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特殊レンズ・スーパーマニアックス(62)135mmオールド単焦点(前編)

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本シリーズでは、やや特殊な交換レンズを、カテゴリー
別に紹介している。
今回は「135mmオールド単焦点(前編)」という主旨で
一眼レフ用の古い時代の焦点距離135mmのMFレンズを
13本準備し、これらを前後編に分けて紹介する。
今回記事では7本を取り上げよう。

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ではまず、最初のシステム
_c0032138_11344599.jpg
レンズは、MINOLTA MC TELE ROKKOR(-QD) 135mm/f3.5
(ジャンク購入価格 800円)(以下、MC135/3.5)
カメラは、PANASONIC DMC-G6 (μ4/3機)

発売年不明、1970年代頃と思われるMF望遠レンズ。
恐らく1960年代頃のROKKORであれば、レンズ構成を
表す型番が記載されていると思うが、本レンズには
それは無い。(すなわち、その時代に、レンズ構成
記号は商品名から省略されるようになったからだ)
でもまあ、旧来同様の「QD」構成であろう。

MINOLTA MCマウントであるが、現代においては、
MDマウントアダプターにより、実絞り(絞り込み)AE
(絞り優先AE)で、ミラーレス機で使用が可能だ。
_c0032138_11344538.jpg
型番QDは4群4枚構成を表し、一般にテレフォト型等と
呼ばれるシンプルな構成だけに、諸収差(特に、色収差、
像面湾曲、非点収差、周辺減光)が十分に補正されて
いない可能性が高い。
またコーティング技術も怪しい為、逆光耐性、フレア、
ゴースト、コントラスト低下にも注意が必須である。

使用上では、そうした弱点を意識した回避技法が必要だ。
その第一段階としては、μ4/3機を使用して周辺諸収差を
低減させてしまう事、また第二段階として光線状況に留意
する事、三つ目に「ボケ質破綻」の回避技法を用いる事、
である。これは本レンズに限らず、多くのオールドレンズで
同様の措置が必要だが、レンズの仕様や時代における技術
水準等に配慮し、より弱点となりやすい項目を優先的に
回避する。(本レンズの場合は、周辺収差、コントラスト
の低下、ボケ質破綻の順であろうか・・)

このあたり全般の措置は、非常に高いスキルを要求され、
基本的には上級マニア層以上の知識と技能が必要とされる。
弱点回避を行わずに「レンズの言うがまま」に撮影すると
オールドレンズの写りは「ヘロヘロ」に低下し、欠点ばかり
が目立ってしまう。世間一般では「それがオールドレンズ
の”味”である」という解釈も多いが、それは「何も弱点
回避技法を行っていない」という事態と等価な発言であり、
あまり褒められた話では無い。

なお、レンズの特性を十分に把握した上で、あえて弱点を
強調する技法を自在に使えるならば、それはそれで良い。
ただ、それも、なおさら難しい事だ。仮に偶然でそうなった
のでは、やはりそれも有益な結果にはならないであろう。


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さて、今回の記事では、レンズ紹介本数が多いし、
いずれも過去記事で紹介済みなので、各レンズの話は
最小限としよう。

なお、言うまでも無いが、本ブログで紹介する機材は、
全て、自分でお金を出して購入したもので、なおかつ
長期に渡って実際に自身で使っている機材である。
(勿論、買ったばかりの機材は評価/紹介しない、
短期間では、まだ、その機材の実態が掴めないからだ)

専門的な記事を投稿するライターや、ユーザー層等でも
「今回は機材を借りて来ましたので、試してみます」等と
書いているのを見ると不憫に思う。それでは、借りた所に
気を使いながらでしか評価ができないだろうからだ。

まあ、これは写真機材分野に限らず、他分野の商品でも
似たり寄ったりである。
例えば、文房具のような安価な商品を評価する上でも、
専門家等と称する人達が、僅かな金額を出し惜しみして、
借りた文房具を評価している状態等は、本当に残念だ。
「この商品だったら、買っても良いと思った」などの
コメントを書かず、自分で買ってから評価するのが本筋だ。
まあ、そういう「専門家」と呼ばれる人達が「買わない」
という商品であるならば、「それはそこまでの商品だ」と
「逆情報」として、そうした評価内容を参照・解釈する
ようにもしている。

