本シリーズでは、写真撮影に係わる用語のうち、
主に本ブログの範囲でのみ使われたり、あまり一般的
では無い専門用語を解説している。
なお、副題【玄人専科】の意味だが、上級者又は上級マニア
層を対象とした記事であり、内容が専門的になるケースも
あるので、「一般層向けでは無い」という事である。
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今回第3回目は、システム編Part3という事で
カメラやレンズ関連の用語をとりあげる。
<機器・システム> Part 3
★超マクロレンズ
やや独自用語。
中国製「中一光学 Free Walker 20mm/F2」は
撮影倍率が4~4.5倍と高い「超マクロレンズ」だ。
(詳細後日紹介予定、下写真)
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これをμ4/3機で用いると、最大9倍程度と、まるで
顕微鏡のような拡大性能になる。
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まあ、それもそのはず、このレンズの基本設計は
OLYMPUSが1970年代にOMシステムで(得意の)医療分野
向けに発売した特殊マクロレンズの設計を元にしている。
そのOM20/2は、本体のみで4.2倍、ベローズ併用で13.6倍
もの撮影倍率となった(Freewalker20/2と、ほぼ同じ)
また、その「マクロに強いOLYMPUS」では、近年の
M.Zuiko Digital ED 30mm/F3.5 Macroにおいて等倍
(1倍)を超える1.25倍のスペックを搭載。μ4/3機専用
なので、フルサイズ換算撮影倍率は2.5倍に到達する。
(後日紹介予定、下写真)
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また、近年知名度を上げている特殊仕様の交換レンズを
色々販売する中国「LAOWA」からも、最大2倍の撮影倍率
を持つMFマクロレンズが発売されている(未所有)
それから、CANONでもミラーレス機EOS Mシリーズ用
EF-M 28mm/F3.5 Macro IS STM が、1.2倍の撮影倍率
となっている(未所有)
他にもいくつかあるが、これら等倍を超えるレンズを
本ブログでは「超マクロレンズ」と呼んでいる。
なお、撮影倍率が4倍とか、あまりに高くなると、強い
「露出倍数」がかかり、シャッター速度が下がったりする、
それを防ぐ為、日中の明所でもISO感度を3200程度以上に
高める等が必要になったり、絞りを開けると被写界深度が
紙のように薄く、殆どピントが合わなくなる。
屋外でのFree Walker20/2による8倍撮影の実験結果では
1%以下の歩留まり(成功率)しか無い。
すなわち、これらは室内での学術系用途の専用レンズだ。
屋外においては、まず使えず、1.2倍程度ならばともかく、
それ以上の「超マクロレンズ」は、一般屋外撮影には
全く推奨ができない。
★ローリングシャッター歪み
やや専門的な一般用語。
CMOSセンサー等の撮像素子では、全ての画素が同時に
読み出されるのではなく、1行(列)毎に順番に
読み出されていく(=ライン(露光)順次読み出し方式)
この為、ある程度の速さで動く被写体(電車や車両など)
では(電子)シャッターが開いている間に、画像の
上の方と下では時間差が出来てしまい、被写体が歪んで
写ってしまう、これを「ローリングシャッター歪み」や
「フォーカルプレーン歪み」「動体歪み」と一般に呼ぶ。
(注:業界毎に呼び名が異なり、統一されていない)
電子シャッターしか無いトイカメラ、一部の監視カメラ、
一部のカメラの動画モード、また、カメラを電子シャッター
モードとした場合等で、この現象が発生しやすい。
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構造的な対策としては、まず機械式シャッターで、バシャリと
全画素を、ある一瞬で止めてしまえば、この現象は
起こらなくなる。あるいは電子式動作であっても、
機械式シャッターと同様に全ての画素を同時に露光すれば
良い。厳密には両者の構造は若干異なるのだが、カメラの
内部がどんな構造になっているかは一般に非公開なので
両者の効能だけを見て「グローバル・シャッター方式」と
一般的には言われる事がある(注:これも業界毎等で
呼び方が異なる、今回の用語は特にCCTV業界での話だ)
すなわち「グローバル・シャッター方式」では動体を
撮影しても歪むことは無い。
ローリングシャッター歪みは、起こらない事が望ましいが、
ただし「写真表現的」には、露光中にわざとカメラを
ブラす(廻す)等して「静止被写体を曲げて写す」等、
その弱点を逆用した特殊な撮影テクニックも存在する。
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★高倍率ズーム
一般用語だが、とても誤解されやすい用語だ。
本ブログではこの用語から派生する「ズーム倍率」を
使う事は非推奨としている。
これは一般に「ズーム比」が大きいレンズを指す。
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上の写真用交換レンズは、18-270mmの焦点距離を持つが、
この時のズーム比は望遠端の270mmを広角端の18mmで
割る事で、15と求まる。
単位はmmをmmで割るので相殺される、つまり単位の無い
「無名数」である。数学や工学分野では、当たり前の
ように用いられる表記法ではあるが、一般ユーザーには
単位なしの数値では意味が通り難い。
なので一部の業界では、これを「15倍」と書いてしまう。
これくらいならまだしも、あまり技術用語の正確性が
問われないコンパクト・デジカメ等の市場分野では、
例えば24mm~720mmのロングズーム機を「光学30倍」
とスペックを記載し、これにデジタル拡大機能2倍を
加えて、「合計最大60倍ズーム」等と書いてしまう。
店舗店頭では、さらに表記が曖昧となり「60倍ズーム!」
と平気で宣伝する訳だ。
他の双眼鏡とか望遠鏡、顕微鏡等の光学機器分野では、
(厳密には異なるが)だいたい「人間の視野に対して
何倍大きく見えるか」という観点で倍率が表記される。
(注:詳しくは、まず、実際の被写体のサイズに対して、
光学的に結像する虚像まだは実像の視野角との比率が倍率だ。
又は、表示装置に映る画像の、原寸との比を指す場合もあり、
あるいは無限遠被写体からの平行光線を意識した「アフォーカル
光学系」では対物レンズの焦点距離を接眼レンズの焦点距離で
割って倍率を求める等、機器によりけりで、かなりややこしい)
まあだから、そういう常識を持って、初級者が店頭に行き、
コンパクトカメラの720mm級+デジタルズーム機を
見たら、そこには60倍ズームと堂々と書かれている。
初級者「すげえ、60倍も大きく写るのか!
これは双眼鏡と言うか・・望遠鏡並みじゃん、
