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レンズ・マニアックス(7)

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新規購入等の理由で、過去の本ブログのレンズ紹介記事では
未紹介のマニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。
今回も引き続き未紹介レンズを4本取りあげる。

まずは最初のシステム
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レンズは、smc PENTAX-DA 50mm/f1.8
(中古購入価格 9,300円)
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)

2012年に発売されたAPS-C機専用標準レンズ。
いわゆる「エントリーレンズ」であり、私は標準レンズとして
カテゴライズしているが、PENTAX(RICOH) のWEBサイトでは、
本レンズがAPS-C機専用であり、換算画角が75mm相当になる
事から「望遠レンズ」として分類され、本レンズの説明文には
「中望遠レンズ」と書かれている。

ただ、このあたりの概念だが。本レンズはアダプターなどで
様々なカメラに装着可能であり、カメラ側のセンサーサイズ
でも画角(換算焦点距離)は勿論、色々に変わる。
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例えば本レンズをμ4/3機に装着すれば100mm相当、
PENTAX Qシリーズであれば230~275mm相当(機種による)、
あるいはケラレを覚悟で無理やりフルサイズ機に装着も可能だ。
(現状、私の場合は本レンズをフルサイズ機に「正しく」装着
できる機材環境が無いが、軽く実験した所、あまり大きな
ケラレは発生しない様子だ)

また、PENTAXでは同じ焦点距離のFA50/1.4やDFA★50/1.4
も同時に販売されている。それらはフルサイズ機用だから
PENTAXにおいては「標準レンズ」にカテゴライズされているが、
同じ焦点距離であるが故、ビギナーには混乱を招くかも知れない。

そういう様々な混迷があるのが面倒なので、本ブログでは、旧来
より(35mm判等の)交換レンズは、対応フォーマットに係わらず
レンズ自体の実焦点距離を元に、広角、標準、望遠などと呼ぶ
事が多い(換算画角を基準とするケースも稀にある)

さて本レンズであるが、2012年と意外にも新しい時期の発売だ。
銀塩時代からPENTAXの小口径(F1.7~F2)標準は定番であり、
例えば、M42マウントのSMCT55mm/f1.8(ハイコスパ第2回記事等)
は「銀のタクマー」と呼ばれていて、その高い描写性能で、
当時は勿論、続く時代の初級マニア層からも大きな支持を得て
いたし、続くバヨネット(K)マウントの時代も、AF一眼レフの
時代にも(KAF)、PENTAXに小口径標準レンズのラインナップは
存在していた。

PENTAXでは、このあたりの標準レンズ(大口径、小口径)を
開発におけるリファレンス(他レンズの開発時の基準とする)
としている。という話はマニア層には良く知られており、
他社もまたPENTAXのこれらの標準レンズを買ってきて自社レンズ
との性能比較を行っていた、という噂も昔から囁かれていた。
(いずれも、あくまで噂であり、その真偽はさだかでは無い)

ところが、銀塩AF用のFA50mm/f1.7(勿論フルサイズ用)を
最後に、このPENTAX小口径標準の系譜は途絶えてしまっていた。
同レンズは2000年代にディスコン(生産終了)になっている。
(このFA50/1.7は未所有)

ちなみに、大口径版のFA50mm/f1.4(ミラーレス・マニアックス
第23回記事)は、ずっと生産が継続されていて、1990年代初頭
から、およそ30年間にも及ぶ超ロングセラー製品となっている。

さらにちなみに、大口径標準でのAPS-C機専用のDA★55mm/f1.4
(ハイコスパ第1回、ミラーレス名玉編第3位)は、2000年代後半
から発売されている。また、フルサイズ用の新鋭大口径標準
DFA★50mm/f1.4は、2018年の発売だ(未所有)

他記事でも色々書いたように、2010年前後のカメラ市場の変化で
「エントリーレンズ」の必要性が各社レンズ・ラインナップに
おいて高くなってきた為、本レンズを小口径標準レンズの
エントリーレンズとして復活させたのだと思われる。

旧来のFA50/1.7との性能差は(未所有の為)不明だが、
レンズ構成等に、あまり大きな変更は無い事であろう。
銀塩時代より、この手の標準レンズの構成は、5群6枚の
変形ダブルガウス型と相場は決まっており、各社の、
どの標準レンズを買っても、殆ど差異は無い。
(それだけ完成度が高いという事だ)
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さて、本DA50/1.8の特徴だが、まずは、そこそこ高い描写力が
ある点だ。このDA型番の単焦点のエントリーレンズのシリーズ
には、例えばDA35/2.4(ハイコスパ第10回)や、DA40/2.8XS
(レンズマニアックス第6回)等があるが、それらはあまり
感動的と言える程の描写性能は持たない。
だが、本レンズの場合は、旧来の「リファレンス」(参照用)
として安定した描写力を持っていたPENTAX標準レンズの
テイストが踏襲されている高描写性能だ。

また、122gと軽量化されている。
ただし、デザイン上では姉妹レンズDA35/2.4のような優美さは
無いし、DA35/2.4にあったオーダーカラーシステム
(11色だかの色が選べる)も無い。

PENTAXのオーダーカラーシステムだが、2010年頃~2013年頃の
間迄で、ほぼ終息してしまっている。ただ色付きボディが無く
なった訳では無く、その後のPENTAXや各社カメラには色付き
ボデイが依然ラインナップされている。
単に、ユーザーが色やその組み合わせを選べる、という要素が
無くなっただけだ。

まあ、現代でもたまに、その時代のオーダーカラー品のカメラが
中古市場に流れて来る事があるが、色の組み合わせが非常に奇抜
な物もあり(汗)そういうカメラは、なかなか買いづらい。
結局メーカー側がデザインバランスを崩さない程度に色分けした
標準品の方が安心して購入できる事であろう。

なお、PENTAXは銀塩時代の古くより、各々のカメラ製品の
生産終了間際に、特殊なカラーや仕様の製品を発売する事が多い。
これは、製品寿命をさらに延ばす措置であろう。
現代においても、例えば、K-7,K-5,K-3,K-1といった高級機に
各々限定版が発売されているが、いずれも限定版はシルバー塗装
となっていて、あまり奇抜な色や仕様のものは無い。

ちなみに、これらのシルバー塗装品は、銀塩AF時代のFA-Limited
の銀色版とのデザイン・マッチングが良いと思われ、私はそれらを
3本所有している為、ちょっと欲しいと思う事も多々あるのだが、
その目的には、久しぶりに発売当初がらシルバー版が用意された
PENTAX KP(今回使用機)を所有しているので、あまり欲張らない
ようにしている。

それから、カラーボディは同一機種を複数台所有する際に、
ボディ色で個体を識別できるので結構好ましい、だた、それは
かなりマニアックな使い方なので、一般ユーザーには無縁の話だ。

余談が長くなった。まあ、本DA50/1.8は、描写性能的には、
ほとんど不満は無い事であろう。
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逆に弱点だが、まず前述のようにあまり高級感が無い外観な事だ、
まあでも、このあたりは新品実売1万円台のエントリーレンズで
あるが故にやむを得ない。
APS-C専用レンズなので、もう少しコンパクトにも作れるような
気もする。つまりDA40/2.8系や、DA70/2.4(ハイコスパ第12回)
のような超小型、という雰囲気は本レンズには無く、フィルター
サイズもφ52mmと普通の標準レンズのサイズ感だ。
軽量だけに、なんだかスカスカな印象があり、安っぽい。

それから、特別な性能が与えられていない事も、やや不満だ。
例えば他社同等品では、SONY DT50/1.8(ハイコスパ第1回)は、
最短撮影距離が34cmと、優れた近接性能が与えられているが、
本DA50/1.8の最短は45cmと、一般的な標準レンズ並みだ。

さらには、QFSF(=クイックシフト・フォーカス・システム、
すなわち他社で言うフルタイムMFと同等の意味)の機能が入って
いない。加えて、ピントリングが有限回転式である点はMF時に
好ましいが、距離指標が無いので、実質上、MFでの使用には
あまり適しておらず、AF専用レンズと考えるのが良いであろう。

PENTAXの小型軽量の普及一眼レフ等と組み合わせて、軽快かつ
ローコストなシステムとして使うのが望ましいレンズである。
価格的に安価で、壊してもあまり被害が無い、という点で、
過酷な撮影環境で使うのも、特に有益かも知れない。

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さて、次のシステム
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レンズは、HOLGA HL-O 60mm/f8
(新品購入価格 1,000円)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

2010年代初頭発売の中国製の安価な一眼レフ用トイレンズ。

HOLGAのこのタイプのレンズとしては3本目の紹介だ。
旧来の記事では、ミラーレス機用25mm/f8(ハイコスパ第24回)
や、PENTAX Q用10mm/f8(ミラーレス・マニアックス第68回)
を紹介した。

本来、このHOLGAレンズは同社銀塩中判(6x6判)カメラの固定式
レンズを単品化し、デジタル一眼レフ用とした物が2000年代
から発売されていたのだが、当時APS-C機が主流のデジタル一眼
レフ用としては、換算焦点距離がやや長めとなる事、そして
HOLGAレンズの特徴である周辺光量落ち(=「ヴィネッテイング」
注:「トンネル効果」と言う表現は重要な物理学用語と被る為、
本ブログでは非推奨(=使ってはならない)としている)
・・が発生しないので、もの足りない印象があった。

これに対策を施した物が、一眼レフ用での「BCエフェクト機構」
搭載品である。
BC(ブラックコーナー)は、すなわち「周辺光量落ち」であり、
これを実現する為、レンコン状に多数の穴の開いた部品を
絞り位置付近に配置する、この為、実絞り値はF10~F11相当
とやや暗くなるが、「周辺光量落ち」の効果が現れる。

ただし、BCは工作精度などで固体差がある模様で、本レンズ
の場合は、あまり綺麗な周辺光量落ちの効果は出ない。
なお、こういう場合は、デジタルズーム機能を用いて、
ある程度周囲をカットする事も対策としてはありうる。
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なお、本シリーズのレンズには絞り機構は搭載されておらず
全て開放F8(実質はやや暗い)で固定である。

で、初期の本レンズにはBC機構が搭載されておらず、
BC付きは、2011年以降の製品群であったと思われる。
本レンズは、一眼レフ用であり、発売当時ではニコンF、
キヤノンEFなど、いくつかのマウント版があった。

発売時価格は3000円+税であり安価だ。

さらに、この60mmのままで4/3版(注:μ4/3では無い)が
発売されていたのだが、ご存知のように、その後、4/3機は
ほぼ絶滅し、μ4/3ミラーレス機に移行してしまった。

近年、アウトレット専門ショップ(カメラ以外の商品が主だ)
で、本レンズを見かけた。
4/3版なので、在庫が売れ残っていたのであろう。
新品価格は定価の7割引きの約1000円と、非常に安価であった。
「そういえば一眼レフ用の60mm版は持っていなかったなあ・・」
という事で、これを購入した次第である。

さて、4/3用というマウントだが、これを使うのはやや難しい。
4/3機は、E-410をまだ現役で使用しているが、今回はちょっと
捻くれて、フルサイズ機で、どれ位「周辺光量落ち」が出るのか
試してみたくなった。4/3機とフルサイズ機ではセンサーサイズの
対角線長が約2倍違うので、こういう効果ははっきり出る筈だ。
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だが、上写真のように、フルサイズ機ではイメージサークルが
小さすぎる為、適宜トリミングして使う事とする。

それと、4/3用レンズをアダプターで使うのは普通は難しい。
何故ならば4/3用レンズはピントや絞り値をカメラ側から電気的
に制御する為、一般的なアダプターでは装着はできたとしても、
レンズをマニュアル(フォーカス、絞り)で使う事が出来ない。

この為、本家オリンパス等からμ4/3機で4/3レンズを使用できる
電子アダプターが発売されているが、2万円以上と高価だ。
(注:中古ならば1万円以下と適価となる)

ただ、これらは純正のAF系の4/3用レンズの場合の話だ、
ピントがMFで、絞りの制御もカメラ側から不要なトイレンズ
等では、カメラとの電気的なやりとりは必要とせず、
単にマウント形状だけ合わせてあげれば良い。
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以前、まったく同様の理由で、4/3機用商品で売れ残っていた
LENS BABY MUSE(4/3用)を在庫処分で安価に購入して使っている。
(本シリーズ第4回)その際に、4/3用の非電子アダプターを
購入してあったので、それを使って、今回はEマウント機α7に
装着している次第だ。
これで「1000円のレンズを使う為に、2万円のアダプターを
買わなければならない」という不条理な事態は避けられている。

さて、本レンズの特徴だが、まず長所とも短所とも言えるのが
この「ユルユルの写り」である。

大阪の、ある老舗中古専門店では、本レンズを取り扱っていて
そのショーウィンドウには「ともかく写りが悪い」と自虐的な
ポップ文章が書いてある、これではまるで「日本一まずい菓子」
のような「怖いもの見たさ」で購買意欲をそそるようなもので
あるのだが、その専門店に来る客層は、ほとんどがシニア層や
マニア層だ(観光名所に近い為、近年は海外からの観光客も
とても多い)で、そうしたユーザー層に「トイレンズ」の
意味や意義は簡単に理解できるとはあまり思えず、自虐的な
宣伝文句となっているのであろう。
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本レンズは勿論「トイレンズ」である、現代の良く写りすぎる
機材へのアンチテーゼ(対立する主張)もあるだろうし、
これによる、今まで見た事が無い「表現」を得る為のアート的
要素も多分にある。

私自身は「トイレンズ」は非常に好きであり、沢山のそれを
所有していて、過去記事でも色々と紹介している。
これら「トイレンズ」を否定する理由は何も無く、むしろ
本来の「新しい表現力を得る」という点では、大きな武器とも
なってくると思っている。

ただ、レンズ評価等を行う場合、私が良く評価項目にあげて
いる「必要度」という要素では、トイレンズは常に最低点に近い
評価だ、つまり「持っていてもいなくても良い」レンズの
代表格であり、周囲の知人友人等に積極的に薦める事もしない。

まあ、一々長所や欠点を上げる必要も無いレンズである、
トイレンズの概念や使い方については過去いくつもの記事で
書いてきているので今回は割愛する。そうしたトイレンズの意義
やコンセプトが理解でき、それに賛同または興味を持てるならば、
トイレンズを買えば良い、まあ、そんな感じであろう。

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さて、次のシステム
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レンズは、OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm/f3.5 Macro
(中古購入価格 22,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited (μ4/3機)

2016年発売のμ4/3専用AF単焦点標準画角マクロレンズ。

最大の特徴は、レンズ単体で等倍を越え、1.25倍の撮影倍率
を得る事ができる点だ。これは被写体が写る範囲(撮影範囲)を
フルサイズ相当で見た時の定義であり、μ4/3機の場合はセンサー
サイズがフルサイズ機の約半分であるので、撮影倍率は倍となり
「2.5倍相当」のマクロレンズであると言える。オリンパスの
WEBサイトには、あくまで35mm判(フルサイズ)換算ながら、
「標準焦点域のマクロレンズとしては最高レベルである」
と記載されている。
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まあでも、もっと撮影倍率を上げる手段は他にいくつもあり、
例えばレンズ単体においても、中一光学 Free Walker 20/2
(レンズマニアックス第2回記事)は4.5倍もの撮影倍率を持ち、
これは、μ4/3機では実に換算9倍もの高撮影倍率となる。

あるいはリバースシステム(ミラーレス・マニアックス第67回)
でも最大撮影倍率4倍のシステムを紹介している。
また、ヘリコイド内蔵アダプターやエクステンションチューブを
用いて、撮影倍率を高めるのもミラーレス・マニアックス記事で
色々紹介しているし、もっと簡便には、デジタルズームや
デジタル・テレコン機能を用いても、見掛け上の撮影倍率を
高める事が可能だ。

今回使用のE-M5 MarkⅡでも、2倍デジタル・テレコン機能が
入っているので、フルサイズ換算5倍で撮影する事は容易だ。
あるいは、画像編集でトリミングをすれば、閲覧解像度(画素数)
の許す範囲内で、いくらでも見かけ上の撮影倍率を高められる。

だからまあ、あまりカタログスペック上での撮影倍率の高さに
拘る必要は無い、他になんとでも倍率を高める手段はあるからだ。

そして、あまりに撮影倍率を高めると撮影が極めて難しくなる。
前述の中一光学 FreeWalker 20/2を第2回記事において
撮影倍率9倍のシステムとして試写した際には、1000枚中10枚
程度しか使える写真が無く、99%がピンボケまたは構図的に
大きなズレが出て使い物にならない、という結果となった。
同様に、撮影倍率を高めると出てくる「露出倍数」(見かけ上、
レンズが暗くなる)も大問題であった。

本システムにおいても、銀塩換算2.5倍という撮影倍率において
どこまで実用に耐えられるのか?という点がポイントとなる。
c0032138_17334142.jpg
それについての問題点は、まずAFでは、近接になるほど
ピント精度が怪しい、本レンズは駆動部品等を軽量化し
従来比2~3割のAF高速化を施したとの事だが、速度はともかく
AF精度が足らず、近接ではピントが合い難いのが大きな課題だ。

これはカメラとの相性にもよるかも知れないのだが、今回は
本レンズとほぼ同時代に発売された E-M5Ⅱ(2015年)を用いて
いるので、これでもシステム的な相性は取れている方であろう。
これでAF精度が出ていなければ、他の大多数のμ4/3機では
アウトだ。

かといって、MFで使おうとしても、無限回転式ヘリコイドでは
MFでの使い勝手が悪い、これは殆ど全てのミラーレス機用の
普及版レンズで同様な課題を持つ。
E-M5Ⅱとの組み合わせでは、S-AF+MFのモードを使うと、
AFで合焦しなかった際、すぐさまMFに移行でき、その際には
MFアシスト(拡大、ピーキング)機能も併用できる。

まあ、なのでピントの問題は重欠点とは言えないのだが、
使い難い事は確かだ。それにその課題は、本レンズ自身の
問題点のみの話ではなく、ミラーレス機の本体側を含めた
システム的な課題によるものだ。
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描写力は、マクロレンズを1つのお家芸とするオリンパスの
製品らしく、あまり不満は感じない。

価格もあまり高価ではなく、μ4/3用の常用マクロとしては
お勧めだ。

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次は今回ラストのシステム
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レンズは、TAMRON SP 45mm/f1.8 Di VC USD(Model F013)
(中古購入価格 36,000円)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)

2015年発売のフルサイズ対応の単焦点小口径標準レンズ。
本シリーズ第4回記事で紹介したSP85/1.8の姉妹レンズ
であり、このシリーズには他にもSP35mm/f1.8が存在する。
(後日紹介予定)

近代の新鋭単焦点レンズの例にもれず、高付加価値型製品だ。
特徴として、高解像力、高い描写性能、高い近接性能
(最短撮影距離=29cm)、内蔵手ブレ補正機構(VC)
超音波モーター(USD)と、現代のレンズとしてフルスペックだ。
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最初に弱点をあげれば、標準レンズとして考えると大きく重い。
フィルター径はφ67mmもあり、大きいという印象があった姉妹
レンズのSP85mm/f1.8と同じであった事は、購入時にはちょっと
驚いた次第である、また、重量も520g(注:ニコン用)という
点で、標準レンズとしてはかなり重い部類だ。
(注、ライバルのSIGMA Art 50mm/f1.4は815gと、さらに重い
本シリーズ第2回記事参照)

大きさと重さからか、USD(超音波モーター)の動きは、あまり
迅速という印象は得られない。
それから、SP85/1.8は、ニコン用でも電磁絞りを採用して
いたが、本レンズは通常の機械式絞りだ。

まあ、ニコン用(Fマウント)レンズは、マウントアダプターで
他の多くのカメラ(一眼レフやミラーレス機)で使用できるの
だが、電磁絞りのEタイプレンズは他社機では、普通のマウント
アダプターでは使用できない(=絞りが動かない)、かつ
ニコン製の一眼レフであっても、2000年代末以降の機種
(例:D300以降)で無いと使用できない、なので、この仕様は
弱点とは言えないであろう。

さらには、45mm/f1.8と地味なスペックの割りに高価である、
定価9万円+税であり、新鋭レンズとは言え旧来のAFの50/1.4
級レンズの2~3倍の定価だし、エントリー標準レンズ
(例:本記事冒頭のDA50/1.8)と比較すると、4~5倍もの
価格差となってしまう。

まあ、一眼レフ市場が縮退している近年においては、メーカー側も
本レンズのような高付加価値型商品を出して、利益を上げないと
やっていけない状況であるのは、他の様々な記事でも書いた通りだ。

だとすれば、ユーザーとしては、そうした高価な最新レンズを
買うのか?買わないのか?という選択が重要であるのだが、
まあ私個人の意見としては、特定の撮影シーンなどで、必要性が
あるのならば買えば良いと思っている。
(ここは、あくまで「必要性」がポイントで、特に使う当ても
無く高価なレンズを買うのは、本来あってはならない事だ)

ただ、「コスパ」という面からは、それらの最新レンズは、
旧来のレンズに比べて極めて効率が悪い。
だから、あくまで「購入予算があれば」という条件もポイント
となり、資金面で無理をしてまで購入する必要は無い。
まあ、すぐに必要性は無いが、それでも欲しかったら、何年か
待って中古相場が十分に下がったタイミングで買うと言う
選択肢もあるかと思う。
勿論、価格が数倍に跳ね上がったからと言って、従来型のレンズ
よりも、値段に見合うまでの描写力の改善がなされている訳でも
無いのだ。

ただまあ私は、当初、名レンズ FA77/1.8を暗所でのライブ系
人物撮影用途に使う際の代替機材として(注:FA77/1.8は、
ミラーレス名玉編第1位と、十分過ぎるほど優秀なレンズだが、
設計がおよそ20年前と、やや古い)TAMRON SP85/1.8に目をつけ、
その目的に十分に足りるレンズであったから、そのシリーズ
(新鋭SP単焦点F1.8級)の他のレンズにも興味が出てきて
購入した訳だ。

なお、同様にライバルのSIGMAの新鋭ART LINE単焦点レンズ群も、
なかなかの描写力を持ち(重くて高価だが)気に入って少しづつ
揃えている次第である。
c0032138_17335432.jpg
さて、本SP45/1.8だが、描写力や近接性能、内蔵手ブレ補正等、
旧来の標準レンズに比べて様々なアドバンテージはあるものの、
開放F1.8という平凡なスペックが仇となって、あまり人気が
出ないのではなかろうか?と予想していた。
であれば、ユーザーの立場からは、時間が経って中古の値段が
下がってから買うのが本来の賢いスタンスだが、今の時代に
おいて、それ(あざとい中古買い)をやってしまうと、
縮退しているカメラ市場をメーカーが維持していくのが大変だ。

まあ、悪いレンズでは無い、重欠点と呼べる弱点は殆ど無いので
最新の高画質のレンズが欲しい初級中級ユーザーであれば、
購入を検討しても良いと思う、値段にさえ目をつぶれば、
買って損は無いレンズだ。

気になる価格だが、本レンズの発売後2年程経過した2017年後半
では定価の半額位(45000円前後)の新品在庫アウトレット品が
中古市場に良く流通していた。前述のように平凡なスペックの
レンズであるから、初級中級層では、あまり本レンズの価値は
量りきれない訳なのだろう。
新古品が中古市場に出始めると、連動して一般の中古品相場も
下がる、本レンズは多少キズ有りのBランク品で、36000円程と
定価から比較すれば十分に安価であった。ただ、これでも、
本記事冒頭のDA50/1.8の4倍程の入手価格となっているが・・
c0032138_17335327.jpg
余談だが、本レンズは電磁絞り対応では無いが、その露出制御
の安定性等は、撮影においては、あまり重要な要素では無い。

(つまり、もし露出安定性が絶対に必要なのであれば、
もっと昔から改善されていてしかるべきであった事だろう。
ニコンFマウント機が出来てから約50年間も改善されなかった
のは、技術的な制約よりも、そもそも余り必要性が無かった
からであろう、従来型レンズでも普通に写真は撮れるのだ。
新機能を搭載してマウント互換性を失うのも好ましく無いし・・
高速連写で露出がバラつく点は、今はまあ電磁絞りレンズの方が
耐えうる要素が大きいが、電磁絞りレンズであっても40年も
50年も経過したら正常に動作する保証は無い、それならば
いっそアダプターで、実絞り測光で使った方が、はるかに安心
だとも言えるが、それが出来ない事が問題なのだ)

まあ、本レンズが電磁絞りレンズでは無い事は良し悪し
あると思うが、私としては、この仕様で良いとは思っている

---
さて、本記事はここまでとする。


特殊レンズ・スーパーマニアックス(1)マシンビジョンレンズ

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さて、新年よりの新シリーズの開始である。
このシリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー毎に
紹介する。

既に本シリーズ第0回目として「アポダイゼーション」の
特集を行ったが、今回から正式なシリーズ記事としよう。

まず第1回目は「マシンビジョン用レンズ」の特集とし、
そのカテゴリーの所有レンズを6本取りあげる。
(内、4本は過去記事では未紹介)

なお、本シリーズでの多くの記事は「上級マニア」以上向け
の内容とする(=【玄人専科】相当)

特に今回のマシンビジョン編は当該分野での非常に専門的で
高度な知識や計算能力が必要とされる為、難解な記事になる
事を最初に述べておく。
c0032138_13492035.jpg
マシンビジョン用(またはFA用とも呼ばれる)レンズは、
CCTV(閉回路TV)用レンズの一種である。
それらは一般的なカメラ市場とは全く接点の無い分野だ。

上級カメラマニアですらも知らないと思われる専門分野だが、
これを説明しだすと長くなる為、「匠の写真用語辞典第3回」
記事を参考とするか、さらに興味があれば、ミラーレス・
マニアックス等での以下のCCTV系レンズ紹介記事を参照の事。
(ミラーレス・マニアックス第4回、第21回、第54回、
第62回、第72回、補足編第4回、ハイコスパ第17回)

それと、CCTV用レンズ全般には監視、製品検査、画像処理、
機械制御等、様々な用途があるが、今回の特集では、全て
「マシンビジョン」用レンズである、これの主な用途は
画像情報による機械制御であり、この為、レンズ性能は
比較的高画質となっている。中には写真用レンズと同等の
高い解像力を持つものもあるが、そのあたりは後述する。

なお、この手のレンズを使用するのは、現代においては
PENTAX Qシリーズを用いるのが簡便だ。今回は母艦として
PENTAX QおよびPENTAX Q7を主に使用するが、より一般的な
機材としてμ4/3(マイクロフォーサーズ)機も使ってみよう。

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まず、今回最初のマシンビジョン
c0032138_13494960.jpg
レンズは、VS Technology VS-LD25N
(発売時定価22,000円)
カメラは、PENTAX Q7 (1/1.7型機)

発売年不明(2000年代?)の、FA用低歪曲マクロ(近接専用)
初期メガピクセル対応、MF単焦点手動絞りレンズ。

開放F値は撮影距離に関連した「露出倍数」に応じ、
F2.1~F2.5程度となる。(匠の写真用語辞典第2回記事)

本レンズにおける型番LD(=低デイストーション)とは、
「歪曲収差が少ない」という意味だ。
c0032138_13494927.jpg
本レンズの本来の用途は、例えば製品製造ライン等で
近距離の製品の品質を自動的に検査する等が主目的だ。


この時、製品の形状、たとえば真四角な物が曲がって写って
しまったら、製品自体が不良で曲がっているのか、レンズの
歪みかは、画像処理上では判断不能だ、よって本レンズでは、
まず「歪曲収差」の低減を主眼に設計されている。

本レンズの発売日は不明であるが、恐らくはこれの発売時点
では、まだ製品検査用の(ボード)カメラ等は、あまり画素数
が高くなかったと思われる(概ね30万画素~130万画素)
しかし2010年代より、CCTV系カメラの画素数は大きく向上し
200万~500万画素である事が普通だ。

その理由の1つとして、旧来この手のCCTV用途では、画像表示は
アナログTVモニターを基本としていた、これは約35万画素相当だ。
ところが、2011年にTV放送が地上波デジタル化すると、こうした
アナログTV(モニター)は古くなり、HD(ハイビジョン)用の
200万画素級モニターの利用が普通になった。

よって、監視カメラや製品検査等でも、そうした高解像力が必要
となり、急速にメガピクセル(100万画素)以上のCCTVシステム
が発達した訳だ。
(なお、これについては、単なる画面表示の問題だけであり、
本来であれば品質検査等の画像処理では、そこまで高い画素数
は不要どころか、計算処理が重くなる為、むしろデメリットだ。
なので、殆どの画像処理では、まず、入力画像の画素数を縮小
する事からスタートする計算アルゴリズムとなっている。
この事実は画像処理エンジニア以外では知らない事なので、
システム導入を検討する人等は、単に「画素数が大きい方が
画質が良くて好ましい」と大きな誤解をしているのだろう。
まあ、カメラの世界でも同じで、世の99%の人は、画素数の
大きいカメラが良く写る、と大誤解をしているので同様か)

で、マシンビジョン用レンズも、この時代2010年代には、
ほぼ全てが高解像度対応製品に変化していく。
本レンズは初期メガピクセル対応品であり、現在では
より高解像力仕様のVS-LDA25にリプレイスされている。
こうした場合、旧製品は廃棄処分となってしまうところを、
関係者に頼み込んで入手した次第である。

低解像力とか高解像力とかは、まあ一応そのように言っては
いるが、用途あるいは組み合わせるカメラやそのセンサーの
仕様によりけりで、その性能差は大きな問題にはならない。

本レンズの解像力は恐らく150LP/mm程度、よって今回の
カメラ母機PENTAX Q7の画素数は、最低の300万画素で
適正なバランスだ。(この計算の詳細は後述する)

ただし、カメラ側の画素数を低めれば単純にピクセルピッチが
大きくなるという訳でも無い。どのような画素補間処理を
行っているか?というカメラの内部構造は非公開である。
たとえば最高画素のままで撮影して、後で周囲のピクセルを
足しこんでいるような内部処理では、モアレ発生の可能性も
あるし、ローパスフィルターの有無も、こういう場合には強く
影響される、また、カラーフィルターによる色別画素処理で
あるが故、ここで言う画素数は、RGBの各色へは対応していない。
結局、カメラ内部の処理の中身迄は非公開故に、わからないから、
あまり深堀りしても意味が無い、と言うのが本音の所だ。

が、一応ユーザー側で理解可能な範囲に関しては、そのような
点を意識して、しっかりカメラ設定を行っておくのが良い。
その上で、仮に不具合が発生すれば、さらに内部原理の推察を
行うのか、あるいは、それを回避する技法を考え出せば済む話だ。

要は、カメラ、レンズやデジタルの原理をちゃんと理解した
上で、それを撮影に応用するという事である。
勿論、マシンビジョン用レンズの場合は、専門家クラスの知識が
最低限必要となる為、一般カメラユーザー層向けのシステムや
使用法では無い事は言うまでも無い。
c0032138_13494993.jpg
本レンズはLD(低歪曲率)仕様のレンズではあるが、PENTAX Q
システムの純正交換レンズは、基本的にレンズ内シャッター
仕様であって、純正トイレンズや、こうした他社レンズを
アダプターで使用時には「電子シャッター」による撮影となる。

PENTAX Qシステムの電子シャッターは、動体撮影等における
「ローリングシャッター歪み」が発生する他、撮影の状況に
よっては僅かな手ブレ等で、被写体の形状が歪んで写る場合も
よくあるので、その点には注意する必要がある。
まあ、連写して被写体形状が正確と思われるものを選ぶのが
簡便な解決策ではあるが、元々のレンズ特性が、低歪曲である
のに、カメラ側の問題でそれが生かせないのは惜しい話だ。

工場ラインでの検査等のFA用途でも「ローリングシャッター歪み」
は問題となっていて、この為、現代では産業用カメラユニットも
急速に「グローバルシャッター」仕様に変わってきていると聞く。
ただし、これと同時にボードカメラ等の撮像素子が旧来のCCD型
からCMOS型に変わってきていて、グローバルシャッター化は、
技術的に面倒だと想像されるので、まあボードカメラ市場も
なかなか技術開発が大変だろうと思われる。

デジタル一眼レフやミラーレス機の市場とは、このあたりは
まったく接点の無い話ではあるが、一部のトイ・デジタルカメラ
等ではこうしたCCTV系システムを転用したデジカメも発売されて
いる為、そういうところで、わずかな接点は存在している。
また、近年の電子シャッター超高速連写ミラーレス機でも、
ローリングシャッター歪みは原理的に避けられず、ここもまた
わずかな関連があるだろう。(必ず知っておくべき知識だ)

本レンズVS-LD25Nであるが、思いの他、ボケ質破綻は発生
しにくく、まあ、一般写真用途としても、なんとか使えるレベル
にある。元々の製品の性質上、ボケ質に配慮した設計思想は
有り得ないので、たまたま設計がハマったのだと思われる。
まあ、「ラッキー」であったとしておこう。

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では、次のマシンビジョンレンズ。
c0032138_13500869.jpg
レンズは、CBC(Computar) M1214-MP2 12mm/f1.4
(発売時定価25,000円、中古購入価格5,000円)
カメラは、PENTAX Q(1/2.3型機)

発売年不明(2000年代?)のCCTV/マシンビジョン(FA)兼用、
メガピクセル対応、2/3型センサー用MF単焦点手動絞りレンズ。

メーカー(ブランド)名は「Computar」であり、スペルは
一般的なComput「er」ではなく「ar」が正しい。

さて、この手のレンズは、まず中古市場には出ないのであるが、
これはリサイクル店で偶然発見した物だ。
物が流通して無ければ「中古相場」も存在しない状況だが、
定価からすれば、まあ十分安価に買えたと思う。
c0032138_13500866.jpg
本レンズにおける「メガピクセル対応」とは、実はちょっと
定義が曖昧なのだが、一般的には「100万画素級センサーに
対応した解像力を持つ」という意味だ。

「100万画素とはずいぶんと少ない」と思うかも知れないが、
CCTV用センサーは、例えば1/3型とかで、とても小さく、
これの対角線長は僅かに6mm程度しか無い。
(参考:デジタルのフルサイズ機の対角線長は約43mm)

この場合、100万画素級でのピクセルピッチは約4μm以下
となり、これはデジタルカメラのフルサイズ機で言えば、
5000万画素~1億画素に相当する仕様となる。

現在では、1億画素までの画素数を持つデジタル一眼は
中判機を除いて無いが、既に5000万画素フルサイズ機は
存在している。
また、APS-C機ではフルサイズ機よりもピクセルピッチが
小さくなりやすい。
近い将来に、そのレベル(ピクセルピッチが2~3μm)と
なる事を想定して、2010年代から新鋭の単焦点高画素対応
(高解像力仕様)の写真用レンズが色々発売されている。

つまり、こうした写真用新鋭高解像力レンズと、CCTV用の
メガピクセル対応レンズは、解像力に関してのみ言えば、
スペック的には、ほぼ同等の性能を持つ事になる。
(なお、もしかすると、CCTV用小型レンズの方がレンズの
ガラス素材内での均一性が高まり、製造面から高性能化が
写真用大型レンズよりも若干やりやすいのかも知れない?
事実、220LP/mm程度の小型レンズは容易に設計可能と聞く)

しかし、写真分野では、あまりそうした数字を気にする必要も
無く、例えば、フルサイズ・デジタル一眼レフのNIKON Dfは
1600万画素機なので、この場合、ピクセルピッチは約7.2μmと
かなり大きい。
つまり、まだピクセルピッチが大きい機種も色々とあるので
こうした低画素数の一眼レフを使うのであれば、あまり
写真用レンズの解像力には神経質にならなくても良い。
(むしろNIKON Dfは、解像力の低いオールドレンズの母艦
として適している)

ただ、今回使用のPENTAX Qは、センサーサイズが1/2.3型と
小さく、それでいて1200万画素機であるから、ピクセル
ピッチは、僅かに1.5μm程度しか無い。
こうした小型センサー機(コンパクト機や携帯系カメラも
同様)においては、画素数がちょっと上がっただけで
すぐにピクセルピッチが小さくなりすぎて、レンズ側にも
新鋭一眼レフ用超高性能レンズを超えるレベルの、相当な
高解像力が要求される。

しかしながら、コンパクト機や携帯系カメラの小型センサー
用の安価な搭載レンズが、デジタル一眼レフ用の超高価な
単焦点より優れた解像力を持つとは、とても思えない事で
あろう・・
事実その通りであり、つまり携帯系カメラのレンズは、
もう既に、センサー側の画素数に対してレンズ側の解像力が
全く足りていない状況なのだ。
だから、携帯・スマホのカメラの画素数が大きくなったと
喜ぶ事は、ほとんど意味が無い。
c0032138_13500827.jpg
さて、余談が長くなったが、本レンズM1214-MP2の話に戻る。
12mmの焦点距離は、PENTAX Qへの装着時には、換算約66mm
の画角となり、長めの標準レンズ相当である。
F1.4は大口径に見えるが、CCTVの世界で、特に監視用途では
暗い環境で使う為、開放F1以下のレンズも多く、F1.4級は
小口径の部類となる。(開放F値を控え目にする設計で
諸収差が低減するというメリットがある。本レンズは監視用
ではなく、FA/マシンビジョン用なので、当然の設計思想だ)

絞り環は手動で調整可能、ただし目盛りの数字はカメラ側に
向いておらず逆だ、これはFA(産業用途等)でカメラを上から
吊るして使う場合が多いからだろう。
絞り値は無段階だが、本体のネジによりクランプ(ロック)
が可能だ。(こうしたネジは落下紛失し易いので注意)

最短撮影距離は15cmと、CCTV系レンズにしてはまずまず短い。
ちなみに、CCTV系でマクロレンズという製品は、
本記事で使用のVS Technology社のマクロレンズがあるが、
一般的にはあまり多くはなく、基本は撮影距離や、必要な
撮影倍率に応じて、接写リング等を併用して使う。

接写リングは専用品が存在するが、「CSマウントアダプター」
(1枚5mm厚)を複数枚重ねると、接写リングの代用となる。
c0032138_13514219.jpg
他のCCTVレンズでそれをやった事があるが、屋外の被写体では、
ピント合わせが恐ろしく困難であった。
今回はその使い方はやめて、一般的な中距離被写体を撮っている。

なお、上写真の左側の薄いリングは「スペーサー」だ、これは
フランジバックを微調整する際に用い、例えばCマウント用の
アダプターを使うとオーバーインフ(無限遠を超えてピントが
合い、替わりに近接性能が落ちる)になる場合等に使うと良い。

描写力だが、ボケ質があまり良く無い。
勿論、この手のマシンビジョンレンズでは、ボケ質は製品検査等
とはまったく無関係である為、そうした部分への設計上の配慮は
全く無い。
いや、むしろ、ボケ質を犠牲にする事で解像力の向上を狙った
設計である。

写真レンズ用のコーティングが施されている訳でもなく、逆光耐性
も低いので、普通には写真用レンズの代用には、なる筈も無い。
まあ、上級者向け、というより「CCTV専門家向け」の撮影ジャンル
で、総合的に、かなりの高難易度となる。

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さて、次のマシンビジョン。
c0032138_13510365.jpg
レンズは、VS Technology VS-LD6.5
(発売時定価50,000円)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

発売年不明(2000年代?)の、FA用低歪曲広角(近接可)
初期メガピクセル対応、MF単焦点手動絞りレンズ。
開放F値は「不定」である、これは撮影倍率に依存した
「露出倍数」が掛る為であり、撮影条件に応じて、だいたい
F2.2~F2.4程度となる。

6.5mmの焦点距離で、1/2型以下のCマウント対応だ。
よって、母艦としては、PENTAX Q(1/2.3型)が望ましいが、
今回はちょっと捻くれて、μ4/3機を使ってみよう。

μ4/3機は、その名の通り、4/3型(=1.33型)のサイズの
撮像センサーを搭載するが、これを2倍デジタルテレコン
モードで常時使用する、これで2/3型(=0.66型)相当となるが、
実はこれでも、1/2型(=0.5型)には、まだ足りない。
なので、この状態で撮影すると、以下写真のようにケラれる。
c0032138_13510342.jpg
だが、DMC-G6には優れた操作系のデジタルズーム機能があり
この状態から、レバー1つで任意サイズの拡大(トリミングと
ほぼ等価)が可能だ。なお、この設定で、この機能を使うと
記録画素数が400万画素に制限されるが、前述のレンズ解像力
の実効値から、マシンビジョン用レンズをミラーレス機で使う
際には、概ね300~400万画素が限界なので、これでも十分だ。
(注:使用するシステムに応じて、個々に計算が必要だ)

さて、本レンズは広角の低歪曲仕様である。
写真用レンズでも、特に低価格ズームレンズの広角側等では
歪曲収差が大きいものが比較的多い、しかしながら、実際の
写真分野では、構図周辺に置いた海の水平線や建物の直線性を
きちんと出す等の、よほどの厳密性が必要なケース以外では
多少被写体が歪曲していても殆ど気にはならないであろう。

だから、写真レンズの場合、この収差に関しては、設計上、
あまり優先的に補正は行っていないと思われる。(それよりも、
解像力等を優先的に高めるのが良い)

ちなみに、歪曲収差はユーザー側での確認が容易な為、様々な
レビュー記事等では、たいていこれを計測してレンズの良し悪しを
語っているが、勿論レンズ性能は歪曲収差だけでは決まらない為、
若干(かなり)的外れな話だと思う。
なお、写真用超広角レンズ等でビルや建物が上すぼまりに写る
等は、歪曲収差ではなく、単なる遠近感(パースペクティブ)
による「歪み」であるので、両者を混同してはならない。
c0032138_13510352.jpg
本レンズVS-LD6.5は、近接から遠景まで汎用性の高いレンズ
である(注:無限遠まで完全に対応していないかもしれない。
レンズに距離指標は無く、撮影倍率表記だ。だが被写界深度が
深いレンズであり、少し絞れば無限遠撮影は可能である)

で、本レンズを写真用途で使う場合は、1/2型対応なので、
使用できるシステムに制限があるが、まあ、PENTAX Q/Q10
(1/2.3型)あたりで使えばバッチリのシステムとなるであろう。
その場合は、フルサイズ換算約35mmとなり、使い易い準広角
画角だ。

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さて、4本目のマシンビジョン。
c0032138_13511745.jpg
レンズは、Space JF7.5M-2 7.5mm /f1.4
(発売時定価18,000円、新品購入価格17,000円)
カメラは、PENTAX Q7(1/1.7型機)

2010年代のマシンビジョン(FA)用、メガピクセル対応、
2/3型センサー用MF単焦点広角手動絞りレンズ。
(ミラーレス・マニアックス第54回記事、および
レンズ・マニアックス第11記事で紹介済み)

本レンズ購入時には知らなかったが、調べていると旧型が
存在していた模様だ(S7.5-1.4)、そちらは定価が11,000円と
安価であるが、メガピクセル対応品ではなく、2000年代の
低解像力仕様であろう。
c0032138_13511708.jpg
CCTVの世界で、「メガピクセル対応品」と言えば、だいたい、
3~3.5μmのピクセルピッチに対応していて、これは概算で 
166~142LP/mmとなる。旧製品であっても、恐らくだが
120LP/mm前後位の解像力は出ているとは思われる。

ここでマシンビジョン用レンズの解像力の話をしておこう。
ここからは、やや複雑な計算が必要であるが、ちょっとだけ
実例を挙げる。

まず、本レンズの解像力を150LP/mm前後と仮定する、
これはだいたい、この手のレンズでは、そんなものである。

(LP=ラインペア。テストチャートに白黒の細かい線を印刷し、
1mmあたり何本の線が見分けられるかという解像力の指標。
それとこの値は、画面中央部であり、周辺では少し落ちる)

次いで使用カメラ、PENTAX Q7のセンサーは1/1.7型であり
7.5x5.6mmのサイズだ。これを最高画素数の1200万画素で
使用すると、ピクセルピッチは約1.87μm、これは非常に
小さく、現代の超高画素デジタル一眼レフよりも細かい。
(小型センサー機では、よくこういうケースがある)

Q7を最大画素数で撮影すると、レンズ側では約266LP/mm
という性能が必要となる。 1÷(7.5÷4000)÷2≒266
しかし、ここまで高性能なレンズは超高性能一眼レフ用レンズ
でも殆ど存在していないし、マシンビジョン用でも250LP/mmを
超える物は、最近ではあるらしいが、軽く十万円以上もする
超高価格品だ、よって、この計算結果は非現実的なレベルだ。

なお、この計算式であるが、ピクセルピッチに対応するレンズ
解像力が必要になるという事は誰にでも理解できると思う。
上では、単純に割り算しているだけなのだが・・

先日、私がレンズメーカーの光学設計技術者の人に、この話を
すると、その技師の人は「デジタルのサンプリング定理により、
ナイキスト周波数を意識すると、レンズ解像力は2で割り算した
結果の半分だけあれば良い」という意見を言っていた。
だが、サンプリング定理は理解できるが、そう解釈するかどうか
は不明である。すなわち、サンプリングを行うには2倍の
周波数が必要だが、その目的の為に、白黒の線をペアとして
いるのだから、さらに2で割る必要があるのだろうか?

そして、ピクセルピッチのぎりぎり迄センサー受光面が入って
いる訳ではなく、集光用のマイクロレンズの有効径もある。

そのあたりの詳細が定義しずらく、結局「2で割るかどうか?」
の論争は結論が出なかった。まあ、「デジタル光学」分野では、
この件に限らず、「ちゃんと定まっていない」場合は結構多い。
まだ数十年程度の技術分野だ、定説も少なく、検証も困難だ。

なお、レンズ設計の世界ではなく、マシンビジョン業界では
私と同じ解像力の定義を採用している。
本記事においては、基本的に私の解釈での計算式を述べよう。

・・さて、結局のところ、レンズ解像度が足りないのは確か
なので、Q7の画素数を下げる必要がある。
レンズ解像力を150LP/mmと仮定すれば、必要横ピクセルは
7.5÷(1÷(150x2))=2250Pixelと計算でき、必要画素数は
4対3アスペクトであれば、2250x2250x(3/4)=約380万画素
となるが、Q7には、この値に合致する画素数設定が無いので、
300万画素(1920x1440)で用いるのが良いだろう。
(PENTAX Q/Q10でも同じく300万画素が良い)
これで、想定される本レンズの解像力でぴったりとなる。

なお、レンズが高解像力(メガピクセル)仕様では無くても
使用カメラのセンサーサイズや画素数などを綿密に設定して
使えば、さほど大きな問題にはならないので、今から思えば
新型の本レンズを購入する必要性は少なく、安価な旧型でも
よかったかも知れない。
(Q7の画素数を300万画素まで落とせば、必要レンズ解像力は
約120LP/mmの計算となり、これであれば、旧型のレンズでも、
まあ大丈夫であったと思う)
前述の通り、メガピクセル用レンズは、だいたい3.3μmピッチ
あたりに対応していて、1÷0.0033÷2=約150LP/mm
という感じの性能だ。
まあそれに前述のように、カメラ内部でどのような画素補間
処理を行っているかは非公開で不明だ、いちおうユーザー側
では最善と思われる措置を行うが、現実的には、ここにあまり
拘っても、その効能を判断・評価する事は極めて困難である。

余談だが、単位μm(=0,001mm)は「マイクロメートル」
と読むのが正式だが、これでは長い為、CCTVレンズ業界では、
この単位の旧呼称の「ミクロン」で話をするのが一般的だ。
(例:「このレンズは、3ミクロンピッチ対応である」等)

なお、一眼レフ用レンズでも、近い将来の超高画素時代に対応し、
2~3μmピッチのセンサー用の解像力を持つ商品が出始めている、
2μm対応であれば、250LP/mmの解像力という事なのだが、
もし2μmピッチのフルサイズ機を作ると、およそ2億画素のカメラ
となる、今の所まだそれよりもヒトケタ少ない画素数仕様の
デジタル一眼レフばかりなので、2010年代の新鋭写真用レンズの
解像力性能は、現段階ではやや過剰すぎるかも知れない。

で、こういったややこしい計算をしないと、マシンビジョン用
レンズは写真用に使えないのか?と言えば、原則的には、その
通りである。
マシンビジョン用やCCTV全般でのCマウントレンズは、対応する
イメージサークルや、解像力等の仕様が個々に異なる為、
少なくとも、それらの原理や仕様を理解して、適正なシステム
構成を意識しないと、デジタルカメラでは使う事ができない。

この点は、たとえカメラの上級マニアや職業写真家であっても
無理な話であり、専門家レベルの知識が絶対に必要なのだ。
そして、専門家レベルであっても、デジタル光学は新しい分野
であるので、その詳細な所は、まだ解明されてない部分も多い。
c0032138_13511677.jpg
さて、本レンズの7.5mmの焦点距離は、PENTAX Q7で使った
場合のフルサイズ換算画角は約35mm/F1.4 に相当する。
使いやすいように見える準広角画角ではあるが、例によって、
PENTAX Q7のMF性能ではピント合わせの課題がつきまとう為、
少しだけ絞って、被写界深度をかせぎつつ、中遠距離の被写体の
撮影に特化するのが賢明な使用法だ。

(注:Q7の背面モニターの使用部品の再生系処理には、
どうやらバグまたは不良がある模様で、解像度が出ていない。
これは同時期(2012~2013年)の、同社や他社のミラーレスの
複数でも全く同様な課題があり、各社で使用している共通部品
の欠陥だと思われる。なので、むしろQ7より以前の時代の
Q(2011年)あたりで撮った方が若干容易かも知れない。その場合
の換算画角は7.5mmx5.5倍=約41mmとなり、準標準相当だ)

まあ、ピント精度が気になるようならば、例えばPENTAX Q系
には優秀なエフェクトが搭載されている為、それを併用し、
輪郭等を強調してしまうのも対策としては有効であろう。

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さて、5本目のマシンビジョン。
c0032138_13512666.jpg
レンズは、TAMRON M118FM16 16mm/f1.4
(発売時定価30,000円、新品購入価格20,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3型機)

ミラーレス・マニアックス記事等で何度も紹介した
2010年前後のマシンビジョン(FA)/CCTV兼用、初期メガピクセル
対応、1/1.8型センサー用MF単焦点手動絞りレンズ。
写真用レンズメーカーとしても著名なTAMRON社製だ。

1/1.8型対応レンズであるが、イメージサークルに余裕がある
設計の製品だ。この為、例えばPENTAX Q7の1/1.7型に装着した
場合、本来僅かに足りない筈が、ケラれずに何ら問題なく使える。
今回は、さらに無理をして、μ4/3機を2倍テレコン常用で
使ってみよう、これは4/3の半分で2/3型相当になり、
この数値を別の書き方にすれば、1/1.5型程度になる。
c0032138_13512615.jpg
なんと、だいぶ無理をした使い方なのに、ケラれずに使える。
これは嬉しい実験結果だ、すなわち本レンズには2/3型対応
並みの余裕があるという事になる。(仕様が最初から2/3型
なのか、あるいは周辺収差を避けて1/1.8型を謳っているか?
後者はレンズ設計コンセプト上では十分に有り得る話である)

このE-M5Ⅱ+テレコン2倍での換算画角は、16mmx2x2で、
64mm/F1.4となり、長めの標準レンズ相当だが、最短撮影
距離が30cmと、近接領域で使おうとすると、やや寄れない
不満がある(上の昆虫の写真等)

なお、PENTAX Qで使うとフルサイズ換算画角は88mm/F1.4
となり、いわゆるポートレート用大口径中望遠と同等の
仕様となるのだが、まあ、そういう事は数字の遊びだけの
話であり、被写界深度や主要撮影距離がまるで異なるので、
そうした大口径中望遠レンズとしての代用利用は難しい。
けど、撮影倍率が上がるので、近接での不満は、やや解消
されるであろう。

で、これまで本レンズをMF性能が貧弱なPENTAX Qシリーズで
使ってきたが、その場合では厳密なピント合わせが困難であり、
加えて本レンズは、ボケ質が破綻しやすく、その回避もQ系では
ほぼ不可能だった。
しかし、E-M5Ⅱではピーキングが使え(注:精度はやや悪い)
高精細で倍率の高いEVFを搭載しているので、意外に使い易い
事がわかった。
ただ、今回にはボケ質破綻の回避にまでは、あまり配慮して
いなかったので、結構その問題は残っている。
c0032138_13512651.jpg
ボケ質破綻に関しては、この手のマシンビジョン/CCTV用
レンズは背景をボカして使用する用途はまず考えられない為、
ピント面の解像力を主眼に設計していて、ボケ質等への配慮は
一切無い。つまりそういう設計コンセプトなので、ボケ質が
悪いのはやむを得ないし、それらの事をちゃんと理解して
使わない限り、こうしたレンズを使用する事自体が無理だ。
何度も繰り返すが、「CCTV専門家」向けのレンズ群であるから、
初級中級マニアはもとより、上級マニアや職業写真家層でも
使いこなしは困難であろう。

業務用途の写真撮影には使えない事は当然であり、たとえ
趣味的な撮影であっても写真表現としてはアンコントローラブル
(制御不能)だ。
ただ、アンコントローラブルである事を逆手に取って、これらを
「トイレンズ代わり」に使用するアート的方法論はありうる。
しかし、トイレンズと言うには、解像力性能は、現代の新鋭
高性能単焦点レンズ並みだし、歪曲収差なども良く補正されて
いて、ある一面での性能は高く、かつ、そこそこ高価であるから、
トイレンズの代用とするには勿体無いと思う。

そのあたり、こうしたマシンビジョン用レンズの写真における
用途は、「不明」と言えるかも知れないのだが、まあ、それでも
マニアックな視点からは、なんとかこういうレンズ群を使え無い
だろうか?という「用途開発」は、結構面白いテーマである。

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では、今回ラストのマシンビジョン
c0032138_13513651.jpg
レンズは、VS Technology VS-LD50
(発売時定価28,000円)
カメラは、PENTAX Q7 (1/1.7型機)

発売年不明(2000年代?)の、FA用低歪曲望遠マクロ(近接専用)
初期メガピクセル対応、MF単焦点手動絞りレンズ。

開放F値は「露出倍数」に応じ、F2.7~F3.1程度となる。

かなりの望遠画角のマクロであり、PENTAX Q7で使用時には
フルサイズ換算230mm相当である。
c0032138_13513789.jpg
こういうレンズは、FA(産業)用途の場合、ワーク(検査対象物)
の距離が遠い、または小さい場合の生産ライン等で使われる。
まあ写真用語で言えば、WD(ワーキング・ディスタンス)が長い
という事であり、その代表は望遠マクロ(200mm前後の焦点距離)
レンズである。

写真用等倍望遠マクロレンズ(例:180mm/F3.5)の最短撮影
距離は、一般に46cm程度となるのだが・・
本VS-LD50の場合の「物像間距離」(=WD)は、仕様上では、
約28cm~約67cmとなり、ほぼ写真用望遠マクロと同様な
感覚で使用する事が出来る。

これに対して、例えば、本記事の標準マクロVS-LD25Nでは
最短15cmであるから「かなり近接した撮影」という印象となる。
すなわち、フィールド撮影において、常に至近距離の被写体に
注目して探す事となり、これはこれで一般的な写真撮影の
感覚とはずいぶんと異なり、そういう視点(目線)に切り替える
事がやや難しい。

なお、VS Technology社製SV-1214H(未所有)といった、新鋭
レンズであれば10cm~無限遠の範囲で撮影が可能なので、どんな
被写体でも対応範囲が広いであろう、一般的な写真用マクロレンズ
と、ほぼ同等の視点感覚で扱えると思われるので、ちょっと欲しい
のだが、少々高価なので、どうしようか?と迷っている。
(追記:本記事執筆後に入手済み、後日別記事で紹介予定)

本レンズは、旧型の初期メガピクセル対応品であり、
解像力は推測で140~150LP/mm程度である。
この為、Q7の画素数は300万画素としているのだが・・
新型のVS-LDA型の解像力は、スペック表からは不明であるが、
恐らく160~180LP/mm程度であろう、よって3.3μmピッチ
くらいで使っても問題は無いが、生憎Q7にそれに相応する
画素数設定(400万画素程度)は無い。

なお、デジタル一眼レフでは、例えば超高画素(5000万画素)
のCANON EOS 5Dsでも、ピクセルピッチは約4μmで、必要な
レンズの解像力は、120LP/mmに過ぎない。
ともかくCCTV分野や携帯・スマホ系の小型センサーとかでは、
ピクセルピッチが小さすぎてレンズ側の対応もそれなりに
大変なのだ。
c0032138_13513655.jpg
さて、この手のマシンビジョン用のマクロ(近接専用)レンズ
を屋外撮影で使うのは極めて難しい。


まず撮影距離が短く、加えて被写界深度が浅すぎる。
遠距離撮影は本レンズの仕様上できないので、遠景の風景等を
撮って被写界深度を稼ぐ訳には行かない。
絞りを絞ってみても、近接撮影で露出倍数がかかっている事と
あいまって、手ブレ限界シャッター速度を簡単に下回るので
ISO感度を高める必要がある。

なお、Q7の場合、カメラ側に手ブレ補正機能は入ってはいるが、
屋外撮影では風等での被写体ブレのケースが遥かに多く、そして
近接撮影では手ブレ補正機能が効かない前後方向への撮影者ブレ
が多く、あまり役に立たない。

おまけにPENTAX QシリーズはMF性能に劣る為、こうしたマクロ
システムでの撮影は、上級者以上の高度な撮影技能を要求される。
あまりビギナー層や初級マニア層が出来る類のものでは無い。

勿論、この手のレンズは工場での生産ラインなどで、しっかり
距離や位置を固定して使うものである。その為、レンズには
絞り値や、ピントリング距離をロック定する為のクランプ式
ネジがついている。


本レンズによる野外マクロ撮影は、レンズ設計仕様からは
想定外の使用法である為、まあこれで一般写真を撮れる方が
奇跡的とも言えるだろう。

総括だが、今回紹介のマシンビジョン用レンズ群は、非常に
専門性の高い特殊用途レンズである、基本的には一般写真撮影
用途には全く向かない事は、重ねて述べておく。

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さて、今回の第1回記事「マシンビジョンレンズ特集」は
このあたり迄で、次回記事に続く・・

【玄人専科】匠の写真用語辞典(10)~機材購入編 Part 2

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一般的なカメラユーザー層には普及していない「特殊用語」や
「本ブログ独自の用語」を解説するシリーズ記事。
今回は「機材編」のサブカテゴリー「機材購入編」(Part 2)
から始める。
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<機材購入編>Part 2

★カメラ型番のルール
 独自分析。
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 各社のカメラ型番は「アルファベット+数字」というケースが
 大半である。ところが、この無機質な表記が、ビギナー層が
 カメラを買う際に「同じような型番ばかりで、どこがどう違う
 のかわからず、どれを買って良いかわからない」と言う問題点
 にも繋がっている。

 さて、ここで少しだけ一眼レフの歴史を振り返ってみるが・・

 1970年代迄の銀塩一眼レフは、露出合わせが手動、ピントも
 マニュアルであり一般ビギナーユーザーが写真を撮る上では
 敷居がかなり高かった。

 1980年代に入ると、AE(自動露出)化により、少しは敷居が
 下がったが、まだMFの課題が残っている。
 
 1990年代には、各社のAF一眼レフが出揃い、同時にプログラム
 露出モードも一般化した為、やっと「シャッターを押すだけ」で
 誰でも写真を簡単に写せる時代になった。
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 ここで各社は、一般層へのAF一眼レフの普及を狙い、上記の
「型番の問題」を解決する為、カメラ型番に固有の名称(愛称)を
 つけるようになっていく。

 最初は、CANONのEOS Kiss(1993年~)であり、この機種は
 女性やファミリー層といった新たなユーザー層に大ヒットし、
 新規の「市場創出」に極めて貢献した。

 各社はKissシリーズの成功を見てネーミング戦略の重要性を知る。
 MINOLTAでは「Sweet」,NIKONは「u」,PENTAXが「*ist」
 マニア向けと思われるCONTAXですらも「Aria」の名称をカメラに
 つける。一眼レフはもとより、コンパクト機や当時流行していた
 新規格APS(IX240)コンパクト機も同様だが、種類が多すぎるので
 詳細の説明は割愛する。

 まあ実際にはCANON以外の一眼レフメーカーがネーミング戦略を
 始めるのは1990年代末だ、この頃は「第一次中古カメラブーム」
 が起こっていて、一般層にも一眼レフを普及させやすかった事と、
 もう1つ、一眼レフのデジタル化が数年後に迫っていた為、
 この時期に新たなユーザー層を「囲い込み」、デジタル化した際
 にも引き続き自社マウントの一眼レフを買って貰いたい、という
 要素も各メーカーにとっては戦略的に重要であった事であろう。

 それから、この時代1990年代末には、インターネットが普及
 し始めた事から、「検索」による型番名称の「ヒット」も、
 情報戦略的に重要であったかも知れない。

 ところが、こうしたネーミング戦略は海外市場も含めた「商標」
 の取得が面倒だ。海外では商標が取れなかったからか?
 輸出向けカメラに日本国内とは異なる名称や型番を付ける事も
 良くあった模様である。



 2000年代中頃からは、CANONのKiss(キスデジ)シリーズを
 除き、またカメラの型番は従来通り、英数字のみの無味乾燥な
 物となった。

 さて、ここで各社の一眼レフのネーミングの意味を紹介する。

 まずは、銀塩MF一眼レフ時代、1970年代~1980年代だ。
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 文章ではややこしいので表形式にまとめてみたが、ブログの
 横幅の制限で画像が小さくなりすぎてしまった(汗)
 まあ、拡大すればかろうじて読めるであろうし、こういう
 情報は「公開されている事実を単にまとめただけの二次情報」
 であるから、他のWEB等からでも情報収集が可能だ。
(注:本ブログは一次情報の発信を主眼としていて、他の何処かに
 ある情報を、まとめたり転記するだけのスタンスは取りたくない)

 この時代は、各社型番のルールがまだ出来上がっていない。
 まあ、言ってみれば、いきあたりばったりの型番だ。

 しかし、ニコンは、CI(企業イメージによるブランディング
 戦略)的視点から、比較的型番のルールは統一性がある。
 また、オリンパスは 天才と称された「米谷技師」による
 強い「標準化思想」により、型番ルールはしっかりしていた。

 次いで銀塩AF一眼レフ時代(1980年代後半~2000年代初頭)
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 AF機の技術的進歩の速さにより、また型番ルールは乱れた。
 この時代、前述のように、愛称によるネーミング戦略が
 行われている。

 次いでデジタル一眼レフ時代(2000年代~)
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 デジタル化による製造・事業構造の変革(精密機械工業→
 電気・電子機機器工業→デジタル機器開発)の激震により、
 この時代、カメラメーカーがずいぶんと減った。

 この時代も当然デジタル技術の進歩のペースが速く、加えて
 ユーザーニーズが多様化、そしてスマホやミラーレス機の台頭
 により、それらに対抗する為、多数の一眼レフが登場している。
 この状況により、各社の型番ルールは、また複雑化している。

 まあでも、これまでの時代のような「いきあたりばったり」
 という雰囲気は影を潜め、ちゃんと、CI的なブランディング
 戦略を各社共に行っている。
 すなわち、そういう全体的な視点から製品ラインナップを
 きっちりと決めれるメーカーで無いと、今の時代はなかなか
 生き残れないという事なのであろう。
(=製品ロードマップが無いと、投資家も企業に投資しない)

 次いでミラーレス時代(2010年代~)
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(注:NIKON ZシリーズやEOS Rシリーズ等の新鋭フルサイズ
 ミラーレス機群は、本表作成時点では、まだ発表されて
 いなかった為、記載されていない。
 ちなみに、本ブログでの、こうした「シリーズ記事」は
 記事間の内容関連性、検証作業、掲載写真の準備なども含めて、
 最低でも数ヶ月前、場合により1~2年も前から記事を準備する
 状況だ。掲載直前に記事を執筆する等は、到底無理である)

 これまでの一眼レフでは、旗艦機、高級機、中級機、普及機
 のように、性能・価格毎で製品ラインナップが構成されて
 いたのだが、ミラーレス機では「ユーザーニーズ別」による
 カテゴリー分けが進んでいる。

 やっと、これ迄の20世紀型の「プロダクト・アウト」(製品を
 作ってから、売り方を考える)から、「マーケット・イン」
(市場ニーズをリサーチし、それにあった製品を企画して作る)
 にカメラの事業構造が変化したという事であろう。

 他の市場分野では当たり前の話だが、カメラ界の製品戦略は
 いつの時代も保守的で、決して先進的なものでは無いのだ。
(注:これは、メーカーや業界だけの責任では無い。
 銀塩時代からの「生き残り」ユーザーが多い市場であり、
 ユーザー層自身が保守的である事も極めて大きな課題だ。
 ミラーレス機では新規ユーザー層に向け、比較的自由な
 製品企画ができるが、一眼レフでは古いままの状況だ。
 まあ、その事も含め、メーカーは、もう一眼レフを作りたく
 無いのかも知れない・・)

 ただし、初期(2000年代末~2012年頃)のミラーレス機は
 まだ、どんなユーザー層に、どのようなカメラを売るかが
 メーカー側もわかっていなかった模様であり、カテゴリー分け
 やブランディング戦略が色々と変遷していたように見られる。

 また、製品ライフサイクルが短く、毎年のように新機種が
 出てくる。これを予想して、型番は単純な数字からスタート
 していたのだろうが、既に9番や10番となっている機種も多く、
 このまま数字型番を続けるか否かは、メーカーとしても
 迷い所であろう。このあたりはPC用の老舗ソフトウェアの
 バージョン番号の感覚にも近く、バージョン10いくつとも
 なったら、ユーザーとしても、もう訳がわからない。

 いずれにしても、型番のルール付けのコンセプトがはっきり
 しているメーカーあるいはシリーズ機種は、それなりに
 ちゃんと中長期の製品企画(計画)がしっかりしている、と
 見なす事も出来る。それが性能や仕様に直結する訳では無いが
 比較的安心して購入できる機種群だとは言えると思う。

(注:あまりに「ロードマップ」がしっかりしすぎている場合、
 将来の製品に新機能を搭載して価格を上げる為に、それ以前の
 機種では、性能を出し惜しみしている場合もある。実例としては
 手ブレ補正や高速連写機能の段階的な搭載がある。この点はかなり
 要注意だが、一般層では、その予想や判断が不能であろう・・) 

 各社の型番ルールは、あまりに複雑なので、現代に至っても
 ビギナー層はもとより中級層でも、良く分からない状況だとは
 思うが、これはもう、どの機種がどんな性能・仕様なのかは
 一々覚えるしか無い。

「どれを買ったら良いか、わからない」というビギナー層の
 疑問点は、「何を撮りたいのか良くわかっていない」という
 ビギナー層自身の問題点にも強く関連している。
 だから、結局「一番高い機種を買ってしまえ」という初級者
 層の購買行動にも繋がる。ただ、それではあまりにスキルと
 機種のランクがアンバランスで、無意味だし格好悪い。

 何をどう撮りたいかがわかれば、それに合う機種は、たいてい
 市場に既に存在しているのだ。

★カメラ型番のハイフンの有無
 独自概念。

 前述の「型番ルール」にも関連するが、カメラ型番には
 ハイフンが入る場合と入らない場合がある。
 旧来、この事はあまり重要視されていなかったのだが、
 近年、MINOLTA α-7、α-9と、SONY α7、α9のように
 型番のハイフンの有無で全く異なる機種が出てきて
 しまっている為、本ブログでも慎重にカメラ型番の
 ハイフンの有無を記載するようになってきている。
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 ただ、多くのWEB上では、このあたりがいい加減だ。
 公式情報に近いような立場のサイトですら、これの間違いが
 多々見られるという残念な状態だ。

 ハイフンの有無のみ等で型番の類似する両者のカメラを
 実際に保有していれば、この差異が、いかに重要な事かを
 理解できるであろう。
(注:マニア間の会話では、メーカー名は言わない(書かない)
 単に「α7」等だけであり、SONYかMINOLTAかは自明だ。
 これはカメラに限らず、車やバイク等でも、シリーズ名では
 なく「型式」で話すのがマニアの常識であろう。その方式
 ならば個別の機種(車種)を特定できるからだ)

 カメラ情報は、単なる文字を情報として書けば良いという
 訳ではない、実際に存在する「機器」であり「製品」でも
 あり、その開発者や所有者は、様々な「思い入れ」を持って
 いる訳だ。カメラ等を実際に所有した場合、その感覚は容易に
 理解できる事であろう。
 それ故に、所有すらしていない機材の事を、あれこれと
 語ったり書いたりする態度も、個人的には嫌いなのだ・・

★キヤノン
 一般固有名詞。
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「キャノン」と書くのは誤りで「キヤノン」が正しい。
 これを間違えると、マニアとしては格好が悪い。

★目利き
 マニア用語。

「目利き」または「見立て」は、主に中古買いの際に用いる
 用語であるが、大きく分けて3つの意味があると思う。

 1:中古品(カメラ、レンズ等)を購入する際、
  問題(動作不良や劣化)があるかどうかを調べる。
  何か問題がある場合、それが実用に値するか否かを
  判断する事も含まれる。
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 2:中古品または新品機材を購入する際、その価格(相場)に
  おいて自分にとって価値があるものかどうかを判断する。
  あるいは購入した機材を将来において売却・転売する際に、
  その品物が高価に売れるか、あるいは売却損失が最小限に
  なるかどうか(場合により利益が出るか?)を判断する。

 3:購入しようとする機材が(自分の用途や目的において)
  必要十分な性能を持つか否か。
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 いずれのケースでも、要は良否を見分ける事と、その価格に
 見合う価値があるかどうか(=コスパ)を判断する事が重要だ。

 この「目利き」(見立て)は、簡便に学ぶ手段は殆どなく、
 沢山の中古機材を見たり購入して、そのノウハウを経験的に
 積み上げるしか無い。

★中古相場
一般用語、ただし、かなり奥が深い内容を伴う。

 カメラ機材は「中古買い」が一般的に行われる。
 他の市場分野では、不動産、車やバイク、ヨット、パソコン、
 服飾品、嗜好品等の高額商品や、投機型商品(カード、古銭等)
 においても中古売買が良く行われていて、それぞれの中古の
 専門店や、総合リサイクル店が普通に各地に存在する。

 カメラ機材は、銀塩時代に特に中古店が増え、1990年代の 
 銀塩末期に、ちょうど「中古カメラブーム」が起こった事で
 新規の中古カメラ店がいたるところに林立した。
 また、中古専門店以外の一般的な「DPE店」でも、その多くが
 カメラやレンズ等の中古機材を取り扱っていた。

 だが2000年代、デジタル時代に入ると同時に(銀塩)中古
 カメラのブームも去り、銀塩中古機材を扱う専門店も激減した。
 また、地方DPE店等は、それまでの現像等のビジネスモデルが
 大きく変化(縮退)し、やはり多数が廃業した。

 デジタル機材の中古売買が何故成り立ち難いのか?と言えば、
 すぐに性能的に古くなり、在庫品の価値が下がるからである。

 銀塩時代の旗艦機等は、発売後10年や20年を経過しても
 依然性能的な古さはあまり感じられず、モノとしての存在感
 もあった為、そうした古い機種でも高額相場での取引が
 ずっと続いていた訳だ。
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 しかし、デジタル機では厳しい。いくら高性能機であっても、
 発売後10年も経てば、もう中古相場は、発売時の5分の1から
 10分の1にまで下落してしまう。
 
 2010年代になると、残っている中古店は、大手の全国区の
 チェーン店舗か、または東京や大阪等の大都市圏にある
 老舗の中古専門店だけの状態になってしまった。
 大手チェーン店はインターネットを活用し、全国の関連店舗
 等の中古商品をやりとりする事で効率的な中古売買に転換。
 そして老舗専門店は、銀塩ブランドカメラ(ライカ、ニコン、
 コンタックス等)や、レアもの銀塩機材を扱うのみとなった。
 ブランド品やレアものは、すなわち高価に売買できる訳だ。

 それから、第三の勢力として、PC中古店、古書店、リサイクル
 店等で、稀に中古カメラ機材を扱う場合も増えてきている。

 ちなみにマニアは「ネットオークション」は殆ど使わない、
 1つは、上記「目利き」が、実物を見ないと難しい事と、
 2つ目に「売る事に責任を持たない人から買う事は無い」
 からである(後者は、例えば買ってしばらくして動かなく
 なったら、どうしようも無い)
 
