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レンズ・マニアックス(89)補足編~Sonnar(ゾナー)編

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今回は補足編として「Sonnar(ゾナー)」編という
主旨とする。
_c0032138_06462626.jpg
「Sonnar」とは、独国カール・ツァイス社により、
1929年(昭和4年)に開発されたレンズの名称
(商標)である。それが何を意味するか?は追々説明
して行く事とし、本記事では、京セラCONTAX、NIKON、
ロシアン、SONY製の、「Sonnar」銘がついているか、
又は、明らかにSonnar構成の製品である事が確かな
レンズを、焦点距離の順に5本紹介して行き、
加えて、新鋭の中国製の「Sonnar風??」のレンズを
最後に1本紹介する。

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では、まず、最初のSonnar。
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レンズは、YASHICA CONTAX Sonnar T* 85mm/f2.8
(中古購入価格 25,000円)(以下、S85/2.8)
カメラは、OLYMPUS PEN-F(μ4/3機)

1975年発売のMF中望遠レンズ。
_c0032138_06462625.jpg
例によってだが、ツァイス系レンズでの焦点距離と
絞り値の表記は、ドイツ式等と呼ばれる「2.8/85」
や「1:2.8 f=85mm」のような書き方となる場合が
多いが、本ブログでは、各社でのスペック表記が
マチマチとなっている現状には賛同しておらず、
昔から「85mm/f2.8」という暫定表記で統一している。

これは技術用語的には必ずしも正しい記法では無いが、
各メーカーで表記が統一されていない以上、ルールが
存在しないので、やむを得ない。
(まあ、記事中では、口径比/絞り値の表記として、
より一般的な「F」を使う事も多い)

他の技術分野では、用語や記法等が規格等により統一
されている事が当たり前であるが、何故、光学の分野
では、そういう簡単な事も、これまで出来なかった
のであろうか? 思うに1930年代のドイツにおける
「ライカ・コンタックス戦争」とも言える状況、
つまり、両社はライバル関係を意識しすぎて、仕様
の殆どを相手側と逆に設計してしまった事・・ 
に加えて、仕様表記法までも、相手側とは同じには
したくなかった・・ という事情がある。

後年に両社それぞれの仕様を参考にして、カメラや
レンズを作った国内メーカーも非常に多かった為、
個々にバラバラな仕様や表記が、統一できなく
なってしまったのであろう。

なお、他の分野での、同様の規格非統一の事例は、
関東/関西における家庭用交流電源の周波数
(50Hz/60Hz)とか、鉄道のゲージ(狭軌/広軌等)
などがある。これらも、技術が輸入・導入された
時点で、どこの国の技術や規格を規範としたかで、
現代に至るまで規格が統一できていないケースだ。

また、仕様・表記に留まらず、カメラ全般においても、
マウントの不統一や、記録メディアの不統一は、
それによる不便を強く感じる。
いずれにしても「ユーザー利便性を損なう」こうした
規格(仕様)不統一は好ましく無い状況だと思うので、
どうにか統一して貰いたいのだが、各メーカーは、
自社の都合を優先するばかりだし、技術環境の変遷の
速度も速くなってきているので、もう今更、どうにも
ならないだろうとも思う。

でも、せめて、「ツァイスのレンズでは、絞り値を
先に書くんだぜ!」などの、ユーザー(オーナー)の
変な自慢や優越感といった意見等は無視したい、と
個人的には強く思っている。「全体的な視点」による
実情が何もわかっていない様子で、かなり的外れだ。

さて、いきなり余談が長くなったが、本S85/2.8の
話に進もう。
_c0032138_06462787.jpg
まず、「Sonnar」の意味(由来)だが、諸説あって
良くわからない(汗)
それ以前(1897年)にツァイスが発明した、著名な
「Planar」(プラナー)には、「平坦な、平面の」
という意味があり、こちらは話(筋)が通る。

Sonnarの由来には、地名説もあり、そうであれば
日本で言うところの「ROKKOR」(MINOLTAの
創業地が六甲山系のふもとにあった)のような
ものであろうか? まあ、今から100年近くも
前の話なので、もう詳しい情報は何も無い。

Sonnarの特徴は、レンズを「貼り合せる」事で
群数(何群何枚、という群)を少なくする設計を
施している事だ。

コーティング技術がまだ無い昔の時代では、レンズ
の枚数が多くなり、それぞれに隙間があると、内部
(レンズと空気の境界面)で反射が起こり、透過率が
減ってしまう事を避ける措置である。