よし、これを買おう」
と誤解してしまう訳だ。
(注:そう思わせる為の確信犯と言えるかも知れない)
実際には「ズーム比」とは単なる望遠端と広角端の比率で
しか無い。まずデジタル拡大(ズーム)はフェアな表記
では無い為、光学ズームに限った話をするが、同じ望遠端
720mmでも、広角端が24mmであればズーム比は30、もし
広角端が18mmまで伸びれば、ズーム比は40にまで上がる。
で、ズーム比は、本来あまり重要なスペックでは無い。
(むしろ広角端、望遠端のそれぞれの焦点距離が重要だ)
そして、あまりにズーム比が大きいレンズは複雑な構成
となり、設計に無理が出て画質が低下してしまう事もある。
長い望遠側焦点距離がどうしても欲しいのであれば、
限界ぎりぎりに光学ズームを伸ばすより、高解像力仕様の
単焦点望遠を使い、それをトリミングした方が高画質に
写る場合すらあるのだ。
で、それでも「人間の視野に対して何倍大きく写るのか?」
を、どうしても気にする「ビギナー」が居るとすれば、
概算だが、望遠側の焦点距離を50mmで割ってみれば良い。
つまり720mm望遠の場合、人間の目の視野に対して
720mm÷50mm≒14.4(倍)(大きく写る)である。
まあ、それくらいの望遠でしか無い、という事である、
カメラは一般的な写真を写す為の道具だ、勿論望遠鏡の
代用にはスペック的には成り得ない。そして、人間の
目の何倍大きく写るか、等は写真的には殆ど無意味だ。
★単焦点と短焦点
一般用語だが、誤解や誤記が極めて多い。
単焦点とは、50mmとか28mmとか、画角(焦点距離)が
固定で変化しないレンズの事、ここはまあ常識だ。
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ところが、「単焦点」と記事や文章で打とうとすると、
多くの場合「短焦点」と誤変換される。
まず、この誤記がWEBやSNS等で極めて多い。
で、初級層等は、それらを読み「短焦点? 焦点距離が
短いと言う事は、つまり広角レンズという事だな?」
と、”あらぬ誤解”が広まる。
光学的には、「短焦点」とは焦点距離が短いレンズ
であり、まあ広角レンズと同義だ。ただ、カメラの
世界では「広角」と呼ぶから、この用語はカメラ以外
の分野(例:プロジェクター等)で使われる事が多い。
それから、専門用語としてもあまり一般的では無いが
「短焦点」の別の定義は一応存在する。
これは望遠レンズ等で焦点距離の長いレンズを普通に
設計してしまうと、焦点距離が長くなるにつれ、
レンズ鏡筒(or鏡胴、注:ここも両者が混在し曖昧だ)
の長さが伸びてしまう。例としては、100mm望遠で10cm
200mm望遠で20cm・・となるのだが、こういう設計では
超望遠レンズともなると、全長が長く、ハンドリング
(持ち運びやレンズを構える事)が厳しくなる。
そこで「焦点距離よりもレンズ鏡筒が短くできる」
小型望遠レンズの設計を目指す訳だが、こういう仕様の
(望遠)レンズを、まれに「短焦点」と呼ぶ訳だ。
(注:「この仕様こそが、本来の「望遠」の意味である」
という解釈もあってややこしい。その解釈の場合は、
レンズ全長と焦点距離との比を「望遠率」とも呼ぶ。
まあつまり、光学の分野は古くから発達してきた故にか、
完璧に用語が統一されていないのだ・・)
この例としては、銀塩MFのOLYMPUS OM85mm/F2や、
近年のPENTAX-DA70mm/F2.4があるだろう、これらは
望遠焦点距離だが、とてもコンパクトに設計されている。
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その逆に、広角レンズであるが、大口径化(例:28mmで
F2以下等)や、一眼レフではミラーボックスを避けて
焦点を延ばす(レトロフォーカス)「逆望遠」型の
光学系では、焦点距離(例:28mm)よりも、レンズ鏡筒
の長さが伸びる場合がある、これを「長焦点」と呼ぶ事も
稀にあるようだ。(注:ここも定義が曖昧だ)
(余談:一眼レフ用にバックフォーカスの距離(=ディスタンス)
を稼ぐ設計の広角レンズを、ツァイス社では「ディスタゴン」
と命名している)
これらの「短焦点」「長焦点」は、レンズ設計という特殊
分野で稀に使われる用語で、かつ近年では、他の誤解され難い
用語で代替する場合も多く、当然、世間一般的な用語では無い。
だから、いきなり「短焦点」などと書かれてしまうと、
「この人、昔のレンズ設計者か?」等と、別の意味での
”あらぬ誤解”をしてしまう事もあるのだ。
★レンズ構成
やや専門的な一般用語。
写真用交換レンズの性能仕様(スペック)において、
例えば、5群6枚とか、テッサー型(3群4枚)とか、
そういう風に「レンズ構成」が示されている。
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この時、「レンズが多ければ多い程良く写るのか?」
というと、単純にそういう訳でも無い。
基本的に写真用レンズは画角(焦点距離f)、明るさ(F値)
があって、それが合焦(ピントが合う)すれば良いのだが
複雑な構造の大口径ズームレンズや、望遠端と広角端との
比が大きい高倍率ズーム(前述)あるいは、近代の
高画素対応(高解像力仕様)の単焦点レンズ等では、
レンズ構成が十数枚とかに非常に複雑にならざるを得ない。
複雑な構成のレンズは光線透過率のロスや内面反射の影響が
出るため、よほどそれらに注意して設計しなくてはならない。
結局、そのレンズの設計仕様に応じて、レンズ構成は
変化する、という事だ。
複雑なレンズ構成とは全く正反対に、極めて単純な
レンズ構成も存在する、例えば1群2枚という構成だが、
これは収差を逆用した「ソフト(軟焦点)レンズ」等と
して発売されている。
(例:安原製作所 MOMO100 28mm/F6.4、下写真)
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で、レンズ構成の話だが、「同じレンズ構成であれば、
同じ写りなのか?」というと、これもそういう話では無い。
だが、例えば銀塩MF時代(1960年代~1980年代)の
50mm小口径(F1.7~F2)標準レンズ 等は、どれも
たいてい5群6枚という同じレンズ構成で、どれも
たいてい同じような描写傾向、しかも、どれもたいてい
極めて良く写り、同時代のMFの50mm/F1.4版大口径標準
(6群7枚等と若干レンズが多い)よりも良く写った程だ。
小口径MF標準レンズの、この優れた設計仕様は、
後年のAF時代(1990年代)やデジタル初期(2000年代)
に迄、引き継がれている。
例えば、キヤノン党の初級中級層が、その描写力を
「神格化」する CANON EF50mm/F1.8(Ⅰ/Ⅱ型)等が
それである。
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銀塩MF当時の、同じレンズ構成でも、微妙な設計上の差異が
あるとすれば、レンズの屈折率(曲率、パワー)や、ガラス
