている。
つまり、カメラはラテン語では「部屋」という意味だ。

そう考えると、現代の「デジタル・カメラ」とは「離散的な部屋」
という意味となって、昔の人が聞いたら「いったい、何の意味だ?
アパートのような集合住宅か?」となるかも知れない(笑)

ちなみに「Camera obscura」と命名したのは、かの有名な天文
学者「ヨハネス・ケプラー」(16世紀)であったそうだ。
ケプラーは、地動説における「惑星の楕円軌道の運行の法則」を
考えた事で著名で、これは「ケプラーの法則」として、現代でも
天文学を学ぶ上で理解が必須の原理だ。(試験に出る・笑)

さてピンホールを用いたカメラ・オブスキュラは、そのままでは
風景などの映像が見れるだけで、それこそ天体観測や、絵画用の
目的位にしか使用できないし、その像も非常に暗い。

改良点としては、1つは「光学レンズ」を使用して、より明るい
像を得られるようにする事であり、
もう1つは、ピンホールで得られた像を、なんらかの光/化学的
反応で、像として残す、つまり「写真」を撮る事だ。

後者は1798年頃(フランス革命のやや後)天然アスファルトを
用いて、初めて、カメラ・オブスキュラの像を写真として残す
事に成功、これが現代のカメラの元祖だ。
(余談だが、「フォクトレンダー社」は、この時代の前から既に
存在している! が、マリー・アントワネットは既に居ない)

その後、感光素材は19世紀に大きく発展して、後のフィルムに
繋がるのだが、そのあたりの歴史の説明は、今回は割愛する。

それから、ピンホールのままでは、非常に暗かった為、この頃
の(感度が極めて低い)感光素材では、写真を撮るのに時間が
かかりすぎて実用的ではなかったのだ。よって、前述の、
カメラ・オブスキュラの、もう1つの改良点である「レンズ」
が発達した為、ピンホールはだんだんと廃れていってしまう。

本記事は「ピンホール」特集であるので、「レンズ」は「憎き
ライバル」だ(笑) 歴史の話はこのあたりでとどめておこう。
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さて今回使用のLENSBABY MUSEは、OPTIC(光学系)交換型
システムである。本OPTICは「PIHOLE/ZONEPLATE」という
製品仕様で、2つの異なる効果を切り替えて使用できる。
ZONEPLATEの描写に関しては、別の記事で紹介している
(レンズ・マニアックス第4回記事参照)ので、今回は
ピンホール設定のみで使用する。

焦点距離と口径比(F値)は、厳密には使用するシステムに
依存する、すなわちセンサー面からピンホールまでの距離が
焦点距離となり、その距離を穴径で割ればF値が求まる。

本システムでは、それらの正確な仕様は不明であるが、
これはフォーサーズ機用のマウント品で、使用時はだいたい
フランジバック長約38mm+α、穴径約φ0.35mmと
仮定すれば、F110~F120程度となるだろう。
(仕様表には、F117と書かれている)

このあたり全般の数値は、仕様表のF値以外は推定である。

まあ、ピンホールは通常F180~F250程度なので、ずいぶんと
明るく、高ISO(12800以上)とすれば明所で簡単に手持ち撮影
を可能とするが、反面、穴径が通常のピンホール(φ0.2mm程度)
よりも大きいと思われ、あまりシャープな写りは得られない。

なお、適正な穴径を求めるには、以下の光学公式がある。
適正針穴径=(0.03~0.04)x√(フランジバック長)
一眼レフの場合、0.20mm~0.25mm程度がこの値となる。

それから、LENSBABY MUSEはティルト操作が可能であるが、
PINHOLEは「ただの穴」であるから、光軸を任意に傾けても
ティルトのピント面の効果を出せない(この事はミラーレス・
マニアックス記事等で実験済み)し、ケラれてしまう。

本MUSE PINHOLEは、口径比(F値)が明るい分、手持ち撮影は
容易だが、写りのシャープさに欠ける課題がある、ここは、
どちらかを取れば他が立たない「トレードオフ」関係である。
まあ、基本、トイレンズなので、その設計コンセプトは有りだ。
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それと、今回使用のMUSE本体は4/3マウント版で、現代では、
4/3システムは終焉している為、新品在庫を、かなり安価に購入
する事ができた。ただし4/3版を買って4/3機で使用する場合
では、最高ISO感度が低い為、本PINHOLEのOPTICだけは
使用の際に注意が必要だ。まあでも、他の「ダブルグラス」
や「プラスチック」OPTIC等は、4/3機でも使用可能だ。


今回の使用法では、4/3→Eマウントの「簡易アダプター」を
用いてSONY α7に装着しているが、本MUSEは電子接点を
持たないレンズであるから、かろうじて、この用法ができる。

一般的な4/3機用純正等のレンズでは、電子接点を持たない
「簡易アダプター」では、4/3レンズの絞りもピントも動かずに
使用できない。その際は、4/3→μ4/3電子アダプター
(OLYMPUS等から純正品が発売されている)を用いる必要がある。

まあ、いずれにしても、本OPTICは、ピンホールとしても
やや特殊な類であり、後述のピンホールが正統派であろう。

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では、次のシステム
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ピンホールは、KENKO ピンホール レンズ 02
(新品購入価格 3,000円)(以下、PINHOLE 02)
カメラは、PENTAX K-01 (APS-C機)

希少な市販ピンホールである。他の市販品も、さほど多くない。
現行製品でもある。確か1990年代末位から、店舗用の
カメラ用品の厚いカタログに載っていた、と記憶しているが、
確かな情報は無い。購入したのは2010年代になってからだ。

で、正式名称は上記の通りだが、ピンホールは、「レンズ」
では無い為、本ブログでは便宜上「PINHOLE 02」と記載する
事が多い。
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非常に正統派のピンホールで、市販品故に工作精度が高い。
仕様は「ピンホール穴径φ0.2mm」のみである。
口径比(F値)はシステムに依存するので、後述しよう。


マウントは「Pマウント」で発売されている。これはM42と
構造上は同一規格(内径φ42mm、ピッチ1mm)だが、
各社カメラ用マウントを使用してフランジバックを調整する
のが前提のマウントである為、Pマウント通常レンズを使用
する場合は、単純にM42アダプターで直接装着してしまうと、
撮影距離の制限が出る。(具体的には最短撮影距離が伸び、
さらに、オーバーインフ=合焦が無限遠を超える、となる)

しかし、ピンホールの場合には、フランジバックの差異は
あまり関係が無く、M42マウントアダプターを直接利用できる。

旧来より最も安価な類のPENTAX純正「マウントアダプターK」
を用いれば、PENTAXのKマウントデジタル機への装着は容易だ。
(注:他社機で用いる場合も、M42アダプターを用いる事が
可能であるが、メーカー推奨の正式な利用法は、CANON EF用
又はNIKON F用のPマウント変換アダプターを使用する)

ただ、PENTAXデジタル一眼レフでは、光学ファインダーが暗く
なる為、そのままでは撮影は困難で、ライブビューモードに
切り替えるか、または勘でフレーミングするか、あるいは
外付けの単体ファインダー(注:適切な画角の物は探し難い)
を用いるか・・ 
そして裏技としては、一眼レフの内蔵ストロボをポップアップ
させ、その支柱の隙間を簡易ファインダー代わりとする。
(注:この場合、勿論、内蔵ストロボは非発光モードとする。
画角(視野)はテキトーになるので、アイポイントの長さで
適宜調整してフレーミングする)

そこで、今回は、母艦として唯一のKマウントミラーレス機
PENTAX K-01を使用している。このK-01は、その主な用途が
「ピンホール母艦」である。その理由は、K-01は、その構造上、
AF/MF性能に劣る為、一般的なレンズを装着した際には低性能な
システムとなるが、ピンホール使用時ではピント合わせの負担が
無くなり、欠点が消えて極めて効率的なシステムとなるからだ。
(=弱点相殺型システム)
_c0032138_18532702.jpg
K-01では、AUTOのままで最大ISO25600に到達し、内蔵手ブレ
補正機能(要:焦点距離を45mmに設定)とあいまって、日中
屋外では殆どのケースでピンホールの手持ち撮影を可能とし、
三脚は不用だ。
おまけに、露出補正などの一般的カメラ設定や、エフェクトも
かけ放題で、撮影前にそうした画像処理効果も背面モニターで
確認できる。

殆ど「最強」と言えるピンホールシステムであり、K-01入手後
は、ずっとこの使用法であったのだが、最近はちょっと弱点が
気になるようになってきた。それは、K-01の最高ISO25600では
暗所での撮影では、背面モニターのゲイン(増幅率)が足りず
暗くなり、また、表示フレーム数(fps)も低下する事だ。

まあつまり「暗所では見え難い」という事である。この状態
でも、AE(自動露出)は効いているのだが、「手持ち限界」
(撮影者のスキルにもよるが、本システムでは1/15秒くらい)
を下回ってしまうケースもある為、撮影自体が厳しい。
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ちなみに、開放F値(口径比)の計算であるが、Kマウント機に
これを直接装着時のフランジバック長を45mm程度とすれば、
約45mm÷0.2mm(穴径)=約F225となる。
なお、他社機でPマウントアダプターを使用した場合は、
概算だが、約50mm÷0.2mm=約F250だ。

これらは通常レンズに比べて極めて暗い値であるが、ISO感度を
25600以上とすれば、日中明所での手持ち撮影が可能となる。
まあ、「暗所で撮影しない事」を前提としたシステムであり、
それをしたい、と言うのは欲張った無い物ねだりなのだが・・

幸いにして近年では、PENTAX機の高感度化が進んでいる。
PENTAX K-5(2010)やK-3(2013)ではISO51200まで使え、
旗艦K-1(2016)でISO20万、普及機K-70(2016)でもISO10万、
高性能機KP(2017)では、何とISO82万もある。

これらのK-01超えの高感度デジタル一眼レフをライブビュー
モードで使えば、暗所でのピンホール手持ち撮影が可能と
なる訳だ。(注:機種によっては、依然背面モニターの
ゲイン不足の課題が残る)
なお、KP等では、ライブビューモード専用レバーが有り
それを倒しておけば、一々電源ONの度にライブビューに
切り替える必要が無く、この用法において便利である。

ちなみに、PENTAX機以外の他社デジタル一眼レフ等でも、
2010年代後半以降の新機種は、超高感度化が進んでいるので、
同様な用法が可能だ。

まあしかし、そうした組み合わせは「オフサイドの法則」に
ひっかかってしまう。それら高性能の新機種を、ピンホール
の撮影に使うのは、AF絡みの高性能が全く生かせず、無駄に
カメラの性能が良すぎる状態であるからだ。

その点(これは実用的には正しい用法では無い)のみ、良く
理解及び認識をするのであれば、まあ、暗所でのピンホール
撮影用に、超高感度機を使うのは「有り」だろう。、

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では、3本目のシステム
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ピンホールは、RISING ピンホール WIDE V
(新品購入価格 6,000円)(以下、RISING WIDE V)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

こちらも希少な市販ピンホール(海外製)である。
2012年頃の発売だが、生産完了で後継機種がある様子も無く、
現代では入手はやや困難かも知れない。
機種は沢山あって、まずマウント違いがある事と、それから
ミラーレス機用では「埋め込み配置」型がある(あった)

「埋め込み配置(型)」とは、本ブログでの造語だ。
ピンホールでは、レンズのように合焦する訳では無いので、
センサー面やフィルム面から、ある程度、任意の距離に針穴の
配置が可能であり、その配置距離が、ほぼ焦点距離となる。

一眼レフでは、ミラーBOXが存在する為、フランジバック長
ぎりぎりにピンホールを配置しても、だいたい45mm前後の焦点
距離までが限界だ。これは、フルサイズ一眼レフならまだしも、
APS-Cサイズ以下のセンサーのデジタル一眼レフでは、結構な
望遠画角(約70mm以上)となる為、ピンホール撮影技法とは
あまりマッチしない(注:広角で風景や情景などを撮る事が
スタンダードなピンホール撮影技法と言える)
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ミラーレス機の出現以降、ミラーレス機では、その名の通り
ミラーBOXが無い為、ピンホール自作派等では、ピンホールの
配置位置を、できるだけマウント内に「埋め込んで」配置する
方法が考え出された。


この措置により得られるメリットは以下となる。
1)焦点距離が短く、画角が広い(広角となる)
2)焦点距離が短い事で、口径比(F値)が明るくなる
3)ミラーレス機の(ライブビュー)モニターやEVFで
 構図確認が容易

これらにより、これまでのデジタル一眼レフでの、ピンホール
撮影時の不満事項、「画角が狭い」、「手持ち撮影が難しい」
「構図確認が困難」が、全て解消される。

で、この「埋め込み配置」型のピンホールを市販化した物が
「RISING」シリーズ(のWIDEタイプ)である。

重要な注意点であるが、ピンホールにも「イメージサークル」が
存在している。あまりにセンサーに近接してこれを配置しても
針穴から来る光の角度は限られている為、当然、センサー全面に
迄は到達する事ができない、よって、口径食による「ケラれ」が
発生する訳だ。(↓に説明図)
_c0032138_18540245.gif
そこで、このRISINGピンホール(レンズ)には、埋め込みの度合い
に応じて(つまりピンホールを奥まった位置に配置した製品だ)
「スタンダード」、「WIDE」、「WIDE V」 (Vはヴィネットであり
周辺減光の意味)の、3種類が存在している。
これに応じて、順次奥まった位置に針穴が配置されている。

WIDEやWIDE Vは、ミラーレス機又はレンジファインダー機用の
マウント品でないと(前述のミラーBOXとフランジバックの
関係により)、広角化や周辺減光の効果が得られない。

ただ、これらの構造や原理を、良く理解して使うのであれば、
マウントアダプターを用いて、センサーサイズの異なる他機で
使う事も十分に可能である(注:ちゃんと理解せずに、アバウト
かつ無理やりに他機に装着すると、構造がミラーやセンサーに
ぶつかってしまう等のリスクがある)
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さて、本ピンホールは、SONY Eマウント用のWIDE Vタイプである。
最もセンサー面に近接してピンホールを埋め込んだタイプであり、
広角画角が得られるというよりも、周辺減光が得られるという
効能よりも・・ 逆に課題として、そもそもイメージサークルが
全く足りておらず、画面周辺が大きくケラれてしまう。

旧来、SONY NEX-3を、本RISING WIDE Vの母艦としていたが、
(注:最初期のNEXで、AF性能に優れないので、トイレンズ
系の母艦として、その弱点を相殺する使用法を行っている)
このRISING WIDE Vによる「ケラれすぎ」には、ちょっと不満な
点もあった。そこで今回、この課題への対処としてSONY NEX-7を
母艦として使ってみる。

NEX-7では、本ピンホール使用時にもプレシジョン・デジタル・
ズーム機能が使える。これを使用して絶妙な拡大率に設定する事
により、周辺減光の度合いを、ある程度調整できる訳だ。

なお、「それはトリミングと等価だ」とは言うなかれ、
まず、心理的な意味で、撮影時に行うカメラ設定は、撮影後に
自宅のPCで編集するのとは全く違う、「撮る時の撮りたい気持ち」
を尊重しないかぎりは、写真はアートには成り得ず、ただの
「映像記録」という行為になってしまう。それではつまらない。

それから、PCでのトリミングは画質無劣化であるが、プレシジョン
デジタルズーム機能はカメラ内部での画像処理であるから、
画質劣化が生じる(例:輪郭線が固くなる等)
一般的な「Hi-Fi写真」では、画質劣化は「ご法度」であるが、
ピンホールのような「Lo-Fi写真」は、画質よりも表現を求める
アート的な撮影ジャンルだ、この場合、「アンコントローラブル」
(制御不可、突然変異的)な要素を、あえて人為的に加える事も、
非常に大きな意味があり、つまり「思わぬ画質劣化」は、この
システムでは歓迎である。

この辺りは、初級中級層には、まず理解不可能な話だとは思うが、
「写真の本質」として、とても重要な事である。
一般的な初級中級層が志向するように、高性能な撮影機材を使って
綺麗な写真を撮るだけでは、それは下手をすれば「単なる映像記録」
になってしまうだけで、面白味が得られない事も多々ある訳だ。

まあ、写真を始めて数年間位は、そういう風に機材に投資したり
技能を高める修練も必要かも知れないが、もうその時期を過ぎたら、
自身の表現を写真で主張していかなくてはならない、それが出来な
ければ、いつまでもビギナーのレベルから脱却できない事になる。

あと、他の芸術ジャンルでの前例を挙げるならば、19世紀頃の
「印象派」の誕生の歴史を学んで見ると良い。それ以前の時代の
「新古典派」「ロマン派」「レアリスム」等と、「印象派」とは
全く別の観点で絵を描いた訳である。勿論当初は、その新発想は
世間には受け入れられ無いものであったが、数十年かけて難なく
定着、近代での絵画のオークションで高額に取引される作品は
たいていが「印象派」のものだ、(注:近年では、また様相は
変わってきている模様)まあつまり、それだけ芸術性が高いと
認識されている訳だろう。

ちなみに、勿論印象派の画家達も若い頃は正統派の絵画技法を
学んでいる。画家によっては若い頃の作品の方が「綺麗で上手」
という評価を受けるかも知れない。だが、彼らは皆、個性的な
新表現を求める為に、その古い殻を打ち破って、新しい手法に
挑戦をし続けた訳である。そして、基礎を学ぶ事の重要性も
この逸話から得られる教訓だ。基礎を知らずして、テキトーに
「これがアートだ!」などと出鱈目な絵を描く事は、さすがに
許されず、有り得ない話だ。
_c0032138_18533742.jpg
さて、RISINGのピンホール画質は極めて悪い、これが工作精度の
問題なのかどうかは不明だ(穴径は一応0.22mmと適正っぽい
が、前述の光学公式では、フランジバックの短いミラーレス機
では、より狭い穴径の方が適切であるようにも思える。
一眼レフ用の設計を、そのままミラーレス機に転用した弊害か?)

ただ、Lo-Fi描写は、エフェクトと組み合わせても面白いし、
開放F値が明るくなる(システムにもよるが、おそよF100未満)
ので、手持ち撮影も比較的容易だ。
「画質が悪い」と切り捨てず、これを、どのように写真表現に
利用可能か?を考える事が中上級者層における本RISING WIDE V
使用時のテーマとなるだろう。

課題は、現代では既に入手困難になっている事くらいか・・
中古も、まず見かける事は無いであろう。

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では、今回ラストのシステム
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ピンホールは、自作品(穴径約φ0.2mm弱)
(製作費用:数百円程度)
カメラは、PENTAX K-30 (APS-C機)

2000年代前半に自作したピンホール。
当時はまだ銀塩時代であった為、ピンホール母艦用銀塩機
としては最強の「PENTAX LX」(銀塩一眼第7回記事)での
使用を前提として、PENTAXマウントの物を作った。
(注:LXはIDM測光によりピンホールでもAEが効く、後述)

自作は、まずPENTAXのボディキャップの完全な中心部に
電動ドリルでφ数mmの穴をあける。
別途黒い紙を準備し、そこに裁縫用の針で極めて微細な穴
(およそ直径φ0.2mm)を開ける。
後は、その黒い紙を、正しくボディキャップの中心部に
テープ等で貼って出来上がり、という簡単な工作だ。
_c0032138_18535251.jpg
ただし注意点は数点ある。
まず、正しく中心部に穴をあけないと(ドリルも、ピンホール
の穴位置も)それで偏心して画質が劣化する可能性がある事。

それと、針で開ける穴の精度が必要とされる事だ。
これは「真円性」、それからバリやケバ等が無く、滑らかで
ある事、まっすぐ垂直に穴を開けて傾かない事、針穴の周辺の
黒紙の厚みにムラや偏りを作らない事、等である。

穴径はφ0.15mm~φ0.25mmの範囲が推奨であり、
小さいとシャープには写るが、口径比(F値)が暗くなりすぎて
実用性が厳しくなる(ただし最高ISO感度数十万の超高感度機
であれば使用可能)また、穴が大きすぎると、明るくはなるが
写りがボケボケになってしまい、これも使い道が難しい。

再掲するが、適正なピンホール穴径を求める以下の公式がある。
適正針穴径=(0.03~0.04)x√(フランジバック長)
PENTAX一眼レフの場合、フランジバック長は約45.5mmの為、
この公式による適正穴径は、φ0.20mm~φ0.26mmとなるが
経験上、この値より少しだけ小さい方が望ましいであろう。

この為、針穴を開ける際には結構緊張する。垂直かつ適切に
穴をあけないと、うまく写らないかも知れないからだ。
一発勝負であり、失敗したら別の黒紙でやりなおしになる為、
「エイヤッ!」と気合を入れて、できるだけ正確に穴を開ける。

この自作ピンホールは、たまたま、それが上手くいった。
市販のKENKO PINHOLE 02は、その工作精度が高い事が売り文句
だが、本自作品も、KENKO版に勝るとも劣らない高描写力だ。
穴径は標準的なφ0.2mmか、わずかに小さい程度で、
PENTAX機で使用する場合の口径比はF240程度だと思われる。
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さて、銀塩時代でのPINHOLEの露出決定手法は結構難しくて、
よほど、その撮影ジャンルに精通していない限り不可能であった。
私は、外部(単体)露出計を用いて、その露出計算を暗算で
行える計算式を考案して、その手法を使っていたのだが、
(注:その説明は複雑な為に割愛する、過去記事参照)

そんな面倒な事をやらずとも、前述の「PENTAX LX」では、
完全自動で露出を決める事ができた。

これは、PENTAX LXが「IDM測光」という、一種のダイレクト
測光方式(珍しい)を採用していて、絞り優先AEのモードで、
何と125秒(!)までの長秒時AEを可能とする事からだ。
この値は、銀塩機では最長、恐らくデジタル機を含めて最強
であろう、これに追従するのは、同じくダイレクト測光機能を
搭載する銀塩OLYMPUS OM-2N系での120秒だ。

「2分以上」ものAEが効くのであれば、低感度ISO50や100の
フィルムを使った際においても、日中であれば、およそ
どんなシチュエーションでもピンホールの露出計算は行う
必要はなく、カメラまかせで十分だ。
なお、嬉しい事に、露光の途中で日が翳ったりした場合でも、
ダイレクト測光では「露光量を積算して」正しい露出値が
得られる。
これは凄い技術であるが、1980年代後半のAF一眼時代以降、
この構造を作る事が(AFセンサーが邪魔になり)難しく
なったからか? ダイレクト測光一眼レフは登場していない。

ただまあ、いくら超優秀なAE機能を備えていても、銀塩時代
でのピンホール露光時間は、1秒~16秒程度となり、これは
どう頑張っても、手持ち撮影は不可能で、三脚使用か、又は
カメラをどこかに置いて撮る必要があった。
(注:現代新鋭機に内蔵された超高精度手ブレ補正機能では、
2~4秒程度の長時間露光を手持ち撮影で可能とするらしいが、
新鋭機で高価につき未所有だ、いずれそういう機体を入手
できたらならば、その性能をまた検証してみよう。
そんな機体でのピンホールや赤外線撮影は有効かも知れない)

その後、デジタル時代に入ったが、初期デジタル一眼レフでは
ピンホールを効率的に使う術は全く無い。これは銀塩時代以下の
レベルでしか無いが、デジタル技術の未成熟故に、やむを得ない。
よって、本自作ピンホールは、どこかにしまいこんで、見当たら
無くなってしまった。近年、およそ10年ぶりに、本ピンホールを
カメラ関連部品を収納していた箱の中から見つけ、再度の使用を
始めた次第だ。

さて、現代のデジタル機では、上記のようなダイレクト測光は
無いが、それに変わる大きな武器として「超高感度化」がある。

例えば、PENTAX KPの最高ISO感度は81万9200もあって、
しかもAUTO ISOのままで、その超高感度に到達し、おまけに
手ブレ補正まで効く。(デジタル一眼第22回記事参照)
ライブビューモードに切り替える必要があるが、他社機や
他機のように、一々電源ONの度に毎回切り替える必要は無く、
設定レバーを用いてライブビューモードに常時固定できる。

夜間等を除き、およそどんなシチュエーションでもピンホール
撮影が手持ちで可能な「夢のピンホール母艦」となる。

だが、前述のように、これは「オフサイド状態」だ。
つまり、カメラ側が過剰に高性能で、ピンホールやレンズ側が
それに追いついておらず、システム全体としての効率性が
得られていない状態である。具体的にはPENTAX KPの優秀な
AF性能や、一般撮影に係わる操作系の優秀さが、全く生かせて
おらず、ただ、ライブビューにしてシャッターを切るだけの
安直なシステムに「成り下がって」しまう。
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その課題を考慮して、今回はPENTAX KPを使用せず、前述の
ピンホール母艦「PENTAX K-01」と同時代で同等のエンジン
廻りの性能を持つPENTAX K-30(2012年)を使う事とした。
この機体は約2万円強と安価だったので、オフサイド状態を
若干緩和できる訳だ。

まあ、勿論、PENTAX K-01の方がシステム効率は高いので
あるが、本機K-30でも、電源ON時の毎回の手ブレ補正焦点
距離設定と、毎回のライブビュー切り替えの手間を除いて、
使えないという訳では無い。

K-01や本機K-30での最高感度(ISO25600)が、暗所でのモニター
ゲイン不足で不満の場合は、「オフサイド」を起こさない他の
組み合わせとしてはPENTAX K-5(2010年、ISO5万強、現在の
中古相場2万円前後、デジタル一眼第12回記事)が唯一だろう。

さらに後年にPENTAX K-70(2016年、ISO10万、未所有)の
中古相場が下がってくれば、これも適正なピンホール母艦と
なるだろうし、また、さらに将来では、前述のPENTAX KPも
中古相場が下がれば、オフサイドルールには引っかからない。

なお、自作ピンホールはPENTAX機以外の他社一眼レフでも
同様な「ボディキャップ穴あけ手法」で容易に自作が出来る。


ただ、適正なスペックを持つ母艦が存在しないメーカーの
場合は、作ったは良いが、効果的には使えない事であろう。
例えば、NIKON D5(ISO320万)や、NIKON D500(ISO160万)
では、さらに高感度なので、ピンホール利用に適する事は
確かだが、高性能で高価すぎるそれらは、ますますオフサイド
禁止のルール抵触が酷くなるばかりで、推奨はできない。
(まあ、安価な高感度機があれば、それで良いという事だ)

また、ミラーレス機用のピンホールを自作する事も、前述の
RISINGの項目で説明したように、様々なメリットが存在する。
ただし「埋め込み配置」にする場合は、ボディキャップ穴あけ
方式では無理な為、自作するにも工作の技量が必要になる。
(3Dプリンターがあれば簡単に作れるかも知れないが、
なかなか、そういう環境は無いであろう)


さらに手先が器用であれば、埋め込みの度合いを調整できる
「ズーム・ピンホール」も自作できるかも知れない。
過去記事でミラーレス機+ヘリコイド内蔵アダプターで、
ズーム・ピンホールを実験した事があった。
ただ、これはシステムの構成上、望遠画角のズームになって
しまい、実用上の効能はあまり無かった。
スーム・ピンホールをやるならば、やはり広角系の画角の方が
(つまり、ミラーレス用「埋め込み式」にする)実用上では
望ましい事であろう。 

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さて、今回の記事「ピンホール特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・


銀塩コンパクト・クラッシックス(1) OLYMPUS-PEN EES-2/Rollei 35

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さて、新シリーズの開始だ。

本シリーズでは、所有している銀塩コンパクトカメラ
(ハーフ判、35mm判、APS判等)を順次紹介していく。

とは言え、およそ50台以上も持っていた銀塩コンパクト機の
大半は、デジタル時代に入って「もう使わないであろう」と
譲渡・処分してしまっている。残っているのは十数台のみだが、
いずれも歴史的価値のあるマニアックなコンパクト機ばかりだ。

本シリーズでは、1記事に2機種づつ数回に渡って連載を行う
事としよう。
シリーズ1回目は、「オールド編」という事で、1960年代に
発売された2機種を紹介する。

まず1機種目

1968年:OLYMPUS-PEN EES-2
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30mm/F2.8の単焦点レンズを搭載したハーフ判カメラ。

1959年~1986年頃までの長期に渡って生産が続けられた
ロングセラー大ヒットカメラである「PENシリーズ」の
中期の代表作の1つとも言える機体である。

本シリーズ記事では、その紹介カメラでは写真は撮らない。
各々のカメラは完動品ではあるが、さすがに現代でフィルム
の使用は厳しい。
そこで「銀塩一眼レフ・クラッシックス」記事と同様に、
そのカメラで撮った雰囲気を味わう為に、デジタルカメラの
「シミュレーター機」を用意し、それで撮影した写真を交え
ながら記事を進めていく。
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今回のシミュレーター機は、PEN EES-2と同一のテイストの 
オリンパスのμ4/3機の、E-PL2 (PEN Lite 2)と、
レンズはスペックが同じであるSIGMA 30mm/F2.8 EX DN
を使用する(注:このレンズ構成はテッサー型では無いし

換算画角も、こちらがやや長目だ)

当時はモノクロ撮影が主である為、シミュレーター機も
モノクロモードを用いる。
後、ハーフ判フィルムの縦横比はフルサイズとは異なる。
正確には約24:17であるが、シミュレーターはμ4/3機
なので数値が近い4:3のアスペクトで撮影しよう。


さて、ここでPENの誕生に係わる開発コンセプトとか
PENシリーズの歴史等を書いて行くのが本来なのだが・・

銀塩PENは歴史的名機であり、PENシリーズや、開発者の
米谷美久氏の話は、沢山の書物、文献、WEB等で、いくら
でも参照ができてしまう。


まあ、カメラマニアにおいては「オリンパス」の銀塩カメラの
製品群は無視する事ができない。特にPENやOM、そして米谷氏に
ついては、上級マニア層の間では、殆ど「神格化」されている
と言っても過言ではなく、それ故に、関連する資料や情報が
比較的目の届くところに沢山残っている訳だ。

それらの情報を集約して記事にまとめる事は難しく無いが、
それでは「一次情報」にはならない。
一次情報とは、最初に発信される内容の情報であり、SNS
(ブログ)をやる上では、個人からの情報発信が可能である
という観点で、その要素が無いと殆どSNSの利用意義が無いのだ。
つまり、どこかに出ている情報を引用したり(たとえ、まとめた
としても)しても、あまり意味が無い、という事である。
オリジナリディが最も重要だ、と言い換える事も出来るだろう。
_c0032138_21264960.jpg
さて、という事で、本記事では、まずPEN発売時の当時の
日本の世情から考察していく事としよう。

PEN発売前夜、1950年代の半ばであるが、戦後の復興も
概ね完了し、高度成長期にさしかかった頃である。


1954年には、初代の「ゴジラ」が公開されている。
この映画はモノクロだが、これを見ると当時の世情もわかる、
逃げ惑う人々の中にはまだ和装の女性も多いが、主人公級は
洋装であり、その家庭には白黒TVも一応あったし、自家用車も
既に走っている時代だ。

この年、カメラ界には「ゴジラ」並みのモンスターが出現している、
それは、ライカ(エルンスト・ライツ社)の「M3」である。

この時代のカメラは「精密工業製品」であったので、当時の日本
の産業構造としては得意分野だ、だから1950年代には非常に
多数のカメラメーカーが日本にもあったのだが、外国製品や
他社製品を模して作っただけのものも多く、その品質は玉石混合
という時代であった。

それらの、ある意味低性能、低品質なカメラに比べると、当時の
「ライカM3」の品質や性能は圧倒的で、まさしく「ゴジラ」級で
あったと思う。これは日本のカメラ界に激震を与え、たとえば
ニコンでは、それまで作っていたレンジ機のSシリーズ(基本的
には西独製CONTAXを模したカメラだ)を、ライカの後追いは
困難と諦め、一眼レフへの開発方針の転換を行う。そして数年後
の1959年の名機「NIKON F」の発売に繋がる歴史だ。


ただ「ライカM3」は非常に高価なカメラだ、発売当時の定価は
23万円もしていた。
当時の物価は、商品によって異なるが、だいたい現在の13~15
分の1くらいなので、「ライカM3」の価格は、およそ現在の
300万円位に相当する。

ちなみに、これは戦前の「CONTAX」の価格を現代の価値に換算
しても同じく300万円位となるのだが、以前から良く言われて
いて、現代に至るまでカメラマニア等の間で語り継がれている
「コンタックスやライカで家が1軒建った」という話がある。

現代の感覚では建築費は数千万円なので、この話はすぐには
信じられず、私もちょっと調べてみたのだが、確かにそれらの
カメラの価格は現在の300万円程度だ。では300万で家が建つか?
というと、戦前、1930年代であれば「文化住宅」という安価な
建築スタイルであれば、それは可能であった(買えた)模様だ。
しかし1950年代の高度成長期の300万では家は建たない事で
あろう。

結局あまり信憑性の無い話だが、それらのカメラのオーナーの
マニアや富裕層等は、発売後、50年~70年たっても、
マ「昔は、このカメラ1台で、家が一軒建ったのだぜ」
と言い続けていたので、周りの初級マニア等も「へ~っ」と、
その話を聞き続け、現在に至る、という感じなのだろう。

ただ、M3はともかく、戦前の話については、当時のドイツは
軍事国家であったから、カメラも「光学兵器」と見なされ、
あえて輸出を制限する為の高値であった可能性も高い。
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さて、ゴジラの時代から数年経った1958年、この頃の雰囲気は
映画「ALWAYS 三丁目の夕日」を見ると非常に分かりやすい。
建設中の東京タワー、都電、オート三輪、などの、なんだか、
ごちゃごちゃしているが活気のある時代だ。

この頃の物価は少し上がって、現代の12~14分の1程度だ。
ちなみに店舗で食べるラーメンが45円、すでに喫茶店もあって、
コーヒー1杯が50円であったと聞く。


翌年に発売を控えた「NIKON F」は開発が進んでいた事で
あろう、そのレンズ付き販売の目標価格は、およそ7万円だ。
これは現代の価値で80~100万円程度に相当する。

依然、この時代のカメラは、現代の感覚では高価ではあるが、
この頃は高度成長期であり、「カメラが欲しい」というニーズは、
一般層にも確かに存在していた。

この頃、オリンパスでは一般大衆向けの普及カメラを企画した。
目標価格は6000円、これは現代で言う7万円台の商品だ。
やはり高価であるとは言えるが、当時の他の高性能カメラから
比べると、ずいぶんと格安だ。

それと課題はフィルムの価格だ。当時の価格の資料はあまり
残っていないが、まず35mm判のカラーフィルムは発売された
ばかりで、現像代が最初から組み込まれているが、恐らく非常に
高価だ。(推定だが、現在の7000~9000円相当にもなる)

モノクロ(白黒)フィルムは、普及が始まってはいたのだが
これも価格は不明、35mm判20枚撮りで推定150~170円位と
すれば、フィルム代だけで現在の2000円位となる。つまり
現像代を含めると、1枚撮るのに現在の価値で100~150円
ものコストがかかる事となり、現代の(高価な)インスタント
フィルムのおよそ2倍だ。

よって、この「新型オリンパスカメラ」(=ペン)は、撮影コスト
の低減も、また普及の為のコンセプトとしていて、ハーフ判、
つまり2倍の枚数を撮影できるように決定されたという事だ。
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余談だが、まあ、こういう世情であるから、一般ユーザーには
「カメラは高価なもの、一生の資産。そして写真は、ハレの日
(重要な日、重要な出来事)の際に、数枚だけ慎重に撮るもの」
という感覚が「常識」として定着していった訳だ。

その後約60年の間に、カメラは恐ろしく進化した。
ここで一々説明する必要も無いが、今やカメラは「精密工業製品」
ではなく、デジタル化された一種の家電製品であり、消耗品で
あるとも言える。

が、実はこの間のユーザー層はあまり変わっていない・・
というか、同じ人物である場合もある。
1950年頃のベビーブームの団塊世代は、現代でもまだ70歳代だ、
彼達シニア層が、高価なカメラをありがたり、あるいは1枚の
写真を撮影するのに時間をかけて慎重に撮り、かつ、ハレの日や
珍しいもの、貴重なものばかりを撮りたがるのは、この時代の
感覚が、まだ強く残っているからであると考えられる。

カメラファンの世代が引き継がれて変わっても、このあたりの
感覚は、指導とか様々な話とかにより受け継がれていく。
現代の若いカメラマンにも多かれ少なかれ、この1950年代の
感覚が残ってしまっているのだ。
すなわち、カメラの中身が大きく変化しても、若い頃に学んだ
「価値観」は変化しようが無いのだ。

この「大きなズレ」は、私は、デジタル時代になってから顕著に
感じるようになってきている。デジタルカメラは昔のカメラとは
全く別物だ、撮り方も被写体も、撮った写真の用途もまるで違う、
けど、世間一般層はそうでは無かった。

まあ、現代でこそ、SNSや携帯・スマホカメラの普及等により、
写真を映像コミュニケーションの一環と捉えるようになったのは
若い世代の人達の間では常識だ。
しかしデジタル時代に入ってすぐの2000年代では、まだまだ
そういう考え方は一般的ではなく、世の中の普通の感覚は、
フィルムの、しかも1950~1960年代の概念のままであったのだ。

今なおその感覚は残っているかもしれない。ビギナー層が高価な
最新型高級機を買うのは、カメラが一生物の資産である、という
昔からの感覚でのニーズであろう。ただ、勿論現代は時代が違う、
超高価なフラッグシップ機ですらも、10年もたてば数万円という
二束三文の相場で取引されているのだ、デジタル機の資産価値
とは、そんなものである。だがビギナー層はそれがわからない。

私は「減価償却の法則」をデジタル時代に入ってすぐ考察し
それを守るようにしている。すなわちデジタル一眼レフ等は、
購入時価格を撮影枚数で割って、それが3円となれば「元を取った」
と見なすことにしている。つまりデジタルカメラは完全な消耗品
であるという事だ。(注:近年のカメラ価格高騰により、
そのルールは現在、守り難くなってきてしまっているが、
消耗品である事は確かであり、10年を超えて同じデジタル機
を使う事は、まずできない→仕様老朽化寿命)
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さて、PENの話に戻るが、1959年に初代のPENが発売された。
価格は6800円だったと聞く。当時の物価を12分の1と見なせば、
これは現代での約8万円だ。

PENはハーフサイズ判であるが、レンズはテッサー型3群4枚の
28mm/f3.5(フルサイズ換算約40mmの準標準)の、高性能
レンズを搭載、ハーフ判からの2倍の引き伸ばしに耐えうる
画質を実現していた。
徹底した小型化思想により、小型軽量のみならず随所にコスト
ダウンも果たしたが、それによる性能は犠牲にしていない。

このあたりは、ほとんど天才設計者である「米谷」氏の功績
であるとは言えるが、オリンパスにはこの歴史がある為、
後年、2010年代に、デジタルのPEN、すなわちμ4/3陣営に
対する批判、例えば「フルサイズの方が圧倒的に画質が良い」
があった時にも、「μ4/3はセンサーが小さくてもシステムや
レンズの性能は一切妥協していない」と反論した訳だ。

まあでも、この話はμ4/3の台頭を「脅威」と思った勢力からの
攻撃意見であると思われ、μ4/3が箸にも棒にもかからないので
あれば、無視しておけば良かった事であろう。
つまらない業界内の「舌戦」だ、一般ユーザーは、そんな事は
気にしてはならない。

さて、このPENの時代には「ハーフサイズだからダメだ」という
市場からの意見は幸いにして無かった模様である(逆に言えば、
現代は恐ろしい世の中だ、他者が成功しそうなのを見れば、
情報戦略で足をひっぱろうとする訳だ。でも実際には、そういう
事をやる人が悪いのでなく、世の中に多数流れる情報の中から
真実を見抜くことができず、安易に他人の意見に流されてしまう
「単なる情報受信者」の一般大衆にも重い責任があるのだと思う)

こうした世情から、ペンシリーズは、世の中のニーズをズバリと
突く形となって、当然ながら大ヒットした。
その後、驚異のロングセラーとして、派生機を含め、25年以上、
1986年位まで生産が続く事となった。
(注:この頃のPENシリーズの総生産台数は「1700万台」と
言われていたが、2018年になって「実は800万台でした」
と、オリンパス社発表により記録が下方修正されている。
まあ、とんでもなく多く売れた「ASAHI PENTAX SPシリーズ」
(知人のマニアが50台所有していた)でも、約350万台の
販売台数なので、それの5倍は多すぎるデータではあった)
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さて、今回紹介機「PEN EES-2」であるが、三丁目の夕日の時代
からおよそ10年、高度成長期のまっただなかに生まれた製品だ。
すでにヒットを続けていたPENシリーズに小改良を続けて完成度
の高いカメラとなっている。

当時、東京オリンピック(1964年)はすでに終わり、東海道新幹線が
走り、高速道路がどんどん建設され、大阪万博(1970年)の開催を
待ち望む声が大きかったであろう。しかし反面「70年安保」を
争点として学生運動が激化した時代でもある。

世の中には「ブルーライト・ヨコハマ」が流れ、数年前からの
グループサウンズの人気もまだ残っている。
霞ヶ関ビルが建ち、12月には三億円事件が起こった。
宇宙にはロケットが飛び、翌1969年には人類が初めて月に降り
立った。この「アポロ」を見ようと、各家庭ではカラーテレビを
こぞって購入したのだ、これは10万円以上もする高額な商品で
あったが、所得もそれなりに増えていた。

当時の物価は現代の1/4から1/5程度だ。
ちなみに、即席ラーメンが1袋30円、レトルトカレーが80円だ
(レトルトカレーは出たばっかりで、さすがに少し割高か?)