その反射率は数%程度ではあるのだが、空気面が多く
なると「累乗」で掛かって来る為、数枚程度のレンズ
構成でも、総合光線透過率が半分程度にまで下がって
しまう。(注:近代レンズでのレンズ表面反射率は
多層コーティング技術の発展により、1%以下であり、
十数枚の多数のレンズ構成でも、90%以上の総合
光線透過率を確保している。なお、この透過率は
単に口径比で決まるF値とは異なり、一般的なレンズ
仕様には現れない。ただし、大きな透過率低下を招く
APD等の構造や露光倍数が大きい場合、「実効F値」
として「T値」を採用しスペック記載する場合もある)

Sonnarのレンズ構成は、3群5枚、3群7枚、4群5枚、
5群6枚等があり、個々にまちまちではあるが、
いずれも「貼り合わせ面」を持つ事が特徴である。

本レンズS85/2.8は、4群5枚構成であり、群数が
多いので、なんとなくSonnarぽくは無い仕様だが、
当初のSonnarの発明から半世紀近くが経過していて、
コーティングの技術も発展(実現)したので、あまり
極端な貼り合わせの必要は無かったのかも知れない。
_c0032138_06463649.jpg
本S85/2.8の描写力は「並み」である。
別に、SonnarだからとかCONTAXだから、といって
常に素晴らしい描写力を持つ訳でも無いし・・
そもそも、本レンズの時代(1970年代)から現代に
至るまでも半世紀近くもの歳月が流れている。
まあ要は、古過ぎる訳だ。

それに、その後の時代(1980年代以降)においては、
85mmレンズは人物撮影用として大口径化が進んだ
為に、開放F2.8は、被写界深度を浅く取れない点で
不満が残るスペックだ。

ただまあ、85mmの大口径化は、主にプラナー系の
設計で行われた為、Sonnarタイプの設計の方が
開放付近での諸収差の出方の差により、解像感が
高く、シャープな印象が得られたり、階調表現が
優れる等、被写体によりけりでPlanarとSonnarを
使い分ける楽しみは、あったかも知れない。

また、本レンズ発売当時のYASHICA CONTAXの
製品戦略上、Planar85mm/F1.4とSonnar85/2.8
に、大きな「仕様的差別化」を設ける事により、
Planar85/1.4を、よりハイブランド化する為の
市場戦略の一環であった、という想像すらある。

ちなみに、一眼レフ用のSonnar(構成)では、
バックフォーカスの関係で、あまり短い焦点距離
のレンズを作る事が出来ないのだろうと思われる。
よって、(一眼レフ用)単焦点Sonnarの最も短い
焦点距離は、本レンズと同じ85mmとなっている。
(注:Vario-Sonnarというズームレンズを除く)

なお、CONTAX(RTS)では他に100mm/F3.5
のSonnarが存在していた。不人気のレンズであり
近年では中古相場が安価なので購入しようかと思い、
少し調べると、レンズ構成が、本レンズと同等の
4群5枚であった。
すると、85mm/F2.8の設計を約17%ほどスケール
アップすれば、およそ100mm/F3.5となる為、
Sonnar100/3.5は、本S85/2.8と同一の描写傾向
だろう、と見なして、購入は見送った。

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では、次のSonnarは、ロシアンである。
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レンズは、Jupiter-9 85mm/f2
(新品購入価格 5,000円)
カメラは、KONICA MINOLTA α-7 DIGITAL(APS-C機)

1960(?)~1980年代(?)頃のロシア製MF中望遠レンズ
詳しい情報は共産圏につき不明。元々は、ツァイス
(イコン)のSonnar 8.5cm/F2(1930年代頃)の
レンズ構成をコピーしたものだ、とは、言われて
いるが・・

第二次大戦での独国の敗戦により、ドイツ、そして
ツァイスも東西に分断された。東側にあったツァイス
の技術(あるいは資産)は、旧ソ連により接収され
Sonnar 8.5cm/F2の3群5枚構成を、当初はそのまま
コピーし、Jupiter(ユピテル)-9 が作られた。
恐らくは戦後すぐ、1940年代の末頃の話だと思う。
_c0032138_06463662.jpg
当時の旧ソ連は共産主義国家であった為、メーカー
という概念は無く、レンズはいくつかの国営工場で
分散されて生産されていたそうだ。
Jupiter-9も、恐らくは時代とともに生産する工場
も変わり、そのマウントも時代とともに、レンジ機
用、シネ用、M42用、一眼レフ互換マウント(Kiev等)
用等の、様々なバージョンがあったと思われる。
同様に、長期に渡り生産されていた為、レンズ構成
も何度か変化した模様だ。