材質(色分散、アッベ数等)の差、レンズの配置距離(位置)
の差、レンズ瞳径(サイズ)の差、と、だいたいそれ位だ。
でも、これらが性能差に直結する事もある。
だが、もし他社の同等レンズより劣っている設計では、
写りが悪くて評判が落ちてしまい、商品にならないので、
たいてい、これらのレンズは小改良が続いて、少し時代が
経過すれば各社同等の(高い)性能に落ち着く。
銀塩MF時代の光路設計は、手計算で極めて大変であった、
手法を調べればわかると思うが、1本の光路の線を
引くたびに、三角関数(sinθ)の計算式が出てくる。
これは最低でも電卓を使わないと困難だが、
1960年代等では、まだ電卓すら普及してしなかった。
その後、1980~90年代位からはコンピューターを用いた
設計技法が主体となり、さらにはレンズ製造技術の
進歩により、優秀なコーディング(反射防止)や、ガラス
材質の進化と多様化、加えて「非球面レンズ」等を採用し
それまでオーソドックスであった、変形ダブルガウス型
(プラナー型)、トリプレット/テッサー型、等よりも
ずっと複雑なレンズ構成も設計できるようになった。
結局のところ、そのレンズの描写力を推察する上で、
「レンズ構成」は、あくまで参考でしか無い。
銀塩時代のレンズは、実際に買って、長く使ってみるまで
詳しい描写傾向はわからないし、近代レンズにおいては、
ほとんどは、そのレンズの「設計コンセプト」に依存
する事であろう。つまり、大口径を求めるのか、高解像力
を求めるのか、ボケ質を良くするのか、そういう様々な
設計思想が、レンズの特徴に直接効いてくる。
が、F0.95等の超大口径レンズでは、開放近くでの収差や
ハロなどが多く、甘い描写になりやすいし。
高解像力型のレンズは、花や人物などを撮る際に、
カリカリの描写で、むしろ好ましく無い場合もある。
これは、1つは設計コンセプトにおいて、レンズに求める、
どの性能を優先させるか?という事であり、
(注:正確には「どの収差を主に補正するのか?」)
何かを優先すれば、別の何かが犠牲になってもやむを得ない。
全ての性能を高める事を目標としたレンズもあるが、
それは非常に大きく、重く、高価になってしまうという
別の問題点も発生してしまう。
もう1つは、そのユーザーが、レンズに何を求めるか?
という点にも大きく係わる。海外旅行等で描写力よりも、
ともかく小型軽量の物が必要なケースもあるだろう。
それ以上は、いちいち上げないが、様々なユーザーニーズが
存在し、それに合わせて必要なレンズが変わってくる事も
確かである。
だから、まず「何を、どう撮りたいのか?」というニーズ
そして「その目的には、どのレンズが向いているのか?」
という両面からのアプローチが、レンズ購入の際の
必須検討項目となる。
「レンズ構成のスペックを見て買う」などの単純な話
では無い事は、言うまでも無い。
★アポクロマート
やや専門的で、やや定義が曖昧な一般用語。
元々は100年以上も前の、カール・ツァイス社の研究所長
エルンスト・アッベ氏(学者兼技師、光学ガラスの色分散
仕様の「アッベ数」に名を残す)が顕微鏡用に色収差を
補正する技術として考案、命名したのだが、後年では、
その定義が曖昧になってしまっている模様だ。
まず、色は3原色で表される。光の3原色は、
R(赤),G(緑),B(青)であり、これらを混ぜると
白くなる。絵の具では色を混ぜると暗くなるが、光では
明るくなるので逆だ。
で、R,G,Bは、それぞれ波長が異なる、加えて屈折率
も異なる為、例えばプリズムに白色光を入射すると
7色に分割されるし、虹もまた同様な原理で発生する。
だが、写真用レンズで、この色による屈折の差が出て
しまうと、極端に言えば、白い被写体を撮影しているのに
輪郭の周囲等に、赤や青の色が滲んで見えてしまう。
これが「色収差」(いろしゅうさ/しきしゅうさ、と曖昧。
また軸上色収差と倍率色収差があって、少々だが難解だ)
であり、なんとかこれを防がないと写真画質が悪くなる。
で、RGBのうち(注:厳密には、RGBとざっくりではなく、
特定の波長を指して、C線、d線、F線などがある)
・・この内2つの色を同じ屈折になるように補正した物が、
「アクロマート」と呼ばれ、これは、屈折率等の異なる
2種類の光学ガラス(クラウン、フリント等)を用いた
凸レンズと凹レンズを組み合わせるというシンプルな
構造(ダブレット)であるがゆえ、比較的古くから
望遠鏡や顕微鏡の対物レンズにおいて発達し、戦後とか
での国内製品でも多くの採用例がある一般的な技術だ。
1970年代前後ともなると、「異常(低)分散レンズ」
(ED,LD等と呼ばれる)や「蛍石レンズ」(フローライト、
Fレンズ等と呼ばれる)といったガラス素材の技術発展に
より、これらを使用し、2色ではなく3色で、より高性能に
色収差を補正できるようになってきており、これらを
「アクロマートより性能が良いアポクロマート」と
呼ばれるようになってきた。
だが、このあたりで、何がアクロマートで、何が
アポクロマートであるかの定義が曖昧となり、さらに
後年では、スーパーアクロマートとか言った製品も
あって、もう用語定義は収拾不能になっている模様だ。
写真用交換レンズの仕様表記においては、アポクロマート
では、長くて意味もわかりにくいので、一般に「アポ」
(APO)と省略して呼ばれる事がある。
1990年代前後でのSIGMA製望遠レンズでは「APO」仕様
となっているものが、通常品と併売されていて、若干
高価な高性能レンズであった。
他社ではMINOLTAのAF望遠レンズにもAPO銘が記され、
さらには「フォクトレンダー」(旧:西独、現:コシナ)
の「アポランター」(Apo-Lanthar)も著名であろう。
これは古くは1950年代以前の「ランター」というレンズ
商品名だったのだが、1951年にアポクロマート化して、
Apo-Lantharとなった。
このレンズがどこまで(軸上)色収差を補正していたのか
現代に至っては、もう情報が少なく不明ではあるが、
高性能で、当時は非常に評判が良かったという資料もある。
その後、1999年にコシナ社が、(宙に浮いていた)
「フォクトレンダー」のブランド商標を取得し、
この「アポランター」銘を復活する。
2000年代には、一眼レフ用(一部レンジ機用)交換
レンズとして、「アポランター90mm/F3.5(SL)」
(ミラーレス名玉編第4回記事、総合5位等)や
「マクロ・アポランター125mm/F2.5SL」
(ミラーレス第23回記事等で紹介、下写真)が発売された。
![c0032138_20120715.jpg]()
さらにコシナは、2017年には、
「マクロ・アポランター65mm/F2」を発売する。
(詳細後日紹介予定、下写真)
![c0032138_20120834.jpg]()
コシナ製の「アポ」系のレンズでは、2000年代の物は、
「RGBの3色を補正していますよ」とばかり、赤緑青の
3色ラインがレンズ前部に描かれている。
また、2017年のマクロ・アポランターでは、赤緑青の