 さて、用語の「中古相場」(=機材の中古価格)であるが、
 これはどのように決められているのか? というと、実は、
 はっきりとした決め事は無いと思う。

 銀塩時代では、東京あるいは大阪の代表的な中古専門店が、
 売買の「相場表」なるものを作って、各店舗(会員加盟店)
 に配っていた模様である。
(または、大手カメラ専門誌に、毎月「中古相場表」を
 広告として載せている老舗の専門店もあった)
 こういう「相場表」とは無関係に売買を行う、独立的な
 専門店も良くあり、そういう店に行くと、一般的な相場より
 高いものも安価なものもあって、それを見極める(目利き)
 事もマニア層の楽しみの1つであった。

 デジタル時代では、同時にインターネットの普及もあって、
 前述の大手チェーン店等がネットに中古商品を掲載する事で、
 自動的に相場が公開されている事となり、それが標準となる。
 つまり、それを参考にしている他店舗もあるという事だ。

 ただ、前述の第三勢力、つまりPC中古店や古書店等では、
 これらの一般的な中古相場とは連動していない場合も良くあり
 つまり安い商品も置いてあるという事から、「目利き」が出来る
 一部のマニアは、そうした第三勢力の店舗も回っている模様だ。

 なお、2000年代位までは(関西圏では)多くの中古店で
「値切り」が効いた。これもまた「目利き」の一種であり、
 たとえば、2万円という中古レンズが置いてあったとして、
 上級マニアでは、頭の中に「相場表」が入っている事と、
 様々な店舗で同等の中古商品の相場を見てきた経験から
「高いなあ、ちょっとまけてよ」とか、あるいは、商品の僅かな
 瑕疵(キズや、ゴミ、カビ、欠品等)を目ざとく見つけて、
「これこれの問題があるから、ちょっとまけてや」等と店舗側と
 交渉して、若干でも値引きしてもらっていた訳だ。

 ちなみに、何故値引きをするかは、現代での「ポイントカード」
 と同一の発想であり、「その店に行けば得する」という利点を
 ユーザー層に持ってもらう為だ。(だから、黙っていても値引き
 してくれる店も関西圏には良くあった)

 しかし2010年代に入ると、関西圏でも値切りが効く店は
 極めて少なくなり、ほとんど皆無の状態になってしまった。
 まあカメラ市場の縮退に連動し、前述のように多くの中古店が
 廃業している状況だ、客側の言うがままに値引きをしていたら
 商売がやっていられない、という事なのであろう。

 それに、銀塩時代の老舗店の店員あるいは店長は、マニア層を
 超えるほどの機材の知識を持っていて、客側の言い分(交渉)
 が妥当か否かは、瞬時に見分ける位の事は皆できていたのだが
 デジタル時代に入って、残念ながら中古相場等を熟知している
 ベテラン店員などは殆ど居なくなってしまった。

(たいていの場合、客のマニア側の方が詳しいから、値引き
 交渉で揉めたり喧嘩になる事すらある。まあ、だから値引き
 を一切しないようになったのだろう。
 この原因は、あくまで店舗側の「勉強不足」ではあるが、
 近年では、こういう客を「クレーマー」と見なしてしまい、
 店側の権利や立場を擁護する風潮も多い。しかし、それは
 単純にそうともいえず、ケースバイケースであろう)

 そうした世情から「値切り不可」は、まあ、やむを得ない節も
 あるが、主に関西人にとって「値切り」は文化であり、一種の
「知的ゲーム」でもあった訳だから、この習慣が無くなるのは
 寂しい限りである。

 なお、デジタル時代の中古相場は、恐らくだが、以下の3つの
 要素から決められていると思われる。

 1)商品の程度(未使用、美品、上品、並品、問題あり、新古品等)
 2)商品の発売後の経過年月に応じた掛け率。
 3)人気商品や人気ブランドであるかどうか、あるいは
  レア品であったりして、その相場で売れるだけの付加価値が
  あるかどうか。
  
 これは売る側のみならず、買う側も知っておくべきだし
「目利き」の判断の要素となる点もある。
 例えば、不人気で他に誰も買いそうも無いような変わった
 中古商品を見たら、「もっと安くしてや」と、強気の値段
 交渉が出来た訳だ。店側も、いつまでも在庫を抱えておくのは
 好ましく無い為、売れる時に売ってしまおうと考えるからだ。

 まあ、今時で値切りが効かないのであれば、今度は「放置する」
 という選択肢もある、どうせ誰も買わない機材ならば、ずっと
 売れ残るであろう。もう1度店舗を訪れるか、またはネット上
 の掲載中古であっても、売れ残っていたら、相場が低下する
 可能性も高いからだ。(ただし、当然、売れてしまったり、
 海外市場へ流出してしまうというケースもありうる)
 
 という事で、「中古買い」は、単純に「相場」のみならず、
 あらゆる状況を考えて、自分が納得いく買い物をする事であり、
 これはまさに「知的ゲーム」であろう。
 ビギナー層には絶対に無理だとは思うが、何度も何度も、
 あるいは長期に渡って中古買いを行っていれば、だんだんと
 その経験や知識、ノウハウもついてくると思う。

★ナンピン買い
 株取引における専門用語だが、カメラの場合は独自用語。

 株取引では、保有株価が下がった際に、同じ株を買い増し
 して平均購入単価を下げる手法の事を指す。
 ただ、実際にはこれは難しい模様であり、さらに相場が
 下がったら目も当てられない状況になるのだろう。

 カメラでこの「ナンピン買い」をする人はまず居ないと
 思うが、私の場合は、過去5~6回、これを行った事がある。
 具体的には、カメラまたはレンズを発売後に時間を置かない 
 状態で新品又は中古買いをした、当然ある程度高価な相場だ。
 これらの機材を実際に使うと、かなり性能が良く満足した、
 数年後に同一機材の中古相場を見ると、大きく下落して
 いたので、それを中古購入、平均購入単価が大きく下がった。

 ・・まあ、こういう事なのだが「同じ機材が2つも必要か?」
 という疑問が出るかと思う。これはまずレンズの場合は
「マウント違い」と言う点で、購入の意味がある事は理解が
 しやすいであろう。例えば、ニコン機用のサードパーティ製
 マクロレンズを買ったが、性能が良かったのでキヤノン(EOS)
 用の中古相場が安価になった同一のマクロを買い足した、
 という感じである。(注:故障や譲渡による代替購入は、
 ナンピン買いとは見なしていない)
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 これがカメラ本体の場合は、なかなか難しく、まずは
「本当に2台も必要か否か?」を良く考える必要がある。

 で、まず、第一のカメラの「減価償却」が済んでなくては
 ならない。これはいずれ「ルール編」で詳細を述べるが、
 要は「十分に元を取るまで撮っているか否か?」という視点だ。

 次いで「仕様老朽化寿命」も意識しなければならない、
 つまり2台買ったカメラがいずれも古くなって見劣りしたら
 やっていられない、両方のカメラを十分に元を取るまで
 使い切れる保証があるかどうかの「見極め」が重要だ。

 それと、そのカメラの独自の仕様や機能が後継機で廃止
 されてしまっている状況がある。たとえば、ロングズーム
 コンパクト機での手動ズームは、FUJIFILM X-S1(2011)
 以降、各社から1台も登場していない。こうした場合、
 当該機種を複数台所有して、故障時等の予備機とする。
 
 さらには、失敗が許されない重要な業務撮影(例:結婚式等)
 で、同じ(又は類似の)カメラを(レンズも)2台持ち、
 両者を交互に用いて、片方で上手く撮れなかったり故障した
 際でのバックアップ(予備)とする用法がある。

 ラストに、職場での業務撮影と、自宅での趣味撮影の
 両者で、同じ機種を使用するケースがあると思う。

 これらの条件に適合する、または守れるのであれば、
 カメラのナンピン買いの意味は出てくる。
 
★機材購入予定リスト
 独自用語。

 中古買いをメインとする場合の機種選定手順を記載しておく。

 1)新製品のニュースをWEB等でチェック
  ただし、記事のチェックはスペックのみに留めておき、
  レビューや評価の文章は読まない。
  これは評価者の志向や主観が入るのを避ける為であり、
  加えて評価の手法も、その評価者独自の方法論であり、
  購入側のニーズや着目点とは異なってしまうからだ。
  で、そもそも短期間借りて使った程度は評価は出来ないと
  思っているので、原則的に他者の情報は参考にならない。

 2)上記の新製品の性能・仕様やコンセプトが自身のニーズ
  に合う場合は、WEB等にて取扱説明書や詳細仕様等を
  チェック。さらに店頭などで実物を見て最終チェック。
  カタログがあればそれも入手しておく。

 3)上記がOKであれば、エクセルやワード等で作った
 「機材購入予定リスト」に、機種名と希望入手価格を記載、
  しばらくその製品の事は忘れておく。

 4)数年後、当該製品の中古が出回る頃に「機材購入予定リスト」
  を開き、自身で想定した中古相場に達していたら、それを
  購入する。依然高価であれば、より以前に記載した別機種を
  チェックして、条件が満たされていればそちらを購入し
  当該製品の購入は、もうしばらく待つ。

★レンズ沼、
 マニア用語。

 次々にレンズを購入し、それが止まらず、「ズブズブと
 底なし沼に吸い込まれていくような状態」を表すマニア用語。

 何故こういう状態に陥るかは、1つのレンズを購入する事で
 所有満足度が満たされ、そのレンズはもう使っても使わなくても
 良くなる。しかし、また次の所有満足感を得る為に、他のレンズ
 を次々に探して買うような状況になる訳だ。

 また、レンズは自身のニーズに完璧に合致するようなものは
 有りえないので、「次に買うレンズは、今持っている物よりも
 もっと良い性能ではなかろうか?」という幻想を抱くようにも
 なってしまう。(レンズに限らず、他の様々な市場分野でも
 これは起こりうる事だ。さらに言えば、男女交際でも、次々に
 パートナーを換える、等も同様の心理かも知れない)
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 この「沼」を断ち切るのは難しい。できれば上記「購入予定
 リスト」のようなものを予め準備し、そこに記載した物以外は
 たとえ珍しいレンズが出てきたとしても、完全に無視するような
 強い意志が必要であろう。

 珍しい物を無視する為には、世の中に存在するほぼ全ての
 レンズを予習して網羅しておく必要もある、全体の「沼の深さ」
 が見えてくれば、自身がどれくらいの深さまでで留まるべきかも
 見えてくると思う。それが難しければ、特定のメーカーや特定の
 時代範囲、仕様範囲、価格範囲等を決めておき、その条件を
 満たさないものは無視するのも良い対策であろう。

★ロシアン(海外共産圏)レンズ
 マニア用語。

「ロシア製のレンズは写りが良い、何故ならば、戦前の
 コンタックス(ツァイス)の技術がドイツ東西分断時に
 旧ソ連等に流れたからだ」
 という話が、何十年もの間、まことしやかにマニア間で
 囁かれ続けている。

 まあ半分は事実だ、JupiterやMIR等はそこそこ良く写る。
 しかし、例えそれが事実だとしても、そのレンズ設計の 
 多くは、今から70年も80年も昔のものだ。
 こうしたレンズ群は旧ソ連の時代、1980年代頃まで国営
 工場で生産されていた。1990年代の中古カメラブーム時は
 こうしたレンズがよく輸入されていたが、ソビエト崩壊後は
 生産が減ったのか?その後、あまり見なくなった。
c0032138_15401653.jpg
 そして、2000年代以降の国産レンズはコンピューター光学
 設計、異常低分散ガラス等の新硝材、非球面レンズ、新型の
 コーティング等で、旧来のレンズより、だいぶ性能が上がっている。
 もう、殆どロシアンレンズの性能優位性は残っていない状態だ。
 特にコーディング技術が殆ど発達しておらず、逆光耐性が
 極めて弱いという課題がある。
 ただ、安価なものが多いので「価格の割りに良く写る」と
 いう点で、コスパはなかなか良い。
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 注意点は、工作精度のバラツキなどで、現代の一眼レフに
 そのまま装着するのは、嵌らない、外れない等で危険だ。
 必ずマウントアダプターを介して使う必要がある。
(注:M42マウントやニコン風マウントが多い)
 色々と制約事項が多いので、あくまで上級マニア向けだ。

★海外(アジア圏)新鋭レンズ
 独自用語。

 2010年代位から、韓国や中国等で設計製造された新鋭の
 レンズ群が良く国内市場に出回ってきている。
 具体的には、SAMYANG(サムヤン)、中一光学、LAOWA、
 七工匠、Meike、Neewer、YONGNUO(ヨンヌオ)等であり、
 さらにはトイカメラやトイレンズで著名なLOMOやHOLGAも
 同様だ。アジア圏以外でもLENSBABY等も普及してきている。

 これらのレンズは国内レンズの平均単価よりも安価なものと
 高価なものに大別される。
 安価なものは、トイレンズか、またはオーソドックスな仕様
 で付加機能を制限し(MF、手ブレ補正無し等)製造コストを
 下げたものが多く、あるいは広角系や魚眼レンズ等、国内
 メーカー純正品が高価な分野を狙い、安価にそれを供給して
 いる。(注:内、YONGNUOは、やや特殊であり、CANON製の
 旧AFレンズのデッドコピー品を安価に販売している)

 高価なものは、国産レンズではあまり無い特殊な仕様
(例:超大口径、超広角、魚眼、超マクロ、シフト&ティルト、
 アポダイゼーション、低歪曲収差、ぐるぐるボケ等)により
 付加価値をつけたものが多い。
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 私はこの手の海外レンズが好きで、結構集めているのだが、
 ベテラン層等では「中国製」等と聞くと、品質やサポートが
 心配になる事であろう。
 実際のところは、数千円という「トイレンズ」は、さすがに
 品質が悪いが、2~3万円級以上のものは品質的には特に
 問題点を感じられず、中には、国産のプラスチッキーな
 量産レンズよりも高級感のある金属製鏡筒レンズも多い。

 サポートについては、MFレンズであれば、普通に使って
 いればまず壊れる事は無い。万が一壊れても量販店経由か
 あるいは輸入販売代理店に問い合わせれば問題無いであろう。
 
 ともかく、あまり先入観を持たずに、2~3本買ってみても
 良いのではなかろうか? 安価なものでも高価なものでも
 どちらもコスパはかなり良く感じる海外新鋭レンズ群だ。

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次回記事に続く。

銀塩一眼レフ・クラッシックス(19)NIKON F5

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所有している銀塩一眼レフの名機を紹介するシリーズ記事。
今回は第三世代(AFの時代、世代定義は第1回記事参照)の
NIKON F5(1996年)を紹介する。
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装着レンズは、NIKON AiAF NIKKOR 85mm/f1.8D
(ミラーレス・マニアックス第66回、ハイコスパ第12回)

本シリーズでは紹介銀塩機でのフィルム撮影は行わずに、
デジタル実写シミュレーター機を使用する。
今回はまず、本機F5のコンセプトに近い、NIKON D2H
(2003年 デジタル一眼レフ・クラッシックス第1回記事)
を使うが、記事後半ではシミュレーター機を変える事にする。
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以降はシミュレーターでの撮影写真と、本機F5の機能紹介
写真を交えて記事を進める。
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さて本機F5はニコンのAFフラッグシップ機としては二代目だ。

これ以前の旗艦としては、NIKON F4(1988年、本シリーズ
第15回記事)がある。
F4は旗艦であると同時に、AF時代の最初期のカメラであり、
AF性能は正直言ってたいした事はなく、むしろ旧来のMFレンズ
を使う際に、最強のパフォーマンスを発揮できる事は、当該
記事でも説明した通りだ。

当然、ニコンとしては、「AF機最強」を目指して、このF5を
開発していたのに違い無い。

旧来の「フラッグシップ10年間隔説」は、もう、とうに壊れ、
F3からF4までの期間の8年間と同様に、F4からF5までも8年の
間隔で発売される事になった。

ここでF4の発売以降、F5までのニコン中心の各社の一眼レフ
の歴史を書いておこう。

<1988年>
NIKON F4/F4S(本シリーズ第15回記事)
MINOLTA α-7700i α-7000の後継機、高機能化

<1989年>
NIKON F-401s 初級機
CANON EOS-1/HS (本シリーズ第14回記事)

<1990年>
NIKON F-601/F-601M 中級機(AF/MF)
MINOLTA α-8700i 高級機。1/8000秒シャッター
CONTAX RTSⅢ CONTAX初の旗艦機

<1991年>
NIKON F-801s 上級機、動体予測AF
NIKON F-401X 初級機
CANON EOS100(QD)(現在未所有) 静音化、サブ電子ダイヤル搭載
PENTAX Z-1(本シリーズ第17回記事)
MINOLTA α-7xi 新シリーズ高級機、
このxiシリーズは過剰な自動化機能で商業的に失敗

<1992年>
NIKON F90S/D 新シリーズ「Fフタケタ機」の高級機
「D型」レンズを使用すると「3D測光」が可能。
CANON EOS5(QD) 高級機。初の視線入力AF搭載(測距点は横一列)
MINOLTA α-9xi 最上位機。1/12000秒シャッター

<1993年>
NIKON F90 データバックを省いた通常仕様機

CANON EOS Kiss
初級機、一眼レフで初めて数字以外の型番を用い、女性や
家庭層に向けた新規開拓マーケティングを行った。

ニコンや他社はKissの成功を見て、各々 U,Sweet,Aria,
*ist等の初級層に向けたブランディング戦略を後年に行うが、
特にニコンでは、それが成功したとは思えない。
この頃から「ニコンは初級機を作るのが上手では無い」
という評判がマニア層等に広まっていく。

MINOLTA α-707si 高級機
(バブリーな「xi」シリーズは短命に終わった)
CONTAX S2b(現在未所有) マニアックで特異なカメラ

<1994年>
NIKON F70
中級機。高機能ではあるが、信じられない程の劣悪な操作系を
持つ事で有名な「迷機」である。
(この機体は家にあるが、知人の所有物なので紹介しない。
自分のカメラでは無い物を評価等は出来ないルールとしている。
まあ、何度か使った事があるが、非常に使い難い事は確かだ。
なお、当時「操作系」の概念は、殆ど浸透していなかったが、
むしろこの機体があった事で、他社のPENTAXやMINOLTAでは、
操作系改善の発想が生まれたのかも知れない)

NUIKON F50 初級機
NIKON F90X/XS/XD 高級機,F90シリーズの改良版。 
CANON EOS-1N(現在未所有)旗艦EOS-1の改良版、完成度が高い。
OLYMPUS OM-3Ti(現在未所有) マニアックなレア機

<1995年>
この年、ニコンの一眼レフの発売は無い。
「阪神淡路大震災」の影響および世情からか?

CANON EOS-1NRS ペリクルミラー搭載の特殊用途機
CANON EOS55 中級機。視線入力AF(測距点は縦横)
PENTAX MZ-5 初級機、Zシリーズより操作系を簡略化
MINOLTA α-507si 中級機。操作系の概念に優れる。

<1996年>
NIKON F5 (本機)

ここでやっと本機F5の時代に到達した。
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様々なメーカーの一眼レフの歴史を同時に書いているので、
なかなか頭に入って来ないとは思うが、この時代のAF一眼の
歴史を良く良く振り返ってみると、重大な事実が見えてくる。

それは、この時代に「魅力的な名機が1台も無い」という事だ。

勿論、高性能機とか最上位機とか、そういうカメラは何台か
存在している。しかし、それらには魅力があるのだろうか?

1990年代前半のAF一眼レフで、私が現在でも所有している物は
PENTAX Z-1の1台のみであり、しかも、そのカメラは個人的には
好きなカメラではない。あくまで歴史的価値からの現有だ。
他のこの時代の一眼レフは所有した事があっても、現在では
綺麗さっぱり手元から消えて無くなっている。
つまり、1台も欲しいAF一眼レフが無かった時代なのだ(汗)
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この時代背景での最大のポイントは、1992年頃の「バブル崩壊」、
そして、やや時代は下るが1995年の「阪神淡路大震災」であろう。
後者は極めて深刻な大災害であったが、その事が消費者心理に
与えた影響も決して小さくは無い。

まずは「バブル崩壊」だ。
世の中の「イケイケ・ドンドン」のムードは、段階的に変化
していった、まず最初は1989年の昭和天皇の崩御である。
この時期「自粛ムード」が広まり、消費は冷え込んだ。
また、この年1989年には消費税(3%)が導入されたが、
その後のバブル景気の勢いが上回ったように思える。

1992年には、膨らみすぎたバブルがはじけて、一気に世の中の
景気は凍結する。
不動産売買のみならず、商品の購入、飲食、旅行、娯楽等の
消費行動に対する考え方が、がらりと変わり、節制、節約ムード
が広まっていくと共に、心理的な要素も大きく変化する。

バブル期であれば、カメラに限らず、「凄い性能」「高い値段」
「有名なブランド」等の商品が好まれた。何故ならばそれらを
所有/消費する事で周囲に自慢が出来、「ステータス」を得たり、
社会的地位を高めたり、自身が満足できる訳だ。

が、バブル崩壊後は、その考え方はくるりと反転してしまう。
「そういう上辺だけ華美なものは良く無い、中身が大事だ」
という考え方にシフトした。
このあたりは日本人の長所でもあり短所でもあろう、
世情が変わると割と柔軟に価値観を変化させる事ができる。
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さて、カメラの話に戻ろう。F5の話がちっとも出て来ないが
このあたりの時代背景は重要だ、もう少しだけ続ける。

ご存知のようにカメラの開発には数年の時間を要する。
バブル期にイケイケムードで企画されたカメラは、
そのコンセプトのままスケジュールに乗って開発が進む。
途中で世の中が変わっても、例えばバブルが弾けても、
よほど不都合が無い限りは、そのまま発売される。それが世情に
合っていなくても、ユーザーのニーズを満たさなくても、だ。

こうして、このバブル崩壊の時期、ユーザーの購買心理とは
だいぶ方向性がずれているカメラが出揃ったと言う訳だ。

バブル崩壊の経済的・精神的なショックに引き続き
「阪神淡路大震災」が1995年に起きる。
ごく普通の平和な日常に、ある日突然に大惨事が起こって
しまう事は、直接の被害を免れた地域の人達にとっても
大きな精神的な痛手となった事であろう。

さらにここでまた消費者心理は変わる、私の感覚では一般
消費者の商品に対する購買内容(価値観)が地震の前と後で、
大きく変わったように思えてならない。

ごく単純な例を挙げれば、ペットボトルの飲料は、震災前では
味のついたジュースや炭酸系のものが殆どであったが、震災後
では、単なる「水」の販売が一気に増えた。

震災前は「水は水道管から出てくるタダ同然の物」であったのが、
「水は命を繋ぐために、とても貴重なもの」という考え方に変化
したからであろう。この頃から自動販売機に普通の「水」が、
ジュース等と並んで同じ値段で売っていても、誰も不思議だとは
思わなくなった。
こうした極端な例でなくても、他にも変化した消費者心理が
色々とあると思う。

さて、そう言う意味では、震災後に発売された本機NIKON F5
には「バブル時代の残り香」が色濃く残っている。
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F5は、超高性能機を目指して開発されたカメラだ。
ニコン初の多点測距AF、被写体の距離と色を含めて露出を
判断する「3D-RGBマルチパターン測光」等の超絶性能。

操作系では、アナログ風の操作子を廃し、デジタル操作子の
コマンドダイヤルと上部液晶表示によりカメラ設定を行う。
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バッテリーパック一体構造により、本体のみで毎秒8コマの
高速連写が出きる事は確かに凄いが、その性能の代償として
本体のみの重量は1210g。8本の電池込みでは、およそ1400gと
そう簡単には外に持ち出せない重量となってしまった。

職業的なスポーツ写真家等で、常時高速連写が必要ならば
こういう超絶性能は必須であろう。だが、F5はフィルム機だ、
連写すれば、ほんの数秒で撮りきってしまうし、非常に面倒な
巻き戻し操作がF4に引き続き本機でも残っている為「撮影して
いる時間よりも、フィルム交換をしている時間の方が長い」
という大問題を生じる。

しかも連写音はうるさく、撮影場所や撮影シーンによっては
「顰蹙」を買ったり、クレームが来たりしてしまう。
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職業写真家であっても、高速連写が常に必要だという訳でも無く
アマチュアならばなおさらだ。
高速連写を使わない場合は、F5は少しAFが良くなった一眼レフ
でしかなく、そして重い。撮影の時間の大半が、その自慢の
モータードライブを「荷物として単に運んでいるだけ」の
状態だ。

そりゃあ、AFは良く合い、シャッターフィールも俊敏で
気持ち良く撮影はできるかも知れないが、まあ、それだけだ。

F5が、あまりに非実用的な高速連写機であったので、その反動で
デジタル時代に入ってすぐ、F5とコンセプト的にも形状的にも
極めて似ている D2H(2003年)を購入した。だから本記事では、
F5の代わりのシミュレーターとしてD2Hを使っている訳だ。
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そして、D2Hも連写に関しては超絶的だったが、価格の高さや
実際の用途、そして重量によるハンドリングの悪さ、そういう
様々な事を鑑み、「もうフラッグシップ機は買うのは止めよう」
と初めて思った次第だ、これまでさんざん銀塩の旗艦機を買って
来たのではあったが、実際に必要としない超絶性能では、単に
無駄にお金を使っているだけだと、やっと気がついた訳だ。
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ここで、ニコンカメラの歴史上の余談だが、
ニコンの銀塩コンパクト機への市場参入は、他社よりも
ずいぶんと遅く、1983年からの「ピカイチ」シリーズが
最初であった。これは1990年代初頭まで続いたが、あまり
魅力的なカメラでは無く商業的にも成功したとは言い難い。

ニコンコンパクト機の最大の名機は、NIKON AF600(1993年、
単焦点広角28mm/f3.5搭載、別記事で紹介予定)であろう。
本機F5より、少しだけ前の時代である。

ニコンは低価格機等の発売で、主力の高級一眼レフのビジネスに
悪影響があると考える傾向があるのであろうか・・
そういえば、2010年代のミラーレス時代でも、ニコンの参入は
他社よりもずいぶんと遅く、その後、1型機のシリーズは終焉
している。(高付加価値型Zシリーズへの移行の意味もある)

その割に、高級コンパクト機(チタン外装)の35Ti(1993)
28Ti(1994)や、中古カメラブーム時の復刻版S3(2000),
FM3A(2001)や、MFパンケーキ Ai45mm/f2.8P(2001)等への
対応は素早く、すなわちこれらは高付加価値商品(高く売れる)
場合であって、一眼レフの市場とも被らず問題無い訳だ。
(さらに言えば、明らかに非実用的な、コレクション又は
投機目的用の記念モデル等も多数販売している)

ビジネスにおいては、わからない話では無いが、なんとも
保守的な製品展開コンセプトに思える。それ故に、初級機の
開発にあまり力を入れられ無いのかも知れない。
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さて、ここで本機NIKON F5の仕様について述べておく、

NIKON F5(1996年)
オートフォーカス、35mm判フィルム使用AEカメラ
最高シャッター速度:1/8000秒(電子自動調整式)
フラッシュ:非内蔵、シンクロ速度1/250秒 X接点
ホットシュー:ペンタプリズム部に固定(標準ファインダー時)
ファインダー:交換式、スクリーンも多種交換可能。
       倍率0.7倍 視野率100%
ファインダー内照明:無し(バックライトLCD/LED方式)
上部液晶照明:有り(電源スイッチ部)
使用可能レンズ:ニコンFマウント系、D/G系レンズ推奨。
(注:Ai使用可、非Ai使用時は要改造、F3AF用使用不可、
電磁絞り(E)系も使用不可)
絞り込みプビュー:有り
AF測距点数:5点、MF時にフォーカスエイド可
AF測距点切り替え:背面に専用十字キー、単一/エリア切り替え可
AFモード:シングル(S)、コンティニュアス(C)、マニュアル(M)
動体予測有り
AF/MF切り替え:本体側レバーによる(一部はレンズ側で可)、
露出制御:PSAM方式、プログムシフト不可
測光方式:3D-RGBマルチパターン測光、中央重点、スポット
露出補正:±5EV,1/3段ステップ
AEロック:前部ボタンで可
AFロック:前部ボタンで可
ファインダー内表示:フルスペックで様々な情報を表示可
視度補正:専用ダイヤルで可
露出ブラケット:可
ミラーアップ:可
ドライブ:単写、高速、低速、超低速、セルフタイマー
連写速度:CH高速時 秒7.4~8コマ(使用電池に依存)
     CL低速時 秒3コマ(CH,CL時コマ速は、CFで変更可)
     Cs超低速(静音)時、秒1コマ
多重露光:可
縦位置シャッターボタン:有り
電源:単三型アルカリ/ニッケル水素電池 8本使用
電池チェック:上部液晶に残量表示
カスタムファンクション:本体背面蓋内部スイッチと背面小型
            液晶で設定可、24項目
フィルム感度調整:手動ISO6~6400、DXコード対応
フィルム巻き戻し:R1,R2レバーの連続操作による
本体重量:1210g(電池除く)
発売時定価:325,000円(標準仕様、税抜き)

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さて、このあたりでシミュレーター機のD2H(APS-C機)を
やめてフルサイズ機NIKON Dfに交替しよう。
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まあ、Dfはアナログ操作性を持つ機体で、F5との共通性は
多くは無いが・・

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本機NIKN F5の長所だが、

実を言うと、あまり思い当たらない(汗)

高性能機だ、とは言っても、いったい何を持って高性能と
思うべきか? 例えば銀塩での高速連写は実用性が低い。

連写速度以外の他のカタログスペックは、他社製高級機と
大差は無く、あるいは同じニコンでも、後年1998年発売
のF100は「F5ジュニア」と呼ばれ、連写以外のF5との
数値的性能は同等であった(勿論、小さく軽く安価だ)

被写体の色と距離を判定する「3D-RGBマルチパターン測光」は
技術的には凄いが、露出判定アルゴリズムの良否に影響する
部分が元々大きい、そして、旧旗艦F4の時代から、すでに
露出精度は極めて高く、それ以上のレベルが必要なのだろうか?
c0032138_18160206.jpg
高信頼性や、耐久性が高い、とかにおいては。例えばF5では
シャッター幕は、毎回幕速を自動計測して調整している、と
言う事だが、だからと言って壊れないという事と等価では無い。

事実、私のF5は2004年頃のドラゴンボート大会の撮影中に
(当時はまだ、銀塩とデジタルの混在期だ)シャッター幕が
壊れている。(”グシャッ”と言う嫌な音がして破壊された)
高額な修理費を払って直したが「なにが15万回の耐久性だ!」
と悪態をついて、ニコン旗艦機への信頼度を落とした。

が、その事によりニコン旗艦機が嫌いになったと言う訳では
無い、物持ちの良い私は滅多にカメラを壊す事は無いが
偶然が重なって壊れる事は、やむを得ない。

結局「銀塩での高速連写は無理だ」と思い、デジタル版の高速
連写機D2Hの購入に繋がった訳だ、幸いその機種は、不当な
悪評判があって、かなり安価に購入できたので、むしろ良かった。
c0032138_18151990.jpg
それと、先に書いたF5でのシャッター幕速計測の件だが、
やはり意味が無いと思う。というのも、D2Hで高速連写を
さんざんやった経験から言えば、レンズの絞り込みの動作が
高速連写では物理的に追いついていない。だから、必ずと
言ってよいほど露出はバラつく。よって、シャッター速度だけ
いくら完璧に調整しても無意味なのだ。

絞り込みのバラツキに関しては、当然ニコンでも問題にして
いたのであろう、後年には「電磁絞り」対応の「E型」レンズ
により、この問題に対処しようとした。

しかし、電磁絞りレンズは他社機でのマウントアダプター
互換性を完全に失い、ニコンのデジタル一眼でも古い機種では
動かない。それに、原理的には、絞り駆動動作を電子化した
とは言っても、機械的に絞りが駆動する点は変わっておらず、
数十年という長い年月使用して、絞りが粘ったりしたら、
結局、露出がばらついたり連写速度が落ちてしまう。今は
E型レンズは、まだ新しいから正常動作しているに過ぎない。

この問題は開放測光の一眼レフである以上、避けられない
宿命であろう。ならば、一部のミラーレス機のように
絞り込み(実絞り)測光にするしか無い、そうであれば
元々ミラーが無く、連写性能やレリーズタイムラグに強い
ミラーレス機が圧倒的に有利になるでは無いか。

その点だけを見れば、もう一眼レフに勝ち目は無いようにも
思えるが、まだ幸いにしてAF速度とAF精度のメリットが残る。
素早く、確実に、ピントの合う写真を撮ろうとしたら、
まだまだ一眼レフが優位なのだ。
c0032138_18160255.jpg
余談が長くなった、F5の長所の話に戻りたいのだが、
やはり、どう考えても、あまり特徴が見出せない。

ニコンF5は、発売当初の1990年代末においては、ちょうど
中古カメラブームでもあったので、新鋭旗艦機は評判が
そこそこ良かったのだが・・ 発売後数年が過ぎた頃には、
「あれ?」という疑問の声も、マニアあるいは業務用途での
ユーザーからも良く聞くようになっていた。

そして2000年代前半、世の中は急速にデジタル時代に移り
変わり、F5の真の実用性能の件は「うやむや」にされ、
そのまま忘れ去られる事になって行く・・
(注:後継機F6は、既にデジタル時代に入ってからの発売で
趣味性の高い機体と見なし、購入していない)
c0032138_18161308.jpg
さて、本機F5の弱点であるが、まあ、こちらは沢山ある。

まずはその重量。電池込み約1400gはさすがに重過ぎる。

これまで「史上最悪」であったEOS-1HS(本シリーズ第14回)
の電池込み約1500gよりは、少しだけマシだが大差は無く、
そしてEOS-1HSは、いざとなったらブースターを切り離して
だいぶ軽快なEOS-1に変身させる事も容易なのだ。

ニコンでも前旗艦のF4では、F4S/Eのバッテリーパックを外し、
やや軽量なF4にする事は出来た。

F5の重さはダイエットする事は不可能だ。
軽くしたければ、F5と同等の性能を持った後年のF100を
買い足すか買い換えるしかない。
c0032138_18161347.jpg
次いで、縦位置グリップ一体型であり、縦位置シャッターが
あるのは良いのだが、縦位置での前後ダイヤルが無い。
加えて、AF測距点セレクターにも指が届き難い。
縦位置で制御できるのは、AFスタートボタンしか無く、
事実上では縦位置撮影は快適には使えない。

(重さの問題を含め、「必ず横位置で三脚を使え」と言う
設計コンセプトであろうか? だとしたら完全な仕様ミスだ。
どうもニコン旗艦機の仕様設計は、設計者の「思い込み」の
カメラ使用法に拘り過ぎる要素が強すぎて、実際の様々な
ユーザー層での色々な撮影シーンでの用法がわかっていない
ように思えてしまう。つまり設計思想が古くて頑固なのだ。
で、F5の設計思想が、ちょっと「異常」なところがある点で
後年にF100を発売し、「敗戦投手」としてリリーフしたの
ではなかろうか?とも思えてしまう)
c0032138_18161324.jpg
後、操作性上の欠点は前機種から引き続き色々と残っている。
F4で特に問題になった「過剰なロック機構」は、ハードウェア
面からは電源スイッチのロックと、フィルム巻き戻し時の
R1/R2の煩雑な操作が残っている。

特に電源スイッチのロック機構は致命的に近い。重たいカメラ
を支えながらの片手操作での電源ONが出来ず、どうやっても
両手操作が必須だ(=構える最中に電源を入れる事が出来ない)
これは撮りたい時での速写性を損なう「重欠点」であると言える。

何故電源スイッチにロックが必要なのか?全く理解出来ない。
誤って電池を消耗する事と、撮りたい時にすぐ撮れない事と、
いったいどちらが大事なのだろうか? 言うまでもあるまい。

「操作系」の設計思想上では、重量級カメラであればある程、
操作の為の手や指の動きなどは細心の注意を払って「動線」を
意識しなければならない、さもないと、重たいカメラが支え
られず、都度、カメラを置いたり、持ち直しになったりしたら
迅速な撮影が出来なくなる。
c0032138_20292236.jpg
まあ、この時代なので、いくら旗艦機の優秀な設計チームで
あるとは言え、「操作系」のコンセプトを持つまでは無理だ。
それがカメラ界に意識されるのは、やっと2000年頃になって
からであり、しかもそれはニコンでは無い。
それと「開発」ばかりに夢中になっていても駄目だ、実際に
カメラで写真を沢山撮らないと、操作系の理解は進まない。

そもそも、何故「操作系」が重要となるのか?は、言わずも
がなであるが、コンマ1秒でも早く写真を撮る為だ。
操作に1秒も2秒もかかってしまったら、もう求める被写体や
想定した被写体状況(シャッターチャンス)は逃げてしまう。

ここは、業務撮影でも趣味撮影でも全く同じ事であろう。
そういう世界に無縁な状態で、研究室の中だけで考えて
カメラを作っているのだとしたら、それはとても残念な話だ。

なお、今回シミュレーターとして使用しているNIKON Dfにも
同様に操作系上の重欠点が多々存在する。およそ実際に写真を
撮って試しながら設計されたカメラとは、到底思えないのだ。
前述のように「思い込み」により設計されたカメラはNGだ。

それから露出補正だが、旧来のロック付き専用ダイヤルが
廃止されてコマンドダイヤルでの操作になった点は良いのだが、
何故か後年のニコン機の2ダイヤル操作系での「簡易露出補正」
の機能が無く、必ず露出±ボタンを「押しながら」で無いと
露出補正が効かない、これは明らかに無駄な操作系である。
ここはネガフィルムであれば良いが、ポジだと重欠点だ。

おまけに、露出メーターはM露出時でないと表示されない、
他のAEモード時は、単に+0.3とかの数値が出てくるだけだ、
数字を読む事は、直感的なインターフェースとは言えない。

そしてM露出時は、例によってメーターの数直線の+、ーの
方向が一般常識とは逆である。ニコン機の記事では、毎回
この問題を書いているが、まあMF時代のレンズの絞り環と
露出変化方向を同じにする、という意味では、その考え方も
かろうじて許せるが、デジタル方式の「コマンドダイヤル」
は絞り環とは関係無いので、仮にF5で、その課題を改めても
よかったのではなかろうか? まあF5の煩雑なカスタム・
セッティング(CFの事)を用いれば、ダイヤル回転方向を
逆にできるのだが、「メーターとダイヤル回転が逆」か
「ダイヤルが直感とは逆方向」かの「悪魔の2択」となり、
どちらを選んでも、まともな結果にはならない。

それから、Pモードにおいてもプログラムシフトが効かない為、
せっかくの2ダイヤル機でありながら、ほとんどの状況で
1ダイヤルが無駄に遊んでしまう。

本機F5でのソフトウェア的なロック機構を述べれば、高度な
カメラ設定の殆どは、カスタム・ファンクション設定に
押し込まれていて、これは、設定用の小型LCDが単純なもので
GUI等では無い為、取扱説明書を併用しないと設定が不可能だ。
c0032138_20292762.jpg
結局、操作性や操作系が全く練れておらず、低レベルでしか無い。
業務用途機として使われていて、疑問の声も多かった理由が
わかるようだ。本機のファースト・インプレッションでは、
その高性能に、皆、圧倒されただろうが、色々と使ってみて、
冷静に考えてみれば、決して使い易いカメラとは言い難いのだ。

操作系以外では、ファインダー倍率が0.7倍と低く、これは
本シリーズで紹介の銀塩一眼レフ中、恐らくはワーストだ。
また、スクリーン上には測距点の表示は無く、視野外から
LEDの▽印で測距点が一瞬表示されるだけで、わかりにくい。

それから、連写音は例によってうるさい。

まだ欠点は他にも色々あるが、きりが無いのでやめておこう、
旗艦機とは言え、古い時代の銀塩機なので色々と未成熟な所は
当然あるし、いまさら何を言っても始まらない。

ただ、欠点を色々と見ていると、本機F5をちゃんと実際の撮影
シーンで使ってみれば、誰にでも明白にわかるような事ばかりだ。
誰も、全く本機で写真を撮らずに開発が進められたように
思えてならない。まあ、その状況は本機のみならず、F3以降の
ニコン旗艦機級で、どれも同じような印象があるのだが・・

まあ、これ以上、がっかりするような事を色々と書いても、
皆が不幸になるだけだ、このあたりまでにしておこう。 
c0032138_18151857.jpg
さて、最後に本機NIKON F5の総合評価をしてみよう。
評価項目は10項目だ(項目の意味は本シリーズ第1回記事参照)

-----
NIKON F5(1996年) 

【基本・付加性能】★★★★☆
【操作性・操作系】★★
【ファインダー 】★★★
【感触性能全般 】★★★
【質感・高級感 】★★★
【マニアック度 】★★
【エンジョイ度 】★☆
【購入時コスパ 】★☆ (中古購入価格:100,000円)
【完成度(当時)】★★★★
【歴史的価値  】★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】2.7点

残念ながら平均点以下の低評価となった。
これまでの各社フラッグシップ機の中では最低評価点である。

秀でている点は、基本性能と完成度(というか信頼性)のみ
であり、他は平均点かそれ以下でしか無い。

銀塩での高速連写機、という大きな矛盾を抱えたコンセプトで
ある事が最大の問題であろう、バブル期の雰囲気を色濃く残す
「遅れて来た」カメラである。

大きく重く、業務用途以外に実用的な意味が無いのが課題であり、
加えて操作性・操作系が、例によって過剰安全対策で使い難い。

重量級機であれば操作性への配慮が必要なのに、それが殆ど無い。
結果的に、本機を一般撮影に持ち出して撮っても何も楽しく無く、
「エンジョイ度」が過去最低評価となっている。
ここは、本機の設計思想において、様々な撮影シーンでの
利用法を全く想定していない部分が最大の問題点であろう。
つまり「頭で考えて作っただけのカメラ」である。

希少性等によるマニアック度も低く、歴史的価値も殆ど無い。

価格が高かったのは、購入時期が比較的早かったのも確かに
問題ではあったが、仮に後年に安価になってから購入したと
しても、他の評価項目には影響が無く、総合点は同様だ。

現代での中古相場は、発売時定価のおよそ10分の1の
3万円以下程度だ。しかし本機を買っても実用的な意味は
殆ど無いので、同じAF旗艦機でも、F4を、より安価に買って
MFレンズで撮る方が遥かに楽しい事であろう・・

次回記事では、引き続き第三世代の銀塩一眼レフを紹介する。

レンズ・マニアックス(8)

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新規購入等の理由で、過去の本ブログのレンズ紹介記事では
未紹介のマニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。
今回も引き続き未紹介レンズを4本取りあげる。

なお、旧記事「ミラーレス・マニアックス」シリーズ及び、
「ハイ・コスパレンズ・マニアックス」の補足編としての
立場もある本シリーズ記事だが、ハイコスパシリーズでは
「広角、標準、望遠」等のカテゴリー別にレンズを分類して
紹介する趣旨であったが、本シリーズにおいては、そうした
カテゴリー分けは行っておらず、ランダムな紹介順だ。

そうした分類については別シリーズ「特殊レンズ・スーパー
マニアックス」を2019年からスタートしている、
そちらではカテゴリー分けでの紹介を基本としている。
なお、本シリーズでは、レンズのコスパを意識するよりも
未紹介レンズを解説する趣旨の方が強い。

では、まずは今回最初のレンズ
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レンズは、TAMRON 100-400mm/f4.5-6.3 Di VC USD
(Model A035)(中古購入価格 62,000円)
カメラは、NIKON D500 (APS-C機)

2017年発売の、フルサイズ対応軽量型AF超望遠ズーム。
本シリーズ第5回記事で紹介した、
「SIGMA Contemporary 100-400mm/f5-6.3 DG OS HSM」
の完全な「対抗馬」である。両者、ほぼ同じスペックであり
見かけも殆ど変わらないが、本TAMRON版が、ほんの僅か軽い。

さて、400mmクラスの超望遠ズームは、APS-C機で換算600mm
級の画角となり、スポーツ撮影等に適した画角となる。
私の場合は、特にドラゴンボートやペーロン競技の撮影に
おいて必須のレンズだ。
c0032138_18550556.jpg
雨天や酷暑等を含む過酷な撮影環境では、超望遠ズームは
ほとんど消耗品である。メーカー純正品の超望遠ズームは高価
すぎてこうした使用法に適さないので、旧来からサードパーティ
製の様々な超望遠ズームを使ってきたのだが・・

近年、SIGMAとTAMRONは望遠端焦点距離を伸ばすコンセプトで
製品の改良を続けてきた為、両社の新型ズームでは、望遠端が
500mm、さらには600mmと伸びていった。
結果的に大きく重くなってハンドリング性能が低下していた。
500mm級はまだしも、600mm級は重量面からも、もう購入する
事が出来なくなってしまっていたのだ。
特にボート競技では、丸一日の手持ち撮影だ、1.5kgを超える
重量級レンズは、まず使用できない。

「手持ち可能な、軽量な400mm級の超望遠ズームの新発売を
熱望している」と過去記事で何度か書いた事もあったが、
2017年になって、まずSIGMAから、次いでTAMRONから、
ほぼ同一の性能の400mm級軽量超望遠ズームが、次々と発売
された。これは嬉しい傾向であった。

本レンズとSIGMA版との差異は微妙だ、どちらも1100g台と軽く
どちらも良く写る。両者手ブレ補正も良く効き、何も不満は無い。
価格(定価)は、SIGMAの方が僅かに高価だが、中古になると
大差は無く、ほぼ同等だ。

ただし、中古相場は旧来の400mmまたは500mm級の超望遠
ズームの、2~5万円というレベルからは若干高価になっている。
まあ、まだ発売から日が浅い状態での購入という点もあるが、
手ブレ補正や超音波モーターの内蔵で「高付加価値化」して
定価も若干高くなってしまっている事も理由だ。

それから、発売マウントが制限され、本レンズの場合は、
ニコン(F)、キヤノン(EF)の2種類しか無い(注:SIGMA
C100-400mmは、ニコン、キヤノンとシグマSAマウントのみ)

SONYやPENTAX用が無いのは、それらのカメラのはボディ内
手ブレ補正が入っているので、レンズ本来で「手ブレ補正内蔵」
の付加価値を謳えないから発売しないのだろうか? あるいは
一眼レフや交換レンズ市場が縮退している2010年代後半では、
もう多種のマウントを作るのは割が合わない(在庫が残ったり
生産計画を立て辛い)からだろうか・・?
超望遠ズームに限らず多くのレンズメーカー製のレンズが同様に
「マウントの種類縮小」の方向に向かっている事は、残念な話だ。
c0032138_18550527.jpg
余談はさておき、TAMRONとSIGMAの両100-400mmの話に戻るが、
両者は、とてもよく写る高性能レンズである。
細かい差異としてはワイド(100mm)端の開放F値が僅かに異なる。
(SIGMA版F5、TAAMON版F4.5)

ただ、この手の開放F値変動型(超望遠)ズームの場合、
その差は全く問題にならない。

何故ならば、被写界深度の設定が作画上の意味があまり無い
スポーツ撮影等においては、この手のレンズでは、絞り値を
テレ(400mm)側の暗い方の開放F値にセットしておくのが
セオリーだからだ。

そうしておくと、ズーミングの変化でも絞り値が一定となり、
シャッター速度も、ほぼ変化しない。これは手ブレの対策も
あるが、主に動体撮影での動感表現を一定にキープする目的だ。

さらなる課題だが、開放F値変動ズームでワイド端からテレ端に
ズーミングすると、当然、ワイド側でセットした開放F値より
も暗くなる、ここで再度ワイド側にズーミングを戻した際、
多くのカメラでは、F値はテレ端の暗いまま保持されてしまい
ワイド側の(小さい)開放F値には戻らない。
(注:カメラの機種によってはワイド側の開放F値に復帰する
ものもある)

だから、いっその事、ワイド端での開放F値を犠牲にし
テレ端の暗い開放F値に最初からセットしておく訳だ。
これらのレンズの場合は、その値は、F6.3ではあるが、
そうしておけば、ズーミングでF値が変化する心配は不要だ。
被写界深度がもう少し欲しい場合、またはMTF特性の若干の
向上を狙って、さらに絞り値を上げて、F7.1やF8に固定して
おいても勿論良い。

それと、AUTO-ISOの切り替わり速度が変更可能な機体の場合、
低速限界を1/500秒とか、それ以上(速い)に設定しておく。
この事で、手ブレを防ぐ他、動感表現を一定化する。
(つまり、シャッター優先AEに切り替える必然性を減らす
事ができる。そのモードは、色々と使い難い点もあるのだ)

また、超望遠レンズの手持ち撮影の場合は、ボディを含めた
重心位置を十分に意識して構え方も慎重にしなければならない。
得にこれらのレンズはズーミングで全長が変化する為、重心
バランスが変わるので、その点は十分に注意する必要がある。

いずれにしても、この手の開放F値の暗い超望遠ズームは、
手ブレ対策の意味からも、殆ど絞り込まずに使うのが基本だ。
勿論、近年のレンズには優秀な手ブレ補正機能が内蔵されては
いるが、より手ブレし難い様々な撮影技法を併用する事で、
さらに手ブレの限界値を上げられる。だから、カタログスペック
上の「何段まで手ブレ補正効果あり」といった数値にはあまり
重要な意味は無く、概ね撮影者のスキルに依存するという事だ。

ただ両者の操作性には僅かな差があり、SIGMA版はレンズの
先端部を持って、直進ズーム的に引き出して使う荒技が使える
(注、メーカー推奨だ)が、TAMRON版は、その使い方は推奨
されておらず、自己責任でそれをやってみても、ちょっと
動作が重い。(すなわち、素早いズーミング操作が出来ない)

結局、TAMRON版はズームリング主体でズーミングをするのだが、
レンズ根元にあるズームリングは、重量級レンズとボディとの
総合重心位置では無い為、操作性バランスが悪化する。

なお、これをちょうど重心位置とするには、軽量級ボディの
使用が望ましい。今回使用のD500は、同等の高速連写性能を
持つCANON EOS 7D系より僅かに軽いが、これくらいの差では
抜本的な改善にはならない。さらに軽量で高速連写が可能な
D7500あたりとの組み合わせがベターなように思えるが、
たったそれだけの理由で、まだ中古も高価な新型機の購入は
無理なので、当面はD500との組み合わせで使う事にしよう。

本レンズは、軽量超望遠ズームとして、業務用途以外の屋外
一般撮影にも十分に使える、特に、動物園、野鳥、鉄道や
運動会等のスポーツイベントの撮影に向く。又、航空機撮影
の分野でも、この焦点距離域は定番な模様である。
いずれにしても動体撮影用途が多いので、三脚は全く不要だ。
c0032138_18550506.jpg
ただし最短撮影距離は1.5m(SIGMA版は1.6m)と若干長目
なので、マクロ用途を含むフィールド撮影には適さないかも
知れない。最大撮影倍率は1/3.6倍程度となる、これは
APS-C機では換算0.4倍程度となり、NIKON D500ではさらに
1.3倍クロップ機能が使えるので、最大で1/2倍を超える
撮影倍率となり、スペック上ではマクロ的用途にも使えるが、
WDが長いので撮影アングル(角度)やレベル(高さ)の
自由度が無く、使用できる条件は限られるであろう。

なお、単に望遠画角が欲しいだけであれば、デジタル拡大機能
との組み合わせが自在なミラーレス機で、本レンズ以外の適当
な望遠レンズを使うか、あるいはロングズーム・コンパクト機
でも近年のものは、1000mm位の望遠画角を持つものは珍しく
無いので、それらが簡便かつ軽量で有利だ。

現に、生態観察等のフィールド(屋外)撮影の専門家分野では、
いまや殆ど全ての研究員は、ロングズーム機を使っている模様だ。
まあ、植物や昆虫のマクロから遠距離の野鳥迄、多くの被写体を
カバーする必要がある分野なので、機材の選択はそうなる訳だ。
(私も自然観察会に何度か参加した事があるが、そんな感じだ。
研究員は皆ロングズーム機であり。大げさな望遠レンズを持って
くるのは、参加者のビギナー層だけであり、何も撮れずに
困ってしまっている。なお、私は、そうした場合には最短撮影
距離の短い大口径単焦点(中)望遠レンズをデジタル拡大機能
を持つカメラに付けて持って行く事としている→これが最強)

一眼レフは、現代では「望遠に強いカメラだ」とは言い切れない
訳だ。(ただし、速写性やAF性能では、まだまだ一眼が有利だ
だからスポーツ分野等の撮影では一眼レフと超望遠が主体となる)

野鳥等の撮影分野では、アマチュア層は依然一眼と超望遠レンズ
を使うのだが、その重量から手持ち待機が出来ず、三脚を使う。
だがそれではハンドリング性能が低下し、不意に現れた被写体に
対応できない。よって、それはあくまで趣味撮影のスタイルでしか
なく、前述のように研究員等の専門家層は、ロングズーム機を
用いる合理的な機材選択と撮影スタイルに既に変化している。

加えて、野鳥の出現ポイント等で三脚を並べるアマチュア層は、
殆ど撮影もせず待機しているだけで、高価な機材自慢の話などを
ずっとしているだけのケースもよく見かけ、実際に彼らから話を
聞いた事も何度もあるが、常に、だいたいそんな感じだ。
写真という趣味は、機材自慢では無い事は言うまでも無い、
「いったい何をやっているんだろう?」とも思ってしまう。

最後に1つ注意点、本レンズはニコンマウント版でも「電磁絞り」
対応レンズなので
・D3/D300の時代(2007年)より古いニコン機では動作しない。
・一般的なマウントアダプターで、他社機に装着できない。
という問題がある。
c0032138_18550570.jpg
総括だが、本レンズは、かなり高性能であり、価格もそう
高くはない。
一眼レフで超望遠域を使ってみたいユーザー層にはオススメだ。
私は発売後すぐに購入してしまって、やや高価であったが、
一般ユーザーの場合、出来れば何年か待って中古相場が下がって
から入手した方がベターであろう。そして、この手のレンズは
屋外等でガンガンに酷使すると、どうせすぐにボロボロになる、
中古の程度に拘ってピカピカの物を高く買っても意味が無いのだ。

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では、次のレンズ
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レンズは、MINOLTA AUTO ROKKOR-PF 58mm/f1.4(前期型)
(中古購入価格 1,000円)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited (μ4/3機)

いわくつきのレンズで、今回が2度目の購入だ。

まず出自であるが、MINOLOTAの1960年代前半のSRシリーズ
銀塩一眼レフ用のキットレンズであり、発売後およそ
60年近くも経っている、やや古めのオールドレンズだ。
c0032138_18552442.jpg
SRシリーズ(現在未所有)は、そこそこのヒットカメラであった
為か、このレンズもまた、中古市場で比較的良く見かけた。
ただ、MC型(開放測光、絞り優先AE対応)になる前の古いレンズ
であり「絞り込み測光」で使用するしかなく、銀塩時代には
MINOLTA Xシリーズの後期MF一眼レフ等で実用レンズとするのは
厳しく、ずっと購入を躊躇っていた。

2010年頃、銀塩ビジネス縮退に係わる「大放出時代」に、
私はこのレンズを1000円の格安相場で見つけ、「ミラーレス
機であれば快適に使えるかも?」と、購入したのだが・・
購入時に絞りは動作していたものの、すぐに動かなくなり、
開放でしか撮れなくなってしまった。まあ要は古いレンズなので
絞り羽根の油分が固化し「絞りの粘り」が発生していたのだ。
安価なレンズであるので修理する気にもなれず、カメラ好きの
友人に「絞り開放でしか撮れないけど・・」と無償で譲渡して
しまった。

2018年、地方DPE店のジャンクコーナーで、再び本レンズを
見つけた、やはり絞りが粘っている「半故障品」で、価格は
これも1000円と安価だ。
「さて・・どうしたものかな?」と迷ったが、故障を甘んじて
再度購入する事とした。

実際の使用においては、絞りは動作する事はするのだが、
粘りが酷く、絞り環を操作するたびに、背面の絞りレバー又は
レンズ横側にある「プレビューレバー」を、ガチャガチャと
何度か操作して、絞り羽根に力(衝撃)を加えないと、所定の
絞り位置にならない。

これは面倒な操作であるし、カメラを構えながらでは
絞り羽根の動きは見えないので、絞り羽根が正しい位置まで
動いたどうかは、シャッター速度の変化でしか見えてこない。
c0032138_18552415.jpg
まあ、という事で、今回の実写では、絞り値はいい加減だ、
殆どがF2前後の絞り開放近くで半固定の状態となっている。

こうした「半故障レンズ」ではあるが、絞りが上手く活用できない
他は撮影には支障は無い(まあ、それイコール「支障がある」
とは言えるが・・)

スペックだが、PF銘の通り5群6枚の変形ダブルガウス構成、
これはオーソドックスだが、もう少し後の時代(1970~1980年代)
に入らないと、まだこの型式での設計の完成度は高いとは言い難い。
が、ミノルタは頑張った方であり、二層コーティング技術を
他社に先駆け、いち早く採用している。
(他社、例えばPENTAX SMC多層コーテイングは1970年代からだ。
なお、ミノルタは当時、若干の他社との性能優位性があった為、
一部のマニア層では「ロッコールは良く写る」と言われていた)

このコーティングにより、レンズは若干緑色がかって見える。
なお、緑に見えるから緑に写るとか、他のレンズ、例えば
ニコンの単層コーティングが黄色に見えるから黄色く写るという
訳では無い(多くの初級マニアは、そう誤解している)

描写力だが、大きく2つの課題がある、まずは絞り開放近くでは
解像力がかなり低く「アマアマ」の描写になる事だ。場合により
ミラーレス機のピーキング機能すらも殆ど効かない。
(注:ピーキング機能は、輪郭部の輝度差を検出する「微分型の
フィルター」なので、レンズ側の解像力が甘い場合には、上手く
動作しない事もある。
その輝度差検出の閾値(どれだけ差があれば表示するか?)は、
通常の一般的なレンズ性能に合わせて決められている訳だ。
なお、一部のミラーレス機では、ピーキングレベル、つまり
輝度差の閾値を調整可能なものもあるが、可変範囲はさほど
大きく無い、この手の、収差が大きいオールドレンズでは、
それを調整しても輪郭検出が困難な場合がある)

もう1つは、逆光耐性が極めて低く、ちょっとした逆光で
ゴーストが発生する。しかし、この欠点を上手く逆用すると、
「虹」のような映像を出す事が可能だ。
c0032138_18552471.jpg
これは実際に虹が出ている訳ではなく、レンズの欠点により
勝手に発生する架空の虹だ。
この「虹写真」は、なかなか面白いのだが、逆光ならば常に出る
という訳でもない、うまく光線状況を考えながら撮る必要がある
だろう。なお、この「虹」は、ミラーレス機のEVFで確認できる
ので撮影前にどのように出現させるかの微調整が可能である。

総括だが、古過ぎて実用範囲外のレンズである。ただし「描写の
甘さ」や「虹の出現」という弱点を逆用して活用できるスキルが
利用者側にあるならば、「写真表現的」な側面からは、なかなか
面白い(楽しい)レンズだと言えよう。
1000~2000円のジャンク価格であれば、間違いなく「買い」だ。

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では、次のレンズだが、こちらもジャンクだ。
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レンズは、smc PENTAX-FA 100-300mm/f4.5-5.6
(ジャンク購入価格 2,000円)
カメラは、PENTAX *istDs (APS-C機)

1990年代前半頃の、オーソドックスな仕様の、廉価版と
思われるAF望遠ズーム。
本レンズの詳しい出自は現在殆ど資料が無く、今となっては
良くわからない。
c0032138_18554218.jpg
このような銀塩時代のMF/AF望遠廉価版ズームは、現代の中古
市場では不人気であり、本レンズは2010年代にジャンクとして
2000円で購入した物だ。
価格が極めて安価だが、程度はさほど悪いとは言えず、勿論
完動品であった。あくまで不人気が故の格安相場であろう。

「パワーズーム機構」が付いているのだが、今回使用の
PENTAX最初期のデジタル一眼レフ、*istDs(2004年)では、
その機能は動作しない(注1:AFはちゃんと動く。
注2:パワーズームを効かせたく無いから、あえて古い
時代の*istDsを使用している)

試しに、もう少し後の時代のPENTAX K10D(2006年)に
装着すると、無事パワーズームが動作した。
K10Dは、この古い時代(1990年代)のパワーズーム機構での
「KAF2型接点」に対応している仕様なのだ。
(なお、旧来のパワーズーム用の古いKAF2規格を、この時代
からの超音波モーター内蔵レンズ用の接点に転用した、と聞く)

それから、さらに新しい時代のPENTAX KP(2017年)では、
一応AF等はちゃんと動くのだが、レンズ装着後の電源ON時、
モーター動作の様な高周波の機械音が僅かに聞こえた。

ちょっと相性的に危なっかしいので、それ以上の検証は中止だ。
新鋭の一眼レフを、ジャンクレンズの使用で壊してしまったら
勿体無い。壊れても惜しくない *istDsに装着して撮影しよう。

ちなみに、パワーズームというのは、ズームリングをちょっと
指で廻すだけで、ズーミングを行ったり、あるいは特殊な機能
(例、露光間ズームや予め設定した焦点距離に自動で動く等)
が搭載されているのだが、いったい誰がそんな機能を欲しがる
のであろうか? このレンズが発売されたバブル期(1990年頃)
での、銀塩一眼PENTAX Zシリーズならではの、バブリーで過剰、
かつ迷走したスペックと言える。
(銀塩一眼第17回、PENTAX Z-1記事参照)

ズーミングは手で廻した方が、はるかに素早くかつ正確だ。
わざわざ撮影のパフォーマンスを落とす自動化など、技術的な
意義も価値も殆ど無い。

結局FAレンズでのパワーズーム機構は、その後、廃れてしまった
模様だ。まあ、この時代のバブル期では、PENTAXに限らず、
MINOLTAでもα-xiシリーズで過剰な自動化機能を推進していた。

世の中のバブル崩壊と共に、ユーザーニーズも大きく変化し、
それらのバブリーな自動化機能は絶滅してしまったのだ。
このあたりの話は、書き出すと長くなるので、また銀塩一眼
クラッシックス・シリーズの、その時代の記事に譲ろう。
(銀塩一眼第23回MINOLTA α-9記事(予定)等を参照)
c0032138_18554253.jpg
さて、他には、これと言う特徴の無い望遠ズームレンズだ。
焦点域も一般的、開放F値はやや暗いが、このクラスでは
それでも一般的。最短撮影距離は全域1.5mと、300mm望遠域
では不満は無いが、100mm域では、やや不足気味だ。

描写力は、やや解像度不足な印象、逆光性能は低く、
コントラストは低目でフレアっぽい、ボケ質はやや汚い。

まあでも、いずれも重欠点というレベルでは無く、欠点を
意識して回避しながらであれば、なんとか使えるであろう。
まあ、なんと言ってもコスパが極めて良い。何十万円という
高価な新鋭望遠ズームでなくても、本レンズのような物を
必要とする撮影シーンもある筈だ(たとえば、豪雨等の
非常に過酷な撮影環境で、レンズが故障するリスクが高い
場合等だ)2000円であれば仮に壊しても惜しくない。

ちなみに、(交換)レンズの「減価償却のルール」は特に
設けてはいないが、もしそれを一眼レフでの持論と同様に
「1枚3円の法則」を適用するならば、2000円のレンズでは
700枚も撮影すれば、元が取れている計算となる。
レンズの試写では、1日でこれ位(何百枚か以上)の
枚数は撮るので、もう十分だ。
c0032138_18554296.jpg
まあしかし、交換レンズは、そう簡単には故障しない、
かなり酷使しても、何十年かは平気で持つであろう。
私が使用している最も古いレンズは、だいたい1960年代頃の
ものがあるが、製造後半世紀(50年)を超えてまで、いまだ
問題なく動作しているレンズも沢山ある。

総論だが、本FA100-300/4.5-5.6は、今更、指名買いをする
類のレンズでは決して無いが、まあ参考まで。

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では、今回ラストのレンズ
c0032138_18555437.jpg
レンズは、LAOWA 15mm/f4 (LAO006)
(新品購入価格 75,000円)
カメラは、NIKONN Df (フルサイズ機)

2016年に発売された、中国製の特殊レンズ。
「特殊」と言っても色々意味があるが、本レンズの
スペックは以下の通りだ。

*超広角15mm (フルサイズ対応)
*開放F値F4、無段階絞り
*マニュアルフォーカス
*最短撮影距離12cm、等倍マクロ
最短WD(ワーキング・ディスタンス) 4.7mm
*上下6mmのシフト機構内蔵

すなわち、かつて無かった超広角の等倍マクロレンズであり、
おまけに、シフト機能(機構)まで付いている。

シフト機能とは、レンズの光軸を平行移動する事で、
遠近感(パースペクティブ)をコントロールできる機構で、
例えば、高層ビル等を広角レンズで撮ると上すぼまりになる
のを、シフトで補正できる訳だ(逆に強調も可能)
c0032138_18555445.jpg
従前の記事では、PCニッコール35mm/f2.8(ミラーレス・
マニアックス第37回、第52回)がある、また、トイレンズでは
あるがLoreo PC Lens In A Cap 35mm/f11(ミラーレス・
マニアックス第73回)を紹介した。

なお、シフトとティルトの意味と効果の違いは、それらの記事
でも解説しているので、今回は割愛する。

で、一般にシフト機構(ティルトでも)は、どの角度にでも
レンズを平行移動(または傾ける)できるような構造が必要だ、
だからレンズは回転する事が普通になっている。
だが、本レンズの場合はレンズは回転せず、上下方向にのみ
±6mmの範囲で移動できる構造だ。

シフト操作は、レンズのマウント部にある銀色のレバーを
倒すと、レンズの移動ロックが解除される、そこから手で
レンズを上方向または下方向に動かせば良い。

通常位置にレンズがある場合は、クリック・ストップがある
ので感触でわかるであろう、しかし、正直言えば、やりにくい
シフト操作だ。

それと、この仕様では、よほど特殊な撮影技法を除き、カメラ
を横位置(水平位置)とした構図でしか撮る事ができない。

で、一般には、ビル等の撮影では、構図上、上方向のすぼまり
(遠近感)を無くす効果を得たいので、レンズは下方向に
のみ動かす事になるだろう。
c0032138_18555488.jpg
だが、逆に上方向に動かすと、ビル等では上方向への遠近感を
強調する効果が得られる(1つ上の写真)

それから、制限事項だが、フルサイズ機で本レンズをシフトして
使用すると、「ケラれ」が酷く実用に適さない。概ねAPS-C機
専用の機能だ。


今回使用のNIKON Dfは、フルサイズ機ではあるが、DX(APS-C)
のモードに容易に切り替える事ができる。
つまり、通常では、15mm/f4の超広角、または超広角マクロ
としてフルサイズで使い、シフト機能を使いたい場合は、
DXモードに切り替え、約22mm相当の画角のシフトレンズと
して使用できる訳だ。
または、ケラれを覚悟でフルサイズのままシフトし、
撮影後、必要な画角範囲でトリミング編集しても十分だ。
(注:上写真はフルサイズでシフトしてケラれが構図内にまで
入って暗くなった例。なかなか使いこなしの難しいレンズだ)

本レンズのメーカーによる推奨使用環境はAPS-C機ではあるが
フルサイズ機で使った方が、多数の作画バリエーションを
持たせる事ができるので楽しいと思う。

なお、逆の原理により、旧来の銀塩用シフトレンズを
APS-C機で使うと、シフト効果がはっきり出ない。

本ブログでは、2000年代位から、前述のPCニッコール35/2.8
を用いてシフトレンズの動作原理を解説する記事を書いていた
のだが、当時のデジタル一眼レフは、ほとんどがAPS-C機だった
ので、シフト効果がはっきり出ず、説明になっていなかった
事もあった(汗)
これは、前述のミラーレス・マニアックス記事でも同様で、
そこで使用している母艦はAPS-C機であった。

今回記事では、シフト効果がちゃんと出せる環境となっている。

それと、横位置構図でしかシフト機能が使えない件だが、
まあ、無理やり縦位置構図でシフト効果を出す事も出来ない
訳では無い、しかし、そういう必要性のある横方向遠近感を
補正すべき被写体は稀であり、作画がかなり難しい。
そういう撮り方は、特殊な撮影とみなした方が良いであろう。
c0032138_18555305.jpg
他の注意点だが、等倍マクロ撮影時には、WDが僅かに4.7mmと
極めて近接した撮影となる、この時、付属のフードをつけた
ままでは、そこまでの近接撮影が出来ない。
そして、15mmの超広角である為、φ77mm保護フィルターも
場合によってはケラれて使えない。つまり、近接撮影でレンズ
を被写体衝突から保護する手段が殆ど無い為、使用時には
極めて慎重に扱う必要がある。(この課題に対応する為、
後日、φ77mmの薄枠保護フィルターを購入して装着した)

もう1つ、NIKON Dfは、ニコンFマウント系レンズの互換性が
極めて高いデジタル一眼レフではあるが、このような非Ai型
のレンズでも、とりあえず撮影は可能だ。ただ、レンズ側と
本体側で設定した絞り値とを正しく関連付けなくてはならず、
面倒な「二重の絞り操作」を強いられる。
加えてシフト機能を使うと、絞り値と実際の光量の間に関連性
が無くなってしまうので、露出補正またはボディ側絞り値の
変更操作で、正しい露出と思えるように調整する必要がある。

露出補正はDfでは、ロック機構があって、お話にならない劣悪
な操作性なので、絞り値での微調整が良いであろう、ただし
これはカンも経験も必要な、やや高度な撮影技法だ、決して
ビギナー向けレンズでは無い事は重要な点として述べておく。

本レンズは特殊な仕様で高価な上、実用上の用途も少ないと
思われ、結果的に、購入者も恐らく少ないであろうから、
中古市場には殆ど出回らない。
一般的な撮影では、全く使い道が無いであろうから、必要性
の高いレンズでは決して無い。そして使いこなしも、相当に
難しいレンズである。
だが、この特殊仕様は、マニアック度は極めて高い。
まあ、上級マニア専用レンズと言っておくのが良いであろう。

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さて、今回の第8回記事は、このあたり迄とする。
次回記事は、ジャンクレンズを中心とする予定。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(2)OLYMPUS新旧マクロレンズ

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あまり一般的では無い、特殊な交換レンズをカテゴリー別に
紹介する記事。
今回のテーマは本年2019年でのオリンパスの創業100周年
(注:「高千穂製作所」として1919年創業)を記念して、
「オリンパスの新旧マクロレンズ特集」である。

まあ、今回の記事では「特殊な」という感じでは無く、一般的
にも普及しているレンズが殆どであるが、オリンパスのマクロ
システムにおける、時代の変遷を確認する要素が主体となる。
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さて、まず最初にオリンパスの歴史とマクロレンズの関連
について簡単に述べておく。

オリンパスは1919年と、丁度今から100年前に創業した
国内では超老舗の光学機器・カメラメーカーだ。

創業当初から顕微鏡、体温計などの理化・医療向けの機器を
発売するが、1930年代頃から写真用カメラ事業にも参入する。
(当初は、中判カメラ、写真用レンズ等を販売していた)

まあ、この当時、海外においてもカール・ツァイス(CONTAX)
やエルンスト・ライツ(ライカ)が、光学(顕微鏡)分野から
カメラ分野への進出をしていたので、オリンパスもこうした
流れに追従したのであろうか? あるいは、この大戦前の時代
では、カメラ等は「光学兵器」であるとも言え、各国において
カメラやレンズ等の研究開発が推奨されていたのであろうか・・

(この時代のライカやCONTAX機が異常に高価であったのも
これらの「光学兵器」が海外敵国等に、容易に流出させない
目的があったのかも知れない。あるいは、万が一高値でも
売れるならば、ナチス・ドイツの軍資金にもなるのであろう。
いずれにしても、現代とは世情が全く異なる暗い時代の話だ)