(注:レンジ機用と一眼レフ用のレンズにおいては、
バックフォーカスの差が大きく、前述のように、特に
Sonnarでは、そのあたりの設計制限事項がシビアな為、
全く同じ光学系を転用する事はできない)

本レンズは、M42(マウント)バージョンであり、
恐らくは1970年代前後のものだろう。

1991年のソビエト連邦崩壊により、旧ソ連時代の
国営工場にあった在庫品を、日本の輸入業者等が
調達し、それらを1990年代後半頃に、通販や、
一部は専門店舗で販売した。

丁度この時期に、日本では中古カメラブームが
起こっていた為、安価な旧ソ連製レンズを試しに
買ってみるマニア層は多かった。

そして、「安い割りに非常に良く写る」と驚き、
さらに出自を調べてみれば、前述のようにカール・
ツァイスの技術が転用されていた事を知り、
「なるほどな、そうであれば良く写る筈だ」と
マニア層の皆が納得した次第であった。

ただ、その後20数年が経過した現代においては、
初級中級マニア層の間で「ロシアンは良く写る」
という(不完全な)話が広まってしまっている。

これは、正しくは「ロシアンは、安価な値段の
割りに良く写る。ただし数十年前の古い時代の
設計であったり、コーティング技術が未発達で
あったりするので、それなりに弱点も多い。」
・・という解釈が正解であろう。

だが、現代においては、希少価値から、ロシアン
レンズは、数万円という割高な中古相場となって
いる事が多い。

前述の「ロシアンは良く写る」という、不完全な
情報を元に、それらを欲しがる人は多いし・・
現代となってはもう、1990年代のように多数の
ロシアンレンズが輸入されていた時代では無いので、
入手の術も殆ど無いし、その実力値も不明だから、
高額相場を受け入れてしまうのであろう。

もう一度書いておく、本レンズの新品購入価格は
僅か、5,000円(+消費税3%)であった。
で、多くのロシアンの価格対性能比、つまりコスパ
の妥協点は、中古では8,000円~1万円程度、
新品では2万円程度迄である。これが銀塩時代の
マニア層での常識であり、これが適正な「相場感覚」
(コスパ感覚)でもある。

これよりも高価なロシアン等は、誰も買わなかったし、
数万円も出すならば、当時でも現代でもロシアンより
良く写るレンズは、星の数ほど多数存在するからだ。
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さて、価格の件はさておき、本Jupiter-9だが、
比較的後期の、改良が重なったバージョンであり、
一応Sonnar構成の「貼り合わせ」を踏襲しているが、
オリジナルの3群5枚から、3群7枚へと変化している。

写りはさほど悪くは無いが、逆光耐性が低いのと
ボケ質破綻が頻発するので、あくまでオールド
レンズと同等である。これらの弱点を認識した上で
それを回避できるスキルを持つ中上級マニア層で
あれば、まあ実用範囲内の性能ではあるが、
「レンズの言うがまま」にしか撮れない初級マニア
層に対しては推奨し難いレンズとなる。

まあ要は「古い」のだ、現代においては、ほぼ
全ての85mmレンズは、Jupiter-9よりも高描写力だ。
無理をして探したり、高値で入手する必然性は
まるで無いが、まあ、「ロシアンレンズの入門編と
しては定番である」とも言える。

---
ここでちょっと補足であるが・・

カール・ツァイス イエナの望遠系Sonnarには、
135mm/F3.5版もあったと聞いているが、これも
また古い時代のもので、詳しい情報も無いし、
そもそも、私も未所有である。

そのSonnar 135/3.5のデッドコピー品としては
Jupiter-37A 135mm/F3.5(下写真)がある。
_c0032138_06464442.jpg
こちらのレンズの詳細の話は割愛するが、例えば
本シリーズ第2回記事等を参照されたし。

なお、Jupiter(ジュピター/ユピテル)には
このように多数の機種が存在している。
それらは、レンジ機用であったり、一眼レフ用で
あったりと様々だ。
よって、十把ひとからげ的に「Jupiterは良く写る」
などとは絶対に言わず、必ず型番を記載/述べて、
どのレンズの話をしているのかを明確にする必要が
ある。これはマニアにおける鉄則だ。

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それと、一眼レフ用のSonnarに関しては、設計上
でのバックフォーカスの短さの制約があり、「主に
中望遠(85mm)以上の焦点距離のものしか作れない」
と前述した。

「では、広角のSonnarは無いのか?」という話だが、
一眼レフ用では無い、作れないからだ。
(注:Vario-Sonnar等と呼ばれる、ズームレンズ
の形式にすれば、一眼レフ用でも、望遠以外の
Sonnarが作れる。ただしそれは、もはや、本来の
Sonnarとしての光学的特長は失われていると思われ、
単なる名称(レンズ名)にすぎない)