ワンポイントのデザインが描かれるようになった。
実際の「アポクロマート」の定義は現代となっては
曖昧であり、また、現代では新ガラス素材の他、非球面
レンズや複合非球面などの様々な新技術が生まれていて、
結局、どのような補正技術が用いられているのかは、各々
のレンズによりけりであったりで詳細が不明ではあるが、
現代のコシナ社のアポランター銘の数種類のレンズは、
どれも高い描写力を持つ事は確かだ。
まあ、それ故に、取得した商標を「アポランター」という
名称での強力なブランドイメージ戦略を行おうとしている
のだ、と思われる。
つまり「アポランターは高性能の高級品だ」という
付加価値戦略であり、事実、2000年代のアポランターは
比較的安価であったのが「マクロ・アポランター65/2」
は、発売時定価が12万円(+税)と、結構な高額商品と
なってしまったのは、少々残念な話だ。
(注:2018年には、さらにマクロ・アポランター110/2.5
が参考出品されている)
★アポダイゼーション
やや専門的な一般用語。
ミラーレス・マニアックス第17回、特集APD vs STF
や、LAOWA 105mm/F2の紹介記事、あるいはもっと古い
記事でも何度か紹介したので、内容的に重複する為、
今回は簡潔に述べておく。
![c0032138_20120703.jpg]()
アポダイゼーション・光学エレメントはグラデーション
状に周辺が暗くなる特殊ガラスユニットで、これを
レンズ内に配置すると、結果的に、ボケ質が極めて
良好となる。
この原理は古くから知られてはいたが、実際に写真用
レンズとしての発売は稀であり、一般的なものでは
以下の4機種しか存在しない。
1998年 MINOLTA STF 135mm/F2.8[T4.5]
α(Aマウント)用フルサイズ対応MFレンズ
(注:2006年にSONY版として引き継がれている)
2014年 FUJIFILM XF56mm/F1.2R APD (T1.7)
FUJI XマウントAPS-C機専用AFレンズ
2016年 LAOWA 105mm/F2 Bokeh Dreamer (T2.8)
各社一眼レフ、ミラーレス機マウント用
フルサイズ対応MFレンズ
2017年 SONY FE100mm/F2.8 STF(T5.6) GM OSS
SONY α(E)マウント用フルサイズ対応AFレンズ
これ以外にも海外製で、アポダイゼーション交換型
レンズが試作されていた模様だが、発売されたかどうか
は不明だ。まあ、いずれにしても極めて珍しいレンズだ。
これらは新品定価ベースで中国製のLAOWAが10万円程、
他は20万円前後と、かなり高価なレンズである。
アポダイゼーションを入れただけで部品代が大幅に高く
なる筈も無いのだが、開発経費の減価償却(注:あまり
本数が出ないので、1本のレンズあたりは高額となる)が
乗ってきている厳しい状態だ。
高価な故に、ユーザー数も少ない。
そして実際に使うシーンもあまり多くは無い。
![c0032138_20120738.jpg]()
まあ、人物撮影に最も向くレンズだとは思うが、
ポートレートにはやや望遠すぎる仕様のものも多く、
勿論ズーム仕様でもない。
2本はMFレンズであり、業務用途では使い難いだろうし
FUJI XF56/1.2APDのAFは精度も速度も低い。
各レンズの開放F値は、F2.8以下と悪く無いが、
アポダイゼーション光学エレメントは、グラデーションで
通す光が減ってしまう為、実際の明るさは、F値ではなく
実効F値である「T値」で表される。
初代のMINOLTA STFはちゃんと[T4.5]と書かれているが
後年のものは、T値表記は省略される事が多い。
あまりこれが低いと、初級中級層が「暗くて低性能な
レンズである」と敬遠する恐れもあるからだろう。
まあでも、屋外で使うのであれば、T値が若干低くても
(T4.5やT5.6であっても)あまり問題無い。
銀塩時代は、T4.5となると、室内等の暗所では厳しく、
手ブレ補正も無いSTF135は、本来結婚式撮影などでは
有効な焦点距離であるものの、T4.5では暗くて持ち出す
事ができなかった(手ブレのリスクが大きい)
近年では殆どのカメラが超高感度性能を搭載しているし
一部のシステムでは上記レンズ群でも手ブレ補正も利用
できる為、問題点は緩和されるであろう。
![c0032138_20120726.jpg]()
問題は、この高価なレンズ群が本当に必要なのか否か?
という、ただそれだけである。
実用価値、実用シーンはさほど多くない。だが、この
個性的な仕様、そしえ魅力的なボケ質に惹かれるので
あれば、もう高価であっても買ってしまうしか無いのだ。
購入側にとって割りが合わない(損である)、高付加価値
型商品は好きでは無いが、アポダイゼーションの付加価値は
私個人にとって弱点であり、どうしても欲しくなってしまう。
(この為、全STF/APDレンズを所有する「グランドスラム」を
やってしまっている・汗)
★CCTV/マシンビジョン用レンズ
やや専門的な一般用語。
ここは一般的カメラユーザーにはあまり関係無いので
簡潔に説明する。
これらは産業用(FA用)レンズだ。具体的には、監視カメラ、
製品検査、工程管理、画像処理(ボードカメラ)用、内視鏡、
ロボットに搭載して行動を制御、等の目的に使われている。
対応センサーサイズは、1/5型~1型程度と小さいので、
一般的な一眼レフやミラーレス機で使うとケラれてしまう。
唯一、PENTAX Qシリーズ(1/2.3型、1/1.7型)の利用が
これらのCCTV系レンズの一部の仕様に合致する。
![c0032138_20120776.jpg]()
マウントは色々あるが、Cマウントを選ぶのが無難だ、
これであれば、Cマウント→PENTAX Qのアダプターが
市販されている。
Cマウントは、内径1インチ(25.4mm)の産業用または
映画撮影用(シネレンズ)の規格であり、写真用と
しては無名だが、他の光学分野では一般的だ。
なお、戦前の旧コンタックスのレンジ機用マウントも
カメラ界では一般にCマウントと呼ばれるが、明確に両者を
区別する手段は無いので、必ず詳細の併記が必要だ。
一般的カメラユーザーには無縁の用法であるので
推奨はしないが、まあ、面白い分野ではあり、上級マニア
向けだ。
逆の使い方としては、Cマウントを採用するボード
カメラ(CCD/CMOSカメラ基板)では、NIKON F→C
のアダプターが市販されているので、Cマウント
レンズの替わりにニコン一眼用レンズを使用できる。
こちらの方が、一般的なCマウントレンズより画質が
高いが、ただし、小さいセンサーでは相当な望遠画角
になるので、利用できるシーンは少ないであろう。
---
さて、「システム編」は本記事までで終了だ。
次回は「操作性・操作系編」となる。
主に本ブログの範囲でのみ使われたり、あまり一般的
では無い専門用語を解説している。
なお、副題【玄人専科】の意味だが、上級者又は上級マニア
層を対象とした記事であり、内容が専門的になるケースも
あるので、「一般層向けでは無い」という事である。