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それと、現代ではこのようなMF135mmレンズは不人気であり、
かつマイナーマウント(あまり普及していないマウントや
現代では終焉してしまって利用困難なマウント)の物も
多い。したがって、極めて安価な中古相場ともなるのだが、
”性能が低いから安価だ”と言う訳でもない。

まあ、1980年代頃のMF135mm単焦点であれば、そこそこ
完成度が高く、普通に良く写るので、安価なジャンク等を
見かけたら、試しに購入してみるのも悪く無い事であろう。

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では、次のシステム
_c0032138_11344571.jpg
レンズは、PENTAX Super-Takumar 135mm/f2.5
(中古購入価格 12,000円)(以下、ST135/2.5)
カメラは、PENTAX KP (APS-C機)

恐らくは1960年代頃に発売と思われる、当時としては
大口径の開放F2.5のMF望遠レンズ、M42マウントだ。
自動絞り対応、すなわち開放測光を可能とし、撮影時
に絞り込まれるタイプがSuper-Takumarとなっている。
(注:後年のSMC版では、TAKUMARは大文字表記)

今回紹介の135mmレンズ群は、概ね1960年代~1980
年代のものであり、もう現在となっては、詳しい情報も

殆ど残っていないものも多い。

まあ、「情報まとめサイト」のような「二次情報」が
存在していたとしても、その情報の信憑性があまり無い。
・・と言うのも、そこで引用した元資料(当時の文献等の
元情報=一次情報)が、間違っている場合も多々あるのだ。

そこでは型番等の記述に関しての正確性が欠けるケースが
大半であり、また、性能評価等は昔の時代の「クセのある
評論家」等の意見を、そのまま引用しているケースもあり、
全く信用置けないし、結局、そのような曖昧な情報を
ここで「三次引用」する事は絶対に出来ない。

また、135mmレンズは、この時代であればポピュラーな
(=人気のある)レンズであった為、マイナーチェンジが
色々と行われている場合もある。レンズの外観等からは
例えば前期型とか後期型とかは見分けが付かない場合も
ある為、レンズの発売年等の出自については、推測で
書いてある事も多いが、了承されたし。
_c0032138_11344553.jpg
さて、本ST135/2.5は、「大口径化で性能を落として
しまった典型的なレンズ」と言えよう。
この前後の時代、STやSMCT系の135/3.5のレンズが
併売されていたが、そちらはあまり酷い性能では無かった。
(SMCT135/3.5は譲渡により現在未所有につき紹介せず。
ただし後継版PENTAX-M 135/3.5は後で紹介)

1960年代でも現代でもそうだが、初級中級層は、同じ
焦点距離のレンズでも、大口径版に憧れる。
そして、それは小口径版よりも高価なので、「描写性能も
優れているものだ」と、大きな勘違いをする。

まあ、特に1960年代では、標準レンズを始め、様々な
焦点距離の交換レンズで、各社の間で「大口径化競争」が
起こった事は、色々な過去記事で解説した通りである。

開放F値の明るいレンズの方が高級レンズと見なされるので
高価に(→つまり、高付加価値型)売る事が出来るし、
自社の技術力をアピールする上でも、他社よりも少しでも
開放F値の明るいレンズを作りたい・・
本レンズも、その「大口径化競争」の一環であった事で
あろう。

でも、無理をした設計により、諸収差のオンパレードと
なっているのが本レンズである。
解像感は無いに等しいくらいに甘く、ボケ質も汚い。
まだSMC(多層コーティング)技術が出来る前の時代で
あったので、コントラストが低く、逆光耐性も弱く、
ほぼ常時フレアっぽい写りをする。(注:Kマウント
以降でのSMCレンズは、smcと小文字表記)

現代の感覚では「失格」のレンズであろう。
まあでも、1960年代といえば純粋なオールドレンズだ
(本シリーズ第57回、1960年代オールド編参照)
その時代の中では頑張っている方か? と言われると、
ここもそうでは無く、例えば同じ時代の同じ135mmの
MF望遠でも「SOLIGOR 135/3.5」の方がまだ良く写る。
(注:SOLIGOR135/3.5は、当該第57回記事で紹介の為
本記事では紹介を見送っている)

結局、開放F値が明るい事が災いしているのだと思う。
口径比が大きく(F値が小さく)なる事で、多くの収差
が何倍にも増加する。現代の最新設計の大口径レンズで
あれば、コンピューター光学設計の利用や非球面レンズ等
の新技術により、これらの収差は良く補正されているが、
この時代では全く無理だ。