だが、銀塩レンジファインダー機、銀塩・デジタルの
コンパクト機、および、デジタルのミラーレス機に
おいては、フランジバック長(or バックフォーカス)
が短い為、広角や標準のSonnarを作る事が出来る。
_c0032138_06464495.jpg
上写真は、CONTAX Tix (1997年)であり、
これは、APS(IX240)フィルム使用機である。
(銀塩コンパクト第5回記事参照) 
搭載レンズは、Sonnar 28mm/F2.8であり、
APS機なので、換算画角は約40mm相当の準標準
画角となる、すなわち「望遠のSonnar」では無い。


また、銀塩コンパクト第7回記事で紹介した
CONTAX T3(2001年)も、銀塩35mm判カメラで
搭載レンズは、35mm/F2.8のSonnar型である。
(注:両カメラは、一応「Sonnar」と銘打っては
いるが、近代的なレンズ構成かも知れない)

このように、一眼レフ以外では望遠では無いSonnar
の実例が色々とある、という事となる。

なお、京セラCONTAXが1970年代~1990年代にかけ
一眼レフ用の広角レンズを設計した際には、
「Distagon」(ディスタゴン)の名称を用いていた。
これは一眼レフにおけるフランジバック長の分だけ
「距離(Distance)を伸ばす」設計、という意味
からのレンズ名称だと思われる。

つまり、「それは何に対して伸ばしているのか?」
と言えば、”それはSonnarに対して伸ばす”という
意味も隠されていたと思う。ただし、実際の設計上
においては、ディスタゴンは「多群構成」である事
が特徴であり、Sonnarのような、貼り合わせによる
「少群構成」とは、全くの別物だ。

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では、3本目のSonnarは、レンジ機用である。
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レンズは、日本光学 NIKKOR-P 10.5cm/f2.5
(中古購入価格 15,000円)(以下、S105/2.5)
カメラは、SONY α7S(フルサイズ機)

1953年発売の、ニコンSシリーズ(レンジ機)用の
MF単焦点中望遠レンズ。
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本レンズ発売の数年前に、米LIFE誌(現在廃刊)の専属
フォト・ジャーナリストであった「D.D.ダンカン」氏が
「Nippon Kogaku NIKKOR-P 8.5cm/F2」(1948年)
を高く評価した事で、世界的に「NIKKOR」(注:全て
大文字表記)の名前が有名になった、という歴史がある。

しかし、NIKKOR-P 8.5cm/F2は、第二次大戦前の
ツァイス・イエナ Sonnar 8.5cm/F2のコピー品であり、
「D.D.ダンカン」氏が、そのSonnarの事を知っていた
のか? それとも、知らずにNIKKORを褒めたのか?は
今となっては誰にもわからない、70年も前の歴史だ。
(まあ、「著名なカメラマン」とは言っても、レンズ
マニアでは無かったのではなかろうか?)

で、その8.5cm/F2を、25%ほど拡大して設計すると
本S105/2.5が出来上がる。まあつまり、本レンズは
ツァイスSonnar85/2の「拡大コピー版」である。

だから、特性も全くと言っていい程同じであろう。
NIKON(日本光学)と言えど、まだコーティング技術が
未発達であった古い時代のレンズだ。貼り合わせ面を
多くし、内面反射損失を抑え、ヌケの良い描写力を
目指したのであろう。
_c0032138_06470365.jpg
現代において本S105/2.5を使うと、なかなかの
高い描写力に、驚きを隠せない。「これこそが
本家Sonnar (85/2)の実力だったのか・・」と。
もし、このレンズが昔の時代で他のレンズの描写力
と比較されたならば、「まあ、圧勝するだろうな」
という印象が強い。

そして、NIKKORにおける105/2.5系列は、後年に
「名玉」と称される事にはなるのだが、比較的
早い時代(1971年頃)に、4群5枚構成に設計変更
されている。
まあつまり、もうその時代から、オリジナルの
Sonnar構成は、過去の遺物となっていたのであろう。

(注:厳密に言えば、Sonnar構成は一眼レフ向け
のバックフォーカスを稼ぐ事ができず、最初期の
NIKKOR-P 10.5cm/F2.5は、後玉の曲率を変えた、
無理をした設計だった。この課題を改善する為
NIKKOR-P 105mm/F2.5よりビオメター(クセノター)
型の4群5枚に変更された次第であった)