カメラやレンズ関連の用語をとりあげる。
<機器・システム> Part 3
★超マクロレンズ
やや独自用語。
中国製「中一光学 Free Walker 20mm/F2」は
撮影倍率が4~4.5倍と高い「超マクロレンズ」だ。
(詳細後日紹介予定、下写真)

顕微鏡のような拡大性能になる。

OLYMPUSが1970年代にOMシステムで(得意の)医療分野
向けに発売した特殊マクロレンズの設計を元にしている。
そのOM20/2は、本体のみで4.2倍、ベローズ併用で13.6倍
もの撮影倍率となった(Freewalker20/2と、ほぼ同じ)
また、その「マクロに強いOLYMPUS」では、近年の
M.Zuiko Digital ED 30mm/F3.5 Macroにおいて等倍
(1倍)を超える1.25倍のスペックを搭載。μ4/3機専用
なので、フルサイズ換算撮影倍率は2.5倍に到達する。
(後日紹介予定、下写真)

色々販売する中国「LAOWA」からも、最大2倍の撮影倍率
を持つMFマクロレンズが発売されている(未所有)
それから、CANONでもミラーレス機EOS Mシリーズ用
EF-M 28mm/F3.5 Macro IS STM が、1.2倍の撮影倍率
となっている(未所有)
他にもいくつかあるが、これら等倍を超えるレンズを
本ブログでは「超マクロレンズ」と呼んでいる。
なお、撮影倍率が4倍とか、あまりに高くなると、強い
「露出倍数」がかかり、シャッター速度が下がったりする、
それを防ぐ為、日中の明所でもISO感度を3200程度以上に
高める等が必要になったり、絞りを開けると被写界深度が
紙のように薄く、殆どピントが合わなくなる。
屋外でのFree Walker20/2による8倍撮影の実験結果では
1%以下の歩留まり(成功率)しか無い。
すなわち、これらは室内での学術系用途の専用レンズだ。
屋外においては、まず使えず、1.2倍程度ならばともかく、
それ以上の「超マクロレンズ」は、一般屋外撮影には
全く推奨ができない。
★ローリングシャッター歪み
やや専門的な一般用語。
CMOSセンサー等の撮像素子では、全ての画素が同時に
読み出されるのではなく、1行(列)毎に順番に
読み出されていく(=ライン(露光)順次読み出し方式)
この為、ある程度の速さで動く被写体(電車や車両など)
では(電子)シャッターが開いている間に、画像の
上の方と下では時間差が出来てしまい、被写体が歪んで
写ってしまう、これを「ローリングシャッター歪み」や
「フォーカルプレーン歪み」「動体歪み」と一般に呼ぶ。
(注:業界毎に呼び名が異なり、統一されていない)
電子シャッターしか無いトイカメラ、一部の監視カメラ、
一部のカメラの動画モード、また、カメラを電子シャッター
モードとした場合等で、この現象が発生しやすい。

全画素を、ある一瞬で止めてしまえば、この現象は
起こらなくなる。あるいは電子式動作であっても、
機械式シャッターと同様に全ての画素を同時に露光すれば
良い。厳密には両者の構造は若干異なるのだが、カメラの
内部がどんな構造になっているかは一般に非公開なので
両者の効能だけを見て「グローバル・シャッター方式」と
一般的には言われる事がある(注:これも業界毎等で
呼び方が異なる、今回の用語は特にCCTV業界での話だ)
すなわち「グローバル・シャッター方式」では動体を
撮影しても歪むことは無い。
ローリングシャッター歪みは、起こらない事が望ましいが、
ただし「写真表現的」には、露光中にわざとカメラを
ブラす(廻す)等して「静止被写体を曲げて写す」等、
その弱点を逆用した特殊な撮影テクニックも存在する。

一般用語だが、とても誤解されやすい用語だ。
本ブログではこの用語から派生する「ズーム倍率」を
使う事は非推奨としている。
これは一般に「ズーム比」が大きいレンズを指す。