大戦を挟み1950年代には、オリンパスは、国産初(実用化
としては世界初とも)の医療用内視鏡(胃カメラ)の開発に
成功する。(その後、1960年代には内視鏡にファイバー・
スコープを採用している)
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オリンパスは1970年代には、一眼レフ(M-1/OM-1)の開発販売
を開始するが、これ迄、医療用等の「拡大光学系」に様々な
技術的な功績があった事から、カメラ界においても
「オリンパスはマクロに強い」という印象が広まる事になった。

また、医療分野への商流(販売ルート)も存在していた為、
実際にオリンパスの一眼レフ等を医療用の近接・複写撮影に
使用するケースも多かったと思われる。

これに応え、オリンパスは1970年代より、一眼レフ用の様々
なマクロレンズを発売するが、その後、およそ50年経った
現代に至るまで、その母機が、OM SYSYTEM(銀塩MF一眼)→
4/3(デジタル一眼レフ)→μ4/3(ミラーレス一眼)と
変遷しても、優秀なマクロレンズの発売を継続している。

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さて、まず1970年代のオリンパス製マクロを紹介する。
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レンズは、OLYMPUS OM SYSTEM Zuiko 50mm/f3.5 Macro
(中古購入価格: 8,000円)(以下、OM50/3.5)
カメラは、SONY NEX-7(APS-C機)

発売年不明(1970年代?)の、1/2倍マクロレンズ。
最短撮影距離は23cm、レンズ構成は4群5枚と、当時の
マクロレンズとしては、いずれも一般的な仕様だ。
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当時のオリンパスは、OMシステムにおいて、各焦点距離の
レンズで開放F2級の「大口径」版と、開放F2.8~F3.5級
の「小口径」版を並行してラインナップしていた。

本レンズに対しても、大口径版のOM Zuiko 50mm/f2 Macro
が存在しているが、そちらは後年の中古市場でもずっと高値
安定のプレミアム相場であり、コスパが悪すぎると見なして
入手する機会に恵まれていない。

なお、OM SYSTEMの開放F2レンズは、他にも21mm,24mm,
28mm,35mm,40mm,85mm,90mm(Macro),100mm,180mm,
250mmm、および20mm特殊Macro(後述)が存在していて、
昔からマニアの間でよく言われる事として
「オリンパスは、20mmから250mmまでF2で揃えられる!」

・・と言う話があるのだが、その殆どがレア品であり
かつ高価なレンズであるから、それらのコンプリートを
実現したマニアは、まず居ないであろう。
私もその内、4本を所有するのみである。

で、その大口径版と小口径版は、単純に大口径版が高性能で
高描写力で、だから高価なのか?と言うと、そういう話でも
無いと思う。すなわち、両者は設計思想が異なり、大口径化
を優先したものと、小口径・コンパクトで、小型軽量のOMとの
バランスを意識したものと、そういう方向性の差異だと思う。

結果、描写傾向も異なる訳なのだが、私が同じ焦点距離で
大口径版と小口径版の両者を所有しているのが2組のみなので、
それ以上の詳細(描写傾向における設計コンセプトの差異等)
については、言及を避ける事とする。

まあでも、「コスパ」という面まで意識すれば、大口径版が
常に良いレンズでは無い事は明白であろう。
その事は、中上級マニアならば誰もが知っている「常識」だ。
(逆に言えば、ビギナー層では、「大口径版が、常に凄い
描写力を持つ高性能レンズだ」と、勘違いをしている為、
「高価でも欲しい」となって中古相場が上がってしまう訳だ)

そして、F2級の大口径版は非常にレアな為、それを所有して
いるマニア等は、必ずと言っていい程「このレンズは凄い!」
と褒め称える。まあ、気持ちはわかるが、既に半世紀近くも
前の古い設計のレンズだ、話半分に聞いて置くのが妥当であろう。
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さて、本レンズOM50/3.5であるが、
私は「平面マクロ」(匠の用語辞典第5回記事)と呼んでいる
レンズだ。
この当時(1970年代)のマクロレンズの設計は、解像力の向上
や歪曲収差の補正を優先していると思われる。
これは、この時代ではまだコピー機は一般的では無かった為、
学術や医療分野における、資料、文書、検体などの複写保存
(アーカイブ)として、コピー機ではなく写真による「複写」
が行われていたからであり、こうした設計思想のレンズは、
このような目的には最適であったからである。

また、当時のレンズ設計は手計算(パソコンやソフトが無い)
であり、沢山の光路シミュレーションがやりにくい。あれも
これも、と様々な特性を同時に優先してレンズ性能を高める
事は、まず不可能であっただろう。

で、一般的に、解像力を優先にした設計の場合の課題だが、
ボケ質の悪化がある。本OM50/3.5もそうであるし、他社にも
いくつかあるこの手の「平面マクロ」は、皆そういう感じだ。

ボケ質が悪い(固い)という事で、一般的な花や昆虫等の
フィールド(自然撮影)や人物撮影分野には向かず、それこそ
病理検体とか、機械部品とか、クラフト小物などの、平面の
被写体を近接で写すのに向くのだが、まあでもそのあたりは、
このレンズの特性を良くわかっだ上で撮るのであれば、
どういう用途に使っても良いであろう。

なお、個人的に本レンズは銀塩時代から、入手しては、
描写傾向が気に入らず、譲渡等で処分してしまう事を繰り返し、
本レンズはなんと、都合3度目の購入だ(汗)

だが、近年においては「描写が気に入らない事は、レンズの
責任ではなく、撮る側が、ちゃんとそれを理解して使いこなせ
て無い事が問題なのだ」と、そう思うようになって来た。
もう本レンズを処分する事はないであろう、気に入らない
という事は、つまり利用者の側に問題や責任がある事だからだ。

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さて、次のマクロシステム
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レンズは、中一光学 FREEWALKER 20mm/f2 SUPER MACRO
(新品購入価格: 23,000円)(以下、FW20/2)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)

本レンズはオリンパス製ではなく、2017年に発売された
中国製の新鋭レンズである。

これは、オリンパスの1970年代の医療用特殊マクロレンズ
「OM SYSTEM Zuiko 20mm/f2 Macro」の設計をコピーした
商品だと思われる。
レンズ構成4群6枚、仕様も、ほぼ(全く)同じである。
撮影倍率が、4~4.5倍にもおよぶ「超マクロレンズ」だ。
c0032138_18242761.jpg
レンズ単体では近接撮影しか出来ず、ピントを合わせる為の
ヘリコイドも存在しない。オリンパス時代の製品では
延長鏡筒(ベローズ)を用いて、「顕微鏡」的な用途に
用いられていた(後述)のだが、現代において、その
ベローズは殆ど入手不能だし、マウントも異なる。
基本的には、本FW20/2レンズは単体で使用する事となる。
(注:本レンズはNIKON Fマウント品につき、Fマウントの
ベローズを所有していれば、流用できる可能性がある)

当該オリンパスのレンズは現在は勿論生産終了、中古市場
でも超レア品となっていて入手困難である為、こうした
リバイバル・レンズの発売は好ましいところだ。

レンズ設計のコピー品というものは、昔から色々あるが、
まあ、そのレンズの構成等で特許を取得している場合には
その特許が有効な間は、他社は真似ば出来ないであろう。
例えば、1900年代前半には、カール・ツァイス社では
テッサーやプラナーなどの特許を取得していた様子だが、
その特許が切れた1900年代中頃(ミッドセンチュリー)には、
各社からテッサー構成のレンズを使用したカメラが、いくら
でも、数え切れない程、発売されている。

この場合、「テッサー」の商標が残っているのであれば、
他社はテッサーの名称を使う事は出来ないが、「3群4枚の
テッサー型」等の呼び方は、メーカーそのものでは言わない
までも、カメラ界では普通に使われている。
また、テッサーが有名になればツァイス等も得だろうから、
別にこれは誰からも文句が出ない。

あまり調べていないが、現代の国内メーカーでは、沢山ある
個別のレンズ構成の全てに特許を出願する事は、煩雑すぎるし、
代替設計での回避も容易なので、出願は少ないかも知れない。
あるとすれば特殊な非球面レンズや、新規のコーティング
技術とか、そうした「基本特許」であろう。
このオリンパスの20mm/f2マクロの特許が出願されていた
どうかは不明(未調査)である、出願されていたとしても
もう50年近くも昔の話だ、とうに特許は切れている。

それから、ここ1~2年で急速に普及している、海外製
(主に中国製)の安価なミラーレス機用MF交換レンズ等も
数十年前の定番(名)レンズの構成を、ダウンサイジング
したような設計となっている事が多い。
(個人的には、この手の商品を「ジェネリック」レンズとも
呼んでいる。後日、数本を紹介予定)

さて、本レンズは医療用途だ。オリンパス版で、延長鏡筒
(ベローズ)を使用する事で、13倍前後の顕微鏡なみの
超マクロレンズとなる、
その状態では、被写体の撮影範囲は約2.6mm x 約1.8mm
である。ベローズ無しの場合は、約8.6mm x 約5.7mm
の約4.2倍マクロとなるが、撮影距離(倍率)の微調整が効く。
逆に言えば、ピントを合わせる為の機構が無いので、
ベローズ無しでの手持ち撮影は、極めて困難である。

本レンズFW20/2も同様であり、ベローズ無しの状態では
約4倍~約4.5倍の、撮影距離に応じた倍率の微調整が出来る。

が、デジタル時代なので、これの換算倍率は、使用する
カメラのセンサーサイズやデジタル拡大機能を絡めて不定だ。
c0032138_18242644.jpg
非常に撮影倍率の高い特殊マクロレンズであるが、その撮影
倍率の高さが、長所とともに、大きな弱点にもなりうる。

本レンズの最大の課題は、屋外手持ち撮影では使い物に
ならない事だ。撮影倍率が高すぎ、露出倍数も30倍以上と
非常に大きくなり、光量が不足する為、昼間でもISO感度を
3200以上等に高める必要性がある。

撮影距離数mmの近接撮影を強要され(注:本レンズでは
近接以外の撮影は不可能)被写界深度は考えられない程薄い。
加えて、ほんのちょっとでも被写体や撮影者が動くと、全く
ピントが合わなくなる。
これらの困難な条件により、手持ち撮影の歩留まり(成功率)
は、屋外では1%以下と壊滅的に低く、すなわち本レンズを
屋外で使って、上手く撮れる方が、むしろ奇跡的である。

これは、あくまでも医療または学術用途の専用レンズであり、
一般的な写真撮影には、使用する事がとても困難である。
本レンズを何らかの「機構」で固定して接写を行うという
業務上での用途以外には、マニア層向けとしても全く推奨
できない。

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さて、次のオリンパスマクロシステム
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レンズは、OLYMPUS OM SYSTEM Zuiko 90mm/f2 Macro
(中古購入価格: 50,000円)(以下、OM90/2)
カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)

1980年代後半頃に発売と思われる、1/2倍マクロレンズ。
後年でこそ開放F2級マクロは色々と存在するが、
この当時では珍しく、OM50/2と並んで貴重なレンズだ。

なお、後年の製品を含め、F2級MFマクロで等倍仕様の
ものは存在せず、例外的に、APS-C機専用のAFマクロ
TAMRON SP 60mm/f2(等倍)があるだけだ。
(ハイコスパレンズ第14回記事等で紹介)
c0032138_18244000.jpg
本OM90/2の仕様だが、
最短撮影距離は40cm、レンズ構成は9群9枚と複雑だ。
重量は重く、OMレンズとしては、かなり大柄な類である。
(ただし、フィルター径はφ55mmと、これは「標準化」の
対象になっていて、意外にコンパクトである)

1980年代後半当時、オリンパスは一眼レフのAF実用化に
失敗し、OMシステムの市場優位性を取り戻す為にも
こうした高性能レンズの発売が必須だったのかも知れない。
(まあでも、価格はそれなりに高価だったと思う)

本レンズの性能的な不満事項はほとんど無い、
近接から中距離撮影まで、ボケ質破綻の発生は少なく
撮影用途の幅が広いレンズだ。
(他社で言えば、TAMRON SP90/2.5に近い特性とも言える。
なお、その後継のTAMRON SP90/2.8は近接撮影に特化した
設計コンセプトとなっていて、汎用性はあまり高く無い)

開放近くでは、若干解像感の不足を感じる場合もあるが、
そこは被写体によりけりであろう。

まあ、本OM90/2は、OMレンズの中では、OM100/2と並んで、
代表的な高性能レンズであると言える。

ただし、コスパが悪い事が最大のネックだ。
レア品であり、後年の中古相場は不定。たまに出てきた
としても、8万円とか、それ以上のプレミアム価格と
なっていて、かなり割高だ。
仮に、その値段を出すとすれば、近年の高性能な
AFマクロレンズの中古が、2~3本も買えてしまう訳だ。

まあ、なので、あまり褒めても、また中古相場が上がって
しまってはいけない、「OM90/2は、この時代のレンズと
しては大変良く写る」としておこう。
c0032138_18244099.jpg
なお、カリカリの解像感を持つレンズでは無いので、
仮に、100LP/本あたりを数値的な目安とするのであれば、
具体的には、ピクセルピッチが5μm以上のデジタル機
(例:APS-C機では、1500万画素程度まで)で控え目に
使用するのが良いであろう。
(注:この計算方法は長くなるので割愛する)

この時代は、ビギナー層では中望遠レンズを買う習慣は
少なかったので、本レンズの存在は、その焦点距離の普及も
目的としてあったかも知れない。しかし、やや高価すぎたと
思われるし、小柄なOMボディともアンバランスだ。

結局「贅沢品」となってしまい、あまり売れていなかった
のであろう。90mm/f3.5等の小口径版が存在していたら
また状況は変わっていたと思うが、残念ながらそうした
仕様のレンズはOMシステムでは発売されていなかった。

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さて、次のマクロシステムだが、本来はここでは時系列的
には、1990年代のマクロレンズを紹介するのが望ましいが、
前述のように、1980年代後半にオリンパスは銀塩一眼レフ
のAF化に事実上失敗し、1990年代を通じて、一眼レフは
旧来のOMシステムの延長上で数機種が発売されたに過ぎず、
この間、オリンパスのカメラ事業は、AFコンパクト機などに
主軸が移っていた。次にオリンパスが一眼レフを発売するのは、
デジタル時代に入ってからのE-1(2003年、4/3機)である。

なので、この1990年代では、マクロレンズの発売は無い。
が、それだとつまらないので、ちょっと変り種を紹介しよう。
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カメラは、OLYMPUS NEWPIC M10 Macro
(新品購入価格:19,000円)

1998年に発売された「超接写」APS単焦点コンパクト機だ。
APSフィルム、すなわちIX240フィルムを使用する銀塩カメラ
であり、レンズ前10cmまでの接写が可能である、
これは、当時としては画期的な近接性能を持った、銀塩
コンパクト機である。

現代では、もうAPS(IX240)フィルムは入手も現像も困難で
ある為、本機を用いた作例は割愛せざるを得ないのだが・・
このカメラで近接撮影を行う場合、非常に特殊な方法論で
それを実現する。

いずれ他の記事で、このカメラと同様の性能を得る事が
できるような「シミュレーター」をデジタル機のシステムで
構築して、これの写りの雰囲気を紹介したいと思う。

本カメラの事を語りだすと、いくらでも記事文字数を消費して
しまう、それほど特殊なコンセプトと機構のカメラであり、
かつ、非常にマニアックなカメラなのだ。
長くなるので、そのあたりも、いずれまた他の記事で・・

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さて、次のマクロシステム
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レンズは、OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 50mm/f2 Macro
(中古購入価格: 22,000円)(以下、ZD50/2)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)

2003年発売の、フォーサーズ用の1/2倍マクロ。
4/3機用ではシステム的に使い難い為、「OLYMPUS MMF-2」
電子アダプターを介してμ4/3機で使用する。

これは前述のように、銀塩用のOM50/2がプレミアム相場
でコスパが悪く、入手困難な為、不人気な4/3機用の
同スペックのレンズを代替購入する事とした次第だ。

発売時の定価は8万円越えで、あまり安価なレンズでは
無かった。当時のZUIKO DIGITALは、レンズ毎にランク分け
がされていて、本レンズはHG(ハイグレード)となって
いたが、さすがに4/3システムが終焉している現代では
中古がかなり安価である。
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最短撮影距離24cm(1/2倍、フルサイズ換算等倍)
フィルター径φ52mm、300gと、そこそこ小型軽量だ。
レンズ構成は10群11枚と、近代レンズらしく複雑である。
(注:銀塩用OM50/2は7群9枚と、本レンズとは異なる)

描写力だが、逆光耐性が低く、フレアっぽい描写となる。
(上写真)この為、フードは必須だ。
ピント面の解像感はシャープであり、ボケ質はなかなか良い。

課題であるが、電子アダプターMMF-2を介してμ4/3機で
使う際は、AF精度、AF速度ともに、かなり不満になる事で
特に近接領域でピントが合い難く、マクロとしての性能を
発揮する事が難しい。

その回避手段としてのMFであるが、これも問題有りだ。
無限回転式ピントリング+距離指標のハイブリッド方式
なので、最短撮影距離での停止感触は少しはあるが弱い、
実用上では、現在のピント位置が不明であるので、一度
遠距離側に戻してから近接方向に廻して停止感触を知る。

それから、カメラ側の電源を入れないとピントリングが
回転しない。
電源OFF時に歩いていて、近接被写体を見つけた場合、
習慣的に、まずピントリングを近接方向に廻しながら
カメラの電源を入れる、それが効率的なMF撮影だからだ。
しかし、本システムでは、先に電源を入れて、カメラが
完全に起動するまでは、一切のMF操作が出来ないのだ。

これは電子アダプターMMF-2の問題ではなく、4/3規格の
レンズ側の課題である。4/3機は一眼レフなので起動が
速く、あまり問題にならなかったが、μ4/3機は起動が
遅いので、ワンテンポ(コンマ何秒)MF操作が遅れる。

通常レンズでは、殆ど気にする必要も無い弱点だが、
マクロレンズでは、近接と無限遠をいったりきたりの
撮影が多くなるので、この仕様は、非常にかったるい。

まあ、オリンパスとしては、およそ20年ぶりの新規の
一眼レフ用レンズの発売だ、技術者も総入れ替えされて
いた事であろう。4/3機では、現代的な技術による仕様
(レンズ内モーター等)を優先して、本来の、撮影に
係わる「操作性」などについての「配慮やノウハウ」が
企画・開発部門内部でも失われていたのかも知れない。

ただ、現代でのアダプター利用μ4/3システムにおいて、
AFからMFへのシームレス移行時にピーキングが無操作で
効くので救われている。
オリンパスのμ4/3機で、MFレンズの場合は、Fnボタンに
ピーキングを割り振り、電源ONのたびに一々それを押す、
という、極めて劣悪な操作系なのだ。これはMFレンズを
使わせず、自社μ4/3用レンズを買わせる為の排他的仕様
(=意地悪)としか解釈できない。
c0032138_18251304.jpg
描写力は悪く無いレンズではあるが、あくまで4/3用なので、
現代ではシステム構築の観点から購入を推奨できない、
本レンズの紹介は最小限にとどめておく。

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さて、次のマクロシステム
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レンズは、OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 35mm/f3.5 Macro
(中古購入価格: 8,000円)(以下、ZD35/3.5)
カメラは、OLYMPUS E-410((4/3機)

2005年発売のフォーサーズ用の軽量等倍マクロである。
4/3システムは現在では終焉している為、4/3機が無い
場合には、OLYMPUS製等の電子アダプターでμ4/3機には
装着可能であるが、電子接点を備えていない簡易アダプター
では、絞り制御もMF操作も何も効かず、使用できない。
本レンズにおいては、アダプターを使わず、直接4/3機に
装着してみる事とする。
c0032138_18252614.jpg
さて、本レンズのフィルター径はφ52mmと、旧来のOM SYSTEM
の伝統である「φ49mmまたはφ55mm」という強い標準化思想は、
もうこの時代では残っていない。前述のようにOM時代の
20~30年前とは技術者も総入れ替えされているだろうから、
そうした設計コンセプトの伝統も失われてしまっている。

しかしながら、軽量(165g)で、等倍マクロである事は、
むしろ銀塩用のOM 50/3.5等よりも利便性は感じる。

なお、本レンズは4/3系用のイメージサークル対応の為、
フルサイズ換算で70mmの画角。最短14.6cmでの撮影倍率も
2倍相当になるが、撮影倍率に関しては、あくまで換算なので、
あまりこの仕様は重要視しない事が賢明だ。
c0032138_18252629.jpg
安価ながら普通に良く写るマクロである為、コスパは良いと
見なせるが、課題は、本レンズを現代で使う環境が厳しい点だ。

まあ、AF性能をあまり必要とされない近接撮影においては、
電子アダプターを用い、ピーキング搭載等のMF性能に優れた
μ4/3機で使用する事が簡便であろう。
(注:むしろAFを使うと、合わずにイライラするかも知れない。
 例えば、最短撮影距離&絞り開放での被写界深度は、
 オリンパスの計算方式によれば、1mm以下となり、ほとんど
 ピントの合う範囲が無く、AF精度も足りない)
(注:デジタルでは許容錯乱円の定義は曖昧だ)

で、4/3用レンズは、現代では購入を推奨できない為、
本ZD35/3.5の紹介は最小限にとどめておく。

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さて、ラストのOLYMPUSマクロシステム
c0032138_18254159.jpg
レンズは、OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm/f3.5 Macro
(中古購入価格: 22,000円)(以下、MZ30/3.5)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7(μ4/3機)

2016年発売の新鋭のμ4/3機用の1.25倍マクロ。
フィルター径φ46mm、128gと、かなりの小型軽量であり、
最短撮影距離9.5cmで等倍を超える1.25倍の撮影倍率が
得られるという現代的な仕様だ。

なお、特殊な形状のフードが付属している為、これを装着
時には、保護フィルターの必要性が殆ど無い。
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で、例によって、被写界深度が紙のように薄く、AFでの
ピント合わせは非常に困難である。
ある程度はMFでの操作も必須となるだろう。

このような状況では、オリンパス機のピーキングの「強」の
場合の精度よりも、パナソニック機のピーキング精度が頼りに
なる為、今回は、DMC-GX7を使用してみよう。

これについては、オリンパス機は、ピーキングを「強」に
設定すると、多少過剰にピーキングが反応するので、あまり
精密なMFピント合わせに向かないし、それを嫌って「標準」や
「弱」にすると、今度は、やや物足りなく思う。
なお、「背景の輝度調整機能」のON/OFFも、ここに影響する。
(注:この調整機能は、作画上での輝度確認がやりにくく、
最近では用いないようにしている)

まあ、このあたりは使用レンズや被写体状況によりけりだ。
逆に言えば、オリンパス機ではレンズ毎や被写体状況毎での
ピーキングの設定調整が「かなり煩雑だ」とも言える。
それがパナ機では、ピーキングの強度設定機能こそ無いが、
多くのケースで、だいたい適正な閾値となっている。
(注:画像処理アルゴリズムの差であろう。詳細の説明は
可能ではあるが、あまりに専門的すぎるので割愛する)
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本レンズは定価3万円台後半とエントリーレンズ並みの価格帯
ながら描写力は大変高く、実用上の不満点は感じられない。
もっとも、他のOLYMPUS M.ZUIKOの単焦点、たとえば
45mm/f1.8も、同等な価格帯で安価であるが、これもまた
描写力の不満は無い。

まあつまり、デジタル一眼レフで、2010年頃に流行した
「エントリーレンズ戦略」の焼き直しであろう。
すなわち、低価格で高性能な、主に単焦点の交換レンズ群を
初級層に販売し、さらなる交換レンズの販売につなげたり、
他社機に乗り換えさせない為の「囲い込み」を行う戦略だが、
ミラーレス機は、デジタル一眼レフよりも後発なので、数年
程度遅れて、こうした市場戦略が実施されているのであろう。

・・であれば、「エントリーレンズは全て買い」という
原則がある。その理由は、非常にコスパが良いからだ。

なお、低価格帯レンズながら、中古購入価格が22,000円と
やや高価なのは、発売後、間もないタイミングで購入して
しまったからである。この手のレンズは、焦って購入せずとも
少し時間が経てば安価になる場合もあるので、特に必要性が
無ければ、しばらく待って購入するのも1つの方策だ。

でもまあ、いずれにしても、こうした「サービス商品」は、
ユーザーにとってみれば、非常にお買い得だ。
これと逆に、メーカー側が利益を確保する為の「高付加価値
型商品」も勿論存在する。ユーザーがそれを買うのは、まあ
所有満足度等の心理面は無視するならば、すなわちメーカー
に利益を貢いでいる事になり、「消費者の負け」の状態だ。

このあたりは、どれがそういう類の製品であるかは、マニア層
であれば皆、知っているが、ビギナー層は判断不能だ。
だから、ビギナー層は、どうみてもコスパが悪い商品を
平気で買ってしまうのであるが、でもまあ、現代での縮退した
カメラ市場においては、そういう奇特なユーザー層が居ないと
成り立たない訳であり、そこは「大人の事情」である。
まあ、あくまで消費者個々の価値観や判断に任せる事となる
だろう。
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本レンズMZ30/3.5の総括だが、コスパが大変に良いマクロ
である。

ただし、無限回転式のヘリコイドである事や、過剰なまでに
撮影倍率が高い事から、AFでもMFでも厳密なピント合わせが
難しい。
よって、近接撮影には、あまり拘らず、フルサイズ換算で
60mmという画角から、これを常用標準レンズ代わりにし、
「いざとなったら、いくらでも近接撮影が出来る」という
用途に使うのが、最も適正だと思われる。

なお、開放F値の暗さ(F3.5)は、あまり気にする必要は
無いであろう、マクロレンズはだいたいが、F2.8~F3.5級
であるし、現代のデジタル機では、どれもISO感度が十分に
高く、何も問題無く使用できる。
中距離撮影でのボケ量の少なさも、近接撮影に持ち込めば
いくらでも被写界深度を浅くでき、下手をするとボケ過ぎて
困るくらいで、適宜絞り込む必要もある。

ちょっと前述したMZ45/1.8と、本MZ30/3.5の2本を
μ4/3機で使用するならば、人物撮影から小物撮影まで、
様々な日常的撮影(例:SNS用等)には殆ど全て対応可能だ
(それで足りないのは風景用の広角あたりだけか)

中上級層には、やや物足りないと感じる「安直なレンズ」
かもしれないが、逆に言えば、常に、そんなに神経を使う
ような厳密な撮影システムが必要、という訳でも無いだろう。
むしろ、そういう安易な日常的な用途においては、非常に
役に立つ万能レンズだと言えるかも知れない。

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さて、今回の「オリンパス新旧マクロレンズ特集」記事は
このあたり迄で、次回記事に続く。

銀塩一眼レフ・クラッシックス(20)CONTAX AX

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所有している銀塩一眼レフの名機を紹介するシリーズ記事。
今回は第三世代(AFの時代、世代定義は第1回記事参照)の
CONTAX AX(1996年)を紹介する。
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装着レンズは、CONTAX Distagon T* 25mm/f2.8
(ミラーレス・マニアックス第29回)

本シリーズでは紹介銀塩機でのフィルム撮影は行わずに、
デジタルの実写シミュレーター機を使用する。
今回はまず、フルサイズ機CANON EOS 6Dを用いるが、
記事後半ではシミュレーター機もレンズも変える事にする。
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以降はシミュレーターでの撮影写真と、本機AXの機能紹介
写真を交えて記事を進める。
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さて、史上稀に見る「化物カメラ」の登場だ。

「何が”化物”なのか?」と言えば、本機AXでは、どんな
MFレンズを装着しても、それをAFで使えてしまうのだ。

「それは凄いが、そんな事が出来るのか?」という疑問は
当然出て来るであろう。

ここで一般的な一眼レフのAFの仕組みについて簡単に解説
しておく。

普通、一眼レフでのAF(オートフォーカス)という仕組みは、
レンズから直接取り込まれる(Thru The Lens=TTL)映像を
カメラ内部のAFセンサーで解析する。その際の一般的な
手法は分離した映像のズレを判定する「位相差検出」方式だ。

ピントが合っていなければ、一眼レフボデイ内のモーターを
用いてレンズ側に動力を伝え、レンズのピントリングを
カメラが廻す(撮影者が手で回す場合は、勿論MFとなる)

が、この方式ではレンズのピントリングを本体から廻すには
力も速さも少々厳しいので、近年のレンズではレンズ側に
各種のモーター(超音波モーター、ステッピングモーター等)
を内蔵し、カメラボディからの電気信号でレンズ側が自力で
モーターによりピントリングを廻す(=レンズ内モーター仕様)

で、ピント位置が変化し、カメラ内のAF(位相差)センサーが
「ピントが合った」と判定したら、そこでレンズの動きを
止める(注:ぴったり止めるのは、それなりに難しい)

まあ、原理的には、これだけの簡単な仕組みである。
(しかし、実際にこれを作るには、様々なノウハウが必要だ。
だから、銀塩コンパクト機にAFが初搭載されてから、実用的な
AF一眼レフが発売される迄、およそ8年の歳月がかかった)
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なお、近年のデジタル一眼レフでの「ライブビュー」時のAFや、
ミラーレス機においては。この「位相差検出」方式とは異なる
「コントラスト検出」方式が主に使われる。


それから、近年のミラーレス機やデジタル一眼レフの一部では、
「像面位相差AF」(他の呼び方も色々あり)の技術を用いている。
また、銀塩AFコンパクト機等では赤外線や超音波等を発して
反射により距離を測る「アクティブAF方式」も使われている。

これらの他の様々なAF方式を一々説明すると長くなるので
省略するが、まあ現代においては購入するカメラの仕様にも
密接に関連するので、中級者以上ならば基本的知識として
必ず知っている事だと思う(知らないと、むしろ問題だ)

さて、ここまでの説明では、AFのカメラに、AFのレンズを
組み合わせないと、オートフォーカスは実現できない。

しかし、本機AXの場合は、AFのカメラに、MFのレンズを
装着しても、AFが実現してしまう。
いったいそれは、どうやって・・?
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答えを書いてしまうと、本機CONTAX AXでは「レンズの
ピントリングを動かすのではなく、フィルムを機械的に
前後させてピントを合わせる」のだ。

「え~?? そんな事が技術的に可能なのか?」
というのが、ちょっとわかっている人での質問だ。

「可能か?」と言われれば、一応可能である、なにせ
本機AXが実際に1990年代に市販されていた位だ。

ただ、技術的な課題は色々とある。まず「フィルムを若干
動かす程度の範囲で本当にピントが合うのか?」それから
「フィルムを一体どうやって動かすのだ?」さらには
「それは素早く確実に動くのかどうか?」又、レンズ側でも
「レンズのピント位置は? レンズ性能は低下しないのか?」
等である。

その説明をする前に、実は本機AXの他にも、MFレンズを
AF化してしまう、魔法のアタッチメントが存在していた。
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具体的には「NIKON TC-16A」と「PENTAX F AF adapter 1.7X」
の2種類がある。他にもあったかも知れないが記憶に無い(汗)

これらのアタッチメントは、MFレンズとAFカメラの間に装着
するテレコンバーター形式であり、その中に可動するレンズ
群があって、それでレンズのピント位置を動かしているのと
同様な効果が得られる。
この原理は、本機CONTAX AXのフィルム位置を動かしている
事と、まあ似ていると言えば似ているであろう。

NIKON TC-16Aは現代のデジタル一眼では、もう使用ができない
古いアタッチメントではあるが、本ブログの、かなり昔の
記事で使用感を紹介していたと思う。
(注:アタッチメントとは、勿論「付属品」と言う意味だ。
「フィルター径」という意味とは等価では無いので念の為。
そして、そもそも、アタッチメントは、レンズの前部に付ける
だけの物とは限らない→上記TC-16Aがその一例だ)
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余談だが、このテレコン形式のAF実現システムは、近年の
ミラーレス機用のマウントアダプターにおいて、レンズに与える
電気信号の「プロトコル」をアダプター内のCPUで生成する事で、
AFレンズを本来のAF動作をさせる事が出来るようになるという
「電子アダプター」とは、根本的に技術原理が異なっている。

このあたりは、こうした複雑な技術内容を、たった一言で
説明できる用語が存在しないので、まあ色々と混乱しやすい
のはやむを得ないのだが、意味が分からないで間違って製品
を購入した場合、損をするのはユーザー自身であるので、
しっかりと個々の技術の意味を理解するしか無いと思う。
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さてここで、本機CONTAX AXの話に戻るが、
MFレンズを用いてボディ側だけの構造でフィルム面を動かす
為には、フィルム全体を丸々移動させる内部構造が必要だ。

これは「ボディの中に別のボディが入っている」ような構造
であり、複雑怪奇である他、まるで「着ぐるみ」を着ている
ように、とんでもなく太ったカメラとなってしまった。

で、当然の話だがフィルム位置を動かすのは大変だ。
その重量から速度も遅いし力も必要だし、きっちりと止める
精度もだ、全てに技術的なネックがあり、開発難易度が高い。
まあでも、京セラ・コンタックスは持てる技術を結集し、
ついに、これを実現させてしまう。
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この方式を京セラでは、ABF方式(これはオートマチック・
バックフォーカシング・システムの略だったか?)と呼んだ。

実際にこの仕掛けがちゃんと動作するかどうかは後述するが、
そもそも、いったい何故、京セラCONTAXは、こんな
「化物カメラ」を作ったのであろうか・・?

ではここで、京セラCONTAX機を取り巻く、一眼レフ界の
歴史を、関係する時代の部分だけ振り返ってみよう。

<1985年>
MINOLTA α-7000発売、言わずと知れた「αショック」だ。
CONTAX 159MM(本シリーズ第12回記事)

<1987年>
CONTAX 167MT 中級機、世界初のオートブラケット搭載機

KYOCERA(YASHICA) 230AF
京セラ初のAF一眼レフ。CONTAX銘では発売されなかった、
1990年代前半まで数機種が発売されが、Y/C(RTS)マウントと
互換性の無い専用レンズであり、試験的な要素も大きかった
事であろう。海外はともかく、国内市場ではとても不人気で
あった。このシリーズの商業的な失敗もあってか、CONTAXの
一眼レフのAF化は、事実上凍結されてしまった。

<1988年>
NIKON F4(本シリーズ第15回記事) ニコン初のAF旗艦

<1989年>
「昭和天皇崩御」 時代は昭和から平成へ
「消費税導入」

CANON EOS-1/HS(本シリーズ第14回記事)キヤノン初のAF旗艦

<1990年>
CONTAX RTSⅢ 
コンタックス初のフラッグシップ級高級機。CONTAX機としては
3年ぶりの新機種だ。しかし、AF機では無くMF機である。
ここにおいて、京セラCONTAXはY/CマウントのAF化を完全に
諦めたかのようにユーザー層は感じた事であろう。
(注:この後、高級コンパクト機Tシリーズや、レンジ機
Gシリーズでは、CONTAXはAF化を難なく実現している)

<1992年>
「バブル景気」崩壊、消費行動の心理・傾向が変化する

CONTAX S2 マニアックな機械式カメラ、チタンボディ
CONTAX ST 旗艦級では無いMF高級機、1/6000秒シャッター搭載

<1993年>
CONTAX S2b S2の黒(灰茶色)仕上げ版(現在未所有)

<1994年>
CONTAX RX 中級機(MF)、フォーカスエイド搭載

<1995年>
「阪神淡路大震災」発生

<1996年>
NIKON F5(本シリーズ第19回記事) ニコン二代目のAF旗艦

CONTAX AX(本機)

ここでやっと本機AXの時代に到達した。
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前記事「NIKON F5」の項目でも書いたが、この時代の
「バブル崩壊」や「阪神淡路大震災」は、大事件であり
消費者の消費行動(心理・傾向・趣向)にも多大な影響を
与えたと思われる。

すなわち、カメラに対しても、表面的なカタログスペック
以外の要素を求めるようになってきたと思われるのだが
残念ながらカメラ側は、高機能化・高性能化による
スペックの増強を推進するばかりであった。

その為、新機能が搭載された新機種(AF一眼レフ)が
次々に登場すると、まだ十分に使える旧機種はすぐに廃れ、
誰も見向きもしなくなった(=仕様老朽化現象)

そうした「バブリーに機能を膨らませた上辺だけのカメラ」や
「家電製品化し、消耗品と化した所有満足度の低いカメラ」は
消費者ニーズとの微妙なズレを段々と広げていき、
本機AXの時代(1990年代後半)あたりから、カメラ界は、
空前の「(第一次)中古カメラブーム」に突入する。

つまりこれは、その時代に発売された新機種(一眼レフ)には
少なくともカメラマニア層は興味を持てず、MF時代の名機等を
追い求めた時代であった。

事実、私もバブル期企画のカメラは、PENTAX Z-1を除き全て
処分し、今は1台も保有していない。その時代の後の最初の
AF一眼のNIKON F5は、フラッグシップ機でありながらも、
バブル期の設計思想を引きついでいて、本シリーズ中、過去
最低点の評価となってしまっていた・・
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ここで、この時代の一眼レフ以外のカメラの様子をCONTAXを
中心に、少しだけ紹介すると・・

<1990年>
CONATX T2 実質的には史上初の「高級AFコンパクトカメラ」
<1993年>
CONATX Tvs 初のズーム付き高級AFコンパクト機
NIKON 35Ti ニコン初の高級コンパクト機
<1994年>
CONATX G1 史上初のAFレンジファインダー機
NIKON 28Ti 28mm広角レンズ搭載高級コンパクト機
<1996年>
CONTAX G2 G1の後継機、完成度が高く人気機種となった
RICOH GR1 高級AFコンパクトカメラブームの火付け役
MINOLTA TC-1 ミノルタ初の高級コンパクト
APS(IX240)フィルムとAPSカメラの発売開始

という状況で、本機AX発売と同じ1996年からの後、一気に
「(銀塩)AF高級コンパクトカメラ」のブームが加速する。

この事実もまた「マニアは新製品のAF一眼レフには興味が
持てない」事を暗に示していて、定価が10万円以上もする
(場合によりAF一眼レフより高価)高級コンパクト機が、
一眼レフよりも「飛ぶように」売れていたのだ(この主な
ユーザー層は中上級マニアだが、波及して女性ユーザーや
ビギナー層にも人気であった)

なお、1975年のCONTAX RTS(本シリーズ第5回記事)は、
まさしく「鳴り物入り」での登場だったのだが、同時期の
ヤシカの経営破綻と、京セラの資本投下等の事情からか、
1980年代前半迄は有力な新製品カメラが作れず、その後
1985年のαショックと、1980年代末のCONTAXのAF化失敗
(見送り)により、結局1980年代のCONTAX一眼レフは
「鳴かず飛ばず」の状況であっただろう。
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が、一眼レフ本体はそうだったかも知れないが、ツァイス銘
のCONTAXレンズは、そこそこ高く評価された。

まあ値段が高いので「良いレンズだ、と勘違いする」大誤解
もある。
その当時では、ビギナー層はもとより、専門の評論家で
すらも、そのように思い込んでしまう場合も多々あった。

それに、CONTAXやツァイスは、旧来から「神格化」されて
いた為、「たいした写りでは無い」等と言おうものなら
「何を馬鹿な!」と、周囲のマニアやユーザーや市場すらも
全て敵に廻してしまう。
だからやはり「さすがツァイス!」等の、ありきたりの
評価をする事しか許されなかった、とも言えるであろう。
ある意味、残念な時代だ。
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ちなみに、現代の視点からすると「1980年代のCONTAXレンズ
は良い物も、そうで無い物も混在する」という感覚だ。
特に、ボケ質破綻が起こるレンズが多く、使いこなしがかなり
困難だ(というか銀塩一眼レフでは、ボケ質破綻回避技法が
原理上無理だ、ミラーレス時代になって、やっとそのあたり
の精密なコントロールが若干だが可能になったと言える)
このあたりの詳細は、本ブログでの過去シリーズ記事の
「ミラーレス・マニアックス」でも、散々、多数のCONTAX製
レンズの紹介をした際にも出てきた話である。

まあすなわち、銀塩時代の当時としては、CONTAXレンズを
正しく評価できる術(すべ)を誰も持っていなかった、
というのが最も正解に近い話であろう。

仮に、解像度チャート等を撮ったりしてMTFを計測する等と
いった専門的な解析作業を行っても無意味であったのだ、
それらの方法では「ボケ質」等の、特殊な撮影条件が
要求され、かつ経験的・感覚的な評価方法論を盛り込む
事は無理だからだ・・
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余談が長くなった。少しづつ本題に戻して行こう。
で、CONTAXレンズは1980年代末にAF化を見送った為、
時代が進んでも大きく値上げする事が出来なかった。

他社では1980年代後半から、AF化という「付加価値」
(つまり、メーカーから見れば「値上げ」の弁明である)
があった為、新規に発売されたAF用の交換レンズの価格は、
どんどんと上昇。旧来のままのCONTAXのレンズは相対的に
段々と安く感じるようになり、実際に1990年代では他社の
AFレンズよりも、むしろCONTAXレンズは割安であった。
(例:1990年代のCONTAX (RTS)プラナー85mm/f1.4の定価が
10万円弱であった事に対し、他社AFの85mm/f1.4級レンズの
定価は、それよりも遥かに高価な14万円程であった、等)

そう言う訳で、もうこの時点で「値段の高いものは良い物だ」
と言う、ありきたりの価値感覚は意味が無くなっていた。

値段の高い製品は「メーカーが高く売りたい」かつ「高くとも
ユーザーが買いたい」というバランス点により成り立つ訳だ。

AF化や、あるいはNIKONでのD型対応等で、レンズの価格は
どんどん高くなった。つまりそれは「高く売れるからそうした」
というだけであって、一般ユーザー層が思うように「性能が
上がったから高くなった」という意味では決して無いのだ。
(まあ、開発費の償却もあるが、ここでは概要だけを述べる)

そこら辺の事を理解していないユーザー層は、現代においても
いくらでも居るし、むしろそれが大半という残念な状況だ。

本ブログでは昔から何度も何度も繰り返し述べているが
「値段の高いもの、イコール、良いものでは決して無い」
と言うことである。その事がずっと理解できないようでは、
「カメラ業界に、せっせと貢いでいる」状態でしか無い。

しかし、その事は、近年大きく「縮退」しているカメラ業界
にとっては「福音」でもある。その「貢献」がなければ、
各メーカーはカメラ事業を維持・継続する事が出来ない。
が、消費者の立場から見れば、それは「無駄に金を使う行為」
に他ならないのだ。

「じゃあ、どうするのか?」と言えば、それは簡単な話だ、
わかっている人は、自分のやりかたを貫けば良いし、
わかっていない人も、自分の好きに消費行動をすれば良い。
そこはそれぞれの個人の価値観だ。

結果的に損する人も得する人も出てくるだろうが、それはもう
100%、ユーザー(消費者)側の本人の「自己責任」である。 
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歴史の話に戻るが、1990年代に入りCONTAX機も盛り返す。
一眼レフではRTSⅢ等、高級コンパクトTシリーズ、および
レンジ機Gシリーズ、これらの好調から、そして「バブル期
の残り香」から、本機AXの「リスキー(危険)な開発」が、
かろうじて許されたのであろう。

(なお、余談だが、京セラ本社(京都市)に併設された美術館
(無料)を訪れてみると、1990年前後のバブル期に収集した、
ピカソ等の有名絵画や、貴重な陶磁器等が沢山展示されている。
まあ、「余裕があった時代だった」という事なのであろう。)

それから、CONTAXのレンズがAF化出来なかった事は、
技術的問題と言うよりも、どちらかと言えば「政治的」な
要因が大きかった事であろう。京セラにAFの技術が無かった
訳では無いし(他シリーズ機で容易に実現している)
「人気の(神格化された)ヤシコン・マウントを変えるべき
では無い」という、大きな方針があったのかも知れない。

だとすれば、技術屋としては、
「じゃあなんとしても、ヤシコンのレンズのまま、AFを
実現してやろう」という強い意志(意地)が芽生えたのかも
知れない。
今まで誰もやった事の無い新たな発想、そして、その開発は
困難を極めたかも知れないが、ついにそれは実現された。

「AFなんて飾りです、偉い人にはそれがわからんのです」
という、アニメの名セリフを思い起させるではないか・・
まあ、本機AXの背景に潜む最大の特徴がその事だ。
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ここで、いつものように本機CONTAX AXの仕様について
述べておきたいのだが、以前にもチラリと書いたが、この
時代のカメラについての情報は、現在では極めて少ない。

京セラのWEBサイトからも、銀塩カメラの説明書などは全て
「削除」されてしまっている。カメラ事業から撤退して
既に10年を軽く超え「もうそれは過去の話、今さら無関係」
というスタンスなのであろう。

ネット上でも本機AXの仕様の詳細などは殆ど見当たらなく、
検索でも過去の本ブログの記事が出てくるだけだ(汗)
それは自分で書いた記事なのだから、読む必要は無い(笑)
それ以上の詳しい情報や、公式情報等は、もう無いという事だ。
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なので今回は、本機AXの仕様は必要最小限の私が理解して
いる範囲だけで留めておこう。

CONATX AX(1986年)

バックフォーカス(ABF)方式、35mm判フィルム使用AEカメラ
最高シャッター速度:1/6000秒(AE時、電子制御式)
シャッターダイヤル:有り(4秒~1/4000秒)
フラッシュ:非内蔵、シンクロ速度1/200秒(?) X接点
ホットシュー:ペンタプリズム部に固定
ファインダー:固定式、スクリーン交換可能。
       倍率0.7倍 視野率95%
使用可能レンズ:ヤシカ・コンタックス マウント
絞り込みプビュー:有り
AF測距点数:1点
AFモード:シングル(S)、コンティニュアス(C)、マニュアル(M)
マクロモード:ABF機構を10mm繰り出してレンズをマクロ化
AF開始:専用ボタンによる(AFL兼用)
露出制御:PSAM方式
測光方式:中央重点平均(?)、スポット
露出補正:±2EV,1/3段ステップ(専用ダイヤル)
AEロック:電源スイッチ部で可
ファインダー内表示:撮影枚数、測光モード、バックフォーカス
          フォーカスエイド、絞り値、シャッター速度
視度補正:専用ダイヤルで可
露出ブラケット:可(レバーで1/2段/1段切り替え可)
ミラーアップ:不可
ドライブ:単写、高速、低速、露出ブラケット、
     セルフタイマー2秒、10秒
連写速度:CH高速時 秒5コマ
     CL低速時 ??コマ
多重露光:不可(?)
電源:リチウム電池 2CR5 1個使用
カスタムファンクション:露出モードレバーを変えて設定可
フィルム感度調整:手動ISO6~6400、DXコード対応
フィルム巻き戻し:Rレバーの操作による
データバック:別売D-8 装着可
本体重量:1080g(電池除く)
発売時定価:250,000円(税抜き)

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さて、このあたりでシミュレーター機のEOS 6Dの使用を
やめる。レンズもCONTAX Tessar T* 45mm/f2.8としよう。
c0032138_16391172.jpg
銀塩時代、ファットな(太い)AXと、パンケーキ(薄い)の
テッサーの組み合わせは、なかなかユニークで面白かった。
(RTSⅢ等でも起こる、この「大小効果」は、マニア受けして、
同時代からの一大「パンケーキブーム」に繋がったと思われる)

以降のシミュレータ機もSONY α7に交換しよう。
c0032138_16380541.jpg
なお、当然の話だがCONTAX機でのY/Cマウントは、京セラが
2005年にカメラ事業から撤退以降使われて(作られて)おらず、
(注:例外的にKENKOより銀塩MF一眼レフKF-3YC 2007年
が、ヤシコンマウントレンズ救済の目的で発売されている)
現行のデジタル一眼レフには、Y/Cレンズはそのまま装着は
出来ず、必ずマウントアダプターを介する必要がある。

(注:ただし、フルサイズ機EOS 6Dと、Y/Cレンズの一部
(大半?)では、アダプターで装着できてもミラーが干渉して
(当たって)使用出来ない。このTessar45/2.8も同様である。
この状態で無理やり撮影するとカメラを壊すリスクがある為、
安全を期すならば、今回使用のα7といったミラーレス機で
使用するのが良いだろう。しかしα7ではオールドレンズ使用
時に内面反射によるゴーストが大きな問題だ。結局なかなか良い
組み合わせが存在しないが、そこは色々試してみるしか無い)
c0032138_16380533.jpg
本機CONTAX AXの特徴だが、

まず、「到底そんな事は無理だ」と思われるような、
フィルム面を動かすシステム(ABF)を、執念で実現して
しまった事にある。

ボディの中のボディという重たい質量をスムースに動かす為、
親会社「京セラ」の、セラミック製レールを採用したとの事。
勿論、それだけではなく、この前代未聞・前人未到の構造を
実現する為に様々な精密技術や新技術が使われている。

まあ普通はこういう開発は、やりたくても金も時間もかかる
為に出来ない。が、バブル期の企業資産価値上昇や、前述の
一眼レフ以外の他シリーズCONTAX機の好調などの理由で
かろうじて開発にGOサインが出たのかも知れない。

結果、極めて「歴史的価値」が高いカメラとなった。

価格も高く、商業的には成功したとは言えないカメラだが、
それはそれだ、この困難な開発を実現したという事自体が、
価値のある事であり、その宣伝効果や波及効果は大きかった
と思う。

現に発売から20余年を経過したデジタル時代の今なお、
本機は「伝説」であり、実際に現代に本機を購入して楽しむ
マニアも居ると聞く・・
(注:銀塩末期の2000年代初頭、一度本機を売却処分しよう
として中古店と話をしたが「不人気で相場が安い」との事で
見送った。本機AXを残した理由は、そこにもあったのだが、
今から考えると、歴史的価値が高く、残しておいて良かった)

他の長所だが、実の所、あまり見当たらない(汗)
(注:マクロ機能については後述する)
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さて、本機AXの弱点であるが、

まずは、苦労して実現したABF機構が、どうにも実用レベル
には程遠い事だ。AF駆動は極めて遅く、精度も低い。
(注:この事が、銀塩時代のユーザー層には嫌われていた)
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それと、MFレンズ側のピント位置やピント方式にも複雑な
関連があって、例えばピント無限遠でAF駆動(ABF)させれば
画質は比較的保たれるが、近接撮影のピント位置でABFを
したり、IF(インナーフォーカス)仕様のレンズでは、
レンズ設計時の限界画質を下回る可能性がある。
(つまり、マクロでは無い通常レンズは、無限遠距離で
最良の画質となるような設計基準がある為だ)

しかしAF速度については、巷の評価は分かれていた。
「遅くて使い物にならない」という人と、「意外に速い」
という人だ。・・が、ここは明確な理由が考えられる。

「遅い」と言った人は、本機AXの内部構造や技術を理解して
おらず、単純にEOS-1NやF5等と比較した人だ。
(まあ、こちらが大半の評価であったのは前述の通り)

「速い」と言った人は、本機AXの動作原理を完全に理解して
いて、その技術的な困難さが想像できる人だ。
だから、「到底無理だろう」と事前に思ったレベルよりも、
ずっと速くて正確な事に驚く訳だ。

まあ、そうした評価はどうでも良く、実質的には本機AXを
AF機として使うには少々無理がある。

それよりも、裏技の方が実用的には大きな魅力であったのだ。
それはつまり、ABFを「マクロモード」に切り替えて
「全てのツァイスレンズをマクロ化する事!」である。
c0032138_16391153.jpg
プラナーがマクロプラナーに、テッサーがマクロテッサー(?)
になる事は、画質低下とかはさておき、大きな魅力であった。

なお、ABFやマクロ機能は、マウントアダプター使用時での
他社レンズでも有効だ(例:M42マウントレンズ等を使い
AFジュピターやマクロタクマーとする事が出来た!)

本機の他の弱点は、重さ、大きさ等色々とあるが、もう
そこは不問としよう。
ともかく、この特殊機を完成させた事に敬意を払いたい。
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さて、最後に本機CONTAX AXの総合評価をしてみよう。
評価項目は10項目だ(項目の意味は本シリーズ第1回記事参照)

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CONTAX AX(1996年) 

【基本・付加性能】★★★☆
【操作性・操作系】★★★
【ファインダー 】★★☆
【感触性能全般 】★★☆
【質感・高級感 】★★☆
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★★
【購入時コスパ 】★☆ (中古購入価格:80,000円)
【完成度(当時)】★★☆
【歴史的価値  】★★★★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
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【総合点(平均)】3.1点

突出した評価は、マニアック度と歴史的価値だけだ。
他の項目は、平均点か、それ以下でしかない

だが、苦心して実現した特殊なABF機構は、非実用的で
あったとしても、副次的産物であるマクロ機能は十分に
実用的で魅力的であったし、大きく重い事を除いては、
カメラとしての基本性能は決して低くは無い機体だ。

発売当初は相当に話題になったが、後年1990年代後半の
第一次中古カメラブームの時代ですら、不人気であった。
(しかし、この時代、他のAF機は、もっと人気が無かった
ので、むしろ注目されていた方だ、とも言える)
c0032138_16380508.jpg
現代においては、実用価値はゼロに近いカメラではあるが、
まあでも、マニアック度満点という評価点から分かるように
それなりに「そそられる」上級マニアも多い事であろう・・

次回記事では、引き続き第三世代の銀塩一眼レフを紹介する。

レンズ・マニアックス(9)~ジャンクレンズ編(Ⅱ)

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新規購入等の理由で、過去の本ブログのレンズ紹介記事では
未紹介のマニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。
今回は、ジャンクレンズ編の「その2」とする。

まず最初に、「ジャンクレンズ」とは、故障品、キズ、カビ、
動作不良、付属品欠品等の理由で、商品としての価値が殆ど
無い物で、中古カメラ店やリサイクル店等で、概ね500円~
2000円程度で安価に売られているレンズを指す。

なお、ジャンク品(ジャンクレンズ)は、故障や劣化等で、
使用不可な物ばかりとは限らず、その多くは何ら問題なく
使用できる。ただし実際に使えるかどうかは「目利き」が
必要だし、動作部の動きが重いとか、非常にレアなマウントで
あったりして、使用が困難である場合もあるだろう、つまり
何らかの「訳アリ」「難アリ」の商品だ、という事だ。

それから、保証等はまず無いので、買って帰って使えなかった
としても返品等は不可だ、メーカー修理が効かないような古い
物も多々あり、買うかどうかの判断は、ユーザー側の自己責任に
委ねられる。

まあ、値段が極めて安いが、その安い理由やリスクを、ちゃんと
理解して買う必要があるだろう。勿論ビギナー層向けの買い方
では絶対無いし、恐らくは中上級者であっても困難だ。
こういう買い方は、中古買いを多数経験していて、目利きの
技能を持つマニア層でなくては、まず無理なので念の為。
(なお、一部の上級マニアでは、レンズ自力修理の技能を持つ。
その修理技術の向上や習得の為に、こうしたジャンクレンズを
購入するケースも有り得る。以前、私もそれを目指した事も
あったが、実際にカメラやレンズの修理をするには、あまりに
面倒で時間もかかり、専用工具なども必要なので、挫折・断念
してしまっている・・汗)

では、まずは最初のジャンクレンズ
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レンズは、MINOLTA AF 75-300mm/f4.5-f5.6
(ジャンク購入価格 1,500円)
カメラは、SONY α700 (APS-C機)

さて、今回記事は古いジャンク品の紹介が殆どだ。
レンズの性能を、とやかく言っても始まらないものも多い。
こういう場合、このようなジャンク品の流通や中古相場とか
中古市場等・・ まあ今回の記事では、機材その物の話よりも、
そういった取り巻く状況の話を主に書いていく事にする。

で、本レンズ AF75-300だが、結構まともに写るレンズである。
この時代(1990年代)のミノルタ製AFレンズは、描写力に
優れるものが多く、本レンズも一般的な廉価仕様の望遠ズームで
ありながらも、他社の同等仕様の普及品とは一線を画す描写力だ。
c0032138_16135443.jpg
本レンズはカメラ店ではなく、リサイクル品のチェーン店で
購入したものだ。現代の一部のリサイクル店には、カメラ関連
商品や、ハードウェア(楽器や各種電子機器等)も置いている。

関西圏には、こうしたリサイクル店舗がいくつもあるので、
最近私は、中古カメラ店以外に、そういう店舗や、あるいは
家電量販店の中古製品のコーナー、それから、中古PC店や
古書店等にもカメラやレンズが置いてあるケースも稀にあり、
それらの店も出来るだけ定期的に覗くようにしている。

中古カメラ専門店で機材を買わなくなってきたのは理由がある。
まずは、第一次中古カメラブームの時(1990年代後半~2000年
代初頭)には、あれだけ沢山あった中古カメラ店が、その後の
ブームの沈静化、およびデジタル時代になった為、多くが
廃業または規模縮小してしまった事だ。

まあ銀塩カメラであれば、稀に値上がりする投機的要素も
あったものの、デジタルカメラは年月とともに価値が下がる
一方である。つまり、店側としても在庫の中古デジタルカメラ
は、早く売らないと、売れ残ったらどんどん値段を下げざるを
得なくなる。これは店側としては苦しい販売形態だ。

だから生き残っている中古カメラ店の一部は、もうデジタル機を
一切置かず、ライカ、コンタックス、ニコン等のブランド力を
持つ古い銀塩機材を、高値安定での相場で売買ができる老舗の
専門店か、または、全国チェーンで強力な流通力を持ち、ネット
販売等で素早く取引を完了させてる組織力を持った所ばかりだ。

あるいは、事業規模縮小などで残っている専門店の一部でも、
もう安価な(付加価値の低い)商品は置かないし、買い取っても
くれない、そういうチマチマとした商売をやっていても、経営が
厳しいという判断であるからだろう。

だとすると、安価な商品、たとえばジャンク級の数千円の
レンズとか、1万円未満の安いコンパクトデジタルカメラ等は、
もう中古専門店などで入手するのは難しい状況だ。
置いてある物は比較的新鋭のデジタル一眼レフやミラーレス機
等であり、それらその物も市場縮退と高付加価値化で価格が
吊り上がっているから、数万円(5万円)以上の中古品ばかりだ。

従前のように、2~3万円ほとの現金を持って中古店に行き
「どのカメラにしようかな?」などと、楽しんで選ぶ事は、
もう無理な時代になってきてしまっている。
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さて、中古市場の話はまだまだ続くが、ここで一旦紹介レンズの
話に戻ろう。

本AF75-300/4.5-5.6だが、ミノルタ時代のαマウント用の
AF望遠ズームである。詳細な出自は、もう情報が殆ど残って
おらず不明だ。
一般に「NEW型」と呼ばれる、ピントリングがゴム製のタイプ
なので、1990年頃からの時代のレンズであろう。

この時代以前のαレンズは初期型とかⅠ型、旧型等と呼ばれる
ピントリングが数ミリ(だいたい4mm前後)の狭いものであり、
これは1985年のα-7000の発売(「αショック」と呼ばれる
市場インパクトが大きい出来事)より、「AFが最先端である」
というイメージから、MFをあえて軽視した仕様であった。

すぐに「AFは万能では無い」という事にユーザーもメーカーも
気付き、それ以降、時代が進むに従いMF操作性は向上していく、
NEW型でのピントリングの幅は、それまでの旧型のおよそ倍の
8mm前後となっていて、若干だが操作性は良くなった。
c0032138_16135389.jpg
本レンズを見つけた際、ちょうど本レンズの旧型(Ⅰ型)も
同時に置いてあった、価格はいずれも1500円+税であった。
旧型の同レンズには「マクロモード」がついている。
一瞬、「マクロがあるなら旧型の方が良いか?」とも思った。
(注:旧型のピントリングの操作性は、私はあまり気にしない
沢山のα旧型、NEW型レンズを使っているが、MF時の操作性は、
”どちらも大差無い”という評価なのだ)

だが、良く見ると、旧型もNEW型も、レンズの最短撮影距離は
1.5mと同じだ、つまり旧型ではわざわざマクロモードにしないと
寄れなかったのが、NEW型ではピントリングを廻して、そのまま
マクロ域に入れる、という違いであった。
「ならばNEW型を選ぶべきでしょう」となった。

ちなみに、マクロと言っても、当時の表記では専用のマクロ
レンズほどの撮影倍率は得られない。そのあたりの表記の
厳密性が緩い時代でもあったからだ。

試しに、300mmの焦点距離(注:APS-C機のα700を使用の為、
換算画角は450mm相当)で、最短1.5mで撮るとこんな感じだ。
c0032138_16135442.jpg
あてにならないマクロ性能なので、「α65とかに付けて
行こうか?」と当初は思っていた。2010年代のSONY αフタケタ
機であれば、デジタル・テレコン機能で、さらに1.4倍または
2倍の画角が得られ、それこそマクロレンズ並みか、それ以上の
撮影倍率を簡単に得られるからだ(α700にその機能は無い)
が、機材のローテーションの都合と、カメラ価格が突出する事を
避ける持論(オフサイドの法則)で、α700を持ち出した。

撮っている際には「これだけ大きく写せれば十分」とも
思ったのだが、後で計算してみると、450mm相当の画角での、
1.5m距離での撮影範囲だが、およそ11cmx8cmとなった。
これで35mm判フィルムのサイズ(3.6cmx2.4cm)を割った値が
撮影倍率であるから、この場合、約1/3倍マクロとなる。

まあ、マクロレンズの代用として考えると、やはり、α65や
α77Ⅱを持ち出した方が良かった。それらの機種のデジタル
(スマート)テレコンバーター機能で、約2/3倍マクロとなり、
それならばマクロレンズの代用として十分使えると思う。

ちなみに最短1.5mというのは、被写体に対峙すると、かなり
遠くに感じる。よって、ただ単に「大きく写す」と言うより
望遠マクロ的な用途、すなわち「近寄れない被写体を大きく
写す」に適しているであろう。

レンズ自体の描写力だが、なかなかのものである。
より後年の高性能望遠ズームにも遜色の無い写りで好ましい。
(丁度、1990年代に望遠ズームの描写力は改善されている)
ただ、AFは流石に遅い、これについては、MFやMF置きピン、
DMF(ダイレクトマニュアルフォーカス)、AFロック等の
設定や技法を適宜使い分けてAFの遅さをカバーする必要がある。

古いレンズがAFが遅いのは当然だ、だからそこに文句を
言っても始まらない。そしてレンズの欠点を、どうカバーする
かは、使い手側のスキル(技能)に依存するのだ。
AFの問題に限らず、オールドレンズやジャンクレンズ全般に
おいて、レンズ性能の欠点の回避は重要な課題となる。

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では、次のジャンクレンズ
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レンズは、HOLGA LENS HL-C(BC) 60mm/f8
(アウトレット新品購入価格 約1,000円)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

2010年代初頭発売の安価な中国製一眼レフ用トイレンズ。

本シリーズ第7回記事で同型のレンズを紹介している。
ただし、それはフォーサーズ用のレンズであり「現代では
フォーサーズカメラは事実上終焉している事から、安価に
アウトレット品を入手できた」と書いた。

そして、フォーサーズの規格は、イメージサークルが小さい、
当該記事ではフルサイズ機のα7を用いて、どこまでイメージ
サークルを狭めれば良いか?を、α7に備わるAPS-Cモードや
デジタルズーム機能を用いて検証していた。

その検証時には、BC(ブラックコーナー・エフェクト=周辺
光量落ちを得る為のレンズの特殊構造)が、あまり工作精度が
良くなく、周辺光量落ちパターンが汚い事が気になった。
これはイメージサークルの問題ではなく、中国製トイレンズの為
製品固有の問題かも知れない、まあでも、酷い写りである方が
トイレンズの特徴を活かせるので、そこで「不良品だ」と騒ぐ
つもりは無く、むしろ、個性的な変な写りは、トイレンズでは
「当たりレンズ」なのである。
c0032138_16141186.jpg
で「まだ個体差がある製品があるかな?」と、しばらくして
同じアウトレット店を再度訪れてみた、すると在庫の奥の方に、
EOSマウント品がある事を発見、価格はやはり1000円程度だ。
こちらは元々フルサイズ機用だ、こちらで、どの程度の周辺
光量落ちが出るか見たくなって、追加購入する事とした。

これで、このHOLGA LENSの購入は4本目となる、
ただし、全部同じ物では無い、フルサイズ用60mm,4/3用60mm,
ミラーレス用25mm,PENTAX Q用10mmと、全部仕様が異なるのだ。
(注:開放F値は全てF8で同じ、ただしBC機能で光量が減る為、
実効F値は、F10~F12程度に落ちている事であろう)
いずれも新品で1000円~3000円と安価である。

本レンズの話は、また後述する事として、先のジャンク市場の
話の続きをしていこう。

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ジャンク品、すなわち500円~2000円、高くても3000円
程度までで買えるレンズは、今時は中古カメラ専門店には
殆ど置かれていない。
まあ、中古市場が縮退している現代においては、店舗側でも
シビアな経営をしていかないと厳しい訳だ。
お客さんが、数千円のジャンク品を買って、それで満足して
帰ってしまったら、数万円で売れるだろう高級中古レンズの
販売機会を損失してしまう。
が、最初から安い商品を置いていなければ、数万円のものを
買うか買わないかの二択だ。まあ、お客は「買いに来ている」
訳だから、高いものを売りやすい、という仕組みになる。

で、私の場合、そうした高価な物だけを置く中古専門店には
もう「指名買い」で行くケースだけになってしまった。

各カメラ等の中古相場も、現代では綿密に決まっているので
店舗による大差は無い。もし差異があったら、常に安い店しか
売れない事になる、だから必ず「他店対抗価格」となり、すぐに
各商品の中古相場は必ず同等レベルになって安定するのだ。

したがって、特定の機種(カメラ・レンズ)を、予め調べて
相場がわかっていて、「これ下さい」と「指名買い」するか
または、予約して入れて貰ってある商品を、現場確認して
買う時だけだ。

ちなみに、ほんの10年程前までは常識であった「値切り買い」
の文化は、もはや中古カメラ市場では完全に廃れてしまった。
カメラに限らず、その「値切り」文化が根強い大阪であっても、
もはや中古カメラ市場での値切りの効く店は、もうほとんど
残っていない。値札に書いてある価格で黙って買うしか無いのだ。

こんな状況を「面白く無い」と思うマニアは多い事であろう、
ただ、嘆いていてもしかたが無い、時代や状況が変われば
変わっていくなりに、消費者側も意識を変えていく必要がある。

私の場合、先の「相場安定」という点に注目し、大手中古
チェーン店のネット販売等を熟読し、流通しているほぼ全ての
カメラやレンズの中古相場を暗記する程にまでなっている。

この状態で、中古カメラ専門店以外の、中古や新古を扱う店に
行く。例えば家電量販店、古書店、リサイクル店、アウトレット
店等である。
そこに置かれているカメラやレンズは、シビアな中古カメラ
市場での相場とは連動していない価格が付けられている。

連動していない、という事は、勿論、値段が高い場合もあり、
逆に安い場合もある、という事である。

その際、全ての商品(別に全てで無くても良い、自身が欲しい
機材だけでも良い)の正確な相場がわかっていれば、その場で、
売られている中古機材の値段が高いのか安いのかは判断できる
であろう。

当然、中古専門店の相場より値段が高いものは買わないが、
その逆に、相場より安いものは、絶対と言っていいほど
「買い」な訳だ。 

ちなみに、古本等では、この状態(地方店などで相場よりも
安価に古本を買って、大都市圏の専門店などで高く売る)で
利益が出せる場合があるので、それを専門とする「せどり」
という職業が存在している模様だ。実際の古本の「せどり」
の人は私は見た事は無いが、カメラ機材でそれをやっている
人(外国人の知人だ)は実在している。

ただ、古本では価格差が大きく、利益が出るかも知れないが、
カメラ機材では若干安価に買ったくらいでは大きな利益は
まず得られない、だからこれを職業化するのは難しいのだが、
その外国人中古カメラ・ブローカーは常時数百点の買い付けた
中古商品を、ネットオークションや海外販売等で廻していて、
寝る暇も無いほど忙しいらしい。
それと、早く売らないと価値が落ちる見込みのあるものは
買い付けない、中古相場に関しては彼は誰よりも詳しいだろう。

ただ、彼は写真は撮らないそうだ。もし、私のようなマニアが
そういう商売をやろうとしたら、「あ、このレンズは欲しかった
珍しい物なので、売りたくないなあ・・」とかなって、買い付け
ばかりが増えて、ちっとも商売にならない事であろう(笑)
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さて、ここで一旦また紹介レンズの話に戻る。

HOLGA LENS HL-C(BC)であるが、予想通りフルサイズ対応の
イメージサークルは持ち合わせていない。
周辺光量落ち、と言うより、もはや「ケラレ」なので、
APS-C機のEOSに装着した方が適切な感じである。

前述のα7では、連続デジタルズーム機能により、実質的に
イメージサークルに対応してセンサーサイズを狭める効能が
あったのだが、EOS機ではそういうモードが搭載されていない。
(注:これはEOSが一眼レフだから無理、という訳ではなく、
例えばNIKON機であれば、FX→DXや DX→1.3倍モードという
クロップ機能をデジタル一眼レフに搭載している)

カメラ側にクロップやズーム機能が無ければ、周辺光量落ちが
適切となる領域を「トリミング編集」により、得るしか無いで
あろう。

銀塩時代にはトリミング処理は、同じ印刷サイズにする場合に
画質劣化を伴った、まあ、フィルムが小さくなる分を拡大印刷
するから当然だ。

デジタルにおいては「閲覧画素数」をキープできる条件があれば
トリミングでの画質劣化は起こらない。これもシンプルな
原理であるが、デジタル移行期の2000年代前半には、そういう
技術的原理を理解しているカメラマンは、残念ながら皆無で
あった。(よって、デジタルでもトリミングを非常に嫌っていた)
まあ今時であれば中級者以上ならば理解している事ではあるが、
フィルムの常識から逃れられないシニア層やビギナー層には、
この事は依然理解されていないと思う。

もう、そういう人達は放置し、ここでは詳しい説明は行わない、
いくら詳しく説明しても、あるいは説明を工夫しても「理解
できない人は理解できないのだ」と、経験上、そういう結論に
至ったからだ。
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本HOLGA HL-Cであるが、ジャンクでは無くトイレンズだ、
このトイレンズの意味(意義)も、何度も本ブログでは
説明しているので、本記事では割愛する。
トイレンズの存在意義も、わからない人には絶対にわからない、
だから、ここも逆説的に言えば、必要な人だけ買えば良い
レンズになるという事だ。

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では、次のジャンクレンズ
c0032138_16142289.jpg
レンズは、MINOLTA MC W ROKKOR 28mm/f3.5
(ジャンク購入価格 3,000円)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

ミラーレス・マニアックス第71回記事で紹介の、
1970年前後のMF広角レンズ。
新旧あって、本レンズは旧型で最短撮影距離が60cmと異様に
長いという欠点を持つ。
c0032138_16142252.jpg
現代の撮影技法においては、広角レンズは寄れないと
お話にもならず、28mmレンズであれば最短28cmが必須だ、
中には、NIKON Ai28/2.8とかSIGMA AF28/1.8では
20cmか、それ以下の最短撮影距離を持つ優秀なものもある中で、
60cmの最短は、まさしく不満の塊だ。

ただ、本レンズの最短性能を知らずに買った訳ではなく、
そこには2つの理由があった。
1つは、広角レンズを絞って中遠距離被写体を撮るという、
1950年代後半~1970年代の銀塩一眼レフやレンジ機での
撮影技法専用のレンズにするという考え方だ。
この技法は古い時代のものだが、絞ってMTFを向上させる意味と
ピント合わせを簡略化するという長所もある。

もう1つは、この時代か少し前のニコンの28mmレンズで
同様に最短が60cmと長かった方が、改善した30cm版新型より
描写力(解像力)が高かったという前例を覚えていたのだ。
ミノルタでも、その設計思想と同じ(つまりレンズ構成等も
各社、殆ど同じという時代でもあった)であれば、最短の長い
旧型の方が描写力が高いかも知れない訳だ。

まあでも、いずれの思惑も、結局どうでも良い話であった。
実際に本MC28/3.5を使ってみると、最短の長い広角レンズは、
テクニカル的にも表現力的にも、全く面白く無い。
c0032138_16142208.jpg
結局、殆ど使っていないで死蔵する状態であった。
せめてハイコスパレンズとしてシリーズ記事等で紹介できれば、
試写を沢山行うのだが、本レンズは逆光耐性等も含め基本性能が
とても低く、コスパが良いとは言えないレンズだ。
だが、これではさすがに勿体無いので、本記事ジャンク編で
再度取り上げてみる事とした。

