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【玄人専科】匠の写真用語辞典(13)~撮影技法・特殊技法 Part 1

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一般的なカメラユーザー層には普及していない「特殊用語」や
「本ブログ独自の用語や概念」を解説するシリーズ記事。

今回第13回記事では「ノウハウ編」でのサブカテゴリーの
撮影技法・特殊技法(Part1)とする。
c0032138_07060309.jpg
<撮影技法・特殊技法>Part 1

★ボケ質
独自用語。

「ボケ」は勿論日本語であり、撮影画像において被写体の
 ピントが合っていない部分(被写界深度外)を指す。 

 英語では「Out Focus」という単語があるが、これは
 元々「ピントが外れている」という意味であり、日本語で
 言うところの「ピンボケ」に近い概念であり、「ボケ」とは
 ちょっと意味合いが異なる。(ただし、マニア用語として
 ボケが発生している部分を「アウトフォーカス(部)」と
 呼ぶケースもある)
c0032138_07060356.jpg
 そこで、近年では英語圏においても、日本語の「ボケ」を
 そのまま写真関連用語として用いるようになり、「Bokeh」と
 綴られる。

 この英語表記を商品名や愛称に冠したレンズには、例えば、
LAOWA 105mm/F2.0 "The Bokeh Dreamer" (特集記事参照)や
SIGMA 105mm/F1.4 DG HSM | Art "BOKEH-MASTER"がある。
c0032138_07060389.jpg
 いずれも近年のレンズだが、商品名(愛称)からわかるように、
 これらは「ボケ質」に配慮したものである。
(下写真は、LAOWA 105mm/F2での撮影)
c0032138_07060373.jpg
 他にも過去にはNIKONよりAi AF DC NIKKOR 105mm/F2D が
 1990年代前半に発売されている(ハイコスパ記事等で紹介)
 この「DC」は「De-Focus Control」という意味で、すなわち
「ボケ質」を良好にするように調整する為の「DC環」が装備されて
 いるのだが、1990年代当時のユーザー層のカメラ知識では、
 この効果の意味や用法が良くわかっていなかった模様であり、
「これは軟焦点(ソフトフォーカス)レンズだ」という誤解が
 長く続いていた。
c0032138_07061482.jpg
 レンズの「ボケ質」に良否がある事は、古くからマニア層を
 中心に知られてはいたが、その概念は1990年代前半頃では、
 まだ一般カメラユーザーには浸透しておらず、例えば大口径
 レンズである85mm/F1.4や300mm/F2.8等を使って、
 被写界深度が浅い状態で撮影し、結果、背景が大きくボケたら、
 その事を「ボケ味が良い」等と言っていたに過ぎなかった。
 勿論、これは単に「ボケ量」が多いだけの状態である。
c0032138_07061434.jpg
 もう1つの問題点としては、銀塩一眼レフは、ほぼ全てが開放
 測光であり、撮影前には通常は開放状態でのボケ量が見えて
 いるに過ぎない(プレビューしてもファインダー像が暗くて
 良くわからない)、また銀塩レンジファインダー機はTTLでは
 無いのでレンズ自体のボケ量・質等は事前に確認できない。

 よって、撮影するまで、レンズの実際のボケ量やボケ質は
 判断できず、またこれらはレンズの設計仕様や収差にも密接に
 関連する為、撮影距離や絞り値などの撮影条件によっても
「ボケ量」はもとより「ボケ質」までも変化してしまう。
(下写真は、ボケ質が非常に悪い例→ボケ質破綻)
c0032138_07061416.jpg
 この為、現像・プリントしてから、「このレンズはボケ味が良い、
 悪い」等とマニア層は言っていたのだが、撮影条件の再現性が
 殆ど無い為、「マニア(や評論家)が、このレンズはボケ味が
 良いと言っていたが、オレが買って写してみたら、さほどでも
 無かった」等という混乱も色々と生じていた。

 ただ、文句が言えるのはまだ「ボケ質」の理解がある方であり
 初級ユーザー等では、何がどうなっていたらボケが良いのか?
 そのあたりが殆どわかっていない時代でもあった。
 
 レンズの「ボケ質」が最初に一般カメラユーザーにも意識された
 のは、恐らく1998年発売のMINOLTA STF135mm/F2.8[T4.5]
(ミラーレス・マニアックス。アポダイゼーション・グランドスラム
 等、多数の記事で紹介済み)が最初であろうか?
 このレンズは「アポダイゼーション」の仕組みを取り入れ、
 極めてボケが綺麗であり、一般ユーザー層においては
「ボケの質に良し悪しがあるのだ」という事を初めて知らされた。
(下写真は、STF135mm/F2.8での撮影)
c0032138_07061412.jpg
 ただSTFは高価で、一般的なレンズでは無いし、1998年以降
 2014年にFUJIFILMからXF56mm/F1.2R APDが発売される迄
 他社から「アポダイゼーション」を搭載したレンズが発売
 される事は無く、デジタル時代からカメラを始めたような
 新規初級ユーザー層は、依然「ボケ味」という曖昧な概念で
 レンズの話をしていた状況だ。

(余談だが、2010年代初頭での一部のミラーレス機では、
 初級層への「絞り」や「被写界深度」の概念の啓蒙を狙って、
 単に絞り値を変えるだけの操作の事を「ボケ味コントロール」
 と称した事もあったのだが、キット標準ズームでは絞り値を
 変えても被写界深度を大きく制御できる訳もなく、むしろ
「何も変わらない」というクレームに繋がったかもしれない。
 後年には、こうした機能呼称は廃れてしまった)

 で、このような状況を鑑みて、本ブログでは以下のように
 用語を定義している。
 
 ボケ味=この用語は定義が曖昧で誤解を招く為、使用しない。

 ボケ量=被写界深度の「浅さ」を表す。
     例:20mm/F4のレンズよりも、85mm/F1.4レンズの方が
     多くの撮影状況で「ボケ量」を大きく取れる。

 ボケ質=レンズの性能、および特定の撮影条件(撮影距離、
     背景(前景)距離、絞り値、背景や前景の絵柄、
     センサーサイズ等)において、被写界深度外画面に
     良好なボケ品質が得られるかどうか?
    (英語の、Bokehに近い概念)
 
 なお、「ボケ質」に関連して「二線ボケ」「ぐるぐるボケ」
「プラナーボケ」等のマニア用語が存在するが、これらは
 一般(マニア)的な用語なので、意味は通りやすい為、
 この記事での説明は割愛する。

 また、絞り羽根の形状あるいは口径食等に依存し、木漏れ日や
 夜景光源などでの「ボケ形状」が変化する。
 この事は、便宜上、上記の「ボケ質」とは異なる要素として
 本ブログでは定義している。

 ちなみに、LENSBABY,LOMO等、トイレンズの一部で、様々な
 絞り形状(星型や三角形等)の部品を差し替えて「ボケ形状」
 をユーザーが選べるレンズ製品も発売されている(未所有)

★ボケ質の良否
独自用語。

 ボケ質の良否はレンズの収差、あるいはレンズ設計上で、
 いくつもの種類がある収差の、どれの補正を主眼に置くかで
 ある程度は決まってくる。
 たとえば解像力を優先した設計とすると、ボケ質は悪くなる
 場合が多いと思われる(注:非球面レンズや屈折率の異なる
 ガラス素材を組み合わせると、この問題は若干緩和する)

 ただし、前述のように「ボケ質」は、撮影距離、背景(前景)
 距離、絞り値、背景や前景の絵柄、センサーサイズ等に
 よっても大きく変化する。
c0032138_07062838.jpg
 であれば、ボケ質に配慮したレンズ設計を行えば良さそうな
 ものだが、旧来、ボケ質に配慮したレンズの設計が難しかった
 のは、そのように様々な撮影条件でボケ質が変化する為、
 全ての撮影条件において、それが良好となるシミュレーション
(すなわち設計)が困難であった事が理由の1つでもある。

 しかし近年ではコンピューターを用いた光学設計が一般的に
 なってきている。この手法では「設計」のみならず「評価」も
 可能だ。
 具体的なボケ質評価は、PC内の仮想レンズに非常に多数の
 光路追跡を行う事で、PC画面上に「スポット・ダイアグラム」
 と呼ばれる光線到着位置の分布を表示したものがあると思う。
(注:厳密にはこの手法は、ボケ質の評価用では無く、収差の
 確認用なのだが、原理的には応用が可能であろう)これが、
 しっかり綺麗にまとまった場合と、そうで無い形状に分散して
 しまった場合では、当然ボケ質が変わってくる。

 で、旧来の手計算では、こんなシミュレーションをやっていたら
 何ヶ月も何年もかかってしまうかも知れないが、コンピューター
 による効率的な設計評価の効果が良く現れているのであろう。

 もう少し設計ソフトが進化すれば、例えば解像力よりも良質な
 ボケ質が得られるように等、レンズ設計を、要求内容に応じて
 微妙に変化させて設計できるようになるかもしれない。
 現状の市販のレンズ設計ソフトでは、そこまでは難しいのだが、
 もう既に、メーカー独自のソフト等では、そういう物が出来て
 いる、という噂も聞いているし、この世界は日進月歩だ。

 近年に発売されたいくつかの単焦点レンズは、そのようにボケ質
 の向上を最重要項目として設計されたものもある模様だ。
(いくつか具体的なレンズ名を知ってはいるが、高価な物が多く、
 まだ入手できていない。憶測では語りたく無いので、今後、
 実際に、そうした新鋭レンズを入手して試してみてから、
 これの詳細を評価してみようと思っている)
  
 で、ユーザーレベルでのボケ質の評価は前述の様々な撮影条件
 によりボケ質が変化してしまうので、実際の所は極めて難しい。
c0032138_07062858.jpg
 オールドレンズ等では、ミラーレス機の高精細EVFにおいて
 実絞り測光の際、僅かだがボケ質の良否が撮影前にわかり、
 それを参考にしつつ、絞り値等の撮影条件をいくつか変えて
 みて、実際に撮ってPC等で確認するしか無いであろう。

 一眼レフの場合には、前述のようにこの技法は困難であるし、
 特に銀塩撮影においては、様々な撮影条件等は忘れた頃に
 現像やプリントが上がって来る訳だ、これでは、レンズの 
 ボケ質のばらつきが出て、良否を判定する事はほぼ不可能だ。

(参考:昔の写真コンテストでは、絞り値やシャッター速度を
 記載して応募するものもあったが、それは無駄なデータである
 と思う。実際の撮影条件では被写体距離による、被写界深度の
 変化や、動体被写体での角速度の差異等、それらは一定に
 なり得ず、データ記載は無意味な話だ。まあでも、噂によれば
 絞り値やシャッター速度もわかっていないビギナー応募者を
 簡単には入選させず、振り落とす意味もあった、との事だ)

 また、いくらミラーレス機であっても、様々な組み合わせの
 撮影条件を変えて撮っての評価は手間の面で困難だ、よって
 結局の所、感覚的または直感的な評価しかユーザーサイドでは
 出来ないと思う・・
(注:現在、この課題に対応する為の評価方法を考察中であり、
 いずれ、その手法は記事で紹介予定だ)


 まあでも、明らかにボケ質の悪いレンズもあるし、逆に
 多くの撮影条件で綺麗なボケ質となるレンズもある。
 これはレンズの開発された時代とか、レンズの価格や知名度には
 あまり直接的な関係が無い。すなわち最新の高価なレンズや
 開放F値が明るいレンズや、名玉と評されたレンズが、必ずしも
 ボケ質が良い訳では無く、結局、色々なレンズを買って実際に
 様々な条件で撮って試してみるしか無い訳だ。
c0032138_07062878.jpg
 面倒で、お金も時間もかかる事ではあるが、結局のところ 
 レンズマニアなるものは、そういった事をやるのが面白いから、
 多数のレンズを購入してしまうのであろう・・

★ボケ質破綻回避
独自用語。

 上記の「ボケ質の良否」は、撮影条件を色々と変えると
 それにつれて変化すると書いた。
 この特性を逆利用すると、「撮影条件を色々変えて撮った
 中から、ボケ質の良い写真を選び出せば良い」という事にも
 繋がる。これが「ボケ質破綻回避」技法の根幹だ。

 まあ要は、「露出ブラケット」ならぬ「ボケ質ブラケット」
 である。しかし、露出ブラケットやホワイトバランスの
 ブラケット機能とは異なり、現代のカメラには、このような
 機能は搭載されていない。あえてあるとすれば「絞り値の
 ブラケット」機能をもつ機種が、ほんのいくつかだが存在
 する。ミラーレス機で数機種と、一眼レフではPENTAX KP
 とかしか無かったと思う、まあかなり稀な機能であろう。
(注1:一眼レフでは、シャッター優先で露出ブラケットを行えば
 絞り値が変化するが、それでは輝度(露出)が変わってしまう。
 注2:被写界深度ブラケットは、当然MFレンズでは効かない)

 それに、絞り値を変えただけで、常にボケ質が良くなる条件を
 探し出せるものでも無い。撮影距離やら背景との距離や背景の
 絵柄やら、そういう条件もまたボケ質の良否に多大に関連する。

 結局ここも、高精細EVF等で若干見える画像のボケ質を参考に
 しながら、様々な撮影条件を変えてトライするしか無いのだ。

 それと、いくら高精細とは言え、EVFに写る映像は、実際の
 画像より大きく縮小されている。
 具体的には、2400万画素で撮影しているのに、EVFの画像は
 例えば一般的な236万ドット級EVFでは、1024x768x3色の
 僅かに76万画素程度でしか無いのだ。
 これだけ縮小の比率が大きいと、EVFに映す為に、どのような
 縮小アルゴリズムを使ったとしても、「縮小効果」と画像処理
 において呼ばれる「画像特徴の変化」が発生し、輪郭の雰囲気や、
 勿論、表示されるボケ質の雰囲気も変わってしまう。

 だから、「ボケ質破綻回避技法」におけるEVF画像はあくまで
 参考でしか無い。このあたりは「あ、ヤバそうだな」と
 思ったら、できるだけ多数の条件を変えて撮ってみるしか
 無い訳だ。
c0032138_07062832.jpg
 まあ、絞り値を変化させるのが最初に試すべき重要な要素だが
 それだけでは済みそうに無いと思われる場合は、次に試すべきは
 撮影距離と背景距離の調整だ。つまりこれらは「被写界深度」を
 意図的に変化させている事と、ほぼ等価となる。

 もし被写界深度系のコントロールだけでは済まない場合は、
 さらなる手段としては背景の絵柄の変更だ、特に気になるのが、
 花等の主要被写体の背景にある木の枝等だ、これが二線ボケに
 見えたりする事が、最も注意する点であろう。

 絞り値等の変更でボケ質破綻が回避できそうも無いとすれば、
 撮影位置、撮影アングル(レベル)等を変えてみるしか無い。
 すなわち、そういう「ややこしい背景」を画面に入れない事だ。
(そして、最も単純には、平面被写体を選択し、背景や前景を
 ボカさなければ、ボケ質破綻も発生しようが無い)

 それから重要な撮影技法としては、各種「デジタル拡大機能」
(画像処理系デジタルズーム、画素補完系デジタルズームや
 デジタルテレコン、撮像範囲(センサーサイズ)の変更等)
 を併用する事だ。

 これらは、「単なるトリミングと等価だ」と思って使用を
 嫌う(躊躇う)中上級者も多いが、これらは裏技として、
「被写界深度を変えずに構図上の被写体の比率を変更できる」
 という大きな利点が存在する(”それでもトリミングと同じだ”
 と言うならば、編集コスト(手間)の低減、および撮影時に
 ある程度、その場で試行錯誤出来る事を利点としておこう)

 つまり例えば、ボケ質の破綻が回避できそうな撮影距離を
 見つけたが、本来作画的に意図していた構図や主要被写体の
 比率とは、ずいぶんと違うものになってしまった。
 そういう時にデジタルズーム機能を用いて、構図の微調整が
 行える訳だ(ただし、拡大側にしか有効では無いが・・)
 被写界深度がキープできるという事は、ほぼイコール「ボケ質
 を、その状態で固定できる」という意味だ。
 
 このあたりの撮影技法は前例も殆ど無く、概念的にも方法論
 的にもかなり高度で分かり難いとは思うが、上級マニア等では
 試してみるのも良いと思う。

 なお、最も簡単なボケ質破綻回避の方法は、レンズを変えて
 しまう事である。職業写真家等では、業務撮影で、こんな面倒
 な事をチマチマとやっている暇は無い。であれば、違うレンズ
 を複数使って撮って、それらの中からボケ質が満足行くレベル
 のものが入っていれば、それで良い訳だ。
 あまりにボケ質破綻が出るのが気になるようなレンズまたは
 カメラも含めたシステムであれば、買い換えてしまうのが
 業務上においては最も簡便な解決策だ。

 ただまあ、マニア等であれば、せっかく色々と買い揃えた
 レンズである、趣味撮影ではいくら手間をかけても良いのだし
 それらのレンズの「長所を最大に引き出そうとする」スタンス
 はマニア道としては当然の事であろう・・

★手ブレ限界速度
 一般用語。

 まず最初に、本ブログにおいては、業務上の花火撮影等の
 ごく稀なケースを除き、他の撮影は100%「手持ち撮影」
 であり、三脚は一切使用しない。
 本ブログでは、それが「常識」となっている。
 本項目についても、あくまで手持ち撮影のケースでの話だ。

 手ブレ補正(レンズ側、カメラ側、画像処理系、ジンバル等)
 が何も入っていないシステムにおいて、「手ブレを起こさない
 為のシャッター速度は、レンズの焦点距離に反比例する」と
 言われている。
c0032138_07064245.jpg
 具体的な計算は簡単であり、平均的な初級レベルの撮影スキルを
 持つユーザーの場合、レンズの(フルサイズ換算)焦点距離を
 シャッター速度(の分母)の数字と見なせば良い。

 例えば、50mm標準レンズでは1/50秒、300mm望遠レンズでは
 1/300秒より速い(分母の数値が大きい)シャッター速度と
 すれば良い。ただし上記の数字は1段刻みのシャッター速度
 には無いので、安全マージンを取るならば、1/50→1/60秒
 1/300→1/500秒のように、適宜「手ブレ限界」よりも
 少し速いシャッター速度になるようにすれば良い。

 で、ここでは特にシャッター優先露出モードにする必要は無く、
 絞り優先モードで撮っている場合は、シャッター速度が足りない
(遅い)と思ったら、絞りを開けるか、又はデジタル機ならば
 ISO感度を高めれば良い訳だ。

 なお、これらの調整を意識すると、レンズはできるだけ開放F値
 が明るいものが有利であるし、カメラの最高ISO感度は高い方が
 望ましい、AUTO ISOで使うより手動ISO設定が自由度が高いが
 一部のメーカーのカメラは、AUTO ISO時に感度が(上に)
 切り替わるシャッター速度を調整できるので、例えば200mm級
 のズームレンズを使うならば、切り替わりシャッター速度
(=低速限界)を1/250秒に設定しておけば安全だ。
(ただし、AUTO ISOでの上限感度があるので、そこは注意する、
 やはり手動ISOが面倒だが確実であろう→だからISO感度変更
 ダイヤルが存在する機種(FUJI X-T1系、SONY α系、PENTAX KP等)
 の必要性が高くなる)
c0032138_07064212.jpg
 この場合の手ブレ限界(シャッター)速度は、フルサイズ換算
 である。だからAPS-C機で最大300mmのズームレンズを望遠端
 で使った場合、300x1.5=450、つまり1/500秒より速いシャター
 速度を使うのが望ましい。

 それと、これは「ビギナー層」での話であり、上級者クラス
 となれば、この「手ブレ限界速度」の2段落ち位、例えば
 1/500秒が要求されているのに、1/125秒で撮ってもブレ無い
 可能性もある。ただしこれは手ブレを起こさない構え等の、
 様々なテクニックを応用しての話だ。

 また、システムに手ブレ補正機能が入っていれば、当然この
 手ブレ限界速度は数段(3~5段)程度、低める事が出来る。
 しかし、これに頼りすぎるのも禁物であり、カメラの正しい
 構えが出来ていないビギナー層では、いくら手ブレ補正が
 入っていても、カタログスペック通りの補正効果は得られない。
(また、超望遠域(例:換算600mm以上等)になった場合も
 仕様通りの補正効果は得られない)

 逆に言えば、上級者では、手ブレ補正の利点を最大に発揮する
 事も可能であり、カタログ値よりもさらに1~2段程度の
 補正効果を得られる可能性もある。
(下写真は、川面に流れる桜の花びらを1/6秒スローシャッター
 での手持ち撮影。手ブレ補正機能は無しで、手ブレ限界速度の
 3段落ちの状態だ)
c0032138_07064286.jpg
 また、「手ブレ限界速度」は、あくまで「撮る側」の話であり
 高速で動く被写体(例:スポーツ、車両、飛ぶ鳥、等)や、
 近接撮影(例:風で揺れる花、等)の場合は、被写体の
 見かけの移動速度(撮影位置からの角速度)に応じて
 シャッター速度を高めないと「被写体ブレ」を起こしてしまう。
 こちらの計算は、被写体状況や位置関係により様々なので、
 シャッター速度は経験的に決めるしか無い。

 いずれにしても、手ブレ限界速度を意識する事は、撮影時の
 基本中の基本である。

★初級中級者における三脚不要論
 独自概念。

 昔から本ブログでは三脚の使用を推奨していない。
 まあ、三脚メーカーに取っては迷惑な話かもしれない(汗)
 とは言え、私自身も三脚は大小取り混ぜて5~6本は所有して
 いるので、全く持っていないという訳では無いのだが、
 特別な目的での撮影の場合以外は、不要な場合が殆どなので、
 単に使っていないだけだ。

 私が殆ど三脚を使わない理由は6つある。
 1)機材の重量負担が増える(行動範囲などに制約が出る)
 2)撮影アングルや撮影レベル(高さ)の制約が大きい
 3)不意に意図していない場所に現れた被写体に対応できない
 4)上記「手ブレ限界速度」を意識すれば手ブレのリスクは減る
 5)三脚を立て、水準器で測っても、被写体に正対できない場合
  がある(=3次元的には全方向で水平や平行を得る事ができない)
 6)撮影マナーが全般的に低下する。例えば、
  他人の行きかう場所で三脚を立てること往来の邪魔になるし
  前を通る人が邪魔に思えて「そこをどけ」と言ったり、
  逆に、三脚で”写真を撮っているから”と他人に無用な配慮を
  されてしまったり。花壇等に三脚を立てて土壌を荒らしたり、
  殆ど写真を撮らずに単に周囲の人に「機材自慢」をしている
  だけであったり・・等と、良い事が殆ど無い。

 うち、1)~5)は、あくまで撮影者側自身の要素だ、
「手ブレが怖いから」と、ビギナー層は三脚を使う事が多いが
 前記「手ブレ限界速度」などの概念を全く理解していないか、
 または理解していたとしても実践経験が無いので、常に三脚を
 使う「安全対策」(=つまり、逃げ)をしてしまう訳だ。
 その不安要素の為に、1)~3)の様々な撮影条件の制限は
 止むを得ない、と思っている模様だ。

 まあ、この1)~5)は、撮影者側の「好き好き」だ、という
 事は言えるのだが、問題は6)の撮影マナーの低下だ。
 これは他人に迷惑を掛けるので、やってはならない事である。

 近年は少し減って来たが、本ブログ開設時の2000年代中頃
 までの、いわゆる「三脚族」(有名観光地、有名イベント、
 花の季節での名所、珍しい野鳥の集まる場所、モデル撮影会
 等に、多数のアマチュアカメラマンがズラリと三脚を並べて
 集まる状況)の撮影マナーの悪さは目に余るものがあり、
 これらに反発する意味でも、本ブログでは「三脚不要論」を
 ずっと唱え続けている。

 なお、近年では有名寺社等では殆ど三脚・一脚の使用を
 禁止しているし、機材側でも「ISO感度の向上」と、
「優秀な手ブレ補正機能の普及」の2つの技術革新により
 一般撮影での三脚の必然性は、殆ど無くなってきている。
(加えて、レンズ側でも、絞り込まなくても描写力の低下が
 現れ難くなってきている=絞り開放で撮影しても十分)

 また、写真の「個性化」が望まれる状況に文化的な変化が
 あった(例:SNSの普及により、他人と同じような写真を
 撮っても”イイネ”がつかない等)事も重要な要素だ。
c0032138_07064231.jpg
 このため、旧来、三脚を使用していた初級層も三脚を使わない
 撮影技法を行うようになってきていて、そうなると他者を見て
 上記の三脚使用時の1)~6)の問題点がとても目立つように
 なるそうだ。(=自分が使っているときはわからない)

 こうした様々な状況の変化から「三脚族」は、従来よりも
 だいぶ減ってきていて、未だ残っているのは、銀塩時代の
 撮影技法や被写体選別を頑なに守るシニアのベテラン層のみ
 という状況であり、デジタルから写真を始めたような若い層は
 まず三脚を使わない。つまり「三脚族」は絶滅危惧種なのだ。

 まあ、やはり、三脚メーカーには申し訳ない話なのだが、
 これはもう世の中の変化であり、やむを得ない節もあるだろう。
 他の例をあげれば、今時「フィルムメーカーの売り上げが厳しい、
 皆で銀塩写真を撮ろう!」等と言っても、自分も含めて誰も
 その話には乗ってこない、時代の変化とはそういうものだ。

 なお、デジタルにおいても三脚が必要と思われる撮影シーン
 には、例えば以下がある。
 1)花火・夜景ライトアップ等での厳密な撮影(業務用途)
 (注:趣味撮影ならば手持ち撮影はありえる、後日解説予定)
 2)ブレの許されない厳密な商品撮影、厳密な建築撮影(業務用途)
 3)あおりレンズ(シフト、ティルト)を用いた、
  厳密な集合写真撮影や、商品・建築撮影(業務用途)
 4)ピンホール(レンズ)を使用時の撮影(後日解説予定)
 5)連写合成機能(連写超解像、連写ダイナミックレンジ合成、
  連写ノイズ除去、連写被写界深度合成等)を用いた撮影。
 (後日解説予定) 
 6)カメラを含めたシステムの総重量が概ね3Kgを超える機材で
  長時間の撮影が必要な場合(つまり手で持っていたら
  疲労が溜まってしまうから。例:超望遠レンズによる
  野鳥や遠距離スポーツ競技撮影、業務上のスタジオ撮影等)
 7)厳密なビデオ(動画)撮影(主に業務用途)

 見ての通り、三脚が必要なケースの多くは業務用途である、
 ビギナー層はネガティブな理由(例:手ブレが怖い、機材が重い)
 で三脚を使うのが最大の問題点だ。上級者層や職業写真家では
「何故三脚を使わなければならないのか」の理由をはっきりと
 持っている、だから、三脚を使わなくても良い撮影条件では
 わざわざ様々な制限事項が生じる三脚は使用しない訳だ。

 もう1つ三脚利用時の重要な課題は、上記「マナーの問題」
 である、これについては、初級層の場合は、撮影マナーの
 教育を受けていない、あるいは全く意識していない、のが
 最大の原因であると思うが、それに加え、集団となる事で
 気が大きくなってしまったり、「他の人がやっているから
 自分もやる」という日本人にありがちな悪い心理傾向が
 出てきてしまう。これは「三脚族」に限らず、団体旅行や
 電車の中でのオバチャンや高校生など、誰にでもある事だが
 彼らでも、一人一人になると、そこそこちゃんと公共マナーを
 守っている事が多いので、やはり集団心理が主な原因であろう。
c0032138_07065033.jpg
 つまり(趣味)写真を、ちゃんと撮ろうとするならば、決して
 集団では撮らない事だ。
 でなければ、1人で撮るか、または集団であっても写真教室
 などで、マナー教育も出来る優秀な指導者が存在している
 状況が必須だ、リーダーが居ない集団は「烏合の衆」で
 しか無い。

 ただ、仮に皆が集まるような被写体に1人で行ったとしても
 今度は、廻りに同じような目的の人が多数居ると、集団心理
 としての「競争心」が芽生え、場所取り争いとか、他人を
 押しのけての撮影が始まる。これはさらにマナーとしては
 劣悪だ(職業写真家ですら、この傾向が強い。まあ、彼らは
 写真や動画を撮らないと商売にならないので、そうするのだが
 それにしても、他人を突き飛ばしてまでの撮影は最悪だ、
 実際にそういう状況に何度も遭遇しているのであるが、
 これは「周囲の状況に目が行き届いていない」「次にどう撮る
 べきかを考えていない(予習していない)」というプロ意識
 の欠如や、錬度の低さも原因となっていると思われる。
 職業写真家とは言え、皆が皆、優れたスキルや経験を持って
 いる訳も無いのだ、駆け出しも見習いも、いくらでも居る)

 結局、「趣味撮影」分野では皆が集まるような被写体を避ける
 のが最善だ。
 そうすれば、"皆が横並びで、同じ被写体を同じように撮る"
 という「無個性」な状態も、ある程度は解消される、それが
 一番の解決策であろう。
c0032138_07065048.jpg
 それから、近年では三脚に変わる機材として「ジンバル」
(またはスタビライザー、つまり「姿勢安定化装置」)が
 普及しつつある。こちらはまだ発展途上の機材ではあるが
 動画撮影時のブレ低減等の目的で広まってきている。
 これは静止画撮影には多々問題があるが(後日解説予定)、
 まあ近年の動画投稿などの流行に向けては有効であろう。

(参考:近年、映画界においても「手持ち撮影」での作品が
 いくつか話題となったが、正直言うと、手ブレが酷くて、
 見ていて気持ち悪くなって来てしまっていた。まあ
 こういう場合にも、ジンバル等を使用する事は有効であろう)

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さて、今回の「撮影技法・特殊技法Part 1」は、このあたりまでで、
次回は引き続き同サブカテゴリーPart2の用語解説を行う。



レンズ・マニアックス(13)

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新規購入等の理由で、過去の本ブログのレンズ関連記事では
未紹介のマニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。
補足編の「使いこなしが難しいレンズ特集」前後編を挟んで
いたが、今回は、引き続き未紹介レンズを4本取りあげる。

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まずは、今回最初のシステム(レンズ)
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レンズは、HD PENTAX-DA 35mm/f2.8 Macro Limited
(中古購入価格 26,000円)(以下、HD35/2.8)
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)

2013年発売のAPS-C機専用準広角(標準画角)AF等倍
マクロレンズ。
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この時代、PENTAXレンズの一部は、旧来のsmc型番から
HD型番に変わってきている。

ちなみに、smcとは「Super-Multi-Coated」の略であり、
「多層コーティング」の事だ。
1970年代前後にレンズのコーティング技術が発達した際、
PENTAXは早い時期に多層(マルチ)コーティング技術を採用し、
他社レンズに対する性能優位性を築いた、という歴史がある。
これは、当時それなりにセンセーショナルな出来事であった。
c0032138_20142969.jpg
で、当初はPENTAX SMC Takumarというレンズ名称だったのが
その後、SMC技術の方が有名で「ブランドバリューがある」と
PENTAXは思ったのであろうか? 多くのレンズ名称をsmc PENTAX
として、これは近年に至るまで続く慣習となった。
(例:smc PENTAX-DA 50mmF1.8)

なお、製品名におけるsmc表記は、当初発売時には、大文字も
小文字も混在していたと思うが、PENTAXのレンズ名の最初に
冠されるようになってからは小文字表記に統一された。

それから、PENTAXの後にハイフン入りで-DAや、-FAという
表記が正確だ。

さらに言えば、焦点距離と開放F値は、35mmF2.8のように
記すのがPENTAX流だが、この記載法はメーカーによって
まちまちなので、本ブログにおいては開設当初から慣習的に
35mm/f2.8という風に全てのレンズ仕様を記述している。

で、近年ではハイフンの有り無し、大文字小文字の差異により
機種型番が混同しやすい例も多々ある(例:α7とα-7)
よって、本ブログでは旧来よりも慎重に機種型番を記載する
事としているが・・ まあ世間一般的にはこのあたりは極めて
アバウトであり、上級マニアや公式情報に近い立場のWEBで
さえも機材型番記載の正確性は残念ながら期待できない状態だ。

ただ、その事により、そのWEB等における掲載情報の信頼度を
類推する事もある。
すなわち、機材型番や用語の記載がいいかげんであるサイト
の情報は、信用するに値しない、と見なす事もでき、事実
私はそう判断している。

具体的な根拠として、自身の所有する機材の型番を間違える
ような表記は、マニア的には有りえない。世間で言えば、それは
まるで恋人の名前を間違えて呼ぶようなものだからだ(汗)

つまり、誤った記載がある場合は、その機材を所有していない
(下手をすれば見た事すら無い)可能性もあると推測できる。
自分で持ってもいないカメラやレンズの事を、あれこれと
語るスタンスは絶対に納得できないし、信用もできない。

そんな記事で検索ヒットでアクセス数を稼ぎ、あわよくば
アフィリエイト広告の収益を稼ぎたい、と言うのであれば
個人的な信条での「マニア道」からすれば、むしろそういう
世界とは無縁でいたい。

ネット上の仕掛けにより、本ブログでは、本文記事で書いた
カメラメーカー等の広告が自動表示される場合もあるが・・
本文では酷評しているケースでも、最後にそのメーカーの
広告が出たら、なんともチグハグだ(汗)
c0032138_20142997.jpg
さて、本レンズは、smc型番からHD型番に変更されている。
HDコーティングはPENTAXが2012年に発表した、旧来の
smcコーティングに替わる新世代の技術ではあるが、まあ
そこで言う「従来比」は、あまり意味が無い。

というのも、旧来のsmcコーティングも十分に優秀であり、
1970年代には各社は「PENTAXのsmc技術に追いつけ追い越せ」
とばかりに、コーティング技術の改良を推進した訳だ。

当然、PENTAXもそれから40年もの間、smc技術を進化させな
かった訳ではなく、細かい技術改良を続けてきた事であろう。
例えば、このHD型番にする前の段階でも、上級レンズでは、
「Aero Bright Coating」という新技術を採用している。
(例:smc PENTAX-DA★55mm/f1.4 SDM 2009年、
ハイコスパ第1回記事等)


では何故こういう名称に変えたか?といえば、もうこれは
この2010年前半の時代背景特有の「差別化要因」だろう。
この時代、ミラーレス機やスマホの台頭により、国内デジタル
一眼レフ市場が急速に縮退を始めた。

だから、メーカー側は様々な「付加価値」、つまりユーザー
から見て魅力的と思える要素を提示しないと、製品を売り難い
状況となる。加えて、その「高付加価値戦略」は、メーカー
から見て利益の確保であり、下世話な言葉で言えば「値上げの
理由」となる。

すなわち旧来のsmc型番のままでは、たとえ細かい技術的な
改良が続いていたとしても、目新しさは無い。だからここで
HD型番とすれば、技術分野や市場原理に疎いユーザー層は
「HDという新技術が出来たならば、さぞかし写りが良くなった
に違い無い、値段は多少高いが、それは高性能の証であろう、
では、そのHDのレンズを買ってみよう」と思ってしまう訳だ。

技術に詳しいマニア層は、そうした考え方はしない。
「HD型が出たのならば、旧来のsmcタイプの中古が安くなる
から、むしろ、それらは買い頃だ」となる。

事実、私も2010年代前半には何本かの旧型smcの中古ばかりを
購入していた。
ただ、いつまでも、そういう捻くれた(笑)考え方を
続ける訳にもいかない。適当なタイミングで新技術の製品を
受け入れないと、時代遅れになってしまうからだ。

「時代遅れ」とは、使うユーザー側そのものの話というよりも、
デジタルにおける「仕様老朽化寿命」だ。これは技術の進歩の
速いデジタルでは、10年もすれば、その機材は周囲の最新の
機材に比べて大きく性能的に見劣りし「使いたくなくなって
しまう」という状況だ。

2010年代後半には、「そろそろ手持ちのsmcタイプレンズも、
少しづつHD型にリプレイス(置き換え、買い増し)していく
必要がある」と思うようになってきた。
そういう背景での本HD35/2.8の購入である。
c0032138_20142883.jpg
余談が長くなった、本HD35/2.8の話がちっとも出て来ないが
ここまで述べたような「新技術を盲信しない」という点は
むしろレンズの性能を、どうのこうの言うよりもずっと重要な
事だ。ここを理解しないと、市場に踊らされてしまうばかりだ。

さて、本題のHD35/2.8であるが、描写力は全般的に悪く無い。
解像感は高いが過剰すぎる事は無い。他社の近年の同クラス
のマクロでは、カリカリの描写の印象になるものもある中、
ちょうど良いバランスに仕上げられていると思う。

また、旧来のsmc型の安価なDA型単焦点の中には逆光耐性が
低いものも良くあったが、本レンズでは殆ど問題は無い。
新型コーテイング技術の成果が良く現れていると思う。

Limited仕上げでデザインも良い(ただし、FA Limited
シリーズのような金属的質感や高級感はさほど無い)
また、MF時の操作性(トルク感、有限回転式)も及第点。
小型軽量で、さほど高価でも無い事も利点だ。
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大きな弱点は特に見当たらず、APS-C機専用という点を
容認できるのであれば、コスパはかなり良い。
まあ「買い」のレンズであろう。

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さて、次のレンズ
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レンズは、PENTAX Super-Takumar 50mm/f1.4
(中古購入価格 1,000円)(以下、ST50/1.4)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

1960年代頃のMF単焦点大口径標準レンズ。
M42マウントであり、自動絞り機構を採用している。
(注:A/M切り替えスイッチで絞り込み測光が可)
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長期間の発売で前期型と後期型があるかも知れないが、その
見分け方は良くわからない(汗)
ポイントとしては、多層コーティング(SMC)化された
バージョンがあると言う事。
それから、放射性物質を含むガラスを使用しているバージョン
もあるという点だ。
ただ、どの特徴を持つものが前期で、どれが後期なのかは
残念ながら良く知らない。

「放射能レンズ」(他に、「アトムレンズ」あるいは
「トリウムレンズ」と呼ばれる場合も)は、マニア用語である。
1950年代~1960年代の各社の写真用レンズの一部には、
屈折率(や色分散)の異なるガラス素材を用いる場合、微量の
放射性元素を含むガラス素材を用いる事があった模様だ。

何故そんなガラス素材が必要なのか?と言えば、単一の
ガラス素材を使っていては屈折率等が全て同じであり、
レンズ設計上、様々な収差を補正する事が出来ない。
だから屈折率や色分散の異なるガラス素材を組み合わせて、
諸収差を補正し、良好な描写性能を得ようとする訳だ。

しかし、やはり放射能はユーザーにとっては怖い。
そしてこの時代でも、既にガラス素材は少なく見積もっても
数十種類の異なる屈折率等を持つものがあったと思う。
わざわざ放射性元素を含むガラスを使わなくても、その時代
あるいは後年では、代替できるガラス素材が他にも色々と
出てきたのであろう。

ちなみに現代では写真用レンズに限らず、様々な工業分野に
おいても様々な光学特性を持つガラスが必要になっている。
現代の光学ガラスは恐らくは数百種以上にもなると思われる。

それら光学ガラスの仕様の目安となる、屈折率と「アッベ数」を
(注:アッベ数とは、19世紀のカール・ツァイス社の研究所長
であったエルンスト・アッベ氏にちなむ「色分散」の数値指標)
縦横軸にとって、種類を並べると「日本列島」のような形となる。

よって、光学ガラスの専門家の間では、ガラスの種類を選ぶ際に
「太平洋側」「日本海側」という表現を使うと聞く。
(少し前の時代の呼び方であるか?とも思ったが、近年、光学
硝材メーカーの人達と話をした際、一応その用語でも通じた)
c0032138_20144783.jpg
ところで「放射能が怖い」というのは、現代人に刷り込まれた
常識となっている。だが放射線(注:放射能とは、放射線を
発する特性の事だ)は、微量であれば、地球上どこにでも、
あるいは多数の身近な物質(モノ、食品等)にでも存在する。

この辺は、単純に「放射能は怖い」等とは言わずに、正しい
科学的な知識を持って物事を語る必要があるだろう。

例えば、大阪の科学技術館(博物館)では、ガイガーカウンター
(GM計数管)で、いくつかの身近な物の放射線量を計測
できる展示がある(下写真)
c0032138_20144766.jpg
これを試して測ってみると、放射性元素ウラニウムを含む
ガラスの放射線量よりも、なんと海藻等の食材の方が放射能が
強かった(汗)また、世界各国の地域によっては、放射線量が
とても高い場所もある模様だ(特に高地などで顕著)

まあ、そこに展示している放射性物質は、展示側で適宜
意図的に選ばれたものであるから、あまり公平で適切な情報
とは言い切れないかも知れないが・・ まあでも、放射線も
微量であれば日常生活上、どこにでもありうるという事だ。

結局、「アトムレンズ」であるか否か?等は、まあどうでも
良い事であり、問題はどのような写りが得られるか?だ。

本レンズST50/1.4の時代、すなわち1960年代では、大口径
(F1.4級)標準レンズは、まだまだ完成度が低かったと思う。

私は、この時代以降、約50年間の各社の大口径標準レンズの
非常に多くを所有しているので、それらのレンズ群の時代の
変化と技術(描写力)の変遷が、とても良く分かる訳だ。

で、本レンズは、他社の同時代のレンズと比較して若干の
性能優位性があるように感じる。
他社同等品では、絞りを開けていくと解像感が低下するという
オールド大口径レンズの典型的な弱点が出る場合が多いが、
本ST50/1.4は、その弱点が出る程度が小さい。
c0032138_20145636.jpg
それからボケ質がかなり良く、ボケ質破綻も出にくい。
このあたりは本レンズの最大の長所かも知れない。
(ただし、撮影条件によっては、像面湾曲や非点収差の
影響による「ぐるぐるボケ」が目立つケースも稀にある)

解像力の高さと良好なボケ質を両立しているという事での
「収差が良く補正されている」という点では、このレンズは
高屈折率の放射性元素(トリウム?)を含むガラスを使用した
バージョンであり、いわゆる「アトムレンズ」かも知れない。

ただし、コントラストは低目で逆光耐性も低いが、まあこれは
この時代のレンズ設計とコーテイング性能(おそらく本レンズ
はsmc仕様では無いであろう)では、やむを得ないと思う。

まあ、低コントラストはさておき、他の描写力が高いのは
好ましく、個人的にはアトムレンズであっても何ら問題は無い。
なにせ、前述の博物館で、自分で放射能ガラスの放射線量は
測っている、その値が、世の中の他の物質や食材や、地域と
比べても、さほど高く無い、という点も理解しているので、
単純に「放射能が怖い」と言う(思う)事も全く無い訳だ。

さて、本ST50/1.4の入手価格1000円は、ジャンク価格
という訳では無い。これは、昔からの馴染みの中古店に
行って色々と買い物をした際に、ほとんど「おまけ同然」に、
つけてくれた商品であり、便宜上1000円相当としている。

描写力からすると、5000円~8000円程度の中古相場が妥当で
あり、まあ十分にコスパが良い買い物であったと思う。

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さて、次のレンズ
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レンズは、キノ精密工業 KIRON 28-210mm/f4-5.6
(中古購入価格 500円)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

「キノ精密工業」とは聞き慣れないメーカー名だと思う。
キロン(KIRON)というブランド名で、数種類の一眼レフ用
交換レンズを国内発売していた模様だが、海外(米国)の
「Vivitar」へのOEM供給元の1つだった、という話もある。

これ以上の詳しい情報は殆ど残っていない。まあ、断片的な
情報はある事はあるが、確証が持てないので、そのあたりは
割愛しよう、興味があれば各自で調べてみれば良いと思う。
c0032138_20150802.jpg
で、本レンズはOM用マウント品であったので、恐らくは
OMシリーズ発売後(1972~)の、1970年代の製品であろう。

それにしては28-210mmのズーム比7.5は、その当時と
しては珍しいスペックだ、いわゆる「高倍率ズーム」の
先駆け的な製品であったと思われる。

私が28-200mm級の高倍率ズームが「やっと実用的になった」
と認めたのは、2001年発売のTAMRON 28-200XR(A03)
(注:機種名が長すぎるので適宜省略する、ミラーレス・
マニアックス補足編第4回記事参照)である。
この時代以前の高倍率ズームは、大きさ、描写力、最短
撮影距離等の性能が実用レベルに達していないという評価だ。

さて、本KIRON 28-210/f4-5.6はどうだろうか?

まず大きさはかなり大きい、望遠側210mmはまだしも、広角端
28mmで使っていると、通常の広角単焦点レンズは小さいので
「なんでこんなに大きいレンズを持ち出さなくてはならない!」
と悪態をつきたくもなってしまう。
c0032138_20150800.jpg
おまけに広角端28mmでの最短撮影距離は2.5mと、とてつもなく
遠い。一般的には焦点距離の10倍則により28cmまでは寄れて
もらわないと、現代的な広角撮影技法(主要被写体に寄って、
背景の取り込み範囲を広くする)が全くできず、中遠距離の
風景などの被写体を平面的にしか撮る事しかできない。

ただしまあ、この点は1970代当時の技術水準ではやむを得ず、
むしろ、よくこの高倍率ズームを作ったと感心するべきであろう。
なお、望遠側での最短撮影距離は1mと短く、むしろここは長所だ。

描写力は解像感が無く、極めてユルい写りだ、諸収差がかなり
残った設計であると思われ、それを回避する為には、ズーム
全域で、最低でもF8以上に絞って使う必要性がある。
この時のシャッター速度低下に合わせ、今回使用のG6では
(AUTO-ISOの低速限界速度設定が無い為)手動でISO設定を
適宜高めて使用する。

コントラストが低く、逆光耐性も極めて低い。順光であっても
常にフレアっぽい印象なので、被写体にあたる光線状況を考慮
する程度では回避できない。本来であればアフターレタッチで
トーンカーブを補正する必要があるが、本記事ではレンズ自身の
特徴を紹介する為に、その編集作業はあえて行っていない。
(他のレンズ紹介記事でも同様)
c0032138_20150882.jpg
まあ、全ての点で低性能である事が課題のレンズだ。
でも、それを少しでも上手く使いこなせるように色々と工夫
する事もテクニカルな面では面白いし、様々な撮影技能習得の
練習にもなる。

そういうマニアック視点、および歴史的な重要性が本レンズの
特徴になるだろう。このレンズを手にして、その後40年間で、
いかに(高倍率)ズームレンズが進化したのかを、実感する事も
できるだろうからだ。

本レンズの購入価格はジャンクで500円であった、まあ喫茶店での
コーヒー1杯の値段で、色々な練習や勉強が出来るという事である。
(こうした状況を「教材レンズ」とか「ワンコイン・レッスン」と
呼ぶ事もある)

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では、今回ラストのレンズ
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レンズは、TAMRON SP 35mm/f1.8 Di VC USD (F012)
(中古購入価格 41,000円)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

2015年に発売された新鋭の高性能AF単焦点準広角レンズ。
既に本シリーズ記事では、姉妹レンズのSP85/1.8(F016)
を第4回記事で、SP45/1.8(F013)を第7回記事で紹介済みで
これで、このシリーズのレンズはコンプリートだ。
(注:2019年秋に、SP35/1.4 Di USDが発売予定との事)
c0032138_20152310.jpg
SP単焦点F1.8シリーズは、ニコン版およびキヤノン版では、
全てVC(手ブレ補正内蔵)およびUSD(超音波モーター内蔵)
仕様であり、フルサイズ機対応である。

SP85/1.8はニコン用でも電磁絞り(E型)対応であったが、
SP45/1.8および本レンズSP35/1.8は、ニコン版では旧来の
機械絞り連動レバーによる絞り機構である。

この仕様の差は良し悪しがあって、電磁絞りでは2007年製より
古いニコン機では使用できず、通常の機械式アダプターでは
他社機に装着する事もできない。
しかし高速連写時などでも絞りの追従性が良く、結果的に
露出精度が高まる(バラツキが起こり難い)

本SP35/1.8は旧来絞り機構なので他機での互換性、汎用性が高い。
高速連写の問題も、あまり絞り込まなければ露出のバラツキは
発生しないので、気にする必要も無い。
本レンズは大口径の類なので絞り込む撮影技法では、その長所は
活かせない。
さらに安全の為、フルサイズ機であまり連写速度の速く無い機種を
選ぶのが賢明であろう、そういう意味では、今回使用のNIKON Df
などは(Dfの操作系の課題はさておき)ベストマッチだ。
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さて、本レンズの特徴であるが、第一に挙げられるのが
最短撮影距離の短さであり、何と20cmである。

35mmの焦点距離では、焦点距離の10倍法則では35cmの
最短である事が標準的な性能だ。(だが、旧来から30cm
程度の最短のレンズが一般的であった)


以下、マクロレンズを除く35mmレンズで最短撮影距離の短い
ものをあげてみよう。

20cm TAMRON SP35/1.8(F012) 本レンズ
23cm SONY DT35/1.8(SAL35F18) (ハイコスパ第10回記事等)
24cm アルセナール MIR-24 35/2 (ハイコスパ第19回記事等)
    CANON EF 35/2 IS USM(未所有)
25cm NIKON AF-S NIKKOR 35/1.8G ED (未所有)
   CANON EF 35/2(ミラーレス第68回記事等)
   YONGNUO(ヨンヌオ)YN 35/2(後日紹介予定)

所有しているレンズ以外は記憶に頼っているので抜けがある
かも知れないが、大体こんな感じだと思う。いずれにしても
本レンズSP35/1.8の最短撮影距離が飛びぬけて短い。
(注:2位のSONY DT35/1.8は、APS-C機専用レンズだ)

なお、LENSBABY Burnside 35/2.8(未所有)は、最短WDが
約15cmと短いが、これはWD(レンズ先端からの撮影距離)表記
であり、最短撮影距離(撮像センサーまでの距離)では無い。
このレンズの最短撮影距離は、鏡筒長やフランジバック長が
加わり、26cm程度になると思う。

また、マクロレンズでは、勿論最短撮影距離は短く、例えば
本記事の冒頭で紹介したHD35/2.8 Macroは約14cmだ。

本レンズSP35/1.8の最短撮影距離20cmでの撮影倍率は0.4倍
となっている。ただし今回使用のフルサイズ機NIKON Dfでは
DXフォーマットにクロップする事が容易に出来、その場合は
最短撮影距離は当然同じだが、撮影倍率は0.6倍まで上がる。

本SP35/1.8は電磁絞りを採用していないが、これを欠点とは
見ず利点とするならば、一般的なGタイプ用マウントアダプター
で本レンズは、およそあらゆるミラーレス機にも装着可能だ。
例えばμ4/3機に装着すれば、本レンズの最大撮影倍率は0.8倍
に上がり、さらに多くのミラーレス機に搭載されているデジタル
拡大機能を用いれば、容易に等倍(1倍)以上と、一眼レフの
マクロレンズ以上の換算撮影倍率を得る事が可能だ。

さて、最短撮影距離の特徴の話ばかりになっているが、本レンズ
の他の長所も勿論色々とある。

まずは描写力の高さだ、解像力が高くなっているのは近代単焦点
レンズの特徴であるが、旧来のレンズ構成枚数が少ない設計だと
こういう設計をするとボケ質が劣化してしまう危険性があった。


だが、近代の設計では、本レンズは9群10枚とレンズ構成が多く、
諸収差の補正が良く行き届いていて、結果的にボケ質もなかなか
良い。
また、レンズ構成が多い場合は光線透過率の減少や、表面反射の
問題が出てコントラストが低下する場合もあるが、コーティング
性能が優れているからか、そういう欠点は本レンズでは見られない。

まあ、総合的に言うと本レンズの描写力には特に問題が無い。
これは本レンズに限らず、SP45/1.8,SP85/1.8の同シリーズの
姉妹レンズ群も同様の長所を持つ。
c0032138_20152387.jpg
短所であるが、まずピントリングの操作性だ。
シームレスMF機構を実現する為に、例によって無限回転式の
ピントリングを採用している。ただし本レンズには距離指標が
あって、その区間であれば有限回転式だ。
この場合最短と無限遠の距離でピントリングの「停止感触」が
あるならば、他記事でも良く説明する上級MF技法が使え、
本レンズの最短撮影距離が短い長所とあいまって、強力な
MF性能を得る事が出来る。
ただ、本SP35/1.8の「停止感触」は弱く、僅かなクリック感が
ある程度で、そこから先も無限回転式ピントリングが廻ってしまう。

すなわち、ピントリングの操作性は、あまりよろしく無いという
点が本レンズにおける弱点だ。
ただまあ、シームレスMFの長所と、有限回転式MFの長所をうまく
妥協しつつハイブリット構成にするならば、実質的にこの構造に
するしか無いので、まあ、頑張っている仕様とは言えるであろう。

次の弱点は過剰スペックな点だ。
VC(内蔵手ブレ補正)は、この手のレンズでは殆ど不要である。
また、USD(超音波モーター)は、あまり高速では無い。
これらの機能で「高付加価値化」されているのであれば、
これらは不要なので、その分、価格を下げるか、または同じ
価格であっても高性能化して欲しいとも思う。

まあ、高付加価値化は、カメラ市場が縮退している現代の状況では
メーカーの利益確保の理由でもあるから、価格を安くする、という
選択肢は無い事はわかるのだが・・・
(注:本レンズの定価は9万円+税と、やや高価である。
また、本レンズには、SONY Aマウント用が存在するが、そちらは
VC機能が無い(SONY機はボディ内手ブレ補正)が、それでも
定価は同じである)

でも、例えばライバルのSIGMAの新鋭Art Lineの単焦点レンズは
思い切って手ブレ補正機能を廃している(高性能化優先?)まあ
その点ではArt Lineは潔さを感じて、好ましいコンセプトだ。

さて、本SP35/1.8の他の弱点だが、35mm/f1.8級レンズに
しては大型で重量級である事だ、本レンズの重量は450g以上も
あり、フィルター径もφ67mmと大柄である。


ライバル他社の同クラスのレンズの場合だが、以下の感じだ。
CANON EF35/2 IS USM 335g φ67mm
NIKON AF-S 35/1.8G 305g φ58mm

そして、フルサイズ対応ではなく、APS-C専用レンズならば
さらに軽く小さい。例えば、
SONY DT35/1.8 170g φ55mm
NIKON DX35/1.8 200g φ52mm
となっている。

これらに比べると、本SP35/1.8は、かなり大柄で重量級に
感じてしまう。

ただ、本レンズを含むSP F1.8シリーズの3本は、いずれも
φ67mmであり、ND(減光)フィルターの使いまわしは便利だ。
(注:最高シャッター速度1/4000秒機で使う場合、日中では、
ND2またはND4フィルターの装着が望ましい)
c0032138_20152314.jpg
他の弱点だが、ずばり、開放値がF1.8という点だ。
(注:私は全くそうは思っていない。ここで言う「弱点」とは
「このスペックでは、ビギナー層には売れない」という意味だ)

このSP F1.8シリーズのレンズ紹介をするたびに書く事だが、
現代のズーム主体の初級中級ユーザー層に対し、F1.8の
口径比(開放F値)は訴求力が少ない。

一般的な多くのユーザー層は、少しでも開放F値が明るいレンズ、
例えば開放F1.4の方が「高性能で描写力も高い」と勘違いして
魅力的なスペックに感じてしまうからだ。

本レンズの開放F1.8の仕様は、これ以上レンズのサイズや重量が
肥大化しない為もあるだろうし、加えて、開放F値(口径比)を
明るくする事で諸収差が補正が困難になったりする(すなわち
描写力が落ちる)事や、最短撮影距離が長くなる(近接域では
画質が設計限界を下回って劣化するのを防ぐ為、最短撮影距離を
長くするしかない)あるいは口径食が起こりやすくなる・・と
いったあたりの性能的なバランスを意識して、あえて開放f1.8で
抑えているのだと思う。

けど、これだと、一般ユーザーから見えるカタログスペックは
開放F値くらいしか無いため、F1.8は逆に低性能なレンズだと
勘違いされてしまうのだ。
残念な話だが、それが世間一般的なユーザーのレベルである。

少し前の時代であれば、マニア層や中上級者層は、描写力等
にも注目し、公正にレンズを選んでいたのだが、レンズ市場の
縮退による、レンズの高価格化により、マニア層等は、もう
高額すぎる新鋭レンズを欲しいとは思わない。だから現代の
新製品を買うユーザー層は、ビギナーばかりとなってしまい、
「F1.4の方が優れている」等の単純な数値比較判断になる。

これはTAMRONとしても大誤算であろう、ここまでユーザー層の
レベルが急激に低くなっているとは、そう簡単に想像出来ない。

でも、それは純然たる事実だ、何故ならば中上級ユーザー層は
現代のレンズを「高価すぎる」と思っている。過去からの長い
期間の市場を見てきて価格(相場)感覚が出来ているからだ。
で、ましてや35mmレンズは、マニア層であれば5本や10本も
持っていて当然だ。だから、高価すぎるように見える新鋭レンズ
には、中上級者層は正直、興味が持てない。

この結果、TAMRON SP F1.8シリーズのレンズは不人気だ。
発売後2年位で、本レンズの新品価格は定価のおよそ半額の
45000円前後まで落ちてきていた。
中古の玉数も多く、一時期は新品在庫の新古品が多数中古市場に
溢れかえった事もある(これがあると不人気レンズと見なせる)

私の場合、45mm/f1.8や35mm/f1.8は、4万円前後の中古購入
価格となっている。これは安価になった新品価格とそう変わらず、

その点では多少割高の印象も受けるのだが・・
絶対性能からすると、4万円位の相場は妥当な価値感覚である。
後年、3万円台前半位にまで相場が落ちれば、コスパはなかなか
良いレンズになると思う。

追記:本記事執筆後に、SP35/1.4の発売が予告されている。
まあつまり、本記事で書いてきたように、開放F1.8では
現代でのビギナー主体のターゲット・ユーザー層への訴求力が
無い事からの戦略転換であろう。だが、開放F1.4にした事で、
「レンズ市場全体が、なんだかチグハグになっている」という
問題点が解決する訳でも無く、なんとも変な話である。

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さて、今回の第13回記事は、このあたり迄で・・
次回記事に続く。

ミラーレス・クラッシックス(16) SONY α6000

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本シリーズ記事では、所有しているミラーレス機の本体の
詳細を世代別に紹介している。

今回はミラーレス第三世代=発展期(注:世代定義は第一回
記事参照)の SONY α6000(ILCE-6000)(2014年)を
紹介しよう。
c0032138_19560188.jpg
本機は、APS-C型センサー機である。現代のα(Eマウント)
ミラーレス機は、フルサイズ機とAPS-C機が混在して
いるので、ビギナー層等は区別に注意をする必要がある。

本記事での使用レンズは、3種類を用意してある。
c0032138_19560172.jpg
まず最初のレンズは、SONY E16mm/f2.8 (SEL16F28)
を使用する。(APS-C用レンズ、ハイコスパ第22回記事等)

以降、本システムで撮影した写真を交えながら記事を進めるが、
記事の途中で適宜、別のレンズに交換する。
c0032138_19560127.jpg
まず、少しだけSONY NEX/αの歴史とその型番の体系を
振り返ってみる(注:いずれも国内市場での展開/型番)

2010年~2012年 NEXシリーズ(全てAPS-C機、Eマウント)
*NEX-3系 EVFを持たない初級機
*NEX-5系 EVFを持たない中級機
*NEX-6  EVF搭載の中級機
*NEX-7  EVF搭載の上級機(動的操作系採用)

2013年/2014年~ αシリーズ(E/FEマウント機)
*αヒトケタ系(全てフルサイズ機)
 ・α7系 ベーシックな上級機
 ・α7R系 画素数を高めた高級機
 ・α7S系 感度性能を高めた高級機
 ・α9  超絶性能を持つ最上位機
*α6000系 APS-C型、EVF搭載の中級機
*α5000系 APS-C型、EVFを持たない初級機

さて、本機α6000は、NEX-7(2012年、本シリーズ第8回
記事)又はNEX-6(2012年、未所有)の後継機である。

α6000の仕様的な概要であるが・・
NEX-6等の像面位相差センサー(ファスト・ハイブリッドAF)
仕様であるが、NEX-6の約1600万画素に対し、本α6000は
NEX-7等と同様の2430万画素としている。
(NEX-7の他、α65(2012年,デジタル一眼第13回記事)や
α77Ⅱ(2014年、デジタル一眼第18回記事)も
同様な2430万画素のAPS-C型センサー仕様である)

AFについては、NEX-7のAF方式は旧来のコントラストAF
のみであったので、像面位相差AF搭載は技術的な改善が
見られる。ただし、像面位相差AF機能が利用できる
(純正等)レンズは限られている。

旧来機種での仕様上の差異の影響や使い分けについては、
私の場合はNEX-7は「オールドレンズ母艦」とする事で、
AFの弱点を相殺していたし、その際の操作系もNEX-7は
優れていた。(アダプター耐性評価4点、操作系4.5点)

簡単に言えば、α6000(やNEX-6)では(操作)ダイヤルの
数がNEX-7より1つ少ないばかりか、オールドレンズ使用時
上部(又は背面)ダイヤルが何の効能も持たせられずに
非効率的な操作系になってしまう(アダプター耐性2.5点)
c0032138_19560170.jpg
SONYのカメラ全般で、ピーキング性能(精度)に優れる為
MFレンズを使用する為の母艦とする事は望ましいのだが、
この点から考えると、NEX-7にまだアドバンテージが残る。
つまり、α6000は、出来るだけAFレンズを主体とするのが
良いだろうという事だ。(後述のEVF解像度も関連する)

画像処理エンジンは、フルサイズ機α7(2013年、本シリーズ
第13回記事)と同様の新型(BIONZ X)である。

まあ、これらはすなわち、この時代(2012~2013年)の
SONY各機の搭載技術を(悪い言葉で言えば)「寄せ集めた」
ような印象の機体が本機α6000だ。
c0032138_19561229.jpg
で、それまでのAPS-C機の名称である「NEX」は、この機体
あるいはEVF非搭載のα5000(2014年)より、使われなく
なり、前年のフルサイズ機α7/α7Rとともに、ブランド
を「α」に統一した。(注:国内市場での話。海外では
やや先行して、この措置となっている)

この時点で、SONYの機体は、ミラーレス機も一眼レフも
両者「α」となり、ユーザー側からは区別が分かり難い
状況となったのだが、一眼レフは、α:Aマウント、
ミラーレス機は、α:Eマウントと区分するようになり、
Eマウントは、前年のフルサイズ機登場により、さらに
FEマウント(フルサイズEマウント)という区分が
この時代から定着している。(しかし、分かり難い)

まあ、将来的に一眼レフのα:Aマウント機は市場を縮小
する予定である事が明白に見て取れるブランディング戦略だ。

事実、この頃からAマウント機の初級中級機は姿を消し、
以降のAマウント機はα77Ⅱ(2014年),α99Ⅱ(2016年)
の2機種しか新発売が無く、現状の製品ラインナップも
それら高級機(当然高価だ)の2機種しか存在していない。
(注:国内市場での話)

もう一度、これらの製品群の発売年を整理してみよう。

<2012年>
Aマウント α99、α65(デジタル一眼第13回)等
Eマウント NEX-7(本シリーズ第8回),NEX-6等

<2013年>
Aマウント α58
Eマウント α3000,α3500(いずれも国内未発売)
FEマウント α7(本シリーズ第13回),α7R

<2014年>
Aマウント α77Ⅱ(デジタル一眼第18回)
Eマウント α5000,α6000(本機)
FEマウント α7S、α7Ⅱ
(注:α7Sは、機体上ではα7sと、sが小文字のような
デザインとなっているが、正式機種名は大文字のα7Sだ)

なお、以降の時代のSONY機は、また当該機種紹介時点で
歴史を紹介する。

注意点としては、通常、「後継機になると型番が進む」
という市場での常識があるが、SONYの場合、型番が後退する
ケースも稀にある。
例:NEX-7(2012年初頭)→NEX-6(2012年末)
  α6500(2016年)→α6400(2019年)

また、SONYでは旧機種を生産完了とせずに、併売されている
ケースも良くあり(例;コンパクト機のRX100シリーズ等)
複雑な型番体系、販売価格の差異、そして、それらのコスパ
判断が、初級層はもとより中級層でも難しい事であろう。
c0032138_19561289.jpg
・・さて、ここまでの話のような、何処かのWEB等を見れば
記載されているような事(二次情報)ばかりを書いていても
あまり意味が無い。

本ブログでは、その機材を所有するユーザーでしか
分かり得ない事で、かつ、他の何処にも無い情報(一次情報)
を提供する事を主眼としている。
所有してもいない機材の事を、あれこれと書いているような
記事には賛同できないし、その評価内容も信用に値しない。
(例:「画素数が増えたから良く写る」等)

以降は、本機α6000で目についた所を順次書いて行こう。
c0032138_19561235.jpg
まず、本機α6000の購入動機であるが、旧来使用していた
SONYミラーレスAPS-C機(=Eマウント機)の老朽化に
よる代替である。ここで老朽化とは、「仕様的老朽化」
(=新型機が高性能化し、旧機種を使いたくなくなる)
のみならず、酷使による物理的な老朽化が主因だ。

本機α6000以前では、それらは「NEX」というシリーズ名
であり、NEX-3(2010年、本シリーズ第4回記事)、NEX-5
(2010年、譲渡につき現在未所有)、NEX-7(同第8回記事)
を使用していたのだが、いずれもとっくに減価償却済み
(注:この用語の意味は、低価格帯ミラーレス機において
取得価格を撮影枚数で割った値が2円に到達する、いわゆる
「1枚2円の法則」をクリアしていて、元が取れている
という事である)
・・(減価償却済み)であり、それどころか酷使により
いずれの機体もボロボロになってしまっていた。

旧来、これらの機種の主な使用目的(用途)であるが、
NEX-3:Eマウントでのトイレンズ母艦(LENSBABYやHOLGA等)
NEX-7:オールドレンズ母艦、およびEマウントAPS-Cレンズ母艦
となっていた。

だが、NEX-3には、トイレンズ母艦として必須の要素の
(ピクチャー)エフェクトが(時代的に)未搭載であった。
NEX-7は、貧弱なコントラストAFのみの搭載だ。
なお、いずれも手ブレ補正機能が内蔵されていないが、
それは、これらの機種での必須要件とは見なしていない。
(つまり、手ブレ補正が必要となる撮影条件では、他機を
持ち出せば済む話である)

そこで、トイレンズ母艦&Eマウント(APS-C)AFレンズ母艦
としての用途を考えて機種を選択した。
その要件においては、小型軽量、比較的高性能、中古が安価
という条件となり、「本機α6000が最適であろう」という
結論となった。(注:これは2017年頃時点での話だ)
c0032138_19561293.jpg
ただし、本機α6000は、NEX-7の優秀な「動的操作系」が
搭載されておらず、静的操作系にダウングレードされている
(というか、2013年以降の全SONY機から、動的操作系が
非常に残念ながら撤廃されてしまった)事と、それから、
EVF解像度がNEX-7の236万ドットに対して、α6000では、
144万ドットに、これもダウングレードだ。
これらの課題は覚悟して購入する必要がある。