Ai系の105/2.5は、1980年代を通じて販売されて
いたが、AF時代の1990年代からは、この105/2.5
の系譜は途絶えてしまい、1990年代~2000年代
にはDC105/2となり、2010年代にはAF-S105/1.4
となっている。このあたりの歴史は、本シリーズ
第65回「NIKKOR 105mmレンズ」編に詳しい。
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本レンズS105/2.5は、初期Sonnarの描写力の
参考となる貴重なレンズである。滅多に流通する
ようなものでは無いし、あっても「投機的措置」で
高額な場合も多いとは思うが、適価(=後年の
Ai系105/2.5と同等の中古相場)で、見つける事が
出来たら、購入の選択も悪く無い。

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さて、4本目のSonnar。
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レンズは、SONY Sonnar T*135mm/f1.8 ZA
(SAL135F18Z)
(中古購入価格 89,000円)(以下、ZA135/1.8)
カメラは、SONY α77Ⅱ(APS-C機)

2006年発売の大口径AF単焦点望遠レンズ。
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過去数回の本レンズの紹介記事で毎回のように書く事
ではあるが、本レンズはSONYがKONICA MINOLTAから
α(カメラ事業)一式を移管された後に、最初に発売
したレンズであり、SONY独自の企画によるレンズは
本レンズを含む、たった3本だけで、他は全てMINOLTA
時代のレンズを外観変更して15~25%も値上げした事。
(例:AF35/1.4G 15万円→SAL35F14G 188,000円
これは、約25.3%の値上げである) そして当初に
発売された3本のSONY製レンズが極めて高価であった事。
(例:本ZA135/1.8は、20万円+税)という理由から、
私は、いずれの状況にも好感を持てず、本レンズの
事を長年に渡って無視しつづけた。

だが、後年に、暗所でのステージ撮影用途において、
換算200mm級の画角、F2以下の大口径、手ブレ補正有り
という条件でレンズを探していると、本レンズを
αフタケタ機のAPS-C機(手ブレ補正内蔵)で使うのが
最も簡便な解決策である事がわかった。

発売後10年の2016年に、ようやく9万円を切る程度に
中古相場が下落していたので、本レンズを購入した
次第である。(注:近年では、α(A)マウント機の
縮退により、さらに中古相場は下落している)
_c0032138_06471072.jpg
入手して実際にステージ等の暗所で使ってみると
なかなかの高描写力を見せてくれる事が判明、
税込み9万円弱で、この描写力(個人評価4.5点)
であれば、コスパはギリギリ及第点(とは言え2.5点)
であり、総合評価3.8点(いずれも5点満点)は、
名玉とは言えないまでも、悪いレンズは無い事が
わかって、まあ、それまでの不審は解消できた。

さて、本ZA135/1.8は、8群11枚の貼り合わせ有り
のSonnar構成である。非球面レンズこそ使っては
いないが、ED(特殊低分散ガラス)を用いたレンズ
を2枚、前群で貼り合わせていて、望遠レンズに
ありがちな色収差を良く補正している。
また、階調表現に優れ、色ノリも良い、ただし
キリキリとした解像感は無く、なんとなくこれは
銀塩時代の「ツァイス」っぽい設計思想だ。

約1kgと重いが、例えば後年のSIGMA ART 135/1.8
(1130g以上、マウントによりけり)と比べて
まだ軽量であり、手持ちでの長時間の撮影も
十分に可能な重量である。

Sonnar構成による描写力上の特徴、とかよりも、
本ZA135/1.8の場合は、135mm単焦点ではトップ
クラスである72cmの最短撮影距離が特筆すべき
性能であろう。フルサイズ換算で1/4倍、これを
APS-C機や、それに備わるデジタル拡大機能と
組み合わせる事で、「望遠マクロ」の代替として
使用する事が出来る。
_c0032138_06471097.jpg
本物の望遠マクロ程の高い撮影倍率は得られないが、
WD(ワーキングディスタンス)を、望遠マクロの
2倍近く得られる事と、望遠マクロよりも2倍
以上も明るい開放F1.8である事で、こちらが有効
な場合すらある。
(参考記事:本シリーズ第66回「望遠マクロ VS
135mm近接レンズ」編)

これは、本ZA135/1.8が、超音波モーターを
持たない仕様である為、あまり動体撮影に強く無い
のと、解像感などの描写特性が、あまり現代的
では無い(要は、やや古い世代のレンズだ)為に、
ステージ撮影以外での「用途開発」を行った結果
として、「自然観察撮影用途に向く」という事が
わかった訳だ。現在においては、この用途を
メインとして機嫌良く使っている。(注:この
場合、フルサイズ機では特性を活かせず、APS-C
型のαフタケタ機(α77Ⅱ等)との組み合わせ
が必須となる)