しかし、描写力や最短性能で、不満の塊のようなレンズである、
こういうのは本当に「安かろう、悪かろう」の典型であるが、
それでも、欠点を責めるのは筋違いだとも思う。レンズの欠点が
理解できるのであれば、それを回避したり、逆に長所にして
しまうのが、高度なレンズ使いこなしの技能であり、それが
マニアや上級者に求められる条件でもある。
c0032138_16142240.jpg
今回はできるだけ、そういう点を回避しながら使ってみた、
一般的な撮影技法では殆ど面白味が無いので、エフェクトの
使用を中心としている。
しかし、基本性能が低いと、ストレスが募るばかりだ、
やはり、寄れない広角は買うに値しないレンズであろう。

ちなみに、同様の理由で、レンジ機用の広角レンズは現在殆ど
所有していない。機体の構造上、一眼レフ用広角よりも高画質が
得られる可能性があるレンジ機用広角だが、システムの制約で
最短が70~90cmと、本レンズよりさらに寄れないレンジ機用の
広角は、ストレスが溜まって爆発してしまうからだ・・・

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さて、今回ラストのジャンクレンズ
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レンズは、RMC TOKINA 80-200mm/f4
(ジャンク購入価格 1,000円)
カメラは、PANASONIC LUMIX DMC-G6 (μ4/3機)

出自の良くわからないMFレンズだ、今となっては殆ど情報も
残っておらず、発売年代や発売時価格等も不明である。
(恐らくは1980年前後の製品)
また、TOKINAのこのクラスは類似仕様のレンズが多く、
開放F値、最短撮影距離仕様などが微妙に異なる。
c0032138_16143494.jpg
ジャンクであってもMF望遠ズームレンズは、まあ使える。
その際に、より効果的な仕様または利用法は以下の通りだ。

1)直進式ズームである事
(ズーミングとピント合わせが同時に行えるワンハンドズーム。
 現代ズームのような独立回転式だと、この技法は使えない)

2)できれば開放F値固定ズームである事
(注:F4あたりまでが普通だ、MFズームでF2.8通しは極めて
 珍しい。ただ、開放F値変動型であっても、他の特徴が
 あれば好ましい、例:近接性能が優れている等)

3)APS-C機やμ4/3機で使う事
(望遠の特徴がより強調され、被写体への対応幅が広がる。
 加えてオールドレンズに良くある周辺画質低下を消せる)

4)最短撮影距離が長すぎない事
(注:その仕様はワイド端なのかテレ端なのかに注意)

5)デジタル拡大機能の操作系の優れたカメラと組み合わせる
 事が、画角、構図、被写界深度の関連の自由度が上がる。
(今回使用のDMC-G6は理想的なMF望遠ズーム母艦である)

6)中古相場が安価である事
(この時代のMF望遠ズームは、機種毎に性能のばらつきが
 多く、何本か買って実写してみないと良い物は選べない、
 幸い、現代ではこのクラスのMF望遠ズームは安価であり、
 1000~4000円程度で購入可能であろう)

本レンズRMC TOKINA 80-200mm/f4は、上記の要件の
殆ど全てを満たす理想的な状況だ。

後は描写力が優れていれば、それで全く不満は無いし、
仮に描写力に何か問題があったとしても、そこでの弱点を
逆用して、写真として、何らかの「個性」に変える事が
出来るならば、それでもOKだ。
c0032138_16143432.jpg
本レンズの弱点だが、かなりフレアっぽく、コントラストが
低い描写となる事だ。
ただしそれは、逆光条件の場合であり、順光、あるいは軽い
暗所等でのフラット光の条件ではあまり問題は無い。

解像力も全般に低めであるが、焦点距離設定と撮影距離に
依存する場合もある。これについては対策として、様々な
撮影条件(距離、画角、絞り値)で撮ってみるのが良いで
あろう。なお、この撮影技法は「ボケ質破綻回避」と殆ど
同じであるから、こうしたオールドレンズ使用の場合は、
日常的に行う事であり、「面倒だ」という印象はあまり無い。

本レンズは、一種の「レアもの」ではあるとは思うが、
中古市場で一概に「レア」と言っても、その製品自体に
魅力や価値が無いと意味が無い。単に珍しいだけであって
相場が高く、それで性能が低くて実用に値しないのであれば、
それは「コスパが悪い」という重欠点に繋がる。
「コスパ」は常に最優先で考えるべき項目だ。

そういう視点からすると、本レンズRMC TOKINA 80-200mm/f4
のコスパは良い、なにせ購入価格1000円だ、この価格で
あれば、何かしらの問題点があっても許せる。
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なお、描写力の弱点を回避するには、上記のように、撮影
条件を変えながらの高度な技法が必要となる、レンズの
性能を引き出せるか否かは、利用者のスキルにも依存する
訳であり、結果、それがコスパにも繋がるのであれば、
よりスキルを高め、レンズの性能を引き出す努力が必要
になるであろう。レンズを買ったは良いが、使いこなせない
(または、買った事で満足してしまって、使わない)のでは
極めて勿体無い。

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さて、今回のジャンクレンズ編(Ⅱ)はこのあたり迄と
する、次回記事は、また未紹介レンズを中心とする予定。

デジタル一眼レフ・クラッシックス(21)「CANON EOS 8000D」

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所有しているデジタル一眼レフの評価を行うシリーズ記事。
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今回は第五世代、2015年発売の「CANON EOS 8000D」を
取り上げる。なお、記事の順番と発売年が1年程前後する
場合があるが、同一メーカーの機種を続けて紹介しない
為であり、他意はない。

装着レンズは2種類用意している。まずは、中国製の
YONGNUO(ヨンヌオ) YN 50mm/f1.8(中古購入価格:
4000円と安価、他記事では未紹介)を使用する。
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このレンズは非常に安価なAF標準レンズであるが、
色々といわくつきだ。まあでも、それは本記事の内容とは
無関係な為、いずれ他の記事で詳しく解説しよう。
なお、レンズフードは「ハマカク」(hama製角型フード)
を装着している。

このシステムで撮影した写真を交えながら本機EOS 8000D
の特徴について紹介していくが、記事後半では別のレンズ
に交換する。またEOS 8000Dの本体機能であるエフェクト
(クリエィティブフィルター)等は自由に使う事とする。

ただし、本記事の内容は、単純なカメラの性能評価等に
留まらず、現代のカメラ市場や、市場全体における、
本機の位置付け等、全体的かつ多面的な視点での紹介を
主とし、いつもより長目の記事となる。
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さて、本機EOS 8000Dは、EOSの四桁Dシリーズの
初の機体である。


現代における、EOSデジタル一眼レフのラインナップを
独自に整理してみよう。

入門機:EOS Kiss (Digital)(X)シリーズ
普及機:EOS 四桁Dシリーズ(8000D,9000D)
中級機:EOS 二桁Dシリーズ(10D~80D)
上級機:EOS 6Dシリーズ、EOS 7Dシリーズ
高級機:EOS 5Dシリーズ
旗艦機:EOS-1Dシリーズ

・・まあ、カメラ市場縮退の現代においては、これらは
ラインナップの段階が少々細かすぎるような気もする。
つまり、そんなに細かく分けても販売台数が増えるとは
思い難いし、新商品の開発経費も嵩み、製造・流通・在庫
面においても色々と面倒な事であろう・・
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だが、エントリークラスの機種も、市場縮退の影響を強く
受けていると思われる。特にCANONの場合、銀塩時代の
1993年から続く「Kiss」の系譜は、女性やファミリー層
という新たなユーザー層を新規開拓した重要なシリーズ
ではあるが、その名称からも男性ユーザーには受け入れ
難い要素もあったと思う。(注:国内市場での名称。
米国向けはKissでは無くREBEL、欧州向けは数字型番だ)

そこで男性ユーザー層に向けてのエントリーモデルとして、
上位のEOSフタ桁Dシリーズに相当する2ダイヤル操作系や、
上部液晶等を備えた、中間ランクのEOS四桁Dシリーズを
新設し、付加価値、つまり利益アップを狙ったのであろう。

ちなみに、EOS 8000Dでの主力商品はレンズキットであり、
下位機種のKiss X8iとは、キットレンズの種類を変えて、
その価値の差をわからなくさせてはいるが、発売時には、
およそ3万円以上もの実売価格差があった(結構高い)

また、その結果として上位の中級機の次世代機(EOS 80D 
2016年)の価格も連動して押し上げる事が出来るように
なる。まあつまり、意図的に追加されたラインナップ戦略
という訳だ。
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それから、ライバルのNIKONも、ほぼ同様のラインナップの
分類である。お互いラインナップに抜けがあると、それを
必要とするピンポイントのターゲット・ユーザーを逃がして
しまうという考え方であろうか? まあ、ユーザーニーズが
多様化している現代では、わからない話では無い。

そして、細かくラインナップ間での仕様を差別化すれば、
縮退した市場でのユーザー層の目線を、上へ上へと、
上位機種の販売に誘導する事もできるようになるだろう。
(=安い機種を買っても性能が低いから、どうせ買うなら
一番性能の高い物が欲しい、と、ユーザー心理を誘導する)

参考の為、以下にNIKON機のラインナップも整理してみる。

入門機:D3000シリーズ
普及機:D5000シリーズ
中級機:D7000シリーズ、D600シリーズ
上級機:D700シリーズ
高級機:D800シリーズ、D500、Df
旗艦機:Dヒトケタシリーズ

なお、勿論ここにはミラーレス機は含まれていないし、
APS-C機かフルサイズかの差異も書いていない、そのような
事は「常識」であるので割愛しよう。

そして、当然であるが、これらは高価格な機種である程
性能や機能が高い。
いや、正確に言えば、機種毎に異なる部品を開発していたら
面倒でやっていられないので、同じ部品を使ったとしても
下位機種では、その性能を制限している(=仕様的差別化)

まあでも、高速連写等を実現する為には、それなりに
パワーのある機構部や高速処理電子部品などが必要と
なるし、センサーサイズや画素数の差もある為、完全に
どの機体も同じクラスの部品を使う、という訳でも無い。
ただ、部品代の差よりも「いくらなら売れるか?」という
市場戦略上の視点で機体価格が決められている事については
ユーザー層は必ず知っておく必要がある。
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それから、ここでCANON機もNIKON機も、上級機と高級機
の区分が曖昧であるように感じるかも知れない。
ただ、私個人的には、ここには明確な差異があり、まあ
高級機とは、「高付加価値型の高価な製品」という事だ。

定価で言えば25万円以上、中古価格も10万円を下回らない
相場だ(注:年月が経てば中古相場は必ず安価となる)
今時のユーザーが使う市場用語であれば、高付加価値型
商品よりも「プレミアムな商品」と呼ぶのであろう。

たたし、ここからは重要なポイントであるが、高付加価値
とかプレミアムとかは、カメラに限らず、現代の一般市場に
おける商品やサービスでは「実用範囲を超えて無駄に高価で
コスパが極めて悪い」という意味と、ほぼ等価であろう。

私もまあ、上記における「高級機」に分類されるものを
いくつか買ってしまっているのだが、やはり値段が高ければ
高い程、より安価な製品と同様の弱点を持つ場合、その
欠点に対する評価の低下が物凄く厳しくなる。

つまり「値段が高い機種のくせに、これくらいの欠点すら
直っていないのか、ふざけた製品だ!」という厳しい評価と
なり、たいていの場合、これは極めて精神衛生上良く無い。

カメラ等に限らず、つまりまあ、プレミアムな商品は、どの
市場分野においても、そうした付加価値(性能やら、味やら
サービス等)に、何も疑問を感じないビギナー層向けの
商品であり、少なくとも自身が詳しい(精通している)市場
分野では、そういう類の商品に過度な期待を持つのは禁物だ。
(例:高価な食品を食べて「不味い」と感じた事は多いだろう)

ともかく、カメラについては「実用上では上級機まで、それ
以上の高額商品は不用」というのが、近年の私の持論である。
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で、本機EOS 8000Dは、普及機(初級機)であるが、何故
そういう機体を必要とするか?の購入動機の説明だが・・

まず、本機EOS 8000Dは「かなり小型軽量である」という
大きな特徴を持っている。本体のみ520gは、まあ実用的な
(=入門機等を除いた)一眼レフ中では、トップでは無いが、
勿論上位に入ってくる。

そういう視点では、勿論ミラーレス機の方が小型軽量だ、
本機の半分程度の重さのミラーレス機はいくらでもある。
ただ、ミラーレス機を必要とする状況と、一眼レフを必要
とする状況は異なる。だから両方必要とされるのは、現代
においては当然の話だ。まあ、ミラーレス機が出始めた
10年程前においては、「一眼レフとミラーレス、どちらが
優れていて、どちらが買いか?」みたいな意味の無い比較が
世間では多かったが、両者は構造も特性も用途も全く異なる
訳だから、別のモノを同一の価値観で比較してはならない。
(例:「ラーメンとカレー、どちらが美味しいか?」の
ような、結論が出ない無意味な議論となってしまう)

それから、本機には上級機には無い「エフェクト」
(クリエィティブ・フィルター)が入っている。
ここはむしろ写真における「表現力」の増強という点で
期待が持てる。しかし、ミラーレス機のように撮影時に
エフェクトは使えない。(注:一般的な一眼レフでは
エフェクトは再生時の後掛けとなり、撮影前確認が出来ない
状況だ。ただし、一部にEVF搭載一眼レフやライブビュー・
エフェクトは存在している)
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まあ概ね、こんな感じが購入動機なのだが、より詳細には
「市場状況の変化」の理由も大きい。ここからは長い話に
なるが、ここはユーザー層は理解しておくべきポイントだ。

で、一眼レフの範囲で言えば、私の使用しているCANON機
は、近年ではEOS 7D/6D/7D MarkⅡが主力機種であった。
これらは2009年~2014年の発売である。それより古い
時代の機体も何台か所有しているが、もう仕様老朽化寿命
(持論では発売後10年まで)が来ていて実用には厳しい。

上記の主力機種群は「上級機」にカテゴライズされる。
つまり実用上では「最良のコスパを発揮するクラスの機体」
ではあるのだ。ただ、近年のCANON機の、これらのクラスの
製品寿命サイクルは約5年と伸びている。つまり、滅多に
新製品を出さないし、その結果、中古相場もあまり下がらず
発売後5年程で新製品が出て、さらに1~2年を経過しない
限り旧機種の中古相場はあまり下がらない。
すると、手ごろな相場になるまで7年程もかかってしまい、
前述の「仕様老朽化寿命」を、発売後10年とすれば、
もう3年程しか活躍期間が無い事となる。

「ではもっと早く買えば良いではないか?」と思うかも
知れないが、私の場合、新機種の性能・機能や操作系等は
発売時から、ちゃんと調査してあり、その性能や仕様等に
見合う「想定購入価格」を、ある程度決めている。
その自分で決めた価格になるまで中古相場が下がらない限り、
それよりも高価に買ってしまうと、「コスパが悪い」と
見なしてしまう訳だ。
コスパの悪い製品(商品)の購入は、私が最も嫌う事だ、
「それをする位ならば買わない」というポリシーがある。

しかし、2010年代ではカメラ(一眼レフ)市場の縮退の
傾向がとても強く、新製品は高付加価値化で値上げされ、
中古流通も安売りしていたら崩壊してしまうので、これも
ずっと高値相場、と、ユーザー側から見てあまり好ましく
無い状況が続いた。ここで「相場下落待ち」をしてしまうと、
それこそ発売10年を超えた、とんてもなく古い機体しか
買えなくなってしまう。あるいは入門機等ならば、相場の
下落が速いが、それらはさすがに実用範囲以下の性能だ。

だから、自身の機材購入ポリシーを緩和して、若干コストが
高い機材でも、パフォーマンスが高ければ買うように
してきている。結果の「コスト・パフォーマンス」は勿論
低下し、私の評価データベースで標準点(3点)を超える実用
カメラやレンズは、残念ながらもう殆ど存在しない状況だが、
ここはやむを得ない。コスパ点が1点対2点等の、レベルの
低い戦いで機種間の相対的な評価を行うしか無い状態だ。

まあ、一眼レフ市場が縮退してしまったのは、スマホや
ミラーレス機の台頭だとかの理由も勿論あるのだが、
魅力的な新製品が出て来なかったという事も大きな問題だ。

減少した売り上げをカバーする為に、高付加価値という名の
実際には必要としない性能や機能を色々と入れて、その結果
としての値上げが発生しているならば、中上級者やマニアは
もう新機種に興味は持てない。

この結果、中上級者はもとより職業写真家層ですら新機種を
買っておらず、少し古い世代の機種を使い続けている。
だってそれでも十分写真は撮れるし、しかも業務撮影だったら、
高価すぎる新機種を次々と買っていたら収支が確実に赤字と
なり、ビジネス(商売)には成り得ない。
仮に自腹では無く、企業等の経費で買って貰ったとしても、
企業等の全体で見たら、大きな「支出」となってしまう。

(まあ、写真家等にメーカーから貸与する等を行った場合は、
「私もこのカメラを愛用しています」と宣伝させる意味での
市場効果はあるだろう。だが、その事も、例えば有名女優が
化粧品のCMをしているようなもので、ありふれた広告戦略だし、
今時はそういう事情は皆が知っていて、宣伝効果があまり無い)

結局、高価な新製品を買って使っているのは、コスト感覚が
弱かったり、広告宣伝等に過剰に反応しやすいビギナー層
ばかり、という極めて不自然な市場状況となった。

だが、この感覚はデジャビュ(既視感)がある、第一次
中古カメラブームが起こる直前の1990年代中頃の話だ。
この頃、バブルの崩壊、そして阪神淡路大震災等の影響で
市場は大きく冷え込んだ。だが、新製品の銀塩AFカメラは
バブル時代に企画された、華美なスペックを盛り込んだ、
イケイケムードのバブリーなカメラばかりとなっていた。

新規ビギナーユーザー層は、それらのカメラを買ったが
その他の層は、そうした新製品カメラに、まったく興味が
沸かず、銀塩中古カメラや新カテゴリーの高級コンパクトに
興味を持ち、そこから空前の「第一次中古カメラブーム」に
突入したのだ。

このままでは現代においても「中古デジタル一眼レフブーム」
が起こる可能性もある。と言うのも、新製品は高いだけで、
あまり魅力的では無いからだ。

なお、既に別の「ムーブメント」(動向)も起こっている。
具体的には、2018年頃から急速に中国製等の海外製の
安価な交換レンズが非常に多数、市場に流通し始めている。
今回使用のYONGNUO(ヨンヌオ)も、その中の一つである。

これは「高価になりすぎて、コスパが極めて悪い」という
国産交換レンズの新製品の市場戦略上の弱点を突いて、
あえて、この時期に低価格帯市場に参入したのであろう。
(SAMYANG、中一光学、LAOWA等は数年前より市場参入済みだ)

他のマニア層の購買行動は良く知らないが、少なくとも私は
興味深々である。既に、七工匠やMeike等の、こうした最新鋭
海外製レンズを何本か購入しているし、コスパ面では満足して
使っているので、きっと今後も買い続けるであろう。

つまり、高価すぎる国産新鋭レンズには、もう興味が持てず、
「新勢力」に目線が行ってしまっているのだ。この状態もまた、
1990年代の中古カメラブームの際のユーザー心理と、ほぼ
同様である。まあ、これら最新鋭海外レンズについては、
追々、レンズ・マニアックス等の別記事で紹介して行こう。
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まあ現代において、一眼レフの高付加価値戦略も、もう限界
である。画素数もAF測距点もISO感度も連写速度も付加機能も
もう2010年代後半では全て性能的に頭打ち状態だ。

だが、メーカー側も無策では無い。一眼レフがもう限界ならば
ミラーレス機に移行すれば、まだそこでは色々と技術革新の
余地がある。そうした市場背景もあって、2018年秋からの、
各社一斉のフルサイズ・ミラーレス機への戦略転換であろう。

・・・しかし、ここもまた「ユーザー不在」の話だ。
またミラーレス機で、一眼レフで今までやってきた事と
同様の「段階的性能追加戦略」をしていくのだろうか? 

それは2012年のデジタル一眼レフの「フルサイズ化元年」
から、2018年頃にいたるまで、高速連写や高感度性能を
段階的に搭載していって、だんだんと値上げをしていった
事を、またミラーレス機でやる、という事なのだろう。
(既にSONY α7系ミラーレス機でも、そういう状況があった)
おまけに新鋭ミラーレス機であれば、一眼レフよりも利益率を
高める事ができる、つまりメーカーは良く儲かり、縮退した
カメラ市場を、その戦略で支える事ができる。
勿論、カメラ本体のみならず、新マウント規格への対応
レンズを新たに作って高価に売りたい、という戦略も大きい。
しかし、これでは完全に「消費者の負け」の状況だ・・

ただ、だから良いとか悪いとかでは無い、これがカメラ市場
を維持する為に必須の措置であれば、メーカー側や流通側は、
そうするしか無い。

後は、ユーザー側の価値判断だけだ。新機種を魅力的だと
思えば買えば良いし、コスパが悪いと見なせば、買わないか
または価格が下がった頃に買えば良い。

あるいは、もう見限って、新鋭海外レンズ等で、しばらくの
期間は遊んで、市場の変化を待っておくか、だ。
市場におけるコスト高状態が続けば、必ず市場は自ら適正な
価格帯に自動的に修復される、つまり高すぎて売れなければ、
安価な商品を市場に投入せざるを得なくなるからだ。
現代に限らず、過去のカメラ史においては何度もあった事で
あるし、カメラ以外の市場でも、それは必然の市場原理だ。
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さて、どんどん話が拡散していったので、少しづつ戻して
いこう。

すなわち現代の高性能一眼レフは、基本的にどれもコスパが
悪い。でも、旧世代の安価な機種を使い続けていたら、
すぐに、それは古くなってしまう(仕様老朽化寿命が来る)

そんな中で、どのように機材をローテーションしていくかは
非常に難しい判断だ。(注:いつまでも古いカメラを使い
続ける事は出来ず、必ず新機種を追加/代替する必要がある)

これまで私は、その1つの目安として、カメラにおける持論の
「1枚3円の法則」で「元を取る」まで次のカメラを買わない
または「1枚3円をクリアしたら次の機種を買う」という
方針であったが、もう段々と、その持論が守れなくなって
来ている。

機体の価格が上がっていけば、1枚3円をクリアするには
時間がかかる。例えば高級機を中古で15万円で買ったら、
5万枚を撮らなければならない。
連写が効かないフルサイズ機等でそれを実現するには、
とても年月がかかる。
元が取れる頃には、もう「博物館行き」の古いカメラと
なっているだろう(汗)

あるいは高速連写機を買ったとする、例えばEOS 7D MarkⅡ
を中古で9万円で買った場合、3万枚がノルマだが、これを
実用撮影等で使うと3万枚はあっと言う間だ、1~2年程度で
クリアしてしまう。しかし元を取ったと言っても、後継機が
まだ発売されていないのだ。仮に出てきたとしても、とても
高価になっている、これでは旧機種を限界を超えるまで
何十万枚も撮影を続け、酷使するしか無いでは無いか・・

(参考:近年、中古市場に出て来る、やや古い高級・旗艦級の
カメラは、このように業務用途で何十万枚も撮影し続けて酷使
された機体が多い。前述のように、職業写真家層であっても、
高価な新機種に、そう簡単には買い換える事が出来ないからだ)
c0032138_12585519.jpg
余談だが、先年、「パナソニック」の博物館を訪れた。
せっかくそこに行くのだから、と、Panasonic機では
最も歴史的価値の高いカメラである、世界初のミラーレス機
「DMC-G1」を首から掛けて見学していたのだが・・
展示品の中にDMC-G1が当然あった。たまたま機体色も同じ
青である。専用・特注のガラスのショーケースの中に
大切そうに展示してある、手元と全く同じカメラを見て、
私の感想は、

匠「なんだ・・ まだ発売後10年も経っていないのに、
  もう”博物館行き”の扱いかよ・・
  こっちはまだG1は現役機としてガンガン使っているのに
  過去の遺物扱いとは、こういう市場って正しいのか?」
という感じであった。

「カメラ市場が、もう不条理だ」、数年前から薄々感じて
いた事だが、ここに来て、その思いはとても強くなった。

価格対性能比、つまりコスパもデタラメ、購買層も本来は
腕前に応じて高性能機を使うべきなのに、まるっきりそれが
逆転して、ビギナーが高級機を買い、仕事では普及機を使う。
(今時の新聞記者や企業広報担当者等は、自腹又は経費購入の
一眼レフは、いずれも初級機か、良くて中級機である)

まあ、これでは、これまでの時代のように機材購入ポリシー
を持って、論理的で合理的な購買行動を起こすなど不可能だ。
ならば、こうした不条理な市場に対応する、新しい機材購入
ポリシーを導入するしか無いでは無いか・・
c0032138_12585514.jpg
前起きが極めて長くなったが、やっとEOS 8000Dの話となる。
本機は普及機である、しかも入門機のEOS Kiss X8iと
ほとんど同じ性能の姉妹機だ、つまりまあ一眼レフとしては
最底辺の低性能なカテゴリーの機体だ。
ある意味、高付加価値型商品の対極にある「低付加価値型
カメラ」とも言えるであろう。

(注:このシリーズは型番「8000」からの開始であるが、
これはKiss X8i等と、番号を揃えたという事であろう。
以前、他社では、シリーズ最初の機体を1番機としたが、
他のシリーズ機体が既に6番機とかになっていた為、
「発売が古い機種だ」と勘違いされてしまった前例がある。
ただまあ、CANONにおいても、後継機EOS 9000Dの次は、
いったい、どんな型番にするのであろうか・・? 汗)

で、これまで「こういう機体はビギナーが買うものだ」
と敬遠してきた心理的な要素も、もう「不条理な市場」で
ある以上、そうした先入観念を持つ事は良く無い。
「外に持っていったら格好悪い」と卑屈に思う必要も無い、
世の中の現実的には、高級機を持っているのは、カメラの
正しい構えすらも、おぼつかないビギナー層ばかりだ。

この機体を入手し、厳密に評価する。当然様々な弱点は存在
するだろう、より上位の機種と差別化する為、わざと性能や
機能を落としているからだ(=仕様的差別化)

また、冒頭にも少し書いたように、本機は、CANONでの
ラインナップ全体の価格を押し上げる為に、旧来のランクに
無理やりインサート(挿入)されたクラスであるとも言える。

だが、それらの事はすべて承知の上で、もし、性能面や
機能面での問題点回避の方法が存在するのであれば・・・
もう「上級機や高級機がコスパが悪い」等と、嘆く必要は
なくなるではないか。中古相場が適価に下がって来た頃に、
こうした安価な一眼レフを買ったとしても、十分に実用的に
写真は撮れるだろうからだ。

さて、ここで使用レンズを交換してみよう。
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レンズは、SIGMA 135mm/f1.8 DG HSM | ART

こちらは、EOS 8000Dの本体の2倍以上も重く、価格も
2倍以上も高価な、本格派の業務用レンズだ。
こういった、これまでの常識的には「絶対に有り得ない」
とも言えるアンバランスなシステムをあえて組んでみて、
もし、これが実用的であれば、もう母艦は何でも良い
(上級機や高級機でなくても良い)という事になるだろう。
c0032138_12585500.jpg
本題に戻るが、もし、普及機レベルでも十分な実用性能が
あると評価できるのであれば、他にも、ちょっと気になって
いたNIKON D5000シリーズ等も、購入を躊躇う必要も無い、
PENTAX機だって、Kフタケタ機で十分だろうし・・
(そういう判断で、既にそれらを入手して使っている)
あるいはミラーレス機だって、もうビギナー層向けの安価な
機種で十分だとわかれば、それらを安価に買えばコスパ的
には何の問題も無くなる。(既にそうしつつある)

おまけに、近年のこうした低価格機は、上位機種に吊られて
基本性能が上がっている。だから、もしかすると性能的にも
不満はなく、むしろ、やや古い時代の上級機・高級機よりも、
新鋭機の初級機の方が高性能かも知れないのだ。
(=「下克上」が発生している)

この「新戦略」は、おかしくなった(と見ている)カメラ
市場への個人的な対抗策である。もうビギナー層しか
高級機や旗艦機を買わないならば、そういう機体を使って
いたらむしろ格好悪い。「自分のスキルに自信を持てない
人達が、機材の性能でカバーしようとしている」という
新しい情報分析がもう出てきているし、それがいずれは
市場における「常識」になるかも知れないのだ。

勿論それは不自然な話だ、でも趣味撮影の分野においては、
現実は既にそうなりつつある状況だ。

もし前述の「中古デジタルカメラブーム」が来たら、
その新しい価値感はいっきに表面化して一般化するだろう。
つまり、マニア層や上級層は、古いデジタルカメラを使い
マ「君達初心者には、こういう古くて性能の低いカメラは
  使いこなせないでしょう? だから、最新の高性能の
  カメラを使っているのだよね? フフフ・・(冷笑)」
という、やや捻くれた価値観が生じる。
c0032138_12590634.jpg
実は、これとまったく同じ概念が、1990年代の銀塩時代の
第一次中古カメラブームの際にも起こっていたのだ。

マニア層や上級層は、ビギナーでは絶対に使えないだろう
複雑怪奇な操作を必要とする古いカメラで写真を撮って
いたわけだ。単に「優越感を得たい」と言うよりも、もう
市場全体で、それが「格好良い事」という価値観となり、
露出計すら無い非常に古いNIKON Fを使うのは上級マニアで、
最新旗艦機で誰でも撮れるNIKON F5を使うのは初級マニア層、
という風に暗黙の住み分けが出来ていた。

まあ細かい話は良い。ともかく普及機クラスの低価格機で
何も不満が無く使えるのであれば、これは現代の不条理な
カメラ市場の価値感覚をひっくり返せる「パラダイム・
シフト」(=今まで当然だと思っていた価値感覚が劇的に
変化する事)になり得る。

メーカーや市場側にとっては困った話になるかも知れないが
誰もがそうする筈も無いだろうし、この意味がわからない人は、
わからないなりに、好きに新鋭機を買えば良い訳だ。

それに私からすれば、コスパが良く魅力的な新製品を
出せないのはメーカー側の問題だ、とも解釈している。
黙ってその状況に従うつもりは無い。

現に、過去60年間以上の一眼レフの歴史を全て調べて
いくと、その時代の経済水準に比べて、カメラの価格が
高価すぎる時期が続くと、今度は低価格化の時代が必ず
来ている。高価すぎて売れないカメラをいつまでも作り
続ける訳には行かないから、前述のように「市場」自体が
適正価格のバランス点を求めて推移していくのだ。

(それと、前述のように、ここ数年で中国製等の安価な
交換レンズが、急速に国内市場に浸透してきている。
これは、高価になりすぎた日本製交換レンズの弱点を突いた
市場戦略であり、市場の一部が低価格化にシフトしつつある)

ただしユーザー側全般が、そうした「価値判断」が出来なく
なってしまうと、バブリーなまでに商品価格はどんどんと
高騰していく。そしていつか必ずバブルは弾け、その後の
市場はグチャブチャに混迷してしまう訳だ。
まあ、こういう風に歴史は繰り返していく・・
c0032138_12590655.jpg
さて、そういう視点で本機EOS 8000Dを見ていこう、

まず基本スペックに係わる長所であるが、

事前に想像していた(普及機は性能が低いと思い込んでいた)
よりも、ずっと高性能・高機能であった事である。

最大ISO感度は25600で、実用レベルとして十分。
一部の他機のように感度を上げても連写性能が低下する事は
無い(ただし、歪曲収差補正をONすると連写性能が落ちる)

連写速度は秒5コマで、まあ2010年代前半のフルサイズ機
相当だ。ここは若干不満だが、実用上で必要とあれば他に
高速連写機は色々と所有している。それに軽量機に無理に
高速連写機能を持たせると、機体重量が増えて、本来の
製品の特徴が失われてしまうので、これはこれで良い。

バースト枚数(=最大連写枚数)は、中画素数以下ならば
SD系カードいっぱいまで無制限に撮れる。
(注:最大のJPEG Large/Fineでは180枚迄)

最高シャッター速度は1/4000秒、まあこのクラスの
機体であれば、これは一般的なスペックである。
大口径レンズ使用時にはNDフィルターを併用すれば良い。

バッテリーの持ちはCIPA規格で440枚、これは私の場合
この5~6倍は撮れるので、2500枚以上となり、まあ十分だ。
(1000枚以上撮ってもバッテリーの3段階残量目盛りが
減る事は無い。ただしバッテリーの残量は%表示では無い)

他の仕様は、まあどうでも良い、その他の細かい数値性能や
付加機能の差が実用上で問題になった事は殆ど無いのだ。

これで軽量(本体のみ520g)であれば、十分であろう。

操作系だが、上位機種と同等の2ダイヤル操作子を持つ。
これは本機購入の最大の理由となった点であり、
EOS Kiss系の1ダイヤルでは実用撮影には向かないのだ。
(同様な理由で、2ダイヤルのPENTAX中級機K-30を購入
している。後日、本シリーズ記事で紹介予定)

ただ、バリアングルの背面モニターはミラーレス機程の
メリットは無い、これを収納位置にするとメニュー設定が
出来無いからだ。上部液晶の新設で若干はカバー可能だが、
操作系面における不足は確かだし、バリアングル状態での
静止画撮影はライブビューAFとなり合焦精度不足が起こる。

しかし、背面モニター(104万ドット)は、恐ろしく綺麗
であり、ここ数年間での技術の進歩を感じる。
まあ、もしかすると、再生画像が綺麗である事でビギナーが
「良く写るカメラだ」と錯覚する為、それを狙って集中的に
この分野の技術革新を優先させたのかも知れないが・・
(注:このあたりの仕様・性能の全般は、NIKONの普及機
D5000番台の機体と、ほとんど同様である)
c0032138_12590658.jpg
さて、以下は数値スペックからは読み取り難い長所だ、

まず、低速連写モードが無いが、これについては、
静音連続撮影を選ぶと、秒3コマまで落とせる。
高速連写が必要で無い、静かなイベント撮影等の場合、
本機で十分であり、むしろ適正な機材となる。
(高級機や旗艦機は、シャッター音がうるさい機種が多く、
様々な撮影シーンで顰蹙を買っている状態だ)

エフェクトがある事で描写表現力のバリエーションが
増加する。いったい誰が「本格的な写真は普通に綺麗に
撮った物でなくてはならない」と言い出したのだろうか?
20年前ならば、そういう価値観はあったが、現代では
もうそんな古臭い事を考える人は誰も居ない筈だ。
さもないと、写真がデジタル化された意味・意義・恩恵が
半減されてしまう。デジタル写真は用途に応じて加工して
使うものであり、撮ったままで使うならば銀塩写真で十分だ。

エフェクトの種類は少ないが、実用的なものが多く、
おまけに、エフェクトの二重掛け、三重掛け・・も可能で
あり、さらには過去画像に遡って処理を行う事も出来るので、
非常に好ましい仕様である(一部の他社機でもこれは可能)

一眼レフ系のエフェクトでは、従前はPENTAX機やSONY機の
機能が個人的には好評価であったが、本機のような近年の
CANON下位機種の方が、むしろ優秀に思えて来た。
c0032138_12590648.jpg
で、業務用途での話はさておき、趣味撮影において
「写真とは、真を写すと書く」といった、古くて保守的な
価値観を持つ人達がエフェクトを「子供騙しだ」と嫌う為に、
CANONもNIKONも上級機以上(シニア層が主力ユーザーだ)
では、エフェクトを搭載する事が出来ない、という非常に
不条理な市場状況である。
上位機種にもエフェクトの搭載を希望する次第である。
(SONY,PENTAX,OLYMPUS,PANA,FUJI等ではそれが常識だ)

それと今回、SIGMA A135/1.8という、業務専用レンズ
と言えるものを装着して「限界性能」を試しているが、
重量アンバランス等も許容範囲である。
ただし、本レンズには手ブレ補正が内蔵されておらず、
勿論、EOS本体側にも入っていない。
重量級レンズであるが故に、後述の、ISO低速限界設定や
セイフティシフト機能が無い事とあいまって、なかなか
困難なレンズとなる。これらの課題を理解して使いこなす
には上級レベルの知識・経験と技能が必要になるだろう。


それから、基本的に私はAF性能が低下するライブビュー
モードは使用しないが、試しに使ってみると、事前に
予想していたよりも遥かにAFは高速だ。

これは像面位相差(デュアル・ピクセルCMOS)AFでは
無いものの、ハイブリッドCMOS AF(Ⅲ)という新技術の
恩恵と思われる。が、まあそれでも、ピント精度は余り
高く無い為、大口径レンズ使用時等では、これを常用
したいと言う気にはなれない(主に動画用途であろう)
ただまあ、CANONの場合は、撮像素子は自社製CMOSで
ある為、「システム・オンチップ構成」での、この辺の
設計自由度は高く、他社機に対するアドバンテージは有る。
(将来的な性能アップ、あるいはローコストな構成も
作れるという事だ)

その他、全般に低性能ではあるが、実用上の不満点は
意外に少ない、これであれば、条件によっては業務撮影
にすらも使用可能であろう。

プラスチッキーな量産品という外観で、所有満足度は
欠片も無いが、むしろ過酷な撮影環境で「消耗機」と
してしまうには、思い入れが少ない分、適正だ。

(ただし、1度本機でボート系イベントを撮影した事が
あるが、その際、SDHCカードが故障してしまい、およそ
1000枚の写真が読み出せ無くなってしまった。これは
カメラ側の耐久性等の問題とは全く無関係だとは思うが
かなり酷使した使い方をしたので、少々危なっかしい。
今のところ別のSDカードを入れて問題なく動いているが
本機そのものの信頼性や耐久性は、もう少し長期に
渡っての検証が必要だ)
c0032138_12592371.jpg
そして、以下は本機EOS 8000Dの短所である。

まず、MFで使用するのは不可能に近い程困難である。
ファインダーおよびスクリーンの性能が低すぎて、
レンズのMF操作、又はアダプターを介したMFレンズでは
壊滅的だ、後者はより深刻で、フォーカスエイドも
出ないし、どうしようも無い。(注:NIKONの普及機以下
では、この用法でさえも使えない。AF-S系やCPU搭載の
レンズを装着しないと、シャッターすら切れないのだ)

AFだが、精密ピント型レンズ(大口径やマクロ)との
組み合わせでは、ピントを外す確率が高い(=精度が悪い)
上記MFの欠点も影響し、ピントを外していてもファインダー
で確認の術(すべ)が無いので厳しい。標準ズームなどの
被写界深度が深いレンズの専用機になる雰囲気だが、まあ
それにしても、上位機種では、ちゃんとピントが合うので
これは「仕様的差別化」であろうが、あまり好ましく無い。

それと、ISO低速限界設定や、セイフティシフトといった
細かい設定項目が省略されている。確かにこれらは
初級中級者では理解不能(用途不明)なものだから
しかた無いかも知れないが、この結果、ISO感度、絞り値、
シャッター速度のカメラ設定には慎重にならざるを得ない、
だが、勿論これは重欠点では無い。

その他、上級機と比べたら至らぬ点は当然様々にある。
AFの精度は低いし、ファインダーもMFでは低性能だ、
よって「ピント歩留まり」は全体的に低下するであろう。
ISO低速限界が無いので、手ブレ補正無しのレンズでは
シャッター速度とISO感度に留意しないと手ブレし易い。

でもそれらが、スペック上の高級機との「仕様的差別化」
である事を完全に見抜いているならば、そうした差別に
負けないように本機を使いこなせば良いだけだ。

例えば、ISO低速限界設定が無くてAF精度が悪い事で
ビギナーでは手ブレ又はピンボケを起こしてしまうから、
「もっと高価なレンズやカメラを買え」と、メーカー側
からは無言の圧力をかけてきている、という「意地悪な
仕掛け」が良くわかっているならば、それを技能で回避して
使えば良い訳だ。まあ、幸いにして本機には、ISO設定
専用ボタンもあるし、ファインダー内表示を見ながらでも
ISO設定のエディットが可能だ(=構えを解く必要は無い)
AF精度に関しては、連写中のシームレスMFブラケットと
いった高度な撮影技法を用いて問題回避する事も出来る。

後、中古相場が若干高価な事も問題点であろう。
でもこれは、エントリークラスの中での高付加価値型
商品だし、比較的新しい機種でもあるのでやむを得ない。
本機の性能・機能からの適正な中古相場は、25,000円
程度迄である。しかし、その相場低下を待っていたら、
本機が、「仕様老朽化寿命」を気にせずに、快適に使用
できる期間(時代)を過ぎてしまう。
つまり、今迄の私の購買行動ポリシーに加えて、市場動向
を見た「買い頃」という時間的要素(タイミング)を
加えなければならない、という事になる。

まあ、結果としてのコスパの悪化は、もうやむを得ない。
CANONの旧機種の代替となる適正な機体も他に無い為、
「機種数は増えたが適切な選択肢が無い」という不条理が
ここでも起こっている訳だ。
c0032138_12592389.jpg
毎回恒例の本機EOS 8000Dに対応する銀塩名機であるが・・
銀塩時代に、本機に対応するカテゴリーのEOS機は
存在しなかったように思われる。

あえて挙げるならば、EOS 100 QD(1991年)あたりだが、
その機体は使っていたが、譲渡により現在は未所有だ。
または、EOS Kiss 7(2004年)も、立ち位置が類似
していると思うが、完全に銀塩末期の機体(銀塩
EOS Kissの最終機)であったので購入はしていない。

やむなく、今回は対応銀塩機の紹介は見送ろう。

最後にCANON EOS 8000Dの総合評価をしてみよう。
(評価項目の意味・定義は第1回記事参照)

【基本・付加性能】★★☆
【描写力・表現力】★★★☆
【操作性・操作系】★★☆
【マニアック度 】★★
【エンジョイ度 】★★★☆
【購入時コスパ 】★★☆ (中古購入価格:44,000円)
【完成度(当時)】★★★
【歴史的価値  】★★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】2.8点

予想通り標準点をやや下回る評価となり、高得点は
得られていない。
だが、フルサイズ上級機EOS 6D(本シリーズ第16回記事)
と、ほぼ同等の評価得点である。

まあつまり、安価な普及機(初級機)でも十分に使える、
という結果となった、とも言える。
c0032138_12592338.jpg
これで”実用撮影には上級機でなくてはならない”という
ある種の「呪縛」から逃れられるかも知れない。
ただ、AF/MFの弱点は少々気になるところだ、業務用途等に
おける「ピント歩留まり」は、長期間の実用経験から再度
評価の微調整をしていく事にしよう・・

次回記事では、引き続き「第五世代」のデジタル一眼を
紹介する。

【玄人専科】匠の写真用語辞典(11)~MF技法・MF関連 Part1

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一般的なカメラユーザー層には普及していない「特殊用語」や
「本ブログ独自の用語や概念」を解説するシリーズ記事。

今回第11回記事からは「ノウハウ編」として、
世間一般的にはあまり知られていない撮影技法に関する
用語を解説する。
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まずはサブカテゴリーの「MF技法・MF関連」(Part1)から始める。
この項目では、ビギナー層が苦手とするマニュアルフォーカス
(手動ピント合わせ)撮影のノウハウに係わる用語を説明しよう。

ちなみに、本シリーズ記事中、この「MF技法・MF関連」の
カテゴリーが最も難解になると思われる。

近年のビギナー層ではMF撮影等は行った事も無いであろうし、
中上級層でも、高性能なAF頼りで、MFはあくまで補助的な
使い方であろう。
多数のMFレンズにより、少なくとも数万枚、いや数十万枚を
超えるだけのMF撮影の経験が無いと、なかなか見えて来ない
事も多いだろうから、説明内容が難解になるのはやむを得ない。

なお、使う側のみならず、レンズやカメラを作っている側
(メーカー)でもMFの性能については、残念ながら重要視して
いないのが現代における風潮だ。
c0032138_12314275.jpg
まあ「重要視していない」というより、もしかしてMF撮影の
経験が殆ど無いまま製品を設計しているのではなかろうか?
忙しい開発作業の合間に、100枚やそこらのMF撮影を試した所で
ノウハウが得れる訳でも無いし、外部の職業写真家等の意見を
収集したところで、今時のそういう人達は、ほぼ100%、高性能な
AF頼りでしか撮影していない。
だからMFの実用性やノウハウ等は、作る側も理解できていない。
さもなければ「MFは一応できます」程度の、好ましく無い仕様の
製品が沢山あるという現状は、どうにも理解しずらい・・

最初の(銀塩)AF一眼レフ登場からおよそ34年、しかし現代でも
依然AFは万能と言う訳では無いし、マニアであればクラッシック
な機材を使って趣味的なMF撮影をする場合もあるだろうし、
冒頭写真のような高性能な近代MFレンズも色々と存在している。


また、ごく近年に急速に市場参入をしてきている中国製等の
「ジェネリック・レンズ」(独自用語。オールド名レンズの
設計を、ほぼそのまま用い、全体を1/2~2/3程度の寸法に
スケールダウンした非常に安価な新鋭レンズ群)を使う際にも
MFが必須だ。

MF操作は基本中の基本であると思う、「苦手だ」と逃げずに
MF操作に向き合ってみるも良いかも知れない。
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<MF技法・MF関連>Part 1

★パンフォーカス(技法)
 一般用語。マニア用語。

 銀塩レンジファインダー機の発展期(1930~1960年代)
 から、銀塩一眼レフの初期(1950~1970年代)においては、
 カメラやレンズの性能上、およびユーザー側の撮影スキル
 の未成熟において、以下の複数の課題があった。

 1)ファインダー/スクリーンの性能が低く(又は仕様が悪く)
  MFでのピント合わせが困難。
 (加えて、最初期の一眼レフは、開放測光では無かった)
 
 2)カメラの最高シャッター速度が1/1000秒以下程度と低く、
  日中で絞りを開けての撮影が困難。
 (注:逆説的に言えば、絞りを開けての被写界深度が浅い
    状況での撮影経験が無く、MFでピントを合わせられない)

 3)レンズの性能が悪く、絞り開放近くで描写力が落ちる。
 (注:だから、必ず絞って撮影を行う。その結果、絞りを
    開けての厳密なピント合わせの経験やスキルが無い)

 4)広角レンズでも最短撮影距離が長い(例:28mmレンズで
  レンジ機用で70~90cm、一眼用の一部のレンズで60cm)
 (注:だから近接撮影での厳密なピント合わせの経験が無い)

 5)ピンボケ写真に対する世間的な評価が厳しく、そういう
  写真に対して「下手だ、ダメだ」と周囲からの批判が強い。

 これらの課題を全て解決する技法として「パンフォーカス」
 と呼ばれる撮影技法が、この時代(1950~1970年代頃)に
 一般的になった。

 これは、35mm判銀塩機またはデジタルフルサイズ機の場合、
 広角レンズ(28mmまたは35mm等)を用いて、まず絞り値を
 F8~F11に設定する。
 この時、(MF)レンズ側には、被写界深度目盛り(指標)が
 あるので(以下写真)・・
c0032138_12314323.jpg
 設定した絞り値の深度目盛りの遠距離側を∞(無限遠)に
 合わせると、だいたい1m前後から∞まで全てピントが合う
「パンフォーカス」状態が実現する。

 この技法の長所であるが、前述の課題を全てクリアできる。

 風景写真やスナップ写真等では、カメラを被写体に向ける
 だけでピント合わせの必要性は殆ど無く、後は露出を合わせて
(当時はマニュアル露出機が全てであり、露出計は非内蔵だが 
 勘露出方式で容易、又は後年ではカメラに内蔵されている)
 後は、シャッターを切れば簡単に写真を撮る事ができる。
c0032138_12314243.jpg
 だが、パンフォーカス技法の弱点も色々とある。

 1)絞り込んで撮影する為、当時の低感度フィルムでは
  シャッター速度が低下しすぎて、場合により手ブレする。

  具体的な計算例としては ISO50のフィルムで曇天時に
  絞りF8では1/60秒以下のシャッター速度となる。
  さらにF11以上に絞り込んだ場合や、被写体が暗所の
  場合等は、1/30~1/15秒以下ともなるので、初級層の
  スキルでは、手持ち撮影において手ブレ必至だ。
 (注:手ブレ限界シャッター速度=1/焦点距離・秒の法則)

  当時は、露出やシャッター速度の概念すらわかっていない
  初級ユーザーも大半であったので、手ブレを起こして
  いる写真は、ピンボケと同様に「下手だ、ダメだ」と
  周囲からの批判が厳しい。(まあ、そういう単純な事しか
  廻りも評価できない、という残念な時代でもあった)
  この手ブレ対策の為、三脚を用いて撮影する事が、この
  時代では一般的になった。

 2)パンフォーカス設定を行っても、近接撮影域(撮影距離=
  数10cm)にはピントが合わない。(この撮影距離では
  絞りをある程度絞っても被写界深度は若干浅くなる)
  よって、パンフォーカス技法ではなく通常のピント合わせ
  が必要となる。
  また、最短撮影距離の長いレンジ機用レンズや一眼レフ用
  レンズでは性能上、そもそも近接域での撮影が出来ない。
 
  この結果、当時の初級中級層では、近接撮影を誰も行わず
  中遠距離の被写体による、風景撮影やスナップ、人物撮影
  等が当時のアマチュア層の被写体としてほぼ100%となった。

 これはつまり、パンフォーカス撮影技法が当時の機材環境では
 とても便利だった為、これを行う事が普通であった事から、逆に
「写真は三脚を使って撮る」「中遠距離のスナップや風景を撮る」
 という常識や「制限事項」として、この時代(1950~1970年代)
 はもとより、続くAE/AF時代(1980~2000年代前半)に至るまで
 ずっと初級中級層に根付いてしまった。

 デジタル時代に入ってからは、上記のような機材性能上の制限
 は全て解消した(例:高感度が使える、AFでのピント精度が
 高い、ミラーレス機では様々なMFアシスト機能もある、
 又、レンズ側では絞らなくても高描写力が得られる)ので、
「三脚を立てて風景を撮る」等は、もう「古い時代の概念」と
 なってしまっている。ただ、1960~1970年代に写真を始めた
 ような世代(=概ね”団塊の世代”)は、現在はリタイアして
 シニア層となり余暇で趣味の写真撮影を行う事も極めて多い。
 この年代層を中心に、他の世代にまで、こうした50年も昔の 
 撮影技法が伝えられ、それが頑なに守られている場合も多い。
 
 だが、現代のカメラやレンズの性能は、50年前とは、別物と
 言える程に進化しているのだ、それに合わせて撮影技法や
 写真の概念そのものも変えていくのが当然だと思う。

 ちなみに、本ブログでは、開設当初から三脚を使用する撮影
 技法は一切推奨していない。本ブログの掲載写真は、ごく一部
 業務上での花火撮影のケースを除き、全てが手持ち撮影である。
 何故三脚を使用しないのか?は、個人的には「不要である」事
 が最大の理由だ。シャッター速度等を意識しておけば手持ちで
 十分だし、本ブログ開設当初とは違い、現代では手ブレ補正も
 超高ISO感度も、ごく普通のスペックだ。
 そもそも三脚を使わない事で、さまざまな撮影シーン(条件)
 を体験・体感する事ができ、そこから得られる事は非常に多い。

 また他者に対しても非推奨なのは、三脚を使う事で撮影マナー
 が低下する(周囲に迷惑を掛ける)事が一番嫌な事だからだ。
 今時は京都や奈良の寺社の大半は三脚(一脚も)禁止である、
 撮影マナーが悪化している事がその原因なのは言うまでも無い。

 また、写真において、ピンボケや手ブレといったマイナス要因
 しか評価しない(どのような意図でその写真を撮ったのか等に
 ついて言及しない。すなわち良い点を褒めない/理解出来ない)
 という世間一般層での「足のひっぱり合い」のような風潮への
 反発心も強い。

 パンフォーカス撮影技法は必ず知っておかなければならない
 MF技法ではあるが、毎回毎回そればかりという訳にも行くまい。
 それに、いつまでもそんな撮り方をしていたら、永久に本来の
 MF技法など身に付かない。
 
★MF性能
 一般用語だが独自概念。

 現代機においては、MFの性能はファインダーやスクリーンの
 性能のみで決まる訳ではない。

 まずは、これを評価する前に、どんなレンズを用いてMFを
 行うかの条件を、ある程度整えなければならない。
 被写界深度が深く、中遠距離撮影が主体となる広角レンズや
 広角ズームと、被写界深度が浅く、被写体条件的にも厳密な
 ピント合わせが要求される大口径中望遠や、マクロレンズ
 による近接撮影では、まるでMF条件(要件)も変わってくる。

 私の場合は85mm/F1.4~F1.8級の大口径中望遠レンズを
 ピント合わせ評価の基準レンズとし、銀塩一眼レフの評価では
 これを元にファインダーやスクリーンの性能を見ていた。
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 で、まずはレンズ側のMF性能であるが、MFレンズの場合での
 被写界深度以外での関係要素は概ね2つあり、
 1)ピントリングのトルクと回転角は適正か?
 (注:回転角が大きく、持ち替え回数がとても多くなると、
    多くのMF撮影技法に重大な支障をきたす)
 2)カメラとレンズを含めた重心位置にピントリングが来るか?

 さらに、AFレンズの場合は、上記に加え、
 3)AFとMFとの切り替え操作(スイッチ等)の操作性は良いか?
 4)シームレスMFはどのように実現されているか?
 (例:AFの最中どこからでもMFに移行可。あるいはDMF機能等)
 5)MF時にピントリングのトルクや回転角は適正か?
 6)ピントリングが有限回転式か無限回転式か?
 (注:無限回転式の時点で、MF性能は”失格”となる)
 7)有限回転式の場合、距離指標があるか?被写界深度指標が
  あるか?(注:無限回転式+距離指標のハイブリッド型も
  一部の高級レンズで存在する)
 8)ピントリングは無限遠で正しく止まるか?
 (オーバーインフまで回ってしまうレンズが稀にある)

 そして、AF/MFのズームレンズの場合は、さらに上記に加えて
 9)ピントリングとズームリングの相互の操作性干渉があるか?
 (例:両者が独立回転式の場合、MFピント合わせとズーミングの
  同時操作が不可能となる)
 10)システム全体の重心とピントリング位置は合致しているか?
 (AFズームの場合、ズームリング位置が重心となる場合が多い)

 といった項目がMF性能に強く関係して来る。

 これらの要素以外に、銀塩用MFレンズでは絞り環がある場合が
 多いが、これの操作もピント操作と干渉し難い事が望ましい。
c0032138_12315986.jpg
 カメラ本体側のMF性能関連事項については以下がある。

 1)AF/MFの切り替え方法は適正か?(DMF機能含む)
 (例:カメラ前面のスイッチではブラインド操作が困難)
 2)スクリーンのMF性能は適正か?
  および、MF用スクリーンに交換可能か否か?
 3)ファインダー倍率は十分か?
  および、拡大アイピースが利用可能か否か?
 4) 一眼レフの場合はフォーカスエイド機能があるか?
 (注:電子接点の無いMFレンズでそれが無効となる機種がある)
 5)ミラーレス機の場合は、高精細のEVFを搭載しているか?
 6)シームレスMFの場合の付加MFアシスト機能はどのような
  ものがあるか(MF時での自動拡大、距離指標表示等)
 7)ミラーレス機、又は一眼レフでのライブビュー時において
  MFアシスト機能があるか?
(例:ピーキング、拡大、デジタルスプリットイメージ等)
 8)各MFアシスト機能の種類、精度や操作系は適正か否か?
  (例:拡大が簡単に解除できない機種がいくつかある。
    また、ピーキング精度は機種によりけりで大差がある)
 9)ピーキングは常時動作可能か?
 (例:一々ボタンを押さないとピーキングが出なかったり、
    撮影モードを切り替えるとピーキングが消えたり、
    シャッター半押しでピーキングが消える機種がある)
 10)デジタルズームやデジタルテレコン機能を使用時でも
  MFアシストが有効か?(ここもそれが効かない機種がある)
 といった要素がある。

 これら、レンズ側およびカメラ側の両者のMF時における性能を
 もって、本ブログでは「MF性能」と呼ぶ。
 ただし、レンズを除いて、カメラ本体側のみの「MF性能」を
 評価する場合もある。

 なお、個々の項目についての細かい説明は、個々のカメラ別の
 仕様の差まで含めると、際限なく文字数が増えてしまう為、
 やむなく割愛する。
 実際に自身の所有するカメラやレンズを使って確かめてみる
 しか無いであろう。

★最短撮影距離と無限遠
 一般用語だが独自概念。

 MFレンズで有限回転式のヘリコイド(ピントリング)を持つ場合、
 廻す手指の感触で、最短撮影距離と無限遠を知る事が出来る。
c0032138_12315993.jpg
 実はメーカー(マウント)によって、ピントリングの動く向きは
 異なるのだが、それは所有システムに合わせて慣れるしかない。
(なお、近年のミラーレス機と純正レンズでは、ピントリングの
 回転方向を逆転できる場合もあるが、マウントアダプターで
 オールドレンズを併用する場合等、余計ややこしくなる事もある)

 で、レンズの仕様がオーバーインフ(無限遠を超えて動く)に
 なっていなければ(ほとんどのMFレンズであれば、これはOK。
 但し、レンジ機用CONTAX CマウントレンズをNIKON Sマウント
 アダプターを介して用いるとオーバーインフになる場合がある)
 ・・「撮影前に被写体距離を意識しつつ、手指の感触で予め
 想定距離の近くにピントを合わせて置く事」ができる。
c0032138_12315951.jpg
 上記がMF撮影での最も重要な点だ。ファインダーを覗いてがら
 ピントを合わせていたのでは、時間がかかりすぎてしまうのだ。

 ましてや、ファンダーを覗きながらでは、前述のピントリングの
 回転方向もあって、どちらに廻したら良いか一瞬迷う場合すらある。
 カメラを構える前に、レンズを見ながら回転方向を確認し、
 ある程度手指でピントを合わせながら被写体を見続ける、そこから
 カメラを構えた時点では、ほぼピントが合っていて、少なくとも
 スクリーンに被写体が写っている状態を得る、そこからピントを
 微調整して後はシャッターを切るだけだ。

 なお、MFレンズの場合は、他に絞り値の設定変更が重要だが、
 それについては後述しよう。

 まずは、この「ピント事前合わせ」をマスターする事が、
 MF撮影での基本中の基本となる。
 ただ、これは近年のミラーレス機用普及レンズ、又は一部の
 一眼レフ用レンズでの「無限回転式ピントリング」では
 実現が困難な撮影技法となる。よって、有限回転式のレンズ
 に限られるが、逆に言えば、無限回転式は全くMF操作に適して
 いないレンズとなっている、と言える。
c0032138_12315822.jpg
 これは設計思想の問題であろう、現代のレンズ設計思想では・・
 1)まずAFを用いてピントを合わせる。
 2)AFで合い難い(合わなかった)被写体の場合は、手動または
  自動(シームレス)でMFに切り替える。
 3)その後、MF操作でピントを合わせる。
 となっていると思われる。

 ところが、実際のMF撮影のフロー(流れ)は上記とは異なるのだ。
 実際には、以下のフローが望ましい。
 1)AFではピントが合い難い被写体かどうかを事前に判断する。
 (例:遠距離の飛ぶ鳥、花などの近接撮影、反射のある水面等)
 2)撮影前にMFモードに切り替える(または最初からMFレンズを
  使用している)
 3)想定撮影距離にピントリングをだいたい合わせてから
 (事前に、無限遠近辺や最短撮影距離近辺で待機しておく)
  ファインダーを覗く。
 4)構図やピントを微調整してから撮影する。

 という流れが合理的・実用的である為、現代のAFレンズの仕様
 では、この撮影フローに適さない訳だ。


 それに、シームレス機構の場合には、せっかく事前にMFで
 合わせようとしても、シャッター半押しでAFが効いてしまい、
 元の木阿弥になってしまう場合も多々ある(ボタンAF起動等の
 設定で解消できるが、通常AF撮影時に、とても手間になる)

 まあ、現代のレンズについては残念な話である。特にミラーレス
 機用のマクロレンズでは、まだミラーレス機自身のAF性能の
 未成熟がある為、近接撮影では、ほぼ100% MFを強いられるが、
 その際、無限回転式ピントリングでは、最短撮影距離を手指の
 感触から知る事ができない、よってAFでもMFでもピント合わせが
 やりにくい状態を甘んじるしか無い訳だ・・

★持ち替え
 独自概念。

 MFレンズの場合、前述のように手指の操作でピント位置を知る
 と言っても、1度の回転操作で最短撮影距離から無限遠の間を
 いっきに変更するのは無理である。

 これは、あまりに回転角が小さいと逆に精密なピント合わせが
 難しいので、MFレンズとしてはむしろ好ましい仕様だ。
c0032138_12321751.jpg
 では、指を持ち替る回数は、どれくらいあるのだろうか?
 これはまずレンズの仕様によって差異が大きい、それ以外にも
 撮影者の手指の大きさの個人差もあるかも知れないが、それ
 よりも、レンズ自体の仕様の差異の方が、ずっと大きいと思う。

 私が多数の所有レンズから経験的に得た参考値は以下になる、

*最短撮影距離から無限遠までMFでピントを移動する場合の
 指の持ち替え回数の一覧

 1)1~2回
  近代の超音波モーター等搭載のAFレンズの一部はMF時の
  ピントリング回転角が極めて狭い。これはAF速度の向上を
  目指したからだと思われるが、実際のところ、このレベルの
  仕様では回転角が狭すぎて厳密なMFでのピント合わせは困難。
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 2)3~4回
  オールドMFレンズの一部では比較的回転角が狭いものもある、
  広角レンズ等では被写界深度が深く、むしろこれくらいで
  丁度良いが、大口径や望遠レンズではこの仕様ではやや厳しい。
c0032138_12321702.jpg
 3)5~7回
  多くのMFレンズにおける最も標準的な値。
  まあ、これくらいが一番使いやすいであろう。

 4)13~15回
  一部のMFマクロレンズではピント繰り出し量が大きく、
  回転角も非常に大きくなってこの回数にも達する。
  だが、実際にこのレベルでは極めて使い難いレンズとなる。

 5)特殊ケース(アタッチメント併用時)
  レンズ単体での回転角に限らず、ヘリコイドアダプターや
  マクロテレプラス等の近接用アタッチメントを併用すると
  レンズ側に加え、アタッチメント側でもヘリコイドを回転
  させなくてはならない。これらの回転角も通常、相当に大きく、
  レンズ側とアタッチメントとの二重操作でさらにやり難くなる。
  これらはレンズの最短撮影距離の弱点を消して面白いアイテム
  だが、実用上はかなり厳しい事は確かである。
 (注:「ヘリコイド」とは、「螺旋(らせん)」という意味で
  あり、ピントリング等の回転動作を、前後の直進動作(レンズ
  の繰り出し量)に変換する構造の物を言う)
c0032138_12323253.jpg
 なお、この指の持ち替え時には、左手はシステム全体の重心位置
 を支えながら行うのが基本ではあるが、システムの重量バランス
 的に、そうならない場合も良くある。
(注:ビギナーが良くやる、レンズを上や横から廻すのは論外だ)

 それから、この持ち替え時、ほんの一瞬ではあるが、カメラを
 グリップでホールディング(保持)している右手にもシステム
 全体の重量負担が、のしかかってくる(注:カメラを落とさない
 為に、全体重量を支えようと意識する事も、この原因となる)

 軽量級レンズで短時間だけの撮影では気にならないが、重量級の
 レンズと重量級カメラの組み合わせでは、長時間の撮影で持ち替え
 回数が非常に多くなると、左手のみならず相当に右手も疲労する。

 または、重量級レンズと軽量級カメラでも重心バランスが悪くて
 持ち替えのたびに重心ホールドが崩れる為、同様に疲労が大きい。

 現代のユーザー層はMFで長時間の手持ち撮影を行った事が無いと
 思うので、上記の話はそれこそ「ピンと来ない」かも知れないが
 実際に試してみれば容易に実感できるであろう。

 たとえば、600~800g級の重量級のMF等倍マクロレンズ、
 具体的にはフォクトレンダー マクロアポランター125mm/F2.5
 やCONTAX マクロプラナー100mm/F2.8 等がそれであり、
 これらは概ね14回前後の左指の持ち替え操作が必要なレンズ群だ。
 これらを、どのカメラに装着した場合でも、数時間の連続MF撮影で
 近接から無限遠迄のヘリコイド操作を繰り返すとヘロヘロになると
 思う。「これは何かの修行か?」とすら思ってしまう場合もあり、
 あまり好ましい状態では無い。(これを「修行レンズ」と呼ぶ)
c0032138_12323250.jpg
 また、MF等倍マクロに限らず、700~900g前後の大口径MF望遠
  (135mm/F2級、200mm/F2.8級等)や、近年の複雑な構成の
 新鋭MFレンズ(50mm/F1.4級等)でも同様に疲労が大きい。

 なお単焦点ではなく、大型ズームレンズをMF操作した場合でも
 ピントリングとズームリングが独立操作方式であったら
 これも同様に疲労が大きい、それに加えて、MF時代のズームで
 絞り環まであると、正直、もう左手の持ち替えが嫌になってきて
 厳密な絞り値操作などを省略してしまう場合すらある。

 いずれにしてもこの問題は重要だ、そして実際に試してみるしか
 この事は実感し難い。そして勿論、これらは手持ち撮影での話で
 あり、三脚使用を前提にレンズを設計していたり、あるいは
 ユーザー側でそうしているようでは、これは理解困難だろうが、
 当然ながら常時三脚使用は、現代的では無い撮影技法の概念だ。

 最後に念の為、ピントリングの持ち替えは疲労の誘発のみならず
 速社性を失う場合もある。マクロレンズで近接撮影をしていた
 ところに鳥が飛んで来たとしても、何回もピントリングを廻す
 タイプのレンズの仕様では、まずその撮影は間に合わない。

★MF技法(構え)
 独自概念用語。

 前述の「持ち替え」がMF操作においては必須となるのだが、
 この時、左手は必ずカメラとレンズの合計重心位置を「下から
 支えながら」左手指でピントやズームを操作するのが基本だ。

 さらに言えば、左手は体のあたりまで引きつけ、できるだけ
 体全体でカメラとレンズを支えるようにする。
 一眼レフではこれで良いが、ミラーレス機等でEVFが非搭載の
 機種では、左手を体の近くまで引き付けられない。
(注:それではモニターが近すぎて見えないから)

 だから、EVF非搭載のミラーレス機やコンパクト機、または
 スマホ等では、元々「カメラの正しい構えが出来ない」という
 課題が存在するのだが、まあ、それらの機材を使う場合は
 重量級の交換レンズ等を装着する事は決してせず、できるだけ
 手ブレに注意して(=ISO感度やシャッター速度に留意して)
 撮影するしか無いであろう。

 で、一眼レフやEVF搭載ミラーレスでは、上記の構えは必須だ。
 これは手ブレの対策も勿論あるし、前述のMF操作のような撮影に
 必要な操作をスムースに行うという意味もある。

 なお、一眼レフで、ピントリングやズームリングを左手(時に
 右手)で、レンズの上や横から摘むように操作するのは論外だ。
 が、このように基本の構えができていないアマチュア層が非常に
 多く、たとえ高価なカメラを使っていても、その構えを見るだけで、
 超初級者である事がモロバレで、非常に格好が悪い。

 特にシニア層にこれが多いのは、三脚を使う撮影方法を長年
 続けてきた為、正しいカメラの構えが身についていないのだろう。
 それと、そうしたアマチュア層のみならず、職業写真家層等に
 おいてさえも、ずっと屋内等の三脚使用のみの条件で撮影して
 いて、屋外での手持ち撮影の構えが全く出来ていない人も居る。

 それと、この構えの話はMF時に限らず、AF撮影時でも勿論
 有効であり、重要なポイントとなる。
(加えて、ビギナー層が高性能AFの新鋭機を用いているのに、
 光学ファインダーを使わずにライブビューで静止画を撮影して
 いる状況を良く見かける。これでは、せっかくの高級機の
 AF性能が殺されてしまうので全く意味が無く、非推奨だ)
 
 ここで気をつけておく点は、上記の「システムの重心位置」
 である。
 左手はMF時にはピントリング操作、あるいはズームレンズ
 ではズーミング操作、そしてMFレンズや一部のAFレンズの
 場合は絞り環の操作を、いずれも左手で行う。

 その際に、前述の「持ち替え」が、ピントリングの場合は
 同じ位置で発生していたのが、ズーミングや絞り環操作では
 それらの操作子のある別の位置に「持ち替え」なければ
 ならない。これは重心バランスが変化してしまったり、
 あるいは前述のように一蹴だが右手グリップ・ホールディング
 に負荷がかかり、長時間の撮影では疲労を誘発する原因となる。

 しかし、これを防ぐ方法はあまり無く、カメラの仕様(重量)
 とレンズの重量とのバランスをまず意識してシステムを決める
 事が第一だ。軽量級ボディである事は長時間の撮影では
 望ましいのだが、極端にレンズの方が重いなどでは、重心位置
 が変化してしまい、MF時、ズーミング時、絞り環操作時に
 アンバランスとなる場合もある。

 ただ、常に重量級レンズ+重量級ボディの組み合わせが良い
 というものでは無く、システム全体の重量が重過ぎると
 それ自体で疲労を誘発するし、勿論ハンドリング(可搬性)
 性能も低下して機動力が低下するし、仮にそういうシステムで
 MF、ズーミング、絞りの各操作で重量アンバランスとなったら
 さらに目も当てられない。(注:「重たいレンズには重たい
 カメラをあてがうのが良い」という、無責任なアドバイスを
 する人がとても多い。→それは常に正しいと言う訳では無い)
c0032138_12323264.jpg
 あくまでレンズ側の仕様も含めてシステムを決定する必要がある。
 この為、使用カメラは「一台あれば済む」という事は無く、
 使用するレンズに合わせて装着するカメラを選択する場合もある。

 ズームレンズでは全長の変動で重心バランスが狂う場合もある。
 小型のズームレンズでは問題にならないが、大口径ズームや
 超望遠ズームでは、この問題は非常に大きい。
(注:ズーミングで全長が変化しないレンズも存在する)

 この重心変動を嫌って職業写真家等では、それらの重量級ズーム
 で三脚を使用する場合もあると思うが、それら重量級機材運搬の
 負担や、撮影アングルやレベルが極端に制限される事との引き換え
 である。(=限られた撮影条件でしか使えない、という事だ)

 これら全体の得失を良く理解して最適の機材をチョイスする事は
 業務撮影上では極めて重要であるが、アマチュアの趣味撮影で
 ただ単に「重いから、ブレるから」などの理由で大型機材に
 三脚を常用する事は、事の本質の理解を妨げる原因ともなる。
 このため、初級中級層では、いつまでも重心の理解や手ブレの
 発生条件などが理解できず、また、正しい構えが身につかない。

 業務(依頼)撮影であれば、どんな悪条件でも確実に撮影を行い
 結果としての写真を依頼者やクライアントに納品する義務が
 発生する。だから、より安全確実な方法論を、機材チョイスも
 含めて行うのは当たり前の事だ。
 が、趣味撮影であれば、写真が手ブレしても、何の責任も無い
 場合が殆どであろう。であれば、その恵まれた環境を利用して、
 大型機材等で、徹底的に手ブレが発生する条件を探ったり、
 手ブレしないように構えのスキルを磨く等の練習を行ったら
 どうであろうか? それをやらずして「手ブレが怖い」等と
 言っているのは、どうにも理解しずらい。

(まあ、他の色々な話とも関連するが、初級者層では、手ブレと
 ピンボケだけしか写真の良し悪しを評価できず、それらが
 見れたら、すぐに「ダメな写真だ」と、あまりに単純な負の側面
 でしか見られないからだろう。で、周囲からそう言われるのが
 嫌だから、初級者層は手ブレ等を異常なまでに怖がる訳だ)

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さて、そろそろ記事文字数の限界だ、
以降は次回記事「MF技法・MF関連 Part2」に続く。
  

レンズ・マニアックス(10)

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過去の本ブログのレンズ紹介記事では未紹介の
マニアックなレンズを紹介するシリーズ記事。

では、まずは今回最初のレンズ
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レンズは、CANON EF 40mm/f2.8 STM
(中古購入価格 11,000円)
カメラは、CANON EOS 6D(フルサイズ機)

2012年発売の、フルサイズ対応エントリー単焦点標準レンズ。

STM型番は「ステッピングモーター内蔵」という意味だ、
USM(超音波モーター)の簡略版という事であろう。

まあ製品ラインナップのコンセプト上、小型軽量、ローコスト
と言う方向性で、こういう異なる種類のモーターを並存させる
事は、SONYやTAMRON等でも前例がある(SSMとSAM等)
c0032138_08495577.jpg
最初にSTM型の弱点をあげておくが、モーター駆動にカメラ
側からの電源供給が必須だ。まあ、そこまでは他の様々な
モーターと一緒なのだが、STMの場合は電源未供給状態では
MF(マニュアルフォーカス)が動作しない。

これでは(一般的な)マウントアダプターを介して、他社の
カメラに装着しても、MFが動かず使用できないと言う事になる。
(注:電子アダプターを用いればSTM型でも使用可能な製品も
ある模様であるが、一般に高価であり、それらを使うならば、
EOS機にそのまま装着した方が、ずっと簡便であろう)

なお、STM型に限らず、旧来のUSM型モーター搭載レンズの
一部にも、電源未供給ではMFが効かないケースがある。
(例:EF85/1.2L USM、ミラーレス・マニアックス第61回
記事参照)

で、実はこういう排他的仕様のコンセプト(自社製品だけで
システムを構成しないとまともに動かない=汎用性に欠ける)
の製品は個人的には賛同できず、好きでは無い。

すなわち、カメラ市場は、ただでさえメーカー間の仕様統一が
できず、他の市場分野に対して、あるいは現在の世情に対して、
大きく遅れている。例えば、過去の他の市場分野をあげても、
ビデテープ(VHSとβ)や、DVDの様々な形式等でユーザー
利便性を妨げた例はいくつもあるが、メモリーカードの
ように主流な方式(例:SDカード)に、だんたんと統一されて
いくべきだ。(=デファクト・スタンダード化)さも無いと、
「ユーザー利便性」を損ねてしまい、市場そのものの発展を
妨げてしまうからだ。

だから、STMレンズは軽量で良さそうなものがいくつかある
事は知ってはいたが、こういう考え方から、ずっと購入を
保留していた。(不便だから買わない、というのがユーザーが
出来る唯一の対抗手段だ。仕様上の弱点が市場に受け入れられ
なければ、メーカー側も仕様を改善せざるを得なくなる)

では何故、本EF40/2.8STMを購入したのか?という理由だが、
これも個人的なコンセプトだが、その歴史的価値の高さと
コスパが、購入を躊躇する理由よりも上回ったからだ。

まずコスパの件だが、現代の各カメラメーカーは何処も
「エントリーレンズ」をラインナップしている。これらは
ほぼ全て性能的には満足いくレベルでありながら、価格が
安いのでコスパが極めて良く、様々な製品を愛用している。
まあ「CANON製品もいつまでも無視する訳にはいかないだろう」
という考えだ。
c0032138_08495585.jpg
そして「歴史的価値」であるが、本EF40/2.8STMは、まあ
言ってみれば「パンケーキ型(薄型)」レンズである。
ところが実はCANONは銀塩MF/AF時代、そしてデジタル時代
を通じ、パンケーキ型の交換レンズを発売していなかった。

歴史を振り返っても1970~1980年代に各社より薄型MF
レンズが発売されたが、AF化が困難でほぼ絶滅してしまった。
なので、1990年代後半には、一大「パンケーキブーム」が訪れ、
当時のAF単焦点には無かった薄型レンズを、マニアや投機層が
こぞって買い求めたのであった。

パンケーキブームは2000年代初頭にデジタル化とともに終息し
それ以降、各社でもAF・デジタル版のパンケーキがちらほらと
出現した事から、目新しいものでも無くなった訳だ。

しかし、CANONは銀塩・デジタル時代を通じて薄型レンズを
発売していなかった、この理由は不明であるが、恐らくは
メーカーとしての製品企画ポリシーがあったのだろう。
(例えば、1970年代のFDレンズにおいては、両優先AE
(マルチモードAE)を搭載している先進性(初の両優先機CANON
A-1より早い時代に、それを見越して装備していた)があったが、
パンケーキ型の小型レンズでは、その実現が難しかったからか?)