この PEN EES-2の発売時価格は12800円だったとの事であり、
現代の価値では、およそ5万円台の商品だ。
これまでの時代感覚と比べると、ずいぶん価格がこなれてきていて、
買いやすくなっていたと想像される。まあ物価の上昇よりも所得の
伸びが大きいから、「モノ」が沢山売れた時代である。
(現代ではモノがあふれすぎ、逆に売れ難くなってきている)

このPEN EES-2は、私は「第一次中古カメラブーム」の時代の
1990年代に購入した。当時、PENシリーズは中古市場でも人気
商品であり、特にレンズ交換型のPEN Fシリーズは、かなりの
高額で取引されていたのだが、コンパクトタイプのE型系列は
そこそこ安価で、本機は8000円で購入している。

勿論1990年代には本機にフィルムを入れ、実際に使っていた。
ハーフ判ゆえに、カメラを横位置で構えても写真が縦位置と
なるのは当初戸惑ったが、慣れればどうという事は無い。

電池が不要な「セレン露出計」方式は、やはり便利さを感じる。
ピントはMFだがゾーンフォーカス方式であり、人や山の絵に
ピントを合わせて撮れば良いので、ここも簡便だ。
まあピント精度はあまり無いのだが、優秀なレンズとあいまって
上手くピントが当たれば、そこそこ良く写った。
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圧巻はその現像時だ。1990年代当時の流行で「ゼロ円プリント」
というものがあり、600円前後の定額料金を払えば、現像代
そしてL判同時プリントがついてくる。DPE店によっては、
ノーリツ鋼機製のQSS(自動現像機)を導入していて、写真の
サムネイル一覧の「インデックス・プリント」もついてくるし
さらに、フィルム1本(ISO100、24枚撮り)をタダでおまけに
つけてくれる事もあった。
まあ、そういうビジネスモデル(現像代の薄利多売)であった
からなのだが、それにしてもPENの発売時とは世情がまるで違う。

PEN EES-2 に36枚撮りカラーネガを入れて、かつフィルムを
ぎりぎりで装填すると、およそ77枚程度の撮影ができる。
これをゼロ円プリントに出すと、80枚近くの写真がドサッと
手渡されるのだ、それで600円、おまけのフィルムまで貰える。
DPE店にとってば大赤字だろうが、まあそういうシステムなので
こちらは有効活用するだけだ。
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最後に本機EES-2を9項目で評価してみよう、なお評価項目の
詳細は他シリーズ記事と同様なので割愛する。

OLYMPUS PEN EES-2 1968年
【基本・付加性能】★★☆
【描写力・表現力】★★★
【操作性・操作系】★★★
【質感・高級感 】★★☆
【マニアック度 】★★☆
【エンジョイ度 】★★★☆
【購入時コスパ 】★★★★ (中古購入価格:8,000円)
【完成度(当時)】★★★★
【歴史的価値  】★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.0点

評価点は、ぴったり平均点の3点、まあマニア向けというよりは
大衆向け一般機の代表格とも言えるカメラであろう。
歴史的価値はPENシリーズ全体であれば、もっと高くなるのだが
本機はシリーズ中期の機種であり、少し低目の評価とした。

ただ、歴史の証人としての役割は高く、カメラマニアであれば
本機である必要は無いが、PENシリーズのいずれかは、必ず
抑えておかなければならないと思う。

---
さて、PEN EES-2の話が長くなりすぎたが、
ここで今回紹介の第二の機種に進もう。

Rollei 35(テッサー40mm/F3.5 搭載)
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1967年に発売された海外製高級コンパクト。
舶来品なので値段は高い、当時の定価は69000円と高価であり
当時の物価を現代の1/5~1/6程度と見なせば、これは
現代の価値で30万円台後半の商品となる。

このローライ35を購入するのは、当時でも「ブルジョワ層」
であったという逸話を良く聞くのだが、まあそれは当時の話だ、
私は1990年代の中古カメラブームの際にこれを購入したが、
その時代であれば、中古は数万円の相場であり、ちょっと
無理をすれば買えない訳では無かった。

本ローライ35のシミュレーター機は適切なものが無く迷ったが、
フルサイズ・ミラーレス機SONY α7と、レンズはロシア製
「インダスター50-2」 (テッサー型 50mm/F3.5)を
使用してみよう。レンズが作られた背景こそ異なるが、その経緯
はいずれも、ツァイスのルドルフ氏により1902年に発明された
名レンズ「テッサー」を源流としている。
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ちなみに、テッサーの特許が切れた1950年代以降においては、
前述のオリンパス・ペンを始め、本ローライ35、あるいは世間の
多種多様のコンパクト機や小型カメラに、テッサー型のレンズが
採用されていて、テッサー構成では無いレンズを搭載している
カメラを探す方がむしろ珍しかった時代である。

そういう点では、コーテイング性能の良否などはあるものの
この時代のオールドコンパクトは、正しく使えば、その描写力は
似たり寄ったりである、とも言えるかも知れない。
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さて、本機ローライ35の価格が高い理由だが、これはまず
ブランド部品を惜しげもなく使っていることで「付加価値」が
高いからだ。

レンズは、テッサーと言えどコピー品ではなく、本家「ツァイス」
製(注:「T*(スター)」コーティングでは無い)であるし、
露出計は単体露出計ブランドとして有名な「ゴッセン」製である。
シャッターもまた「デッケルマウント」で著名なデッケル社製だ。
(注:デッケルは本来はシャッターメーカーである)

これらの「一流の部品」を、恐らくは当時世界最小と言える
超小型のボディに詰め込んでいて、なんと言うか「ギギュッと
濃縮された凄み」を感じてしまうカメラである。
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そうしたブランド力と企画コンセプトによる「付加価値」が、
本機が高価である所以だが、ちょっと高価すぎたかも知れない。
本家ドイツでの流通価格までは調べていないが、おそらくは
もっと安価だろう。だが当時の日本においては「舶来品」は
憧れの高級品であり、高い値付けになっていたのだと思われる。

本ローライ35の長所は、説明した通りの濃縮された高級感であり、
レンズの性能もあいまって、そこそこ良く写るのも特徴だ。
絞り値やシャッター速度も、マニュアルで自在に制御できる、
この時代の超小型コンパクト機としては考えられない高性能だ。
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短所だが、まずピントが目測である事だ、
光学式ファインダーはあるが、ただの素通しのガラスであり
構図の確認しか出来ず、ピント距離がわからない。

ピントリングに距離指標は一応ついているのだが、しかし
撮る側としては、目の前にある被写体が3m先なのか、4mの
距離にあるのか、ちょっと自信が持て無い事であろう。

せっかくの高性能レンズだ、正しくピントを合わせたい、
けど、その方法が無い。

そこで私はこのカメラを使う際には、他に一眼レフを持ち出して
そこでピントをAFやMFで合わせ、その一眼のレンズの距離指標
を見て、ローライ35にその設定を移して撮っていた。

面倒な作業だが、まあ、のんびり撮影するフィルム時代であるし
1枚撮る事の重みは、現代のデジタル時代とはまるで違う。
現像後にピンボケ写真を量産してがっかりしたく無いのであれば
撮影時の多少の手間はやむを得ない。
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が、後年では、もっとエキセントリックな方法を考え出した、
それは「建築用超音波距離計」を使用したのだ。

そう聞くと、なんだか凄そうな機械かと思うだろうが、これは
2000年位にホームセンター等で4000~5000円で売っていた
電池駆動式のポータブルな機械だ。しかし計測精度は高く、
数十m程度迄の距離を1mm単位で精密に測る事ができる。

確か、ごく初期の本ブログでも紹介した事があったと思う、
「超音波距離計」なるものを知らない周囲のカメラマニア達に
「これで美女のスリーサイズがわかる」と嘘の冗談を言ったら
バカ受けして、皆が欲しがった、という実話を書いた記事だ。
今でも所有しているが、どこにしまったのか?見つからない。

まあ、こういう変な機械を持ち出してまで撮りたいほどに
ローライ35は魅力的なカメラであったという事だ。
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弱点の続きとしては、このカメラの操作性はあまり良く無い。
いや、基本的なシャッターや絞りの調整は、内蔵の露出計
(追針式)もあるので、さほど困難では無いのだが・・
その操作のやり方が、小型化の弊害と、このカメラ独自の
操作性の設計コンセプトで、他の一般的カメラと大きく異なり、
使い難いのだ。

例えば、外付けフラッシュはカメラを上下ひっくり返さないと
使えない(!)
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フィルムの巻き戻し方も、フィルム交換(底蓋引き出し式だ)も
一見しただけでは良くわからない。撮影後のレンズの収納方法も
わからないし、露出計の電池の場所も交換のしかたもわからない。
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いずれも知って、慣れないと、初見だけではまず使う事が出来ない
カメラである。しかし、それがまたマニア心をくすぐるのだ、
つまり「これはオーナーで無いと使いこなせないカメラだ」
という優越感を得る事が出来るカメラな訳だ。

相当に「屈折した」カメラではあるが、まあ、マニアックである
とは言えるであろう。
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最後に本機ローライ35を9項目で評価してみよう。

Rollei 35 1967年
【基本・付加性能】★★★★
【描写力・表現力】★★★★
【操作性・操作系】★☆
【質感・高級感 】★★★★
【マニアック度 】★★★★☆
【エンジョイ度 】★★
【購入時コスパ 】★★☆ (中古購入価格:20,000円)
【完成度(当時)】★★★
【歴史的価値  】★★★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.3点

まあ総合的には悪い評価では無いが、クセのある設計が弱点と
なっていて、やや使い難く、名機とは呼び難いかも知れない。

なお、現代でも中古で入手は可能だが、若干高価だ。

レンズは、テッサー型の他、よりシンプルなトリオターや
複雑なゾナー型の製品もあり、生産拠点もドイツとシンガポール
があり、仕様や生産国で中古相場に差が出る。
ゴールド仕上げ等外装が異なるバージョンもあって、一部の
レア品はコレクター向けに非常に高価な相場となっている。

実用価値はあまり無いので、無理して入手する必要性は少ないが
本機同様の初期型ならば2万円程度であると思う。
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なお、本機は水銀電池を使用するが、それは現代では生産中止だ。
代替電池の場合は、電圧が少し異なり、露出計に僅かな影響が
出るが、ネガフィルムであれば問題なく許容範囲となる。

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今回の「銀塩コンパクト・オールド編」記事はこれにて終了、
次回記事でも、引き続き銀塩コンパクト機を2機種紹介する。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(24)エントリーレンズ

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回の記事では、デジタル一眼レフ用の「エントリーレンズ」
を4本紹介しよう。

なお、内1本は、厳密にはエントリーレンズとしては
カテゴライズしにくいが、その件は理由があり、後述する。

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まず、最初のシステム
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レンズは、SONY DT 50mm/f1.8 SAM (SAL50F18)
(中古購入価格 9,800円)(以下、DT50/1.8)
カメラは、SONY α65 (APS-C機)

最初に、「エントリーレンズとは何か?」であるが、
簡単に言えば「交換レンズ市場での販売促進を狙った
お試し的要素の強い安価なレンズ」であるのだが、
その詳細の説明は、意外に長くなるので割愛する。
例えば「匠の写真用語辞典第9回記事」に詳しいので
さらなる興味があれば参照されたし。
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エントリーレンズ(ここでは一眼レフ用を指す)は、
2010年前後に各社から集中して発売されてる。
この時代は、スマホやミラーレス機の急激な台頭により、
一眼レフや交換レンズ市場が喰われる事を危惧しての、
「囲い込み戦略」であった事だろう。

まあ、カメラ以外の、あらゆる市場分野でも「お試し版」
戦略は行われているので、極めて正当な市場戦略だ。

しかし、実際にエントリーレンズが一眼レフ交換レンズ
の販売促進に繋がったかどうかは不明だ、・・というか、
その効果を定量的に調べるのも難しかったに違い無い。

そうこうしているうちに、2013年前後にはミラーレス機
の販売数もピークに達し、一眼レフ用交換レンズ市場は
大きく縮退し、エントリーレンズ戦略よりも、もっと
「ドラスティックな改革」を迫られるようになった。

この時代から各社が始めたのは、「高付加価値化戦略」
である、これまでの交換レンズとは次元の異なる高性能を
提示し(注:それは実際の性能というよりも、ユーザーに
”非常に高性能だ”と思ってもらい、欲しくなってもらう、
という要素も多々含まれていると思う。
例えば、広角レンズに手ブレ補正はいらないし、マクロ
レンズに超音波モーターは必要ない。無駄な機能なのだ)
・・で、それらを付加価値として、製品価格も高価として、
販売数の減少を利益率でカバーしようという戦略である。

まあ、ユーザーから見れば”実質値上げ”の状況は、
たまった物ではないが、それでメーカー側は、なんとか
レンズ市場を維持できる訳だし、そして「高い!」と文句を
言いながらも、そうした「高付加価値型レンズ」は、やはり
旧製品よりは描写性能面等の優位性がある事は確かだった。

で、現代ではエントリーレンズは、そうと明確に定義できる
商品は殆ど無くなってしまった。結局のところ、安価な
レンズを売っても儲からないからであり、高額商品で、
もっと直接的に利益を得られる戦略を重視したからであろう。
(注:ミラーレス機用では、まだ何本かは存在している。
なお、近年の安価な海外製レンズはエントリーレンズでは無い、
それを売っても、次に繋げるべき自社カメラ等が無いからだ)

さて、そんな市場状況であるが、そのこと自体の是非は
問う必要は無いと思う、そうしないと市場が維持できない
という切実な問題だし、それ(値上げ)が気に入らなければ、
「買わない」という選択肢は、あくまで消費者側に残されている。
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状況説明が長くなったが、やっと本DT50/1.8の紹介
に入る。

2009年に発売された、APS-C機専用標準(中望遠画角)
単焦点エントリーレンズである。

最大の特徴は安価である事。
発売時定価は22000円+税である、これでも十分安価だが
新品値引きもあったし、中古は、およそ1万円程度で
相場が推移し、現代では、8000円程度の価格帯だ。
まあ、典型的な「お試し版価格」である。

さらなる長所だが、最短撮影距離が34cmと、とても短い。
一般的な50mm標準レンズの大多数が、最短45cmである
事と比較すると、10cm以上も余分に寄れて撮影でき、
この状態で、最大撮影倍率は1/5倍となる。
さらに、近年のSONY α一眼レフに備わる、「スマート
テレコン機能」を用いれば、0.4倍と、だいたい準マクロ
レンズ並みのスペックとなるのだ。

それから、有限回転式ピントリングで、かつ距離指標も
存在する為、MF操作性に優れる。これは近接撮影時には
特に有効であろう。

なお、SAM(スムースAFモーター)仕様でありながらも、
α77Ⅱ等に備わるDMF(ダイレクトマニュアルフォーカス)
機能が利用でき、AFからMFへのシームレスな移行が可能だ。
ただし、今回使用の母艦α65は、残念ながらDMF機能は
非搭載だ。

「では何故α77Ⅱを使わないのか?」という点だが、
DMFでMFに移行しても、α77Ⅱではピーキングが自動では
出ない。ピーキングを出すには、本DT50/1.8のレンズ側
切り替えスイッチで、AFからMFに切り替えないとならない。

・・であれば、操作系の問題でDMFの優位性が少しだけ
損なわれてしまい、α77Ⅱとの組み合わせは効率的な
システムでは無い。よって本記事では、DMFを持たない
α65を使用している訳だ。
α65であれば、「最初からMFで使う」と割り切れるし、
その際にも勿論ピーキングは出る。

まあ、MFがちゃんと使える仕様である事は幸いであり、
例えば本レンズを、マウントアダプターを介して、
APS-C型以下のミラーレス機で使用する事も可能だ。
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弱点だが、まず非常に安っぽい作りである事だ。
だが、所有満足感が少ない事は、逆に、非常に過酷な
撮影環境等で、「壊しても惜しくない」レンズとして
使う事も可能であり、そういう「消耗用途」には適正だ。

それから、あまりスペシャルな描写力は持っていない事も
弱点であろうか。ただこの点は、近接撮影に持ち込んだり
あるいは必要とあればエフェクトもかけて、描写力の低さを
「うやむやにしてしまう」という回避法が存在する。

現代、SONYαの一眼レフ(Aマウント機)は、縮退の
一途であり、SONYの主力は、FEマウントのミラーレス機
α7/9系となっている状況だ、しかしながら、本記事で
母艦としているα65(デジタル一眼第13回記事)や、
α77Ⅱ(同第18回記事)は、高機能で、なかなか優れた
機体であるし、中古相場も下がっていて買い易い。

ミラーレス機ばかりに目を囚われず、こうしたAマウント
機で、本レンズのような安価で高性能のレンズを上手く
活用すれば、α7系でシステムを組む場合の、数分の1から
十数分の1の低廉なコスト投資でシステム構築が可能だ。

それは勿論「フルサイズ機でなくっちゃ嫌だ!」などと
言うビギナー層を対象とした提案ではなく、あくまで
「良くわかっている中上級層向け」の話である。

----
では、次のエントリーレンズ
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レンズは、NIKON AF-S DX NIKKOR 35mm/f1.8G
(中古購入価格 18,000円)(以下、DX35/1.8)
カメラは、NIKON D300 (APS-C機)

2009年に発売された、APS-C機(DXフォーマット)用
準広角(標準画角)エントリーレンズ。
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ニコンでは、これ以前には、DX機専用単焦点レンズは
(魚眼レンズを除き)発売されていなかった。

その頃、2009年においては既にFX(フルサイズ機)も
色々と発売されていて、普及しかけてきた時代なのに、
「何故今更のDX専用レンズの発売?」とも、当時は思った
のであるが、実は、この直前の2008年には、初のμ4/3機
であるPANASONIC DMC-G1が発売されている。

将来的にミラーレス機市場が伸びてきて、一眼レフ市場が
喰われる事を警戒しての、本DX35/1.8の発売であれば、
まあ、これこそ近年のエントリーレンズ戦略の「先駆け」
とも言えるレンズであろう。

ちなみに、発売時定価は33,400円(+税)と、エントリー
レンズとしては高価であるが、殆どの商品が「高価すぎる」
ニコン製レンズにしては、かなり安価な部類だった。
つまり、「ニコンには、こんな風に、安価でも良いレンズ
があるんだよ、ミラーレス機なんかに興味を持たず、
ニコンのレンズを買いなさい」という「囲い込み戦略」である。

そうやって、上手く「こっちの世界」に誘導してしまえば
後は、より高価な交換レンズや、新しいNIKON一眼レフを
買って貰えれば良い。そうして、ある程度システムが揃って
きたら、もう今更、μ4/3機やNEXに買い換える筈も無い
だろうと・・ まあ、そういう市場戦略である。
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・・さて、本DX35/1.8の長所だが、
まずは、作りが良い事があげられる。
他社エントリーレンズのように、プラスチッキーな
安っぽさは一切なく、NIKON高級レンズと質感は大差無い
ようにも思える。

仕様的にも、あまり手を抜いていない。
SWM(超音波モーター)搭載、そしてM/Aモード(マニュアル
優先AF)では、シームレスなMF移行を実現する。
レンズ構成は、6群8枚。内1枚が非球面と、手を抜いては
おらず、描写力もそこそこ良い。

つまり、エントリーレンズであっても「仕様的差別化」は
最小限である、という事だ。

ニコンは一眼レフでは、ハイエンド機から、上級機、
中級機、普及機と、ラインナップが下位になるほど、
「仕様的差別化」が、はっきりと行われている事が特徴だ。
つまり、上位機種と見比べると、下位機種には必ず
見劣りする性能や仕様があって、物足りなく感じる。

これはまあ、ユーザーの目線を、上へ上へと誘導し、
少しでも高級で高価な一眼レフを買って貰いたいが為の
ラインナップ戦略であり、高付加価値型のメーカーで
あれば当然の措置であろう。(ただし、少々度が過ぎる)

殆ど全てのビギナー層は、「カメラ性能が不足すると
良い写真が撮れない」と大きな誤解をしているか、又は
「自分自身のスキルが低いから、高性能なカメラで無いと
良い写真が撮れないで周囲にバカにされる」と恐れていて、
「どうせ買うならば良い(高い)方を買おう」と、
どんどんと高級機に目がいくようになるからだ。
(この結果、近年では最新高級ニコン機を買うのは、
見事に、ビギナー層ばかりになってしまった)

まあ、だからこそ、このエントリーレンズDX35/1.8に
おける「仕様的差別化」の少なさは特筆するべき点なのだ。

弱点は特に無い。最短撮影距離が30cmと標準的で
あるとか、スペシャルと言う程の感動的な写りでは無い、
といった点はあるが、これらは欠点とも言えないであろう。

中古相場であるが、私の購入時(2016年頃)には、まだ
若干高価であった。
が、その後、2017年頃には一時的にさらに相場が上がり、
2万円台前半位にまで高騰したが(投機が入ったのか?)
さらにその後、2018年頃には、ガクンと相場が下がり、
現在では1万円台前半と、比較的安価な価格帯となっている。
(注:同様に、他のDX単焦点も相場が下がっている)

この相場の変動は直接的には理解不能だが、例えばニコンは、
この時代(2010年代後半)より、フルサイズ機を主力製品と
するようになってきた為であろうか? まあ、フルサイズ機
に本DX35/1.8を装着しても、単にクロップされるだけで
何ら問題なく使えるので、実質的には、本レンズを手放す
理由が見当たらない。

しかしながら、例によってニコン高級機の主力ユーザー層は
シニア層とかビギナー層が大半だ。
「FXとDXの、ボディとレンズの組み合わせの可否」について
あまり良くわかっていない人が大多数であり、例えば
「FXと書いてあるレンズを買いたいが、今持っている(DXの)
カメラをフルサイズに買い換えないとならないか?」という
何も基本原理がわかっていない質問を良く聞く。あるいは逆に
新たにフルサイズ機を買ったので、これまでの(DX)レンズは
「すべて使えない」と思い込んで、それらを処分してしまう。

そして、多少わかっていたとしても、FX機にDXレンズを
装着し、クロップされた状態で記録画素数が減る事に対して、
「画素数が下がったら、画質が落ちるじゃあないか!
 そんなレンズはいらんよ!」と考えてしまうのだ。
まあ、画質とかは、実際にはそんな単純な話ではなく、
こういう考えは、あまりにレベルの低い話だが、それが現実に
おけるニコン高級機ユーザー層の実態なのだ。

まあ良い、そうやって、何もわかっていないユーザー層が
せっせと中古市場に本DX35/1.8や他のDXレンズを放出して
くれるのであれば、わかっているユーザーは、とても買い易く
なったそれらを安価に購入すれば良い、ただそれだけだ。

それに、「APS-C用レンズをフルサイズ機でも使える」
と言う事自体が、すいぶんとマシな話なのだ。
他社、例えばCANON EOSであれば、APS-C用のEF-Sレンズ
は、フルサイズEOSには装着不能だ。
(マウント部の形状を異ならせて、物理的に装着出来ない
ようになっている)

こういう状態だと、例えばAPS-C型のEOS(例:EOS 80D)
を使っているユーザーが、お金を貯めてフルサイズEOS
(例:EOS 6D MarkⅡ)に買い換えたら、それまで使っていた
EF-S型のレンズは全て使用不能になってしまうのだ、
これは、ずいぶんと理不尽な話であろう。
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本DX35/1.8は、悪く無いエントリーレンズである。
そして(同様に)フルサイズ機人気により、安価になった
ニコンDX機中級機等を中古で買って装着すれば、ニコン
システムとしては、再強のコスパになるだろう。


例えば、今回母艦として使用しているD300(2007年)は
当時の高級機(DXのハイエンド機)であるが、現在の
中古相場は、1万円台後半と、二束三文だ。

つまり、今回使用のシステムは、合計3万円程度で
組めるという事になる、かつてのDXハイエンド機なので
性能的な不満は一切無い。ビギナー層が、その10倍以上も、
お金をかけてシステムを組んでいるの横目で見ながら
D300の高速連写性能で、気分良く撮影できる事であろう。

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では、3本目のシステム
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レンズは、CANON EF50mm/f1.8 (初期型/Ⅰ型)
(中古購入価格11,000円)(以下、EF50/1.8)
カメラは、CANON EOS 7D (APS-C機)

1987年に発売された、AF単焦点小口径標準レンズ。
ただし、本レンズは「エントリーレンズ」では無い。
単に銀塩EOS機の発売に合わせて用意された標準レンズだ。

しかし、銀塩EOSのEFマウントは、それまでのFDマウントを
ばっさり切り捨てて変更された新マウントだ、その当時の
FDユーザー層における不満は極めて大きかった。

・・であれば、CANONとしては、この時代であっても、
「ユーザー層をEOSに囲い込み」しなくてはならない。
さもないと、特に機嫌の悪い旧キヤノンFD党は、皆が、
「ミノルタα」やら「NIKON F4」に乗り換えてしまう
かもしれないし、新規ユーザーもそちらに流れてしまう。
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そこで、本レンズを僅か3年で、ディスコン(生産中止)
として、大幅にコストダウンした「EF50mm/f1.8Ⅱ」を
1990年に発売する。このⅡ型が、私の定義するところの
「史上初のエントリーレンズ」である。

CANONの戦略はドンピシャに的中する。EF50/1.8Ⅱは
実売1万円以下で買えるレンズであり、ビギナー層等が
ビ「安いので試しに買ってみたら、びっくり! とても良く
  写るレンズはないか。これだったら、高価なLレンズは、
  いったいどんな素晴らしい写りになるのだろう?
  よし、お金を貯めて、Lレンズを絶対買うぞ!」
となった訳だ。

まさしく、マーケティングのお手本通りの筋書きだ・・

近年、とある化粧品の「試供品」の話を、あえてTV CMで流し、
「当社では試供品でも一切品質を妥協しません」という主旨で
宣伝していた例がある。
でもまあ、これは当たり前の話であり、試供品で手を抜いて
いたら、それを入手してがっかりしたユーザー層は、二度と
そのメーカーの商品を買わなくなってしまう。

だから、必ず試供品やエントリーレンズは高品質・高性能で
なくてはならない。これはごく基本的な市場原理だ。

EF50/1.8Ⅱは、その後、何と25年間の超ロングセラーとなり、
やっと近年、2015年になって後継レンズのEF50/1.8STMに
リニューアルされた。(注:その後継レンズの発売も、
コピー品の流通等に係わるダークな裏事情があると推察される
のだが、その話の詳細は、現状、推測の域を出ないし、勿論
本記事とは無関係なので割愛する。けど、その件が無ければ、
EF50/1.8Ⅱは、販売が継続されていたかも知れない・・)

で、その25年の間、ずっとEF50/1.8Ⅱはビギナー層から
「神格化」される程に、定評と人気があった訳だが・・

まあ、その件については、

*他社の、どの5群6枚変形ガウス構成型のMF/AFの
 50mm/f1.8級レンズも、たいてい非常に良く写る。
(というか、50mm/f1.4級よりも、むしろ高性能だ)
 別に、EF50/1.8系だけが優れている訳では無い。
 単に、他社の同等レンズの事を知らないだけの話だ。
(参考:別シリーズ「最強50mm選手権」記事を参照)

*エントリーレンズという市場戦略が存在する。
(これらを「良心的価格」だと勘違いしていると、
 後で高いレンズを まんまと買わされてしまう)

の、「2つの要点を知らないビギナー層」による過剰評価だ。
そして私は、この「過剰評価」が極めて嫌いであった。
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EF50/1.8Ⅱは数十年も前から、常に中古市場に存在する。
相場も安価であり、いつでも7000円前後で購入できた。

けど、反面「絶対に買うまい」とも思っていた。

もし、EF50/1.8Ⅱを買って、それをカメラにつけて
写真を撮っていたら、撮影地などで他の初級マニア等から
初「そのレンズ、安いのに良く写りますよね~」
などと言われたら、このレンズのいきさつを、色々と
説明する訳にもいかず、応対に困ってしまう。

ましてや、
匠「いや、そんなに褒めるものでもないでしょう」などと
言おうものなら、
初「そんな馬鹿な! なんとか言うプロカメラマンの人も、
  良いと言っていたし、誰もが認める良く写るレンズですよ」
などと反論されるだろう、が、そういう自分の意見では無い
言い方は、私はさらに嫌いなので、ますます気分が悪くなって
くる、そこで、

匠「なんとか言うカメラマンの評価? 他人の言う事を鵜呑みに
  しているのですか? じゃあ、貴方はどう思うのですか?
  ご自身の、このレンズに対する意見をお聞かせ下さい!」
・・下手をすれば、そこからエスカレートして大喧嘩だ(汗)

まあ、上記は、本ブログでは珍しく完全なフィクションの
内容だが、十分すぎるほど有り得る話だ。
「神格化」による「信仰」は重症であって、他人からの
意見を受け付ける事はない、何を言っても無駄なのだ。

まあつまり、そのEF50/1.8Ⅱは、変に有名であるが故に、
思い込みや誤解も多々あって、面倒くさいレンズなのだ。

だが、このEF50/1.8Ⅱを、ずっと無視しつづける訳にも
行かない。一応、1993年発売のEF50/1.4USMをずっと
使ってはいるが、そのレンズは、コスパが悪くて好きな
レンズでは無い。どう考えてもEF50/1.8Ⅱの方が遥かに
コスパが良いので、自身の好みには合う筈なのだ。
でも、変に面倒なレンズだ、出来れば買いたくは無い。

そこで私が考えたのは、「レアなEF50/1.8初期型(Ⅰ型)
を、なんとか見つけて入手する」という解決策であった。

初期型は発売期間が短く、価格もⅡ型よりもずっと高価で
あったので、不人気でレアなレンズだ。その代わりⅡ型
よりも、ずいぶんと作りが良く、距離指標もついている。

ただ、これが、やはりなかなか見つからない・・
たまに見かけても、レア品として2万円以上の高額相場だ、
さすがに、中身が同じレンズであるⅡ型の3倍ものコストは
支払えない、「それだったら、EF50/1.4USMのコスパの
悪さと、たいして変わらないではないか・・」と。

・・で、その状態が十数年間も続いた(汗)

近年、2010年代になって、やっと11,000円という妥当な
金額のEF50/1.8初期型を見つけて購入した次第だ。

本レンズEF50/1.8初期型は、厳密にはエントリーレンズ
ではない、しかし、初のエントリーレンズであると言える
EF50/1.8Ⅱ型の元祖のレンズである。こちらの初期型の
歴史的価値も、Ⅱ型と同様に高いのではなかろうか・・?
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さて、最後に余談だが、EF50/1.8Ⅱ型(1990年)の
「お試し版戦略」が、ズバリとハマったCANONでは、
レンズのみならずカメラにおいても、同様の市場開拓や
販売促進を意識して製品企画を行うようになった事だろう。

それが、恐らくは1993年の「EOS Kiss」の発売と、その
大成功に繋がったのだろう、と認識している。
バブル経済崩壊後の消費者価値観の変化と「EOS Kiss」
の発売タイミングは、これもまたドンピシャとハマった。
ファミリー層や女性層に「EOS Kiss」は受け入れられ
CANONは新たな市場開拓に成功した。

しかし、成功しすぎたかもしれない・・
1993~1999年頃の期間、一眼レフ界では「EOS Kiss」を
除き、ヒット製品は殆ど生まれていない。・・というか、
魅力的な機種が全くと言っていい程出てこなかったのだ。
マニア層等では「もう、EOS KissしかAF一眼レフが無いので
あれば、古いMF機を探して買おう」という心理に皆が一斉に
傾いてしまい、この時代は空前の「第一次中古カメラブーム」
となった訳だ。

その歴史が良かったのか、悪かったのかは良くわからない。
でもまあ、その「カメラバブル期勃発!」の、遠い原因と
なった製品が、もしかすると本EF50/1.8であったのかも
知れない訳だ(まあ、「風が吹けば桶屋が儲かる」的な
遠因ではあるが・・)

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では、今回ラストのシステム
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レンズは、smc PENTAX-DA 35mm/f2.4 AL
(中古購入価格14,000円)(以下、DA35/2.4)
カメラは、PENTAX K-30 (APS-C機)

2010年発売のAPS-C機用標準画角エントリーレンズ。
AL型番は、非球面(アスフェリカル)レンズを採用
している、という意味だ。
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PENTAXは、この当時、HOYAの傘下となっていた。
他社と同様、この時期のPENTAXも「エントリー戦略」
を行ったのだが、PENTAXの場合は、さらに顕著だった。

まず、デジタル一眼レフであるが、低価格帯の機種の
性能を向上。その代表格は、K-r(2010年、未所有)
であるが、最高ISO25600、連写毎秒6コマと、中級機
並みのスペックだ。

加えて、カメラボディやレンズに「オーダーカラー制」
を実施。ボディでは2色のコンビネーションにより、
100を超える組み合わせの配色が選べた。

また、本DA35/2.4レンズも同様に12色から選べる。
(注:PENTAXの親会社がHOYAからRICOHに変わった
数年後に、この「オーダーカラー制」は終了している)

そしで、ミラーレス機としてPENTAX Qシリーズ(2011年~)
および、PENTAX K-01(2012年)を発売。
続くQ10(2012年)ではオーダーカラーが可能になった。
それから、この時期はPENTAX機においては、ゆるキャラ、
歌手、アニメ等とのコラボ商品も色々と発売されている。

こうした徹底的なエントリー層向けの市場戦略により、
スマホやミラーレスの台頭を跳ね除けて、HOYA時代の
PENTAXは好調であったと聞く。
まあ、タイミングが良かったのかもしれない。他社は
この時期、スマホやミラーレスとの直接の勝負を避け
高付加価値化戦略に転換しつつある時代であった。
それは、さらなる高性能化と価格上昇も意味する物で
あるから、PENTAXの普及機種は、そこそこの性能ながら
割安感があり、コスパが良く感じられたのだと思う。

ただまあ、この期間、デジタル一眼レフ高級機の方は
ほとんどK-5(2010年)系列のみで支えていた状況であり
そちら(高級機)の戦略までは、手が回っていなかった
のではなかろうか・・?
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その後、PENTAXはRICOHの傘下になり、HOYA時代の
市場戦略が終わりつつあった2013年頃からは、
(注:今回使用の母艦K-30(2012)は、RICOHの傘下に
なってからの直後に発売された機種だが、その製品
コンセプトも設計もHOYA時代のものを踏襲している)
RICOHの技術主導戦略が始まり、高級機もガラリと変化
するようになっていく。

さて、本レンズDA35/2.4だが、エントリーレンズであり、
価格が安価、そしてデザインも良く、おまけに12色から
選ぶ事が出来る(注:2017年末まで出来た)
APS-C機専用単焦点で小型軽量、そこそこの描写力と
そこそこの性能、例えば開放F値(F2.4)、最短撮影
距離(30cm)、非球面レンズ使用(AL)と、まあ、
スペック的には優れていると言える。
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ただ、ちょっと気になるのは逆光耐性の低さだ。
本レンズの数年後に発売された新型のHDコーディング
のレンズと比べて劣るのはやむを得ないのだが、
smcコーティング自体も、約40年間も続く、こなれた
技術であり、完成度が高い。

他の様々なsmc型レンズにおいては、これまであまり
逆光耐性について問題と思った事は無いので、
本レンズの課題が、余計に目につく。

ちなみに、同社の同様のエントリーレンズである
「smc PENTAX-DA 50mm/f1.8」も、逆光耐性が低く
感じる為、これらの廉価版レンズでは、何らかの
コストダウンが図られているのであろうか・・?

なお、逆光耐性が低い為にフードを装着したいのだが、
ここもコストダウンの弊害で、フードは別売である。
しかも、フードは恐らく黒色版しかないので、本レンズを
オーダーカラー品で買った場合、デザインがマッチしない。
あれこれと微妙に不満点があって、ちょっとクセがある
レンズではあるが、まあ、PENTAX機ユーザーであれば
持っていても悪く無いレンズだ。
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さて、エントリーレンズの総括であるが、2010年頃から
2015年頃にかけ、各メーカーから、2~3本づつつの
発売がある。中には未だ現行商品であるものも多いが
ただでさえ定価も安価な上に、長期間発売されている事で
さらに新品・中古とも安価になっていて、どのレンズも
1万円以下から高くても1万円台前半で中古入手可能だ。

エントリーレンズは、元々の基本性能に優れる。
その上安価であるから、とてつもなくコスパが良い。

細かい弱点を持つレンズも多いが、それは承知の上で
回避しながら使えば何ら問題の無いレンズばかりだ。
メーカー純正エントリーレンズは、「全て買い」と
思って間違い無いであろう。

エントリーレンズの、市場での「からくり」さえ理解
してしまえば、その後、コスパの悪い純正高級レンズを
買う必要は無い。高級レンズはメーカーが利益を確保
する為の手段であり、ファーストフード・ハンバーガー
店での、ポテトや限定企画バーガーと同じ位置づけだ。
それらは利益を得る為の商品なのだ。

だから、低価格帯ハンバーガー(エントリーバーガー?)
を単品で買うならば、さほどコスパは悪くならない。
「ポテトもいかがですか?」と、高付加価値型の商品を
美人の店員さんに薦められても(汗)強大な意思を持って
「いりません」と答えれば良いだけである。

それと同様に「エントリーレンズ」も単品で買って、
高級レンズを無視すれば、それで良いわけである。
消費者側がお買い得な商品だけを買っても、販売側は
文句の言い様が無い。

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さて、今回の記事「エントリーレンズ特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・

最強50mmレンズ選手権(7) 予選Gブロック MF50mm/f1.2

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所有している一眼レフ用の50mm標準レンズを、AF/MF、
開放F値等によるカテゴリー別で予選を行い、最後に
決勝で最強の50mmレンズを決定するというシリーズ記事。

緊急事態宣言で、なかなか撮影に出かける事も出来ない
世情ではあるが、まあ、本ブログでのシリーズ記事等は、
記事掲載時点の1~2年も前から、写真撮影や文章執筆
を行って準備している。(さもなければ、いきあたり
ばったりでは、体系的(システマチック)なシリーズ
記事等の執筆は無理だ)

そして、そもそも、私の場合は桜や紅葉の名所や
観光地等の、多数の人達が集まるような場所に、
趣味の撮影に行くような習慣は元々持っていない。

それにしても、昨今の状況においても、なお桜の撮影
に来ているようなアマチュアカメラマンでの、マスク
の着用率が異様に低い(半数以下、3割程度が装着)
状況は、特に気になる点だ。
(関西の通勤時間帯の電車等では、9割以上が着用)
まあ、いずれにしても、そうした場所にも、人にも
近寄らない事が賢明であろう。

それから、遠方の友人知人等間では、安否確認等の
理由でSNSを相互閲覧する用途も増えてきている模様だ。
まあ、「元気そうに記事を更新できていれば安心だ」
という理由であろう。それもそうだろうと思うので、
できる限り当方も新記事を掲載し続けて行こう。

さて、今回の「選手権記事」は、予選Gブロックとして
「MF50mm/f1.2」級のレンズを5本(うち1本は棄権
扱い)紹介(対戦)する。

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では、まずは今回最初のF1.2級標準レンズ。
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レンズ名:OLYMPUS OM-SYSTEM G.ZUIKO 55mm/f1.2
レンズ購入価格:20,000円(中古)
使用カメラ:OLYMPUS OM-D E-M5Ⅱ Limited(μ4/3機)

ミラーレス・マニアックス第59回記事で紹介の、
1970年代~1980年代のOMシステム用のMF大口径標準レンズ
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まず最初に簡単に大口径レンズの歴史を述べておくが、
戦前から戦後にかけ、一般的な大口径の写真用レンズと
言えば、例えばレンジ機用レンズのツァイス ゾナー
50mm/f1.5等が著名であろう。この時代、あるいは
銀塩時代全般においては、大口径と言えば、普通は
標準レンズ(35mm判で、50~60mmの焦点距離)
である事が大半だ。(注:近代においては、F1.4級
大口径レンズは、20mm~135mm程度の焦点距離で
存在するし、F1.4を下回る開放F値のレンズも多い)

以下は国産レンズの話に限定するが、ゾナー級の開放
F1.5を大きく下回る超大口径レンズの代表格としては、
マニアの間ではそこそこ有名な、1950年代のズノー光学
(後にヤシカにより買収)の、ZUNOW 50mm/f1.1
(レンジ機用マウント)があると思う。
一説によると、第二次大戦中の日本海軍による夜間索敵用
大口径光学機器として当該レンズの開発が開始されたそうだが
完成は戦後の時代となり、写真用レンズとしての発売となった。
この、ズノー50m/f1.1はレアものレンズにつき、所有して
いないので、その写りは不明だ。


1950年代には他社でも同様な超大口径レンズが発売された。
たとえば、フジフィルム フジノン50mm/f1.2
コニカ ヘキサノン 60mm/f1.2等のレンジ機用レンズが
著名であろう。
さらに極め付きは、1960年のキヤノン7s(レンジ機)用の
キヤノン 50mm/f0.95 であろうか。
このカメラ(レンズ)は、後の中古市場でも比較的玉数が
多く、1990年代の中古カメラブームの際には、セット品が
20万円台位の高額な相場で取引されていて、中古市場では
「その価格の殆どはF0.95という希少なレンズの価値だよ」
とも言われていた。

これらレンジ機用の超大口径標準レンズは、レア感も高く、
コレクターズアイテムとして捉えられ、中古相場も高価だ。
私も、それらを入手したいとは思えずに、未所有である。
しかしながら、稀にある実写作例などを見る限りでは、
描写力はどれも(かなり)イマイチという感覚も受ける。
つまり大口径化競争においては、描写力よりも開放F値を、
0.1でも下げる事が1950年代~1960年代の製品コンセプト
であったのかも知れない。

さて1960年代以降、レンジ機に替わって一眼レフが主流に
なった後でもF1.2級の超大口径標準のニーズは存在した。
その理由は、当時の35mm判フィルムの感度はさほど高くは
無く、およそASA(ISO)50~100程度が主流であったと
思われ、そうであれば、少しでも開放F値が明るければ、
室内や夜間などの暗所でも写真を撮れる可能性が高まる
訳である。(注:当時のフラッシュは、バルブ球を
1回焚く毎に交換する高価な消耗品だ)

当時の(超)大口径レンズの広告のキャッチコピーには
「ろうそくの光でも撮れる」といった趣旨のものも
多く見受けられたと思う。

ここまでの歴史の中、今回の記事だが、MF一眼レフ用の
F1.2級MF超大口径標準レンズを5本紹介する。
今回紹介のレンズ群は、1960年代末~1980年代位の
時代の発売であるが、前述のレンジ機用大口径競争の
1950年代~1960年代より、若干時代が下っている為、
レンズの描写力的には、なんとか実用範囲だ。

だが、依然超大口径レンズは設計が難しい時代であった
のだろう、開放F1.2の大口径化の代償として、
1)焦点距離が50mmにならず若干長く(55~58mm位)なる
2)最短撮影距離がF1.4級の45cmより長く60cm程度となる
3)絞りを開けると様々な収差で描写力が低下する
 (解像度の低下、ハロ、周辺光量落ち、ボケ質破綻等)
などの重大な課題がつきまとってしまう。
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さて、前置きが長くなったが、本レンズOM55/1.2の話だ。

F1.2級大口径標準の例に漏れず、描写力はさほど高く無い。
絞りを開けて行くと解像度が甘く感じ、ハロ(光源や
高輝度=ハイライト部での、光の滲み)の発生も多い。
また、ボケ質も破綻しやすい。

弱点ばかりと言う訳でも無く、長所も存在する。
最短撮影距離は45cmと、一般的なF1.4級標準と同等
であり、55mmと、標準域よりわずかに長い焦点距離と
あいまって近接撮影には強い印象を受ける。