で、本ZA135/1.8は、SONY製のAマウント(一眼
レフ)用レンズでは、唯一の「Sonnar」である。
(注:ズームのVario-Sonnarを除く単焦点で唯一)
まあ、「Sonnarなんて、単に名前だけの話だ」とは
言えるかも知れないが、「唯一のSonnar」を入手
する事は、近年での本レンズの相場下落の状況に
おいては、マニア層向けには悪い選択肢では無い
と思う。

(注:もし将来にα Aマウント機が無くなって
しまった場合でも、当面はα77Ⅱクラスの機体の
中古流通は続くだろうし、AFの遅さを我慢するか
又はMFで使う前提で、α EマウントAPS-C機と
組み合わせても、マニア層クラスの撮影スキルが
あれば、十分に実用的だ。ただし、ビギナー層等
向けのレンズでは無い事も確かである。
まあでも、近年の本ブログで紹介するレンズは
殆どが上級マニア層向けで、初級中級層向けには
一切推奨できないものばかりであるが・・汗)

----
では、本記事の(一応)ラストのSonnar。
_c0032138_06471035.jpg
レンズは、CONTAX Sonnar T* 180mm/f2.8(AE)
(中古購入価格 70,000円)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)

1982年発売のMF単焦点望遠レンズ。
RTS(Y/C)マウント品である。
_c0032138_06471073.jpg
銀塩時代の中古カメラブームの時に買ったもので
当時は「CONTAX」のブランドは、初級マニア層や
ビギナーの金満家層に「神格化」されていた為、
非常に中古相場が高額であった(汗)

現代においては、2万円台くらいから購入する
事ができ、その値段であれば、本レンズの性能から
来るコスパ感覚と、ほぼマッチするのだが・・
このままの価格だと、コスパの個人評価は2点
(5点満点)でしか無い。いや、この点数もまだ
CONTAXのブランドバリューを加味した甘い評価点
であり、実際のところは1.5点という感じだ。

さて、京セラCONTAX時代のRTSマウント(1975年
~1990年代頃)の「Sonnar」は色々な種類が
多く発売されていたが、代表的なものに限って
言えば(=超高額レンズやズームを除けば)
Sonnar 85mm/f2.8 (本記事冒頭で紹介)
Sonnar 100mm/f3.5 (S85/2.8の拡大コピー版、未所有)
Sonnar 135mm/f2.8 (譲渡により現在未所有)
Sonnar 180mm/f2.8 (本レンズ)

のみであろう。
超高額で一般的では無いAPO Sonnar 200mm/F2を
除けば、RTS版Sonnarの最長の焦点距離のレンズは
本S180/2.8である。

さて、本レンズの俗称としては「オリンピア・ゾナー」
がある。(以下「オリンピアゾナー」)
(注:他にある「オリンピック・ゾナー」表記は誤記だ)

これは、1936年にベルリンオリンピックの撮影用に
独Carl Zeiss Jena(イエナ)により開発された
望遠Sonnarを、「オリンピアゾナー」と呼んだ事で
この名前だけが、後年に伝えられて行く事となる。

ただ、この年(1936年)を、覚えておいて貰いたい。
そう、第二次世界大戦直前の話なのだ(詳細後述)

で、カール・ツァイスは、独国の敗戦により東西に
分断されてしまう。戦後は東西での商標訴訟等の
ごたごたがあり、そうこうしているうちに、日本製
カメラの世界的な台頭が始まり、1970年代前半には、
西独ツァイスは、カメラ事業から撤退してしまう。


1974年にヤシカがツァイス(西)から、CONTAXの
商標使用権を獲得し、国産CONTAXの歴史が、RTS
(1975年、銀塩一眼レフ第5回記事)から始まる。
このCONTAX RTSの発売は、世界的に注目され、
「鳴り物入り」という感じの、センセーショナルな
様相があった事であろう。

しかし、あろう事か、RTS発売のその年にYASHICAは
経営破綻してしまう。色々と事情はあったと思うが
「CONTAXブランドの取得費が異常なまでに高額で
 あったのではなかろうか?」と勘ぐってしまう。
(個人的には、ブランド銘を必要以上にありがたる
思想や志向性については、全く賛同していない)

すぐさま京セラ等が経営支援を行い、以降、CONTAXは
京セラCONTAXとして継続する。数年後にはYASHICAは
京セラの傘下企業として合併されてしまった。

その後、2005年の京セラのカメラ事業撤退以降では、
YASHICA(の商標)は「流浪のブランド」として、
国内外の商社等を転々とする。

まあつまり、1975年頃に、ツァイス(西独)が、
YASHICAの技術力を認め、CONTAXブランドの使用権を
与えた事で、「YASHICAはツァイスと同等」という
認識が、日本以外の世界中に広まり、YASHICAの
ブランドバリューは、今なお(日本以外)の海外に
おいては強く存在する為、YASHICAの商標を欲しがる
企業は多いのであろう。
なお、「日本以外」と書いたのは、日本でのほぼ全ての
一般ユーザーは「CONTAXの方がYASHICAより格上」
という認識であったからだ。