これらの事が、どんな影響を及ぼすか?と言えば、
すなわち、α6000では「オールドレンズ母艦」という点で
「NEX-7の代替にはならない」という事が明白である。
つまり、α6000でオールドレンズを使った際、有効では
無い無駄な操作ダイヤルが出てくる、また低解像度EVFでは、
オールドレンズのボケ質破綻の回避の制御が出来ない。

匠「う~ん、困ったなあ・・ ではまあ、α6000は、
  NEX-3のみの代替と考え、NEX-7は、もうしばらくの
  間、併用して使うとしよう。結局NEX-7の代替機は
  どこにも存在しないので、やはり、いずれは予備機を
  もう1台買うとするか・・」
という選択となった。

なお、何故名機NEX-7の予備機をこれまで買っていなかった
のか? という点は、シンプルな2つの理由があり、1つは
「NEX-7が黒色ボディしか存在しない」という事だ。
これだと、同一機種を2台使う際、ボディ色による見分け
がつかず、ローテーション管理上で混乱を招く。
(これまで同一機種を複数買う場合、機体色で識別していた)

もう1つの理由は、NEX-7は「背面モニターのコーティング
剥げが発生する」という「持病」を抱えている点だ。
c0032138_19562845.jpg
「持病」とは(いずれ「匠の写真用語辞典」記事でも解説
するが)ある時代の機種において、共通の欠陥を持つ事だ。
SONY機の場合、2012年~2013年に発売された殆どの機種で
背面モニターのコーティング剥げが発生している。
(これは、2011年の東日本大震災により、部品調達に
なんらかの品質問題が発生したのだろう、と推測している)

私の所有しているこの時代のSONY機の3機種は、全て
コーディング剥げが起こり、また、中古市場に流れている
機体でも、同様の課題の発生頻度が極めて高い。

何故、こうした問題がメーカーや市場、あるいはユーザーや
専門評価者の間で、うやむやにされてしまうのか、さっぱり
理解できないが、まあつまり、既に6~7年も前の話だし、
初級ユーザー等は、そこまで長期に渡って同一機体を使用
しない。何故ならば「新機種の新機能や高性能に頼らないと
上手く撮れない」という不安を常に抱えているからだ。
(だから例えば、新機種に手ブレ補正機能が内蔵されたら、
皆、旧機種を手放して、新機種に買い換えてしまう)

よって、そんな古い機種の問題点や欠陥については、誰も
何も言わない状態だ。
ただまあ、上級者ともなれば、次々に新機種に買い換える
事の意味の無さ、あるいはコスパの悪さは重々承知している
事であろう。だから、現代においては、最新の機材を使って
いるのは、皆、ビギナー層ばかりで、少し古い時代の機材を
使っているのは、中上級層である、と、完全なまでに明白に
区分が分かれてしまっている不自然な市場の状態だ。

初級層では「古い機種を使うのは格好悪い」と思っている
のだろうが、上級層からはむしろ全く正反対の印象があり、
「彼は古い機種を上手く使いこなしているので、長くカメラ
をやっているだろうし、相当に”デキる”な」という感覚だ。

銀塩時代の中古カメラブームの際は、まさにこの感覚で、
古いカメラを使いこなす事が「格好良さ」の象徴であった。
もし現代または近い将来に、オールド・デジカメブームが
起これば、また、このような文化が一般的になるであろう。

余談が長くなった、このあたりで、使用レンズを交換する。
c0032138_19562876.jpg
レンズは、GIZMON Wtulens 17mm/f16
(他記事では未紹介)を使用する。

本レンズはピント合わせが不要な、パンフォーカス型
トイレンズである。旧来はEVFを持たない「NEX-3」の
担当分野であったが、試験的にα6000で使用してみよう。

この場合α6000の優秀なAF性能等が無駄になる。こういう
状態も一種の「オフサイド」であり、つまり、カメラ側の
性能が無駄に良すぎるのだ。(注:本ブログでの
「オフサイド禁止の法則」とは、「カメラ価格がレンズ
価格よりも高すぎない事」という持論であるが、この事は
広義には「カメラの性能がレンズの性能よりも高すぎる」
という非常にアンバランスな状態を戒める事をも指す)
c0032138_19570524.jpg
オフサイド状態ではあるが、「トイレンズ母艦」としての
本α6000の位置付けがある以上は、これはやむを得ない。
問題は、この状態で使い易いか否か?という点であろう。

さて、トイレンズまたはオールドレンズを装着時に、
まず考慮するべきは露出補正等の操作系である。NEX-7では、
この場合でも豊富なアサイナブルダイヤル数により
優れた操作系を発揮できるが、NEX-3等では使い難い。

本機α6000では「ホイール露出補正」をONにしておけば
常時リアルタイムの露出補正が可能だ。だが、この操作系
はメニュー操作時の誤操作リスクがある点がまず一点、
そして、この設定はレンズ交換をした場合でも有効な為、
AFレンズを用いた場合と共通の設定にせざるを得ない。
c0032138_19570547.jpg
結局、ダイナミック(動的)な操作系では無いので、
このように固定的にならざるを得ない。本機では、AF/MF
の切り替えボタンは無いし、あったとしても、AF時とMF時
でそれぞれ異なる設定を(ピーキングの動作等も含めて)
細かく設定して切り替える事は出来ない(他社機も同じ)
それら一切合切の設定を登録して呼び出せる機種もある事は
あるが、その呼び出しが露出モードダイヤル上等にある
ならば、通常時のその操作子の効能とは矛盾してしまう。
(ユーザー設定を呼び出したら露出モードが変更しにくい)

つまり、この点においては、使用するレンズの種類に応じて、
複数の機種を使い分けるしか無いのだ。具体的な例では、
業務用大型AFレンズ専用機、趣味用小型AFレンズ専用機、
MFオールドレンズ母艦、精密ピント合わせ(大口径や
マクロレンズ)母艦、トイレンズ母艦・・
といった感じとなる。

が、これらを各社マウントで全て5台づつとか揃えて
いたら、際限なくカメラの数が増えてしまう(汗)
だから、1つは1台の機体に複数の用途を兼任させる対策
がある。(本機は、小型AFレンズ、トイレンズ用が主だ)

もう1つは、1つのマウントに拘らず、他社あるいは
他マウントでシステムを別途構築するか、だ。
(例えば、CANON EOS一眼レフを業務用大型AFレンズ専用
のシステムとし、EOS一眼レフには趣味レンズやトイレンズ
を一切装着しない、という割り切りが必要となる)

これらの2つの対策により、際限なくカメラ数が増える
状態は起こり難いが、それでもなお、用途別に最低限は
複数の機体が必要になる事は必至だ。
(=すべての撮影用途を1台のカメラでこなす事は、
いつの時代においても絶対的に無理な話である)
c0032138_19570582.jpg
さて、本機α6000をトイレンズ母艦として利用する事は
旧来のNEX-3での同じ用途よりは、はるかに快適である。

撮影状況により描写が大きく変化するトイレンズにおいては
背面モニターよりもEVFが有効であるし、NEX-3の時代には
無かった(ピクチャー)エフェクトの利用も任意だ。
また、精度の高いピーキング機能はMF時に常時出せる為、
(注:OLYMPUS機やFUJIFILM機では常時出ない)
パンフォーカスでは無いMFトイレンズの使用も容易だ。
EVFの解像力の低さ(144万ドット)は、トイレンズでは
さほど問題にならない。

まあ、快適かつ仕様マッチングは良いのだが、ただ、
本体価格が突出するオフサイド状態である事は確かだ、
本機をさらに後年に、1万円以下の二束三文で買うか、
又は本機を酷使し、減価償却ルールをクリアして、十分
元を取ってから使うのであれば、この課題は緩和できる。
(本機では、もう減価償却ルールをクリアしている)

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さて、このあたりで再度使用レンズを交換しよう。
c0032138_19570438.jpg
レンズは、SIGMA 70mm/f2.8 DG MACRO | ART
(他記事では未紹介)

本レンズは、E(FE)マウント対応品である、つまり純正
レンズ相当であるので、ほとんどのカメラ側機能は
問題なく利用できる。こちらは2018年発売の新鋭レンズ
であり、オフサイド状態にもならない。

(注:本レンズとの組み合わせでは、何故かα6000
のデジタルズーム機能が動作しない。α7でも同様だが、
旧機種NEX-7では動作する、ここは情報伝達プロトコルの
問題ではあろうが、何故そうなったかは原因不明である)
(追記:2018年末のレンズ側ファームウェアVer.02
で、この不具合は解消された)

まあ、小型AFレンズとは言えるが、マクロレンズ故に、
ピント合わせが非常にシビアになる。
c0032138_19572483.jpg
この場合の本体側の必須機能は、像面位相差等の優秀な
AF性能では無く、ピーキングや拡大操作系などのMF性能
である。(注:このレンズと本機の組み合わせでは、
AFが極めて遅く、像面位相差AFが正しく動作していない
模様である)それから、EVFの解像度やボケ質の見え具合や、
各種カメラ設定がEVFを覗きながら快適に可能かどうか?
という操作系全般が問われる事となる。

本機での、こうした「精密ピント母艦」としての用途は
やや向かない、まずはEVFの性能が低い事が課題となり、
また、AFレンズの設定のままでのMF撮影はやりにくい。

その1例としては、MFアシストをONとすると、当然ながら
ピントリング操作で画面の自動拡大が発生するが、
ここで拡大位置の変更や拡大率の変更は、シャッターを
半押ししながらの背面(または前面)操作子での指動線の
移動が起こる為、EVFを覗きながらでは少々やりにくい。

加えて、最終構図確認をする為には、自動拡大を解除
しないとならないが、他機では基本的にはボタン操作が
必要だ。(注;PANASONIC機ではMF時であれば、シャッター
ボタンの半押しで拡大解除可)
が、本機あたりの時代から自動拡大を「タイマー」で解除
できるようになった。
(本機でボタンで解除するのは、拡大機能をFnにアサインし、
かつMF設定時、かつ拡大ボタンを3度押す必要がある・汗)

しかしそのタイマーは、2秒、5秒、無制限しか選べず、
2秒ではやや慌しく、5秒では速くピントを合わせた際に、
画面復帰を待つ時間が、かったるく、勿体無い。
(注:MFアシスト時であれば、最終のピントリング操作
からのタイマー起動開始なので、2秒でまあ十分であろう
ただピント確認作業などが少々慌しい事は確かだ)
また無制限では、容易には全画面復帰させる事が出来ない。

なお、シャッター半押しを解除すれば画面が復帰するが、
AF時は再度のシャッター半押し動作で、またAFが起動して
しまうので、せっかくMFで合わせたのに元の木阿弥だ。
(注:AF開始ボタンを別建てに設定できるが、通常撮影時
では、その操作は煩雑すぎる)

それと、MF撮影時に画面の手動拡大は、どうやら本機では
MF設定時以外は出来ない模様である(拡大ボタンを
Fnキー等にアサイン可能ではあるが、AF-S,AF-A,AF-C,
DMF時では無効であり、MF設定時または再生時のみ有効)
c0032138_19572522.jpg
よって、AFレンズにおいては、まずMFアシスト機能は、
MF中心の撮影時にはOFFする必要があり、さらにはMF
モードへの設定も必要だ(注:AFレンズ以外を装着時
には自動的にMFモードとなる)

が、マクロ等では無い他のAFレンズでは自動拡大があった
方が便利な為、装着レンズに応じて一々これらの設定を
変更するのが煩雑だ。この点、この時代のSONY機から、
Fn機能が搭載されていて、EVF内(または背面モニター)
に表示されるショートカットメニューを表示できる他、
その項目登録を自在編集できる。

この事そのものは、なかなか優れた機能であり、旧来の
NEX-7にあった動的操作系が廃止された事への十分な
代替機能となっていて好ましいのだが、Fnメニュー上に
登録できる機能は選択肢が限られている為、MFアシスト
のON/OFFや、アプリの起動等は、残念ながら登録不可
となっている。(注:AFモードの選択肢は設定可能)

この問題はNIKON機の「マイメニュー」でも同様であり
NIKON機では、さらに登録不能項目が多く、不条理とも
言える仕様だ。これはユーザーが、どんな状況でどんな
撮影をするかを熟考していないか、または知らない訳か、
あるいは過剰な迄の安全対策であり、いずれにしても
仕様設計上での未成熟であろう。

ただまあ、エンジニアの全てが撮影に熟知している筈も
無いだろうから、ここは社外アドバイザー等の意見を
ちゃんと取り入れなければならない。しかしこの場合に
注意しなければならない事は「たとえ職業写真家層とは
言え、様々な撮影技法に精通している訳では無い」という
重要なポイントである。職業写真家層の多くは、特定の
業務撮影分野における撮影技能には勿論熟練しているが、
数多くの撮影スタイルについても同様な保証は無い。

具体例としては、必ずスタジオ撮影で三脚を使っている
人物写真家が、屋外での撮影となると、カメラの構え方
が全くの初心者レベルとなってしまったり、構図が
上手く整えられなかったりする。
また、三脚撮影時には、AFの起動はシャッター半押し
に拘らず、別のキーにアサインするのも有効なのだが、
一般のフィールド撮影では、これでは非効率的だ。

他の実例としては、カメラのカスタマイズやFn等の
設定を「誤操作を嫌う」為に一切行わない職業写真家も
多い。これはまあ安全対策としては理解できるが、
カメラの全機能を全く使っていない訳であり、こういう
人達からは、カメラの操作系についての有益な改善の
意見は収集できないであろう。
(こういう状況もあって、特に各社旗艦機級の操作系の
仕様は、どうしても保守的になってしまう)
c0032138_19572506.jpg
さて、という訳で、本機α6000と「精密ピント型」の
AFレンズとの相性はあまり良く無い。これであれば
フルサイズ機α7系の方が、まだ若干マシという印象も
ある。(まあでも、α7系は、MF系レンズでは使い難い)

それと、これらのAFレンズにおけるMF系動作全般の概念は、
まあ頑張って設計しているとは言えるが、高度で難解で
あろうから初級中級者で意味や動作を理解して使いこなす
事は、かなり難しい。もうAFに完全に頼るか、MFレンズの
場合はピーキング機能に任せるしか無いであろう。

なお、AFに頼るという点では、本機あたりから「瞳AF」が
実装されているが、ボタンが1つその機能に占有されるので
使い込んでいない為、その評価は本記事では避ける。
まあ、被写界深度が極めて浅い人物撮影用大口径レンズ
(例:85mm/F1.4)では、その機能があっても無くても
大差なく、「歩留まりが悪い」とは思われる・・
c0032138_19572476.jpg
さて、本機α6000の仕様などは、他のWEB等でも参照
できるだろうから、そこはばっさりと省略し、具体的な
長所短所の話に移ろう。

まず長所だが、

第一に、優れた高速連写機能がある。
近年のミラーレス機では電子シャッター機能(注:撮像
素子シャッターの意味)で、秒コマ数を競う傾向があるが、
電子シャッターは、動体(ローリング)歪みの発生や、
ディスプレイの走査線が写る課題が、まだ残っている為、
機械(メカ)シャッター時のみのスペックが重要である。

業務上での高速連写機能は、秒8コマ以上(連写中に
連写速度が可変できれば良いが、どの機体も出来ない)
そして、AF追従(AE追従が望ましいが、それができる
機種は希少)で、70~80枚が必須というスペックだ。
(これは、近年のデジタル一眼レフでは、CANON EOS
7D MarkⅡや、NIKON D500が、この条件をクリアする)
趣味撮影では、まあ秒7コマ以上で30~40枚連写が
可能であれば十分である。

本機では、秒11コマ(α7Ⅲより速い)で、連続撮影枚数
は49枚のスペックであるが、まあ通常は、このカタログ
仕様はあてにはならない。
本機では、撮影条件を整えても連続撮影枚数はスペック
通りになる事は稀で、たいていの場合、途中で連写速度
が低下したりする。

別にカタログ上に嘘は無いのだが「処理シーケンス」の
問題があり、本機ではバッファメモリーがいっぱいに
なると、一旦それを排出(カードへ書き出し)しないと
次の動作に移り難い模様だ。簡単な例をあげれば、カード
への書き込み中は、記録画像の再生処理も出来ない。

同様に、間欠連写技法を用いたとしても、連写性能が
完全復帰していない状態では、どんどんと連写可能枚数が
減ってくる、まあ技術原理上は当たり前とは言えるが、
そうやってカメラに処理の負荷を重ねていくと、本機
では、メニュー操作も効かなくなる、まあつまりカメラが
忙しすぎてパニックとなり、操作を受け付けなくなるのだ。

注1:カード書き込みが終われば、勿論操作可能となる。
注2:こうした高負荷状態では、カード書き込みエラーが
   発生する場合がある。そうなると管理ファイルの
   自動復旧操作を行わないとならず、合計で1分近く
   もの間、撮影機会を失う。
注3:連写用バッファがいっぱいに近づくと、連写が
   低速化する他、EVFのブラックアウトが始まる。 

ただ、これらはまあ、やむを得ない節もあり、他社機でも
同様な状態に陥る事がある。それと例えばOLYMPUS OM-D
E-M1では、アナログダイヤルが1つあり、これはカメラが
忙しい(ビジー)状態でも操作が可能な為、次の撮影に
備えて、これを変更するが、書き込みなどのカメラ側の
仕事が全て終了しないと、ダイヤルで変更した設定が
反映されないのだ。なので、希望しないモードのままで
次の撮影を行い、あれっ?と思うが、またそこでカメラが
忙しくなり、なかなか希望するモードでの撮影が出来ない。

まあ、近年のカメラにおいて、連写可能枚数増加の為に
バッファメモリーを増強したのであれば、同時にCPUやら
RAM、データバスやメモリーカードといった全ての動作
を高速化しなければならない事が必要となり、さらに、
書き込み動作をいつ行うか?そしてその処理の優先順位
(マルチタスクや割り込み処理、シーケンシャル動作等)
全般も見直す必要があるだろう。(もう少しだけ時代を
待つ必要があるが、どれも新規発想はあまり必要とされず
従来技術を地道に改善していけば良い事なので、いずれは
改良されて行くと思う)

他の長所だが、ピクチャーエフェクトの操作系が
NEXの時代より改善されている。さしもの動的操作系の
NEX-7でも、ピクチャーエフェクトの選択では、一列に
ダラダラと並べられたエフェクトを選ぶ面倒があったが
本機の時代、あるいは前々年α65や、前年α7では
簡易階層構造に変更された。これは、まあ使い易い。

(なお、EVF内での、ピクチャーエフェクトおよびメニュー
のアイコンの縦横比(アスペクト)が他機とは異なる。
縦横比間違いは、映像に係わる人達では、かなり気持ち悪く
見えるので、少々気になる。
まあでも、EVFの解像度が他機より低いので、やむなく、
こうなった可能性が高いとは思うが・・)

エフェクトに関連し、本機では「アプリ(ケーション)」
をインストール可能である、まあPCやスマホと同じ概念
ではあるが、カメラでのこの機能搭載は珍しく、また
従前には存在していなかった。
ただ、アプリの殆どは有料であり、その場合は、実際に
役に立つものかどうかは不明なので、簡単には買えない。
c0032138_19574452.jpg
無料アプリの中では「ピクチャーエフェクト+」が
なかなか有益だ、例えば「パートカラー+」では、
2色の同時抽出が出来、かつその強度変更も可能である。
(注:PENTAX機では、この2色エフェクトは標準搭載だ。
また、NIKON機では事後操作になるが、3色を抽出できる)
c0032138_19574410.jpg
上写真は、パートカラー2色の作例だ。

ただし、アプリの起動やアプリの設定変更は、カメラ側の
本来の「操作系」には組み込む事が出来ず、別建てで
かなり煩雑な操作系となる。まあ「追加機能」なので、
やむを得ないとも言えるが、快適に使えない事は確か
である。その他の有料アプリのインストールについては
この課題を鑑みて、見送っている状態だ。

それから重要な点だが、2012年~2013年のSONY各機
にあった「背面モニターのコーティング剥げ」は、
2014年以降の機種からは改善されている事だ。

まあでも、2011年以前のSONY機では問題なかった
事であるので、元に戻す事は必然であろう。
(この問題を鑑み、該当時期のSONY機の中古が買い難い。
具体的にはα65、NEX-7、α7、α7R、α99等が対象だ)

なお、コーティング剥げは、5~6年使っていて、使用後
に毎回、丁寧に柔らかい布などで磨いていくと、少しづつ
剥げていって、最後には、だいたい綺麗になる場合もある。
しかし、とても手間がかかる対応だ(汗)
勿論、その中途半端に剥げている間は背面モニターを使った
撮影やメニュー操作が見え難い。

その他、フラッシュが内蔵されている点は良い。
他機または他社機では小型化の為、フラッシュは外付け
になっている事が多く、それは付属部品の為、
可搬・収納性、落下紛失などの面で好ましく無い。
内蔵フラッシュは暗所の撮影の他、逆光回避や、特殊技法と
して、振る雪を光らせる、擬似夜景撮影、等にも有効なのだ。
c0032138_19574463.jpg
充電は、旧来の専用充電器からUSB(マイクロB端子)
充電型となったが、これは良し悪しある。
一見便利なのだが、様々なモバイル機器を毎日持ち
歩くと、帰宅後でのPCのUSB端子はカメラや様々な
機器でいつもいっぱいに充電している状況だ(汗)

ただし電池はSONY機の場合はだいたいの時代に応じて
他機と共通である事が多く(ここは好ましい)
必要ならば他機の充電器を使用すれば良い。
なお、この仕様により、カメラから電池やカードを
抜かずに済むため、別売ボディケースの常時装着が
可能となっている。
c0032138_19574485.jpg
さて、では本機α6000の短所である。

まず 操作系全般が、静的(スタティック)であり、
初級中級者向けで、かつ他種多様な撮影スタイルに
対応出来ない。
まあでも、カメラのターゲット戦略(もう今時の
新鋭機はビギナーしか買わない)なので、ある程度は
やむを得ない所もある、そして、これでもSONY機の
操作系は他社機よりもマシな所も多々あり、他社機
では評価2点以下、という酷い状況も普通だが、
本機の評価は2.5点と、基準値をやや下回る程度だ。

後は、バッテリーの持ちが弱い事か。
まあでも、これはSONY機全般の課題であり、
いずれの機体でもバッテリーが持たない。
ミラーレス機では特に顕著であり、本機のCIPA基準
での撮影枚数はEVF使用時に約310枚と貧弱である。

私の持論では、このCIPA規格の5~6倍は持たせたいの
ではあるが、1000枚程度の撮影で、電池が半減、
(注:%表示が出る)し、ここからのSONY機の電池の
減りはとても速いので、こうなってくると不安だ。
上手くすれば、1800枚程度まで持った事もあったが、
もうそれ以上は厳しいと思う(でもまあ、これで
CIPA規格の6倍だから、技能的観点では及第点だ)

なお、本機は過充電させる事が出来る。98%程度
から充電を開始しておくと、100%を超えて充電され
表示100%のままでも、700枚程度の撮影ができる。
けど、これは電池寿命を減らしたり、加熱破壊等が、
とても危険な用法であるので、勿論推奨は出来ない。
(しかし、充電を100%までで留めると、そこから自然
放電が始まってしまう。本機を何日か使わないでいると、
いざ持ち出そうとすると、半分位に減っているのだ・汗
なお、USB充電はとても遅く、例えば外出前に満充電に
するのは不可能だと言える。電池を抜いて保管する事も
1つの対策とは言えるが、何十台も所有カメラがあると、
どの電池がどれだかわからず、現実的な対応とは言えない)

つまり長時間の撮影では予備電池が必須になる事と、
それと、この撮影枚数では、長時間の業務撮影には
適さない。高速連写型の機体で業務撮影を行う為には、
最低でも1日で5000枚の撮影枚数の保証が望ましい。

まあ、これは一部の一眼レフでは無理な数値では無い。
また、SONYのAマウント一眼レフでも、5000枚程度
の撮影は可能ではあるが、これは、かなりギリギリの
状態となる。(1日のイベント終了直前の、盛り上がりの
重要なタイミングで電池切れになる等、これはまずい)

参考だが、近年の職業写真家層等でも、CANON EOS機と
SONY α機(ミラーレス)を併用する場合が多い。
まあ、特にSIGMA製のMC-11電子アダプターが利用できる
という利点もあるのだろう。
だが、長時間の撮影では、α機ではバッテリーが持たない為
メインのシーン撮影の為にα機を温存させ、他のシーンでは
EOS機(一眼レフ)を使っている様子も良く見かける。

SONYの「排他的仕様」により、多社製互換バッテリーを
使わせないようにしている戦略ならば、少なくとも自社の
バッテリーは、もっと持つようにと改良を期待する。

それから、EVFが従来機、あるいはこの時代の常識である
236万ドットではなく、旧世代の144万ドットだ。
ここは、後継機のα6300,α6500では、236万ドット
に改善されているが、これは改良ではなく、本機では
コストダウンしているだけだし、あるいは後継機で
「EVFの解像度が上がりました!」とアピールする為の
確信犯的な「ロードマッブ戦略」だったかもしれない。
いずれにしても、あまり好ましく無い、こういう点で
性能を出し惜しみしてもらいたくないのだ。

EVFは倍率もやや低く、オールドレンズや精密ピント型
レンズ(マクロや大口径等)において、若干不満が
ある事と、解像度の関係で、オールドレンズでの
ボケ質のだいたいの把握がやり難く、ボケ質破綻回避
の技法も使い難い。その為、本機はオールドレンズ
母艦には向かない。NEX-7の正当後継機のα7000が
欲しいところだが、そのターゲット層は、フルサイズ機
のα7/9系となるだろうから、きっとα7000は永久に
出て来ないであろう。フルサイズ機は色々と問題点が
あるのだが・・(本シリーズ第13回α7記事参照)
まあ、ユーザー層は、APS-C機より高価なフルサイズ機が
常に性能が高いと、重大な勘違いをしてしまうのだ・・

後、ユーザー層が初級中級層を対象としているため、
説明書が簡単すぎる(簡略化されすぎている)
たとえば、デジタル拡大機能については、スマートズーム
全画素超解像ズーム、デジタルズームの3種類が存在
するが、その効能の差異や得失について書かれていない。

WEB上の「ヘルプガイド」を参照すると、もう少しだけ
説明があるが、それでも「画質劣化の少ない画像処理に
より拡大する」など、極めて簡単な解説しか無い。
c0032138_19575866.jpg
これだと、「よくわからない」という事は間違いない。
まあ、私の場合は画像処理に係わる専門的技術知識を
持っているので、なんとかこれでも原理理解は可能では
あるが、一般ユーザーはお手上げであろう。
c0032138_19575893.jpg
では、最後にSONY α6000の総合評価を行ってみよう。、
評価項目は10項目である(第一回記事参照)

【基本・付加性能】★★★☆
【描写力・表現力】★★★☆
【操作性・操作系】★★☆
【アダプター適性】★★☆
【マニアック度 】★★☆
【エンジョイ度 】★★★☆,
【購入時コスパ 】★★★ (新古購入価格:31,000円)
【完成度(当時)】★★★
【仕様老朽化寿命】★★★
【歴史的価値  】★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】2.9点

総合点は、ほぼ平均点である。
突出した特徴は持たないが、かと言って、大きな
弱点は無い。

新古品(恐らくは展示品)で、ボディケースも付属して
いたのだが(これも、α6500以降で使用できない故の
在庫処分品であろう)
その状態でも、私の感覚的にはやや値段が高い。

例えば本機α6000よりも、やや高性能で、評価点も
好評価(3.9点)のNEX-7の中古相場の方が安価であり
それであれば、2万円台で購入できる。
また他社ミラーレス機でも2万円台で、本機と同等か
それ以上のパフォーマンスを持つ機体は多数存在する。
(本シリーズ記事で紹介の各旧世代機記事を参照。
注:近年においては、本機の中古相場は下落している)

ただ、α:Eマウント機を必要とする初級中級層では、
NEX-7の動的操作系を使いこなす事は、まず無理で
あろうから、本機α6000の方が初級中級層においては、
はるかに使い易いと思われる。

現代において、α7系Ⅲ型機等は、高付加価値化戦略
によって非常に高額になってしまった為、本機の
一般的視点でのコスパの良さは、そこそこの長所だ。
ただし「フルサイズでなくちゃ嫌だ」などの無意味な
拘りを持っていないユーザーである事が必須条件だが。

---
さて、今回の記事で第三世代(2013~2014年)の
ミラーレス機の紹介は終了、もし今後第三世代機を
追加購入した場合は、適宜「補足編」として紹介予定だ。

では次回記事は、第四世代のミラーレス機を紹介する、

ハイ・コスパレンズBEST40 (3) 40位~37位

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高いコストパフォーマンスと付随する性能を持った優秀な
写真用交換レンズを、コスパ面からの評価点でのBEST40
をランキング形式で紹介するシリーズ記事。

今回より本編として、BEST40にランクインしたレンズを
下位から順に紹介して行こう。
(ランキングの決め方は本シリーズ第1回記事を参照。
評価得点が同点の場合は、適宜、順位を決定している)

なお、予め40位から1位までを通してチェックしたが、
結構マニアックなレンズばかりが並んでいる事が判明した。
(まあ、マニアック度というのも評価項目の一部だからだ)

加えて、今回の記事に関しては、あまり初級中級層に対して
有益な高コスパレンズは登場しない、いずれも少しマニアック
すぎ、利用範囲(実用価値)も、かなり限られる物ばかりだ。
まあこれは、まだランキングが下位である事も原因であり、
今後、ランキングが上位に行くに従って、より実用的で
入手もし易いレンズが沢山出て来る事であろう。

それから、初級中級層が「良いレンズだ」と想像するような、
有名ブランドレンズとか、大三元レンズ、最新高性能単焦点
等のレンズは、今後たりとも一切出て来ないので念の為。
ここではあくまで「コスパの良い」レンズしか紹介しない。
まあ、純然たる評価点数計算による順位ランキングでは
あるが、評価は多方面に及ぶ為、無闇に値段が高いレンズは、
絶対にランクインはしないのだ。

なお、ごく近年発売の新鋭の海外製(中国製等)レンズ群の
一部はランキング入りの可能性があったが、本シリーズ記事
執筆時点では購入や評価が間に合っていなかった。

それから、本シリーズ記事では実写に用いるカメラは、
レンズのパフォーマンスを最適に発揮できる物を使用する。
しかし、いずれも安価なレンズであるから、ボディの価格が
レンズよりも突出する「オフサイド」を禁じるルール(持論)
については緩和する。

では、ランキング下位のレンズより順次紹介して行こう。

---
第40位 
評価得点 3.35 (内、コスパ点 3.0)
c0032138_12572661.jpg
レンズ名:RICOH GR LENS A12 50mm/f2.5 MACRO
レンズ購入価格:24,000円(中古)
使用カメラ:RICOH GXR(A12 ユニット使用時APS-C機)

第40位には、GXRのマクロユニットが入った。
(ハイコスパ第17回等、多数の記事で紹介)
c0032138_12572796.jpg
このシリーズ記事では「入手性の悪いレンズは対象外」
というルールを設けているが、本ユニット(レンズ)は
現状、入手性がギリギリの状況である。
元々2009年の発売と古く、仮に本ユニットを中古等で入手
できたとしても、本体のGXRは仕様老朽化寿命の低下が甚だしい。

すなわち、GXR発売時のコントラストAFの性能では、本ユニット
での、ピント精度を要求される近接撮影では、全くと言って
いい程ピントが合わず、この用途においては、現代的な感覚
からは使い物にならない。

だから、本シリーズに取り上げれるかどうか、ギリギリの
システムとなる。なお、GXRシステムのランクインは今回が
最初で最後になる事は確定で、今後、他のGXR(GR)ユニットが
ランクインする事は無い。
まあ逆に言えば、GXRのシステムで、本ユニットだけがまだ
「現代においても、かろうじて使える」という事である。

本ブログでは「仕様老朽化寿命」の目安として、
「デジタル機が使えるのは発売後10年迄」という持論を
良く述べている。それを越えると、まだ機械的・電子的には
問題無く動作していたとしても、周囲の新型機の性能に対して
大きく見劣りしてしまう為、使いたく無くなってしまうのだ。

確かに、GXRシステムは。その発売当時(2009年)としては
かなり先進的な仕様を盛り込んでいた。ただ、AF性能が低い
という重欠点を持つ為、実質的には「発売後10年の法則」
そのものの「2019年」迄が実用の限界寿命だと判断している。

ただまあ、過去記事でも何度も評価した事だが、
ともかく本ユニット(レンズ)は、上手くピントが決まれば
非常に良く写る。
構造は普通のマクロレンズだとは思うのだが、それにしても
描写力が高レベルなので、ピントがいくら合い難かろうが、
使いたい気持ちにはさせてくれるユニットだ。
c0032138_12572710.jpg
この描写力が、こんなGXRのような小型軽量なシステムから
得られる事は、ある意味驚異的だ。
発売時のインパクトは物凄いものがあっただろうが、
まあ現代でこそ、小型軽量のミラーレス機によるシステムで
一眼レフのシステムと同等かそれ以上の高描写力を得る事は
可能にはなっているので、今時では驚くには及ばない。

・・だが、とは言う物の、GXRのA12 50/2.5Macroは発売後
何年たっても、その描写力に関しては色あせる事が無いように
も思える。やはり凄いユニット(レンズ)であろう。

だから、上記の「2019年が使用の限界」は、ブログ記事では
対外的には、そう言うのだが、個人的には、まだそれを越えて
長期間使う気には、十分になるだろうと思っている。

A12 50/2.5ユニットのマクロレンズとしての仕様だが、
実焦点距離33mm(APS-Cセンサーで、フルサイズ換算50mm)
最短WD(ワーキング・デイスタンス)7cm
最大撮影倍率 1/2倍(換算)
となっている。

等倍仕様では無いが、内蔵デジタルズームが4倍まで連続的に
効くので、「寄れない」という不満を感じた事は無い。
c0032138_12572616.jpg
本ユニットの価格が高い事は、まあ弱点である。
中古で24,000円も出すのであれば(注、2015年頃購入)
優秀なTAMRON 90mmや60mmマクロが中古で買えてしまう。
汎用性の高いそれら一眼用マクロに比べて価格面では不利だ。

しかし、本ユニットは発売時にはおよそ75,000円もしていた
ので、これでも定価の1/3の価格で買っているのだ。
(というか、定価の1/3を目安として、そこまで相場が下がる
のを待っていて、やっと下がったので買った訳だ)

それに、タムロン90マクロや、60マクロ(注:APS-C機専用)
は中望遠画角だ、小型軽量の標準画角(50mm相当)マクロを
必要とする場合、このA12ユニットの存在は無視できない。

描写力は魅力的だが、GXRシステムの仕様的老朽化から、現在に
おいて、本システムを初級中級層に薦める事は絶対にできない。
勿論、本ユニットはGXR専用で、他機では使用できない。
本ユニットは、使いこなしの困難さもあり、上級マニア専用、
と言う事にしておこう。

余談だが、本記事執筆後、本ユニットは電気的に故障して
しまった、露出が安定しないのだ(屋外で稀に真っ白に写る)
かつ、もう修理期間非対応との事だ(汗)
やむなく、同型ユニットを、もう1本追加購入している、
その話は、また別の記事で紹介しよう。

---
第39位 
評価得点 3.40 (内、コスパ点 3.0) 
c0032138_12581359.jpg
レンズ名:LENSBABY TWIST 60mm/f3.5
レンズ購入価格:39,000円(新品)
使用カメラ:SONY α7(フルサイズ機)

続くレンズも、かなりの個性派(特殊)レンズだ。
(レンズマニアックス第2回記事で紹介)

本レンズの特殊性の詳細は、当該記事でも説明済みであり
重複する為に割愛するが、一言で言うと「ぐるぐるボケ」
が出るレンズである。
c0032138_12573825.jpg
これは極めて特殊な描写であり、実を言うとあまり有効な
使い道がまだ見つかっていない。確かに個性的な描写では
あるが、個性的すぎて、何に使ったら良いか不明のままだ。

人物撮影に使うという利用目的が、かろうじて考えられるが、
依頼撮影や業務撮影等で、背景が「ぐるぐるボケ」だったら
「ふざけているのか?!」と、依頼者やクライアントに
怒られてしまうかも知れない(汗)
だから、人物撮影だとしても完全なるプライベート用途だ。

しかし、そうだとしても、もっとちゃんと写るレンズを
色々と持っているのに、わざわざ本レンズを使うだろうか?
・・やはり、どう考えても有効な使用目的が思い付かない。

中古の流通も極めて少なく、欲しければ新品で買うしか
無いであろう。
2016年発売の新しいレンズであり、発売後まだ日が経って
いない状況で新品購入した為、購入価格は39,000円と高価だ。

これだと、ハイコスパという点では厳しい価格帯なのだが
この極めてユニークな描写特性は、他に代替するものが
(殆ど)無いとして、コスパ評価の減点はあまり行って
いなかった為、総合的に(下位ではあるが)ランキングに
入るレンズとなった訳だ。
c0032138_12573804.jpg
なお、一見して本レンズは「トイレンズ」に見えてしまう事で
あろう。トイレンズと言うとLOMOやHOLGA、そしてPENTAX

Q用のユニークレンズ等を想像すると思う。

そう考えてしまうと、それらのトイレンズの相場は、数千円
程度であるから、本レンズは、それらよりもヒトケタ高価だ。

トイレンズ好きのマニアはさほど多くない、とは様々な記事で
述べてはいるが、仮にそういう希少なマニアであったとしても
「こんな高いトイレンズは買えないよ!」と思う事であろう。

だが、本レンズの描写力は、一般レンズ並みに高く、決して
トイレンズの「Lo-Fi描写」では無い。

まあ、本レンズに限らずLENSBABY社製の、概ね3万円以上の
価格帯のレンズ群は、いずれもそんな感じであり、本格的な
撮影用途にすら耐えられる画質ではある。ただ描写の特徴が
独特なだけだ。が、それが万人に受け入れられる描写傾向では
無ければ、業務用途に使うのはちょっと苦しい事であろう。

そして、MFレンズではあるが、ちゃんと絞り環もついていて
それにより「ぐるぐるボケ」の発生量を制御可能だ。
なお、この効果を最大限に発揮するには、APS-C機よりも
フルサイズ機である事が望ましい。なので本記事でも母艦は
フルサイズのα7を使用しているが、基本マウントは一眼レフ
用での販売なので、マウントアダプターが必要だ。
c0032138_12582295.jpg
ともかくユニークなレンズだ、この描写特性の使用目的の少なさ
から、初級中級者はおろか、上級者にも推奨はまったく出来ない。
じゃあ誰が買うのか? これはもう上級マニアのみであろう。

あるいは、元々のティルト型LENSBABYが流行したユーザー層
つまり「アート系初級中級層」というカテゴリーの層も主力の
ターゲットであり、彼ら彼女達は、アートというジャンルでの
「他人とは違うユニークな描写(作品)」を常に求めている。

まあでも「アート系上級層」の場合は、「一般的に販売されて
いる機材を使っただけ」という安直な作品では満足できないで
あろうから、さらなる特殊技法や高度な編集技法を駆使して、
より「他者との差別化が出来る」個性的な作品を狙うだろうから
安易に「ぐるぐるボケ」だけに頼るような事はしないであろう。

総合的には、極めてユーザー層が限られるレンズではある。
(こうしたユーザー層を、LENSBABY社では「フリーク」と呼ぶ)

本シリーズでの、ハイコスパレンズのランキングという
コンセプトには若干そぐわないレンズではあるが、まあ、まだ
下位なので、そういうケースも(前述のGXRも含め)出て来る
という訳だ。

---
第38位 
評価得点 3.40 (内、コスパ点 3.0) 
c0032138_12585389.jpg
レンズ名:NIKON NIKKOR Ai135mm/f2
レンズ購入価格:47,000円(中古)
使用カメラ:NIKON Df(フルサイズ機)

続く第38位も若干レア物だ(汗)
1970年代~1980年代のMF単焦点大口径望遠レンズ
(ハイコスパ第18回記事等で紹介)

Ai型番なので当然MFレンズだ。この時代以降の1990年代頃
からのNIKON製一眼用AFレンズは、AiAF型番になっている。
ただし、AiAFになった際、本レンズと同じ135mm/f2の
スペックを持つAFレンズは、DC(デフォーカス・コントロール)
仕様のレンズへと変化してしまっているので、純然たる
ニコンの135mm大口径レンズは、本レンズ迄で終了だ。
(DCレンズについては、ミラーレス第35回記事等を参照)

(注:近年のNIKONのWEB等では、「Ai」では無く「AI」と
記載されてている。勿論、旧来から「Ai」であったのだが、
いつから変更されたのだろうか? まさか「人工知能AI」
が流行しているから、それに便乗した訳ではあるまいが・・)
c0032138_12585355.jpg
こうした135mmのF2級大口径単焦点レンズは特殊用途に向く。
私はMFで2本、AFでも2本のそれを使用しているが、例えば
屋内中遠距離人物撮影(結婚式、ライブ、舞台等を含む)や
屋外での暗所のイベント(屋外ライブ、屋外イベント)に
おいて、フルサイズ機では135mmの中望遠画角、APS-C機では
200mmの望遠画角となり、いずれかの使用目的に比較的マッチ
した仕様となる。

現代の中上級ユーザーであれば、この目的には、
70-200mm/f2.8級のズームレンズを使用する事が一般的では
あるが、まずそれは重厚長大だ。

すなわち、135/2級の単焦点であれば、F2.8級望遠ズームに
比べて、重量が2/3程度に軽く、開放F値が1段明るく暗所に向く、
ボケ量も大きく、ボケ質も良く、最短撮影距離も多くの場合
単焦点が優れ、価格も多くの場合単焦点が安価だ。

という事で、基本的に私は70-200mm/f2.8級ズームを使用
する事は無い(現在は1本も所有していない。・・と言うか、
過去には使用していたが、好みに合わなかったのだ)

そのズームの目的を代替する為には、70~85mm(F1.4~F2級)、
100~105mm/F2級、135mm/F2級,180~200mm/F2.8級の
都合4種類の大口径レンズ群が必要であり、かつ、撮影状況
(距離やアングルの自由度)により、それらから1種類または
2種類を選択して持ち出す事が必要だ(注、私は単焦点望遠
レンズはF2.8程度迄とか大口径に制限しなければ、非常に
多数、恐らく70本程度は所有している)

加えて、それらは単焦点レンズであるから画角の自由度は無い
(その点は、近年であればデジタルズームやデジタルテレコン
機能の使用、あるいは高画素からのトリミングで対応できる)

一見して「面倒な話だ、70-200/2.8で十分では無いか!」
と思うかも知れないが、このあたりは機材利用のコンセプトや
撮影条件、狙う作画意図、好き嫌い等もあり、一概には言えない、
まあ、ともかく私はそうしている。

だが、一般ユーザー(初級中級者はもとより、上級者あるいは
職業的な写真家であっても)では、概ね全員が70-200/2.8級
を使用するだろう、それがデファクト(事実上の)スタンダード
である。開放F値2.8の「暗さ」も、現代の超高感度一眼レフで
あればシャッター速度的な問題点は無くなる。

さて、この時点で、135mm/F2級レンズの用途は、一般的
ユーザーにおいては皆無となった。だからこのランキングの
記事に出てきても、あまり意味が無いかもしれない(汗)

だが、マニアックさと言う点では、このあたりの単焦点望遠
(特に大口径)レンズ群は、絶対に外せないのだ。
でも、マニアがこれらを欲しがるか? 実は、そこも微妙だ。

初級中級マニア層は、概ね28~50mm位の広角~標準系の
単焦点レンズに興味が行く事であろう、この焦点距離は、元々、
銀塩時代のライカ等のレンジファインダー機の主力レンズ群で
あり、レンジ機は構造上、望遠系レンズが極めて使い難い事や、
これらの広角系レンズが、当時対抗勢力であった銀塩一眼レフ
においては、ミラーBOXの存在という一眼レフの構造的な問題点
により、高描写力を得る設計が困難であった(つまり、レンジ
機用の広角の方が、一眼レフ用の広角より小型で写りが良い)
事から人気が高まった事を源流としている。

しかし、その事は、今から概ね50年以上前の時代の話であり、
そして、その後、今からおよそ20年前の、第一次中古カメラ
ブームの際に、一時的にその概念が再燃してレンジ機用広角が
重用された事はあるのだが、いずれにしても古い銀塩時代の話だ。

その後、デジタル時代になって様々な光学技術は進歩したし、
ズームレンズの改良開発を優先していた為に、やや遅れていた
単焦点レンズの技術革新も、ようやく2010年前後から始まって
いる。

だが、ユーザー層のマインド(心理)は、あまり変化していない。
と言うのは、何十年前の話、とか言っても、場合によっては、
同じマニアが同じ心理状態(常識、知識、価値観)によって、
中古レンズを買い続けている事も非常に多いからだ。
なので、基本的にマニア層は、望遠系レンズには、あまり興味が
無い事が普通だ。

マニアが欲しがらない、一般ユーザーも使わない、だから、
このあたりの望遠レンズ群に対する評価や評判は世の中には
殆ど広まらない。
c0032138_12585338.jpg
さて、やっとここからが本題だが、本Ai135mm/f2は、
MF時代のニコン純正レンズとしては高い描写力を持つ。

ただ、高描写力といっても色々と判断基準(要素)はある。
風景撮影等を基本とする広角レンズであれば、解像力という点が
最も重要な判断基準となるだろう、だが望遠ではそうでは無い、
むしろボケ質や、ボケ質破綻の頻度といったものが重要だ。

その点において、銀塩MF時代のニコンレンズは、多くが解像力
を優先した設計となっている。
何故ならば、その当時のニコン製品は、報道や学術の用途で高く
評価されていた為、それらの撮影分野では、ともかく被写体が
はっきり、くっきりと写っている必要があった。
そういうコンセプトでレンズ製品の設計を行っていた為、
ボケを重視した、アート系、人物系等の撮影分野に適合する
レンズがニコンには殆ど存在していなかったのだ。
(だから、当時のライバル他社はニコンレンズのその弱点を
突いたレンズ群を開発していた)

で、その目的(ボケ重視)の場合、当時のニコンMF望遠系では、
85/1.4,105/2.5,135/2,180/2.8あたりが、かろうじて及第点だ。
本レンズもその中の1本である。

ただまあ、その後の時代のニコンあるいは他社の(中)望遠の
方が、ボケ質も優れ、解像感も高くなっているケースが多く、
本Ai135/2はあくまで、「クラッシック」なカテゴリーに
属するものであり、絶対的性能が高いとは、なかなか言い難い。
c0032138_12585240.jpg
本Ai135/2の弱点だが、まず重いレンズである事。
860gという重量は、デジタル一眼レフ高級機本体と同等であり、
MFレンズである事もあいまって、ボデイとの総合重心位置で
ピントリングの操作をバランス良く行う事が困難だ。
よって、使っていて非常に「疲れる」レンズとなってしまう。

それと、中古相場が高価である事。
1990年代の購入時に47,000円であったのが、現代でも相場が
落ちる事はなく、程度によって5~10万円の高値で取引
されている。

この点であるが、ビギナー層から見れば、ブランド力の高い
ニコン製のレアなレンズで、しかも開放F2は凄そうに見える
(特に、ビギナー層が「大口径ズーム」と言って崇拝する 
70-200/2.8より明るい)事から、「高くても欲しい」という
初級マニアやビギナー層が居る為に、高値の相場になっている
という事だ。

高く売れる可能性があるならば、「投機層」も、それを意図
した価格での取引となるし、中古店舗側での値付けも同様だ。
結果的に、レンズの絶対的性能とかの実用的な要素は無視され、
中古相場は勝手に上昇する。(=プレミアム相場となる)

レンズを実用的に使う、という立場からは、馬鹿馬鹿しい話
なので、本レンズもまた、推奨の対象からは外しておく。

「実用的な高コスパレンズを紹介する」というコンセプトで
始めたシリーズ記事であるのに、推奨しずらいレンズばかりが
並んでしまって、なんだか申し訳ないのだが・・
まあ、単に評価点を算出したら、こういうランキングになった
という事ではある。

それに、本来であれば、本Ai135/2の高い性能であれば
ここまでランキングが下位になる事は、むしろ不思議なのだ、
まあ色々と世情での問題点があるから、それを加味した採点
評価を行った結果、ここまで下位となってしまった、
というのが正解なのかも知れない。

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第37位 
評価得点 3.40 (内、コスパ点 3.5) 
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レンズ名:PANASONIC G20mm/f1.7Ⅱ ASPH.(H-H020A)
レンズ購入価格:23,000円(中古)
使用カメラ:PANASONIC LUMIX DMC-GX7(μ4/3機)

上の40年前のAi135/2とは一転して、2013年発売の
近代レンズ、これはミラーレス(μ4/3機)専用AFレンズだ。

そして、過去のハイコスパレンズ・マニアックス記事には
登場していない、これは未所有だったからでは無く、
(ミラーレス・マニアックス第45回、補足編第7回で紹介)
「コスパの観点からは紹介に値しない」レンズであったからだ。
c0032138_12590352.jpg
本レンズは、その初期型(2009年発売)を含め、
初級ユーザー層から「神格化」されたレンズである。
ただ、あくまでそれは「初級層」においての話だ。

本レンズ(初期型)がキットとされた PANASONIC DMC-GF1
(2009年)は初級層向けのミラーレス機であり、そのユーザー
層の殆どは、F2以下の大口径単焦点レンズなど、使った事も
見た事も無かった。殆どが開放F値3.5程度の標準ズームの
写りしか知らなかったに違い無い。

そんな中で、初級層向けに、(広角だが)大口径単焦点
レンズが販売された事は、それはまあ、見た事が無い写りに
そこそこのインパクトを受け、「神格化」してしまう事は
有り得る話だ。
おりしもSNS普及の時代だ、誰かが言い出した事は、その
真実味はさほど問われず、急速に拡散されてしまう。

「神格化」により、2010年代前半を通じて、本レンズの
初期型G20/1.7は中古市場でレア品となり、たまに出てきても
相場は25,000円越えの不当な高値となった。

私は、実用用途(μ4/3機で明るい準広角が欲しい)という
点で、本レンズは持っておくのが望ましいと思っていたし、
友人に良くライブ撮影を行う上級マニア氏が居て、彼が
「ライブ撮影には、なかなか使いやすい」という評価を下して
いたので、私も欲しかったのだが、この相場であれば無理だ。
私の価値感覚からすれば初期型の適正価格は1万円台後半迄だ。

2013年頃にⅡ型となったが、内部の光学系は旧製品と同一だ。
こういう場合の私の判断は「初期型から十分に完成度が高い」
という事となる、つまり、「改良型でも光学系を変更しない
レンズは、元々高描写力を持っている事が保証されている」
という意味と間接的に等価になり、購入に値するレンズとなる。

Ⅱ型の発売以降、やっと中古市場には、初期型もⅡ型も流通が
復活した、これは「投機層」や「コレクター層」においては
市場でセミレア品となると「今売るのは勿体無い」という
判断となるが、新型が出ると「旧型の相場が安くなる前に売る」
という市場判断に変化するからだ。
これは、私のような中古購入層からは「買い頃」という状況だ。

2014~2015年頃には、初期型とⅡ型の中古相場の差も殆ど
無かったので、外観デザインが格好良くなったⅡ型を選択して
購入した次第である。
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さて、やっと入手した本G20/1.7であるが、期待外れであった。
いや、描写力全般は決して悪くは無い、初級層が神格化する
程まででは無いが、まあ及第点ではある。

問題はカメラ側にあった、コントラストAFしか無いμ4/3機
においては、AFの精度が不足する。後年のPANASONIC機では
空間認識AFが搭載されているので、精度はともかくAF速度は
改善されたのかも知れないが、あいにくその機能を搭載した
新型機は所有していない(理由は、操作系が改悪されたからだ。
ただ、そろそろ所有機が古くなって来ているので、ぼちぼち
それらを購入する必要がある。気に入らないが、やむを得ない)

で、AF精度の低さは、G20/1.7の大口径と広角と近接性能を
利用した近接マクロ撮影が最適だと思われる際、そうした
撮影を行うと、ピントが全く合わないのだ。
パナソニックμ4/3初期のG1やGF1がNGなのはやむを得ないが
後年のG6や今回使用のGX7を使っても同様に近接ピント精度が
かなり不満だ。

そうなると「MFだとどうか?」という点だが、無限回転式の
ピントリングでは近接撮影で手指の感触で最短撮影距離
(20cmである)がわからず、仮にGX7のMF距離スケール表示機能
やピーキング機能を使ったとしても、あまり改善はされない。
問題点はそこ(アシスト機能の利用)ではなく、カメラを構えた
位置から、被写体までの距離を正確に事前判断できるかどうか?
という感覚的な点である。勿論、想定した撮影距離が最短を
下回るとピントは合わない、その見極めが困難なのだ。
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まあ、レンズ自体には描写力も仕様上もあまり問題点は無い、
しかしシステム上(μ/3機+レンズ)のAF/MF性能の課題により、
本レンズを使う上で仕様の長所を活かした最大のパフォーマンス
が発揮できない、と言う点が課題となる。

この結果、本レンズの評価は、描写力(4点)やコスパ(3.5点)
は悪く無いものの、「マニアック度」と「エンジョイ度」が低く
評価されてしまった、よって、ハイコスパのランキングでは
コスパだけで順位を決めている訳では無いので、このあたり
(37位)の下位のランキングになってしまったのだ。

今後、さらにμ4/3機のAF性能が劇的に改善されない限りは、
本レンズの評価点は、このあたり止まりであろう。
まあ、神格化される程の超絶レンズでは無いし、たまたま
ピントが合って良く撮れたとしても、それは偶然性の産物で、
常に安定した高描写力は得られないので、念の為。

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今回はこのあたりまでで、次回記事では、引き続き
ランキングレンズを下位より順次紹介していこう。

銀塩一眼レフ・クラッシックス(22)OLYMPUS OM2000

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所有している銀塩一眼レフの名機を紹介するシリーズ記事。
今回は第三世代(AFの時代、世代定義は第1回記事参照)の
OLYMPUS OM2000(1997年)を紹介する。
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装着レンズは、OLYMPUS OM SYSTEM G.ZUIKO 35mm/f2.8
(ミラーレス・マニアックス第48回記事参照)

本シリーズでは紹介している銀塩機でのフィルム撮影は
行わずに、デジタル実写シミュレーター機を使用する。
今回は、まずμ4/3 ミラーレス機PANASONIC DMC-GX7を
使用する。
c0032138_16314778.jpg
以降はシミュレーターでの撮影写真と、本機OM2000の機能
紹介写真を交えて記事を進めるが、記事後半では、
使用レンズ及びシミュレーター機を他に変えてみよう。

ちなみに、本「銀塩一眼レフ・クラッシックス」シリーズ
記事においては、シミュレーター機をデジタル機とすると
同時に、「使用レンズ」、「撮影技法」、「被写体選択」、
「写真画質」といった要素も、それぞれ、その紹介銀塩機の
時代の標準的な環境・条件に、だいたい合わせている。

その事全体が「銀塩撮影のシミュレーション」という定義
である。まあ、現代の視点から言えば、古いレンズで、
ありふれた被写体を、何の工夫も無い撮り方で撮って、
画質もあまり良く無い、という事にもなるのだが・・(汗)
しかし、それでも、1970年代、1980年代、1990年代と
時代が進むにつれ、その撮影環境も変化してきているので、
本シリーズ記事では、そうした時代の変化もかなり意識して
シミュレーション撮影を行っている。
(例;1970年代はモノクロで被写体は非日常なものだけ、
1980年代では、カラー化されたがまだ画質が低い、等)

で、本機OM2000の時代、1990年代後半では、DPE店での
「ゼロ円プリント」の普及から、撮影コストが下がった事で、
日常的な被写体の範囲にまで一般カメラマンの関心は向き、
かつ写真画質もフィルムや自動現像機の進歩により、そこそこ
良くなってきている状況だ。
もう少しの間、1990年代カメラの紹介の期間では、
このスタンスを続けてシミュレーションをして行こう。
c0032138_16314745.jpg
ではここから、OLYMPUS OM2000の話となる。
まず最初に、本シリーズ記事での「第三世代」は「AFの時代」
であるが、本機はMFカメラだ。
第18回記事のYASHICA FX-3 Super2000の回でも説明したが、
AF時代でも、稀にMF一眼レフが新発売された事がある。
その中の1台が本機OLYMPUS OM2000だ。

まず最初に型番の話だが、OM2000の「2000」は、
最高シャッター速度1/2000秒という意味だ。 

PENTAX LX 2000のように「2000年」と言う意味では無いので
念のため。
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いきなり余談だが、この時代1990年代末期には、世紀が
変わる事を意味する「ミレニアム」(千年紀)と言う言葉が
流行していた。

同時に世間ではコンピューターの内部時計による年号が、
もし2ケタしか認識されない場合、2000年に入ると同時に
年代が「00」となってしまい時間の前後関係がおかしくなる
(新しい時刻の方が古いと見なされる。例えば、銀行の
利息計算が出来なくなる等)様々なシステム障害の可能性
があった為、これを「2000年問題」と呼んで、大騒ぎを
していた。

2000年1月1日には「厳戒態勢」をしいて、不測の事態
(例えば交通信号や電車、ATM等が全部止まってしまう等)
に備えていたのであったが・・結局何も起こらなかった。

まあ元々、ソフトウェアエンジニア(プログラマー)であれば
1990年代に作るソフトは、近い将来そういう可能性になる
事を十分予見して作っただろうし、仮に、その対策を施して
いなかった場合でも、事が起こる前にエンジニアが一所懸命
直した事であろう。

で、これらの世情から、「2000」という数字がやたらと
フイーチャーされていた時代だ。
他にも「2000円札」も出たし、様々な商品にも「2000」の
数字が付いていたり、ミレニアム記念商品も多数発売
されていた。
(まあ、本年2019年の「改元」ブームと同様の感覚だ)

そういえば、その前年1999年にも「ノストラダムスの大予言」
により世界が滅亡する、という噂が流れて、一部の人達は
大騒ぎをしていたのだが・・ こちらは「2000年問題」とは
異なり、根拠の無い話であるが、一般庶民にとっては、事の
本質はわからない。ともかく「世紀が変われば何かが起こる」
・・とまあ、そんな風に考えてしまう時代であったのだろう。
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さて、型番の話だった(汗)
OM2000にはハイフンが無い。オリンパスのOMでハイフンが
入るのはOMヒトケタの高級機だけであって、他には入らない。
例えば、OM-2には入るが、OM30,OM707,OM2000はハイフン
無しだ。

他には、キヤノンでも銀塩時代より最上級機EOS-1系のみ
ハイフンが入り、他は入らない(EOS-3のみ例外)という慣習
があって、これは現代のデジタルEOSにも踏襲されている。

あと、ミノルタ→SONYと引き継いだ「α」であるが、
ミノルタ時代はハイフン有り、SONY時代はハイフン無し、と
明確に区別されている。

ミノルタとソニーの機種の場合は結構ややこしく、例えば、
α-7とα7、α-9とα9は、元々は全く違うカメラなのに、
ハイフンの有り無しでモロに機種名が被ってしまうので、
かなり注意しなければならない。

一般サイトは勿論、公式情報に近いようなサイトですら、
平気でこの間違いをしている様子を多々見る事は残念だ。
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さて、それから本機OM2000の出自である。
第18回記事のYASHICA FX-3 Super 2000の回でも話題が
出たが、本機が「コシナ製OEM機である」と言う話だ。

でも結局、それはどうでも良い事だと思う。
繰り返しの話になるが、1990年代の「コシナ」は当時の
初級中級ユーザー層には全く知られていなく、ブランド・
バリューが全く無かった為、それらの機種を購入した
ユーザーが「騙された!」という気持ちになったのかも
知れないが、その後の2000年前後から高級ブランド銘を
次々に取得した現代の「コシナ」は「高級レンズメーカー」
として極めて著名だ。

むしろ、現代の感覚では「へ~、中身がコシナ製だったのか
ラッキー!」という風に、昔とは逆の印象を持つ事であろう。

時代は常に移り変わっていく、何十年も前の「常識」は
現代の感覚や世情にはマッチしていない事も多々あるのだ。
古い情報や概念を、いつまでも持ち続ける事は意味が無い。
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それから、本シリーズ記事ではオリンパスのOM一眼レフの
登場回数は少なく、第13回記事の「OM-4Ti」以来だ。
まあ、それは私がデジタル時代に入ってから、オリンパス
の1970年代までの古い一眼レフ等を「もう使わない」
という理由で譲渡してしまっていたからだ。

結局残ったのは、まあまあ新しい方の2台のみ、という状態
であった。ちなみに本機OM2000は最後の銀塩OM機である。
(勿論OMは後年にデジタルで復活する→OM-D E-M5 2012年)

て、そもそもオリンパスは、1990年代には、ほとんど
一眼レフを新規発売していない。

OM-4TI(1986)までのオリンパスのカメラの歴史は、
第13回記事で既に紹介している。本記事では、それ以降の
歴史について紹介しよう。

<1986年>
OM-4Ti(本シリーズ第13回記事)
旧機種OM-4(1983、現在未所有)の白チタン外装バージョン。

時代は、前年1985年のα-7000による「αショック」を
受けたところである。全メーカーとも開発の全てのリソース
(人、物、金、時間等)を、全てAF機開発に費やしていた
真っ最中である、とても新規のMF一眼レフを作っている暇は
無い。旧機種の焼き直し版でも、まあしかたが無いと言える。
それにOM-4Tiは決して古い平凡なカメラではなく、当該記事
での最終的な評価点も悪くは無い。将来に伝えるべき名機だ。
c0032138_16320288.jpg
OM707
オリンパス初のAF一眼レフ。しかし、仕様上のミスにより
市場に受け入れられなかった。このたった1つの失敗が
致命傷となり、オリンパスの銀塩一眼レフ開発は事実上
ここで終わってしまった。

以降オリンパスは2003年のフォーサーズ判デジタル一眼レフ
「E-1」まで20年近くも、新設計の(銀塩)一眼レフを
一台も発売していない。

この話は残念な事実である。もしOM707が成功していた
ならば、その後のカメラ界の歴史やパワーバランスは、
大きく変わっていたかも知れない。

で、オリンパスには天才設計技師「米谷(まいたに)」氏
(故人)が居る、そう、超有名機のPENやOMを開発した、
まさにその人だ。
「米谷氏は、いったいこのOM707の時、何をしていたのだ?」
と、後年、私も疑問に持って、ちょっとだけ調べてみたが・・

米谷氏は1984年に取締役に昇進している、これは、銀塩
コンパクトの名機「XA2」(1980年、カメラ初のグッド
デザイン賞受賞、米谷氏自身がデザイン)および、その
関連シリーズの発売後の人事であり、想像であるが昇進と
同時に、開発の現場の第一線から離れたのであろうか・・

だからOM707には米谷氏の開発コンセプトが直接は加わって
いなかったに違い無い。もし米谷氏がちゃんと開発を見て
いればAFを重視するあまり、MFが殆ど使えないようにして
しまったり、旧来のOM機との互換性を著しく廃するような
仕様には決してしなかった事であろう・・

まあ、もし上記の話が想像通りだったとすると、これも
この「時代」故の問題だろうか・・
それはまあ、確かに米谷氏はカメラ史上最も有名な開発者で
あり、これまた多大な功績をあげた方だ。既に故人ではあるが
伝説的な「レジェンド」であり、カメラマニアであれば
知らない人は居ないし、「オリンパス党」であれば
「神格化」される程の方だ。

けど、それだけ功績があった方を、現場を離れる形で昇進
させてしまうのは、どうなんだろうか・・? 
まあ、1980年代は、まだ「年功序列」の時代のまっただ中だ、
もしこれが後年の時代であれば、企業には「専門職」という
カテゴリーの職種も存在し、部長級や取締役級に昇進したと
しても、給料が上がるだけで、従来通りの専門的な業務に
従事できる。
つまり、ややこしい経営とかマネージメントとか交渉と
いった仕事(おそらくは技術者なら苦手であろう)に
係わらずとも済む訳だ・・

まあ仕方が無い。それもこれも、皆、時代の未成熟による
ものだ。スポーツの世界でも、現役時代に非常に活躍した
選手をそのまま監督に就任させ、結果、チーム成績が
ボロボロになった例はいくらでもあったでは無いか、
そもそも仕事を遂行する為に要求されるスキルが全く違う
のに、功績だけを重視しても意味が無い、それは本人の
問題ではなく、むしろ「人事」の問題だろう。

まあ、今時では、スポーツチームの関係者のみならず、
単にTV等でスポーツを観戦しているファン層ですら
「監督には監督向きの人材を手配するべきだ」という事は、
誰でも理解している。
が、1980年代であればスポーツの世界でも功績を優先した
人事ミスはいくらでもあった、それは野球等の例を見れば
明白であろう。
c0032138_16320292.jpg
さて、余談が長くなった(汗)
引き続きオリンパスの一眼レフの歴史の話を続ける。

<1987年>
この年、オリンパスの一眼レフ発売は無い。

<1988年>
OM101
恐らくはOM707の「敗戦投手」としてのリリーフカメラだ。
AF機能をあえて外したが、OM707用の専用AFレンズを使用
できる。市場で成功したカメラとは全く聞かないが、
工業・医療分野用途としては長らく使われたそうだ。

<1989年>
OM-4Ti ブラック
1986年のOM-4T(白)の黒チタン仕上げバージョン

もう、この年あたりからオリンパスの新規開発の一眼レフ
は無い。しかし、OM707のたった1つのミスの代償としては、
厳しすぎるようにも思える。OM707に限らず、過去にも
失敗作のカメラは、他社にも色々あっただろうに・・
この時代はバブル期であったから、もし、この時期にOM707が
発売されて失敗していたとしても許されていたかも知れない。
ほんの僅かなタイミングの差だ、重ね重ね残念な歴史である。

<1990年~1993年>
引き続き、新規の一眼レフ発売は無し。

まあそれでも、OMシリーズは継続販売されていたし、
AF時代とは言え、この時期のバブル崩壊においてユーザー層
の消費マインドも大きく変化、むしろこの時代の各社AF機の
「バブリーな仕様」から、ユーザーとの感覚との差異が
生じていたので、後期OMのような真面目に作ったMFカメラは、
逆に重宝されていたのかも知れない。
(その傾向は、1990年代後半にはさらに顕著となり、
空前の「第一次中古カメラブーム」を引き起こす)

で、この時代、オリンパスの銀塩AFコンパクト機としては、
「μ(ミュー)」1991年が発売され、多数の派生機を含めて
ヒットシリーズとなる、これは米谷氏設計のXAシリーズ
(MFコンパクト)のAF版の正当後継機とも言えるだろう。