開放近くで出る球面収差による軟焦点化(ソフト化)や
ハロの発生は、例えば花の準近接撮影などの被写体分野では、
柔らかいイメージを作画意図として盛り込めるであろうし、
今回使用のμ4/3機母艦の場合は、なおさら見かけ上の撮影
倍率を高める事が出来るので、さらに、こういう近接用途に
向くかも知れない。

なお、本レンズはOMシステム初期のものであり、後期には、
焦点距離を一般の標準レンズ同様とした50mm/f1.2版が
発売されている。(未所有)
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それから、本レンズはOMシステムにおける強い「標準化思想」
により、他の大口径OMズイコー同様、フィルター径はφ55mm
に統一されている。このメリットは小型化という点のみならず
例えば特殊フィルター等の使いまわしや、互換性において
当時のみならず現代においても非常に便利だ。

例えば、開放絞り値F1.2を日中で使用するのは、現代の
デジタル機の性能を持ってしても難しい。最低ISO感度でも
カメラの最高シャッター速度をオーバーする可能性があるのだ。
(注:電子(撮像素子)高速シャッターの利用は、動体
(ローリング)歪みの発生や、ディスプレイの走査線が
写る等の課題で、まだ実用的な技術とは見なしていない)

よって、ND8(減光3段)等のフィルターを用いるのが、
どのような光線状況であっても、絞り値をフルレンジで
使用できる点で良いのだが、雨天等の光線状況によっては、
ND8は、やりすぎの可能性もある。なので減光度が異なる
そういう様々なフィルターを各種のフィルター径で所有する
必要があり、きりが無い。φ55mm(やφ49mm、φ52mm)
といった、汎用的なフィルター径のみでしか、まず揃える
事ができない訳だ。(注:2019年頃より、安価なND
フィルター商品が殆どディスコン(生産終了)となって
しまい、高価な新タイプのみが店頭に出回るようになり、
なおさら、この課題は深刻である。特にNDフィルターは
数十年間使うと減光にムラが出て劣化する消耗品であり、
全てを1万円とかの高額商品で揃えるのは理不尽な話だ。
新型の高額NDフィルターが劣化しない保証は何処にも無い)

本OM55/1.2の総評だが、やはり現代的な視点では、描写力に
物足りなさを感じる。
もっとも、この点については、本記事で続く各社F1.2級の
超大口径標準レンズにおいても、ほぼ同等の評価となると思う。

---
では、次のレンズ。
_c0032138_16460529.jpg
レンズ名:MINOTA MC ROKOR PG58mm/f1.2
レンズ購入価格:20,000円(中古)
使用カメラ:SONY α7(フルサイズ機)

ミラーレス・マニアックス第45回、同補足編第1回で
紹介した1970年前後の超大口径MF標準レンズ。

マニア間では「鷹の目ロッコール」と呼ばれていて、
若干「神格化」された要素もあるレンズである。
_c0032138_16460561.jpg
本レンズは2000年頃の購入で、2000年代の銀塩末期には
銀塩機で機嫌よく使っていたのだが、デジタル全盛の時代と
なって、ミノルタMCマウントは、フランジバックの関係で、
デジタル一眼レフではアダプターでの使用が困難であり、
あまり使う事が無くなってしまっていた。

2010年代、ミラーレス時代となって、MC/MDマウント用の
アダプターの流通が始まると、久しぶりの復活を見たのだが
数年前から絞りが不調、開放から閉じなくなってしまった。

いわゆる「絞りネバり」の状態であり、オールドレンズとか
あまり使わないレンズであると、油分が固化してしまう等を
原因として、珍しい故障では無い。しかし、いくら名玉とは
言え、今更修理するのも何だか馬鹿馬鹿しい気がして、
故障は放置したままだ。
ミラーレス・マニアックス補足編第1回では、絞り羽根内蔵型
アダプターを重ねて使うというアイデアで課題回避を試したが、
どうやっても補正レンズが入って描写力が落ちてしまう。
もう思い切って、本対戦記事では、故障欠場(棄権)と
しておこう。
一応開放のままで撮った写真を何枚か上げておく。
_c0032138_16460518.jpg
なお、本PG58/1.2は「鷹の目ロッコール」と呼ばれていて
評判が良かったレンズであり、マニア等では、このレンズの
前群の配置構成が、他の一般的な変形ダブルガウス型標準と
若干差異がある(1枚多い)事などを根拠として「他の標準
レンズよりも優れている」と言うが、とは言え、手放しで
「最高の性能」だと思ってはいけない。

まず、エンジニアリング(機器・技術開発)の基本だが、
もし、全ての点で優れた技術が発明・発見された場合、
後に殆ど全ての製品がそれを採用し、いずれデファクト・
スタンダード(事実上の標準)技術となる。
そうならないのは新技術に何らかの課題が存在するからだ。

で、元々、当時の技術環境では設計仕様に無理がある1970年
前後の超大口径レンズであるし、最短撮影距離は60cmと長い、
ボケ質破綻も出る。そして当時の機材環境では、本レンズを
開放で撮れるような高速シャッターを持つ機体は、ミノルタ
には存在していないので、絞り込んだ状態での当時のマニア
の評価であろう。そりゃあまあ、中遠距離被写体を平面的に
撮るならば、最短の長さも、ボケ質破綻も、問題点とは
成り得ないし、ある程度絞り込めば、ハロも収差も消えて、
MTF特性(解像力)が良くなるのは当然だ。

銀塩時代では、撮影機材環境の他、フィルムのコスト的にも、
撮影結果の即時フィードバックが不可(どう写ったかは
現像するまで分からない)という意味でも、様々な側面から
の厳密なレンズの性能評価には無理がある。

オールドレンズで、当時の評判が良かったものを入手しても
現代の視点で見ると、がっかりしてしまう事も多々あるし、
当然そういうレンズは中古相場も高いので、コスパは最悪だ。
もし入手してしまっているならば、それらのオールドレンズの
弱点を、むしろ長所として、写真の個性的な表現力として使う
といった、発想の転換が必要だ。
ただ、それは極めて高度な撮影知識やスキルを要求されるので
初級中級マニア層では困難である事を述べておく。

---
では、次のレンズ。
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レンズ名:COSINA 55mm/f1.2 MC
レンズ購入価格:約17,000円(新品)
使用カメラ:SONY NEX-7(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第30回記事、および
ハイコスパレンズ・マニアックス第2回記事で紹介の
1980年代(~1990年代)の超大口径MF標準レンズ。
_c0032138_16462171.jpg
他の記事で本レンズの出自は詳しく紹介しているので
今回はそのあたりは割愛する。

当時は、自社ブランド力が弱かったコシナ社であるが、
現代は、知っての通りフォクトレンダーやカール・ツァイス
の高級ブランド商標を取得して、高性能レンズを開発販売
する高級品メーカーとして知られている。
(本シリーズ第6回記事、Milvus 50mm/f1.4等を参照)

が、当時はブランド力の問題により、本レンズ等のコシナ製
レンズは、新品価格がとても安価であり「最も入手しやすい
F1.2級大口径レンズ」としてマニア間でも広く知られていた。

勿論課題は色々とある。開放近くの描写力の甘さ、
最短撮影距離の長さ(60cm)、ボケ質の悪さや破綻、そして
50mmの画角にならないで、長目の焦点距離な事・・
本レンズを買ったマニアでも、これらの欠点には悩まされる
状況であった、例えば絞り値をF5.6ないしF8位に絞って
中遠距離被写体を撮れば、殆どの欠点は消えるが、それでは
せっかくの開放F1.2の大口径のスペックが全く活かせない。

まあでも、これらの欠点は他社でも、この時代のF1.2級
標準レンズに共通する、全く同じ傾向の弱点だ。
であれば、本レンズは、まだ値段が安価な点だけ救われる、
ただし、中古市場においてはセミレアなレンズである。
まずマニアしか買わないし、マニアはあまりレンズを
手放す事もしない。

そして、この時代のコシナのMF(まれにAF)レンズは
各社一眼レフ用の複数のマウントで発売されていたが、
本55/1.2に関しては、PENTAX Kマウントのみの販売だ。
これは恐らくだが、後玉が極めて大きなレンズ故に
作れるマウントの種類が制限されたのであろう。

なお、同じPKマウント互換では、リコー製のXR RIKENON
55mm/f1.2というレンズが存在している、そちらは未所有
であるので詳細は不明なのだが、本レンズと兄弟レンズ
(OEM生産)である可能性も捨てきれない。
であれば、コシナ社がOEM品を自社ブランドで発売すれば
開発費が削減できる訳だ。
が、このあたりはあくまで想像であり、当時の実際の
情報等は、もう殆ど現存していないので、真相は闇の中だ。
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・・余談に行きそうなので話を戻す。
中古市場でセミレアであった事から、本レンズが欲しければ
新品で買うしかなかった。例えば1990年代での新品相場だが、
最も安価なケースで15000円弱、高価な場合でも17000円弱
位であっただろうか?
私は、ちょっと入手のタイミングが悪く、16800円位での
購入だったと記憶している。

だが、この価格帯だと、他のメーカー純正50mm/f1.2級
レンズの安価な中古だと、2万円位の相場で購入できたので、
さほど劇的に安価であるという訳でも無い。

したがって、他社同等品と同じく、性能上の課題が色々と
あるF1.2級標準の場合、いずれにしても「コスパが悪い」
という評価になるだろう。

なお、本レンズは当時のコシナ社の「新品値引戦略」が
適用されていた。つまり本来の新品定価は5万円だか
6万円だかの値札がついていて、それが6割引きやら7割引き
という感じで売られていたのだ。
これはブランド力の無いメーカとしては、一種の有効な販売
戦略であり、買う方も「安く買えた」と、悪い気はしない。

ただ一点、問題点があったのは、後に本レンズが生産中止
となり、2000年代以降に中古品が稀に市場に出てきた際に、
その5万円や6万円等の定価の記録から中古相場が割り出され、
25000円とか27000円とかの高額相場になってしまった
事もあった、つまりプレミアム品でも無いのに、新品価格
よりも遥かに中古相場が高額であったのだ。
(さらに近年、このレンズの中古を1本見かけたが、
3万円以上もする高額相場となっていた)

ちなみに、コシナ製ではなく他社のF1.2級の標準レンズの
相場はさらに高騰してしまった、3~5万円あたりにまで
なってしまうのは常識であり、さらに、ややレアなレンズ
では、プレミアム相場で8万円以上という場合すらある。

ただ、何度も述べるように、MF標準のF1.2級レンズの
描写力は欠点が多く、たいした事は無い。
この貧弱な性能をどう捉えるかで、これらのレンズの
「コスパ」は決まってくる。 
まあ軽く前述したが、レンズの欠点を回避または逆用して
作画表現に取り入れてしまう事は、高難易度であるから、
これらのF1.2級レンズは、初級中級者層にとっては
間違いなく「コスパが悪い」レンズとなりうると思う。

買ってしまったならば、レンズの言うがままに撮るだけ
ではダメだ。そうなると「オールド風の写り」としてしか
評価しにくいであろう。高性能である現代レンズに対する、
低描写力(ローファイ)は、購入当初は目新しく感じる
かも知れないが、たいてい飽きが来る。

つまり、性能が悪い、という事は初級中級者層にも明白で
あるから、だんだんと使いたく無くなってしまうのだ。
そうならないようにするには(=買った価格の元を取るには)
レンズの欠点を徹底的に分析し、そのレンズを、どのように
使ったら有効に活用できるかを、考え出したり、創意工夫
していく必要がある。それが「欠点を回避または逆用する」
という意味である。
_c0032138_16463579.jpg
まあ、本レンズCOSINA 55/1.2は、もう現代ではレア品
で入手困難、あるいは高額相場になっていると思うので、
非推奨とし、これ以上の性能面での詳細は割愛する。

---
では、次のレンズ。
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レンズ名:SMC PENTAX 50mm/f1.2
レンズ購入価格:30,000円(中古品)
使用カメラ:PENTAX K10D(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第27回記事で紹介の、
1970年代後半頃の、PENTAX Kマウント用超大口径MF標準
レンズ(以下、K50/1.2)
_c0032138_16464405.jpg
この時代のPENTAXレンズは識別する文字が無い「無印」で
あり、一般に「Kレンズ」又は「Pレンズ」と呼ばれている。
この時代以降PENTAXは、OLYMPUS(OMシリーズ)に追従して、
小型化戦略を行い、名機MX(1976年)を発売後、小型軽量
なMシリーズ一眼レフを多数展開し、その時代のレンズも
小型化して旧来レンズの無印とは区別して「M」の名称が
与えられている。

さらに1980年代に入ると、当時のトレンドであった
マルチモード化(それまでの絞り優先AEのみの状況から、
プログラムAEやシャッター優先AE機能の追加)に対応した
PENTAX Super A(1983年)を発売。ここでは電子接点が
追加された「KAマウント」になり、そのマルチモードに
対応した自動絞り機構を持ったレンズには最小絞り値の
次に「A」(自動)位置が備わり、「Aレンズ」の名称が
与えられた。

で、この「KA」型以降のレンズでは、現代のPENTAX製
デジタル一眼に装着したとしても、ボディ側から絞り値の
制御が可能な為、快適に使用する事ができる。

ところが、A位置の無い従前のMおよび,K(P)レンズの場合
近年(おおよそ2010年代)のPENTAXデジタル一眼レフ
では、上手く使う事ができない。絞り環の使用を「許可」
に設定しても、絞りが開放のままで動かないのだ。
2000年代の初期のPENTAXデジタル一眼レフでは、上記設定を
「許可」の上、M露出モードにして、都度絞り込みプレビュー
を行うという面倒な操作をすれば、絞り込んだ値での露出を
知る事ができ、絞りが動いて正しい露出で撮影が可能だ。

今回使用の PENTAX K10Dでも同様の操作で、無印のK(P)
レンズを使用する事が出来る。
なお、上記使用法を無視して「絞り優先露出とし、絞り込み
プレビューを行わない」という場合では、露出値(すなわち
シャッター速度)を知る事は出来ないが、絞り羽根は動くので
正しい露出で撮影が可能だ。
これはまあ、古い時代のデジタル一眼レフでも、最新機種に
無い長所を持つ場合もある、という事である。

なお、いずれにしても、PENTAXデジタル一眼レフでは、
PENTAX Kマウントの最初期レンズの使用利便性はあまり
高くない。これであれば、むしろミラーレス機で使った方が
ずっと快適なので、今後の記事では、Kマウントレンズでも
ミラーレス機を使うケースが多くなるかも知れない。
(注:より古い時代のPENTAX Takumar系M42レンズであれば、
現代のPENTAX機でもさほど操作性を損ねずに撮影が可能だ)
_c0032138_16464407.jpg
さて、前置きが長くなった。本K50/1.2であるが、
他のF1.2級標準のように焦点距離を長くせずにF1.2を
実現している、また、最短撮影距離も45cmとF1.4級と
同じで好ましい。
さらに言えば、本K50/1.2のレンズ構成は、6群7枚と
同時代のF1.4版と同じであり、恐らくは、レンズのパワー
配置(曲率、屈折率など)や有効口径等を調整して、
開放F値がやや明るいレンズが出来たのであろう。

しかしレンズ重量は重い。同じK(P)時代の50mm/f1.4版は
生憎未所有なので感覚的な比較はできないが、密度感が
あって、ずっしりと重い。ただしフィルター径はF1.4版
と同じφ52mmに収まっている。
_c0032138_16465070.jpg
描写力だが、他の50mm/f1.2級レンズと同様に、あまり
芳しく無い。
弱点としても、他F1.2級と同様に、ボケ質破綻と開放近く
での解像度の低下が目立つが、特にボケ質破綻が顕著だ。
様々な条件でボケ質が悪く、回避も極めて難しい。

購入価格も3万円と高価だったので、コスパが悪く、
個人的には好きでは無いレンズだ。

---
では、今回ラストのレンズ。
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レンズ名:CANON New FD50mm/f1.2 L
レンズ購入価格:55,000円(中古)
使用カメラ:FUJIFILM X-T1(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第3回記事で紹介の
1980年発売のCANON FDマウント用超大口径MF標準レンズ。
_c0032138_16470001.jpg
またしても「嫌いなレンズ」の登場だ。
その理由は言わずもがな、55,000円という中古購入
価格にある。
これはどう考えても高すぎるのであるが、本レンズを
購入したのは1990年代の第一中古カメラブームの最中
であり、中古相場も強気の高値であったのと、これは
投機用であったのかも知れず、本レンズのキャップには、
「1980年冬季オリンピック(レークプラシッド)で
 CANONカメラが公式機材となった」という趣旨の
記念ロゴが入っている。

まあつまり「コレクターや転売(投機)層向け」であり、
実用的に使うレンズではなかった、という事だ。

それから、もう1つの嫌いな理由は、当時の私は、
「キヤノンで高画質仕様を表す「L」レンズであり、しかも
 F1.2だ。値段も高価だし、描写性能も、さぞかし高いに
 違い無い」と、極めて単純な大きな誤解をしていたのだ。

その後、何百本もの様々な交換レンズを入手して、それらを
数十年という長期間に渡り、実際に使用し、厳密に描写力等
を比較して、やっとわかってきた事が、
「レンズの値段と描写性能は全く比例しない」であった。

だから、近年は「コスパ」という点が、私がレンズに求める
最大の要素となっている。仮に価格が高くても、性能が
それに見合って高ければ別に文句は言わない。
しかし、性能が低くて、価格が高いものはダメだ。
それでは「コスパ評価」が限りなく低くなってしまう・・

まあ、あまりごちゃごちゃとは言うまい、ともかく
嫌いなレンズである。言うまでもなく、ここまで紹介
してきた他の50mm/f1.2級と同様の様々な欠点が目立つ。

私は、本レンズを購入するまで、それまで「Lレンズ」と
言うのは、「高画質仕様」だと思っていたが、どうやら、
値段が高い「贅沢品仕様」であったのだ、という解釈を
知らされたレンズであった。
_c0032138_16470056.jpg
なお、本レンズ NFD50/1.2L の2ヵ月後に発売された、
L仕様では無い、NFD50/1.2というレンズが存在していた
模様だ(全く見た事も無く、知らなかった・・汗)
で、L仕様版は、非球面レンズを含む6群8枚構成で
非Lの通常版は、6群7枚である、後者は恐らくは、前述の
PENTAX 50/1.2と同様の設計手法なのであろう。

で、中級マニア層からすれば「L仕様は非球面が入っていて、
レンズも1枚多い、だから高いのだし、だから良く写って
当たり前だろう?」という判断(主張)があっても不思議
では無い。
でも、そういう風に仕様から性能を類推するのは、必ずしも
それが正しいとは言い切れない。
レンズの描写性能は、それを発揮できるシチュエーション
(条件)に、ハマらなければ、高い性能を得られない場合も
多々あるのだ。
一番簡単な例を挙げれば「ボケ質破綻」である、これは同じ
レンズを使っていでも、撮り方や被写体条件や絞り設定に
よって、大きくボケ質が変化(悪化)してしまう事だ。
だから、たまたま良く写った1枚か2枚の写真をもって
「これは良いレンズだ」と評価する事は出来ない。
このあたりは初級中級マニアが陥り易い誤解であろう。

なお、「後から非L版が出た」という事実は、うがった
見方をすれば、「Lレンズの付加価値をより高める為に」
あえて、そういう市場戦略を取ったかも知れない。
上位と下位レンズが並存ラインナップされていれば、
多くのユーザー層は、上位レンズが欲しいと思うからだ・・

それから今回、NFD50/1.2Lの色々な弱点を緩和する為、
近年のデジタル機(一眼レフ、ミラーレス)としては、
かなり発色性能に優れるFUJIFILM X-T1を母艦として
使用している。
よって、意外に本レンズが良く写ると思ったとしても、
大半はカメラ側の手柄だ。(ただし、X-T1は、AF/MF性能
や操作系に劣るカメラであり、様々なレンズにおいて全て
のケースで高描写力を発揮できる訳では無い)

でもまあ、このようにレンズやらの欠点を回避する手段は
機材の選択やら撮影技法やら、様々にあるので、
そういう条件をきっちりと整えていけば、結局のところ、
レンズの描写力の差などは、殆ど無くなってしまう訳だ。
すなわち、再三述べているが、重要なのは「使いこなし」
であり、レンズ(やカメラ)自体のスペックの優劣では無い
と言う事だ。
_c0032138_16470160.jpg
総論としては、本NFD50/1.2Lは、コスパは極めて悪いが、
欲しい人にとっては、魅力的なスペックであり、予算が
許すのであれば買えば良いと思う。
ただし、性能はあまり期待せず、つまるところは、実用で
ガンガンに使うと言うよりは、むしろコレクター向けの
レンズであると思う。

---
さて、ここまでで「最強50mmレンズ選手権」における
予選Gブロック「MF50mm/f1.2」の記事は終了だ。

F1.2級MF標準は、なんだかどれもイマイチな性能ばかりで
そのくせ値段も高い(=コスパが極めて悪い)
試写で撮っていても、記事を書いていても、ストレスが
募るばかりであった。

次回の本シリーズ記事は、
予選Hブロック「AF50mm Macro」となる予定だ。
AF標準マクロは、幸いにして描写力が高いものが殆どだ・・

レンズ・マニアックス(24)

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緊急事態宣言により、私も外出を大幅に自粛して
いる状況が続いているが、本ブログでの掲載写真は
シリーズ記事の場合は、記事掲載時点の1~2年前に
撮られたものばかりである。
こうなると自由に趣味の撮影が出来た事が、いかに
恵まれた環境であった事を実感できるのであるが、
まあ新規の写真は、事態が終息した頃にも、また
ゆっくり撮りに行けば良い事であろう・・

さて、本シリーズ記事は、新規購入等の理由により、
過去の本ブログでのレンズ関連記事では掲載して
いなかったマニアックなレンズを主に紹介している。

今回は3本の未紹介レンズと、1本の再掲レンズを
取り上げる。

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ではまず、今回最初のレンズ
_c0032138_13495839.jpg
レンズは、SIGMA AF 70-300mm/f4-5.6 APO Macro
(中古購入価格 500円)(以下、APO70-300)
カメラは、SONY α65 (APS-C機)

発売年不明、恐らくは1990年代のレンズと思われる。

後継の機種には「DG」の称号が入っていて、そちらは
デジタル対応の意味で恐らく2000年代のレンズであろう。
(追記:記事執筆後に入手済み、後日紹介予定)
・・とは言え「DG無し」の本レンズがデジタル一眼レフ
で使えないという訳では無い。

本レンズの名称(型番)の正式な記述は不明。
レンズ上には勿論型番は書いてあるが、APOとかMACRO
等が、順不同でバラバラに適当な位置に記載されていて、
一連の名称は書かれていない。

また、SIGMAのWEBでも、ここまで古い時代の製品の
情報は載っていないので、正式な型番は、もはや不明だ。


レンズ名で検索をすると、本ブログに当たるのだが・・
そう、このレンズは同型のものを、かつて所有していて、
かなり昔の「スーパーレンズ」のカテゴリーの記事でも
紹介していたのだが、10年程前に「望遠レンズが欲しい」と
言った知人に譲渡してしまっていたのである。
で、近年、中古店のジャンク品コーナーで、また本レンズを
発見、500円と非常に安価だったので再購入する事にした。
_c0032138_13495831.jpg
型番での「APO」はアポクロマートの意味。すなわち望遠
レンズで良く発生する「色収差」を補正した設計である事を
示している。SIGMAのこのクラス(300mm級)のズームレンズ
においては、多くの時代の物で、「APO」版と非APO版が
併売されていて、APO版の方が若干定価が高価なのだが・・
中古、しかもジャンクともなれば、もう、そのAPOの有無
での相場差は無いと思っても良いであろう。

個人的には、SIGMAのこのクラスの非APO版は、見つけたと
しても購入する事はまず無い。私は他にも、古い時代の各社
の非APO仕様の望遠ズームは多数所有しているが、いずれも
例えば、遠距離の白い鳥等を撮影すると、輪郭の廻りに
様々な色の滲みが出る「色収差」が発生する。

SIGMA製の300mm級望遠ズームに関しては、APO版は2本
所有していて、それらであれば色収差は、さほど問題には
ならない事は承知している。だから中古で見かけた場合は
APO版である事が私の場合の購入条件だ。
(ただし、比較研究の意味で非APO版を購入したケースも
ある、それは後日紹介しよう)

「(軸上)色収差」を低減する最も簡単なレンズ構成は、
「色消しダブレット」等と呼ばれているものである。
これは、特性(色分散)の異なる凸レンズと凹レンズ、
あるいは正負の屈折特性を持つレンズ面を組み合わせると、
波長(色)による屈折率の差が打ち消し合って、
少なくとも2色(=赤と青の2波長)の屈折の差を抑える
事が出来る。
この構成を「アクロマート」(=2波長の補正)と呼び、
これは写真用レンズよりも古く、天体望遠鏡等で昔から
非常に良く使われている構成(の一部)だ。

ただ、これでは特定の2波長(色)しか補正されない、
そこで3波長(3色)に対して(軸上)色収差を補正する
構成を、今から100年以上も前に、カール・ツァイス社の
設計技師兼研究者の「エルンスト・アッベ」氏が(顕微鏡
用として)発明、「アポクロマート」と命名したのだが、
その後の光学技術の発展で、何をもって「アポクロマート」
と呼ぶのかが曖昧になってしまったと聞く。

まあ、そもそも光の波長に関しては三原色などの「色」と
1対1に対応している訳では無く、C線、d線、F線などの
(注:大文字小文字の区別必須)特定の波長を、レンズ
設計上での指標とする(多くの波長で屈折などを揃える)
ので、青、赤、緑などの単純な「色」の話では無い訳だ。


何が「アポ」なのか?、定義が混乱してもやむを得ない。
(注:この事もまた「設計基準」の一環である。世間一般
の非技術者層が言うように、「近接撮影が主か、無限遠
撮影が主か?」だけを「設計基準」と呼ぶのは誤りだ)

写真用レンズの場合、後年には異常(低)分散レンズなど、
屈折率や色分散の異なるガラス素材を使ったレンズ設計に
より、元々の意味の「3色を補正する」アポクロマートが
実現できるようになった。だが、これも今から60年以上も
昔の話である。(参考:旧フォクトレンダー社による、
アポランター(APO-LANTHAR)の発売は1950年代だ)
ちなみに、アポクロマートを実現する為に、新種ガラスを
用いる場合、その仕様を示すのは屈折率と色分散の値で
あるが、その色分散の指数を、前述のツァイス社の研究者に
ちなんで「アッベ数」と呼ぶ。

現代のコシナ社のフォクトレンダーブランドのレンズでも、
APO-LANTHARの製品名は使われている。また、SIGMA社や
MINOLTA社でも、本レンズのように、良く「APO」の名称を
使っている(いた)のだが、他社レンズでは、あまり「APO」
の名前は使われていない。
(光学的なアポクロマートの定義が曖昧であるし、APOと
言った所で、初級層が理解できるものでは無いからか?
まあ、それでもツァイスやライカ等でも、稀にAPOの
名称の付く高級(高額)レンズは存在している。
まあ、その辺りは名称による付加価値(高価に売りたい)
を得る為のものかも知れないが・・)


その代わり、レンズ型番に、ED,LD,ADなどの名称が付く
場合があり、これらは「異常(低/部分)分散ガラス」や
「特殊(低)分散ガラス」を表す省略語である。

これらの「新種ガラス」は、色収差の補正を始めとして、
様々な収差を補正(低減)する為に使われるのであるが、
現代においては、こうした新種ガラスを使ってレンズ設計を
する事は、あまりに常識的な話なので、SIGMAやTAMRONと
いったレンズメーカーにおいても、もう2010年代からは、
これらのLD等の型番称号は使われなくなってきている。
(まあ、LD等と書いたところで、初級層等では、何が凄い
のか良くわからない点はAPOと大差ないだろう、すなわち
「それでは付加価値にならない」という事である)

なお、異常低分散レンズ等がまだ一般化する前の時代には、
PENTAX(旭光学)やキヤノン等の一部のメーカーでは
1970年代頃から「蛍石(けいせき)レンズ」(CaF2結晶
を用いた特殊ガラス、「フローライト」とも呼ばれる)を

用いた事もある。
_c0032138_13495968.jpg
この蛍石素材の硝材は、色分散の特性が一般ガラスとは
異なっていて「異常部分分散ガラス」等と呼ばれていた、
これを使う理由は、主に「色収差」等の補正である。
(また、稀に軽量化の目的で用いられる場合もある)


だが、この蛍石の素材は柔らかく、傷がつきやすいので、
レンズとしての製造が難しく、後年には新素材の「異常・
特殊(低)分散ガラス」を使う事が一般的になっていく。
(注:CANONにおいては、一部の交換レンズに、ずっと
蛍石レンズを使い続けている。またNIKONでもFL型番の
蛍石使用レンズが近年に発売されている)

で、これらも初期のものは、50年以上も前の古い時代の
話であるから、現代になってなお「昔の蛍石レンズは
良く写るらしいから、どうしても欲しい」等と言って
いたら、そこは、もう少し情報アップデートが必要だ。
今時の(望遠)レンズには、ほぼ全てに新素材である
「異常・特殊(低)分散ガラス」が使われているので
収差補正の目的には、基本的には、それで十分だ。
また、近代の蛍石レンズの用途には、収差を補正しつつ、
軽量化を意図したものもある。

要は、十把ひとからげに「蛍石レンズは凄い」とか
「異常低分散ガラスが入っているから良く写る」とかは
思い込まず、時代背景とか、その技術が使われる目的や
効能等を良く理解しなければならない。

さて、技術的な余談が長くなったが、中上級マニア層で
あれば、これらは最低限は知っておかなくてはならない事だ。
_c0032138_13501026.jpg
本APO70-300であるが、20年以上も前のセミオールド
レンズとは言え、そこそこ良く写る。まあアポクロマート
設計の効果が良く出ているのであろう。

・・と言うか、製品ラインナップ上で、APO無しの廉価版と
比較される事が必至の立場であるから、両者の差別化の為に
APO版は高性能を目指した設計としているのであろう。
同じメーカーの安い機種に写りが負けていたら、お話にも
ならないからだ・・

まあつまり、中古相場が安価であるならば「お買い得」な
立ち位置の製品である。

それと、本レンズでは望遠端300mmにすると、それまでの
「NORMAL」位置のスイッチを「FULL」に手動切替する事が
可能となり、これは「マクロモード」に相当する。
NORMALでの最短撮影距離1.5mに対し、最短が95cmまで
短縮され、これはフルサイズ時に1/2倍の撮影倍率となる。

ここの操作性は、やや煩雑だが、高画質のレンズなので、
近接撮影が出来る仕様は効果的であり、長所と言える。
(ただし「遠距離+望遠端」で解像感が若干落ちる弱点を
持つ本レンズであるから「望遠端はマクロで使ってくれ」
という仕様とすれば、その弱点を目立たなくする事が可能だ、
もし、そこまで考えて設計したのならば「確信犯」であろう)

2000円以下とか、そういう価格帯で買えるのであれば、
コスパは極めて良いと思う。ちなみに、本レンズは
税込み540円だ。以前に知人に譲渡したニコンFマウントの
同型レンズも税込み1000円のジャンク価格であった。

ちなみに、後継機(DG付き型番)の場合は、中古相場は
1万円以上に跳ね上がる。そちらは「デジタル対応」と
銘打っているから、初級中級層では、本APO70-300が
「デジタル非対応で、デジタル一眼レフでは使用できない」
と勘違いをするから、中古相場も安価になるのだと思う。
勿論、本レンズは、何も問題無くデジタル一眼レフで使用
する事ができる。(後継DG版は、後日紹介予定)
_c0032138_13501054.jpg
安価でコスパが良いレンズではあるが、課題としては、
もう様々な経年劣化が起こっていてもおかしく無い古い
時代のレンズである事だ。SIGMAのこの時代(1990年代
前後)のレンズの典型的な経年劣化については後述しよう。

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では、次のシステム
_c0032138_13501767.jpg
レンズは、SIGMA AF ZOOM 75-300mm/f4-5.6 APO
(中古購入価格 1,000円)(以下、APO75-300)
カメラは、NIKON D300 (APS-C機)

ミラーレス・マニアックス補足編第7回記事で紹介済みの
レンズであるが、上記の類似仕様レンズとの比較の為に
再掲しよう。

本レンズの正式名称(型番)は不明。例によってレンズ上に
順不同で書かれている単語を適宜並べて表記するしかない。

上記のAPO70-300よりも1世代古い旧型レンズと思われる。
発売時期は推測だが1990年前後であろうか?
スペック上の差異は、焦点距離の広角端が75mmと70mmで
僅かに異なる程度である。
また、MACROの名称が本レンズでは無い。本レンズの最短
撮影距離は1.5mであり、MACROモードは付いていないのだ。

本レンズもAPO仕様であり、後継レンズと同じく、非APO版
が当時は併売されていたと思われる。
_c0032138_13501788.jpg
さて、この手のジャンクレンズは、常用しているという訳
では無いので、前回のミラーレス・マニアックス登場時から
およそ数年ぶりに使用してみると、なんだかコントラストが
とても低く写るようになってしまった(上写真)

「これはおかしい」と思って、レンズをカメラから外して
良く見ると、レンズ後玉の表面に白い曇り(カビ?)が
発生している。これが原因と推察し、レンズクリーナー液と
レンズペーパーで清掃すると綺麗になった。
_c0032138_13501706.jpg
この状態で本来の性能は復活、クリアに写るようになった。


これが、少し前述したSIGMA製レンズの経年劣化の典型例
であり、所有している同時代のSIGMAレンズでは、本レンズ
以外にも2件ほど同様な後玉カビが発生している。

また、前記「APO70-300」は同型品を知人に譲渡した、と
書いたのだが、譲渡からおよそ8年位して、その知人から
「あの望遠ズームが、白っぽく写るようになってしまった」
という連絡があった。上記の課題ではなかろうか?と思い
後日「レンズの後ろを磨いたら直るかも」と連絡したが、
上手く復活できただろうか? そこは聞いていない。
下手をすると「壊れた、もうダメだ」と思って処分して
しまったかもしれない。さらに、もしかすると、この課題
がある為、故障(劣化)レンズとして、この手のSIGMA製
レンズが中古店でジャンク扱いで二束三文で売られている
可能性もある。

私が知る範囲で、この後玉劣化の問題が発生するものは、
1980年代~1990年代製造と思われるSIGMA製レンズである。
この時期の製造工程で、後玉の表面加工(コーティング?)
の材質や素材塗布方法に、経年劣化が起き易い課題が
あったのであろうか?
だがまあ、知っていれば対処法があるので問題は無い。
_c0032138_13502792.jpg
さて、描写性能が復活すれば、本レンズの描写力は、
上記後継型と並んで、ほとんど問題にならない高い性能を
誇る。ここがまあ、APO仕様で、非APO版との差別化要因が
あるので、気合の入った設計だ。

ボケ質破綻が僅かに出るが、その回避は一眼レフ使用では
困難だ。前回使用時はミラーレス機(DMC-G6)で使ったが、
本レンズは絞り環が備わるNIKON Fマウント品なので、
ミラーレス機なら実絞り(絞り込み)測光で高精細EVFと
あいまって、なんとかボケ質破綻の回避技法が使える。

まあ、古い大型レンズなので、AFは遅いしAF精度もあまり
高くない為、本来であれば一眼レフでは使わず、MF性能
に優れたミラーレス機で使う事が、こうしたオールド
レンズでは基本であろう。

今回一眼レフで使用しているのは「限界性能テスト」の
意味があるのだが、このテストの意義は、「厳しい状況と
なる事が予想されるシステムで使っても実用的か否か?」
という検証の他、副次的には「システムの良し悪しについて
多数の経験を積んで、その基準(評価感覚)を築いていく」
要素もある。まあつまり、常に性能の優れたシステムだけを
使っていたら、そういう評価基準が身に付かないのだ。

これはカメラシステムに限らず、オーディオ等で音の
良し悪しを判断する感覚基準であったり、あるいは食品等
でも、味の良し悪しを評価するには、美味しいものも
食べるし、美味しくないものも食べて、その評価の幅や
スケール(物差し)を絶対感覚値として持つ必要がある。

そのスケールが身につけば、新しいレンズ、新しいイヤホン
新しい食品、などを手にした際、「これは5点満点中で4点」
などの評価が、(やっと)できるようになる訳だ。

この経験値を多数積まずに「このレンズは良く写る」等の
評価はやりずらい。・・と言うか、出来ない筈だ、経験値が
無いのに評価をするのは、殆どが「思い込み」の世界だ。

ビギナー層による機材評価は、ほとんどがその類なので、
残念でもあるし、通販サイト等での、そうした評価内容を
参考にして機材を購入する人達も可哀想だ。もし仮に多数の
ユーザーが同じ高評価だったとしても、全員がビギナー層で
ただ単に、他者の意見に「付和雷同」しているだけの事も
極めて良くある話だ。まあそれは大多数が「良い」といえば
一人だけ反発する事等はビギナーにはできる筈も無いからだ。

なお、さらに余談だが、前述のような「音」や「味」を
感覚的に評価する業務は、一般に「官能評価」と呼ばれ、
それらの業種での専門担当者が居る。
が、私が思うに、そうした業務も、そこそこ経験を積めば
出来るとは思う、しかし世間一般の人達に聞くと、音や味の
良し悪しは、多くの人達がわからないらしい。恐らくだが、
味が分かるのは世間の3割以下、音の良否はさらに少なく
1割以下であろう。だから、それがわからない「一般層」は、
自分では判断出来ない商品(音響機器や食品)は、ネットや
他者の評判を聞いて、買うかどうかを決めるそうだ。

私は、そういう話を聞くたびに強く反発する。
「なぜ、自分で評価判断ができるようになろうとしないのだ?
 イヤホンを選ぶならば、店舗で試聴できるものは100本でも
 200本でも全部聴いて、自分で決めれば良いだろう!?」
・・等と常に憤慨しているのだが、面倒だからとか、才能が
無いから、とか言い訳をして、そういう経験値を積もうとも
しなければ、永久にそういうセンス(=まあ、経験値だ)は
身に付かない。とても残念な話だが、それが世間一般層の
レベルである。・・しかし、それでは、他人の意見に簡単に
流されてしまうし、世の中には、特定の商品を売る為の
意図的な「情報操作」は、いくらでも存在しているから、
一般層は、そういうものに簡単に騙されてしまうのだ。

例えば、ごく普通のアナログ的構造のイヤホンの新製品を
「これはハイレゾ対応だ」と言えば、従来の数倍の価格と
なる。だが、実際に比較試聴してみれば、ずっと安価な
良く出来たイヤホンよりも音が悪い場合も多々ある・・
私はそういう不条理な製品は絶対に購入しないが、世間では、
「やはりハイレゾ対応は高いだけの事はある、ちょっと違うな」
などと言って、無駄な出費を自身で納得してしまう訳だ。

かなり馬鹿馬鹿しい話だが、近年では、私も「そういう風に
騙される人が沢山居るから、世の中は上手く廻っている」
と思って、憤慨しないようにしている。
_c0032138_13502773.jpg
総括だが、まあ、かなり古い時代のレンズながら、SIGMAの
APO仕様の望遠ズームは、描写力的に、なかなか悪く無い。
現代においては二束三文の中古相場となっている事が多く、
中古店のジャンクコーナー等で見かけたら、試しに買って
みるのも良いであろう。 恐ろしくコスパが良い為、
「高価なレンズって、いったい何故必要なのか?」
という疑問が沸いてくるかも知れない。まあでも、そうした
価値感覚のスケールを持つ事が非常に重要な事だと思う。

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では、次のシステム。
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レンズは、VS Technology VS-LD6.5
(発売時定価 50,000円)
カメラは、PENTAX Q (1/2.3型機)

本シリーズでは未紹介であるが、「特殊レンズ第1回記事、
マシンビジョン特集」で、チラリと紹介している。

発売年不明、恐らくは2000年代のマシンビジョン(FA)
用低歪曲広角レンズであり、近接撮影のみが可能だが、
中遠距離撮影時には、絞り込んで被写界深度で撮る。


何cmまで寄れるか?等は良くわからない、レンズには
センサー換算倍率が書かれていて、一般写真用レンズ
のように、何m、などの距離目盛(指標)は無い。
それに、撮影倍率もセンサーサイズに依存する為、
そのスペックを書いても無意味であろう。

6.5mmの広角気味の焦点距離で、1/2型以下のCマウント
対応、初期メガピクセル対応のMF単焦点手動絞りレンズだ。
開放F値は撮影距離により変動しF2.2~F2.4程度となる。
(=近接露光(露出)倍数が掛るからだ)
_c0032138_13504165.jpg
ここで「マシンビジョンとは何ぞや?」という話を
しだすと際限なく記事文字数を消費してしまうし、
非常に専門的な分野であり、写真用レンズやカメラの
世界との接点も殆ど無い。

もし興味があるならば、上記、特殊レンズ第1回記事や
匠の用語辞典第3回記事に詳しいが、専門的な用語や
概念や計算式ばかりで、一般ユーザー層では難解すぎる
内容かも知れない。

さらに言えば、一般ユーザーではマシンビジョン用レンズ
を入手(購入)する事もできない。これらの購入には
通常では「法人名義」で代理店を通すしか無いのだ。
(この事は、この業界における慣例だ)
私が多数のマシンビジョン用レンズを所有しているのは
あの手、この手で、その業界に頼み込んで入手している
次第である。

そして、仮に入手できたとしても、レンズを装着する
カメラシステムは限られているし、それよりも何よりも
問題なのは、その限られたシステムにおいては、撮影を
する事自体が、かなり難しい事だ。


特にPENTAX Qシステムを使った場合は、ピント距離が
まるで不明になる。(注:ここには様々な理由がある)
加えて、かろうじて写せたとしても、普通の写真のように
撮る事は困難だ。例えば、マシンビジョン用レンズは
いずれもボケ質に対する配慮は皆無に近いという特性があり、
つまり普通に背景をボカしても、その雰囲気やボケ質は、
写真としての感覚からは、かなり異端に感じる事だろう。
また、正しい使い方をしなければ、まともに解像感を
得たり、被写体形状が正しく写る保証すらない。
(注:電子シャッター使用となるからだ)

_c0032138_13504168.jpg
では、そんなやっかいなレンズを何故使うのか? という
点があるが、それはまあ、難しいシステムを、あれこれと
工夫して撮る事に興味を持つような・・ 言ってみれば
「テクニカル・マニア」のような志向性があるからだ。

でもまあ、これもまた一般的なカメラマニアの志向性とは
異なる領域の話であろう。
しかし、一般層が想像するような「マニア像」という
ものがあると思う。つまり、有名でレアで高価なもの等を
集めたがるような風潮であるが、それもまた、私の定義
する「マニア道」とは、かけ離れた概念のイメージだ。