ちなみに、1975年以降のしばらくの期間、CONTAX
レンズは殆ど全てYASHICA製(正確には、YASHICAが
吸収合併した「富岡光学」製であったと思われる)
であったので、このあたりの事情を良く知る中上級
マニア層では、「CONTAX=YASHICA=富岡光学」という
公式を立て、YASHICAや富岡光学製レンズを重んじて
いた。まあつまり、「ブランド銘を有りがたがるのは
何もわかっていないビギナー層だけ」という認識が
マニア層全般での常識となっていた訳だ。
_c0032138_06471715.jpg
さて、本レンズSonnar 180/2.8は、YASHICA経営
破綻のどさくさの後、京セラCONTAXが再びCONTAX
の栄光を取り戻す為に、1936年のオリンピアゾナー
の故事に基づいて開発をスタートした、起死回生の
レンズであったと思われる。その為、発売前の
事前発表資料やら事前キャンペーンにおいては、
「オリンピアゾナー」の名前が使われていた模様だ。

しかし、実際に本レンズが発売された1982年頃には
もうオリンピアゾナーの名前は無く、単にSonnarと
なった。 何故か? その理由は十分に推察できる。

そう、元祖「オリンピアゾナー」は、当時のナチス・
ドイツにおけるヒトラー政権が、世界中に国威を
示す為、それを簡単に言えば「世界から人々が集まる
オリンピックで、我がドイツにはこんな凄いレンズを
作れる光学技術があるのだ、だから我が国と戦争に
なったら痛い目を見るぞ!」という、プロバガンダ
(=政治的・軍事的な宣伝)が、オリンピアゾナー
の開発意図であった訳だ。

この話は、このように書かれているカメラ関連資料は
殆ど無いとは思うが、当時の状況や世情から考えれば、
容易に想像可能な実情である。

で、恐らくは1980年当時の京セラCONTAXにおいても
「オリンピアゾナー」の出自を調査し、同じ真意に
たどりついたのであろう。

そう、当時のマニア層や市場関係者が口々に言っていた
「オリンピアゾナーは凄い」という話は、その開発時の
「戦争」という暗い世情を、全く意識や理解していない
あまり好ましく無い状態での発言であった事を京セラは
認識したのであろう。
だから、それが判明した後、カタログや発表資料から、
瞬時に「オリンピアゾナー」の名前は消えた訳だ。

だが、それから40年たった現代においても、依然
「オリンピアゾナーは凄い(凄かった)」という話は、
マニア層等を中心に、まことしやかに囁かれている。
本レンズが20数年前に非常に高価な相場であったのも
「オリンピアゾナーの再来だから凄いんだ」という
話が、市場・流通・専門評価者・マニア層、等の間
で一般的な認識であったからであろう。

だが、この話を読んで、状況を理解した上で、まだ
「オリンピアゾナー」がどうのこうの、とかを言える
であろうか? まあそれは無理であろう。

そう、カール・ツァイスの歴史には、戦争という
世情を絡め、暗い影の部分がとても多いのだ、だから
「ツァイスやCONTAX(そして、他のドイツのビッグ
 ブランドも同様)を、必要以上にありがたがるな」
と常々、本ブログでは言っている訳だ。

さて、そういう点を抜きにして、客観的に本S180/2.8
の評価を行ってみよう。
_c0032138_06471820.jpg
シャープでヌケが良く、コントラスト表現に優れた
比較的優秀な望遠レンズである。

銀塩MF時代の望遠レンズとしては、描写の特徴こそ
異なれど、NIKON ED180/2.8と、本S180/2.8が
双璧であろう。(参考:両者は「最強200mm選手権
決勝戦」記事で対戦している)
また、最短撮影距離が1.4mと、銀塩用MF単焦点
180~200mm級の中では、トップクラスに短い事も
長所であろう。

短所は、重く回転角の大きいピントリングは疲労を
誘発し、長時間の撮影が出来ない事だ。
趣味撮影でギリギリ、ましてやオリンッピック等の
業務撮影には使える筈も無い。もうすこしハンドリング
性能全般が低ければ、「修行(苦行)レンズである」と
評価していた事であろう。
勿論、個人評価DBでの「エンジョイ度」評価は2点
(5点満点)と、かなり低い。