撮影側で、オールドレンズにおける「弱点回避技法」を色々
と用いたとしても限界はある。ちょっと「お手上げ」という
レンズであるので、紹介もここまでにしておこう。

ちなみに本レンズは、銀塩時代に私も「大口径版が欲しい」
という理由で(汗)、SMCT135/3.5から買い換えた物
であるのだが、大失敗であった。中古価格も、オールド
にしては少々高価であったし、本レンズのコスパ評価点は、
かなりの低レベルとなっている。


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さて、3本目のシステム
_c0032138_11345426.jpg
レンズは、KONICA HEXANON (AR) 135mm/f3.5
(中古購入価格 5,000円)(以下、AR135/3.5)
カメラは、PANAONIC DMC-G1 (μ4/3機)

発売年不明、恐らくは1970年前後の時代のもの。
本レンズは「AR」銘無しの初期型である事はわかって
いるが、それ以上の詳しい情報は、もう殆ど見当たらない。

KONICA ARマウントであり「HEXANON」(ヘキサノン)
銘がついている。一部の中級マニア層では「ヘキサノンと

言ったら、名レンズなのでしょう?」と、大雑把な感覚を
持っているかも知れないが、ヘキサノンの種類はとても多く
かつ個々のレンズにより、良し悪しがあるのは当然の話だ。
_c0032138_11345404.jpg
本AR135/3.5に関しては逆光耐性のとても低いレンズであり、
この弱点を逆用すると、発生する強いゴーストにより
「仮想の虹」のような描写が得られる。
(注:今回の記事では、その用法(技法)は行っていない、
本シリーズ第34回KONICA HEXANON AR編では虹写真を掲載)

「虹」については本シリーズ第57回1960年代オールド編でも、
MINOLTA AUTO ROKKOR-PF 58mm/f1.4が本レンズ同様に
「仮想の虹」を発生させる事が可能であったのだが、
逆光耐性が低い(低すぎる)レンズであっても、この特徴が
あれば、使っていて楽しくなるので、エンジョイ度は高まる。


ただまあ、弱点を逆用するというのも、かなり捻くれた
使い方だ、普通に良く写ってくれる方が勿論望ましい。
幸い、本AR135/3.5は解像感はあまり低く無いレンズで
あるので、光線状況に留意してゴースト/フレアや、「虹」
を発生させないようにして使うのが基本であろう。

本レンズも、やはり「古すぎる」レンズである。
ここのところ他の記事でも良く述べているが、やはり
「レンズ寿命50年間説」は概ね正しいのではなかろうか?
現代、2020年代では、もはや1970年より古いレンズは、
例え壊れずに、ちゃんと動作していたとしても、描写性能
的には現代レンズに大きく見劣りし、使いたく無くなって
しまう訳だ。
本レンズAR135/3.5の紹介も、早々に終了しよう。

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さて、4本目の135mmレンズ
_c0032138_11345401.jpg
レンズは、FUJIFIM FUJINON T 135mm/f3.5
(中古購入価格 3,000円)(以下、FUJI135/3.5)
カメラは、FUJIFILM X-T1 (APS-C機)

ミラーレス・マニアックス第73回記事以来、数年ぶりの
登場となる、1970年代前半のFUJICA STシリーズ用の、
絞り込み測光方式MF望遠レンズ、M42マウントである。

【重要な注意点】であるが、この時代(1970年前後)、
M42マウントは、ユニバーサル(=汎用性のある)マウント
として国内外の多くのメーカーが採用していたマウントだが、

「開放測光」や「絞り優先AE」の市場ニーズが起こっていた。

ところが、M42マウントのままでは、これらの機能を搭載
するのが難しい。最大の課題は、M42は、ねじ込み式マウント
であったので、レンズが最終的に固定される角度が厳密には
決まらない、だからレンズとカメラの機械的な連動が困難な
訳である。
(参考だが、レンズとカメラの角度が定まらない、という
事は逆に言えば、「アバウトでも良い」という事になり、
工作精度の怪しい海外製レンズとか、あるいはネジ部が磨耗
してしまったレンズ等も、なんとか装着ができる可能性が
ある事は、M42の長所となる)

で、上記の「機械連動」を実現する為に、M42陣営の各社
(例:PENTAX、OLYMPUS、FUJIFILM等)は、M42を独自に
改良し、「開放測光」や「絞り優先AE」に対応しようとした。