特に1997年の「μ-Ⅱ」(ハイコスパレンズ第20回等)は、
私が定義する「史上最強の普及版銀塩AFコンパクト機」
である。(注:本機OM2000と同年発売。
下写真は、限定版の「μ-Ⅱ Limited」)
c0032138_16323655.jpg
でもまあ、このμシリーズのヒットも、米谷氏の「XA」の
功績の上に成り立っているものだと思う。
そして、現代でのμ4/3機のデジタル版のPENやOMも、
いわば米谷氏の遺産だ。
(米谷氏は、デジタルのPENが発売された同年同月に死去、
非常に惜しい人を亡くしました、ご冥福をお祈りいたします)
結局、オリンパスのほぼ全てのカメラ事業を1人で支えている。
つくづく、偉大な技術者であったと思う。

ここで少し余談だが、「XA」がカメラマニアの間で有名に
なったのは、写真家の「田中長徳」氏の著書「銘機礼賛」
(1992年)に出ていた「オリンパスXAの女」という短編
エッセイからだ。

この話は私も読んだ事があり、本業が写真家とは思えない
程の、軽妙かつ、情景や心理描写が印象的な名作であった。
「チョートク」氏は作家としても十分な資質があったのだろう。

これで一気に、マニアの間で「XA」人気が高まり、私も当然
欲しかったのだが、中古市場では極端な玉数不足でレア品に・・
後年2000年頃にやっと「XA」を19,000円程で入手できた
のであるが、しばらくの間機嫌良く使っていたら時代は急速に
デジタルに変わっていってしまっていた・・(XAは現在未所有)

<1994年>
OM-3Ti
10年前の1984年に発売されていたOM-3のチタン外装(灰色)版
機械式カメラであり、マニアックな仕様だ。

すでに当時のOM-3の開発者が居なく、設計は苦労したらしい。
製造工程も当然昔の物を踏襲するが、その技能を持つ人も
居ない。
結果、定価は20万円と、かなり(オリンパスOMで最も)高額
なカメラとなった。

発売後に中古カメラブームが始まったが、高価なカメラ故に
中古玉数が少なく新品しか無い。
私は当時OMヒトケタ機を全部集めたいと思って、これを無理
して新品購入したのだが、マニュアル露出機においては、
オリンパス(米谷氏)伝統の「左手操作系」は非常に使い難い。
いわゆるマニュアルシフト(絞り値とシャッター速度を、
逆方向に同じ段数変える)を行う際に、左手のみの設定操作
において両者を同時には出来ないからだ。

この問題は、実用的にOM機を使おうとする際には結構重大だ。
OM-3Tiは、すぐ譲渡してしまい、残念ながら手元には残って
いない。
結局、販売台数が4000台弱であった、という事で、レア感
からか、後年には中古市場でプレミアム相場で取引されていた。
(それ以前のOM-3もプレミアム相場だった)
が、私は勿体無かったとは思わない。「カメラは写真を撮る
道具であって、投機の対象では無い」と考えていたので
何も気にはしなかった。
(しかし、後年にOM-3Tiのイメージを踏襲して作られた
ミラーレス機OM-D E-M5 MarkⅡ Limitedを入手している)

<1995年~1996年>
新規の一眼レフ発売は無し。
1995年には未曾有の大災害、阪神淡路大震災もあったし、
また、デジタル時代を目前に控え、銀塩OM一眼の開発の
余裕は全く無い事であろう。

<1997年>
OM2000
やっと、本機の時代に到達した。
最後の銀塩OM機である、結局1990年代を通じて、OMは
たった2機種しか新規発売されていない。

当時のプレスリリースを見ると
「東欧・東南アジア及び中南米諸国を主に狙った低価格機」
とある。発展途上国では、まだまだMF機、しかも頑丈で
電池が無くても使用できる機械式一眼レフのニーズは高かった
のであろう。

ただ、もうオリンパスに一眼レフ製造のリソース(資源)は
無い。それはOM-3Tiの開発秘話で「10年前にOM-3を作ったが
当時の技術者が誰も居ない」という暴露があった事で有名だ。
そこで定評のあるコシナ社のOEM生産に託したのだと思う。
c0032138_16325064.jpg
さて、ここで本機OM2000の仕様について述べておく、

OLYMPUS OM2000(1997年)
マニュアルフォーカス、35mm判フィルム使用カメラ
最高シャッター速度:1/2000秒(機械式)金属縦走り
フラッシュ:非内蔵、シンクロ速度1/125秒 X接点
ホットシュー:ペンタプリズム部に固定
ファインダー:固定式、スクリーン交換不可
       スプリット+マイクロプリズム型
       倍率0.84倍 視野率93%
ファインダー内照明:無し(LED方式なので不要)
使用可能レンズ:オリンパスOMマウント系
絞り込みプビュー:有り
露出制御:マニュアル露出のみ
測光方式:TTL中央重点平均測光、スポット測光
露出補正:無し(マニュアル露出なので不要)
ファインダー内表示:+○ーの三点合致式露出表示
          ストロボ充電完了表示
巻き上げ角:不明、分割巻上げ不可
レリーズロック:巻上げレバー収納でレリーズロック
多重露光:専用レバーにより可
セルフタイマー:有り(機械式)
電源:SR44/LR44型 2個
電池チェック:シャッター半押しで露出計動作
フィルム感度調整:手動ISO25~3200、DXコード非対応
本体重量:430g(ボディのみ)
発売時定価:50,000円(標準ズーム35-70mm/f3.5-4.8付き)

----
このあたりで、シミュレーター機とレンズを交換しよう。
c0032138_16320180.jpg
カメラ PANASONIC LUMIX DMC-GX7→SONY α7
レンズ OLYMPUS OM G.ZUIKO 35mm/f2.8→OM 35mm/f2.0
とする。
(OM35/2は、ミラーレス・マニアックス第73回記事で紹介)
c0032138_16320285.jpg
本機OM2000の長所だが、

まず、コシナCT-1系をベースにした信頼性が高くローコスト
で完成度の高いボディに、オリンパスならではの特徴的な
付加機能を追加した事だ。

具体的には、「スポット測光」がそれであろう。
c0032138_16325078.jpg
オリンパスOMの「スポット測光」の歴史としては、
1983~1984年に、OM-4,OM-2SP,OM-3に、次々と
スポット測光機能が搭載された事による。

スポット測光機能はポジ(リバーサル)フィルムを使う際に、
構図内のハイライト(最も明るい)、シャドウ(最も暗い)
部分の露出差を明確に意識する事で、写真のできあがりが
イメージしやすい為、露出が厳密な写真を撮る必要のある
ユーザー層(職業写真家やコンテスト等を狙うアマチュア層)
には重要な機能だ。

しかし、フィルムのラティチュード等への正確な知識と経験
そして、構図内の何処にスポット測光を適用するかの
知識と技術、さらには煩雑な操作性、など、かなり敷居が高く
初級中級層には、手におえない高度な機能であっただろう。

この時代の初級中級マニアでは「スポット測光が入っている」
という理由で、OM機の「付加価値」と見なして購入した人も
多いとは思うが、カタログスペックと、それを使いこなせるか
どうかは、勿論まったく別次元の話だ。

これはこの時代のOMの話に限らず、現代のデジタル機でも
同様であろう、現代のデジタル機では超絶的な性能や機能が
多々搭載されている。が、それらが入っているから、と
購入した初級中級層では、全く使いこなせていない事は、
言うまでも無い事実だ。

なお、スポット測光では「露出差分」の考え方が重要になる
この点については後述しよう。
c0032138_16325035.jpg
他、多重露光や絞り込みプレビュー等の付加機能もあり、
最高1/2000秒シャッターとあいまって、1970年代のフラッグ
シップ機並みのスペックとなっている。
c0032138_16325016.jpg
シャッターボタンは、通常の金属となっていて、
YASHICA FX-3 Super 2000での「プラスチックの棒」より
だいぶ使い易い(ただ、依然、ミラーショックが大きい)

他には大きな特徴は無いが、まあ、ベーシックな機能に
特化した優秀なカメラである。
c0032138_16321875.jpg
本機OM2000の弱点であるが、

最大の問題点は、「+○ー」三点式の露出インジケーター
であろう。
他の記事でも再三述べたが、マニュアル露出機で、しかも
スポット測光機能がある場合は、露出計による基準の
露出値とハイライトやシャドウでの露出差が、露出メーター
上の絶対値でわからないとならないのだ。

OM-3/OM-4系には、このメーター機能が入っているが、
表示が少々わかりにくいのと、多点平均スポット機能とか
になっているので、操作系は、かなり煩雑であった。
これでは上級者でも使いこなすのは困難であった事だろう。

本機では単純スポットなので、あまりややこしさは無いが、
メーターのスケールが無いのでお手上げだ。
この仕様だと、中央重点測光代わりにスポットの狭い範囲で
露出を測るといった、中級レベルでの使い方しか出来ない。
c0032138_16330354.jpg
他、ファインダーに関しては、内部情報表示があまりにも
少なすぎるが、これは割り切った仕様なのでやむを得ない。
ファインダー倍率は、0.84倍と、FX-3系の0.91倍よりも
だいぶ低い。(注:仕様記載上の基準が異なるのか?)
c0032138_16330319.jpg
シャッターダイヤルは他社機と同様に、カメラ上部(軍艦部)
にあり、他のオリンパスOM機のマウント部のそれとは異なる。
この為、一般的なOMユーザーの場合、むしろ違和感を感じて
しまうかも知れない。
しかし、前述のように、オリンパスの「左手思想」では、
OMのマニュアル露出機においては、絞り環とシャッター環
の同時逆操作が出来ないので、実用性が低い。

「1枚1枚のんびりと写真を撮る」1970年代であれば、それでも
良かったどころか、むしろ設計コンセプトに初めて「操作系」
の概念を取り入れた事などで、高く評価できたのではあるが、
もう既に1990年代では時代が変わっている。

例えば、本機OM2000の前年1996年には NIKONの旗艦F5が
発売されている(本シリーズ第19回記事)これは秒8コマで
素早く撮影する事を目的とした高速連写機であり、デジタル
(電子)ダイヤルによる操作系を採用している。
まあ「F5とOMでは用途がまるで違う」とは勿論言えるが、
それにしても、写真を撮る為の操作が素早く出来ない、
というのはやはり問題ではあろう。

で、旧来のOMよりは通常シャッターダイヤルのOM2000の
方がマニュアル露出機の操作性(操作系)としては適している。

が、これでも絞りとシャッターの同時逆操作は依然難しく、
他の記事でも書いたが、シャッター速度を先に決めてから、
絞り環で露出を調整するシャッター優先風の操作になる事
だろう。(注:通常は絞り環の設定段数の方が多い為、
シャッター速度を先に決めた方が追従自由度が高まる)

いずれにしても、時代に合っていない事は確かではあるが、
これも他の記事で書いたとおり、第一次中古カメラブームの
際には、実用派のユーザー(投機目的では無いという意味)
においては、マニュアル(MF/M露出)機にフィルムを入れて
撮影する事は珍しくは無かった。だから、さほど「使い難い」
という印象は持たず、むしろ「マニュアルで撮りたい気分」
の際に、「化物カメラとなってしまったF5」を家に置いて
軽快なOM2000でのんびりと撮影できる事は悪くは無かった。

それから、OM2000は「標準ズームレンズキット」のみでの
販売であり、ボディ単体での発売は無かった、この点、
あまり魅力的とはいえない標準ズームはマニア的には邪魔に
はなるが、まあ、おりしも中古ブームであるからボディ単品も
良く流通はしていた(注:単品相場は若干高価であった)

本機OM2000であるが、コシナ機の例によって、シンプルすぎて
性能的には不足だとは言えるが、完成度は高いカメラだと思う。
c0032138_16321856.jpg
さて、最後に本機OM2000の総合評価をしてみよう。
評価項目は10項目だ(項目の意味は本シリーズ第1回記事参照)

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OLYMPUS OM2000(1997年) 

【基本・付加性能】★★★
【操作性・操作系】★★☆
【ファインダー 】★★
【感触性能全般 】★★
【質感・高級感 】★★
【マニアック度 】★★★★☆
【エンジョイ度 】★★
【購入時コスパ 】★★☆ (中古購入価格:18,000円)
【完成度(当時)】★★★★
【歴史的価値  】★★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】2.8点

マニアック度と完成度以外の評価点が少しづつ低く、
平均点をやや下回る得点だ。

まあでも、割り切ったコンセプトのカメラゆえに、性能の
低さは特に問題では無い。・・というか、その当時の他の
AF機と比べたら性能的に時代遅れに感じるだけであり、
写真を撮る為の基本機能とすれば、十分か、むしろ付加機能
の搭載により優れている方だと思う位だ(それ故に性能の
評価点は3点と、標準的としている)

現代において、あえて入手する価値は無いとは思うが、
「OM党」のマニアであるならば、最後の銀塩OM機としての
歴史的価値は高く、抑えておく必要があるカメラであろう。

次回記事では、引き続き第三世代の銀塩一眼レフを紹介する。

【玄人専科】匠の写真用語辞典(14)~撮影技法・特殊技法 Part 2

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一般的なカメラユーザー層には普及していない「特殊用語」や
「本ブログ独自の写真用語や概念」を解説するシリーズ記事。

今回第14回記事は「ノウハウ編」でのサブカテゴリーの
「撮影技法・特殊技法」の「Part2」とする。
c0032138_16363166.jpg
<撮影技法・特殊技法>Part 2

★デジタル拡大機能
 一般用語+独自概念。

 まずデジタル拡大機能とは、画像処理的手法を用いて、レンズの
 画角(焦点距離)を仮想的に伸ばす(拡大する)機能と定義する。
(注:ピント確認やMFの為に、EVFやライブビューでの表示画像を
 拡大するケースは除く。その事は「拡大表示」と呼んでいる)

 これはメーカーにより色々な処理方式や呼び名がある機能だが、
 本ブログでは
 ・デジタルズーム(画角を連続的に変化させる事が出来る)
 ・デジタルテレコン(画角を1.4倍、2倍等、予め
  決められたステップで段階的に変化させる事ができる)
 の2種類に統一して、かつ区別している。

 近年の多くのミラーレス機には、デジタル拡大機能が入って
 いるが、一眼レフであっても例えばSONY αフタケタ機には
 デジタルテレコン機能が搭載されているし、NIKON機での
 撮像範囲設定(FX→DXまたはDX→1.3倍モード。いわゆる
 クロップ機能)も、原理的には類似であると言える。
c0032138_16363145.jpg
 一般初級中級層には、これらの機能は、以下の3つの理由で
 嫌われている。
 1)画質が悪くなる
 2)画素数が減る
 3)トリミング編集と等価な為、使う意味が無い

 これらは確かに半分はその通りだ、だが、短所ばかりという
 訳では無い、デジタル拡大機能を、より深堀りするには、
 まず、その原理と効能を良く理解する必要があるだろう。

 デジタル拡大には概ね以下の4つの方式がある。
 A)単純拡大
 →画像処理(スプライン関数、バイキュービック法、
  ランチョス法など)により単純に画像を拡大する。
  2~3倍程度迄ならば画質の劣化はあまり目立たない。
 (注:ここでの「倍数」は、撮像素子の対角線長の変化だが
  簡便には、レンズ焦点距離の変化と見なしても良い、
  例:100mm画角→200mm画角になれば2倍)

 B)超解像拡大
 →画像処理手法の一種であり、画像の一部の特徴を解析
  しながら、どのように補間するか(拡大したピクセル
  の隙間をどれくらいの色にするか)を決めていく手法。
  概ね上記単純拡大よりも高画質で拡大でき、4~6倍
  程度までは画質劣化は目立たない。

  このやり方(アルゴリズム)は各社様々だが、大別して
 「1枚超解像」と「複数超解像」があり、前者は主に
  デジカメや画像編集での静止画処理に用いられている。
  後者は複数のフレーム(コマ)が必要な為に、従来は
  ビデオデッキ等での動画処理(NTSC→ハイビジョン)等に
  使われていたが、近年ではデジカメでも連写を行ってそこから
  合成する「連写超解像」や、内蔵手ブレ補正と同様に撮像
  センサーを微細に動かしながら連写を行い、それらを合成して
  解像感を高める方式(例:PENTAX リアルレゾリューション)も
  存在する(注:これを拡大処理とするか否か、は別の要素だ)

  なお、この手法が高画質かどうかは、被写体の状況や、それ
  に求める要素によりけりであり、常に期待するような高画質
  な拡大処理が得られる訳でも無い。
 (参考:下写真は、超解像拡大で輪郭線が固くなった例)
c0032138_16363033.jpg
C)画素補完型拡大
 →撮像センサーの記録画素数を、拡大と同時に低める事で
  画質が劣化しないデジタルズーム(テレコン)が実現する。
  例えば最大1600万画素のデジカメでは、800万画素に
  落とすと1.4倍(=√2倍)、400万画素に落とせば
  2倍の拡大率が得られる(その途中の画素数も原理的には
  可能である)

  画質が劣化しないのが最大の特徴だが、記録画素数が
  減る事と引き換えだ。趣味撮影などでSNS等掲載用の
  写真を撮ったりL判程度にプリントするならば、400万画素
  もあれば十分過ぎる程であるので、そういう用途であれば
  実用的な機能だ。

  画素数が減る事については各社で2種類の方式があり、
  ・記録画素数を最初から低めておかないと、この機能が
   利用できない(例:パナソニック)
  ・この機能を使うと記録画素数が自動的に減る(例:SONY)
  があるので、自身の使っているカメラの仕様を理解しておく
  必要がある。
c0032138_16363099.jpg
 D)センサーサイズの変更
 →例えばフルサイズ機をAPS-Cモードで使うと 約1.5倍の
  画角が得られる、あるいはAPS-C機でさらにセンサーサイズ
  を(例えば μ4/3相当)に小さくして使うと、2倍程度の
  画角が得られる。

  NIKON機では高級デジタル一眼レフにこの機能が入っていて
  これを「クロップ」(切り取る)機能と呼んでいる。
  また、SONYフルサイズミラーレス機(例:α7)でも
  フルサイズ→APS-Cモードに(任意に)変更が出来る。

  上記C)の画素補間方式と原理的には極めて類似しているが
  こちらの方式では、測距点や露出計算の分布パターンが
  変化するので、それがメリットとなるケースも多々ある。
  ただし、手ブレが起こりやすくなる弱点と、重要なのは、
  センサーサイズが小さくなった分、勿論だが記録画素数が
  減ってしまう。
  勿論ここはユーザーの用途によりけりであり、減った
  画素数でも写真を利用する解像度を満たしていれば、何ら
  問題は無い。

  ただ、ニコン機でもD4やDfでは記録画素数が最大でも  
  1600万画素しか無い為、例えば趣味撮影で画像サイズを
  FXのS(約400万画素)や、M(約900万画素)で使っていて
  遠方の野鳥を見かけた際等で、クロップしてDXモードに
  設定変更すると画素数が大幅に減り、Sでは160万画素
  Mでは、380万画素にまで減る。
  160万画素はさすがに小さいので、本来であればクロップ   
  時には、同時に記録画素数を上げる(つまり上記Cの
  画素補完方式とほぼ等価)ような仕様にして貰いたい。

  まあ、NIKON機は全体に操作系仕様が練れていない(他社
  よりもかなり遅れている)ので、こういう細かい配慮を
  期待するのは難しいが、操作系仕様を良く考察してあって
  その(インターフェース設計)専門部署まであるという噂の
  SONYであっても、α7等では同様にAPS-Cモードでは単純に
  画素数が減ってしまう。(この為、最初からαのAPS-C機
  を使った方が簡便だし画素数的に有利になる場合もある)

 さて、デジタル拡大の原理を理解したところで、概ね画素数の
 減少や画質の劣化の問題は、用途や設定で回避可能だと言う
 事が、わかったと思う。
 以下は、さらに高度なデジタル拡大機能の応用についてだ。

 これらの機能のメリットは概ね3つある。
 1)デジタル拡大で測光パターンが変化する仕様の場合、
  その操作においては、主要被写体の面積比率が、より
  増える為、露出補正操作の必要性が減る。
 (例:晴天時に遠距離の水面上にあるボートは、通常は
  周囲の明るさに露出が合い、真っ黒に写るが、望遠に
  すればする程、画面内のボートの面積比率が増えて適正な
  明るさに近くなっていく、下写真2枚参照)
c0032138_16364418.jpg
 (注:この利点は、カメラ毎の画像拡大の方式によっては
  得られない場合がある。例えば画面全体からの露出決定後に
  デジタル拡大処理を行う場合は無効だが、センサーサイズを
  小さくするクロップ仕様であれば有効である等)
c0032138_16364489.jpg
 2)被写界深度を維持したまま構図を変更できる(注:望遠
  側のみ)あるいは撮影距離を変えながらデジタルズームを
  併用して、絞り値に頼らずに被写界深度が変更できる。

  この結果、作画的な構図自由度が格段に上がったり、
  またはミラーレンズ等で絞りが無いレンズでも被写界深度が
  変えられる(注:これは凄い利点である)
  そして、さらに高度な使い方としては、前記事で説明した
 「ボケ質破綻の回避技法」として非常に有益である。

 3)業務撮影等で大量の画像を編集しなくてはならない場合
  デジタルズームで予め構図を決めて撮影すれば、後での
  トリミング編集の手間が大幅に減る(=編集コストが下がる
  何千枚もの写真を何日もかけて編集していたら赤字だ・汗)

 4)撮影時にこれら拡大処理を行う事で、「どう撮りたいか」
  が十分に意識できる。事後のトリミング編集では、その意図
  を忘れてしまっている事もある。(又は撮影者以外の人が
  写真編集作業を行う事も、業務上では有り得るであろう)

 これらのデジタル拡大のメリットは頭の中で考えているだけ
(例:デジタル拡大はトリミングと等価だ、という誤解)では
 まずわからず、実際にこの機能を多用していないと見え難い
 利点だ。

 それから、デジタル拡大には、一般には見え難いデメリットも
 いくつか存在する。


 A)内蔵手ブレ補正機能が使い難い場合がある
  オールドレンズ等の焦点距離情報が得られないレンズを、
  内蔵手ブレ補正の焦点距離手動設定が可能なミラーレス機や
  一眼レフで使った場合、各種デジタル拡大機能を用いると
  見かけ上の焦点距離が変化してしまい、手ブレ補正が効かなく
  なる場合がある(注:これは機種毎の拡大仕様によりけりだ)

  また、当然の事だが、画角が狭くなると手ブレしやすくなる。
  この為、1000mmを超える超々望遠域の換算拡大画角ともなると、
  内蔵手ブレ機能は、ほとんどまともに動作しない。
 (そして、1500mmを超えると、手持ち撮影は、ほぼ不可能だ)

  なお、オールドの単焦点ではなく、(光学)ズームレンズを
  使った時点でも、同様の理由でアウトであり、デジタル拡大
  機能を使う使わないに限らず、内蔵手ブレ補正を利用する事は
  困難である。(注:これは、どの機種でも同じだ)
 
 B)最短撮影距離までは短縮できない
  オールドレンズやレンジファインダー機用レンズでは
  最短撮影距離が長いものが多く、特に広角レンズでは
  最短が長いと、構図上、あるいは撮影アングル・レベルの
  制限が大きく、やっていられない。
  デジタル拡大機能で、見かけ上の被写体の大きさは大きく
  できるが、最短撮影距離は変化しない為、被写体に寄る
  事が出来ず、物理的な構図制限はそのまま残る。

 C)望遠効果が出ない
  デジタル拡大機能を用いても光学的な望遠効果が得られない。
 「望遠効果」とは、以下のような要素を含む。
  ・レンズの焦点距離が長くなる事での被写界深度の減少。
  ・遠近感(パースペクティブ)の圧縮効果。
  ・被写体に対する背景の取り込み範囲の減少(背景の整理)
  ただし背景の整理は、上手くデジタル拡大機能を用いる事で
  ある程度、望遠レンズの代用とする事は出来るであろう。  

 さて、上記の様々な原理を良く理解すれば、どのような撮影
 シーンにおいてデジタル拡大機能が有効かは、上級者レベルに
 おいては応用が可能であろう。

 ただ、結構高度なデジタル/光学知識を要求される内容で
 あるから、初級中級層は理解や応用は困難であると思う。
 であれば、冒頭に述べたような、初級中級層が持っている
 デジタルズームの疑問点(画質が落ちる、画素数が減る等)
 の回避は、これらの原理をきちんと理解していない場合は、
 残念ながら無理だと思う。

 が、せっかく高いお金を払って買ったカメラについている
 機能だ、よく内容を勉強して理解したり、「先入観念」で
 毛嫌いせずに色々と使ってみて、その効能を自分なりに把握
 して応用していかなくてはならない、そういう努力をする事が
 ビギナー層には最も必要な事だと思う。

---
さて、「ノウハウ編」と言いながらも、ここまで概念的な部分
の解説が多くなってきてしまった(汗)
少しづつ、具体的な撮影技法等に説明の方向を変えて行こう。

★ピンホール露出計算
 独自概念。

 ガラズのレンズが何も入っていない、ただの「穴」つまり
「ピンホール」で写真が撮れる事は、カメラの原理を習った
 人の間では良く知られている。
 勿論、通常のレンズよりも、ぼやけた写りにはなるが、
 独特のノスタルジックな描写は銀塩時代からファンも多い。
(注;画像周辺が暗くなる=周辺減光、は、ピンホールの
 原理上では起こらない、それはまた別の理由だ→後日解説)
c0032138_16364485.jpg
 ピンホールは、ごく稀に市販もされているが、カメラのボディ
 キャップにドリルで穴を開け、そこに、ごく小さい穴を針で
 開けた黒い紙や布を貼り付ければ簡単に出来てしまうので、
 自作する事が普通であった(以下写真)
c0032138_16364491.jpg
 が、ピンホールを使った際の露出計算の方法は簡単では無い、
 銀塩時代の一般的な一眼レフでは、(LXやOM-2Nを除き)
 露出計の連動範囲外であるし、外部露出計を使ったとしても、
 どのように計ったら良いかが不明で、なかなか困難であった。
 ネガフィルムの場合には、完全なカンで「この明るさだったら
 4秒くらいかな?」と、ある意味”適当”に撮っていたのだ。

 ここでは外部露出計を用いる独自の計算方法を紹介する。

 まず自作品ではピンホールのF値(口径比)が不明だと思うが、
「装着するカメラのフランジバック長÷ピンホール穴径」
 という式で求まる。
 一般的な一眼レフのフランジバックは、概ね45mm前後だ、
 ピンホールの穴径は自作の場合、0.15mm~0.25mmであり、
 まあ平均を取って0.2mmとしよう。
(注:穴径が正確に測れなければ、だいたいの値でも良い。
 または、他のレンズや露出計を用い、それとの比較から
 穴径あるいは開放F値を推測する方法もある)
 ちなみに、KENKOから発売されている市販ピンホールも
 穴径が0.2mmだ。
c0032138_16370193.jpg
 なお、穴径が小さいとシャープに写るが、F値が暗いので
 必要な露光時間(シャッター速度)が長くなる。

 具体的には、ピンホールの開放F値=45mm÷0.2mm=F225
 これが代表的なF値であるが、どんなピンホールでも、だいたい、
 F180~F300の間に収まるであろう(注1:一眼レフ使用の場合。
 注2:適正な穴径を求める公式があるが、今回は割愛する)

 ここで以降の計算を簡略化する為、F256のピンホールを想定する。
 で、このF256は一般的なレンズのF値より、どれくらい暗いのか?
 それがわかれば、ピンホールのシャッター速度が計算できる。

 ここでも計算を簡略化する為、ピンホールより約1000倍、
 すなわち10段(2の10乗=1024)明るいF値を求める。
 これは、F値256を2で割る事を5回繰り返せば良く、結果は
 F8となった。 これがF256より10段明るいF値だ。

 もし、自分のピンホールが若干明るい(穴径がやや大きいか、
 又はフランジバックがやや短い)ならば、F180程度となり、
 この場合、10段明るいF値はF5.6となる。
(ここは自身が使うシステムにおいて計算する必要がある)
c0032138_16370171.jpg
 さて、10段=2^10=1024であるから、今計算したF8なり
 F5.6なりのF値の場合の露出値は、同一ISO感度であれば、
 ピンホールよりも1024倍速いシャッター速度が得られる。

 カメラにおける表示シャッター速度の500とか1000の数字は
 分母の数字であるから、ピンホールの露出値は、外部露出計
 または他のカメラにおいて、絞りをF8(又はF5.6等)にセット
 した時に得られる表示速度に対して、1024倍遅い、この答えは、
「1/(表示シャッター速度)x 1024倍」となり、
 この式を変形して
「約1000÷露出計表示シャッター速度」がピンホールにおける
 シャッター速度の計算式だ。

 この式であれば(外部)露出計が250(分の1秒)を示したら、
 1000÷250=4秒、のように暗算でピンホール露出値が得られる。
 以下同様、125ならば8秒、500ならば2秒、と簡単である。
(注:外部露出計の感度設定をピンホール・システムと同じに
 する事、またF8で測定するかF5.6等でするかは穴径次第だ)
c0032138_16370125.jpg
 この計算式は、私が銀塩時代に考え出したものであるが、
 かなり便利であり、ピンホール撮影の際には重宝した。
(注:上写真では、フォクトレンダーVCメーターを露出計に使用、
 なお、便宜上、室内での計測でスローシャッターとなっている)

 なお、銀塩のフィルムはISO感度が100~400位であった為、
 どうしても数秒という露出時間が必要で、この長さだと
 三脚を使うか、又はカメラをどこかに置いて撮る必要があった。

 しかし、現代のデジタルカメラにおいては超高感度が使える。
 例えばISO51200であれば、ISO100のフィルムの512倍の
 速さのシャッター速度が得られる。
 銀塩ピンホ-ルでISO100で4秒の条件であれば、その512倍の
 シャッター速度は1/125秒である、この速さであれば、
 手持ち撮影が可能となる。
 概ね屋外の明所であれば、最大ISO25600以上の感度がある
 デジタルカメラならば、ピンホールの手持ち撮影が可能だ。
(注:内蔵手ブレ補正機能があれば、さらに条件が緩和する)
c0032138_16370183.jpg
 ただし、一眼レフの光学ファインダーでは、F180~F256
 ともなると、真っ暗で構図確認が出来ない。
 これは撮影不可能なので、ライブビューモードに切り替えるが
 初級一眼レフでは、ゲイン(光の増幅の度合い、これは最高
 ISO感度にも関連する)が足りず、モニターがかなり暗くなる。
(注:最高ISO感度が概ね25600又は51200以上の機種ならば、
 ライブビューでも明るい画像が得られる。ただし初期設定の
 ままではそこまで上がらない機種も多く、拡張設定が必須だ)

 他に、一眼レフの内蔵フラッシュを上げて、その枠を後ろから
 覗き、簡易ファインダー代わりとして使う裏技が存在する。

 まあ、面倒なので、ここはミラーレス機の方が良いであろう。
 ミラーレス機であれば、ピンホールでもEVFやモニター画面に
 構図が見える場合が多い(注:これもカメラ最大感度に依存
 するが、一眼レフより後発であるミラーレス機は高感度を
 搭載している場合が多い。ただし、ここも拡張が必須だ)

 それから、ピンホールの装着方法を上手く工夫すれば、
 ミラーレス機のフランジバック長は一眼レフよりずっと短く、
 概ね半分以下なので、さらに見かけ上のF値が1段~1.5段程
 明るく、計算上ではF64~F128程度になる。
(注:アダプターを使って、一眼レフと同じフランジバック長に
 したら意味が無い、できればミラーレス機に直結したいのだ)
 F値が明るくなると、同一感度ならば、その分速いシャッター
 速度が得られるので、手持ち撮影が、もっとやりやすくなる。
 内蔵手ブレ補正機能の入っているミラーレス機ならば完璧だ。

 まあつまり、ミラーレス機とピンホールの相性は悪く無い訳だ。
c0032138_16371946.jpg
★プリセット絞り
 一般用語、マニア用語。

 多くのロシアンレンズや、国内外のオールドレンズの一部には、
 近代での一般的な絞り環では無く、二重構造に見える絞り環が
 ついているレンズが存在する。

 この場合、片側が実際の絞り値であり、もう1つは、
 開放と設定した絞り値を切り替える方式となっている場合が
 殆どだ。こうしたレンズの構造を「プリセット絞り」と呼ぶ。
c0032138_18315597.jpg
 何故こんな面倒な事になっているのか?は、昔(1950~1960
 年代)の開放測光では無い一眼レフ(絞り込み測光/実絞り測光)
 では、絞り環を絞ると光学ファインダーが暗くなり、ピント
 合わせが困難になったからだ。

 手順として、まず、プリセットを開けて、絞り開放でピントを
 合わせ、次いでプリセットを閉じて、露出を手動で会わせて
 やっとシャッターを切れる・・ という面倒な方法であった。

 だが、これらの「プリセット絞り」レンズをミラーレス機に
 マウントアダプターを介して装着し、ピント合わせをEVFや
 背面モニターで行う場合、絞り込んでも見える映像が暗くなる
 訳では無いので、「プリセット」は閉じたままでも問題は無い。
 
 で、ここまでが、まあマニア等の間では一般的に知られている
 内容ではあるが、ここからさらに、もう少し工夫してみよう。
 以下は、独自の技法だ。

「プリセット絞り」は、絞り開放と設定した絞り値を瞬時に
 切り替える事がえきる機構である。であれば、これを作画意図
 に活かすならば、例えば開放F2と、絞り込んだF11等の値を
 一瞬で切り替えて連続撮影ができるので、F2で背景をボカした
 写真と、F11等でパンフォーカスとした写真を、連続して
 簡単に撮影が出来る。これはなかなか便利な機能となる。
(注1:プリセット環の動作が劣化していて多少スカスカの
 方がむしろ好ましい。
 注2:この操作では露出値が大きく変わるので、露出原理を
 良く理解した上で、AUTO-ISO設定等を最適化しておく)

 なお「今時の普通の一眼レフでもダイヤルを廻して出来るよ」
 どは言うなかれ。
 ただ単に「出来るか出来ないか」と「効率的か否か?」は、
 まるっきり意味が異なるのだ。
(注:本件に限らず何でもそうだ。例えば、メニューの奥底にある
 特殊な機能等は、事実上では「使えない」と等価だ) 

 もう1つのプリセット絞りの用法だが、最大限に絞り込んで
 おけば、OPEN/CLOSE環で絞りを連続的に無段階に変更できる
 ものも多い、微妙な絞り調整(ボケ質破綻回避等)において
 非常に役に立つ機構(技法)だ。

 さて、今時の一眼レフは、ほぼ全てがカメラ本体側のデジタル
(電子)ダイヤルでの絞り値の操作となっている。
 そして、中上級者であれば、絞り値のステップ設定は、殆どが
 1/3段モードにしているであろう。

 この状態で、F2からF11まで設定を変えるのは、ダイヤルを廻す
 回数が多い(15段階もある)ので、結構な手間だ。
 普通は面倒なので、こういう事はやらない事であろう、さらに
 言えば、面倒なので、あまり大きく絞り値を変えて撮ってみよう
 とも思わなくなる。だから、自分が設定した絞り値から微調整
 する位となってしまう(=絞り値の変更操作に無頓着になる)

 背景ボカし(F2)と、パンフォーカス(F11等)では写真の雰囲気や
 写真が主張したい部分(特定の被写体か、構図全体なのか?)も
 全く異なるのだが、現代のカメラシステムでは、下手をすれば、
 そういう発想も持ちにくくなってしまう恐れもある訳だ。
(特に初級層は、絞りを色々と設定して撮ろうとは思わない。 
 被写界深度が変わる事は知っていても、開放F値が暗い標準
 ズーム等では、殆どその効果が得られない事も原因としてある)

 まあ、中級マニア等であれば、プリセット絞りの古いレンズを
 使って、この技法を試し、大きく(作画)意図の異なる写真を
 撮ってみるのも新鮮な発見があって良いだろうと思う。
 ただ単に、珍しいレンズのボケ質やら解像力の良し悪し等を、
 あれこれと語るだけがマニアの方向性では無いと思うからだ。

★魚眼構図制御
 やや独自概念に近い一般用語。
c0032138_16371951.jpg
 対角線魚眼レンズを用いて撮影すると、画面が歪んで写る。
 このデフォルメ効果は、初級層においては最初に使った時には、
 実物と写真が大きく異なって見える事からインパクトが大きい
 のだが、しばらく魚眼レンズを使っていると、「なんだか
 構図的にまとまりが無い」とか「自分が思ったようには撮れない」
 という風になって、飽きてしまう(使いこなせない)事が多い。

 魚眼レンズは(トイレンズ系や近年の中国製魚眼レンズを除き)
 高価であるので、せっかく買ったのに使わないのでは勿体無い。

 ここでは対角線魚眼レンズの構図上のポイントを上げておこう。

「対角線魚眼では、画面中点から放射状に伸びる直線は曲がらない」
 が最も覚えておくべきポイントである。
c0032138_16371958.jpg
 だから。海や湖の水平線、ビル等建造物の直線部分を、この
 中央点からの放射直線上に構図的に配置すれば、少なくとも
 その部分は歪まないように写せる訳だ。
「構図的にまとまりが無い」という課題は、画面のどの部分も
 歪んでしまって、何がなんだかわからない、という状態にも
 相当すると思う。
 
 ・・とまあ、これは単純な話なのだが、ところがこれを実際に
 やってみようとすると意外にも非常に難しい。
 カメラを少しでも傾けてしまうと、被写体の放射直線部が
 すぐに曲がってしまう(下写真)
c0032138_16371906.jpg
 三脚で水準器を使ってもあまり効果は無い、ここで「傾く」と
 言うのは3次元的にあらゆる方向に(ローイング、ヨーイング、
 ピッチングも)影響がある、水準器(アナログ、デジタル)では
 1~2次元なので、これでは足り無いし、そもそも水準器では
 計れない方向がある(例:カメラを水平には構えているが、
 例えば右側が、より前に出ていて、被写体に平行では無い。
 あるいはカメラは水平だが、レベル(高さ、位置)が異なる為、
 被写体の直線部が、構図上の放射直線と合っていない)

 ・・そこで、三脚や水準器には頼らずに、EVFやモニター画面を
 見ながら魚眼レンズで直線を出すようにする方が良い。
 これはかなり大変だが、初級中級層にとって良い構図の練習と
 なる、三分割だとかS字などの「教科書的」な構図の練習を
 しても殆ど意味が無いが、この「カメラの持ち方、角度、
 レベル等を微妙に調整する」と言う作業は、通常レンズと通常
 被写体では、あまり差異が出ない状況が、魚眼レンズでは
「直線が歪む」という事から顕著に差がわかる訳だ。
 まあつまり、カメラのトレーニングには最適だという事だ。

 なお、この話は前記事の「初級者中級者の三脚不要論」にも
 微妙に関連がある。
 三脚を使っていて1~2次元の水準器で「水平が取れていれば
 安心」という訳では決して無いので、むしろそれに頼ってしまうと
 三脚と水準器では調整できない方向(例:ヨーイング=捩れ方向)
 やレベル(高さ)の変化に対する理解が遅れてしまうのだ。
 なので「被写体が曲がって写っているよ、もっとしっかり三脚を
 立てないとダメだな」など、実際の原理とは異なる方向に意識が
 行ってしまう。これは当然ながら大きな間違いだ。

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さて、今回の「撮影技法・特殊技法Part 2」は、このあたりまでで、
次回は引き続き同サブカテゴリーPart3の用語解説を行う。

ドラゴンボート「桜ナイトクルーズ」

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2019年4月6日(土) 大阪の大川(淀川の派流、旧淀川)
で行われた、ドラゴンボート体験乗船「桜ナイトクルーズ」

の模様より。
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このイベントは、大阪の老舗ドラゴンボートチーム
「チーム未来」の主催により、近年は(ほぼ)毎年行われて
いる、ドラゴン体験乗船会と夜桜見物を兼ねたイベントだ。
私が参加するのは数年ぶりとなる。

今回の記事では、このイベントの全容を紹介しておこう。

まず、このクルージングであるが、例年、4月上旬の週末に
行われている。勿論、桜が咲いていないと意味が無いのだが
近年では、桜の開花時期は、早くなったり遅くなったりする
ケースもあるので、日程はその年の桜の状況と天候を見ながら
ぎりぎりで決められると思われる。

この為、例えば、数週間前から「何月何日イベント決行」
のようなアナウンスをするのは難しい。

まあ、本イベントに限らず、他の様々な桜関連の各種イベントに
おいても、ここは悩ましい所であろう・・
例えば、数年前だったか?、関西ではずいぶんと桜の開花が
早く、3月末には、もう散ってしまっていたのだ。
各地の「桜まつり」等の様々なイベントは、4月上旬開催
を予定して、その日程で告知や準備をしていたので、
実際のイベント実施日には、桜が全く無い事もあった(汗)

もう1つ、本イベントでは、「チーム未来」の保有艇を
用いる、これはスモール艇なので、最大乗員数は12名だ。
なので、本イベントをあまり大々的に広く告知してしまい、
数十名が集まったとしても、それでは乗れなくなってしまう。

まあ、だから、あまり広くは告知せず、口コミのレベルで
チーム未来関係者、他チームからの有志、体験乗船者など
小規模のメンバーにより行われている。
また、年次によっては、複数の週の週末にまたがって
本イベントが行われる事もある。今年2019年もそうした
との事だが、この前週は、まだ桜もあまり咲いておらず、
かつ、生憎の雨天であったので、さんざんだったらしい。

このように桜関連のイベントは、タイミングや天候に
大きく左右される要素があるので、「本当に主催側は大変
であろうなあ・・」と、いつも思っている次第だ。

さて、本日4月6日の大阪の天候は幸いにして晴天。
気温も高く、昼間では20℃を超える位にまでなり、また
クルージングが終了する19時頃でも、16℃くらいの気温
であったと思うので、天候や寒さに関する心配はなさそう
である。

集合時間は午後4時、場所は、大阪・桜ノ宮の「共同艇庫」
である。ここにはドラゴンボート以外にも様々なボートが
収納されているが、結構いっぱいであり、チーム未来の
艇の他は、強豪「bp」等の艇も保管されているが、ドラゴン
系での艇の数は少ない、カヌー等、他の多くは大学系の
ボート部等の所有艇ではなかろうか・・

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この艇庫は、大川沿いの「毛馬桜之宮公園」の中にある。
最寄駅は、JR大阪環状線の「桜ノ宮」駅からであれば
およそ600m、徒歩で12分くらいであり、
京阪電車(他にJR,地下鉄)「京橋」駅からであれば
約1.1km、徒歩で20分くらいで到着する。
また、JR東西線「大阪城北詰」駅からも、約700m
徒歩15分くらいで到着する、いずれの場合でも交通の便は
良いであろう(駐車場の関係で車での来場は推奨できない)

桜が満開の暖かい週末ともなれば、「毛馬桜之宮公園」は
花見客でいっぱいだ。近年の傾向としては、日本人客に
混じって、外国人の花見客も、とても多く見られる。
この傾向は大阪に限らず、京都や奈良の観光地が特に
顕著であり、場所によっては日本人よりも外国人の数が
多いという状況も、近年においては不思議では無い。

さて、花見客の間を縫うようにして「チーム未来」の
艇庫に到着。そして集合時間の16時前ともなると、
本日のイベント参加者が集まって来た。
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本日の参加者は、チーム未来は勿論の事、Team BANANA
Team 河童、からも、それぞれ女性選手が参加、そして
体験者としては、アウトリガーカヌー(ボート名および
ボート競技の一種、元々の意味は小型船の横に張り出した
フロート(浮き)の事を指す)の競技の選手が2名、
それから、ドラゴン選手の友人の女性、そしてなぜか
米国人の美人女性(日本在住、英会話教師とのこと)
が参加している。さらに私がカメラマンとして乗船し、
これで12名の定員いっぱいだ。
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16時過ぎ、まずは皆で準備運動。

スマホ内部にダウンロード保存されている「ラジオ体操
第一」を、小型ブルートゥース無線スピーカーで流す。
「時代は変わったなあ」と認識する次第であり、ちょっと
前までならば、ラジカセを使っていただろうし、そもそも
「ラジオ体操のCDやカセットって、何処に売っているの?」
と悩んでしまう状況だった事であろう。

「・・ん、ラジオ体操? 米国人女性は大丈夫か?」

・・と見ると、なんとか見事にこなしている。
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米「ハジメテ、ヤリマシタ、皆の真似をシマス」

彼女は日本在住暦10年、まあ、そこそこ日本語も話せる。
すぐさまチーム未来のメンバーも応える。

未「なかなか、お上手ですね。
  日本人は全員、ラジオ体操を知っています。 
  毎朝TVで放送されているしね・・」
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次いで、ドラゴン・スモール艇を艇庫から出し、
スロープを用いて進水。ちなみに、この桜之宮公園の
スロープは、水陸両用観光バス「ダックツアー」での
大川への侵入路にも用いられている。
昔、このツアーが出来た頃、1度乗った事があったが、
料金は結構高かったと記憶している。
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ドラゴン艇を桟橋につけ、ここから乗船。

ここで注意点だが、17時頃の出発となり、再びこの
桟橋に戻ってくるのは、19時頃である。その間、1度
休憩地点はあるのだが、川から外には出られないので、
トイレの心配がある。

桜之宮公園には、勿論公衆トイレが存在するのだが、
花見客で混雑する状態では、特に女性トイレは順番待ち
の長蛇の列ができる、だから発艇の30分くらい前から
トイレに行っておく等が、念の為望ましい。

さて、準備が整ったところで出発だ。時刻は丁度17時、
予定通りである。
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大川をドラゴンボートが航行する事は、一応、問題は
無いのではあるが、生憎、太鼓を叩く事は出来ない。
まあ、近隣住民の迷惑になるからである。

大川で太鼓が叩けるのは、毎年7月中旬に行われる
ドラゴンボート日本選手権大会(旧:天神大会)
の場合のみである。(注:過去、大阪市主催による
水上イベントでドラゴン艇が参加した際には、勿論
太鼓を叩いていた。まあ「鳴り物」は派手だし・・)

さて、天気も上々、気温も暖かく、桜も満開だ。
漕手メンバーも、ずいぶんと楽しそうに漕いでいる。
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ちなみに、この時期に満開を迎えているのは、ご存知
「ソメイヨシノ(染井吉野)」である。
この地域には、とても有名な「造幣局 桜の通り抜け」
のイベントがあるのだが、そこで咲く桜には様々な品種が
あり、ソメイヨシノよりも平均2週間前後遅れて見頃を
迎える、まあつまり、まだ造幣局の桜は咲いていない。

でも、ソメイヨシノばかりが桜、という訳でも無く、
勿論、桜には様々な種類がある。

私も例年、関西圏における、超早咲き桜(詳細名不詳、
概ね1月~2月)、河津桜(2~3月)、修善寺桜(3月頃)
あたりを一通り見物してから、ソメイヨシノ、大島桜、
しだれ桜・・といったシーズンを迎える事が通例だ。

早咲きの桜は、あまり知られていないのか? 花見客も
とても少ないので、快適に花見や撮影が出来るのだが・・
ソメイヨシノの時期ともなると、何処へいっても大変混雑
する。前述のように、近年では日本人花見客に加えて、
外国人の花見客も、とても多いので、なおさらだ。

さらには、中国人カップルによる「結婚式前撮り写真」も、
近年では、どの観光地でも見かける。
なんでも、近年の中国では少子化と経済水準向上の影響で
結婚式の際には、壁一面に、新郎新婦が世界各地で撮影した
大量の写真を貼り出す事が、一種の「ステータス」になる
として流行している模様だ。
その為、日本の観光地でも撮影を行う事があり、タキシード
とウェディングドレス姿のカップル、さらに専属カメラマン、
専属メイク、現地ガイド等の4~6名くらいのグループが、
いたるところに居る状況だ。
桜の時期は特にすごく、京都や奈良の観光地等では早朝
から、複数の「結婚式前撮り」のグループチームが、
場所取り合戦のような状態で集まってくるのだ(汗)

さて、私の場合では、正式に「花見」とは言えないが、
前述の早咲きの桜の数種を毎年見てきている状況からは、
「ソメイヨシノが咲いた? ああ、もう桜はいいや、
おなかいっぱい・・」という感じに既になっているケース
が殆どだ。何も、一番混雑する時期に、人ごみの中で
花見をする事もあるまい・・ という気持ちにもなる。

何処が混雑するか? については、近年の「一極集中化」
現象を逆情報として扱う。すなわち、その年において、
「桜の名所」として、TVや観光パンフレット、雑誌、
インターネット等で紹介されている場所には一切近寄らない
ようにしている。つまり、それらを事前に調べた上で
「今年は、ここにだけは行くまい」と判断する訳だ。

なぜ「一極集中化」するか? それはスマホ等の普及で
情報の量が増えたにもかかわらず、そこから、情報を
取捨選択するスキルが一般層には備わっていないからだ、
だから、ちょっと情報が飛び交うだけで、簡単にその
情報に群がって混雑してしまう訳だ。

わざわざ混雑する場所に行く必要も無いとは思うが、
中には「有名な、その場所に行ってきた」と自慢したり
SNSでイイネを貰ったりしたい、と思う人達も多い模様だ、
なんだか、とても不条理な世情だが、まあ本人がそうしたい
と言うならば、止める理由も無い。

私が例年、良く行っていた場所(穴場)も、今年はTV等
で大々的に紹介されてしまった(注:昨年の大型台風での
災害復興の為、地域が観光誘致に力を入れている模様だ)
よって、もうその場所には行く事ができない、酷い混雑
が予想されるからだ。「君子危うきに近寄らず」という
故事は現代においても的外れな事を言っている訳でも無い。

こちらの「毛馬桜之宮公園」も、混雑対象危険地区(汗)
である。ただまあ、ドラゴンボートに乗ってしまえば
むしろ立場は正反対、陸上で混雑した中、花見をしている
多数の人達を横目で見ながら、川面を、すいすいと快適に
クルージングできる訳だ。
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少し余裕があれば、まるで皇族や功績のあったスポーツ
選手のパレードのように、水上から手を振ってあげれば
陸上の人達も手を振り返して「がんばれよ~」などの
声援を送ってもくれる。

これを「優越感、気持ちよい」と考える人達はとても多く
そうした桜の名所で観光船(遊覧船)が運行する場合は、
どこも予約でいっぱいだ。京都あたりでも数箇所それは
あると思うが、おそらく最低でも1ヶ月や2ヶ月も前から
の予約が必須であろう、当日に行って乗れるものでは無い。

ここ大阪の大川も同様、夜になると、極めて多数の観光船、
水上バス、飲食ができる屋形船、などが行きかい、まるで
「船の渋滞」が起こる程である。(乗船待ちも長蛇の列だ)

で、ドラゴンボートは、小型船舶である為、夜間、見え難く、
これらの観光船等との接触や衝突の危険性がある。
その為、本ナイトクルーズでは、ドラゴン艇の前後に
LEDの照明を設置、また、陀手は、工事現場のような、
光が点滅するジャケットを装着し、他の船舶からの視認性を
高め、安全に配慮している。

このあたりの各種LED照明は、なんでもチーム未来のメンバー
に、それに関連した職業の方が居るとの事で、入手や艇への
搭載なども、お手の物なのだろう。
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クルージングのルートだが、以下のような感じだ。

毛馬桜之宮公園(17時発)→(上流へ)→源八橋(下流へ)
→造幣局前→天満橋駅前(注:日本選手権会場)→
中之島(ローズポート、噴水前)→なにわ橋(北浜駅前)
→大阪中央公会堂/大阪市役所前→水晶橋→大江橋駅前
(ここまで約4km、およそ1時間)→休憩20分間→
(帰路は、ほぼ同一のルートで引き返す)→毛馬桜之宮公園

(およそ19時到着、約7km、クルーズ合計2時間、内、漕ぐ
時間は1時間半程度。平均時速約4.6km/h)

となっている。

大阪のメイン観光地(および、行政やビジネスの中心地)
である、この地区を水上から見物できるこのルートは、
いくつかの観光船での航行コースともなっている。
しかし、観光船に乗るのは予約が大変で、しかも高額で
あるから、このドラゴンボートクルーズは、そういう意味
でも非常に快適だ。(ただし、自分で漕ぐが・・・笑)
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なお、本イベントでは一応500円の会費を徴収している、
その金額から、お茶代、御菓子代、および保険料を
まかなう仕組みだ(上下写真は、休憩中の模様)
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こちら、コンビニの最新スイーツだ。柔らかく美味しいが
ちょっと高額なのが難点か?
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さて、18時過ぎでの休憩時間も終わると、大阪の街は
この時間帯から変貌を遂げる。

陽も沈めば、ビル街には灯りがともり、いくつかの橋は
ライトアップされる。 また、この時期であれば桜も
当然ながらライトアップだ。
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行きかう観光船も、色とりどりの電飾で派手である。

中には、デジタルサイネージ(大きなTVモニターに広告を
表示する)を搭載した広告船もあり、いかにも大阪らしい。
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なかなかの景色であり、かつ、水上から見る景観は
陸上からの景色と、ずいぶんと印象も異なる。
まあ、滅多に見られる光景では無いと思う。

花見客も、ちょっと様相が変わり、昼間の間は、
ファミリー層がレジャーシートを広げて、お弁当を
食べたり、ビールを飲んでいる状況だったのが、夜に
なれば、屋台で、一杯ひっかけながら酒の肴をつまむ
というスタイルだ。花見の客層も若干変わり、年配層や
カップル層が増えてくる。

そうした夜の花見客をも横目で見ながら、手を振り、
声をかけられつつ、気持ち良くクルージングできる。
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19時、無事何事も無くスタート地点の毛馬桜之宮公園
に戻って来た。

今回参加のメンバーは、この後、「打ち上げ会」に
移行するとの事であるが、私は都合により、この時点で
失礼する事とした。

まあ、極めて秀逸なイベントである、なにより気分が良い。
実際に漕いでいる漕手の人達は、やや大変であろうが、
選手であれば練習の一環ともなるし、これくらいの
スローペース(試合時の約1/3の平均速度)で音を上げる
選手も誰も居ない。

乗船しながらの写真撮影は、揺れに加え、アングルの制限、
さらは夕方から急速に暗くなる等で、多少難易度が高いが、
まあ、個人的には慣れた分野である。

ちなみに今回の撮影機材は、デジタル一眼レフのPENTAX
K-30に、HD PENTAX-DA 18-50mm/F4-5.6 DC WR RE
レンズでの「簡易防水セット」である。艇の上では
パドルの水しぶき等がかかるので、防水カメラが望ましい。


なお、以前の本イベントの撮影経験から「望遠レンズ」
は不要である事が判明、望遠機材は持ってきていない。
加えて、このセットは安価であり、消耗や、万が一の
落水などの想定においても、あまり気にせずに使える。

また、陸上撮影および夜間撮影用に、ミラーレス機、
SONY α6000と中一光学35mm/F0.95の超大口径レンズ
を持ってきている、F0.95までの明るさがあれば、
午後7時位までの、日没後のやや暗い状況であっても、
スローシャッターにはならず、何も問題なく撮れる。
ただ、こちらは防水では無いので、使用には注意が必要だ。

それから、勿論カメラマンも他のクルーも、全員がライフ
ジャケット着用である。今時の世情であるから、もう、
たとえイベントであろうが、できれば観光船であっても、
ライフジャケットの着用は、安全の為、望ましい。

本クルーズに興味があれば、また来年にも「チーム未来」
に相談してみるのも良いであろう、未体験者も勿論歓迎だ。
各ドラゴンチームの行うイベントには、当然ながら新規の
選手の勧誘の意図もあるからだ。

ちなみに「チーム未来」は発足20余年の、超老舗チームと
なっている。私の場合は「チーム未来」とは、2004年
頃に、ここ桜ノ宮で出会っているのだが、そこから15年
以上も経過すれば、チームメンバーも大きく変わっていて
もう、その当時のメンバーは殆ど残っていない。

でも、それは「チーム未来」に限らず、どのチームでも
あるいは、どの分野のアスリートでも同様であろう。
あの、「いつまでも現役が続けられそう」な「イチロー」
でさえも、引退の時期を迎えてしまった。結局スポーツ
の世界では、15年や20年は、かなり長い期間である。
ドラゴンのチームメンバーも、少しづつ新陳代謝により
若返りをしていかなくてはならない。そして、その事が
各ドラゴンチームにおいて、現在、切実な課題となっている。

ドラゴンという競技が日本に普及してから、およそ30年、
最初期の選手達は、例えば当時20歳代の若手であっても
今や50歳代である、いつまでも激しいドラゴン競技が
続けられる年代では無い。
でも、老舗チームのいくつかは、およそその頃から現在に
至るまで存続している、だから若手の募集は必須なのだ。

その為にも、各チームは広く一般から新規の若手の加入
選手を募集する為の様々な方策を行っている。
たとえば、本イベントだって、広い意味ではそうであるし、
昨年11月に京都宇治川で行われた「すいすい丸」による
(盛況だった)一般体験乗船会も同様だ(特集記事参照)

あるいは他チーム、他地区でも同様に様々な体験会等の
イベントを行っていると聞く。私は、それらの全てを見学
したりは、できる訳では無いが、これらは各チームにとって、
とても重要な事だ、という認識は持っている。
c0032138_19342089.jpg
「チーム未来」の本イベントも同様、これの開催により
新規メンバーが勧誘できるのであれば、それは良い事
なのだろう。
なお、私は未参加であるが、秋ごろにもクルージング
(紅葉クルーズ?)を、同じく「チーム未来」主催で
この場所で行っている模様である。

さて、そろそろドラゴン競技も「シーズン・イン」だ。
今後、本ブログでは、各大会またはイベント等の模様を
【熱い季節2019】シリーズとして記事掲載していく予定
となっている。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(4)ロシアンレンズ

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回の記事では「ロシアン」レンズを5本紹介しよう。
c0032138_19204716.jpg
ここで言う「ロシアン」とは、旧ソ連(ソビエト連邦:
1922~1991年に存在)製のレンズを指す。

旧ソ連製レンズの多くは、第二次大戦前の独ツァイス社が
戦後、東西分断された事から、「東側」に技術や設備が
流出し、そのレンズ設計等を流用またはコピーして戦後に
製造された物である。
まあ、そうした暗い歴史的な経緯はともかく、描写力には
定評があり、かつ安価であった。

ただ、第二次大戦前からは既に約80年の歳月が流れており、
ロシアンレンズが、現代的視点から見て、必ずしも
高描写力である保証は無い。(=要は、古すぎる訳だ)

また、ロシアンレンズは現代のデジタル機で使うには
システム的に厳しい場合もあり、装着する事で、カメラ
本体が壊れてしまう危険性すらある事は、良く認識する
必要がある。
ロシアンは、あくまで上級マニア向けであり、一般的な
カメラユーザー層には手がおえない為、非推奨とする。

なお、過去記事「ハイコスパレンズマニアックス第19回
ロシアンレンズ特集」と主旨が被るので、本記事では、
過去特集記事とは、また違うレンズを紹介しよう。

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まず、最初のシステム
c0032138_19205893.jpg
レンズは、Jupiter-37A (135mm/f3.5)
(中古購入価格 8,000円)(以下、Jupiter37A)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)

【重要な注意点】
重要な事をまず最初に書いておくが、旧ソ連製レンズは
工作精度の品質基準等は、あって無いようなものである。
したがって、たとえM42マウントやNIKON Fマウント風の
見かけであったとしても、それを、そのまま国産デジタル
機(一眼レフ)に装着する事は極めて危険だ。

装着できないならばまだしも、装着したら外れなくなる、
あるいは撮影したらミラー等が干渉してカメラが壊れて
しまう等のリスク(危険性)が常に付きまとう。

よって、まず、上級マニア層以外では絶対に使用しない事。
そしてマニア層であっても、これらのロシアンレンズを
使用する際は、「必ずマウントアダプターを介して
ミラーレス機に装着する」事が必須条件だ。

この用法であれば、万が一レンズが外れなくなっても
アダプターが一個犠牲になるだけで済むし、ミラーレス機
であればミラー干渉などの故障リスクも無い訳だ。

本記事においても、この用法を守り、殆どのロシアンを
ミラーレス機で使用する。なお、APS-C機やμ4/3機では
レンズ本来の画角では無くなるが、そういう点は気に
しない方が良い。むしろ画角を狭くして、ロシアンレンズ
の典型的な弱点である、周辺収差、ボケ質破綻、逆光耐性の
低さ等を少しでも緩和しようとしている。

元々本シリーズ記事は「フルサイズ機で使わなくちゃ嫌だ」
等と言っているビギナー層向けの記事では無いので念の為。
c0032138_19205859.jpg
さて、本Jupiter37Aだが、恐らく1960~1980年代頃に
生産されていたと思われるロシアンレンズだ。
シリアルナンバーの上位が製造年である、という情報が
あり、それを信じるならば本レンズは1983年製である。

なお、旧ソビエト連邦では「メーカー」という概念は無く、
各レンズは、いくつかの国営工場に分散されて製造されて
いた次第だ。(この点も、レンズ製造の個体差に繋がる)
ただしレンズによっては、その工場名、あるいは製造地域
の工場が後年のソビエト崩壊で独立し企業化された際には、
企業名が冠される場合もある。(例:アルセナール社等)

さて、本Jupiter37Aに関しては、現代となっては、詳しい
情報が殆ど無いので、実際にレンズを触りながら、わかる
範囲で記事を進めていく。

本レンズはM42マウントである。プリセット型に似た
単独の連続値絞り環方式であるが、プリセット環は無い。
この手の構造の場合、絞り羽根枚数は極めて多く
数え切れない(汗)程だ。ただし、円形に近い絞り形状
の仕様だからといって「ボケ質」が良くなる訳ではなく、
あくまで、木漏れ日等の「ボケ形状」が良好なだけだ。

(注:1990年代頃に「円形絞り」技術が出て来た際、
大手メーカーでさえ、そうした誤解を生むような説明を
「確信犯」的に行っていたし、その詳細を隠してしまう為に
「ボケ味」等の定義不明な曖昧な表現を使う場合もあった。
つまりまあ、そうした曖昧な用語を使っている情報は、
基本的に、あまりあてにならない訳だ)

最短撮影距離は1.2mと、135mmレンズとしては標準的。
ただし、今回は「M42ヘリコイドアダプター」を使用し、
かつ、APS-C機に装着している為、実際のところは
マクロレンズ並みの撮影倍率を可能とするシステムだ。

レンズ構成は不明だが、一説には、Carl Zeiss Jena
(イエナ)製のSonnar 135/3.5のデッドコピーだとも
言われている。

レンズ開放F値と焦点距離の表記は、「ドイツ式」と
言われる「3.5/135」という順番で書かれている。
これは、カール・ツァイス系のレンズでは、現代でも
この表記となっているケースがあるが、他のほとんど
全てのメーカーが、焦点距離、口径比(開放F値)の
順で書かれている。ツァイスはいくつかのメーカーに
ライセンス供与をしているが、例えばSONYなどでは、
焦点距離、口径比、と現代の慣習に沿って書いている。
結局「ドイツ式表記」は、現代となっては少々異端だ。

また、これらの表記法は、現代のメーカー間でも、全く
統一されていない。これは好ましく無い状態である為、
本ブログでは、開設当初から、135mm/f3.5という
表記法を用いて統一している。これは必ずしも正しい
表記法では無いが、正解が無い以上、やむを得ない。
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さて、本Jupiter37Aの描写力だが、逆光耐性が悪く、
コントラストも低くて、フレアっぽい描写だ。
これらは弱点とは言えるが、まあ、やむを得ない節もある。

元々本レンズの設計のベースとなったSonnarを設計した
Carl Zeiss Jenaは、東ドイツにおける、第二次大戦後の、
今から70年程前の時代の企業だ、1970年代には西独の
ツァイスと商標訴訟が起こった、という暗い歴史もあるが、
それはともかく、Sonnar135/3.5やJupiter37Aは、
基本的に古い設計のレンズであり、それに加えて東独や
ロシアにおいては、コーティングの技術が未発達のままで
あった。
よって、MC(マルチコート)等の記載の無い、ほぼ全ての
ロシアンレンズは、逆光耐性に課題があり、コントラスト
が低いという、いわゆる「ヌケが悪い」とか「眠い」とか
評される画質となる。

また、ボケ質破綻が良く出る。まあ、これはレンズの
収差の一環ではある、昔のレンズの手動設計では、現代
レンズのコンピュター設計のように諸収差をバランス良く
低減できる筈も無く、また、低分散ガラスや非球面レンズ
といった、新素材・新技術が導入されている訳でも無い。

こういう点が、ロシアン全般の課題ではあるが、こうした
弱点を回避するには、まずは、光線状況を綿密に分析して
撮るしか無い。加えてボケ質破綻回避の技法も必須だ。
(匠の写真用語辞典第13回記事参照)

それらが出来るか出来ないかで、ロシアンレンズの
描写力は大きく変わり、当然ながら評価も変わってくる。
利用者側に、こうしたスキルを要求される状況であるので
ロシアンレンズの使いこなしの難しさが現れる訳だ。
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本レンズの総括だが、結局、利用者側のスキルによりけり
の要素が大きい、使いこなせなければ「ダメレンズ」となり、
上手く使う事ができれば「コスパが良いレンズ」となる。
まあ、これは、本レンズに限らず、多くのロシアン、そして
様々なオールドレンズ全般でも同様と言えよう。

(参考:2018年頃から新鋭の海外(中国製等)製レンズ
が急速に国内市場に普及している。それらの一部はオールド
名レンズの設計を流用し、APS-C機用にダウンサイジングした
ものもある。(これを「ジェネリック・レンズ」と呼ぶ)
この場合、オールド(名)レンズと同様の特性を持つ為、
元々の設計上にあった課題を理解・回避して使えるならば、
「コスパが良いレンズ」となり、使いこなせなければ、
「安かろう、悪かろうのダメレンズ」となってしまう)

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では、次のロシアン
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レンズは、アルセナール MC KALEINAR-5N (100mm/f2.8)
(中古購入価格 3,000円)(以下、KALEINAR-5)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

こちらはウクライナ製のレンズである。
恐らくは1980年代の製造と思われるので、その時代
であれば「旧ソ連」だから、「ロシアン」とも言える。

ウクライナは1991年のソビエト崩壊後は独立した国家
となり、アルセナールは、それ以前から首都キエフに
存在していた国営工場(現在も)であるが、現代的な
感覚からすれば、これはメーカー(企業)である。

旧ソ連時代から「キエフ」等のカメラを製造していた
事で著名だ。国内市場では「アルセナール」
(Арсенал)を「アーセナル」と呼ぶケースも
ある模様だが、元々のロシア語(キリル文字)を読んでも、
正確な発音は良く分からなかった事であろう。
例えば、独フォクトレンダーも、戦前の国内市場では
「ホクトレンデル」と呼ばれていた位だし、アルセナール
社がある都市(Kiev/Kyiv)も、キエフ、キーウ、キーイウ、
といった発音や表記が混在する。