これについて書き出すと非常に長くなる、様々な記事
でも書いているが、例えば「匠の用語辞典第17回記事」
などにも、「マニア道」についての詳細を書いている。
_c0032138_13504146.jpg
さて、肝心の本レンズVS-LD6.5の話がちっとも出て来ない
のだが、特に書くべき内容も殆ど無いし、写りが良いとか
悪いとか、あるいは長所短所を書いても意味が無いであろう、
「絶対に」と言っていい程、一般カメラユーザーはもとより
マニア層ですらも欲しいとは思わないレンズであるからだ。

----
では、今回ラストのシステム。
_c0032138_13505891.jpg
レンズは、SIGMA 70mm/f2.8 DG MACRO | Art
(中古購入価格 44,000円)(以下、A70/2.8)
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)

2018年に発売された、フルサイズ対応AF等倍マクロ。
Art Lineのラインナップとなるが、他のArt Line
レンズで一般的なHSM(超音波モーター)仕様では無い。
また、Art Lineレンズには、手ブレ補正が内蔵されて
いない。(が、その硬派なコンセプトが気に入っている)

やや特殊なモーターの仕様の為、NIKON(F)マウント版
は発売されておらず、EOS(EF)、SIGMA(SA)、および
SONY E(FE)マウント版のみの発売である。
(追記:ミラーレスLマウント版が追加発売されている)
_c0032138_13510854.jpg
さて、本レンズは「カミソリマクロ」と呼ばれている。
どうやら、旧製品 SIGMA MACRO 70mm/f2.8 EX DG
の時代に、「デジカメWatch」の紹介記事でライターに
より、その名称が使われた記録があるのだが、その後、
マニア層において、その名称が定着していたとは聞かない。
(さらに古い時代、TOKINA 90mm/F2.5 Macro →後日紹介
にも、同様に「カミソリマクロ」の異名が与えられた記録

もある、まあつまり、比較的「普遍的」な呼び方だ)

まあ、今回の新製品で、その通称を用いた事は、単なる
「キャッチコピー」の類だとは思うが、それでも本レンズや
旧版レンズの特性を良く言い表している呼称であろう。

なお、旧製品の2006年版のマクロの正式名称だが、
「SIGMA MACRO 70mm F2.8 EX DG」で良い、とは思う
のだが、どうもはっきりしない。本記事では、たまたま
SIGMA製のレンズが3本紹介されているが、上の方で前述
したように、SIGMAのレンズ上に書かれている型番文字は
順不同であり、その旧版70マクロ本体にも、EXの名称は
書かれていない。また型番のMACROの位置も、新版は
最後だし、旧版は最初(?)であって、さらには、旧版で
AFの型番が入るか入らないか? など、結局、レンズの
正式名称が良くわからないのだ。

実際のところ「名前など、どうでも良い」とも言えるかも
知れないのだが、ちょっと困った事があり、旧版70マクロ
の事は、これまで他記事では「レア品で中古入手困難」
と書いてきたかも知れないが、近年、やっと市場に出てきた
ものを入手する事が出来たのだ(後日紹介予定)

これで新旧70mmカミソリマクロが手元に揃った訳だが、
これらをどう区別するか? まあ、新版はA70/2.8、
旧版はEX70/2.8と省略して記載する事にしようか・・

それと、正式な型番名称が不明であると、WEB等での情報
検索性が低下する(=見つからない)、という課題は、
ユーザー側のみならず、メーカー側にとっても不利であろう。
(まあ、そうだからか? 近年のArt Lineレンズでは
型番は、わりとシンプル、かつ明瞭につけられている)
_c0032138_13510872.jpg
本A70/2.8だが、解像感は確かに高い、しかし事前に
想像したような「カリカリ・マクロ」では無く、一般的な、
良く写るマクロレンズである。
(なお、本記事では旧版との比較はやめておき、それは
旧版の紹介記事に譲るとしよう)

「カリカリ・マクロ」(匠の用語辞典第5回記事参照)
という特性を持つマクロも何本か所有しているのであるが
元々、現代のSIGMAのラインナップ上においては、Art Line
に属するものは、カリカリ描写は与えられておらず、むしろ
コンテンポラリー(Contemporary Line)のレンズ群の方が
輪郭がキツいカリカリ描写が強いように感じてしまう。

まあ、輪郭を強くした描写の方が、コンテンポラリーの
主力ユーザー層である初級中級者に、「良く写るレンズだ」
という勘違い(錯覚)を与え易いから、あえてそういう特性
になるように設計されているのだろうと思う。

本レンズは一応は Art Lineである為(注:Art Lineでは
初のマクロとなる)、そうしたビギナー層向けの特性は
与えられてはいない、という事だ。
(=上級者や職業写真家層は、撮影した写真は必ずレタッチ
して用いるので、高級レンズは、編集を前提に、出来るだけ
ニュートラルな特性を持たせる必要があるからだ)

じゃあ、「カミソリマクロ」とは何ぞや? という話に
戻ってしまうのだが、まあ結局、良くわからない(汗)
やはり、単なる「キャッチコピー」とでも思っておく方が
無難だろうと思う。
マクロレンズは数十本所有しているが、たいていのマクロ
は良く写り、別に本A70/2.8だけがスペシャル(特別)な
描写力を持つレンズ、という訳でも無いのだ。
_c0032138_13510873.jpg
スペック的なライバルは、コシナ・フォクトレンダーの
マクロアポランター65mm/F2(本シリーズ第10回記事)
と思うかも知れないが、両者はまるで別のレンズである。

例えば、単純な話だが、
本A70/2.8は、AFの等倍マクロであり、解像力重視、
MAP65/2は、MFの1/2倍マクロであり、コントラスト重視だ。
おまけに価格(定価)も、MAP65/2が2倍も高価である。

写りも、まるで違う印象となるので、スペックが似ている
という理由だけで、両者の比較をしてはならないと思う。
実は私も当初は、既にSONY Eマウント用にMAP65/2を
所有していたので、同じEマウントで、焦点距離が5mm
異なるたけの本A70/2.8を購入する事には抵抗があり、
本A70/2.8は、EOS(EF)版を探していたのだが、そちらの
中古がなかなか出て来ず、先に出たSONY E版を購入して
しまったのだが、逆に、この状況で同じ母艦で、両レンズ
を使える事になったので、両者の設計コンセプト上の差異が
良くわかるようになった、とも言える。

さて、本レンズの弱点であるが、わけのわからないモーター
の仕様となっている事だ。SONY E版はカメラの電源OFF時
に、なんとか自動的にレンズの繰り出しが収納位置まで
復帰するのだが、EOS(EF)版では、それが無理な場合が
あり、レンズを(無限遠撮影またはMFで)引っ込めてから
EOSの電源をOFFしないと、レンズが伸びっぱなしで、
それを手動で引っ込める操作が出来ないケースがある。

(注:EOSデジタル一眼レフの一部には、カスタム設定で
「電源OFF時のレンズ収納」を可能とするものもある。
ただし、この機能は全てのEOS機に搭載されてはいない)


まあ、まるで4/3(フォーサーズ)用のAFレンズのような
仕様であり、レンズ側に電源を供給してあげない限り
モーターが廻らず、MFもできないのだ。
しかし、CANON純正レンズでも、例えばSTMレンズ
(例:EF40/2.8STM、本シリーズ第10回記事)において
電源を供給しないとピントリングが動かずMFが出来ない
のであるが・・(その結果、STMレンズは、機械式マウント
アダプターでは他社ミラーレス機などで使用できない)

同じようなものとは言え、小型のSTMレンズならば、レンズ
鏡筒が伸びっぱなしで電源をOFFしても邪魔にはならないが
本A70/2.8はマクロである、レンズが伸びたままでは
カメラバッグに仕舞う事も出来ず、また電源をONして
収納位置まで引っ込めてからEOSの電源をOFFしないと
ならない。(注:前述のように、機種による)
まあ、EOS機ではその問題がある事がわかっていたので、
購入前から非常に気にはなっていがた、まあたまたま
SONY Eマウント版を選択できたので、むしろ良かった。

なお、このモーターの不思議な仕様の問題があるからか、
本A70/2.8は、ニコンFマウント版は発売されておらず、
確か「作る事ができない」という話も聞いた事がある。
_c0032138_13510882.jpg
それと、母艦であるα6000(2014年)のデジタルズーム
機能が効かない、α7(2013年)でも同様であるが、何故か
古いNEX-7(2012年)では動作する。
(追記:本レンズのファームウェアを2018年末のVer.02
へ更新する事で、この不具合は解消された)

ちょっとクセのあるレンズであるが、まあ総合的な
描写力は悪くなく、しかも、Art Lineレンズとしては
他の主力Artレンズの半額以下程度と安価である。
描写力の面でのコスパはなかなか良い現代的マクロで
あるので、中級層やマニア層に対してはオススメだ。

ただし、他にも代替できるマクロレンズもあれこれと多い
事があるのと、各マクロには微細な長所・短所があるので
利用者の用途とか志向性やらで、本来、推奨できるマクロ
は個々のユーザーで異なる、という事は念の為述べておく。

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さて、今回の記事は、このあたり迄で、次回記事に続く。

最強50mmレンズ選手権(8) 予選Hブロック AF50mmマクロ

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所有している一眼レフ用の50mm標準レンズを、AF/MF、
開放F値等によるカテゴリー別で予選を行い、最後に決勝で
最強の50mmレンズを決定するという主旨のシリーズ記事。

本シリーズ記事は、元々、オリンピックイヤーにちなんで
数年前から準備(撮影、執筆)を行っていたものであるが
緊急事態宣言で、それどころでは無くなってしまった。
まあ、当面の間は知人等への安否確認の表明の意味もあり、
小まめに執筆済み記事の更新を続けていく事にしよう。

さて今回は、予選Hブロック「AF50mm Macro」であり、
主に銀塩時代の「AF標準マクロレンズ」を6本紹介
(対戦)する。
今回は紹介(出場)レンズ本数が多いので、各レンズ
あたりの掲載写真は2枚づつとする。

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さて、まずは今回最初の標準マクロレンズ。
_c0032138_11074907.jpg
レンズ名:smc PENTAX-FA 50mm/f2.8 Macro
レンズ購入価格:24,000円(中古)
使用カメラ:PENTAX K-5(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス名玉編第1回(第16位相当)
等の記事で紹介の、1990年代のAF標準等倍マクロレンズ。
_c0032138_11074978.jpg
銀塩時代のレンズなので、当然フルサイズ対応である。
まず簡潔に特徴を述べるが、長所としては高い描写力を
誇る事だ。
そして短所は、鏡筒(鏡胴)デザインが古臭い事である。
デザイン上での見た目の問題のみならず、ピントリング
幅も狭い為、MF時では少々操作性が悪い。

最短撮影距離は19.5cm、等倍マクロ仕様だ。
(注:等倍とは36mmx24mmのフィルム面(センサー面)に
同じ撮影範囲の被写体が写る事、他には「1:1」とも言う。
センサーサイズが変われば、当然撮影倍率も変化する)

本レンズは、デジタル時代となってすぐ後継レンズが発売
されている。そちらはsmc PENTAX-D FA Macro 50mm/f2.8
(2004年)であるが、レンズ構成や最短撮影距離などの
カタログ的なスペックには変更が無く、DFA型の特徴と
しては、旧型よりも大幅に小型軽量化されている事だ
(旧)FA型 :フィルター径φ52mm 重量385g
(新)DFA型:フィルター径φ49mm、重量265g

また、新型はクイックシフト・フォーカス・システム
(つまり、AFとMFをシームレスに切り替える機能)を
搭載している。

後継のDFA型は、あいにく未所有であるので詳細の比較は
避けるが、本FA型に対してデザインおよびMF操作性上の
改善が見られるので、いずれ機会があれば買い増ししたい
とは思っている。
・・とは言うものの、本FA型でも描写力的には何ら不満は
無いし、新しいQSF機能は、ピントリングの構造次第では
MF操作性の悪化を招くリスクもある。なので、買い替えの
必然性はあまり無く、ずっと旧型を使っている状態だ。

なお、新旧どちらにも「クランプ機構」が搭載されている
旧型の本FA50/2.8では、クランプをONすると、AF時には
スカスカだったピントリングにブレーキ(トルク増加)を
掛けて「MF操作性を向上する」という狙いがあったのだが、
残念ながら、その効果はあまり高くない。
(注:故障あるいは経年劣化があるのかも知れないが、
他の銀塩時代のマクロレンズのクランプ機構も同様に、
あまり有益な効能が得られないケースが大半だ)


新型DFA型のクランプ機構ではピント位置を固定できるまで
強化された様子だが、所有していないので、その効果や
使用感は不明だ。

さて本FA50/2.8に限らず、1990年代頃にAF時代に入って
からの各社標準マクロ(50~60mm程度の焦点距離、等倍)
は、いずれも高描写力だ。

それ以前、1970~1980年代のMF時代の標準マクロが、
どれもイマイチの描写力であった事(おまけに撮影倍率も
1/2倍止まりだった)に対して、大きく性能改善が見られる。
この時代の技術革新に何があったのかの詳細は不明だが、
まあ、性能が良くなったので、何も文句は無い。

あるいは、1990年代のAF時代以降、2000年代のデジタル
時代頃までは、また、AF標準マクロの性能改善が止まって
しまったようにも感じられる。
さらにその後、2010年代のミラーレス時代に入って、
ミラーレス機用の標準又は標準画角マクロは、解像力の向上
等の改善が見られるが、それがやや過剰なケースもあるし、
ミラーレス機用レンズはピントリングが無限回転式なものが
殆どで、それはマクロレンズでも同様であり、AF/MFの
シームレスな移行機能については有効な物の、手指の感触で
最短撮影距離にセット不能な為、近接撮影時のMF性能を
大幅に悪化させてしまっている弱点も見受けられる。
(参考:例外として、ミラーレス機用、フォクトレンダー・
マクロ アポランター65mm/f2等は、MF仕様であり、
MF操作性にも当然配慮している。別途紹介済み)


2010年代のデジタル一眼用の新鋭標準マクロレンズは、
あまり本数を所有していない為(新製品自体、殆ど無い)
ここでの詳細の言及は避けるが、またこの時代のデジタル
一眼用(AF)マクロレンズを複数所有した頃に状況の分析を
してみよう。
_c0032138_11074916.jpg
さて、以降は本FA50/2.8の固有の話になるが、
まず前述のデザインの悪さは、ちょっと困ってしまう。
いかにも古臭く、かつ大柄で不恰好だ。
MF操作性も劣る為、せっかくの描写力の高さを誇りながらも、
あまり外に持ち出して撮影したいという気にはなれない。

特に近代のPENTAXのデジタル一眼レフは、デザイン性を
重視したり、オーダーカラー制度(2010年代前半)や
特殊なカラーリング(2010年代後半)で、お洒落な
イメージを主張する機体が多く、それらと本レンズの
組み合わせは、デザイン的なアンバランスが酷い。

であれば、できるだけ2000年代の地味なPENTAX機との
組み合わせで本FA50/2.8レンズを使うのが適切だ。
今回も、地味なPENTAX K-5(黒)との組み合わせなので
あまりデザイン的なアンバランスを感じ難い。

描写力は高いのであるが、古い時代のAFレンズなので、
AF動作は「ガタピシ」言う感じで、合焦精度が不安だ。
母艦K-5のスクリーンは、さほど悪いものでは無いので
MFに切り替えるのが良さそうなのだが、前述のように
狭いピントリングでMF操作性はあまり良くなく、クランプ
機能を使っても、必要十分なMFトルク感は得られない。

なので、いっそデジタル一眼レフではなく、ミラーレス機
にアダプターを介して装着するのも良いであろう。
本FA50/2.8には、幸い、絞りリングが搭載されいるので
(注:後継機DFA50/2.8にも絞り環が存在する)
アダプターで使用時の操作性全般には問題は無い。
高精細EVF搭載ミラーレス機による、様々なMFアシスト機能
(例:画面拡大、ピーキング、デジタルスプリットイメージ)
を併用すれば、より精度の高いピント合わせが可能となる。

総括だが、描写性能的には不満は無い物の、いかにも古臭い
デザインイメージがあって、現代における本FA50.2,8の
新規購入は(相場は1万円台まで下がってはいるものの)
あまり推奨できない。
購入するのであれば、新型のDFA50/2.8の方が良いと思う。
ちなみに新型でも発売時期が2004年と古い為、中古相場は
2万円台前半と安価だ。

---
では、次のマクロレンズ。
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レンズ名:MINOTA AF Macro 50mm/f2.8(初期型)
レンズ購入価格:15,000円(中古)
使用カメラ:SONY α77Ⅱ(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス名玉編第4回(第4位相当)
等の記事で紹介の、1980年代後半のAF標準等倍マクロ。
_c0032138_11080556.jpg
コスパの極めて良い名玉である。
本レンズの紹介記事では毎回のように書いている事だが、
後継レンズのN型(1990年代)、D型(1990~2000年代)
SONY型(2000年代後半~)に至るまで、レンズ構成に
ほとんど変更が無いままバージョンアップされている。

すなわち初期型から完成度が高かった、と言う事実を
示しているのだが、初期型はさすがに30年以上も前の
レンズであるから、色々と課題はある。

まず、このレンズの時代は「αショック」(1985年)
の直後だ。すなわち、ミノルタが初の実用的AF一眼レフ
「α-7000」で他社を大きく先行したという歴史であり、
これは社会現象にもなった他、他社の一眼レフの
市場戦略にも、多大な影響を与えた訳だ。

この当時の世情は「AFは最新技術だ」「AFは万能だ」
「MF操作など、古臭くて格好悪い」という様相があり、
その結果、MF操作性や、その必要度を大幅に軽んじた
カメラやレンズ製品が多数発売された時代である。

本AF50/2.8(初期型)も、その世情を受け、ピント
リングについては、レンズ先端の廻し難い位置に、
僅かに幅4mm程度のものがついているだけだ。
ここは後年の後継機に至ると、少しづつ改善されていく
(まあつまり、AFが万能で無い事に、皆気づいた訳だ)
のではあるが、勿論中古相場も新型になる程高価になる。
本初期型であれば、現代での中古相場は1万円以下であり、
描写性能面からは極めてコスパが良いのであるが、
このやりにくいMF操作性をどう評価するか?で、本レンズ
AF50/2.8(初期型)の価値が変わってくる事であろう。

さて、本レンズは、フルサイズ対応、AF対応の等倍標準
マクロレンズであり、最短撮影距離は20.0cmである。

なお、各社の標準マクロレンズは、等倍仕様の場合、
その最短撮影距離は、おおよそ20cm前後になるのだが、
メーカーによって(つまり設計によって)若干の差異が
あり、同じ焦点距離で、同じ等倍仕様だからと言って、
常に全く同じ最短撮影距離になるとは限らない。

余談だが、数年前に話題になった事で、小学校の算数の
テストで、3.9+5.1の問題を、9.0と答えを書いたら
減点された(正解は9との事?)で、世間でその賛否が
話題になった事がある。
まあ教育(採点)方針の問題であるから、そこについては、
その詳細の言及は避けるが・・

カメラ等の工業製品において、エンジニアリング(工学的)
な視点から言えば、計測された仕様や性能等の数値には、
全て「有効数字」(有効ケタ数)という概念が存在する。

例えば、最短20cmと書くのと、最短20.0cmと書くのは
どちらでも良い訳ではなく、有効数字の視点からは意味が
異なってくるのだ。
具体的には、20.0cmであれば、仕様上、つまりメーカー
からの公式上、この数字は「小数点以下1ケタまでは
ちゃんと計測しましたよ」という意味であり。
20cmと書けば「小数点以下の精度は保証しませんよ」
という意味となる。
(同様に昔の標準レンズの焦点距離でも、50mmではなく
5cmと書いてある、これは「cmまでの単位しか精度は保証
しません」という意味である。実際では49mmであろうが
52mmであろうが、それは「5cm」と表記される事になる)

で、実は、本レンズの詳細なスペックはもう、ほとんど
情報が残っていない。しかし、この時代の標準マクロの
仕様は、cm単位では小数点以下1ケタの有効数字(つまり
mmまで)で表示している場合が多い(例、0.195m)
よって、本レンズでも暫定的に最短20.0cmとしておこう。
_c0032138_11080577.jpg
さて、余談はともかく、本AF50/2.8の総括であるが、
ともかく描写力の観点では、この時代のAF標準マクロの
例に漏れず、MF時代の標準マクロよりも大幅に性能が
向上している。この性能水準は、1990年代のAF時代を
通じて、さらに2000年代のデジタル時代に入ってすらも
さらなる改善の必要性が少なかった位に完成度が高い。

よってユーザー側が、その撮影目的上、この性能水準で
十分な場合(例:近年のローパスレス機や超高画素機等で、
非常に高解像度の写真を撮る必要性が無い場合等)では
本レンズの安価な中古価格によるコスパの高さは、かなり
の高レベルとなる。
ミラーレス名玉編そしてハイコスパ名玉編で、いずれも
高い順位にランクインしたのは、この特徴から来る訳だ。

現代において、SONYのαはAマウント機よりもEマウント
のミラーレス機に主軸が移行している状況ではあるが、
Aマウント機も近代(2010年代以降)のαフタケタ機は
いずれも完成度が高く、高機能で高性能かつ操作系も良い。
(注:汎用OSの搭載により、操作性の鈍重さが目立つ
機体も多いが、ここでは、その弱点は無視しておく)
そうであれば、古いレンズでありながら、十分に現役で
使用可能という本AF50/2.8は、α Aマウントユーザーで
あれば、持っていても悪く無い選択だと思う。

なお、より後年の後継型とするのも、予算次第であるが、
その場合はMF操作性の面でミノルタD型以降を推奨する。
(最近では玉数が少ないが、あれば2万円程度からの
中古相場であろうか・・)

---
では、3本目の標準マクロ。
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レンズ名:SIGMA AF Macro 50mm/f2.8(初期型)
レンズ購入価格:14,000円(中古)
使用カメラ:PANASONIC LUMIX DMC-GX7(μ4/3機)

ミラーレス・マニアックス第25回記事で紹介の、
1990年前後(?)のAF標準等倍マクロ。
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EF(EOS)マウントのレンズであるが、他の記事でも
良く書いた通り、概ね1990年代のSIGMA製レンズは、
2000年頃以降のAF/デジタルのEOS機ではエラーが
発生して使用できない。これはキヤノン側がレンズと
ボディとの通信プロトコルを変更し、他社製レンズを
使えなくしてしまった可能性が高いが、まあその件は
他記事でも散々文句を書いたので、今回は割愛する。
(なお、2000年代以降のSIGMA製レンズは、2000年代
以降のEOS機で問題無く使用できる。また、2000年代
のフォーサーズ機の一部と、SIGMA製旧レンズでも
同様に通信エラーとなる場合もあると聞くが、当該
組み合わせを所有していないので、詳細は不明だ)

と言う事で、今回は本レンズSIGMA AF50/2.8をEOS機に
装着して撮影は出来ない、替わりに、ミラーレス機で使う
事とするが、ここでは「機械式絞り羽根内蔵アダプター」
を使用する。EFマウントのアダプターは色々と制限事項が
発生するが、そのあたりは過去記事に詳しいので割愛する。

さて、本レンズも他のAF標準マクロと同調に、等倍仕様
であり、勿論フルサイズ対応だ。

最短撮影距離は約19cm、しかしレンズの距離指標上では、
もう少しだけ廻す事もできる。前述の有効数字の点から
すると19.0cmではなく、あくまで約19cmだ。
なお、同じ撮影倍率であれば、最短撮影距離が短い方が
良い性能か?と言うと、そんな事はなく、あくまで同じ
大きさに写したいのであれば、最短撮影距離の差異は、
あまり関係が無い。

まあ細かい事を言えば、同じ撮影倍率で最短撮影距離が
長い方が、レンズ前から被写体までの距離、すなわち
「ワーキング・ディスタンス」(以下WD)を長くする事が
でき、要は被写体に近づかなくても大きく写せるので、
近寄りがたい被写体(例:柵等があって被写体に近づけない、
それと昆虫等で、近づくと危険であったり、または逃げる、
あるいは、あまり被写体に近づくとカメラやレンズの影が
出て被写体に写る場合等)では僅かだが役に立つ。

反面、WDが短い方が、被写体をありとあらゆる角度
(アングル、レベル)で撮影する事が可能となり、
構図上の自由度が高くなる。
まあつまりケースバイケースであるし、50mm等倍マクロ
での、最短撮影距離の差異における19cmや22cmは決して
大差では無いので、いずれであっても問題無いであろう。

さて、本AF50/2.8だが、前出のミノルタと標準マクロと
型番が被る。ミノルタは、前述のように、α(-7000)で
AF一眼レフ市場に先行参入したから、そのαの交換レンズ
群も、わかり易い「AF型番」を早いもの勝ちで取得した
のであろう。

なお、余談であるが「商標」の観点からはアルファベット
2文字からなる製品名は、原則的には商標登録できない。
これは単純すぎる為に、他の製品等と識別する事が困難で
あるからだ。ただし例外的に意匠(デザイン)と組み合わせ
たり、既に十分に有名である、という理由で商標登録できる
場合もあり、例えば「JR」(鉄道)や「JT」(タバコ)や
「au」(携帯電話)が、それで登録されている。

商標を登録しない場合は、アルファベット2文字は、単なる
製品としての型番にすぎない。まあ、一々全ての製品型番を
商標登録していたら、お金や手間がかかりすぎるので、
多くの工業製品は、そんな感じとなっている。

だからミノルタが「AF型番」を使っていたからと言って、
他社が同じAF型番を使っても問題は無い訳だ。
という事で、SIGMAやTAMRON,TOKINA等においても
AF型番を使用しているのだが、ミノルタとの関係上、
正規な型番とは言わず「このレンズはMFではなくAFですよ」

という観点で、レンズ上等に、さらっと「AF」と書いてある
場合も多い。本記事等では、便宜上、適宜メーカー名を
つけるなどして、こうしたケースを区別する事としよう。

さて、もう1つ、本レンズの型番だが、これ以降の時代の
SIGMAレンズに良くついている「EX」という型番が無い。
EXは、SIGMAでの本来の意味は「開放F値固定型レンズ」
という事だ、つまり一般的な初級ズーム等では、焦点距離
に応じて開放F値が変動し、高級ズーム等では開放F値が
固定になっている。
この為、EX仕様の方が高級品のように錯覚するが、まあ、
ズームはともかく、単焦点レンズは全て開放F値が固定
(変動しようがない)ので、どれもEXタイプである。
なお、EX型番がついた頃にSIGMAレンズの外装も若干変化
し、高級感のある仕上げとなっている。

まあ、EX型番ではないという事で、古い時代のレンズの
外観が本AF50/2.8にも残っている、ただ、後継のEX型番
であっても、レンズ構成に変化は無かった模様であり、
実質の性能的には初期型でも十分だ。

注意するべきは、EF(EOS)マウントだと後年のEOS機で
使用できない、という点であり、これを回避するには
初期型であっても、ニコンF(Ai)マウント品を買えば良い。
この時代1990年代および2000年代頃までのSIGMA製
レンズは、ニコン(F)用やペンタックス(K)用では絞り環
がまだついているので、後年のミラーレス機にマウント
アダプターを介して装着する際にも操作性を損なわない。
_c0032138_11081914.jpg
さて、余談が長くなった、本SIGMA AF Macro 50/2.8
の描写性能であるが、あまり問題点は無く、悪く無い。
まあこの時代のAF標準マクロは全て良いのであるが、
あくまで標準域マクロでの話だ。

ちなみに、SIGMAからもTAMRONと同じ仕様の90mm/2.8
マクロがこの時代か、やや昔の時代(1980年代)に発売
されていたのだが、そのレンズは1990年代に一度入手
したものの、描写力が気に入らず、譲渡してしまっていた。
また、2000年代には70mmマクロがあり、知人が使っていて
なかなか良さそうだったのだが、あいにくセミレア品と
なってしまっていた。
(注:70mm版は、2018年に「カミソリマクロ」として復刻
リニューアルされている、別記事で紹介済み。
また、旧製品のEX型「カミソリマクロ」も後日入手済み)

本50mmマクロは、比較的中古流通が多かったので、
2000年代には、ニコン初級ユーザーの何人かの知人に
薦めて1万円台程度で良く購入していた。

すなわち、ニコン機用では、やや高価なAiAF60/2.8等の
標準マクロを買うのは、初級層には予算的に厳しいのと
ニコン標準マクロは、どの時代のものもボケ質が固い
という課題を持つ為だ。

2010年代以降、現代においてはSIGMA 50mmマクロ
は各世代の製品を通じて、やや入手しにくいセミレアな

レンズとなっている。だがまあ、運よく中古があれば
1万円台という安価な相場であると思うので、コスパは
かなり良いと見なす事ができると思う。
(追記:本記事執筆後に、2000年代に発売のEX DG版
を約9000円で入手。そちらであれば、現代のEOS
デジタル一眼レフでも使用できる。後日別途紹介予定)

---
では、次のマクロ(マイクロ)レンズ。
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レンズ名:NIKON AiAF MICRO NIKKOR 60mm/f2.8D
レンズ購入価格:38,000円(中古)
使用カメラ:NIKON D500(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第57回記事で紹介の、
1993年発売のAF標準等倍マクロ(マイクロ)だ。

1990年代のAFレンズだが、ベースとなったMFレンズが
昔(1960年代)からあり、55/3.5→55/2.8と変化、
そして60/2.8でAF化された。

なお、Microのレンズ上での表記は時代で変わり、
だいたいだが、MF時代のものは「Micro-NIKKOR」 
AF時代のものは「MICRO NIKKOR」と記載してある模様だ。
(注:これはNIKONの公式WEB上での表記とは異なる。
NIKONイメージングのサイトは、旧製品等における記載、
つまり大文字・小文字・ハイフンの区別が正確では無く、
引用するほどの信憑性が無い。私の場合では、所有する
実機(カメラやレンズ)を参照し、そこにある記載を
”ホンモノ”として引用する事にしている)
_c0032138_11083321.jpg
で、ニコンではマクロの事を「マイクロ」と呼ぶが、
1つのメーカーだけ特定の呼び名を使うのは好ましく無い
と良く本ブログでは書くのだが、この「マクロ」に限っては
ニコンの「マイクロ」の呼び方が本来の意味的に正しい。

「マクロ」では、「巨視的」という日本語に置き換え
られ、マイクロ(またはミクロ)の「微視的」とは
ほとんど反対の意味だ。
他には、大きい、長い、大規模という意味もあるが、
コンピューター用語では、複数の操作をまとめた処理を
自動化する際も「マクロ」と呼ばれる事がある。
(例:エクセルでのマクロ処理等)
まあ、普通に考えれば「マイクロ」が正解であろう。

だがまあ、間違った意味であっても、ここまでカメラの
世界では一般化してしまったので、もう「マクロ」と
呼ばさるを得ない。

ちなみに、Macroと英語では書くが、ツァイスレンズ等
では独語で「Makro」と書かれている。

さて、本レンズの最短撮影距離は21.9cm、勿論等倍だ。
描写特徴としては、ボケ質がやや固く、その替わり
ピント面の解像度が高い事だ。
これは、これ以前のAi型番等のMFマイクロレンズ
(55/3.5,55/2.8)では、さらにその傾向が顕著であり、
立体物の撮影には向かず、ほとんど「平面マクロ」という
状況であった。

この理由は、本ブログでは何度も述べているが、簡単に
言えば、1970年代では、まだコピー機が普及しておらず
その時代のマクロレンズは文書や図面などを写真で撮って
平面的に複写する目的に使われていたからである。

本AiAF60/2.8の時代1990年代ではコピー機があるので、
マクロレンズは、より一般的な描写傾向(例えば、花や
人物などを撮影しても背景ボケが柔らかくできる)に
改められてきている。が、本レンズでは、まだその
旧来の描写傾向が若干残っているのだ。


(注:まあ、急に特性を変えると、旧型のユーザー層から
「新型に買い換えたら写りが甘くなった」等のクレーム
が生じるかも知れない事を避ける処置であろう。
歴史とブランド力のあるメーカーの市場戦略上では、頭が
痛いところだと思う。でもユーザー側も、もっと理解力
を高めないとならない。マニア的な視点から言えば、
本レンズに限らず、様々な撮影機材の「買い増し」は
良いが「買い替え」は避けるべきであろう。全ての要素で
新型機材が旧型機材よりも優れている保証は無いからだ)

まあつまり、本レンズの特性を良く理解して、被写体や
背景を選んで使うのが良いレンズである。と言う事だ。

他の特徴としては「露出(露光)倍数」がかかる事だ。
「露出倍数」とは近接撮影で見かけ上のF値が低下する
事であるが、実は、原理的には、ほとんどのマクロ
レンズでそれは起こる。で、一般的には近接撮影をした
場合、同じ被写体の明るさ、同じF値でもシャッター速度が
低下していく(またはAUTO ISOの感度が上がっていく)

だが、本AiAF60/2.8の場合は、近接撮影時に、例えば
開放F2.8で撮っていても、F値の表示が3.3等に落ちる。
これは特にF値を落として表示する必要性は少ないのだが、
こういう表示方式の方が光学原理的にはわかりやすい。
まあ、ずいぶん生真面目に作ったレンズであるという事だ。
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総括だが、描写傾向的には前述のボケの固さを意識して
回避すれば特に問題無いものの、コスパが悪い事は弱点だ。
まあ、1990年代に、比較的高価に買ってしまったのは
私の問題ではあるが、後年でもニコンというブランド故に
中古相場があまり下がらず、ずっと高値傾向だった。
他社の標準マクロに比べて、割高感が強く、それ故に
前述のように、ニコン機の初級ユーザーには、本レンズ
では無くSIGMA製の標準マクロを薦めていた訳だ。

現代においては、ニコンからはAPS-C機専用のエントリー
マクロとして、本AiAF60/2.8と同じ換算画角となる
AF-S DX Micro NIKKOR 40mm/f2.8G が発売されている。
そのレンズはあいにく未所有なので詳細はわからないが、
若干安価なので、ニコンAPS-C(DX)機ユーザーであれば、
そちらを検討するのも良いかも知れない。
(追記:記事執筆後に入手済み。別記事で紹介予定だが、
簡単に言えば、本AiAF60/2.8のスケールダウン版の
ジェネリックレンズであり、描写傾向はそっくりだ)

---
では、5本目のマクロ。
_c0032138_11084425.jpg
レンズ名:MINOLTA AF Macro 50mm/f3.5
レンズ購入価格:10,000円(中古)
使用カメラ:KONICA MINOLTA α-7 DIGITAL(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第68回記事で紹介の
1980年代のAF標準ハーフマクロ。
この時代には珍しく、最大撮影倍率1/2倍に性能限定
されたAFマクロだ。
_c0032138_11084456.jpg
本レンズは、前出の兄貴分のMINOLTA AF Macro 50mm/f2.8
と併売されていたのだが、仕様が近く、何故両者が同時に
ラインナップされていたのか? 理由が良くわからない。

もっとも、銀塩MF時代の(New)MDマクロでは、本レンズと
同じく50mm/F3.5で1/2倍仕様であったので、そのレンズの
AF版と言う事で発売されたのかも知れない。
(注:レンズ構成等はAF版とMF版では大きく異なる。
ただし、描写傾向はMF版とは若干似ている模様だ。
MF版は次回記事で紹介予定)

なお、本レンズが1/2倍である事だが、これはフルサイズ
換算での話だ、よってAPS-C機では0.75倍、μ4/3機では
1倍となるので、こういう用法であれば、”寄れない”
という不満は殆ど無い。

ちなみに最短撮影距離は約23cmとなっている(小数点以下の
数値は不明)ので、他の等倍マクロの20cm前後と大差は無い。

また、ミラーレス機あるいはSONY αフタケタ一眼レフ機では、
デジタル拡大機能を用いる事で、さらに見かけ上の撮影倍率を
上げられるので、1/2倍である事のデメリットは実は殆ど無い。
_c0032138_11085194.jpg
ただ、描写力的には、あまり特徴の無いレンズである、
まあ普通に良く写るが、感動的、という要素は全く無い。
ボケもやや固く、破綻の回避作業が必須となるだろう。
なお、発色が濃くてDレンジが低く感じるのは、今回の
母艦α-7 DIGITALは、2004年製と、デジタル一眼レフ
最初期の非常に古い機体であるからで、当時のデジタル
技術的な課題だ。(まあ、これはこれで面白い)

本レンズは、ミノルタで言うN型(ピントリング約8mm幅)
のみの発売で、他のバージョン(前期型や後継D型)は
存在しない。

現代の中古相場は、数千円と安価であるが、兄貴分の
F2.8版の初期型とあまり変わりは無いので、全ての点で、
F2.8版を買った方が有利であるように思える。

・・であれば本レンズの購入意義は少ないのであるが、
私の場合は単純に、このF3.5版がF2.8版と何処が違うのか?
という好奇心で購入したに過ぎない、まあ、あくまでマニア
向けのレンズであり、通常のα(A)ユーザー層においては、
各時代でのF2.8版の購入を推奨する。

---
では、今回ラストのマクロ。
_c0032138_11090061.jpg
レンズ名:OLYMPUS ZUIKO DIGITAL ED 50mm/f2 MACRO
レンズ購入価格:22,000円(中古)
使用カメラ:OLYMPUS OM-D E-M5 MarrkⅡ Limited (μ4/3機)
アダプターは、OLYMPUS MMF-2(4/3→μ4/3電子式)

特殊レンズ・スーパーマニアックス第2回記事で紹介の
2003年発売のフォーサーズ用の1/2倍AFマクロレンズ。
4/3またはμ4/3機に装着時の画角は100mm相当となるが
実焦点距離を元に本カテゴリーに分類している。
また、本カテゴリー中、本レンズのみ、デジタル時代に
なってから新しく発売された製品である。
_c0032138_11090025.jpg
現代では既に終焉しているフォーサーズ・システム故に
本レンズを詳しく紹介しても、あまり意味を持たないかも
知れない。

ただまあ幸いな事に、電子アダプターを介して、現代の
μ4/3機でも、あまり不便を感じずに使用できる。
その際の制限事項は、AF速度、AF精度がやや落ちる事だが、
まあ、使用する母艦との相性もあるかも知れない。
私の感覚では、OM-D E-M5Ⅱで使うよりも、OM-D E-M1
での利用が、やや快適だ。(後者は像面位相差AF搭載)

本レンズの長所であるが、解像感とかボケ質に優れる
事である。この点では「マクロのオリンパス」の名に
恥じない。

弱点は、逆光耐性が低く、かつコントラストの低下が
甚だしい。軽いカビやクモリ等の様子もなく、こういう
描写特性なのだと思われる。毎回きちんとフードを装着し、
かつ、光線状況に留意して撮る必要がある。
また、カメラの電源をOFFすると、ピントリングが空回り
してしまうので、マクロ域の近接撮影をしていて、鏡筒が
伸びている状態で電源を切ると、レンズが伸びたまま
戻らなくなる、電源OFFの前に、都度、無限遠を撮るとか
MFでレンズを戻してから電源を切るのは煩雑な操作だ。
_c0032138_11090037.jpg
で、上記の問題点は、4/3(フォーサーズ)システムの
規格仕様上の課題であり、本レンズに限らない。
でも、他の4/3レンズは、鏡筒が伸びっぱなしになる
ようなものは少ないのだが、本レンズはマクロなので
鏡筒長の変化が大きく、電源ON/OFF時で問題となる。

また、一部の一眼レフ用レンズにも同様にレンズ内
モーターが電源OFFで動かない仕様のものがあり、
(CANONの初期USM、同、近代のSTM、SIGMAでの
非HSM仕様のレンズ等)それが、ヘリコイド(鏡筒)が
伸びるマクロレンズであった場合は結構面倒な課題となる。


まあでも、現代において、今更4/3システムを使ったり
4/3レンズを買うのは、かなり酔狂な話であろう・・

---
さて、ここまでで「最強50mmレンズ選手権」における
予選Hブロック「AF50mm Macro」の記事は終了だ。

次回の本シリーズ記事は、
予選Iブロック「MF50mm Macro」となる予定だ。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(25)超大口径レンズ

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズをカテゴリー
別に紹介している。
今回の記事では「超大口径レンズ」を3本+αで紹介
しよう。

本シリーズ記事は、殆ど全てが過去記事で紹介済みの
所有レンズの再掲である。
コロナ禍で新規レンズ等は買っていられる状況では無い
訳だし、当然、新たに写真を撮りに行く事も出来ない。
そもそも、それどころでは無い緊迫した世情であるが、

まあ、知人等への安否の表明の意味もあり、過去の
撮影写真を用いた執筆済みの記事を順次掲載していく
事にしよう。


さて、本ブログでは「超大口径」とは「開放F1.0以下の
レンズ」と定義している。(匠の写真用語辞典第20回)
本記事で紹介できる当該条件に当てはまる所有レンズは
3本のみである。通常、4本のレンズを紹介する通例
なので、他の1本はF1.2級レンズを取り上げる。

----
まず、最初のシステム
_c0032138_12370656.jpg
レンズは、Voigtlander NOKTON 25mm/f0.95(初期型)
(フォクトレンダー ノクトン)
(新品購入価格 84,000円)(以下、NOKTON25)
カメラは、PANASONIC DMC-G1 (μ4/3機)

注:フォクトレンダーの独語綴りには変母音(ウムラウト)
が入るが、記事執筆掲載の便宜上、それを省略している。

2011年発売のμ4/3機専用超大口径MF標準画角レンズ。

コシナ・フォクトレンダーとしては初のμ4/3機用レンズ
であり、その後本NOKTON25は小改良されてⅡ型になった他、
10.5mm,17.5mm,42.5mm,60mm(2020年4月発売予定)
の姉妹製品の発売により、「F0.95シリーズ」として
現在に至る。
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本レンズの発表は衝撃的であった。F0.95という明るい
開放F値は写真用レンズでは殆ど前例が無く、あったとしても、
海外製の極めて高価な商品か、国産オールドのレア品しかない。
まあ、CCTV(監視カメラ)用レンズでは、F0.95級は珍しくは
無いが、その分野と写真用レンズは殆ど接点が無い。

思わず、発売後すぐに新品購入したのだが、そこそこ高価で
あったので、どのように使うか?の「用途開発」を行わないと
コスパが悪い買い物になってしまう。

事前に最も心配であったのが、本NOKTON25のピント合わせだ。
μ4/3機は、まだ発売開始後2年少々で、EVF搭載機は少なく、
あったとしても、その解像度は144万ドットと、やや低く、
ピーキング機能は、まだ世の中に出てきていない。