これらの「M42改」マウントのレンズ群(例:PENTAXでは
1970年代以降のSMC銘、OLYMPUSではFTL一眼レフ専用レンズ
FUJIFILMではEBC銘のレンズ=STマウント)については、
M42マウントと形状的に酷似してはいるが、メーカー間を
超えて装着しようとした際、「レンズが嵌らない」あるいは
「外れない」等の深刻な状況に陥る危険性がある。
(実際にやってしまった事がある・汗)

この為、現代において、これら「M42改」レンズを使う際は、
必ず、ミラーレス機用のM42マウントアダプターを用いて
ミラーレス機に装着する事が望ましい(注:一眼レフ用の
M42アダプターは危険性あり)、これであれば万が一外れなく
なった場合でも、アダプターが1個犠牲になるだけで済む。

で、FUJIFILM製、STシリーズ用レンズに関して言えば、
EBC銘がついていない初期型は、まあ、M42互換性がある。
EBC銘有りの後期型(概ね1972年頃~1979年頃)の
場合は、マウントアダプター必須とする事が安全だ。

なお、これ以降の時代(1979年頃~1985年頃)には、
FUJIFILMはM42方式を諦め、独自のバヨネットマウントの
「Xマウント」(注:銀塩MF一眼レフAXシリーズ専用。
勿論、2012年からの同社製ミラーレス機Xシリーズ用の
「Xマウント」との互換性は無い)となっている。
_c0032138_11345431.jpg
さて本レンズであるが、FUJIFILMの銀塩35mm判一眼レフ
用の「交換レンズ」としては、最初期の製品群の1つだ。
FUJIFILMは、それ以前の1950年代頃から、色々とカメラ
製品を発売しているが、殆どがレンズ固定式だと思う。
中判機でのレンズ交換式カメラの発売が1960年代末頃、
本レンズの数年前の時代だと思われる。

古い、とは言えるが、大きな描写性能上の不満は、幸いに
して無い。まあこの時代の、各社での5枚前後のシンプル
なレンズ構成による(中)望遠レンズの設計は、さほど
大きな描写力的な弱点は起こり得ないのであろう。

性能上の弱点は、まず最短撮影距離が1.5mと長目であり、
焦点距離の10倍則(135mmレンズでは1.35m)を
満たしていない。ただ、これは当時の他社135mmも、
多くの場合で同様である。
また、多層コーティングでは無い事で、逆光耐性が
低いので光線状況には留意して撮影を行う必要がある。

まあ、数年後のEBC(Electron Beam Coating)銘の
レンズは多層(マルチ)コートにはなっているのだが、
前述のように、殆どが「M42改」マウントになってしまった
ので、性能を取るか安全性(互換性)を取るかの選択だ。

でもまあ価格的には、現代では殆どのこの時代のFUJINON
は「ジャンク相場」での取引となるだろうから安価である。
値段の差よりも、仕様の差に注意するのが望ましい。
なお、あえて単層コートの旧型をチョイスするのも安全性
のみならず、単層と多層の性能差を確認する意味(研究)
でもありだろう。

現代での一般的な使用目的においては、勿論、何も実用
価値は無い事であろう・・ 

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では、5本目の135mmレンズ
_c0032138_11350432.jpg
レンズは、smc PENTAX-M 135mm/f3.5
(中古購入価格 4,000円)(以下、M135/3.5)
カメラは、PANASONIC GMC-GX7 (μ4/3機)

1970年代後半でのPENTAX Mシリーズの発売に合わせて
小型化されたMF望遠レンズ、PENTAX Kマウントである。

少し前述した「M42改マウント問題」(=本来、汎用的で
各社互換性があった筈のM42を、開放測光やAE実現の為に、
各社では、独自規格のM42改マウントに走ってしまった)
において、国内のM42の旗手であったPENTAXは、ついに
1975年にM42(改)を諦め、独自のバヨネット式の
「Kマウント」に改めた。(1975年、K2,KM,KX発売)

しかし、これらの「Kシリーズ」は短命に終わった。
(内、PENTAX K2については、かなり初期の本ブログで
紹介していたと思うが、その後、譲渡により現在未所有)