この時のズーム比は望遠端の270mmを広角端の18mmで
割る事で、15と求まる。
単位はmmをmmで割るので相殺される、つまり単位の無い
「無名数」である。数学や工学分野では、当たり前の
ように用いられる表記法ではあるが、一般ユーザーには
単位なしの数値では意味が通り難い。
なので一部の業界では、これを「15倍」と書いてしまう。
これくらいならまだしも、あまり技術用語の正確性が
問われないコンパクト・デジカメ等の市場分野では、
例えば24mm~720mmのロングズーム機を「光学30倍」
とスペックを記載し、これにデジタル拡大機能2倍を
加えて、「合計最大60倍ズーム」等と書いてしまう。
店舗店頭では、さらに表記が曖昧となり「60倍ズーム!」
と平気で宣伝する訳だ。
他の双眼鏡とか望遠鏡、顕微鏡等の光学機器分野では、
(厳密には異なるが)だいたい「人間の視野に対して
何倍大きく見えるか」という観点で倍率が表記される。
(注:詳しくは、まず、実際の被写体のサイズに対して、
光学的に結像する虚像まだは実像の視野角との比率が倍率だ。
又は、表示装置に映る画像の、原寸との比を指す場合もあり、
あるいは無限遠被写体からの平行光線を意識した「アフォーカル
光学系」では対物レンズの焦点距離を接眼レンズの焦点距離で
割って倍率を求める等、機器によりけりで、かなりややこしい)
まあだから、そういう常識を持って、初級者が店頭に行き、
コンパクトカメラの720mm級+デジタルズーム機を
見たら、そこには60倍ズームと堂々と書かれている。
初級者「すげえ、60倍も大きく写るのか!
これは双眼鏡と言うか・・望遠鏡並みじゃん、
よし、これを買おう」
と誤解してしまう訳だ。
(注:そう思わせる為の確信犯と言えるかも知れない)
実際には「ズーム比」とは単なる望遠端と広角端の比率で
しか無い。まずデジタル拡大(ズーム)はフェアな表記
では無い為、光学ズームに限った話をするが、同じ望遠端
720mmでも、広角端が24mmであればズーム比は30、もし
広角端が18mmまで伸びれば、ズーム比は40にまで上がる。
で、ズーム比は、本来あまり重要なスペックでは無い。
(むしろ広角端、望遠端のそれぞれの焦点距離が重要だ)
そして、あまりにズーム比が大きいレンズは複雑な構成
となり、設計に無理が出て画質が低下してしまう事もある。
長い望遠側焦点距離がどうしても欲しいのであれば、
限界ぎりぎりに光学ズームを伸ばすより、高解像力仕様の
単焦点望遠を使い、それをトリミングした方が高画質に
写る場合すらあるのだ。
で、それでも「人間の視野に対して何倍大きく写るのか?」
を、どうしても気にする「ビギナー」が居るとすれば、
概算だが、望遠側の焦点距離を50mmで割ってみれば良い。
つまり720mm望遠の場合、人間の目の視野に対して
720mm÷50mm≒14.4(倍)(大きく写る)である。
まあ、それくらいの望遠でしか無い、という事である、
カメラは一般的な写真を写す為の道具だ、勿論望遠鏡の
代用にはスペック的には成り得ない。そして、人間の
目の何倍大きく写るか、等は写真的には殆ど無意味だ。
★単焦点と短焦点
一般用語だが、誤解や誤記が極めて多い。
単焦点とは、50mmとか28mmとか、画角(焦点距離)が
固定で変化しないレンズの事、ここはまあ常識だ。

多くの場合「短焦点」と誤変換される。
まず、この誤記がWEBやSNS等で極めて多い。
で、初級層等は、それらを読み「短焦点? 焦点距離が
短いと言う事は、つまり広角レンズという事だな?」
と、”あらぬ誤解”が広まる。
光学的には、「短焦点」とは焦点距離が短いレンズ
であり、まあ広角レンズと同義だ。ただ、カメラの
世界では「広角」と呼ぶから、この用語はカメラ以外
の分野(例:プロジェクター等)で使われる事が多い。
それから、専門用語としてもあまり一般的では無いが
「短焦点」の別の定義は一応存在する。
これは望遠レンズ等で焦点距離の長いレンズを普通に
設計してしまうと、焦点距離が長くなるにつれ、
レンズ鏡筒(or鏡胴、注:ここも両者が混在し曖昧だ)
の長さが伸びてしまう。例としては、100mm望遠で10cm
200mm望遠で20cm・・となるのだが、こういう設計では
超望遠レンズともなると、全長が長く、ハンドリング
(持ち運びやレンズを構える事)が厳しくなる。
そこで「焦点距離よりもレンズ鏡筒が短くできる」
小型望遠レンズの設計を目指す訳だが、こういう仕様の
(望遠)レンズを、まれに「短焦点」と呼ぶ訳だ。
(注:「この仕様こそが、本来の「望遠」の意味である」
という解釈もあってややこしい。その解釈の場合は、
レンズ全長と焦点距離との比を「望遠率」とも呼ぶ。
まあつまり、光学の分野は古くから発達してきた故にか、
完璧に用語が統一されていないのだ・・)
この例としては、銀塩MFのOLYMPUS OM85mm/F2や、
近年のPENTAX-DA70mm/F2.4があるだろう、これらは
望遠焦点距離だが、とてもコンパクトに設計されている。

F2以下等)や、一眼レフではミラーボックスを避けて
焦点を延ばす(レトロフォーカス)「逆望遠」型の
光学系では、焦点距離(例:28mm)よりも、レンズ鏡筒
の長さが伸びる場合がある、これを「長焦点」と呼ぶ事も
稀にあるようだ。(注:ここも定義が曖昧だ)
(余談:一眼レフ用にバックフォーカスの距離(=ディスタンス)
を稼ぐ設計の広角レンズを、ツァイス社では「ディスタゴン」
と命名している)
これらの「短焦点」「長焦点」は、レンズ設計という特殊
分野で稀に使われる用語で、かつ近年では、他の誤解され難い
用語で代替する場合も多く、当然、世間一般的な用語では無い。
だから、いきなり「短焦点」などと書かれてしまうと、
「この人、昔のレンズ設計者か?」等と、別の意味での
”あらぬ誤解”をしてしまう事もあるのだ。
★レンズ構成
やや専門的な一般用語。
写真用交換レンズの性能仕様(スペック)において、
例えば、5群6枚とか、テッサー型(3群4枚)とか、
そういう風に「レンズ構成」が示されている。

というと、単純にそういう訳でも無い。
基本的に写真用レンズは画角(焦点距離f)、明るさ(F値)
があって、それが合焦(ピントが合う)すれば良いのだが
複雑な構造の大口径ズームレンズや、望遠端と広角端との
比が大きい高倍率ズーム(前述)あるいは、近代の
高画素対応(高解像力仕様)の単焦点レンズ等では、
レンズ構成が十数枚とかに非常に複雑にならざるを得ない。
複雑な構成のレンズは光線透過率のロスや内面反射の影響が
出るため、よほどそれらに注意して設計しなくてはならない。
結局、そのレンズの設計仕様に応じて、レンズ構成は
変化する、という事だ。
複雑なレンズ構成とは全く正反対に、極めて単純な
レンズ構成も存在する、例えば1群2枚という構成だが、
これは収差を逆用した「ソフト(軟焦点)レンズ」等と
して発売されている。
(例:安原製作所 MOMO100 28mm/F6.4、下写真)

同じ写りなのか?」というと、これもそういう話では無い。
だが、例えば銀塩MF時代(1960年代~1980年代)の
50mm小口径(F1.7~F2)標準レンズ 等は、どれも
たいてい5群6枚という同じレンズ構成で、どれも
たいてい同じような描写傾向、しかも、どれもたいてい
極めて良く写り、同時代のMFの50mm/F1.4版大口径標準
(6群7枚等と若干レンズが多い)よりも良く写った程だ。
小口径MF標準レンズの、この優れた設計仕様は、
後年のAF時代(1990年代)やデジタル初期(2000年代)
に迄、引き継がれている。
例えば、キヤノン党の初級中級層が、その描写力を
「神格化」する CANON EF50mm/F1.8(Ⅰ/Ⅱ型)等が
それである。