同様に、本レンズKALEINARの正式名は、当然ロシア語
(キリル文字)ではあるが、パソコンでの文字入力が
面倒なので、便宜上アルファベット表記にしている。

ちなみに、ロシアンレンズ名の最後に良く出てくるHは、
英文字ではNであり、これは「ニコン(風)マウント」
の意味だ(注:完全なニコン互換マウントでは無いので
それらをニコン機にそのまま装着すると、外れなくなる
などのリスクが非常に高く、大変危険である。
ニコン風マウントであってもマウントアダプター必須だ)
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さて、本レンズの長所であるが、そこそこ良く写る事だ。
アルセナール製のレンズは、マルチコーティング技術も
採用されていたと思われ、他のオールド・ロシアンとは
一線を画す性能だ。

そして価格も安価である、まあ、価格については
入手の手法にもよりけりであろう。
ソビエト崩壊後の1990年代に、日本では中古カメラ
ブームが起こり、これらのロシアンレンズが国内市場
にも多数流通した。その中古相場は3000円~1万円で、
新品の場合でも5000円~2万円、というのが当時の
価格帯であった訳だ。

が、後年、デジタル時代の2000年代以降に、新世代の
初級マニア層等が、「ロシアンレンズって良く写る
のだろう?」とか言って、これらを探し始めた際には
中古相場が2万円~5万円と不当な迄に、吊りあがって
しまっていた事もあった。
これは、元々「数が少なく希少」である事と「それでも
欲しい」という初級マニア層や好事家と、流通や投機層
による、需要と供給のバランス点による結果の高値相場だ。

だが、「ロシアンは安くて良く写る」が大原則であり、
5万円も出すくらいならば、現代の新鋭高性能レンズを
中古で買った方が、比較の対象にもならないくらいに
良く写るのだ。それらの「絶対的価値感覚」を忘れては
ならない。
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本KALEINAR-5の他の長所だが、最短撮影距離80cmと、
100mmレンズにしては、かなり寄れる仕様となっている
事である。アルセナール製のレンズは、他にも最短が
短い物があり、とても「現代的な仕様」で好感が持てる。

ちなみに他の100mmレンズで、これより最短が短いレンズ
(マクロを除く)は、銀塩時代1980~1990年代頃の
OLYMPUS OM100mm/f2が70cm(ハイコスパ第18回記事等)
それから、2017年のSONY FE100/2.8STFが57cm
(本シリーズ第0回アポダイゼーション・グランドスラム
記事等。ただしMACROモードへ要切換)が存在している。

KALEINAR-5の総評だが、全体的に悪くないレンズだ。
入手性が悪いのが課題だとは思うが、もし安価に
見かけたら買う価値はあるだろう。

ちなみに、銀塩時代末期に、私はこのレンズを2本
所有していたが、内1本は、製造個体差でNIKON機に直接
装着が出来ずに手放している。中古市場で、その個体が
約20年ぶりに巡って来たら不運かも知れないが(汗)
まあでも、もしかすると、現代のマウントアダプターを
介せばミラーレス機には装着可能かも知れない。

正式な読み方が不明なレンズであるが、高性能なので、
私は「華麗な~る」(笑)と、駄洒落で呼んでいる。

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では、3本目のシステム
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レンズは、KMZ Industar-50-2 (50mm/f3.5)
(新品購入価格 7,000円相当)
カメラは、FUJIFILM X-T1 (APS-C機)

恐らくは、1960年頃から1990年頃迄、長期に渡って、
KMZ(クラスノゴルスク機械工場)で生産されていたレンズ。
同工場は、銀塩カメラ「ゾルキー」や「ゼニット」
交換レンズの「ZENITAR」を生産した事でも著名だ。
(参考:また、ごく近年では、Lomography(ロモ)社の、
高付加価値型レンズ(ダゲレオタイプやペッツバール等)の
レンズ製造を行っている事でも知られている)

なお、同工場は1927年頃、カール・ツァイスの子会社
に関連する「ポドリスキー機械工場」が設営したという
ことである。

本Indastar-50-2も、ツァイス・テッサー(1902年設計)の
3群4枚レンズ構成のコピー品であり、ツァイス(の子会社)
が関与していたのだろう、と想像できる。
レンズマウントは、M42対応品である。
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さて、「テッサー」と言うと、国産品については、
1980年代~の京セラCONTAX版の Tessar 45mm/f2.8を
まず連想するであろう、それは「パンケーキブーム」の
引き金になったとも思われる薄型レンズであった。

本Indastar-50-2は、パンケーキという程には薄型では無く
どちらかと言えば「小型レンズ」というイメージである。
「格好良い」事が特徴ではあるが、反面、小型すぎて
操作性が良く無い。特に、絞り環がレンズ前面での操作
となり、絞り値の指標も前面からで無いと見えないので
そこが使い難く不満だ。

京セラCONTAX Tessarは、45mm、F2.8、最短60cm
という仕様であったが、本Indastar-50-2は、50mm、F3.5、
最短65cmと、僅かづつだがスペックが異なっている。

それと、本レンズは、ロシアのKMZ工場に残っていた
在庫品を近年に日本国内の業者が輸入したものであり、
新品販売で、ティルトアダプター付きでの販売であった。
今回は、そのティルトの効果も交えて撮影している。
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描写力だが、多数存在するテッサー型レンズは、
いずれも似たり寄ったりという印象だ、そこそこ良く
写るが最短撮影距離も長い為、絞りを開けて使うよりも、
絞って中遠距離被写体を狙う撮り方がセオリーだ。
絞り込んだ時の描写力は、たいていのテッサー型の
レンズにおいて、あまり不満は無い。

一眼レフ用の開放測光のテッサーは、「焦点移動」が
出る弱点もあったのだが、こうした連続値絞り環を持つ
絞り込み(実絞り)測光タイプであれば、焦点移動は
起こらないので心配は無い。

ただまあ、ありふれた構成のレンズである。古今東西、
テッサー型レンズは、単体の交換レンズはもとより、
銀塩コンパクト機搭載レンズ等で、星の数ほどある。
まあ「テッサー」は商標なので、そうは書かれてはいない
までも、世の中には、あのカメラのレンズも、この交換
レンズも、いくらでもテッサー型レンズが存在する。

そもそも、今更、100年以上も前の時代の発明のレンズを
有りがたがる必然性も全く無い。
テッサーが高く評価されたのは、その100年も昔の話なの
だし、その特許が切れた数十年後には、世の中のカメラ用
レンズが、殆どテッサー型に席巻されてしまった状況だ。
そして、近年に至るまでテッサー型構成のレンズは、いくら
でもあるから、これを「オールドレンズ」と呼ぶのも
見当違いだ、つまり、ごくポピュラーな「定番レンズ」だ。
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・・と言う事で、特筆して紹介する内容も無いので、
本Indastar-50-2に関しては、このあたりまでで・・

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では、4本目のロシアン
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レンズは、アルセナール MIR-24N (35mm/f2)
(中古購入価格 8,000円)(以下、MIR-24)
カメラは、NIKON D500 (APS-C機)

前述のKALEINAR-5N と同じくウクライナのKIEVにある
国営工場で製造されたレンズ。
製造年は不明、恐らくは1980年代前後であろう。
ニコンFマウント類似のKIEV-19用マウントであるが、
前述のように、ニコン機への直接装着は避ける事が賢明だ。

だが、今回、ちょっとした実験をする為にニコン機を
使用している、その実験内容については後述する。
実は、この個体に関しては、ニコン機に装着可能である。
だが、全ての個体で、そうである保証は無い為、(安全な)
マウントアダプターを介した装着を推奨している訳だ。

(なお、装着安全を確認するためには、多数の、各時代の
ニコン製一眼レフ(ジャンク機含む)で事前検証をする必要が
ある。一般的なユーザー環境では、そうした事は無理であろう。
私の場合は、およそ50年の間に製造された十数台の各時代の
NIKON製一眼を所有していて、それらに順次装着テストを続け、
新鋭機に本レンズを装着しても大丈夫である事は確認済みだ。
勿論ロシアンレンズには製造固体差もある為、他者が全く同じ
システムで使用できるとも限らない。あくまでそこはリスクだ、
リスクを「自己責任」として容認できる上級マニア層以外では、
新鋭一眼レフへの直接装着は、決して試してはならない)
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さて、キエフ(地名)で作ったカメラをKIEV(製品名)
と呼ぶのは、なかなかユニークな命名かも知れない。
例えば、日本産のカメラを「トーキョー」「オーサカ」と
命名するようなものだ。でもまあ、神戸六甲山の近くで
作られたレンズを「ロッコール」と命名した前例もある
ので、あまり不自然では無いのかも知れないが・・

まず、本MIR-24は、とても優秀なレンズだと思う。
過去記事の「名玉編」にもランクインしている位だし
ロシアンの中では特に高性能なレンズという認識だ。
1990年代には、輸入専門店等での新品販売もあった
模様だが、現代での入手は、少々困難な事であろう。

優秀な性能の所以としては、まず最短撮影距離が24cm
と短い事がある。これは古今東西の35mm級レンズでは
マクロレンズを除き、トップクラスだ。
(私が知っている範囲では、TAMRON SP35/1.8がトップ
の最短20cm、そしてSONY DT35/1.8の23cm、に次いで
本MIR-24は第3位相当である)

逆光耐性やボケ質も、多少そのあたりに注意しながら
撮れば問題は無い。
ただし、ここも上級者や上級マニアレベルのスキルが
必須となる、「レンズの言うがまま」にしか撮れない
初級中級者の場合は、ロシアン、あるいはオールドレンズ、
または新鋭中国製レンズを使いこなす事は、まず困難だ。
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ちなみに、世の中で「オールドレンズによる写真」と
称するもので、酷い写りのものが多いのは、それは
レンズの欠点を回避できないで使っているから、そうなって
しまう訳だ、ちゃんと使いこなせるのであれば、オールド
レンズでも、そこまで酷い写りにはならない。

なお、職業写真家等が、オールドレンズでの酷い写りの
写真集等を出しているのは、その場合は、あえて酷いもの
を選んでいる訳だ。何故ならば「オールドレンズ」と
タイトルに書く以上、読者は酷い写りのものを期待する
からである。オールドレンズと言っているのに、普通に良く
写ってしまったら面白く無いし、そもそも、下手をすれば
オールドの方が綺麗に写る、となったら、世の中の新製品
レンズの立場が無い。だから市場における「倫理」を崩壊
させない為にも、「オールドレンズは酷い写りでなくては
ならない」という「大人の事情」がある訳だ。

それから、たとえ職業写真家であっても、オールドレンズ
撮影の専門家等は、まず居ない、
当然ながら、それだけでは生計が立たないからだ。
業務撮影のほぼ全ては、現代の撮影機材を使う事であろう。

だから、専門的では無い職業写真家層では、オールドレンズ
の使いこなしが、ちゃんと出来ていないのかも知れない。
そういうレンズ群に多数触れる機会があったり、実際に
それで多数の写真を撮影しているのは、職業写真家層では
なく、むしろ上級マニア層なのだ。
まあ、「職業写真家兼上級マニア」という人も存在はする。
でも、その場合でも、ロシアンやオールドでは、飯のタネ
には殆どならないだろうから、分類上は「上級マニア」だ。

さて、本MIR-24であるが、ロシアンレンズの一般的な
弱点を殆ど持たない特異なレンズだ。ある意味、使い易い
と言えるかも知れないし、反面、面白味の無いレンズとも
言えるかも知れない。
ただ、現代のレンズで「用途代替」が出来るのであれば
わざわざ本MIR-24を使う意味もあまり無い。
具体的には、現代のTAMRON SP35mm/f1.8を使うならば、
あらゆる点で、本MIR-24よりも高性能、高描写力だ。

MIR-24を使う意味は、「安価である場合」あるいは
「マニアック度を期待する場合」の2つしかなく、
とは言え、いずれも重要な実用価値は無い。
まあ、安価だったのは確かだが、現代では入手性が悪く
むしろ希少なレンズだ、もし、これを壊してしまったら、
代替の入手手段が殆ど無いので困ってしまう。
そういう意味では、多少高価でも現代レンズの方が
安心して使える。現代レンズであれば、万が一壊れても
修理に出すか、または中古で買い替えても良い訳だ。

結局、いくら「優秀なロシアンレンズだ」と言っても、
あまりこれ(MIR-24)を推奨する理由には成り得ない。

最後に、本レンズで少し実験をしてみよう。
MIR-24に、自作の「赤外線透過フィルター」を装着する。
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これは760nm以上の波長の光のみを通すゼラチンフィルター
を円形にカットし、ステップアップリングやフィルター枠で
挟み込んで自作したものだ。

このフィルターは可視光は通さないし、加えてカメラ側には
赤外線カットフィルターが入っているので、相乗効果により
映像が極めて(数千倍も)暗くなり、通常は撮影が不可能
となるが、NIKON D500の最高ISO感度は164万もある為、
ライブビューモード+超高感度でかろうじて撮影が可能だ。
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実際には、ISO感度を数十万~100万程度にすると、超高感度
における偽色と、IRカットフィルターの存在により、カラー
バランスが著しく狂って、赤い画像になってしまうのだが、
D500をモノクロモードにして、その問題を回避している。
なお、今回は作例は掲載していないが、本システムの場合、
銀塩赤外線撮影では(赤外領域での波長ピントずれにより)
不可能であった「赤外線近接撮影」が可能となる。

非常にマニアックで専門的な使い方であるが、参考まで。

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では、今回ラストのシステム
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レンズは、Jupiter-9 (85mm/f2)
(新品購入価格 5,000円)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

恐らくは、1950年代~1990年頃まで生産された
ロシアンレンズの代名詞とも言える、著名なレンズだ。

有名な理由は、本レンズがCarl Zeissの旧CONTAX版の
Sonnar 85/2(3群7枚)をベースに設計した、という
事で、つまり「ゾナーと同等の安価なレンズ」といった
印象によるものだが、「厳密にはゾナーのデッドコピー品
ではなく、小改良がなされている(レンズ構成が異なる)」
という情報もある。

まあ、いずれにしても古い設計のレンズだ。いくら
旧CONTAXの銘玉と言っても、80年以上も昔のレンズだ、
むしろ、近代に至るまで、それとほぼ同じレンズを、
ずっと生産しつづけていた、という歴史の方が、
本Jupiter-9の偉業なのかも知れない。
c0032138_19223375.jpg
さて、このJupiterだが、「ジュピター」と読むのは
英語読みで、「ユピテル」と呼ぶのがロシア読みだが、
「ユピテル」もギリシャ神話に出てくる名前であるし、
国内通信機器メーカー名としても知られているので、
違和感の無い読み方であろう。

本記事で、Jupiterシリーズを2本紹介しているが、
他に著名なものとして、Jupiter-8 50mm/f2もある。

余談だが、ほぼ同名の電子楽器「ROLAND JUPITER-8」
(1980年)は、8音ポリフォニックのアナログシンセ
であり、疑う余地も無い歴史的名器(名楽器)である。

ただ、JUPITER-8は、当時の発売価格が98万円と非常に
高価であり、かつ、かなり大型のシンセでもあり、
楽器好きの私でも、さすがにこれを買う事は出来なかった。

その代わり「JUPITER-8をデジタルで復活した」と
呼ばれたアナログ・モデリングシンセ「ROLAND JP-8000」
(1996年)を所有している。こちらはJUPITER-8の
およそ1/6の価格で、音色は、ほとんどJUPITER-8だ!

このJP-8000は現在でも大切に保管しているが、鍵盤楽器
が沢山あって置くところが無く、しまいこんで、もう殆ど
弾いていない。たまには出してきて、名器の音を堪能すると
しようか・・

ちなみに、楽器の世界ではデジタル化が、カメラ界より
およそ15年も早く行われた。デジタル化して比較的早くに、
こうしてアナログの名楽器をリメイクする等は、なかなか
優れた市場戦略であった。

なお、デジタルカメラの世界では、そのJUPITER-8と
同時代の名機(名カメラ)を復活させようとする気配は無い。
具体的には、1980年前後の三大銀塩旗艦機のデジタル版、
NIKON F3 Digital、CANON New F-1 Digital、そして
PENTAX LX Digitalが発売されたら、マニア層にウケる事は
間違い無いと思うのだが・・
(まあ一応、デジタル版のOLYMPUS PENとOMがあるし、
NIKON Dfも、それっぽいとは言えるが、どうもオリジナル
機体ほどのマニアック度が、やや少ない。まあつまりカメラ
市場の縮退故に、遊び心が少なく、慎重すぎるリメイク版だ)
c0032138_19223374.jpg
さて、余談が長くなったが、Jupier-9がツァイスの
ゾナーのコピー品、という件だが、このゾナー型の
コピー品は、ニコン等各社で色々とあって、これもまた
前述の「テッサー」と同様に「定番レンズ」である。
だからまあ、あまりこれも「神格化」する必然性は無い。

ここでさらに余談だが、ツァイス製の写真用交換レンズは、
現代では全て日本製となっていると思われる。
しかし、強力なブランドバリュー(価値)を持つツァイスで
あるから、一部のレンズでは、日本のどのメーカーが作って
いるのかは完全非公開だ。
結局、初級中級層だけが、現代のツァイス銘レンズを
「カール・ツァイス製だぞ!」と、有り難がって買って
いる訳なのだが、それらは全て国産品なので念の為。

ここで言いたい事は、現代の初級層や初級マニア層は、
あまりそうした過去のブランド名などに拘る必要性は
無いし、神格化してしまう必要性も無い、という事だ。

本Jupitar-8が、いくら良く写るレンズだといっても
現代の新鋭85mm、例えばSIGMA ART 85/1.4とか、
TAMRON SP85/1.8には、描写力的には、遠く及ばない。
(いずれも他記事で紹介済み、または紹介予定)
また、同じくツァイス銘であれば、現代のコシナ・
ツァイスがMilvusやOtusの85mmを発売している。
それらは現状、僅かな数しか所有していないが、恐らく
他の新鋭85mm製品も全てが高性能なレンズであろう。
c0032138_19223330.jpg
まあすなわち、本Jupiter-9の国内流通が盛んであった
1990年代においては、入手する価値があったレンズだとは
思うが、現代においては新鋭85mmmレンズが色々とある為
本レンズを指名買いする理由は全く無いという事だ。

加えて、新品入手価格が5,000円と極めて安価であった
事もポイントだ。
もし現代において、本レンズがプレミアム相場になって
いるようであれば、ますます買う価値は無い。
仮に2万円も出すのであれば、中一光学85mm/f2という
選択肢もある、それは安価な中国製レンズながら、
本Jupiter-9に勝るとも劣らない高い描写力だ。
(ハイコスパレンズ第23回記事等参照)

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最後にもう1度書いておくが、ロシアンレンズやレアな
海外製レンズは、ボディへの装着の危険性という課題が
存在する。そこに留意する事は勿論、基本的にはロシアン
の使いこなしには高度な知識やスキルが要求される為、
あくまで上級マニア層向けであり、初級中級層に対しては、
一切推奨しない。

さて、今回の記事「ロシアンレンズ特集」は、この
あたり迄で、次回記事に続く・・


デジタル一眼レフ・クラッシックス(22)「PENTAX KP」

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本シリーズでは所有しているデジタル一眼レフについて
個別に評価を行っている。

今回は、平成最後の記事として、平成のデジタル時代を
代表するとも言える、名デジタル一眼レフを紹介しよう。
c0032138_12372195.jpg
本記事では2017年発売の「PENTAX KP」を取り上げる。
レンズは、smc PENTAX-DA70mm/f2.4を使用。
(ハイコスパレンズ第12回記事参照)

このシステムで撮影した写真を交えながら、本機KPの特徴に
ついて紹介していこう。

本機を一言で表す、本シリーズ恒例の下世話な例えでは、
「スタイルが良く何でも器用にこなす万能タイプ、頭も良いが
少々気難しい一面があるので、慎重に付き合う必要がある」
と言う感じか・・
c0032138_12372147.jpg
PENTAX機の前記事、本シリーズ第12回記事でのPENTAX K-5は、
「第四世代」つまり「高機能化の時代」でのカメラであった。
その後のPENTAXのデジタル一眼レフの歴史を振り返っておこう。

<2010年>
K-r 初級機、高機能、オーダーカラー有り
K-5 上級機、最大ISO51200、連写秒7コマ(本シリーズ第12回)
       後にボディカラーを変えた限定版あり

<2012年>
K-30  中級機、オーダーカラー有り(後日紹介予定)
K-5Ⅱ 上級機、K-5の小改良版
K-5Ⅱs 上級機、K-5Ⅱのローパスレス版

<2013年>
K-50 初級・中級機、オーダーカラー有り
K-3 上級機、ローパスセレクター方式初採用、

<2014年>
K-S1 初級・中級機、ローパスセレクター有り

<2015年>
K-S2 初級・中級機、最軽量ボディ、可変モニター
K-3Ⅱ 上級機、K-3の改良版、リアルレゾリューション初搭載

<2016年>
K-1 最上位機、PENTAX初のフルサイズ機
K-70 中級・上級機、高機能が特徴

<2017年>
KP 上級機、(本機)
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さて、この歴史におけるPENTAXの「第四世代」「第五世代」の
デジタル一眼レフ群を見ていると、様々な特色が見えてくる。

まず第四世代(~2013年頃)では、高機能化により、スマホや
ミラーレス機との差別化が図られ、オーダーカラー制度により
ユーザーニーズの多様化への対応もある。
そして、まだこの時代では、初級機・中級機・上級機という
製品ラインアップの明確性も存在していた。

しかしながら、高機能化については第12回記事K-5の回でも
説明したように、既に実用レベルを遥かに超える様々な機能が
搭載されていて、初級中級者はおろか上級者ですらも、全ての
機能を把握して、それを使いこなすのは困難な事であっただろう。

おりしも、他社ではこの頃からフルサイズ機の普及化戦略が
始まった。
(2012年=EOS 6D,NIKON D600 2013年=NIKON Df,SONY α7)
これはμ4/3等のミラーレス機に対する牽制の要素もあると思う。

で、これらの低価格帯フルサイズ機に対抗するには、PENTAXでも
フルサイズ化を進めるとともに、その他の「根幹技術」の搭載が
必須だ、これまでのように、ただ「色々な機能が入っています」
とか「ボディ色が選べます」では、ユーザーへのアピール度や
「付加価値」(=値上げの理由)が少ない訳だ。
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「第五世代」(2013年頃~)に入ると、PENTAXにおいては、
「ローパスセレクター」や「リアルレゾリューション」という
技術革新が行われた。(参考:交換レンズでもHDコーティング
という新技術が開発された)

これらは、センサーシフト方式の内蔵手ブレ補正機能を応用して、
撮影時に微細な範囲でセンサーを駆動して撮影、それらを合成
する事で、より解像度の高い画像を得る事が可能であったり、
あるいは、ローパスフィルターと同様な効果をもたらしたり
出来る先進的技術だ。

この手法は、内蔵手ブレ補正を持たないNIKON機とCANON機では
追従する事が困難だ、よって、ここで差別化の要素が生まれる。

それと、製品ラインナップの見直しも行われた。
初級ユーザー層の「一眼レフ離れ」により、初級機と中級機を
統合した高性能の機体をローエンドに据える。

(なお、技術主導化戦略や、ラインナップ戦略は、PENTAXの
カメラ事業のHOYAからRICOHへの移管(2011年)も、多々
影響していると思われる。加えて2011年には東日本大震災
の影響もあったからか? 新規の一眼レフ発売は無かった)

また、中級機と上級機も統合し、ミドルクラスでありながら、
他社でのハイアマチュア向け上(高)級機クラス
(例:SONY α77系、NIKON D600/700/7000シリーズ、
CANON 5D/6D/7Dシリーズ等)を、ある意味一部では
凌駕する高スペックを搭載している。

後者の「高スペック化」は、まずK-70(2016年)で現れ、
次いで本機KP(2017年)で、それが顕著となった。

ここら辺の製品戦略の細かい変更は、この時代の
PENTAXの親会社が何度も変わった事も原因であろうが、
その詳細については長くなるので割愛し、別記事に譲る。
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本機KPの基本スペック(仕様)を抜粋して紹介しよう。

有効画素数:約2430万画素
最高シャッター速度:1/6000秒(AE時)、
          電子シャッター1/24000秒
ファインダー:倍率0.95倍(換算) 視野率100%
AF性能:測距点27点、ゾーン選択可
ドライブ性能:秒7コマ(高速時)、最大100コマ(低速時)
ISO感度:100~81万9200(AUTO ISOで最大感度まで追従可)
内蔵手ブレ補正:有り(焦点距離手動設定可能)
ローパスフィルター:選択式、リアルレゾリューション搭載
操作系:ハイパー操作系+機能ダイヤル+操作ダイヤルの4ダイヤル
フラッシュ:内蔵GN6 、シンクロ速度1/180秒
撮影機能:カスタムイメージ、デジタルフィルター、HDR等多数
ピーキング:ライブビュー時に可能
その他:グリップ交換可能(3種類)
重量:643g
発売時価格:13万円台後半(オープン)

スペックだけを見れば、物凄い高性能機である。
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特にISO感度82万は驚異であり、NIKON旗艦機D4やDfのISO20万、
CANON旗艦機EOS-1DxのISO20万、PENTAX旗艦機K-1のISO20万、
さらにはミラーレス高感度機SONY α7S系のISO40万をも
上回る。

本機以上の機種は、同じくPENTAXのK-1 MarkⅡ、そして
NIKON D5のISO328万、同D500(本シリーズ第20回)
および同D7500のISO164万、位しか知らないのだが、
それらは、もはや実用範囲を超えた過剰性能とも言える。
前記機種群は、高感度化の為に画素数を抑えた仕様も多いが
本機では2400万画素で超高感度化を実現している。
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その他の性能も高級機相当であり、ローパス制御は前述の
新技術を搭載していて、付加機能のエフェクト系も従来機を
引き継いで十分である。
しかも小型軽量で、かつ近年の高付加価値型デジタル一眼レフ
としては安価だ。

しかし、PENTAX機は元々どれも高機能だ、ローエンド系機種は
本機にさほど見劣りしない中級機クラスの基本性能を持ち、
コスパが極めて良い。例えばK-30(2012)、K-S1(2014)や
K-70(2016)ならば7~8万円が発売時の実勢価格だ。
中古ならばさらに安価で、2010年代前半の機種であれば、
現在では、2~3万円で買える。

すると、このKPの価格は「高感度化」と「操作系」が
付加価値(=悪い言葉で言えば値上げの理由)となっている
事になる。初級中級層ではKPの特徴として「高感度化」しか
見えず、しかもISO80万は誰が見ても過剰性能だ。それでいて
旧来の中級機の、およそ2倍近くの価格となっている事は
納得しずらいかも知れない(特に旧来からの「PENTAX党」は、
機能面でのコスパが他社機よりも良い事に主に着目する為、
コスト高の機種は、単純に嫌われてしまう事が多い)

だが、私が注目する本機KPの最大の特徴は「新型の操作系」だ。
とは言え、既にK-1(2016年)に搭載されていた「機能ダイヤル」
方式と類似ではあるが、K-1では固定機能であったのが、KPでは
アサイナブルになった事と、ダイヤル配置が多少見直され小振り
のボディとあいまって、極めて使い易いように設計されている。

過去記事(シリーズ第6回K10D)等で詳細を説明した「ハイパー
操作系」も勿論健在であるが、それに加えて2つの操作ダイヤルが
追加された事での非常に優れた操作系概念の搭載が本機の特徴だ。

私の評価において、過去、銀塩AF一眼レフ最強の操作系は
「MINOLTA α-7」(2000年)であり、デジタル一眼レフでは
「PENTAX K-5」(2010年)、そしてミラーレス一眼では、
「PANASONIC DMC-G1」(2008年)と「SONY NEX-7」(2012年)
であった。ここでのカメラのサンプル数(所有・比較機種数)
は約120台であるが、十分すぎる程であろう。なお派生機種や
同一シリーズでは前述の機体と同等の操作系を持つ場合もある。

しかし、その中で「操作性・操作系」が5点満点評価の機種は、
銀塩時代の「MINOLTA α-7」しか無い。その後のデジタル時代では
増えすぎた機能への操作利便性の対応が、どの機種も遅れていて
満点を付けられるカメラは無く、ミラーレスのDMC-G1とNEX-7で
ようやく4.5点である。しかしDMC-G1は「操作系の無駄のなさ」
NEX-7は「動的操作系の採用」という点での好評価であり、
「完璧な操作系」であるとは、ちょっと言い難い面もある。

(余談だが、DMC-G1とNEX-7の設計に関しては、MINOLTA

α-7の設計メンバーが関与していたかも知れない?という業界内

の噂を、近年になって聞いている。それが真実だとすれば、
結局、優秀な操作系設計が出来る技術者は、日本国内には
少数しか居ないという事になるのではなかろうか・・? 
まあでも、噂話の真偽を確かめるよりも、遥かに重要な事は、
他社も、それらの優秀なカメラの操作系を大いに参考にし、
続くカメラ開発に活かす事であろう。それがいつまでも出来て
いないメーカーが多い事、あるいは新規の操作系の搭載を嫌う
保守的なユーザー層が多い事は、非常に残念な事実である)

なお「操作系の評価」は、カメラを所有して、様々なシーンで
長く使用した状態で無いと評価が難しい。その為、一般的な
専門レビュー記事等では短期間しかカメラを使用しない為、
殆どこのあたりの評価はされない事が普通だ。
また、高い知識やスキルを要求される為、専門性の低い雑誌記事
とか、WEBでの初級中級層のレビューでは、ますます、操作系に
ついては、評価する術を全く持っていない。

だから、操作系の良い機種が、高く評価されるとは限らないし、
しかも、本機KP迄の高いレベルとなると、ビギナー層等では
チンプンカンプンであり、まったく理解不能であろう。

さて、本機KPは今の所「操作性・操作系」は5点満点に値する
事が確定している。ただ、そのあたりは後述するが、若干の
欠点も残っている。本機KPは、まだ新しい機種で後継機が
無いが、今後さらなる小改良を期待したい所だ。
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では、本機KPの長所について説明しておこう。

まず操作系だが、通常の前後ダイヤルによる「ハイパー操作系」
は他記事でも詳しく説明済みだ。
(例:本シリーズ第6回、PENTAX K10D記事等)
これに加えて「機能ダイヤル」と「設定ダイヤル」が存在する。
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機能ダイヤルには、「測光方式」「HDRモード」「連写速度」
カスタム1~3(任意設定)という「スマートファンクション」
が割り振られる。
(注:取扱説明書の「スマートファクション」は誤記だ・・汗
それでは、クシャミをしているみたいなので訂正を期待する)

この操作系は、機能選択+デジタルダイヤルという型式で、
連続量の変更や、複数モードの多値セレクト操作に有効だ。

古くは、銀塩AF一眼の「MINOLTA α-SweetⅡ」(2001年)や
「CANON EOS 7」(2000年)「PENTAX Z-1」(1991年)に
同様な概念が採用された方式であり、基本的に悪く無い。
しかも、それらの銀塩機には(近年のK-1にも)無かった
自在カスタマイズ(任意設定)項目が3つもある。

ちなみに、ここで言う「デジタルダイヤル」とは、無限回転式の
ダイヤルであり、アナログダイヤルの有限回転式+設定値が固定
であるものに対し、「設定要素が自由に決められ、指標が無く、
他の操作子で同一パラメーターを重複変更しても、それらの
値に矛盾が発生しない物」と定義している。

両者には各々長所短所が存在し、どちらか一方には決められない
事は勿論、カメラ操作上で、ある設定にどちらの種類のダイヤル
を用いるかで、操作系上の総合コンセプト設計の優劣が現れる。

その切り分けで失敗したケースも、NIKON Df、FUJI X-T1系等
いくつか見受けられるが、ここの操作系概念設計は非常に難しく、
設計者がいかに「デジタルで撮影を行う事」に精通しているか
にも係わるだろう。
逆に言えば、矛盾が多い場合は、ちゃんとそのカメラで撮影を
しながら設計をしていない、と見なせる。

なお、忙しい開発者は、「そんな暇は無い」と言うだろうが
とは言え、メーカー社外アドバイザーとして職業写真家層等の
専門家に意見を求めても、あまり有益では無い。一部の職業
写真家層等では、限られた状況でのみ撮影を行う為、カメラの
誤操作を嫌って、何も設定変更せずに、それどころか設定を
ロックして何も動かせないようにしてしまう人達も多いのだ。
そこまで行かないまでも、特定の撮影スタイルを「技能」と
する場合、その「思い込み」の要素は大きい事であろう。

まあともかく、遊びから仕事まで、あらゆる撮影スタイルを
考慮しない限り、操作系の設計が難しい事は確かだと思う。

さて、KPの「機能設定」はアナログダイヤルである。ここの
「任意設定項目」だが、ISO感度、ブラケット等14項目と十分な
ように一見思える、しかしここには微妙な弱点があって、
デジタルフィルター及び、ISO感度の自動・手動切り替え、
そして、レンズ(収差)補正がアサイン出来ない。

デジタルフィルターに関しては、ここでこれを選んでしまうと
機能制限の面で矛盾する可能性があるので、やむを得ず、これは
従来機種どおり、チマチマとメニューから選ばないとならず、
かつ撮影後の事後処理では、従前の画像に戻れず、「保存」操作
も必須で、若干面倒だ。(注:近年のNIKON機やCANON機では、
従前の撮影画像に戻ってエフェクトが掛けられる)

PENTAX機は、このエフェクト分野で先行してはいたが、後年の
他社機では、より操作系が進化しメーカー間での「仕様老朽化」
現象が発生している。まあでも、重欠点と言う程では無い。
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しかし、ISO感度の手動・自動切換えが無いのは、少々痛い。
本機KP(及び他のPENTAX機)での感度設定は、手動(つまり
100~80万までの任意)と、自動(100~最大80万)のいずれか
しか選べず、つまり自動で撮っていてなんらかの理由(勝手に
超高感度となりノイズが心配等)で、手動でISOを設定すると
もう二度とこの「設定ダイヤル」では自動に戻らず、メニュー等
から自動(AUTO ISO)モードを選択しなおした。
この矛盾は、PENTAX機全般の他、NIKON機でも類似の問題がある。

まあこの点は、M露出モードや、TAV露出モード(PENTAX機のみ)
で感度を自動追従させる際に感度操作系上の矛盾が発生するから
こうした仕様になっているのだろうと思うが、そうであれば、
M露出やTAV露出に切り替わった際のみ、感度手動調整を自動的に
無効にすれば良いのではなかろうか?(一部そうなっている)

でもまあ、PENTAX機の場合はISO設定ボタンが専用で別途存在
しているので、そこで簡便に変更可能なので、些細な問題だ、
勿論重欠点では無い。
(ただし、一部のNIKON機では、その設定はメニューの奥深く
だし、ショートカット設定も不可能なので、やや問題だ。
例:本シリーズ第17回記事NIKON Df参照)

他、レンズ収差補正がアサインできない件は後述する。
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で、具体的にこの「機能ダイヤル」「設定ダイヤル」を
どう使うか?と言えば・・

例えばPENTAX伝統の「ハイパープログラム」で撮影するとしよう、
この際、前後ダイヤルを廻すと、P露出から瞬時に、絞り優先や
シャッター優先に移行できる、加えて「AEロック」を併用すると
プログラムシフトが可能となる。

これは露出概念からは極めて優れた発想なのだが・・
従来機でのこの時の弱点であるが、前後ダイヤルが占有されて
しまう事で「露出補正」が効かなかった点があった。
勿論「露出補正±」ボタンを押して(押しながら)前後どちらか
のダイヤルで露出補正を掛ける事は出来るのだが、それだと
ハイパープログラムの概念的な長所が失われたり、操作性が
悪化する為、一般機での「P露出時のプログラムシフト+露出補正」
の2ダイヤル操作系の方が優れている、と言う点も正直あった。

だが本機KPでは「機能ダイヤル」に露出補正を割り振っておくと、
第三のダイヤルで露出補正が常時効く、これは素晴らしい。
(注:この時の露出補正は、AUTO ISO時には感度変更になる)
これで「ハイパープログラム」が初登場の1991年から、実に
26年(K-1では25年)ぶりに、やっと実用的になったと言える。

(参考:銀塩傑作機の「MINOLTA α-7」(2000年)では、
ハイパープログラム時に別途露出補正ダイヤルが存在し、この
問題点をクリアしていたが、α-7ではこれを「ハイパー操作系」
とは呼んでおらず、単に同機の優れた操作系の一環であった)
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AV絞り優先モードで使う際には、露出補正は前後どちらかの
ダイヤルにカスタマイズしておく事が可能だ、
(注:この場合の露出補正も、AUTO ISO時では感度変更である)
よってこのケースでは、「カスタムイメージ」「HDR」等の
”写真撮影表現機能”を、この機能ダイヤルでの主体とするか、
あるいはISO感度やAE(測光)モードを主体とし、作品作り等に
おける厳密性に役立たせる事が可能となる。
いずれにしても、AVモードにおいては本格的な撮影表現機能を
選んでアサインしておくのが賢明であろう。

なお、ドライブモード、WBモード、AFモード等の基本的な
設定は専用のボタンがあるので、それらを「機能ダイヤル」に
わざわざアサインする必要性は殆ど無い。

ちなみに、連写速度設定が機能ダイヤルにデフォルトで入って
いるが、残念ながら連写中に設定ダイヤルを廻しても連写速度は
変更されない。それが出来ると、とても嬉しかったのだが・・
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余談だが、露出モードPSAM(本機KPでは、フルオート,P,SV,
TV,AV,TAV,B,USER1~5)の変更ダイヤルは、軍艦部左上の
使い難い位置に「ロック機構付き」で存在している。

これはむしろ正解であり、露出モードというものは、初級者が
考えるほど頻繁に変更するものでは無いのだ。
上級者レベルであれば、AV(絞り優先)と、特殊用途(花火等)
でのM(マニュアル露出)の2つがあれば、全てカバー可能であり、
通常は、99%以上、AVモードのみでの撮影となる。

スポーツや動体撮影でのTVモード(シャッター優先)というのも
不要であり、AVモードのまま絞り値と感度を調整すれば動体撮影
に必要なシャッター速度の設定を決定する事が可能だ。これは
一々TVモードに変更するのは煩雑な操作になるという意味である。

まあスポーツ等専業写真家において、経験的に必要と思われる
シャッター速度を固定する、(あるいは、流し撮りを行う)
といった目的でTvモードを使う可能性はあるが、まあ、それは
一種の「技能」であるから、多くの場合、初級中級層には
無縁な話だし、写真を1枚撮る度に変更する機能でも無い。

他機では軍艦部右上等の廻しやすい位置に、PSAMダイヤルが存在
する場合が多く、そんなに頻繁に変更しない操作子が、そこに
鎮座している事は、むしろ操作系評価上では減点対象だ。
(この点では、操作系の傑作機、MINOLTA α-7も同様だ)

なお、PENTAXにおけるTAVモードは、ユーザーが任意に決めた
絞り値とシャッター速度にISO感度が追従する、というユニークな
仕組みである。PENTAXでの、この機能の初搭載はK10D(2006年)
あたりと記憶しているが、その機種はISO感度が100~1600と
僅かに5段の変化範囲しかなく、実質的には使い物にならなかった。

本機KPにおいては、ISO感度が100~約82万と14段もあるので、
やっとこのTAV機能が実用レベルに近づいて来た。
(注:低感度がもう少し欲しい。あるいは開放F値の暗いレンズ
か、NDフィルターを使えば、この仕様でも十分である)

ちなみに、TAV時は前後ダイヤルに露出補正が割り振れず、
機能ダイヤルに「露出補正」をアサインするのが適切であろう。

それから、SVモード(ISO感度直接変更)時も同様に露出補正とし、
前後ダイヤルはISO感度変更とプログラムシフトとする。
しかし、この場合は、AVモードとした方が設定自由度が高い。

もしSVモードを駆使しようとしたら「プログラムライン変更」
機能と併用する必要がある。そうであれば使用するレンズの描写
特性に合わせて、開放優先、中間絞り(MTF)優先、絞り込み優先
等により、ほぼ1発で希望する絞り値が得られ、プログラムシフト
の必要性を減らせる。だが、これは超上級者向けの概念となり、
かつ、本来の作画上での被写界深度設定等と矛盾する要素もあり、
一般ユーザーはもとより職業写真家でも使いこなせない機能だ。

またKPは3ダイヤル化した為、旧来ではISO感度直接変更は
このSVモードでしか出来なかったのが、KPでは別ダイヤルで
常時可能なので、その必然性が無くなってきている。
つまり、SVモードは本機KPでは、むしろ不要な機能とも言える。

なお、本機KPにおいても、PENTAX第二世代機以降から存在する
カスタム設定での「連動外の自動補正」も依然有効であるので、
これをONにしておくと、絞り値、シャッター速度等が希望する
露出設定に追従しない場合には自動で調整してくれる。

この機能は「MINOLTA XD」(1977年)の「サイバネーション・
システム」や「MAMIYA ZE-X」(1981年)の「クロスオーバー・
システム」や、近年のデジタルEOS機の「セイフティ・シフト」と
等価または類似であるが、露出安全対策としては有効である。

それから、デジタルカメラでは希少な機能である「被写界深度
ブラケット」が可能だ。これにより「ボケ質破綻回避」技法に
役立たせる事が出来そうだが、MFレンズではこの機能は効かず、
また、絞り値の変化幅も変更不可で、かつ、連写も止まって
しまう、という若干の課題が存在する(あと少しだけ改良が
必要、という感じで、惜しい機能だ)
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総合的には「機能ダイヤル」と「設定ダイヤル」の操作系は、
極めて利便性が高いが、初級中級者には難解で過剰な機能で
あるとも言え、ユーザーのレベル/スキルや撮影スタイルにより、
評価が変わってくる事だるう。

なお、この「機能ダイヤル」には、過剰な「ロック機構」は
無い為、スムースな操作が可能である。
勿論、「誤って廻してしまった」というケアレスミスには
対応していないので、あくまで上級者以上向けの機能だ。
(特に、カスタムイメージをアサインすると、アイコンだけしか
表示されず、誤って変更操作をした場合に、わかりにくい)

注目の高感度関連での他の長所だが、本機の高感度は、
PENTAXでは「天体撮影」を想定している節もある。
内蔵機能である「アストロトレーサー」や「赤色画面表示」
(夜間、急に明るいモニター画面を見ないようにする機能)
や別売付属品の「GPSユニット」がそれである。
私はこのあたりの撮影用途には本機を用いないが、それらを
志向するユーザー層には便利な機能であろう。

なお、近赤外線透過フィルターを用いて、超高感度性能を
組み合わせた「赤外線撮影」が出来そうなので試してみたが、
この場合、カメラ本体内の近赤外線(NIR)カットの効果が
強すぎて、あまり実用的では無かった(後日紹介予定)
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それから、ライブビュー時には輪郭抽出(ピーキング)を
行う事が可能だ。まだミラーレス機に比べて抽出精度は低いが、
一眼レフでの採用は、SONYのEVF機(αフタケタ:2010年以降)
を除き、かなり珍しいと思う。(注:従前のPENTAX機でも、
「輪郭強調」は出来る機種があるが、「輪郭抽出」は初搭載だ)

なお、デジタルフィルター機能はライブビュー時に撮影前の
効果確認が可能だ、AF性能が落ちるので通常ではライブビュー
機能は使用しないが、こうしたエフェクトのプレビューや、
動画撮影時、高感度を用いた超暗所の撮影、ピンホール撮影、
赤外線撮影、といった特殊な用途では有効だ。
(加えて、「常時ライブビュー」にレバーで設定可能だ、
他社機や他機では都度ライブビューに切り替えないとならない)

その他、基本性能は極めて高い。連写性能も高速で秒7コマと
SDカード使用機ではかなりの速度ではあるが、他社ミラーレス機や
SONYのEVF機でも同等以上の性能を持つものが多い(ミラー駆動の
必要性が無い為、ミラーレス機での高速連写搭載は容易だ)

ただし、本機では条件によっては、十数枚程度の連写より後では、
連写速度が大幅に低下する。
この「条件」とは、記録画像サイズやSDカードの転送速度のみ
ならず、レンズ補正機能(特に、周辺光量補正)をONした場合に
画像処理にかかる時間が連写速度・連続コマ数に大きく影響する。

各収差補正をOFFにすると、連写性能は大幅に向上し、数百枚
程度まで連続してストレス無く撮れるケースもある。
古いPENTAXレンズ等では、収差補正機能が効かない場合もあり、
この機能は、連写の必要性やレンズの種類に応じて変更する
のが良い。

これの設定は「機能ダイヤル」にはアサイン不能であるが、
コントロールパネルのカスタマイズで登録が可能だ。

しかし、19項目のコンパネ上の4~5項目が、この収差補正の
設定の為に占有され、あまり好ましい状況では無い。
(複数のコンパネ設定を登録できるならば、装着レンズの
特性に合わせて設定を選べるようになるだろうが、さすがに
そこまでは、やりすぎであろう。現状、個人的には若干不満
だが、設計概念上では、やむを得ないと思う)
また、これらの概念は難解で、初級中級層向けの内容では無い。
面倒ならば、もう単純に連写は「間欠連写」を前提とするかだ。

ラストの長所としては、SDK(ソフトウェア開発キット)が
2018年5月に公開された事だ。技術者以外には無関係な話だが、
これ(無償)を入手するとPCやスマホ等から本機を遠隔制御
したり撮影画像を画面に表示するソフトを「作る」事ができる。

SDKの公開は凄い事であり、かつて民生用カメラ界では、
こういう事は一切無かった(これも差別化要因の1つであろう
なお、産業用ボードカメラ等では、SDK配布は常識だ)
SDKは既に入手済みで、開発言語はC++,.NET,iOS等多岐に及ぶ、
私は、これらの言語を扱ってのプログラミングができるので、
いずれ気が向いたら、本機の制御ソフトを作ってみようと
思っている。
(注1:このSDKは、本機KP以外でも、他の新鋭PENTAX機の
 制御も可能。
 注2:2019年3月には、CANONからも同様に、SDKとAPIが
 公開されている、ただし、CANONの場合は、SDK等の配布は
 基本的に法人の範囲に限られている)

他にも色々特徴はあるが、高機能すぎて書ききれない。
第四世代(2010~2013年頃)のカメラで、すでに高機能化は
飽和状態であり、本機の第五世代でも、勿論それらは引き継いで
いるので、機能的な不足は一切感じられない事であろう。
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ではここから、本機PENTAX KPの弱点をあげる。

まずは最高ISO感度が82万と極めて高いが、さすがに高感度域は
かなりノイジーかつ偽色等でカラーバランスも滅茶苦茶だ。
(上写真は夜の川に映る照明の無い建物をISO40万で撮影)
そして、真っ暗ではAFでもMFでもピントが合わなくなるし、
(注:ライブビューがかろうじて効くケースもある)
露出計の動作も怪しくなる(まともに測光が出来ない)まあ、
ISO 10万以上は実用的には使えないと思った方が良いだろう。

これはまあ、D500等、本機を上回る超高感度機でも同様であり、
無理やり増幅をかけて、感度性能を引き上げているのであろう、
いずれもカタログスペック優先に思え、あまり好ましく無い。


他社機では、高ISOを「Hi領域」として、その使用を抑制する
心理的要素があるが、本機ではHi領域の記載が無く、容易に
超高感度域を使える状態に変更できてしまうのは良し悪しある。
ただし、こうした劣化したLo-Fi画像は、エフェクトを掛ける
為の素材としては十分に使えるであろう事は述べておく。

それと、ISO感度に関連し、本機KPでの露出補正操作は
AUTO ISO時にはISO感度変更となる。これは旧来機のように、
例えばAvモードで露出補正を掛けるとシャッター速度が変更
される概念とは異なる。もし、この差が気になるならば、
手動ISO選択とすれば、旧来機と同様の露出補正概念で使える。
まあ、本機ではISO感度変更幅が広いという長所があるので、
中上級層ならば、どうとでも使える事であろう。

次いで、デジタルフィルター選択の操作系だ、ここについては
前述のように、新設の「機能ダイヤル」にアサイン不能である。
ただし、第四世代以降から「コントロールパネル」が搭載されて
いる為、そこでデジタルフィルター機能を直接変更できる。
おまけに、本機のコントロールパネルの項目は、カスタマイズ
が可能であるので、殆ど欠点とは言えないかも知れない。

あえて言えば、撮影後のデジタルフィルター処理での操作系が
古いままであり、選択や保存の操作系、および一旦電源をOFF
すると事後エフェクト処理不能となる件は、もう一声効率的に
してもらいたい。(NIKON機、CANON機では、より効率的だ)

この点は、同社ミラーレス機のPENTAX K-01やPENTAX Q7では、
ずっと使い易いが、撮影前にデジタルフィルター等の効果を
確認可能なミラーレスと、ライブビュー以外ではそれが不可な
デジタル一眼レフを比較するのは、ちょっと不公平で可哀想
かも知れない。

それから、高機能と高カスタマイズ性はよろしいのだが、
それが強力すぎて、初級中級層は、まったくついて来れない
事が予想できる。

思えばPENTAXは1990年代前半の銀塩AF一眼「Zシリーズ」や、
2000年代後半からのデジタル一眼「Kシリーズ」上級機、
それから2010年代のミラーレス一眼「Qシリーズ」でも、
想定されるユーザー層のレベルの「斜め上を行く」高機能を
搭載していて、それらを全て使いこなせるユーザーは、まず
居ないだろう。でも、ある意味「教材的」に「使えば使うほど、
奥が深い」という点もPENTAX製品のコンセプトとなっていると
思われるので、この辺りが丁度良いのかも知れないが・・

だが、操作系のカスタマイズ自由度が高すぎて、むしろ、他の
操作子と被る機能が沢山出てくる。例えば、前ダイヤルも設定
ダイヤルも、どちらも露出補正になってしまう場合もある等だ。
つまり、デジタル機で本来頻繁に設定するべき項目数よりも
操作系の設定自由度の方が高い、という過剰な仕様なのだ。

まあでも、各ダイヤルの機能は全て背面モニターに常時表示
されているので、重複操作子になっても問題になる程では無い
であろう。
(勿論、デジタルダイヤルなので設定値が矛盾する事は無い)

それと類似だが、軍艦部左上のモードダイヤルには、ユーザー
設定が5個もある過剰な仕様で、計13ステップもあって廻し難い。
ただこの点は、供給部品の規格仕様もあるかも知れず、例えば
この下のサイズだと10ステップとなり、それだとユーザー項目
が2つしか設けられず、不足となる等で、やむなくこの規格を
採用したのかも知れない。(FUJIFILMのX-T1~T3のISO感度
ダイヤルもステップ数の関係でHi領域の設定感度数が足りない)

また、機能ダイヤルでカスタムイメージ等を選んだ際、アイコン
しか出てこず、実際の設定名(内容)がわからない弱点もある。
(コントロールパネルからの変更であれば設定名が表示される)

あと、リアルレゾリューション機能は魅力的であるが、
三脚使用時しか使えない(注:K-1 MarkⅡ 2018年、では
手持ちでの使用が可能となった)

それから、本機はまあ中級機のボディ構造であるから、耐久性、
信頼性、高級感等に若干の不安や不満があるかも知れないが、
それは「無いものねだり」であろう。高級機同様の構造としたら
「大きく重く高価になる」という「三重苦」が、のしかかる。
でもまあ、特に内蔵フラッシュ廻りの構造がペラッペラに
薄い所は不安事項であう。
しかしながら、一応、防塵・防滴仕様となっているので、
WR型レンズ(防塵・防滴)と組み合わせれば天候耐性は強い。

他に弱点は無い。性能面、操作系面からは、これまでのデジタル
一眼レフでは最強レベルであり、用途と入手価格次第では、
超強力なコストパフォーマンスを持った機体となりうると思う。
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さて、恒例の本機KPに対応する銀塩名機であるが、ズバリの機種
は存在しない。まず「操作系」という概念自体も、銀塩時代には
殆ど無かったらだ。

そこで、外観上の特徴を元に、流麗なペンタプリズムデザインと
グリップ交換が可能、というギミックから、PENTAX LX(1980年)
を紹介しておこう。(銀塩一眼第7回記事参照)
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PENTAXでグリップ交換が可能な一眼レフは、LX以来、本機KPが
実に37年ぶりの登場である。
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さて本機KP入手価格だが、新古品で約96,000円であった。
発売後数ヶ月の、ほぼ新品購入の価格だが、本機の優れた特徴から、
できるだけ早く入手したかったので多少のコスト高は覚悟の上だ。
ただまあ、このKPの優秀な「操作系」の対価で、旧来機の2倍から
3倍の価格上昇を容認できるかどうかは、ユーザー次第であろう。
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(上写真のみ、KP+FA77/1.8による撮影)

最後にPENTAX KPの総合評価をしてみよう。
(評価項目の意味・定義は第1回記事参照)

【基本・付加性能】★★★★☆
【描写力・表現力】★★★★
【操作性・操作系】★★★★★
【マニアック度 】★★★★
【エンジョイ度 】★★★★☆
【購入時コスパ 】★☆ (新古品 約96,000円)
【完成度(当時)】★★★★
【歴史的価値  】★★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.8点

非常に高得点である。
この得点レベルのデジタル一眼レフは過去には存在せず、
ミラーレス機で同等の得点が2機種(DMC-G1とNEX-7)
あるだけだ。

新古(展示品)購入でコスパの点数が低く評価されてしまった、
後年に、より安価な中古相場で買えば、コスパの得点があがり
例えば、5万円位での購入ならば、コスパは3.5点位となり、
総合評価は4点台の過去最高レベルに到達した事であろう。

操作系の優秀さは勿論5点満点で、本シリーズ過去最高点である。
(ただし、KPの「操作系」は非常に難解なので上級者向けだ)
基本性能や表現力も上級機レベルで全く不足は無い、おまけに
小型軽量なボディは、フィールドでの使いやすさを感じ、
エンジョイ度が高く、屋外趣味撮影(夜間を含む)には最強の
カメラであろう。

名機、あるいは「傑作機」とも呼べるカメラである。
その割には歴史的価値の得点が伸びていないのは、本機だけが
初採用という新機能が少ない為であり、「なんでも乗せ丼」の
ようなイメージがあるからである。
前述の「SDK配布」も歴史的価値はあるが、これも本機だけの
専用ソフトではなく、他機でも利用可能だ。
・・まあでも本機KPの「完成度」は高い。

なお、本機の時代(2017年)の、やや以前(2015年頃)から、
他社機でも性能を「てんこ盛り」にする傾向が見られる為、
この時代の一眼レフを「第六世代」と定義する可能性があるが、
2018年からのフルサイズ・ミラーレス機ブームの影響もあり、
もう数年程度、市場の様子を見る事にする。

「フルサイズで無い」という点が初級中級層には気になるかも
知れないが、本機の多機能および操作系を使いこなす事は
残念ながら初級中級層には無理だ。フルサイズ機の長所も短所も
知っていて、フルサイズ機も別途所有していると言う上級者又は
「写真撮影を実践する上級マニア」向けの機体である。
(そういう点で、マニアック度の評価も高目である)

なお、業務撮影には耐久性の高い旗艦機K-1系や上位機K-3Ⅱが
適しているだろうから、本機KPは、あくまで「趣味撮影専用機」
である。
また、初級中級層には、下位機種K-70(2016年、未所有)が、
難解さが若干少なく、使い易いかも知れない。

まあ、非常に限られたユーザー層にしか向いていない、という
点も、本機KPの弱点なのかも知れない。
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さて、「第五世代」のデジタル一眼を新規に7機種紹介して
来たが、既に本機KPが所有している機体の中では、最も新しい
機種であり、またここで手持ちの一眼レフが尽きている。

今後「補足編」を、2つ3つ挟むかも知れないが、原則的には
また数年して、この時代以降の機種を複数所有し、世代の
特徴が明確に分類できるようになったら、本シリーズを再開
する事にしよう。

【熱い季節2019】ドラゴン&ペーロン大会告知(上半期)

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さて、少々告知が遅れたが、今年のドラボンボート&ペーロン
のシーズンは既に始まっている。
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今回の記事では、2019年上半期(5月~7月)に
行われる予定の各地のドラゴン&ペーロン大会の日程や、
既に行われた関連イベントについて紹介しておこう。

例によって、これらは私が把握している大会やイベントのみ
であって、地方大会などで詳細が不明で抜けているものも
あると思う。勿論全てを網羅できない為、未観戦の大会や
イベントも多い。大会の模様の写真は一部のみを掲載する。

<2019年4月>実施済みイベント・大会

4月06日:チーム未来 桜ナイトクルーズ(大阪市、桜ノ宮)

 ドラゴンボートチーム「チーム未来」よる体験乗船会。
 大阪の桜の名所を夕方から夜にかけ、水上から見物できる
 爽快なイベントである(本年特集記事参照)
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 参加は誰でも可能であるが、1艇のみで乗船定数も少ない
 為に、参加希望の際は「チーム未来」に相談されたし。

4月27日:第33回セタシジミ祭(滋賀県、大津市)

 瀬田川の希少品種のシジミをフィーチャーした、毎年
 行われている地元のお祭り。このイベントの一環として
「ドラゴンボート体験乗船会」が行われている。
 滋賀県の強豪チーム「小寺製作所」や「池の里Lakers!」
 等のメンバーがこの体験会を運営している。
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 写真は昨年(2018年)のもの、掲載済みの昨年特集記事を
 参照していただければわかるが、一般体験者の数は子供を
 中心にかなり多く、なかなか盛況なイベントとなっている。

4月28日:伊佐ドラゴンカップ (鹿児島県 伊佐市)

 この大会は遠方につき、過去未観戦である。
 結構な大規模大会で、かつ、九州の強豪チームが多く
 参戦する大会と聞く。本大会が平成最後の大会であろう。

 本大会会場の「川内川」(せんだいがわ)では、来年、
 2020年に「かごしま国体」が実施予定で、ここで様々な
 ボート競技が行われる模様だ。

<2019年5月>
例年、この5月からドラゴンボートは本格シーズンインだ。
注意点としては、この季節は真夏に比べれば気温はさほど
高くは無いが、それでも暑く、また紫外線量も多い。
選手はもとより、観客も、まだ暑さに慣れていない状態、
なので疲労が溜まり易い。熱中症対策等にも要注意だ。

5月06日:宇治川・源平・龍舟祭(通称:宇治大会)

 京都府宇治市・宇治川で行われる、「令和」最初の
 ドラゴンボート大会である。(注:日曜日では無く
 GW最後の祝日、月曜日での開催だ)
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 昨年(2018年)の本大会は、会場の治水工事の影響で
 中止になってしまっていたが、今年は開催予定。
(掲載写真は、2017年大会の模様である)
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 会場の治水工事は、近年、大雨で宇治川が氾濫した事が
 あった(2013年等)為であったが、この工事の後、
 昨年2018年には大雨(豪雨)や、大型台風の襲来による
 災害が多かったが、こお改修工事により、宇治川地区は
 幸いにして洪水などの状況には見舞われなかった。

 一昨年の大会での上位チーム名のみあげておこう。

 *2017年大会:オープンの部
  1位:bp
  2位:京都工場保健会すいすい丸家族健診
  3位:Beautiful Planet(bpのサブチーム)

 *2017年大会:市内の部
  1位:京都工場保健会「受けよう精密検査」 
  2位:チームチーム賑やかし
  3位:激漕(ゲキソウ)
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 なお、京都の有数の観光名所である「宇治」の為、
 本大会は「仮装による参加を推奨」となっている。

5月19日:東京ドラゴンボート大会2019
 東京の「お台場」で開催予定の歴史の長い大会である。
 遠方につき、残念ながら過去未観戦だ。

 昨年のカテゴリー優勝チーム名のみ挙げておこう。
 *2018年東京大会結果
  オープンの部優勝:bp
  混合の部優勝  :INO-G
  スモールの部優勝:G Dragons Small
  女子の部優勝  :東京龍舟プラチナ
  シニアの部優勝 :東京龍舟マスターズ

5月26日:相生ペーロン競漕(兵庫県、相生市)

 100年以上という非常に長い歴史を誇る伝統的大会。
 独自の大型艇を使用、長距離(予選600m、決勝900m)
 ターン有り、の勇壮なレースは、見ごたえは十分である。

 2日間行われるお祭りの一環である為、観戦客も非常に
 多く、数万人の規模となっていると聞く。
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 上写真は、数年前の大会の模様。

 大会の戦績としては、男子Ⅰ部では「磯風漕友会」が、
 一般女子の部では「SUPER DOLPHIN」の兄妹チームが
 連覇を続けている状況である。

<2019年6月>
6月は各地でのドラゴン・ペーロン大会は少ない。
梅雨の季節である事で予定を立てにくいのかも知れないが
過去十年間の6月の各地の大会観戦で雨となったケースは
意外に少なく、2~3回位しか記憶に無い。

複数日開催:横浜ドラゴンボートレース 2019
 今年は6月1日、6月2日、6月8日、6月9日の計4日間で
 実施予定の超大規模大会。

 遠方につき残念ながら未観戦だが、ドラゴンボート専業
 チームとしては、「海猿火組」「龍人(どらんちゅ)」
「IHI瑞龍丸」「チーム☆ニライカナイ」「東京龍舟」
「横浜サーフベイザース」「ジャングルマニア」等が
 参戦して、好成績を上げている模様である。
(注:その他の専業チームもチーム名を変えて参戦している
 可能性あり)


6月16日:第9回堺泉北港スモールドラゴンボート大会
(大阪府・高石市・大阪府立漕艇センター 通称:高石大会)
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 この高石大会は旧来、20人艇を用いた中距離(500m)戦を
 特色としていたが、2017年からスモール(10人艇)化し
 レース距離も短縮されている。

 ドラゴン専業チームの参加の他、地元(市内)の部もあり、
 ビギナーでも比較的参戦しやすい大会になってきている。
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  昨年大会の各カテゴリー優勝チーム名のみ挙げておこう。


 *2018年高石大会結果
  オープンの部優勝:アベンジャーズbp
  混合の部優勝  :関西龍舟 白鹿
  市内の部優勝  :信太山自衛隊協力会絆支部
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 なお、見所としては、混合の部で「関西龍舟」が
 2017~2018年、2年連続で、ダブルエントリーでの
 ワンツーフィニッシュの快挙を遂げている、この記録を
 さらに伸ばせるか?が注目と言えよう。(上写真)

 市内の部では、準専業の強豪「ドリーマーズ」が
 昨年は優勝を逃してしまっている(一昨年等、優勝多数)
 さて、今年の結果はいかに?