こういう事は、SonnarだとかCONTAXだとか言う前に、
レンズの性能の客観的な事実なのであるから、その
名前を聞いただけで良し悪しを判断するとかはNGだ。

あるいは、昔の時代の評論家であっても、あまりに
CONTAXやツァイスのブランドバリューが強すぎる為
萎縮してしまい、「さすがCONTAX、良く写る」という
評価しか出来なかった(=許されていなかった。もし
それを悪く書くと、周囲から白い目で見られるとか、
せっかく国産化した、世界的ブランドのCONTAXの
発展に、水を差してしまうからだ)
だからまあ、いくら高名な評論家や専門家の書いた
評価等であっても、その時代(1980年代)の資料は
参照や引用してはならない、あてにならないからだ。

----
最後に補足(追記)だが、
「バックフォーカスの長い一眼レフ用では、焦点距離
 の短いSonnarは設計しにくいが、ミラーレス機用で
 あれば作れるだろう」と前述した。

本記事を執筆した時点では、ミラーレス機用の
Sonnarは存在しなかったが、その後、1機種だけ
そうした商品が発売された。以下に簡単に紹介しておく。
_c0032138_06471814.jpg
レンズは、銘匠光学 TTArtisan 35mm/f1.4 C
(新品購入価格 9,000円)
カメラは、CANON EOS M5(APS-C機)

2020年末に発売された、中国製のAPS-C型以下
ミラーレス機専用、MF準広角(標準画角)レンズ。

「ゾナー構成である」と言われて発売されたレンズ
だが、かなり怪しい。
レンズ側面に、構成図が印字されていて、それを
見ると、6群7枚構成だ。

この構成図を見る限りは、レンズの隙間が多く、
「Sonnar」と言うからには、もっと貼りあわせ面を
多くしても不思議では無い。

これ、もしかして「Planar」と「Sonnar」を勘違い
していないだろうか? 
でもまあ、メーカー側が「ゾナータイプである」と、
それを売り文句にしているので、ここはもう、
「ハイ、そうですか」と言っておこう。
とても安価なレンズだし、細かい事をあれこれと
言っても始まらない。

(追記:発売後しばらくして、商品紹介Web等から
「ソナー」の表記が抹消され、「ダブルガウス型」に
改められた。結局、SonnarとPlanarを混同していた
のだろうと思われる)
_c0032138_06471870.jpg
写りは、基本的には可も無く不可も無し。

口径比を(F1.4と)欲張りすぎたレンズであるので、
絞りを開けていくと解像感が低下するし、加えて
ボケ質破綻が稀に発生する。
昔のレンズ群のように、絞り込んで使うタイプで
あろう、F5.6程度まで絞れば、キリキリとした
解像感が得られ、さほど悪く無いレンズだ。

Sonnar構成にあるべき、貼りあわせを多くして
コントラストを高めたり、逆光耐性を高めるような
要素はあまり感じられない(まあ、そうでは無い
からだ)し、この逆光耐性が低い点は課題だ。

まあでも、「とても安価に、昔の時代の名レンズの
テイストが楽しめる」レンズというのは、個人的には
好みの製品企画思想ではある。


が、これが「Planar」なのであれば、ちょっと話は
変わり、旧来の標準レンズ(50mm/F1.4級)の2/3
縮小型のジェネリックという設計思想だろうから、

これはこれでもアリだ。


いずれにしても、コスパもなかなか良いと思う。
(追記:でも「実はPlanarでした」というオチは、
なかなか面白いものがあった。まあ、十分に楽しませて
もらえた、という事にしておこう)

----
では、本記事「Sonnar」編の総括だが、
結局のところ、Sonnarかどうか? 等は殆ど意味の
無い事であり、Sonnarだから良く写るとか、描写が
固いとかという、そんな「十把ひとからげ的」な評価は
全く無意味である。それよりも、個々のレンズには固有
の特徴や個性、長所や短所、出自や歴史などがある訳で
あり、そこをちゃんと理解するのが最優先であろう。

それに加え、ユーザーには各々、そのレンズを使う
意味、目的、理由、状況、等が存在する、そうして
用途に合うレンズを探した結果、それが、たまたま
「Sonnar」であれば、それはそれで良いではないか、
という事だ。

くれぐれも、ブランド銘とか、レンズのシリーズ名
だけを聞いて、その良し悪しを判断(思い込む)
してはならない、これは大原則であり鉄則だ。

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参考関連記事:
特殊レンズ・スーパーマニアックス第48回CONTAX PLANAR

では、今回の第89回記事「Sonnar」編は、このあたり迄で、
次回記事に続く。

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