本レンズ専用でPANAのDMC-G1(青)をあてがう事とした、
当時としては、MF性能に最も優れる機体だと思ったからだ。

実は、既にDMC-G1は赤色版を所有していたが、その当時は
μ4/3機の登場で、およそあらゆるオールドレンズが
マウントアダプターで使用可能となった事で、一種のブーム
が起きていたのだ(個人的にもそうであったし、世間一般
でも「第二次中古レンズブーム」という状況だった)
DMC-G1(赤)は、オールドレンズ母艦としてフル稼動して
いて他の目的には使い難かったし、新たなG1(青)は、
中古で1万円強と、極めて安価な相場となっていて、買い
易かったのだ。

専用機体に装着する事で、本レンズの総撮影枚数が容易に
わかる。これは前述の「用途開発」を行う上で、本レンズ
を、元が取れるまで使いこなしたかどうか?という点を
判断する上でも必要であった。

私はレンズの減価償却ルールは特に設けてはいないが、
カメラの場合と同様に「1枚3円の法則」で判断は可能だ。
つまり、84,000円で購入したレンズは、28,000枚撮影
すれば十分に元が取れていると言える。
現在、DMC-G1(青)の撮影枚数カウンターは楽に3万枚を
越えているので、本NOKTON25は良く使っている状況だ。

使い始めた当初は、やはりMFに問題を感じた。
DMC-G1の144万ドット・カラー液晶EVFは輪郭線が強い
表示特性を持ち、これは基本的にはMFでのピント合わせ
に優れる。

その後、このEVF用液晶は2013年頃から、有機EL版に
各社とも置き換わるようになっていき、その新型液晶は
明るく、色再現性や解像感が、より自然となった点は
利点ではあったが、輪郭線が若干柔らかくなった為、
MFでのピントの山は少しだけ掴み難くなってしまった。
ただ、2013年には既に各社の機体には「ピーキング機能」
が搭載され始めた為、MF性能の改悪は帳消しとなっている。

しかし、DMC-G1の、この144万ドット・カラー液晶を
用いても、本NOKTON25のピント合わせは厳しく、ほぼ
毎回の画面拡大操作が必須だ。

で、この点に関しては、DMC-G系列のカメラは、MFレンズ
装着時の画面拡大操作系にとても優れる、というメリット
があった為、この点もDMC-G1を本レンズの母艦として
採用した理由となっている。他社機では拡大操作系が
指動線(移動)の面などで、イマイチであったのだ、

ピント合わせが困難な理由はもう1つあり、それは
本NOKTON25は最短撮影距離が17cmと、マクロレンズ並み
の近接能力を誇る事だ。近接+超大口径による圧倒的な
ボケ量を活用する為にも、MF性能の充実は欠かせないが
被写界深度が浅すぎるので、どうにもMFが困難である。
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本レンズの課題は、まず画質がイマイチである事だ。
特に絞り開放近辺では諸収差等を起因としたハロ等が
発生し、輪郭が滲んだような画像となる。
これの対策は、単に絞り込むだけで良いので、簡便では
あるが、せっかくの超大口径レンズを、あまり絞っては
使いたくない。F1.4程度まで絞る位ならば、他に開放
F1.4で、良く写るレンズは、世に沢山存在する訳だ。

よって、構図的な対策としては、画面内に点光源とか
強いハイライト部がある等の、ハロが目立ちやすい
被写体や構図を、できるだけ避ける事が望ましい。

ここで余談だが、初級中級層の殆どは「開放F値が明るくて
高価なレンズの方が高画質だ」と信じて疑わない。
だが、実際にはそういう事はまるで無く、開放F値を
明るくすると、必ず様々な設計上の問題点が出てくる。
例えば、球面収差等はF値(or 口径比)の3乗に反比例
して悪くなる程なのだ。
よって、開放F値の暗いレンズの方が描写力が高い事は
いくらでも実例がある。

開放F値を明るくした際での収差発生等の問題点を避ける
為に複雑なレンズ構成にすると、結果的にそのレンズは
「大きく重く高価」という「三重苦レンズ」となる。
まあ、それが開放F値を明るくする事の代償ではあるが、
それでも諸収差等は完璧に補正されている保証は無い為、
三重苦に加えて描写性能まで低かったら、目も当てられない。

まあ、そういうレンズも中には存在している、その状況が
予想される場合、私は、そうしたレンズを購入しない事と
しているが、間違って買ってしまう事もある。
そういうレンズを、本ブログで紹介する場合「コスパが悪い」
とか「嫌いなレンズ」と表現している。あるいは記事には
書かないがマニア間等で話す場合は「ぼったくりレンズ」だ。

そう言う風に書かないと、そういう高価なレンズを無理を
して購入し「このレンズは良いレンズだ」と信じて疑わ無い
初級中級層が可哀想だからだ。まあしかし、その状況では
「信者」となっているから、廻りで何を言っても無駄だ。

でもまあ、いずれそういう初級中級層も、安価なレンズを
購入した際などで、その描写力が意外にまで高く、下手を
すれば、今まで自分が「神格化」していた「高級レンズ」の
性能やコスパに疑問を抱く事も出てくるであろう、つまりは、
「遅かれ早かれ気がつく」という事になると思う。
あまり、開放F値が明るいとか、値段が高いとかいった
レンズを単純に「高性能だ」と盲信しない方が賢明だ。
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さて、余談が長くなった、本NOKTON25の話に戻る。
本レンズの描写力がイマイチなのは、前述の通りであり、
様々な技法で課題を回避しながら使う必要がある。


で、さらに難しいのが、その「構図上の処理」である。
特に近距離撮影においては、被写界深度が極めて浅くなる
為に、構図内で撮影距離の近い被写体が密集している場合
(例:群生の花など)では、被写体距離のごく1部にしか
ピントが合わず、なんだか良くわからない構図となる。

画質の面や構図面で、様々な回避技法が必須となる為に
本レンズは「被写体汎用性」が極めて狭い。
よって、本レンズはとても使いこなしが難しい事は確かだ。

結局のところ、本レンズの「用途開発」としては、
「暗所や悪条件での人物撮影」というのが多かった。
舞台などステージ、夕暮れ、曇天や雨天、室内等において、
明るい開放F値を活かしての撮影に適する。確かに、その
目的には優れたレンズであった。ただMFが困難であるので、
ある瞬間を捉える動体撮影とかは、かなり難しく、結局の所
なかなか被写体条件を整えるのは難しい。

誰にでも推奨できるレンズとは言い難いが、「超大口径」
の世界を味わってみたければ、現実的な価格帯で購入
できるレンズの数は極めて限られている。
本NOKTON25は、その希少なレンズのうちの1本である。

なお、マニアック度が極めて高いレンズで、使いこなしの
為のテクニカル要素が強くなり、エンジョイ度が高い為に、
本レンズは、過去記事「ミラーレス・マニアックス名玉編」
で、第7位相当にランクインしている。ただし、この評価は
「難しいから面白い」という逆説的な要素も高く、安直に
誰にでも使えるレンズでは決して無い。

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では、次の超大口径システム
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レンズは、中一光学 SPEEDMASTER 35mm/f0.95 Ⅱ
(新品購入価格 63,000円)(以下、SM35/0.95)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

2016年に発売された中国製の超大口径MF標準画角レンズ。
これ以前に初期型(Ⅰ型、MITAKON銘もある)が存在して
いたが、本Ⅱ型になって大幅な小型軽量化を実現した。
重量は440g、フィルター径もφ55mmと小さい。
ただし、APS-C型以下のセンサー機専用であり、発売されて
いるマウントもミラーレス機用が基本だ。
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コシナ・フォクトレンダー製の、同等スペックの製品と
比べて販売価格が安価である。中古は殆ど見かけないのだが、
発売後2年程して、若干新品価格が下がって来たタイミングを
見計らっての新品購入となった。

ピント合わせが困難なのは他の超大口径レンズでの経験上
明らかであったので、SONY Eマウント版を選択。
このマウントの機体であれば、どれもMF性能には優れる。
銀色版と黒色版が発売されていたが、銀色版を選択した。

なお、SONY FE(フルサイズ)機で使用する場合には
自動的にAPS-Cモードには切り替わらないので、手動で
「APS-C撮影」をONしなければならない。
また、フルサイズ機ではクロップすると画素数が大きく
減るので要注意だ。(APS-C機で、そのまま使った方が、
画素数が大きく取れる場合もある)

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長所としては、「超大口径」というカテゴリーのレンズ
としては、かなり価格が安価である事(F0.95製品の
中では2番目に安い。注:近年に少数限定発売された
TT Artisan(銘匠光学)製F0.95レンズを除く)
そして小型軽量である事だ。

そして、勿論超大口径による描写表現力の高さも特徴
であろう、フォクトのNOKTON 42.5mmにあるような
開放近くでの収差の大きさも、本レンズではさほど
目立たず、超大口径にしては被写体汎用性が高い。


短所だが、最短撮影が35cmと、NOKTONに比べると
ずいぶんと長く、近接撮影で、さらに被写界深度を浅く
しようとする技法が使えない。

それから、絞り値が無段階調整となっているのだが、
絞り環の回転範囲が狭く、主に大口径側の回転角が大きい
(絞り環の中間位置で、やっとF2.8となる)ので、
近距離で絞り開放あたりで撮っていて、遠距離被写体等を
見つけて、瞬時に絞り込みたいと思っても、小絞りでの
コントローラビリティ(調整する事)が低下する。

なお、電子設定を持たないレンズであるから、カメラ本体
側に絞り値が表示される事は一切無い。よって、手指の
感触だけで絞り値を制御する必要があるので、上記の課題は
想像よりも深刻だ。この問題の回避の為には、本レンズは
絞り開放近くの撮影に特化し、上記の「絞り込んだ撮影」は
他のレンズに任せる、などの対策が良いであろう。

SONY EマウントでのF1未満の超大口径は、中一光学製
くらいしか選択肢が無いので、必要であれば、本レンズ
SM35/0.95か、あるいは同シリーズの50mm/f0.95
(こちらはフルサイズ対応)を買うしか無いのだが、
例によって非常にマニアックなカテゴリーの製品であるし
中古もまず出てこないと思うので、本当に必要かどうかは、
購入前に慎重に検討するのが良いと思う。
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なお、姉妹レンズのSpeed Master 25mm/f0.95は、
μ4/3マウント版しか発売されていない。そのマウントだと

本記事冒頭のNOKTON 25mm/f0.95と、モロにスペックが
被ってしまう。ただ、中一光学版はフォクトレンダー版の
およそ半額で買えるので、コスパは良いかも知れない(?)
私の場合は、中一光学版が出る前にフォクトレンダー版を
購入してしまっていたので、同じキャラクターのレンズは
2本は不要であり、中一光学版のSM25/0.95は未所有で
あるので、その特性はわからない。

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では、3本目のシステムは、F1.2級レンズだ。
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レンズは、CANON EF85mm/f1.2 L USM(初期型)
(中古購入価格 94,000円)(以下、EF85/1.2)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

1989年発売の、EOS EFマウント用大口径AF中望遠レンズ。

本記事は「超大口径レンズ特集」であり、本レンズの開放
F1.2は、本ブログでの超大口径の定義(F1.0以下)には
外れるが、十分に大口径の類だ。
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まあ、本シリーズでは、最低4本づつの同一カテゴリーの
レンズを紹介しているが「超大口径を4本も持っていない」
のが実際の理由だ。つまり、高価であり、用途も少ない
超大口径を4本も持つ必要が無い、という感じでもある。

(追記:本記事執筆後に台湾のメーカーより、KAMLAN

50mm/f1.1が安価に発売されている。それは所有は
しているが、本記事では無く、また新鋭海外レンズ編で
紹介しよう)


さて、本レンズEF85/1.2Lは「嫌いなレンズ」である。
まず、大きく重く高価な「三重苦レンズ」だ。
重量は1kgを軽く越え、近年、SIGMAやZEISSからこれ以上
の重さの85mmレンズが発売されてはいるが、それまででは

ワーストワンであった(注:2006年にⅡ型にリニューアル
されているが、レンズ構成に変化は無く、重量も同一だ)

三重苦レンズに加え、AFが極めて遅い事が課題であり、
大口径レンズであるから、ピント精度も怪しくなってくる。
それと、レンズ側に電源を供給しないとMFが一切動かず、
この状態では、基本的にはEOS機(一眼レフまたは
電子アダプターを介したEOS M/Rミラーレス機)

で無いと使えない。

光学ファインダー・スクリーンにMF性能上の課題を持つ
EOS一眼で本レンズを使うのは厳しく、AFを補佐するMF
での撮影が厳しいし、ボケ質破綻が発生する本レンズの場合、

光学ファインダーでは、それを回避する技法も使えない。

一応、本記事では、MF用スクリーン「Eg-S」に換装した
EOS 6Dを用いてはいるが、EOS 6Dの1/4000秒シャッター
では日中絞りを開放F1.2までのフルレンジでは使えない為、
ND8というキツ目の減光フィルターを使用している。
この際、実質上、開放約F3.5相当の暗さとなる為、
光学ファインダーも若干暗めで、MFでのピント合わせが
しんどい。
つまり、「何だかわけのわからない非効率的なシステム」
で使わざるを得ず、非常に使い難い。
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本レンズの購入は1990年代であったが、銀塩初期のEOS
(1980年代末~1990年代初頭)においては、単焦点の
EOS用レンズは少なく(注:ズームレンズが主体であった)
高性能のEOS用大口径単焦点レンズが欲しい、と思った
場合、なかなか選択肢が無かったのだ。

発売時は、バブル期の真っ最中。AF化で他社に若干先行
されたCANONが、旗艦EOS-1/HS(銀塩一眼レフ第14回)
を発売し、巻き返しを図った年である。

バブルの時代は「ともかく凄いモノ」を要求していた為、
85mmで開放F1.2というスペックで、消費者層の度肝を
抜いてEOS機に注目してもらう、という販売戦略であろう。

で、1990年代当時の私は、85mmのF1.4級レンズは
他にいくつかは使ってはいたが、本EF85/1.2のような

F1.2級は持っていなかったし(注:85mmのF1.2級レンズは
他社を含めても希少だ)価格(定価)も20万円近くと高価だ
「いったいどんなに凄い写りをするのだろうか?」と
単純な期待も多々あった訳だ。

だが、その「期待」が「誤解」である事に気づくのは、
そう長い時間はかからなかった。本EF85/1.2の描写傾向は
個人的な好みには合わなかったのだ。

知人のマニアが、旧MF版のCANON FD85/1.2L(1980年)
を所有していたので、それを借りて撮ってみると、旧版の

方が好みに合う。(注:旧版とはレンズ構成が異なる)
ちょっと腹が立って、本EF85/1.2は処分してしまおうか?
と思ったのだが、その知人への対抗意識もあって(笑)
本レンズは残す事とした。

以降、本レンズを「ハズレ」と判断した私は、多社の
85mm/F1.4級レンズを色々と買い始める、しかし、
そのどれも、あまりズバリと好みに合うレンズは無く、
デジタル時代に入った頃には、当初はAPS-C型センサー
機ばかりで人物撮影用途に85mmが向かなくなった事と、
カメラ側のMF(ファインダー)性能が、銀塩時代よりも
悪化した事もあって、もう85mm/F1.4級レンズは殆ど使う
事がなく、もっぱら50mm/F1.4で代用したり、あるいは
85mm前後でもF1.8級の小口径レンズの方が、良く写って
かつ歩留まりも良い(成功率が高い)事が多いので、
それらをメインに使う事となる。

ますます、本EF85/1.2Lの用途が無くなってきてしまった
状況ではあるが、まあ、単純に「開放F値が明るくて
高価なレンズであるから、きっと良く写るだろう」と
勘違いしてしまった事への報いだ。
「値段の高いレンズが常に良いとは限らない」という
事実を学ぶ為の授業料であった、と納得する事とした。
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ただまあ、近年においては「レンズに弱点があったと
しても、それを使いこなせないのは、利用者側の責任だ」
と、私は思うようになってきている。
本レンズが使い難くかったり、描写力が好みでは無いと
しても、本レンズが適する被写体条件は必ずあるはずだ。

したがって、「用途開発」が必須となるレンズである。
正直言うと、「嫌いだ」と決め付けてかかって、20年間
以上も、殆どほったらかしにしてしまったレンズだ(汗)
だから、「用途開発」も全く進んでいない。
何かの撮影において、「では、EF85/1.2Lが最適だから、
これを持っていこう」等と考えた事は一度も無いのだ(汗)

が、せっかく持っている高額レンズだ、高額だから高性能だ、
とは全く言い難いレンズではあるが、コストが高いレンズで
ある事は確かなので、そのコストに見合うパフォーマンス
を発揮してもらわないと、レンズが無駄になって困る。
まあ、今後ぼちぼちと時間をかけて、「本レンズが最適だ」
と言えるような状況を探し出していく事とするか・・

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では、今回ラストの超大口径システム
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レンズは、Voigtlander NOKTON 42.5mm/f0.95
(新品購入価格 90,000円)(以下、NOKTON42.5)
カメラは、PANASONIC DMC-G5 (μ4/3機)

2013年発売のμ4/3機専用超大口径MF中望遠画角レンズ。
中途半端な焦点距離ではあるが、μ4/3で2倍して85mm
になる事から、意味の無い焦点距離では無い。
本レンズ以外にPANASONICからも42.5mmの焦点距離の
レンズが2本(F1.2版、F1.7版)発売されている等で、
あまり違和感がある焦点距離でも無いであろう。
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この「F0.95シリーズ」は、まず前述の25mm/F0.95
そして、本レンズの前年の2012年にはNOKTON

17.5mm/f0.95が発売されており、これは換算で

35mmとなる画角である。

また、本レンズ以後の2015年には、NOKTON
10.5mm/f0.95(換算21mm)が発売されており、
現状ではこの計4本が「F0.95シリーズ」である。
(注:2020年4月に5本目の60mm/f0.95が発売予定)


余談だが、2014年に米国の物資輸送用無人ロケット
「アンタレス」が、打ち上げ直後に爆発事故を起こして
しまった。無人機なので幸いにして人的被害は無かったが、
ISS(国際宇宙ステーション)への補給物資が失われた事や、
同ロケットに搭載されていた国産新開発の「流星観測カメラ」
も壊れて無くなってしまった。

その「流星観測カメラ」を、当時のTVのニュース映像で
見たのだが、その使用レンズが「NOKTON 17.5mm/f0.95」
であった事を鮮明に覚えている。

匠「げげっ! ノクトン17.5mmを使っているよ!
  あ~あ、発売されたばかりの高級レンズなのに、
  壊れてしまったのは、実に勿体無い!」
という印象であったが・・
(まあ、レンズ1本の被害額よりも、ロケット全体を
考えると、とるに足らない話ではあるが・・・)

後日、よくよく考えてみると、「NOKTON 17.5mm/f0.95」
が流星観測に適切なレンズなのだろうか? という疑問が
沸いてきた。
まあ、センサー部やマウント機構は、μ4/3システムを
そのまま利用できるし、消費電力が少ないのも利点だろう。
MFである事も良い、宇宙空間の遠距離撮影で、AFなどは
意味が無いからだ。ピントは∞(無限遠)固定で十分だ。

しかし、開放F0.95はやや冗長なスペックではなかろうか?
まあ、暗い宇宙空間だから、できるだけ開放F値の明るい
レンズを使った方が有利である事はわかる。
でも、この「F0.95シリーズ」は、どれも開放では収差が
大きいのだ、特に流星等の撮影で「ハロ」や「コマ収差」が
出てしまったら、学術的に正しく物体形状を分析できない
のではあるまいか? 

まあ、その「NOKTON17.5mm/f0.95」は残念ながら未所有
なので、どこまで開放での収差が大きいのか?は不明だ。
が、25mmと42.5mmを使っている経験からすれば、絞り開放
での収差は、趣味撮影ならまだしも、学術的撮影に適して
いるレベルとは言い難い。
匠「そうであったら、もっと安価な銀塩時代のMF広角
  レンズか、または工業用マシンビジョンレンズを
  使えただろうし、そうしておけば壊れた際の被害額も
  小さくて済んだのに・・」
と、ちょっとセコイ事を考えてしまった次第だ。
(前述のようにロケット全体から考えると、些細な事だ)
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余談が長くなった、本NOKTON42.5の話に戻る。
2013年に本レンズが発売された頃には、前述のNOKTON
F0.95シリーズも世の中で一般的で、さらには、中一光学
からもMITAKON(ミタコン、現:SPEEDMASTAR=前述)
35mm/f0.95が発売され、開放F1以下の「超大口径」
レンズも色々と選択肢が増えてきた状況であった。

だが、これらはいずれもマニアックで高価な商品であり
中古市場にはなかなか出て来ない。新品で買うにしても
高すぎて、次々と買う訳にもいかず、おまけに、どうしても
「超大口径」が必要だ、という強い理由も無い為に、
なかなか買い難い商品となってしまった。

ただ、本NOKTON42.5は、当時最長の焦点距離のF0.95
レンズであるから、「最も大きなボケ量が得られる」
レンズとして強い興味があった。

なお、実際の被写界深度を考えると、センサーサイズの
小さいμ4/3機用のレンズばかりなので、場合によっては
フルサイズ機で、F1~F1.2級のレンズの方が被写界深度は
浅くなるかも知れない。
しかし、本NOKTON42.5は、最短撮影距離が23cmと、
異様に短い、これは他のNOKTON F0.95シリーズも同様に
短いのだが、あまり寄れない事が普通であるフルサイズ機用の
超大口径レンズよりも、本レンズの方が様々な撮影における
エンジョイ度が高いだろう、と踏んだ。

問題は価格である、定価は118,000円+税と高額だ。
1年程中古市場をウォッチしたが、案の定1本も出て来ない。
が、2014年後半頃には老舗専門店で新品の値引率が上がって
きていて、税込み9万円程度まで下がったので、それを購入
する事とした。(注:現在では7万円台とさらに安価だ)

母艦であるが、これがまた難しい。DMC-G5/G6を候補と
して上げたが、G5はG1と同じ144万ドットカラー液晶で、
G6は、144万ドット有機EL+ピーキングだ。
DMC-G6で初搭載のピーキング機能が、超大口径である
本レンズで正しく動作する保証が無かった為、DMC-G5を
選択し、これを中古で1万円台後半で入手し、本レンズの
専用母艦にあてがった。
G5は他のレンズ用としても、ごく稀に使っているのだが、
総撮影枚数は3万枚弱、恐らくは本NOKTON42.5だけでは
2万数千枚程度の撮影枚数であろうか・・
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使用感だが、まず本NOKTON42.5は、NOKTON25
に比べ、相当に大きく重くなった。

重量を比較すると、およそ5割増しとなっている。

明るすぎる為に、昼間はNDフィルターを常時必要とする。
本レンズの場合は、ND8フィルターをつけっぱなしであり、
これで開放で約F2.8相当、日中快晴時でも、1/4000秒
シャッターで、ぎりぎり撮れる、という感じである。
(注:DMC-G5のベース感度はISO160と、やや高目である、
これがISO100であれば、ちょうど良い感じだが・・)

なお、より後年のμ4/3機であれば、高速電子シャッター
が使える機種も存在する、しかしこのDMC-G5は電子
シャッターは搭載しているものの、1/4000秒止まりだ。


また、このシステムでビジネス・プレゼンを撮影した事が
あったのだが、無音である事は良いが、プロジェクターの
走査線の縞が写真に入ってしまい、使えなかった事がある。
同様に、TVやPCの画面でも電子シャッターでは縞が入り、
動体被写体でも時間差の歪みが出てしまう恐れがある。
それと、新鋭機でも電子シャッターの速度が1/16000秒
止まりである場合が多く、ND8で1/4000秒必須であれば、
ND8無しでは、1/32000秒の高速電子シャッターが必要だ。
それがある機種は希少であり、あるいは当時のμ4/3機では
皆無であった事だろう。

まあ、やはりND8フィルターを使うのが簡便である。
なお、暗所の撮影では、ND8を外せば、それで良い。
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後年、初級マニアの知人が本NOKTON42.5を購入したので、
匠「サングラスを買う事を忘れずに!」
とアドバイスした、「日中はND8フィルターを付けておく」
という概念を説明するのに「明るすぎる場所ではサングラス
を掛ける」という概念で覚えてもらった方が簡単だからだ。

本レンズの特徴だが、冒頭のNOKTON25と似たり寄ったり
である、最短撮影距離が短く、準マクロレンズとして
目の前の任意の被写体に対して多大なボケ量を得る事が
できるが、弱点としての、開放近くでのハロ発生による
輪郭の滲みによる画質の低下。それに加えて、作画の難しさ
であるが、いずれも、NOKTON25に輪をかけて使いこなし
が難しい。

この難しさは全所有レンズの中でもトップクラスであり、
別シリーズ「レンズマニアックス」の「使いこなしが困難な
レンズ特集(第12回記事)」でワースト2位を記録している。

誰にでも推奨できるレンズでは無いが、反面、マニアック度
やエンジョイ度(面白さ)も最高レベルであり、過去記事
「ミラーレス・マニアックス名玉編」では、見事に第2位に
ランクインしている。

難しさと楽しさが同居していて、矛盾を抱えたレンズでは
あるが、本レンズを手にすれば「超大口径」の魅力(魔力)
にハマるかも知れない。
上級者または上級マニア層向けの特異なレンズである。

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さて、今回の記事「超大口径レンズ特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・

【玄人専科】匠の写真用語辞典(27)補足編~アラカルト(3)

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本シリーズでは、写真撮影に係わる用語で、本ブログの範囲
でのみ使われる独自用語や、あまり一般的では無い専門用語を
解説している。
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現在、本シリーズは「補足編」という事で、これまで
書きそびれていた用語や、新たに使用している独自用語を、
順不同、かつ雑多な「アラカルト」として紹介している。
この為、不定期掲載・長期連載の記事となっている。

緊急事態宣言およびその全国的拡大により、外出を自粛
している状況が続くが、家の中においても趣味的な研究や
勉強は続けられる事であろう。
なお、本記事での掲載写真は過去撮影のものばかりだ。

では早速始めよう。

★望遠比
 専門的用語。

 一般に「望遠レンズ」というものは、「写真用交換レンズ
(35mm判)で、焦点距離が135mm程度以上のもの」
 といった定義になると思うのだが、本来「望遠」とは
 レンズ設計上、焦点距離とバックフォーカスの対比を
 示す用語だ。(注:だから、一眼レフ広角レンズでの
 レトロフォーカス型の場合、「逆望遠」型と呼ばれる)
(注:「焦点距離vsバックフォーカス」の他、「焦点距離
 vs 鏡筒長」という解釈もある。このあたりは用語の
 定義が曖昧な状態だ。→詳細後述)

 こうした概念は、レンズ設計上、鏡筒の長さを焦点距離
 よりも短くしたいが為にも用いられていて、その比率を
「望遠比」と呼ぶ場合がある。

 例えば、500mmの焦点距離のレンズにおいて、望遠比
 が小さい場合、全長が長くなりすぎて、とても使いにくく
 なってしまう訳だ(下写真は、その類の500mmレンズ)
_c0032138_12454091.jpg
 実用上では「望遠比」を大きくして、焦点距離に対する
 鏡筒長を短くする事は必須だ、だからレンズ設計に関して
 は、この概念や要素、値などは、とても重要になる。

 しかし、ユーザー側からすれば、出来上がった製品を
 買うだけであり、「望遠」の本来の意味は不明瞭となり、
「レンズの焦点距離が長いものを示す用語、だって、遠くの
 ものを望む(眺める)のだから、”望遠”なのでしょう?」
 という風に広まっていったのであろう。

 また、「光学」は、非常に古くから発達してきた学問で
 あるが故、様々な慣用表現が広まっていて、今更それらを
 変えられず、技術(専門)用語が、あまりちゃんと統一
 されていない事も大きな課題であろう。光学を勉強しようと
 する際、この「用語不統一」が大きな問題点となる。
 同じ概念での違う用語を覚えたり、同じ用語で別の意味
 をも学ばなければならない、これは非常に面倒な話だ・・

(この事が、例えば、複雑すぎる「お役所的仕事」と同様に、
 他者がその分野の業務を行う事を拒む為の「参入障壁」と
 なっているであれば・・ それはちょっと困った話だ)

 で、実質的には、市場においては「望遠」と言えば焦点距離
 の長いレンズの事を指す、この概念は一般に広まっているの
 で、もう変えられないだろう。

 余談だが、「望遠」と「ズーム」を混同してしまう事は、
 ビギナー層に良くありがちな課題である。

★望遠圧縮効果
 やや専門的な写真用語。

 上記で説明した一般的に言う「望遠レンズ」を使う目的
 はいくつかあるが、代表的なものは「遠くの被写体を
 大きく写す」である、ここは誰でも理解が容易だ。
 さらには、「被写界深度を浅くする」、ここは初級から
 中級者クラスの概念理解となる。

 さらには「背景の取り込み範囲を狭くする」あるいは
「遠近感(パースペクティブ)を少なくする」があるが、
 これらに関しては 中上級者クラスの理解力が必要となる。
 簡単にはわかりにくい為、説明の際、「望遠圧縮効果」と
 呼ばれる事もある。
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 上の「道」の写真のセンターラインは、等間隔の点線状で
 あり、遠くに行く程、点線の間隔が狭くなって見えるが、
 その度合いは、望遠レンズの場合、見た目よりも差が無い。
 すなわち「遠近感が圧縮されている」訳である。

 望遠レンズを使っても、被写体を平面的にしか撮影
 しない場合(例:遠くの風景や建物等を撮る)、望遠圧縮
 効果は実感しがたい、そして初級者の場合の望遠レンズの
 使用法は、たいていが遠くの物を平面的に撮るだけだ。

 中級者以上ともなれば、被写体を立体的に撮る事を意識
 するようになるだろう。その際、被写体が長いもので
 あった場合、それを横から撮影すると間が抜けた構図と
 なってしまうから、前方あるいは斜め前方から立体的に
 撮影し、望遠レンズを使って圧縮効果を出して構図内に
 それをおさめようとする訳だ。
 典型的な例としては、「鉄道写真」があると思う。
_c0032138_12454015.jpg
 この分野では、「撮り鉄」の中級者以上は、多くが
 こうした斜め構図+望遠という撮り方をしていると思う。

 また、(ドラゴン)ボート競技の撮影でも、横から撮ると
 細長くてスカスカの構図となる為、斜め撮りで望遠圧縮
 効果を狙う場合も、非常に多い。
_c0032138_12455123.jpg
 これらの例は、遠近感圧縮に着目した単純なものであるが、
 背景の整理(背景範囲を狭くする)効果等も、ネイチャー
 写真分野では必須のテクニックであろう。

 レンズの焦点距離が長いほど、「望遠圧縮効果」は顕著に
 現れる。その効果の利用の為に望遠レンズ(又は望遠ズーム)
 を使う、と言っても過言では無い。特に望遠ズームの場合は、
 その「望遠圧縮効果」を調整する為の用途が最重要であり、
 初級中級者が考えるように、単に「画角を調整する」為の
 レンズでは決して無い。

 なお、光学ズームによる、意図した「望遠圧縮効果」を
 維持したままで、デジタルズームまたはトリミング編集により、
 画角や構図を整える事が、超上級テクニックとなる。
(よって、撮影時にかけるデジタルズームと、撮影後に編集する
 トリミングでは、その心理的な要素が大きく異なる。単に
 結果だけ見れば類似のものでも、「撮る時の気持ち」を考慮
 する必要性は、写真が「表現」である以上、当然であろう)

★ベローズマクロ
 一般写真用語。

 現代のマクロレンズ(近接撮影用レンズ)は、ヘリコイド
 を持ち、レンズ単体で使用できるものが殆どであるが、
 過去の時代においては、ベローズ(延長鏡筒)が別途必要
 となる特殊なマクロレンズも色々と存在していた。
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「ベローズ」は、上写真のような蛇腹状であったり、あるいは
 また、顕微鏡状の長い鏡筒である場合もある。

 この「ベローズ」を使う目的は2つある、
 1)精密なピント合わせ
 2)撮影倍率を上げる

 まあ、これは一般撮影用ではなく、医療、学術といった
 専門分野向けの機材であろう。
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 ちなみに、ベローズマクロは一般的なマクロレンズ
(センサーサイズに対して、等倍/1倍)よりもはるかに
 大きな撮影倍率を得る仕様のものもあり、5倍~15倍
 程度にも及ぶ場合がある。
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 一般的に、屋内専用の固定的システムであり、旧来は
「屋外での手持ち撮影は不可能」と思われていたかも
 知れないが、現代のデジタル機の性能をもってすれば、
 なんとか手持ち撮影が可能となる場合もある(下写真)
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 ただ、高倍率の手持ち撮影も、撮影倍率が概ね5倍程度
 までが限界であって、それ以上の撮影倍率となると非常に
 難易度が高くなる。(私の経験上、9倍のシステムでは
 手持ち撮影成功率は1%以下となった。これはもう偶然で
 撮れているに過ぎない)

 まあ撮影技能の練習目的には良いかもしれないが、本来で
 あれば、これはあくまで学術系用途専用システムだ。
 昔は、顕微鏡写真をフィルム撮影する事が難しかったから、
 こうしたベローズシステムが別途存在していた訳だ。

 現代においてはベローズシステムは入手も困難であるし、
 用途代替として、たとえば「デジタル顕微鏡」を用いれば、
 高倍率での検体等の撮影(PC取り込み)が可能である。

★グランドスラム
 一般用語だが、写真においては独自用語。

 元々「グランドスラム」とは主要なスポーツ大会を全て
 制す(優勝する)という意味で、テニスやゴルフの四大
 大会で全て勝って「圧勝する、完勝する」という話だ。
(できれば、同じ年の大会すべてで勝利する事が条件だ)

 ただ、近年「大坂なおみ」選手等の活躍から「四大大会
 そのものが、グランドスラム大会なのだ」と曲解される
 ケースが増えてきているが、勿論これは誤解である。
 グランドスラムとは、あくまで「全てで完勝する」という
 戦果としての意味であり、大会自体の事を指すのではない。
(全大会制覇があまりに難しいからか?近年では、そうした
 選手自身からも「主要大会に1つ勝てばグランドスラムだ」と、
 誤解した発言も見られる模様だ。また、新規大会の命名
 そのものが「グランドスラム」(大会)になってしまった
 ような実例もある。「言葉の意味は時代と共に変化する」
 とは言え、どんどんと意味が変わりすぎる傾向もある) 

 さて、写真用語としての「グランドスラム」とは、本ブログ
 独自の概念として、「少なくとも四本以上ある、特殊な
 仕様のレンズ群を全て所有する事」を示している。
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 本ブログの過去記事においては、
 1)アポダイゼーション光学エレメント入りレンズ
  (STFまたはAPDと略す。特殊レンズ第0回記事)
 2)マクロアポランター(Macro APO-LANTHAR)
  (特殊レンズ第11回記事)

 にて、「グランドスラム」の例を挙げている。

★擬似紅葉
 独自用語。

 自作の画像処理(自動加工)ソフトウェアにて用いた
 概念である。
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 このソフトウェアでは、紅葉の季節以外に普通に撮影した
 風景写真を入力すると、緑色の葉の部分を自動的に赤色に
 変換して、あたかも紅葉の時期に撮影したような写真に
 加工する事ができる。これを「擬似紅葉」と呼んでいる。

 ただし、効果の出方が少し地味であり、今後の改良が
 必要な状況だ。

★使いこなし
 一般用語。

 カメラやレンズ等の撮影機材で、実際に写真を撮る際、
 それらの機材の仕様または性能上、特定の被写体状況に
 よっては、撮影の難易度が高くなるケースがある。

 こうした時、被写体条件も、機材の性能も、いずれの限界
 も承知の上で、技能や技法により、なんとか写真を撮れる
 状況を作り出す事、それが「使いこなし」である。
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 どんな条件で撮影が困難になるかは、さまざまな要素が
 ある。レンズマニアックス第11回、第12回記事では、
「使いこなしが難しいレンズ特集」としていて。記事中に
 その条件をあげている(以下再引用)

 1)レンズとカメラを合わせたシステムとしての性能上の限界
 2)レンズの特徴的な仕様を原因とする使い難さ
 3)レンズの性能上の課題を回避して使う事が難しいケース
 4)レンズそのものの操作性の弱点から来る使い難さ

 上記は主にレンズ側での課題であるが、カメラ側にも
 使いこなしを難しくさせる条件は色々と存在している、
 まあ上記の「レンズ」を「カメラ」に置き換えれば、
 ほぼ同等の原因になるのではなかろうか・・

★限界性能テスト
 独自用語。

 カメラ、あるいはレンズの性能上や仕様上の問題、あるいは
 撮影環境等の理由により、実際に使用する前から撮影が困難で
 ある事がわかっている状態で、なおかつ撮影を行ってみる事。
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 その際、当然、様々な課題が発生するが、そうした困難な
 状況でも、どれだけ撮影が可能か? 歩留まり(成功率)は
 高いか否か? 撮影技法で課題を回避可能かどうか? などを
 色々と試してみる事を言う。勿論これは利用者の技能全般にも
 大きく依存する事である。

 その結果が、そのシステムにおける「限界性能」であり、
 それでも実用的と見なせるのであれば、そのシステムは今後
 の実用撮影に利用可能。そうでなければ、カメラ又はレンズ
 の組み合わせを変えたり、より容易な撮影条件でしか実用に
 値しない、と見なす事ができる。

 ちなみに上写真はミラーレス機NEX-7(最大感度ISO16000)
 に、市販ピンホールレンズ(口径比F41相当と暗い)を装着し、
 手ブレ補正を持たないこのシステムで、手持ち撮影が可能か
 どうか?を試している例。この状態では晴天~曇天あたりの
 日中であれば、手持ち撮影が十分可能であり、室内や暗所では
 厳しい事は、この限界性能テストによりわかっている。

 限界性能はビギナー層と上級者層では大きく異なってくるで
 あろう。でも、逆説的には、こういうテストや練習を全く
 しないで、カメラやレンズの持つ性能に頼りきっているから、
 いつまでもビギナーのままなのだ、という事も言える。
 こうしたテストを繰り返していく事で、副次的に撮影技能も
 向上していく訳だ。
 
★テクニカルマニア
 独自用語。

 上記の「限界性能テスト」などを繰り返していると、だんだん
 難しい撮影環境(機材含む)で撮影して、なんとかその課題を
 技術(撮影技能)や知識、経験則などで、回避して撮影を行う
 という、「使いこなし」に興味が出でくるかもしれない。
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そのように「技法」などの技術的な要素に興味が出てくると
「できるだけ低性能のカメラやレンズを使うのが面白い」とか
「誰も使いこなせないだろう特殊なシステムが楽しい」とか
 ちょっとエキセントリック(風変わり)な志向となると思う。
 まあ、この事を「テクニカルマニア」と稀に呼んでいる訳だ。
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 ちなみに、ここで上写真は、PENTAX Qに、マシンビジョン
 用レンズ(CBC M1214-MP2 12mm/f1.4)を装着し
(2つ上の写真)そのシステムで撮った蝶の写真。
 とても難易度の高い撮影となるが、それを何とかして撮る
 事を楽しむ等が、まあテクニカルマニアの習性であろう。

 なお、類似のマニアの習性として「テストマニア」と呼ばれる
 志向も存在している。これは例えば、あるマニア氏が、次々に
 レンズ等を購入し、そのマニア氏自身の持つ評価基準において
 そのレンズ等の性能をテストする。要素は例えば、解像感、
 歪曲収差、周辺減光、逆光耐性、ボケ質、AF速度、AF精度等で
 あろう。場合によっては一定の被写体とかテストチャートなど
 も準備しているかも知れない。

 そうやって一通りテストした後、自身の評価リストなどに
 その結果(性能)を書き込む。(またはSNS等に掲載する)
 まあ、その時点迄でテストマニアの仕事は終わりであり、
 その後は、そのレンズ等にはもう興味を無くしてしまうか、
 あるいは気にいった性能のものだけを残して、そうで無い
 機材は処分してしまったりもする。

 私個人としては、「テクニカルマニア」的な要素は強いのだが、
「テストマニア」的な志向は殆ど持たない。まあ、両者は機材の
 性能を知りたい、という志向は共通なものの、その方向性は
 似て非なるものかも知れない。
 いずれにしても、様々なタイプのマニアが居るという事だ。
 
★カメラの型番が言えない
 独自概念。

 日常的な会話の中で、「カメラをやっています(趣味と
 しています)」という話題が他者から出た際に、私は
「ほう、何と言うカメラとレンズを使っているのですか?」
 と必ず尋ねる事としている。

 その際、自身の持つカメラおよびレンズの型番がスラスラ
 と言えるようであれば、まあ中級者以上。もし言えなければ
 初級者、と見なすようにしている。

 まあ、今時のエントリー(入門)消費者層であれば、
 量販店の店頭に行き、そこで、たまたま安売りしていた
 カメラ(レンズキット)とか、店員の薦めるままのカメラを
 購入してしまうことは良くあるケースであろう。

 だけど、本来の「モノ」の買い方としては、カメラが欲しい
 のであれば、予算や自分での用途(何が撮りたいのか?)、
 好みのメーカー、機種名、そのランクと性能、価格などを
 事前に十分に調べてから(カメラやレンズの型番も、当然
 その時に覚えてしまうはずだ)、それで希望するセットを
 買いに行くことが本筋であろう。

 ただ、他の記事でも書いた事があるが、近年の人達は、
「モノ」が身近にあふれているからか?、モノの買い方が
 非常に稚拙になって来ている。だから、ちゃんと比較や検討
 を行う事もなく、衝動的にモノを買ってしまう事も多々ある
 訳である。
 そうういう状態だと、モノに対する思い入れや愛着もわかず、
 たとえ、せっかく大金を叩いて購入したカメラでも、ちゃんと
 使いこなそうという気にもなれず、ただ単にカメラを持って
 いるだけ、それで上手く撮れない場合は、もうそれで諦めるか
 または「もっと高いカメラを買えば、ちゃんと写せるように
 なるか?」と勘違いして、簡単にそれを買い換えてしまう事も
 良くある話だ。

 まあ、そういうレベルの人達を、一般に初級者(初心者)と
 呼ぶ訳であって、すなわち、ちゃんと研究をしてカメラ等を
 買って、かつ、それをさらに使いこなそうとしていれば、
 既に中級者レベルであるか、そこまで達してはいなかったと
 しても向上心があれば、遅かれ早かれ、そのレベルに到達する。

 その見極めを行う為の質問が「カメラやレンズの型番が
 言えるかどうか?」なのである。
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 ただまあ、ロシア製レンズなどで、「型番が読めない」
 という状況は、また別の問題なのだが・・(汗)

★低付加価値型商品
 独自用語。

 2010年代からのカメラ市場の縮退により、近年の国産製品は、
 皆、「高付加価値型商品」となってしまった。

 この事を簡単に言えば「カメラやレンズが、殆ど売れないから
 1台あたりの値段を上げて利益を稼がないと、やっていられない」
 という状況である。

 まあそれはやむを得ない、別にカメラに限らず、成熟市場等で
 次々に新製品が売れるような市場でもなければ、商品の価格を
 値上げせざるを得ない。商品でなくても運賃やらサービスやら
 全て同様であろう。

 しかし、じゃあ、カメラ(やレンズ)においては、必ずしも
 高価になったそれらの「高付加価値型商品」でないと、写真
 が撮れないのであろうか? いや、そういう事はあるまい。
 勿論、近年のカメラは高性能ではある、しかしマニア層や
 ベテラン層であれば、50年も前のフィルムカメラでも写真は
 撮っていたし、デジタルカメラにしても、20年も前の低性能な
 最初期のデジカメでも、皆、写真は撮っていた訳だ。
 別に最新の高価なカメラでなくてはならない理由は無い。
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 そして、幸いにして、カメラの世界には中古市場が存在して
 いる。古い時代のカメラやレンズを、物によっては安価に
 購入する事ができる。
 デジタル時代の製品であれば、中古はなおさら安価である。
 発売10年以内の機種であっても、中古相場は発売時価格(定価)
 の数分の1程度で購入可能であろう。

 で、時代のタイミング的に、10年程前のデジタル機材は、
 皆、「低付加価値型」である、つまりあまり不要なまでの
 性能は持たせず、高性能では無いが、性能と価格のバランス
 が優れていて、中古であれば、コスパが極めて良い状態だ。

 後の課題は、その低付加価値、すなわち「普通の性能」で
 撮影において物足りないと思うか否か?である。

 例えば上写真の、PENTAX K-30(2012年)は、現在では
 1万円台という非常に安価な中古相場であるが、その性能は、
 APS-C、1600万画素、ISO25600、連写毎秒6コマ、連写枚数は
 ほぼいくらでも、ファインダー視野率100%、フラッシュ内蔵、
 最高シャッター速度1/6000秒、エフェクト可、ハイパー操作系、
 内蔵手ブレ補正、本体重量590gと軽量。というスペックである。

 これで何か不満があるのだろうか? これを越える性能は、
 ISO数十万という超高感度や、毎秒10コマという高速連写
 くらいであるが、それらがいつでも必要な訳でもあるまい。

 まあすなわち「低付加価値型」製品でも、現代においては、
 普通に使えるデジタルカメラとなっているという事である。

 ちなみに上写真での装着レンズは、TAMRON製の90マクロ
(MODEL 172E 1999年)である、こちらも現代では1万円台の
 格安相場であるが、著名な名マクロレンズであり、その
 描写力的にはなんら不満は無い。最新のバージョンとの差異に
 ついては、手ブレ補正無し(ただしK-30側に有り)、超音波
 モーター無し(ただし、マクロ撮影では大半がMFだ)、そして
 後玉の反射防止コーテイング無し(だからと言って描写力が
 落ちる訳では無い)、僅かなレンズ構成の差異、しかない。
 まあつまり、低付加価値型レンズであっても、現代で十分に
 通用する性能な訳なのだ。 

 合計で3万円台という上記「低付加価値型」システム(しかし、
 高性能である)と、現代の新鋭システム(カメラ+レンズ)で
 軽く50万円以上という「高付加価値型」商品との、10倍以上
 もの価格差の理由や価値の差を、消費者側で ちゃんと考えて
 みる必要があるのではなかろうか・・?