検討中:御前崎大会(静岡県、御前崎市)
 旧来、6月に行われていたこの大会であるが、予想される
「南海トラフ大地震」対策による「防潮堤」の工事により、
 レース会場が使えなくなって中断してから、数年が経つ。
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 地元の観光協会からは、再開の要望がある模様なのだが、
 レースの実施が困難な為、別の時期に何らかの別の形での
 イベント開催を検討中とのことである。 
 何か詳細がわかったら、また告知して行こう。

<2019年7月>
この7月からはドラゴンボートはトップシーズンである。
特に国内最高峰の大会である「日本選手権」が行われる為、
各専業チーム等は、それをターゲットとして練習や調整を
続けている。

7月14日:2019日本国際ドラゴンボート選手権大会
(大阪府・天満橋駅前 通称:天神大会/日本選手権)
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 例年、トップクラスの実力値を誇る専業チームが、国内
 および一部海外からも参戦するハイレベルな大会だ。
 また、1988年からスタートした歴史の長い大会でもある。
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 まあ、今更あれこれと語る必要も無い有名大会である。
 今年の大会もまた、オープンの部では「磯風」vs「bp」
 の頂上決戦が見所となるだろう。

 観戦全般も非常に興味深く、会場アクセスも良い為に、
 ドラゴンファンならずとも、必見の大会であろう。

日程未定:東近江ドラゴンカヌー大会(滋賀県、東近江市)

 例年では、上記「日本選手権」と日程が被るので、残念
 ながら観戦が出来ない大会である。

 しかし「日本選手権」が、あまりに真剣勝負度が強い為、
 一部の中堅ドラゴン専業チームは、こちらの大会に出場
 する場合もある模様だが、近年では結構な数の強豪ドラゴン
 チームも参戦している模様なので、本大会も、なかなかの
 激戦区となっていると聞く。

7月27~28日:長崎ペーロン選手権大会
 例年7月下旬に行われる伝統的な大会で、350年余という
 非常に長い歴史を持つ大会である。
 相生ペーロン競漕と並んで、日本での2大ペーロン大会の
 1つではあるが、遠方につき、残念ながら過去未観戦だ。

7月28日:第12回豊見城ハーリー大会(沖縄・豊見城市)
 ハーリーはペーロンやドラゴンの類似競技だ、
 こちらも遠方につき、残念ながら未観戦。

日程未定:高島ペーロン大会(滋賀県・高島市)

 例年7月下旬の日曜日に開催予定の大会。

 操船の難しい専用FRP艇とターン有り中距離(600m)
 戦が特徴の歴史の長い大会である。
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 ここ数年では、「ドラゴン専業チーム」の参戦が極めて
 増えてきている、具体的には、「池の里Lakers!」
「小寺製作所」「龍人(どらんちゅ)」「琵琶湖ドラゴン
 ボートクラブ」の「琵琶湖の4強」を始めとし、
 県外からも「メタルスタイリスト福田」「ドリーマーズ」
「吹田龍舟倶楽部」「からしれんこん」といった、ドラゴン
 チームが次々と参戦を開始。

 それを迎え撃つのが、近年成長が著しい地元出身の
「松陽台」(守のシルバニアファミリー等)であるが、
 地元には、まだ「ヴィクトリー南浜」や「SPIRITS」等の
 強豪が居るのでドラゴン専業チームも気が抜けない状況だ。
 なお、近年においては、「連覇」を達成した専業チームは
 無く、その点でも優勝争いの行方は大注目だ。

 現在、ドラゴン界では最も注目のユニークな大会である。
 操船の難しさは、スピン、転覆、衝突、落水等の
 あらゆるアクシデントを招き、その確率はおよそ20%
 にもおよぶ、すなわち数レースに一度は、そうした
 アクシデントが起こってしまう訳だ。
c0032138_20054219.jpg
 この為、レースの模様は全く予想が付かない、決勝戦
 のターン直後までトップを走っていたチームが、
 そうしたアクシデントで最下位になってしまった事も
 何度かある位だ。
 選手達にとっては、気を抜けない大変なレースではあるが、

 これは観戦側としては非常に面白い、この為、本ブログで
 例年の年末に掲載している「ベスト大会編」記事では、
 本「高島ペーロン」は、毎年ランクインしている位である。

 観戦側の楽しみ以外に、選手達にとっても、この困難な
 レースを克服して上位入賞する事が、テクニカルな意味で
 楽しさに繋がっている模様だ。
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 昨年2018年の本大会では歴史に残る名勝負がいくつも
 展開された事でも、印象に残る大会となった。
(詳しくは観戦記事を参照されたし)

---
では、本告知記事(上半期)はこのあたりまでで・・
今後、私が観戦した大会については、また各々観戦記事を
書いていく事にする。

ハイ・コスパレンズBEST40 (4) 36位~33位

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高いコストパフォーマンスと付随する性能を持った優秀な
写真用交換レンズを、コスパ面からの評価点でのBEST40を
ランキング形式で紹介するシリーズ記事。

本記事においては、BEST40にランクインしたレンズを下位から
順に紹介して行こう。
(ランキングの決め方は第1回記事を参照、なお、評価得点
が同点の場合は、適宜、順位を決定している)
すでに40位から37位までは紹介済みだ、今回は36位からの
順位となる。

さて、今回記事も比較的マニアックなレンズが続いてしまう。

本シリーズ記事を始める際のコンセプトで決めた通りに、
「入手性が良く実用的な高コスパレンズ」を紹介したいのは
やまやまだが、ランキング下位のレンズは、なかなか全ての
条件が揃った名玉は登場しない。
ランキングが上位になるまでしばらくは、こういう傾向が
続くと思われる。

---
それから、一般的に「名玉」と言うと、非常に高価な新鋭高性能
レンズであるとか、古いブランドレンズで有名なものを想像する
かと思うが、本ランキングは「コスパBest40」である。
プレミアム相場等がついて、本来そのレンズが持つ性能よりも
割高になっているような物は本ランキングに入る事は絶対に無い。

そして、最初からコスパが悪いと私が判断するレンズは購入する
事も無い、初級中級者又は初級マニアが期待(想像)するような
古い有名ブランドレンズ等は、本シリーズでは今後も一切出て
来ないので念の為。

では、今回のランキングレンズ。

---
第36位 
評価得点 3.50 (内、コスパ点 2,5) 
c0032138_22301156.jpg
レンズ名:フォクトレンダー NOKTON 42.5mm/f0.95
レンズ購入価格:90,000円(新品)
使用カメラ:PANASONIC LUMIX DMC-G5(μ4/3機)

ハイコスパ第16回「やや高価」編等、多数の記事で紹介した
超大口径MF単焦点レンズ、μ4/3マウント専用である。

また、本レンズは過去シリーズ記事「ミラーレス・マニアックス
名玉編第4回記事」において当時所有の300本以上のレンズの
中から、総合第二位として取り上げられた名レンズである。

ただ、第二位ではあったが、高価なレンズ故に、コスパ点のみが
弱点であり、コスパを主眼として評価する本シリーズ記事では
ここ36位までランキング順位を落としてしまった。
c0032138_22301157.jpg
Voightrander(フォクトレンダー 注:変母音は省略)とは、
元々はオーストリア/ドイツの光学機器の超老舗メーカーの
ブランド名だが、1999年頃に日本のコシナ社が、当時、
宙に浮いていたその商標権を取得し、その後のコシナの製品
群(カメラやレンズ)のブランドとして、現在に至るまで
約20年間継続して展開されている。

1990年代までのコシナ社は、製造・設計の技術力が高かったが
自社ブランドのネームバリューが無かった為、様々な他社の
(有名カメラメーカー含む)カメラやレンズの多くをOEM生産
する(=他社から依頼されて製造する)メーカーであった。

自社(コシナ)ブランドのカメラやレンズは、市場では全く
無名な故に、定価の7割引きといった新品販売を行っていた。
(そこまで安価に見せないと、誰も買ってくれない)

その後、フォクトレンンダーやツァイスの商標を取得し
2000年代には、多くのレンジファインダー機や交換レンズ
群を販売し、2010年代の現在では、それらのブランド名の
高級レンズメーカーとして良く知られている。
c0032138_22301148.jpg
さて、では本レンズNOKTON(ノクトン)42.5mm/f0.95
の特徴だ。
既に多数の記事で紹介しているので詳細は割愛するが、
最も大きな特徴は、開放F値が、F0.95という「超大口径」
レンズであるという点だ。

過去に発売された、一眼レフ用交換レンズの中で、ここまで
明るい開放F値を持つものは他に無かった。

たとえば、CANONには EF50mm/f1.0L USMというレンズが
1990年代に存在していたが、これが一眼レフ用では
それまでの最大口径であろう。当該レンズは、1990年代末
頃に中古が出た際に購入を検討し、高価であった為
一度借りて試写して決める事にしたが、結果、描写傾向や
AF性能が不満だった為、購入は見送っていた。
(注:現在のCANON 50mmの最大口径は、EF50mm/f1.2L

USMである、F1.0版が製造中止になったのは、やはり色々と
課題があったのだろうと推察される)


なお、レンジファインダー機用のF0.95レンズは、CANONが
かなり昔の時代(1961年)に発売していたし、近年(2010年代)
のライカ社製のMマウント用レンズにも存在する。
だだしこれらは、超レア品または超高価であり、一般的に入手
できるレンズとは言えない。またNIKONもフルサイズミラーレス
Zシリーズ用のF0.95レンズの発売を予告しているが、恐らく
それも「高付加価値化」で超高額な製品となるだろう。
(=高く売りたいが為に、そうしたレンズを開発する)

また、CCTV(監視カメラ)又は、シネ(映画)用のCマウント
レンズでは、旧来よりF0.95は一般的だし、それ以下のさらに
明るい開放F値を持つレンズも稀に存在していた。
しかし、こうしたCマウントレンズは、イメージサークルが
小さすぎて、(デジタル)一眼レフ等では使用できない。
(F0.95版では無いが、いくつかのCCTV用Cマウントレンズを
撮像素子の小さいPENTAX Q7等に装着して実写した例は、
過去記事ミラーレス・マニアックス等で複数回紹介済み。
近年では、特殊レンズ超マニアックス第1回記事にも詳しい)

また、近年(2010年代)では、中国の「中一光学」から、
Speed Masterシリーズとして、25mm,35mmと50mmの
F0.95レンズが発売されている。
また、流通量は少ないがミラーレス機用では最大口径の
HandeVision IBELUX 40mm/F0.85も存在する。
これらであれば色々なマウントでも販売されているので、
NOKTONのようにμ4/3機に限定される事なく、他マウント機
のユーザーでも超大口径5の世界を味わう事が出来る。
(一部は後日紹介)


なお、「大口径はどこまで可能なのか?」という話になると、
光学原理上は、レンズの最大口径は 1÷√2の計算式で
表され、これは約F0.707に相当する。また非球面等の特殊な
設計を行えば、さらに明るく出来、その限界値はF0.5との事だ。
(注:設計ができても、実際に作れるかどうかは不明)

ちなみに、カール・ツァイス社では、1960年代に
この実質的最大口径のPlanar(プラナー) 50mm/F0.7の
開発に成功し、これをNASAに納品したと聞いている。

加えて、同時代に同じくカール・ツァイス社から試作品として
「Super Q-Gigantar」40mm/F0.33レンズが存在していた
そうだが、これは光学的原理での性能限界を超えている模様で、
いったい、どのようにして作られたのか、良く分からない。


恐らくだが、現代にある「レデュサー」(一般的な写真用レンズ
の前後に付属品を装着し、焦点距離を短くする=より広角にする、
この時、開口率(有効瞳径)が増えて、光が多く取り込まれる為、
見かけ上の開放F値(焦点距離÷瞳径)が、より明るくなる)の
原理を応用した、トリッキーな設計の物だと想像される。

こうした光学的限界いっぱいの超大口径レンズは、水晶玉を
半分に切ったような半球状の前玉の構造になる事であろう。
c0032138_22301142.jpg
さて、余談が長くなった、本NOKTON42.5/0.95の話だ。

本レンズの長所は、その「超大口径」である事だ。
42.5mmは実焦点距離としては準標準レンズであるが、
μ4/3機専用なので(フルサイズ)換算画角は85mm相当
となり、人物撮影の分野にも使える画角となる。

(ただし、その目的に使うには、仕様上、困難だ)

μ4/3機専用なので、レンズ設計上、イメージサークルを小さく
する事ができ、あまり大型化しない状態で、このF0.95を
実現している点も長所である。他のフルサイズ対応超大口径
レンズは、もっと大きく重くなってしまう。
また、前玉も半球状になる事もなく、見かけは普通のレンズと
同じであり、フィルター類も普通に装着できる。
なお、F0.95は明るすぎてシャッター速度オーバーになる為、
ND8級の減光フィルターの装着は日中は必須である。

最短撮影距離は約23cmと恐ろしく短い、そして通常距離撮影に
比較して、近接撮影では当然、被写界深度は浅くなる。

で、実は、換算85mm/f0.95といっても、センサーサイズが
小さいμ4/3用という課題があって、フルサイズ用の85mm/f1.4
よりも大きなボケ量が得られる訳では無いのだ。
ただ、一般的な85/1.4級レンズの最短撮影距離は、85cm~1m
程度であり、本NOKTON42.5/0.95は、それらよりも遥かに
寄る事が出来るため、被写界深度は相当に浅くする事が可能だ。

この特徴を活かすため、本レンズはできるだけ近接撮影で
用いるのが良いであろう。
なお、近接撮影での紙のように薄い被写界深度では、
μ4/3機のコントラストAF方式では精度不足で、ピントが
合うとはとうてい思えず、本レンズはMF仕様である。

しかしMFで使うにしても、ピントは依然難しい。
MFアシストとして「ピーキング機能」があったとしても、
ピーキングも原理的には、AF機構と類似のコントラスト差分検出
であるから、これも限界状態においては、あてにはならない。

この為、本レンズの専用ボディとして、PANASONIC DMC-G5
を別途購入し、ずっとこの組み合わせで使用していた。
DMC-G5は、Gシリーズの中ではピーキングを持たない最終機種
であり、PANASONICでは、この機種まで、ピントの山が掴み易い
旧型の144万ドットカラー液晶をEVFに採用している。
(これ以降の機種での有機EL仕様のEVFでは、映像は明るく、
解像度も高いものもあるが、ピントの山が若干掴み難くなった)

なお、144万ドットでは、解像度的に本レンズでのピント精度は
出ないので、ほぼ毎回(1枚撮影毎に)、EVF内での拡大表示を
行い、それでピント合わせを行う必要がある。

ちなみに、μ4/3機では他にも144万ドットカラー液晶をEVFに
採用する機種は少なく無いが、このDMC-G5(または類似操作系
の機種)であれば、MF時の「ピント拡大操作系」が優秀なので
使いやすい。他機は拡大開始、拡大枠移動、拡大解除における
指の動線への配慮の設計が練れておらず、使い難いのだ。

それから、近接撮影の場合はDMC-G5のバリアングル背面モニター
を使う場合もあるのだが、その際、背面モニターは、TFT液晶
92万ドット(640x480)と、ピント合わせの目的には、やや解像度
が低いが、こちらもDMC-G5では、EVFと同じ拡大操作系が使え
背面モニターを開いて、覗き込んだライブビュー状態でも、
拡大関連の手指の動線には問題が無いので、かろうじて使える。
このあたりも他機(他社機)では、バリアングルモニターでは
無かったり、ライブビュー時の拡大操作系が不十分であったり
するので、本NOKTON 42.5/0.95の使用には適さないと思う。

このあたりの話は、たとえ最新のμ4/3機を使ったところで、
問題点が解決する訳では無いので、レンズとカメラの
ピンポイントでの組み合わせで、最良のパフォーマンスを
発揮できるように考慮してG5を購入している。

ミラーレス時代においてアダプターの自由度が高くなったから
と言って、ただ単に、カメラとレンズを任意に組み合わせて
使えば良いと言う物では無いのだ。カメラとレンズの両者の特性
を発揮できず、性能を落としてしまうような組み合わせでは、
外から見ていて、カメラの事も、レンズの事も、何もわかって
いないようで、マニアとしては格好悪い。

余談が色々長くなったが、本レンズNOKTON42.5/0.95の
事は他の様々な記事でも紹介済みだ、そこには長所も短所も
毎回詳しく書いてある。

また、毎回、同じ結論になるのだが、本レンズはは初級中級者
には決して薦める事が出来ないレンズである、という事だ。
あくまで上級者/上級マニア専用のレンズである。

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第35位 
評価得点 3.50 (内、コスパ点 3,0) 
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レンズ名:MINOLTA APO HI-SPEED AF200mm/f2.8
レンズ購入価格:44,000円(中古)
使用カメラ:SONY α77Ⅱ(APS-C機)

ハイコスパ第23回や、ミラーレス・マニアックス第67回記事で
紹介の1990年代のAF単焦点望遠レンズ。
なお「HI-SPEED」とは、大口径(シャッター速度が速い)を
間接的に意味する英語表現であり、AFが速いという意味では無い。

レンズ名の「AF」とは、ミノルタのAFレンズの型番である。
ミノルタはα-7000(1985年)で他社に先駆けて一眼レフでの
実用AFシステムを発売した、その際に「AF」と言うレンズ型番を
他社よりも「早い者勝ち」で使ったのであろう。
(注:AFの二文字では商標は取得出来ず、その後のSIGMAや
TAMRON等のレンズも、同様なAF型番となっている)

で、本レンズには、HI-SPEED AFと続けて書いてある為、日本人
ユーザーに、そう(AFが速い)勘違いさせる為の、ロゴ・デザイン
上の工夫があると思う。これはある程度、確信犯だろうか・・?
c0032138_22302475.jpg
何度も紹介しているので説明は最小限とするが、本レンズは
ライブ撮影やイベント撮影で良く使用したレンズである。
(注:上写真のみ SONY α700との組み合わせで撮影)

現代の70-200mm/f2.8望遠ズームと被る焦点距離と開放F値で
あるが、本レンズは、そうしたズームと比べて、軽量、安価、
高画質、良好なボケ質、という利点を持つ。

ただ、旧来、この用途(長距離人物撮影)には非常に良く
使ったレンズだが、近年は、200/2.8では無く、135/1.8に、
その用途での主軸レンズが変わってきている。

その大きな理由は、一眼レフへのデジタルテレコン機能の
搭載である。今回使用のα77Ⅱ(他のAマウントαフタケタ機
でも同様)には、「スマートテレコンバーター機能」が内蔵
されていて、専用ボタンのワンプッシュで、ノーマル、
1.4倍、2倍の画角に瞬時に切り替える事ができる。

すなわち、αのAPS-C機でのフルサイズ換算画角は、
本AF200/2.8で旧型α機の場合は、300mm/f2.8固定となるが、
135/1.8と新型αのテレコンの併用では200mm,300mm,400mm
の3種類の画角が得られ、しかも開放F値は1段強明るいF1.8だ。

ではAF200/2.8を新型αに装着したケースだが、
これは300mm,450mm,600mmの画角が得られるが、屋内
イベント(ライブハウス等)では、ちょっと過剰に長すぎる。
屋外ライブとか、若干のスポーツ撮影も含む場合は、本レンズの
方が役に立つであろうが、その際、昼間であれば、
100-400mmや200-500mm等の長距離被写体用超望遠ズームを
用いる方が簡便だ。
c0032138_22302406.jpg
なお、初級者層は、このようにデジタルテレコンで画角を
伸ばす事には不安があるだろう。

まず心配事項の1点目は、手ブレだが、一応α(A)マウント機
は、α用レンズであれば内蔵手ブレ補正が効く。
そしてαフタケタ機のデジタルテレコン使用時の手ブレ補正は
変化した画角に対応している模様であり、問題はない。
基本的には、自身のスキルに応じた低速手ブレ限界シャッター
速度をしっかりと意識すれば、手ブレの不安は少なくなる筈だ。

第二の不安点、画素数や画質の低下だが、αフタケタ機の
画素補完型テレコンでは、原理的に画質の低下は起こらない、
下がるのは画素数であり、2倍の拡大モードとすると
自動的に最大画素数の1/4の記録画素数に制限される。

APS-C型αフタケタ機の記録最大画素数は、2400万画素機で
ある場合が多い、この時、1/4の画素数は約600万画素となり
2000年代前半の初期デジタル一眼レフと同程度だ、で、この
画素数があれば、ワイド四つ切やA3版程度の印刷には十分に
耐えられるし、WEBやSNS用途には、むしろ大きすぎる。

画質の低下が心配なのは、この解像度の原理やDPI(LPI)の
意味がわかっていない初級者のみであり、現代では中級者以上
であれば、写真の用途や目的に応じ、印刷サイズあたりで、
どれ位の画素数が必要なのかは良く知っている。
(デジタル時代初期の2000年代前半では、皆が良くわかって
いなかった、だからその頃は「画素数至上主義」が蔓延したし、
トリミングをする事を皆が嫌った、といった世情があった)
c0032138_22302324.jpg
さて、また余談が長くなったが、本AF200/2.8について。
過去記事でも書いたが、このレンズは、MTF等のカタログ
スペック上は非常に高性能だ。一般的な撮影においては
文句は無いであろう。ボケ質や逆光耐性も問題なく、極めて
優秀なレンズである。

本レンズはMINOLTA銘のものしかなく、2006年にαが
コニカミノルタよりSONYに引き継がれた際、レンズの多くは
SONY銘で再生産されたが、本レンズは生産中止となった。
SONYでは、恐らく「70-200/2.8があれば仕様が被るので不要」
と、経営(営業)判断をしたのであろう。

しかし、では何故MINOLTAは、大口径望遠ズームと被るのに
本レンズを併売していたのか? そこをわかっていないと
ならない。そう、簡単に言えば、本レンズの方がズームより
性能面でのメリットが多いからだ。
(注;SONYは、αを引き継いだ時点では、一眼レフの製造や
販売経験を持っておらず、「焦点距離が被るレンズは不要」と、
まるで現代の初級中級層のような判断となったのであろう)

描写力的には何も問題が無い、そして小型軽量である、
だから本レンズは十分に入手するのに値するレンズだ、
ただし、単焦点望遠が使いこなせれば、という条件付きだから
中上級者向けのレンズとなる事は間違いない。

なお、SONY時代には販売されなかった為、本レンズの中古は
レア感からか、コレクター向けの若干高目のプレミアム相場と
なり、6~8万円位はするであろう。
それであればちょっと高価すぎる気がする、私の購入価格の
44,000円は、逆に、ちょっと安いが、まあ5万円台を目処と
して探すべきであり、それより高価ならばコスパ的には購入に
値しない。

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第34位 
評価得点 3.55 (内、コスパ点 3,5) 
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レンズ名:中一光学 CREATOR 35mm/f2
レンズ購入価格:20,000円(新品)
使用カメラ:NIKON Df(フルサイズ機)、α7(フルサイズ機)

レンズマニアックス第5回記事で紹介した、2014年発売の
中国製MF単焦点準広角レンズ。

本記事の前半で、中一光学製のSpeed Mastar シリーズの
レンズの話が少し出たが、本レンズは超大口径では無い。
ごく普通のスペックのレンズであり、MFでシンプルな
構造故に、付加価値要素(=ユーザーの購買欲を喚起する
為の、欲しくなるような仕掛け)も少なく、製造コストも
下がっている為、安価なレンズである。
まあつまり、AF、手ブレ補正、超音波モーター等の付加価値
機能を入れなければ、本来、レンズはここまで安く出来る
という事である。
c0032138_22303551.jpg
ただ、日本のメーカーがそんな風に格安レンズを売っていたら
ただでさえ一眼レフやミラーレス機の市場は縮退しているので
カメラ事業が成り立たなくなってしまう。
だから現代での国産品は、ともかく高く売る為(利益が大きく
出る為の)仕掛けや魅力的仕様を色々と入れなくてはならない
のだ。

結局、ユーザーの立場では、何が、本当に自分にとって必要で、
何がいらないのか、そして、その必要な機能にいくらまでなら、
お金を払う事が出来るのか? そうした絶対的な価値感覚や
コスパ感覚を身につけなくてはならないのだろう。
まあ、それが故に、こうしたハイコスパのシリーズ記事を
色々と書いているのだ。

つまり、現代の初級中級者層は、何もわからずに高い製品を
買わされてしまっている、という課題があるが故だ。
ただ、申し訳ないが、そういった奇特なユーザー層が居て
くれないかぎり、カメラ市場は崩壊してしまう。

だから正直言えば、こうしたシリーズ記事は初級者層には読んで
貰いたくない、変に色々と知ってしまうのも世の中の仕組み的に
良く無い事も色々あるからだ・・
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さて、余談はともかく、中国製の中一光学のレンズの話だ。
私は中一光学のレンズは、本Creator 35mm/f2と、
Creator 85mm/f2(ハイコスパ第23回),FreeWalker 20mm/f2
(レンズマニアックス第2回)と、未紹介レンズの計4本を
所有しているが、中国製だからと言って、品質や性能に
不安を感じる事は無い。

むしろ金属製で作りが良くて、デザイン的にも国産の
安価なエントリーレンズよりも、遥かに格好良い位だ。

本レンズはレンズマニアックスで比較的最近に紹介した
レンズであるので、詳細は大幅に割愛していこう。

特徴は新品でも極めて安価な高性能レンズ、という点だ。
ただし勿論MFで、かつ絞り込み測光であるから、そのあたり
の長所短所が良くわかっている中上級者向けだ。
あるいは、ニコン用等の一眼用マウント製品であっても、
ミラーレス機でアダプターで使う方が、初級中級者にとっては
使いやすい事であろう。

ここでミラーレス機α7で使ったケースも紹介しておく。
c0032138_22304508.jpg
写りだが、正直言えば、可も無く不可もなし、という感じで
感動的な要素は何も無いのだが、逆に、ここがNGだという
弱点も、若干だが逆光耐性が弱い事がある程度だ。
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初級中級者層にも、かろうじて薦められるレンズではあるだが、
その場合、初級中級者層は一眼レフに本レンズを装着するのは
禁物だ。必ずミラーレス機にアダプターを介してで使うか、
またはミラーレス機用マウント版を買うのが良い。

そうで無いと、一眼レフでは、絞り込みで光学ファインダーが
暗くなったり、構造上、露出が合わなかったり、MFをアシスト
する機能が(一眼レフでは)貧弱であるので使い難い。

なお、ミラーレス機でのMFアシストの意味や操作がわからない
超初級者の場合、本レンズを購入する必然性は全く無い。

・・と言うか、近年の本ブログでの、こうしたマニアック系
の記事は超初級者層はいっさい対象読者層として考えていない。
経験や知識や技術が殆ど無い状態で本ブログの記事を読んでも
チンプンカンプンであろうし、無理して読んでも意味が無い
事であろう(注:別途「用語辞典シリーズ」を展開している)

まあ、上級者レベルであれば、本レンズは、どう使おうと
好き好きで良いと思う、新品でいつでも購入可能であるし、
コスパに優れた、なかなか良いレンズだ。

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第33位 
評価得点 3.55 (内、コスパ点 3,5) 
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レンズ名:安原製作所 MOMO 100 28mm/f6.4 Soft
レンズ購入価格:21,800円(新品)
使用カメラ:OLYMPUS E-PL2(μ4/3機)

ハイコスパ第5回記事で紹介の、2016年発売の
希少なMF広角ソフトフォーカス(軟焦点)レンズである。

なお、希少なのは「広角」のソフトレンズである事で、
ソフトレンズが「MF」である事は、むしろ当たり前だ。
AFのソフトレンズは希少で、1990年代のMINOLTA AF100/2.8
Soft(ミラーレス第38回),CANON EF135/2.8 Soft
(現在未所有)の2本しか記憶に無い。
(注:PENTAXにもあっただろうか? 詳細不明)
c0032138_22305708.jpg
ソフトレンズが軟焦点化する原理や、その歴史背景等は
様々な過去記事に詳しいので今回は割愛する。

長所は、その個性的で、幻想的あるいはノスタルジックな
描写力であり、これはソフトレンズそのもので効果を出すのが
最も望ましく、ソフト効果物理フィルターや、カメラ内蔵
エフェクトのソフト効果、PCやアプリでの画像編集エフェクト
でのソフト効果のいずれでも、実際のソフトレンズの描写
とは異なる。

ソフトレンズの場合は、光源に対してハロ(光の滲み)の
発生により軟焦点化するが、中暗部の輪郭については比較的
残っていて、芯のある描写になる、すなわち光の明るさの分布
状態に、より強く影響されるという事であり、ソフトエフェクト
により輪郭そのものを全体的にボカしてしまう効果とは異なる。
c0032138_19525797.jpg
弱点はピント合わせが困難な事だ。本ブログでは、多数の
ソフトレンズならびに、球面収差によりソフトレンズ級に
軟焦点化するオールドレンズで、いかにピントを合わせる
のが良いか?という様々な工夫とその検証を何度も行って
いるが成功例はまだ無い。つまり現状では、何をやっても
ソフトレンズのピント合わせが困難な事は回避しようが無い。

それと、本レンズは希少な広角ソフトであり、ソフト効果も
あまり強くなく、この点も弱点ではあるが、ピント合わせは
他のソフトレンズよりも若干だが容易だ。

それらの弱点だけ許容できるのであれば、そして、こうした
ソフトレンズの描写が必要であれば、エフェクト等に頼らず、
実製品を買うのも良いであろう。
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ちなみに、ソフトレンズは1980年代~1990年代にかけて
流行したので、当時は何種類もの製品がカメラメーカーからも
発売されていたのだが、それ以降、ほとんど全てが生産中止と
なってしまった。恐らくはあまり売れない商品だからであろう。
現在2010年代では、メーカー純正のソフトレンズは存在せず、
安原製作所やKENKO LENSBABY等、サードパーティー製での
数本を数える程度だ。

昔のソフトレンズの中古がたまに出て来ても、レア感からか
プレミアム価格となってしまい高価だ。そうであれば、
本レンズあるいは他社製品の新品を買うのがてっとり早い。

当然、誰にでも薦められるレンズでは無いが、まあ描写表現に
おける効果は高いので、中上級者やマニア向けとしておく。

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では、今回はこのあたりまでで、次回記事でも引き続き
ランキングレンズを順次紹介していこう。

レンズ・マニアックス(14)

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新規購入等の理由で、過去の本ブログでは未紹介の
マニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。
今回も引き続き未紹介レンズを4本取りあげる。

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さて、まずは最初のレンズ
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レンズは、MINOLTA MC TELE ROKKOR 135mm/f2.8
(中古購入価格 1,000円)(以下、MC135/2.8)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited (μ4/3機)

1970年頃のMF単焦点望遠レンズである。
ミラーレス・マニアックス第67回記事で全く同型のレンズを
紹介しているのだが、本レンズは別の個体だ。

何故同じレンズを2本所有しているのか?は、本レンズは、
行きつけの中古店で買い物をした際、おまけにつけてくれた
物であるからだ。「これは持っていますので、いりません」とは
なかなか言い出し難く、加えて「もしかしたら、所有している
物とは微妙に仕様が違うかも」と言う期待もあって、ありがたく
頂戴する事とした。まあ、本レンズ自体の価格はゼロ円かも
しれないが、他の買い物の金額もあったので、便宜上1000円
という入手価格にしておこう。
c0032138_19324428.jpg
MF時代の単焦点135mm望遠というのは数が多く、それはその時代
(1960年代~1980年代頃)の一眼レフユーザーの多くは
まずカメラと一緒に50mm標準レンズを買い、続く交換レンズは、
特に「望遠レンズが欲しい」というニーズがあった為、次に
購入するレンズはたいてい135mmとなった、という状況がある。
よって販売数は多く、その後の時代でも中古流通数(玉数)は
極めて多かった。

2000年代以降のデジタル時代では、このようなオールド単焦点
135mmは不人気だ。現代のデジタル一眼レフへは装着が困難だし
ミラーレス機ならば、まあ容易に使えるが、ビギナー層が苦手と
するMFレンズだし、さらに言えば、「現代の標準ズーム又は
望遠ズームに含まれる画角であるから不要」と思うであろう。

初級層では、写真撮影を平面的な画角の変化でしか捉える事が
出来ないので、このように、自身が既にズームに内包して
持っている画角(焦点距離)のレンズを別途買う、という
ケースは、まず有り得ない。

結果的に「大放出時代」の2010年前後からは、こうしたオールド
135mmの相場は大きく下落し、普及版(開放F2.8~F3.5)で
あれば、現代では二束三文の中古相場(1000円~4000円)だ。
ここまで相場が下がると、「安かろう、悪かろう」と初級マニア
層ですらも反応しなくなるので、中古は非常に購入しやすい。
が、安いのは性能が低いからでは無い、あくまで市場ニーズとの
バランス感覚での相場に過ぎず、つまり、多くの人が欲しいとは
思わないから、相場が安価になっている訳である。

買い易いレンズである為、私も、この時代の135mmオールド
望遠は都合10数本持っていて、いずれ機会があれば、撮り比べ
の記事も書きたいと思っている。
c0032138_19324466.jpg
描写力であるが、あまり不満は無い。
初級マニア層等では「オールドレンズは写りが悪い」と思って
いるかも知れないが、実際にはそういう事もなく、上手く使えば
かなりしっかりと写る。

また中級マニア層等では、レンズの欠点がわかる「目利き」が
出来る為、オールドでも現代レンズでも、それらの欠点を
鬼の首を取ったかのように指摘する人達も居るのだが・・

まあ基本的に、レンズは完璧な性能なものは有りえない。
まず光学的な収差は全てを良好に補正する事は技術的に難しい、
だから、何かの性能を得ようとすれば、他の何かが犠牲になって
しまう事は多々ある、これを技術全般では「トレード・オフ」と
呼んでいる。だから全ての点で完璧なレンズ(やカメラ等)は
存在しないのだ。(カメラで言えば、超高性能の機体は作れる
かも知れないが、大きく重く高価という三重苦が、のしかかる)

次いで、ユーザー側の心情あるいはスキル(技能)の問題がある。
欠点を指摘する事は多数のレンズを使用する等の経験を積めば
可能だ、だからこそ簡単に欠点を指摘しまうのであるのだが、
そこからさらにスキルアップを目指すのであれば、レンズの
長所と短所を個別にそれぞれ理解し、深いレベルで考察し、
その長所を活かす為の被写体や撮影技法を模索していく事が
本筋ではなかろうか?

すなわち、上級層、上級マニア層、職業写真家層ともなれば、
いちいちレンズやカメラの欠点を責め立てるようなことはしない。
それらの欠点を回避して、良い所(長所)を生かして、機材の
性能をフルに発揮できるようにするように目指す事が、上級撮影
技法(技能)の真髄であるからだ。

別の言い方をすれば、機材の欠点を責めているだけでは、自身が
その欠点を回避できるスキル(技能)を持たない事を公言して
いるのと等価であり、格好悪い、あるいは「まだまだ」という
風に見られてしまう、という事である。
c0032138_19324477.jpg
さて、本レンズMC135/2.8であるが、5群6枚の構成である。

古くから存在する、4群4枚のペッツヴァール(改)型や、
この時代のオーソドックスな望遠設計での、5群5枚より
若干複雑な設計である。これには姉妹レンズMC135/3.5の
4群4枚との差別化の意味もあるかも知れない。

だが、シンプルな構成である事には変わり無く、本レンズや
他のオールド望遠レンズの構成では、基本的な特徴として、
画面中央部の解像力(球面収差等の補正)に優れ、加えて
口径比(開放F値)をある程度明るくできる。
反面、像面湾曲等の補正が困難である為、写真表現的に言えば
「ボケ質が悪化する」特性がある。

これらをカバーしようとする際、まず現代のμ4/3機を使って
画面周辺の収差が多い部分をカットしてしまう。
次いでボケ質の劣化については、例えばできるだけ平面的な
被写体を選んで背景前景ボケを出さないようにしたり、
あるいは絞り値や撮影距離を変える(つまり被写界深度を
微妙に調整する事)と、これに関係して背景の図柄を構図的に
選ぶ事の、いわゆる「ボケ質破綻回避技法」を必ず併用する。

これらの為には、実絞り測光でかつ解像度の優れた高精細
EVF搭載機を使用するのが良い。
こうした理由から、今回はOLYMPUS OM-D E-M5Ⅱを母艦として
使用している。

構成枚数の少ないレンズならば屈折面も少なく、収差補正の
設計上の意味では不利ではあるが、反面、光路透過率が向上
するので、コントラストの低下は本来ならば起こり難い。
ただし、ここはコーティング性能との絡みが大きく、優秀な
コーティングは、まだこの時代の製造技術では困難であるから
結果的に内面反射での逆光時のコントラスト低下やフレアは
避けられない。

ここの課題の回避は、まず被写体光線状況に配慮する事であり、
簡単に言えば、逆光では撮らない、または曇天や雨天などでの
低コントラスト光源の状況を主体に使用する事である。

また、こうしたオーソドックスな回避技法を用いず、レンズの
欠点を承知の上で、無茶なボケ質を出してみたり、逆光時の
低画質を得るというのも、レンズを単なる映像記録的に高画質を
得る為の「Hi-Fi機材」とは思わず、「写真表現的なツール」と
見なせば、こうした「Lo-Fi的技法」はそれなりに意味がある。

そういう場合は、低コントラスト化した画像と絡めて、Dレンジ
系のエフェクト(画像加工)と組み合わせてみることも、原理
的には十分に意味を持つ。
c0032138_19324488.jpg
いずれにしても、「オールドレンズは使い方次第」という事で
あり、必ずしも描写力に常に不満を持ちながら使うものでは無い。

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さて、次のレンズ
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レンズは、TAMRON AF70-300mm/f4-5.6 LD Macro (572D)
(ジャンク購入価格 500円)
カメラは、CANON EOS 30D (APS-C機)

2000年発売の普及版AF望遠ズーム、銀塩時代のレンズであり
勿論フルサイズ対応だ。

純然たる「ジャンク品」での購入であり、ズームリングが
故障していて空回りする。しかしレンズ先端の鏡筒部を
指で引き出せばズーミング可能である為、多少手間では
あるが、撮影不能では無い。

他に特に問題点は無い、レンズにカビや傷、ゴミも無く、
描写力のチェックの為に購入してみる事とした。
価格は故障品故に500円と安価であった。
c0032138_19330972.jpg
本レンズ572Dの最大の特徴はマクロレンズ並みの撮影倍率
であり、望遠端300mmで最短撮影距離は1.5m、マクロ切り替えで
95cmまで寄る事ができ、この時、最大1/2倍マクロとなる。
(注:公式仕様では、そう書かれているが、机上で計算して
みると撮影範囲は約11cmx8cmと、約1/3倍マクロとなった。
この差は、高倍率ズームやIF仕様ズームの場合、撮影距離に
応じて、画角が微妙に変化する設計の場合があるからか?
銀塩末期のTAMRON高倍率XRシリーズ等で同様の事例がある)

フィルター径φ62mm、重量435gと、300mm級レンズと
しては小型軽量だ。
ちなみに、同スペックの後継機のTAMRON SP70-300/4-5.6
Di VC USD(A005、本シリーズ第6回記事)は、重量765gと
2倍近くも重たくなっているし、マクロモードも無い。
(その替わり、手ブレ補正&超音波モーター内蔵だ)

描写力は、流石にSP仕様のA005には負けてしまうのだが、
本レンズもさほど悪くは無い。それでいて500円は超お買い得
であるが、故障レンズであるが故に、やはり実用的には苦しい。
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で、ここのところ各記事にこうしたジャンク望遠レンズが
良く登場しているが、2010年前後の大放出時代が一段落した
2010年代前半以降、MF/AF問わず銀塩時代の望遠ズームの
ジャンク品あるいはB級品の売れ残りを良く中古店で見かける。

そうしたものを見かけると良く購入していて、1000枚から
3000枚程度撮って、一通り描写力を見た後は、周囲の初級者
またはマニア等に無償で譲渡してしまうケースが良くある。
(ただし、気に入ったレンズは残すようにしている)

これは、所謂「テストマニア」的な志向性ではあるのだが、
テストマニアの場合、沢山のレンズの処置に困ってしまう
事が多いし、それを嫌って、借りて写すのでは、自分でお金を
出していないが故に、借りた所に気を使うなど、正当な評価が
出来ない恐れもある。なのでまあ、私のこの方式であれば、
あまりこうしたジャンクレンズも残らず、描写力のチェックが
出来る訳だ、勿論評価結果はノート(実際にはPCのエクセルだが)
にまとめてあるし、こうやってブログ記事も書き残している。
つまりこうした記事は、自分自身のデータベースとしての役割も
持っている訳だ。
加えて「弱点回避」の練習の為の教材としての用途もあるのだが
それについては長くなる為に、また別記事で説明しよう。
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さて、本レンズ572Dであるが、中古相場は、良品であっても
5000円前後と、あまり高価では無いと思う。なにせ現代では
こうした銀塩時代の普及版望遠ズームは不人気なのだ。

だがまあ、本レンズは描写力に優れる後継のSP仕様のA005型の
ほんの数年前まで発売されていたレンズである、普及版とは言え
あまり滅茶苦茶に酷い描写力では無い。
ボケ質も悪く無いし、マクロ並みの近接性能も長所である。
ビギナー層であれば、「安かろう、悪かろう」と他のオールド
ズームを含めて思い込んでしまうかもしれないが、全てがそういう
類でもなく、本572Dは、まあ意外にお買い得なレンズになりうる。

弱点として、手ブレ補正や超音波モーターが入っていない事が
初級層には気になるかも知れないが、まあそういう機能は
無かったとしても普通に写真を撮る事は勿論できる。
手ブレは、明所では全然問題無いだろうし、AFの遅さや精度の
悪さは、いっそMFで撮ってしまえば何ら問題は無い、すなわち
撮影側のスキル(技能)で、なんとかなる類の弱点だ。
例えば、今回使用機の古い(同時代の)EOS 30D等と組み合わせて、
過酷な環境で、いつ壊しても惜しくないような「消耗システム」
として使うのも有りかも知れない。

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さて、次のシステム
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レンズは、自作ピンホール 約45mm/約f225
(製作費用 約200円=ボディキャップ代)
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)

これはレンズでは無く、自作のピンホールである。
ボディキャップにドリルで穴を開けて、小さい(約φ0.2mm)
針穴をあけた黒い紙を貼っただけの簡単な工作だ。

自作品の話は、何度かピンホール関連の記事で述べていたが、
銀塩時代に作った古い物だったので、しばらく紛失していた。
近年、カメラ用品の箱の中から、やっと発掘する事が出来た
ので、久しぶりに実写してみる事とした。
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銀塩時代は、ダイレクト測光方式で最大120秒という超長秒AEが
効くPENTAX LX(銀塩一眼第7回)と良く組み合わせて使った。
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デジタルでは、今回もしかすると初使用だったか?
PENTAX KPを母艦に選んだのは最大ISO感度が82万と高く、
ライブビューモードであれば快適に撮れそうであったからだ。

なお、これまでミラーレス機PENTAX K-01をピンホール母艦に
良く使っていたが、今回は、KPもその目的に使えるか否かの
テストの意味もある。
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描写力だが、手前味噌となるが、自作の割りにさほど酷くない。
ピンホールの写りは、針穴の精度(真円度)で、ほぼ決まって
しまい、自作だとそう簡単では無いのだ。なにせ針穴は通常は
1発勝負である。「エイッ!」と開けた穴が、なんだか歪んで
いたり、穴径がおかしかったりしたら、妥協してそのまま使うか、
あるいは、また1から穴の開けなおしだ。

KPの超高感度のライブビューモニターでは、ピンホールでも
問題なく画像が写る。これが少し前の時代の普及一眼レフでの
感度12800程度だと、ゲイン(増幅率)が足らず、モニターが
暗くなってしまう事もある。
勿論、光学ファインダーはF225では真っ暗で何も見えない、
ライブビューを使うしか無いのだ。
露出モードは絞り優先で十分だ、KPは感度が高いので、
手持ちで難なく撮影が可能である。

なお、KPは超高感度機とは言っても、若干の設定操作が必要だ。
具体的には、まずAUTO-ISOで使う場合は上限感度を念の為に
拡張して82万まで高めておく。

次いで、ISO切り替わりの低速限界設定が必要だ。これを
TVモードにする場合はシャッター速度を入力する必要がある。
ピンホールの焦点距離は約45mm(Kマウントのフランジバック
長にほぼ等しい)であるから、この換算画角はAPS-C機で
1.5倍となり、約70mm弱だ。

よって、初級者層での一般的な手ブレ限界速度は1/70秒。
手ブレ対策に自信があるならば低速限界を1/60秒とすれば良い。

で、手ブレ補正機能がONされている場合は、中上級者クラスで
あれば、さらにこれを1段下げて1/30秒程度としておく。
ただし、この場合、手動焦点距離入力を45mmにセットする
事を忘れてはならない、さもないと手ブレ補正が正しく効かない。

手動焦点距離入力を行えば、低速限界設定はAUTOでも十分だ、
ここで手ブレ対策に自信があれば低速限界設定をSLOWにすると
感度の切り替わりが抑制され、つまり結果的にノイズが減る。
手ブレに自信が無ければ、FASTまたは標準とすれば、感度の
切り替わりが速く、手ブレしにくいが、反面、感度が上がり
すぎてノイズが発生しやすい。

AUTO-ISOで使わない場合は、上記手ブレ限界速度に配慮
しながら、KPの機能ダイヤルにISO直接変更機能を割り振って
被写体状況に合わせ、ISO感度を頻繁に手動調整する。

こうしたKPの設定や概念がスラスラと理解できなければ、
せっかくの超高感度も内蔵手ブレ補正も何も役に立たない。

KPは超高機能な中上級機であり、利用者のスキルも、かなり
高いものが要求されるのだ。だが、こうしたISO関連の機能は
PENTAXの普及機にも入っている筈だ、でも恐らくは初級中級
ユーザーの誰もこれらの事を理解していない。

要はカメラの性能は、カタログスペックだけでは決まらず、
その殆どが、利用者側のスキルに依存するという事なのだ。
このあたりは前述のレンズの欠点回避の話と同じ、まあつまり
どんな場合でも、ユーザー側の責務であると言う事だ。
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さて、ピンホールは基本的にLo-Fi描写であるから、ここは
表現力の増強とバリエーションを意識してエフェクト機能を
併用する事が、デジタル的な概念である。
デジタルでは、銀塩時代とは根本的に写真に対する考え方を
変えなくてはならない事は言うまでも無い。

で、PENTAXにはエフェクト機能に優れるカメラが多いのが
特徴ではあるが、この目的であれば一眼レフよりもミラーレス
機が有利だ。EVFや背面モニターでエフェクトの撮影前確認が
可能であるが、光学ファインダーではこうはいかない。
しかしPENTAXのミラーレス機は現在では事実上終焉している。
一応K-01を使えばピンホールとの相性は良いのだが、今回は
あえて使っていない。

だが、KPであっても、嬉しい事にライブビューモードで
あれば、エフェクトの撮影前確認が可能なのだ。
まあでも通常レンズでライブビューを使う訳にはいかない、
何故ならば、カメラの構え方が理想的ではなく手ブレしやすく
ライブビューのコントラストAFではピント精度も速度も酷い
からである。おまけにAFレンズでは、PENTAX機ではライブ
ビュー時に、「ガタピシ」と音がして、気持ち悪い。
(注:他社機でも同様の課題が多い)

だから一眼レフで通常レンズでのライブビュー使用は、
極端なローアングル撮影や、セルフィー、動画撮影等の
特殊な状況を除いて、有りえない話だ。
(注:近年のビギナー層では、一眼レフやEVF搭載ミラーレス
機で、通常撮影でも全てライブビューを使う人が多すぎる。
これは様々な撮影技法の面で不利なので、通常撮影の場合は、
必ずファインダー/EVFを用いる事が望ましい)

だが、ピンホールでは好まざるに係わらず、ライブビューで
無いと撮影不能だ、ちなみに勿論ピンホールはAFでは無いので
そこに係わる問題点は回避できる。
でも、正しくカメラを構える事ができず、手ブレはしやすくなる、
F225と非常に暗いピンホールでのその問題は深刻ではあるが、
前述のISO感度設定を厳密に行っておけば怖がる必要はない。

まあ、いずれにしてもピンホールの自作も、カメラの高度な
設定も、決して初級者向けでは無いので、こういう遊び方は
中上級者あるいはマニア向け、としておこう。

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さて、今回ラストのレンズ
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レンズは、SIGMA 85mm/f1.4 DG HSM | Art
(中古購入価格 94,000円)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

2016年に発売されたフルサイズ対応大口径AF中望遠レンズ。
(以下、A85/1.4と略す)
ちなみに、ARTラインに属している単焦点は手ブレ補正機能が
入っていない。私は逆に、その「硬派な潔さ」に賛同していて、
ARTラインの単焦点レンズは、近年重点的に購入をしている。
過去記事での紹介は、A50/1.4(本シリーズ第2回)
A135/1.8(本シリーズ第6回)がある。
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さて、本レンズの前モデルとして、2010年発売の
SIGMA 85mm/f1.4 EX DG HSMが存在する(未所有)
型番が似ているが、後継の本レンズとは、ずいぶんと
スペックが異なる模様だ。

簡単に差異を述べると、旧型は8群11枚、フィルター径φ77mm
最短撮影距離85cm、重量725g、定価94300円であるが。
新型A85/1.4は、12群14枚、フィルター径φ86mm、
最短撮影距離85cm、重量1130g、定価16万円である。

他の差異としてはマウントがあって、新型は、CANON EF、
NIKON F(電磁絞り)、SIGMA SAのみであるが、
(注:2018年になってSONY Eマウント版が追加された。
今後、新Lマウント版の発売の可能性が高い)
旧型は、SONYα(A)、PENTAX K版も販売されていた。

新型は「大きく重く高価である」と言う、いわゆる「三重苦」
レンズとなっているのだが、さて、写りはどうか・・?
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まあ、本レンズの場合、人物撮影用途を主目的としているの
だとは思うが、本記事ではポートレート撮影は行っていない。

まずは人物撮影は依頼(業務)撮影である事が多い、そんなに
いきなりに重要な撮影に、不慣れなレンズを持ち出す訳には
行かない。少なくとも何年かは使用して、レンズの特徴や
欠点等のクセを完全に把握しない限りは、遊び(趣味)撮影に
しか使えないのだ。

職業的なモデルさんでも雇って撮れば、まあレンズのテスト
にはなるが、その場合、モデルさんの魅力に写真が負けてしまう。
つまり、そうした写真は、誰もボケ質やら描写力等は見ておらず、
ほとんど美しいモデルさんばかりに気を取られてしまう。

だからまあ、例えば作品の提出に困った場合など「美人を撮って
しまえば、それで誤魔化す事ができる」という逃げ道にもなって
いるので、私も以前はそういう事をやったこともあったが、
あまりに「被写体の勝ち」の状態なので、自身の手柄にならず、
近年では、そういう方法論は好まなくなってきている。

さらに重要な点だが、私の昔からの持論では、85mmのF1.4級は
「被写界深度が浅すぎてポートレートに向かない」と言う点が
ある。絞り開放での撮影では、撮影側も被写体側も、ほとんど
微動だにしない条件が必須となり、撮られる側も、職業モデル
等の専門的なスキルが必要となる。趣味撮影でもモデル撮影会
などでは、それは有効かもしれないが、依頼撮影(業務撮影)
では、必ずしもそうした恵まれた条件ばかりでは無いであろう。
撮られる経験が殆ど無い人物も被写体にせざるを得ないのだ。

一般的には歩留まりが悪い(つまり、成功率が低い)と言う
事になり、表情が良くてもピントが甘い写真などが沢山あると
撮った後で、がっくりと来てしまう。まあ、趣味で撮っていて
500枚に1枚でも良い写真があれば、それで良い、と言うならば
ともかく、依頼撮影等では適切な品質の写真が多数納品出来ない
と非常に困るのだ。

では、被写界深度を稼ぐ為に、少し絞って使うのはどうか?
まあ、MTF特性の向上や、ボケ量・ボケ質のコントロールの
意味からは、そう言う使い方も勿論あると思う。
だが、F2以上とかに絞って使うのであれば、85mm/f1.8級の
方が使いやすい場合も多々あるのだ。

特に本A85/1.4は、重量が1130gもある為、軽量な85mm小口径
の方が長時間の撮影などでは、ハンドリングが良くなる。
そして、85mm/f1.8級には、NIKON AiAF85/1.8や、TAMRON
SP85/1.8、さらに焦点距離は異なるがPENTAX FA77/1.8等
高性能な名玉が目白押しなので、わざわざ重たくて高価で
歩留まりが悪い85/1.4を持ち出す理由が殆ど無い。

結局、人物撮影では、安全のために上記85mm/f1.8級を
使う事が多くなる。また、撮影条件が許せばAFレンズでは無く、
よりピントが安全なMFレンズ、例えばμ4/3用で換算85mm
となる、ノクトン42.5mm/f0.95とかを使っても良いだろうし、
高精度なMFアシスト機能があるミラーレス機では、換算で
中望遠画角となるレンズはいくらでも組み合わせが考えられる。

さらには、一眼レフ等でも、フルサイズ機に拘る必要もなく、
例えば高性能なPENTAX-DA★55mm/f1.4をPENTAX APS-C機に
装着すれば、それでも、ほぼ中望遠画角が得られる。
それから、ステージ等での中遠距離人物撮影であれば、85mm
よりさらに焦点距離の長い135mm級という選択肢もあるだろう。

結局、85mm/f1.4級は、あまり有効な撮影シーンが考えられず、
単なるコレクションレンズになってしまいそうだ(汗)
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ただまあ、85/1.4は、やはり憧れのスペックのレンズである。
実用価値が低い、と言いつつも、現在私は、8本もの85/1.4
を所有しており、かつてはさらに加えて3本を所有していた、
ある意味「85/1.4マニア」とも言えるが、そこまで投資して
やっと気がついたのは「やはり実用的では無い」という事だ。

・・と言う事で、近年は、85/1.4級レンズの購入を
ずっと控えていたのだが、とは言え、メーカー純正の
85/1.4級も1990年代~2010年代前半にかけ、あまり
これと言った改良が見られた様子も無かったので、
「欲しい85/1.4が無かった」とも言えるだろう。
旧来からの伝統的な、プラナー型やゾナー型のレンズ構成の
85mm級は、メーカー名すら異なれど、中身の性能は殆ど同じ
であり、新たに買う必要も無く、「もう十分だ」とも思って
いたのだ。

だが、近年、2010年代後半になって、高付加価値化戦略の
一環として、従来のものとは根本的にレンズ構成の異なる
最新設計の85mm級レンズ群が出始めた、中には非常に高価な
ものもあるし、本レンズA85/1.4も十分に高価だ。
だからコスパが悪い事は明白なのだが、それでも85mmマニア
としては、最新設計のレンズの性能は気になる、そういう
状況で、フラフラと色香に吸い寄せられてしまったのだ(汗)

ただし「値段が高く、新しいから」と言って、「性能が良い」
などといった短絡的な結論は出せない事は言うまでも無い、
そんな単純な事を言っているのは、超ビギナー層での評価か、
または、どうしても、その高価なレンズを売りたい側(メーカー
は元より、流通市場とか投機層とか・・)が言う事である。

レンズはコスパが命だ、それは本ブログでの基本的なポリシー
である。
では、視点を変えよう。本A85/1.4はコスパが良いのか否か?

う~ん、微妙なところだが、まあ、かつて購入した85mm/f1.4
のレンズ群は、多少時代が古くても、10万円オーバーのものも
半数以上あったので、本レンズの中古購入価格9万円強と
言うのは、割とコスパが良いと見なせるのではなかろうか?
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弱点だが、とてつもなく大きくて重い事がまず第一だ。
フィルター径もφ86mmと異様に大きく、このクラスとなると
保護フィルターは、かろうじて入手可能であるが高価だ。
それから、開放F1.4を有効活用する為のND(減光)フィルター
は、量販店などで販売されている物は一般的にはφ82mm位
迄で、それ以上のサイズは在庫していない場合も多々ある。

中古も勿論入手困難だ、私の場合は一般的な最大径のφ82mm
減光フィルターは所有しているので、ステップダウンリング
φ86mm→φ82mmで、それを装着する場合もある。勿論使用
するカメラやフィルター厚等の条件によってはケラれる為、
実写して確かめるのが良いし、又はケラれずに安全なAPS-C機
で使うという事だ。
(注:フルサイズ機EOS 6Dではケラれずに使える)

それから大型化・重量化により、超音波モーター(HSM)を
内蔵しているのにも係わらずAFはかなり遅く(重く)感じる。
どうせ被写界深度が浅すぎてAF精度も期待できないのであれば
MFで撮るのも回避策だが、その際EOS機ではMFのアシスト機能
が貧弱だ(まあでも一応フォーカスエイドは出るし、EOS 6D
はMF用スクリーンに換装済みだ)
加えて、無限回転式ピントリングはMF操作性も良く無い。
ただし、有限距離指標があるハイブリッド方式であり、
そこは若干救われている。
c0032138_19345081.jpg
欠点はそれくらいで描写力上の不満点は、まず無いと思う。
では買いか否か?まあそれはユーザーの購買欲によりけりだ、
欲しければ「買い」である。まあ、欲しいものはしかたが無い、
それを我慢していても、ストレスが溜まるだけだ(笑)

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さて、今回の第14回記事は、このあたり迄で、次回記事に続く。

銀塩一眼レフ・クラッシックス(23)MINOLTA α-9

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所有している銀塩一眼レフの名機を紹介するシリーズ記事。
今回は第三世代(AFの時代、世代定義は第1回記事参照)の
MINOLTA α-9(1998年)を紹介する。
c0032138_15175106.jpg
装着レンズは、MINOLTA STF 135mm/f2.8[T4.5]
(ミラーレス・マニアックス第17回、ハイコスパ第17回
特殊レンズ「アポダイゼーション・グランドスラム」記事等)

本シリーズでは紹介銀塩機でのフィルム撮影は行わずに、
デジタルの実写シミュレーター機で代替する。
今回は、SONY α7を使用する。
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以降はシミュレーターでの撮影写真と、本機α-9の機能紹介
写真を交えて記事を進める。
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さて、まずは最初に機種名だが、ミノルタ時代のαの場合は、
機種名にハイフンが入り、SONY時代では入らない。

本機はミノルタ製銀塩AF一眼レフα-9である。
SONY製フルサイズ・ミラーレス機α9では無いので念の為。

ところで、本シリーズ記事では、MINOLTAのAF一眼レフ、
つまり「α」は、初登場である。
私は各社の一眼レフは、だいたいその時代(数年~十年間)
を代表する機体を残しているケースが多いのだが、αに
ついてはちょっと時間が空いてしまった。

私は、この以前のαとしてはα-9000(1985年)を銀塩時代に
愛用していた。
この機種は、唯一の手巻きAF機という個性的な最上位機であり、
この一台があれば初期αとしては十分、という考え方であった。
しかし、2000年あたりから上部液晶パネルの劣化が酷くなり、
ついには使用が難しくなった為、やむなく廃棄してしまって
いたのだ。

その後の時代(1986~1997年)のαは、正直言うとあまり
興味が持てなかった、そのあたりは理由があるのだが、
そこは後述して行こう。
なので、いきなり時代がポンと飛んで、α-9の登場である。
c0032138_15175164.jpg
ミノルタの旗艦(フラッグシップ)機と呼べるものは、
1973年のMF一眼レフ「X-1」(本シリーズ第4回記事)以降、
長らく登場せず、MF機の旗艦は結局X-1で終わりとなる。
(試作機X-9/X-900? は発売されなかった。AF化開発を
優先したのであろう)

AF時代となり、α最上位機を9番機とするルールが確立され、
上記α-9000(1985年)が、最初のα旗艦機である。
確かに高性能ではあるが、まあちょっと雰囲気的には旗艦と
言うほどの迫力は無い。
続くは1992年のα-9xiが、αの二代目の旗艦機なのだが、
でも、このカメラも、なんとなく雰囲気が微妙だ(後述)

やはり本機α-9が、本来の旗艦機としての立場にふさわしい
カメラであろう。
c0032138_15183789.jpg
ではここで、MINOLTA 銀塩αの歴史を振り返ってみよう。
なお、機種が多いので代表的なカメラのみに絞る事とする。

<1985年>
MINOLTA α-7000 世界初の実用的AF一眼レフ
MINOLTA α-9000 高級機、唯一の手巻き式AF一眼(現在未所有)

この年は、いわゆる「αショック」である。
ミノルタが他社に先駆けて実用的AF一眼レフを発売した事は
社会現象ともなり、一眼レフの販売シェアも大きく伸ばした。

他社はいっせいに「αに追従しよう」とAF化戦略に転換したが
数年間はαの独壇場という雰囲気もあったと思う。

この間ミノルタは「AF化で大きくカメラが発達したのであれば、
さらに自動化を進めたら良い事であろう」という戦略を進める
事となる、まあ勿論、悪い発想では無い。

おしりもバブル期前夜のこの時代、世の中に少しづつであるが
「イケイケ・ドンドン」のムードが漂っていた。
この後、ミノルタは時代の波に翻弄される事となる・・

<1988年>
MINOLTA α-7700i
高級機。三点測距、動体予測、6分割測光、カードによる機能
追加システム等、引き続き他社を圧倒する高機能カメラだ。

前のαからはおよそ3年が過ぎてはいるが、逆に言えば、
α-7000等だけで、その間を持たせていた事になる。
他社のAF化追従も、もうこのころには、チラホラとAF機が
発売され始めていたのだが、まだまだ余裕を感じる。

時代はすでにバブル期に突入。ユーザーのニーズも、ともかく
「凄いもの」(高性能や高機能なカメラ)を欲していた時代
でもあった。

<1989年>
MINOLTA α-5700i 中級機、内蔵フラッシュを初搭載

この年、昭和天皇崩御、時代は平成に変わる。
また、消費税(3%)が導入された年でもあったが、消費の縮退
をバブル景気が上回ったように思える。この年の末には株価は
史上最高額(約4万円)を記録した。

<1990年>
MINOLTA α-8700i
高級機、1/8000秒シャッターを初搭載。
分割、中央重点、スポットからなる測光システム、
カードシステムも引き続き搭載。

加えて、αがソ連の宇宙ステーションで使われた事を記念した
MINOLTA α-8700 ミール仕様
が白塗装という珍しい外装で発売(マニア受けはしていた)

バブル経済もピークであり、まさしく「イケイケムード」だ。

<1991年>
MINOLTA α-7xi
高級機。極端に自動化を進めた「xiシリーズ」の初号機だ。
グリップを握り、ファインダーを覗いただけでAFがスタート、
自動ポップアップ型フラッシュ、そして極め付きは、
電動ズームが被写体の距離を検知し、自動的に半身構図に
なるように、ズーム画角を調整してくれる。

私は、この機種そのものは所有していなかったが、同様の自動
ズーム機能を備えるコンパクト機「ミノルタ APEX 90」を
所有していた。オートズームは極めて「おせっかい」と言える
機能であり、そのモードにおいては撮りたい画角にすらならない。
そのカメラを短期間で処分した事は言うまでもないが、勿論、
私のみならず、多くのユーザー層にも不評のカメラであった。
(ただし、それまでのビギナー層の人物撮影では「全身を入れる」
事が普通であったのが、「人物撮影は半身像が基本」という
概念を一般層に伝える意味では役に立ったかも知れない)
c0032138_15185646.jpg
<1992年>
MINOLTA α-9xi
最高級機、1/12000秒シャッター初搭載(世界記録)
不評であった xiシリーズだが、3xiや5xiなど、いくつかの
派生機でラインナップは構成されていた。
自動化が行き着くところまで行ってしまったのが、α-9xi
なのかも知れないが、まあ、バブル期の真っ最中に企画された
カメラであっただろうから、もう途中で止めるわけにもいかない。

同機の発売の1992年には、「バブル崩壊」が起こり、どうにも
ミノルタにとっては、タイミングが悪かった。

さらにここで大きな事件が起きる。
それは通称「ハネウェル訴訟」と呼ばれる特許侵害の訴訟の
判決が出たのである。

ここの詳細はあまり書きたく無い、なんだかドロドロとした
話だからだ。カメラファンが内容を知っても、あまり気分が
良いものでも無い。

で、結果から言うと、この年1992年に、ミノルタは敗訴、
(というか和解)し、ハネウェル社に当時のレートで、およそ
165億円を支払う事になった。

おまけに、「ハネウェル訴訟」で、ミノルタが負けた事は
当時の新聞やTVでも、勿論大きく報道されている。

一般市民は「特許訴訟」なるものに勿論あまり詳しくなく、
また海外(特に米国)等における「訴訟文化」の事も知らない。

報道だけ見れば、まるでミノルタが「人真似」をしたか「技術を
盗んできた悪者」のように思われてしまったかも知れない。
(それと、あまり知られていないが他の殆どの国内カメラメーカー
もハネウェル社にAF特許使用の賠償金を支払っている)

そうであれば不運な話である、技術開発などは、ある時期では
どこでも同じように進展するのだ。その権利を保証してくれるのは
「特許」と言う紙に書かれた、「請求項」というほんの短い文章
でしかない、そのわずかな文字列で、誰に権利がある技術であるか
が判断されてしまうのだ・・

それに、ハネウェル特許はあまりに基本的なもので、日本では
成立していなかったとも聞く(よって、この賠償金の金額は
米国での売り上げに係わる部分だけだ)
まあつまり、この特許訴訟は、国内メーカーが無防備なところに、
いきなり米国から不意打ちを食らったようなものだ。

---
さて、特許訴訟の件は、あまり気分の良い話でも無いので、
このあたりまでにしておこう。

この頃、世の中ではバブルが弾けて、「α-9xi」は、その
高性能を市場にアピールする事ができなかった。

で、結局のところ、「xiシリーズ」は実質的に失敗し、
ミノルタは商業的にも、ブランドイメージ的にも大きな
ダメージを受けた。
ミノルタにとっては、ふんだり蹴ったりの年である。

後年の「第一次中古カメラブーム」の際にも、マニア層は、
この時代のミノルタに何があったか詳しくは知らないまでも
「α-9xiを買うのはやめておけ」と、まるで腫れ物にでも
触るように、あるいは、「呪いのカメラ」でもあったかの
ように扱われていた。

もし、ほんの数年、タイミングが早かったならば・・
例えば、α-7000が市場で、あそこまで大きく注目されずに
ミノルタが早め早めに後継機の開発を進めていれば、α-9xi
は、もう2年ほど早く発売され、バブル景気に乗って大ヒット
したのかも知れないのだ。つくづくタイミングの悪い話だ。
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<1993年>
MINOLTA α-707si
高級機。行き過ぎた自動化を廃し、使いやすさ、すなわち
操作性をコンセプトとしたモデル。

この機種は所有していなかったので、あまり詳しい内容を
知らずに褒める事はできないが、ミノルタでは旧来から
革新的で記念碑的なモデルに「7番」の機種名を与える事
が通例であった。私は、概ねミノルタαの歴史を書く際に
α-7000(1985年),α-7(2000年)の2つだけを「7番機」の
代表的機種として取り上げ、その間のαは、ばっさりと省略する
事が多かったのだが、こうしてαの歴史を良く見ていくと、
α-7700i(1988),α-7xi(1991),α-707si(1993)も
それなりに頑張った、新コンセプトのカメラであったと思う。

それと、「α-xiシリーズ」が不評であった事から、そして
様々な「ふんだり蹴ったり」の状態から、立ち上がる回復が
極めて速かった事も、特筆すべきであろうか・・

まあ、カメラの開発は普通は数年かかってしまう、であれば
「xiシリーズ」は、発売前から、もう時代に合わない事は
予想できていたのかも知れない。けど、開発を止める事は
勿論出来ず、惰性で発売してしまったのだろう・・

ただ、この後、やはり新機種の開発は若干スローペースに
なっている。
1994年では、普及機α-303siのみの発売に留まっている。

<1995年>
1月、「阪神淡路大震災」
この痛ましい大災害は、まさしく大事件であったのだが。
この事が消費者心理に与えた影響も大きい。
カメラあるいは他の製品でも、この年の新発売を控えた例もある。

ミノルタは、この年、ひっそりと3機種を発売している。
MINOLTA α-507si 中級機(現在未所有)
MINOLTA α-303siスーパー 初級機α-303siの小改良版 
MINOLTA α-101si 低価格帯の普及機

この中で注目するのは「α-507si」であろう。
操作子毎に機能を固定した仕様は、初歩的だが「操作系」の
考え方を実現していた、ほぼ初めての機種。
ただ、ここもタイミングが悪い、大震災の直後であれば、
誰もが、気分的にも新しいカメラを買うとか、それどころでは
無かったように思う。

私は後年にそれを入手し、短期間だけ使っていた、なかなか良い
カメラだと思った。が、知人が「カメラが欲しい」とのことで
譲渡してしまっていた。

後年、1990年代後半の中古カメラブームや2000年代前半の
女子カメラブームの際には、「α-507si」は、不人気で
かなり安価な中古相場で取引されていた。2000年代に
なって女性の初級者が「カメラを始めたい」等と言った際には
「では、α-507siはどうですか? 安くて使い易いです」と、
勧めた事もあった。
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<1997年>
MINOLTA α-807si 高級機、α-707si(1993)の改良版

また少しだけ時代が飛んだ。
カメラ市場では中古ブームがスタート、つまりはこの時代の
新鋭AF機には、もうマニア層は注目していなかったのだ。
この機種を持って「siシリーズ」も終了。後から考えると
もっと評価されてもよかった機種もありそうな物だが、
「xiシリーズ」の失敗などの印象も強く、損をしている。
つくつくミノルタにとっては、タイミングが悪い時代で
あったのだろう。 

この時代における「足踏み」が、数年後にミノルタをさらに
歴史の荒波の中に送り出す事になっていく・・

それと、この時期、もう1つの大きな時代の流れが迫って
きていた。それは「コンパクト・デジタルカメラ」である。
既に1995年には、カシオより「QV-10」が発売されていて、
社会現象ともなり、他社もその流れに追従していく。

ミノルタにおいても、この年1997年に「Dimage V」を
一般向けに発売開始している。
(注:試作機的なMINOLTA RD-175は1995年に発売されている)

デジタルカメラのその後の進歩については、話を始めると
きりが無いので本記事では割愛するが、まあ、また機会が
あれば・・

<1998年>
MINOLTA α-Sweet 初級機
MINOLTA α-9 最上位機

歴史の話が極めて長くなったが、ここでやっと本機α-9の
時代に到達した。
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α-9は、これまで低迷していたαの印象をがらりと変える
機体であった、ただし、突出したスペックは持たず、
例えば、AFは最上位機らしくなく、僅かに3点測距でしか無い。

同時代の、例えばNIKON F5(本シリーズ第19回記事)の
5点測距+高速連写とか、CANON EOS-3(1998年、未所有)の
45点測距などの派手なスペックと比べると大きく見劣りする。

それに、当時のマニア層はもとより、一般カメラユーザー
ですらも、この頃はカメラの事をよく勉強していた。
何故ならば、この時代、中古カメラブームが起こった事で
多数の雑誌等が刊行され、ユーザー側に大量の情報が入って
いたからである。また、インターネットも旧来の「パソコン
通信」と置き換わるように、この時代から普及しつつあった。

マニアの間では、「αは買うな」といったような、暗黙の
合言葉があった模様であり(まあ前述のような歴史背景だ)
結局、α-9に至るまでの間に、影でαがどれだけ「操作系」や
「AF精度」等の、スペック的には目に見えにくい点で進化
していたかは、ぽっかりと見落とされていたかも知れない。

私も同様だ、α-9000を使ってはいたが、それ以降のαには
全く興味が持てなかった。α-9が出たと聞いても、25万円も
する高価なカメラが故に、「ふ~ん」と、自分とは関係ない
話だと思っていた。
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しかし1999年頃の、ある時、中古カメラ店で店主から
店「α-9が入ったよ、展示品だったので安くしておくよ」
と見せられ、それを触ってみて、まさしく仰天した。

匠「なんじゃこりゃ~!? 凄いカメラじゃあないか!!」
私は、即決でα-9を購入決定、銀行のATMコーナーに走った。
大枚16万円は、かなり痛かったが、まあやむを得ない、
もしこれを逃したら、次の機会はいつになるかわからない。
こういう即断は中古買いの鉄則だ。

現代のように、新品カメラは量販店の店頭や通販でいつでも
買えるから、お金が溜まった頃に買う、そして価格も段々と
落ちてくるので、買い頃になったら買う、といった訳には
中古買いでは行かないのだ。

α-9の何が凄かったか?と言えば、カタログの性能表には
全く記載されていない部分の全てが一級品であったのだ。

私も一応、新機種のスペックくらいはチェックしてあったので、
匠「3点測距?ふ~ん、少ないな。秒5.5コマの連写?ふ~ん、
  10年前のEOS-1HSと同じだね」くらいの調子でしか、
本機α-9の事を評価していなかったのだ。

それまで、カタログ上に現れない性能など、ある筈も無いと
思っていたが、それは大きな間違いであった。

これはある意味、大きなカルチャーショック、いや、もう少し
格好良い言葉を使えば「パラダイム・シフト」だ。
(=今まで当然の事だと考えていた価値観が劇的に変化する事)

何が凄かったのか?そのあたりの詳細は、後述していくとしよう。
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ここで、本機MINOLTA α-9の仕様について述べておこう。

オートフォーカス方式、35mm判フィルム使用AEカメラ
最高シャッター速度:1/12000秒(世界最速)
フラッシュ:内蔵、シンクロ速度1/300秒 X接点
ホットシュー:ペンタプリズム部に固定
ファインダー:固定式、スクリーン交換可能(MF用2タイプ)
       倍率0.73倍 視野率100%
使用可能レンズ:ミノルタαマウント
絞り込みプビュー:有り
AF測距点数:3点(中央は強力なクロスセンサー)
AFモード:ワンショット(S)、コンティニュアス(C)、
自動切換え(A)、マニュアル(M)
露出制御:PSAM方式
測光方式:14分割ハニカム、中央重点、スポット
露出補正:±2EV,1/3段ステップ
AEロック:可(自動スポット変更とメーター差分表示)
ファインダー内表示:フルスペック
視度補正:専用ダイヤルで可
露出ブラケット:可(コマ毎、連続)
ミラーアップ:可
ドライブ:単写、高速、低速、セルフタイマー10秒
連写速度:高速時 秒5.5コマ(AF追従秒4.5コマ)
     低速時 秒2コマ
多重露光:可
電源:リチウム電池 CR123A 2個使用
カスタムファンクション:有り
フィルム感度調整:手動ISO6~6400、DXコード対応
データバック:装着可
本体重量:945g(電池除く)
発売時定価:250,000円(税抜き)

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カタログスペックだけでは、この時代の標準的な一眼レフだ。
それでいて25万円は高すぎるように一見思えるが・・
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このあたりで、シミュレーター機をSONY α65(APS-C機)
に交換しよう。
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さて、ここで本機α-9の長所だが、

・・沢山ある、そしてこれらが殆ど数値(カタログ)スペック
からは読み取れないのだ。
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まずはファインダーが凄い。視野率100%とかの数値はどうでも
良く、実際にMFでも素晴らしくピントが合わせやすいのだ。

特に私のα-9は、サービスセンターのみで交換可能な
M2型(MⅡ型)スクリーンに換装してあり、これは若干暗く
なるので開放F2.8未満のレンズ推奨だが、これをつけると
まさしく最強、AF/デジタル一眼レフ中トップのMF性能で
ある事は疑いの余地もなく、より優秀であったMF時代の
一眼レフを含めても、CANON New F-1,PENTAX LXと並んで
ベスト3に入る。
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おまけにフラッシュを内蔵している。
従来、旗艦機にはフラッシュは内蔵されておらず、
「フラッシュを入れるとファインダー性能が低下する」
という話が市場での常識であった。


しかしこの常識が、ひっくり返ってしまう、
匠「なんだ、作ろうと思えば、フラッシュ内蔵でもちゃんと
  優れたファインダーを作れるのではないか・・」


うがった見方をすれば、別売フラッシュを買わせる為に、
あるいは旗艦機がそれ以上重くならない為の、メーカー側の
言い訳であったようにも思えてしまった。

匠「MF性能は完璧だな! さて・・AFは3点だったな」
と思い、手持ちの大口径のAFレンズをつけてみる。
左右の測距点ではピントが合い難い、しかし、設定を変更して
中央のみにすると、これが恐ろしく精度が高い!