ところが、2010年代に入ってから、やっと本EF40/2.8を始め、
いくつかのパンケーキと呼べるレンズがCANONから発売され
始めた。(他には、APS-C機専用EF-S24mm/f2.8 STMや、
ミラーレス機用EF-M22mm/f2 STMがあるが、フルサイズ用は
本レンズのみだ)

よって、長いCANONの歴史を見ても本EF40/2.8は、ほとんど
初めてに近いパンケーキ(薄)型レンズだと思われる。
この「歴史的価値」は高く、MFが効かないという弱点(又は
気に入らない製品コンセプト)を上回って、「所有に値する」
と思った訳だ。

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さて、という事で、本EF40/2.8の仕様だが、厚さは22.8mm
重量130gと小型軽量である。今回使用のEOS 6Dはデジタル
一眼レフのフルサイズ機では最軽量である為、(トイレンズ
装着時やミラーレス機を除き)一眼フルサイズシステムでは
最軽量の部類のシステムとなる。

最短撮影距離が30cmと短い。銀塩時代のパンケーキの多くは
焦点距離40~50mm程度の標準レンズで、最短が60cm程度と
長目のものが多く、実用上の不満があったが、それが解消
されている。
c0032138_08495569.jpg
写りは可も無く不可も無し。まあ、各社エントリーレンズの
特徴であり、あまりに「安かろう悪かろう」という製品は
存在しない。そんなものを作って売ったら、「お試し版」
としての意味が無いからだ。安価でも、ある程度の高性能を
維持した製品を作る事で、エントリーレンズを買った初級層
に対して、交換レンズの高性能や楽しさをアピールして、
その後の高価な自社交換レンズの販売に繋げるという戦略だ。

最短撮影距離の短さは、他社エントリーレンズでも、CANONの
近年のレンズでも良くある特徴だが、こういう傾向は嬉しい、
ボケ量のコントロールや構図の自由度が格段に高まるからだ。
(逆に言えば、最短撮影距離の長いレンズは実用に適さない)

まあ、総合的には、「EOS機で使う限定」であれば、購入に
値するレンズであろう・・

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では、次のレンズ
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レンズは、smc PENTAX-F 80-200mm/f4.7-5.6
(ジャンク購入価格 1,500円)
カメラは、PENTAX K10D (APS-C機)

1990年頃の発売と思われる一般的廉価仕様のAF望遠ズーム。
この手のオーソドックスなAF望遠ズームは現代の中古市場
では不人気であり、程度の良いレンズでもジャンク品扱いに
なってしまう事もある。本レンズは近年の購入で、ジャンク
価格ながらも、特に動作や程度には問題は無かった。
c0032138_08500620.jpg
F型番なのでPENTAX初期のAFレンズ(KAFマウント)である。
これは勿論近代のPENTAX製デジタル一眼レフにも装着して
使用できるのだが、30年も前のレンズ故に、何かと問題が
発生する場合に備え、安全を期し、様々な古いプロトコル
(KAF2等)の互換性の高いPENTAX K10D(2006)を母機として
使用する。

ちなみに、こうした安全対策は「マニア道」としては
結構重要な事であり、理想的には、レンズを使用する母艦は、
全く同じ時代のカメラを使用するのが望ましい。
さも無いと、様々な性能改善や、それに伴う仕様変更により
例え同じマウントであって装着できたとしても、レンズが
上手く動作しなかったり、露出が狂ったり、最悪はカメラが
故障してしまうリスクもある。

できれば同じ時代のPENTAX銀塩AF機を使うのがベストだが
その時代のカメラは所有していたとしても、さすがにもう
フィルムを入れて撮る気にはならない。
今回はできるだけ古い時代のデジタル一眼レフで代用するが、
もしここで何か不調、あるいは不審な動作が見られたら、
その時は同時代の銀塩AF機(例:Z-1やMZ-3等)に装着して
みて、その動作が正常であるかどうかを確認する事も可能だ。

本レンズではあまり問題になりそうな点は無いが、特に
KAF2プロトコルのパワーズームレンズ等では危険性が高い。
そのあたりは、本シリーズ第8回(2つ前の記事)の
smc PENTAX-FA 100-300mm/f4.5-5.6あたりが良い例だ。

そのパワーズームは古いプロトコルな為、近年のPENTAX
デジタル一眼レフでは動作しない。本機K10Dの場合ならば
汎用性が高く、パワーズームが動作するのだが(確認済み)、
不意の動作不良等が発生するリスクも高いジャンク品で
あったので、その記事では、あえてパワーズームを受け付け
無い仕様のPENTAX最初期のデジタル一眼レフ *istDs
に装着して試写を行った.

つまり、プロトコルが全く対応していなければ誤作動は
起こらないので安全、と言う訳だ。しかし本レンズでは、
KAFとKAF2の2つの世代にまたがるレンズであるので、
プロトコルが中途半端な恐れがある。よって、安全の為、
懐の深い(=プロトコル互換性が高い)K10Dを使用して
いる訳だ。

・・という事で、様々な時代のレンズを使うマニアの場合
には、様々な時代のカメラを所有しておいて、安全を確保
あるいは確認しながらでないと、レンズのせいでカメラを
壊してしまうリスクがある等、「危ない綱渡り」となる。

勿論、こうした事は、ハードウェア等全般の原理理解や
知識も高度なレベルで必要とされるし、各時代の機体を所有
していてそれらを使える環境も必要な為、あまり初級中級層
とか初級マニア層等での、ジャンク買いは推奨できない。
c0032138_08500684.jpg
さて、肝心の本レンズF80-200mmの性能であるが、
まあ普通の望遠ズームだ。準オールド級の時代のズームで
あるので極端に性能が劣る訳でも無いし、逆に特筆する
べき性能も無い。

この手の(準)オールドズームの場合、普通に逆光を避け、
かつボケ質が破綻しにくい状況を作り出す(ボケ質破綻回避の
手法は様々な記事で色々と説明して来てはいるが、その究極の
対策は、あえて背景ボケを生じ無いように平面描写被写体に
特化してしまう事だ)
それから、周辺収差もあるだろうから、APS-C機やμ4/3を
使って画面周辺をカットしてしまうのも対策の1つだ。

オールドや準オールドのレンズは、そうやって様々に
工夫して撮れば、別に悪い写りになる事もなく、ちゃんと
普通に良く写る。
c0032138_08500690.jpg
勿論、レンズ側のみならず、古い(デジタル)カメラだって、
高感度を使わないような状況で撮るとか、画像処理エンジンの
未成熟な性能限界を避ける為に、できるだけ低コントラスト
状態で(曇りや雨天等)撮る、かつ、その状況では発色も
あまりシビアに要求されないだろうから、そうした条件範囲
の中では、古いデジタル機の性能的弱点を回避可能となる。

ちなみに、オールドシステムの場合は、AFレンズであっても
MFで撮るのが基本だ。そうすれば、レンズ側、カメラ側の
いずれのAF方式・速度・精度あるいは測距点数、動体追従
等のAF性能的な未成熟も、全く気にする必要が無くなる。

すなわち、オールドレンズ&オールドカメラによるシステム
を使っても、性能的な不満は何ら問題にならないという事だ。

近年の高性能なレンズやカメラの性能に「受動的に頼って」
写真を撮ろうとする初級中級層には、このあたりは是非
理解してもらいたい重要なポイントである。

----
では、次のレンズ
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レンズは、TAMRON 18-270mm/f3.5-6.3 DiⅡ VC PZD
(Model B008)(中古購入価格 17,000円)
カメラは、NIKON D500 (APS-C機)

2010年発売の、ズーム比15を誇るAPS-C機専用小型軽量
高倍率ズームレンズ。

ほぼ同スペックの前モデルとして、B003(2008年)
そして後継モデルにB008TS(2016年)がある。
c0032138_08504466.jpg
PZDとは「ピエゾ・ドライブ」という意味であり、
「ピエゾ素子」とは「圧電素子」である。圧電素子は様々な
工業分野で使われており、様々な材料が用いられるが、
1)力を加えると電気が出る(電圧に変換される)
2)電圧をかけると変形する(音を出す事も出来る)
の大きく2つの性質を持つ。

前者は、ギター用のピエゾ・ピックアップが有名であろう。
(生ギターを電気ギターにする事ができる)
後者の性質は小型スピーカー(イヤホン含む)などでも
使われるのだが、本レンズの場合は電圧をかけて変形した
素子を回転する力に変えてAFを駆動する。つまりモーター
替わりであるが、小型化とか、コストダウン、静音化等の
メリットがあると想像される(参考:近年のSONYのDDSSM
モーターも圧電素子に超音波を加えての変形を、回転力に
変換するという、PZDと類似の技術原理を用いている)

AFの速度・精度は、まあ普通である。TAMRONでは、この素子
を使った場合「回転が止まるのが速い」と言っていて、
これはつまり、速く廻しても大丈夫だ、と言う意味であろう。

レンズの性能だが、描写力はまあ普通だ。あまりにズーム比
が大きいレンズだと、特定の焦点域(例:望遠側等)で収差
等による解像力低下等、様々な課題が出るリスクがある。

事実、本レンズでも望遠端が弱い(解像感の低下が起こる)のと
広角端では歪曲収差が出るのだが、それらに気をつけて、中間
焦点距離を主体とする通常撮影であれば、あまり気になる程の
弱点では無い。
c0032138_08504440.jpg
問題点としては、NIKON D500との組み合わせではAEが
合わず、2/3段~1段程度アンダー露出になる欠点がある。
これは、他のニコン機、例えばD300との組み合わせでは
発生せず、Dfの場合は僅かに(1/3段~1/2段)その傾向が
ある、まあDfはフルサイズ機であり、クロップモードで
使った場合なので、露出計の輝度分布が変わっている事も
あるかもしれない。すなわち、本レンズの発売時以降
(2010年以降)のニコン機では露出アンダーになる恐れが
ある。(参考:D500の場合、x1.3倍にクロップすると、
Dfと同様の1/2段程度のアンダー露出状態に変化する)

この原因は不明だが、レンズ側のプロトコルの問題か、
又はボディ側露出決定プログラムの課題だと推測される。

例えばだが、ニコン純正レンズ等が装着された場合、ボディ
は当然それを認識し、正しい露出値が得られるが、そうで
無い他社製レンズ等ではプログラムにIF文の分岐があり、
そちらの露出決定式が誤っている(バグ)か、又は意図的に
適当な計算式が入っている(排他的仕様)かも知れない。

仮に計算式が誤っていたとしても、ニコンでは発見しにくい
だろう。他社のレンズを全て装着してテストしている訳は
無いからだ。(極端に言えば、エンジニアがわざとそういう
排他的仕様の意地悪なコーディングを行っても、メーカーと
して発見しずらい状況にある)

逆に、TAMRONでは当然すぐ発見できるだろうが、レンズ発売後
の新ボディとの相性についてはわからない。だからまあ、次の
製品で対策を行う事になるだろう。(注:レンズ側の
ファームウェア・アップデートは、まだ本レンズの時代では
一般的な措置では無かった)

事実、近年のTAMRONレンズはNIKON機に装着しても露出が
狂う事は無い、何らかの対策が施されているのであろう。
結局、製品の時期的な組み合わせのタイミングが合わないと
こうなってしまう事がある。なお、過去の様々な時代では、
NIKON機とTAMRONレンズの間で、こういう事は発生しなかった。

それと、この時期のNIKON機の露出に係わる新機能と言えば、
「ビネットコントロール」(周辺光量落ち又は口径食の補正)
がある。これが入っている機種との組み合わせで、この問題が
発生するようにも思えるが、多くのカメラで試した訳でも無く、
詳しくは不明だ。
なお、露出が狂っていても、一定の(オフセット)値なので、
露出補正をかければ問題は解決するので、致命的では無い。

余談だが、野鳥等を撮っているシニア・アマチュア層の間で
「TRAMRONのレンズは暗く写る」という悪評判が流れ、買い控え
があるらしい。それの原因と対策は本記事で述べた通りだ。

カメラとレンズにより、たまたまその組み合わせに当たったと
しても、なんとでも回避できるし、それくらいで大騒ぎせずに、
露出補正くらいの簡単な操作はしたらどうか?と思う。

(ちなみに、もしカメラ側で意図的に「排他的仕様」の処置が
行われた場合、市場側に、こういう悪評判を流す事が可能
となる、という情報戦略になる。これはフェア(公正)では
無いので、あまり褒められた話では無い。それから、カメラ
やレンズ機材には殆ど全て「問題点」が存在するが、それを
回避出来ない利用者側のスキルにも大きな課題がある)
c0032138_08504452.jpg
露出の問題を除いて、本レンズには特に弱点は見られない、
まあ、18mmや270mmといった端っこの焦点距離を「行ったり
来たり」するような撮影スタイルをすると収差が目立つので
端っこを使わず、中間焦点距離域に特化するのが注意点だ。

総括として、高ズーム比、手ブレ補正、ユニークなAF駆動方式、
小型軽量、とスペック的にも問題無く、しかも中古も安価だ。

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では、今回ラストのレンズ
c0032138_08505369.jpg
レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 65mm/f2.0
(読み:フォクトレンダー マクロ アポランター)
(注:例によって独語綴り上の変母音は省略している)
(新品購入価格 122,000円)
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)

2017年に発売された、フルサイズ対応大口径MF準中望遠
マクロレンズ(以下、MAP65/2)

65mmとは実に中途半端な画角だ。旧来、ニコン等の60mmの
マクロであれば、本ブログにおいては「標準マクロ」と
カテゴライズする事もあったのだが、65mmとなると、
標準とも中望遠とも、どちらとも言えない。
でもまあ、そのあたりは「定義」の問題だけなので、
どうでも良い事だが・・
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本レンズは、SONY E(FE)マウント用でしか発売
されていない。

コシナ・フォクトレンダーでは2000年代初期は各種MF
マウント等に向けてレンズをラインナップをした事も
あったのだが、だんだんと様相が変わってきていて、
2010年代でのNOKTON(ノクトン)F0.95シリーズは
μ4/3専用。また2010年代のSLシリーズ(一眼レフ用
交換レンズ)では、もうNIKON Fマウント(CPU内蔵)
しか作っていないし、2010年代後半からの、このマクロ
アポランター65mm/f2やワイドヘリアー系(10mm/f5.6,
12mm/f5.6.15mm/f4)等は、Eマウントのみで、他の
マウント版の商品は発売されていない。が、近い将来
には、他社フルサイズ・ミラーレス機マウント(Z,R,L等)
用のレンズが発売される可能性はあるだろう。

SLシリーズ(一眼用)レンズであれば、NIKON FやM42等の
マウントでのフルサイズ対応レンズは、アダプター互換性
が高く、様々なマウントのカメラにでも装着可能であるが、
Eマウントに固定されてしまうと、実の所、他マウントの
カメラで使うのは殆ど不可能だ。
その点が不満ではあるが、まあ、このEマウント版レンズは
電子接点に対応しているので、EXIFが記録でき、MF時に
距離指標がEVF内に表示されたり、α7Ⅱ以降やα9シリーズ
カメラでの内蔵手ブレ補正に対応している等のメリットは
出てくる。
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さて、フォクトレンダーのマクロレンズ、すなわち
「マクロ・アポランター」は、2000年代前半の
Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 125mm/f2.5SL
(ミラーレス第23回,ミラーレス補足編第6回等で紹介)の
MF望遠マクロレンズから、実に16年ぶりの登場となる。

そのMAP125/2.5SLは、1:1(等倍)マクロのMFレンズで
各種マウントで発売され、SL系レンズは旧来ではMFマウント
専用であったのが、MAP125/2.5のみ、EOS(EF)とα(A)の
AF一眼用マウント版が存在していた(つまり、電子接点があり
絞り環が無く、カメラ本体側ダイヤルから絞りを制御する)

ただ、極めて使いこなしが困難なレンズであり、恐らくは
全レンズの中でトップ(ワースト)クラスであろう。
最大の課題はピントリングの回転角が極めて大きい事で、
最短撮影距離(38cm)から、無限遠まで移行するには、
私の指では、14回前後のピントリングの持ち替えが必要な
状態だ。重量級の大型レンズであるので、この持ち替えは
極めて大きな手指への負担(疲労)となる。
おまけに最短撮影距離で絞り開放での被写界深度は、
およそ1.3mm(!)しか無く、ピントも殆ど合わないのだ。

さて、MAP125/2.5SLの話は深追いするのはやめておこう、
非常にレアなレンズであり、現代において入手する事は
かなり困難であるからだ、今更何を書いても始まらない。
(注1:近日中に、このレンズの関連記事を掲載予定だ。
 注2:いまだにMAP125/2.5SLを探しているマニアも居て、
珍しいそれを高価なプレミア価格で取引する場合もあると聞く。
が、コシナ製品はマニア向けで、生産数が少なく、普通は
再生産も行わない。よって、欲しいと思ったら、流通している
期間に入手しておく必要がある。後年になって「あのレンズが
欲しかった」等と言っても、もう手遅れだ。”マニア道”的に
言えば、それは「目利きが甘かった」という事で自己責任だ)
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本MAP65/2だが、1/2倍マクロである、最短撮影距離は31cmだ。
ピントリングの持ち替えは、最短から無限遠までは、およそ
5回程度で済む、ここはMAP125/2.5SLよりも、ずっと快適な
操作性となった。

ただし、スペックから想像するよりも重量級の大型レンズ
である。重量は625g、フィルター径はφ67mmもある。

私も最初に手にした時は驚いてしまった。
なにせ想像していたのは、TAMRON SP60mm/f2(G005)
(ミラーレス第75回、ハイコスパ第14回等)クラスの
サイズ感であったのだ。
そのレンズであれば、重量は約350g、フィルター径も
φ55mmに収まる。ちなみにレンズ構成も、SP60/2より
本MAP65/2の方がずっと少ない枚数であるにもかかわらずだ。

まあ、SP60/2はAPS-C機専用で、本MAP65/2はフルサイズ
対応なので、そこの差が大きい事であろう。
イメージサークルや周辺画質確保の意味で、やはりフルサイズ
対応レンズは、大きく重くなってしまう。そこは弱点である
とも言え、必ずしもフルサイズ・システムが様々な面で優れて
いる訳では無いのだ。

重たい事により、小型軽量のα7(シリーズ)との組み合わせ
では若干のアンバランスを感じる。
つまり、MFレンズの場合はボディを含めた重心位置が丁度
ピントリングの位置に来ないと、ピント操作のたびに
カメラの持ち替えが発生して、やってられなくなるのだ。

だが、本MAP65/2の場合は、そのあたりにも配慮している
のか? 約2cm幅と細目のローレット(凹凸加工の事)
ながら、丁度そこが重心バランス位置となる。ただし、
重心をしっかり確保する為には、カメラ底部を手のひらに
乗せたホールデイングのスタイルとならざるを得ないので、
若干だが、他の一般的なレンズと比べてバランスは悪い。

また、この時、絞り環が(昔のオリンパスOM用のレンズの
ように)レンズ最先端部にあるので、カメラを持ち替えず
には絞りの設定操作が困難だ。
どうせEマウント専用レンズを作るならば、思い切って
絞り環を廃するか、またはA位置を儲け、カメラ本体側の
ダイヤルから絞り値を制御できるようにしても良かった
のではなかろうか?
まあ、すなわち、指動線への配慮があまり無いレンズだ。
(注:別記事で説明するが、α7以外のSONY製Eマウント
カメラとで、バランスが若干ましになる場合がある)
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さて、肝心の描写力であるが、近代レンズの例に漏れず
解像感がかなり強い、この特徴があまりに強すぎると、
被写体の種類、あるいは希望する作画において制限が出て
きてしまう場合がある。

特にマクロレンズの場合は、花などの撮影においては
あまり解像感を強めず、柔らかい描写特性を希望する場合も
多々あると思うので、そのあたりの高解像力は、長所ではなく
むしろ欠点にも成り得てしまうのだ。

具体的には前述のTAMRON SP60/2(G005)とか、SONY E30/3.5
(ミラーレス第72回記事等)等は、マクロとして解像感が
強すぎる印象がある。特にE30/3.5は、私に言わせれば
「輪郭強調を掛けたような、カリッカリの描写」であり
花の撮影等には向かないレンズだと評価している。

まあ本MAP65/2で、少しでも解像感を弱めたいと思う
場合は、あえて絞り開放とし、わずかながら収差等を
発生させて「甘い描写」にしてしまう解決法もあるとは思う。
ただ、1/2倍マクロとは言え、フルサイズ対応、かつ大口径
なので、近接領域の撮影では被写界深度は結構浅い。
(計算例として撮影距離60cm、F2で、被写界深度は約1cm)
よって、MFでのピント合わせは慎重に行う必要がある。

なお、この時、α7等の本体側で「MFアシスト」機能を
ONにしておくと、電子接点レンズ故に、おせっかいな事に
ピントリングを廻すと自動拡大表示されてしまう。

勿論その拡大表示は画面中央がデフォルト位置だ、
花などの近接撮影では、必ずしも画面中央部でピントを
合わせる事は無いので、拡大枠の移動操作、および拡大解除
の操作が必須となり、操作性(すなわち指の移動、手数)が
悪化してしまう。(注:これはEVFを覗きながらの状態だと
手探りとなる為、極めてやりにくい)

だから、本レンズMAP65/2を使用する際には「MFアシスト」
をOFFにし、SONYミラーレス機全般の優秀なピーキング機能を
ONとし、ピーキングに頼ってピントを合わせて撮影する方が
むしろ操作の手数的には、ずっと効率的だ。

なお、被写界深度が極めて浅くなる最短撮影距離近辺では
さしもの優秀なピーキング機能でも、被写体の輪郭状況
(輝度勾配分布)によっては精度が怪しくなる。よって
その場合はさらに手動拡大機能を併用するなどの必要性が
出てくるであろう。あるいは、ピーキング強度(レベル)を
高(良く出る)ではなく、あえて弱めて(中、弱)として
輝度勾配検出の閾値を上げ、滅多にピーキングが反応しない、
ようにしておくと、若干ピント精度が上がる可能性もある。
この「強度変更」を、Fnキーなどに予め割り振っておくと、
EVFを覗きながらでも操作が可能で、効率的だ。

なお、ピーキングのこうした使い方は、本レンズに限らず
被写界深度の浅い、他のマクロレンズ、超大口径レンズや、
大口径(中)望遠レンズであっても有効であるが、
原理的にかなり高度で、画像処理(解析)の知識も必要な
手法なので、上級者以上(専門家)向けとしておく。
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余談が長くなったが、本MAP65/2の性能総括であるが、
解像感が高く、ボケ質は良く、ボケ質破綻も出にくい、
さらに、コントラスト特性に優れ、深みのある描写傾向だ。
(「昔のツァイスっぽい」と評する事も出来る)
逆光耐性も高く、レンズの質感やピントリングの感触も高い。
まあ、性能的には不満は無いが、「大きく重く高価である」
という「三重苦」のレンズである事も確かだ。

それに、高い解像力は、それが強すぎる場合、被写体をかなり
選ぶ(制限する)事となり、マクロレンズとしては、少々
弱点になる可能性もある。
また、高価でマニアックなレンズであり、今後の中古流通も
殆ど期待できない。
これらの様々な状況から、上級者あるいは上級マニア向け
のレンズである、と評価しておく。

なお、前述のコシナ製品の流通量の少なさの問題がある。
コシナ製に限らず、生産完了となった後年になって
レアなレンズを所有しているマニア層や投機層等では
「このレンズは非常に良い」と過剰な評価をする場合が多い。

そのあたりには十分に注意しておく必要がある。さも無いと、
評判に踊らされて、レアなレンズを高額な中古相場で買う事と
なり、実際に手にしてみると、色々と課題があるレンズだった
という場合も多々あるからだ。
(高値で売却する為に、その手の情報を流す人も居ると聞く)
あくまで発売期間に十分に性能を見極め、その絶対的価値を
自身で評価し、購入に値するかを決めなければならない。

また、本レンズには、後年(2018年末)に発売された、
姉妹レンズである、MAP110/2.5が存在している。
そちらも入手済みであり、後日紹介予定だが、個人的には
110mmの方が総合的に好みのレンズだ。
ただし、両レンズともかなり高価であり、コスパは悪い。

いずれにしても、近年の国産新鋭レンズは、殆ど全てが
高付加価値型商品(=高性能化して値上げする)となって、
コスパが悪くなりすぎている状態だ。
これでは売れるべきものも売れまい。

まあ、その隙をついて、2017~2018年位から、中国製等
の新鋭海外製レンズが急速に国内市場に参入してきている。
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それらの新鋭レンズ群の一部は、およそ50年程前の名レンズ
の設計をそのままに、1/2~2/3程度にスケールダウンした、
APS-C型ミラーレス機用の広角レンズである事が、購入後の
検証でわかってきた。

昔の名レンズのミニチュア版であるから、新規開発等の
費用が大幅に削減され、量産効果も出て、とても安価だ。

これらを、薬品に例えて「ジェネリック・レンズ」と
私は呼んでいる。追々本シリーズ記事等で、それらを
紹介していくが、安価に「オールド名レンズ」を買って
いるのと同等であり、写りに不満がある訳でも無い。

(注:とは言え、半世紀も前の設計のオールドMFレンズ
故に、様々な弱点はある。それらを回避しながら使うには
高度な技能が必要であり、初級中級層では困難だと思う。
「レンズの言うがまま」に撮っていたら、「やはり安物だ、
写りが悪い!」という評価で終わってしまう事だろう)

まあ、現代の製品の「コスパ」については、色々と考え
させられる状況になっている・・

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さて、今回の記事は、このあたり迄とする。
次回は、趣向を変えた補足編とする予定だ。

ミラーレス・クラッシックス(15)FUJIFILM X-T1

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本シリーズは、所有しているミラーレス機の本体の詳細を
世代別に紹介して行く記事だ。

今回はミラーレス第三世代=発展期(注:世代の定義は第一回
記事参照)のFUJIFILM X-T1(2014年)を紹介しよう。
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レンズは、FUJIFILM FUJINON XF 56mm/f1.2R APD
(中古購入価格 112,000円)
(ミラーレス・マニアックス第17回、第30回、名玉編第3回
ハイコスパ第21回、アポダイゼーション・グランドスラム等
で紹介)を使用する。

以降、本システムで撮影した写真を交えながら記事を進める。
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本機はノーマルなX-T1(黒塗装)ではなく、グラファイト・
シルバー・エディションという特別塗装を施したバージョンで、
ノーマル版のX-T1から9ヶ月後の2014年11月に発売された
モデルである。

ノーマルのX-T1との違いは、塗装の他、ストラップ等の付属品が
高級なバージョンになっている事くらいだ。発売時には、最新の
ファームウェアを搭載していた事でノーマル機との差別化を
図ったのだが、そのファームアップはノーマル機でも行う事が
出来たし、その後のさらなるファームアップで両者同等となり、
現時点での実質的な両者の差異は、外観くらいでしか無い。
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本機の購入目的だが、本シリーズ第6回記事で紹介した
FUJIFILM X-E1が、FUJI最初のミラーレス機であった事等を
理由として完成度が低く、実使用上に多大な問題があり、
何らかの後継機でそれを代替する必要があった為だ。

なお、X-E1については持論の減価償却のルール(この時代の
安価なミラーレス機では1枚2円の法則)をクリアしていた。
ちなみに旧機種は、私の場合処分する事はなく、予備機として
使用を続ける事としている。

そのX-E1の問題点だが、AF/MF性能と操作系が大きな2つの
課題であった。
本機X-T1購入時に、それらをチェックしたのだが、まず、
AF性能は、像面位相差AFを新たに搭載した事で、完璧とは
言えないまでも、X-E1から改善が図られている。
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元々のX-E1の購入目的は史上初のAFアポダイゼーションレンズ
であるXF 56mm/f1.2APD(2014年、本記事で使用)を使う
という、ただその1点であったのだが、レンズ側のAF性能にも
課題が多い同レンズを、本機X-T1の新型AFでカバーできるか
どうか?については購入前には調べようがなかった。
まあ、その点は本記事で検証していく事としよう。
c0032138_17052140.jpg
操作系については残念ながら旧機種からの大きな改善点は無い。
依然使い難さが残っている。この点に関してはFUJIFILM社自身に
さほどカメラ開発のノウハウが蓄積されていないであろう事が
原因と思われる(FUJIのカメラ開発の歴史については第6回
記事を参照)

本機X-T1の操作系が不十分である事は購入前から覚悟の上だが、
その代わりX-T1には多数のアナログダイヤルが搭載されている。
これらによる「操作性」については、悪く無いだろう事が予想
できた。

なお、「操作系」と「操作性」を区別している事は、本ブログの
過去の様々な記事でも書いてきた通りだ。
「操作系」は、デジタル写真を撮る上で、必要となる様々な
カメラ設定が効率的に(無駄が無く、素早く)出来るかどうかの
要素であり、これが優秀なカメラは、他社機を含めて見渡しても、
さほど多くは無い。
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さて、本機X-T1の最大の特徴だが、
3つのアナログダイヤルと、2つのアナログレバー(これらは
有限回転式)と、2つのデジタルダイヤル(無限回転式)による
アナログライク(似ている)な「操作性」のコンセプトだ。

アナログダイヤルとデジタルダイヤルの長所短所については、
本シリーズ第6回のX-E1の記事、および「匠の写真用語辞典
第4回記事」でも詳しく書いてあるので今回は省略するが、
すなわち、どちらも一長一短あって、どの設定操作に
それらを割り振るかで全体の操作系設計の優劣が出てくる。
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本機X-T1での、それぞれのダイヤルの用途をあげていこう。

アナログダイヤル1:ISO感度

ISO感度が常時直接変更できる機能を持つデジタルカメラは
極めて少ない、例えばNIKON Df、RICOH GXR、SONY NEX/α
PENTAX KP等、および、コントロールリング等にISO変更を
アサイン可能なFUJIFILM XQ1等のコンパクト機であるが、
いずれにしても数える程しかない。
そういう点では、本機X-T1(X-T2以降も)は希少なカメラだ。

ただし問題がある。ISO6400の上は、HI1,HI2となって
いるのだが、ここにはISO12800,25600,51200の3つの内
いずれか2つしかアサインできない。
ISOいくつをアサインしたかは、いちいち覚えておけない。
(その操作をすれば、モニターに表示は出る)
まあ、HI3を儲けたら済んだ話なのであるが、使用部品
の接点数が足りなかったのであろう。(X-T2/X-T3では、
さらに設定可能感度が1つ減った)
 
ただまあ、旧機種X-E1ではISO変更ボタンが無い(忘れた?)
という、非常にお粗末な仕様であったので、それに比べたら
進歩している。

ISOをアナログダイヤルに常設した事で、メニューからの
ISO変更は、両者に矛盾が生じる為できない。
しかし、軍艦部(カメラ上部の事)の左側にあるダイヤルは、
左手でも右手でも廻し難いという課題があり、頻繁にISO感度
を変えながら撮影する、というスタイルには適さない。

なお、この「頻繁に変更できない」が、アナログ操作子の
弱点であり、フィルム時代は、こういうダイヤル操作子でも
まあよかったのだが(のんびり撮っても良い)現代の撮影
技法には適していない点もある(スピーディで無い)

また、このダイヤルにはロック機構があって廻し難い事は
大きな欠点である(注:X-T2以降では、このロック機構の
ON/OFFが切り替えられるようになった、これは良い改良点だ)
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アナログダイヤル2:シャッター速度(A位置付き)

シャッター速度を手動で設定する、という撮影スタイルは
被写体状況が極めて限られている為、あまり用途の無い
ダイヤルである。
絞り環が有るRレンズで、A位置を持ち、レンズ側のA位置と
組み合わせて使う事で「PSAMダイヤル」を廃する事ができる
という点は長所であるが、本機が最初という訳ではなく、
古くはMINOLTA XD(1977)やMAMIYA ZE-X(1981),
PENTAX MZ-5/3シリーズ(1995~1997)や、本機以前の
FUJIのミラーレス機でも採用されていた。

なお、シャッター速度を任意に変更してしまった際に
AUTO ISOでの感度が、設定した絞り値とシャッター速度に
できるだけ追従してくれるように動いたら、このダイヤルには
少し意味が出てくるのであるが、FUJIFILMの機体に、その機能
は無く、NIKONやPENTAX,SONY等の一部のメーカーのカメラのみ
でしかISO追従は実現されていない。

それと、1段刻みは精度不足であり、NIKON Df(2013)のように
デジタルダイヤルで1/3段の微調整を行える機能は無い。

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レンズ側アナログダイヤル:絞り環(A位置付き)

ボディ側の機能では無いのだが、Xマウント用高級レンズには
絞り環が存在している物が殆どなので(注:R型番のもの)
上記シャッターダイヤルとの組み合わせでアナログライクな
露出操作性が実現する。

ただし、レンズ側の絞り値の変化ステップは、装着レンズの
仕様に依存する。高級レンズは恐らく殆どが1/3段ステップに
なっていると思われ、本記事で使用のXF56/1.2R APDも1/3段だ。

しかし、レンズ側絞り値が1/3段刻みで変化したとしても
例えば上記シャッター速度ダイヤルは1段刻みでしか変化しない、
また、AUTO ISOあるいは手動ISOも1段刻みなので、レンズ側で
細かく調整した場合において、M露出モードでは、ぴったりの
適正露出値が得られ無い場合が多々ある。

これもアナログ操作子(操作性)の弱点であると言える。
すなわち、あまり精密な設定が出来ないのだ。
(注:NIKON Dfでは、シャッターダイヤルは1段刻みだが
後部電子ダイヤルで1/3段ステップの微調整が出来る)
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アナログダイヤル3:露出補正

ここも1/3段ステップ固定である、X-E1の記事でも書いたが、
不用意に動いてしまう事が良くあるので、モニター/EVFの
露出補正インジケーターには常に注意を払う必要がある。
なお、1/2段ステップに変更する事はできない。
(ミノルタα-7,KONICA MINOLTA α-7 Digital,CONTAX N1
の3機種のみ1/2段、1/3段切り替え式のアナログダイヤルが
付いていた)
 
アナログダイヤルでの切り替えステップ精度不足を補う為か、
本機X-T1では、多彩なブラケットモードが搭載されている。
例えば、露出(AE)ブラケットは1/3.2/3,1段刻みが出来る。

その他、ISOブラケット、フィルムシミュレーションブラケット、
ホワイトバランスブラケットも可能だが、同時にはどれか1つ
しか選択できない。

また、露出補正ダイヤルは、露出(AE)ブラケットにアドオン
される、例えば、露出補正+2として、±1段のブラケットを
行うと、+1,+2,+3の3枚の写真が連続して撮れる。
(注:連写モードにする必要は無く、1回のレリーズ操作で
3枚の写真が連続して撮れる、この仕様は良し悪しがある)

しかし、露出補正+ブラケットが、どの値に効いているかは
わからない。他社機では、露出補正インジケーター上に
ブラケットで設定された複数の露出値が表示される場合が
多いのに、本機は、そのあたりに対する操作系配慮が無い。  
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アナログレバー1:ドライブモード

連写、ブラケット、アドバンスドフィルター(エフェクト)
パノラマ、を切り替える事ができる。
ただ、これらのモードのアイコンはモニター内では小さくて
見え難く、アナログレバーを意図せず動かしてしまった際に、
分かり難い。

それから「連写+エフェクト」が出来ない、というのは、
このレバーで、それを変更する理由になっていると思うのだが、
そもそも連写でエフェクトが使えないという制限が問題だ。

本機にはデジタルズーム機能はない(注:それもまた問題だ)が
それ(超解像)があるFUJIのコンパクト機のX-S1やXQ1では
連写モードとすると、デジタルズームが効かなくなり、
何故それが出来ないのか?が疑問であると同時に、カメラ操作中に
機能が働かない原因がわからず、慌ててしまう場合もある。

これらは連写モード時でも、エフェクトや超解像が効くように
改善すれば良いだけの話ではなかろうか?
そうすれば、ドライブモードレバー上にアドバンスドフィルター
機能がある、という「操作系上の欠点」も改善できる。

エフェクトは掛けたい時にすぐ掛けられる状態になっている
必要がある、これはまあ、旧機種X-E1ではエフェクト機能が
無く、それ以降に搭載された新機能であるので、そのあたりの
必然性が設計側でも良く分かっていないのだと思われる。

要は、操作系の設計とは、設計者が写真を撮る事に精通して
いない限り、使い易い設計は出来ないのだ。機能を、ただ
「追加しました」では不十分である事が殆どだ。 
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アナログレバー2:測光モード

この機能も上記ドライブモードと同様に、設定を変えた際での
アイコンが小さく見え難い。変えたつもりが無くても、不用意に
動かしてしまう事もある訳だ。
 
なお、例えばメニューからでも、これらの機能を変更できる
ようにしたとする、この場合、アナログレバーの設定と
メニューからの操作に矛盾が生じるので、そういうメニューを
追加することが出来ず、必ずレバーやダイヤルで操作しなければ
ならない、時にそれは、カメラの構えを解く必要があり不合理だ。
これがアナログ操作子の弱点となる。

なお、音響や電子楽器の世界では、アナログのレバー(操作子)
の設定を記憶できる機能が求められた1980~1990年代には、
記憶した設定値と現在のレバー等の値が異なる場合、モーター
動力を用いて、自動的に記憶値までレバーを動かす装置が
作られた事がある(デジタルミキサーでのモーターフェーダー等)
 
カメラでも、設定値をメニューから変えたり記憶値を呼び出した
際に、アナログ・ダイヤルやレバーがその値まで自動的に動いて
くれれば面白いが、まあ、カメラのような小型機械ではそうした
大がかりな仕掛けを入れる事は無理であろう。

なお、その後の電子楽器では有限回転式アナログダイヤル等の
値と、記憶値を呼び出した状態との指標の差異の矛盾を容認し、
再度そのアナログダイヤル等に触れた場合のみ、新規の設定値と
する方式が考え出された、これは合理的な操作系である。
電源OFF時や再度起動した際に若干の矛盾も出てはくるが、
楽器では音色等のプリセット群で、そこを解決している。

ここはカメラでも検討の余地がある操作系思想だ。

電子楽器はカメラよりも15年も早くデジタル化されている。
他の市場分野での優れた発想は大いに参考にするべきであろう。

写真機材において、「前機種を改良する事」しか考えていない
という企画開発スタイルは、あまり褒められたものでは無い。
近年のカメラが皆、そうなってしまったのは残念な限りだ。
新しい発想を入れて行かない限り、良い製品は出来ないのだ。
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デジタルダイヤル1:絞り値設定(前)

これは無限回転式のダイヤルだ、前後2つあるが、絞り値と
シャッター速度にしかアサインできない物足りない仕様だ。
(注:R型番では無い、絞り環の無い普及レンズへの対応の
意味があるのだろうが、そう固定するのは良く無いと思う)

これらのデジタルダイヤルを、例えばホワイトバランスや
連写速度設定(注:後者を実用化した機種は存在していない)
等の任意の機能にアサインできたならば、相当に使い易い
カメラとなっていたはずなのに、残念な仕様である。
 
絞りとシャッター速度はそれぞれレンズと本体に専用の操作子
があるため、前後ダイヤルは基本的には全く用途が無いのだが、
絞りとシャッターの両者をA位置としたプログラム露出モード時
においてのみ、これら前後ダイヤルでプログラムシフト操作が
可能になる、これはPENTAXにおける「ハイパープログラム」と
類似の操作系となるので、まあマニアックではあるが、実際
にはプログラムシフトは、1ダイヤルだけで実現できる機能で
ある為、2つのダイヤルをこの目的に使うのは勿体無い。
(注:R型番で無いFUJIのレンズでは、絞り環を備えていない為
その際は、このダイヤルを使用する意味が出てくる)

加えて、プログラムシフト動作時は、誤操作防止の意味からか、
最初のダイヤル回転では、すぐにそれは動作せず、2~3回
廻して、初めてプログラムシフトが効くようになる。
これは少々不要な「安全対策」であり、即時動いた方が良い
であろう(しかし、ロック機構があるよりだいぶマシだ)

まあ、X-T1の用途やユーザー層を考えると、絞り環のある
R型レンズでは、前後ダイヤルで絞りやシャッター速度を
調整する事はまず無いであろう。
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デジタルダイヤル2:シャッター速度設定(後)

これも上記前ダイヤルと同じで、殆ど用途が無い。
ただ、「Qメニュー」という一種のコントロールパネル機能を
表示して、設定値の一覧表をGUI的に操作する際には、設定
項目の上下移動を(2次元操作子とも言える)十字キーで変更し、
設定値の変更を、後ダイヤル(注:前ダイヤルでも可能)で
操作する。

慣れれば右手親指で十字キーを操作し、右手中指で前ダイヤル
を操作して設定変更するのが最も効率的だが、カメラをホールド
するのが難しく、少々やりにくい。

なお、絞り環つきRレンズを主体とした使用法においては、
この目的のみに前後ダイヤルを使うのは、少々馬鹿馬鹿しい。
操作系的に言えば(ボタンを押す手数は増えるが)十字キー
中央のOK(MENU)ボタンを押してから設定値を変更する方が、
パソコン等におけるマウス等を用いた一般的GUI操作系と概念が
共通化出来てわかりやすいと思う。

前後ダイヤルの用途が殆ど無いので、このような仕様となって
いるのかも知れないが、使いやすさを優先するべきである事は
言うまでもなく、使い道の無いダイヤルは無い方がマシだと思う。
(この思想から、本機の後続使用機をX-T2系とする事はやめて、
ダイヤルが減ったX-T10としている。後日紹介予定)

例えば、本機X-T1の連写は速いので、このダイヤルで連写中の
連写速度設定が可能であれば、かなり使い易いだろうが、
残念ながらそういう操作が可能な機種は存在しない模様だ。
c0032138_17043871.jpg
・・と言う事で、本機のアナログ操作性は事前に思っていた
程に使い易いものでは無いが、これに加えて十字キーの上下
左右の全てをFn(ファンクション)にアサインできるという
機能が付いた。

これは、旧機種X-E1の際に、それが出来ない為、さんざん
「使い難い」と各記事に書いたのであるが、やっと改善された
事になる。ただし他社機のように何処のFnに何の機能をアサイン
したかの一覧を表示する機能は無いので、「押してみるまで
何が入っていたか思い出せない」という、不十分な仕様だ。

他、アナログ操作系(操作子)との矛盾が出るため、これらの
Fnに設定するべき機能はあまり無く、せっかく、合計7つもの
Fnが出来たのにもかかわわず、有効な操作系にカスタマイズ
する事ができない。

つまりは「なんだか良くわからない使い難いカメラ」にしか
ならない訳であり、操作系の設計コンセプトが練れていない
事が、ここでもまた問題となっている。
c0032138_17053703.jpg
それと、メニューだが、相変わらず旧機種同様にメニュー位置
メモリーすらなく、どういう設計方針なのか理解に苦しむ。

ちなみに、撮影メニューと設定メニューは縦にカスケードに
並んでいるが、設定メニューに送るには、毎回、撮影メニューを
全て経由しなくてはならない。ここの操作系は好ましく無い。
(注1:逆廻りは可能だが、煩雑である事は変わらない。
 注2:X-T2以降では、階層構造メニューになっている。)

という事で、本機X-T1や、そのアナログライクな外観や仕様から
類推できる程には使い易いカメラではなく、あくまで銀塩一眼
レフ的な機構のみが操作性コンセプトの長所であり、それすらも
また、現代的なデジタル撮影のスタイルに必要な操作系要素と
イコールでは無いので、使い難さを感じてしまう。

ただまあ、ここからは個人的な見解だが・・
「アナログ操作系は、格好良い」という点は言えるかも知れない。
実際に使い易いか否かは別として、沢山のダイヤルが並んでいて
各種の設定が一目瞭然、おまけに、電源を切っている時にすら
その設定を変更する事ができるので、電源ONで、すぐに所望する
絞り値や露出補正値の設定が出来ている点は好ましい。

だが、暗所等においては、手探りだけでダイヤル等の設定は
出来ないので、その場合は電源をONしてからモニター上等で
設定値を確認する必要はあるが・・
c0032138_17053713.jpg
X-T1の長所だが、ファインダー周りは旧機種よりだいぶ改善
されている、倍率は高く、ピーキング機能の精度もだいぶ向上
している(ただし大口径レンズでは厳しい)
期待した「デジタル・スプリット・イメージ」は、思ったよりも
精度が出ておらず、しかもピーキングと2者択一であったので、
ピーキングを常用する事とした。
まあでも、MF全般の性能が高くなったのは確かだと思う。

他には、問題であったマクロ手動切り替えだが、ファームウェア
のVer 3あたりから、やっとオートマクロ機能が搭載された。
ただ、期待していた割には、精度があまり高くなく、相変わらず
近接撮影でAF精度がかなり落ち込んでしまう。

つまりピント距離が分からない状態では、距離エンコード表を
近接用の物に差し替える事は出来ず、技術的に若干矛盾がある
状態だ。(そもそも、レンズ側の距離エンコード・テーブルを
遠近で二重化している事が仕様設計上の大きな課題だ。
結局のところ、AFシステム設計のノウハウ不足を感じる)

X-E1との組み合わせては壊滅的な低性能しか得られなかった
今回使用のXF56/1.2APDレンズとの組み合わせは、像面位相差
AF機能の新搭載によりX-E1よりはだいぶ改善されたものの、
依然一眼レフ等に比べて、AF速度、精度の低さを感じてしまう。

ただまあ、MF性能すら壊滅的であったX-E1とは異なり、
本機X-T1ではMF性能が若干改善されているので、AFが合わない
際にもMFで対応する事は、まあ可能となった。
c0032138_17053711.jpg
なお、MFレンズ使用時は、MFモードに切り替えないと
ピーキングが出ず、シャッター半押しでピーキングが停止する。
AFレンズでは、A&MFモードで、半押し状態でピントリングを
廻すとMFとなり、その際にはピーキングが出るが、今度は
シャッター半押しを解除するとピーキングが消えてしまう。
また、アドバンスドフィルター使用時はピーキングが出ない。

これらの動作は、ちょっとややこしく、ピーキングが常時出て
いても良かったように思う。また旧機種X-E1とも微妙に動作が
異なり、仕様の決め方に一貫性が無い。

これは、改善をしたことで、そうなったのか、それとも機種毎に
個別に仕様を決めていて、偶然そうなったのか良くわからない。

私は、FUJIFILMのカメラは銀塩時代から多数使ってはいるが、
機種毎の仕様のばらつきが大きく、操作系などは勿論のこと、
例えばバッテリー1つとっても機種毎にバラバラで互換性が無く
メーカーとしてのトータルの設計思想が殆ど感じられず、あまり
好ましく無いと常々思っていた。その原因は殆どの機種が自社製造
ではなく、他社OEM開発な事も影響していると思われ、設計思想の
一貫性や開発ノウハウの蓄積が難しい状況であるのだろう。

あまりに酷いと思えば、「購入しない」という選択肢も勿論ある
・・というか、それがユーザー側からできる唯一の対抗手段だ。

近年のカメラ市場の低迷から、市場の崩壊を防ぐ必要があり、
新製品については、どのメディアも褒める傾向が強く、メディア
からの情報は一切参考に出来ない状況なので、ユーザー側で
その新製品の真の実力を見抜く事は極めて難しいのであるが、
ビギナー層はともかく、マニアや上級層であれば、質の悪い
カメラを自力で見抜く能力は必要だと思う。

が、カメラの短所ばかりを責めていても、撮影が楽しく無くなって
しまう、どのカメラにも必ず長所があり、それをちゃんと把握して
活かして使うこともまた、ユーザー側に必要とされる能力だし
「それがユーザーの責務だ」とも言えるであろう。
c0032138_17053794.jpg
さて、本機X-T1の最大の長所は、その「絵作り」だ。

近年のFUJIFILM社のカメラは、2010年代のXシリーズとなって
から、コンパクト機もミラーレス機も、概ね絵作りが良い。
発色がよく、ローパスレス化で解像感も高い、ただし、被写体に
よっては色が濃すぎると感じたり、輪郭強調されたような画に
なったり、明暗差が薄っぺらく感じたり、モアレが発生して
しまう場合もある。

ただまあ、そのあたりは優秀なフィルムシミュレーション機能や
又は本機から搭載されたアドバンスドフィルター(エフェクト)
機能等を状況に応じて組み合わせ、気になる点を個々に回避する
事は可能だ。
c0032138_17041181.jpg
仕様的な完成度は高いとは言えないが、基本性能が低いという
訳では無い、簡単にあげてみよう。

APS-C型CMOSセンサー、1630万画素
ローパスレス(X-TRANSⅡ)像面位相差AF
ISO感度100~51200(拡張時)
最高シャッター速度1/4000秒(電子シャッター可)
高速連写秒8枚、低速3枚(変更不可)、
高速連写時最大連続撮影47枚(画質、メモリーカードに依存)
AFフレーム49点
EVFは倍率0,77倍、236万ドット
モニターは104万ドット(上下チルトのみ)
フィルムシミュレーション有り、
アドバンスドフィルター(エフェクト)搭載、
ぐるっとパノラマモード
本体重量390g

まあ、全般的に可も無く不可も無い標準的な性能だ、
できれば1/8000秒シャッターを搭載して欲しかったが、
いざとなれば、電子シャッターが1/32000秒まで動作する。
電子シャッターには被写体制限も多いが、F1.2級の大口径
レンズを使っても、シャッター速度オーバーにはならない。
(高速シャッター時に、自動で電子シャッターに切り替わる
機能も入っている)

操作系全般は、あまり褒められた状態では無いが、致命的な
欠点とは言えず、アナログ操作性の分かり易さがむしろ長所に
なりうるであろう。
c0032138_17043821.jpg
他の弱点は価格が高い事か。性能的な面からは、たとえば
本シリーズ第8回記事のNEX-7と同等とみなすこともできるのだが、
その機種であれば3万円を切る中古価格で購入する事ができる。
X-T1購入時はノーマル機であっても5万円前後からの中古相場で
あったので、これが3万円程度まで落ちれば適正価格であろう。
なお、グラファイト仕様機は発売時定価で2万6000円のアップ
中古市場においては、ノーマル機より、およそ1万円高だ。
(注:これらは本機購入時点での2016年頃の話。
現在では中古相場が下落し、買い易い価格帯となっている)

それと、デジタル拡大系機能が一切無い点は大いに不満だ。

その他、内蔵フラッシュが無い(外付けフラッシュ付属)事も
問題点としてあげておく。

また、カメラ本体のみならず、FUJIFILM社の交換レンズ群は
高性能なものは、どれも高価すぎて、コスパが悪く感じる。
高価で数が売れずに、レンズ1本あたりの開発・製造の費用の
償却が大きくなれば、ますます高価となり、悪循環だ。
多数のレンズ群を使用したシステム上でのラインナップが
極めて組み難い事も、FUJIFILM Xシステムの弱点であろう。
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さて、最後にFUJI X-T1の総合評価を行ってみよう。、
評価項目は10項目である(第一回記事参照)

【基本・付加性能】★★★☆
【描写力・表現力】★★★★
【操作性・操作系】★★★
【アダプター適性】★★
【マニアック度 】★★★★
【エンジョイ度 】★★★☆
【購入時コスパ 】★☆ (中古購入価格:68,000円)
【完成度(当時)】★★☆
【仕様老朽化寿命】★★★☆
【歴史的価値  】★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】2.9点

評価点は、ほぼ平均値。

見た目あるいはカタログ的な仕様は悪くないのだが、実際に
使うと様々な小さい欠点が目立つカメラだ。

価格の高さから上級者・マニア向けの製品ラインナップの位置
付けだが、正直、この全体仕様であれば、上級者やマニアでは
物足りなく感じる事であろう。

全体に趣味性が強い仕様で、瞬発的な性能に欠ける事、加えて
現代的なスピーディな設定による撮影スタイルにも不適切であり、
高級機でありながら、業務用途等に用いるには苦しい。
実際には、銀塩時代からの操作性等との違和感を感じずに使える
中級クラスの、シニアやベテラン層向けのカメラであると思う。

中古相場の高さは、少々問題なので、もし購入するとしても
さらに年月が過ぎて十分に安価になってからがお勧めだ。
(注:前述のように、現在では結構相場が下がって買い頃だ)

幸いにして後継機X-T2においても、シャッター速度1/8000秒
自在アングルモニター、ダイヤルロック機構のON/OFF可能
メニュー階層構造、あたり以外の大きな改良点は見られず、
そういう点においては、長く使える(=仕様老朽化寿命が
優れている)カメラだと思う。

---
さて、本記事はこのあたりまでで。
次回記事では、引き続き第三世代の機体を紹介する。

【玄人専科】匠の写真用語辞典(12)~MF技法・MF関連 Part2

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一般的なカメラユーザー層には普及していない「特殊用語」や
「本ブログ独自の写真用語や概念」を解説するシリーズ記事。

今回第12回記事では「ノウハウ編」でのサブカテゴリーの
「MF技法・MF関連」(Part2)とする。
この項目では、ビギナー層が苦手とするマニュアルフォーカス
(手動ピント合わせ)撮影のノウハウに係わる用語や概念を
説明しよう。
c0032138_12311644.jpg
<MF技法・MF関連>Part 2

★構えながら設定を行う
 独自概念。

 前記事、MF技法・MF関連 Part 1のラストで、MF(AFも)
 撮影では「カメラの構え」が重要である、と述べた。

 その事に関連して、もう1つ重要なポイントであるが、
 ファインダーやEVFを一旦覗いた状態では、もうカメラの構えは
 崩す(解く)事は一切したくない。

 せっかくピント合わせや構図調整をした後なのに、また構えを
 解いて、何らかのカメラ設定操作をしなければならないのでは、
 効率が悪くてやっていられない訳だ。
 下手をすれば野鳥や昆虫やネコなどの被写体では、モタモタ
 している間に逃げてしまい、撮影機会を逃してしまうし、
 業務撮影では、必要なシーンを撮れなければ致命的問題だ。
c0032138_12311683.jpg
 この対策あるいは注意点としては5点ある、ただしこれらは
 MF操作に限らず、デジタル撮影全般において言える事である。

1)ファインダーやEVF内を覗きながら変更できない設定操作は
  できるだけカメラを構える前に済ませておく事。
c0032138_12311617.jpg
  例えばAFレンズであれば、一眼レフでもミラーレス機でも
  絞り値操作、露出補正操作はダイヤル等でファインダーや
  EVFを覗きながらでも可能である。
  ところが、ドライブモード(連写やブラケット等)や
  ホワイトバランス設定などは、一眼レフのファインダー内
  だけでは操作できない場合が殆どだ。
  これらの「構えながらでは操作不能な設定要素」は撮影前に
  被写体条件に合わせて予め設定しておく事が必須だ。
c0032138_12311640.jpg
  具体的には、飛んでいる鳥を見つけた、そうなればドライブ
  モードは連写が望ましい、でも急には単写からその設定には
  変更できない、こういう場合は、そういう可能性があるという
  事で予め連写モードにしておく。もし単写のままでそういう
  条件に出くわしたら、もう潔く諦めるか、単写で一発必中を
  狙うしか無い訳だ。

  余談だが、連写速度をダイヤルで随時変更可能なカメラが
  実用上では望ましいが、残念ながら現代で、そういう機能を
  持つデジタル機は存在していないと思う。
 (注:PENTAX KP等では、その設定は可能だが、3段階のみで
  かつ連写中ではダイヤルを廻しても連写速度は変更されない)

 2)ミラーレス機や一眼レフのライブビュー時に、タッチパネル
  上にあるソフトウェア的な操作(子)は一切使用しない事。
c0032138_12313774.jpg
  上記の飛ぶ鳥ので例を上げれば、ここではより大きく写す為、
  デジタルズーム機能を使いたいとする。
  なお、被写体の大きさだけならばトリミング編集で代用できるが、
  飛ぶ鳥は青空等を背景としている為、アンダー露出になりやすい。
  適正な明るさにしたい場合は、できるだけカメラ露出計パターン
  での有効範囲内で主要被写体である鳥の面積を大きくした方が、
  希望する露出値を得やすい訳だ。(注:カメラ側のデジタル拡大
  機能の実現方式によっては、露出値が変動しない場合も多い)
  まあ、それもまた編集での輝度補正でなんとかなるとは言えるし
  また当然手ブレもしやすくなるし、被写体を捉えるフレーミング
  も困難になるのだが、そのあたりは「トレードオフ」
 (何かの意図を狙えば、何かが犠牲になる)の関係であり、
  どうバランスを考えるかは、状況やユーザー次第である。

  で、そのデジタルズーム操作をやりたい場合、その機能は
  滅多に使わないからといって、背面モニターのタッチパネル上
  のソフトウェア・Fn(ファンクション)キー等にアサインして
  あったら、もうお手上げである。
  飛ぶ鳥を追うカメラの構えを解いてタッチパネル操作をして
  いたら、鳥は、どこかに飛んでいって終わりだ。
c0032138_12313710.jpg
 「鳥の撮影くらい、逃しても別に問題無いだろう」と思うのは
  ちょっと違う。趣味撮影ならば、まあ良いのだが、依頼又は 
  業務撮影で、例えばスポーツイベントであったとする、
  これの屋外撮影中に例えば急激に天候や日照が変化して
  ISO感度を高めないと所定のシャッター速度が得られず
  動く被写体(アスリートや車両等、何でも)がブレてしまう
  ケースもある。この際、撮影中でもISO感度を高めたい場合も
  多々存在するのだ。
  これ以外に屋内撮影でもステージ系でのライブや舞台などで
  照明の明るさやその色味が大きく変化した場合で、撮影中に
  ISO感度やホワイトバランスを変えたいケースは多くある。

  こうした場合、ファインダーやEVFを覗きながら これらの
  設定ができないと、お話にならない訳だ。

 3)EVF(や情報表示型光学ファインダー)内での操作を
  メインとし、これが使いやすいようにカメラの操作系を
  カスタマイズしておく事。
c0032138_12313756.jpg
  EVF搭載の殆どのミラーレス機、および一部のデジタル一眼
  レフ(例:近年のCANON EOS機での情報表示型光学ファインダー
  や近年のSONYのαフタケタ一眼レフでのEVF型ファイダー等)
  では、多くのカメラ設定をEVFやファインダーを覗きながらの
  設定操作が可能である。

  この機能は実用撮影上極めて有益であり、一度この便利さを
  味わってしまうと、旧来の光学ファインダー+各部操作子に
  よる操作系は「撮影効率が悪すぎてやっていられない」と思う
  ようになるであろう。

  だが、この新規操作系は、デフォルト(工場出荷時)のまま
  では使い難い場合が多い。そのユーザーの撮影目的に合わせて
  良く使う機能を使い易い位置にアサインしておく必要がある。
  SONY機(一眼レフ/ミラーレス)やPANASONIC機(ミラーレス)
  等では、FnやQ.Menuで、この「覗きながら操作」の、設定項目
  や表示順などを事細かに変更(カスタマイズ)が可能である。
  これを自身の目的に使い易く設定しておくと、極めて快適で
  効率的な操作系が実現できる。
 
  しかし注意点としては、「いつ、どの機能設定が自分にとって
  必要か」は、初級中級層では良くわかっておらず、したがって
  これのカスタマイズもまず出来ない。それとカスタマイズ設定
  は結構煩雑なので、面倒でやらない(または出来ない)中級層
  ユーザーも多いであろう。
  さらに上級層で、これらのカスタマイズの必要性が理解できて
  実際にそうしていたとしても、今度は、被写体や撮影の条件に
  おいて、単一のカスタマイズ内容では足りない場合も出て来る、
  このメニューカスタマイズは、多くのカメラではユーザー設定
  に覚えこませる事は出来ず、そこが不満となる。

  また、メニューカスタマイズが出来る機種は少なく、多くは
  完全固定か、又はモニター上でのコンパネあるいはユーザー
  メニューが若干カスタマイズが可能な程度である。
  これに優れた機種と、劣っている機種の差異は明確であり、
 「操作系」の概念がまだメーカーのカメラ設計側においても
  十分に浸透していない事も、現代のカメラの課題の1つだ。
 (同様に、ユーザー側も理解していないから、メーカー側へ
  市場ニーズとしての意見のフィードバックが出来ない)
 
 4)アナログ操作子は、基本的に使えないと思っておく事。

  NIKON Df,FUJIFILM X-T1系等に搭載されている、アナログ
  操作子(露出補正、シャッターダイヤル、ISO感度ダイヤル
  ドライブモード変更レバー、露出モード変更ダイヤル等)
  は、格好良いし、設定が一目瞭然であるし、一見廻しやすく、
  使いやすそうに感じる。
c0032138_12313750.jpg
  まあ確かに長所は多いのだが、反面、デジタル撮影における
  短所も沢山ある。
  これは他記事でも色々述べている事なので簡単に説明するが、
  課題は概ね以下の3点だ。

  ・本体側のデジタルダイヤルで操作を行うとアナログ操作子と
   数値が矛盾する(例:専用露出補正操作子は+1にしたのに
   本体側ダイヤルで-1の露出補正を行う)・・ので、通常は
   常にアナログ操作子側でしか設定操作が行えない。
  (注:一部の機種のアナログ操作子では、±0位置やC位置で
   電子ダイヤルからの制御が可能となる場合がある→後述)

  ・アナログ操作子の配置によっては、カメラを構えながら
  (ファインダーやEVFを覗きながら)の変更操作がやり難い。

  ・アナログ操作子にロック機構が付いている場合が多く、
   いちいちこのロックを外すのは、カメラを構えながらでは
   非常に困難か、不可能である場合が多々ある。

  よって、効率的な撮影技法や設定操作を必要とする撮影ジャンル
  においては、格好良いアナログ操作子は、その弱点がモロに
  出てきてしまう為、実用上では効率的に使用する事が出来ない。

  まあ、趣味撮影で、かつ、いくら設定に時間をかけても逃げない
  固定の被写体(ネイチャー等)の専用のカメラとなるであろう。
 (これらの機種の特徴を「じっくり撮るのに適する」と評する
  レビューを見た事がある、言い得て妙だ。つまり「素早い操作
  に全く向いていない」という弱点を直接書いていない訳だ。
  今時のレビュー等では、メーカー側が不利になる事を書かない
 (書いてはいけない)という風潮があり、全く参考にならない)
  
  なお、SONYミラーレス機α7/9シリーズ系等に搭載されている
  アナログ露出補正ダイヤルは、それが±0位置にある場合は
  本体側デジタルダイヤルでも露出補正操作が可能となる優れた
  操作系仕様だ(FUJI X-Pro2等の露出補正のC位置も同様)
  そうやってアナログタイヤルの矛盾を解消している訳だ。

  また、FUJIFILM X-T2以降の各アナログ操作子やOLYMPUS OM-D
  シリーズの露出モード変更アナログダイヤルでは、ロック機構が
  ワンプッシュの操作でON/OFFをトグル選択できる機械式機構
  となっていて、これもまた好ましい仕様だ。
c0032138_12315596.jpg
 「常にロック機構がある事をユーザーに強要する」という仕様の
  NIKON Df等に比べると、これらは一日の長があると言える。

5)重要な静止画撮影でライブビュー機能は使わない事。
 
  ライブビュー時は、その多くがコントラストAFである。
  位相差AFに比べ、AF精度も速度も落ちるこの機能を使う事は
  カメラの長所を消してしまいかねない。特にCANON EOS 7D系や
  NIKON D500等のAF性能に優れたカメラで、静止画撮影時に
  ライブビュー撮影を行う事は無意味であると言え、これらの
  機種はカメラを構えながらのAF(静止画)撮影が基本だ。

 (注1:後述の、完全暗所、ピンホール、赤外線、エフェクト
  等の特殊撮影の場合を除く)

 (注2:近年では、これらの機種を使ってライブビュー静止画
  撮影をするビギナー層が目立つ。全く意味の無い撮り方であり、
  それがわかっていない点からも超ビギナーである事が明白だ。
  また、超ビギナー層が実用上必要とするカメラでは無い事も
  気になる点だ、何故こういう業務用機体を欲しがるのだろう?)