★20世紀型、21世紀型
 独自概念。

 世の中の様々な商品において、20世紀型のビジネスモデルと、
 21世紀型のビジネスモデルは大きく異なっている気がする。
(あるいは、市場によっては2000年を切り替わり時期にせず、
 昭和と平成やバブル経済の前後で、概ね1990年頃がビジネス
 モデルの切り替わり時期になっている場合もあると思う)


 具体例をいくつかあげよう。たとえば20世紀型製品の多くは
「プロダクト・アウト」型の企画開発だ。簡単に言えば開発部門
 などで「こんなモノを作ってみました、これ売れますかね?」
 というスタイルである(注:実際には、そこまで単純では無く、
 これは、あくまで概要/概念の話である)
 また、価格の決め方も製造原価を算出し、原価率で割る事で
 定価が決まる、という「積み上げ方式」である。

 なお、「プロダクト・アウト」という用語には、前述のように
 独自アイデアの商品である、という要素も含む。それについては、
「20世紀」とざっくりした分類ではなく、戦後から1970年代前半の
 高度成長期においては、日本製品は海外製品の模倣の要素が強く、
 プロダクト・アウトとは呼び難いが、1970年代後半~1990年代
 においては、日本が国際市場をリードする立場となり、本記事で
 言うところの「プロダクト・アウト」型商品に近い様相がある。
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 ところが、21世紀型は「マーケット・イン」型となっている。
 これは、企画部や営業企画部等で市場調査を行い、かつ、
 新しいビジネスモデルを想定・創造し、それの戦略に沿った
 製品(商品)を作っていくという事である。
 価格も同様に、「いくらならば売れるか」という視点あるいは
 他のサービスなどとの複合的な要因で決められていて、単純に
 製品毎の部品代原価率などの公式で定価が決まる訳では無い。
(まあ、ソフトウェアなど、原価がはじけない商品も多い)

 これは、どちらが良いとか悪いとかの話では無い。
 例えば、全てが「マーケット・イン」型の商品ばかりになって
 しまったら、どのメーカーも同じような個性の無い製品ばかりが
 揃ったりするし。あるいは「流行り廃り」の要素も出てきたり、
 はたまた流行っている時代には、高付加価値で値段が上がりすぎる
 場合すらある。マーケット・イン型の商品では、時にその「文化」
 や「流行」すらも市場において創出されているケースすらあるので
 一概に、新しい時代のビジネスモデルの方が常に優れている訳でも
 ないであろう、これは特に消費者側から見れば、それが顕著であり、
 流行の商品を高く買わされてしまう事すらもある。

 まあ、世の中の変化というか、そういう類の要素もあるので、
「モノ」が満ち溢れ、売れなくなってきた21世紀においては、
 安くて良いモノ等は日用品くらいしか、もう無いのかも知れない。
  
 そこで要は、いつも言うように「モノ」の価値を見極める能力が
 消費者側に絶対に必須、という訳だ。ここがしっかりしていないと
 自分には不要なものを高価で買うハメになり、そして、それが
 無駄な買い物であった事すら気づいていない状態になってしまう。

 現代における消費行動は難しい、ネットの評判等に依存しきって
 しまうと、「自分にとって」という最も重要な要素を見落として
 しまいかねないので要注意だ。

★宙玉(そらたま)と、WD(ワーキング・ディスタンス)
 製品名および、やや一般的な専門用語。

 SORATAMA(宙玉、そらたま)とは、透明球に写る映像を
 撮影する仕組み(部品)を言う。(注:商品名である)
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 一眼レフ・ミラーレス機用としては、レンズ前にねじ込んで
 装着する φ72mmのアタッチメント(アクセサリー)型の
「soratama 72」がZENJIX社より発売されている。
 新品価格は6000円前後と、あまり高価なものでは無い。

 レンズ前の僅かな距離にある透明球にピントを合わせる為、
(注:正確に言えば、「透明玉の中に映る映像」にピントを
 合わせるのだが、ここでは概念的に透明球に合わせるとする)
 ワーキング・ディスタンス(WD)の短いレンズを使う事が
 望ましい。
 さもないと、レンズのWDに合わせて、数十cmも宙玉を前に
 出さないと撮影不能となり、延長鏡筒を入手するのも、自作
 するのも大変であるし、宙玉も小さく写りすぎてしまう。
 やはり宙玉撮影に適正なレンズを選ぶ事が必須であろう。

 しかしながら、WDの仕様は写真用交換レンズのスペックと
 しては記載されていない。書かれているのは「最短撮影距離」
 であり、この値は、被写体から撮像センサー(又はフィルム)
 までの距離を指す。

 WDを計算するには、最短撮影距離から、カメラマウント毎に
 異なる「フランジバック長」を引き、さらにレンズのマウント
 面より前の長さを測り、それらを引き算して求める事となる。
 しかし、フランジバック長は、カメラ毎のマウント仕様を
 調べる必要があり、レンズ長も全長しか普通は仕様に記載されて
 いない為、実測する必要がある。また、レンズによっては近接
 撮影でヘリコイドが繰り出され全長が伸びる物も多い。

 もう、ややこしいので、レンズ前に被写体を置き、ピントが
 合ったら距離をスケール(物差し)で実測するのが早いだろうし、
 あるいはもう、計測はせずに、「最短撮影距離が短く、かつ
 全長の長いレンズ」を選べば、たいていWDは短い。

 そうやって、soratama 72に適正なレンズを探していたところ、
 SONY DT30/2.8 Macro SAM(SAL30M28)が、まあ適正であろう
 という結論に達した。このレンズのWDは2cm程度しか無いのだ。
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 これで快適に宙玉撮影が出来るようになるが・・
 注意点もいくつかある。
 1)soratama 72は、φ72mmなので、φ49mmのDT30/2.8には
  そのまま装着できない、いくつかのステップアップリング
  を組み合わせる必要がある。
 2)どのような接続方法とした場合でも、全体に接続部の構造が
  モロい(弱い)、持ち運びの際にラフに扱うと、接続部や
  宙玉本体、レンズなどを破損してしまう恐れがある。
 (他のレンズでこれを実験中に、移動時に保護フィルターを
  割ってしまっている・汗)
 3)DT30/2.8は、SONY α(A)マウントのAPS-C機用レンズである
  他のカメラシステムの場合、別の適正な交換レンズを選ぶ
  必要があるが、WDの短いレンズを探す作業は初級層には
  難しいかも知れない。
 4)このような近接撮影とすると、被写界深度が極めて浅い
  宙玉写真となる。宙玉の周囲の背景映像をある程度活かす
  事も宙玉写真撮影技法の1つである為、それを望む場合には、
  F16以上に絞るなどして被写界深度を適正にコントロール
  する。当然シャッター速度も低下するが、こうした露出
  概念を理解していないビギナー層では利用が難しいであろう。

 以上であるが、宙玉撮影は面白いのではあるが、ビギナー
 層ではこれを使う事自体が難しいし、中級層以上では逆に
 あまり興味を持てないかも知れない、初級マニア層向けか?
 まあ、なんともユーザー層を選ぶシステムなのかも知れない。

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さて、今回の用語辞典記事はここまでで、
次回補足編の掲載は、また説明が必要な用語がいくつか
溜まった頃とし、そのタイミングは「不定期」としておく。


カメラの変遷(1) CANON編(前編)

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さて、新シリーズ記事の開始である。
本シリーズは各カメラメーカーが発売した銀塩・デジタル
のカメラを、主に1970年代から現代2020年代に至る迄の
約50年間の変遷の歴史を辿る記事群である。

緊急事態宣言により、屋外に撮影に行く等という状況
では無いが、「自宅でも出来るカメラの研究」という
事で、既存機材や既存写真を中心に記事を纏めていこう。

紹介機種は、現在なお所有しているカメラに限る為、
完全にカメラ変遷の歴史の全体を網羅できる訳では無い。
また、最新鋭あるいは高額なカメラまで全てを、カバー
できている訳でも勿論無い。

が、おおよそ各メーカーともその時代における代表的な
機種は保有している為(現在なお所有している、又は
過去に所有していた事がある)全般的には比較的精度の
高い情報となるだろう。

実際に、それらのカメラを使った経験が主体となる為、
単に機種名やその仕様だけを調べて年代順に並べただけ
の資料とは全く異なるものだ。

なお、カメラ自身の数値性能や長所短所などの記述は
出来るだけ省略する。
過去記事でたいてい取り上げているものばかりだし、
仕様等の二次情報は他のWEB等でいくらでも参照できる。
(というか、世の中の大半の記事等は二次情報を纏めた
だけのものであり、情報価値が少ないと思っている)
ここでは、その時代の世情や、同時代のライバル機などを
絡めた市場全体の状況などの分析を中心とする。

このシリーズはメーカー毎で、合計十数記事とする予定
であるが、今回の初回記事はCANON編(前編)とし、
1970年代~1990年頃のCANON製カメラ(全て銀塩機)
を紹介する。
なお、挿入している写真は、当該カメラの外観写真または
その、紹介している時代のCANON製レンズを用いて
(CANON製デジタル機で)撮った写真である。

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さて、まずは私が機体を所有していない古い時代の
CANON初期のカメラ群の歴史を簡単に説明する。

1934年 マニアの間では有名な試作機「カンノン」
(KWANON、これがCANONのネーミングの元となった)
が発表されたが、この機体は試作のみで、実際には
発売されなかった模様だ。
(この頃は、「精機光学研究所」という社名で、
まだ町工場のような企業形態であったと聞く)

1935年には、レンズ交換式「ハンザキヤノン」が発売。
こちらも有名な機種だが、キヤノン単独では商品化が困難
であったのか?近江屋写真用品社のブランド「ハンザ」が
冠され、おまけに付属交換レンズは、なんと(ライバルの)
日本光学(ニコン)製であった。(これは「KWANON」の
試作中に、色々と日本光学の力を借りていたから、との事)

ここで初めて「CANON・キヤノン」のブランド名が出て
来るのだが、言うまでも無く「キャノン」ではなくて
「キヤノン」が正しい。
(参考:FUJIFILM社も「フジフイルム」である)

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第二次大戦を挟み、戦後1940年代後半~1960年代前半迄は、
ライカL(39)マウント互換のレンジ機を主に製造販売する。
(注:レンジファインダー機をレンジ機と略す、以下同様)
ここは機種が非常に多いが、後年の中古カメラブーム時も
流通していた人気機種としては、CANON ⅣSb(1952)、
VT(1956),P(1959),7(1961),7s(1965)等がある。

なお、この時代にライカ互換のレンジ機を作っていたのは
CANONだけでは無い。一説には「AからZまですべての頭文字
のメーカーがあった」と言われる程、多くの(バルナック)
ライカL(39)互換機や類似機が乱立していた模様だ。
(注:「AからZ」とは、多少オーバーな表現であろう。
先年、図書館で古い時代のカメラの記録を全て調査したが、
AからZ全て、という要件は満たさなかったように思う)

すなわちこの頃のカメラ製造は電気・電子的な要素は何も
無く、「精密機械工業製品」であったから、当時の日本の
産業構造に良くマッチしていた訳である。

ちなみに「精密機械工業製品」であった、戦前から戦後の
カメラは「ブランド」という意味合いが強かったと思うが、
その後の電気→電子→デジタル化したカメラについては
1つのメーカーだけで製品作りが全て完遂できる訳も無く、
多数の専業部品メーカー等の協業により製品が作られる為、
今や「ブランド」の意味や価値は殆ど存在していない。

後年に私は、この時代のCANON製L(39)マウントレンズの
ジャンク品を2本ほど所有していたので、CANONのこれらの
ボディを買おうか? とも思ったのだが、そのレンズは
Lマウントの他機種でも勿論使用できたため、結局、
CANONのレンジ機の購入機会は無かった。
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上写真は、CANON ⅣSbのミニチュア玩具だ。

また、CANON 7系では、歴史的に有名なCANON 50mm/f0.95
(レンジ機では最大口径)レンズが付属しているセットが
良く中古市場に流通していたが、軽く20万円以上と、
非常に高価だった為、購入は見送った。

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1960年代にはキヤノンはレンジ機の生産を辞め、一眼レフに
転換する。これはニコンも同様であったが、ニコンの場合
レンジ機の名機「ライカ M3(1954)」を見て「歯が立たないと
思ったので一眼レフに戦略転換した」(NIKON Fが1959年発売)
という逸話が有名だが、キヤノンも同様だったかも知れない。

CANON一眼レフ製品の初期には、独自マウントRシリーズや、
特殊構造のEXシリーズがあったが、いずれもまだ黎明期の
一眼レフであり、実用的とは言い難い面もあっただろう。

1964年前後には、TOPCON RE SuperやPENTAX SPが発売され
他社一眼レフは実用レベルに到達したが、この頃のCANONでは、
FLマウントの一眼レフ、FXやペリックス等があったものの、
性能的な他社からのビハインド(遅れ)状態が続く。

ちなみに、この時代のRマウントやFLマウントは、後のFD系の
マウントのベースとなった物で、若干だがFD系と互換性があり、
カメラとレンズ、あるいは遥か後年のマウントアダプターとの
組み合わせによっては、装着・使用できるケースもある。
(注:使用出来ない場合が多い。個々に試してみるしか無い。
私も数本のFLレンズを所有しているが、本ブログでは未紹介だ。
私のデジタル機材環境では、上手く使用できないからである)
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1966年のFT QLでは、クイックリターンミラーを初搭載、
QLはフィルムの「クイック・ローディング」機構であり、
(失敗しやすい)フィルム装填が、簡略化できる。
やっとCANON機も実用的なレベルの一眼レフとなった。

いつまでも他社の後塵を拝する訳にもいかない、恐らくは、
この頃から「旗艦機開発戦略」が水面下で進行していた
事であろう。

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この1960年代、キヤノンは一眼レフのみならず、35mm判の
コンパクト機にも注力していて、「キヤノネット」シリーズ
を展開。シャッター優先AE機で価格も安価な故に人気機種と
なり、多数の派生機が1960年代を通じて発売されていた。

「電気化」機能を取り入れた事が、ひとつの技術革新であり、
それまで「精密機械工業」であったカメラ界の事業構造に
大きな影響を与えた。すなわち、それまでの時代で非常に
多数あった国内のレンジ機製造メーカーは、この構造改革の
時代に、その多くが(電気化が困難であった為)撤退する
事となる。

私は後年に、1965年製のQL17を所有していたが、個人的には
あまり実用性が高く無いと見なし、短期間で譲渡してしまった。

また、この1960年代は、OLYMPUS PENシリーズの大ヒットから
「ハーフ判カメラ」が人気で、CANONも「デミ」シリーズと
「ダイヤル35」シリーズで追従するが「PENがあれば十分」と
見なし、私はいずれも所有する機会に恵まれていない。

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さて、1970年代、これまでの時代のCANON製カメラ群
(特に一眼レフ)は、個人的には「実用範囲以下の性能」と
見なして、殆ど購入していなかったが、ここからは実際に
所有している機体を紹介しながらの説明だ。
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1971年 CANON F-1が発売される。
銀塩一眼レフ・クラッシックス第1回記事で詳細を解説して
いるが、CANON初の旗艦機で、かなりの高性能機である。

同時代のライバル機NIKON F2とともに、この時代を代表する
名機であり、CANONはこの旗艦機を開発した事で職業写真家層や
一般層に対して、ブランドイメージを大きく向上できたと思う。
(下写真は、F-1のミニチュア玩具。オリーブ塗装版)
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ただ、F-1は重厚長大な機体だ。まあ、その後のAF時代の
旗艦機程では無いものの、一般的な趣味撮影には適さない。

その問題については、同年発売のCANON FTb(QL)が存在し、
これは銀塩時代に所有していて、良く使ったカメラだ。
F-1譲りの高性能で、小型軽量でQL機構もあり、実用性が
高かったが、デジタル時代に入った頃に、F-1は残したが
FTbは処分してしまった。

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その後、1970年代中頃には世の一眼レフにはAE(自動露出)
機能が求められるようになった。CANONでのシャッター優先AEは
1960年代コンパクト機の「キヤノネット」や一眼レフの
EXシリーズからのお家芸であるから、その搭載は当然だが、
さらにCPU(マイクロプロセッサー/マイクロコンピューター)
を導入する事で、カメラはついに「電子化」する事となる。

(注:この時代以降での機械式では無い電気制御のシャッター
機構を一般に「電子シャッター」と呼ぶが、厳密にはそれらは
「電気制御式シャッター」であろう。ここで「電子化」とは
”デジタル(ロジック)回路の導入を示すもの”と定義する。
なお、後年のミラーレス時代での「電子シャッター」は、
これらとは、全く動作原理が異なる。この為、近年の機器
での機構は「撮像素子シャッター」と呼ばれる場合もある)
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ここでCPUの歴史を少し述べておく。

1971年、インテル社は世界初のCPU(マイクロプロセッサー)
である「4004」を発表。
その後の世の中の商品において無くてはならないマイクロ・
コンピューターが、ここで産声を上げた訳だ(ちなみに、
大型計算機は、IBM等が1950年代頃から実用化しているが、
マイコンでのこの技術革新は重要な歴史的価値を持つ)

この頃の日本は、大阪万博が終わり、マクドナルドが初上陸、
カップヌードルが新発売された時代だ。

ちなみに、この年の前後の流行歌(邦楽)は凄い!
「知床旅情」「おふくろさん」「花嫁」「わたしの城下町」
「また逢う日まで」「戦争を知らない子供達」「雨がやんだら」
「雨の御堂筋」「さらば恋人」「京都慕情」「水色の恋」
「ざんげの値打ちも無い」「恋人もいないのに」「女の意地」
「空に太陽がある限り」「琵琶湖周航の歌」「出発の歌」
「あの素晴しい愛をもう一度」「よこはま・たそがれ」
「17歳」「傷だらけの人生」・・ 
と、後年の世代に引き継がれている名曲がいくらでもある、
まるで、たったこの1年だけで”70年代ベストヒット歌謡曲”の
CDが出来てしまいそうだ。(勿論、当時は「レコード」だ)
実は、同様に洋楽や映画もこの年は凄いのだが、ここも挙げると
きりがない程だ、まあジョン・レノンの「イマジン」だけを
あげておこう。

まあ、日本の世の中はまだ完全に「アナログ」であったのだが、
デジタル時代が、すぐ目の前に来ているタイミングであった。

翌1972年に、インテルは、早くも8bit CPUの8008を発売、
そして1974年には、有名な8080が発売されている。
(同年、モトローラ社でもMC6800が開発された)

インテル8080は、後年1976年にNECより発売された
「TK-80」マイコンキットにも使われ、この時代から技術系
のマニアを中心に、一大「マイコンブーム」が起こる。


また、1978年には8080を使用した「スペースインベーダー」
がアーケート・ゲームとして社会現象的な大ヒットとなった。
このタイミングで、世間一般も、ついに「デジタル時代」に
突入した事となる。

1975年には、モステクノロジー社がMC6502を発売。
この6502は1977年にアップル社のAppleⅡとコモドール社の
PET2001に搭載されて非常に有名になった。(後年、1983年
には任天堂ファミコンでも6502互換CPUを採用)


1976年には、ザイログ社より著名な「Z80」が発売された。
インテルを退社した人達が、8080の改良版として開発した
CPUであり、後年に至るまで様々なPCや機器の組み込み用途
として用いられている超ロングセラーCPUだ。

Z80等を制御する機械語プログラム(ニーモニック)は、
「アセンブラ」とも言われ、これがこの時代の基本的な
プログラミング手法ともなる。その後の時代でのBASIC等の
インタープリターや、C等のコンパイラー言語とは全く異なる
原始的なもので、CPUの構造そのものを理解していないと
プログラミングを行う事が出来なかった専門的分野である。

(注:この時代から一部の技術者の間で技術用語の「語尾等
の長音」を「無駄である」と、省略する習慣が出てきている。
よってインタプリタ、コンパイラ等と、長音を省く記法や
話法も多いのだが、後年2000年代には複数の大手IT関連企業
等が「長音を省かない記法」を推奨した為、本ブログでも、
PCあるいはカメラ関連用語等において主に長音を省略せずに
記載している。例:コンピューター、フィルター、プリンター、
コントローラー等。ただ、この事は、さほどの強制力は無いし
例えば現代では「アセンブラ」という用語も、まず使われる事
は無いので、これに関しては、この時代の表記法のままだ。
しかし他の技術用語でも依然、長音を省く記載法をしていたら、
「古い時代の技術者だ」と見なされてしまう場合もあるだろう。
はたまた、今時、「メモリー」の事を、日本語の「目盛り」の
ようなアクセントで話をしていたら、笑われてしまう。
→先年、TV CMでもそういうナレーションがあった)

ちなみに、日本初のパソコン雑誌が何であったかは明確には
定義しずらいが、1976年~1977年にI/O、ASCII(アスキー)
月刊マイコン、RAM、のマイコン関連の四誌が刊行されている。
これは、初期国内パソコン(MZ-80Kやベーシックマスター)
の発売の少し前であり、海外のAppleⅡ等と同時代であるので、
なかなか先進的だとは思う(しかし既に「マイコン」としては
技術マニア層を中心に、ブームは加熱していた訳だ)

これらの雑誌には、CPUを動かす為のアセンブラプログラムや
さらに直接的な、16進数の英数字だけからなる純粋な機械語
(オペコード)が記載されていて、それを自身のマイコン等に
打ち込むと、ごく簡単なゲームのような物を動かす事も出来た。
(例:玉を壁に当てるテニス風ゲーム等)

インテルでは、1978年には16bitの8086が発売され、これは
後の1982年発売のNEC PC-9801に搭載され、もうその時代では
マニアだけのマイコンではなく、PC(パーソナル・コンピューター)
として世間一般にも認知されている。勿論、パソコンは急速に
企業や職場に普及して、「パソコンに触れないと仕事にならない」
という時代が急速に進んでいく訳だ。

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さて、そのようなCPU激動期の時代背景がわかったところで、
CANONは、いち早くこれをカメラに搭載しようとした。
時代や技術の変化からは当然であろうが、なかなか先進的な事で
あったと思う。これが上手くいけば、このデジタル革命について
いけないアナログなカメラメーカーは、いっきに大苦戦を強い
られてしまう。ライバルを蹴落すためにも、なんとかこの技術
革新を成功させなければならない。
まあ、熾烈な開発競争の世界だ・・
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CANONは他社に先駆け、いち早く1976年には、世界初の
CPU搭載カメラCANON AE-1を発売した。


このCPUはテキサス・インスツルメンツ(TI)社製の4bit CPU
との事だが詳細な型番は不明だ(専用部品だったかも知れない)
ちなみに、CPUをただ搭載しただけでは製品はできず、勿論
関連のメモリーやインターフェース等のデジタル設計、そして
それを動かすプログラム(ソフトウェア)開発も必要となる、
これはアナログな事業構造のメーカーでは、急にそれらに
対応するのは不可能とも言える。

例えば、この時代から40年も経過した2010年代後半になって
小学校での「プログラミング教育」の必修化が話題になって
いたが、この現代の時代になっても教育現場や父母は大混乱で
あろう。いままでの教育や勉強の概念とはまるで異なるからだ。

40年前に「ソフトウェア開発」などと言っても、ほとんどの
技術者はチンプンカンプンな話であり、一部のマイコンマニア
位が、それが出来たくらいである。(とは言え、マニアでも
ASCII等の雑誌に載っている機械語プログラムを自身のマイコン
にそのまま打ち込んで、ゲーム等を動かしていた程度であった。
プログラミングが出来た人は、ほんの一握りの数に過ぎない)

さて、CANON AE-1であるが、この機体は、かなりのヒット商品
となり、後年に大量の中古が安価に流通していて、私も一時期
所有していたが、あまりにポピュラーで「マニアックさに欠ける」
という判断で、すぐにCANON A-1(1978)に買い換えた。

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A-1は、こちらもCPU搭載機であり、CANON初の両優先AE機で
実用性が高い高級機であるし、そこそこマニアックさもあった。
私はA-1は銀塩時代を通じて愛用したが、デジタル時代に入って
知人に譲渡してしまった。その理由は、CANON Aシリーズは
いずれもシャッター廻りの耐久性が低く、後年に残すべき
カメラでは無い(いずれ使えなくなる)と思ったからだ。

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この時代、1970年代のCANONコンパクト機は、鳴かず飛ばず
という印象があり、キヤノデート(1970~1973)が日付写しこみで
やや有名だが、これらはマニア的には魅力な機体では無かった。

コンパクト界全体では、1977年にKONICA「ジャスピンコニカ」
(C35AF)が世界初のAF機として発売されると、各社一斉にAF化に
追従、CANONでは「オートボーイ」シリーズを1979年から発売
開始(最初の機種、AF35Mは、初の赤外線アクティブAF方式)
以降、2000年代前半頃までの銀塩時代全般で、AFコンパクト機
として多数の派生機種を発売した。オートボーイ・シリーズは
一般市場では、そこそこ人気があったと思うが、個人的には
マニアック度に欠ける、と見なして1台も購入しなかった。

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さて、CANON 一眼レフの方だが、
1981年 旗艦F-1の後継機のNew F-1が発売される
(銀塩一眼レフ・クラッシックス第9回記事)
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旧F-1発売時に「今後10年は、フラッグシップを更新しない」
とCANONは宣言していたのであるが、宣言どおり丁度10年後だ。
その際、「機種名は、この機種が存在する限りF-1だ」とも
言われていたので、このNew F-1は正式には「F-1」である。
(注:ニコン旗艦機がF→F2→F3と機種名が変わった事への
対抗心であると思われる)
ただ、そんな子供の喧嘩のような言い分を言われても、消費者
や流通業界は混乱するばかりだ、勿論、New F-1やNF-1、旧F-1
等と、新旧機種は一般的には明確に区別されている。

このNew F-1はかなりの名機であり、銀塩時代を通じて愛用した。
当該紹介記事でも、なかなかの好評価が得られていて、勿論
現在でも大切に(動態)保管している。
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さらに、1980年代初頭には、新規のTシリーズが展開される。
この時代の「電子化」のイメージを推進する為、ワインダー
内蔵や、液晶パネル装備など近未来的な機能も搭載する。
デザインも従来の銀塩機とはガラリと変わり、そのデザイン的
な自由度を高める為か、プラスチックス成型品となった。

まあ、丁度世の中はデジタル化しつつあった。1970年代後半
でのCPUやPCの急速な発達は前述の通りだが、1979年には、
SONYから初代ウォークマンが発売、これは勿論アナログ製品では
あるが、世間一般ではまだデジタルとアナログの区別がつかない。

翌1980年には、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)の
(アナログ)シンセサイザーやデジタル・シーケンサー、リズム
マシーン等によるサウンドがヒット&話題となり、こうした
新技術を多用した電子音楽は後に「テクノ」と呼ばれる事となる。
テクノはファッション分野にも波及して新時代のミュージシャン
達の髪型は「テクノカット」と呼ばれて一般層に広まり、
街ではテクノカットでウォークマンを聞きながら歩く人達が
急増した。

1982年にはCDが発売、こちらは完全なデジタル構造であったが、
市場では旧来のアナログレコードから急速に置き換わるように
普及した。まあCDがデジタルかどうか、というよりも、レコード
と比較して圧倒的な利便性があったからだろう。
また、この時代1980年代には、電子楽器のシンセサイザーも、
アナログからデジタルに置き換わっている。
(注:いずれの音響機器も、最終的に聴く為の「音」に変換
する部分(D/Aコンバーター)以降は、勿論アナログである。
デジタルのままでは人間は音を聴けない。これは近年での
骨伝導イヤホン/スピーカーでも、広義にはアナログである)

世の中が急激にデジタル化していく状況であったから、
これがCANON Tシリーズ等のカメラのデザインのイメージに
波及しても、なんら不思議では無い訳だ。

ただ、カメラの撮影機能のデジタル化は、まだこの時代では
無理であり、普及は、ここから約15年~20年も後の事になる。
だから、この時代のカメラでは、デザイン的な部分だけで
デジタル時代の雰囲気を出していくしか無かった訳だ。

さらに、やや後年(1987~)のPENTAX SFシリーズも同様に
近未来的なデザインであったのだが、やはりプラスチッキーだ。
カメラマニアの間では、後年の中古カメラブームにおいても
こうしたプラスチッキーなカメラ群は「カメラらしく無い」と
嫌われていて、Tシリーズ初期や他社の同様な近未来イメージの
カメラの中古は、全くの不人気であった。

まあ結局、デジタルやテクノの先進的なイメージは、その当時で
いくら先進的であったとしても、技術の進歩は極めて速いから、
後年の視線で見れば、古くて陳腐なものに見えてしまう訳だ。
(他分野の例で言えば、CGアニメがそうだ。いくらその当時に
頑張ってCGを作っても、後年では、すぐに古く見えてしまう)

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さて、1985年、カメラ界を揺るがす大事件が起こる。
ミノルタから世界初の実用的レベルのAF一眼レフ「α-7000」
が発売された。これはカメラ界だけに留まらずに社会現象とも
なった。いわずと知れた「αショック」であり、本ブログでは
何度も何度も説明しているので詳細は今回は割愛する。

CANONも同年に「T80」の同社初のAF一眼レフを発売するが、
α-7000との性能差は明白で、このT80は、CANONにおける
「黒歴史」として闇に葬られる事となった。
(後年の「CANONカメラ製品」の販売店向け大型ポスター
には、T80は載っていなかった)
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αショックの翌年1986年、CANONは一旦MF機に後退し、
CANON T90を発売。この機体は、後年のEOSの原型となった
曲線的デザインであり、工業デザイナーのルイジ・コラーニ氏
の手によるものだと聞く。この機体は最後のFD高級機であり
高性能でもあり、私は銀塩末期まで愛用したが、デジタル
時代に入ってからマニアの知人に譲渡してしまっている。

一旦MFに後退したCANONであるが、FDマウントのままでは
AF化(電子化)は困難と見て、新規のマウントEF(通称EOS)を
採用し、急遽AF化と電子化(例:レンズ側には絞り環は無く、
カメラ本体のダイヤルで操作を行う等)を実現する。
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最初の機種は、EOS 650(1987年)であるが、AF化への対応が
かなり早かった点は特筆するべきであろう。ミノルタを除く
他社では、AF化した初期の製品は実用的なレベルには、まだ
達していない事が殆どであったのだ。

ただ、1つ大きな問題があり、新規のEFマウントが、旧来の
FDマウントと全く互換性が無かった点だ。

これはミノルタαでも旧来のMDマウントと互換性が無いが、
新規のαの性能が圧倒的であった為、その点は不問とされた。
また、NIKONとPENTAXは旧来のF(Ai)、Kマウントのまま
AF化を進めていた。


しかしCANONの場合、新旧F-1、A-1、T90等の実用的名機が
まだまだ現役である。これらのシステム用に沢山購入した
FD系レンズが使えなくなるのはユーザーにとって痛い。
当然ながらFDユーザーからはブーイングの嵐となり、
ブランドイメージを落としてしまった。

・・と、旧来、CANONのこの時代の歴史を本ブログで解説する
上で、この問題を良く取り上げていたのだが、近年、さらに
細かく分析してみると、もう少し違う側面が見えてきた。

前述のように、確かにCANON FDマウントには名機が多い。
しかし、それらは、1987年時点でユーザー層に使われていた
のであろうか?

具体的には、新旧F-1,A-1,T90のどれもが高価なカメラだ。
職業写真家層はさておき、これらの機種を買える消費者は
かなりのハイアマチュア層か富裕層だ、そのユーザー比率は、
さほど多くは無い。

一般初級中級層(消費者)が買えるクラスのCANON機は、
AE-1(1976)や、その改良機AE-1P(1981)に過ぎない。
そしてT50(1983)やT70(1984)は、前述のように実験的かつ
近未来的カメラであり、爆発的なヒット商品とは言えない。

これらの初級中級機を買うユーザー層は、銀塩時代での例に
漏れず、交換レンズを殆ど購入しない。恐らくはFD系の50mm
標準レンズ、又はFD35-70mm等の標準ズームレンズを1本だけ
所有している程度であっただろう。

その根拠として、後年の中古市場でCANON MF初級一眼が出て
きた場合、たいてい上記のいずれかのレンズとセットであった。
また、CANON FD系標準レンズは開放F値の差等で、極めて種類が
多く、ここで書ききれない程であるし、35-70mmズームですら
開放F値の差で3種類が存在していたし、勿論少し異なる焦点域
の標準ズームも多数ある。つまり、これらの標準系のレンズしか、
現実的には、さほど売れていなかったと思われる。
(実際にも、他のFD系高性能レンズは、あまり中古市場には
流通していない)

よって、FDからEFにマウントが切り替わったといっても、
沢山のFD系レンズを持て余すユーザーの比率はさほど多くは無く、
殆どの初級中級ユーザーは、標準レンズや標準ズームが1本だけ
ついたカメラを1台下取りしてしまえば、それで良かった訳だ。

まあつまり、ミノルタのケースとほぼ同じであり、ミノルタでも
αのAF時代以前の旧機種Xシリーズは(宮崎美子さんCMのX-7を
除いて)ヒット商品は少ないし、上級層にあまり人気のある
カメラも無かったのだ、キヤノンも同様であったのだろう。

そうであれば、マウントの変更が一大事であったのは、本当に
限られた範囲での、新旧F-1等のユーザーでFD系レンズを多数
所有している場合のみだ。A-1は既に10年近くも古い機体だし
T90は出たばかり、マウント変更するならば、このタイミング
しか無い、という感じであったのかも知れない。

まあ、新旧F-1を使うような職業写真家層、上級層又はマニア層
は市場のオピニオンリーダーであり、つまり「声が大きかった」
から、このマウント変更の問題は後年にまで「極悪の所業」の
ように過剰に伝えられてしまったのかも知れない・・

----
さて、EOS初期のカメラは、あまり魅力的な機種は無く、加えて
型番が問題だ、それはEOS 650,620,750,850,630・・と
規則性の無い番号であり、上級マニアですら、それらの個々の
カメラの仕様の差異をすらすらと言える人は居ない。
この型番体系をまずすっきりしたのは、EOS初の旗艦機である。
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1989年 EOS-1(/HS)
銀塩一眼レフ・クラッシックス第14回記事で紹介。

銀塩一眼最重量級(HS仕様時)という重厚長大な機種だが、
高性能である事は確かだ。重くて滅多に持ち出す事が出来ない
のは趣味撮影では重欠点と言えるが、これは完全な業務用途機だ。

新旧F-1等を使っていてFDマウント廃止に文句を言っていた
上級層の大半も、この圧倒的高性能の機体を見てしまえば、
もう黙ってFDを捨てて買い換えるしか無かった事であろう。
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1989年 EOS-RT
銀塩一眼レフ・クラッシックス第16回記事で紹介。

機体そのものはEOS 630系の中級機だが、ペリクルミラーを
採用し、レリーズタイムラグを8mSと極端に短くした特殊機。
これもまたユニークであり、魅力的なカメラだ。

当該紹介記事では色々と欠点をあげてはいるものの、総合的
には悪く無い。私の感覚では、EOS-1HSとRTの2機種があれば
FDマウント廃止の件はもう不問であり、新規のEOSに乗り換え、
新旧F-1等は、もう趣味の撮影に使えば良い、そんな感じであった。
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その後の歴史だが、EOS-1(HS)はシャッター音が極めてうるさい
カメラであった、これは当然、カメラを業務用途等で実用的に
使うユーザー層からはクレームが来る。(まあ、ユーザーから
の前に、撮影現場で、関係者からクレームが来る・汗)
ここからCANONは一眼レフの静音化を目指す事となる。

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1990年から1991年にかけ、EOS 10,700,1000が発売
されるが、あいかわらず型番と性能/仕様が結びつかない。

それと、この頃はバブル経済のピークである。この少し前に
企画され開発がスタートした機種群は過剰とも言える機能を
次々とカメラに搭載、これはCANONに限らず、その急先鋒は
ミノルタであったのだが、こうした、実際に使わないまでの
多機能を詰め込んだカメラは「バブリーなカメラ」と呼ばれ
バブル崩壊後の消費者層のニーズには合わず、極めて不人気
となってしまったのだ。

1991年 EOS 100 QD
この機体は所有していた。初の「サイレントEOS」であり、
歴史的な価値が高い。これは勿論、進めていた「静音化」を
具現化したものである。性能的にも悪いカメラでは無かったが、
後年に、写真を始めた知人に譲渡している。

1992年 EOS 5 QD
初の「視線入力AF」搭載機。高性能な人気機種であり後年の
中古市場でも良く流通していて周囲の知人も多く所有していた。
ただ、個人的には、この「視線入力AF」を活用する撮影技法が
まったく思いつかず、「実用価値なし」と厳しく判断して
この機種を購入する事は無かった。
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さて、中途半端なタイミングであるが、ここで記事文字数が
持論で決めている限界を超えてしまった。
以降のCANON機の歴史は次回中編記事に続く。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(26)ティルト・シフト レンズ

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本シリーズでは、所有している、やや特殊な交換レンズを、
カテゴリー別に紹介している。
今回の記事では「ティルト・シフト レンズ」を4本紹介する。
なお、両機能を擁するレンズは所有しておらず、紹介レンズは、
「ティルト」あるいは「シフト」の、いずれかの機能である。

いずれも過去記事で紹介済みのレンズであり、撮影も
1~2年前に行ったものだ。まあ、この手の特殊なレンズ
は一般的にも、あまり情報は無いだろうから、外出が
自粛されている世情において、家でのレンズの勉強等の
参考まで。

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まず、最初のティルトシステム
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レンズは、LENSBABY MUSE Double Glass Optic
(新品+中古購入価格 計9,000円)(以下、MUSE DG)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

これは「ティルト」(Tilt)型レンズである。
写真におけるティルトとは、カメラのレンズ光軸を意図的に
任意の方向に傾ける事であるが、通常のレンズではそうした
操作は勿論できない、そんな事をしたら、レンズが折れて
しまう(汗) まずは、ティルト専用の機構を持つレンズ
(またはシステム)が必須である。
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「ティルト」機能を実現する為に、良くあるのが「蛇腹式」の
機構であり、本LENSBABYのシリーズは、その構造だ。
また、観光地での集合記念撮影等で、よく使われていた銀塩の
大判蛇腹式カメラも同様な構造だ。
なお、一眼レフの業務用ティルトレンズ(例:CANON TS-E等)
では、歯車とダイヤル等の機構で、精密に傾ける量(角度)を
調整できる。

何故、こうした機能が必要なのかは、概ね2つの目的がある。

1つは、業務用撮影において、撮像面(センサーやフィルム)
に平行では無い被写体全体にピントを合わせたい場合だ。
具体例としては、斜めに置かれた小物商品(例:時計)や
斜めの建造物や、集合写真で手前の列と奥の列が斜めに
なっている(距離の差がある)場合等に使用する。

これが本来の「ティルト」の用法なのであるが、写真界では
例によって用語が完璧に統一されておらず、この用法は
「ティルト」「ティルトアオリ」または広義に「アオリ」と
様々に呼ばれている。

もう1つの用法だが、アート撮影や、趣味撮影、あるいは
業務撮影の一部において、被写体のごく一部だけにピント
を合わせて、他はボカしてしまう事ができる。
これを「逆アオリ」と呼ぶ事もある。また、アート系の
一部では、この用法でピントが合った部分の事を指し
「スイートスポット」と呼ぶ(匠の写真用語辞典第6回)