「クロスセンサーだから」とか、そういう俄か仕込みの技術的
用語知識は意味が無い。これは恐らく判断アルゴリズムなどの
目には見えてこない部分で、細かい熟成が重ねられていたので
あろう。なにせ最初の実用AF機、α-7000を作ったのはミノルタ
であったのだ。(注:ハネウェルの基本AF特許に書かれている
技術では、原理的にピント合わせの精度が全く出ない模様だ。
ミノルタはここを解決し、初めて実用的なAF一眼レフを作った)
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私は、ミノルタα機をこれまで敬遠してきた事を後悔した。
いったい、どの機種で、どう進化したのかは良くわからないが、
これは他社機のAF精度より、ずっとマシでは無いか・・と。

それと、おそろしくタフである、雨天での撮影とかもあったし
落下させてしまった事もあったが(汗)ビクともしなかった。

後年、私は姉妹機α-7の方を主に愛用する事になるのだが、
その際「α-9も持っているのでしょう? 何処が違うのか?」
という質問を知人等から受ける事もあった。その時の答えだが、
匠「α-9は頑丈なα-7だよ、厳しい環境で使っても問題なし!」
と良く言っていた。

他には操作性、操作系に対する配慮も凄い、もっとも、この点に
ついては後年のα-7には一歩譲ってしまうが、まあそのあたりの
話は、また後日、α-7の記事で紹介しよう。

それに、MFとAFがしっかりしているのであれば、他の性能等は
基本的には実用上あまり関係無い。αは元々、絞り制御等は
ダイヤル操作子であったし、この時代ではそれがスタンダード
である、今更「絞り環がついてなくちゃ嫌だ」等と言っても
意味が無い。
この時代に考慮するべきは、そうした単純な「操作性」の話
ではなく、多機能化したAF一眼レフを、どのように合理的に
操作すべきか、という「操作系」の考え方が、はるかに重要に
なってきているのだ。

しかし、市場やユーザー層のほとんどは、まだ、この時代では
その事に気がついていない、だから、α-9は評価されにくい。
雑誌等のレビューでさえも、恐らくは「3点測距は不満」等と
カタログスペックを見ただけで記事を書いていた事であろう・・
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他の特徴としては、さすがに旗艦機だけあって、感触性能
全般が高い。また、高級感もあり、所有満足度も高いであろう。

連写時のミラー消失時間は短く、秒5.5コマというスペックが
より高速に感じられる。まるで後年のデジタル高速連写機の
NIKON D2H(2003年、デジタル一眼第1回記事)や
NIKON D500(2016年、デジタル一眼第20回)と同様に
「連写中のMFによるピント合わせ」の離れワザも、
本機α-9でも出来てしまう(フィルム代がかかるが・・汗)
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特徴をもう1つだけ、これは本機α-9の長所とは言えないが、
ミノルタのAFレンズは、個性的かつ描写力に優れるものが
多い、というメリットがある。

特に今回の記事で使用しているSTF135/2.8は、ちょうど
本機と同じ1998年に発売された屈指の銘レンズである。
まあ過去の様々な記事でも紹介しているので説明は不要であろう。
ミラーレス・マニアックスでは、名玉編第6位相当にノミネート
されていたが、特徴が被るレンズがあり、あえてランクインは
見送った。だが、トップクラスの名玉である事は確かだ。

他にもいくらでも、ミノルタの名レンズがあるが、そのあたり
は過去のレンズ関係記事で多数紹介して来たので割愛する。
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さて、本機α-9の弱点であるが、

まずは重い事だ、945gもある。
後年、限定販売でα-9Tiというチタン外装派生機が発売された。
それは百数十gも軽くなっていて、かなり欲しかったので
あるが、中古でも30万円弱という高額なカメラで、とても
買えるものでは無かった。

ただ、これでもNIKON F5よりだいぶマシだ。
電池が一般的なCR123Aである事も幸いしていて、
F5に乾電池8本を入れて約1400gという状況よりも体感的には
半分程度の重さに感じる(実際には、およそ400g差だ)

それと、値段が高い事だ。
だがこの点についても、NIKON F5よりも、かなり安価であり、
EOS-1NやCONTAX AXとほぼ同等の25万円だ。
びっくりする程高いという訳では無い、高く感じたのは
展示品を新古品扱いで16万円で買ってしまったからであり、
もう少し時代が下がって中古で買えば、より安価に購入できた
事であろう。

その他、気になる弱点は特に無い、繰り返すが、カタログ
スペック等は、もうどうでも良い、本機α-9の場合は、もう
そうした数値性能比較とは次元が異なる領域になっている。

まあ、極めて優秀なカメラであると思う。
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さて、最後に本機α-9の総合評価をしてみよう。
評価項目は10項目だ(項目の意味は本シリーズ第1回記事参照)

-----
MINOLTA α-9(1998年) 

【基本・付加性能】★★★★
【操作性・操作系】★★★★
【ファインダー 】★★★★★
【感触性能全般 】★★★☆
【質感・高級感 】★★★★
【マニアック度 】★★★★
【エンジョイ度 】★★★★
【購入時コスパ 】★ (新古購入価格:160,000円)
【完成度(当時)】★★★★☆
【歴史的価値  】★★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.7点

かなりの好評価点だ。

劣っていたのはコスパの項目だけであり、他はすべて平均以上。
そして「ファインダー満点」が、やはり突出している。

弱点は重たい事くらいであり、それを差し引いても
「エンジョイ度」が高い、これは、AFでもMFでも、どちらでも
極めて快適に撮影できる本機の最大の長所があるからだ。

現代においても、若干中古相場が高価な本機ではあるが、
まあフィルムを入れて使うAF一眼が欲しい、というニーズが
あるとすれば、旗艦級クラスにおいては、NIKON F4と肩を
並べて最大のおすすめ機種かも知れない。

ちなみに、F4のAF性能は本機とは比較にならないほど低いが
その分、MF機として使う上での基本性能に優れる。
本機α-9であれば、MFとAFの両方でトップクラスの性能を
持つのでお買い得か(?)まあ、使用するレンズ(マウント)
によりけりだと思うが・・

あえてライバルを上げるとすれば、むしろ姉妹機である
MINOLTA α-7であろう、その機種はまだ本機よりも後の
時代なので、いずれ続く記事で紹介する。

さて、ここまでで第三世代(AFの時代)の銀塩一眼レフの
話は終わりである、次回記事からは、第四世代(趣味の時代)
の銀塩一眼レフ(および関連カメラ)を紹介する。

【玄人専科】匠の写真用語辞典(15)~撮影技法・特殊技法 Part 3

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一般的なカメラユーザー層には普及していない「特殊用語」や
「本ブログ独自の用語や概念」を解説するシリーズ記事。
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今回は前記事に引き続き「ノウハウ編」でのサブカテゴリーの
「撮影技法・特殊技法」の「Part3」とする。

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<撮影技法・特殊技法>Part 3

★擬似夜景
 独自用語。

 用語の説明の前にまず、シャッターの機構についてだが、
 デジタル一眼レフやミラーレス機では、メカニカル(機械式)
 フォーカルプレーン・シャッターあるいは電子シャッターを
 使用している。(注:ここで言う「電子シャッター」とは
 銀塩時代のAE機での「電子(制御式)シャッター」では無い。
 ここは混乱しやすいので、近年では「撮像素子シャッター」
 という用語も使われている模様だ)

 しかし、(デジタル)コンパクト機の多くはレンズシャッター
 方式だ。
c0032138_07512138.jpg
 ここでこれらの方式の個々の内容や得失を示していると
 際限なく記事文字数が増えるので割愛するが・・
 ここでは、1つの特徴にのみ注目してみよう。
 それは「レンズシャッター方式では全速同調が可能」という
 点である。

 全速同調とは何か?と言えば、一眼レフ等のシャッター機構で
 内蔵フラッシュの使用の場合には「シンクロ速度」という概念
(仕様制限)があり、これは、いくら1/4000や1/8000秒という
 速い最高シャッター速度を持つ機種であっても、フラッシュを 
 使った場合でのシャッター速度は「1/125秒~1/250秒程度に
 制限されてしまう」という弱点がある事だ。

 これに対し、一眼レフ用の外付けフラッシュやコンパクト機の
 レンズシャッターではフラッシュ使用時「どのシャッター速度
 でも自由に使える」という意味である。

 一眼レフの場合、これ(外付けフラッシュによる全速同調)は
 日中、大口径レンズを使ったポートレート撮影の際などで、
 若干の逆光条件を弱めのフラッシュを焚いて消す、という
 高い実用性を持つ。大口径レンズでの絞り開放近くでの日中
 撮影は数千分の1秒の高速シャッター速度が必要となる為、
 内蔵フラッシュのシンクロ速度では、お話にならないのだ。
 外付けフラッシュを使ったこの技法は「日中シンクロ」や
「高速シンクロ」と呼ばれる場合がある。

 さて、コンパクト機での「全速同調」は、一眼レフのような
 大口径レンズが搭載されているケースは稀であり、あったと
 しても、背景を大きくボカす撮影スタイル等は、コンパクト機
 ではなく一眼レフを持ち出すだろうから、あまり一般的では無い。
(注:大口径レンズと大型センサーを搭載する高級コンパクト機
 も増えてはいるが、ピント精度やボケ量確認等の面で、一眼
 レフやミラーレス機を用いた方が撮影技法的に合理的である)

 では、コンパクト機での「全速同調」をどう使うのが効果的か?

 これを考えた独自技法が「擬似夜景」である。
 これを実現するには、M(マニュアル)露出モードがついている
 高級(デジタル)コンパクト機が必須だ。
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 今回は、FUJIFIM XQ1(2013年)を使用してみよう。
 高級コンパクトでは無いが、高性能な隠れた名機だ。

 まずISO感度を手動で固定する。XQ1ではコントロールリング
 にISO感度設定をアサインできるので、そうしておくと便利だ。
 次いでM露出モードに設定する、XQ1は1ダイヤル機なので、
 M露出は、絞り値とシャッター速度変更を背面十字キーで
 切り替える必要があるが、これはまあ、多くのコンパクト機
 で同様な操作系であり、手間だがやむをえない。

 ここでの露出値は、露出計に依存せず、超アンダー露出とする。
 この暗さが「擬似夜景」となる。

 なお、XQ1は、最高シャッター速度が1/3000秒と速いので、
 主にシャッター速度側で露出を微調整すると良いであろう。
 
 さらにフラッシュをポップアップする。XQ1のフラッシュの
 ガイドナンバー数値仕様は非公開であるが、概ねGN3~4程度と
 貧弱であろう、でもそこは問題にならない。
 
 そして近接被写体を見つける。そこにのみ弱いフラッシュが
 到達し、背景(暗い状態)にはフラッシュが届かないように
 すれば「擬似夜景」の完成だ。
c0032138_07512153.jpg
 フラッシュの到達距離は、GN値÷絞り値x√(ISO感度/100)
 で求まる。例えばGN値が4だったと仮定し、絞りをF2に
 設定すれば、ISO100の際のフラッシュ到達距離は2mだ。

 絞りを開けるかISOを高めると到達距離は伸びるが、XQ1の
 場合は広角で開放F1.8と明るいが、望遠側で開放F4.9と
 激減する、よって、絞り値でのフラッシュ制御は構図の
 自由度と絡めてコントロールしずらい為、絞り値はF5.6等に
 固定しておき、ISO感度側で到達距離を調節すると良い。
(この為、コントロールリングにISO感度をアサインしておく)

 ISO感度は2倍に高めても√2倍しか到達距離は伸びない、
 これは面(2次元)でフラッシュ光が広がるからだ。
 例えば2倍の到達距離(例:2m→4m)にしたい場合は、ISOを
 4倍高める。ここで、絞りをF5.6とした場合は、ISO感度を
 4000程度まで高める必要があるが、XQ1の最大感度(12800)
 に留意しながら撮影距離をコントロールすると良い。

 なお、ISO感度をあまり高めると、背景の露出まで明るく
 なって擬似夜景に見えない場合が出てくるので、さらに
 シャッター速度で調整して適正な明るさ(暗さ)とする。
 また、フラッシュの「調光補正」機能がある高機能なカメラ
 では、それを活用するのも効率的である。
 
「擬似夜景」は結構高度な技法であるが、絞り、シャッター速度、
 ISO感度、フラッシュGNの、4つの相互関係を理解するのに
 役に立つと思う。初級層では理解が困難だろうが、中級者級の
 練習にはおすすめの特殊技法だ。

 なお、コンパクト機に限らず、シャッター速度等の条件を
 整えれば、一眼レフやミラーレス機でもこの技法は可能だ。
(下写真は、フラッシュ内蔵のミラーレス機SONY NEX-7と
 マクロレンズを使用した擬似夜景)
c0032138_07513227.jpg
★夜景手持ち撮影
 一般用語。

 夜景での手持ち撮影は、ISO感度を高めてもシャッター速度の
 低下により手ブレを誘発する為、三脚を使うか、どこかに
 カメラを置いて撮るのが普通だ。だが三脚はハンドリングが
 面倒であり、カメラを置くのは構図・アングルの自由度が減る。

 そこで手持ち夜景撮影が可能となると嬉しいが、まずは
 2010年代後半からの超高感度機(例:ISO感度が20万~
 320万もある)であれば、たいていの場合手持ち夜景撮影は
 可能となる。
c0032138_07513222.jpg
 しかし、さしもの超高感度機であっても、あまりにISO感度を
 高めると画質劣化やノイズが酷い(PENTAX KP=ISO80万、
 NIKON D500=ISO160万で確認済み。超高感度域は、まだ実用性
 が低く、カタログスペック優先という印象だ)

 それと、超高感度域が必要な暗さでは、AFが合わなかったり、
 一眼の光学ファインダーでは暗くてMFも出来なかったりする。
(注:一眼レフでは、ライブビューモードが必須となる。
 D500等の、AF性能に優れる機体をライブビューで使うのは
 システム性において効率的では無いが、この場合はやむを得ない。
 つまり、どうせAFでもピントは合い難いからだ。で、ニコン機
 では、この状態での画面拡大操作系が劣悪なので、PENTAX KP
 等の他社高感度機の方が、むしろ適しているであろう。
 ただ、ライブビューでもゲインが不足して暗くなったり、
 そもそも完全暗所では露出計自体の動作が怪しくなる。
 まあ、いずれにしても中上級者向けの困難な撮影状況だ)

 そこで近年の一部のカメラでは、「手持ち夜景モード」が搭載
 されている(例:OLYMPUSミラーレス機)、これは「連写合成」
 機能の一種であり、数枚の連続撮影写真を合成する事でブレを
 防ぐとともにノイズを低減する事が可能だ(注:こうした名称
 がついてても、一部のカメラでは単にISO感度を高めるだけの
 場合もある)これならばビギナー層でも使える機能であろう。

 夜景は、エフェクト(例:擬似HDR系)を組み合わせても
 面白そうなのだが、残念ながら手持ち夜景モードとエフェクトの
 両者を組み合わせる事が出来るカメラは希少(または皆無?)
 だと思う。

★踊り撮り
 独自用語。

 夜景、特にライトアップや花火の撮影ではスローシャッター
 撮影が必須となる、まあ、夜景・ライトアップ等は静止被写体
 であるから上記「手持ち夜景(連写合成)モード」や、超高感度
 で対応可能であるが、花火等の動体は長時間の光の軌跡が必要と
 なる為、一般的には三脚を使わない限りは撮影出来ない。

 しかし、現代の花火系イベントは「一極集中化現象」により
 大変混雑する。混雑での死亡事故や爆発事故もあった事から
 警備や保安にも手間やお金がかかり、花火イベントの数が
 減っている事もまた、一極集中化の悪循環に繋がっている。

 で、人ごみの中で三脚を立てていたら周囲に非常に迷惑であるし、
 あるいは醜い「場所取り合戦」が繰り広げられ、マナーの低下が
 社会問題にもなって、ニュース等でも多数報道されている。

 よって、近年のWEBや雑誌等での花火撮影ノウハウ記事等では
「三脚を使う場合はマナーに注意するように」と強く喚起して
 いるのだが、なかなかそういう記事を読んだり、風潮(世情)
 を理解している人は少ない。まあ、そういう点には無頓着な
 人達が平気で三脚を立てて場所を占有する等のマナーの悪さを
 引き起こしてしまう訳だ。これは困った話である。
(逆に言えば、マナーやモラルに無頓着だからビギナーなのだ)

 で、本題の「踊り撮り」だが、三脚(や、ジンバル等)を
 使わない花火撮影技法である。
 これは、長時間の露光間(撮影中)に様々なアクション(動作)
 を起こす事で、通常の三脚等使用での花火撮影では得られない
 効果を得る事である。

 旧来の三脚技法においても「露光間ピントずらし」および
「露光間ズーミング」と呼ばれる特殊技法が存在していた。
 これらは、”読んで字の如し”なので説明は省略する。
c0032138_07513267.jpg
「踊り撮り」は、手持ちのカメラを露光間に様々な方向に
 振りながら撮影する技法だ。これにより、本来直線や曲線と
 なる光の軌跡がカメラ(レンズ)を振る事で様々に変化して
 非常に面白い。熟練すれば、なんらかの形状を描く事も可能
 ではあるが、花火は静止光源では無いので、文字や意味のある
 図形等を描くのは、まあ不可能であろう。

 これには表現力の増強のみならず、必ず手ブレしてしまう
 事への対策という意味も含まれている。(意図的に揺らせば
 手ブレしている事はわからない)
c0032138_07513197.jpg
 なお、「踊り撮り」は単純な動作であるので、まだ操作的には
 余裕がある、前述の露光間でのピントずらしやズーミングを
 組み合わせても、さらに面白い効果が得られる事であろう。

 ちなみに、何故「露光間」の様々な技法が存在するか?と
 言えば、これは勿論「表現力の増強」を狙っての事なのだが、
 もう1つ、花火撮影はB(バルブ)で、シャッターを押して、
 また離す、という動作の繰り返しである。このタイミングは
 極めて重要だが、何度も花火撮影を繰り返すと、タイミングも
 わかってくる、そうなると、技法(テクニカル)的には、
 花火の撮影は「極めて退屈」なのだ。三脚で固定して設定も
 変えないカメラをシャッター(またはレリーズやリモコン)
 のON/OFF操作をしているだけなので、技法的な側面からは、
 何の工夫も楽しみも無い訳だ。

 初級層で花火撮影経験が少ない人ならまだしも、中上級者層は
 花火の撮影は何度もある。退屈な撮影で、しかも正しい設定を
 行えば、誰が撮っても殆ど同じように花火が綺麗に撮れてしまう。

 これでは「差別化」にもならない。そこで、様々な「露光間」の
 技法等を併用する事で、テクニカル面での不満点を解消したり
 個性的な花火撮影が出来る事で「差別化」や「表現」を得ようと
 する訳である。
c0032138_07514895.jpg
 本ブログでは開設当初から「三脚非推奨」であったので、
 私は花火撮影は業務撮影(イベントの記録撮影)の場合以外の
「趣味撮影」では三脚を使用しない事が多かった。
 花火などは三脚を立てれば誰にでも撮れる被写体だ、殆ど練習
 にもならないし、花火イベントでの撮影マナー向上の為にも、
 手持ちスタイルでの花火撮影は初級中級層には推奨である。

 なお、花火等とは別の分野においてライブ撮影やイメージビデオ
 等でも、動画撮影中にビデオカメラを左右に振る「踊り撮り」が
 近年において流行している。これも表現力の増強ではあろうが、
 場合により、手持ち花火撮影と同様「手ブレの問題を解消する」
 為の技法であるかも知れない。なお、ごく近年では、小型の
 安定装置(ジンバル、スタビライザー)が動画撮影用途に
 普及してきているので、動画の「踊り撮り」は、今後はむしろ
 減っていく可能性も高い。

★間欠連写
 やや一般的な独自用語。

 2010年代前半頃までの「高速連写カメラ」は、カメラ内部の
 バッファメモリー容量が小さく、かつメモリーカードへの
 書き込み時間もかかる為、せっかくの高速連写が、ものの
 数秒で速度低下して(または止まって)しまう事が良くある。
c0032138_07514885.jpg
 2010年代後半以降は、100枚以上の連続連写機能を持つカメラ
(一眼、ミラーレス)も増えてはいるが、まだ数は少ない。
 そこで、これらの連続撮影枚数が十分では無い高速連写機を
 使う場合には「間欠連写」が基本である。
c0032138_07514805.jpg
 これは、ずっとシャッター(レリーズボタン)を押し続けず、
 適当にシャッターボタンから指を離し、間欠的に連写する
 という単純な技法だ。
 シンプルだが、メリットは大きい。

 ・連写枚数の制限をある程度緩和できる。
 (休んでいる間に、バッファからのカードへの書き込みが
  ある程度進み、連続高速連写が復活する)

 ・露出値を再調整できる。
 (長時間の高速連写は、その間、被写体の位置も大きく変化
  する場合がある、屋外では被写体に当たる光も変化する
  場合があるので連写中に露出が合わなくなる、これを
  間欠連写することで、AE(自動露出)を適宜リセットする。
  なお、ごく稀に、連写中にもAE追従できる高性能な機体も
  存在するが、殆どのカメラはAE追従は出来ない)

 ・AF精度を再調整できる。
 (優秀な「動体予測コンテニュアスAF」機能を使ったとしても、
  動きの速い被写体には追従できない場合もあるし、いくら
  AF測距点の多いカメラでも、動体では測距点を外してしまう
  場合もある。こういった際、連写を休んでいる間にAFを
  中央測距点等に再度合焦しなおし、ピントが合った状態で
  連写を再開する)

 ・むやみに連写枚数を多くしない
 (近年の秒10コマ以上の連写機能を使うと、ワンシーン10秒間で
  100コマもの撮影になる、スポーツの各レース等で、20~50
  シーンも繰り返すと、撮影枚数は計2000~5000枚ともなる。
  これではさすがに撮り過ぎであり、後の編集が大変であるし、
  多くのカメラのバッテリーも、そこまでの枚数は持たない。
  あまりダラダラと連写せず、肝心な部分だけを連写で押さえる
  という意味もある)

 という事で、「間欠連写」技法は必須である。

★連写合成機能
 一般用語。

 連続撮影した複数の写真を画像処理的に合成し、特定の用途や
 目的に役立てる機能の総称。

 具体的な目的には以下がある
 1)輝度差を減らすまたは調整する(HDR合成等)
 2)ノイズを減らす(マルチショットNR等)
 3)連写ブレ防止(手持ち夜景等)
 4)解像度(画素数)を上げる(リアルレゾリューション等)
 5)ローパスフィルターと同様な効果を得る(ローパスセレクター等)
 6)被写界深度の調整(フォーカスブラケットと深度合成等)
 7)被写界深度(ボケ量)の調整(ぼかしコントロール等)
 8)パノラマ合成(スウィングパノラマ等)
 9)Dレンジ系エフェクトへの応用(リッチトーンモノクロ等)
10)合焦速度・精度の向上(空間認識AF等)

 ・・といった機能がすでに実現、一部のカメラに搭載されているが、
 この連写の応用は、これら以外にも想定できる(例:動体の連続
 記録や動感の再現、被写体切り出し合成、写真の3D化、ボケ質の
 向上(擬似アポダイゼーション)等)
c0032138_07514721.jpg
(上写真は、コンパクト機 FUJI XQ1による連写背景ボカし)
 
 従来は「デジタルカメラ」といっても、ただ単に旧来の銀塩写真を
 デジタル記録化しただけの様相があったが、ここのところ上記の
 ような「デジタルで無いと有りえない」機能が増えてきているのは
 カメラがやっと本来の意味で「デジタル時代」に突入してきている
 と言う事で好ましい状況だ。
 これら以外にも、ライトフィールド等のまったく新しい映像記録
 概念が出てきており、そのあたりの発展も期待したいところだ。

 課題はむしろユーザー側にあり、これらのデジタル的新機能を
 ユーザー側が理解し、使いこなせるかどうか?という点だろう・・
(注:ライトフィールド技術も、ユーザーから全く理解されずに
 残念ながら、現在では市場から撤退してしまっている)

★外部(単体)露出計、色温度計、(超音波)距離計
 一般用語。

 これらは、カメラ以外の外部装置(計測機)として、稀に必要な
 場合があり、銀塩時代から業務撮影分野では一般的であった。
 ただ、1点注意点であるが、これらは「写真用途専用品」で
 あると、若干高価であり、アマチュアレベルでの使用は価格的
 や使用頻度的にはあまり適さない。

 具体例を挙げれば、外部露出計は写真用途品の場合は、F値、
 シャッター速度、ISO感度等の計測が一目瞭然で便利ではある。
c0032138_07520672.jpg
 上写真の「スタジオデラックスⅡ」は、外部(入射式)露出計の
 定番中の定番の超ロングセラー商品だが、若干高価なのが課題だ。
 ただ、この機器で計測しているのは、その場の照度「フート・
 キャンドル値」のみであり、これは照度単位の「ルクス」や
 カメラの露出単位の「EV」値に、特定の計算式で変換可能だ。

 だから変換式を知ってさえ言えば、安価な「工業用照度計」
(数千円位からある)を使っても、写真の露出(入射)は計れる。
 しかしこの計算は暗算では難しいので、実用的には写真専用の 
(入射)露出計を使わざるを得ない訳だ。

 まあでも、一般用途ではカメラ内蔵の反射露出計+露出補正操作
 で十分である。
c0032138_07520626.jpg
「色温度計」については、ちょっと用途は少ないであろう。
 銀塩時代では、フィルムによる対応色温度(≒ホワイトバランス)
 は固定であったので、それを現場の照明状況に合わせて、カラー
 補正フィルター等で調整する為、このような機器が必要なケースも
 あったが、デジタル時代の現代ではホワイトバランスのマニュアル
 調整で事足りてしまう場合が多く、現行の色温度計の製品は少なく、
 あったとしても精密計測や多機能化で高価な機器となっている。

 まあ、あまり現代の写真撮影には、必要としない機材であろう。
(私は近年では、LED照明等の色温度計測に使った場合があるが、
 写真用色温度計の受光部は大きく、小型のLEDは、測る角度で
 色温度が変わってしまう模様で、少々難しい)

「距離計」は、カメラにおいては、もっと用途が少ない。
 銀塩時代のクラッシック・コンパクト機(例:ローライ35)では
 距離計を搭載しておらず、目測でMFを設定する必要のあるカメラ
 もいくつか存在していた。それらの機体をマニアックに使う為に、
 銀塩時代に、工業用(超音波)距離計を数千円で購入して使用
 していた、それで被写体までの距離を測り、MFを設定するのだ。

 だが現代、銀塩機で撮る事も、もう無くなり、その距離計は
 どこかにしまいこんで見つからなくなった(初期の本ブログで
 紹介していたと思う)
 現代では、工業用超音波距離計は安価で2000~3000円からある、
 さらには、工業用レーザー距離計ですらも4000~5000円程度
 から買えるので、業務用途ではなく、趣味の範囲でも買えない
 訳では無いのだが、いかんせん用途は少ないであろう。、
 写真撮影に用いるならば、他の距離指標のあるAF機を持ち出せば
 被写体までの距離は簡便に測れるのだ。

 余談だが、銀塩末期の2000年頃、カメラマニアの集まりに私は
 超音波距離計を持ち出し、それで距離を測ってローライ35で
 写真を撮っていた。周囲のマニアが「それは何の機械ですか?」
 と聞いてきたので、私は茶目っ気を出し
「この機械で美女のスリーサイズを測れるのです」
 とウソを言うと、周囲の男性マニア達が目の色を変えて殺到、
「どこで売っているのだ? いくらだったら売ってくれるのか?」
 など、大変な事になった(汗)

 まあ、超音波距離計でも使い方を工夫すればスリーサイズが
 測れない訳では無いのだが、できれば巻尺で測りたい(笑)

 なお、近年では、超音波やレーザー距離計に変わり、
「TOFセンサー」という物が発達してきている。まだ発展途上だが、
 これは多数の距離を同時に計測できるものなので、遠い将来
 にはカメラにも搭載されて、AFの補助になるかも知れない。

★手動ズーム
 一般用語。
 
 対義語としては「電動ズーム」だ。電動ズーム(またはパワー
 ズーム等とも言う)は、銀塩時代からコンパクト機や一部の
 一眼レフ用ズームレンズで採用されていて、近年においては、
 ほぼ全てのデジタルコンパクト機や、一眼やミラーレス機の
 初級ズームレンズの一部に使用されている。
 
 ただ、写真撮影的に言うと「電動ズーム」は、ズーミングの
 精度(細かい調整が困難)が課題であったり、ズーミング速度的
 な面(遅い)で使いにくく、一眼レフ用の高性能ズームレンズは、
 ほぼ全てが「手動ズーム」仕様となっている。

 ここはまあ良いのだが、問題は近年のロングズーム・コンパクト
 機(=広角端24mm前後から望遠端700mm前後のズーム比が大きい
 レンズ固定型コンパクト機)の手動ズーム機構が、ほぼ完全に
 廃止されてしまった事だ。
 最後の製品は、私が把握している限り、FUJIFILM X-S1(2011)
 である、フルサイズ換算24~624mmの手動ズーム機だ。
c0032138_07520737.jpg
 この機体以降、他社も含め全て電動ズーム機になってしまい、
 やむなくこの機体を業務用途(ボート競技、遠距離イベント等)
 に使っているが、そろそろ耐用年数や仕様老朽化寿命が厳しい。
 だが、手動ズームの後継機が無いので、古い機体だが、やむなく
 使い続けている状態だ。

 電動ズーム機の中にも、機能リングにズームをアサインできる
 機種もPanasonic機等で存在するのだが、無限回転式リングでは
 手指の感触でズーミングを行いにくい(例:瞬時に最大望遠に
 する為、有限回転式手動ズームを、いっぱいにまで廻す等の
 撮影技法が存在する。またズーミング焦点距離を保持しながら
 カメラの電源ON/OFFが任意だ、電動ズーム機では、電源OFF時に
 収納位置まで戻ってしまい、再度の電源ONで所望する焦点距離に
 なっていない→これは自動復帰機能を用いても遅くてNGだ)
   
 手動ズームは、存外に製造コストがかかる模様で、コストダウン
 からの各社の電動ズーム化の措置だとは思うのだが、使い難い
 事は確かであり、困った傾向だ。

 X-S1以降、手動ズーム搭載のロングズーム機が復活する事を
 待ち望んでいるのだが、それがなかなか出て来ない。
 なお、手動→電動化は、「技術の進歩である」とは言えない、
 もしそれが正しいならば一眼レフ用のズームも全て電動化されて
 しまう訳だ、そうならないのは、手動のメリットが大きいからだ。

 結局あくまで製品仕様の企画設計上のコンセプトで電動ズームを
 採用しているに過ぎない、手動化でコストがかかり、価格が高く
 なるのであれば、購入者側がそれを容認すれば良いだけの話だ、
 ロングズーム機での手動ズーム復活を熱望する次第である。

★手持ち限界望遠焦点距離
 独自概念。

 例えば前述の現代のロングズームコンパクト機で光学ズームと
 デジタルズーム等を併用すると、簡単に2000mm級以上の換算
 焦点距離が得られる。デジタル一眼レフでは、デジタル拡大
 機能は殆ど搭載されていないので換算1000mm級以上の画角を
 得る事は容易では無い為、近年での野鳥撮影分野や、フィールド
(自然観察)分野では、大きく重く高価なデジタル一眼システム
 を使わず、このようなロングズーム機を主力またはサブ機と
 して併用するケースを良く見る(特に、自然観察員等の業務
 撮影分野では、ほぼ100%、ロングズーム機を使用している。
 今時、一眼レフと600mm望遠等で趣味的に野鳥を撮っている
 のは、シニア層を中心としたアマチュアのみだ。が、機材が
 重すぎて三脚必須で、鳥も追えない→効率的な撮影が出来ない
 のみならず、殆ど写真も撮らず、機材談義をしているだけだ)

 同様にミラーレス機でも、デジタルズームやデジタルテレコン
 機能を容易に使える、例えば、μ4/3機に400mmレンズを
 装着し、デジタル拡大で8倍を加えれば、それで6400mm相当の
 超々望遠画角が得られてしまうのだ(下写真は6400mmで
 手持ち撮影、手ブレ補正機能は無し)
c0032138_07520606.jpg
 デジタル拡大機能を使った際の画質劣化はさておき、そもそも
 こうした超々望遠画角では手持ち撮影が壊滅的に困難である。

 勿論手振れ補正機能をONし、手動焦点距離設定も調整し、
 さらには、その換算焦点距離に相応する高速シャッター
(例:2000mm相当であれば、1/2000秒以上)
 を得る為に、日中であってもISO感度を適宜高めるのだが、
 そういう措置をしても、超々望遠画角ではブレが止まらない。
 ほんの僅かなカメラの角度のブレが、遠距離の被写体を撮る
 角度の大きなズレに繋がるからだ。そして、この超々望遠の
 焦点距離領域では手ブレ補正機能も、まともに動作しない。

 以下、超々望遠焦点距離と実際に被写体が写る角度(対角線画角)
 を対応させてみよう(注:35mm判フルサイズ換算)
 1000mm→約2.4度
 2000mm→約1.2度
 3000mm→約0.8度
 4000mm→約0.6度
 5000mm→約0.5度
 6000mm→約0.4度
 ・・となり、これは非常に狭い角度しか写らないという事だ。
 
 この超々望遠域でどこまで手持ち撮影が可能か?は手ブレ補正の
 有無などにはあまり関係が無く、殆ど撮影者のスキル(技能)で
 決まってくる。そしてこうした超々望遠域では常に被写体は大きく
 揺れてファインダー等に写っている、だからフレーミンングすらも
 ままならない訳だ。たまたまフレーミングが合って撮れる場合も
 あるだろうが、あくまでそれは「偶然」だ。

 よって「手持ち限界の最大望遠焦点距離」は一概には決まらない、
 ただ、これは興味深い実験だと思うので、各自「どこまで焦点
 距離を伸ばしたら、手持ち撮影の限界を超えるのか?」は
 やってみると面白いであろう。

 ちなみに、私が何度もこれを実験した結果では、私の場合の
「手持ち限界望遠焦点距離」は、およそ1500~1600mmとなった。
 これを超えると、もう偶然でしか撮れない。

 で、もう1つ超々望遠撮影には難しい要素があって、概ね1000mm
 の焦点距離を越えると(=撮影対角線画角が、2度程度となると)
 カメラを(遠くの)被写体に向けても、まずそこに求める被写体
 は存在しない、手持ちでは、2度以下という狭い角度に、正確に
 カメラを向ける事が出来ないからだ。

 ただ、ここもスキルにより限界値を上げる事は可能だと思う。
 ゴルゴ13ばりに、正確にターゲットを視野に捉える訓練を積めば
 1000~1500mmの超々望遠域での手持ち撮影は、無理な話では無い。
c0032138_07521588.jpg
さて、今回の「撮影技法・特殊技法Part 3」は、このあたりまでで、
次回は、「ルール・法則編」の用語解説を行う。

ハイ・コスパレンズBEST40 (5) 32位~29位

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高いコストパフォーマンスと付随性能を持った優秀な
レンズを、主にコスパ面からランキング形式で紹介する
シリーズ記事。

今回もまた、BEST40にランクインしたレンズを下位から
順に紹介して行こう。

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第32位
評価得点 3.55 (内、コスパ点 3.5) 
c0032138_16492055.jpg
レンズ名:SAMYANG(サムヤン) 85mm/f1.4
レンズ購入価格:30,000円(新品)
使用カメラ:CANON EOS 6D(フルサイズ機)

ハイコスパ第13回記事等で紹介した、2010年代の韓国製
MF単焦点大口径中望遠レンズ。

本レンズは85mm/f1.4という魅力的なスペックながら
新品で3万円程度と極めて安価なレンズだ。
c0032138_16492185.jpg
単純にスペックを見れば、コスパ的には圧倒的に良さそうだが
本レンズには色々と問題点がある。

まずは使いこなしが極めて難しいと言う点だ。
(レンズ・マニアックス第11回「使いこなしが難しいレンズ編」
で、ワースト8位にランクインしている)



本レンズに限らず、そもそも85mm/f1.4はピントが合い難い。
AFはもとより、MFでも厳しい。これは撮影条件によっては
被写界深度が極めて浅くなるからだ。

じゃあ、ピンボケが怖いからと、被写界深度を深くする為の
措置、すなわち、1)絞りを絞り込む 2)撮影距離を遠くする。
等を行ったとしよう、確かにこれらをすれば被写界深度は
深くなり、ピント精度はAFでもMFでも楽になる。
しかし・・それでは、せっかくの85mm/f1.4を使っている
意味が無いのだ。

大口径85mmでは、何としても浅い被写界深度の写真を撮る
必要がある、そうで無ければ、別の開放F値の暗い85mmを
使えば良い、と言う事になってしまう。

これを解決する為には、ともかく浅い被写界深度でも写真を
撮れる状況を作らなければならない。
この対策として、今回使用のEOS 6Dは「Eg-S」と言う
MF向けのスクリーン(スーパープレシジョンマット、開放F値が
F2.8未満のレンズ推奨)に換装済みだ。

ただ、EOS機の多くは、こうした社外品MF版EFマウントレンズ
を使うと、フォーカスエイドが表示されない(機能停止)や
露出のバラツキ、収差補正等が効かない、露出安全機構
(セイフテイ・シフト)が効かないといった、数々の問題点が
発生する。(注:それらの一部は「排他的仕様」である)
だから、基本的にこうした海外等のサードパーティー製MFレンズ
はEOS機で使うのは好ましく無い。

じゃあ、EFマウントアダプターを用いてミラーレス機で
使う場合はどうか?
本レンズは、MFで絞り環もある為、絞りやAFのカメラからの
制御は不要だ、なので電子接点がついた高価な電子アダプターを
使わなくても、絞り開放型EFアダプター又は、絞り羽根内蔵型
EFアダプターで十分だ。

むしろその方が、オリジナルマウントのEOS機で使うよりも
簡便かも知れない、高精細EVF搭載ミラーレス機であれは、
ピーキングや画面拡大等のMFアシスト機能を用いて、ピント
精度を高める事ができる。
c0032138_16492138.jpg
そもそも何でEOS機では使い難い事が予めわかっていたのに
EFマウントで本レンズを購入したか?というと、理由は2つある。
まず、本SAMYANG85/1.4は様々なマウント版の製品が発売
されていたが、EFマウント版が若干安価であった。


もう1つの理由は、EOS EF純正で優秀な85mmレンズを所有して
いない事だ、一応EF85mm/f1.2Lを使ってはいるが、いくつかの
記事で紹介したように、そのレンズの描写傾向は私の好みでは
無く、加えて大きく重く高価な「三重苦」レンズであるからだ。

安価にEFマウントの85mmの穴を埋める・・ だから、EOS機で
問題がある事は承知の上で、EFマウントで本レンズを購入した
次第だ。
c0032138_16492071.jpg
描写傾向だが、僅かな逆光でも盛大なフレアやゴーストが発生
する弱点がある為、使用条件が極めて限られるレンズだ。


ただ、フラット光などで条件を整えた状態では、解像感も
ボケ質もそこそこ良く、勿論大口径だから必要に応じて大きな
ボケ量を得る事が出来る。

新品価格の3万円という点からはコスパが良い事は間違い無いが、
使いこなしが極めて困難なレンズな為、あくまで上級者向けだ。

---
第31位
評価得点 3.60 (内、コスパ点 4,0)
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レンズ名: PANASONIC G25mm/f1.7 ASPH.(H-H025M)
レンズ購入価格:14,000円(新古)
使用カメラ:PANASONIC LUMIX DMC-G6 (μ4/3機)

ハイコスパ第4回記事で紹介の、2015年頃に発売のμ4/3機
専用のAF標準(画角)レンズ。

本レンズは2017年頃にPANASONIC DC-GF9のキットレンズ
として販売されているが、それ以前から発売されていた。

GF9キット用として外装を変更したのだろうか?2016年末
頃に、本レンズは大量に中古市場に流通していた。
c0032138_16493012.jpg
モデルチェンジして外装等を変更した場合、旧型レンズは
新品で販売するのが難しくなる為、在庫処分品として中古市場
で流通するケースは良くある。

こういう場合、新品レンズにあった保証書を抜き、中古扱い
として販売されるのだが、中身は新品のままだ。
これを「新古品」と言うが、概ね非常に安価に購入できるので
コスパは極めて良くなる。
また、保証書等を抜かず、新品製品状態のままで中古として
販売される事もある。これは「新品同様」とか「未使用品」
「ランクAA」等と言われている。しかし価格は新古品より
若干高価な相場だ。

他、似たケースで店舗等での店頭展示商品が、入れ替え等の
理由で中古市場に流される場合もある。これも同様に「新古品」
と言うのだが、こちらの場合は、お客さんが手に触れたり
カメラ本体では試写する事もあって、若干の「使用感」がある。

本レンズの場合は前者の「新古品」(中古扱いの中身新品)で
あった。
購入価格は14,000円と安価だ、このような在庫処分が発生した
場合、後年になって出てくる一般的な中古品よりも、むしろ
相場は下まわる事も多い。
例えば、本レンズの後年の中古相場は、概ね18,000円前後
であり、これは、本レンズの発売時定価(37,000円)の、
およそ半額という観点での値付けから来ていると思う。
(注:近年は1万円台前半まで相場は下がっている)

で、購入価格はさておき、実際の描写傾向だ。
いくらコストが安くても、パフォーマンスが伴わなければ
「コスパ」という観点からは好評価にはならない。

描写力や性能は、本シリーズ記事第3回、第37位相当の
PANASONIC G20mm/f1.7Ⅱ ASPH.(H-H020A)と
似たり寄ったりだ。
本レンズの方がランキング順位が高いのは、こちらの方が
安価に取得できたからで、コスパの観点からは当然であろう。

G20/1.7は、元々本レンズより少し定価が高いのではあるが
市場の初級層における変な「神格化」により、中古相場が本来の
性能に見合う価格帯まで下がら無かったのも問題だった。
(投機層等により、意図的に過剰な好評価での情報操作が
行われた節もある)
c0032138_16493066.jpg
本レンズの長所は、安価で小型軽量であり、口径比も大きい
F1.7級レンズであり、描写力はともかく、表現力については
そこそこあると思う。

本レンズが、50mm相当の「換算画角」となる事から、それを
長所とする意見もある模様だが、それはそうとは限らない。

昔から言われているように、50mmの標準レンズが「人間の目の
画角に近い」と思っているのならば、それは大きな誤解だ。
人間の目の視野角は、もっとずっとずっと広い。

もし50mmが人間の目の画角という説を信じているのであれば、
本G25/1.7をμ4/3機に装着し(あるいは他システムで同等の
画角を得て)そのファインダーを覗きながら(安全な場所で)
歩いてみると良い。視野が狭すぎて、怖くて歩けない事であろう。

ごくごく簡単な実験や評価もせずに、聞いた話を「思い込む」
事は禁物だ、必ず自分の目で確かめてみないとならない。

50mm=標準と決めたのは、1930年代でのライカ(ライツ)社
であったと聞く。つまり、あまり中途半端な数字の焦点距離には
したくなかったからだと思われ、あくまで便宜上のものだ。
人間の視野がもっと広い事は、生理学的見地からは常識で
あったので、後年の他メーカーでは、50mm=標準という定義に
あえて反発したケースもある。

その最も著名な例は、1990年代後半にPENTAXから発売された、
FA43mm/f1.9Limited(ミラーレス・マニアックス第1回、
第64回記事等)であり、これは、35mm版フィルムサイズの
36mmx24mmの対角線長に相当する焦点距離だ。
(√(36x36+24x24)=約43.26mm)
まあ、確かにこちらのほうが50mmレンズよりも若干画角が広く、
より自然な「標準的な画角」である事を受け入れやすい。

けど、だからと言って、何故フイルムの対角線長を焦点距離と
しなくてはならないのか?という点は、原理的・論理的な根拠に
乏しく、結局、どっちもどっちなようにも思える。
まあつまり「人間の目の画角」は、どうでも良い話なのだ。
c0032138_16493029.jpg
さて、本レンズG25/1.7だが、弱点は概ね2点ある、
1つは、これは本レンズだけの問題では無いが、近年の多くの
ミラーレス用レンズには無限回転式のピントリングが採用されて
いて、これはMF時に手指の感触では最短および無限遠がわからず
結果的にMF性能(操作性)を大幅に悪化させてしまっている。

本レンズの最短撮影距離は25cmであるが、近接撮影が困難だ。
MFのみならずAFで使った場合でも、μ4/3機の多くは一般的な
コントラストAF方式であり、高いピント精度を得る事が出来ない。
せっかくF1.7という明るいレンズだ、被写界深度を浅くした
撮影を行いたいのだが、MFでもAFでも、それは難しい。

もう1つの弱点は些細な事ではあるが、フードの装着方法が
他の一般的なレンズとは異なり、アダプターリンングを都度
外して、それから装着しなければならない。これは面倒だ。

まあ、悪い性能のレンズでは無く、コスパも決して悪くは
無い(評価は4.5点と高得点)のではあるが、あまり使っていて
楽しめないレンズである。その為、エンジョイ度が下がり、
初級機のキットレンズであるからマニアック度も低い。
だからランキングの順位は、総合下位にならざるを得なかった
レンズである。

まあ、実用的観点からは、悪いレンズでは無いと思うので、
「初級中級者向けレンズである」としておこう。

---
第30位
評価得点 3.65 (内、コスパ点 4.0) 
c0032138_16494216.jpg
レンズ名:PENTAX 03 FISH-EYE 3.2mm/f5.6
レンズ購入価格:5,000円(中古)
使用カメラ:PENTAX Q7(1/1.7型センサー機)

ハイコスパ第7回記事等多数で紹介の、2010年代発売の
Qシステム用魚眼風トイレンズ。
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超小型軽量のミラーレス機、Qシリーズは極めてユニークな
コンセプトのシステムだ。

初号機のQは2011年夏の発売だ、が、この年の3月には
未曾有の大災害である東日本大震災が起こっている。
直接の被害を免れた場合であっても精神的ショックは大きい、
消費者心理も、ずいぶんと変化していた頃であろう。

この頃のミラーレス機の市場だが、PANASONICでは、
2008年末に初のμ4/3機、DMC-G1を発売後、GH,GFシリーズ
での横展開を行っている。

RICOHではGXRシステムを2009年に発売、ただし後継機は
発売されず、またRICOHにはGXR以外のミラーレス機は無い。
(注:後年にRICOHは、PENTAXを吸収している)

OLYMPUSでは、2009年にμ4/3機PEN E-P1を発売後、
後継機や派生機のPEN Liteシリーズも展開されていたが、
2011年時点では、まだOM-Dは発売されていなかった。

SONYでは、2010年にAPS-Cセンサー搭載のNEX-3,NEX-5
を発売、2011年6月にはNEX-C3が発売されていた。

なお、NIKON 1,FUJIFIM X,EOS-Mシリーズは、このPENTAX Q
発売時点では、まだ無かった。
また、PENTAX K-01も翌2012年の発売である。
 
・・と言う事で、PENTAX Q発売時では、意外にもライバルの
ミラーレス機の種類は多くは無い。
この状況であれば、Qのユニークなコンセプトが市場に対しての
付加価値(欲しいと思わせる気持ち)に成り得る。

しかし、この翌年2012年頃からミラーレス機市場は全メーカー
が参戦して、大激戦区になってしまうのだ。、

Qは、超小型化の代償として撮像素子(センサー)のサイズが
1/2.3型と小さい、これは2000年代の普及コンパクト機と
同等である。私は、その点が気になっていて、Qシステムの
購入は躊躇した。(注:後年にCCTVレンズ母艦として購入)

翌年2012年、Q10となったが、当時の各種PENTAX機で展開
していた「オーダカラー」への対応が主であり、他の仕様に
大きな変化は無かった。(特殊色では、エヴァの綾波レイや
アスカ仕様の限定機があり、ちょっと欲しかった・笑)

そして、この年2012年は、これまで数年間のミラーレス機の
爆発的な広がりに押されていた「一眼レフ陣営」が、多くの
フルサイズ機を発売した「フルサイズ元年」である。

すなわち、ミラーレス機の台頭を脅威と見た一眼レフ陣営は
「センサーサイズが大きい」という付加価値をかかげ、その
常識をユーザー層に広める(刷り込む)事で、一眼レフや
高級コンパクト機の販売の巻き返しを図った。

まあ、最初のμ4/3機がフルサイズ機の撮像素子の1/4の面積
しか無い為、そういう「差別化戦略」の実施は当然であろう。
ただまあ、カメラにおけるセンサーサイズの大小は、それに
よる長所短所も色々と出てくる。
しかし市場の大半の初級中級層では、そうした細かい点は
理解できない。

なので「センサーサイズの大きいカメラは良いカメラ」という
常識がまたたく間にユーザー層に広がる、これは、それ以前の
2000年代に「画素数の大きいカメラは良いカメラ」という常識
を一般ユーザーに「刷り込んだ」状況と同じだ。

勿論、両者とも、一概にそう言い切れる話では無い。
機器の仕様という物とその長所短所、そして使用目的、コスパ、
これらの様々な要素を総合的に判断して自分の購入機を決めれる
ユーザーは、残念ながら、ほんの一握りのみだ。

さて、1/2.3型の極小センサーを搭載するQ/Q10は、そういう
観点からすると魅力(付加価値)の少ないカメラとなって
しまった。勿論Q/Q10には別の長所があるのだが、初級層が
メインターゲットとなってしまったカメラ故に、そうした
高度な内容は判断出来ない。

2013年、Q7(今回使用機)が発売、やっと1/1.7型センサーに
大型化された。これは2000年代の高級コンパクト(GRD等)と
同等のセンサーサイズだが、この頃、既にコンパクト機でも
撮像素子の大型化戦略が始まっていた。
(例、SONYではRX100に1型、RX1にフルサイズセンサーを搭載)

続く2014年、Q-S1の発売、中身はほとんどQ7と同じだ、
これ以降、Qシリーズの新規発売は無い(販売は継続中)

こうして、Qシステムは、多くの特徴や長所を持ちながらも、
時代の流れに翻弄され、僅かな期間でしか展開されない
不運なシステムとなってしまった。

まあ、Qシステムの様々な特徴は多くの記事で書いているので
割愛するが、かいつまんで言えば、その最大の長所は
小型軽量な事ではなく「極めて高機能が搭載されている機体
である」という事だ、これは「趣味撮影」には非常に適切で
あり、この高機能を使いこなせるかどうか?が、Qシステムの
直接的な評価につながる。

が、主力ターゲット層がビギナー層であるから、多機能の
使いこなしは困難だ。かと言って中上級者層は、Qの撮像素子
が小さい為、「玩具である」と不当に判断し、これに興味を
持つ事が出来ない。
よって、その優れた仕様とターゲット戦略に矛盾のあるカメラと
なってしまった事が、Qシステムの最大の不運であろう。
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さて、Q7での趣味撮影(遊び)の要素は、本体機能のみならず
レンズ側にも「ユニークレンズ」というシリーズの、極めて
希少な「メーカー純正トイレンズ」が4本も発売されている。

それらは全て所有していて、過去記事で何度も紹介している為、
詳細の説明は割愛するが、ともかく大メーカーでは他に類を
見ない独自の製品コンセプトだ。

そのユニークレンズの1つが、今回使用の魚眼風レンズ「03」
である。これもまた過去記事で何度も紹介しているので、
今回記事では、その長所短所については省略しよう。

Qシステムは、もはや過去の時代のカメラではあるが、
センサーサイズ以外の基本スペックで他機に劣る点は何も無い。
逆に言えば、センサーサイズを弱点としない使用法を考え出し、
それを活用する事がユーザーに課せられるという訳だ。

私の場合、トイレンズ用の他、CCTV(監視カメラ等)用の
レンズをQ7で使用する事も、重要な用途となっている。
イメージサークルの大きさの点で、これらのレンズは、
Qシリーズで使う際にのみ、最大の利便性を発揮できるのだ。
(特殊レンズ超マニアックス第1回「マシンビジョンレンズ」
特集記事を参照の事)
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本シリーズ記事では、残念ながらこれ以降は、コスパという
観点からは、Qシステム用のレンズのランクインは無い事が
確定している。最初で最後のQシステムの紹介であるが、
逆に言えば、ここで紹介できて良かった。この極めて個性的な
システムはマニアならば必ず知っていなくてはならないと思う。

Qシステムの高機能と、レンズの特性のバリエーション、
これらにより「写真の描写表現力の多彩さ」は、メーカー純正
システムとしては最高レベルであり、これに対抗できるシステム
を私は他に知らない。

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第29位
評価得点 3.65 (内、コスパ点 4.0)
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レンズ名:smc PENTAX-DA 35mm/f2.4 AL
レンズ購入価格:12,000円(中古)
使用カメラ:PENTAX KP(APS-C機)

ハイコスパ第10回記事で紹介の、2010年代のAPS-C機用
AF単焦点準広角(標準画角)レンズ。

いわゆる「エントリーレンズ」ではあるが、作りが安っぽい
事は無く、そこそこ高級感がある。
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まず簡単に長所短所であるが、長所はローコストである事から
コスパが、かなり良いレンズであると言う点だ。
PENTAXのオーダーカラー制のあった時代なので、様々な本体色
(11色以上?)からのチョイスも可能であり、デザイン的や
ファッション的な要素での楽しみ方もある。

短所だが、レンズとしては平凡な描写力およびスペックで
ある事と、逆光耐性が弱い点だ。

まあ、このあたりの長所短所については、他の記事でも細かく
述べていて重複する為、これ以上の深堀りはやめておこう。

さて、これまで本レンズは、超個性的なPENTAX K-01に
装着して使う事が多かったのであるが、今回は一眼レフの
PENTAX KPに装着して使ってみよう。

KPは、2017年発売の比較的新鋭機であるが、その特徴は
超多機能を「てんこ盛り」とした「全部のせ」カメラであり
仕様的な優位点がある事、そして、その「操作系」が過去の
デジタル一眼レフ中、最強クラス(評価点5点満点)な事だ。

勿論エフェクト(=画像加工処理機能。デジタルフィルター、
アドバンスドフィルター、ピクチャーエフェクト等とも各社
では言われる)機能も充実している。

実はPENTAX機は、いずれもエフェクト機能に優れると言う
特徴があるが、その効果が撮影前に確認できる機種は、
PENTAXでは、ミラーレス機であるQシリーズと、K-01しか
存在しない。
一眼レフ機の光学ファインダーでは、事前確認が出来ないので
作画が難しいのだ(注1:ライブビューでは可だが、ピントが
合い難いので使いたくない)
(注2:さしものPENTAXの優秀なエフェクト機能も、近年
においては、他社普及機に、それ以上に優秀なものが搭載され
始めており、そろそろ抜本的な改良が必要な時期であろう)
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さて、一眼レフの上級機「KP」を購入するような中級者層は、
基本的には、エフェクト機能には興味を持っていない。

何故ならば、ちゃんと「作品」を撮る事を目的として高価な
カメラやレンズを購入するユーザー層であるからだ。
日常の記録的な写真であれば、スマホか小型カメラを使えば
事足りる。

で、作品という点では、中級層の考えでは「エフェクトは邪道だ」
という論理になってしまう。
それを使ってしまったら、いままで自分がビギナー時代から
何年もかけて、つちかってきた撮影技術や経験であるとか、
揃えてきた高性能レンズとかの、時間やお金や労力が無駄に
なってしまうと考えるからだ。
「エフェクトで遊んでいたら初心者やスマホと同じだよ」
と決め付けてしまうのもやむを得ないであろう。

けど、じゃあ、中級者が志向する「作品」っていったい何
なのだろう?
風景とか珍しい自然現象や花や動物や祭りを綺麗に撮ったり、
綺麗なオネイサンを美しく撮ったり、鉄道や車や飛行機等の
自分が好きなメカを格好良く撮ったりする事なのだろうか?