短命となった理由は、1972年にOLYMPUS M-1(後にOM-1)
が発売され、これは当時、世界最小・最軽量の一眼レフで
あったからだ。
PENTAXはこの小型化路線にモロに対抗、4年の歳月をかけ
カメラの小型化、および交換レンズ群の小型化を完了すると
1976年にOM-1を僅かに下回る、当時世界最小の一眼レフ
PENTAX MX(現在未所有)を発売。
この「Mシリーズ」用に小型軽量化された交換レンズ群が
(smc)PENAX-M銘(通称Mレンズ)のレンズである。

以下参考。K2等のKシリーズ用に発売された、M42マウント
をKマウントに改めたレンズ群には「M」のような固有の
型番名がつけられていない、そこで便宜上、これらを
「P」または「K」レンズと、マニア間や中古市場では
呼んでいる。しかしながら、P(K)レンズも短命であり、
流通量はさほど多くは無い。

なお、P(K)レンズの多くは、旧来のSMC TAKUMAR銘の
M42レンズのマウント変更をしただけのものであるが、
Mレンズにおいては、小型化に際して、また、十分な
開発期間(およそ4年間)があったからか、あるいは、
絞り優先等の電気(電子)化の変更点があったからか、
M42時代とはレンズ構成を変更しているものも多い。

本M135/3.5も、M42時代の同スペックのSMCT135/3.5
からは、4群4枚→5群5枚の設計変更が行われている。

まあ、前述のSuper-Takumar 135/2.5との差異においては
開放F値が暗く、小型化されたという点よりも、描写力の
改善が雲泥の差である。この理由はsmcコーティング化
された事よりも、レンズ設計技術、あるいはガラス素材
の進化があると思われる。10数年も時代が異なれば、
技術も変わるし、世情やニーズも変わるという事であろう。
_c0032138_11350491.jpg
本レンズは小型化はされているが、むしろ、ずっしりと
重く感じるレンズである。旧型よりレンズ構成が増えて
いる点もあるかもしれないが、何と言うか「凝縮感」がある。

描写力は普通で、可も無く不可も無し。まあでもやっと
この時代から「普通」と呼べる135mmが発売されて来た
とも言え、それ以前の時代の135mmレンズは実用性能に
満たないものも多々あった。
「ボケ質破綻」が若干出るが、まあ適宜回避して用いれば
良いであろう。

最短撮影距離は1.5mと、本レンズも他と同様にやや長目。
ちなみに、近代の135mm単焦点レンズでは最短撮影距離が
70cm台~80cm台のものも数機種存在する為、それらの
新鋭レンズと比べると「寄れない」という不満が出て
くるかも知れない。

撮影倍率上の不満の解消については、APS-C機やμ4/3機
を用い、さらにデジタル拡大機能等を併用すれば、ほぼ
気にならなくなるであろう。ただし勿論、この場合でも
最短撮影距離は1.5mと変化しないので、被写体に物理的
に寄れない点は変わらない。

寄れない、という弱点は「撮影アングルの自由度が減る」
という事と等価であり、これ以上、最短撮影距離が長く
なってしまうと、草花や人物等の被写体においては、
真横から水平のレベル(=高さ)でしか撮れない。
つまり、最短撮影距離が長いと、上から見下ろす、下から
見上げる、という撮影アングルが実現できなくなる訳だ。

ちなみにズームレンズの多くは、「焦点距離の10倍則」
を満たさない事が多く、この点もまた、私が単焦点レンズ
に優位性を感じ、そちらを主体としている理由にもなる。

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では、6本目の135mmレンズ
_c0032138_11350484.jpg
レンズは、Jupiter-37A (135mm/f3.5)
(中古購入価格 8,000円)
カメラは、SONY α7 (フルサイズ機)

本シリーズ第4回「ロシアンレンズ編」等で紹介の、
恐らくは1960~1980年代頃に生産されていたと
思われるロシアン(旧ソ連製)レンズだ。

M42マウント仕様、このレンズの個体に関しては
比較的製造精度は高いと思われ、M42マウントアダプター
で使う上では課題を感じない。
ロシア製レンズでは製造精度に課題があったり、個体差に
よりバラつくケースが多い(【注意】同じ機種のレンズでも
個々の製品によって微妙に異なり、カメラに装着できたり
できなかったり、外れなくなったりするので要注意だ)