あるとすれば、レンズの屈折率(曲率、パワー)や、ガラス
材質(色分散、アッベ数等)の差、レンズの配置距離(位置)
の差、レンズ瞳径(サイズ)の差、と、だいたいそれ位だ。
でも、これらが性能差に直結する事もある。
だが、もし他社の同等レンズより劣っている設計では、
写りが悪くて評判が落ちてしまい、商品にならないので、
たいてい、これらのレンズは小改良が続いて、少し時代が
経過すれば各社同等の(高い)性能に落ち着く。
銀塩MF時代の光路設計は、手計算で極めて大変であった、
手法を調べればわかると思うが、1本の光路の線を
引くたびに、三角関数(sinθ)の計算式が出てくる。
これは最低でも電卓を使わないと困難だが、
1960年代等では、まだ電卓すら普及してしなかった。
その後、1980~90年代位からはコンピューターを用いた
設計技法が主体となり、さらにはレンズ製造技術の
進歩により、優秀なコーディング(反射防止)や、ガラス
材質の進化と多様化、加えて「非球面レンズ」等を採用し
それまでオーソドックスであった、変形ダブルガウス型
(プラナー型)、トリプレット/テッサー型、等よりも
ずっと複雑なレンズ構成も設計できるようになった。
結局のところ、そのレンズの描写力を推察する上で、
「レンズ構成」は、あくまで参考でしか無い。
銀塩時代のレンズは、実際に買って、長く使ってみるまで
詳しい描写傾向はわからないし、近代レンズにおいては、
ほとんどは、そのレンズの「設計コンセプト」に依存
する事であろう。つまり、大口径を求めるのか、高解像力
を求めるのか、ボケ質を良くするのか、そういう様々な
設計思想が、レンズの特徴に直接効いてくる。
が、F0.95等の超大口径レンズでは、開放近くでの収差や
ハロなどが多く、甘い描写になりやすいし。
高解像力型のレンズは、花や人物などを撮る際に、
カリカリの描写で、むしろ好ましく無い場合もある。
これは、1つは設計コンセプトにおいて、レンズに求める、
どの性能を優先させるか?という事であり、
(注:正確には「どの収差を主に補正するのか?」)
何かを優先すれば、別の何かが犠牲になってもやむを得ない。
全ての性能を高める事を目標としたレンズもあるが、
それは非常に大きく、重く、高価になってしまうという
別の問題点も発生してしまう。
もう1つは、そのユーザーが、レンズに何を求めるか?
という点にも大きく係わる。海外旅行等で描写力よりも、
ともかく小型軽量の物が必要なケースもあるだろう。
それ以上は、いちいち上げないが、様々なユーザーニーズが
存在し、それに合わせて必要なレンズが変わってくる事も
確かである。
だから、まず「何を、どう撮りたいのか?」というニーズ
そして「その目的には、どのレンズが向いているのか?」
という両面からのアプローチが、レンズ購入の際の
必須検討項目となる。
「レンズ構成のスペックを見て買う」などの単純な話
では無い事は、言うまでも無い。
★アポクロマート
やや専門的で、やや定義が曖昧な一般用語。
元々は100年以上も前の、カール・ツァイス社の研究所長
エルンスト・アッベ氏(学者兼技師、光学ガラスの色分散
仕様の「アッベ数」に名を残す)が顕微鏡用に色収差を
補正する技術として考案、命名したのだが、後年では、
その定義が曖昧になってしまっている模様だ。
まず、色は3原色で表される。光の3原色は、
R(赤),G(緑),B(青)であり、これらを混ぜると
白くなる。絵の具では色を混ぜると暗くなるが、光では
明るくなるので逆だ。
で、R,G,Bは、それぞれ波長が異なる、加えて屈折率
も異なる為、例えばプリズムに白色光を入射すると
7色に分割されるし、虹もまた同様な原理で発生する。
だが、写真用レンズで、この色による屈折の差が出て
しまうと、極端に言えば、白い被写体を撮影しているのに
輪郭の周囲等に、赤や青の色が滲んで見えてしまう。
これが「色収差」(いろしゅうさ/しきしゅうさ、と曖昧。
また軸上色収差と倍率色収差があって、少々だが難解だ)
であり、なんとかこれを防がないと写真画質が悪くなる。
で、RGBのうち(注:厳密には、RGBとざっくりではなく、
特定の波長を指して、C線、d線、F線などがある)
・・この内2つの色を同じ屈折になるように補正した物が、
「アクロマート」と呼ばれ、これは、屈折率等の異なる
2種類の光学ガラス(クラウン、フリント等)を用いた
凸レンズと凹レンズを組み合わせるというシンプルな
構造(ダブレット)であるがゆえ、比較的古くから
望遠鏡や顕微鏡の対物レンズにおいて発達し、戦後とか
での国内製品でも多くの採用例がある一般的な技術だ。
1970年代前後ともなると、「異常(低)分散レンズ」
(ED,LD等と呼ばれる)や「蛍石レンズ」(フローライト、
Fレンズ等と呼ばれる)といったガラス素材の技術発展に
より、これらを使用し、2色ではなく3色で、より高性能に
色収差を補正できるようになってきており、これらを
「アクロマートより性能が良いアポクロマート」と
呼ばれるようになってきた。
だが、このあたりで、何がアクロマートで、何が
アポクロマートであるかの定義が曖昧となり、さらに
後年では、スーパーアクロマートとか言った製品も
あって、もう用語定義は収拾不能になっている模様だ。
写真用交換レンズの仕様表記においては、アポクロマート
では、長くて意味もわかりにくいので、一般に「アポ」
(APO)と省略して呼ばれる事がある。
1990年代前後でのSIGMA製望遠レンズでは「APO」仕様
となっているものが、通常品と併売されていて、若干
高価な高性能レンズであった。
他社ではMINOLTAのAF望遠レンズにもAPO銘が記され、
さらには「フォクトレンダー」(旧:西独、現:コシナ)
の「アポランター」(Apo-Lanthar)も著名であろう。
これは古くは1950年代以前の「ランター」というレンズ
商品名だったのだが、1951年にアポクロマート化して、
Apo-Lantharとなった。
このレンズがどこまで(軸上)色収差を補正していたのか
現代に至っては、もう情報が少なく不明ではあるが、
高性能で、当時は非常に評判が良かったという資料もある。
その後、1999年にコシナ社が、(宙に浮いていた)
「フォクトレンダー」のブランド商標を取得し、
この「アポランター」銘を復活する。
2000年代には、一眼レフ用(一部レンジ機用)交換
レンズとして、「アポランター90mm/F3.5(SL)」
(ミラーレス名玉編第4回記事、総合5位等)や
「マクロ・アポランター125mm/F2.5SL」
(ミラーレス第23回記事等で紹介、下写真)が発売された。