でも今時の高性能カメラであれば、初級者がカメラの性能で
偶然、難しい被写体状況でも撮れてしまう事はありうる。

そして、中級者においては、「作品」というものを
「皆が撮れないような被写体を撮る」という風に解釈しては
ならないのだ。

「皆が撮れない」という点をどんどん過剰に意識してしまうと
秘境にいったり、何時間も特別な天候やイベントを待ってみたり、
下手をすれば立ち入り禁止のエリアに入り込んで撮影したりと
どんどんと過激で間違った方向性に頭が行ってしまう。

そうして撮った写真は、本当に自分の手柄なのだろうか?
「皆が撮れないような被写体を撮る」という中級者のコンセプト
は、そのうちの半分は合っている。

つまり「皆がやらない事をやる」というのは個性であるから、
「アート」としての写真の上では極めて重要な基本概念だ。
これは写真に限らず、絵画、音楽、俳句、文学、書道、華道・・
等、あらゆるアート分野で共通の概念だ、だから「個性」が
無ければ、そもそもアートでも作品でも無い。「習い事」か、
下手をすれば「物マネ」のレベル迄で終わってしまう。

じゃあ何が問題か?それは「皆が撮れないような被写体を撮る」
での「被写体」という部分だ。ここの解釈がおかしい。

被写体とは何か? ここは初級中級層では、これを物質的な
「モノ」であるとしか認識できていない。
だから、他に無い「モノ」を求めて、様々な場所に行ったり、
お金や時間をかけて解決しようとする訳だ。

でも、それで良いのであろうか?
アートであれば、そこには、雰囲気、感情、感覚・・といった
作者が伝えたい事が存在していなければならない。
それは、「表現」と呼ばれていて、アートの世界では写真に
限らずに各分野で共通の話だ。

だが、被写体を「モノ」として見てしまうと、そこに撮影者
(すなわち作者)の「表現」や「意図」は入りにくい。
この状態を「被写体の勝ち」と、本ブログでは常に言っている。

「表現」が無ければ、その被写体に同じ条件で対峙すれば、
誰が撮っても同様な写真となってしまう、これでは面白く無い。
作者(撮影者)が伝えたい事が「個性」として入っていなければ
「作品」には成り得ないのだ。
それでは、ただ綺麗に撮れている「映像」に過ぎない。

では、表現や個性を出していくには、どうすれば良いのか?
まず最大のポイントは撮影側の「意識」であろう。
「表現」を考えて被写体を探しているのと、ただ単に珍しい
「モノ」だけを探しているのでは、根本的に「意識」の
あり方が異なる。

それから機材面では表現を自在に行う為の機材や撮影技法の
バリエーションであろう、ただ単に風景等の「映像」を撮る
だけならば、広角や標準ズームでパンフォーカスで撮れば良い。
でも、表現が必要となれば、背景ボケも出したい、超広角で
遠近感も強調したい、近寄れない被写体のわずかな一瞬の
躍動感も捉えたい、あるいは春の花畑の暖かくほのぼのとした
雰囲気を伝えたい、使われなくなった廃墟の悲哀を表現したい
川に流れる紅葉から近づく冬の寂しさを連想させたい・・

ありとあらゆる「表現」が、そこには無数に存在し、それが
真の意味での「被写体」である。
で、その様々な表現を具現化する為に、機材や撮影技法の
バリエーションを広げる訳だ。

その考え方においては「エフェクト」は非常に重要な機能と
なりうる。
初級層が、ただ単に画像を加工して遊んでいるのとは違って、
エフェクトにより、自分が求める意図を「具現化」する訳だ。
だから、エフェクトの選択についても「表現」と連動して
細心の注意をはらわなければならない、さもないと逆効果に
なって、伝えたい事が伝わらないからだ。

ここに書いたような一連の内容がわかってくると、中級者の
「踊り場」から脱出する為の重要なステップとなるだろう。
c0032138_16495525.jpg
ちょっと長くなりすぎて、レンズの紹介が出来なくなったが、
本レンズの話は他の記事にも書いてある。
ここに述べた事は、写真とどう向き合っていくか?という
根幹のポイントであり、むしろ機材の話よりもずっと重要だ。

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今回はこのあたりまでで、次回記事も、引き続きランクイン
したレンズを順次紹介していこう。


ミラーレス・クラッシックス(17)OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited

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本シリーズは、所有しているミラーレス機の本体の詳細を
世代別に紹介して行く記事だ。
今回はミラーレス第四世代・成熟期(注:世代の定義は第一回
記事参照)の OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(2015年)
について紹介しよう。

なお、2018年よりミラーレス機のフルサイズ化が一気に進み、
この第四世代(2015年~)は、現在では既に第五世代に
突入していると思えるが、新しい世代定義は、もう数年程度、
市場の様子を見てからとする。
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レンズは OLYMPUS M.Zuiko 30mm/f3.5 Macro
(レンズ・マニアックス第7回)を使用する。
以降、本システムで撮影した写真を交えながら記事を進めるが、
記事後半では、本機の特性に合致した別のレンズを使う。
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さて、本機は2015年に発売された「OM-D E-M5 MarkⅡ」の
限定モデルであり、ノーマル版の数ヶ月後に発売されている。
限定販売数は7000台である。

ノーマル版との違いは、限定版では1994年発売の「OM-3Ti」
の本体色を彷彿させる「チタンカラー」塗装が施されて
いる事、そして本革ストラップと本革カードケース等が
付属している事くらいであり、本体の機能に差異は無い。

定価はオープンだが、発売時の実勢価格でノーマル版より
2万円高くらいであった。レンズキット(14-150mmが付属)
のみの販売であり、約18万円というのは結構な高額商品だ。
中古の場合は、本体のみの相場でノーマル版より、およそ
2~3万円高となっていた。(注:購入時点2017年頃の話)
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「実用目的ならば、限定版ではなく通常版で十分では?」
と言う意見もあるだろう、ごもっともな話だ。
ノーマル版であれば、だいぶ安価に購入できるし、どうせ
使い潰すのであれば、減価償却の面(1枚2~3円のルール)
でも楽になる。また高価で希少な限定版は、ラフに扱えず
実用目的(ここでは、業務用途と言う意味では無く、
コレクション機ではなく実際に大量の写真を撮る、という
意味)にはだいぶ不利になってしまう等、良い事は殆ど無い。
(とは言え、本機は高速連写機でもあるので、2年以上使用
した現状において、減価償却ルールをクリアしている)

それでも本機を選んだ理由だが、最大の購入目的は、
「OM-3Ti(チタン)へのノスタルジー」である。

私は1990年代の銀塩時代に、OMヒトケタ機を全部所有しよう
として、それらの中古を探して順次購入していた。
それらの中で「OM-3」「OM-3Ti」の両機は入手が困難な
機種であった。

「OM-3Ti」は1994年発売と、OMシリーズの中では最も新しい。
OMヒトケタ機は1972年のM-1(OM-1)から始まり、実質的な
最終機種は1983年のOM-4や1984年のOM-2SP,OM-3等であるが、
その後のOM-3Tiの発売までに、およそ10年間の開きがあった。
c0032138_07173341.jpg
何故、この時期にオリンパスの一眼レフの新製品の発売が
殆ど無かったか?と言えば、歴史的な「αショック」
(1985年に、ミノルタが世界初の実用的AF一眼レフの
α-7000を発売し、他社より大きく先行した。
これに対して、カメラメーカー全社が、AF化に追従するか、
又は断念して一眼レフ市場から撤退したという事件)

・・において、オリンパスは一眼レフのAF化に事実上失敗し、
1980年代後半より、新規一眼レフを開発する余力を失って
しまった事がある。

ただ、AFコンパクト機等の販売は好調であったので、
オリンパスはカメラ事業を継続する事が出来た。
OMシリーズも一応併売はされていたが、AF機では無い為、
だんだんと「好事家」向けになっていく。そんな中で、
旧機種OM-3(1984年)は特に希少人気であり、その市場
ニーズを受け、外装をチタン化、他、フラッシュ機能を
強化して、1994年に発売されたのが「OM-3Ti」であった。
本体価格は20万円と、かなり高額なカメラである。
(開発費の償却や市場でのニーズにより高価となったので
あろう、性能が高いから値段が高い、と言う訳では無い)

この時代、第一次中古カメラブームが始まる頃であったが
OM-3Ti以外にも、チタン外装のカメラは少なくはなかった。
それらは中古ブームの際によく見かけたが、OM-3Tiは
全然中古が出て来ない。
何年待っていても中古が1台も出ないので、やむなく、
新品で購入する事とした、若干値引きしてもらったが
それでも、14万円前後したと思う。
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後からわかった話だが、OM-3Tiの販売台数は3千数百台しか
なかった模様であり、これくらい少数だと好事家やマニア層が
コレクションや投機目的で死蔵したり、あるいは実用機として
使って消耗させてしまったりと、ほとんど中古市場に機体が
流れてくる事は無い訳だ。

さて、これで手元にOMヒトケタ機が4台揃った。ところが、
中でも、この「OM-3Ti」は、どうにも使い難いカメラであった。
最大の課題は、機械式シャッターのマニュアル露出機であり
絞り値とシャッター速度の変更操作が、レンズとマウント部で
いずれも左手操作になる事だ(OM-1も同様)

この事自体は「オリンパス左手思想」として、天才技術者の
「米谷氏」が考え出した操作性コンセプトであり、ある意味
では合理的だ。(匠の写真用語辞典第1回記事参照)
しかし、そのコンセプトは1970年頃のOM-1(M-1)の開発時に
考え出された事であり、別の言い方をすれば、撮影コストも
高いから、「のんびりと写真が撮れた」時代の話である。

それから四半世紀が過ぎた1990年代後半では、
フィルム現像は、ネガであれば「0円プリント」であり、
カメラは、すでにNIKON F5やCANON EOS-1Nも存在して
いる時代であって、それらの高級機では、ファインダーを
覗きながら電子ダイヤルと内部表示で、速やかな絞り値や
露出補正の操作が可能で、そのまま高速連写が出来た。

また、高級機に限らず、AF一眼レフの多くも同様に操作性の
改善がなされた時代であった。
つまり、実用機としては、スピーディなカメラ設定操作が
出来ないと、お話にもならない時代であったのだ。

具体的には、マニュアル露出機では絞り値操作とシャッター
速度操作が同時に逆方向に行えないと不便だ。
つまり「マニュアルシフト」の操作が手動で必須だからだ。

一般的なマニュアル露出機では、絞り環がレンズ側にあり、
シャッターダイヤルが軍艦部にある。この場合、手指の操作で
少々無理をすれば、マニュアルシフトは出来ない事は無い。

しかし「左手思想」では、それが同時に出来ない。
そしてOMでは、レンズ先端とマウント部の2箇所に、手指を
動かして操作せざるを得ず、「動線」が悪い。
OM-3Tiは「実用価値無し」と見なし、その後しばらくして、
OM好きのマニアに譲渡してしまった。

さらに数年して、デジタル時代に突入した、その頃までに
私のOMヒトケタ熱は完全に醒めていて、結局OM-4Ti(白)を
残して、他のOMヒトケタ機は譲渡や売却等で雲散霧消して
しまっていた。

なお、ごく近年になって「父親のカメラだった」と言って、
美品のOM-1を、無償で譲ってくれる、という人が現れたが
匠「お父様の形見だったら、持っていた方が良いですよ」
と言って断った。が、実際の理由は、OM-1系もOM-3系と
同様にマニュアルシフト操作が出来ずに使い難いからだ。
c0032138_07175675.jpg
・・という状況であったが、今にしてみれば、
最も気になるOMヒトケタ機が「OM-3Ti」であった。
他の機種は、中古カメラブームの時代でも、あるいは
現代でも、まだ入手は可能ではある。
けど「OM-3Ti」は、もう入手困難だ(ごく稀に中古を
見かけても、かなりのプレミアム相場となっている)
そもそも、今更フィルム機を実用目的で買うはずも無い、
だから、絶対に2度と買わないカメラが「OM-3Ti」である。
「気にはなるが、買えない」そういう状態なのであった。

そうした中、やっと本機「OM-D E-M5 MarkⅡ Limited」
の話になるが、これは、まさしく「OM-3Ti」の雰囲気を
踏襲したカメラだ。勿論「OM-3Ti」での課題であった
マニュアル左手操作等の古い概念はすべて払拭されている
最新のミラーレス機だ、これは多少高くても、買うべき
であろうと思った。

コスパの悪さは「マニアック度」等で相殺できると思った、
限定版の本機がある事を知っていながら、ノーマル版の
E-M5 MarkⅡを買うのは、むしろ、そちらの方が後悔する
だろうとも思ったのだ。
c0032138_07175643.jpg
余談が非常に長くなった。
本機「OM-D E-M5 MarkⅡ Limited」(以下E-M5ⅡLtd)
の話だが・・
まず、外観的には「OM-3Ti」の雰囲気を良く再現している、
ただし、金属(チタン)ボディの、ひんやりした感触とか
ずっしりとした凝縮感、精密感等(すなわち「感触性能」)
は残念ながら殆ど無い。

本機では軍幹部右上のダイヤル廻りがゴチャゴチャとして
いるが、これは元々のOM-3Tiでもスポット測光系の機能で、
そこだけ複雑であったので、印象的には類似している。

サイズ感だが「E-M5ⅡLtd」は「OM-3Ti」に対して一回り
ほど小さく、重量はかなり軽い。
(本体のみ417g、これは OM-3Tiより100g近く軽い)

まあ、感触性能は低いが「OM-3Ti」のイメージを良く
作り上げている。
背面モニターは自在アングル方式なので、普段は裏返して
おくと銀塩機の雰囲気により近くなる。

さてここで、使用するレンズを銀塩OM時代のレンズに
換えてみよう。
c0032138_07175612.jpg
ボデイはそのままで、レンズを
OLYMPUS OM SYSTEM Zuiko Macro 90mm/f2
(ハイコスパレンズ・マニアックス第18回記事等)
に変更する。

こうしたOM SYSTEM用のオールドレンズを使う際、
やはり本機のような雰囲気を持つカメラとの組み合わせが
マッチする。

それと、OM90/2はOM用レンズの中ではかなり大柄な方で
あり、絞り環の位置も通常のOM用レンズとは異なり
マウント部に近い位置にある(通常のOMレンズでは先端部)
銀塩OMシステムで使う上では、使い難いレンズであったのは
確かであるが、本機E-M5ⅡLtdで使用する際は重量バランス的
にやや悪いが、まあ基本的には問題無い。
c0032138_07182211.jpg
問題はE-M5ⅡLtdのMF性能だ。
まずEVFだが、236万ドットタイプであり、これは
他社の同時代のミラーレス機でも良く使われている部品だが、
MFでのピントの山の判別は、及第点か、やや不足する感じだ
(画面拡大またはピーキング機能の併用が必須)
c0032138_07182242.jpg
E-M5ⅡLtdのファインダー倍率は、約1.48倍と
ミラーレス機の中では大きい値だ。ただしこれはμ4/3機で
2倍相当だから、フルサイズに換算すると半分の0.74倍程度
となり、銀塩AF一眼レフ並みの値である。
(注:他のμ4/3機、例えばOM-D E-M1/MarkⅡや PANAの
DMC-G8では本機と同じ1.48倍、それから、PANAのDC-G9や
OM-D E-M1Xでは、本機より大きい1.66倍である)

ちなみに、銀塩MF一眼レフのファインダー倍率は、0.8倍~
0.9倍程度が要求されていた。勿論MF性能を高める為である。
AF時代になってMFの必要性は少し減少した為、AF一眼レフの
ファインダー性能はスペックダウンしてしまった。

だから、たとえ現代のミラーレス機やデジタル一眼レフに
比べて大きい方である本機E-M5ⅡLtdのファインダー倍率も
MFで使うには、スペック上では、やや物足りない印象はある
のだが、まあ実用的には殆ど問題は無い。

なお、オリンパス4/3時代の機体で愛用していた、拡大用の
「マグニファイヤーアイカップ ME-1」は、本機には嵌らず、
使用できない(本機用の拡大アイカップは見当たらない模様だ)

で、MFを補助する為の重要な機能は拡大とピーキングがある。

他社のミラーレス機で、これに優れるのは、PANASONICの
近年(2013年~)のμ4/3機と、SONYのEマウント機のNEX後期
(NEX-7等、2012年)や、以後のα系(2013年~)がある。

PANA機では、MF時の拡大操作系が流れるようにスムースであり、
追加されたピーキング機能も常時表示可能で、精度も高い。
後期NEX/α系では、拡大操作系は拡大枠位置選択操作が煩雑
なのと、一部のα機では、MF設定時で無いと拡大が出来ない、
また拡大解除操作が面倒であるなど、イマイチではあるが、
ピーキングの精度が高く、実質ピーキング機能だけを主体に
すればMFのピント合わせは事足りる。
c0032138_20391948.jpg
本機E-M5ⅡLtdの場合の拡大操作は、μ4/3用純正AFレンズを
使う場合、「S-AF+MFでのMFアシスト拡大有り」の設定では、
ピントリングに触れるだけでそれが可能で、またAF時での
拡大操作は測距点と連動した「拡大枠AF」となっているので、
さらに精密な測距点を選べる事(スーパースポットAF)となり、
その点では優れている。

しかし、アダプター利用でMFレンズ等を使用時には、
この拡大の操作系が練れていない。
本機で拡大を行う際、まず、どこかのFnボタンに拡大操作を
アサインする。そして、そのFnボタンを押すと拡大枠が表示され、
さらに再度Fnボタンを押して初めて拡大となる。
拡大枠の移動は十字キーで可能であるが、拡大の解除には、
もう1度Fnボタンを押さなくてはならず、シャッターボタンでの
拡大解除は出来ない(=結果、撮影前構図確認がやりにくい)

これらはEVFを覗きながらの操作である故、全て「手探り」
である。ちゃんと目的のボタンを押せれば良いが、万が一
間違って別のFnボタン等を押し、HDRやデジタルテレコンが
有効になったりすると、ぐちゃぐちゃだ、もう撮影を諦めて
電源を切って画面拡大操作をリセットしなければならない。

まあ、このあたりは、ニコン製デジタル一眼レフでの
ライブビュー時のそれ(一々縮小ボタンを何度も押して
拡大倍率を下げる)と同様に、劣悪な操作系だ。

カメラの設計時に実際に写真を撮る際の操作の流れを良く考察
しないと、単に「その機能が何処かに存在していれば良い」
等の”問題あり”の操作系になってしまう。
品質の悪い操作系設計は、結局利用者側の負担になるのだ。
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そして、本機E-M5ⅡLtdのピーキング機能だが、純正レンズで
AF+MF設定であれば、シームレスMF時にピーキングが表示
されるが、アダプターでMFレンズ使用時には常時表示されず、
またしても希少なFnボタンのいずれかに同機能をアサインし、
それを押してからで無いとピーキングが効かない。

この機能は電源OFFで解除されてしまうので、ほぼ毎回、
MF操作の前に、ピーキング用Fnボタンを押す必要がある。
あるいは、モードダイヤルを廻しても、ピーキングが解除
されてしまい、再度Fnボタンを押さなくてはならない。

(注:本機のピーキング機能は、一応強度調整が可能だが、
精度はやや悪く、過剰に反応しやすい。この為、ピーキング
頼りでピントを合わせても、若干ピンボケになる場合もある。
まあ、ここはレンズによりけりの要素もあるが、レンズ個別
での調整は煩雑で、やや困難だ。
また、「ピーキング背景の輝度調整」機能があり、これは
少しでもピーキング色を見やすくする為の機能だが、これを
数ヶ月間試してみたが、使っても劇的な改善は無く、むしろ
画面全体の輝度が撮影時の物と変わってしまうので、厳密な
作画上ではマイナス要因である為、現在ではOFFにしている)

そして、Fnボタンはボデイ上面右部に3つもある為、他機から
持ち替えた際、どのボタンに何の機能をアサインしていたかを
忘れる場合もある。画面拡大操作では、それを間違って押した
場合でも、シャッター半押しで解除できるのであれば良いが、
それが出来ず、再度「間違えて押したボタン」を手さぐりで
探して押す必要性が出てくる。同様に2倍テレコンをアサイン
した場合でも、間違えて押すと戻すのが面倒だ。

このあたり全般の操作系仕様設計は非常に不満である。
まるで、30年も昔の銀塩OM-3/OM-4系でのスポット測光
機能部(本機と同じ右上部の位置にある)の劣悪な
操作系を思い出してしまう。
(銀塩一眼レフ第13回「OM-4Ti」(1986年)記事参照)

ピーキングの操作系に関しては、オリンパスとしては、
μ4/3用以外の他社等のレンズを本機で使用する事は想定外
(対象外、または排他的仕様)であるのかも知れない。
自社の純正レンズを使ってもらわないと商売(カメラ事業)
が成り立たないからである。

これはオリンパスに限らず、現代では殆どのメーカーの
カメラ(一眼レフ、ミラーレス)でも、自社製レンズで無いと
最大のパフォーマンスを発揮できない、という風に、
エクスクルーシブ(排他的)な仕様となっている場合が多い。

しかし、例えばPANASONIC機では「オールドMFレンズを使った
際にも無駄の無い操作系が得られる」という設計思想を、
初のミラーレス機DMC-G1(2008年)の時代から踏襲している。
その結果、2010年代初頭にはマニア層を中心に第二次オールド
レンズブームを巻き起こし、ミラーレス機の売り上げ増加に
貢献した歴史もあるのだ。
パナの新製品の説明にも「オールドレンズを使った場合でも・・」
等の特徴を記載してある(他社では、その用法をわざと隠す
ような状況も多々ある)
まあ、パナの場合には、過去資産が無く、自社レンズのブランド
力も弱いので、そういうコンセプトになるのだろうが・・
(注:ブランド力が無いので、ライカよりブランドを購入して
使っているが、その分、たとえ同じパナ製品でもライカ銘がつく
だけで非常に高額になるという不条理な状態になっている)

なお、パナの近年のμ4/3機の操作系仕様は、DMC-G1~G6の
時代より悪化している部分もあり、新鋭機を購入していない。
何故操作系が悪化しているのかは、開発チームの変遷もある
だろうが、撮影の実用上の課題においては、開発側も利用者
側においても、気づいていない部分もあると思われる。
(注:最初期のGシリーズでは、銀塩傑作機MINOLTA α-7
の優秀な設計メンバーが関与していたという噂もある)
いくつかの課題については、量販店等で営業マンに伝えては
いるが、はたして改善されるかどうかは不明だ・・

で、各社とも、自社製品だけによるシステム性や利益構造のみに
とらわれず、もっとオープンな発想にならないものだろうか?
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メーカーにおいて、マニア層をどう考えるか?という点で
あるが、オリンパスの現在の製品ラインナップの中核は、
PEN/PEN-F,OMと、これらはいずれも銀塩MF時代の名機の
商品名と同じであり(注:銀塩PEN Fは、ハイフン無し)
それらのデザイン感覚やコンセプトを踏襲している、これは
マニア層を意識しているという訳だったのではなかろうか?
事実、「OM-3Tiの雰囲気が欲しかったから、本機E-M5ⅡLtd
を購入した」というマニアックなユーザーも、ここに居る。

銀塩名機の名称や意匠やコンセプトを再利用するのであれば
新規にカメラやレンズを買う新しいユーザー層のみならず、
旧来からのオリンパスファン層やマニア層にも、様々な配慮を
行う事が必要だと思う。

ちなみに、私が本機購入時に迷った他機種には「PEN-F」が
あったのだが、そちらには銀塩PEN Fにあった「Fの花文字」
という重要な意匠(デザイン)上の特徴が欠けていたので、
同機の購入を保留し、本機E-M5ⅡLtdを選択した次第なのだ。
マニアの意識というのは、そういう仔細な点にも拘りがある、
(注:PEN-Fの店頭ポップにはFの花文字が書いてあるのに、
実際の機体を手にすると、それが無くて、がっかりする。
ちなみに、他社から「Fの花文字ステッカー」が市販されて
いる模様だ)

マニアを納得させる製品作り、というのは、必要な要素で
あるのだろうと思う。それがメーカーへの信頼度を増し、
現代のSNS時代では、口コミ等での好評価にも影響し、
結果的に新製品等の売り上げ増加にも繋がるのだと思う。

(さらに余談だが、近年のヨドバシカメラでは「店内撮影OK」
である、SNSで拡散して宣伝して欲しい、との理由のようだ。
旧来のように店舗内やアート作品、舞台・パフォーマンス系
等の撮影を禁止する文化は、現代では失われて来ている。
まあ、どうせ、そのように禁止しても、マナーや倫理感の
無いスマホユーザーが大半なので無意味だ。
そうであれば、情報の拡散を狙った方が、ずっと現代的だ。
ただ、そういう事が、又は他の飲食店等での「SNS映え」と
いう状況が、その店舗等の商売を無意識に手伝っている、
という認識を忘れてはならない。)
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余談が長くなった。


すなわち、MFレンズでも使い易く無いと、本機をMF母艦に
する事は難しい。私が所有している沢山のMFレンズ、
特にOM用レンズを使う際に、OM-3Ti風のE-M5ⅡLtdは
デザインマッチングとしては最適な筈である。
それが「見かけだけ」になってしまったら意味が無い、
実用的にはPANA機のDMC-G6やSONY NEX-7/α7を使った
方が遥かに使い易い状況だ。これではちょっと困ってしまう。


ただ、本機E-M5ⅡLtdには、さらに重要な長所があり、
それは内蔵手ブレ補正機能が(仕様上)優れている点だ。
これは、オールドレンズをアダプターで使用した際にも
有効であり、オリンパスでは旧来からこの仕様となっていた
のだが、この第四世代ミラーレス機の時代から、他社機でも
こうした機能は一般的になりつつある。

他社機では、レンズからの情報を得られないオールドレンズ
での「焦点距離入力操作」が、電源ON時に毎回表示されて
鬱陶しい場合があるが、オリンパスでは「記憶方式」なので、
それは面倒では無い。ただしレンズ交換をした際に利用者自身
が忘れずに焦点距離変更操作をしないとならないのは当然だ。

なお、純正レンズの場合は、ファインダー内に焦点距離が
表示されるが、アダプター使用時は、焦点距離の手動設定を
行ってもファインダー内に設定後の表示が出ない事は不満だ。
(レンズ交換時に焦点距離の設定変更を忘れる事が良くある為)

それと、GX7の記事(本シリーズ第12回)で述べたが、デジタル
テレコン(本機では2倍のみ)を使用しても、手ブレ補正に係わる
焦点距離の設定を2倍に変更する必要は無い(注:GX7では4倍以上
のデジタル拡大が可能だが、その状態ではさすがに手ブレ補正は
不安定だった。この問題があり、その原因が不明だったので、
以前は手ブレ補正の焦点距離も都度、長く設定をしなおして
いたが、厳密な検証により、不安定なのは、超々望遠領域での
手ブレ補正の精度不足に起因する物であり、デジタル拡大機能
使用時の焦点距離再設定は基本的には不要である事がわかった)

「5軸手ブレ補正」は原理的には強力な仕様ではあるが、
マクロレンズ等を使った近接撮影でよく発生する
「被写体に対する前後方向へのブレ」には、勿論対応は
できない、さすがにカメラ(やセンサー)が自動で前後する
ような機構は現時点では搭載できないからだ。

ただし「フォーカスブラケット」という機能により、ピント
位置が異なる画像を連続取得できるが、AFレンズ用の機能で
あり、当然ながらMFレンズではこの機能は使用できない。

実は今回、OM90/2という大型マクロレンズを使用して
いるのは、手ブレ補正の限界性能テストの意味もある、
換算180mmなので、シャッター速度によってはブレ易く、
かつ近接撮影での前後ブレなどが頻繁に発生し、
勿論、手ブレ以上に、風などによる被写体ブレが極めて多数
発生するマクロ(近接)撮影だ。本機の強力な手ブレ補正
機能でも完全にそれらを全てカバーできる訳では勿論無いが、
どこまで近接撮影での課題をサポートしてくれるのか?
それがポイントであった訳だ。
(ちなみに、冒頭に、MZ30/3.5の高倍率マクロレンズを
使ったのも同様の検証の意味がある)

その評価だが、まあ、やはり「近接撮影では、最先端の
手ブレ補正性能でも十分なサポートは出来ない」という
印象である。
それから本記事では使っていないが、200mm以上の焦点距離
の(MF)望遠レンズでは、AUTO ISOのままでは、低速限界
(切り替わり)シャッター速度が低すぎて、優秀な手ブレ
補正でもカバーしきれない程にシャッター速度が低下する。
(注:換算400mm以上となるので、手ブレ補正機能の
精度も足りていないのであろう)
(追記:結局のところ、望遠系レンズでは本機の手ブレ補正
は有効に働いておらず、手ブレ補正が必要となる望遠撮影で
効かないならば殆ど意味が無く、なんだかカタログスペック
上での見かけ倒しのように思えてきている)

加えて、高速機械シャッター時には内部の機械振動も多い。
結果、ブレを誘発する為、こうした場合には、手動ISOと
するが、ISO感度の頻繁な変更操作が発生して面倒だ。

さらに、ISOを高めると連写時の連続撮影枚数の限界値が
下がってしまう弱点があるので、もう滅茶苦茶だ。

望遠レンズでの手ブレのし易さは、本機の本体形状の問題
もあるので、そういう場合は、OM-D E-M1等を使用する方
が若干マシであろう。(E-M1では、高感度時の連写性能
低下も、本機E-M5Ⅱよりも出にくい。本シリーズ第14回
記事参照)

結局、様々な特殊な撮影条件においては、本機の内蔵手ブレ
補正は、その威力を十分に発揮する事は難しい。
ただ勿論、通常撮影においては、AFは勿論、MFレンズでも
本機の高性能手ブレ補正は十分に有効なので、念の為。
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それから、非常に多機能という特徴がある。もっとも、これに
ついては2010年代以降の殆どのミラーレス機や一眼レフも
同様に超多機能だ。ただ、初級中級層はもとより、上級者層に
おいても使いこなせない機能もあると思われ、ちょっと過剰な
までの、カタログスペッック優先的な仕様だとも思われる。

エフェクト(アートフィルター)は種類が充実している。
特に「アートフィルターブラケット」は有効な機能で、
設定した多数のエフェクトを1度のシャッター、同一構図で
並列的にかけられ、従来のように掛けるエフェクトの種類を
色々と悩みながら選ぶ必要は無い(ただし、PENTAX機やCANON
機のような画像効果の二重掛けや詳細な露出設定は出来ない)
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ARTモードへの移行は、軍幹部左側のモードダイヤルを使うのが
簡便だが、このダイヤルのロック機構は、ON/OFFの設定が
トグル式の機械式構造なのがとても良い。

他社のアナログダイヤルでは、ロックが解除できない状態を
常に強いられてしまう(例、NIKON Df,FUJIFILM X-T1等)
まあ、CANON機のように電子的にロックを行う方法論もあるが
それはデジタルダイヤルにしか効かず、アナログダイヤルの
場合は、本機のやりかたがシンプルかつ遥かに使いやすい。
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その他の本機E-M5ⅡLtdの特徴だが、
秒10コマの高速連写機能があげられる。
ただ、これについては、この第四世代のミラーレス機では、
E-M1 MarkⅡ,SONY α9,α7/RⅢ,PANASONIC DC-G9 Pro
などでも搭載されている機能であり、目新しさは無く、
むしろ新機種に比べて、本機の秒コマ数等は見劣りする。
(注:本機以上の連写速度を持つ機種では、電子シャッター
利用であったり、高速連写時の機能制限が生じる場合もある)

しかし、たとえ秒10コマであっても、デジタル一眼レフと
比べればトップクラスの性能であり、ミラー駆動動作が不要な
ミラーレス機の特徴を最大限に活かしていると言えよう。
(注:だが、前述のように高速連写時の機械振動は大きい)
これはフルサイズ化等のセンサーサイズ差でμ4/3機と差別化
しようとしている一眼レフ陣営との競争においては、大きな
武器となっているであろう。

ただし実用上では、秒10コマは、速過ぎる事も多い
(沢山撮りすぎ、後で編集や選別で手間がかかる)のだが、
本機の秒コマ数は、高速、低速ともに自由に設定可能であり、
かつ、静音連写および低振動連写でも秒コマ数設定が可能で、
このあたりの仕様はとても良い。

例えば、連写中にダイヤルで秒コマ数が可変できたら、さらに
良かったとも思う(その機能は他機を含め実現されていない)

なお、高速連写時の最大コマ数は、JPEGで約19コマと
物足りず、これでは高速連写が約2秒で途絶え、その後は
低速化してしまう為、あまり実用的とは言えない。
また、ISO感度を高めると、さらに連続連写コマ数が減り、
ここは重欠点である(NIKON D300でも同様の欠点があった)

他の色々な記事でも書いたが、実用的には概ね8秒間以上の
連続連写性能が欲しい所だ。ちなみに、この時代の前後以降の
他社機では、バッファメモリーの容量増加等で、連続連写性能
を100枚以上確保している。(注:これ以前の旗艦E-M1では
本機以上のバースト性能を持つ=本シリーズ第14回記事)

それと、秒10コマの連写速度は、旗艦E-M1と同じスペック
であるが、両者のシャッター音は明らかに異なり、違う
ユニットなのであろうか? また、E-M1ではISOを高めても
連写性能は落ちない。それから、同一連写速度でもE-M1の
方が僅かに速く感じるのは気のせいか?

バッテリーは良く持つ。一眼レフも含め、2010年代の
高速連写機では1日の撮影枚数が数千枚にも及ぶ事が
良くあるが、本機においても一種の高速連写機であり、
そのレベルの撮影枚数には対応可能だ。

ただ、これは撮影者のスキルにもよる(ライブビューで
長時間画面を見たり、1枚1枚撮影後に再生確認すれば
当然バッテリー消費は速い。ちなみにワンシーンの撮影後に
すぐ電源をOFFする電池消耗防止の習慣がついている為、
前述のMFレンズでのピーキング機能の電源OFFでの解除が
大きな問題になっている)
なお、充電にかかる時間は結構長くなっている。
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あと弱点としては、多機能故にメニューが複雑化されて
しまうのであるが、スーパーコンパネをカスタマイズできる
程の編集自由度は無い(SONY,PANASONIC,FUJI,PENTAX等
では、それが可能だ)

何故それが必要か?と言えば、増えた新機能(例:フォーカス
ブラケット等)が、メニューの奥深くにある為、速やかに
呼び出したり、細かい設定が出来ない、だから、なんらかの
ショートカット方法が無いとやっていられないのだ。

オリンパス機のスーパーコンパネは旧来、使い易い機能では
あったが、何年たってもそれが進化せず、追加機能ばかりが
増えてしまって、その操作系改善が追いついていない。

それと、フォーカスブラケットと密接な関係のある
「深度合成」機能だが、これを使うには対応レンズを買い、
しかも本機単体では出来ず、外部ソフトを使用する必要がある
という不十分な仕様だ(注:2018年2月のファームェアVer4.0
で、やっと本体内での深度合成が出来るようになった)

また、AFであるが、OM-D E-M1(2013年、本シリーズ第14回)
よりも、本機が後発であるにも係わらず、E-M1にあった
像面位相差AF(DUAL FAST AF)が本機には搭載されておらず、
一般的なコントラストAFのみである。
まあでも、ここは上位機種との「仕様的差別化」であろう。

「カラークリエイター」は色相と彩度が個別に調整でき、
一見有益な機能だが、マルチFnから、これを簡便に呼び出した
として、まず設定可変幅が大きくて、微調整が出来ない。
それと、これを使用すると、それまで手動で設定していた、
ホワイトバランスとピクチャーモード(Vivid等)が解除されて
しまうので、またそれらの設定を手動で戻さなくてはならない。
色相と彩度調整は、これに頼らず、PC上での画像編集が簡便だ。

それから、ISO AUTO時の感度切り替え低速限界シャッター速度
は変更できない。MF望遠レンズ等、レンズの焦点距離に応じて
適正な値を選ぶ為には、この機能は重要なのだが・・
(注:翌年のPEN-Fや、E-M1 MarkⅡでは可能になったが、
1/250秒単速であったり、撮影モードの制限がある模様だ。
OLYMPUSにおけるこの機能は、まだ仕様が練れていない段階だ。
また、同時代のPANA機では、AFレンズではこの値が焦点距離に
応じて自動的に変化するが、アダプター使用時では、低速で
固定となり、手動でも変える事が出来ない)

この問題の回避には、頻繁な手動ISO変更が必須だが、専用の
ISO変更ボタンやISOダイヤルが無く、十字キーへ一旦アサイン
してから前後ダイヤル操作との併用、あるいは1/2機能切換
レバーを変更して前ダイヤルでの操作が必要なので、煩雑だ。

なお、取扱説明書は、肥大化を嫌ったのか?簡易なものであるが、
この程度の内容では多機能を使いこなす為に十分な情報量とは
言えない。例えば「スポット測光」は中央固定となっているが、
これが移動可能か?測距点に連動できるか?などの詳細は
書かれていない。
この状況だと、大半(9割以上)のユーザーは本機の多機能を
使いこなす事は無理であろう。

その他の欠点だが、特に見当たらず、まあ概ね優秀なカメラ
だと言えるであろう。
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最後に本機E-M5 MarrkⅡ Ltd. の総合評価を行ってみよう。、
評価項目は10項目である(第一回記事参照)

【基本・付加性能】★★★★
【描写力・表現力】★★★☆
【操作性・操作系】★★☆
【アダプター適性】★★☆
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★★☆
【購入時コスパ 】★  (中古購入価格:83,000円)
【完成度(当時)】★★★
【仕様老朽化寿命】★★★★☆
【歴史的価値  】★★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.3点

概ね好評価点だ。

評価点が低かったのは「コスパ」と「操作性・操作系」だ。
コスパは、まあ限定版なので、高価なのはやむを得ない。
その課題を相殺できる要素として「マニアック度」や
「仕様老朽化寿命」の高さを期待して購入したのだ。

「仕様老朽化寿命」が何故高い得点なのか?と言えば、
これはもう「OM-3Tiライク(似ている)」なカメラは
この先、まず出て来ないだろうから、周囲の新製品と比べて
も古くならない事が想定されるからだ。

「操作性・操作系」の弱点は気になるが、それについては、
ミラーレス機全般で、増えすぎた新機能に操作系の整備が
追いついていないのは確かだ。
まあ他社機で、操作系が優秀な機体をいくつか所有しているが
それらはむしろ稀である。

実際の所は本機では
「ピーキング機能のFnボタンアサインが必須」および
「拡大操作系が良く無い」というMF時の弱点が目立つ位で
これらはAF時には問題が無く、重欠点とは言い難い。
だが、この弱点は、MFのオールドレンズを使う際には
大きな課題となりうるので、「アダプター適性」の評価を
少し減点した。

他の項目は概ね平均点、でもまあ、悪くは無いカメラだ。

本機ではAFレンズを主体にするか、あるいは、不便を我慢
しつつMFレンズを使うか?そこは良く考えて使用して
いきたいと思う。
しかし、基本的には「OM-3Ti風のMFレンズ母艦」を
目的に購入したカメラだ、MFでの使用を避ける事はできない、
そこに矛盾があるが、まあ、やむを得ないであろう・・

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さて、本記事はこのあたりまでで、
次回もまた、第四世代のミラーレス機を紹介しよう。

【玄人専科】匠の写真用語辞典(16)~ルール・法則編 Part 1

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一般的なカメラユーザー層には普及していない「特殊用語」や
「本ブログ独自の用語や概念」を解説するシリーズ記事。

今回は最後のカテゴリーの「ルール・法則編」のPart1記事とする。
このカテゴリーでは、経験的要素からなる持論としてのルールや
法則について述べるが、ここは誰にでも(どのユーザーにも)
これらが当てはまるとは言い切れず、あくまで独自の考え方で
あるのだが、各ユーザーでこの考え方を任意にアレンジするのは
十分に有りだ、つまり「カメラライフにおいては、何らかの主義や
コンセプトを自身で持つ事が重要である」という視点である。
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<ルール・法則編>Part 1

★1枚3円の法則
 独自概念。

 現代のデジタルカメラは「仕様老朽化」(第8回記事参照)
 により、ずっと使い続ける訳にはいかず、あるタイミングで
 次の機種にリプレイス(買い替え、買い増し)を行わなくては
 ならない。これは購入後の期間(例:5年経ったら買い換える)
 などで判断する手法もあるかとは思うが、本ブログでは明確に
 買い替え時期を意識する手段として「1枚3円の法則」を良く
 掲げている。
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 以下は趣味撮影の範囲での話となるが、この法則は単純に、
「カメラの購入価格を撮影枚数で割り、それが3円に達したら、
 十分に元を取ったと判断し、次のカメラに買い換えて良い」
 という機材購入上での独自ルールだ。
 あるいは正確な用語の意味は異なるが、これを「減価償却」と
 呼ぶ場合もある。

 これは具体的には、
 ・中古3万円で購入のデジカメ→1万枚撮影で償却完了
 ・新品12万円で購入のデジカメ→4万枚撮影で償却完了
 となり、計算自体は簡単だ。

 ただ、これはユーザーの、そのカメラの用途、使用頻度、そして
 中古相場の下落具合など、様々な条件があり、これが容易な場合
 も厳しい場合も出てくる。
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 容易なケースとしては、2010年前後の初期ミラーレス機は
 次々と新製品が出てきて中古相場の下落が速く、高性能機で
 あっても2万円程度の価格で購入でき、7000枚程度の撮影ならば、
 すぐに完了する為、次の機種へのリプレイスは早かった。
(この為、この時期の安価なミラーレス機は「1枚2円の法則」
 とし、ルールを若干厳しくしている)
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 あるいは2010年代前半の高速連写一眼レフは、近年では9万円
 程度の中古相場であり、この場合は3万枚の撮影が必要だ。
 しかし、これらの機種をイベント撮影などで使用すると1日の
 撮影が数千枚に及ぶ事もあり、これらの枚数到達も難しく無い。
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 難しいケースとしては、単写が中心の趣味撮影用途の高級
 フルサイズ一眼レフ等であり、例えば15万円の中古購入であれば
 5万枚の撮影は、単写では容易では無い(何年もかかる)


 また、近年の高付加価値ミラーレス機も、中古12万円とかなると
 4万枚の撮影は容易では無く、さらに厳しい1枚2円の法則では
 6万枚の撮影は到底到達不能だ、仮にずっと使い続けてそれを
 クリアしようとしても、すでに後継機がとんでもない高性能に
 なってきており、買い換えないとストレスが溜まるばかりだ。
(=仕様老朽化寿命、発売後10年迄の法則)

 という事で、この「1枚3円の法則」は、あくまで目安である、
 ただ、なんらかのこうしたルールを持っていないと、高価な
 最新機種を新品で購入した上、次々に新製品に買い換えるなど
 計画性に欠ける購買行動に走ってしまいかねない。

 特に初級層が高級機を欲しがる傾向が強い現代の市場においては
 30万円もする高額カメラを買った初級者が10万枚を撮る事は
 不可能と言えるので、このルールに当てはめてみれば、相当に
 効率の悪い買い物である事は容易に理解できるであろう。

 新製品カメラは魅力的なカタログスペックを並べたてるので
 誘惑の多い製品分野である事は確かだ、そこで自身の購買行動に
 ちゃんとルールを決めておかないと、せっせとカメラ市場に
 大金を貢いでしまっている事にもなってしまう。

 しかし、近年はカメラ市場が縮退しており、各カメラメーカーは
 なかなか事業の維持が厳しい状態だ。そういう点では、あまり
 コスパやらにシビアではない初級中級層には、せっせと高価な
 新製品カメラを買ってもらって、市場を潤して貰いたいという
 気持ちもある。さもないと過去いくつもの事例があったように
 どんどんカメラメーカーが減っていって、寂しいばかりか、
 製品を選ぶ為の選択肢も、どんどん狭くなるからだ(売れて、
 かつ儲かるカメラやレンズしかメーカー側が作らなくなる為)
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 まあつまり、この話は、機材購入側(ユーザー)のコンセプト
(考え方、方針)次第だ。
 この「1枚3円の法則」を「守らなくてはならない」という話では
 無いので念のため。
 私も、近年のカメラ価格の高騰を鑑みて、この法則は適宜
 変化させていかなければならないとも思っている。

★トリプルスリーの法則
 独自概念。

 これはマニア向けのルール(持論)である。
 マニアと呼ぶからには、以下の3つの、3の数字絡みの条件を
 最低限満たすべきである、という考え方(定義)だ。
 ・合計30台以上の機材(カメラやレンズ)の保有数
 ・30年以上前の機材(カメラやレンズ)を所有していて
  かつ使っている(又は使った事がある)事
 ・年間3万枚以上の撮影枚数

 この条件を全て満たす事は意外に難しい。コレクター系の
 マニアであれば、台数と古い機材は余裕だろうが、撮影枚数が
 足りなかったりする。また、ガンガン撮影する実践派マニアは
 年間3万枚の撮影は容易だろうが、古い機材を使っていない。
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 うち、「古い機材」という条件は、何故あるのか?と言えば、
 古い機材を使う事で、現代の機材とどこが異なり、どのように
 技術が発展・進化してきたのか?という点に興味を持つように
 なるからである。現代の機材は確かに高機能だが、それらが全て
 本当に自分の撮影目的にとって必要なものかどうかを判断する
 という意味でも、古いシンプルな撮影機材を使って見ることは
 有益である。

 なお、関連して「同一メーカーの製品ばかりを使っている」という
 状況でも、他社に比べて、それがどこが優れていてどこが劣って
 いるかが判断できない。だから上記法則に「3メーカー以上の
 機材を使っている」という条件を加えてみようかとも思ったが
「トリプルスリ-」にならず、語呂が悪いので見送った(笑)

 なお、この法則での「値」をどれくらいに設定するかも
 人それぞれだ、だが、概ね「マニア」と呼ばれる状況では、
 上記の値は全て満たしてもらいたいとも思う。
 私の場合は、上記条件は自身ではとっくにクリアしており、
 より高い条件を目指して、個人目標値を遥かに引き上げている。
(それもまた、何かを追求するという「マニア道」の一環だ)
  
★保護フィルター5%の法則
 独自概念。

 交換レンズを購入する際、多くの場合で「保護フィルター」の
 同時購入も必須であろう。

 まあ、銀塩時代の一部のマニアでは、保護フィルターの使用は
「たった1枚のガラスでも画質に影響が出る」などと言って嫌う
 人も居た。だが、そうであれば高価な、または貴重なレンズを
 非常に丁寧に扱わなければならず、実用目的には適さなくなって
 しまう。三脚を立てて1日に数枚しか撮らない事もあった銀塩時代
 ならばともかく、デジタル時代は1日に様々な場所で計数千枚の撮影
 というケースも良くある、やはり現代では「保護フィルター」の
 常時使用は必須であろう。
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 では所有レンズの本数が増えたら、保護フィルターはどうする
 べきか? 例えば同じフィルター径のレンズであれば、撮影前に
 いちいち付け替えて(使いまわして)使えない事も無い。
 事実、私の場合大口径レンズのNDフィルターはそうしているが、
(注:カメラの最高シャッター速度オーバーを避ける目的だ)
 NDは、その日の天候(被写体の明るさ)に依存するので、減光率
 の異なるもの(ND2~ND8)を色々と準備しておいて、複数を
 使いまわすことは、やむを得ない。
 が、保護フィルターでは、そんな事は面倒でやってられないので、
 通常はレンズ毎にそれぞれ保護フィルターを装着したままだ。
(注:特にF2.8以上の小口径レンズは、そんな感じだ。
 F2以下の大口径レンズでは、保護フィルターは装着せずに、
 使用環境に合わせてNDフィルターを選択するケースが多い)

 さてここで、保護フィルターの価格は、どう考えれば良いの
 であろうか? 高性能な仕様(薄枠、高透過率、コーティング、
 撥水機能など)の場合は、非常に高価(1万円前後)のものも
 多々存在する。確かに高性能なものは欲しいのではあるが、
 レンズの価値(価格)にもよりけりであろう、例えば中古で
 1万円で購入した安価なレンズに1万円の高級保護フィルターを
 使っていたら、何をやっているのかわからなくなる。

 そこで今回の法則だが「保護フィルター5%の法則」である。
 これは「レンズの購入価格(新品、中古)の5%の金額までを
 保護フィルターに使ってよい」というルール(持論)だ。

 2万円のレンズであれば、1000円のフィルター、これは新品では
 買え無いので中古買いとなるだろう(中古であれば径によっては
 1000円程度までで十分買える)
 10万円のレンズでは5000円が保護フィルター代の目安だ、
 これはフィルター径があまり大きくなければ、新品でも買える
 値段帯だ。

 別に、この5%の法則に拘らなくても、ユーザーが好きに比率
 又は上限金額を決めておけば良い、そこは人それぞれだ。
 ただ「ルールを決めておく事も大事である」という意味だ。
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 なお、超望遠ズームや大口径望遠レンズ等では、フィルター径が
 非常に大きくφ82mm~φ95mmにも及ぶ事がある、このクラスの
 大径保護フィルターは流通量が少なく、中古は稀で、新品は
 高価な取り寄せ品となる場合もある(1万円以上するものもざらだ)
 この場合のみ、5%ルールを保つ事が困難になる事もあるが、
 まあケースバイケースで適宜柔軟に対応していけばよい。

★カメラとレンズ、1対4の法則
 独自概念。

 現代のデジタルカメラと交換レンズにおいて、どちらが価値が
 高いのか?と言えば、当然交換レンズ側だ。
 デジタルカメラは「仕様老朽化」により、時間と共に、どんどんと
 製品価値が低下していく、例えば10数年も前のカメラであれば、
 どんな高級機でも、発売時の1/5~1/10の中古相場まで落ち込む。
 実際の使用上での価値感覚も、だいたい中古相場に連動して来る
 雰囲気であり、「仕様老朽化」により、古いデジタル機は気分的
 にも使用したくなくなってくる。
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 ところが、レンズはあまり価値が落ちない。「オールドレンズ」
 と言うと、レア(希少)で高価なものを思い浮かべる人が多いと
 思うが、それは「投機的」な意味での価値であり、ここで言う
 価値は、あくまで「実用価値」だ。その点においては、例えば
 30年前程度の普通のMF/AFレンズでも、実用上では十分に良く写り
 何ら不満は無いものもいくつもある、つまり良いレンズであれば
 少なくとも20年や30年は継続して使える訳だ。
(注:ちゃんと適切に保管して、経年劣化させない事が重要だ。
 また、描写力は、組み合わせるカメラのセンサー仕様や設定にも
 依存するが、この原理は高度であり、ここでの説明は割愛する)

 AF/デジタル時代になって、各メーカーのマウント仕様の変化等で
 使い難いレンズも出ては来たが、幸いミラーレス時代になって
 どんなマウントのレンズも、ほぼ利用が自由になった。
 そういう意味では、ますますカメラよりレンズの価値が大きい。

 で、この事実に基づき、初級者などがカメラを新調する際には
「カメラよりもレンズの予算を重視するように」と常々伝えては
 いる、だが残念ながら多くのビギナー層は、これが理解できない。
 カメラ本体ばかりに目がいき、レンズの事はちっとも考えない。
(まあ、交換レンズに関する知識が皆無である事も原因だ)
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 なので、例えば10万円の予算で、カメラ本体が8万円相当
 ダブルズームキットが計2万円相当、等という買い方が普通と
 なってしまう、だが、これだとその付属レンズの価値は
 初級層が想像する以上に低く、高性能交換レンズを買った際
 などは、もうキットズームは完全に用途を無くしてしまう。
(つまり、無駄な買い物であったと言える)

 上記のケースでは、予算配分的にカメラ本体が4、レンズが1の
 比率だ、しかし、この持論では、その予算配分は、そっくり反対
 であり、カメラ本体が1に対し、レンズ側4が理想的である。

 例えば同じ10万円の機材購入予算があったとする、これが一眼
 レフでもミラーレスでも良いが、本体は2万円までだ。初級層で
 あれば高性能機でも機能を使いこなせない。少し古い世代の中古
 カメラであれば、この価格でも十分買えるし、上達して物足りなく
 なれば、適宜、高価な機種に買い換えたり買い増しすれば良い。

 残った8万円の予算で、4万円クラスの高性能中古レンズを2本
 買っても良いし、8万円の超高性能中古レンズでも良いし、
 中古2万~2万5000円の中級レンズを3~4本買っても良い訳だ。
 その初級者は、まだ何をどう撮りたいかの、ニーズも持っていない
 からレンズを選ぶのは難しいだろうが、そこは周囲のベテラン層が
 初級者のニーズを聞き出し、または予想して、それらに合致した
 レンズを選んであげれば良いと思う。

 この「カメラ1対レンズ4の法則」は、初級層だけに当てはまる
 ルールでは無く、中上級層でも同様だ。
 例えば、カメラ本体に10万円をつぎ込んだのであれば、
 それに見合う交換レンズ群の総予算は、概ね40万円だ。
 10万円の高性能レンズを4本買うか、20万円の超高価格レンズを
 2本買うか、はたまた安いレンズを沢山買うかは、そのユーザー
 の目的や機材購入コンセプト次第であるが、ともかく予算配分は
 それくらいにする事が適正であると思われる。
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 なお、現代ではマウントアダプター等を使う事も出来、
 この法則の摘要は同一マウントシステムだけの範囲では留まらない
 場合もある(例:SIGMA製高性能レンズをEOS機とSONY FE機で
 兼用している中上級ユーザーも居る。あるいはα7系カメラ
 で多数のオールドレンズを使いまわすマニアも多い等)
 そんな場合では、複数のカメラの購入予算と、複数のレンズの
 購入予算のトータルでの比率が1対4になれば良いであろう。

 例えば、少し贅沢な話だが、ボーナス等が出た上級マニアの
 機材購入予算が100万円あったとしよう、この金額をどう使うか
 というのは、カメラ本体で20万円、レンズで80万円が適正だ、
(勿論ここは複数台の合計金額であっても良い)

 あるいは、自身が今まで購入したきた機材の個々の金額を
 メモしておくなども有効な手法だ。たいてい、カメラ本体側で
 使ってきた予算比率が大きずぎるのが良く分かると思う。
 特に新機種などの購入を何度か続けていると、それだけで
 軽く50万円やそこらの予算が費やされている事に気付くと思う、 
 前述したように、それらは時間の経過とともに実用価値が激減
 して、どうみてもアンバランスな結果になってしまうのだ。
 もし、そうであれば、しばらくはレンズ側の充実へ機材購入の
 視点をシフトするべきだと思う。

 ちなみに、カメラ本体は、使わなければ売却や譲渡もやむを
 得ないと思うが、レンズを処分するのは好ましく無い。これは
 レンズの価値が高い事が理由だが、十年以上もマニアを続けて
 いれば、特にその事は様々に強く実感してくる事であろう。

★オフサイドの法則
 独自概念。

 上記「1対4の法則」に関連して、撮影に使用するシステムに
 おいて、カメラ本体の価格が、使用するレンズの価格よりも
 あまり上回る事は好ましく無い、という法則である。

「オフサイド」とは、サッカーやラグビー等で、プレーしては
 ならない範囲(概ね守備側を超えて突出する)で攻撃するのを
 戒めるルールだ。もしこれを許すと、競技自体がつまらなく
 なったり、フェアでは無い、等の問題が発生するからなのだが、
 これを転じて、カメラ本体の価格が、本来はレンズよりも低い
 価値であるにも係わらずに突出してしまう事を、本ブログでは
「オフサイド」と呼び、これを禁止する持論となっている。
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 その目安は、できればカメラの中古価格(年月とともに落ちる)
 を装着レンズ価格が下回らないようにするのが妥当ではあるが、
 極端に価格の安価なレンズ(例:ハイコスパのシリーズ記事で
 紹介のレンズ群)では、これを守る事が困難な場合もあり、
 あるいは近年の新鋭カメラは、どれも高価になりすぎていて、
 より高価なレンズだけを装着する事が困難な事もある。

 よって、このルールは適宜緩和したりするケースも多いのだが、
 それでも基本は、「カメラをあまり高くしすぎない」であり、
 原則的には、このルールを良く意識すると良い。

 これを意識していないと、そもそも格好悪い。というのも、
 高価な最新鋭カメラのピカピカの新品に、安価なレンズを
 つけて撮影している初級層があまりに多いのだ、これでは
「レンズの価値がわかっていない」、「カメラ本体に予算を
 つぎこみ、良いレンズを買う余裕が無かった」などの印象を
 周囲に与えてしまう訳だ。
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 そうならない為にも、カメラ本体に対する装着レンズの価格は
 少なとも本体価格の1/2以上とするべきであろう。20万円の
 カメラであれば、10万円以上のレンズは使うべきと言い換える
 事もできる。そう考えていくと、あまりに高価過ぎるカメラは
 自身の所有レンズの価値からもアンバランスに感じるように
 なっていく。そうなってくれば、前項で説明した「1対4の法則」
 に、おのずと近くなっていき、理想的なカメラとレンズの予算
 配分が実現していく訳だ。

 なお、この「オフサイド状態」は、より厳密に言えば、価格
 の比率のみならず、性能の比率も要素としてある。
 具体例を挙げれば、AF性能がとても優れた機体に、トイレンズ
 などのAF性能が全く関係無いMFレンズを装着したり、同様に
 AF性能および高速連写性能の優れた機体で動画を撮影する
 なども類似であり、これらも広義の「オフサイド状態」である。
 つまり、カメラとレンズのパフォーマンス(性能)や、用法が、
 どうにもアンバランスな状況を指す用語である。


★焦点距離系列論
 独自概念。

 交換レンズを複数所有(または持ち出す)する際に(注:ここでは
 単焦点レンズでの話で、かつフルサイズ換算での話を主体にする。
 また、単一のカメラでレンズ交換をする他、複数のカメラを同時に
 持ち出すケースも含まれる)
 いったい何mmと何mmのレンズを持っていくべきか?
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 例えば、20mm広角と200mm望遠では焦点距離が離れすぎて
 いて、なかなか被写体探しの統一感が得られない事であろう。
 かと言って、50mm標準と35mm準広角の2本では、焦点距離が
 近すぎて、レンズ交換をしたり、2台のカメラを持ち替えて撮る
 必然性があまり無い。

 このような場合に、レンズを交換する目安となる、焦点距離の
 差異を考えたルールが、この「焦点距離系列論」である。

 まず最初に2つの基本概念(持論)を述べておく。
 1)焦点距離系列は、画角(≒焦点距離)が概ね2倍となる
  比率的な差異を目安とする。
 2)焦点距離系列は2系統ある。
 となっている。

 まず1)から説明しよう。 
 50mmレンズから望遠側に交換する場合、その目安は、100mm、
 200mm、400mmとなる。ここでは、だいたい焦点距離も画角も
 2倍づつ変化する。

 逆に50mmレンズを広角側に交換する場合、28mm,20mmとなる。
 ただし、ここはちょっと焦点距離も画角も2倍とはならないが、
 広角の場合は、人間の感覚的な広さの変化もあってやっかいだ。
 なので、あえてこう定義しているのが1つ、もう1つの理由は、
 単焦点レンズの焦点距離のラインナップ(販売の系列)が、
 こういう感じで普及しているからである。

 で、これをまとめた「焦点距離系列(その1)」は以下となる。
 14mm,20mm,28mm,50mm,100mm,200mm,400mm・・

 別の言い方をすれば、これより細かい焦点距離の刻み幅で
 単焦点交換レンズを持ち出しても レンズ交換の必然性が
 あまり無いという事だ(例:85mmと100mmと135mmレンズを
 同時に持ち出す必要性は殆ど無い、100mmが1本あれば画角的な
 意味からは十分だ)
 あるいは2本を選ぶ際、これらの中からチョイスする。
 例として28mmと50mmを持ち出すという事だが、仮に隣接する
 数字の2本でなくても、28mmと100mmという同系列に乗って
 いれば、あまり違和感が無くレンズ交換が可能なように思える。


 なお、勿論これは画角的な意味の差だけの話であり、レンズ毎の
 開放F値の差による被写界深度の差やら、最短撮影距離の差による
 用途の違い、撮影技法の違い、等はこの持論には含まれない。

 またこれは単焦点レンズでの話であり、ズームには摘要されない
 のではあるが、それでも例えば、50-100mmのズーム等は、
 あまり画角的な用途は多くは無く、75mmや85mmのレンズを1本
 持っていれば、たいてい対応が可能だ、という話にも繋がる。
 そして現代のデジタル機の写真ではトリミングも容易である為、
 ますます画角的な意味での汎用性は銀塩時代よりも高い。

 さて、「焦点距離系列」の2)の話で「2つある」というのは、
 上記の焦点距離(画角)が2倍変化する系列を、個々に√2倍
 前後変えた系列があるという事だ。
 これについては、ここも概ねの焦点距離での話なのだが、
 12mm.17mm,24mm,35mm,85mm,135mm,300mm,
 600mm・・ という 「焦点距離系列」(その2)が有りうる。

 
 これもまた、レンズ交換の目安として有益であり、例えば
 旅行や気軽な散歩撮影等で被写体が特定していない場合等は、
「35mmと85mmの2本を持っていく」などの目安となる。
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 さて、この2種類の系列には。実はユーザー毎の好みが
 銀塩時代には存在していた模様だ。
「オレは広角は28mm派」という人は、24mmや35mmは苦手に
 感じてしまう事があった、けどそれは1つは28mmの画角感覚が
 身についているから、そこと少し違う画角は違和感を感じる
 という要素がある。しかし、それ以上に「系列の好み」が
 存在していた模様であり、28mm派は、50mmも100mmも
 何となく使いこなせるが、28mm派は、85mmや135mmは
 違和感がある模様だ。
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 で、デジタル時代に入って、当初APS-C機が主体で普及した為、
 上記の2つの「好みの系列」が、そっくり入れ替わってしまった。
 50mm派は、APS-C機では75~80mmの画角となり、とても違和感
 を感じる、同様に旧来の35mm派は、およそ50mmの標準画角が
 どうにも撮り難かった模様だ。
 これは画角が変わったからよりも「好みの系列」が変わって
 しまった理由もあったのだろう、と推察している。
 
 デジタル初期には、この問題への対策の為、中級マニア層を中心に
 APS-C機で標準画角となる「35mmレンズ」の需要が急増した、
 中古市場からは35mm近辺のレンズが一掃され、ほとんど入手不可能
 になってしまったのだ。数年でその傾向は沈静化したのは、1つは
 新しい「焦点距離系列」にユーザー側が慣れたこと、もう1つは
 APS-C機専用30mm/F1.4標準など、従来の系列と反転した単焦点や
 新規の系列に対応したズームレンズも普及してきたからであろう。
 
 ただ、そう考えると、やはりこの「焦点距離系列」は単なる
 利用者の好みや慣れに依存していたのだろうと思われる。
 要は、どんな焦点距離であっても、あるいは、それがフルサイズ、
 APS-C、μ4/3などで画角が変わっても、すぐに画角感覚を
 アジャストできるようになれば良い、と言う話だと思う。

 沢山の焦点距離の単焦点レンズで、個々に沢山の写真を撮れば
 その画角感覚は養われていく、それがまたズームを使った際での
 スキルアップにも繋がると思う、実際には「焦点距離系列論」
 よりも、その点(画角感覚の習得)が遥かに重要だ。

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さて、今回の記事は、このあたりまでで、
次回は、「ルール・法則編 Part2」の用語解説を行う。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(5)SIGMA DN レンズ

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。

当初は「物凄く特殊なレンズ」のみを紹介する予定で
あったし、ここまでもそういう感じの記事展開であったが、
それだと、あっと言うまにシリーズも終わってしまう。
せっかくなので、少し「マニアック度」を落とし、「やや
特殊なレンズ」に迄紹介範囲を広げ、およそ全50回程度、
レンス数の総計200本強のシリーズ記事とする予定だ。
いずれの記事も「カテゴリー」を意識し、何らかの共通性
を持つレンズ群の紹介とする、まあいわば「総集編」だ。

今回の記事では、SIGMA製DN型番のレンズを4本紹介しよう。
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SIGMAにおける「DN」とは、Digital Neo(デジタル ネオ)
の略であり「ミラーレス機(APS-C型以下)専用のレンズ」
という意味だ。
なお、「DC」は「APS-C型以下」という意味であるが、
こちらは、ミラーレス機以外の一眼レフでも付けられる
型番である。

今回の記事では、APS-C機以下のミラーレス機専用(μ4/3
およびSONY Eマウント)の交換レンズ、つまりDC DN型番
のレンズを取り上げるが、DN型番のみで販売されている
レンズもあるので、便宜上「DNレンズ」と呼んでいる。

このDN型番のレンズは2019年現在、6本のレンズが存在して
いる。Art Lineに3本
(A19/2.8DN,A30/2.8DN,A60/2.8DN)
Contemporary Lineに3本
(C16/1,4DC DN,C30/1.4DC DN,C56/1.4DC DN)
・・なのだが、私の所有している物は、C30/1.4と新鋭の
C56/1.4を除く4本のみで、今回、それらを順次紹介する。

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まず最初のシステム
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レンズは、SIGMA 60mm/f2.8 DN | Art
(中古購入価格 14,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)

2013年発売の小型単焦点中望遠相当レンズ。
μ4/3機用マウント(他にSONY EマウントAPS-C対応版あり)
での購入につき、120mm相当の中望遠画角となる。
最短撮影距離は50cmと、さほど寄れる仕様では無い為、
マクロレンズ的な用法は苦しい。
(つまり、MF/AFの50mm標準レンズを使えば、普通45cm
まで寄れるので、本レンズと大差無い)

しかし、μ4/3機はオリンパス機にもパナソニック機でも
デジタル拡大機能を備えている機種が殆どなので、撮影倍率
自体の不満は(仮想的に)やや解消できる(注:かと言って、
デジタル拡大をしても、寄れるようになる訳では無いので、
撮影アングル等の制約=どの角度からでもは自由に撮れない、
は元のままだ)
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本レンズは、開放F値もF2.8と控え目であって、SIGMA
[Art Line]のレンズ群の特徴である「多大なボケ量」
(すなわちArt Lineの単焦点レンズは、殆どが開放F1.4だ)
は期待できない。

まあ、そうやって弱点をあげていくと「では、このレンズを
どんな被写体に使うのか?」という疑問が沸いてくるだろう。
そう、その「用途不明」な点が、本レンズの最大の課題である。

しかし、このレンズ、そういう不満を払拭してくれるくらいに
ともかく良く写る。解像感、ボケ質、逆光耐性、ボケ質破綻が
少ない等、いずれも文句のつけようが無いくらいであり、
しかも最大の特徴として「非常に安価」だ。

定価で24,000円、新品実売1万円台後半、中古は現在では
1万円前後から入手できる。この価格帯で、この良好な描写力で
あれば、コスパ的な不満は一切無く、「高コスパレンズ」の
筆頭格と言っても過言は無いであろう。

じゃあ、その「用途不明な点」はどう解決するのか?
う~ん、そこが、やはり問題点だ・・

実は、他のDNシリーズのArt Lineのレンズは、シグマの高性能
(高級)コンパクトの「dpシリーズ」の搭載レンズを単体発売
したものだ。

すなわち、
Art 19/2.8 DN=dp1(メリル以降)の搭載レンズ
Art 30/2.8 DN=dp2の搭載レンズ
となっている。

で、dpシリーズは、dp0からdp3まで4機種が展開されていて、
超広角、広角、標準、中望遠、の単焦点をそれぞれ搭載している、
という非常にマニアックなラインアップである。

中でも、dp3は、さすがに中望遠の単焦点では用途がかなり
制限されるからか? 50mm(換算75mm相当)の準マクロ(1/3倍)
レンズを搭載していて、そういう近接用途に向いたカメラだ。

dp1,dp2用レンズが先に単体発売され、本Art 60/2.8の発売が
遅れた為、私は当初は「dp3と同じ、50mm/f2.8準マクロが
単体発売される筈だ」と思い込んでいた。

しかし、蓋をあけてみると、新発売された本レンズは、
60mm/f2.8の仕様で、準マクロでもない。

少々がっかりはしたが、まあ良く考えてみれば50mm/f2.8の
レンズは銀塩時代から現代に至るまで「標準マクロレンズ」
の代表格として、非常にありふれたスペックである。
しかも他の標準マクロは、最低でも1/2倍、普通は等倍だ。
そこに新たに1/3倍の準マクロを投入しても勝ち目は無い。
それを買うよりも、巷に新品でも中古でも溢れかえっている
「標準マクロ」を買った方が手っ取り早い訳だ。

なので、「あえてスペック被りを避けて60/2.8にした」という
想像が妥当だと思われる。
でも、これが結局、本レンズが「用途不明」となってしまった
原因なのだろう。

では発想を逆転しよう、「用途開発」を検討する訳だ。
本レンズをどんな用途に使うべきか?
この視点からは、考えられる被写体ジャンルとしては
「人物撮影」「フィールド(自然)撮影」、「中望遠スナップ」
がある。
だが、これらのジャンルにおいては、代替できるレンズも多い、
例えば50mm/F1.4,85mm/F1.4,90mm/F2.8Macro等を持ち出せば
それらの「定番レンズ」の方が、被写体適合性が高い。
(背景をボカす自由度が高かったり、寄れて撮影できたりする)

そこで私が出した結論は、本レンズは「消耗用レンズ」として
使う事だ、すなわち、小型軽量でハンドリング性能が優れていて、
安価なので過酷な環境で壊しても問題無い、しかも写りは文句
なし。なので「小旅行、雨天、予備レンズ」といった用途に
用いる訳だ。その目的であれば、まあ使えない訳では無い。

「ハンドリング」において欠点が1つある。
それは、本レンズ(およびA19/2.8,A30/2.8も同じ)では、
小型軽量な点は良いが、このレンズを持ち運ぶ際、カメラに
未装着または装着してカメラの電源が入っていない状態で、
「カタカタ」と内部から音がする事だ。

これは一応正常であり、カメラの電源を入れると、その浮遊して
いたAF系の部品が電磁的に正しい位置にセットされる(のか?)
全く音がしなくなるが・・ どうにも気持ちが悪いし、カメラを
首から下げていて、ずっとカタカタと鳴っていると、周囲の人
からも「何それ? 壊れているの?」と不審がられてしまう。
私は数百本のレンズを所有しているが、こういう特性があるのは
SIGMA Art DNの3本だけであり、なんとも仕様的に不満だ。
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他の欠点だが、Art DNの鏡筒デザインは、銀色または黒色の
鏡面塗装版を選べるのだが、まず、銀色鏡筒版を購入しても、
付属のフードは黒色のものだ。これはデザイン的にアンバランス
である為、私の場合は、色の似ている社外品銀色フードを別途
購入したのだが、この状態では、フードを装着したままレンズ
キャップが微妙に嵌らない。
そして銀鏡筒版は指紋等がつきやすく、毎回使用後に鏡筒を
清掃する必要がある。

まあでも、これらは、あくまでデザインや見た目の問題であり
撮影や描写力という点に関しては、全く関係は無い。
撮影に関係する弱点としては、鏡面仕上げである為に、表面が
ツルツルで、MF操作性が劣る事である。
まあ、ゴムやらのピントリングの方が廻し易いのは確かであり
これはデザインを優先した結果であろう。

ただ、「MF操作性」に関しては、より深刻な問題点があり、
これらのミラーレス機用レンズ群は「無限回転式ピントリング」
を採用している。これはArt DN型に限らず、他社製品も含め、
ほぼ全てのミラーレス機用普及AFレンズで、その仕様である。
しかしこれでは、手指の感触で無限遠から最短撮影距離までを
自在に扱う「MFの基本撮影技法」を行う事が出来ない。

この結果、ミラーレス純正レンズを「正しく」MFで操作する
ことは、どれも不可能であると言え、正当では無いMF使用法を
行うしかない。

「正当では無いMF使用法」とは・・
1)常にAFを基本として被写体にピントを合わせようとする。
2)AFが上手く合わない場合、または、測距点の位置や精度の
 問題で、好ましい合焦距離(位置)が得られない場合、
 シームレスMF操作に移行し、レンズ側の無限回転式ピント
 リングを廻すと、速やかにMFモードに入る。
3)MFモードに移行した場合のみ、ピーキングやMFアシストの
 機能が使える。
となっている。

この「MF操作系仕様」は、メーカーが決めたものではあるが、
正当なMF使用法からすると誤りで、正しくは、以下になる。

1)被写体条件に応じて、MFでしか合わないだろうと予め予測する
2)カメラをMFモードに予め切り替える、その時点で、ピーキング等
 のMFアシスト機能は必須であるが、自動画面拡大機能は構図確認
 が出来なくなる為に不用だ。
3)レンズ側の有限回転式ピントリングを、予め、被写体距離に
 応じてセットする、又は、出現した被写体距離にほぼ合致する
 ピント位置を手指の感触で調整しておく。
4)MFレンズで絞り環が存在する場合には、被写界深度も意識して
 予め絞り値を必要な値にセットする。
5)空を見上げて撮る等で露出補正が必要になったり、シャッター
 速度オーバーの可能性があるならば、それらもこの段階で
 調整する。
6)ここで初めてカメラを構え、ファインダーを覗く。
 殆ど撮影距離も合っていてカメラ設定も終了している為、再度の
 カメラの構えなおしは不用だ、ここでピントのみ微調整をして
 ピーキング等で被写体を捉えたら、速やかにシャッターを切る。

これの実例としては、空を飛ぶ野鳥、空を飛ぶ昆虫、などの
高速かつ不規則動体の撮影において、顕著に分かる事であろう。

それらは「正当なMF使用法」を使わない限り撮影は出来ない。
現代のミラーレス機等のMF仕様では撮影は絶対に不可能とも言え、
勿論、どんなに優秀なAFを使おうが、空を不規則に飛び回る
小さいトンボ等には絶対にピントは合わない。
で、実際に、こういう例は結構多く、特に望遠系の自然撮影分野
では必須だ。
しかも、この技法を練習しておけば、それ以外のMF撮影はずっと
難易度が低い為、楽に撮れる。

基本的には、様々な撮影シーンにおいて、カメラを構える前に
各種カメラ設定(ピントも含む)を、予め行ってからカメラを
構える事が必須である。そうでないと、カメラを構えた後に
カメラ設定操作がまた必要となって、多くの場合、それはカメラ
の構えを一旦解く必要があって、重要な撮影機会を逃してしまう。

カメラを構えてから撮影するまでは、少なくとも数秒以内、
できれば1秒間以内で撮影を行いたいのだ。それもまた撮影機会
を逃さない為の必須技法である。
(参考:別途「匠の写真用語辞典第11回、第12回記事」の、
<MF技法・MF関連>編を参照の事)
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余談が長くなった・・
本レンズA60/2.8の描写性能そのものには不満は無い、
あるとすれば、ミラーレス機や一部の一眼レフ用レンズでの
MF操作性仕様の問題点だけだ、それは本レンズの責任では無い
ので、ここでは不問だ。

「用途不明」な点は気になるが、描写力自体は高いレンズであり
様々な撮影用途における予備レンズまたは消耗用レンズとして
推奨できる。勿論、圧倒的にコスパが優れる点は大きな長所だ。

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では、次のシステム
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レンズは、SIGMA 19mm/f2.8 EX DN
(新古品購入価格 7,000円)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機だが、APS-Cモードで使用)

本レンズはSIGMAの初代dp1の後に発売された、dp1メリル(以降)
の搭載レンズが単体発売されたものである。

高描写力で、広角レンズとして必須の逆光耐性は高いし、
フードも付属している。また、歪曲収差も全く気にならない。
最短撮影距離は20cmと、19mmレンズとしては標準的な性能で
もう一声寄れては欲しいのだが、まあそれは無い物ねだりだろう。
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また、本レンズは、SIGMAがArt LineやContemporary等の
ラインナップ整備を行った2013年の、直前の2012年に
発売されたレンズであり、当時の名称でEX DN型となっている。
その後にラインナップ整備により、Art Lineに統合されて
外観変更を行い(注:内部レンズ構成は同一)、価格変更も
なくて、名称が19mm/f2.8 DN | Art となった訳だが・・

その年、この旧型レンズは中古市場に「新古品」として大量に
流通した、私もその在庫処分品を購入したので、極めて安価に
購入する事ができた。

で、本来開放F2.8程度のスペックであれば、大口径レンズが
大半のArt LineではなくContemporary(現代的な仕様の
ズームレンズや高コスパレンズが分類される)に入っても
おかしくは無かったとも思われるのであるが・・
その点については、SIGMA自慢の高級コンパクトdpシリーズの
搭載レンズであるから、高性能の証のArt Lineを謳わなくては
ならない、という政治的・販売戦略的な理由が想像される。

でもまあ、さすがにdp1搭載のレンズである、これもまた描写力
的には、何も不満は無い。しかも価格も恐ろしく安価だ。
(新型のArt版であっても、中古は1万円前後で購入可能)
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想定される用途としては「風景」「スナップ」「集合写真」
「イベント全景等の説明用・記録用写真」「建築物」などが
あると思うが、私の場合、本レンズを「舞台・ステージ撮影」
に持ち出す事もあった。

ただ、暗所で行われる場合が多いステージ・イベントであるから、
ISO感度を適宜高めるなどの必要性があったのは確かであり、
その目的には、後年の大口径仕様のC16/1.4 DC DN(後述)
の方が適している事もあって、現在では、そちらのレンズが
その用途としての主力レンズと想定している(それでも色々と
課題はある、それは当該レンズの説明で後述する)
c0032138_17491114.jpg
さて、本レンズの弱点は特には無い、小型軽量で高描写力かつ
コストが安価である事から、常用から消耗用まで、なんとでも
活躍の場はある。

なお、画角的には、1.5倍となるAPS-C(SONY E)機で使うと、
28mmと慣れた広角画角となって使い易いが、μ/3機では、
38mmと、ちょっと広角用途には厳しくなってしまう。
(それ故に、SONY Eマウント版を購入した)

ただ、本レンズの発売以降、SONY Eマウント機はα7系/α9系
のフルサイズ機が主流となってしまい、それらに本レンズを装着
した場合、「APS-C撮影」に自動または手動で切り替えて使う
事となる。α7では、自動切り替えが一瞬だけ遅れる場合も
あるが、そこは大きな問題では無い。むしろAPS-Cに自動切り替え
されると記録画素数が大幅に減少するので、所望する解像度に
満たなくなる場合がある為、予めLまたはMサイズと、大きめの
画素数を選択しておく必要がある。
まあ、面倒であれば、NEX系やα5000/6000系で使用した方が
そうした心配(画素数が減る)が無いので使い易いであろう。

それから、旧型はデザインが地味である。まあでも新型の
鏡面仕上げになったところで、大きな差異は無いとは思う。
無限回転式ピントリングである事は、広角レンズであるが故に
ほぼ100%がAF撮影となり、MF操作はまず行わない為に不問だ。

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では、次のシステム
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レンズは、SIGMA 30mm/f2.8 EX DN
(新古品購入価格 7,000円)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7(μ4/3機)

こちらも前述の19mm/2.8 EX DNと同様に、Art型になる前の
2012年発売の旧型レンズで、在庫処分品として極めて安価に
購入する事ができた物だ。
Art型との差異は、例によって外観が異なるだけであるが、
この旧型にはフードは付属していなかった(最初から付属して
いないのか、または欠品だったか?)