個体差がある原因の1つとして、当時のソビエト連邦は
共産圏であった為、「メーカー」という概念が無く、
レンズは、いくつかの「国営工場」で分散して製造されて
いた、という状況もあるかも知れない。
だから、同じ型番でも、作られた場所(工場)が異なる
可能性も無きにしもあらず、という推測であるが・・
まあ当時の東側諸国での情報は、勿論、そう簡単には
わからないので、あくまで推測のレベルである。

ともかく、ロシアンレンズの使用には様々な注意が
必要である。毎回のロシアンレンズの紹介記事で述べて
いる事ではあるが、初級中級層には全く推奨できず、
マニア層、しかも中上級マニアの専用、御用達であろう。
_c0032138_11350564.jpg
本レンズの元となった設計は、戦前(1930年代)の
Carl Zeiss Jena(イエナ)のSonnar(ゾナー)で
あった可能性が高く、そうであれば、今から80年以上
も前の、古(いにしえ)の設計であり、現代において、
このレンズの性能をとやかく言う方が的外れであろう。

前述のPENTAXのST135/2.5から、M135/3.5の例では、
わずか10数年で設計技術は雲泥の差となっている。

最新鋭の135mm単焦点、例えば、
SIGMA Art 135mm/F1.8(2017年、本シリーズ第12回)
と描写性能を比較すると、それこそ笑ってしまう位に
差があるのだが、まあそれでも、以下の3つの解釈は
できるであろう。

1)80年もの時代の差があるのに、「写真を撮る」という
 行為に関しては、意外に差は少ない。

 他の製品分野で80年の技術進歩は、例えば「車が空を飛ぶ」
 くらいの差があってしかるべきなのに、80年前の設計でも、
 レンズはレンズだ、どちらでも写真は撮れる。

2)最新の重厚長大で三重苦の135mmレンズに比べて、
 ずっとコンパクトでハンドリング性能に優れ、価格も安価だ。

3)昔の設計であれば弱点があるのは当たり前、
 問題はそれをどう解釈するか、そこには2つの方法論がある。
 3A:レンズの弱点を分析し、その弱点が起こらないように
  (つまり、ちゃんとした写真になるように)、上手に
   使いこなす。
 3B:レンズの描写力上の弱点を、あえて強調し、現代の
   高性能レンズでは得られない、独特の描写を得る。

という事なのだが、なお、3A/3Bの方法論は、いずれも
非常に高いスキル(知識、経験、技能)を要求される
高難易度の内容となる。初級中級層には手に負えない事も、
こうしたロシアン、あるいはオールドレンズを、あまり
推奨しない理由となっている。

スキルを持たない初級中級層が、ロシアンやオールドレンズ
および、近年の海外製ジェネリック・レンズ(=中国製等の
安価なミラーレス機用等のMF交換レンズ群であり、過去の
名レンズの設計を、ほぼそのまま小型化して再利用している)
・・を使った場合、殆どの場合は「レンズの言うがまま」に
撮ってしまう事となる。それらのレンズは当然、設計が古い
が故の弱点を抱えているので、描写力の低い写真が大量に
撮れてしまう事となり、たまに良い写りの写真が撮れても
それは偶然に過ぎない。
_c0032138_11351446.jpg
繰り返すが、これらのクセのあるレンズを使いこなすには
A)弱点を理解して、それを技能で回避して使う→Hi-Fi志向
B)弱点を理解して、それを技能で強調して使う→Lo-Fi志向
の、いずれかしか有り得ない。
レンズの言うがままでは「アンコントローラブル」なのだ。

ちなみに、こうした類のレンズの描写傾向(描写力)等に
ついては、他者による評価内容は参考にしてはならない。
何故ならば、評価者個々によるスキルや写真の目的・用途や
価値感の差異が大きすぎるからだ。
だから、例えばビギナー層が、たまたまこうしたレンズ群を
使って「良く写る」や「酷い写りだ」等と言ったところで、
あくまでそれは偶然による結果の1つだ。

結局のところ、レンズの評価は利用者(ユーザー)個々で
自分の為に行うしか無い、ここは鉄則であろう。
また、撮影スキルが向上すれば、レンズの評価も変わる
可能性も高い。具体的には、ビギナーの時は、難しすぎて
上手く撮れなかったレンズが、中上級レベルにステップ
アップしたら、その難しさをコントロールする事が、
楽しく、面白く、興味深く思えてくる場合もあるからだ。