どちらの用法を使うかは、ティルト操作におけるレンズ光軸
の傾け方に依存し、概ね、ピントを全体に合わせたい斜めの
角度に正対して光軸を垂直にするようにティルト(傾け)を
すれば、斜めの被写体全体にピントが合い、それとは異なる
方向に傾ければ、そのレンズ面と平行な面がピント面となる
為、その平面と直交する、被写体のごく一部だけにしか
ピントが合わない。

この撮影には知識や経験が必要な他、その操作も難しいので
本来このティルト操作は専門家による業務撮影オンリーで
あったし、これができる機材も専門的で高価だったのだが・・

1990年代~2000年代前半の銀塩末期において、このティルト
機能(逆アオリ)を用いて撮った写真が「ミニチュア風」
「ジオラマ風」に見える、と流行し、その専門のアーティスト
も表れ、一般ユーザーにも知られるようになった。
(参考:2010年代のミラーレス機等では、この効果が
「(ミニチュア風)エフェクト」として搭載され、撮った
写真にその効果を付与する事が可能な機種もあるが、実際の
ティルトレンズでの写真とは微妙に効果が異なる場合もある)

時を同じくして、LENSBABY(米国)から、アマチュア層
でも買える価格帯のティルトレンズが発売された。
世間においては、LENSBABYのこうしたレンズは「トイレンズ」
の一種と見なされる事も多く、当初は直輸入品で、そこそこ
高価であったので、あまり爆発的に普及する事もなかったが
それでもLENSBABYは、3G、MUSE、コントロールフリーク、
Composer/Pro系、SOL等と、順調に製品改良を続けていき、
販売ルートも日本のKENKO社が代理店となって、若干安価に
なった事から、そこそこ普及するようになっていく。

近年のLENSBABYは、ソフト、グルグルボケ等の特殊効果を
持つレンズも発売されるようになったが、やはりここでも
高付加価値化されているのか、それら新鋭レンズ群は若干
高価になってきている。

ただ、LENSBABYの各レンズは、決して「トイレンズ」では
無く、特殊効果が得られるものの、写りはとても本格的だ。
そして、どれも使いこなしが極めて難しく、ビギナー層では
手に負えるものでも無いと思うので、若干高価な位の方が
本当に必要な人だけが買うので良いバランス点かも知れない。
(LENSBABYの、ぐるぐるボケやソフトレンズは、別記事で
紹介済み/紹介予定だ)
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さて、前置きが長くなったが、本MUSE DGについてだ。
2009年発売のティルト型レンズ(シリーズ)である。
旧来のLENSBABY 3G等では、光学系が固定であったが、
MUSEでは、光学ユニット(Opticと呼ばれる)が交換可能
となった。その種類は、ダブルグラス、シングルグラス、
プラスティック、ピンホール&ゾーンプレートの4種があり、
ここに書いた順番で、どんどんと写りが「ユルく」なる。
(以下、便宜上DG,SG,PL,PZと略す)

かつて光学系交換式のシステムは稀にあったが、レンズの
焦点距離や開放F値が変化する状態であった。上記のMUSEの
オプティック群は、いずれも50mm前後の焦点距離であり
この「画質が変わる」という特徴は、恐らく初かも知れない。
口径比(F値)の調整は、付属の絞りディスク(磁力式)を
撮影前に交換しなくてはならない。(注:PZ型を除く)

絞りディスクは、F2~F8の5枚が付属しているが、前モデル
LENSBABY 3Gと共通で使用でき、3Gでは、もっと多くの
絞り値が選べるように、と枚数が多かった。

だが、被写体に応じての交換はかなり手間なので、私の場合は、
たいてい撮影単位で固定だ。(今回はF8のディスクを使用)

また、DG,SG,PL等の各オプティックの特性(画質の差)や
撮りたいイメージによっても、さらには天候(明るさ)や
カメラ側の性能(最低ISO感度や、最高シャッター速度)に
よっても、装着すべき適正な絞り値は変わってくるだろう。

私は、DG,PL,PZの3つのOpticを所有しているが、今回の
記事では、その代表として、DG(Double Glass)を紹介
している(他のOpticについては、別記事を参照されたし)

そして、F2などの明るい絞りディスクをつけた場合だが、
カメラ側の性能(最低ISO感度と最高シャッター速度)
によっては、日中では撮影不能になる場合がある。
こうした場合、φ37mmのフィルターを装着する事が可能
ではあるが、φ37mmの小径の減光(ND)フィルターは、
あまり売っておらず、入手しずらいのが課題だ。

なお、ミラーレス機用のOLYMPUSの純正レンズでも、
φ37mmと小径、かつ大口径(F1.8)の場合があって、
こちらも小径NDフィルターが入手し難い。
だが、いずれにしても必要となるならば、なんとかして
φ37mmのND4フィルターは、入手しておく必要がある
だろう。

カメラ用品からは入手できなくても、ビデオ用品では
あると思うし、どうしても入手しずらい場合は、「V37」
(ビデオ用37mm径という意味)と書かれた仕様の
ステップアップリングを用いて、φ49mmなどの通常の
写真用フィルター径に変換してしまう方法もある。
(注:LENSBABYその他の、レンズ側の構造によっては、
ステップアップリングが装着できない場合もある)
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さて、難解なティルトの原理や光学系システムを理解したと
しても、次なる問題点は、このMUSEの操作性が難しい事だ。
手指の感覚だけで、必要なティルト量、ティルト方向の他、
ピント位置までも調整しなければならない。

本MUSEは、この時代(ミラーレス機以前)の製品なので
一眼レフでの使用を前提としていた模様だが、正直言って
一眼レフの光学ファインダーでは困難すぎて撮影不能だ。
ピーキング機能を持ち、かつ、小型で操作系の適した
ミラーレス機母艦との組み合わせが適正であり、かつて
私は、その目的には、ずっとSONY NEX-3を使用していた。

今回は、NEX-3とほぼ同等の形状で、エフェクトも使用
できるNEX-7を使用しているが、何故かこのシステムでは
ティルト時に、ハレーション(フレア)の発生頻度が高くて
やや使い難い。この原因は現状では不明であるが、また追々
検証してみよう。

いずれにしても、ちょっと高度すぎて、初級中級層に
簡単に推奨できるシステムとは言い難い。
原理を理解し、かつ精密なコントロールを行わない限りは
「ミニチュア風写真」が撮れたとしても、それはあくまで
偶然でしか無いだろうからだ。
そして、決して「トイレンズもどき」とは思わない方が良く、
アート系上級アマチュア、または上級マニア層にのみ推奨
できるレンズである。

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では、次のシフトシステム
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レンズは、NIKON PC-NIKKOR 35mm/f2.8
(中古購入価格40,000円)(以下、PC35/2.8)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

詳しい出自は不明だが、恐らくは、1960年代~1970年代
頃の「シフトレンズ」である。


高価に買いすぎたレンズだが(汗)、そこはさておき・・

「シフト」(Shift)とは、「ティルト」とは全く異なり、レンズを各方向にスライド(平行移動)し、光軸をずらす。


この機構がもたらす効果は、遠近感(パースペクティブ)
が変化する事であり、本レンズの型番「PC」も、
「パースペクティブ・コントロール」の意味であると聞く。
_c0032138_16520583.jpg
具体的な用途としては、たとえば聳え立つビル等の建築物
を撮影すると、下から見上げた場合、上部が上すぼまりに
なって写る。これは遠近感(パース/パースペクティブ)
からなるもので、広角レンズになると顕著だ。
ここでシフト機能を用いると、例えば、その上すぼまりを
緩和して、真っ直ぐ建築物が立っているように撮れるし、
あるいは逆方向にシフトすれば、遠近感が強調され、迫力の
ある写真を撮る事ができる。
まあ、いずれにしても業務用途が主眼のレンズだ。

で、シフトレンズの説明記事等では、そのようにシフト機能
を撮り分けて、効能を説明している例がほぼ全てなのだが、
しかし、そういう例をあげたところで、では、どのように
シフト機能を有効活用するか?という事は、わかりにくい。

実際には、ほとんど目立たないように、この機能を使う
訳だ、それが業務用途の場合での使い方だと思う。
本記事でも、そういう視点で、シフト前、シフト後などの
単純な例を挙げるのはやめておこう。あくまでさりげなく
使う事だ。

なお、この用法で趣味撮影においては、三脚が必須という
訳では無い。何故ならば、シフトすると構図がずれてしまう
為、三脚を用いてもシフト量に応じて、毎回の位置調整が
必須となる、業務撮影ならばしかたないが、趣味撮影では
これは煩雑すぎる為、手持ち撮影で十分であろう。

で、「シフト」に加えて、前述の「ティルト」機構の
両者を備えた業務用レンズも存在し、ニコン製であれば、
PC-Micro 85mm/f2.8(新旧版あり)等が存在し、他社でも
前述のCANON TS-Eシリーズなど、いくつかの機種があるが
これらは業務用途なので、かなり高価ではある。
(いずれも未所有だ)
_c0032138_16520581.jpg
それから、フルサイズ用のシフトレンズは、APS-C型以下
のセンサーサイズを持つカメラでは、殆どその効果が
得られない。よって今回は、フルサイズ機NIKON Dfを
使用しているが、本PC35/2.8はAi機構(絞り値を本体
に伝えて露出を制御する)を持たない仕様のレンズの為、

シフト操作を行うと、露出が狂う場合が多々ある、
よって、使いこなしは非常に困難である。


また、同様に近年のLAOWA等の海外製、あるいはサード
パーティ製のシフトレンズも、Ai機構に対応しておらず
現代のニコン機(一眼)では露出が狂ってしまう。

ニコンシステムにおける、この問題の回避法は3つあり、
まずは、2000年代後半からの電磁絞り対応シフトレンズ
(PC-E型)であれば、E型対応ボディ(D3の時代以降)
との組み合わせで、恐らく露出は安定する。
ただし、PC-E型レンズは高価で未所有につき、実際には
これは試していない。

第二に、ミラーレス機等にアダプター装着してしまう事だ
実絞り測光になるので、これは露出は合う。

第三に、シフト量による露出変動を予測して、適宜
露出補正をかけて問題を回避する手段だ。今回は、この
第三の手法を用いているが、これは容易な話ではなく、
試行錯誤を繰り返しながらの面倒な問題回避法だ。

シフトレンズであるが、APS-C機やμ4/3機では、その効果
が殆ど現れず、高価なフルサイズ機を用いたとしても、
実際にそれが必要なシーンは、厳密な業務用建築写真等、
かなり限られていると思う。
アマチュア層が必要とするレンズとは言い難い。
_c0032138_16520588.jpg
なお、現代においては、こうしたシフト操作は、PC上等で
高機能レタッチソフトにおいては、その1つの機能として
「遠近感補正」が含まれる場合が多く、それで代用可能だ。

画像処理でシフト操作を行うと、計算誤差の蓄積で画質が
劣化する心配があるかも知れないが、光学シフトでも、
口径食の発生により周辺画質が低下する問題は避けられず
編集と実写のシフトは大差無いであろう。

結局、業務用途はいざしらず、趣味撮影においては、どちら
でも良い事だと思うので、ソフトで処理するならば、シフト
レンズの必然性も高くは無い。
シフト系レンズは高価であるから、なおさらアマチュア層
には無縁であると思う。

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では、3本目のティルトシステム
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レンズは、PENTAX SMC TAKUMAR 28mm/f3.5
(ティルトアダプター使用)
カメラは、FUJIFILM X-T1 (APS-C機)

ここでは、LENSBABYや業務用本格ティルトレンズを
使わずに、ティルト効果を実現できるシステムを紹介する。

その手法は、「ティルトアダプター」等と呼ばれている
マウントアダプターを使用する事だ。
なお、ティルト効果については、シフト効果よりも
顕著に現れる為、ミラーレスのAPS-C機やμ4/3機を母艦と
する事も可能である。
ただし、ティルト効果を実現する構造は、そこそこの
大きさが必要である為、一眼レフ用レンズをミラーレス機に
装着する場合でのフランジバック長の差を利用するしか無く、
恐らくだが、一眼レフマウント用のティルトアダプターは
発売されていないと思う。
_c0032138_16521859.jpg
さて、この方式では、そのティルトアダプターのマウント
に合致すれば、どのレンズでも使用可能であるし、
ティルトアダプターとマウントアダプターを2重に
用いれば(その組み合わせは限られるが)、さらに多くの
マウントの任意のレンズをティルトレンズにする事が出来る。

ただし、ティルト効果を得る為には、趣味撮影においては
できるだけ広角のレンズを使った方が派手な効果が得られて
良いであろう。ただまあ、それは勿論、被写体によりけり
なので、今回は、28mmの一般的広角レンズを使用する。

スィートスポットを得る為の「逆アオリ」技法を使いたい
場合で「広角レンズの方が被写界深度が深いから、ボケにくい
のでは?」と心配する必要は無い。レンズを傾けた(ティルト
した)方向にピント面が傾くから、そのピント面を頭の中で
思い浮かべ、そこに直交あるいは大きな角度で交わる平面の
被写体とは、仮想ピント面と交わった、ごく一部にしか
ピントが合わない訳だ。よって、レンズ自体の被写界深度の
多寡は、あまり関係が無くなる。

しかし、本記事冒頭の「MUSE」でのように派手なティルト
効果を狙っているだけでも飽きが来易いかもしれない、
本システムにおいては、出来るだけ、目立たない使い方を
してみよう。
_c0032138_16521838.jpg
こういう使い方の方が、ティルト効果を厳密に(角度、量)
設定しなくてはならないので、遥かに難しい。
LENSBABY等で「偶然、こういう写真が撮れました」という
訳にはいかないので、非常に高難易度だ。

参考だが、ティルトアダプターに対して魚眼レンズを使う場合、
一般的には魚眼レンズは中遠距離撮影では殆どパンフォーカス
となる為、魚眼風の写真に「スィートスポット」がある状態は
面白く、これは、なかなか効果的でインパクトの大きい写真
となる。

ただし、この用法は、本ブログのミラーレス・マニアックス
等の過去記事で何度か紹介している為、いつも同じ用法に
しない為にも、今回は通常の広角レンズを使用した訳だし、
前述のように「非常に地味な効果を狙う」という目的もある。

あと、「究極のパンフォーカスであるピンホール(針穴)を
用いると、さらに面白い効果が得られるのでは?」と思って
過去記事でそれを試した事があったが、ピンホールはレンズ
ではなく、単なる穴が開いているだけで、光軸やピント面
という概念もなく、いくら針穴をティルトしても、全く
効果が出なかったし、システムによっては「ケラれる」だけ
なので、その用法の実験は失敗に終わった(汗)
(ただまあ、思う事があれば、実際に試してみる事が、
とても重要であり、頭の中で想像しているだけでは分からない
事が色々とある。しかし、多くの一般層やマニア層では、
こうして実際に試してみようとせず、そこが残念である)
_c0032138_16521860.jpg
さて、「シフト」に比べると、「ティルト」の方がアート的
な要素がある為、趣味撮影においては使い易い。
ただ前述のように、ティルトレンズは、LENSBABYを除いて
は、殆ど業務用の本格的なものばかりとなる為、価格的な
問題もあって買いにくいし、LENSBABYは、さほど高価では
無いが、使いこなしが極めて難しい。

そういう状況においては、こういた「ティルトアダプター」
であれば、安ければ数千円で入手でき、かつ、様々なレンズ
で遊べるので、かなり簡便である。
こうしたシステムであれば、初級中級層であっても推奨が
可能だ。

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では、今回ラストのシフトシステム
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レンズは、LAOWA 15mm/f4 (LAO006)
(新品購入価格75,000円)(以下、LAOWA15/4)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

2016年に発売された、中国製の特殊MFレンズ。
シフト機能に加え、超広角ながら、等倍マクロ仕様
となっている。(これは極めて希少なスペックだ)
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取得価格は、やや高価であったが、この特殊レンズが中古
市場に流れてくる見込みは無かった為、若干無理をして
新品購入した。なお、後年には数度だが中古も見かけたし、
新品値引きや、メーカー・キャッシュバックキャンペーンも
複数回行われたので、ちょっと待ってから買っても良かった
かも知れない。「焦って新製品に飛びつくのも得策では無い」
という事であろう。

さて、せっかく買った高額レンズだ、その価格の分は
楽しませてもらおう(笑)
ニコンFマウント製品であるが、前述のように、ニコン機に
装着すると、非Ai仕様とシフト機能使用により、露出値が
無茶苦茶になる。前述の回避法を用いれば撮れないという
訳では無いが、非常に面倒だ。

そこで、ニコンFマウントレンズは、ほぼすべての他社機で
使用できるため、今回は母艦としてフルサイズ機SONY α7
を使用する。
実は、本LAOWA15/4のシフト機能は、フルサイズ機では
強く効かせるとケラれ(大きな周辺減光)が発生する為に、
シフト時にはAPS-C機の使用が推奨されている。


だが、α7であれば、「APS-C撮影のON/OFF」の設定や、
デジタルズーム機能の使用により、必要イメージサークルを
適宜連続可変できる訳だ。購入時には、こうした利用法を
想定して、様々な現代のあるいは将来のミラーレス機等でも
使用可能となるニコン版Fマウント品を選んで購入している。

一般ビギナーユーザーは、撮影機材購入の際に、カメラ本体
の事ばかりに目が行ってしまう課題を持つが、中上級者や
マニア層であれば、カメラ本体の事よりも、レンズの方に
遥かに重点を置いた視点で、撮影機材をシステム化していく
事が必須だ。
(よって、カメラ本体だけ、ピカピカの高価な新品で、
レンズの方に全く神経が行っていないシステムを持っていると
「何もわかっていないビギナーみたいで、格好悪い」という
状況になる訳だ)

さて余談が長くなった、本LAOWA15/4の使用法だ。

まずは一般的な超広角写真。
_c0032138_16523361.jpg
フルサイズ機での15mmの超広角画角は、そこそこインパクト
がある。ここで現れる周辺光量落ちは、ご愛嬌であり、
例えば銀塩時代の人気レンズ、CONTAX ホロゴン16mm/F8や、
フォクトレンダー スーパーワイドヘリアー15mm/F4.5や、
RICOH GR 21mm/F3.5等の超広角システムは、周辺光量が
落ちる特徴が、その存在感を増していた訳だ。

よって、目くじらを立てる必要はなく、むしろ周辺光量落ち
は大歓迎で、撮影時にはその特徴に適した被写体を選べば良い。

なお、絞り込む事で、この周辺減光は若干解消できるが、
それでも、どうしても周辺光量落ちを出したく無い場合等は、
レタッチソフト等でもこれを補正する事は可能であろう。
(注:カメラ内蔵の周辺光量補正は、レンズ側にデータROM
を持っていない場合は使用できない。本レンズも無理だ)

ただまあ、前述の銀塩人気超広角にあったような、キリキリ
とした解像感は、あまり本レンズでは得られない、ここは
多少絞り込んでも同様な印象だ。その分、本LAOWA15/4は、
超広角レンズとしての基本的描写力に対する不満は出るかも
知れない。

さて、次に超広角マクロ。
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この特徴は、過去のレンズには無かった。
2000年代初頭のSIGMA広角3兄弟(20/1.8,24/1.8,28/1.8)
が、いずれも20cm以下まで寄れで、かつ大口径(F1.8)
とあいまって、当時としては、かなりインパクトがあった
のだが、これらでも良くて1/3倍程度の撮影倍率だ。

超広角で、しかも等倍というと、もう例えば「昆虫カメラ」
とかの専門的な特殊機材でしか得られ無かった事であろう、
よって、本レンズでは、過去見た事も無い映像が得られる。
(注:2020年に発売された、TAMRON 20mm/f2.8 DiⅢ
OSD M1:2 (ModelF050)は、フルサイズ対応20mm超広角で
最短11cm、最大1/2倍マクロ仕様だ→後日紹介予定)

注意点としては、最短撮影距離は12cmであるが、
これのWD(ワーキング・ディスタンス)は4.7mmしか無い。
つまり、レンズ先端の直前に被写体を置く事になるから、
色々な危険がつきまとう。

まず被写体衝突の危険を避ける為には、保護フィルターの
使用が望ましいが、厚手の物では、ケラれる可能性も
若干あり、使用システムでの状況を見ながら装着する。
被写体衝突を回避できても、屋外撮影においては、ピント
合わせはかなり困難であったり、木の枝等が入り組んだ場所
ではレンズが入らない、昆虫等の被写体は近づくと逃げて
しまうし、また、WDが短い事でレンズの影も出る事からも、
色々と撮影条件確保が難しい。

では、次に、シフト機能だ。
シフト機能(上下最大6mm)を効かせると、遠近感を制御
できる。「あまり例を挙げても意味は無い」とは前述したが、
少しだけやってみよう。
まず、以下は極端に遠近感を強調した場合。
_c0032138_16524105.jpg
そして、逆に遠近感を減らすと以下のようになる。
_c0032138_16524136.jpg
この用法の場合の課題だが、2つある。


まず前述のように、フルサイズ機ではイメージサークルが
不足するので、周辺が大きくケラれる。これをAPS-C相当
等にセンサーをクロップ(切り出し)して使う必要がある。
(デジタルズーム利用またはトリミング編集でも良い)

それから、このシフト機構は他の一般的なシフトレンズの
ように全方向に有効ではなく、上下方向に固定されている。
よって、カメラを横位置にして、上下方向の遠近感しか
調整できない。

まあ、極めて特殊な使い方をするならば、カメラを縦位置
に構えて、横方向シフトを行う事も機構的には可能だ。
だが、その用法を使うべき被写体が殆ど無い。あえて
使うとすれば、横方向に長く伸びた塀などの被写体だが
それを縦位置写真で切り取る、というのも不自然だ。
よって、このシフト機構は横位置撮影専用となる。

さて、ここからは、メーカー側も想定していないだろう
変わった用法を紹介する。

本レンズに「ZENJIX SORATAMA(宙玉)72」を装着する。
_c0032138_16524889.jpg
LAOWA15/4のフィルター径はφ77mm、宙玉はφ72mm
なので、この場合、ステップダウンリングを1つ噛ませる
だけで装着が可能だ。
あとは、LAOWA15/4の約5mmという短いWDを利用して
これで撮るだけだ。
_c0032138_16524836.jpg
(注:宙玉は上下反転して写るので、記事掲載時には
必要に応じて、上下を逆転させている)

一般的な宙玉での作品では、宙玉が小さく写りすぎている
事を嫌って、本ブログではこれまで、WDのとても短い
マクロレンズ(例:SONY DT30/2.8)を主に使ったが、
それだと、逆に宙玉が大きく写りすぎる状況もあった。

本システムの場合は、これは宙玉が小さく写りすぎ、かつ
周辺が大きくケラれるのだが・・
ここについては、母艦α7に備わるデジタルズーム機能や
APS-C撮影機能を用いる事で、宙玉サイズを調整可能だ。
_c0032138_16525588.jpg
そして、さらにこの状態でシフトをかけるとどうなるか?
_c0032138_17575342.jpg
いや、殆ど効果が無い模様である。宙玉の背景の遠近感は
変化している模様だが、そこはアウトフォーカス部で
あるから、本来、人間の視点での着目点にはならない。
で、その対策で被写界深度を深めているが、結局、シフト
の効果はよくわからないし、そもそも非常に難しい撮影だ。

・・まあでも、本当に様々な遊び方が出来るシステムだ。
まるで、理科(科学)教材の「実験キット」のような
感じであり、まあ多少高価であるとは言えるが、一般的な
超広角15mmレンズを買ったとしても、本LAOWA15/4と
同等か、さらに高価であるから、これでも十分にコスパは
良いレンズと言えるであろう。

ただし、使いこなしはさほど容易ではないし、そもそも
「用途開発」(=どのような被写体に対して、どのような
撮り方をするか)も、かなり困難なレンズである。
本レンズも、上級者または上級マニア向けとしておこう。
_c0032138_16525535.jpg
総括だが、今回の記事も特殊なレンズばかりの紹介となり
「ティルト」や「シフト」は、どれも一般カメラユーザーに
推奨できるレンズとは全く言い難い。

でもまあ、本シリーズ記事は、「特殊レンズ・スーパー
マニアックス」というカテゴリーである。
このシリーズで紹介する製品は、一般的な消費者層が、
必要とはしないだろうレンズばかりである。

で、このシリーズでは、「世の中には、こんな変わった
仕様のレンズもあるのだよ」という意味での紹介が主眼だ。

その裏には、現代の初級中級層は、高性能で高価な新鋭
レンズ(大三元等)にばかり目が行ってしまい、あるいは
マニア層は、オールドのレアなレンズばかりに目が行って
いる、という状況に対する「アンチテーゼ」の意図もある。

新鋭レンズやブランドレンズといった、それら高額レンズ
は、どう見てもコスパが悪く、個人的な視点からは、
趣味撮影の範疇においては、本シリーズ記事の特殊レンズ
群よりも、さらに推奨しにくいものばかりとなっている。

では何故、一般消費者層が、そうした高額レンズにばかり
目が行くのか?は、「もしかすると、そうしたレンズしか
知らないのではなかろうか?」という懸念がある訳だ。

加えて「良く写る(Hi-Fi)レンズが常に正しい(正当な)
レンズだ」さらには「高額なレンズは常に良く写るのだ」
といった、様々な”思い込み”があるように思えてならない。

そうした理由で、そうした高額レンズを欲しがるのであれば、
「世の中には、もっと様々な仕様や特徴を持つレンズが
 いくらでもある、そして、その楽しみ方も様々にあるし、
 値段が高いレンズが常に「良いレンズ」だとは限らない、
 それはユーザー毎の用途や価値観によりけりである」
という事を、是非伝えていきたい訳だ・・

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さて、今回の記事「ティルト・シフト レンズ特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・

【熱い季節2020】ドラゴンボート・ペーロン大会情報(上半期)

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新型コロナウィルス感染症の拡大、および、
「緊急事態宣言」の全国を対象とする発出により、
残念ながら、本年度の各地のドラゴンボートや
ペーロン大会は、上半期(2020年4月~7月)の
期間において、(日本国内の)ほぼ全ての大会の
中止または延期が決定されている。

予定されていた、主要な各地の大会/イベント等の
状況について、ここで記載しておこう。
(注:2020年4月24日時点の情報)

2020年4月
*チーム未来 桜ナイトクルーズ(大阪・桜ノ宮)
 →中止

*宇治源平龍舟祭(京都・宇治市)
 →延期 (10/11予定)

2020年5月
*いさドラゴンカップ2020(鹿児島・伊佐市)
 →延期(7月下旬頃?)

*大阪府民スポーツ大会ドラゴンの部(大阪・高石市)
 →中止(または延期・詳細未定)

*東京ドラゴンボート大会2020(東京・春海橋公園前)
 →中止

*静岡ドラゴンボート大会第1回UsaMi35°Nカップ
(静岡県・伊東市宇佐美)
 →延期(詳細未定)

*相生ペーロン競漕(兵庫県・相生市)
 →延期(詳細未定)

2020年6月
*第10回堺泉北港スモールドラゴンボート大会
(大阪府・高石市)
 →中止

*横浜ドラゴンボートレース 2020(神奈川県・横浜市)
 →中止

2020年7月
*天神祭奉納日本国際ドラゴンボート選手権大会
(大阪市・天満橋)
 →中止

*東近江市ドラゴンカヌー大会(滋賀県・東近江市)
 →詳細未定

*長崎ペーロン選手権大会(長崎県・長崎市)
 →詳細未定

*第29回びわ湖高島ペーロン大会(滋賀県・高島市)
 →詳細未定

なお、海外の大会の状況は不明(未調査)
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以降、下半期(2020年8月~11月)の大会予定は
コロナの状況によりけりだが、また追って纏めて
いくことにする。

数ヶ月で無事、コロナが収束/終息した場合でも、
延期になった各大会等の日程が、重複しやすい
状況は避けられない事であろう・・

参考:
収束→事態が収まる事
終息→完全に終わる事

最強50mmレンズ選手権(9) 予選Iブロック MF50mmマクロ

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所有している一眼レフ用の50mm標準レンズを、AF/MF、
開放F値等による区分でカテゴリー別予選を行い、最後に
決勝で最強の50mmレンズを決定するというシリーズ記事。

今回は、予選Iブロック「MF50mm Macro」として銀塩
時代のMF標準マクロレンズを5本紹介(対戦)する。

なお、前記事「AF50mm Macro」カテゴリーでは、
その時代(1990年前後)での何らかの技術革新により、

どのマクロレンズも描写力に優れるが、本カテゴリーの
時代(1970年代~1980年代)では、マクロレンズの
性能や描写力はまだ未成熟であり、ガクンとクオリティ
が下がってしまう。まあでも、時代あるいは歴史を知る
と言う意味では、これら(銀塩用)MF標準マクロレンズ
を知っておく事は重要だ。

GW外出自粛中での「お家で研究」に役立つならば幸い
である。なお、本シリーズ記事は、元々は、今年に
予定された東京五輪2020に合わせて準備していた
ものであり、1~3年前に撮影も執筆も完了していた。
で、他のシリーズ記事も同様に1~2年前から仕上げて
ある状況だ。遠方の知人等への安否確認の意味も
あるので、当面の間は、こうした撮影・執筆済みの
記事群を小まめにアップしていくことにしよう。

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さて、まずは今回最初の標準マクロレンズ。
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レンズ名:MINOLTA New MD Macro 50mm/f3.5
レンズ購入価格:9,000円(中古)(以下、NMD50/3.5)
使用カメラ:SONY α7(フルサイズ機)

ミラーレス・マニアックス第7回記事で紹介の、
1980年代のMF標準ハーフ(1/2倍)マクロ。
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1/2倍マクロと言うのは、35mm判フィルムのサイズ、
またはフルサイズ撮像素子において、最短撮影距離で
フィルム等と同じ「36mmx24mm」と言う範囲が写れば、
それを等倍(1対1)と呼び、その各辺の倍の広い範囲、
つまり72mmx48mmの範囲が写れば1/2倍、又は1対2、
あるいはハーフマクロ等と呼ぶ。

ちなみに、被写体の大きさや対角線長といった「1次元」
の量であれば、両者の差は額面通りの2倍であるが、
撮影範囲といった「2次元量」においては、写る範囲の
面積はハーフマクロでは等倍マクロの4倍迄広くなる。

さて、まず本レンズの当時の時代背景であるが・・
1970年代あるいは1980年代前半位までの銀塩MF時代の
マクロレンズは、ほぼ全てが1/2倍止まりの性能である。

そして1960年代~1970年代に開発されたマクロレンズは
そもそもの目的が「複写」である。すなわち当時はコピー
機等がまだ普及していなかった為、書物や新聞等の文字が
書かれた文献や、写真や絵画、あるいは病理画像(検体や
標本、レントゲン写真等)はたまた各種学術的な標本や
サンプル等を撮影(実写)して「複写する」目的であった。

これらの用途においては、被写体がはっきり写っている事、
すなわち解像力が最優先される。だから古くからのマクロ
レンズ(ニコンやオリンパス等)で、特に50~55mm程度
の焦点距離を持つ標準マクロレンズにおいては、近接撮影
において、極めて高い解像力を持つものがある。
(同時に、歪曲収差の低減も目指されていた事であろう)
ただ、当時のレンズ設計(製造)技術においては、解像力
や歪曲収差補正を優先すると、どうやらボケ質が固くなり、
場合により、ボケ質の破綻を起こしてしまう模様だ。

本ブログでは、このようなレンズを「平面マクロ」と呼び、
こうした特性のレンズ群では、「できるだけ平面の被写体、
あるいは被写界深度を深くしてパンフォーカス的に撮る
事が適切だ」として定義または説明している。

しかし、立体被写体等において、たとえ、ややボケ質が
汚いとしても、ボケ質破綻の回避技法を適用しながら、
ある程度、ボケ質が気にならないようには撮れると思う。

ただ、やはり「平面マクロ」は、前述の「複写」とかの
特殊な用途に向くレンズであって、当時から一般層にまで
普及してきた一眼レフにおいては、一般的な近接被写体
(花とか小物とか)の撮影にはあまり向かない。

1980年代あたりからは世の中にコピー機も普及してきた為、
マクロレンズの用途は、それまでの複写用途から、より一般
撮影に適するように、近接撮影での解像力をやや犠牲にし
その替わり中遠距離撮影でも、ある程度の解像力が得られ
かつボケ質も柔らかくなり、花や人物等の一般的被写体で
背景をボカした写真でも、あまり不自然にならないように、
と、各社のマクロレンズは特性の変更が進められていく。
_c0032138_12403373.jpg
こんな状況の中、本NMD50/3.5であるが、1980年代の
マクロで一般撮影向けのテイストになりつつある時代の物だ。

しかし解像力が高目の傾向は依然変りがなく、被写体に
よっては、やや「固い描写」の印象があるレンズだ。

また、この1980年代では、より高い撮影倍率、つまり
「等倍撮影」へのニーズも高くなってきていた。
この為、本レンズには「等倍アダプター」が付属している。

これは、本レンズの、ほぼ専用のアクセサリーであるが、
まあ単なる筒である。他のハーフマクロレンズ等でも
接写用アタッチメント(付属品)が用意されている場合が
多く、マニアの間では、通称「ゲタ」と呼ばれる事もある。

(注:クローズアップ用(凸)レンズが付属している
場合もあるが、収差の増加により描写力はかなり落ちる)

また同様な構造で、様々なレンズで使用できる、汎用の
別売アクセサリーとして、「エクステンション・チューブ」
(延長鏡筒)あるいは「接写リング」と呼ばれている物も
各社から販売されていた。

これらのアタッチメントにより、撮影倍率を高める事が
出来るのだが、これを装着すると「無限遠にピント合わない」
「暗くなる(露出倍数がかかる)」と言った課題が出る。

また、普通、マクロレンズは、近接撮影において最良の
画質が得られるように設計されているが、一般レンズは
その逆で、無限遠被写体の場合に最良画質となる。
よって、一般レンズに接写リング等をつけて超近接撮影を
行うと、設計範囲外(想定外)の使用法である為、画質が
低下する等の問題点もあった。

現代ではミラーレス機等で、デジタル拡大機能を用いれば
(条件が合えば)画質を損なわずに見かけ上の撮影倍率を
簡便に高める事ができる。
いや、もっと簡単には、フルサイズ機ではなく、例えば
μ4/3機を用いれば、それだけで撮影倍率は2倍に上がる。
(本レンズであれば、μ4/3機では等倍マクロだ)

ただ、デジタル拡大機能を用いる、あるいはセンサーサイズを
下げて見かけの撮影倍率を高める場合と、実際にマクロレンズ
や接写リングを用いて近接撮影をするのではずいぶんと様子が
替わる。対象となる被写体の写る大きさは変わらないとしても
背景等までを含めて考えれば、パースペクテイブ(遠近感)や
被写界深度の変化、それから撮影アングルの自由度、など
多くの要素の振る舞いがデジタル拡大の場合とは異なる訳だ。

このあたり、つまり光学的な拡大(近接)と、デジタル的な
拡大を自在に組み合わせると、銀塩時代では考えられなかった
撮影技法も生まれる。

ごく簡単な例を上げれば、被写界深度を一定に確保しながら
デジタル拡大機能で構図を微調整する等である。
これ以外にも、例えば撮影距離とズーミング焦点距離での画角
の変化に係わる背景の取り込み等(パースペクティブ)の変化
の原理は中級者レベルにも比較的良く知られてはいるが、
そこにさらにデジタルの拡大を組み合わせると、構図あるいは
被写界深度の調整、さらにはボケ質破綻の回避等の組み合わせ
の自由度が格段に上がる。

まあでも、このあたりは光学とデジタルの両者の様々な特性を
理解した上で無いと無理な技法だ、これは仮に撮影経験が長い
上級者や職業写真家であっても応用が難しい話だと思うので、
「通常の撮影技法では無い」という事にもなるだろう。
(注:「デジタル拡大はトリミングと等価だ」とは言うなかれ、
撮影時点で、デジタル拡大を使いボケ質や被写界深度を意識
しながら撮る事が重要なのであり、後編集のトリミングでは、
被写界深度等は、もう変えようが無い訳だ)
_c0032138_12403354.jpg
さて本NMD50/3.5のスペックとしては、レンズ構成4群6枚
最短撮影距離23cmである。フィルター径はφ49mmと小型だ。

なお、前記事で紹介のMINOLTA AF MACRO 50mm/f3.5
のスペックは、5群5枚、最短23cm、φ55mmであり、

仕様だけ見ると本レンズとはずいぶんと異なるので、
そのAF版が本レンズの後継機種であるとは言い難い模様だ。

本NMD50/3.5の描写傾向の総括としては、高目の解像力を
活かして平面近接被写体あるいは遠景被写体に適切であると
思われ、逆にマクロとしての一般的な撮影用途にはあまり
向かない。つまり一種の「平面マクロ」である。

この時代、ミノルタのXシリーズ等の、MDマウント系の
MF銀塩機を使う上では、マクロレンズの選択肢が少なく
必要とされるレンズではあったのかも知れないのだが、
現代においては、本NMD50/3.5を指名買いする理由は
殆ど無い。まあ、あくまでこの時代のマクロレンズの
特徴の紹介としての参考まで。

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では、次のマクロ(マイクロ)レンズ
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レンズ名:NIKON Ai Micro-NIKKOR 55mm/f3.5
レンズ購入価格:8,000円(中古)
使用カメラ:NIKON Df(フルサイズ機)

レンズマニアックス第16回記事等で紹介の、恐らくは
1970年代後半の製品と思われる1/2倍標準マクロ。
4群5枚構成、最短撮影距離は24.1cmだ。
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このマイクロ(マクロ)レンズは、「平面マクロ」である。
(匠の写真用語辞典第5回記事参照)

つまり、平面被写体に特化し、その際の解像力を高める
レンズ設計コンセプトであり、半面、ボケ質が固くて
破綻し易いという弱点を持つ。

この弱点を回避しながら使う為には、本来であれば
高精細なEVFを持つミラーレス機に装着し、ボケ質を
ある程度確認しながら撮影する必要があるが、まあ今回は
銀塩時代の雰囲気を味わう為に、ニコン・フルサイズ一眼
レフで使っている。
そしてNIKON Dfは、記録画素数が1600万画素と少な目で、
結果、ピクセルピッチが約7.2μmと大きい為に、銀塩時代
のオールドレンズを使う際に、センサー側が過剰性能に
ならずにバランスが良い。(しかし、本レンズの特性
とは、あまりマッチしていない事は確かだ)

ただまあ、Dfは操作系が劣悪なカメラなので、あまり
凝った撮影技法を使うには適さない、今回は、ごく普通の
近接撮影スタイルに特化しよう。
_c0032138_12410022.jpg
本レンズの系列は比較的長期間に渡って販売されていた
MFマクロではあるが、後年のF2.8版の方が被写体汎用性
が高い事は間違いがない。
ただまあ、あえてこのF3.5版を選んだ理由は、本レンズ
の、かなり特徴的な「平面マクロ」の特性である。
これの意味を理解し、使う意義を認めるのであれば、
本レンズを所有する価値や意味が出てくると思う。、

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では、次のマクロレンズ。
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レンズ名:CANON FDM50mm/f3.5 Macro
レンズ購入価格:15,000円(中古)
使用カメラ:FUJIFILM X-T1(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第18回記事で紹介の、
1970年代のMF標準ハーフ(1/2倍)マクロレンズ。
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こちらも本ブログでは、久しぶりの登場であるが、その
理由は「あまり好きなレンズでは無いからだ」と言える。

まず、とても古いレンズである。発売は恐らく1973年頃
であり、CANON 旧F-1(銀塩一眼レフ・クラッシックス
第1回)の時代だ。

これは '70大阪万博の3年後であり、マクドナルドが
日本に初上陸してからや、日清カップヌードルが新発売
されてからも、まだ日が浅い。

オイルショックが起こり、「トイレットペーパーの買占め
騒動」が起こった年でもあり(注:2020年3月にも、
コロナ禍で、トイレットペーパーの買占め騒動があった)
邦楽では「喝采」(ちあきなおみ)や「神田川」(かぐや姫)
邦画では「日本沈没」(初代作、小松左京原作)が流行して
いた時代のレンズである。

1990年代、私は所有していたNew FD50/3.5 Macro
を一度手放し(それも描写が気に入らなかったからだ)
後から、より古い時代の本FDM50/3.5を購入したのだが、
描写傾向は特に変わらずに少々落胆した。
まあでも、こちらの旧型は処分せずに残しておいた物の、
好みでは無い事は確かだ。

で、もしかすると、4群6枚と言うレンズ構成がいけない
(好みに合わない)のだろうか?
いや、前述のMINOTA NMD50/3.5も後述のPENTAX A50/2.8
も同様に4群6枚であり、それらのレンズには違和感は
あまり感じ無いので、それが原因とも言い切れない。

そして同じ4群6枚構成であれば、まったく同じ描写力である
とも言い切れず、レンズのパワー配置(=ごく簡単に言えば、
レンズの曲がり具合)や、レンズ配置位置の差異、ガラス素材
の差異(屈折率やアッベ数)等、つまり設計の差異によって、
当然、写りも変わって来る事であろう。
結局のところ、設計思想、設計手法による特性の差異が、
利用者の目的や好みに合致するか否か?という差だ。
_c0032138_12411344.jpg
本レンズだが、最短23.2cmの1/2倍仕様だ。
この時代のMF標準ハーフマクロは、だいたいこのあたりの
最短撮影距離となる。

中古購入時に「等倍アダプター」等は付属していなかった、
前オーナーが紛失したのか、あるいは別売なので購入して
いなかったのか、それとも元々、そういうアクセサリーは
存在していなかったのか? 40年近くも前のレンズなので
今となっては詳しい情報等も殆ど残っていない。

そして問題の描写力についても、古いレンズ故に経年劣化が
起こっているのかも知れない。ただ、経年劣化していたと
しても、基本的な描写傾向に大差は起こらない事であろう。

それと価格が高かった。購入は1990年代末か2000年代
初頭頃だったと思うが、15000円は、このレンズの性能や
古さからすれば、極めてコスパが悪い。

結局、「コスパが悪い」という要素があると、個人的に
それは嫌いなレンズになってしまう模様である。

多少高くても性能が良いレンズであれば、まあ許せるの
ではあるが、そのあたりの、性能対価格比、つまりコスパ
は、レンズ購入時の最優先の判断ポイントとしている。

本FDM50/3.5は、現代となっては、あまり推奨できない
レンズではあるが、まあこちらも、この時代の参考資料
(サンプル)としての意義が大きい。

---
では、4本目の標準マクロレンズ。
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レンズ名:smc PENTAX-A Macro 50mm/f2.8
レンズ購入価格:20,000円(中古)
使用カメラ:PENTAX KP(APS-C機)

ハイコスパレンズ・マニアックス第15回記事等で
紹介の1980年代のMF標準(ハーフ)マクロレンズ。
ミラーレス名玉編では、類似特性のレンズの存在で
ノミネートから外れたが、なかなか良いレンズである。
_c0032138_12412009.jpg
PENTAXにおける「A」レンズとは、プログラムAE等の
マルチモードAEに対応した PENTAX Super A (1983年)
の発売以降に、順次普及した「KAマウント」のMFレンズ
であり、絞りの最小位置の隣に「A」位置があり、そこに
指標をセットすれば、カメラ本体側のダイヤル等での
絞り値変更操作を受け付けたり、絞り優先AE以外の
シャッター優先AE等の機能も実現できる型式のレンズだ。

前述のFDM50/3.5からは約10年の歳月が流れている。
今となっては、本レンズの正確な発売年は不明であるが、
仮に1983年頃とすれば、その当時の世情としては、
「探偵物語」(初代作。邦画/邦楽、薬師丸ひろ子)や
「時をかける少女」(初代作。邦画/邦楽、原田知世)
が流行り、ヒット商品としては「カロリーメイト」や
「六甲のおいしい水」がある。

それと「任天堂ファミリーコンピューター」(ファミコン)
が発売されたのも、この1983年だ。
また、あまり知られていないが、最初期のインターネットが
開始されたのも、どうやらこの1983年であった模様だ。

・・で、余談はともかく、このKAマウントレンズだが、
MF銀塩時代のレンズでありながらも、現代のPENTAX製
デジタル一眼レフでも操作性を損なわずに快適に使える、
と言う特徴があり、今回使用のボディPENTAX KP(2017年)
に装着しても(勿論AFが効かない他は)何ら問題無く使用
できる。

PENTAXは1980年代末のAF化により、従来のKマウントの
形状を変えなかったので、MF時代のレンズでも30数年
の時を経て、新鋭の一眼レフで使う事が可能なのだ。

ただ、注意するべきは、同じPENTAX Kマウントレンズでも
1970年代後半~1980年代初頭の、K(P),Mと呼ばれている
「A位置」の無いレンズは近代のPENTAXデジタル一眼レフ
では、ほぼ使用できない(絞りが開放のままになる等)

こうした場合、デジタル初期のPENTAX機、例えば
*istDs(2004年、デジタル一眼レフ第2回記事)
K10D (2006年、デジタル一眼レフ第6回記事)
等では、多少使い勝手は悪いものの、K(P)やMレンズも
なんとか使用する事が可能だ。

これらの古い時代のデジタル一眼レフを使わない場合は、
いっそ現代のミラーレス機でKマウントのアダプターを
用いるのが良い。それを使えば、KやMといった古い時代の
PENTAX Kマウントレンズであっても、絞り込み(実絞り)
測光で使えるし、高精細EVF搭載機であれば、被写界深度や
ボケ質の事前確認も可能、さらにはピーキングや拡大機能
等でMF操作をアシストできるので、むしろ一眼レフで使う
よりも、ずっと快適だ。

と言うのも、近接撮影ではMF主体となり、MFのピント精度
も要求される。PENTAXデジタル機の光学ファインダーは
他社機のような、電子式、透過式と言った要素があまり
搭載されていないので、むしろ逆にMF性能は高いのだが、
それでもミラーレス機でのMFアシスト機能に比べると
ピントが合っているか否か、の不安はつきまとうし、
実際に光学ファインダー使用時には、フォーカスエイドで
合っている、と表示されていても、厳密なピンポイント
での撮影(例えば、花の雄しべにピントを合わせたい等)
では、希望する位置にピントが合っていないケースも
頻発する。これはMFに限らずAFであっても同様であり、
一眼レフの使用はマクロレンズには基本的に向いていない。

(注:レンズ側に超音波モーターが搭載されていれば
AFでピントが合い易い訳では無く、むしろシームレスMF
での操作系が悪化して、マクロレンズの場合では逆効果と
なってしまうケースも多発する。加えて、近接から遠景
までのAF移動量が大きいマクロレンズでは、上手く距離
制限機能等を用いない限り、いくら超音波モーター搭載
レンズであっても、AFは実用範囲以下の遅さだ。
まあつまり、近接撮影においてはMFが圧倒的に有利だ)
_c0032138_12412003.jpg
さて、本レンズであるが、この時代(1980年前後)の
MF標準ハーフマクロとしては珍しいF2.8仕様だ。

他の同時代のF2.8ハーフマクロには、
NIKON Ai Micro-NIKKOR 55mm/f2.8S(1981)や
CONTAX S-Planar(Makro Planar) 60mm/f2.8
(1978~)があったと思う(他にもあったか??)