最短撮影距離は30cmと、30mmレンズとしては標準的。
(最短=焦点距離の10倍の法則)
そして開放F値も2.8と、総合的に、あまりに地味なスペックで
あるので、本レンズによる特別な撮影用途は考え難い。
そこで、μ4/3機用の「常用標準レンズ」(60mm相当の画角)
または「消耗用標準レンズ」としての購入となった。
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特別な撮影用途が殆ど無い為、今回の試写では、DMC-GX7に
備わるデジタル拡大(テレコン)機能を用いて、撮影倍率を
高めた「擬似的なマクロ撮影」を主体としよう。
(注:これは一種の「用途開発」だ。つまり様々な用法を想定
して、その目的に適切かどうかを試してみている訳だ)

なお、DMC-GX7のデジタルズームは画素減少による物で画質劣化
は無いが、デジタルテレコンでは拡大処理が入るために、画質が
劣化する。具体的には、4倍とかに拡大率を高めると、輪郭線が
極めて強く出て不自然な描写となるが、それは十分承知の上で、、
それもまた「面白い描写特性」として捉えるのが良いであろう。

それから、DMC-GX7には内蔵手ブレ補正機能があり、本レンズ
を装着時には、何も焦点距離設定を行わずとも有効である。
シームレスMF機能を用いれば、ピントリングを廻す事で、
ピーキングや自動拡大、距離指標表示等を任意に設定可能だ。

ただ、例によって「無限回転式ピントリング」であるから、
最短撮影距離の限界近くでの近接撮影では、極めて操作性が
悪くなる。その理由は、本記事で前述しているのであるが、
いったいなぜ、どのミラーレス機用のレンズも、このような
不条理な仕様となってしまったのであろうか?

その原因は、以下のようなものしか考えられない。
1)設計側(メーカー)が、正当なMF使用技法を知らない。
2)ユーザー(利用者)側が、正当なMF使用技法を知らない為
 利便性の高い(注:誤解だ)と思われる仕様を望んでいる。
3)設計側は正当なMF技法を知ってはいるが、なんらかの理由で
 それを搭載できない。その理由とは
 3A)ミラーレス機の場合は「無限回転式ピントリングとする」
   という協定またはルールが業界内で決められてしまっている。
 3B)「初級者がミラーレス機の主要ユーザー層である」と仮定
  している為、高度なMF利用法をあえて無視し、理解が容易な
  仕様としている。

しかし、どの理由であったとしても、あまり納得が行く話では無い、
特に3B)は非常にまずく、それはまあ、ミラーレス機が出てきた
ばかりの2010年前後であれば、そのユーザー層は、ほとんどが
ビギナー級であったのだが、2013年にSONYからフルサイズの
ミラーレス機が発売されてからは、他社においてもハイエンド級の
機体には、上級者または職業写真家層でも使えるレベルの性能や
仕様を与えているではないか。近年ならばなおさらであり、
2018年秋からの各社一斉のミラーレス機のフルサイズ化戦略
(注:一眼レフの市場縮退を受けての戦略転換だ)により、
ミラーレス機のユーザーニーズは大きく変化して来ている。

これらの上級者層が「AFで合わなかったから、MFに切り替えよう」
などという非効率的な撮影技法を使うはずが無い。難しい被写体
条件であれば最初からMFで確実なピント合わせを行う事は明白だ。

結局、現在のミラーレス機専用レンズでは、どんなレンズを
購入しても、ほとんど場合、MF性能(操作性)は失格である。
(注:ごく稀に、有限区間式の無限回転ピントリング仕様の高級
レンズもあり、その場合、かろうじて手指の感触と、搭載されて
いる距離指標により、正当なMF使用技法が実現できる。
だが、最初からMFに切り替えておく必要があり、やや煩雑だ)

あまりにこういう状態が酷くなると、上級層や職業写真家層は
いったんミラーレス機に傾きかけた状態から、また一眼レフに
戻ってしまうかも知れない。(まあ、もっとも近年の一眼レフ用
レンズも、同様に無限回転式となっているので、不満がある)
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まあ、私個人的には、必要に応じて、ミラーレス機と一眼レフを
使い分けているので、基本的には、どうでも良い事ではあるが、
一般的な視点からは、一部の本格的ミラーレス機製造メーカーは、
もう一眼レフには注力していないか、または一眼のラインナップは
皆無である為、上級ユーザー層がまた一眼レフに戻ってしまったら
とても困る事になるだろう。
(注:一眼レフ用の交換レンズが無限回転式となっても、
一眼レフの方が全般的にミラーレス機よりAF精度/速度の
性能に優れる為、AFの使用頻度が高くなり、MFの頻度が少なく
ピントリング仕様は、課題となりにくい)

その結果、カメラ市場が混迷して、さらに縮退してしまったら、
カメラ価格が高くなったり、魅力的な新機種が出なくなったり、
中古流通が減ってしまったり、最悪はカメラ事業から撤退する
メーカーがまた出てきて機材の保守や更新が出来なくなるなど、
ユーザー側への影響(デメリット)も非常に大きくなってしまう。

「たかがピントリングの仕様だ」等とは思うなかれ、
操作性や操作系は、写真撮影において、極めて重要な比率を
持つ要素だ。
現代では、ユーザー層もメーカー側も、その点にあまり注目して
おらず、カタログスペックばかりを気にしている。
けど基本的にそれは間違いだ、何故ならば、もう現代のデジタル
機は、一眼レフでもミラーレスでも、性能的な改善の余地が殆ど
無いまでに進化のピークを迎えてしまっている。
だからもう、ISO感度が何百万になろうが、連写速度が秒何十コマ
になろうが、実用的には全てオーバースペックなのだ。
よって、今の性能のままでも、よりその性能を引き出すために、
あるいは、より速やかな撮影が出来るように、そういう視点で
カメラの操作性や操作系を改善しなくてはならないと思う。

その論理は当然であろう、そうして行かないと、あるタイミングで
ユーザーは皆、そっぽを向いてしまうかも知れない。
(実際に、もう一眼レフはそっぽを向かれているかも知れない。
だからこその、2018年からの各社一斉のフルサイズ・ミラーレス
機への戦略転換か・・)

1990年代のAF時代、ユーザー層の誰もが新機種のAF一眼レフへの
興味を失い、中古のMF一眼レフやレンジ機、高級コンパクトに
興味が行ってしまった。これを世間では「中古カメラブーム」と
呼んだが、実際は一眼レフメーカーには大打撃であった事だろう。

現代では、その頃からは、メーカーの開発陣もユーザー層も
世代が入れ替わり、その事は忘れてしまったのかも知れないが、
そういう悲劇を繰り返さない為にも、1990年代と同じような
「過剰なスペック競争」は行うべきでは無い。

ちなみに、1990年代後半から、ひっそりと存在していたAF一眼
レフの「名機」は、いずれも操作系に極めて優れる機体ばかりだ。
その件が評価されなかったのは、その後にすぐにデジタル時代に
入ってしまい、中古カメラブームも終焉して皆が新しいデジタル
一眼レフに興味を示した結果「うやむや」になっただけであって、
現代の状況では、スペック競争は必ず行き詰まりを見せる。
その際、操作系や操作性やらの配慮が重要である事に気づいたと
しても、もう手遅れかも知れない訳だ。

あるいは、上記の1990年代後半の名機の操作系についても、
ユーザー側の誰も、その利点を理解できなかったか、だ。
高価な新機種をどんどんと買ってくれるユーザー層は、殆どが
初級者である為、そうした高度な操作系等への理解は不可能だ。
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余談ばかりで、本レンズ 30/2.8 DNの話がちっとも出てこないが
総括としては、あまりに地味なレンズであり、これもまた
「用途不明」であろう、ただ、描写力もコスパも、勿論文句なし
ではあるので、ユーザー毎で、うまく「用途開発」をして
使う必要があると思う。

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では、今回ラストのシステム
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レンズは、SIGMA 16mm/f1.4 DC DN | Contemporary
(新古品購入価格 38,000円)(以下、C16/1.4)
カメラは、SONY α6000 (APS-C機)(一部NEX-7も使用)

2017年に発売の新鋭レンズ、恐らくは展示品と思われる
最初に出た中古品を購入したので、若干高価であった。
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本レンズは、コンテンポラリー・ラインに属する事と、
DNに加え、DCの型番が付くことが特徴だ。
SIGMAにおける「DC」とは、「APS-C機専用」という意味だが、
2000年代からこの用語が使われていた為、一般的には
「デジタル専用」と呼ばれる場合もある。

しかし、2010年代後半の現代では、デジタルカメラの主流は
一眼レフもミラーレスもフルサイズ機である為、これまでの
「デジタル専用」の呼び名が、そぐわない、または適正では
無い場合も多々ある。
なので、SIGMAや、それ以外のメーカーのレンズであっても、
中古流通とか、一般会話、一般資料等においての
「デジタル専用」の呼び方は、現代では曖昧なので非推奨だ。

SIGMAにおける「DC」型番が「APS-C機専用」という事ならば
それは意味がある。何故ならば、Contemporary Lineのレンズ
には、フルサイズ対応と、APS-C(以下)専用との2種類が
混在している訳で、明確にそれは区別しなくてはならない。

まあ、SONYやNIKONのフルサイズ一眼レフに装着する場合は、
自動的にAPS-Cに切り替わるので、画素数減少の件を除き、
大きな問題にはならないが、例えばEF(EOS)マウント版等では、
フルサイズ機には、そもそも装着できない場合もあるので、
間違えて購入しない為にも、DC型番で明確に区別しておく
必要性がある。

さて本レンズであるが、大柄である。これは大口径開放F1.4
を実現する為だと思うが、それにしても、他のこれまで紹介した
DNレンズ3本が、いずれも100g台の重量であったのに、本レンズ
C16/1.4は400gを超えて、サイズ感がまるで違う。
当然フィルター径もφ67mmと大きい(他はφ46mm)

この大きさは、使用するカメラとの組み合わせに制限が出て
きてしまい、例えばSONY α7(初代。α7系では最軽量で
本C16/1.4と、ほぼ同じ重量)との組み合わせは、持ち難くく、
バランスが悪い。

これはカメラ本体の重量が増えれば改善されるという訳でもなく、
ホールディング時の重心位置とかにも微妙に関係があり、
私の場合、α7よりも100g以上も軽量なα6000(あるいは
NEX-7)で使用した方がバランスが良く感じる。
その為に、今回はα6000を母艦として使用している他、
通常時でもα60000又はNEX-7に装着する事にしている。

SONY機に装着時の換算画角は24mm相当。他にμ4/3機用の
バージョンが存在するが、広角である特徴を活かすならば、
Eマウント版しか選択肢が無い(他に希望するのは、現在は
無いFUJIFILM Xマウント版の発売だ、そのマウントには
本レンズと同じスペックの XF16mm/f1.4 R WRの純正レンズ
が存在するが、本レンズの3倍ほど高価なので、入手し難い)


本C16/1.4の最短撮影距離は25cm、ここはもう一声、寄れて
欲しいところであり、例えば前述のFUJI純正品は、15cmまで
寄れるので、それは「焦点距離の10倍法則」を満たしている。
本レンズの仕様では希少な「広角マクロ」用途には向かない。
(例:2000年代のSIGMA AF24mm/f1.8 EX DGフルサイズ用
では、本レンズと同じ焦点距離で、18cmまで寄れて、
広角マクロとしての利用ができた)
(なお、この市場課題への対応の為か?近年の新鋭海外製
レンズでは、MFながら広角レンズでは最短撮影距離を短縮
したものも多い→七工匠やMeikeなど、後日紹介予定)

あと、問題点としては、開放F1.4は日中屋外の撮影では
明る過ぎる事である。母艦のα6000は1/4000秒機なので、
そのまま開放までは使用できず、日中はND4またはND8の
減光フィルターの使用が必須だ。

なお、絞り込めば勿論シャッター速度オーバーにはならないが、
そうであれば、例えば前述紹介の (A)19mm/f2.8を使った方が
遥かに小型軽量でハンドリングが良く、描写力もどちらも
良好で大差は無いし、おまけに19mmの方が遥かに安価だ。
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結局、本レンズもまた適正な用途が難しい。
私の場合は、本C16/1.4は「暗所のステージ撮影」を主目的
と想定して購入している。
16mmレンズであるから、被写界深度はそこそこ深く、多くの
ケースで舞台等での奥行きに対応できるし、A19mm等のF2.8版に
比べて、4倍速いシャッター速度か、または2段低いISO感度で
撮れるので、様々な点で有利である。
ただ、その手の撮影ではカメラ3台の手持ち体制である事が
普通であり、本レンズを含むシステムは重量がややかさむ為、
想定した用途では使い難い事もわかってしまった(汗)

他には、あまりこれと言った用途は考えられない。
以前、どこかの観光地で私と立ち話をした見知らぬカメラマニア
氏が、このレンズを”風景撮影用に欲しい”と言っていたので、
匠「風景撮影だったら、他のもっと小口径なレンズで十分です」
と答えておいた。
風景撮影ではどうせ使わない開放F1.4の為に「大きく重く高価」
という「三重苦」や、大口径化による諸収差の増加(設計上で
補正困難)は、褒められた話では無いからだ。

すなわち「口径比(開放F値)が明るいレンズの方が、高性能
で高描写力なのだ、だから高価なのだろう」と初級中級層が
思い込む事は大きな誤解であり、真実はむしろ真逆である。

「同一の技術水準」でレンズを設計するならば、開放F値は
暗ければ暗いほど、諸収差が減少して描写力は高くなる。
しかし、そんなF値が暗いレンズを発売しても、初級中級層は
興味を持たず、まず売れないし、無理に売ろうとしても定価を
下げざるを得ないから、メーカーも、そうしたレンズを作らず、
設計を無理して、大口径レンズを発売せざるを得ない状態だ。

本レンズは、使用目的が難しく、その用途によっては、
コスパもあまり良いとは言い難いレンズではあるが、まあ一応
参考まで・・
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最後に注意点だが、本記事で度々出てきた「用途開発」の件だが、
本来、レンズは購入する前に、その用途を想定してから買うのが
大原則だ。
だが、今回紹介の30/2.8は、在庫処分品で極めて安価だった為、
「衝動的に」購入してしまっていた(汗)
こういう場合、後から「何に使おうか?」等と考えるのも
「まあ、やむを得ない」と言い訳は出来るのだが、ラストの
C16/1.4等は高価なレンズ故に、買ってから用途を考えるのは
有り得ない。あくまで、最初から何の目的に使うかは、想定
して購入する必要がある訳だ。

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さて、今回の記事「SIGMA DN レンズ特集」は、
このあたり迄で、次回記事に続く・・

【熱い季節2019】第6回 宇治川・源平・龍舟祭(前編)

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2019年5月6日(月・祝)に、京都府宇治市・宇治川で
行われた、「令和」最初のドラゴンボート大会となった
「第6回 宇治川・源平・龍舟祭」の模様より。
(以下、「宇治大会」または「本大会」と略す)
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昨年(2018年)の宇治大会は、本会場の治水工事の
影響で中止となっていて、2年ぶりの開催となる。

宇治大会は、2013年より始められており、今年で7年目
であるが、1年飛んだので今回が「第6回」大会となる。

なお、天候上等の理由で、当日等に中止となった大会では
「大会は実施された」として、回数記録はそのまま残るの
だが、最初から大会が予定されていない場合は、大会開催
実施数にはカウントされないケースが殆どだ。

なので、本大会のみならず、他の大会でも大会回数を見た
だけでは、「何年前から開催されている大会なのか?」の
類推は不明である。
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さて、本大会であるが、例年はGW(ゴールデン・ウィーク)
後の最初の日曜日に開催されるケースが全てであったが、
今年は、改元による10連休の為、連休最終日での実施と
なった。

しかし、その影響で、チーム参戦数は、例年の本大会よりも
少ない。
まあ、連休は国内外への旅行や帰省等も勿論あるし、最終日は
家でゆっくりしたいと思う人も多い。また「連休が長すぎる」
と感じる人達や、一部の職種では連休中もずっと仕事だったり
あるいは早めに業務を再開しているケームもある。
つまりまあ、GW最終日は、人が集まり難い事は確かだ。

個人で参加するスポーツやイベントならばまだしも、
ドラゴンは、多数のメンバーを集めてチームを構成する。
メンバーが集まり難いケースでは、参戦を断念せざるを
得ない事も十分にありうる話なのだ。

・・とは言え、本大会は関西圏では今年初のドラゴン大会
である、まだ各チームとも「ウォーミングアップ」という
段階であり、メンバー不足を、新人メンバーで代替して
「試合経験を積ます」という育成要素もある模様だ。

よって、大会そのものの「競技志向」は若干弱くなり、
まあその分、「気楽に参戦出来る」大会であるとも言える。

また、宇治は風光明媚な観光地であり、大会環境はとても良い。
勿論、「源氏物語、宇治十帖」の舞台となった事でも、良く
知られている。ただまあ、観光客の数も、大型連休後半では
宇治に限らず、どの観光地でも減っているとの事であった。
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今回の前編記事では、主に「市内の部」のレースの模様と、
会場の雰囲気を紹介しよう。

会場は、通称「塔の島」あるいは「中の島」と呼ばれて
いるが、正式名称は「宇治(風致)公園」である。
平等院の裏手、と言った方がわかりやすいかも知れない。
観光船(屋形船)や、鵜飼が行われる地区であり、
バリバリの観光地である。

JR宇治駅、および京阪宇治駅からは、ともに徒歩10分
くらいで到着する。

宇治ではこの時期(5月上旬)に小さい虫(トビケラと言う)
が大量発生する事も良く話題になるが、行政としても
色々と対策を行っており、また、トビケラは無害で
あるそうなので、あまり気にする必要は無いであろう。
大量のトビケラは営巣中のツバメに食べられてしまったり
成長して、ちりぢりとなり、5月下旬頃には、ぼぼ見なく
なるのが通例だ。

さて、まずは本大会のレギュレーション(ルール)だが、
200m直線、2艘建てマッチレース、カテゴリーは「市内の部」
(宇治市内にチーム代表者の住居があれば良いが、参加推進
の為、あまり厳密性は要求されない。すなわちビギナー向け
カテゴリーだ、と見なしておけば、ほぼ問題は無い)および
「オープンの部」である。(注:「男女混合の部」は無い)
まあ、オープンの部は、殆どがドラゴン専業チームとなる。

そして、各チームのタイムを見ていると、他大会での
200m戦より、数秒程度タイムが増えている。大会本部に
聞いてみると、「コース長は約220mに設定している」
との事である。
なお、この、コース長の厳密性はドラゴン競技ではあまり
無く、他大会でも200m戦が実際には180m程度であったり
する事もある。
つまり、当該大会の範疇では、順位戦における、チーム間の
レース条件が公平であれば問題無い、という訳だ。
c0032138_07573718.jpg
レース条件の公平性の話であるが、初期の本大会では、
会場の宇治川(派流)の水深が、レーン内の場所により
異なり、若干のコース間の条件の差異があった。

しかし、大会開始年2013年の9月の大型台風の襲来により、
宇治川、およびそこから続く淀川において、一部の地域で
河川氾濫が起こった。
まあ、その時は、ここ宇治の上流にある「天ヶ瀬ダム」が
最大流量の約830トン/秒を超えて、何と1000トン/秒
以上にもオーバフローしてしまったので、下流にもそれなり
に被害が出た訳だ。

その後、宇治(市)では、この会場(つまり宇治川の
派流である)を、2度程、浚渫(河川の水を抜き、低面の
土砂を取り去る工事)を行い、洪水時の被害低減を図った。

この工事(2度目)の為、昨年(2018年)の本大会は中止に
なったのだが、その年の夏から秋にかけても集中豪雨や
台風龍来が多数あったのだが、工事のおかげか、下流に
河川氾濫被害は起こらなかった。

で、今年2019年は、その第二期工事後の最初の大会だ、
浚渫工事による川底地形の変化により、コース(レーン)
条件は、どのように変化したのか?は、まだわからない。

私は、予選からしばらくの間、レースの状況をチェックした。

チェックは、どうやるのか? と言うと、各専業チームには
それぞれ実力値があり、そのレースタイムはおよそ±2秒
あたりで、ほぼ正確である。それらを踏まえて、各専業
チームが、レーン間の条件により、どれだけタイムに誤差が
出るかを見る、すると、だいたいだがレーンのコンディション
がわかる。
それから、レースの展開も注視する、そうすると同じレーン
内でも、場所により、漕ぎが重くなる(ペースダウンする)
区間と、そうでない区間が存在する。
それを目視でだいたい把握し、後は、チームの漕手達および
舵手、又は派遣舵の方々に「どのへんで重く感じましたか?」
とヒヤリングし、自分の予想とつき合わせてみる。

ただし、これらは、水量と流速(注:今年からこの会場の
せき止めは行わず、宇治川の水を流しっぱなしだ)および
風量、風向によっても条件は変化するので、時間とともに
コンディションは変化する可能性もある。

で、これらの事を総合すると、今年の宇治大会においては
1レーン、2レーンのコンディションは、「ほぼ同条件」と
なった。
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まあ、細かく言うと、1レーン(宇治川本流側)では、
スタートとゴールの近くに、やや重く(遅く)なる水流が
あり、2レーン(平等院側)ではコース中間部に、遅くなる
ポイントがある、けど、両者のそれ(ロス)を合計すると
「レーン条件は、ほぼ同等」となるのだ。

予選の間に各専業チームは、だいたいの、その傾向を掴んだ
模様である。一部のチームは橋の上に上がり、そこから見える
水流等を加味した「最良のコース取り」の検討を始めた。

予選第2回戦では、一部のベテラン舵手では、もうその
最良のコースを取るように工夫した舵さばきを行っている。
両レーンで、ほとんど完璧と呼べるような絶妙なコース取り
をしたケースも数回あり、陸に上がってきた際、「とても
お見事なコース取りでした!」と私も言ったくらいだ。
その職人芸により、恐らくレースタイムも2秒程度は稼げて
(短縮して)いる事であろう。

ベテランのチームは、こうやって様々な状況に配慮する事で、
自身のチームのパフォーマンスを最大限に発揮しようとする
訳だ・・・
c0032138_07574447.jpg
さて、「市内の部」の模様であるが・・
注目点は、本宇治大会の上位常連の強豪チームいくつかが、
今年は欠場している事である。
具体的には「エンブレム」「賑やかし」「激漕(げきそう)」
「メタルスタイリスト福田」等が欠場である。

残る今回参加チーム中の強豪は、「コロコロジャパン」
(2016年本大会優勝)(以下、”コロコロ”)と
「京都工場保健会」(2017年本大会優勝)となる。
つまり、他の参加チームが、これら優勝経験を持つ強豪に
対して、どのようにからんでくるか? 特に、どこのチームが
上位4チームで競われる準決勝に進出するか? そこが見所だ。
具体的に参加チーム名を挙げれば、「チームカオス」
「Love & boat」「小倉大好きクラブ」「宇治商工会議所
青年部」「チーム宇治川」「東宇治高校五期ドラゴン」
となっている。

で、予選第1回戦では、タイム1分10秒を切ったチームは
3つだけであり、「コロコロ」(1分05秒)、「宇治商工会議所」
(1分06秒)、「京都工場保健会」(1分09秒)である。
この中では、優勝経験チームに混じっての、本大会ホスト役の
「宇治商工会議所(青年部)」の健闘が光る。
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商工会議所(注:「商工会」とは別組織だそうだ)の
チームメンバーに話を聞いてみよう。

匠「今回は調子良さそうですね」
商「はい、予選2位なんて、信じられません」
匠「強豪の”コロコロ”さんと当たって、その漕ぎに
  引っ張られてタイムが上がったのが功を奏しましたね」
商「そうですね、”コロコロ”さんは速いですからね、
  必死で追いつこうと頑張りました!」
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それと、昨年までの本大会では、準決勝進出を決めるのは
2本の予選タイムの良い方、つまりベストタイム制だったが
今年から、2レース(回戦)合計タイム制に改められた。
両方式は各大会でも、どちらを採用するかはまちまちである。

これはチーム側から見た長所短所も存在する、具体的には、
予選の1本目でライバルチームと、例えば3秒差の遅れが
あったら、ライバルチームに勝って準決勝以降に進むには
2本目では、相手を3秒上回る必要がある、これはなかなか
厳しい状況であり、つまり、ほぼ実力値通りの順位結果に
なりやすく、まぐれで勝つのは困難である、という意味だ。

ただし、準決勝以降は順位戦となるので、この場合は
組み合わせの影響が強くなる。つまり、なるべく強豪同士が
準決勝で潰し合いしてくれた方が、3位4位チームとっては
ずいぶんと楽な訳だ。

この為、(本大会では準決勝レーンは抽選なので無理だが)
レースフローが、きっちりしている他大会での準決勝では
その準決勝枠への勝ち上がりチーム構成を見ながら、自身の
チームの予選(や敗者復活戦)のタイムを、微妙に調整する
という高度な戦略も存在する。まあ、それができるのは
ドラゴン専業チームの中でも、ごく一部のチームではあるが、
前述のように、「強いチームというのは、そういう細かい
戦略・戦術が実行できるチームでもある」という事だ。
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さて、市内の部予選第2回戦では、若干の向かい風条件と
なった。各チームは平均2秒程度はタイムを落としてしまうが、
その中でも、向かい風条件でも、最良のコース取りを出来る
チームが、その影響を最小限に抑えられる事となる。

ただ、この話は、「スタイルが出来上がっている」ドラゴン
専業チームでの話であり、市内の部のビギナー選手の場合は、
コース条件よりもむしろ「いかにドラゴンの漕ぎに慣れるか?」
が、より重要だ。なにせ、殆どの市内チームは、殆ど大会の
事前練習は行わない、そんな状況であれば、毎回漕ぐたびの
タイムのバラツキは大きい訳だ、そのバラツキが、良い方に
向いて来ない限りは、タイムを伸ばす事は出来ない。
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さて、予選の第2回戦を終え、合計タイム上位4チームが
出揃った、市内の部準決勝レーン割りは以下の通りである。

市内準決勝①(第31レース)
1レーン:チーム宇治川
2レーン:宇治商工会議所青年部

市内準決勝②(第32レース)
1レーン:コロコロジャパン
2レーン:京都工場保健会 創立1940

「宇治商工会議所」は、やはり準決勝に上がってきている、
実は予選第2回戦でも、「京都工場保健会」に負けている
ので、予選で全敗ながら、準決勝に上がった形であり
まあつまり、速いチームに引っ張られて頑張ったので
タイムが上がった、という状況だ。

対する「チーム宇治川」は、予選タイム合計4位で、
3位の商工会議所とは、およそ6秒の差があるが、
「チーム宇治川」は、第2回戦でコース条件が悪い中、
タイムを上げてきている、まあ急激にレースに慣れてきて
いる、という感じであり、この戦いは目が離せない。

そして、奇しくも、前回優勝、前々回優勝チームが
市内準決勝②で当たってしまっている。
これは、どちらかが破れてしまう事となり、
「宇治商工会議所」あるいは「チーム宇治川」にとって
みれば、優勝まで狙える稀有の大チャンスとなる。
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上写真は、準決勝に臨む「コロコロジャパン」
船上でのクルーの会話が聞こえて来た。

過去大会に出場経験があると思われるベテラン漕手が
新人パドラーに声をかける。
A「おい、おまえ、準決勝など出た事がないだろう?」
B「はい、はじめてです」
A「緊張しなくても良いからな、普段どおりだ」
B「はい、がんばります」

でもまあ、ここが正念場である事は確かだろう
「コロコロ」に対する「京都工場保健会」は、強豪専業
チーム「すいすい丸」の関連チームである、遅い訳が
無いし、練習も普段から積んでいる事であろう・・

なお、前述のように、レーン間の条件は、本大会では
ほぼフラットで公平である。そして、ここから後は
実力値に加えて、運の要素も絡んでくる。
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ここで余談、上写真は、本大会の実況中継席である。
本大会では専門のアナウンサーは呼ばずに、選手兼
運営スタッフの方2名が実況解説を行う。ドラゴン界の
内情が良くわかっている為に、実況はなかなか面白い。

なお、ご本人「レースクイーンのつもり」だそうだが、
私は、印象派の巨匠画家「クロード・モネ」の名作
「散歩、日傘をさす女性」(1875年)を連想してしまった。

閑話休題、さて、結果的に、市内の部の決勝戦に勝ち
あがったのは以下の2チームとなった。

市内の部決勝戦(第35レース)
1レーン:宇治商工会議所青年部
2レーン:コロコロジャパン

さて、本日の京都南部地区の天気予報だが、夕方から雨、
しかも夕立的に土砂降りとなる可能性もある。

現在までの大会進行は、ほぼオンタイムか、やや早目だ。
まあ、手なれた運営スタッフ(大阪府協会が主体)が
行っている為、時間的な調整は、なんとでも効く。

天候を考えると、早めに決勝戦を終わらせてしまいたい
ところではあるが、ドラゴン競技の内規により、
「同一クルーのレース間隔を30分以上あけること」
がある、まあ、体力面、安全面等に配慮したルールだ。

決勝進出が嬉しいのか、「コロコロジャパン」は、
集合地点から動かず(チームテントに戻らず)に、
そわそわと決勝戦を待っている。

集合写真を撮って欲しい、とのことで、一応撮ったが・・
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匠「コロコロさん、今、集合写真を撮ってもあまり意味
  が無いですよ。もうこれで準優勝以上は確定だし、
  決勝が終わった後、カップとか賞品を持って
  撮った方が良いのでは?」
コ「ああ、なるほど、そうですね。
  滅多に、こういう事は無いので・・(笑)
  じゃあ、また後でも、写真お願いします」
匠「では、決勝戦、がんばって3年ぶりの優勝を
  狙ってくださいね!」

さて、「コロコロ」の乗艇時のクルーの会話を聞いて
いると、先ほどの先輩後輩の漕手の会話がまた・・

A「おい、おまえ、決勝戦なんか出た事無いだろう?」
B「はい、もちろん」
A「実はオレも初めてだ、かなり緊張している」
B「先輩、リラックスしてくださいね」

先ほどの会話と立場が逆転していて、思わず笑って
しまった。まあ、先輩選手は、前回のコロコロ優勝の
際には、漕いでいなかったのだろうな・・

「Are you ready? Attention・・ GO!」

さあ、漕ぐ側も観る側にも緊張の決勝戦がスタートした!
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中盤、約150m地点の様子。
手前1レーンが「宇治商工会議所」、奥の2レーンが
「コロコロ」である。

「コロコロ」少しリード、2レーンの中盤の難所(重く
なる)を越えた後である、これは僅かに有利だ。

だが、1レーンは、中盤は軽いので、速度に乗っている、
であれば、ここからまだ少しは追いつくだろう。
しかし、この後、もしそのまま川に沿って進んでしまうと、
川がわずかに右に曲がっている為、そこで逆流が発生
して、重くなってしまう。1レーンが逆転する為には
ここから彼らが思っているよりも、ずっと左に舵を切り
終盤の難所を避けなければならない、それが出来るか?

でも、幸いにして、両チームとも、大阪協会から派遣
されたベテランの舵手である、そうであれば、最適の
コース取りを選ぶだろう、やはりコロコロが有利か?
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ゴールの模様、左がコロコロ、右が宇治商工会議所。

商工会議所は、難所の回避を行って、進路をやや左に
取った模様だ。結果、とても僅差なのだが、ほんの僅かに
2レーンのコロコロが先着か? 本部の発表を待とう。

数分後、大会本部より結果が出た。
1位:1分05秒81:コロコロジャパン
2位:1分06秒07:宇治商工会議所青年部

ふう・・ コンマ2秒台の差か、良いレースでした!

そして、「宇治商工会議所青年部」は、今回殆どの
レースで相手に負けているのに(汗) これでも
不思議な事に、準優勝である。
あまり本人達は納得がいかないかも知れないが、
それでも、準優勝は、お見事でした!
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ちなみに、もう5~6年も前の話になるが、大阪協会の
主催のローカル大会「北港スプリント」において、
「打艇龍舟倶楽部」が、マッチレースに全て敗北しながら
準優勝となったケースがある、まあ、マッチレースの
場合には、そういう事も十分に有りうるという訳だ。

それから、「宇治商工会議所青年部」は、本大会では
ホスト役に近い立場である。
だから「身内が準優勝って、どうなんでしょう?」
とも言っていたけど、これもまた様々な各地の大会で
過去何度も、ホストチームが勝った(優勝した)前例は
ある、なので
匠「準優勝程度ならば、何も問題ありませんよ。
  むしろ商工会議所の中とかで自慢していただいて、
  皆にドラゴンボート競技に関心を持ってもらい、
  今後の大会を盛り上げてくださいね」
と伝えておいた。
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表彰式の模様、写真は、(タイム順で)市内の部での
第三位となった「京都工場保健会 創立1940」である。

京都工場保健会は、前回大会では市内の部の優勝チーム
であり、地元強豪専業「すいすい丸」のサブチームとも
言える立場だ、だから、3位の成績は納得しずらいの
かも知れず、こういう場合に「おめでとうございます」
などの言葉をかけるのは、あまり好ましくない。

まあ、同保健会は、休日健診等もあるし、GW最終日とも
あって、今回は有力メンバーが集まり難い状況で
あったとも思う、例年ならば市内の部には2チームで
ダブルエントリーしてくるのが、今年は1チームのみ
となっていた。
来年の本大会での巻き返しを、また期待しておこう・・
 
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では、宇治大会の観戦記事(前編)はこのあたりまでで。
次回、後編記事では、「オープンの部」の模様を紹介する。

ハイ・コスパレンズBEST40 (6) 28位~25位

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高いコストパフォーマンスと付随する性能を持った優秀な
写真用交換レンズを、主にコスパ面からの評価点による
BEST40レンズをランキング形式で紹介するシリーズ記事。

今回もまた、BEST40にランクインしたレンズを下位から
順に紹介して行こう。
(ランキングの決め方は第1回記事を参照、なお、評価
得点が同点の場合は、適宜、順位を決定している)

それと、今まで下位ランキングのレンズでは、マニアック
すぎて一般的では無いレンズも多々登場している。
一応「入手性が悪いレンズ」は、ランキングの対象外と
しているのだが、マニアックなものは入って来てしまう。

本記事あたりの中位ランキングから、少しづつマニアック
過ぎるものは影を潜め、一般的なレンズが多くはなってくるが、
初級中級層が想像するような、有名ブランドレンズ等での
値段が高いものは、当然コスパの観点からは本ランキングには
絶対に入り得ない。そういう類のレンズは今後ランキング記事
には出て来ないし、そもそも私は、その手のレンズを現在は、
1本も所有してもいない、コスパの悪いものは私の機材使用の
コンセプトにおいては成り立たないのだ。
(だから、そうしたレンズは最初から購入対象外だ)

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第28位
評価得点 3.70 (内、コスパ点 4.0)
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レンズ名:OLYMPUS M.Zuiko Digital 45mm/f1.8
レンズ購入価格:16,000円(中古)
使用カメラ:OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited (μ4/3機)

ハイコスパ第4回記事で紹介の2010年代のμ4/3専用
AF単焦点レンズ。(以下MZ45/1.8)

一言で言えば「優れた描写力を特徴とする本格派レンズ」
である。おまけに小型軽量、価格も安価でコスパが良い。
c0032138_15551659.jpg
μ4/3機専用で、フルサイズ換算90mmの画角となる事から
オリンパスでは人物撮影の用途を前提としている模様で、
「ママのためのファミリー・ポートレートレンズ」という
キャッチフレーズが付いている。
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定価は35,000円+税とさほど高目ではなく、これは「エントリー
(お試し版)レンズ」の価格帯だが、それにしては描写力が高い。
まあ、エントリーレンズで画質が悪ければ、初級層は二度と
交換レンズを買わなくなる道理なので、エントリーレンズは
どんな場合でも、コストを超越した高描写力を持っている。

さて、OLYMPUSではμ4/3レンズのカテゴリーを3つに分けていて、
M.ZUIKO PRO、M.ZUIKO PREMIUM、M.ZUIKO と分類される。
これは、初級マニア層等では「松・竹・梅」と言われる事もある。

本MZ45/1.8は、「竹」の「M.ZUIKO PREMIUM」のカテゴリーに
入っているのだが・・必ずしもこの松竹梅の順に描写力が高い
という訳でも無いであろう。

現代のレンズの価格の大半は開発費等の償却で決まるので、
多額の費用をかけて開発し、かつ販売本数が少ない場合は、
価格を上げざるを得ない。
だからまあ、一般的に様々なメーカーのレンズを比べる際には、
値段と性能は比例しないのだ。

だがまあ、メーカーが自社レンズ群を、そのように分類している
場合には、高級品が低価格品に負けていたら困った事になるので、
ある程度、描写力等でのカテゴライズには根拠はあると思う。

でも、あまり気にする必要はない、あくまでこうした措置は
初級中級層に向けての「わかりやすさ」の一環であるからだ。
上級者やマニアであれば、自分の撮影用途に必要なレンズを
買うだけであり、メーカーや販売店の言う事は、基本的には
関係が無い(むしろ個人的には、メーカーから「高画質だ」
と、押し付けがましい仕様型番が記載されているレンズは
好まない、それにより値段を上げている事が明白だからだ)
c0032138_15551678.jpg
余談だが、先年、撮影スポットで初級マニアと見られる男性と
出会った。そこで出た質問だが

男「高いレンズの方が良いレンズなのでしょうか?」
匠「いえ、そんな事はありません。
  高いレンズは、開発費やらが沢山かかっているのを販売数で
  振り分けるので、売れる数が少なければ高くなるのですよ」

男「・・・(しばらく考えて)
  ああ、なるほど! そういう事なのでしたか!」

匠「ちなみに、高いと販売本数が減るし、本数が減ると
  余計高くなります、これは悪循環ですね・・」

男「ふうむ、そういう考え方もありますね」
(いや、これは私個人の考え方ではなく、経済原理、つまり
世の中の理屈であり、事実であり、常識なんだけどなあ・・
マニアとは言え、こういう事を知らないと、きっと損すると思う)

まあ、確かにレンズの開発というのはお金がかかる、
人件費としての研究費、マーケティング費、設計用ソフトウェア
の購入や開発・改良、光学設計の実働時間は勿論の事、
加えて、筐体デザイン、電子設計、機構設計、ハードウェア試作、
原材料の性能改善についての研究費と部材代、ファームウェア開発、
デバッグ、各種性能検証、他社製品との比較検証。

そして無事生産に漕ぎ着けたとしても、金型代、生産ラインの
改善や整備、部品代、試験費用、加工代、梱包費、輸送費・・
さらには、カタログ原稿、同デザイン、印刷、各種営業経費、
広告、キャッチ、WEBページ制作等の販売促進費用・・

そうやって苦労して作った「製品」(モノ)が、もし予定して
いる程には売れなかったら大打撃だ。
日本においては、企画された予測販売数まで、いっぱいいっぱい
生産を行う。品切れ等は起こり難いが、売れ残り、無駄な生産に
なってしまうケースも多い事であろう。

新製品に係わる様々な経費を下げるには、このμ4/3であれば、
OLYMPUSとPANASONICおよびレンズメーカーとの協業で
共通仕様のレンズを作る手段もあるだろう、勿論一部では
そうしていると思うが、大半はそうでは無い。

本MZ45/1.8 に近いスペックのPANA製レンズは、G42.5mm/f1.7
があるのだが、そちらの定価は、50,000円+税と
本レンズよりも多少割高だ。

レンズのラインナップ全体を見渡してもOLYMPUSとPANASONIC
は、上手くスペックが被らないようになっているように見える。


で、本来、μ4/3は各社共通の「オープン規格」として提唱
されたものであるが、マウントはともかく、レンズやらは、
完全に同じスペックにしてしまう事は困難であろう。
メーカー毎での市場戦略上の考えの差異が色々と出てくる事は
やむを得ない。ただ、この状態があまりに酷くなると、
1960年代頃に、共通マウント規格として多くのカメラメーカー
が採用した「M42マウント」が、1970年頃には「絞り優先露出」
等の新機能の搭載の為、各社勝手にM42の仕様を自社向けに
変更して、他社互換性が完全に薄れてしまい、同じM42なのに
他社カメラに、装着できない、外れないというトラブルもあった。
(ミラーレス・マニアック第45回記事参照)

またそういう状況が再発し、μ4/3規格が各社独自にバラバラに
なっていかない事を願うばかりだが、すでに「空間認識AF」や
「像面位相差ハイブリッドAF」等、新しい独自技術が採用され
て来ているし、今後、それに対応しているレンズでないと動作
しないケースが頻発するようになってしまえば、μ4/3陣営内
でも、互換性・汎用性が失われてしまう事になりかねない。

まあ、他陣営のカメラの性能が日々進歩して行く状況では
そうなるのもやむを得ないが、実際にそこまでの超絶性能が
全てのユーザー層に必要な訳でも無い。下手をするとユーザー
不在で際限なくスペックが上がってしまう事も極めて良くある
(例:画素数競争、高感度競争、連写速度競争)のだが、
総合的に、なかなかそのあたりは、どの方針が正解というのは
決め難いかも知れない。

また、Panasonicは近年ではμ4/3機以外にも、フルサイズ
のミラーレス機をライカ社やSIGMA社と組んで展開している、
ここもまた、μ4/3陣営の足並みが乱れている感じであり
μ4/3機のユーザー側としては不安事項だ。
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余談ばかりで、本MZ45/1.8の話がちっとも出て来なかったが
描写力的には全く問題の無いレンズだ。

課題は、MF操作性が悪い事だ。ただこれは本レンズのみならず
無限回転式ピントリングの殆どのミラーレス用レンズで同様だ。
本レンズだけの問題としては、フィルター径がφ37mmと
小さすぎて、市販品の選択肢が少ない事である。

しかし総合的には良いレンズだ。初級中級者向けのみならず、
小型軽量かつ高コスパレンズとしてマニア層にもおすすめだ。

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第27位
評価得点 3.70 (内、コスパ点 3,5) 
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レンズ名:TAMRON SP AF 200-500mm/f5-6.3 LD (A08)
レンズ購入価格:33,000円(中古)(NIKON版での価格)
使用カメラ:SONY α77Ⅱ(APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第66回記事等で紹介の、
2004年発売のAF超望遠ズームレンズ。
本レンズはα(A)、NIKON Fの異マウントで2本所有しており、
ほぼ100%、ドラゴンボート競技撮影専用のレンズだ。
(一般的には、野鳥、動物園、運動会、航空機等での手持ち
撮影分野に向くと思う)
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最大の特徴は、テレ端500mmの超望遠ズームレンズとしては
最軽量の1200g台という点であり、三脚座を外すとさらに
軽量となる。この状態では、前モデルTAMRON 75D等の
望遠端400mmの超望遠ズームより軽量である場合もあり、
ハンドリング性能に優れる。


課題は、手ブレ補正機構を内蔵していない事だ。
画角が500mm、あるいはAPS-C機では750mmもの超望遠域に
達するレンズであるので、その点では苦しいと思うかも知れない。

だが、手ブレ補正が無い点については回避法が2つあり、
まず1つ目は、SONYのα(A)マウント機で使用する上では、
ボディ内手ブレ補正機構があり、こうしたサードパーテイー製
レンズでもそれは有効な事だ。(注:PENTAX機用は未発売)

第二に、手ブレ補正が無かったとしても、換算画角の焦点距離を
分母としたシャッター速度(例、1/500秒~1/750秒)以上
がキープできていれば、原理的に手ブレは起こり難い事がある。

この「(換算)焦点距離分の1秒のシャッター速度」は
「手ブレ限界速度」と言い、一般的な初級ユーザーであれば
少なくとも、それを守れば良い。また中上級者であれば、
スキル(技術)を活用し、なるべく手ブレを起こしにくい構えや
状況(何処かにもたれる等)を作り出す事で、この「手ブレ限界
速度」よりも1~2段(半分~1/4)遅いシャッター速度でも
手ブレを抑える事が出来る。

なお、一部のメーカーの機体では、AUTO ISO時に、ISO感度
の切り替わりタイミングの設定ができる(=低速限界設定)
これを上手く用いる事で、手ブレの課題の大半は解決できる。

必要シャッター速度だが、例えば、ボート競技等が行われる、
日中晴天時の状況で考えてみよう。

フィルム時代での、一般的な「カン露出」の法則では、
晴天時、ISO100で絞りF11で、1/125秒の露出値だ。
これだと手ブレ限界よりも、シャッター速度が遅いので、
設定変更が必要だ。

まず本レンズの開放絞り値は、F5~F6.3 となっている。
開放F値変動型のズームレンズであるので、こういった場合は
最も暗い絞り値あるいは、それよりやや絞った状態を基本に
して使えば、ズーミングの変化で絞り値が変動しなくなる。

本レンズの場合、概ねF7.1~F8程度で使うのが望ましい。
記録撮影の場合、あまり作画表現等は深く考える必要は無いし、
撮影距離(遠距離)での被写界深度も考えると、やはりF8程度
が良いであろう、計算も簡単なので、これで算出してみると・・

晴天時、ISO400で絞りF8で、1/1000秒の露出値となる。
(注:カン露出の語呂合わせで「センパチ」と呼ばれる値)

これは、本レンズを最大望遠の500mm端で使用した場合の
換算画角(APS-C機では750mm相当)の、手ブレ限界速度の
1/750秒を上回る為、この条件(ISO400、F8)にセットして
おけば、手ブレの心配は殆ど不要だ。

日が翳ったり、夕方になった場合等は、1/1000秒を目安に
それをキープできるようにISO感度を少しづつ高めていく。
さらには、絞りを少しでも開けていく、あるいは、僅かな
マイナス露出に補正する(=シャッター速度が少し上がる)
はたまた、レンズの構え方を、もう少し慎重にしていく・・
そのような様々な技法を複合的に用いれば、相当暗い状態でも
手ブレ補正機能無しで超望遠ズームを扱う事が出来る。
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まあ、そういう練習は、ボート競技の撮影のみならず、野鳥撮影
とか動物園等でも行う事ができる、そういう経験を沢山積んで、
超望遠の使用にスキルと自信をつけておく事が重要だ。

さもないと、一般ユーザー層では、こうした超望遠レンズを
買ったとしても用途が殆ど無い為、普段は持ち出す事も無い。
が、稀に、スポーツやフィールド(屋外)撮影で、超望遠が
必要になった場合、滅多に扱わない超望遠を、いきなりの
本番撮影で使うのは、どう考えても無理がある。

たとえ業務撮影では無くても、家族や知人の出場するスポーツ
競技の撮影(屋外では、運動会、野球、サッカー、テニス等、
屋内ではバレーボール、バスケ、卓球等)で、上手く望遠
レンズを扱えなくて、失敗写真を連発してたら、家族や知人に
対しても立場が無い事であろう。

家族や友人知人が、本格的に写真を撮らない一般層だったら、
高いカメラを持っていれば良く写るものだと思っているだろうし、
超望遠撮影がいかに難しいか、等と言う事は全く何も知らない。
「ちゃんと撮れていて当然である」と思っているだろうから、
もし失敗写真ばかりだったら、非難される事が必至だ(汗)

だから、そういう滅多に無いケースに備えて、いや、滅多に
無いならば、そうであればある程、超望遠撮影の練習は入念に
しておくのが良いと思う。

さて、一般に超望遠レンズは高価だと言うイメージもあるかも
知れないが、本レンズのような少しだけ古い時代(2000年代)
のレンズであれば、3万円台のお手頃な中古相場だ。
以前愛用していた1990年代発売の400mm級ズームは、今時では
滅多に見かけないのだが、あれば1万円台という格安相場だ。
超望遠が高価すぎて買えない、という事も無いであろう。
c0032138_15553169.jpg
注意点だが、超望遠の使いこなしには「ハンドリング性能」
という要素あって、これはズバリ重量だ。
撮影者のスキル、体格、そして撮影時間や体力、あるいは
撮影スタイル、また組み合わせるカメラによっても若干異なって
くると思うが、自身で限界重量を決めておくのが良い。

私の場合、カメラとレンズの合計装備重量が、2.3kgを越えない
事が手持ちでの長時間(8時間以上)撮影での限界と決めている。
この為、レンズ単体では、1300gまでが限度としている。

そのルールでは、残念ながら近年の望遠端600mm級ズームは
実用対象外だ、これらは性能も良く、中古流通も豊富だし、
相場も少しづつ下がって来ていて買いやすい状況ではあるが、
私の用途では、重すぎるのでNGなのだ。
(短時間だけの使用ならば可能だが、持ち運びが面倒だ)

そういう点から、所定の限られた条件内で、500mmという
最も長い焦点距離が得られるズームは、本レンズしか無い。

ただし、近年では少しだけ様相が変わってきている。
それは、今回使用しているα77Ⅱ等の、αフタケタ機、あるいは
ニコン機であれば、デジタルテレコンバーター又はクロップ機能
を使う事で、見かけ上の画角(換算焦点距離)を、さらに伸ばす
事が出来る。
本レンズ+α77Ⅱでは、テレ端は、750mm,1125mm,1500mm
にボタン一発で切り替える事が出来る。
デジタルテレコンは、原理的にはトリミングと等価であるが
実用的には撮影後の写真編集の手間が減る為、有効な機能だ。
(トリミング編集は、縦横比を意識すると、意外に手間だ)

しかし上記の1000mmオーバーの焦点距離は、さすがに冗長だ。
例えば1000mmを越えると、もうレンズを向けた場所に被写体を
捉える事自体が至難の業となるし、さらに1500mmともなると、
どんなに優秀な手ブレ補正機能が入っていても、現実的には
被写体が大きく揺れてフレーミング内に入れる事もままならず、
実用手持ち限界を超えてしまっている。

・・であれば、70-300mm級の描写力が優秀な望遠ズーム
(これは各社にある、ただし、このクラスは廉価版レンズも
多い焦点域なので、ちゃんと写るものを選ぶ必要がある)
を使用して、デジタルテレコンと組み合わせる方が
ハンドリング的には優れているであろう。

具体的には、α77Ⅱで300mm端では換算450mm,630mm,
900mm相当の画角が得られるが、これは望遠すぎる事は無い。

そして、優秀な描写力を持つレンズでも、1kgを越える事は
まず無いので、ハンドリング性能に優れるという訳だ。

また、ハンドリング性能という意味には「撮影時に振り回せる
か否か?」という要素もある。しかし、残念ながら初級中級層
で(超)望遠レンズを手持ち撮影する際、正しいまたは合理的
な構えが出来ている人は殆ど見かけない。
これは、レンズとカメラを含めた総合重心を常に下から支える、
という簡単な技能なので、是非身に付けて貰いたいと思う。
(注:普段では三脚を使用していると、こういう手持ちでの
構えがいつまでも身に付かない)
c0032138_15553182.jpg
色々と余談が長くなったが、実焦点距離が望遠端500mmの
超望遠ズーム中では、本レンズが最軽量で快適に使用でき、
コスパの面でも十分に優れたレンズである。

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第26位 
評価得点 3.70 (内、コスパ点 4.0) 
c0032138_15555155.jpg
レンズ名:FUJIFILM FILTER LENS XM-FL(S) 24mm/f8
レンズ購入価格:5,000円(中古)
使用カメラ:FUJIFIM X-T1(APS-C機)

ハイコスパ第4回記事等で何度か紹介した2010年代の
FUJI Xマウントミラーレス機専用アクセサリーレンズ。

何度も紹介しているので内容が被るし、あまり多くの機能を
持ったレンズでもない、今回の記事では最小限の説明として
おこう。

まず、本レンズは、ボデイキャップ型であり、ヘリコイド等の
MFピント合わせ機構を持たない「固定焦点」仕様だ。
c0032138_15555174.jpg
面白いのは、ノーマルの写りの他、内蔵フィルターを切り替える
事で、クロス効果とソフト効果が得られる事だ。

小型軽量で持ち運びの負担は無く、おまけに安価である。
まあ、いわゆる「ボディキャップ型」というカテゴリーの
レンズは近年ではいくつか出てきているが、悪い傾向では無い。
c0032138_15555163.jpg
弱点だが、固定焦点と言っても、被写界深度の計算上、
そして実写上でも、完全なパンフォーカスレンズにはなって
おらず、中距離の被写体にしかピントが合っていない。
また、写りは、あまり本格的な物ではなく、通常レンズと
トイレンズの中間のような描写力だ。

ただ、これらの弱点は、本レンズの性格上、あまり気にする
ような物でも無いであろう。
むしろ、ちょっとユルい写りを利点と見て、ソフト効果の
表現力と組み合わせてみたり、カメラ本体のエフェクト
(アドバンスドフィルターやフィルムシミュレーション)と
組み合わせて使う事が、マニア的観点からは面白い。

従来、本レンズはFUJIFILM初期のミラーレス機X-E1で
使う事が多かった、その機体は、AF/MF性能に劣る為、
大口径レンズ等の本格的レンズの使用は厳しかったのだ。
本レンズではAF/MFは不要な為、X-E1の弱点は解消される。
が、X-E1にはエフェクトが一切搭載されていなかった為、
本レンズを使用する為の有効な母艦とはなりえなかった。

今回は後継機のX-T1で使用している、こちらの機種では
やっとエフェクト機能が搭載された為、それを使って
表現力のバリエーションを得る事は可能だ。
ただ、X-T1では、像面位相差AFを搭載し、AF性能が従来機
より上がっているので、こうしたAFでは無いトイレンズを
使うのは、ある意味勿体無い。(=オフサイド状態)

まあ、このように、カメラとレンズの特性を色々考えて
組み合わせを選ぶ事はとても重要だ。相互の弱点が消える
有効な組み合わせがいつでも得られるという保証は無いが、
それを考えているのと、考えていないのでは大きな差がある。
c0032138_15555169.jpg
本レンズだが、必携のレンズという訳では無い。
しかし、安価であるし、小型軽量なので持ち運びの負担も無く、
カメラバッグに常に入れておいて、あるいはボディキャップ
代わりにしておき、必要に応じて、ソフトやクロス効果で
遊んでみる・・と、まあ、そういう用途であろうか。
FUJI Xマウント用単焦点レンズには安価のものが無いので、
そういう意味では、持っておくのも良いかも知れない。

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第25位 
評価得点 3.70 (内、コスパ点 4.0)
c0032138_15560443.jpg
レンズ名:NIKON AiAF NIKKOR 50mm/f1.8S
レンズ購入価格: 5,000円(中古)
使用カメラ:NIKON Df(フルサイズ機)

ハイコスパ第1回記事で紹介の、1990年発売のAF単焦点
標準レンズ。
これ以前のMF時代からのAiニッコール等の50mm/f1.8として
完成度が高かった設計を踏襲したものだ。(注;本レンズ
には初期型(1986年製)が存在する模様である)

これは近年2010年代に、レンズ構成の異なる
AF-S NIKKOR 50mm/f1.8Gとしてリニューアルされるまで
かなりの長期(30年以上)にわたって使われていた基本設計
であるから、まあ信頼度や完成度が高いと言えよう。
c0032138_15560491.jpg
これは他のレンズ記事にも書いた事だが「モデルチェンジの
際にレンズ構成を変えなかった物は高品質な設計である事が
保証されている」という話だ。

ただ、これもよく注意しておかないと、レンズの新開発の
費用をかけれなかったので、やむなくそのまま、という
ケースもある。

特に、50mm単焦点標準の小口径(F1.7~F2級)レンズ等は、
花形レンズでは無い地味なラインナップな為、あまり新規開発に
力を入れる事は難しいであろう。事実、MFレンズがAFレンズに
置き換わった1980年代後半とか、銀塩からデジタルに変わった
2000年代前半においても、この手のレンズが新設計に変わった
例は、むしろ極めて少ない。

そして安いレンズである。安いというのは部品代の差とかも
あるのだが、そこはあまり重要では無い。基本的にはレンズは
ガラスと金属とプラスチックの塊だ、いくら品質の良いものを
使ったとして、最終的な定価が何十倍も差が開く訳は無いでは
ないか(例えば、実売1万円台の50mmレンズもあれば、
50万円の50mmレンズもある)

この値段の違いは、前述のように殆どが開発費等だ。
レンズを1本開発するには膨大な経費が必要だ、それを販売本数
で割って償却しなければならない。
販売本数が多ければ1本あたりの開発費償却は少なくなるし
長期間発売が続いてれば、後の方では殆ど開発費は乗ってこない。
本レンズのように、何十年も作り続けられたレンズでは、
もう開発費や金型代など、とうに回収できている。
だから安価になるのであって、別に品質が悪いから安いという
訳では無いのだ。

で、まあ逆に言えば、安価な価格帯のレンズを無理に新設計
して開発費の償却で、やむなく価格が上がって、というのは
不合理な話であろう。新設計の結果、性能が格段に向上し、
高くても沢山売れるのであれば良いのだが、なかなかそういう
ケースも少ないであろう。
ユーザー層の誰もが欲しがるような魅力的な要素は、50mmの
小口径標準レンズには殆ど無いからだ。
c0032138_15560465.jpg
こんな状況ではあるが、じゃあ、50mm小口径というのは
ダメなレンズなのか? というと、そんな事はまるで無い。

むしろ、技術が最もこなれており、銀塩MF時代の古い設計の
ままでも現代に通用する描写力を持つ完成度の高さから、
極めて安価で、かつ性能がそこそこ良いという、コスパの
良さを実感できるレンズ群となる。

この事はニコンに限らず、他社でも同様だ。
例えば、有名な例としては、CANON EF50mm/f1.8(Ⅰ/Ⅱ型)
は超ハイコスパレンズとして、中上級層やマニアであれば
知らない人は居ない(そのレンズは、さらに上位の
ランキングで登場予定)

それから、同一メーカーで同時代に、大口径(F1.4級)標準と、
小口径(F1.7~F2級)標準が同時に併売されている場合、
たいてい小口径版の方が写りが良い。
これは、感覚的な話のみならず、私も、実際にそれらの何組かの
レンズを解像度チャート等を写してみて実験したのだが、
絞りを開けた状態では小口径版の方が解像力が高いのだ。
(理由は、大口径化で諸収差の増大が甚だしいからである)

ここまでの基本性能があるのであれば、AF化やデジタル化の
際に、これを無理してお金をかけて新設計する必要は無い。
元々の基本設計のままで十分通用するからだ。
余った開発リソース(時間、金、人等)は、発展途上であった
ズームレンズ等の開発に廻せばよい、もう50mm小口径は、
放置しておいても大丈夫だった訳だ。

これらの状況から、つまり、50mm小口径は、コスパの面から
言えば申し分の無いレンズとなる。

今後、このランキングでも、数本の50mm小口径がランクイン
する事は確定している。なお、それでも若干選別している
状態であり、もしちゃんと全てを載せようとしたら、ランキング
が殆ど50mm小口径標準レンズで埋まってしまうからだ(汗)
それでは、さすがに面白く無い。
c0032138_15560366.jpg
結局、50mm小口径は全てのユーザー層に必携レンズと言えよう。
それをリファレンズ(他のレンズと比べて良し悪しを比較する
為の元になる製品)とする事で、レンズ評価の絶対的価値観が
身についてくる事であろう。

メーカー、あるいは時代により、価格(新品や中古も含む)は
多少ばらつきはあるとは思うが、気にする必要は無い、
どれを買っても、だいたい内部のレンズ構成は同じような物で
あるし、メーカーによる性能の差も殆ど無い。

あえて比較対象を上げるとしたら、ごく近代(2010年代後半以降)
の、最新設計の高性能標準レンズ群であるが、これらは高価格で
あり、銀塩用小口径標準の、およそ数倍~十数倍もの価格に
なってしまう、だからコスパの面では比較の対象にすらならない。
まあでも、それらの最新高性能標準レンズと写りを比較してみる
のも面白いかも知れない。
その描写力は、価格の差ほどには、大差はつかない事にも
気がつくであろう・・

注意点としては、モーター非内蔵のレンズであるから、
NIKON D5000シリーズ、D3000シリーズ等の下位機種では
AFが動かないし、仮にMFで撮ろうにも、これら下位機種の
ファインダー(スクリーン)性能は「仕様的差別化」に
より「劣悪」なのでMF撮影は、ほぼ不可能だ。
本レンズをNIKON上位機種に装着する事は、「オフサイドの
法則」からはアンバランスになるが、まあ、やむを得ない。

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では、今回はこのあたりまでで、次回記事では、引き続き
ランキングレンズを下位より順次紹介していこう。

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