これはレンズやカメラに限らず、スポーツカーとかスポーツ
バイク、あるいは様々なスポーツ競技等で使う道具とか、
文具や楽器、ゲームやソフトウェア等、あらゆる市場分野
でも同様な事が言えるであろう。
だから「ビギナーだから、使いこなしは無理」と断定は
せず、「難しい機材や道具を買って、それを使いこなす
ように修練を行う」という方法論は十分に有りだ。
けど、その場合も、「これは難しい道具だ、使いこなす
為には練習や勉強が必要なのだ」という意識や向上心を
ユーザー自身が持っていなくては何の意味も無い。

それがなければ、全ての趣味(あるいは業務分野も同じ)
での「行い」は、単なる「習い事」になってしまう。
趣味分野の志向性において「習い事」で満足する事は、
完全に無意味だ、やるならば中途半端や受動的なスタンス
(例:誰かが教えてくれるだろう、という考え方)は
きっぱり捨てて、自分自身でその道を極めていく必要がある。

ロシアンレンズは色々とやっかいな難しい機材ではあるが、
もし、それに興味を持ち、徹底的に極めてみたい、と思う
のであれば、初級中級層がこれらを使うのも反対はしない。
あれこれと「ケガ」をするかも知れないが、それも経験だ、
知的好奇心を持たなければ「趣味」は成り立たない。

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さて、今回ラストの135mmシステム
_c0032138_11351409.jpg
レンズは、OLYMPUS OM-SYSTEM E.ZUIKO AUTO-T

135mm/f3.5
(ジャンク購入価格 2,800円)(以下、OM135/3.5)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)

発売年不明、恐らくは1970年代と思われる、小型軽量の
MF望遠レンズ。OMマウントである。

今回、本記事前編で7本、続く後編で6本の135mm単焦点
レンズを紹介するが、後編に予定している一部の1980年代
135mmを除き、その他の1960~1970年代レンズは、
どれも似たり寄ったりの仕様、性能や描写力で、少々
記事を書くのも飽きが来てしまっている(汗)

似たり寄ったりでも、どれも高性能(高描写力)であれば
いくらでも書く気は起こるが、どれも低性能、特に1960
年代オールドでは「実用には満たない性能」ともなると、
試写も写真選別・編集も、ちょっとやる気も出にくい。
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時代の差による技術背景の差はさておき、何故各社の
同時代のレンズの性能や描写力が同等になるのか・・?
という点であるが、これには明確な市場的な理由がある。

この時代(1960年代~1980年代)の各社銀塩一眼レフは
50mm標準レンズとのセットで発売される事が一般的だ。
まあ、大半のユーザーは、それで終わりだ、それ以上
レンズを買い揃える事はしない。

そして、50mm標準レンズの性能がもし悪かったら、
市場では悪評判が立つ、すなわち利用者からは、
利「A社のカメラを使っているが、こないだ借りたB社
  のカメラの方が良く写った。A社はダメだ、オレも
  B社のカメラに買い換えよう」
といった感じである。

まあ、銀塩一眼レフであるから、言い方は悪いが、カメラは
「ただの箱」である。描写力は、ほぼ、装着レンズの性能と
フィルムの性能で決まり、銀塩一眼レフ本体の性能差異は
さほど写真の出来に影響しないのではあるが、当時のユーザー
層には(まあ、今でもか)カメラ本体の事ばかりを意識し、
レンズの事には、さっぱり考えが廻っていない(これはまあ、
「交換レンズに関する知識が皆無である」という事だろう)

・・ともかく、キット(セット)レンズである標準レンズの
性能が劣っていると、そのメーカーのカメラは売れなくなって
しまうのだ。だから各社とも、標準レンズの性能向上に
凌ぎを削り、この結果1960年代から1970年代にかけ、
各社標準レンズの性能は大幅に向上し、各社とも同レベル
の性能水準に落ち着いた他、その設計もまた完成に近づき、
そこからおよそ40年も経過した2010年代に至るまで、
各メーカーは、この銀塩時代の光学設計をそのまま利用した
50mmレンズを(AF化等を行い)販売継続する状況であった。

さすがに2010年代は、レンズ市場が縮退しているので、
昔のままの設計の標準レンズを、いつまでも安価に売り
続ける事は厳しい。だから現代的な新設計の標準レンズに
リニューアルし、それまでの3~6倍も高価に売る道を
選んだ訳だ。