 (注3:近年では、ライブビュー時にも像面位相差AF系の
  新技術が動作する機種もある。ただ、仮にそうであっても
  その技術は通常AF時に、より効果的であるので、ライブビュー
  時の性能低下との差は、なかなか縮まらない)

 (注4:近年ではNIKON D500等においては、HD動画撮影時
  に画像処理で手ブレ補正を行う「電子手ブレ補正」の機能
  を持つ機種も存在する。ただ、これもあくまで動画撮影時
  の話であり、静止画撮影では無効であるし、ライブビュー
  かどうかも無関係だ)

  またEVF機では、高精細のものならば236万~369万ドットも
  ある事が普通だが、ライブビュー用の背面モニターの解像度は
  92万~104万ドット程度しかなく、ピント確認やボケ量・ボケ
  質の確認はやり難い。

  高性能AF機ではなかったとしても、光学ファインダーや
  EVFを覗きながらの撮影は基本である。

  ライブビューを使うのは、どうしてもそれが必要なケース
  のみであり、具体的には
  ・極端なローアングル、ハイアングル、またはレベル(位置)
   での撮影。
  ・上記と同様の極端なアングルでの三脚撮影(商品撮影等)
  ・被写体の状況を目視で見ながら行う、三脚(又はジンバル、
   又は電子手ブレ補正機能等)を用いた「動画撮影」等。
  ・エフェクトをかけて効果をプレビューしながら撮る場合。
  ・ピンホールレンズや、完全な暗所や、赤外線撮影等で、
   光学ファインダーでは暗すぎて被写体が見えない時。
  ・自撮り(セルフィー)や、自撮りを含む集合写真。
  ・小物撮影等で、被写体の配置を色々変えながら撮る場合。
  ・他者への撮影指導等の際に画面を見ながら説明する。
  あたりであろう。

  ただし、これらを実現するには、上下ティルト式や固定の
  モニターでは無理で、自在可変(バリアングル)式の
  モニターが必要なケースもある。カメラ側のモニター仕様
  は、この点で要注意だ。

 色々と説明が長くなったが、これらの状況から、カメラを
 構えながら(ファインダーやEVFを覗きながら)カメラの各種
 設定を行う事は基本中の基本である。

 これがやりにくいカメラは、その時点で「使い難いカメラで
 ある」と言っても過言では無い。
 ただ、使い難いカメラ=ダメなカメラ、という訳でも無く、
 例えば、私の撮影目的としての1つで、「トイレンズ母艦」に
 用いるようなミラーレス機ではEVFを搭載している必要も無く、
 他には、例えばSNS投稿にハマっている若い女性などでは、
「セルフィー(自撮り)専用機」としてのカメラの用途も
 あるだろうから、そういう目的においては、ファインダーや
 EVFを真面目に覗く必要すら無いし、そこでカメラ設定の多彩さや
 迅速さが要求される訳でも無いし、むしろファインダーやEVF
 内での設定操作よりも、モニター面でのタッチパネル操作が
 やり易くなるだろう。

 結局、あくまでユーザーの目的次第であるし、それに応じて
 複数のカメラを持つ事も、それはそれで十分に意味がある事だ。

★構える前にカメラ設定を行う
 独自概念。
c0032138_12315593.jpg
 前記事で「カメラを構える前に手指の感触でMFピント合わせを
 だいたい済ませておく」という技法の概念を説明したが、
 ここでは、さらにそれに加えて、絞り値や露出補正操作を含めた
 各種カメラ設定をカメラを、「構える前に行っておくべきだ」
 という趣旨を説明する。

 前項目のように「カメラを構えながら」各種のカメラ設定操作
 を行う事が望ましいが、絞り値や露出補正操作以外の設定は
 カメラの仕様によっては困難であるし、そもそもMFレンズでは
 絞り環がレンズ側にある為、カメラを構えながらの絞り設定が
 困難である。(マウントアダプター使用時は特にだ)

 そこで、事前に撮りたい被写界深度等を意識しつつピント合わせ
 と連続(並行)して絞り値等も設定をしながらカメラを構える
 事が望ましい。(注;ピントリングの回転角の大きすぎる
 レンズの場合は、この操作に時間がかかる。その場合は、さらに
 事前に、ある程度撮影距離を想定してピント位置を決めておく。
 カメラを下げて運んでいる際は、手指は空いている筈なので
 歩きながらでも被写体を探しつつ、常時ピントリングを被写体
 候補に向けて廻し続けるような習慣をつけておくのも良い)
c0032138_12320867.jpg
 ただ、これについては、事前に様々なカメラ設定を行うのは
 どう撮りたいのかがはっきりしていないと難しいので、
 あくまで上級者向けの技法としておこう。
 これ以上の詳しい説明は、際限なく文字数が必要となるので
 今回は割愛しておく。

 それと、なぜこういう操作が必要なのか?は、当然ながら迅速な
 撮影が必要だからであり、まあ、その必要性が無いユーザーには
 概念の理解も困難ではあろう。ただ、何度か、撮影前にカメラ
 設定でモタモタして撮影機会を逃した経験を持つユーザーならば、
 迅速な撮影が、いかに重要なのかも理解が容易な筈だ。
(だから、操作系が劣悪なカメラは、実際にそのカメラで撮影を
 行いながらは設計開発されていない事が明白で、残念な話だ)

★視度補正
 一般用語。

 初級層が「MF操作がやりにくい、ピントがわからない」と言って
 いる原因の1つとして、カメラのファインダー等の「視度補正」
 を行っていない場合が多々ある。

 これは、自身の視度(注:”視力”では無い。”視度”とは
 簡単に言えば近視や遠視のようなものだ)に合わせて設定する
 必要があり、ファインダー周辺にある視度補正ダイヤルやレバー
 を動かして、ファインダー内の数字やアイコン等が最もはっきり
 見える状態にする。これが未調整だと、MFがやり難いのは当然で
 あるいは絞り値ヤシャッター速度の表示も見え難いので、
 それらの数値を、あまり真剣に意識する事も減り、初級層での
 露出概念の理解等を妨げる原因ともなって来る。
(注:カメラの視度補正は光学ファインダーまたはEVFの場合は
 必要だが、背面モニター等のディスプレイ装置の場合は不要だ)
c0032138_12320851.jpg
 なお、同一ユーザーでも条件によって(例えば徹夜明けなど)
 視度が変化する場合もあるので、必要に応じて撮影中でも
 補正値を変える。
c0032138_12320857.jpg
 ちなみに双眼鏡等では左右の目の視度が異なると、像が見え難く
 なる為、左右の差を調整する為にも視度補正が必要となる。
(余談だが、アニメや映画等で双眼鏡の視野が∞形状になるのは
 誤りだ、ちゃんと調整した双眼鏡の視野は○形状に見える)

★MF用スクリーン
 一般用語。

 AF時代(1990年前後)からの銀塩一眼レフやデジタル一眼レフは
 MF時代(1980年代迄)の銀塩一眼レフに比べ、ファインダーや
 スクリーンのMF性能が劣っている事が普通だ。
 
 何故そうなってしまったかは、様々な他記事で説明しているので
 割愛するが、この問題の対策の為、現代のデジタル一眼レフに
 おいても、一部の機種ではMFでのピント合わせがやりやすい
 タイプのスクリーンに交換(換装)する事ができる。
c0032138_12320830.jpg
 例えば、CANON EOS 6D系では「スーパープレシジョンマット
 Eg-S」というスクリーンにユーザーが自身で交換可能だ。
 このスクリーンは若干暗くなるが、標準版スクリーンに比べて
 MFでのピント合わせが若干容易だ。

 暗くなるという点では、開放F2.8未満のレンズが推奨であるし
 より明るいレンズでもNDフィルター装着時はやはり暗くなるし
 もしアダプターを使って他社レンズ等を、絞り込み(実絞り)
 測光で使った場合でも勿論暗くなる。ただまあ、条件が合えば
 そこそこ効果的であるので、MF中心とする機体で、かつ交換が
 可能であれば、MF用スクリーンへの換装も十分に有りだ。

★拡大アイピース
 一般用語。

 MF向け対策としては、スクリーン交換以外でも、ファインダーに
 装着し、像を1.1~1.3倍程度に拡大するアイピースが各社から
 主にデジタル一眼レフ用として発売されている。
 たとえばNIKON DK-17Mや、PENTAX O-ME53などがある。
c0032138_12322268.jpg
 ただし、機種によっては装着できないケースもあるし、
 また、これらを装着するとファインダー視野の一部がケラれて
 しまう(周辺まで全て見通せない)場合も有りうる。
 それから、装着時は「視度補正」も普通はやりなおしだ。

 あと、機種によっては、このアクセサリーは脱落しやすく、
 一般に高価(3000~5000円程度)であるので、無くさない
 ように注意が必要だ。

 良くこれらの得失を理解した上で、こうしたアクセサリーを
 用いるのが良いであろう。
 なお、各社微妙に製品名が異なるので、購入時や導入検討時には
 そこも注意事項としておく。それと新型機に買い換えた場合でも
 このアクセサリーは共用できる可能性も高い事も述べておく。

★シームレスMF
 一般用語。

 AFからシームレス(継ぎ目無し)にMFに移行可能となる
 レンズ(または稀にカメラ側の機能)の事。
 超音波モーター(例:CANONのUSM)等を搭載した一眼レフ用
 交換レンズの多くは、この仕様となっている。
c0032138_12322212.jpg
 そして、近年のミラーレス機用の純正AFレンズは、殆どが
 この機能を搭載している。
 またMINOLTA→SONY系の一眼レフのDMF(ダイレクト・マニュアル
 フォーカス)機能は、カメラ側でこれを実現している。

 これらの機能は、あればあったに越した事は無いのだが、もし
 これを搭載する為にピントリングが無限回転式になった場合
 それによるMF時の弊害も多々出てくる事は前述の通りだ。
(注:無限回転式+距離指標型の高級レンズも稀に存在し、
 その場合、あまりMF性能への影響は出にくいが、それは半押し
 ロック中の話で、指を離して再度シャッターを半押しすると
 AFにまた戻ってしまい、結局使いにくかったりする。
 で、それを嫌ってAF始動を別ボタンにアサインすると、毎回の
 撮影時の操作性が大幅に悪化するし、ピントのシビアな大口径
 などのレンズでは、その操作系の利用は基本的に無理がある)

「AFで合い難いから途中からMFに変える」という製品設計の発想では
 無く、「この被写体はAFでは合わないだろうから、最初からMFで
 撮影する」という思考パターンが本来望ましいが、市場のニーズ
 や設計思想は、残念ながら、そうでは無い模様だ・・
 私にとっては、このシームレスMF機能は微妙な使いにくさを
 感じる場合が多い。

 なおDMF機能であればレンズ仕様との矛盾が出ず、どんなレンズ
 でもそれが可能なので、一見してずっと使いやすそうなのだが、
 このDMFは一度AFでピントが合わないとMFに移行できない。
 よって、AFが合い難い被写体では、いつまでもMFに移れずに
 余計に手間となってしまう弱点を持っている。
(ただし、AFが合い易い場所を見つけて、あえてそこでAFを
 会わせてDMFでMF移行させる、つまり「MF切り替え操作の
 手間を省く」と言うDMF上級技法が存在する)
c0032138_12322136.jpg
 まあ結局、シームレス機能に拘らず、AFが合わない可能性がある
 ならば最初からMFにしてしまえ、というのが私の持論である。

★高速連写中MF(連写MFブラケット)
 独自用語。

 一眼レフでは構造上、ミラーが動いて視界を遮るので、
 MF操作はミラーが動いていない状態で行うのが基本だ。

 一眼レフの中でも毎秒8コマ以上の撮影が可能な高速連写機に
 おいては、連写中にミラーによるブラックアウトが多々発生
 するのでうっとうしい。しかし、高速連写機の中には、この
 ブラックアウト時間をかなり短くした仕様(性能)の機種も
 一部存在している。
c0032138_12322266.jpg
 具体的にはNIKON D2H(2003)、CANON EOS 7D MarkⅡ(2014)
 NIKON D500(2016)等がそれであり、これらの高速連写機は
 ミラーのブラックアウト時間が短く、連写中でも被写体を
 比較的長い時間視認する事が可能だ。

 AFレンズで、これらの高速連写機を使う場合、7D MarkⅡや
 D500はAF性能に優れ、コンディニュアス系のAFモードで動体
 被写体追従が行われるのだが、レンズ側に超音波モーター等が
 入っていないと、フォーカス優先モード等では、そこで連写が
 もたついてしまう場合もある。

 そして、AFレンズをMFモードで、またはMFレンズを使う事は
 本来これらの高速連写機の特性からは望ましくは無いのだが、
 そういう状況であった場合(趣味の撮影で、MFレンズを使う際や
 AFレンズでもAFでは絶対に合わない高速で動く小さい被写体等)
 実は、これらの機種であれば、高速連写中にもMFによるピント
 合わせが、かろうじて出来てしまうのだ。
(注:EOS 7D MarkⅡは標準スクリーンの性能ては、やや厳しい)
c0032138_12323572.jpg
 特に飛ぶ鳥の撮影などで、連写が必須だが被写体が高速でかつ
 撮影距離が大きく変動する場合など、いくら優秀なAFでも
 外してしまう場合が多々あるのだが、いっそMFにしてしまい、
 高速連写をしながらマニュアルでピントを合わせ続けるという
 裏技が存在する。これだと飛ぶ鳥が樹木の裏側を飛んでいて
 一瞬AFが迷うといった状況も回避でき、指定した距離での
 ピント位置がキープでき、使い方によってはなかなか有益な
 撮影技法なのだ。

 なお、一眼レフでは無くミラーレス機であれば、近年の物は
 一眼レフと同等か、それ以上の高速連写が可能な機種も多く、
 かつミラーアップも無く、どうせAF性能も一眼レフに比べ、
 あまり高く無いし、さらにMFアシスト機能でピーキング等が
 常時表示されるので、高速連写中のMFはさらに容易になる。
(注:ミラーレス機でも機械式シャッターではブラックアウト
 する場合もあるし、電子シャッターですら起こりうる。又、
 カメラ設定で起こる場合もある、ここは条件が複雑怪奇だ)

 一眼レフでは裏技的な技法であるが、高速連写ミラーレス機で
 あれば、今後ごく当たり前の撮影技法となってくるかも知れない。
(注:ミラーレス機でのピント精度を高める為もある。こちらの
 用法は「連写MFブラケット」として、後日解説予定)
c0032138_12323552.jpg
 なお、MF望遠レンズをセンサーサイズの小さいミラーレス機で
 使う場合にはさらに有効な技法となり、これであれば野鳥撮影に
 おいては一眼レフよりも 画角面やピント合わせ面で、かなり
 優位性が高くなる。
 また自然観察撮影等で、空を飛ぶ小さい昆虫でも、マクロ+
 常時ピーキングで、連写中のMFが出来るケースもある。

 いずれにしても練習しておいて損は無いMF技法である。

★空中ピント
 やや独自用語。

 レンズには「被写界深度」というものがある事は、一般的に
 良く知られている。これを計算するには、いくつかの
 パラメーター(レンズ焦点距離、絞り値や撮影距離等)を
 計算式に入力すれば求まるのであるが、その公式には
「前方被写界深度」と「後方被写界深度」があるのは、一度でも
 その計算を行った事がある人は知っているであろう。

 で、この後方被写界深度は前方のそれよりも長い、つまり
 ピントを合わせようとする撮影距離に対して、後方(遠い)
 部分は、よくピントが合い、前方(手前)は、あまり被写界
 深度が稼げないのだ。

 ここまで踏まえた状態で、たとえば距離の異なる2つの被写体が
 存在していたとする、これが人物であって、その両者にピントを 
 同時に当てたい(両者を被写界深度内に収めたい)とする。
 これの計算は難しい、暗算で被写界深度が計算できる程には
 簡単な公式では無いのだ。

 例えば、CANON 一眼レフでは銀塩時代のEOSには「DEPモード」
(被写界深度優先露出モード)があり、距離の異なる2点に
 順次AFでピントを合わせると、両者が被写界深度内に収まる
 絞り値に自動で設定されていた。
 デジタル時代のEOSでは、これは「A-DEPモード」と変化して、
 複数のAF測距離点で計測した異なる距離が全て被写界深度内に
 収まるような絞り値を提示してくれる。

 他社機にはこれに類似している機能が搭載されているような
 記憶は無いが、いずれにしても初級者向けの機能では無く
 被写界深度の意味が良くわかっている中級者以上向けの機能だ。
(しかし、全測距点を被写界深度内に収めたい、というのも
 限られた作画意図であろう、だから上級者は使わないと思う。
 また、ごく一部の機種には「絞りブラケット」(被写界深度
 ブラケット)という機能が搭載されているので、それを使う
 上級者は居るだろう)

 では、MFでこれを行おうとすると、どうやったら良いのか?
 まずはMFレンズ等での被写界深度目盛りを参照して絞り値に
 応じた概算被写界深度とその距離がわかるので、それを参考
 にするのが簡便である。

 ただ、前述の前方被写界深度と後方被写界深度の差異が実際
 にはある為、レンズの被写界深度指標はあくまで参考値で
 あって、厳密な絞り値設定を行う際に若干の無駄(マージン)
 が存在している。
 また、近い方の被写体にピントを合わせたら、後方被写界深度
 のみで遠い被写体をカバーするので、前方被写界深度が完全に
 無駄になる。

 そこで、「空中ピント」の技法である・・
 これはまず、前方と後方の被写界深度を意識して、2つの
 異なる被写体距離に対して、前方側に2/3の距離の点
(両者の距離差を1対2で内分する点)を仮に設定する。

 次いで、その設定距離と等距離にあると思われる仮の被写体
 を探し、その距離にMFでピント合わせを行う。
 そして、そのMF距離を維持したまま、レンズの絞りを絞って
 被写界深度目盛りの距離指標が近い方の被写体と遠い方の
 被写体をだいたいカバーする程度の絞り値とする。
 最後に、そのMFピント位置と絞り値を変えないように
 カメラを構え、構図を調整して、後はシャッターを切る。
(注:AEロックは掛けてはならない)

 これで、何も無い空間にピントを合わせて、2つ(以上)の
 異なる距離の被写体に同時にピントを合わせる「空中ピント」
 技法の完成だ。あまり一般的では無い用語または技法では
 あるが、上級者クラスではこれを実践している事も良くあると
 思う。
c0032138_12323591.jpg
 なお、複数距離の静止被写体以外の場合でも、例えば空中を
 飛ぶ小さい昆虫等で、予め被写界深度を想定した「撮影ゾーン」
 を想定しておき、その範囲に昆虫等が入ったら撮影をするという
 方法も、空中ピント技法の一種と言えるかも知れない。

 まあ、上級者向けのMF技法であるが、被写界深度の意味を知る
(勉強する)上でも有益な技法なので、中級者レベルでもトライ
 してみると良いであろう。
 MF撮影の楽しさと奥深さがわかってくると思う。

---
さて、今回の「MF技法・MF関連Part 2」は、このあたりまでで、
次回は引き続き「ノウハウ編」の用語解説を行う。

レンズ・マニアックス(11)補足編~使いこなしが難しいレンズ特集(前編)

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連載中の本「レンズ・マニアックス」シリーズでは、
所有しているマニアックなレンズで未紹介のものを掲載して
いるが、ここで補足編を2つ挟む事とする。

今回の記事では、従前の「ミラーレス・マニアックス」又は
本「レンズ・マニアックス」のシリーズ記事において
紹介済みの所有写真用交換レンズ約300数十本の内、
「このレンズは使いこなしが非常に難しい」と思われた
レンズ(あるいはカメラを含むシステム)を前後編に
分けて、ランキング形式で計8本紹介する。

勿論、このランキングは「難しいレンズ」であって、
描写力の高い順では無い、むしろ「使い難い」という
意味においては、ワーストな(悪い)ランキングだ。

まずは最初のシステム

第8位:SAMYANG(サムヤン) 85mm/f1.4
c0032138_16423578.jpg
ミラーレス第64回,補足編6回,ハイコスパ第13回記事で
紹介の2010年代の韓国製MF大口径中望遠レンズ

EFマウント版のレンズを選んで購入した為、
今回のカメラはCANON EOS 7D(APS-C機)を使用する。

この場合、レンズ単体で、と言うよりも、カメラを含めた
「システム」としての使いこなしがとても難しい。
c0032138_16423531.jpg
まず、本レンズは被写界深度が極めて浅い85mm/f1.4だ、
ちなみに、最短撮影距離の1mで絞りF1.4開放の場合、
その被写界深度は約11mmとなる、つまり僅か1cmの厚みの
範囲にしかピントが合わない。(注:フルサイズ時)

そもそも、85mm/f1.4はAFでもMFでもピント精度が出ない。
経験上では、近距離撮影での歩留まり(成功率)は、10%
以下だ。(10枚に9枚は失敗する)

例えば人物の顔の斜めアップを85/1.4で撮るとする、
その際、手前側の目にピントを合わせるのがセオリーだ。
だが、人物およびカメラマンの相対距離は1cmたりとも
動かないということは有り得ない。どんなに気をつけて静止
しようとしても、必ずどちらかが微妙に動いている状態だ。
(注:全てのレンズで手持ち撮影を推奨しているが、この
ケースでは例え三脚を立てても被写体側が動く事は防げない)

近年の一部のカメラには「瞳AF」という機能があるが、
たとえ、それを有効活用しても「被写体や撮影者が動く」
という事態は避けられない。

そしてたまたま、AFでもMFでも目にピントが合ったとしよう、
正面から平面的に撮っていなければ、目の一部以外の、
顔の部分はすべてアウトフォーカス(被写界深度外)だ。

まあ、中上級者であれば「アウトフォーカス」又は「ボケる」
と呼ぶのだが、大口径レンズの写真を殆ど見た事も無い一般の
人(カメラマンでは無い人)は、そういう写真を見てこう言う
「なにこの写真、ピンボケじゃないの?」

苦労して撮った結果がそれだ、まあ「やってられないよ」
というのは大口径ユーザーであれば経験がある事だと思う。

「じゃあ、絞って被写界深度を稼げば良いじゃあないか」
と思うかも知れない、けど、そういう被写界深度が浅い写真
を撮りたくて、わざわざ85mm/f1.4を購入しているのだ。

被写界深度が深い写真を撮るならば、85mm/f2.8とか、又は
ズームレンズでも十分だ。軽くて取り回しも楽だし、AFでも
ピントが合うし、手ブレ補正も効くだろうし、あらゆる面で、
ずっと気楽かつ容易に撮れるのでビギナー層でも扱える。
(・・というか、そういう目的ならばスマホでも十分だ)


また、開放絞り値を欲張っていないレンズは描写力に優れる
場合が多い。(注:近年の複雑な構成の新鋭大口径レンズと
比較するケースを除く)
c0032138_16423572.jpg
さて、カメラ側EOS 7D(2009年)はCANONで初めて透過型液晶
ファインダーを採用した機体であるが、そのスクリーンは、
残念ながら解像感が無く、MFにおいてピントの山を確認する
という目的には全く適さない。
(注:EOS 7Dはスクリーン交換不可)

おまけに、電子接点の無いMFレンズの場合、EOS各機では、
フォーカスエイド(測距点においてピントが合ったという
合焦マークの表示)が出ない(技術的には実現は容易だが、
他社製レンズに対しての排他的な仕様制限であろう。
ちなみに銀塩EOSでは、それが出来た機体もあった)

そして勿論、光学ファインダーであるから、ミラーレス機の
ようにMF時のピーキングや画面拡大の機能も使えない。

要は、ただでさえピント合わせが難しいMF大口径レンズであり、
加えてカメラ側のMF性能や仕様が貧弱なので、ますます
使いこなしが難しいシステムとなっている、という事だ。

で、本レンズそのものの問題点だが、逆光に極めて弱い事と、
ボケ質破綻が発生する為、それらの回避を意識しなければ
ならない点がある。

逆光状態においては、盛大なフレアやゴーストが発生する。
被写体光源状況を良く見れば回避できない訳では無いのだが、
「自由な構図で撮れない」といった制約が大きくなってしまう。

本レンズのような難しいレンズで人物撮影をやる気には
ならないが(歩留まりが悪すぎる)、もしやるとしたら、
逆光気味のポートレートは全滅であろう。だからと言って
順光では、鼻の影が出たり、まぶしさで表情が固くなる、
曇天や日陰でレフ板併用で撮るしか出来ない事であろう。
レフ板は他に人手が要るし、日陰では背景の選択肢が減るし、
つまり撮影条件の制約が色々と厳しいという事だ。
c0032138_16423589.jpg
それから、ボケ質破綻だが、これはあまり顕著では無いので、
絞り値を微調整する程度で対応(回避)可能であろう。
大口径レンズなので、やや絞り込んでボケ質破綻回避をする他、
絞りを開けて、背景を大ボケさせて回避する事も可能であり、
例えば85mm/f2.8に比べ、スペック上、破綻回避の幅が大きい。

まあでも、それらのいくつかの問題点を上手く回避して撮れば、
本レンズの写りはなかなか良い。

そして、新品で約3万円と極めて安価で、かつハイスペックな
レンズである。最も安価に85mm/f1.4を入手したい場合は
選択肢は本レンズしか無い。
が、もし購入するならば、相当に使いこなしが難しい事を、
良く認識(覚悟)しておく必要があると思う。

----
さて、次のレンズ
第7位:TAMRON SP500mm/f8 (Model 55B)
c0032138_16424844.jpg
ミラーレス・マニアックス第31回記事で紹介の
1980年代頃のMF超望遠ミラー(レンズ)
(注:主要な光学系はレンズではなく、反射鏡である)

「アダプト-ル2」仕様のミラー(レンズ)である為、
マウント汎用性が高く、およそどのようなカメラでも利用可能で
あるが、今回は手ブレ補正機能内蔵ミラーレス機のPANASONIC
DMC-GX7(2013年、μ4/3機)を使用する。

超望遠ミラーの使いこなしの難しさは色々あるが
まず第一に「被写体の選択」である。

で、あえてその困難さを助長する為(笑)今回はμ4/3機で
使っているが、その換算画角は1000mm/f8となる。

すなわち「1000mmの単焦点で、いったい何を撮るのだ?」
という問題点がまず大きい(汗)
c0032138_16424817.jpg
余談だが、ビギナーカメラマンの場合、写真を撮ろうと
する際に、自分の実際の(人間の)目の視野全体の中から
選択的に被写体を抜き出そうとする。
まあ、これは仮想ズーミングをしているような感覚であろう。
ただ、こういう被写体の探し方は撮影技法的には好ましくない。

中上級者であれば、カメラに装着しているレンズの画角を
いつも意識して、人間の全体視野の中から写真的に必要な
構図をトリミングしている感覚なのだ。

つまりビギナーの場合は、人間の視野全体を「被写体候補」
として見てしまう事から、自分が肉眼で見えている範囲に、
他の人が居たり、人工物等の邪魔物がある事を非常に嫌う。

それは例えば「画角を狭めれば写真に写らない」にも
係わらずだ。すなわち人間の目で見ている視野とカメラの
レンズの視野が全く違う、という概念が理解できていない。
(その状況だから、例えば、マクロ、超望遠、魚眼レンズ等を
初めて覗くと、「おお!」と人間の視野との差に驚く訳だ)

で、この為、前に人が居ると「邪魔だ、どけ!」と言ったり、
自分が他人より前に出て、他の人が自分の視野に全く入らない
場所まで動こうとする。

このビギナー層の習性が、観光地やイベント等で、撮影マナー
の悪さとか、他人とのトラブルに直結するのだ。
(私も先日、高級一眼レフに初級標準ズームをつけたシニア
の超ビギナーとトラブルになった、「そこをどけ」と
言われたのだ。極めて不愉快な話だが、100%先方の問題だ
勿論、あれこれと沢山言い返して、ビギナーは去っていった)

逆に言えば、そういう行為をするのは全員がビギナー層だ。
中上級者の構図感覚であれば、そういう邪魔なものが入らない
画角は簡単に「想像」できるし、あるいは、あえて人を入れた
風景などの作品的な意図すらも「創造」する事もできる。

なお、「ビギナー層」と書いたが、ビギナーに限らないケース
もあり、先日、観光地で、数十年間使い込んだ銀塩大判カメラを
使用しているシニアを見かけたので、ちょっとは「出来る」の
か?と思って、話を聞いてみると、やはり被写体の周囲にある
人工物などが「とても気になる」という。

「どれどれ」とビューファインダーを見せてもらうと、その
画角はかなり狭く、彼が、あれが気に入らない、これが気に
入らないといった人工物は、どこをどう見ても、画角の片隅
にも写らない、とんでもなく遠く離れた物体であった。

つまり、人間の視野で見ていて「あれが邪魔だ」と感じた物と
写真に写る画角の差を根本的に理解していない。
何十年も写真をやってそうなベテランですら、それである。
「画角」という概念が、そもそも何もわかっていない。
(ちなみに、そのシニア氏は、その日、1枚も写真を
撮らなかったと言う。重たい機材をただ運んでいるだけだ)

「邪魔だ、どけ(どかせ)!」といった、マナーの低下は、
以前は、主にビギナーカメラマンのそうした行為が、各地の
観光地やイベント、花の名所などでトラブル等の問題を引き
起こしていたのが、近年では、スマホやミラーレス機の普及で、
誰でも「にわかカメラマン」だ。
各所で同様な問題の発生率が非常に上がっている。

加えて、シニア層による、野鳥観察、絵画(スケッチ等)でも
多人数グループによる同様なマナー低下の傾向が、各地で
非常に多く見られる。特にこれらのグループは三脚やイーゼル
を多数立てて往来の邪魔になるので、ますます問題だ。

ネット等の情報伝達手段の普及から、変な「一極集中」が
出来てきて、グループでなくても、同じ場所に同じような目的の
人達が集まってくる、おまけに「団塊の世代」であると「他人と
横並びにする事が必然」「集団になると気が大きくなる」という
悪い習性がある。

結局、混雑する場所等で、以前にも増して超ビギナー層または
長年写真をやっていても実質的に何もわかっていない層による
撮影や観察等でのマナーの悪さや周囲への無配慮が目立つように
なってしまった事は、とても残念な事実だ。
c0032138_16424825.jpg
余談はともかく、画角の話だが、中上級者であっても1000mm
という画角は、ちょっとお手上げであろう。

前述のような構図感覚は、沢山の焦点距離の単焦点レンズを
用いて、膨大な撮影経験から身につくものである、1000mm
というレンズでそういう経験を身につけるのは、まず無理だ。
つまり「データーベースに入っていない」という事だ。

ちなみに、また余談だが、ズームレンズばかりを使っていると
そういう「画角感覚」が身につかない。だから一部の写真教室
等では、あえてズームを封印し単焦点または固定の焦点距離で
撮影の練習を行う場合もある。

それから、中級者クラスで「オレは50mm派だ」等と言って
常に50mmレンズばかり使っている、というのもちょっと困った
状況である。それはつまり「50mmの画角感覚が身についた」
という状態だから、そのレンズが撮り易く感じるのであって、
それ自身は悪い事ではない。その感覚を習得したのだから、
今度は 28mm,35mm,85mm,135mm・・ といった、様々な
焦点距離の画角感覚を追加で身につけていくと、もっと
良くなる、それをしないで50mm派で止まっていては勿体無い。

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さて、本題に戻して、1000mmの画角感覚は、そう簡単に
身にづくものでは無い、だから被写体も探し難いのであるが
これはまあやむを得ない。まあ、もしかすると野鳥等を
中心に撮っていて、いつもこのクラスの超望遠を使って
いれば1000mmの画角感覚が身につくのかも知れないが・・
(もっとも、手持ち撮影で様々な場所にレンズを向ける訓練
を行っていないと、三脚を立てて待っているだけでは画角感覚
の習得は根本的に無理であろう)

本レンズの問題点の第二は、開放F値の暗さだ。
1000mmの超望遠なのでブレの発生も助長される、
まあ手ブレするか否か?という問題以前に、この焦点距離とも
なると、レンズの視野内に被写体を納める事自体が困難だ。
遠方の野鳥等を見つけ、そこにレンズを向けても、まず
ファインダー視野内に被写体は入っていない(汗)

第三に、ミラー(レンズ)の画質の問題だが、まず「ガラス
レンズ」に比較しての解像力の低さがある。
また、短所とも長所とも言えるが「リングボケ」が発生する。

それらの問題点をなんとか回避して使ったとしても、まあ、
結局の所1000mmの画角は、野鳥とか、あるいは動物園などの
限られた被写体状況での利用しか考え難い。
c0032138_16424822.jpg
なお、本レンズは500mmの焦点距離ながら1.7mの最短撮影
距離を誇るので、マクロレンズ的な用途も考えられるが
撮影アングルが著しく制限され、水平近くの角度からしか
撮りようがない。例えば花があったとしても、真上の空中
1.7mの距離からも、真下の地中1.7mからも撮れないのだ。

近接撮影能力を認めれば、本レンズ自身の総合性能に問題が
あるという訳では無い、使いこなしが難しいのは、あくまで
その焦点距離の長さや仕様上の問題点なのだ。

まあ、近年ではこうしたミラーレンズの需要もずいぶんと
減ってきていると思う。銀塩時代の超望遠への「憧れ」も、
デジタル時代では、小型センサー、高倍率ズーム、
デジタル拡大機能等で対応できているからであろう。
新発売のミラーレンズもメーカー純正品は無い。

なので、必携のレンズとは言い難いが、購入時はやはり
使いこなしの難しさは十分に意識しておく必要がある。

----
次のレンズは、ランキングの番外編としておこう。
番外編:Space 7.5mm/f1.4 (JF7.5M-2)
c0032138_16430148.jpg
ミラーレス第54回記事、特殊レンズ第1回記事等で紹介の
2010年代(?)のMF2/3型対応CCTV用レンズ

CCTV(産業用・マシンビジョン用)のCマウントレンズだ、
カメラボディはセンサーサイズが合致するPENTAX Q7
(1/1.7型撮像素子)を使用する。

CCTVレンズの意味や用途については「匠の写真用語辞典第3回」
で説明の他、ミラーレス・マニアックスの本レンズの記事や
「特殊レンズ・スーパーマニアックス第1回マシンビジョン編」
その他のCCTVレンズ記事に詳しいので今回は割愛する。

Space社は、CCTV用レンズでは大手のメーカーだ。
ちなみに、写真用レンズで著名なTAMRON社も、この分野では
大手である。
F1.4クラスは、CCTV用レンズでは標準的か小口径な方で
特に暗所で使う事の多い監視カメラ用CCTVレンズでは、
開放F1以下級が普通である。

こうしたCCTV用レンズは一般(個人)には販売していない事
も多く、場合により代理店等を通じて法人で申し込まないと
ならないケースもある。(注:通販を使っても同様だ)

さて、このレンズをQ7で使った場合、フルサイズ換算画角は、
約35mm/f1.4 に相当する。

一見、極めて使いやすそうな画角・仕様であるが、
問題は主にカメラ側、Q7のMF性能にある。
ピーキングや拡大機能を用いても精度不足という事だ。
c0032138_16430106.jpg
結果的に問題点は、ピントの山が全くわからない事だ。
まあ、レンズそのものの問題よりもカメラ側の問題点が大きい
のであろう。(なので番外編とした)

なお、CCTV用レンズであっても、監視カメラ用ではなく、
マシンビジョン用途のものは、例えばロボットの目(視界)、
工業計測、製品品質評価(不良品の自動判別)等の目的に
使われる為、その解像力(画質)や収差性能は(写真用レンズ
には及ばない場合も多々あるが)さほど酷いものでは無い。

Qシステムでは、換算焦点距離が(Q7/Q-S1で)4.6倍と
なるので、「望遠母艦」として使う初級マニアも多い。
200mm級の一眼レフ用レンズをアダプターで装着すれば、
簡単に1000mm程度の超々望遠画角となるからだ。
これはセンサーサイズが小さい事からの特徴である。

ただ、Qシステムを望遠母艦とするのには、そのMF性能上では
明らかに不利だ。なかなかピントを合わせる事が出来ない。
なので、私の場合はセンサーが小さい事での他のメリットを
考慮して、このようなCCTV/産業用のCマウントレンズの母艦
として使っている。

CCTV/産業用レンズは1/4型,1/3型,1/2型,2/3型対応の製品が
殆どであり、1/2.3型センサーのQ/Q10ならば1/2型レンズが、
1/1.7型センサーのQ7/Q-S1であれば、2/3型レンズが
ベストマッチだ。(注:レンズ側のイメージサークルが
示された仕様よりも、やや大きい場合があり、そうであれば、
1サイズ下のレンズも、かろうじてQシステムで使用可能。
また、2/3型以上のレンズは、μ4/3機での「2倍テレコン
モード」の常用でも使う事ができる)

なお、CCTV/監視カメラ用レンズでは、1/3型対応でかつ
CSマウントのものが多いが、CSマウントからCマウントへの
変換は簡単な付属(or別売)のアダプター部品で容易だ。
ただ、その場合1/2.3型のQ/Q10でも、1/3型対応の
レンズでは画面周辺が若干ケラれてしまう危険性はある。
c0032138_16430198.jpg
それと、本レンズ自身の問題も若干あり「ぐるぐるボケ」
(像面湾曲、非点収差等が主な原因)が出る。
せっかくのF1.4レンズだが、できるだけ背景ボケを作らない
ように、すなわち近接撮影(最短撮影距離は20cmだ)を避けて、
やや絞り、中遠距離でのパンフォーカス撮影を行うしかない。

それから、今回は行っていないが、CSマウント変換アダプター
を1個または複数個CCTV用レンズに装着すると、撮影倍率の高い
マクロレンズとして用いる事ができる、ただしQ7での屋外での
近接撮影は超高難易度となり、手に負えないし、その場合には
遠距離撮影も出来ない。
また、電子シャッター使用を余儀なくされるので、被写体や
撮影者の僅かなブレにより、撮影画像が変形してしまう。

なかなか使い難いレンズではあるが、まあ一般向けのレンズ
という訳では無く、あくまで番外編だ。

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さて、次のレンズは
第6位:KENKO MC 85mm/f2.5 SOFT
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ミラーレス・マニアックス第19回記事で紹介の、
1980年代?頃のMF中望遠ソフト(軟焦点)レンズ。
カメラは、SONY α7(フルサイズ機)を使用する。

本レンズの難しさはピント合わせが非常に難しい事だ。

まあ、本レンズに限らず、ソフト(軟焦点)レンズはどれも
ピント合わせが困難である。
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ミラーレス・マニアックス記事では、本KENKO 85 Softの他、
清原光学VK70R、ニコンおもしろレンズ工房「ふわっとソフト」、
MINOLTA AF100/2.8 Soft,FUJIFILM FILTER LENSのソフトモード、
安原製作所MOMO100の計6本のソフトレンズを紹介してきたが・・

この中で、FUJIのFILTER LENSは固定焦点なので問題無い、
ミノルタの100Softは珍しいAF対応SOFTレンズなので、これも
AFで使えば大丈夫。安原製作所のMOMO100は、希少な広角ソフト
であり、被写界深度も深く、ピント合わせがやりやすい。
そして、清原光学VK70Rと、ニコン「ふわっとソフト」は、
開放F値がやや暗く、したがってソフト効果も少なめで、ピント
合わせは若干マシだ。

よって本レンズKENKO MC 85/2.5 SOFTが、ソフトレンズの中
では最難関のピント合わせとなる。
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ソフトレンズは何故軟焦点化するか?と言えば、これは
レンズの球面収差によるものだ。つまり入射光のピント距離
(焦点)が1点に集まらず、拡散してしまうという事で、
シャープな結像にならない欠点を逆用(強調)したものだ。

この収差は、絞り込むと口径比の3乗に応じて低減(解消)
される為、絞り値の微調整でソフト量を調節する事になる。

よって、本レンズでは、開放F2.5 から F4迄の間に、
3点の中間絞り値のクリック・ストップが存在し、
F4からF5.6迄の間にも1点の中間絞り値がある。
「細かい絞り値設定でソフト量を調整しなさい」という仕様だ。

ピント合わせだが、絞り開放に近い状態では、肉眼ではもとより
今回使用のSONY α7の優秀なピーキング機能を用いても、それが
反応せず、まったくピントの山(位置)が分からない。
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ソフトレンズで、ピント合わせを容易にしようと思ったら、
前述の原理から、絞り込めば良い事になる。
しかし、絞り込んでピントを合わせ、そこから絞りを戻して
適正なソフト量とする操作性は手間で面倒だ。

おまけに、絞り込んだ状態で、構図上の多くの距離にピントが
合っていたとしても(=それはピーキング機能でも確認できる)
そこから絞りを開けると、ソフト量の増加と共に、被写界深度も
浅くなるので、目的とする主要被写体部分にピントが合っている
保証が無くなってしまう。下手をすればピント確認の為に何度も
絞り調整を繰り返す羽目になってしまう。

なお、自作のオリジナルなピーキングの計算アルゴリズムでは
ソフトレンズでもピーキングが反応するのだが、高精度なそれは
計算量が極めて多く、PCでも2秒程度もかかってしまうので、
カメラへのそうした高精度ピーキングの搭載は、計算速度的な
観点で困難な事であろう。

ともかく、本レンズに限らず、ソフト(軟焦点)レンズは
使いこなしが相当に難しい。

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さて、前編のラストのレンズ
第5位:CONTAX Makro-Planar T* 100mm/f2.8 AEJ(RTS版)
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ミラーレス第16回記事で紹介の
1980年頃のMF中望遠マクロレンズ

カメラは、PANASONIC DMC-G6(μ4/3機)を使用する。

なお、ドイツ語なので、MacroではなくMa"k"roだ。
また、ツァイスでは開放絞り値を焦点距離より先に書く
慣習があるが、特定のメーカーだけ違う書き方をする事は
ユニバーサルでは無く賛同できないので、その点は無視する。
(注:ドイツ式とかアメリカ式とか、色々と表記方法がある。
光学分野は、かなり昔の時代からあり、その用語や記法が統一
されていない。用語制定をやれば良いのだが、カメラ業界全体の
仲がよろしくないのか?個々の立場での利便性を優先するのだ。
なお、SONYのツァイスレンズは焦点距離、F値の順で一般的だ)
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本格的な高性能マクロレンズであり、しかも銀塩時代には
「憧れのマクロ」として、マニア垂涎のレンズであった。

何故憧れか?と言えば。その価格の高さにある。
1990年代の新品価格で確か20万円弱(+税)であり、
簡単に購入できる金額では無い。

ただ、比較的中古の玉数が豊富であったのも確かで、
発売期間や後年でも長期にわたり、供給不足になった事は
無いと思う。現代でも中古入手は可能で、概ね5万円前後だ。

しかし、本レンズの評判が良かったのは、いったい何故なの
だろうか?とも思ってしまう。
CONTAXという高級ブランド銘が付いていて、しかも値段が
20万円もするからか?
有名で高価であれば良いレンズだ、と思うのは大きな勘違いだ。

実際のところは、相当に「使い難いレンズ」である。

まずその重さ、保護フィルター込みで750gオーバーであり
さほど全長が長いレンズでは無い(95mm程度)であるから
ずっしりと重く感じる。そして最短撮影距離までピント
リングを廻した際には、全長約180mm程度(およそ2倍)まで
伸び、繰り出し量が大きすぎると共に、重量バランスも
大きく変わってしまう。

そして、ヘリコイド(ピントリング)の回転角がとても大きい、
例として、無限遠から最短撮影距離までヘリコイドを繰り出す
為に、私の場合、左手を平均14回持ち替えなければならない。

この持ち替えというのは、想像するよりずっと負担が大きく
通常は左手と右手でカメラとレンズの合計1kg以上の重量を
支えているのが、持ち替えを繰り返すと、左手の回転動作のみ
ならず、右手のグリップへも疲労が蓄積して行く。

14回の持ち替えは、私の平均値であるが、小刻みに廻した
として、およそ16回程度、ものすごく回転角を大きくして
ピントを合わせに行けば10~11回程度で廻しきるが、
その場合、回転角度的にレンズを左手で支えきれないので、
さらに右手グリップへの重量負担が増加する(疲労する)
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余談だが、ビギナー層の場合、カメラを水平位置で撮る際、
レンズを上から(又は横から)つまむように吊って持って
ズームリング等を操作している人が半数ほど見受けられる。
勿論、レンズは下から支えて構え、操作するのがセオリーだ。

カメラ+レンズの重心付近を左手で支えれば、そもそも
重量負担的に楽であるし、加えて、手ブレの防止にもなる。
このような事は誰に教わるでもなく、カメラを使っていれば
自力で自然にわかるはずなのだが・・

レンズを上から吊るような構えだと、MF操作はまず出来ない、
ましてや本レンズを使うような場合は、重量を右手だけでは
ホールドできず、ものの10分程で疲れてしまい、撮影不能だ。

それから、レンズを上から「右手」で吊るしてズーミングを
している超初級者も良く見かける。左手はカメラを支えて
いるのだが、その構えではいったいシャッターはどうやって
切るのだろうか? いつまでも構図設定にモタモタしていて
なかなかシャッターが切れないのは、根本的にカメラの
構え方が間違っているからだ。カメラは基本的に構えてから
2~3秒以内にシャッターを切れるようにする事が理想だ。

本レンズと同様の疲労を誘発するMFレンズとして、例えば
NIKON Ai135mm/f2 (ハイコスパ第18回記事等)がある。
通常レンズなので本レンズほどピント繰り出し回数は多くは
無いが、重量が860gとさらに重く、1度ライブ撮影で使って、
ピント操作だけで両手が疲労困憊してしまった事があった。

さて、本レンズMakro-Planar T* 100mm/f2.8だが、
重量とピント回転角の問題を、体力や気力でカバーして
使ったとしよう、しかし今度は「ボケ質破綻」の問題が
襲ってくる。

プラナー系レンズで「ボケ質破綻」が出るのは、マニア層の
常識だ。ただ銀塩時代は、光学ファインダー使用と、現像後に
初めてそれがわかるという状況があり、撮影条件とボケ質破綻
との因果関係にまで言及しているマニアは皆無であった。

だが、デジタル時代、絞込み(実絞り)測光のミラーレス機で
高精細なEVFおよび撮影後すぐの画像確認が出来るようになると
ボケ質破綻は、撮影の前後で状況を把握する事が出来、かつ、
背景距離や絞り値の調整で、良質なボケの状態を探すという、
いわゆる「ボケ質破綻回避」の技法が生まれるようになった。
現在、一部の上級マニアはこの手法を実践していると聞く。

本レンズの「ボケ質破綻」は、かなり頻繁に発生する。
背景距離や撮影距離やアングル等を変えると、また前述の
ヘリコイドを廻す操作が必要となり、重量負担が嫌だからと
絞り値でボケ質破綻回避を行おうとする・・

ところが、本レンズの絞り環はレンズの根元に付いているのだ、
カメラ+レンズの重心位置を左手で下から支えながら、
絞り環を廻すのは不可能だ、よって、ここでも左手位置の
持ち替えが発生する、頻繁な絞り環操作は、MF操作と同様に
右手の負担増を招き、すなわち、本レンズは、どんな場合でも、
左手も右手も疲れるレンズであり、フィルード(屋外)撮影に
全く適さない。
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銀塩時代に、本レンズを「神格化」する程あがめた層が居た
事はどうにも不思議でならない、いったいどんな撮影スタイル
であったら、本レンズを快適に使用できるのであろうか?

三脚にカメラとレンズをセットして、システム全体を手では
持たないように撮っていたのであろうか? あるいは絞りも
ピントも殆ど廻す必要が無い中遠距離等の被写体だろうか?
いずれの撮り方も、マクロレンズの特性を活かしていない。
(とは言え、本記事でも近接撮影は多用していない、それは
無茶苦茶大変だからであり、あまり実用的では無いからだ)
そもそも屋外近接撮影での三脚使用は技法的に有り得ないのだ。
つまり、まったく的外れの撮り方をしていたのではなかろうか?

また、銀塩時代の撮影枚数など、たかが知れている。
良く撮る人でも、1日で数十枚から百枚程度だ(フィルム数本)
だが、今やデジタル時代だ。

2000年代、初期のデジタル時代では「フィルムの十倍撮れ!」
というのが、一種のスローガンのように流行していたが・・
(ちなみに私の現在の目標値はフィルム時代の20倍以上だ。
趣味撮影の範疇で言えば、銀塩では年間最大1万枚、デジタル
では年間20万枚が最大のレベルであろう。なお、業務撮影で
あればこれ以上の数値になると思う。それから本ブログでは
一般マニア層は年間最低3万枚の撮影を必須条件としている)

まあ、そこまで行かないまでも、いったん外に出れば数百枚、
は撮る、というのが例え初級者層でも現代では普通であろう。
だが、本レンズで数百枚の撮影は、まさしく「苦行」だ。

中古市場に沢山の玉数があるのも、なんとなく頷ける、
とても使いこなしが難しく、かつ非常に疲れるレンズで
あるからだ。

現代の一般カメラマンであれば、このような面倒なレンズは
使う気にもなれないと思う。AF+手ブレ補正+超音波モーター
のレンズでフルオートのモードで撮るのが今時の初級中級者
の撮影スタイルだ。そして、その層には、もはやCONTAXの
「神通力」も残っていない事であろう。
「コンタックス?何それ?かぜ薬?」と聞かれるのがオチだ。
まあ、売る人は多くても、買う人は少ないレンズなのかも
知れない。

ただまあ、本レンズの問題点を全て自力で回避できる技術や
技能、そして体力や握力があれば、見事に決まった時の描写力
は、往年の名レンズの片鱗を魅せてくれる可能性はある。
その僅かな希望を求めて「修行の道」(汗)に入るのであれば、
まあ、それは止めはしないが・・

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さて、今回の記事はこのあたりまでとする。
ちなみに「使いこなしが難しい」と言っても、あまりに
低性能で無個性なレンズとかは紹介していない、そのような
レンズは、そもそも「使いたい」とは思わないからだ。

なので「使いたい気持ちはあるけど・・使いこなしが困難」
というレンズを中心に本シリーズ記事では選んでいる。

次回後編では、残りの4位~1位のレンズを紹介する。

レンズ・マニアックス(12)補足編~使いこなしが難しいレンズ特集(後編)

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連載中の「レンズ・マニアックス」シリーズの補足編。
過去の各種マニアックス系のシリーズ記事において、
「これは使いこなしが非常に難しい」と思われたレンズを
ワースト・ランキング形式で紹介する記事の後編。

今回の後編では、4位~1位のレンズを紹介しよう。
勿論順位が上の方が高難易度である。
これは描写力などの性能とは無関係のランキングであり、
使いこなしが難しいという意味においては、上位になれば
なる程、あまり初級中級者層には推奨できないレンズとなる。

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まずは最初のレンズ

第4位:Carl Zeiss Planar T* 85mm/f1.4 ZF(コシナ版)
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ミラーレス・マニアックス第43回記事等で紹介の、
2006年発売の大口径MF中望遠レンズ(以下、ZF85/1.4)

カメラはNIKON D300(APS-C機)を使用する。

本ZF85/1.4は1975年~2000年代初頭に販売されていた
京セラ・コンタックス プラナー T* 85mm/f1.4のリメイク版
であり、2000年代中頃に独カール・ツァイス社と提携した
日本のコシナ社製造である。

旧来のレンズは、1975年のCONTAX RTSと同時期に発売
されていたので、RTS Planar(85/1.4)と呼ばれる事がある。
(以下、旧レンズをRTS P85/1.4と省略する)
c0032138_12235259.jpg
本ZF85/1.4は2006年の発売当初に購入した初期型であり
現在では、クラッシック・シリーズとしてZF2版となっている。
ZF版との違いは、ニコンマウントでのCPU内蔵レンズとなった
事で、ニコン(デジタル)一眼の普及機でも使用可能であり、
また、ニコン高級機ではレンズ情報手動設定の入力を行わなく
ても良くなっている。

今回利用のD300は一応高級機であるから、この初期型のZF版
でも使用可能であるが、レンズ情報の手動入力が必要だ。

なお、その入力を省略すると、絞り値の表示が実際の絞り値と
異なってしまうのだが、実はその状態でも撮影は可能である。
単に数字が違うので気持ちが悪かったり、EXIF情報を見ても
正しい絞り値が書かれていないだけである。

(注:焦点距離入力を省略すると、マルチパターン露出値
決定のアルゴリズムや、フラッシュ使用時の露出決定の
精度に悪影響が出る可能性はある。また、ニコン一眼レフ
では手ブレ補正は内蔵されていないので、そこは関係無いが、
動画撮影時の画像処理型の手ブレ補正には影響が出るかも
しれない(→未検証)いずれにしても、面倒がらずに、
真面目にレンズ情報入力は、しておく事が望ましい)

なお、マウントアダプターで使用する際には、ZFとZF2の差は
無く、どちらでも実絞り測光で他のカメラで使用可能だ。

なお、日中の輝度でも絞りを開放からフルレンジで使用できる
ようにする為(シャッター速度オーバー対策)、今回はND8
というキツ目の減光フィルターを装着している。
この為、光学ファインダーの像はNDフィルター無しの時に
比べ8分の1の光量しかない。ニコン機では開放測光で行けるが
他社一眼レフにアダプターで装着時は、絞り込むとさらに暗く
なるので、そのような使用法の場合、あまり絞り込まない事が
望ましい。(またはNDフィルターを外して用い、結果として
シャッター速度オーバー等に留意しながら使用する)

それと「レンズ情報手動設定」とNDフィルター併用は原理的
に露出に矛盾が出そうな気も若干するかも知れないが、まあ、
開放測光であるから、ちゃんと動作する。
c0032138_12235185.jpg
さて、前置きが長くなったが、本ZF85/1.4の使いこなしの
難しさの理由は何点かある。

まず1点目、被写界深度が浅く、ピント合わせが難しい事だ。
ただし、この件は本ZF85/1.4に限らず全ての85mm/f1.4
レンズで同様である。実際の所は、この手の被写界深度が浅い
レンズは一眼レフで使うよりも高精度のピーキング機能と
優秀な拡大操作系、そして高精細なEVFを持つミラーレス機
(例、LUMIX G系,SONY NEX/α等)で使う方がピント合わせは
若干容易となる、

今回使用のD300の光学ファインダーは、さほど優秀では無い
のでピント合わせが厳しいが、EOS機のように電子接点の無い
レンズを装着するとフォーカスエイドが効かない、といった
事は無く、一応それが効く(ただし、かなりシビアに反応し、
かつ、MFなのに測距点変更の操作が必要な為、面倒だ)

まあ、例によってピント歩留まり(成功率)が極めて悪くなる
状態であり、これが使いこなしの難しさの1点目となる。

そして2点目だが、旧来のRTS P85/1.4から「プラナーボケ」
と呼ばれていたボケ質破綻が、本レンズでも同様に発生する。

プラナーボケは、RTS Planar 100mm/f2(ミラーレス第32回、
第61回,ハイコスパ第13回)や CONTAX N Planar 85mm/f1.4
(ミラーレス第13回,名玉編第3回)では、発生しにくいので、
「プラナー」全てを悪者にしてしまう、この名称はどうかと
思うが、まあでも、かなり深刻な問題である。

RTS P85/1.4は、高い描写力と優れたボケ質で、銀塩時代
には「神格化」されていたレンズである。
しかしながら、銀塩一眼のファインダーでは基本的にボケ質は
わからない。私も多数のRTS系CONTAX銀塩一眼を使用していたが、
平均的にCOTAX機のスクリーンは性能が低い事もあいまって、
ボケ質やボケ量どころか、ピントの山すら掴み難かった。
(注:勿論、開放測光であるが故の問題点も大きい。だが、
一々プレビュー操作はやってられないし、やったとしても
映像が暗くなるので、ボケ量やボケ質は良くわからない)

なのでまあ、撮影した後、現像・プリントしてみて、ボケ質の
破綻が出ている事に気がつき、驚くとともにがっかりするのだ。

その「ボケ質破綻」の頻度はかなり高く、銀塩時代の機材環境
では、それを回避する術は無いので、RTS P85/1.4は極めて
歩留まりが悪いレンズとして有名(悪名)になってしまった。
(私の経験上では、その成功率は36枚撮りフィルム1本中で
1枚あれば良い程度、つまり3%以下程度しか上手く撮れない)

ただ、ボケ質そしてピントが決まった時の描写力は非常に高い、
銀塩時代のRTS P85/1.4の作例・作品等は、膨大な数の試行
錯誤(失敗)の中から選んだ1枚が載せられていたのだと
想像出来る。

なのでまあ、ユーザーはそうした「凄い写真」を見せられて
RTS P85/1.4を、過剰な期待を持って購入するのだが、実際に
使ってみて驚くわけだ、ピントは合わないし、ボケは汚い、
「いったいこのレンズは何だ? 良いという評判は嘘か?」
となってしまった。

RTS P85/1.4が独国製造版と国内製造版の2種類が併売されて
いた事から、初級マニアの間では以下のような情報まで流れた
「写りが悪いのは安い日本製だからだ、高いドイツ製を買えば、
 ちゃんと良く写るぞ!」
この、根も葉もない噂を信じて、日本版を売って、より高価な
独国版に買い換える可哀想なユーザーまで出てきた。

しかし製造国が違ったとしても、どちらも中身は同じレンズだ。
(まあ、同じ部品を使っている事であろう)
両者、同様の欠点を持ち、結局、膨大なムダ打ちの中から
選別しない限り、上手くキマった写真など撮れる筈が無いのだ。
c0032138_12235188.jpg
1990年代でのRTS P85/1.4の定価は10万円程と、神格化された
レンズにしてはさほど高価では無いが、これはAF化に失敗した
CONTAXが、旧来のMFレンズを、あまり値上げが出来なかった
事で相対的に安くなったのであり、それ以前1970~1980年代
の10万円は、やはり高価なレンズであろう。
したがって当時、RTS P85/1.4を購入できた人は、富裕層で
あると言える。そして、そうした層は収集がメインで、あまり
写真の枚数を撮らない事が一般的だ、だからRTS P85/1.4で
膨大な数を撮って、その中から選ぶ等の対策はできない。

じゃあ、何故、周囲の人が、そのように(沢山撮れと)教え
なかったかと言えば、RTS P85/1.4がそこまで難しいレンズだ
という事は、巷には情報として殆ど流れていなかったのだ。
「失敗したのは自分が下手だから」という事で、膨大なムダ
打ち失敗写真は、すべて隠し通して、まともに撮れた写真しか
周囲に見せなかったのではなかろうか?

それから、RTS P85/1.4では「焦点移動」が発生する。
(開放で測光・測距した場合、撮影時に絞り込むとピント
位置がずれる)
これも銀塩時代のピンボケの理由の1つであったかも知れない。
なお、ミラーレス機で絞込み(実絞り)測光で使うならば
原理的に焦点移動は発生しない。

本ZF85/1.4だが、RTS P85/1.4よりも外装の仕上に高級感が
あり、ピントリングの感触も良い(ただし、かなり重い)
そしてニコンとEOS(EF)マウント版がある。定価は135,000円と、
RTS版の時代から、さほど値上がりはしていなかった。
しかし、中身がRTS版と同等である為、使いこなしが難しい
レンズである事は間違いない、あくまで上級者向けだ。

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さて、次のレンズ

第3位:Lens Baby 3G
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ミラーレス第11回,第14回,第40回,ハイコスパ第7回記事で
紹介の、2000年代のMFティルト型トイレンズ

カメラはトイレンズ母艦のSONY NEX-3(APS-C機)を
使用する。

本レンズの難しさは、その操作性である。
ティルトレンズであるから、レンズを任意の方向に 任意の
角度で傾けなくては面白味が無い。
c0032138_12240797.jpg
本レンズは、3G(第三世代)という古いタイプであり、後継機
では傾けた状態で固定できるのだが、本レンズ3Gでは、傾けた
後にロックをして、それからピントを微調整する必要がある。

この操作が面倒なので、傾きをロックしない方法を編み出した。
指の形で傾きを作りつつ、同時に蛇腹のバネでピントを合わせ、
シャッターボタンに指を伸ばして撮影する、という方法だ。
(まあ、後継機MUSEでは、そういう技法で撮るのだが・・)

この撮影技法を実現する為のボディ形状が、NEX-3であれば
適正なのだ。
・・とは言え、ロックをしないで撮るのは、すごく難しい。
力も要るし、角度を保持する為の指使いは極めて複雑だ。

私はギターとキーボードを演奏するのだが、そのように楽器
演奏の(あるいはTVゲームの)練習経験が無いと、個々の指を
個別に複雑に動かす事は困難かも知れない。

「使い難いのだったら新型のコンポーザー等を買えば良い」
と思うかもしれない、だが、残念ながら新型は高価で、かつ
中古もあまり出回っていなかった。本3G型は、中古で1万円を
切る価格であったから購入したのであって、そうでないと、
コスパが悪いので購入対象外なのだ。

さすがに、ティルトレンズ系に3万も4万円もの予算は出せない
現代ではティルト式マウントアダプターも存在するので、その
効果だけを得たいならば、アダプターでも十分なのだ。
c0032138_12240755.jpg
さて、本LENSBABY 3Gであるが、絞り値で効果が若干変化する
のだが、絞り環が無い。それを変えたい場合は、ディスク状
の絞り部品がレンズ前部に磁力で付いているので、それを
専用器具で外して、他の絞り部品に入れ替える必要がある。
これは極めて煩雑な操作であり、実際の撮影中に、作画意図に
応じて絞り部品を交換する、という事はまず出来ないであろう。

この為、屋外であればその日の天候に合わせ「今日は曇りだから
F5.6あたりをつけていくか」、など、まるで露出計が無い銀塩
時代のカメラ(およそ50年程前)のような撮影技法になって
しまう。その頃には、ネガフィルムの箱の裏に、たとえば
「晴天の場合、カメラの絞りをF11にします」などと書かれて
いた。ネガフィルムの広いラティチュードがあれば、だいたい
アバウトな露出値で撮る事が出来ていたのだ。

なお、このような半世紀前の時代の記憶からか?また、それが
次の世代にまで伝わっているのか?いまだ、シニア層か、それに
近い年代のカメラマンの中で現代のデジタル一眼を使っていても
「今日は、絞りはいくつくらいにするのが良いですか?」と
聞いて来る人が多数居て驚く事がある。

勿論、レンズの絞り値は、自分が撮影したいと思う被写界深度
の意図に応じて、さらに撮影距離やレンズ焦点距離を加味して、
1枚1枚の撮影に対して個々に決定するものだ。
丸一日同じ絞り値で通すようなものでは決して無い。

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さらに余談だが、先年、観光地で高級カメラと高級レンズに
PL(偏光)フィルターを装着してるシニア層と話をした。

「PLフィルターの常用」は、20~30年前の、銀塩時代に
流行した機材利用法であり、現代ではあまり推奨はできない。
まあつまり、昔の撮影技法を現代でも守っている人だ。

彼は、撮影時に、そのPLフィルターを廻さずに、すなわち
「偏光効果を被写体に応じて調整せず」に使っていたので、
試しに「PLフィルターって、いつも廻して使ってますか?」
と尋ねてみたところ、そのシニア氏いわく、
「ああ、今朝調整したので、ずっとそのままです・・」
という答えだった。

勿論、とんでもない誤解の使用法であり、これはつまり、
「PLフィルターは、1枚1枚の写真の撮影時に毎回調整が必要
である」という点を根本的に理解していない。

「現代では推奨できない」と前述した理由の中の1つに、
この事があり、つまり、銀塩時代に「PLを付けると良い」
といった、その事柄だけが後年にまで引き継がれてしまい、
その際に「PLフィルターの正しい使い方」までを含めての
推奨または指導があったのならば良いが、それがなされず、
下手をすれば、このシニア氏のように、PL(偏光)効果の
意味や効能、用法を全く理解せずに使っている人達が大半
であるという状況だからだ。この場合、PLフィルターを
装着する事で、レンズに入る光量は、最大1/4にまで減少
してしまう、この意味がわからない初級中級層では、手ブレ
を誘発したり、AUTO ISO設定での感度上昇によるノイズの
増加などの弊害が出てしまう。
正しく使用するならば、PLフィルターは勿論効能があるが、
意味もわからず装着しているだけでは、弱点しか得られない。

絞り値の件やPLフィルターの話に限らず、様々なカメラ設定
は、1枚撮る毎に自身の意図に応じて変更をする必要がある。
それに加えて、写真の原理を何も理解しないで、周囲に
言われたままの状況で撮っている事は、さらに好ましく無い。
c0032138_12240715.jpg
さて、余談が長くなったが、本レンズ LENS BABY 3Gは、
その操作性が極めて難しいレンズである。
そしてティルトの原理や効果もわかっていないビギナーの場合、
ただなんとなく「ミニチュア風の写真が撮れた」と喜んでいる
だけの人も、かなり多いかも知れない。

勿論そのように偶然性で使うレンズではなく、ちゃんと効果が
出る方法を良く考えて用いるのが本来だ。

まあでも、ティルトの原理自体はそう難しいものでは無い、
レンズの光軸を傾けた方向に対し、レンズの面と平行な面に
ピントが合う、だから例えば左右に位置する被写体の場合は
レンズを左右に傾けて、その片方でピントを合わせれば
逆側の被写体はボケる事になる。以下、様々に光軸を傾けても
同様な原理であるし、逆向きに傾ければ距離差がある被写体に
同時にピントが合う(注:こちらが本来のティルト効果だ)

しかし、適切な角度で傾けるのは、本レンズの構造では
なかなか難しい、指の形でその度合いを測らなければならない
からだ。本レンズも、中上級者向けとしておこう。

ちなみに、同様の構造のLENS BABY MUSE(レンズマニアックス
第1回記事)も所有している。
c0032138_12242597.jpg
こちらはプラスチックレンズ仕様で、3Gよりもピントの山が
掴み難く、さらに高難易度のレンズだ。
(注:MUSEは、オプティック(光学系)が交換可能である)

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さて、次のレンズ
c0032138_12251031.jpg
第2位:Voigtlander NOKTON 42.5mm/f0.95
(読み:フォクトレンダー ノクトン
注:独語綴り上の変母音は省略)

ミラーレス第14回,第41回,名玉編第4回,ハイコスパ第16回
記事で紹介の、2010年代のμ4/3専用超大口径MF中望遠レンズ。

カメラは、本レンズの専用母艦としているPANASONIC LUMIX
DMC-G5(μ4/3機)を使用する。

本レンズの難しさは、まず、開放F0.95の超大口径レンズで
ある事に加え、異常にまで寄れる23cmの最短撮影距離であり、
両者を組み合わせる事で、超極端に浅い被写界深度となる事だ。
c0032138_12251088.jpg
前編記事で第8位となったSAMYANG 85mm/f1.4が、その最短
撮影距離での開放絞りの際、その被写界深度は約11mmとなった。
これでも十分すぎるほど浅く「まずピントが合わない」と
述べたのだが、本レンズで、開放&最短撮影距離という
条件では、その被写界深度は、なんと 1.6mmでしかない。
(注:いずれも許容錯乱円径は0.03mmで計算)

驚くべき事に、被写界深度が浅いと言っていたSAMYANGよりも
本レンズが6倍も被写界深度が浅い。

まあでも、デジタルでは許容錯乱円の定義が曖昧である事で
被写界深度の計算方法は、他のやり方も有りえる。
例えば、オリンパス社のWEBでは、μ4/3用レンズにおける
許容錯乱円径を銀塩35mm判フィルムの0.03mm(1/30mm)
に対し、半分の0.016mm(1/60mm)で計算している。


そして、本ノクトン42.5/0.95は、μ4/3専用である為、
SAMYANG 85/1.4をフルサイズ機で使った場合においては、
センサーサイズが大きい方が被写界深度尾が浅くなるという
点で、若干両者の差は縮まると思う。上記のオリンパス社の
計算例のように、許容錯乱円の値を変えれば、計算上そうなる
のだが、前述の通り、デジタルの許容錯乱円の定義は少々曖昧
であり、他にもピクセルピッチ等の別の数値を使う事もある。

なのでセンサーサイズの差と計算方式により答えが違ってくる
のではあるが、SAMYANG 85/1.4をフルサイズで使ったとしても、
NOKTONとの6倍の差が僅差にまで詰まる事は無いであろう。

それから、絞り開放&最短撮影距離という極端な状況で
被写界深度を計算して比べるのも、ちょっと無理がある。
実際には、そういう状況で撮影する方が稀であるからだ。

そして、実使用においては、勿論様々な使い方がある為、
計算はそう単純では無い。

まあでも、撮影状況を仮に想定して計算してみよう。
SAMYANG 85/1.4はポートレート用レンズと仮定し、
APS-Cデジタル一眼で3mの距離から写すと、その画角における
対角線距離は約1mとなる(人物の半身が撮れる撮影範囲)
ここで絞り開放F1.4の場合、その被写界深度は10cm強となる。
c0032138_12251099.jpg
NOKTON 42.5/0.95 は、準マクロレンズと目的を仮定して、
μ4/3機で80cmの距離から撮影すると、その画角における
対角線距離は約40cmとなる、これは大きめの花や、数輪の花、
小物等を撮影するのに適正な撮影範囲であろう。
ここで絞りを開放から1段程度絞り、SAMYANGと同様のF1.4
とする、この場合の被写界深度は約3cmだ。
(いずれも許容錯乱円は0.03mmで計算)

すなわち、各レンズの実用的な使用法を考慮した場合、
やはりNOKTONの方が被写界深度が浅い事になる。

・・とは言え、他の様々な撮影条件でも、常にNOKTONの方が
SAMYANG 85/1.4よりも被写界深度が浅い訳でもない。
焦点距離の差が2倍ある為、撮影条件によってはSAMYANGの
方が被写界深度が浅くなる事も勿論ある。

で、撮影距離を短く取るケースと、絞りを開放F0.95近くに
する事の両者を掛け合わせると、本レンズの被写界深度の
浅さは、手に負えなくなってくる。

前述のように、極薄の被写界深度1.6mmともなると、手持ち
での撮影は、その微妙に変化する撮影距離(被写体ブレと
撮影者の前後方向への手ブレ)により、ピントが合うのは
奇跡的だ、仮に、いくら高性能な手ブレ補正があっても
上下左右や回転方向の平面にしか効かず、撮影距離の前後
方向に効く手ブレ補正は存在しない。
(一部のカメラにはフォーカス・ブラケット機能が存在するが、
純正AFレンズ専用であり、勿論MFのNOKTONでは無効だ)
結局、微妙に変化する撮影距離の中で連写して、たまたま
ピントが合ったものを選別するしか方法が無い。
(=MFブラケット技法)

あるいは、かなり(F5.6程度)まで絞り込むか? だが、
F5.6でも最短撮影距離での被写界深度は約1cmしか無い。

本レンズの購入当初は、その驚異的な近接撮影能力と
超大口径を生かして、近距離での撮影が特徴を強調できると
思っていたのだが、近距離では、どうしても被写界深度が
浅くなりすぎ、ピント合わせが困難だ。そして「ピントが
厳しいから」と、絞り込み過ぎると、超大口径レンズによる
独特な描写も得られなくなってしまう。

なので最近では、本レンズが中距離での撮影においても、
被写界深度を浅くする事が出来ることから、そのような
撮り方をするのも1つの方法かとも思うようになった。
(=新しい「用途開発」を行っている)
今回の記事でも、そうした中距離撮影に特化している。

c0032138_12251011.jpg
浅い被写界深度の話が長くなったが、この特性から、
被写体選びもかなり難しい、撮影距離が微妙に異なる密集した
被写体(例、桜の花など)では、構図上の主体が何処にあるか
わからず、文字通り焦点のぼやけた写真となるのだ。

そしてもう1点、本レンズは開放近くの近接撮影で球面収差や
ハロ等が多く発生し、ソフトレンズのような軟調の写りに
なってしまう、その度合いは大きく、梅の花などの白い
小さい被写体では、輪郭がわからなくなる程の甘さとなる。

絞り値を適切な値(F2.5~F4程度)まで、やや絞り込むと
これは回避できるのだが、絞ると、超大口径独特の描写が
失われるので、撮影条件(撮影距離、被写体種類、背景距離等)
に応じ、両者のバランスを取るピンポイントで、F2.5とかの
特定の値を探し出す必要がある。
なお、絞り環は、通常1/2段刻みであるが、絞り環を180度廻す
と、動画撮影用のクリック・ストップが無い(音がしない)
絞りとなり、この場合、無段階に連続して絞り値が調整できる。

いずれにしても、ランキングもこの位置(2位)ともなると、
かなりの高難易度レンズだ、上級者でも難儀すると思われるし
専門評価者や職業写真家層であっても、この手の超大口径
MFレンズでの撮影の経験値を持っている訳でも無いだろう。
勿論、初級中級者の手に負えるレベルのものでは無い。

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次はラストのレンズ、こちらが最難関レンズだ。

第1位:Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 125mm/f2.5 SL
(読み:フォクトレンダー マクロアポランター
注:原語綴りにおける変母音の記載は省略している)
c0032138_12252296.jpg
ミラーレス・マニアックス第23回、補足編第6回記事で紹介の、
2001年発売のMF望遠マクロレンズ

本レンズは、当時のフォクトレンダーSL系レンズの中では
珍しいEF(EOS)マウント版だ。
カメラは、ファインダー性能が極めて低いCANON EOS7Dを
試験的に使用してみよう。

奇しくも1位,2位とフォクトレンダーのワンツーフィニッシュ
となった、まあ、コシナ製のレンズは、どれもマニア向け
なので、こういう事もあるだろう。
c0032138_12252256.jpg
さて、一口に「使いこなしが難しい」と言っても、そこには
様々な理由がある。
ここまでランキングにあげてきたレンズを、その理由で
4種類に区分してみよう。

1)レンズとカメラを合わせたシステムとしての性能上の限界
 8位 EOS 7D+SAMYANG 85mm/f1.4
 番外 PENTAX Q7+Space 7.5mm/f1.4

2)レンズの特徴的な仕様を原因とする使い難さ
 7位 TAMRON SP500mm/f8
 6位 KENKO MC 85mm/f2.5 Soft
 2位 Voigtlander NOKTON 42.5mm/f0.95

3)レンズの性能上の課題を回避して使う事が難しいケース
 4位 Carl Zeiss Planar 85mm/f1.4

4)レンズそのものの操作性の弱点から来る使い難さ
 5位 CONTAX Makro-Planar 100mm/f2.8
 3位 LENS BABY 3G
c0032138_12252262.jpg
さて本マクロアポランター125/2.5SL(以下MAP125/2.5)は、
上記区分の、どのケースに当てはまるのであろうか?

実は、3)の性能、以外の全てに該当してしまうのだ。

まず、1)のシステムの問題点だが、カメラはMF性能に劣る
EOS 7Dだ、今回も全くピントが合わない。

「限界性能」のテスト目的としても、これでは酷すぎるので、
早々にEOS 7Dの利用は諦め、ボディを望遠母艦のLUMIX DMC-G6
(μ4/3機)に変更しよう。
c0032138_12253696.jpg
そうしても、次いで、2)仕様上の課題が出てくる。
かなり大きく重い(770g)のレンズであり、ハンドリングが悪い。
EOS 7D(APS-C機)での換算画角は200mmとなり、μ4/3のDMC-G6
では、250mm相当と、かなり長目の画角だ。
そこで最短撮影距離38cmの等倍マクロの状態では、画角が
狭すぎてブレが非常に大きくなりすぎる。

ちなみに、撮影範囲だが、μ4/3機で撮影距離38cmの場合、
約5.2cmx約3.9cmの狭い範囲しか写らない。
(APS-C機では、約7cmx5cmという感じだ)

仮に、この撮影範囲を約2000万画素相当で撮影した場合、
計算を簡略化して、5200x4000ピクセルとするが、これは
1cmあたり1000画素であるから、被写体ブレまたは手ブレが
ほんの1mm発生しただけで、100画素もずれてしまう(!)