「マクロ・アポランター65mm/F2」を発売する。
(詳細後日紹介予定、下写真)

「RGBの3色を補正していますよ」とばかり、赤緑青の
3色ラインがレンズ前部に描かれている。
また、2017年のマクロ・アポランターでは、赤緑青の
ワンポイントのデザインが描かれるようになった。
実際の「アポクロマート」の定義は現代となっては
曖昧であり、また、現代では新ガラス素材の他、非球面
レンズや複合非球面などの様々な新技術が生まれていて、
結局、どのような補正技術が用いられているのかは、各々
のレンズによりけりであったりで詳細が不明ではあるが、
現代のコシナ社のアポランター銘の数種類のレンズは、
どれも高い描写力を持つ事は確かだ。
まあ、それ故に、取得した商標を「アポランター」という
名称での強力なブランドイメージ戦略を行おうとしている
のだ、と思われる。
つまり「アポランターは高性能の高級品だ」という
付加価値戦略であり、事実、2000年代のアポランターは
比較的安価であったのが「マクロ・アポランター65/2」
は、発売時定価が12万円(+税)と、結構な高額商品と
なってしまったのは、少々残念な話だ。
(注:2018年には、さらにマクロ・アポランター110/2.5
が参考出品されている)
★アポダイゼーション
やや専門的な一般用語。
ミラーレス・マニアックス第17回、特集APD vs STF
や、LAOWA 105mm/F2の紹介記事、あるいはもっと古い
記事でも何度か紹介したので、内容的に重複する為、
今回は簡潔に述べておく。

状に周辺が暗くなる特殊ガラスユニットで、これを
レンズ内に配置すると、結果的に、ボケ質が極めて
良好となる。
この原理は古くから知られてはいたが、実際に写真用
レンズとしての発売は稀であり、一般的なものでは
以下の4機種しか存在しない。
1998年 MINOLTA STF 135mm/F2.8[T4.5]
α(Aマウント)用フルサイズ対応MFレンズ
(注:2006年にSONY版として引き継がれている)
2014年 FUJIFILM XF56mm/F1.2R APD (T1.7)
FUJI XマウントAPS-C機専用AFレンズ
2016年 LAOWA 105mm/F2 Bokeh Dreamer (T2.8)
各社一眼レフ、ミラーレス機マウント用
フルサイズ対応MFレンズ
2017年 SONY FE100mm/F2.8 STF(T5.6) GM OSS
SONY α(E)マウント用フルサイズ対応AFレンズ
これ以外にも海外製で、アポダイゼーション交換型
レンズが試作されていた模様だが、発売されたかどうか
は不明だ。まあ、いずれにしても極めて珍しいレンズだ。
これらは新品定価ベースで中国製のLAOWAが10万円程、
他は20万円前後と、かなり高価なレンズである。
アポダイゼーションを入れただけで部品代が大幅に高く
なる筈も無いのだが、開発経費の減価償却(注:あまり
本数が出ないので、1本のレンズあたりは高額となる)が
乗ってきている厳しい状態だ。
高価な故に、ユーザー数も少ない。
そして実際に使うシーンもあまり多くは無い。

ポートレートにはやや望遠すぎる仕様のものも多く、
勿論ズーム仕様でもない。
2本はMFレンズであり、業務用途では使い難いだろうし
FUJI XF56/1.2APDのAFは精度も速度も低い。
各レンズの開放F値は、F2.8以下と悪く無いが、
アポダイゼーション光学エレメントは、グラデーションで
通す光が減ってしまう為、実際の明るさは、F値ではなく
実効F値である「T値」で表される。
初代のMINOLTA STFはちゃんと[T4.5]と書かれているが
後年のものは、T値表記は省略される事が多い。
あまりこれが低いと、初級中級層が「暗くて低性能な
レンズである」と敬遠する恐れもあるからだろう。
まあでも、屋外で使うのであれば、T値が若干低くても
(T4.5やT5.6であっても)あまり問題無い。
銀塩時代は、T4.5となると、室内等の暗所では厳しく、
手ブレ補正も無いSTF135は、本来結婚式撮影などでは
有効な焦点距離であるものの、T4.5では暗くて持ち出す
事ができなかった(手ブレのリスクが大きい)
近年では殆どのカメラが超高感度性能を搭載しているし
一部のシステムでは上記レンズ群でも手ブレ補正も利用
できる為、問題点は緩和されるであろう。

という、ただそれだけである。
実用価値、実用シーンはさほど多くない。だが、この
個性的な仕様、そしえ魅力的なボケ質に惹かれるので
あれば、もう高価であっても買ってしまうしか無いのだ。
購入側にとって割りが合わない(損である)、高付加価値
型商品は好きでは無いが、アポダイゼーションの付加価値は
私個人にとって弱点であり、どうしても欲しくなってしまう。
(この為、全STF/APDレンズを所有する「グランドスラム」を
やってしまっている・汗)
★CCTV/マシンビジョン用レンズ
やや専門的な一般用語。
ここは一般的カメラユーザーにはあまり関係無いので
簡潔に説明する。
これらは産業用(FA用)レンズだ。具体的には、監視カメラ、
製品検査、工程管理、画像処理(ボードカメラ)用、内視鏡、
ロボットに搭載して行動を制御、等の目的に使われている。
対応センサーサイズは、1/5型~1型程度と小さいので、
一般的な一眼レフやミラーレス機で使うとケラれてしまう。
唯一、PENTAX Qシリーズ(1/2.3型、1/1.7型)の利用が
これらのCCTV系レンズの一部の仕様に合致する。

これであれば、Cマウント→PENTAX Qのアダプターが
市販されている。
Cマウントは、内径1インチ(25.4mm)の産業用または
映画撮影用(シネレンズ)の規格であり、写真用と
しては無名だが、他の光学分野では一般的だ。
なお、戦前の旧コンタックスのレンジ機用マウントも
カメラ界では一般にCマウントと呼ばれるが、明確に両者を
区別する手段は無いので、必ず詳細の併記が必要だ。
一般的カメラユーザーには無縁の用法であるので
推奨はしないが、まあ、面白い分野ではあり、上級マニア
向けだ。
逆の使い方としては、Cマウントを採用するボード
カメラ(CCD/CMOSカメラ基板)では、NIKON F→C
のアダプターが市販されているので、Cマウント
レンズの替わりにニコン一眼用レンズを使用できる。
こちらの方が、一般的なCマウントレンズより画質が
高いが、ただし、小さいセンサーでは相当な望遠画角
になるので、利用できるシーンは少ないであろう。
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さて、「システム編」は本記事までで終了だ。
次回は「操作性・操作系編」となる。