話の主旨がそれて来たので、本題に戻そう。
カメラに付属の50mm標準レンズの描写性能に満足した
1970年代ユーザーの一部は
ユ「せっかく一眼レフを買ったならば、交換レンズが欲しい、
  とりあえずは、広角も望遠も揃えたいな」
と思う事であろう。まあ、まっとうな考えだ。50mmだけで
終わってしまうならば、一眼レフを買う意味も無く、当時
から存在していたレンズ固定式の銀塩コンパクトカメラで
あっても十分であるからだ。それらのコンパクト機は安価
だが、レンズの設計次第では、一眼レフと同等以上の
描写力を持つものも中には存在している。

で、交換レンズを買う場合に、1970年代当時の感覚で
言えば、広角=28mmレンズ、望遠=135mmレンズ を
買う事が第一目標であろう。勿論、他にも色々と異なる
焦点距離や仕様を持つレンズは存在するが、交換レンズは
高価なので(メーカーが利益を得る為の商品であるからだ)
そういっぺんに購入する事は難しい。

しかも1970年代と言えば、その10年間で物価が3倍にも
上がった「狂乱物価の時代」でもある。当時の主婦たちが
「トイレットペーパーを買い占める」状況で、お父さんが
高価なレンズを買っていたら、家庭内問題にも発展する(汗)

まあ、28mmと135mmは、さほど高価な類の交換レンズ
では無い。何故ならば、当時のカメラユーザー層の殆どが、
その2本のレンズをまず欲しがる為に、販売数が多くなり
開発や製造にかかる原価の償却がしやすいからである。

当時の(今時もそうだが)ユーザーは、「高価なレンズは
贅沢な部品をふんだんに使っていて高性能だから高価なのだ」
と大きな勘違いをしているケースが大半だが、それについては
何故、この時代に日本が世界的に発展してきたか? を良く
考えてみれば、誤解だとわかるだろう。当時の「工業立国」
である日本は、生産の効率化で、高品質で安価な製品を
世界中に輸出して成長した訳だ、別に「安かろう、悪かろう」
の製品を作っていた訳では無い。

つまり、高価格な製品(交換レンズも同様)は、開発や
製造に時間や手間や費用がかかってしまい、かつ販売数も
少ないから、どうしても割高になってしまうのだ。
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さて、また余談が長くなった、28mmや135mmは、良く
売れる交換レンズである、だからここでもまた、同じ競争
原理が発生する。例えば、あるユーザーが

ユ「OLYMPUSの望遠レンズを買ったら、他社の望遠より
  写りが悪いや、困ったなあ・・ OM、買い換えるか?」
などの状況になりかねない。よって、ここでも50mm標準と
同様に、各社、開発競争が起こり、他社製の同等仕様の
レンズに性能や描写力で負ける訳には行かなくなる。

まあ、そんな状況であるので、必然的に各社の同時代の
同等仕様の(良く売れる)交換レンズの性能は、横並びで
同等になるという原理だ。

けど、本OM135/3.5に限って言えば、別の性能要素が
存在する。それは「小型軽量である」という長所だ。

実は、銀塩時代に私は、OM135/2.8を使っていたが、
(追記:いったん手放したが、近年、再購入した)
僅か半段の開放F値の差で、ずいぶんと小型軽量と
なった事には少々驚いた。そして、さらに驚いた事は、
この、OM135での組み合わせに限らず、ではあるが、
「開放F値が暗いレンズは低性能だ」と思い込んでいたのが
まるっきりの誤解である事に気づいたのだ。

以降、私は、同じメーカーの同じ焦点距離のレンズでも
開放F値の差で重複して購入する事を厭わなくなった。
そして、大抵の場合、開放F値の暗いレンズの方が
高描写力である事が確認できると、
大口径レンズは、暗い場所や背景をボカしたい時に使い、
小口径レンズは、気軽に持ち出し、高描写力で撮りたい
場合に使う。
・・と明白に両者を使い分けるようになっていく。

開放F値が明るいレンズでは諸収差が大きく出る事も
沢山のレンズの試写から、良く理解できるようになった。
今ではもう、開放F値の暗いレンズも大歓迎、であるし、
同じ時代の同じ焦点距離の開放F値違いレンズの重複購入も、
「全く問題無し」となっている。 

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では、今回の「135mmオールド単焦点(前編)」は、
このあたり迄で。次回後編記事に続く。


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