ブレの原因の1つとしては重たい(重たく感じる)レンズで
ある事も大きく影響している。一眼レフとの組み合わせでは
総重量は1.5kgを越え、手持ち近接撮影は極めて厳しく
かと言って、グリップしずらい小型ミラーレス機では、
総重量こそ軽くなっても、レンズを支えきれない。
今回は軽量かつグリップのしっかりしたDMC-G6を用いて
いるが、それでも厳しい状況だ。

「じゃあ三脚を立てて撮れば良いじゃあないか」
と思うかも知れないが、それは大きな勘違いだ。

最短38cm、絞り開放での被写界深度だが、何と1.3mmだ(!)
これは、上記の超大口径レンズNOKTON 42.5mm/f0.95
の最短での被写界深度約1.6mmより、さらに浅い驚愕の数値だ。

このような状況で、たとえ三脚を立てても、屋外被写体で
あれば全滅だ、風やその他の要因がある中で、1.3mm以下の
範囲で微動だにしない被写体があるだろうか?

「屋内被写体ならば大丈夫」とか屁理屈を言うなかれ、
そんな浅い被写界深度で撮るべき商品写真や小物撮影等は無い。

ともかく、ブレが非常に大きく影響し、加えてピント合わせが
極めて困難な事が、2)の仕様上の問題点となる。
c0032138_12253664.jpg
これまでの問題点を、超絶的な技巧で回避できたとしても、
次いで「4)レンズそのものの操作性の弱点」が襲い掛かる
本レンズは、第5位の Makro-Planar T* 100mm/f2.8
と同様に、MFのピントリング回転角が極めて大きい。

無限遠から最短撮影距離までの、左手の持ち替え回数は、
Makro-Planarと同じ、平均14回だ。

当然、撮影中、左手、右手の両方に極めて大きな負担がかかる、
これでは、ものの10分で、使うのが嫌になって来る事であろう。

以前のミラーレス記事でも書いたが、このレンズを使うのは
「何かの修行か?」と思われる程の苦労を伴う。
描写力はそこそこ高いのであるが、使っていて楽しく無い事は
勿論であり、好き好んで本レンズを使うべきでは無いであろう。
(=「エンジョイ度」の得点が低いレンズと評価される)

初級中級者には推奨しない事は勿論、上級者や上級マニアに
対しても薦める事はしたくない、どうみても「苦行」でしか
無いからだ・・
c0032138_12253652.jpg
幸い(?)本レンズMAP125/2.5は、現代ではレアものである、
2000年代初頭の発売時の定価が10万円弱と高価であった事と、
マニアックなスペックから、販売本数はかなり限られていたと
思われる。
ごく稀にネット等で中古が出てくると、レアな為、プレミアム
価格となる場合もあるし、「投機対象」となっている様相も
あるのだが、本レンズを高価な価格で入手する事は疑問だ、
何も、好き好んで「修行」をする必要は無い。
c0032138_12253632.jpg
まあ、最難関の「使いこなしが難しい」レンズである事は
間違い無い。

なお、参考の為。2018年末に発売された、本MAP125/2.5
の17年ぶりの正当後継機種とも言える「マクロ アポランター
110m/F2.5」は、やはり難しいMFレンズではあるが、本レンズ
程の酷い使い難さは無い。左手の持ち替え回数も8~9回で
済む。SONY FEマウント仕様である為、ピーキングも効くし、
α7系のⅡ型機以降であれば、内蔵手ブレ補正機能も使用
可能である。描写力に関しても僅かに新型MAP110/2,5が
優れるであろう。新型は新品で14万円前後と高価なレンズ
ではあるが、本MAP125/2.5を不条理なプレミアム相場で
買うよりも安価であり、新型MAP110/2.5が圧倒的に
お勧めだ。(後日、別記事で紹介予定)

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さて、前編後編に分けて、ランキング形式で紹介した
「使いこなしが難しいレンズ特集」は、これにて終了だ。

ランクインしたレンズは全てMFレンズであるが、これはまあ
たまたま、である。MFレンズがAFレンズよりも使いこなしが
難しいと言う訳では無い事は、マニア層や上級層であれば
誰でもわかっている事だ。

最後に念の為、前編・後編であげたレンズ群は、あくまで
「使いこなしが難しい」というだけであり、悪いレンズとか
性能が低いレンズでは決して無い。

これらのレンズは、高性能あるいは個性的な描写表現力を
持つ為、むしろ「使いたいレンズ」であるのだ。
「使いたいけど、使うのが難しい」そういうレンズが今回の
記事で紹介したレンズ群である。


ハイ・コスパレンズBEST40 プロローグ編(1)

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ハイ・コスパレンズ・マニアックスのシリーズ記事が終了
したところで、総集編として、コスパ上位のレンズを40本
取り上げ、BEST40として紹介するシリーズ記事を開始する。
c0032138_12395142.jpg
ただし、BEST40の本編は次々回記事からとし、本記事では
プロローグ(序章)として、まずコスパ順位の決め方や
ノミネートされるレンズの条件等を説明しておこう。

<過去のレンズ関連シリーズ記事>
さて、本ブログにて2015年から2016年にかけて、80以上もの
記事を展開したシリーズ「ミラーレス・マニアックス」では、
12機種の様々なミラーレス機(ミラーレス一眼)を用い、
当時所有の延べ約320本の様々な種類のレンズを組み合わせ、
それらの相乗効果により、システムの性能あるいは撮影の
エンジョイ度を高める事を目的としたシリーズ記事であった。

2017年初頭には、その総集編として延べ約320本のレンズ群
の全てを「描写表現力」、「マニアック度」、「コスパ」
「エンジョイ度」、「必要度」の5項目で評価し、その合計点
が上位となった20本のレンズを「名玉編」としてランキング
形式で紹介した。

ただ、ここで上位になったレンズの中には、生産時期の古い物や
非常にレアで入手が困難なものも含まれていた為、知人からは
「あの△△△というレンズが欲しいのだが、手に入らない」
といった意見もあった。

2017年~2018年には「ハイ・コスパレンズ・マニアックス」の
シリーズ記事を連載した。
ミラーレス・マニアックスではランダムな順番で紹介したレンズ
群を、標準、広角、望遠等のカテゴリー別に再分類し、特に
コスパおよびマニアック度の高いレンズを約100本紹介した。

2018年末からは、「レンズ・マニアックス」シリーズ記事を
開始、新規購入や貸与品の返却等の理由で、これまで未紹介の
レンズを順次紹介している(現在継続中)
ただし「レンズ・マニアックス」においてはカテゴリー分類を
行っておらず、新規購入順等でのランダムな紹介パターンで
あるし、コスパを重視する要素も殆ど無い。

2019年初頭より「特殊レンズ・スーパー・マニアックス」
を開始、しかしこちらは、やや特殊な交換レンズ群を
カテゴリー別に紹介する、一種の「総集編」記事であり
コスパなどの要素は一切無い。
c0032138_12395223.jpg
<ハイコスパ BEST40の決め方>
さて、これから「ハイ・コスパレンズ」のシリーズ総集編として、
BEST40のレンズを紹介していくのだが、まずその順位の決め方を
最初に定義しておく。

順位は得点で決まり、基本的には「ミラーレス・マニアックス」
の名玉編と同じ「描写表現力」、「マニアック度」、「コスパ」
「エンジョイ度」、「必要度」の5項目を5点満点で評価し、
その平均点を計算するが、その平均点に、さらに「コスパ」の
得点を加えて2で割る。

つまり(コスパ点+総合平均点)÷2 が得点であり、
これは、コスパ評価が二重に入っている為、全体の評価点の内、
「コスパ点」の占める割合が多く約6割にも相当する評価法だ。

そして、評価点以外にもランキングとなりうる条件はある。
基本的には、入手し易いかどうか?だ。
「入手性」については、点数で評価するのではなく、以下の
いずれかの条件を満たす事を必須とする。

1)現行(2010年代)の、一眼レフ用又はミラーレス機用の
  レンズであり、新品または中古での購入が容易である事。

2)または、2010年代の近年まで生産されていて、中古市場で
  比較的玉数(流通)が多く、入手が容易である事。

3)あるいは、2000年代以前に生産が完了となっている
  オールドレンズではあるが、販売本数が多いなどで、
  現代でも中古流通が多く、入手が容易な事。

いずれにしても、現在所有していないレンズ(つまり処分や
譲渡をしてしまったり=現在未所有、又は未購入のレンズ)
は、現時点で実写が出来ない為、それらは対象外とする。

なお、中判用交換レンズは所有していない為、対象外である。
他にもレンジファインダー機用レンズ等があるが、少なくとも
私が所有しているレンジ機用レンズや、特殊用途(CCTV用等)
のレンズは、コスパを主とし全体的な性能面を評価する上で、
今回のBEST40に入る事は、まず不可能である。
(よって、それらは1本も登場しない)

まあ、所有してもいないレンズの評価をする事などは
本来あってはならない事だが、残念ながら他の世の中の
レビュー情報等は殆どが、そのような状況であり、それらの
内容は信用には値しないと判断している。
(例えば、初級マニア層などによる未所有機材の思い込み評価
とか、あるいは専門評価者であったとしても、借りた所に気を使い
ながら記事を書いているような様相が見られれば、なおさらだ)

それから、2018年頃から急速に海外(主に中国)製の
新鋭低価格MFレンズ(主にミラーレス機用)が市場に流通し
始めた。具体的なブランド名は、七工匠(しちこうしょう)、
Meike(メイケ)、YONGNUO(ヨンヌオ)、KAMLAN(カムラン)
等である、これらは現在、順次入手してテストを繰り返して
いるのだが、確かにコスパの良いレンズばかりである。
まあ、それもその筈、これらのレンズの一部は、30~50年程
前の名レンズの設計を、ほぼそのまま、ダウンサイジングして
APS-C機以下のミラーレス機用としている、私が言うところの
「ジェネリック・レンズ」であるからだ。(注:独自設計の
ものも勿論多い)

しかし、本シリーズ記事執筆時点では、これらの新鋭海外製
レンズは評価が間に合っていなかった。ランクインできそうな
レンズも多いが、残念ながらノミネートは見送る事とする。

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さて、ここまでがランキングを決める為の説明事項だ。

今回の記事、および次回の記事では、まずプロローグ編として
惜しくもBEST40のランキングには入らなかったが、十分に個性的
であり、紹介に値するハイコスパレンズを計7本紹介する。

それぞれのレンズには、組み合わせが最適と思われるカメラ
(デジタル一眼やミラーレス機)をアサイン(割り当て)する。
なお、その場合はパフォーマンス(性能や相乗効果)を最優先し、
ミラーレス・マニアックス等のシリーズ記事で意識した
「オフサイドの法則」つまり、カメラだけ異常に高価なもので、
レンズが安物である、という組み合わせを禁じるルールは緩和する。

それは、本シリーズでは極めて安価なレンズを主に扱う為であり、
カメラの価格の方が必ず高価になってアンバランスになるのは、
やむを得ないからだ。

さらに言えば、2010年代後半では、カメラの平均入手価格が
それまでの時代よりも数倍も高価になってしまっている。

カメラ市場の縮退から、メーカー側は「高付加価値化戦略」で
値上げをせざるを得ず、そうした高いカメラを買う人は減るから、
ますます市場は縮退する。ここも、そういう市場原理なので
やむを得ないが、まあ、持論としての「オフサイドの法則」が
守り難くなっている事は確かだ。

<ランキグ外(番外)レンズ>
では、以下、ランキング外レンズを順次3本紹介していこう。
(注:本来ならば1記事にレンズ4本の紹介だが、本記事では、
 事前説明があった為、レンズ紹介1本分をそれに充てた)

番外レンズ(1) およそ290位相当
c0032138_12411010.jpg
評価得点 2.70 (内、コスパ点 1.5) 
レンズ名 LAOWA 105mm/f2[T3.2] The Bokeh Dreamer
レンズ購入価格:90,000円(新品)
使用カメラ:NIKON Df (フルサイズ機)

「ハイコスパ」と言うには、あまりに高価なレンズである。
コスパ点も勿論低く、当然、概算順位も非常に下位である。
しかし、本レンズは世の中に4機種しか存在しない希少な
「アポダイゼーション・レンズ」の中の1本であり、
その4本の中では最安値のレンズだ。
c0032138_12411004.jpg
私はそのアポダイゼーション4機種を全て所有しているが、
その特殊性と希少性から、どれかを紹介したいと思う。
本レンズが、その絶対的なコスパ順位はともかく、コスパ
面での紹介の目的には最適であろう。

本レンズLAOWA 105mm/f2については特集記事を書いた事も
あり、また、アポダイセーションの仕組みや詳細についても、
様々なSTF135/2.8やXF56/1.2APDの紹介記事や
特殊レンズ「アポダイセーション・グランドスラム」記事
でも説明しているので、今回は、ばっさり割愛する。

まあ、かいつまんで言えば「ボケ質が非常に優れたレンズ」
であるという事だ。その目的を実現する為にグラデーション
状に周囲が暗くなる「アポダイゼーション光学エレメント」
を搭載している特殊レンズだ。

すなわち、この機構を搭載しているレンズを使いたいと思えば
定価およそ20万円もする高額レンズを買わないとならない。
まあ、その金額は、さすがに高価すぎるであろう。それらの
中古を待って狙うか・・しかし、中古流通はかなり少ないので、
待ちきれないならば新品で本LAOWA 105/2(新品実勢価格
10万円程度)を買うしか無いのだ、これはコスパうんぬんを
言う前に、欲しければ買うしか無い・・

で、本レンズは実は、コスパ評価点(1.5点)以外の4項目の
評価点が極めて高く、それらの平均は4.5点にもなる。
このような特殊かつ高性能なレンズを、単にコスパの名目で
切り捨ててしまうのは惜しいと思い、あえて番外編として
紹介した次第である。
c0032138_12411000.jpg
なお、実写写真掲載上の注意点であるが、これは他のレンズ紹介
記事でも同様だが、レンズ自体の描写力の雰囲気を紹介する為、
PCによるレタッチ編集は、縮小、僅かな構図調整、輝度微調整
程度に留めていて、過度な加工編集は一切行っていない。

ただし、現代のデジタルカメラを使うので、そのカメラ内にある
様々な機能(例、ビビッド等の画質スタイル、デジタルズーム、
ピクチャーエフェクト等)は自由に使う事とする。
つまり、ほぼカメラで撮ったままの写真を掲載するという事だ。
(注:カメラ内の画像編集機能は、あえて用いていない)

掲載画素数は十数年前の本ブログ開設当時からのコンセプトで、
かなり少なめにしている。そのおかげで(有限の)ブログ容量
が、いっぱいにならずに十数年間も続けていられるのだ。

デジタル黎明期の当時は(今でもか)画素数至上主義の誤解が
蔓延していたので、巨大な画素数の写真を掲載しつづけ、
ものの数ヶ月でブログ容量が満杯になってしまったブロガーも
多数居た。

それに基本的にブラウザ等の縮小表示環境は使用するブラウザの
種類や、PCやタブレットやスマホ等の閲覧機器の解像度環境にも
大きく依存する。つまり大きな画素数の写真をアップしても、
ブラウザ毎に画像縮小アルゴリズムが異なる為、誰もが同じ
ように閲覧しているという保証は全く無い。

これはデジタルの宿命であるのだが、十数年前は、そういう事が
わかっている人は世の中のごく一部でしか無かった。
すなわち自分がアップした画像は、皆がそれと同じように見える
訳では無いのだ。ならば、そこにあまり神経を使っても意味が無い
むしろ表示サイズぴったりに、予め自分で縮小してアップすれば、
ブラウザにより見え方が変わる(つまり、HTMLのIMG SRCタグの
パラメータにより勝手に様々な方法論で解像度を変えてしまう)
という問題が起こらないのだ。

解像度のみならず、近年のPCやスマホによる閲覧システム
(ブラウザやOSによる)では拡大縮小という操作も容易だ。
が、仮に低画素の表示画像を拡大して見たら、拡大に連動して
表示画素数(解像度)を上げない限り、低画質に見えるのは
当然である。そうした閲覧方法に対しては、それはユーザーの
各々の操作の為、本ブログでは考慮していない。
(画像を拡大閲覧したければ、単に表示を大きくするのでは
なく、ビューワー等で解像度を高めながら表示しなければ
ならない。まあ、デジタルの原理的には当然の話である)
c0032138_12411143.jpg
説明が長くなったが、結局のところネット上でのレンズ評価の
実写画像などは殆ど参考にならないのだ。デジタル閲覧の問題点
を回避するには、プリントして印刷物として固定するか、又は
自分自身のシステム内(カメラで撮影したものを、自分のPCで
見る等)でしか成り立たない訳だが、そうであってもモニターの
ガンマ特性の差やトーン・マネージメントの差異が出て来るし、
そもそも、縮小した時点で画像の雰囲気はかなり変わってしまう。
(=「縮小効果」。詳細の説明は長くなるので割愛する)

よって、本シリーズ記事でも(また、他のシリーズ記事でも)
実写画像は、あくまで雰囲気だ、と理解して留めておくのが良い。
他人の撮った掲載写真を参考にしてレンズやカメラを買う等の
行為は、現代のデジタルの仕組み的には「有り得ない話」だ。

本レンズの話に戻るが、従来他のアポダイゼーションレンズは、
特定のマウントの製品しかなかった(ミノルタ/SONY α(A),
FUJI X、SONY FE)のが、本LAOWA105/2はそれら以外のマウント
で使用できる。NIKON Fマウントで買っておけば他社の様々な
マウント機でもアダプターでの利用が容易だ。
c0032138_12413178.jpg
上写真は、本レンズをCANON EOS 6D(フルサイズ機)に
装着した状態だ。
ミラーレス機に限らず、一部の一眼レフでもニコンFマウント
のレンズをアダプターで装着可能だ。

ただ、ミラーレス機に比較して、一眼レフのMF性能は
劣るので、様々な点に注意しながら使う必要はある。
以下は、EOS 6DとLAOWA105/2で撮った写真である。
c0032138_12413120.jpg
こうした電子接点の無いレンズは、EOS機では露出もばらつく
可能性があるので、その点も要注意だ。
それと、あまり絞り込むと光学ファインダーも暗くなるが、
アポダイゼーションでは、基本的に絞りは開放近くで使う。
(=効果を最大限に出す為)
ただまあ、従来、特定のマウントで無いと使えなかったのが
様々なマウントでアポダイゼーションを使えるようになるのは
大きなメリットであると言える。
c0032138_12413137.jpg
本レンズLAOWA105/2だが、誰にでも必要なレンズでは無い。
しかし、アポダイゼーションの写りがどんなものであるかは
中上級マニアであれば知っておく必要があるだろう。
描写表現力という観点では無視できないレンズだからだ。

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番外レンズ(2) およそ170位相当
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評価得点 3.25 (内、コスパ点 3.5) 
レンズ名:smc PENTAX-DA 40mm/f2.8 XS
レンズ購入価格:12,000円(中古)
使用カメラ:PENTAX K-01 (APS-C機)

工業デザイナー「マーク・ニューソン」氏が意匠デザインを
行った非常に個性的なレンズ。厚み9mmと重さ52gは、恐らくは
歴代の一眼レフ用交換レンズの中で、最薄、最軽量であろう。
PENTAXでは、このレンズを「パンケーキ」ならぬ「ビスケット」
レンズと呼んでいる。

同じく「マーク・ニューソン」氏のデザインしたPENTAX K-01
との組み合わせにより、およそこれがカメラだとは思えない
程の個性的でインパクトの強いデザインとなる。
このデザインは当然、好き嫌いはあるだろうが、私は好みだ。
c0032138_12414721.jpg
ただまあ、デザイン優先のあまり、カメラにもレンズにも勿論
使い難い部分が沢山出てくる。うちK-01のAF/MF性能の低さは
デザインと直接関係無いだろうから、ここでは不問とするが。
レンズ側は、この薄さではMFは操作性的に、やり難い。

なお、本レンズは、当初黒塗装でK-01とのセットで発売された
のだが、後年K-5のSilver塗装モデルと、本レンズも銀塗装
とした特別限定版で少数販売されたバージョンだと思われる。
ピントリングの塗装が異なる他は、黒色版と仕様は同一だ。
c0032138_12414727.jpg
最短撮影距離は40cmと、40mmレンズにしては標準的だ、
ただ、近接撮影にした場合、AF性能が貧弱なK-01では全くと
言っていい程ピントが合わない。ミラーレス機のコントラストAF
では原理的に無理だと思い、PENTAX KP等の位相差AF方式の
一眼レフで使うと、近接以外の撮影ではピタリとピントが合うが
最短付近での近接撮影をすると、最短撮影距離を僅かでも下回ると
当然全くピントが合わなくなる。しかしその見極めが難しいので、
本来ならば最短付近の撮影は、MFで行うのが望ましいが、前述の
ように、レンズの薄さでMFが若干やりにくい課題がある。
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(参考:PENTAX KP装着時のイメージ)

まあでも、ピントリングが有限回転式なのが救いであり、
いざとなればMFで最短撮影距離に固定して、カメラを前後して
ピントを合わせられる。なお、距離指標目盛りは、この薄さ
なので付いていない。

結局、一眼レフで使ってもミラーレス機で使っても弱点がある
事については大差なく、あまり真面目に撮ろうという気には
なれないレンズである。
c0032138_12420562.jpg
描写力もたいした事は無い。ただし、そのあたりは、そもそも
このシステムが画質等を重視するような本格的な撮影用途には
全く向かないものであるので議論の対象にする方がおかしい。
以前の本レンズの紹介記事にも書いたが「別に本レンズ(又は
本システム)を使わずとも、PENTAXには他に良く写るレンズは
いくらでもある」訳だ。

本システムの使用にあたっては、K-01の優秀なエフェクト機能
を主体として用いるのが良いであろう。
c0032138_12420515.jpg
本レンズは趣味的要素の極めて強いマニアックなレンズであり、
実用的な目的には決して適さない。ただまあ、この個性は
大きな魅力であり、価格もそう高くは無い。
コスパならぬ「価格対マニアック度」を計算すれば、
最強クラスのレンズであろう。

なお本レンズの概算170位相当だが、実はあまり悪い順位では
無い。と言うのも、本シリーズ記事でBEST40にランクイン
するのは「容易に入手できる事」という条件を満たす必要があり、
その点からは、所有レンズ全体の半分以上は、その条件で
落とされてしまうのだ。

だから、本レンズも実際には、およそ80位程度には入っている
のではあるが、まあ、銀塗装版は入手困難なので、仮にもう少し
点数が高かったとしても、BEST40のランキング対象からは
あえて外した事であろう。
なお、逆にオーソドックスな黒塗装版を買ったとしたら
マニアック度の点数が下がるので、結局ランクインは無理だ。

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番外レンズ(3) およそ280位相当
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評価得点 2.80 (内、コスパ点 2.0) 
レンズ名:SIGMA ART 135mm/f1.8 DG USM
レンズ購入価格:100,000円(中古)

使用カメラ:CANON EOS 6D (フルサイズ機)、
およびEOS 7D MarkⅡ(APS-C機)

高価なレンズであり、コスパの観点からはかなり下位の
レンズとなる、しかし、このレンズは、私が「硬派」だと
評価しているSIGMA Art Lineの中では主力級のレンズとなり得る。
誰にでも必要なレンズとは言い難いが、特に暗所でのステージ系
中遠距離人物撮影では大きな武器となる。
(下写真および3つ下のライブ写真は、APS-C機、EOS 7D MarkⅡ
との組み合わせ)
c0032138_12423302.jpg
旧来その目的に使っていたのはSONY製135mm/f1.8ZAであるが
そのレンズは2006年発売と古く、AFの遅さ等が気になっていた。
近年発売された本レンズをZA135/1.8の予備または代替として
の目的で購入した訳である。
ステージ撮影等では、APS-C機を使用して、135mmレンズを
換算200mm級の画角で使う方が利便性が高いという認識だ。

今回、以下では本レンズをステージ系の撮影には使わず、
フルサイズ機を用いて一般的な散歩撮影に持ち出してみよう。
c0032138_12423366.jpg
本A135/1.8の長所であるが、まず、高い解像力を持ったレンズ
である事だ。ボケ質も悪くなく、逆光耐性も高い、
新しい設計のレンズだけあって、いわゆる「描写力」という面
では何の不満も無い。それから、最短撮影距離も短い。

本レンズの弱点は色々とある。重量級(軽く1kgオーバー)な事、
内蔵手ブレ補正機構を持たない事、そして高価な事だ。
超音波モーターを内蔵しているが、レンズ群の質量が大きい
からか、十分なAF合焦速度は得られない。

この点(AF速度)においては、SONY ZA135/1.8と大差無く、
それの代替とするには、ちょっと目論見が外れた感じだ。

本レンズ内に手ブレ補正が内蔵されていない点もあいまって、
SONY機(Aマウント)で内蔵手ブレ補正が使える方が、メリットも
あったかも知れない。でもまあライブ撮影においてはISO感度や
シャッター速度を綿密に決めるので、手ブレ補正の有無はあまり
関係無いのだが、むしろ日中に使う際に、AUTO ISOでラフに
使うと、暗所に向けた際等、意図せずシャッター速度が下がり
すぎてブレが発生してしまう。

本レンズはEFマウント用であるので、EOS上級機ではAUTO ISO
時の低速限界シャッター速度を設定変更する事が可能だ。

だが、このメニューは奥深くにある(注:CANON上級機では
この設定をマイメニューに登録し、ショートカット可能だが
NIKON上級機の多くは、この設定はマイメニューに登録不可
という極めて不条理な状況だ)

・・なので、一般的には標準レンズを主に使う事を意図して
ISOが切り替わる速度を1/30~1/60秒に設定しておくのが
スタンダードだ。
だが、本レンズを使う際に、その値を最低1/125秒程度に
迄、上げておくのを忘れると(あるいは忘れていなくても、
「面倒だから」と、しないでおくと)
暗所で1/30秒程度のシャッター速度となると、気を抜くと
手ブレしてしまう(フルサイズ機の場合、本レンズでの一般的な
手ブレ限界速度は1/125秒であり、1/30秒だと2段落ちだ)

近年のカメラの手ブレ補正や高感度AUTO ISOの恩恵に頼りすぎると、
こうなってしまう。だから本レンズは、いつ何時でも、きっちりと
カメラ設定や露出値を意識して使わなければならない。

こういう点が、本レンズ(や、他のSIGMA Art Lineのレンズ)を
私が「硬派である」と評価する所以になっている。
c0032138_12424666.jpg
それから、フィルター径もφ82mmと大きく、保護フィルターや
日中使用時の減光フィルターも高価になりすぎてしまう。

ちなみに、今回使用のEOS 6Dにおいては、最高シャッター速度が
1/4000秒までと中級機並みのスペックであるので、日中に減光
フィルター無しでは、すぐに最高シャッター速度に到達してしまう。
したがって、EOS 6Dの「セイフティ・シフト機能」をONとし、
(TV/AV値に設定する)シャッター速度オーバーの際に自動的に
絞り込まれるようにしているが、頻繁にそれが発生する状況だ。
c0032138_12424687.jpg
さて、本シリーズや他のハイコスパ系の記事では、レンズは、
良く写って、軽く小さく安価であれば、概ね好評価が得られる。
逆に、悪いレンズの代表として「大きく重く高価」だという
3要素(三重苦)を良くあげるのだが、これは仮にそうした
新鋭レンズが良く写ったとしても、使うのが面倒に思えたり
(大きさ、重さ)、ラフに扱えない(高価)だったりしたら、
「実用性が低い」という事に繋がってしまうからだ。

本レンズ A135/1.8も、まあその「三重苦」のレンズである。
けど、ステージ撮影という分野では必携のレンズとなる為、
使わざるを得ない。そこにはコスパという概念よりも、
三悪という弱点よりも、優先するべき要素がある。

けど勿論、趣味撮影には全く適さない、そこをよく認識して
この手のレンズを選ぶ(買う)必要があるという事だ。
(注;何度かのステージ撮影に使った結果、本レンズは
若干その目的には使い難い点がある事もわかってきている、
これについては、また追って別記事で述べよう)

・・他の例をあげれば、野鳥撮影等の遠距離撮影分野では、
レンズの焦点距離(画角)は、500~800mmが必須となる。
勿論そういうレンズは、「大きく重く高価」の三重苦だ。
が、昔であれば、そういうレンズを使うしか野鳥は撮れなかった
のでやむを得ないではないか。
逆に言えば、野鳥撮影をしない人は、勿論必要のないレンズだ、
という事になる。

ただ「昔であれば」と書いたのは、現代においては、ミラーレス機
などを用いて、センサーサイズを下げ、加えてデジタルテレコンや
デジタルズームを併用する事で、実用範囲画素数での超々望遠撮影
(例、800~1600mm程度の画角)を得る事は可能になってきている。
また、野鳥撮影分野では、多くのアマチュア層でも、高画素機
からトリミングして、野鳥を大きく見せるのが基本の編集処理だ。
そうであれば「大きく重く高価」なレンズを持ち出す必然性は
少し減ってきている訳だ。

本レンズのような大口径望遠レンズにおいても、時代の変化が
影響する。例えば、ISO感度数十万という新鋭デジタル一眼レフを
用いれば、実用上ではISO数万程度までは十分使え、仮に暗所で
あっても、ノイズ等を、あまり心配しないで撮る事ができる。
そうであれば「大口径」の特徴の速いシャッター速度を得る
(英語で言うハイスピードレンズ)必要性は少なくなり、
大きな背景ボケ量を確保する事以外での長所にはなりえない。

まあでも、その「大きなボケ」というのも、確かに必要のある
スペックだ。このあたり、被写界深度の話はレンズの焦点距離や
絞り値以外にも、撮影距離にも大きく依存する話なので、今回は
詳細は割愛するが、まあA135/1.8は、必要とあらば大きなボケを
容易に得る事ができるレンズではある。

ちなみに、本レンズの最短撮影距離は87.5cmであり、これは
135mmレンズ中ではトップではないが、かなり優秀な方であり
近接撮影に持ち込んで大きなボケ量を得る事も出来る。
c0032138_12424698.jpg
本A135/1.8は、コスパ面でランキングレンズにはなりえないし、
用途が限られているので誰もが必要とするレンズでも無いと思うが、
世の中にはこういうレンズもある、という事で参考まで・・

---
さて、本記事「プロローグ編1」は、ここまでとし、次回記事も
またマニアックなランキング外レンズを4本ほど紹介する事にしよう。

銀塩一眼レフ・クラッシックス(21)PENTAX MZ-3(SE)

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現有している銀塩一眼レフの名機を紹介するシリーズ記事。
今回は、第三世代(AFの時代、世代定義は第1回記事参照)の
PENTAX MZ-3(1997年)を紹介する。
c0032138_10084761.jpg
装着レンズは、smc PENTAX-FA 43mm/f1.9 Limited
(ミラーレス・マニアックス第1回、第64回記事等参照)

例によって本シリーズでは紹介機でのフィルム撮影は行わない。
デジタルでのシミュレーターは、まずはAPS-C機のPENTAX KP
(2017年、本機MZ-3の丁度20年後に発売された機体だ)
を使用するが、記事後半ではフルサイズ機も用いてみよう。
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以下、シミュレータ機での撮影写真と、本機MZ-3の機能紹介
写真を交えて記事を進める。
c0032138_10080202.jpg
さて、本シリーズ第17回記事「PENTAX Z-1」編では、
「αショック」(1985年)以降のPENTAX AF一眼レフの初出
から、PENTAX初のAF最上位機種Z-1(1991年)迄の時代を
紹介したのだが、ここでは、その後の1990年代での
PENTAXのAF一眼レフの歴史について述べておく。

<1991年>
PENTAX Z-10 初のハイパーマニュアル搭載
PENTAX Z-1 1/8000秒シャッター、ハイパー操作系,最上位機

<1992年>
PENTAX Z-20 ハイパープログラムシフトに学習機能を追加
「バブル景気」崩壊

<1993年>
PENTAX Z-20P Z-20のパノラマ対応版(現在未所有)
PENTAX Z-50P 初級機

<1994年>
PENTAX Z-5 Z-1の姉妹機(高級機)
PENTAX Z-1P Z-1のパノラマ対応および小改良機

<1995年>
「阪神淡路大震災」発生
PENTAX Z-70P 小型軽量化された初級機
PENTAX MZ-5 操作系を簡略化したMZシリーズ初号機(中級機)

<1996年>
PENTAX MZ-10 廉価版の初級機

<1997年>
PENTAX MZ-50 MZ-10をさらに簡略化した普及機 
PENTAX MZ-M MZ-5をベースとしたMF機
PENTAX MZ-3 1/4000秒シャッター、中高級機

ここで本機MZ-3の時代に到達した。

ちなみに、近年のNIKON製フルサイズ・ミラーレス機
Z7,Z6は、この時代のPENTAX機の型番、Z-1やZ-5等を
微妙に避けた型番になっていると思われる。
機種名を考えるのも、各社色々と大変なのであろう。
c0032138_10084728.jpg
で、歴史はここまでで十分なのだが、本シリーズ記事では、
本機MZ-3以降のPENTAX AF銀塩機は登場しない予定だ。
なので、もう少しだけ後の時代迄、代表的機種をあげておく。

<1999年>
PENTAX MZ-7 中級機、1/4000秒シャッター搭載

<2001年>
PENTAX MZ-S 高級機、ハイパー操作系、6点AF

<2003年>
PENTAX *ist 新シリーズ、中級機
1/4000秒シャッター、11点AF、16分割測光等、銀塩AF一眼の
最終形態とも言え、後のデジタル一眼レフ *istD系に繋がる。

以降、デジタル時代に突入し*istD(2003),*istDs(2004)等
が発売される、PENTAXのデジタル一眼レフの歴史については、
デジタル一眼レフ・クラッシックス第4回*istDs,第6回K10D,
第12回K-5,第14回K-01,第22回KP(予定)に詳しく、
それぞれ参照されたし。
c0032138_10080259.jpg
さて、1990年頃のバブル期に開発された「Zシリーズ」は、
最上位機で高性能なZ-1系を除き、小ぶりな印象の機種が多い。

その中で唯一注目すべきカメラは、Z-20/P(1992/1993)で
あろう。これは、プログラムシフトをした際にユーザーの
その操作傾向を覚え、次からはその露出設定を優先する
という「学習機能」を搭載した初のカメラだ。

一見面白そうな機能なので、かつて私も、Z-20Pを中古で
購入した。

しかし、この学習機能とは、当時のPC等での日本語漢字変換
において、前回変換した漢字が最上位の候補として出てくる、
というシンプルな学習機能とほぼ同等であり、例えば現代の
コンピューター技術のように、AI(人工知能)を搭載している
ようなものでは無い。つまり、技術的レベルはたいした事が
無かった訳だ。

そして、Z-20(P)の学習機能は、基本的にプログラムシフト
操作を記憶する為、プログラムAEで撮らない限り蓄積されない。

私の場合、99%以上の撮影が「絞り優先」での撮影なので
そもそもZ-20は何も学習してくれないのだ(汗)
しかも電池を交換すると、学習内容も忘れてしまう。

さらに言えば、学習させるとしても、例えば「絞りを開ける」
方向であろう、そうであればプログラムラインを「開放優先」
に変更可能な「PENTAX Z-1(P)」の方がよほど使いやすかった。
なので、Z-20Pは「実用価値なし」と見なして、購入後短期間
で処分してしまった次第である。

ちなみに、その後Z-20系と同等の学習機能を搭載したカメラ
は発売されていなかったと思う。やはり実用価値が無かったの
かも知れない。バブル期の「イケイケムード」の製品仕様で
あり、やるならば、もっと高度な技術を搭載しないと意味が
無かった事であろう。
c0032138_10080209.jpg
余談だが、「AI」という話が出てきているが、現代の情報
技術において、AI及び深層学習(ディープ・ラーニング)法
は、かなり注目されてはいるが、その割に、その技術内容が
何をやっていて、どんな効果があるか理解している人は、
エンジニア以外の人では、限りなく低い比率でしか無く、
恐らくはゼロ%に近いであろう。
(先年、東京で日本初のAI技術展示会が開かれた、私もそれを
見学したのだが、来場者層の理解度の低さは特筆ものであった)

で、中身がわからないのに「AIが世の中を変える」とか
「AIが人間に"とって変わる"ので危険だ」とか、想像だけで
勝手な言い分を色々言って騒いでいる。一般人のみならず
報道メディア等もそんな調子なのだが、内容が全く的外れ
なTV報道とかCM等とかも多々あって困った状況である。

そして、様々な電子機器の機能も「AI」と名前が付いていれば、
「なんだか凄そうだ」と売れるので、実際にはAI技術の欠片も
使っていない機器や機能でも、そうした名称が付けられる。

でも、そうした「とんでもない誤解」は、今に始まった事
では無い、昔から「新技術」が騒がれた時にはいずれも同様
であった。

例えば「デジタル時代」が到来した時にも、何でもかんでも
「デジタル」と名前を付ければ、最新技術であるように
見えたので、デジタルとは全く関係無い商品分野
(例:部品素材とか美容とか)でも、そういう風な商品名を
つけている位であったし、その後の時代の「IT/IoT」だとか
「セキュリティ」や「クラウド」とかでも毎回毎回、同じ
ように世間一般の人達は、その用語や技術の本当の意味が
わからずに、的外れな期待を持ったり、無意味に危惧したり、
その名をつけて便乗商売をやろうとしていた訳だ。

まあ、一般層における不勉強は褒められたものでは無いし、
報道とか各種メディアやSNS等でも、意味がわからずに
情報発信をする事は、むしろ大問題ではあるのだが・・
まあ、その辺は本記事とは関係の無い話なので、このあたり
までにしておこう。
c0032138_10081980.jpg
余談が長くなったが、Zシリーズの時代(1990年代前半)の
カメラの最大の問題は「バブリーなコンセプト」であろう。
カメラ開発期間のディレイ(時間差)により、バブル期に
そのコンセプトが企画されたカメラが遅れて市場に出てくる。

しかし世の中ではバブルは既に弾けていて、消費者心理もまた
変化しているので、出てくるカメラの「バブリーな雰囲気」に
大きな違和感があった訳だ。その結果、この時代のカメラには
魅力的な機種は殆ど無く、結果的にマニアックなユーザー層は
ほぼ全員が「古い一眼レフ」や新ジャンルの「高級コンパクト」
に興味の対象を向け、その後の1990年代後半の時代での、
空前の「第一次中古カメラブーム」に繋がる。

カメラメーカーが、その事実に気がつき、そこから製品の開発
コンセプトを大きく転換させ、その結果としての新しい時代の
魅力的なカメラが出てくるのは、1996年以降の話だ。

なお、1992年くらいにバブル経済が崩壊したのであれば
1995年くらいに新コンセプトのカメラが出てきてもおかしく
無い話なのだが、その年1995年初頭には、未曾有の大惨事で
ある「阪神淡路大震災」が起こってしまった。
この為、実際に新コンセプトのカメラが市場に出てくるのは、
さらに若干の遅れがあって、およそ1996年~1997年位となる。
そう、まさに、本機MZ-3の時代である。
c0032138_10084653.jpg
注意点だが、今回の記事で紹介の機種はオリジナルなMZ-3
では無く、PENTAX MZ-3 SE(Special Edition 1998年)である。

この当時のミレニアム(世紀の交替)のブームからか?
2000台の限定発売品である(2000という数字が好まれた)
まあでも、PENTAXは銀塩時代から近年に至るまで、生産中止
直前の機種で限定バージョン品を出す事が恒例であり、
本機も、そのパターンなのかも知れない。

ノーマルなMZ-3とMZ-3SEの差は色々あって、外観(外装)
がずいぶんと異なる他、ストラップ等の付属品仕様も異なり、
なによりキットレンズが名レンズのFA43mm/f1.9Limited
であった(本記事での使用レンズ)

私は1999年頃、MZ-3を既に所有していたのだが、FA43/1.9が
どうしても欲しかった為、MZ-3と付属レンズ(FA28-70/f4AL)
を下取りに出して、MZ-3SE+FA43/1.9を入手しなおした次第だ。
セット価格(新古品)は8万円だった。まあ、本体4万円、
レンズ4万円、と仮に区分しておく事にしよう。

SE版とノーマル版の本体性能は同一だ、そこで本記事では、
時代背景をノーマル版発売時の1997年として考察する。
c0032138_10081920.jpg
MZ-3の概要であるが、
それを話す前に、まず旧来のZシリーズ、例えば「Z-1(P)」に
おける「ハイパー操作系」は、高度な露出概念の理解を必要と
する為、初級中級者層では理解不能であった事だろう。

「ハイパープログラムとハイパーマニュアル位ならば、
 中級者でもわかるだろう?」とは思うなかれ。
現代とは時代が違う、これは30年近くも前の話なのだ。

たとえば、現代のデジタル一眼レフKシリーズ上級機に搭載
されている「ハイパー操作系」は、この時代よりもさらに
複雑になっている(例:デジタル一眼レフ・クラッシックス
第6回記事K10D)K10Dは、Z-1からおよそ15年後の機種だが
恐らくこの機種の操作系では、現代において写真撮影の
スキルがZ-1時代よりは若干向上した初級中級者でも完全に
お手上げだろう。

現代はK10D以降、さらに10数年が経過しているが、2010年代
後半の機種(例:PENTAX KP)では、ハイバー操作系そのもの
は変化が無いが、さらに操作子が増えて操作概念が複雑化
している。
これも、現代の初級中級者には使いこなす事が出来ないと思う。

まあつまり、どの時代でも、PENTAXの上級機の操作系は初級者
(場合により中級者でも)にとっては難関であったと思う。

・・まあ、というか、PENTAXとしてもカメラ性能の他社機との
差別化の為、いつの時代でも、その時代の一般的なレベルより、
ちょっとだけ高度なスペックを狙って来ている模様だ。
つまり、ユーザーの予想の「斜め上を行く」という訳だ。
なので必然的にどの時代のPENTAXのカメラ仕様も難解になる。
c0032138_10084690.jpg
で、Z-1でハイパー操作系が生まれた背景には「バブリーな」
製品コンセプトもあったかも知れない。
凄いモノ(機能)を搭載して、ユーザーの目を引きたい訳だ。
が、「操作の難しさと、過剰とも言える高機能」、このZ-1の
特性は、バブル崩壊後のユーザー層の感覚(ニーズ)とは
残念ながらマッチしていなかったと思われる。

「で、あれば・・」と、すぐにカメラ開発の方向性をガラリと
変えられる事は、日本人の長所でもあり短所でもあろう。

せっかく考え出した「ハイパー操作系」を潔く廃し、
より安易な操作系にダウングレードしたのが、本機を含む
「MZシリーズ」である。
c0032138_10085629.jpg
本機MZ-3においては、絞り環をA位置にすればシャッター優先、
シャッターダイヤルをA位置にすれば絞り優先、両方Aにすれば
プログラム露出、両方A以外にすればマニュアル露出、と
極めて単純明快な露出操作系が採用された、この方式では
PSAMの露出モードダイヤルを省略する事もできる。
(注:PENTAXでは、P,Tv,Av,M方式である)

ただこれは、MZシリーズが初、という訳ではなく、古くは
例えばマミヤZE-X(1981年)等でも、この操作系が採用された
前例がある。

「複雑な操作系をシンプルなものにダウングレード」という
例は同様にこの時期、ミノルタxiシリーズ→siシリーズもある。
これは「バブリーに行き過ぎた自動化機能」を廃したものだ。
siシリーズはさらに後年に進化し、α-7等の「操作系の究極」
を生み出す事になるが、その話はまた別の記事に譲る。

さらに後年では、SONY NEX-7(2012)→α7(2013)の例もある
こちらは、NEX-7のダイナミック(=動的、操作系が変化する)
な操作系を廃し、α7ではスタティック(=静的、操作系が
変化しない)にダウングレードした、と言う事だ。
(詳細はミラーレス・クラッシックス第8回NEX-7と
第13回α7記事を参照)

ただ、この例では、私は両者の機種を保有しているが、
NEX-7の操作系は極めて高く評価していたのに、α7で
「安易だが、無駄が多い操作系」になってしまった事は
極めて残念であった。
これは「追いついていけないユーザー側が悪い」とも思う。
高度な内容なのは、上級者向け機種であるから当然の話だ、
ビギナーが無理をして(または、自身のスキルに自信を持てない
為に)高級機を欲しがる現代の風潮が最大の問題なのであろう。

PENTAXの例もそうだ、ハイパー操作系は決して悪い仕様では
無いし、事実私もデジタル時代ではK10D→K-5→K-30→KP
とハイパー操作系を搭載するPENTAX機のみを使い続けている。
別にハイパー操作系で悪い点は何も無いし、初級層だけが
ついていけないならば、むしろ、それが問題であろう。
自身が使いこなせないカメラを買う必要は無い訳だ。

ただ、とは言うものの、本機MZ-3のシンプルな露出操作系も
決して捨てたものでは無い。
例えば「露出のマニュアルシフトが事実上できない」とか
重箱の隅をつつくような事を言った所で、銀塩時代の撮影
技法では、そんなに急いで撮影しなくてはならないケースは、
ほぼ皆無だ。滅多に使いもしない機能をあれこれと入れても
殆ど意味が無い。
c0032138_10081922.jpg
本機MZ-3の仕様について述べておく。

オートフォーカス、35mm判フィルム使用AEカメラ
最高シャッター速度:1/4000秒
シャッターダイヤル:有り(1秒~1/4000秒)
フラッシュ:内蔵、シンクロ速度1/125秒 X接点
ホットシュー:ペンタプリズム部に固定
ファインダー:固定式、スクリーン交換不可
       倍率0.8倍 視野率92%
使用可能レンズ:PENTAX KAf2,KAf,Kマウント
絞り込みプビュー:有り
AF測距点数:3点
AFモード:動体予測AF、マニュアル(MF)
露出制御:絞り環、シャッターダイヤルA位置方式、バルブ有り
測光方式:6分割、中央重点、スポット
露出補正:±3EV,1/2段ステップ(専用ダイヤル)
AEロック:可(メモリーロック表示)
ファインダー内表示:撮影枚数、合焦/フォーカスエイド、絞り値、
          シャッター速度、露出補正メーター、その他
視度補正:専用ダイヤルで可
露出ブラケット:可(±1,±1/2)
ミラーアップ:不可
ドライブ:単写、連写、セルフタイマー12秒
連写速度:連続撮影時 秒2コマ
電源:リチウム電池 CR2 2個使用
カスタムファンクション:無し
フィルム感度調整:手動ISO6~6400、DXコード対応
データバック:裏蓋に搭載
本体重量:425g(電池除く)
発売時定価:83,000円(MZ-3ボディのみ)

総合的に見て、無駄な仕様をそぎ落とし、華美なカタログ
スペックも廃し、撮影に基本的に必要な機能だけをシンプル
にまとめたカメラだ。

突出する性能は無いが、極めて理解しやすいアナログ操作
概念を持ち、性能を抑えた事等を理由として小型軽量化も
実現している。

さて、このあたりでシミュレータ機を交換してみよう。
レンズは、FA43mm/f1.9 Limitedのまま、
カメラをフルサイズ・ミラーレス機のSONY α7とする。
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前述のように、α7での操作系のダウングレードは余り
褒められた話では無いが、
「最も小型で、最も安価なフルサイズ機」という大きな
長所がある。
どんなカメラにも必ず長所が存在する、それを理解し、
いかに利用するかがユーザー側の責務であり大命題だ。
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さて、本機MZ-3の長所であるが、

まず何度も述べている通り、シンプルで明快な操作系がある。
アナログライクなこの操作系は、本機を含むMZシリーズだけ
で終わってしまった訳ではなく、例えば後年2012年からの
ミラーレス機「FUJIFILM Xシリーズ」にも採用されている。

つまり割と普遍的な方式であり、AE型(PSAM)カメラにおける
原点の1つのパターンでの露出制御操作系とも言えるであろう。
c0032138_10085604.jpg
高速連写や複雑な付加機能も潔く廃して、数値スペックを
抑えた為、本体も小型軽量化された。
本体重量425gは、相当に軽い。
それでいて、見た目のバランスや質感をさほど落としては
おらず、安っぽい、というイメージは無い。
特に、本記事で初回しているMZ-3 SE(Special Edition)型
においては、そこそこ高級感もあって所有満足度も高い。

うまくコンセプト的にまとめられた機種ではあるが、
しかし、他の長所は、残念ながらあまり無い。
c0032138_10083381.jpg
本機MZ-3の弱点だが、

やはり総合的に見ると、瞬発的な性能に欠けるところか・・
AF測距は3点だが、精度、速度ともあまり高くなく、
ドライブ(連写)性能も、秒2コマと低い。

しかしまあ、これは「無いものねだり」であって、
もしそうした性能が撮影に必要であれば、例えば同時代の
NIKON F5(1996年、本シリーズ第19回)等を持ち出せば済む。
だが、F5は重厚長大な機種なので、本当に高速連写等が必要
で無いならば重たいそれを持ち出すだけでもストレスとなる。

MZ-3が必要な撮影シーンというのも当然ある訳だ。
事実、私は、銀塩時代においては軽量で高性能なFA43/1.9
との組み合わせで旅行などへ持ち出すケースが多かった。
そんな場合には最強レベルに近いシステムであったとも思う。
c0032138_10085675.jpg
その他には致命的な欠点は無い。

仕様上では、多重露光が出来ないとか、ミラーアップが無い、
露出補正やAEブラケットが1/2段刻みで粗いとか、
ファインダー内の露出メーターは露出補正のみで露出差分が
出ないとか、重箱の隅をつつけば色々と出てくるのだが、
それらは、あくまで他機と比べた時に気がつく話である。
必要かどうか、という点では「不要」とも言えるのだ。

まあ、逆に言えば、そういう点は中級マニア層が陥りやすい
課題だ、つまり色々と他機の事を知っているだけに、比べると
そのカメラの細かい欠点が目立ってしまう。

しかし、本来、カメラというものはそういうスタンスで
評価するべきものでは無いと思う。
c0032138_10083322.jpg
ここから先は、カタログ性能とか、そういう話では無く
感覚的な話だ。これは難解だが重要な話である。

まず、カメラに限らず、どのような製品にも「コンセプト」と
いうものが存在し、その中で必要な機能や仕様(スペック)を
決めていく訳だ。むしろMZ-3においても、もっと複雑で高度な
機能や仕様はいくらでも搭載できたのに、それをあえて
(泣く泣く)削って、使い易いカメラに仕上げようとした訳だ。

「モノ」の開発とか「ソフトウェア」の開発においては、
あれこれ機能を搭載する方が、むしろ設計は容易である。
「これも使うかも知れない、あれも使うかもしれない、
 これを抜いたらユーザーから文句が出るから入れておこう」
・・だが、そういう設計スタンスでは、結局最後には、化物の
ように仕様が肥大化してしまった製品が出きてしまう。

また、設計側で、あれこれと機能を入れたいが為に、その機能が
どんな時に、どんな状況で、どんな頻度で使われるかを無視して、
「ともかく詰め込め」とばかりに、華美なスペックのカメラが
出来上がるが、実際には「とんでもなく使い難いカメラ」と
なってしまう。

Z-1等がその典型であり、後年の2010年代のデジタル一眼レフ
の高級機も、またその雰囲気が色濃く出てきてしまっている。

PENTAXや他社では、バブル崩壊でユーザー層の意識が変化した
事に気がつき、カメラのスペック競争から一度離れて「操作系」
などの概念を考えるようになっていた。その最終形は2000年
の「ミノルタα-7」だとは思うが、あいにく、もうその直後、
銀塩一眼レフの時代はデジタル化により終焉を迎えてしまう。

「高機能・高性能が欲しい」という、まるでバブル期のような
ユーザーニーズは、四半世紀が過ぎユーザー層が世代交代した、
2010年代後半からもまた復活してしまった、
現代の高級デジタルカメラも、また過剰性能の塊だ。

ただ、ここには別の理由もあって、スマホ等の普及により
写真を撮る事における、デジタルカメラ(一眼、ミラーレス、
コンパクト)の優位性は失われてきてしまっている。
その為、バブル期のような、きらびやかなスペックを並べた
カメラを、バブル期のようなニーズを持つ富裕ユーザー層に
向けて(高価に)売るしか無い状況なのであろう。
さもないと販売金額も利益も減少してしまい、各メーカーは
カメラ事業を継続する事ができない。

まあ、そういう世の中の流れである、結局のところ、現代に
おいては、ユーザーもまた、商品を購入するためのコンセプト
を持って、それに沿って購買行動を起こすしかなくなっている。

高価な高性能カメラが欲しいと思えば、それを買えば良いし
過剰スペックだ、と思えば、買い控えすれば良い。
それは、あくまでユーザー側の好き好きである。
バブル期のように「高価なブランド商品を持っている事で
それがステータス(自慢)となる」という時代では無いのだ。

それぞれのユーザーが自身のコンセプトやライフスタイルに
基づき、カメラライフを楽しめば良い、他人は関係無いのだ。

時代は戻って、本機MZ-3は、そういう「自分サイズ」といった
コンセプトを実現した最初のカメラであったように私は思う。

この時期、「MZ-1」等の最高級機種は発売されていない、
一部のバブリーな生き残りユーザーは、それを期待したが、
ついにそれは発売されなかった。
「もうバブルはこりごりだよ」そういうメーカー側からの
声も、どこからか聞こえてきそうな話だ、まあ今から思うと、
大正解であったように思う。


飾ることも無く、奇をてらうことも無い・・

等身大、ジャストサイズの名機、これが本機MZ-3の真実だ。
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さて、最後に本機MZ-3の総合評価をしてみよう。
評価項目は10項目だ(項目の意味は本シリーズ第1回記事参照)

-----
PENTAX MZ-3SE (1998年) 注;オリジナルのMZ-3は1997年発売

【基本・付加性能】★★☆
【操作性・操作系】★★★★
【ファインダー 】★★★
【感触性能全般 】★★☆
【質感・高級感 】★★★☆
【マニアック度 】★★★☆
【エンジョイ度 】★★★★☆
【購入時コスパ 】★★☆ (新品在庫品購入価格:40,000円)
【完成度(当時)】★★★★
【歴史的価値  】★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.2点

評価結果は、平均点をやや上回る程度だ。

突出しているのは「操作性・操作系」と「エンジョイ度」の
2項目であり、まあ、使いやすく、ストレスにならずに楽しく
撮れる軽量なカメラである、という事である。

他には性能的なメリットは殆ど無い、しかし致命的な弱点も
無く、非常に良くまとめられたカメラである。

限定仕様のSE版では、高級レンズとのセットで、やや割高で
コスパを落とした原因となったが、その分、質感・高級感と
マニアック度が、若干加点されているので、まあノーマルな
MZ-3の場合と、評価点は大差無いであろう。

地味な性能・仕様で、その点では歴史的な価値も無いのだが、
ある意味、「自分サイズ」という等身大の製品コンセプトを
初めて採用した機種と見れば、歴史的価値は高いかも知れない。

で、思い起こせば、個人的には銀塩時代に最も良く持ち出した
PENTAX機が本機であったかも知れず、そのオールラウンドな
実用性は、銀塩一眼レフの中でもピカイチだとも言える。

数値性能の評価には決して現れてこない「名機」なので
あろう・・

もし現代、PENTAXフィルム機が必要となり購入する場合は、
その選択肢としては、本機MZ-3か、あるいは工芸品とも言える
傑作機PENTAX LX(本シリーズ第7回記事、過去最高評価点)の
いずれかしか無いと思う。ただし後者LXは、現代でもなお
比較的高価であるので、まあ予算次第だが・・
(参考:*ist、2003年、未所有、も高性能機だと思うが、
銀塩末期の機体であり、現代での入手性は低いと思われる)

なお、私は、MZ-3とLXは後世に絶対に残すべきPENTAX機だと
思い、デジタル時代になっても処分せず大切に保管している。

次回記事では、引き続き第三世代の銀塩一眼レフを紹介する。

特殊レンズ・スーパーマニアックス(3)HOLGA LENS

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー別に
紹介している。
今回は「HOLGA LENS」(ホルガ レンズ)を4本取りあげる。

これらは勿論、全て「トイレンズ」であるので写りは悪い。
その「Lo-Fi感」を、意識およびコントロールする事が、
「トイレンズ」のデジタルにおける利用法の骨子となる。

なお、本シリーズ記事は上級層または上級マニア向けの内容で
あり、ビギナー等向けの平易な解説とはしていないので念の為。

また、上級者ですら「トイカメラのエフェクトと何処か違う?」
という疑問を持つかも知れないが、そこは追々解説して行こう。
c0032138_16155118.jpg
まず最初は、HOLGA LENS 60mm/f8 HL-O
(新古品購入価格 1,000円)

今回紹介のHOLGAレンズ群は、いずれも2010年代前半の
発売と思われる。本レンズに関しては、旧マウントである
4/3(フォーサーズ)用の在庫品をアウトレットで購入した
ので非常に安価ではあったが、現代において、これを使う
システムの構成が少々難しい。

4/3→Eマウント・アダプター(電子接点は不要)を用いれば
α7系等のSONY機でも使用できるが、今回は、オリジナルの
フォーサーズ機であるOLYMPUS E-410を使用してみよう。

なお、4/3機は基本的には4:3アスペクト(縦横比)であるが
元々のHOLGA 120は、中判(120、ブローニー)フィルムを
使用し1対1比率(=スクエア・フォーマット)である為、この
システムでの実写例は正方形にトリミングした状態で掲載する。

この状態での換算画角は、かなりの望遠(約140mm相当)となり、
HOLGA 120での画角の約4.3倍だが、余り気にしないようにする。
加えて、意図的にブラす等の「Lo-Fi撮影技法」も使ってみる。
c0032138_16155142.jpg
まず最初に「トイカメラ」の歴史から述べよう。
・・と言うか、本記事では、「トイカメラ」や「トイレンズ」
の変遷の歴史を紹介する事を主体とし、個々のHOLGAレンズの
描写力などについての説明は最小限とする。

元々、トイレンズに関しては、その写りを真面目にあれこれと
評価する方が的外れであり、そういう視点で製品を語るような
類のジャンルでは無い訳だ。

それに、今回紹介する4本のHOLGAレンズは、どれも皆、同じ
ようなもの(描写傾向)である、個別に差異や詳細をあれこれと
分析するようなものでも無いし、そもそも4本も所有している
方がおかしい(汗) どれか1本だけ持っていれば十分なのだ。
(注:とは言う物の、本記事においては、レンズ毎に撮影技法や
カメラ設定等は大きく変えている)
c0032138_16155107.jpg
さて、HOLGA(120)やLOMO(ロモ)(LC-A)は、代表的な
「トイカメラ」である。
ただ、最初から「トイカメラ」と言う呼び名があった訳では
ないと思う。

元々は、非常に安価な銀塩写真機として海外で発売されていて
HOLGAは中国製で、LOMOは(旧)ソ連製(注:後年においては
販売元はオーストリアのLomography社となっている)
いずれも1980年代前半からの発売(製造)開始だ。

他にも銀塩トイカメラは、海鴎やVIVITAR、ハリネズミ(製品名)
等、色々とあるのだが、それらの話は今回は割愛する。

で、老舗と言えるHOLGAやLOMOも、当初は日本で全く知られて
いなかった。と言うか、恐らく最初は輸入されてもいなかった
かも知れない。

なにせ、1980年代では国産カメラは銀塩コンパクト機に
関しては、ほぼ全てがAF化され、ズームレンズも搭載されて、
「誰にでも簡単に高画質の写真が撮れる」といった、撮影の
利便性を高める方向に、市場の意識は全て向いていたのだ。

ここに、ピントも絞りもシャッタ-速度も、全て固定で何も調整
が出来ないという、玩具のようなカメラに興味を持つ人は殆ど
居なかったのだろう。だから販売もされていなかったと言う事だ。
(まあ、当初、共産圏だけの市場流通であった理由もある)

私が最初にトイカメラを目にしたのは1990年代の後半頃で
あった。当時、オーストリアからの職業留学中の若い男性と
知り合い、彼がソ連製の「LOMO LC-A」を持って来ていたのだ。

ロシアに比較的近いオーストリア(注:彼は自国の事を
「ウーストリッヒ」と呼んでいた。公用語はドイツ語)
ではあるが・・
実は、LOMOは、一般的には「旧ソ連製」と言われているのだが、
その販売元である「ロモグラーフィシェ株式会社」
(通称:Lomography/ロモグラフィー)は、「オーストリア」
に本社を置いている企業なのだ。(注:1994年以降の話)

旧ソ連のサンクトペテルブルクにLOMOの関連工場があった、
とも言われているし、あるいは古くからカメラを製造している
ZENIT(注:KMZ(クラスノゴルスク機械工場)の事、こちらは
モスクワ近郊にある工場で、ZENITやZORKIといったカメラや
ZENITARレンズで、マニアには著名)に依頼して、光学系等を
製造したという情報もあるが、昔の「東側」での話なので
詳細は不明である。(注:こく近年のLOMO製の高性能レンズ
も、ZENIT社でレンズを製造している模様だ。後日紹介予定)

まあともかく、オーストリア人の彼が、当時「LOMO LC-A」
を入手するのは、さほど難しい事ではなかったであろう。

(注:オーストラリアでのカメラ関連の歴史については、
「フォクトレンダー」とか「ペッツヴァール」とかが
絡んできて、とても興味深いものがある。しかし、この話は
とても長くなるので、いずれ機会があれば詳しく紹介する)

・・で、彼は「このカメラは、安かったので故郷で買ったが
写りがとても悪い。日本に居る間に高性能な日本製カメラを
買いたいのだが、相談に乗ってくれ」との事であった。

まあ彼は独語と英語は話せるが、日本語がペラペラでは無い
ので、中古カメラ店舗等での交渉や購入は難しい訳だ。

結局彼は、私の紹介でEOS 5 QD(1992年)とズームレンズを
中古で買うと、「LOMO LC-Aは、もういらない」と言い出した。

私は「せっかく故郷で買った物なのだから、持っておきなよ」
・・と言いつつも、どんなに写りが悪いのか? もしかすると
彼はまあ、写真はビギナーなので、カメラの使い方が悪くて
写りが悪いのかも知れない、という風にも思って興味が沸いた。
そこで彼が使わなくなった「LOMO LC-A」を、しばらく借りて
写して見ることにしたのが・・

これがともかく難しい、撮り手がコントロールできる設定
要素は何も無く、カメラまかせとなるが、例えば露出自体が
AEと言うものの非常に不安定である。これの原理を理解しつつ
晴天時に感度高目のフィルムで絞り込ませるようにして遠距離
を撮るなどを行えば、まあ普通に撮れるが、それでも周辺光量
落ちが大きい。(注:「口径食」であれば絞り込むと周辺減光
は解消される筈だが、それ以外の「コサイン四乗則」なども
原因として影響しているのかも知れない・・詳細判断不能)

曇天や暗所、中近距離撮影等では、写りが安定せず、露出の
バラツキ、構図のズレ、ピンボケ、手ブレ、カラーバランスの
乱れ、などの要因が複合的に発生し、どのように撮れたかは
現像してみるまでわからない。

1~2ヶ月の間借りていて、最終的に思った事は、「ともかく
言う事を聞かない、実に”アンコントローラブル”なカメラ
(=自分が思うように撮れない)である」という事だった。

匠「なるほど、所有者の彼が「写りが悪い」と言ったのは
  こういう事だったのか・・」と、納得した。

で、この頃、1990年代末頃あたりから、LOMOやHOLGA製品の
輸入販売が始まっていた模様なのだが、一般的なカメラ専門店
等では入手しずらく、仮に売っていたとしても、前述のLC-Aの
評価経験からすれば、個人的に欲しいとは思えなかったであろう。
その後しばらく「トイカメラ」の事は忘れていた。

2000年代前半、デジタル時代に入ると、ともかく最初期の
デジタル一眼レフは高価だ、本体だけでも最低でも10万円から
普通は20万円以上、ともなると、「写真を始めたい」と思う
初級層では簡単にその金額を初期投資する事はできない。

で、真面目に写真をやりたい人達(ここでは便宜上「写真学生」
と呼ぶ、概ね、写真を「アート表現」として見なしている)は
簡単には買えない高額デジタル機材には目を向けず、国内流通
が活発化してきた「トイカメラ」に興味を持つようになった。
(注:海外で「ロモグラフィー宣言」の思想が広まっていた
事も影響しているであろう)
この頃から、「トイカメラ」という名称が一般的に定着した。

また当時は「女子カメラ」のブームである。女性向けのカメラ
専門誌がいくつも発刊され、「自分らしさを写真で表現する」
といった、新しい写真の用途(コンセプト)が広まっていた。
(注:それまでの写真の目的は、一般にはハレの日(冠婚葬祭や
旅行、イベント等)の記録用途であり。また、愛好家は風景や
珍しい現象や事象を、高画質な機材で綺麗に撮る事であった)

それまでの写真の目的がHi-Fi(ハイファイ、高忠実性)であれば、
写真学生のアート表現や、女子カメラの自己表現には、高忠実性
でなければならない理由は無い。(Lo-Fiでも良い)

むしろ、高性能で高価な機材を安易に買ってHi-Fi写真を撮る
事を目指すという「ブルジョワ思想」に反発する心理からも、
まったく新しい「アート的」な写真を、こうしたトイカメラに
よる「偶然性」で得る事が大流行したのだ。

この流行は、国内メディアの後押しもあった事であろう。
女性向け雑誌等にはHOLGAやLOMOによる作品が大量に載せられ、
これらトイカメラを買う事がアート系では必須のような風潮
まで現れ、本来、これらトイカメラの価格は数千円であったのが
数万円で売買されている、という不条理な状況まで見かけた。
(これでは、トイカメラを買う方が「ブルジョア」だ・・汗)

だが、2000年代後半となると、このトイカメラブームは
急激に沈静化してしまう。

その理由は私の分析では3つあり、1つはデジタル一眼レフが
低価格化し、誰にでも購入できる価格帯となった事だ。
これで、これまで高額機材を「買えないから」と反発していた
初級層も、それらを入手する事で、不満を言わなくなった。
(それまでは、「ガンデジ」「コンデジ」等と、卑屈な心理の
用語が流行していたが、この頃から、それも言われなくなった。
なお、現代でも「コンデジ」の呼称は一部に残っているが、
その用語は非推奨だ。このデジタル初期に、デジタル一眼レフが
高価すぎて買えなかった層による、複雑な心理の用語だからだ)

また、これに関連し、携帯カメラやスマホ等の簡便な撮影機材
が普及した事で、ユーザー層はそうした「機材」そのものに
興味を持ち、アート性や表現という要素が減っていった。

もう1つは、BLOG等のSNSが発達した事だ。
ネット上では銀塩の作品発表は、デジタル化処理が煩雑(又は
ビギナー層ではできない)な状況であり、それが出来たとしても、
SNS等では閲覧者層は比較的固定的なので、ファン層に対しての
作風の安定性を求める事は、アンコントローラブル(制御不能)
なトイカメラでは不可能だ。

つまり、この前の作品は皆、イイネと喜んでくれたのに、今日の
日記の写真はイマイチだと、毎回評価が、ばらついてしまう。
それ以前の完全な銀塩時代は、作品の発表の場は、展示会とか
コンテストであったので、そこでは一発勝負で作風をチョイス
する事が出来た訳だが、継続性のあるSNSでは、いつも同じ作風
を保つ事が必須で、それがトイカメラでは困難であった訳だ。

最後の理由として、2000年代後半ではAPS(IX240)や110判等の
特殊なフィルムは入手も現像も困難となり、HOLGA等が使用する
120(ブローニー)判も、高価で現像困難。そして35mm判も
既に「ゼロ円プリント」は無くなり、銀塩写真はコスト高と
なった。そういった状況では、銀塩トイカメラは、ほとんど
絶滅直前となってしまった。

まあこれは世の中の風潮であるからやむを得ない。他でもこの頃、
銀塩DPE店も、その多くが廃業に追い込まれた訳だし、著名な
カメラメーカーですら、いくつかがデジタル化への事業構造の
変革に耐え切れず、カメラ事業から撤退してしまっているのだ。

(注:Lomography社は、2013年頃から「高付加価値戦略」で
特殊レンズをクラウドファウンディングで開発・販売し、何とか
生きながらえているが、旧来のLOMO製品と比べ、価格は10倍
程度も高価となってしまっている。→後日詳細説明予定)
c0032138_16155163.jpg
で、この頃から、銀塩トイカメラに変わって出てきたのが
1つは、「トイデジ」(デジタル・トイカメラ)であり、
もう1つが、「トイレンズ」である。

「トイデジ」に関しては個人的には殆ど持っていない。
銀塩トイカメラは安価であった事が特徴であり、デジタルの
それは一応デジタル機器であるから、この2000年代後半の
当時であれば、どうしても数万円という価格となってしまう。
後年のそれは、数千円という価格帯の物も出てはきたが、
当時では「コスパが悪すぎる」という判断になった訳だ。

「トイレンズ」に関しては、安価であって、概ね1本あたり
3000円~8000円程度で購入が可能であった。
これらは、デジタル一眼レフや、後年にはミラーレス機用の
マウントで発売され、それらの機種で簡単に「トイカメラ」
と同様の写りを得る事ができる。
それもそのはず、これらの「トイレンズ」は、HOLGAや
LOMOのレンズを、そのまま単体で発売、あるいは自社や
他社において、トイカメラのレンズ構成を大幅に参考に
して設計・製造されたものであるからだ。

今回紹介のHOLGAレンズもそうである。
ここで紹介しているフォーサーズ機用HOLGA (HL-O)は
120判フィルム使用のHOLGA 120シリーズ用のレンズを
ほぼ、そのまま単体発売したものだ。
ただしイメージサークルが大きい中判用レンズなので焦点距離
が長すぎる事と、そのままでは周辺減光が出ない。(周辺減光
に関しては、BC機構(後述)で、これに対応している)

焦点距離が長すぎる事については、次いで2010年代前半に
発売されたミラーレス機用のHOLGA LENSでは、25mmの
焦点距離となっている。

----
では、ここからは次のHOLGAシステムである。
c0032138_16160422.jpg
HOLGA LENS 25mm/f8 HL(W)-SN
(新品購入価格 3,000円)
カメラは、SONY NEX-3(EマウントAPS-C機)を使用する。

型番の(W)は、白塗装であり、ミラーレス機版から始まった。

また、このシステムでは3:2アスペクトでの写真を掲載する。
「Lo-Fi撮影技法」もやめて、本来のレンズ描写力を確認して
みよう、周辺光量落ちは顕著だが、意外に普通に写る。

さて、デジタル機用の「トイレンズ」は、沢山ありそうで、
実の所、あまり多くの種類がある訳では無い、
私が所有している範囲で言えば、HOLGA,LOMO,LENSBABY,
LOREO,PENTAX,GIZMONなどである。

勿論、これ以外にも色々あるのだろうが、入手または情報収集が
困難だし、そこまでして集めたいと思うような類の物でも無い。

なお、近年に急速に普及している、中国製等の安価な単焦点
レンズ(例:YONGNUO、七工匠、MEIKE、KAMLAN等)は、
いずれもトイレンズでは無く、本格的な高性能レンズである。
(これらは順次別記事で紹介予定)
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さて、HOLGA LENSがオリジナルの60mmから、25mmの
焦点距離となった事で、μ4/3機では50mmの標準画角、
そしてミラーレスAPS-C機では、約37mmの準標準画角と
なった事で若干使いやすくなった。


オリジナルの銀塩HOLGA 120系は、縦横比が異なるので、
単純には「何mm相当である」とは言い難いが、だいたいだが
フルサイズ換算で32mm相当と、広角気味の画角となる。

よって、トイカメラの撮影技法的にも(中遠距離被写体を
狙う意味でも)広角的な撮り方が多いので、この25mmレンズは、
少しは、そうしたニーズに応えられる。

なお、α7系等、フルサイズEマウント機を用いても無意味だ、
その状態では、周辺減光の範囲が広がるだけであって、画面の
真ん中にちょこんと丸く写るだけで、画角自体は広角にならない。

ただ、この場合、α7系に備わるデジタルズーム機能を用いて
任意比率のトリミング操作を行いながら撮るような事ができる、
つまり、周辺減光の度合いを撮影前(時)に微調整できる。
(参考:アスペクト比には注意する必要がある)

ちなみに、今回使用のNEX-3(2010年)の場合は、デジタル
ズーム機能を備えるものの「SONY純正(または完全互換)の
Eマウント単焦点レンズでないとデジタルズームが効かない」
という「排他的仕様」となっているが、後年のNEX-7(2012年)
以降では、その制限は撤廃されていて、本レンズでもデジタル
ズームが効く。

また後期NEX以降ではエフェクト機能も搭載されている為、
Eマウント機では後期(2012年頃)のNEXが、本HOLGA 25mm
レンズの母艦としては適正であろう。
(注:2013年からのαシリーズ(5000系/6000系)では、
安価なトイレンズの母艦とするには、本体とレンズの
価格比率が、ややアンバランスとなる。→オフサイド状態。
ただ、最初期のα5000/6000系は近年では相場が下落して
来ているので、これらが次期トイレンズ母艦となるだろう)

それと、HOLGAレンズは、絞り制御が無く、F8固定であり、
加えて、BC機構がある為、実効F値はF10~F11相当となる。
これはかなり暗いので、日中の明所以外においては、
ISO感度を適宜高める等をしないと手ブレしてしまうであろう。
(注:Lo-Fi技法的な観点からは、手ブレしても問題は無い)
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なお、オリジナルのHOLGA等のトイカメラにもフラッシュが
内蔵されていない機種が多く、フラッシュを焚いてブレを
防ごうとするのは、ちょっとトイカメラ技法としては邪道っぽい
ところがある。すなわち、多少ブレたりピンボケになった方が、
アンコントローラブルな表現を得るためには重要であって、
誰も、こうしたトイカメラやトイレンズで綺麗なHi-Fi写真を
撮ろうとは思っていない訳だ。そういう類の写真を撮りたかったら
一眼レフでもミラーレス機でも、他にHi-Fiカメラやレンズは
いくらでも存在する。トイカメラやトイレンズは、それっぽい
Lo-Fi写真を撮らないと使う意味が無い訳だ。

ただ、銀塩トイカメラでは、カメラの性能的な限界、あるいは
撮影者のスキル(撮影技能)不足から、意図せずLo-Fi写真が
撮れてしまっていたのだが、デジタル機でトイレンズを使う
上では、基本的なカメラ性能は何も不足している事は無い。
その為、デジタルカメラを正しく使ってしまうと、トイレンズ
でもHi-Fi写真が撮れてしまうのだ。

これは少々困ったものである、つまりLo-Fi写真を撮りたくて
トイレンズを買ったのに、Hi-Fi写真が撮れてしまったら、
機材購入コンセプトが矛盾してしまう。

そこで、ここからは上級者向けの話になるが、もともとの
トイカメラにあった「アンコントローラブル」な要素を、
現代のデジタル機において、ぎりぎりの状態で、それを意図的に
作り出す技法が存在する。

たとえば、手ブレするかしないか、ぎりぎりのカメラ設定に
あえてしておき、偶然手ブレしたら、それでよし、という感じだ。
(当然ながら内蔵手ブレ補正機能は使わない)

あるいは、デジタル機の自動露出(AE)をあえてキャンセルし、
銀塩HOLGAのような、固定シャッター速度、固定絞り値で、
ISO感度もあえて銀塩同様として、ちょっと暗所での被写体が
偶然露出が合ったり、微妙に露出が外れてしまったりと、
そういう偶然性を楽しみながら、自分が思いもしなかった
写真を撮る事である。

ただ、これは全てのカメラ原理に精通している上級者向けの
手法である。ぎりぎりのレベルで破綻するかしないかを見極め
ながら撮影するなどの超高度な技法は、これまでトイカメラを
志向してた初級中級層には、とても困難であると思う。

もう1つの方法は、デジタル機側の設定は、デタラメでも
良いから、膨大な数の撮影をこなし、その中から偶然的に
撮影者自身の好み、又は「意図する表現」に合致したものを
探すかだ。
この時の撮影枚数だが、数千~数万枚が妥当であろう。

ただ、これも初級中級者には困難な話だ、近年のデジタル機は
連写性能が優れているので、撮影枚数をかせぐ事は可能だが、
連写で同じ写真ばかり撮っても意味が無い、必要なのは撮影
条件を色々と変えた単写での沢山の写真なのだ。
だから数万枚とかの撮影は、数年をかけても容易では無い。
c0032138_16160407.jpg
で、そもそもトイカメラでの作品は、できるだけ日常的な物を
撮る事がセオリーである。この理由だが、前述の高価な高性能
機材を使った「ブルジョア思想」においては、非日常の世界を
Hi-Fi写真として残す事が主眼であった訳で、その手の作品は
滅多に無い綺麗な風景や事象等が、作品の主流だった訳だ。

トイカメラでは、あえて「ブルジョア思想」に反発する訳だから、
そうした「お金や時間をかけないと出くわす事が出来ない被写体」
などは、最初から被写体としての対象外なのだ。
(参考:Lomography社Webの「10 Golden Rule」)

ところが、日常的な被写体を探す事は大変難しい。
これは現代でもそうなのだが、「何を撮ったら良いかわからない」
という初級中級層の持っている課題にも直結してしまい、
すなわち珍しいものや綺麗なものばかりを探してしまったら、
丸一日カメラを持って歩いていても、「ほんの数枚から数十枚
しか撮れない」という状態になってしまう。

まあ、結局、撮るものが無いから、「SNS映え」等と言われる
場所やモノにビギナー層が群がってしまう訳だ。(でも、それは
撮影者自身の手柄では無いので、本来は「作品」には成り得ない)

で、トイレンズで大量に日常を撮る方式ならば、1日の撮影で
必要な枚数は、最低ラインでも500枚くらいだと思う。
「日常の中から、1日に500枚もの被写体が見えるかどうか?」
ここが初級中級層にとって、大きなネックとなる。
まあ、まず無理だと思って良いと思う、「感覚」や経験値が
そこまで追いついていない。よって、大量に撮った中から、
好みの写真を探すという手法は、これもかなり実現が困難だ。

自身でカメラ側を破綻直前に制御するのは高度すぎて無理、
沢山撮ってその中から選ぶのも感覚的に困難・・ 
では、トイレンズを活用するにはどうしたら良いのか? 