上記のレンズの内、マクロプラナー60/2.8(C型)は
所有していた事があったが、譲渡により現在は手元に
残っていない。写りは悪く無いが、高価すぎてコスパが
悪いレンズであったと思う。

ニコンは、前機種F3.5版を本記事で紹介しているが、
F2.8版は生憎所有の機会に恵まれていない。
(注:NIKONのF2.8版は、家には研究用としてあるが、
知人の所有物(借り物)なので、紹介や評価は行わない。
どんな場合でも、借り物を評価をしない事は大原則だ。
世間ではこの原則が守られていないレビュー等が、いくら
でも存在し、そこが気にかかっているし、そういう様相が
見られるレビュー等は、一切参考にしない事にしている)

さて、という事で、現在私が所有している唯一のF2.8級
MF標準ハーフマクロが本A50/2.8なのだが、これを残して
いる理由は、描写傾向が好みにあっているからだ。

ただし、F2.8版だからF3.5版よりも性能や描写が良い
といった因果関係は全く無く、例えば本A50/2.8のレンズ
構成は4群6枚、フィルター径もφ49mmと小径であり、
これは前出のNMD50/3.5やFDM50/3.5と似たり寄ったりであり、
最短撮影距離も24cmと、仕様上は他レンズと大差は無い。

では何故、このレンズの描写が好みなのか?というのは
恐らくは、あまり解像力を優先していない設計だからだ。
開放F値の僅かなアドバンテージ(または諸収差発生に
よる弱点?)もあり、絞りを開け気味で使用した際、
同時代の他の標準マクロのようなカリカリの描写となる
印象はさほど受けにくい。(但し、ボケ質破綻が発生
する場合があるので、そこは要注意だ)


しかし、設計上のどのあたりの差異(例:諸収差補正の
バランスをどのように取るのか?)で、その差が出てくる
のか?とう部分に関しては、光学設計技術上での専門的な
話や、設計思想なので、詳しい理由はわからない。

まあユーザー視点からでの注目点は。設計コンセプトの
差異よりも後継レンズsmc PENTAX-FA Macro 50mm/f2.8
(前回記事で紹介)との比較であろうか?

が、FA型は、等倍仕様で最短も19.5cm、レンズ構成も、
本レンズよりもずっと複雑化されていて7群8枚となり、
同時に大型化されている。しかし当該記事でも説明したが
デザインが悪く、MF操作性も良く無い。

よって、MFのマクロとして使うのであれば、後継のFA型
よりも本A50/2.8の方が、様々な面で優れているように
感じてしまうのだ。ただ、FA型も描写力は、かなり良好
で、等倍仕様でもあり、そちらも捨てがたい。
そして本A50/2.8も、同時代のMF標準ハーフマクロと
しては現代的なテイストに通じる描写傾向で好ましい。
結局、そういう理由から、両レンズとも残している次第だ。

本レンズは、現代となってはセミレア品で、中古相場も
あまり落ちて来ないとは思うが、もし1万円台前半位で
入手できるのであれば、MFマクロをMFで快適に使う
という視点において、コスパ的にも悪く無い選択だ。

なお、その際は、PENTAX一眼で使うのも「マニア的な
拘り」の視点では良いのだが、実用的には、MF精度や、
稀に発生するボケ質破綻の回避の意味でもミラーレス機
で使うのが遥かに有益で簡便だ。

---
では、今回ラストのマクロレンズ。
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レンズ名:OLYMPUS OM SYSTEM Zuiko Macro 50mm/f3.5
レンズ購入価格:8,000円(中古)
使用カメラ:OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)

ミラーレス・マニアックス第66回記事や、特殊レンズ
スーパー・マニアックス第2回記事等で紹介の
1970年代~のMF標準ハーフマクロレンズ。
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20年程の間に、都合3回も再購入した、という、いわく
付きのマクロレンズだ。
その理由は何度か述べているが、描写傾向が解像力優先で
固く、好みに合わないと手放して(知人に譲渡する等)は、
またしばらくすると、この、かなり個性的な描写が何だか
気になってくるのだ。

4群5枚、最短23cm、フィルター径φ49mmと、他の
この時代のレンズとあまり変わらない仕様であるが、

小型軽量をコンセプトとしたOMシステム用のレンズで
あるから、本レンズも実に小さく、重量は200gと軽量だ。

OM用レンズは、同じ焦点距離で大口径版と小口径版が
並行ラインナップされているケースが多く、この上位
レンズとして、OM50mm/f2(ハーフマクロ)(未所有)
がある。

この時代のF2級マクロは珍しく、同じオリンパスでは
他にOM90mm/f2ハーフマクロ(ミラーレス名玉編第3回等)
が存在する。(注:他にも医療用の特殊マクロがある)
OM90/2は、個人的にはかなり好みの描写傾向であり、
それ故に名玉編にもランクインしているのであるが、
(中古)価格が高く、かつレア品であり、あまり一般的
には推奨できない。

OM50/2もセミレア品で同様に相場が高く、購入する機会
に恵まれなかった。そして後年ではフォーサーズ機用で
同じ数値仕様のZUIKO DIGITAL ED 50mm/f2が存在する。
(特殊レンズ・スーパーマニアックス第2回記事)
_c0032138_12413208.jpg
で、オリンパスMF版F2級のマクロの描写傾向はサンプルが
OM90/2しか無いので、本OM50/3.5等と比較するのは
難しいのだが、あえて言えば、F3.5級では描写傾向が
がらりと変わり、前述のように「平面マクロ」となるが、
OM90/2では、そうした傾向は少ない。

恐らくはOM50/2もOM90/2と同様の描写傾向だ、と仮定
するのであれば、OMの50mm標準ハーフマクロにおける
大口径版(F2)と小口径版(F3.5)は、価格や性能の
差異での「上位下位機種」と言う位置づけではなく、
全く異なる設計コンセプトから並存しているレンズ群だ。

つまり、両レンズの用途では、被写体も撮影技法も
まるっきり異なるという事であり、その具体的な一例を
挙げれば、F2版は、開放近くで、柔らかいボケや若干の
収差発生により、花や人物の中近距離撮影に向き、
F3.5版はF5.6~F8程度に少し絞り込んで、平面被写体の
接写といった複写的な用途に向くという事だ。

今から考えると、この両者の設計コンセプトの差は
「憎い製品ラインナップ戦略」であるように思える。
もし、この両者の特性の差がわかる上級者やマニア層で
あれば、どちらか一方のレンズを所有していれば済む、
という訳にはいかず、両方とも欲しくなってしまうでは
ないか。つまり同じOMマウントの同じ50mm焦点距離の
同じハーフマクロが2本必要だ、という事になる。

・・・いかんいかん、これを書いていたらOM50/2も
欲しくなってきた(汗)
銀塩時代の「OM党」ならいざしらず、現代においては、
代替できるマクロ等のレンズも色々とある事であろう、
今になって、わざわざ、レア品で、かつプレミアム価格の
40年以上も前のオールドレンズを買うなどは、ずいぶんと
酔狂な話だ。
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さて、本OM50/3.5であるが、繰り返し述べておくが、
固い描写のレンズである。この特性における長所も短所も
しっかり把握して、かつ、その適切な用途もちゃんと理解
した上で購入するのであれば、まあ相場もあまり高くなく、
マニアック度や歴史的価値も、そこそこ高いと思うので、
悪くは無い選択肢だ、

特に、今回母艦として使用している、OM-D E-M5 MarkⅡ
Limitedは、銀塩希少機「OM-3Ti」のデザインコンセプト
を踏襲した機体であり、本OM50/3.5との組み合わせは
マニアック度満載である。なお「μ4/3機ではレンズの
換算画角が2倍に伸びてしまう」等の野暮な事は言うまい。

どうせ「より大きく写したい」したいという基本ニーズ
があるマクロレンズだ、ハーフマクロであっても、
μ4/3機の2倍換算で、すでに等倍マクロとなっていて、
さらにE-M5 MarkⅡに備わるデジタルテレコン2倍機能を
併用すれば、2倍の撮影倍率となるスーパーマクロだ!

また、E-M5 MarkⅡの強力な5軸手ブレ補正は、MFレンズ
の際でも有効だ(ただし、焦点距離手動設定を忘れずに。

それから勿論、近接撮影で課題となる「被写体ブレ」や
「前後ブレ」には優秀な手ブレ補正機能でも対応できない。
→しかしながら、純正AFマクロの場合では、カメラ内の
「フォーカスブラケット」機能や、MFマクロでは「連写
MFブラケット」等の、特殊機能/特殊技法、を用いる事で
前後ブレ等の課題にも、かろうじて対処可能かも知れない)

という事で、OM50/3.5はOLYMPUS μ4/3機ユーザーにも
お勧めのオールド(ハーフマクロ)レンズとしておこう。

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さて、ここまでで「最強50mmレンズ選手権」における
予選Iロック「MF50mm Macro」の記事は終了だ。

次回の本シリーズ記事は、予選Jブロック
「AF50mm相当(APS-C機専用レンズ等)」となる予定だ。

レンズ・マニアックス(25)

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過去の本ブログのレンズ紹介記事では未紹介のマニアック
なレンズを主に紹介するシリーズ記事。
今回は未紹介レンズ2本と他シリーズ記事で紹介済みの
2本を取り上げる。

なお、コロナ禍による外出自粛中の為、掲載写真は
過去撮影のものを使用する。(注:本ブログでの
シリーズ形式の記事群は、たいてい記事掲載時点の
1~3年前に、執筆および実写撮影したものである。
さもないと、なかなか、体系的(システマチック)な
記事群は書けない、という理由からだ)

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ではまず、今回最初のレンズ
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レンズは、FUJIFILM FUJINON XF 60mm/f2.4 R Macro
(中古購入価格 39,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T10 (APS-C機)

2012年に発売された、FUJIFILM Xマウント最初期の
AF中望遠1/2倍マクロレンズ。
Xマウント機は現状全てAPS-C機であるので、換算画角は
90mm相当となる。
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「Xマウント用に小型軽量のマクロが必要だ」と思って購入
したレンズである。また、歴史的な価値も高く、FUJIFILM
(以下、適宜FUJIと略す)社においては、銀塩時代に殆ど
マクロレンズを発売していなかった。

具体的には、FUJIの銀塩MF一眼レフは2シリーズしか無く、
1970年代のM42時代のSTシリーズ用にはマクロは1本も無く、
続く1980年代の独自バヨネットマウントのAXシリーズに
僅かに1本だけMF標準マクロが存在していた模様だが・・

AXシリーズは、元々数年間しか発売されていない、かなり
マイナーなマウントで、1985年の「αショック」以降、
AF化に追従せずに一眼レフ市場から撤退している。
故に、レア品どころか、このFUJI製マクロの存在すらも、
世に殆ど知られていなかった事であろう(私も未所有だ)

まあつまり、本XF60/2.4が、一般に目にする事ができた
ほぼ初の、FUJIFILM製マクロレンズである。

・・のだが、正直言って購入は失敗であった(汗)
まず、AF精度にかなり弱点がある。その理由の1つとしては、
距離エンコーダーが近接域と遠距離域の二重構造である事だ。
これは距離エンコードのビット幅が足り無い為、最短撮影
距離から無限遠までを、単一の(ビット)スケールで制御
する事が出来ないという意味だ。
(まあ、仮に他社でも同様な仕様であったとしても、それを
ユーザー側の操作性への負担とか、AF性能上の弱点にしない
ように色々と工夫はしてある。本レンズはその配慮が少ない)

この説明についてはデジタル技術がわかっていないとチンプン
カンプンだとは思うが、まあつまりAF性能が弱いと言う事だ。

この為、最初期のFUJI Xマウント機(例:X-E1、2012年)
では、近接撮影においては、一々、マクロ切換ボタンを押し、
メニューから「マクロ」を選択しないとピントが合わない。

次世代のFUJI機、例えばX-T1(2014年)でも、像面位相差
AF搭載機ながら、近接域のエンコーダー仕様は同様であり
やはり当初はマクロ切換ボタンを押して切り替える操作を
強要される状態であったのだが、X-T1のファームウェア
Ver. 3あたりから、やっとオートマクロ機能が搭載され、
マクロ切換ボタン(の操作)が廃止されている。

また、今回使用機のX-T10(2015年)でも、同様なオート
マクロ仕様となっているので、マクロ切換の必要は無い。

でも、これらのオートマクロでは、やはりAF精度が出ないのだ。
何故ならば、その機能を実現するには、近接撮影である事を
カメラが認識した時点で、距離エンコード・テーブル(表)
を近接用のものに自動で差し替えるのだが、元々、現在の
ピント位置が不明でAFが迷っている状態では、テーブルを
差し替える事が出来ないからである。

技術的な原理はともかく、実用上でも、やはりAF精度が
厳しいし、MFに切り替える(またはシームレスMF)ても、
例によって無限回転式のピントリングでは、最短での停止
感触が無く、かつピントリングの回転角も大きすぎる。

ちなみに、AFが迷っている場合、たいていだが、AFでは
遠距離と判断されている。その事は、MF時にEVF内に距離
指標を表示させる設定にしておき、シームレスMFとすれば
近接撮影なのに、AF測距が5mや10mで止まっている事が
確認できる。

これでは勿論、オートでマクロに切り替えるべきかどうか
は、カメラ側では、判断できない状態だ。
で、そこからMF操作で最短撮影距離までピントリングを
廻そうとすると、実に8回以上の左手の持ち替え動作が
発生し、冗長である。また、MF距離指標にはレンズ毎の
最短撮影距離が表示されておらず(本レンズの場合は、
26.7cmである)かつ距離指標単位は、最小0.1mと次が
0.5mの狭く粗いスケールであり、さほど精密には最短撮影
距離や撮影距離に到達している事を読み取る事ができない。

頼みのピーキング機能も、FUJI機全般では精度が悪く、
つまり、AFが合い難いからと言ってMFに切り替えても、
やはりピント合わせが困難な事に変わりは無いのだ。
(注:この問題は他のFUJINON Xレンズでも同様だ)

まあ、この状況でも描写力に優れるならば我慢して使う気に
なるだろうが、本レンズの描写性能は、可も無く不可も無し
で、標準よりやや上(評価3.5点)という感じであるが、
一般に、マクロレンズの描写力は、近接撮影においては
通常のレンズよりも相当に優れる事が普通なので、この
レベルだと、ちょっと不満だ。
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そして価格が高い、定価は87,000円+税である。
本レンズは中古購入、しかも発売から若干年月を経た
状態であったが、それでも4万円近くもしている。
中古でこの値段を出すならば、高性能なTAMRON SP60/2
とTAMRON SP90/2.8の2本のマクロが同時に買えてしまう。

製品が入っている化粧箱は豪華であり、ラッピング
クロス(レンズを巻いて保管や移動をする)まで
付属しているし、フードは複雑な溶接構造の金属製である。
だが、そういった要素で「高級レンズだ」という雰囲気を
出そうとしても、ちょっと納得しずらい。

「もっとペナペナの紙箱で良いから、その分安くしてくれ」
とも思ってしまうし、下手にしっかりした豪華な箱ゆえに
捨てれないから場所を取り、あるいは又、「元箱が残って
いるから、いっそ売却してやるか!?」という気分にさえ
なってしまう。そういう点でも、箱なんてすぐに捨てられる
安っぽい物の方がメーカー側から見ても良いのかも知れない。

まあ、価格が高いのは、高性能や高品質だから、という意味
よりも販売本数が少ないので、開発費や製造原価(金型代等)
のレンズ1本あたりの償却費が高くなるのであろう。それで
値段が高くなると、ますます売れず、悪循環に陥ってしまう。

それと、フィルター径はφ39mm である。
私が所有している数百本のレンズの中で、φ39mm
という仕様は、本レンズのみ(追記:2019年の七工匠
60/2.8Macroも同様)である。
特殊な径なので、フィルターの使いまわしをする為、
φ39mm→φ49mmのステップアップリングを購入し
φ49mmの各種フィルターを使おうとしたが、なんと、
ステップアップリングは、さほど不自然な構造では無い
のだが、レンズに電源を入れた直後にレンズが無限遠まで
引っ込み(AF調整の為か?)それが鏡筒に引っかかって
エラーとなって撮影不能になってしまうのだ。

何故、少しでも付属品装着に余裕のある構造にしなかったの
であろうか? あるいはφ46mmやφ49mm等の一般的な
フィルターサイズとして設計しないのか? 理解に苦しむ。

近年では、各社ともレンズ毎にフィルター径がまちまちの
設計をしてしまうので、フィルターの使いまわしなどの
汎用性に大きく欠ける。銀塩時代では、オリンパスや
ニコン、キヤノン等では、ほとんどの交換レンズを同一の
フィルター径で統一する等、「標準化思想」が徹底していた。
まあ、高度成長期の経験があったから、そういう点では
製造や設計における様々なノウハウやコンセプトは、
昔は良く練られていたと思う。

製造業が衰退した現代における各メーカーでは、そうした
ユーザー利便性や、製造面での利便性すら理解できていない
のであろうか・・? だとすれば極めて残念な話である。

(参考:2010年代後半からのTAMRONでは、SP単焦点や
新鋭M1:2シリーズのレンズ群等を、フィルター径
φ67mmで統一している。やっと、近代においても、
そうした「標準化思想」がまた出てきて、好ましい。
なにせ、レンズ市場縮退の影響か? 2019年頃から、
各社の各種フィルターは、安価なものは全て生産中止と
なり、高価な商品ばかりになってしまい、適価に様々な
サイズや種類のフィルターを揃える事が、とても困難に
なってしまっている状況だからだ)

まあ、欠点のいくつかは購入前にわかっていて、覚悟の
上での購入ではあったが、しかし、それにしても度が過ぎる、
という感がある。

まあ、歴史的にもFUJIFILMは銀塩時代の一眼レフのAF化に
追従できておらず、レンズ交換式カメラにおいては、
AF化は何と、近年2012年からのXシリーズミラーレス機が
初である。おまけに銀塩時代のAF機(コンパクト等)や
デジタル時代に入ってからのコンパクト機などでも、
FUJIFILM社が全て自社で設計製造しているとはとうてい
思えない(他社OEM品である可能性が高いという事だ)
まあつまり、カメラや交換レンズ設計のノウハウがFUJIの
社内に蓄積されている状態だとは思えず、カメラやレンズ
の仕様上、様々な課題が出てきている状況だ。
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・・さて、本レンズの購入については、他に代替が可能な、
ハンドリング性能の高い簡便な中望遠(マクロ)レンズが
Xマウントでは存在しない為、やむなくの購入であるのだが、
正直言えば、この状況であれば、TAMRON SP60/2 Macro
等をXマウント機にアダプターで装着すれば、あらゆる面で
高性能であるし、中古相場も約半額でコスパにも優れる。

でも、そうできないのは、FUJI Xマウント機全般での
MF性能が貧弱である事が課題となっているからである。
(追記:本記事執筆後に新発売された、七工匠60/2.8
Macroには、Xマウント版が存在するが、MF性能の課題は
同様である。当該レンズは他マウント版を後日紹介予定)

後年のFUJI製マクロ(例:90mm/f2.8,80mm/f2)であれば、
様々な課題の改善も若干は図られているかも知れないが、
それらは極めて高価であり、簡単に購入できるものではない。
(というか、手ブレ補正内蔵、防水仕様、という、不要な
機能が入っていて高付加価値化(=値上げ)されているだけ
に思え、AF精度等が高まっている保証が無いので買えない)

すなわち、これらは皆、FUJIFILMの最初期(2012年頃の)
ミラーレス・システムが仕様的・性能的・技術的に未成熟で
あった事を起因としている課題だ。

まあ、それらの事情が良くわかっただけでも良しとするか・・
もう個人的には、Xシステムを、さらに充実させたい、という
目論見についても、「かなり控え目に考えておかなければ
ならないだろう」という意識になってきている。
すなわち、あまりにコスパが悪いからだ。
(注:その対策については、また別の記事で後日紹介する)

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さて、次のレンズ
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レンズは、VS Technology VS-LD50
(発売時定価28,000円)
カメラは、PENTAX Q7 (1/1.7型機)

本シリーズ記事では未紹介だが、別シリーズ記事の
「特殊レンズ・スーパーマニアックス第1回マシンビジョン編」
で、少しだけ紹介しているレンズである。

発売年不明(2000年代?)の、FA用低歪曲望遠マクロ(近接専用)
初期メガピクセル対応、MF単焦点手動絞りレンズ。
2/3型センサー対応、Cマウント、マシンビジョン用レンズ。
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「物像間距離」(注:聞き慣れない専門用語だと思われるが、
最短撮影距離と等価。しかし稀にワーキング・ディスタンス
と等価、という解釈もあり、ややこしい)は、スペック上で
約28cm~約67cmである。
2/3型センサーでは、この時の撮影倍率は、0.25倍(1/4倍)
~0.10倍の間で変化する。PENTAX Q7は2/3型機では無いが
ほぼ近い値(2/3型=0.66型、1/1.7型=0.58型)である
ので、だいたい同じ位の撮影倍率と判断すれば良い。
まあ、写真用での「望遠マクロ」に近い感覚のレンズだ。

開放F値は不定であり、撮影距離に関連する「露出倍数」に
応じ、F2.7~F3.1程度となる。

「露出倍数」(露光倍数とも言われる)は、近接撮影時に
見かけ上の口径比(≒F値)が落ちる事を指す。
これは本レンズに限らず、殆ど全ての交換レンズで発生する。

つまり、近接撮影ではヘリコイドを繰り出して前玉位置が
遠くなる訳だから暗くなる、という原理だ。世間一般では、
「深い井戸の底では、井戸の入り口が小さく見え、入って
 くる光も減る」という概念で説明される事が多い。

暗くなる度合いは、(撮影倍率+1)x(撮影倍率+1)
の公式で表される。(これが露出倍数の値となる)

ここで撮影倍率は、センサーサイズを撮影範囲で割れば良い、
例えばフルサイズ(36mmx24mm)に対し、18mmx12mm
の小さい範囲が写る場合、これは36÷18で2倍となる。
写真用マクロレンズでの、等倍(1倍)や、1/2倍と
スペック記載も、これと同じ概念である。
(注:現代のデジタル機では、撮影倍率は、様々な機体で
撮像センサーのサイズがまちまちであるから、「センサー
換算倍率」等と明記しないと、正確なスペックとは言えない。
加えてミラーレス機等ではデジタル拡大(ズーム、テレコン)
機能の利用も普通である。
よって、撮影範囲と撮影倍率の関係は複雑だ。だがここでは
あくまで露出倍数を計算する意味において、撮影倍率の概念
を用いている。実用上では、レンズの撮影倍率については、
あまり気にする必要性は無いのだ)

で、計算時にセンサーの縦横比(アスペクト比)が異なる
場合は、若干面倒だが、直角三角形の斜辺の公式で、
対角線長を求め、その対角線同士で割り算する。
(例:フルサイズ機に対し、4.8mm x 3.6mmの撮影範囲
の場合、対角線長で計算し、約43mm÷6mm =約7.1倍)


だが、このような露出倍数の計算が必要なのは、概ね等倍
(1倍)を超える「超マクロ撮影」の場合くらいである。
例えば、一般レンズで無限遠撮影をする場合、撮影倍率は
ほぼゼロ倍であり、露出倍数は(0+1)x(0+1)=1となる。
すなわち遠距離撮影では露出倍数は無関係(そのまま)
であり、見かけ上の口径比(≒F値)が暗くなる事は無い。

では、世の中に良くある写真用の等倍(1倍、1:1)マクロ
レンズ(注:フルサイズ換算)ではどうなるか? 
最短撮影距離での撮影時、露出倍数は、(1+1)x(1+1)=4
となる、すなわち遠距離撮影より4倍(EVで2段)暗くなる。
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ここでいくつかの注意点だが、
まず一般にこれは「暗くなった」といってもレンズ利用者側は、
あまりこれを意識して特定のカメラ設定操作を行う必要は無い。
AEで撮っているならば、遠距離撮影時よりシャッター速度が
低下したり、AUTO ISOの場合は感度が若干高まっている
だけであり、普段の撮影で暗い場所にカメラを向けた場合と
同様なので、単に、手ブレや高感度ノイズに注意すれば良い
だけである。

また、これはレンズの構造や設計にも依存すると思われ、
近接撮影時で有効(瞳)径との比が変化しずらい設計
(例:IF=インターナル・フォ-カス等)とするならば、
近接時での開放F値の低下は最小限に抑えられるであろう。

一般に開放F値の低下は、具体的な数値として、レンズから
ボディ側に伝達される事はそう多くは無い。F2.8の等倍マクロ
であれば、近接撮影時にもカメラにはF2.8が表示されたままだ。

ただ、一部のメーカーのカメラと、同メーカーのマクロレンズ
では、低下したF値がカメラに表示される場合もある。
例えば、NIKON AF/デジタル一眼レフと同社マイクロレンズ
Ai AF Micro-NIKKOR 60mm/f2.8D等では、近接撮影時には、
絞り開放で撮っていても、F2.8→F5等のF値低下が表示される。

これは、ユーザーへの情報提示の配慮としては好ましいが、
実際の所、カメラから「暗くなった」と言われても、何も
対処の方法が無い。通常撮影の場合でも暗所で発生する
「手ブレ警告」や「フラッシュ発光の推奨表示」と同じ事
であり、そういうカメラ機能を「そんな事は言われないでも
シャッター速度を見ればわかっている、余計なお世話だ!」
と思う中上級者であれば「(開放)F値が下がった」とカメラから
言われても「はいそうですか、では気をつけます」で終わりだ。

そして、そういう情報表示機能は、レンズとカメラ間での
情報伝達プロトコルの内、少なくとも「開放F値、現在の
設定F値、対応センサーサイズ、撮影距離」の4つの情報が
やりとりされていないと計算が実現できない機能である。

電子接点の無いレンズ、たとえば本VS-LD50レンズでは、
開放F値は、撮影距離に応じてF2.7~F3.1程度に変動する
のではあるが、Cマウントの規格では、その値をカメラ側から
参照する方法は無い。だから、開放測光または実絞り測光で
処理せざるを得ず、暗くなった分、センサーに到達する光は
減る訳であり、カメラ側はそれに応じシャッター速度および
ISO感度(CCTVの場合は、ゲイン、およびAGC機能と呼ぶ)
を手動又は自動で調整するだけである。


で、本レンズの場合では、その開放F値変化幅からすると
近接撮影でも、あまり露出倍数がかからない設計の模様だ。

ちゃんと厳密には実験していないが、軽く試してみると、
平面光源に対してWDを約30cmから60cmまで変化させた場合、
一定ISO感度でのシャッター速度の変化は1/50→1/60秒の
約1.2倍の変化で留まっている(仕様上ではF3.1~F2.7で
これは1.3倍の露出変化だ。まあ実験誤差範囲内である)

この時、最短撮影距離での、センサーサイズ2/3型における
撮影倍率は0.25倍と仕様にある(注:今回使用機のPENTAX
Q7とは僅かに異なるが、概算上では、ほぼ同じと見なす)
本来、露出倍数は(0.25+1)x(0.25+1)=約1.56倍となる
筈であるが、そこまでは暗くならないようにと(僅かだが)
露出倍数に配慮した設計であると思われる。

なお、本レンズの絞り値を暗く設定した場合でも、撮影距離に
応じて同様のF値変化が起こる。概算ではあるが、レンズを
F8に設定したら、最近接撮影ではF9程度に暗くなる訳だ。
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さて、例によって、マシンビジョンのレンズを紹介する
場合には、専門的な技術解説が多くなってしまう。
写真の世界とは、ほとんど無関係な技術分野であるから
たとえカメラマニアや職業写真家層であっても、これらの
技術分野の理解は、とても困難であり、難解であると思う。
「さっぱり意味がわからないよ」となるのがオチであろう。

だが、マシンビジョンレンズを使ってみたいならば、
これら様々な専門的な知識や計算能力が必須となる。
よって、カメラマニアにも、これらのマシンビジョンレンズ
の使用は推奨できない。使用可能なシステムを組む際にも
本記事で書いた内容よりも、もっと高度で複雑な計算を
行う必要があるし、その計算も単に公式を覚える訳ではなく
原理理解の上で、計算式を自ら考えつかないかぎりは、他に
それを勉強できる参考書等が売っている訳では無いのだ。

つまり、あくまで独学、自力で研究せざるを得ず、さらに
言うならば、あるレベルを超えると、よくわからない部分が
沢山出てきてしまう。そして、それについては世の中全般でも
同様に、まだちゃんと解明されていない部分である事が多い。

たとえば、ごく単純な例をあげれば、デジタルカメラで
被写界深度を計算する為の「許容錯乱円」の定義は、いまだ
不明であり、業界での統一見解や厳密な解析結果の情報が無い。

まあ、デジタルカメラが一般化してから、まだ20年そこそこ
である、「デジタル光学」という分野の学問が未発達で
あるのも、やむを得ないであろう。
したがって、誰にもわからない事も依然多い分野だ。
おまけに、これは学術的には非常に高度で専門的であるのに、
デジタルカメラを使うユーザー層は、全く逆に一般層だ、
だから、ユーザー側において、好き勝手な解釈や誤まった
概念などの情報が極めて多く飛びかっている。

これらの中から正しい真実を見抜く方法は難しい。現代は
情報化社会であるから、逆に、フェイク(偽)な情報や
間違った情報が、意図的かそうで無いかに係わらず、大量に
溢れ、どれが正しいか?が、わからなくなってしまうのだ。
一見正しいと思う理論や解説であっても、やはり個々で解釈が
異なる場合もあり、単なる思い込みに過ぎないかも知れない。

でも、その事はカメラに限らず、どんな先端学術研究分野
でも必ず発生する事であろう。様々な研究者による様々な
仮説が沢山出てきて、長い時間をかけて、どれかが定説と
なっていく。それまでの期間内では、どれが正しい情報かは
良く分からない時代が続く訳だ。

まあ結局、他人の発信した情報には決してまどわされずに
自身で研究のレベルを高めていくしか無い。それもまた
現代におけるカメラマニアの1つの新しい方向性だとも
思っている(=テクニカルマニアとか研究マニアという話)
デジタル光学の世界では、まだわかっていない事が多いから、
自らそれを究明したいと思う、というスタンスである。

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さて、次のレンズ
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レンズは、TAMRON 70-150mm/f3.5 (Model 20A)
(中古購入価格 500円)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

1980年発売の、開放F値固定型MF中望遠ズームレンズ。
安価なジャンク品としての購入である。

ミラーレス・マニアックス第55回記事で紹介の
TAMRON 80-210mm/f3.8-4 (Model 103A)の姉妹
レンズであり、本20A型の方が小型軽量で、103A型よりも
1年早い発売となっている。


ピントリングとズームリングが共用の為、素早いMF操作が
可能な仕様であり、この手のズームレンズを本ブログでは
「ワンハンド・ズーム」と呼ぶ(注:タムロン社では、
ワンハンド・スリー・アクション機構、と呼んでいた)
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長所としては、当時の銀塩時代のMF望遠ズームにおいては、
無理に望遠端焦点距離を伸ばすと、大きく重く高価な三重苦
レンズとなる事を避け、かつ手ブレのリスクを減らす事も
意図した、思い切りの良い「小型軽量化」の製品コンセプト
である事だ。

他記事でも色々書いているが、その当時のビギナー層は
「ともかく望遠レンズが欲しい」とばかりに、実際には
とても使いこなせないような大型の望遠レンズばかりに
目が行って(憧れて)しまう中、なかなか本レンズは
「通好み」の仕様であると言えよう。

まあ、この時代の直前の1970年代には一眼レフシステムの
小型軽量化が流行し、OLYMPUS M-1(OM-1)(1972年)や
PENTAX MX(1976年)が、小型軽量化を実現し、合わせて
交換レンズも小型化された。

それらの純正望遠レンズにおいても OLYMPUS OM75-150/4
(ミラーレス・マニアックス第56回記事)や、
PENTAX-M75-150/4(本シリーズ第16回記事)といった、
本レンズと極めて近いスペックの小型望遠ズームが発売されて
いるので、小型化は本レンズだけの特徴という訳でも無い。

しかし、それらメーカー純正の2本に比べ、本レンズは広角端
焦点距離を70mmに拡張、開放F値もF3.5と少し明るくし、
メーカー純正レンズに、しっかりと対抗している状況が良く
見えて、なかなか興味深い。

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それと、ワンハンド直進式ズームは、やはり使い易い。
現代のAFズームレンズは皆、ズームリングとピントリングが
二重独立回転式であるので、MFはもとより、AFにおいても
その操作性は決して快適とは言えないので、こうした
オールドズームで、ワンハンド仕様となっているものは
格段に効率的に感じてしまう。この操作性を体感し、現代の
ズームレンズの操作性と比較する事も、十分に意味のある
話であり、そうやって、様々な機材を使って比べることで
マニアとして必須の「絶対的価値感覚」を養う事ができる。

ジャンク品で500円(+税)という激安価格、しかし程度は
問題なく、ちゃんと使える。おまけに「アダプトール2」
まで付属していた。この交換マウント用部品を買うだけでも
1000円~2000円の中古相場となる事が普通なので、
仮に何らかの故障で本レンズが全く使えなかったとしても、
惜しくは無い金額である。
カメラ店ではなく、リサイクル店での購入であったので、
アダプトール2自体の市場価値は見逃していたのであろう。
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写りだが、全般的に弱い(悪い)。
具体的には、解像感および逆光耐性が低い事があげられる。
ただまあ、このあたりは40年も前のオールドズームなので
やむを得ない節もある。
被写体や光線状況を良く意識して、弱点を回避して使うのが
良いであろう、そういう類の練習を行う為の「教材レンズ」
として考えれば、500円は超お買い得であろう。
つまり「ワンハンドズーム」ならぬ「ワンコイン・レッスン」
という感じだ。

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次は今回ラストのレンズ
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レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 110mm/f2.5
(新品購入価格 138,000円)(以下、MAP110/2.5)
カメラは、SONY NEX-7(APS-C機)

2018年発売の、コシナ史上3本目のマクロアポランター。
MFレンズで等倍マクロ仕様。SONY E(FE)マウント専用で
あり、今の所、他のマウント版が発売される気配は無い。

全マクロアポランターについては、特殊レンズ・スーパー・
マニアックス第11回記事「マクロアポランター・グランド
スラム」にて、紹介済みである。
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2001年発売の旧型MACRO APO-LANTHAR 125mm/f2.5SL
のスペックに近いが、そのレンズと本レンズは、17年の時
を隔てて、全く違うものと言えるくらいに変化している。

個人的に最も嬉しかった差異は、MAP125/2.5でのピント
リングの回転角が異常に大きかった課題の改善だ。
MAP125/2.5は最短撮影距離から無限遠まで、実に平均
14回もの左手の持ち替え操作が必要であり、使っていて
非常に疲れる事が大きな課題であった。
本MAP110/2.5では、同条件で持ち替えの回数は8~9回で
行ける。

「レンズの持ち替えくらい、たいした欠点では無い」と思う
初級中級層も多いとは思う。しかし、では、そのMAP125/2.5
や、同等の持ち替え回数を持つ京セラCONTAX (RTS)マクロ
プラナー100/2.8を実際にフィールド(屋外)に持ち出して
近接撮影から遠距離撮影と、バラエティに富んだ撮影技法を
実施してみると良い。ものの1時間も経たない間に、左手が
(そして重たいシステムを支える右手も)疲労してきて、
「これは何かの修行(苦行)か?」と思えるようにまで
辛くなってくる事を実感できる事であろう。

頭の中で想像して物事を語っているだけではダメであり
実際に体験しないと分かり得ない事も色々ある訳だ。
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そして本MAP110/2.5も、MAP125/2.5より、かなりマシとは
言え、やはり重たいピントリングを8~9回も持ち替える
撮影を続けていると、数時間が限界だとも思われる。
だが「そんなもの、三脚を使ってピント固定で花を撮れば
良いではないか?」と考えるシニア・ビギナー層も多いで
あろう。
でも、マクロレンズだから、と言って、そんな数十年も昔の
時代の撮影技法を使っていたら、レンズの実際の性能など、
何もわからないままだ。

本MAP110/2.5は、多くの被写体条件において、どんな状況
(光線状況、撮影距離、背景距離、絞り値など)においても、
優秀な描写力を発揮できる、極めて被写体汎用性が高い
高性能レンズである。

その「描写・表現力」の評価点は、私の評価データベース上
では、5点満点であり、およそ400本程度の私の所有レンズの
中では10数本しか無い、極めてハイレベルなレンズである。
そんな超高性能レンズだからこそ、どこへでも向けて、何でも
撮るべきであろう、三脚で花だけを撮っていたら勿体無い。

マニアック度も勿論高いので、本シリーズの従前の記事
「高マニアック・高描写力レンズ特集」シリーズ第21回~
第23回にノミネートされるべきレンズではあるが、あいにく
その記事の執筆後での購入であった次第だ。
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特に描写力上の不満は無いのだが、問題点はその価格である。
定価148,000円+税は、勿論コスト高だ。いくらカメラ
(レンズ)市場縮退による高付加価値化の時代だとは言え、
たかが単焦点のMFマクロが、この値段というのは酷すぎる。

ちなみに、1990年代頃に同じコシナ社から発売されていた、
COSINA MC MACRO 100mm/f3.5
(ミラーレス・マニアックス第48回記事参照)という
レンズは、本MAP110/2.5と、割と近いスペックながらも、
新品購入価格が14000円であり、本レンズの10分の1である。
勿論総合描写力は、本MAP110/2.5が遥かに優れるが、
その、昔のマクロレンズで撮影条件を整えた最良の写りと
本レンズとの差を見分けるのは、多分困難かも知れない。

だとしたら、付加価値とか値段とか、そういうのはいったい
何なんだろう? と思うかも知れない、まあ、それはそれで
良く、そう疑問を感じて、色々と調べたり実写して研究する
事が大事なのであり、それを全くせずに、「時代も違うし
値段も違う、現代のMAP110/2.5の方が絶対に良く写る」
などと単純に思い込んでしまってはいけないのだ。

本MAP110/2.5は、値段が高価な故に、誰にでも推奨できる
レンズとは決して言い難いのだが、パフォーマンスを重視
するのであれば、そのコスト高は容認できる事であろう。

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今回の第25回記事は、このあたり迄で、次回記事に続く。

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