これについては、現代においては他の有効な解決手法があり、
それは、「エフェクト機能の併用」だ。

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ここでレンズとカメラを交換しよう。
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HOLGA LENS 10mm/f8 HL-PQ
(新品購入価格 3,000円)
カメラは、PENTAX Q(1/2.3型センサー機)を使用する。

PENTAX Q用のHOLGA LENSは10mmの焦点距離で発売されている、
Qシステムでの換算画角は機種によって異なり、
PENTAX Q/Q10(1/2.3型)の場合は、55mm相当
PENTAX Q7/Q-S1(1/1.7型)の場合は、46mm相当となる。

いずれも「標準画角」であり、他のHOLGA LENSとは、また
違った雰囲気(画角感覚)で被写体を探す事となる。

なお、センサーサイズが大きい Q7/Q-S1の方が、HOLGA LENS
の周辺減光の度合いが当然大きい、ここは、好みや作画等の
目的に応じて、使用カメラを選択するのが良いであろう。
(今回は、周辺減光が控え目なQを使用する)
c0032138_16161366.jpg
で、PENTAX Qシステムには、優秀なエフェクト機能と
優秀なエフェクト操作系が備わっている。
ここでエフェクトを用いる意義だが、これはもう「ぎりぎりに
アンコントローラブルな状況を得る」という目的だ。

すなわち、ノーマルな撮影に対して、エフェクトをかけた
撮影では、どのように写るかを事前に想像する事は難しい、
まあ、PENTAX Qシステムでは、エフェクトをかけた画像が
撮影前にモニターに写るため、全く想像不可では無いのだが、
それでも、色々なエフェクトを切り替えて撮る事で多少の
偶然性は得られる。
c0032138_16161381.jpg
余談だが、「エフェクトにトイカメラのモードがあるから
トイレンズは不要だよ」と考える初級中級層も居ると思う。

トイカメラのモードに限らず、現代においては撮影後に編集
できる項目は非常に多い。PCでのレタッチに限らず、例えば
スマホでも撮影後に被写界深度を調整できるものすらある。
しかし、いずれの場合でも「撮影時に効果が得られる」事と
「撮影後に編集する」というのは、まるで意味が異なるのだ。

何故ならば、撮影時には、被写体に臨んで「考える事」や
「感じる事」が沢山あるからだ。その気持ち、意図、表現・・
を写真に込めたい為に、トイレンズはもとより、特殊レンズや
被写界深度の浅い大口径レンズ等を使う訳であり、それらの
効果をその場で調整して、その表現を込めたショットを撮る。

これは事後の編集では得られない感覚だ。まあ、事後編集では
色々と効果の度合いを変更できる利点はあるが、それすらも
上級者では撮影時にブラケット機能や手動ブラケットで、候補
となるべき複数の意図を込めた写真群を撮る事も簡単に出来る。

(それと、場合により撮影者以外ですら編集者になりえるのだが、
その状況は、ますます写真の「作品」としての本質(本来の意味)
とは異なってしまうだろう。それが許されるのは「映像記録」と
「映像表現」とを分業した業務用途(広告やファッション等)の
場合等である)

まあつまり、「撮影前でも撮影後でも一緒」と考えてしまう
ようでは、写真の本質について、残念ながら理解していない、
という事となる。「出来る」という事柄においては、事前でも
事後でも一緒であっても、「そうしたい」と思う「気持ち」は
事前と事後では、まるっきり異なってしまう訳だ。まあここは
人間であれば当たり前の感覚的な話である。

カメラを作る側でも「技術」の観点ばかりに注目してしまうと、
こういう人間の「気持ち」や「感覚」を見失った機器(カメラ)
仕様にしてしまう事すら、残念ながら、いくらでも事例がある。
カメラは、自身(人間)の感覚・感性を表現する道具であるから、
そこでは人間性を意識した仕様とする事が、本筋であり本質だ。

銀塩時代には、そういうコンセプトで設計されたカメラも多かった
ように思えるが、近年においては「技術優先」および、そうした
感覚面を語るのは「現代的では無い」と思われる風潮があるのか?
そうした設計思想のカメラは限りなく減ってしまっている。

まあ、かろうじて無い訳でも無い、それはカメラのカタログを
店頭から貰ってきて、そのカタログの「作り」を良く読み込むと
それが見えてくる場合もある。
ただ、注意しなくてはならない事は、いくらカタログや設計思想
がそう見えていても、実際のカメラにおいて、そのコンセプトが
全然実現されていないカメラもあるという事だ(汗)

このあたりはとても難しい話ではあるが、そこはカメラの仕様を
通じて設計思想そのものまで(つまり、エンジニアの考えまで)
読み取ろうとする事が、現代のユーザー側に必要な眼力となって
来ている。その「設計思想」が見えていないと、結果的に、自身が
望むコンセプトのカメラを買えなかったり、最悪は、箸にも棒にも
かからない面白味の無いカメラであったり、商売優先のあまり
非常に排他的思想が強い、底意地の悪いカメラを掴まされたり
する羽目に陥ってしまう。

----
余談はここまでで、本題に戻ろう。

Qシステムにおける、解像度やピーキング精度が貧弱な
背面モニターにおいては、ピントの山をちゃんと捉える事は
できない為、多くの場合、ピンボケとなる。

また、Qシステムでは、この手のレンズを装着すると内部の
電子シャッター利用に切り替わる。この電子シャッターは
動体撮影で「ローリングシャッター歪み」が出るタイプで
あるから、ほんの僅かな手ブレや被写体ブレに応じて、
写る被写体が「変形してしまう」のだ。

これらの事は、Hi-Fi撮影においては、カメラの弱点(欠点)
ではあるが、Lo-Fi撮影では、逆に大きな武器(長所)となる。

つまり、カメラの性能が貧弱な為に、思いもよらない写真が
撮れる、という意味では、これは銀塩トイカメラと全く同じ
「アンコントローラブル」な特性になるからだ。
c0032138_16161334.jpg
なお、PENTAX Qシステムでは、こうした社外製トイレンズの
使用のみならず、PENTAX純正でも、4本のトイレンズ
(03魚眼、04広角、05望遠、07収差レンズ)が発売されている。

(全て過去記事で紹介済み)

これらトイレンズ群を有効に活用する事が、Qシステムにおける
主眼であり、ある意味、Qシステムの存在意義にも繋がると思う。

なお、注意点だが、Qシステムには「トイカメラ」のエフェクト
(デジタルフィルター)が存在している、「なのでトイレンズは
不要」と考える初級層も居るかも知れないが、まずエフェクトと
実際のトイレンズは大きく描写特性が異なる事があり、それより
なにより「エフェクトのトイカメラは、コントローラブル」で
ある事がポイントだ。
Lo-Fi描写(技法)は、「アンコントローラブル(制御不能)」
である点と、切っても切れない関係性がある、制御された
エフェクトでは作風に偶然性を得る事ができない訳だ。

で、トイレンズの母艦としてPENTAX Qシリーズは適切であるが、
2014年以降の新型機が無く、現代においては、ほぼ終焉して
いるシリーズであるし、中古流通もだいぶ減ってきている。
入手しておくならばギリギリ今のうちだ。

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さて、次はラストのHOLGAシステム。
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HOLGA LENS 60mm/f8 HL-C(BC)
(新古品購入価格 1,000円)

EF(EOS)マウント版のレンズであるので、
カメラは、CANON EOS 7D(APS-C型センサー機)を使用する。

このシステムでの撮影技法だが、「ピントも露出も、ちゃんと
は合わせない」と言うやり方をしてみよう。

これは、銀塩HOLGAにある「Lo-Fi」志向を実現する為だ、
ピントも露出も合わせないのだが、完全なデタラメでは無く、
あえてギリギリで破綻するかしないか、というレベルとする。
(=アンコントーラブル技法を実践する)
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さて、本レンズは当初、2000年代末頃にHOLGA 120シリーズ
用の搭載レンズを単体化したトイレンズとして発売されたが、

前述のとおり、元々イメージサークルが中判機用なので、
周辺減光の効果が得られず、利用者層から不満の声が出ていた。

これを改良する為、レンコン状に穴の開いた特殊な絞り部品が
内蔵され、これにより周辺減光が起きる為、これを
「ブラック・コーナー・エフェクト」(BC機構)とし、
2011年頃の新(再)発売となった。
(注:「レンコン絞り」は、旧来はソフト(軟焦点)効果を
得る目的であったと思うが、どこをどうやったのか? BC機構
では、これを軟焦点効果よりも周辺減光発生に応用している)

これが搭載されているレンズ型番には「BC」が記されるように
なったが、これ以降の時代のHOLGAレンズは、BC型番では
なくても周辺減光は発生する。
なお、前述のPENTAX Q用(HL-PQ)では、BC機構が入っている
ようには外からは見えないが、周辺減光はちゃんと起こる。

で、本レンズ「初期BC型」は流通数も多かったからか
当初の定価(3,000円)よりも値引いたアウトレット商品が
後年(2010年代後半)では、良く見られるようになった、
その為、本レンズも約1,000円という安価な価格で新古品
購入が出来ている。

なお、本レンズは、本記事冒頭で紹介した、HL-O(4/3用)と
同一スペックであるが、マウントやセンサーサイズが違う為、
周辺減光の出方もずいぶんと異なる。

基本的にBC機構はピント位置の設定によっては、周辺減光が
綺麗に円形にならず、デコボコに見える場合が良く発生するが
4/3用ではそれが顕著、EOS用では、さほどそれが起こらない。

ただ、このあたりはレンズやBC機構の製造における個体差で
ある可能性も高く、逆に、そうした「アバウトな商品」である
事もまた、アンコントローラブルな要素を助長する意味があり
その点では、こうした個体差は歓迎だ。

EOSのフルサイズ機では、60mmの画角で使い易いのだが
周辺減光が出過ぎる事もあり、今回は、APS-C機である
EOS 7Dで使用している訳だ。
(注:EOSフルサイズ機では「クロップ撮影が出来ない」
という弱点がある。ニコン等との「差別化」かもしれないが
弱点での差別化は、単なる「意地」であり仕様的に無意味だ。
クロップ機能は露出分布や測距点分布が変化するので、撮影
技法に応用可能であり、「トリミング」と等価では決して無い)
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なお、EOS 7DのスクリーンのMF性能は、初の透過型電子
スクリーンであるが故に非常に低い、ただ、その弱点もまた
「あえてピントを厳密に合わせない」というトイレンズの
Lo-FI技法においては欠点にはならず、むしろ長所となる。
(それよりも、F11相当でファインダーが暗い事が問題だ)

EOS 7Dにはエフェクト機能が搭載されていないので、そういう
点においては「アンコントローラブルな表現力」は少ないが、
キヤノンユーザーであれば、より後年の、エフェクトの入った
普及EOS機に装着するか、ミラーレス機のEOS Mシリ-ズ用の
HOLGA LENSも発売されているので、それを使っても良いと思う。

ミラーレス機では、暗いトイレンズでもモニターやEVFが暗く
ならずに撮影できる。又は普及EOS機でライブビュー撮影として
も良い。(ただし、ライブビューエフェクト撮影は、EOS各機
では出来ず、必ず「後掛け」となるので、そこは弱点だ)
なお、高級EOS機をトイレンズ母艦とするのは、カメラ価格と
性能が突出する「オフサイド」状態なので好ましく無い。
本記事では、EOS 7Dを使用しているが、この機体は旧機種で、
現代の中古相場は、普及機(キスデジ等)よりも安価なのだ。

あと、各社カメラのエフェクト機能のうち、「トイカメラ」
をトイレンズと重複して選ぶ事は、あまり効果的では無い。
基本的に「トイカメラ」の画像処理効果は、周辺減光とカラー
バランスの乱れの効果を得る訳だが、HOLGA LENSの場合は、
元々トイレンズなので、その処理を使わずとも周辺減光や収差
発生が得られる。重複して掛けるメリットもあるが、それは
ケースバイケースであろう。

ちなみに収差については、元々の銀塩HOLGAでは、写りの悪い
(収差の大きい)プラスチックレンズ型と、写りが若干良い
ガラスレンズ型が併売されていた、まあLo-Fi志向ならば
プラスチックレンズ型の方が人気ではあったと思う。

エフェクトの件だが、例えばPENTAX機にある「クロスプロセス」
のようなエフェクトは効果的であろう。
PENTAXのそれは、撮影のたびに毎回カラーバランス(色味)が
異なり、ある程度の偶然性(アンコントローラブル)を
得る事ができる。

まあ、デジタル一眼レフの高級機では、後年の機体であっても
(例:EOS 7D MarkⅡ,2014年)エフェクトが搭載されていない
ので、本来であればトイレンズの母艦には適さない。
加えて、本体とレンズの価格比を、「あまり本体側を高価に
しえはならない」という持論(オフサイドの法則)にも、
ひっかかる為、できるだけ低価格機でトイレンズを使うのが
基本であると言える。(注:私の場合、近年においては、
EOS 8000Dを、その目的のトイレンズ母艦としている)

つまり高級機はHi-Fi写真を撮るのに使えば良いわけであり、
Lo-Fi写真を撮る上では、むしろ、できるだけ低性能なカメラを
使いたい。けれども現代のデジタル機は、どんなに安価なカメラ
であっても、Hi-Fi写真が撮れてしまう高性能機である為、
そうした条件をなかなか満たさない訳だ。

だから、逆に言えば、デジタル機でLo-Fi写真を撮る事は
極めて高度な技能や技法や知識を必要とされる為、なかなか
こうしたトイレンズが、現代の初級中級層には受け入れられない
し、その技法や使いこなしのノウハウも、市場全般において
ずっと未発達のままだ。

それに高級機を志向するユーザー層は「Hi-Fi写真こそが王道
であり、Lo-Fi写真は邪道」という意識が非常に強い。
もしそれを認めてしまったら、自身がこれまで投資してきた
高級機材を購入した資金や、練習や修練で磨いてきた撮影
技術がすべて無意味になってしまうからだ、だから自分を否定
しない為にも、頑固なまでにLo-Fi写真を認める事は無い。

けど、たとえばスマホのカメラでアプリにより様々な画像加工を
楽しむ一般層においては、Lo-Fi写真に何の違和感も持たない、
そうした映像コミュニケーションにおいては、目立つ写真や
言いたい事がはっきりしている写真の方が好ましいからだ。
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まあ、「写真とは真を写すと書く」のような思想を信じて
疑わない一部の層は、写真は非日常を忠実に記録するもので
あって、そこに「表現」がある事は理解しずらい(出来ない)
ただ、同じその撮影者であっても、自慢の高性能一眼レフを
離れてスマホをいじくれば、加工写真を面白がって使う訳だ。

要は、発想の柔軟性である、「こうでなければならない」という
思い込みは、仮にそれが正しい事であったとしても、どうしても
発想の幅を狭めてしまう。

私としては、むしろHi-Fi写真を強く志向する層であればある程、
こうした「トイレンズ」や「Lo-Fi」写真を一度は体験して
もらいたいと思っている。

ただ、実際の所、これを使いこなすのは、そう簡単な話では無い。
高性能なデジタル機で「意図的に破綻寸前の状況を作り出す」
というのは、Hi-Fi写真を撮るよりも数段高度な技術である。
その「奥行き」が理解できなければ、「写りが悪い、面白く無い」
で終わってしまう事も確かであろう。

まあ、なかなか難しい撮影分野であり、その筆頭格の
トイレンズが、今回紹介の「HOLGA LENS」であるのかも知れない
訳だ。

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さて、今回の記事「HOLGA LENS特集」は、このあたり迄で、
次回記事に続く・・

第22回JR京都駅ビル大階段駆け上がり大会

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毎年恒例、JR京都駅の冬の風物詩、「大階段駆け上がり大会」
だが、今年もまた、知人チームの応援撮影に向かった。
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2019年2月23日(土)、この日の京都の最高気温は12℃位と
平年並み。本大会の一昨年は寒く、雪が降る天候であったが、
この会場は半屋外であるので、低い気温は選手にも観戦者にも
辛い状態である。なお、昨年は最高気温は14℃位と暖かく、
観戦には絶好のコンディションであったが、若干だが選手達
にとっては、気温が高すぎる様相もあったかも知れない。
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さて、本大会のレギュレーションについては、毎年の本大会の
観戦記事での説明と重複するが、今回も簡単に述べておこう。

*JR京都駅新装開業(1997年)から始まったスポーツイベント で、
 同駅の171段の大階段を駆け上がるタイムを競う競技である。

*1チームは4人構成、シニア(45最以上)、女子、オープン
 (年齢性別無関係)x2名からなり、この順番で個々に走る。

*4チームが同時に出走、順次4名が次々に走り、チーム戦と
 しては、メンバー4名の合計タイムで競う。

*80~100チームが参加、20~25レースが行われる。

*シニア、女子、オープン、それぞれのカテゴリー別で上位
 タイム者への個人表彰がある。

*チーム戦と個人戦では上位入賞表彰のみならず飛び賞もある。

*チームでの参加は、申し込み抽選制度となっていて、
 抽選に外れると参加できないが、実績のある上位チームは
 シードとして優先的に参戦できる場合もあると聞く(?) 
(注;シードについては詳細不明。上位チームでも、抽選に
 漏れた様子も何度か見て来ている)

*5年連続で優勝したチームまたは個人は「殿堂入り」となる。
 チームの場合は、翌年以降、同一メンバーでの参加は出来ない。
(注:メンバーとチーム名を変えればチームで参加可能だが、
 個人の場合は、どうなるかは良く知らない→前例無し)

*参加チームは条件を満たせば誰でも可。募集については、
 TV(KBS京都)でコマーシャルも流れる程、大々的である。
 また、大会終了後2~3週間で、KBS京都にて、1時間の
 特集番組が放映される。

という感じだ。

きりの良い年(第20回大会等)では、参加チーム枠を拡張する
ケースもあるが、本年は第22回の通常大会であり、若干少な目の
80チームの参戦、計20レースとなっている。
(参加選手計320人。注;何チームか棄権があった模様だ)
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本大会の写真だが、基本的には個人的な応援撮影であるから、
公式カメラマンのように自由に選手達を撮ってWebに掲載する
事は出来ない。あくまで知人の範囲に限るし、本記事においても
掲載写真の選手達からは、全て掲載許可をいただいている。

世間一般では、SNSの普及等で肖像権の扱いが不明慮になって
いる世情があるが、こうした事は世の中の基本的なモラルなので、
そのあたりは一般撮影者においても十分に留意する必要がある。
(勝手に見知らぬ他人をSNSに投稿しない、という意味だ、
対策は簡単で、アップしたい場合は個々に許可をいただけば良い、
アスリート達は、基本、そのあたりには寛容な事が多い筈だ)
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さて、私も観戦3年目となれば、見所もだいぶわかっているし、
知己のチームや選手達も増えて来ている。

今回の私の観戦および撮影の目的(注目点)を挙げておこう。

1)応援チーム1:階段の守り人(昨年総合8位)の今年の順位
2)応援チーム2:のだがわ~ず(昨年総合3位)の今年の順位
3)昨年男子個人成績1位の「上昇気竜」チームのS氏が、
 前人未到のタイム20秒を切る事が出来るか?(昨年20秒24)
4)レジェンド女王の「のだがわ~ず」チームのKさんが、
 今年は優勝を奪還できるか?(過去2度優勝、昨年3位)
5)新女王、「2019」チーム(昨年は「2018」チーム)の
 現役アスリートのWさんがタイムを更新できるか(昨年24秒)
6)強豪チーム達、「ラパンエール」「上昇気竜」「2019」、
「のだがわ~ず」等の優勝争いの行方。

となっている。

なお、昨年注目であった「関西アスリートクラブ」および
所属の美人女子選手Sさん(チーム9位、女子個人4位)は、
残念ながら今年は「抽選に外れた」との事(会場には応援に
来ていらっしゃったが、選手としてでは無いので、撮影は
行っていない)
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撮影機材は、もうだいたいこの会場用に適したシステムが
わかってきていて、具体的には、高速連写機NIKON D500に
TAMRON AF18-270mm/f3.5-5.6(B008)がメイン機材であり、
人物撮影用には、OLYMPUS OM-D E-M5Ⅱに単焦点レンズ
(昨年は45mm/F1.8、今年は30mm/F3.5マクロ)の
組み合わせとなっている。

高倍率(高ズーム比)のTAMRON B008は、描写力はあまり
高くない(コントラストがやや低く、解像感も低い)が、
画角的には約27mm~約400mm相当と、選手達が階段を
駆け上がる際の遠景から、近距離(目前を通過する時点)迄
全般の画角に適する。

会場に来ている他のアマチュア層および記録カメラマンの
機材を見ていると、望遠ズームや標準ズームという機材が
殆どであるが、それらではレースに関して言えば、遠距離
または近距離のいずれかしか(画角的に)撮影が出来ず、
不利な機材であろう。(撮影状況に応じた適正な機材選択が
出来ていない時点で、ビギナー層と見なす事ができる)

また、複数台のカメラの持ち替えは、競技撮影可能時間が
毎レースあたりで最大10秒間程であるので、その間に
カメラを交換して撮影するのは、まず不可能だ(一昨年に
試してみたが、殆ど間に合わなかった・汗)

やはり、この競技を撮るには、高倍率(高ズーム比)の
レンズしか有り得ない。まあ普段は描写力の観点から言って、
このようなズームレンズの使用は個人的には好みでは無いの
だが、こうした記録撮影用途では必須のレンズとなる。
c0032138_16345461.jpg
機材はそれで良いとして、撮影上の注意点はいくつもある。

まず、選手が階段を駆け上がる数秒~十数秒の間に速やかで
スムースなズーミング操作を望遠側から広角側まで行う必要が
あり、これは少々難易度の高い撮影となる。

全力疾走の選手達の速度は極めて速く、初めてこの競技を
見たら、きっと驚くかもしれない。何せ171段の階段を20秒
そこそこ、1秒あたりで8段もの階段を駆け上がっている訳だ。
この速度に間に合うようなズーミング操作は、かなり慌しい。

そして、カメラ側は、高速連写機が必須となるが、近年の
業務用機体でない限りは、撮影シーン全体の10秒間以上の
連写を行う事が出来ない。つまり連続撮影枚数(バースト
枚数)が100枚以上の機体スペックが必須となり、これが
出来る機体は限られている。具体的には一眼レフの範疇では
重厚長大な業務用旗艦機を除いては、NIKON D500(2016)と
CANON EOS 7D MarkⅡ(2014)の2機種しか存在しない。

他の一眼レフは、連写速度が遅いか、または連続撮影枚数
が足りない。また、ミラーレス機では、これらの機種の連写
速度(毎秒10コマ)を超える機種も近年では存在するが、
連続撮影枚数が足りない、AFの速度と精度が不足、あるいは
電子シャッターの利用となり動体被写体が歪んで写る、
といった課題が存在するので、その使用は厳しいであろう。

それと、高速連写機であっても、AE追従が出来る機種は
稀であり、今回使用のNIKON D500でも、それは出来ない。
つまり、この仕様で、明暗差が大きい被写体を追い続けると
(本会場も、半屋外の為、建物の影等で明暗差が大きい)
連写の最初のヒトコマ目で、露出値が固定されてしまい、
たとえAF追従が出来たとしても、選手の撮影位置により、
大きく露出(写真の明るさ)がバラついてしまう。

この対策としては、「間欠連写」が有効である。
最大でも1~2秒、つまり、10枚~20枚の撮影をしたら
シャッター(レリーズ)ボタンから指を離し、再度被写体
を(ファインダー)フレーム中央に捉えなおす、これで
AE(自動露出)を再調整する訳だ。

また、この「間欠連写」は、AFの再調整の意味もある、
いくらAF性能に優れたNIKON D500とは言え、毎秒あたり
階段を8段も駆け上がる高速被写体にAFは追従しにくい。
これはレンズ性能にも依存し、TAMRON B008は、「PZD」
(ピエゾ・ドライブ)という特殊モーターを内蔵しているが
小型でそこそこ高速ではあるものの、当代最強という訳では
無いので、あまりレンズ側、あるいはカメラ側のAF性能に
頼りすぎるのは禁物だ。

初級中級層では、「AF性能が高いカメラとレンズを使えば
このような難しい動体被写体でも撮れる」と大誤解をしている
が、実際には、たとえ最新鋭のシステムでも限界は存在する。
その限界を超えて撮るには撮影者側のスキル(技能)が必要だ。
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それから、今回の撮影での最大の課題と言えば、強豪チーム
が、何故か全て第4レーンに集中してしまった事である。

撮影可能なエリアは大階段に向かって左側のみであり、
これは、第4レーンに最も近いエリアである。
手すりには多数の観客が身を乗り出すようにして観戦して
いる為、第4レーンは殆どが死角となる。また観客の中には
マナーの悪い人も極めて多く、スマホやビデオカメラを持って
コース内に乗り出すようにして撮影しているケースが大半であり、
それらを避けて、できるだけ長時間のレースの模様を撮るのは
至難の業だ。結局、事後編集で、写り込んだ観客を消す為の
「トリミング」処理は必須となる。
高速連写した大量の写真に一々トリミング編集をかけるのは
とても時間がかかる手間な作業であるが、まあ、やむを得ない。

誰でも「にわかカメラマン」の現代の世情において、一般層に
撮影マナー等を教えるのは不可能に近い。とんでも無く酷い
世情ではあるが、残念ながら、ここは、どうしようも無い。

まあともかく、全般的にかなり難易度が高い撮影である、
ビギナー層では、お手上げであろうが、逆に言えば、この
難しい撮影に挑戦する事も、スキルアップの為には良い練習
となるだろう。ただし、肖像権の問題もあるし、撮影マナー
についても守ってもらわなければならない、業務または依頼
といった要素が無くて、単なる個人の趣味で撮っているならば、
基本的にその撮影行為には優先権は無い。

ここがアマチュア層が最も陥り易い大きな課題であり、
いつの時代でも「写真を撮る事が大義名分」であるという
大誤解を持ってしまっている。だから自分が撮影する時に
他人等が居ると「そこをどけ」と言ったり、他人を押しのけて
撮影をしたり、周囲の人達が「写真を撮っているから」と気を
使ってよけている事等にも、何も気づいていない。

これはマナーやモラル不足の他、「周囲がまったく見えていない」
という初級中級層の「経験不足」も、大きな原因となっている。
つまり写真をちゃんと撮るスキルを持っていないから、
撮影にばかり夢中になって、周囲を見る余裕が全く無い訳だ。

これは初級中級層にかぎらず、上級層や一部の職業写真家層
にまである問題点であり、周囲が全く見えていない状況だ。
原因は100%自分自身にあり、撮影スキルや経験が足りないから
そうした余裕が持てない訳だ。撮影行為自体に余裕があれば、
おのずと周囲の様子は見えるようになってくる。
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余談が長くなった、さて、競技の模様だが・・

まずは、本大会最年長、「階段の守り人」チームのIさんだ。
ドラゴンボートチームの選手でもあり、本大会の紹介者
でもある。60歳代と高齢ながら、本大会への常連参加者であり、
シニアの部(45歳以上)でも、チームとしても、好順位が
期待される。
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ただ、シニアカテゴリーは、45歳以上であれば、年齢無関係の
ルールであり、45歳ぎりぎりの選手では20秒台前半、さらに
ツワモノでは、21秒台という驚愕のタイムを叩き出す選手も
居て、さすがのレジェンドのIさんでも、そこまでのタイムは
無理である。
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結局、Iさんのタイムは、26秒84、これはシニアカテゴリー
において8位の好成績である。60歳代以上であれば1位で
あろうが、まあ、これからも長く本競技を続けていただき
いずれ仮に「スーパーシニア」等のカテゴリーが新設された
際には、そこで優勝していただこう。

それと、Iさんの昨年タイムは、27秒90であったので、
今回は昨年タイムを1秒以上も短縮している。60歳代にして、
この努力はたいしたものだ。なんでも日ごろから様々な
スポーツで体を鍛えているそうで、ドラゴンボートも、
その一環であろうし、また、今回の大会出場の為にも、
京都市伏見区にある明治天皇伏見桃山陵の230段階段で、
何度も事前練習を繰り返したそうである。

なお、その伏見の230段階段は、今回出場の強豪チーム
達の練習場所にもなっている模様であるが、本会場の
大階段とは、階段のピッチ(幅、高さ)が異なるので、
完璧な練習場所とは言い難い要素もある。

ただ、だからといって、本会場は、JR京都駅構内の
公共の場所であるから、普段、観光客や利用客で混雑する
本会場を練習場所とする事は出来ない、そんな中で上まで
「駆け上がって」いたら、「変な人が居る」と通報されて
しまう事であろう(汗)

---
さて、チーム戦は4人の選手の合計タイムによる戦いだ。
毎年の説明になるが、オープンの部の若手選手達の上位タイム
は20秒台前半で頭打ちなので、結局、シニアと女子の選手達が
どれだけタイムを稼ぐかで、チーム戦の勝敗が決まってくる。
つまりシニアと女子が速いチームは、上位入賞の可能性が高い。

さて、次走、「階段の守り人」チームの今年の女子選手は、
「今年は陸上選手を投入した」とのことで期待が持てる。
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「階段の守り人」女子選手Mさんは、29秒台、これは
女子総合6位のタイムである。シニアと女子の活躍により、
「階段の守り人」チームは今年は好順位が予想される。

次いで、「階段の守り人」3走のM氏
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M氏は20秒台の好タイムだ、オープンの部全体の中でも
かなりの好順位であろう。(結果、個人3位)
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「階段の守り人」アンカー選手も、22秒台と好タイム。
ただ、こちらの選手、昨年は、驚異の20秒台をマークして
全体の2位という成績だったので、今回はちょっとしたミスが
あったのかも知れない。

結果的に「階段の守り人」は4人とも好タイムであった。
恐らく現時点ではトップに近いと思うが、このレーズは第16
レースであり、この後、第17~第20レースには強豪チーム
が目白押しだ。「階段の守り人」が、どこまで暫定上位を
キープしつづける事が出来るか? それは、この後に出場
するチームの様相による訳で、今後のレースからも、目を
離す事は出来ない。

残りのレース数が少ないので、撮影場所をキープして
居座る事とした、少々寒いし、休憩もしたいのだが、もう
しかたがない、この後の注目レースを見逃す訳にはいかない
であろう・・

さて、次の注目は「2019」チーム(昨年は「2018」チーム)
の美人女性選手Wさんである。
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陸上選手の元日本代表の方であり、本物のアスリートだ。
昨年、本競技に初参加、いきなり驚異の24秒台(女子の大会
レコード)を叩き出して優勝、周囲の度肝を抜いた。

昨年は、まだ面識があまり無かったので、写真の掲載は
後姿に留めておいたのだが、今年は話をする事が出来て、
掲載許可もいただいている。

さて、今年の彼女のタイムだが、なんと23秒74である!
勿論、これは女子ではダントツの優勝タイムである。
このタイムだと、男子オープンの部であっても上位であり、
事実、全体総合では、320人中、第19位となっているのだ!
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彼女の所属する「2019」チームは、今年は優勝(昨年4位)
となった。(上写真は、賞品の「マグロ丸々1匹」!)

まあ、アスリートの人脈により、強力な選手を揃えたと
思われるのだが、それでも通常の陸上競技と階段競技とは
使う筋肉も、走り方も異なるであろう。
階段駆け上がりの専業の選手達は「カケアガリスト」と
呼ばれていて、この競技に特化した練習を積んで来ている。

きっと「2019」は、昨年4位の不本意な成績を鑑みて
階段でのトレーニングを積んで来たに違い無い、そうなると
元々陸上競技の専門家ばかりである、競技に慣れるのも
速いという事か・・

でも、そうなると「カケアガリスト」達も、このプロチーム
とも呼べる専門家集団を、いかにして崩すか?、そこが
頭が痛いところであろう・・ でもまあ、他の強豪チームの
中でも、実は、近年は陸上アスリート達の参戦が増えて来て
いる状況だ。これはまあ、アマチュア層での「お祭り的」な
大会ではなく「本格的な競技」として、専門家層にも注目
されて来ている状態だ、とも言えるであろう。

もし、今後、あまりに一般チームとの実力差が大きい状態
になれば(参考:ドラゴンボートでも、すでにその様相が
あり、「専業チーム」と呼ばれる日常的にドラゴンの練習を
繰り返すチームは、一般チームに対する勝率は100%である)

・・そうなれば、「チャンピオン・カテゴリー」を新設し
例えば、参加80チームを、一般68チームと、専門12チーム
等に分割し、それぞれの中でレースを行えば良いと思う。
上位の専門カテゴリーは参加料を増やし、その分、賞品を
豪華にすれば良い訳である、まあそのあたりは、どうとでも
運営のやりかたはあるだろう。

ただ、運営側が、チームの内情に詳しくならない限り、
そういうカテゴリー分けの決断は出来ない。他の競技でも
まあそうだが、「強いチームが出てきたなあ・・」等と、
のんびりと構えていると、実はそれらの内情は、殆ど
「専門家集団」になってしまっている訳だ。そうなると
一般チームでは、100%勝ち目が無くなる為、大会への
参加意欲を失ってしまう。だから、適切なルール変更は、
大会の状況を見ながら必須の措置となる。それを行うか
否かは、あくまで運営側の判断となるので、運営側が
参加チームの内情を知る事は、とても重要な事なのだ。

ドラゴンボートやペーロンの競技でもそうだが、大会の
記録カメラマンは(適正に仕事をするならば)参加チーム
の内情等には、とても詳しくなる筈だ、それは最も選手達に
近い立場で常に接しているからだ。

まあ、スポーツ競技全般において、選手達と何も話しをせず、
ただ写真を撮っているだけでは、カメラマンとしてはNGだ。、
それでは、その競技の中にある人間模様(人間ドラマ)が
全く理解できず、写真にそれを収める事が出来なくなる。

だから、ボート競技等でも、報道系等のカメラマンが来る
際には、私もチームや選手達を色々と紹介して廻っている
次第であり、そこで人間模様等を理解していただき、
それを記事写真や記事本文の内容に、少しでも込めて貰いたい
と常々思っている訳だ。 
まあ、今時であるから、昔のように「カメラマンはただ
記録として写真を撮っていれば良い」といった職人気質は
もう通用しない世の中である、という事にもなると思う。

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さて、また余談が長くなった(汗)レースの様子に戻ろう。

前述の女子トップの23秒という記録を見て、俄然闘志が
沸いてきたのは、「のだがわ~ず」の女子選手Kさんだ。
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過去優勝2回、女子のレジェントである。
長年この競技に参加を続けており、年齢とともに少しづつ
衰える体力を、経験と技術でいかにカバーするかが課題だ。

ただ、個人的には、最も頑張ってもらいたい選手でもある。
それは、最初にこの競技を観戦した際に見た彼女の走りが
「感動的」と言えるものであったからだ。

だが、私は、この3年間、彼女が優勝した状況を見ていない、
若い新鋭選手も増えてきているし、彼女が優勝した頃の
女子ベストタイムは、現在では、3~4秒も短縮されて
しまっている、だから今年も優勝は厳しい状態なのは良く
わかってはいるが、それでも何とか勝って欲しいと願うのは
まあ、一種の「ファン心理」であろう。
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「さあ、行け! 女王の意地を見せてやるのだ!」

一般的なスポーツ競技の公式カメラマンであれば、贔屓の
選手やチームを持っている事は、あまり好ましい状況とは
言えない。何故ならばスポーツは「競技」である以上、必ず
勝ち負けは出てくる、そこで前述のように、チームや選手の
内情を知っている状態においては、各チームや選手には、
それぞれ勝ちたい、または勝たなくてはならない事情がある。
だから、観戦撮影をする上で、どっちのチーム(選手)にも
勝ってもらいたい状態となり、これは心理的には強い葛藤だ。

したがって、そうした心理状態を避ける為には、
「チームや選手の内情は知っておく必要があるが、それを
 観戦撮影には持ち込まない。あくまで客観的にレースや
 試合を観戦し、その上で撮影しなければならない」
という大原則がある。

・・ただまあ、それは業務撮影の場合だけだ。
まあ今回は依頼はあったとは言え、個人的な趣味の撮影の
範疇ではある、であれば、まあ個人的な心情において、
贔屓のチームや選手が居ても、何もまずい点は無い。

「さあ、カメラが壊れるまで連写しまくるぞ~(笑)」
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後日、出来上がった写真を選手達に配ると、
選「のだがわ~ずのKさんのカットが多いなあ・・」
という感想となった(汗) 「まあ、もっとオレ達も撮って
くれよ」というアピールなのだろうが、けど各自最低4枚
づつくらいは渡しているので、それで良いではないか(笑)

Kさんのカットが多いのは、最も勝ってもらいたかった
選手であったからだ、決して「彼女が美人だから」という
理由では無い(まあ、それもあるが・・ 笑)

Kさんの個人成績は、女子の部第4位、昨年の3位よりも
また順位を1つ落としてしまったが、良く頑張ったと思う。
お疲れ様でした、また来年に向けてトレーニングを積んで
下さいな・・
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ただまあ、他のメンバーの活躍(本記事の上の方で、適宜
写真を混ぜている)もあって、「のだがわ~ず」は、今年も
チーム順位4位の好成績であった、しかし、ここでもまた
「のだがわ~ず」は、昨年3位であったので、1つ順位を
落とした事にはなる。あまり「4位おめでとう」とは言えない
状況でもある。まあ、こういう事もあるから、過去の大会の
順位成績は、必ず頭に入れて(記憶して)、スポーツ大会の
観戦に臨まなければならない事は必須である。

本大会でもそうだが、ドラゴンやペーロン大会の観戦撮影
においては、過去5年間程度の各チームの成績、決勝順位と
そのタイム、また、特徴的なレースの模様などは、全て
暗記してから大会の観戦撮影に向かう、さもないと、
チームや選手達と話が出来ないからだ。
仮に、昨年優勝したチームに向かって、「今年は3位入賞
おめでとう!」などと声をかけたら、袋叩きだ(汗)

ただ、こういう事を実践しているカメラマンは非常に少ない、
たとえ職業写真家層であっても、そのあたりは失礼ながら
いい加減であり、事前の予習をして来ない人が殆どなので
残念であると同時に、「何も知らずに、どうやって写真を
撮ると言うのであろうか?」という疑問すら沸いて来る。

いずれにしても、アマチュア層から職業写真家層に至るまで、
スポーツ競技の観戦撮影において、過去の記録の多くを
把握しておく事は、非常に重要である。そこはもう間違いの
無い事であり、これは「鉄則」である。
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「階段の守り人」チームは、総合5位の好成績となった。
昨年の8位から、さらに順位を上げてきている。

この順位であれば、素直に「おめでとうございます」と
言っても大丈夫だ、良く頑張ったといえる。

ただまあ、これより上の順位となるのは、とても難しい。
「階段の守り人」を含め、上位のだいたい8チーム位は、
入賞常連の強豪チームなのだ、そして、このあたりは、
もう実力伯仲であり、群雄割拠という状態でもあって、
常勝軍団は、もうなかなか出にくい状況でもある。
ほんの少しのミスが順位を下げ、ほんの少しの頑張りが、
順位を1つ、2つ上げる事にも繋がっていく。

ただし、選手達はとても大変なのは、良く理解できるが、
観戦側からすると、とても興味深い状況にはなっている。
来年の大会もまた、きっと熱戦が繰り広げられる事であろう。

1年に1度だけの大会では勿体無いような気もしてきた。
これくらいの観戦の面白さがあれば、数百円程度の入場料を
取っても良いかも知れない、まあつまり「プロスポーツ化
できる可能性がある」という事だ。
運営側には、そうした様々な可能性を模索していただきたい
とも思う・・

最後に、今年のチーム順位とそのタイム(上位5チーム)
を掲載しておく。(注;タイムは4選手の合計だ)
1位:1分31秒:2019
2位:1分34秒:上昇気竜
3位:1分35秒:ラパンエール
4位:1分37秒:のだがわ~ず
5位:1分39秒:階段の守り人

なお、前人未到の19秒台を目指した、上昇気竜のS氏で
あるが、最終レースで、ラパンエールのS氏と大接戦
となり、20秒02と20秒06の死闘を繰り広げたが、
(下写真、左:ラパンエール、右:上昇気竜)
2人共、惜しくも19秒台には届かず・・
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さて、今回の観戦記事はこのあたりまでで・・
機会があれば、また来年の大会も観戦に向かうとしよう。

ハイ・コスパレンズBEST40 プロローグ編(2)

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高いコストパフォーマンスと付随する性能を持った優秀な
写真用交換レンズを、コスパ面からの評価点のBEST40を
ランキング形式で紹介するシリーズ記事。

なお、本シリーズ第1回記事および第2回(本記事)では、
惜しくもBEST40から漏れた、ランキング番外レンズのうち
どうしても紹介したいレンズを計7本紹介する記事としている。

ランキングについては私が実際に購入し、現在も所有していて、
実写紹介が可能な交換レンズ群およそ360本の中からに限定して
いる。以前所有していたが現在持っていないレンズについては
実写が出来ないという理由で、本シリーズ記事では対象外だ。

また、2018年位から急速に国内市場に流通している、中国製
等の「新鋭海外製レンズ」の多くはコスパに大変優れるが・・
それらは十何本か所有しているものの、本シリーズ記事執筆
時点では評価が間に合っていなかった、後からそれらを
ランキングに飛び入りさせる訳にも行かず、残念ながら
それら新鋭海外製レンズのランクインは見送る事とする。

これら以外にも、勿論優秀なレンズは存在しているだろうが、
市場の全てのレンズの性能を把握する事は当然不可能であるし、
自身でお金を出して購入しないレンズの事をあれこれ評価する
というスタンスは、全く賛同できないので、所有していない
レンズの事は一切評価しない。

まあ私が持っていない、という事は、そもそも「コスパ的に
買うに値しないレンズである」という事と等価であるから、
初級者等が、自分が信奉するブランドのレンズが出て来ない、
と言ったとしても、それはそもそもハイコスパのランキング
には入り得ないレンズであると解釈した方が良いであろう。

そもそも初級者の考える「値段が高いレンズ=良く写るレンズ」
という点が、極めて大きな誤解なのだ。
(だから、本シリーズ記事を書いている)

レンズの価格だけで性能が決まると思っていたら大間違いだ。
まあ、他のWeb等で、そんなようなスタンスが見れるならば、
それは「超ビギナーの書いた評価だ」と簡単にわかってしまう。
さもなければ、市場関係者や投機層が、広告宣伝とか、相場の
吊り上げの為に、過剰なまでの好評価を行っているという事だ。
いずれにしても、そんなトリックに乗せられるのは初級層だけだ。

それから、入手性についても考慮している。このランキングでは
現在入手が困難なレア物のレンズは対象外だ。

その他、評価の基準や定義等は、シリーズ初回記事を参照の事。

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では、今回もランキング外レンズを順次4本紹介していく。

番外レンズ(4) 約210位相当
c0032138_17400213.jpg
評価得点 3.00 (内、コスパ点 2.5) 
レンズ名:SIGMA Contemporary 100-400mm/f5-6.3

DG OS HSM
レンズ購入価格:68,000円(中古)
使用カメラ:CANON EOS 7D MarkⅡ(APS-C機)

またしても下位レンズである。
そもそも高価なので、コスパ上位には入り得ないのだが、
まあこれは発売年度が2017年と新しく、発売後すぐに購入
した事もあるかも知れない。後年、より安価に入手できれば
コスパ点はどんどん高くなるレンズだ。
c0032138_17400263.jpg
このレンズは、意外な事にビギナー層に評判が良いみたいだ。
ただ、評価を行う事にも、スキルや経験や知識が必要だ。

すなわち、近年では、超望遠ズームは皆150~600mmとかの
やや過剰な焦点距離で、かつ重量も2~3kgに達していた中で、
初めてビギナー層にも扱える重さ(1150g)の超望遠ズーム
が発売されたのだ。まあ、およそ20年前の2000年前後では
もっと軽量又は同等の400mm級超望遠ズームはMINOLTA,
TOKINA,TAMRONからの3本が存在していたのだが、最近カメラ
を始めたビギナー層は、そんな昔の歴史の事は、まるで知らない。


だからまあ「軽くて良く写る超望遠ズームが出た」と騒いで
いるのかも知れないが、軽い、という事はさておき、良く写る、
というのも、いったい何と比較して言っているのか良く分からない。

ビギナーは絶対的判断基準を持たないし、評価が出来たとしても
他の物と比較する相対判断であるから、基本的には、言っている
事の大半は「思い込み」に過ぎず、殆どあてにならない。
よくもまあ、通販サイト等でのビギナー層の評価コメントを信用
して買う人が居る事が不思議でならない、もしそれが大ハズレの
評価であったら、購入した商品が完全に無駄になってしまう。

ちなみに、本レンズの「描写表現力」の私の評価点は、5点満点
中の4点であり、この評価点は、所有レンズ延べ約360本中、
約50~120位程度の範囲に留まる。つまり、もっと描写力が高い
レンズは、私が所有している範疇でも50本以上ある訳だ。
c0032138_17400259.jpg
実際の性能だが、絞り開放から十分にシャープであるが、
現代風のレンズによくある「輪郭がやや強い」印象なので
その点では注意が必要だ。

「注意」というのは、大画素で撮った写真を小画素に縮小処理を
行う場合、そのソフトウェア(編集ソフトやブラウザ等)や
アプリ等での縮小の方式(アルゴリズムと言う、Lanczos3法や
バイキュービック法が一般的)によっては、縮小時にその輪郭が
強く残り、縮小すればするほどパキパキの固い印象の画像になる。
(これは専門的には、”縮小効果”と呼ばれる)

したがって、対策としては、写真の用途として必要な画素数
(例、ポスターや写真展などの大伸ばし用、小型印刷物用、
WEB閲覧用など)に応じて、画素数を必要以上に上げずに撮り、
編集や掲載における縮小処理をできるだけしないか、少ない範囲
に留めるように意識する。または自身による編集作業時に、
輪郭を残す編集パラメータを調整する等をして、目視で適切な
シャープネスを決定する。

カメラ内部にも輪郭調整パラメーター(またはシャープネス)
がある場合が殆どなので、必要に応じてそれも調整する。
ただし、カメラ内部のパラメーターによる調整でも、機種毎に
その画像処理エンジンによるアルゴリズムの差(種類)があったり、
あるいはパラメーターの決め方が異なる為、これも必要に応じて
自身の使用カメラで予め縮小時や撮影時の輪郭処理傾向を掴んで
おく。

パラメーターの決め方の差というのは、たとえばシャープネスの
設定があったとして、それが-2,-1,0,+1,+2の5段階だったとする。

その際、0に調整したら、常に「無処理」であるから安心なのか?
と言えば、どうもそうでも無い模様だ。
カメラの機種によっては、-2に相当する値がゼロの無処理となり、
そこからどんどんと輪郭処理が強くなる。
したがって、±0に調整したつもりでも、既にこれは3段階目の
強さだったりする訳だ。

このあたり、実際の各機種での内部処理手法は公開されておらず
仕様表にも勿論乗っていない。高度な検証作業が必要であるが、
輪郭を気にするならば、このあたりを確認しつつ、調整してみる
のも良いだろう。

それから、カメラのセンサーの画素ピッチとレンズの解像力
との関連、さらにはローパスフィルターの有無なども、この
問題に大きく関連するが、専門的かつ難解になりすぎる為、
その影響については割愛するが、ごく簡単には後述する。
c0032138_17400235.jpg
なお、何故近年のレンズの輪郭が強いのか?と言えば、これは
「超高画素対応」だからだ。

昔の銀塩35mm判フィルムは、アナログではあるが、これの解像度
はデジタルに換算すると、およそ2000万画素相当であると言われて
いる。これの具体的な検証は、アナログとデジタルの概念が全く
異なるので出来ないのだが、その説を信じる場合、これは
約5400x3600ピクセルとなる。

35mm判フィルムのサイズは、36mmx24mmなので、
これは、ピクセルピッチが約1/150mmつまり、0.0066mmで
まあ、約7μm(マイクロメートル、旧ミクロン)という事だ。

銀塩時代の交換レンズの解像力もだいたいこのフィルムの
解像度を基準に設計されていた。
1/150mmの解像力が必要という場合、レンズの解像力テストでは、
白と黒の線のペア(ラインペア)が、分離して見えるか?を
チェクする。つまり1mmあたり150本の解像度の場合、その半分
の75ラインペア(/mm) (LP/mm)のレンズ解像力が必要だという
事になる。

銀塩時代のレンズを解像度チャートを撮影して実測した場合
(これは比較的簡単に自分で出来る)まずレンズの種類により
ずいぶんと異なり、一般にズームよりも単焦点レンズが優れる。
さらには絞り値の設定でも大きく変化する事が良くわかると思う。

通常、開放では甘く、絞り込むと解像力は向上し、レンズによって
はF5.6ないしF8程度でピークに達し、それ以上は向上しない。
さらに絞り込み過ぎると、むしろ解像力は劣化する。
(これは、デジタルでは回折現象(小絞りボケ)も影響する)

なお、同メーカーの同一焦点距離のレンズでは、小口径レンズの
方が開放付近での解像力が高い事が多いのは面白い傾向だ。
つまり、撮影条件によっては、安いレンズの方が良く写った、
という事になる。(=口径比が大きくなると、様々な収差が
急激に増大する事が主な理由だ)

性能の低い銀塩用レンズでは、その解像力は60~100LP/mm程度、
高性能のレンズでも、最良時で180LP/mmを超えるものは稀で
あろう。
で、銀塩時代はこれで良かったのだが、近年、35mm判フィルム
の換算画素数の2000万画素を超えるデジタルカメラが多く発売
されている。

たとえば5000万画素のカメラがあったとする、
これは約8700x5800ピクセルとなり、画素ピッチは約4.2μm
必要なレンズ解像力は1/240mm、つまり120LP/mmだ。
これだと、銀塩時代のレンズを使うのは、低性能な物だと
解像力が不足してしまう。(注:いずれも最良の値、
一般的には、画面周辺になると解像力は低下する)


この為、近年のレンズは、解像力を従来のものより大幅に
アップしている、けど、それが輪郭が強いという副作用を発して
しまうのだと思われる(注:カメラのセンサー仕様にも依存する)

なお、ここまでの計算はフルサイズ(35mm判)で行っている、
センサーのサイズが小さい場合、さらにこの計算は厳しいものに
なるのは容易に想像つくであろう。特に、センサーサイズが
極めて小さい携帯・スマホ系カメラの場合、画素数を上げると
物凄い高解像力のレンズ使用が必須となる、しかし当然そこまで
の高性能なものは、技術的にも、コスト的にも、大きさ的にも、
携帯等には搭載できない。だから画素数が高い意味が殆ど無い、
という現状にも気がつくであろう。
c0032138_17400105.jpg
余談がずいぶんと長くなったが、本レンズはSIGMAによる
カテゴリー名は「コンテンポラリー」だ。

その名の意味の通り「現代的」なレンズであるが、現代的な
技術の進歩という事が、全ての面において歓迎できる物でも無い。
新しい技術やその内容を理解し、その長所を活かし、短所を回避
して使いこなす事が非常に重要だ。

なお、2017年にはTAMRONからも、本レンズとほぼ同等のスペック
の軽量レンズ 100-400mm/f4.5-6.3(A035)が発売された。
こちらも所有しているが、ほぼ同等の性能なので、一般的には、
どちらかを所有しておけば十分であろう(注:SIGMA製が、やや
操作性に優れている)

---
番外レンズ(5) 約150位相当
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評価得点 3.35 (内、コスパ点 3.5) 
レンズ名:SONY E16mm/f2.8 (SEL16F28)
レンズ購入価格:7,000円相当(中古)
使用カメラ: SONY NEX-7(APS-C機)

SONYの最初期のミラーレス機、「NEX-3/5」のキットレンズ
であり、2010年の発売だ。
現代のα7/9系Eマウントミラーレスはフルサイズセンサーだが
NEXの時代、あるいは現代のα5000系/α6000系ミラーレス
機は同じEマウントでもAPS-CサイズCMOSを採用している。

型番にEと名前が付くSONYレンズはAPS-C専用であり、フルサイズ
のα(FE)機で使用する場合は、自動又は手動で、APS-Cモード
として使う。
c0032138_17402061.jpg
本レンズはフルサイズ換算24mmの(超)広角レンズである。
こんなレンズをキットにして大丈夫か(使えるのか?)という
疑問が、発売当初にはあった事であろう。

初期NEXのターゲットユーザーは不明瞭だった模様だ。
つまり当時は、ミラーレスの市場はまだ始まったばかりであり、
誰が買うのか良くわからなかった時代だった。
まあでも、例えばNEX-3とのセット(NEX-3A)の発売時の実勢
価格(注:定価はオープンだ)は、65,000円前後であり、
この価格帯だとビギナー層が対象であろう。

銀塩時代には、28mm単焦点を搭載したコンパクト機、例えば
NIKON MINI,RICOH GR1,MINOLTA TC-1等はベテランかマニア
層向けと呼ばれていた、つまり、「広角だけのカメラは初級中級者

には使いこなしが困難である」という意味だ。
だが、NEX-3Aは24mm(超)広角単焦点、昔とは時代が違うとは
言え、ビギナーが簡単に使いこなせる画角ではないであろう。

なので、NEX-3/5(以降のNEXやαも同じ)には、デジタルズーム
機能が搭載されている、これを用いると最大10倍の拡大ができる。

つまり、換算24mmの広角から換算240mmの望遠域までを
本レンズ1本で使える訳だ。

ビギナー層に対しては、これで「(光学)ズームが無い」という
問題点や不満への対策となる。
ただし、SONYのプレシジョン・デジタルズームは画質無劣化の
方式では無いので、4倍あたりから上は画質劣化が甚だしく、
実用的には厳しい状況となる。(この為、後年のSONY機には、
10倍迄もの過剰なデジタルズーム範囲は搭載されていない)

また、電源OFFで必ず拡大無しの状態にリセットされてしまい、
やや使い難い。


このような広角レンズをキットレンズとしたのは、その当時
(2010年頃)のミラーレス機のAF技術にも関係がある。
例えば、OLYMPUSはE-P1のキットレンズを17mm/f2.8とし、
PANASONICもDMC-GF2のキットレンズをG14mm/f2.5とした。

すなわちこの時代のAFは各社ともコントラスト検出式AFであり、
これは一眼レフの位相差検出方式に比べて、精度も速度も低い。

これらの(超)広角レンズであれば、基本的に被写界深度が深い
為、ピント精度が若干向上する(=AFを外し難い)またレンズを
小型化する事で、AFモーターの駆動の負担を減らし、合焦速度も
若干向上すると思う。

つまり、AFの技術的限界から、これらの小型(超)広角レンズを
キットレンズとせざるを得ない時代であったのだ。

本レンズE16/2.8の時代背景はそんな感じだ。
描写力も実のところたいした事は無い、けど、不満という点は
無いので、広角撮影が必要な際、たとえば舞台系の全体撮影とか
人物集合写真等で非常に役にたったレンズである。
まあ、あまり絞らなくても、ある程度深い被写界深度が得られる
という事だ。
c0032138_17402169.jpg
現在、NEXシリーズはα(E)シリーズに製品名を変更をしている。
αは、元々1985年のミノルタの初号機から、2000年代にSONYに
引き継いだAF一眼レフのブランド(シリーズ)名称であったが、
2013年、一眼とミラーレスを統合したシリーズ名となった。

で、その2013年からα(E)はフルサイズ機が主力となった為、
現代においては、APS-C専用レンズ(FEではなく、E名称)の
レンズは比較的中古相場が安価である。
本レンズE16/2.8も1万円程度の安価な相場で豊富な中古流通の
玉数があり、買いやすい。

なお、フルサイズ用レンズでなくては(自分のα7等に)使えない、
と思っている初級ユーザーもいるかもしれないが、
α7系の「APS-Cサイズ撮影」設定を、「AUTO」又は「入り」に
しておくとレンズ装着時に何の違和感も無く使用できる。
(注:EVFはクロップされずフル画面で見られる。なお、記録
画素数が大幅に減るので、用途によってはその点だけ注意だ)
c0032138_17402057.jpg
弱点は特に無いが、あまり感動的に良く写るレンズという訳でも
無い、まあ、ボデイとのセットで中古購入価格は安価であったが
コスパ点をあまり高く評価していないのは「そこそこ写る普通の
レンズ」と言う枠から出ていないからだ。
まあでも、α(E)ユーザーであれば、持っていて損は無いレンズ
ではあるとは思う。

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番外レンズ(6) 約170位相当
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評価得点 3.30 (内、コスパ点 3.5) 
レンズ名:LENSBABY MUSE Double Glass Optic
レンズ購入価格:8,000円相当(新品+中古)
使用カメラ:SONY NEX-3 (APS-C機)

LENSBABYのティルト型レンズは、3GやMUSE等、過去記事で
何度も紹介している。
c0032138_17403348.jpg
トイレンズ系で、かつマニアックな趣味撮影専用レンズなので
一般撮影(風景や人物等)には勿論全く向かない。

使いこなしも難しい。ビギナー層では、原理や操作性の面で
「偶然」以外ではティルトレンズをコントロールする事は出来ず、
また中上級者層であっても、ティルトの原理は知っていたとしても
その効果を想像しながらの作画が困難である(つまり、どう
写るかわからない、あるいは逆に、こう写したいという考えが
あっても、その通りには上手く撮れない)

すなわち、誰もがどうやっても、使うのが難しいレンズである。
そういう意味では、コスパはともかく、マニアック度が極めて
高いレンズになるであろう。
しかし、エンジョイ度が高いかどうかは、ユーザーのスキルに
よりけりだ、本レンズの難しい「操作性」や「作画意図」に
おいて、それを楽しいと思って撮れるかどうかがポイントになる。

一般的には「こんなに撮るのが難しくて、しかもどう写るか
良くわからないレンズなんて、楽しめないよ!」と思っても
不思議では無いであろう。

だから、そういう難しいものを使いこなそうとする事に楽しさを
感じる事ができるかどうか?が、まず本レンズを使う為の条件と
なってくる、すなわちかなりのマニアックなレンズという訳だ。
(特に、「テクニカル・マニア」向けである)
c0032138_17403377.jpg
冒頭に「トイレンズ」と書いたが、LENSBABY 3Gや、
MUSEのDouble Glass Opticでは、F5.6前後の絞りプレート
(付属品、磁力交換式)を装着する事で、トイレンズよりも
むしろ実用レンズに近い高い描写力(画質)を得る事ができる。
ただ、高画質である事が本レンズの使用目的に合うかどうかは
微妙だ。・・という事で、MUSEでは、より写りが「ユルい」
つまりトイレンズの写りに近い「プラスチック・オプテック」と
いった光学系(レンズ)に交換する事ができる。

ただ、私の感覚では「プラスチック・オプテック」を使った
ケースでは、ちょっと「ユルすぎて」好みに合わない。
さらにMUSEには「ピンホール&ゾーンプレート」が存在するが、
これらもさらにボケボケの写りで、撮影用途を選ぶのが大変だ。
(レンズマニアックス第1回、第4回記事参照)

なので、写りの良い Double Glass Opticや3Gを持ち出す事が
多くなっている。
カメラ母艦に常にNEX-3を使用しているのは、このボディ形状が、
MUSEや3Gを手持ちで使うのに適しているからだ。
ただこのあたりは、利用者の手の大きさや形により、使い易さ
は変わってくるかも知れない。

本来こうしたトイレンズ系の場合、エフェクトを組み合せる
のが表現力の増強目的では望ましいが、残念ながらNEX-3には、
殆どエフェクトが搭載されていない。

この為、後期NEX/αのAPS-C機を「Eマウント・トイレンズ母艦」
として使うのが望ましいと思い、代替機を狙っていたが、
なかなか適正な候補機種が見当たらなかった。
(追記:現在ではα6000を入手し、この用途にあてている)

それと、フルサイズ機α7が「オールドレンズでゴーストの頻発」
という重欠点を抱えていて、オールドレンズ母艦としての目的には
適さないので、これを使い潰した後(減価償却完了後)トイレンズ
母艦用に格下げにしようかとも思っている。
まあその為には、次期フルサイズ・オールドレンズ母艦が必要と
なるが、その後のα7/9系列は高付加価値型商品となってしまい、
今のところ、その目的に合致して適価で買える機種が出てきて
おらず、なかなか苦しい所だ。
c0032138_17403366.jpg
さて、本LENSBABY MUSEは誰にでも薦められるレンズでは無いし
おまけに、一般的な写真撮影における必要度もゼロに近い。
そして、旧機種の中古や在庫処分を狙えば適正な価格帯にはなるが、
新品購入では後継機(コンポーザーPRO等)は、かなり高価だ。

まあ、というわけで、コスパの観点からも「名玉」にはランクイン
は元々無理なレンズではあるが、特殊レンズとしての存在感は高く
マニアック度も高いので、今回紹介に至った次第だ。

---
さて、次は「プロローグ編」のラストのレンズである。

番外レンズ(7) 約170位相当
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評価得点 3.30 (内、コスパ点 2.5) 
レンズ名:TAMRON SP 85mm/f1.8 Di VC USD (Model F016)
レンズ購入価格:70,000円(中古)
使用カメラ:NIKON Df (フルサイズ機)

2016年発売の大口径中望遠単焦点レンズ。焦点距離から言って
ポートレート用途が適正であろうが、私はライブや舞台撮影
での中距離人物撮影に、よく本レンズを使っている。
c0032138_17404689.jpg
若干高価であるのは、発売から日が経っていない状況で
本レンズを購入したからであり、時代が下がれば、もう少し
本レンズの中古相場は下がり、コスパ点も上がるであろう。
・・と言うのも、初級中級層にとっては85mmレンズはF1.4が
王道であり、F1.8というだけで人気薄になってしまうからだ。

私は銀塩時代から多数の85mmレンズを所有している。ある意味
85mmマニアでると言っても過言では無い。そうして購入した
85mmの中には、F1.4版も当然いくつも混じっている、けど
それらが、いつでも写りが良いかどうかは、ちょっと疑問なのだ。

開放F値を1.8ないし2に抑えた設計の物の方が良く写るケースも
多々あったし、そもそも、F1.4版で最短撮影距離付近(1m前後)
の撮影を絞り開放近くで行った場合、被写界深度が1cm程度と
極めて浅く、おまけにそれが人物であったり草花等であった場合、
被写体のブレ(動き)が生じて、浅い被写界深度では間違いなく
ピントを外してしまう。そのピント歩留まり(成功率)は、
経験上10%以下、つまり10枚に9枚は失敗してしまうのだ。

これは、AFでもMFでも同様である、こちら側(カメラ)の精度
の問題も大きいが、それのみならず被写体側の問題もあるからだ。
さらに言えば、F1.4版はボケ質破綻が頻繁に発生するレンズも
多く、F1.8版より慎重に、その回避技法を用いる必要もある。
(すなわち、成功率がさらに悪化し、ボケ質破綻回避の為の
無駄打ちを行わざるを得ず、レンズによっては、歩留まりは
1%程度にまで低下する)

結局、85mm/f1.4は必然的にあまり持ち出さないレンズと
なってしまう、失敗する事が明白だから、重要な撮影には
使えないのだ。
けど、大口径中望遠(70~120mm前後の焦点距離)は様々な
撮影シーンにおいて必要だ。
この為、私はこの目的では、たとえばMFレンズであれば、
CONTAX Planar 100mm/f2や、OLYMPUS OM 100mm/f2
PENTAX 120mm/f2.8、LAOWA 105mm/f2等を良く使い。
AFでは、NIKON DC105mm/f2,同AiAF85mm/f1.8 、
PENTAX FA77/1.8Limited等を使う場合が多かった。
あるいは、AFの90mmないし105mmマクロをこの目的に
充てる事もあった。


これらはそれぞれ、ミラーレス・マニアックスやハイコスパの
シリーズ記事で紹介しており、「良く出来たレンズ」として
実用性能の高さや必要度の高さを誇っている。

AFレンズで最も良く使用したのは、NIKON AiAF85mm/f1.8と
PENTAX FA77/1.8Limitedであったと思う。
人物撮影や屋内撮影、ライブ等イベント撮影まで汎用性が
極めて高く、長年にわたって重宝してきたレンズである。
しかし、AiAF85/1.8はもとよりFA77/1.8も古い時代のレンズだ、
およそ20年近くも使っていれば、近年の最新レンズに比べて
どうしても各種性能(解像力や、AF性能、手ブレ補正等)が
見劣りしてしまう。

最新レンズでFA77/1.8等の代替となるレンズをずっと探して
いたが、なかなかそれが存在しないし、新発売もされない。
なにせFA77/1.8はミラーレス・マニアックス名玉編で堂々の
第1位に輝いた栄光のレンズだ、それを超えるものなど、
そう簡単に出てくる筈も無い。

近年になって、TAMRONから本レンズSP85/1.8が発売された、
「このレンズならば、もしかして・・」
という期待を込めての購入となった次第である。
c0032138_17404614.jpg
確かに良く写るレンズである。
描写力的な不満は感じられない、解像感も高いが、他の近代レンズ
のようにカリカリな輪郭ではなく、人物撮影によくマッチするように
設計されている、ボケ質も良く、ボケ質破綻も気にならない。
F1.8ということで、F1.4級に比べて初級中級者が着目しない分、
マニアック度も高い。

やや重量級で持ち出しが不便ではあるが、まあ重欠点と呼べる程
のものではなく、実使用上でのエンジョイも高い。
注意点は1点だけ、NIKON用でも電磁絞り採用(E型と等価)の
レンズであり、ニコン機以外での(マウントアダプター等)使用が
困難(ほぼ不可能)な事だ、が、ここも重欠点とは言えない。

まあすなわち、殆どの項目で高得点であるレンズだ。
・・ただ、やはり値段が高かった(汗)
コスパ点は、一応最小限の減点として、2.5点としたが
それ以上与えるのは無理だ。年月が経て中古相場がさらに下がった
としても、コスパは3点から3.5点が限界であろう。

という事で、総合平均4.0以上が主に対象となる本シリーズ記事
ではコスパ面を主因としてランクインできないレンズである。
c0032138_17404501.jpg
しかし、この総合性能は捨てがたい。
FA77/1.8の代替となりうる高性能レンズである事は確かだ。

ちなみに、本シリーズ記事では、FA77/1.8は1位になれない事は
確定している。何故ならばそのレンズも高価であり、コスパ点が
3点止まりであるからだ。
ただ、他の項目の評価点が高いので、ランキングの中位くらい
には入ってくるとは思われる。

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さて、「プロローグ編」での、ランキング外レンズの7本の
紹介はこのあたりまでで、次回第3回記事では、「本編」として
ランキングレンズを下位より順次紹介していこう。

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