コストパフォーマンスに優れたマニアックなレンズを
カテゴリー別に紹介するシリーズ記事。
今回第15回目は、MFマクロレンズを4本紹介する。
「マクロレンズ」とは、銀塩(フルサイズ)換算で「1/2倍
以上の撮影倍率をレンズ単体で得られるもの」とするが
今回紹介するマクロは銀塩MF時代(1970年代~1980年代)
のものであり、全て1/2倍迄に留まる、これはその当時の
一般的なスペックだ。
まずは、最初のシステム、
![c0032138_17153693.jpg]()
カメラは、PENTAX K10D
レンズは、SMC PENTAX-A MACRO 50mm/f2.8
(中古購入価格 20,000円)
ミラーレス・マニアックス第1回記事で紹介した、
1980年代のMF単焦点標準マクロレンズ。
![c0032138_17154164.jpg]()
PENTAX のレンズ型番で「A」と言うのは、KAマウント
対応品である。KAマウントとは何か?といえば、
1983年発売の銀塩MF一眼レフ「PENTAX Super A」で、
PENTAXでは初めてマルチモードAEが搭載された事にちなみ、
以降の PROGRAM A,A3等の機種で用いられた仕様である。
マルチモードAEとは、絞り優先、シャッター優先、
プログラムAE,マニュアル露出、と、それ以降の銀塩及び
デジタル一眼でも一般的に用いらている露出形式の事だ。
ただ、PENTAX Super Aでは、フラッシュの制御機能2種類も、
この露出モードに取り込み、合計6モードの切り替え式と
なっていた。(モードが多い方が高性能であるように見える、
という数値スペック重視の製品コンセプト)
KAマウント用のAレンズの特徴としては、絞り環に「A」
の位置が新設された、これを「A」位置にしておくと、
絞りの自動制御が可能となり、つまり「プログラムAE」や
「シャッター優先AE」が効くようになった訳だ。
2000年代初頭、デジタル一眼時代の直前まで、PENTAXのレンズ
には全て絞り環が存在していた。だが銀塩ローコストレンズの
FA-J型番や、デジタルAPS-C時代でのDA型番のレンズでは、
絞り環が省略されている。まあでもこの事はPENTAXだけの
話ではなく、EOSとαはその発売当初の1980年代から、
ニコンもGタイプレンズでは絞り環を省略し、むしろPENTAXは
長く絞り環搭載を続けた方であろう。
現代では、特殊なレンズとかレンジ機用を除き、メーカー純正
の仕様として絞り環を存在させているのは、ミラーレス機の
FUJIFILM Xマウントくらいであろうか・・
で、絞り環が無いレンズ(カメラを含めたシステム)の場合は
絞り値は、当然、カメラ側のダイヤルから制御される。
PENTAXのAレンズでは、絞りをA位置にすれば、このボディ側
からの絞り操作を受け付けるので、現代のKマウント・デジタル
一眼レフに装着しても、何ら問題なく使えるという長所がある。
ただし、Aレンズ以前の時代のMレンズやP(/K)レンズでは、
A位置が無い為、現代のPENTAXデジタル一眼で使うには、少々
手間な操作が必要だったり、最近の機種では絞りが動かない等、
不便な為、あまり使用は好ましくない。
(むしろ、より以前のM42マウントレンズの方が、
アダプター利用で、Kマウントデジタル一眼では使いやすい)
![c0032138_17131841.jpg]()
さて、本A50/2.8であるが、銀塩MF時代の標準マクロは、
あまり高性能なものが無かった、という状況においては、
相対的に見ると、高い描写力を持ち、なかなかの逸品である。
ミラーレス・マニアックス名玉編には惜しくもノミネート
されなかった。名玉編では総合評価の平均点が4点以上の
ものを紹介したが、本A50/2.8は平均3.9点と、僅かに
ランクインには届かなかったのだ。
で、このA50/2.8 の後継機、FA50/2.8Macroは、名玉編で
16位にランクインしたのだが、本レンズとの評価点の差異は
ほんの僅かだった。
![c0032138_17131861.jpg]()
なお「銀塩MF時代の標準マクロはたいした事は無い」と前述
したが、現代のミラーレス時代、その点で若干問題が起こる。
つまり、マクロレンズは、MF操作をした方が使いやすいので
ミラーレス機でアダプターでMF標準マクロを装着しようと
すると、描写力の高いMF標準マクロが無いのだ。
逆に、AF時代からの標準マクロは、どれも描写力が優秀なので、
それらAF版レンズをミラーレス機に装着して使おうとすると、
ピントリングがスカスカでMF操作性が極めて悪い。
じゃあ、AF版標準マクロを、AF/デジタル一眼レフに装着すれば
良いか?と言えば、今度は、そうした一眼レフでは、MF性能が
ミラーレス機に比べて劣っているので、あまり使いたく無い。
あるいは、古いMF版標準マクロを、新しいデジタル一眼に
装着しようとしても、マウント仕様やその規格的な制約から、
使える組み合わせは極めて限られている。
よって、純正マウントと純正MF標準マクロで使えるのは、
NIKONとPENTAXのケースしか無いと思う。
ところがNIKONのマイクロ55/3.5系(現在未所有)は、
ボケ質が極めて固いので、用途の少ないレンズである。
結局、現代の純正(同一)マウント版のデジタル一眼にも、
アダプターを介して任意のマウントのミラーレス機で使う場合
でも、両方で快適に使用でき、かつ描写性能に優れるMF標準
マクロというのは、実は、本A50/2.8が、ほぼ唯一のレンズ
なのだ。
![c0032138_17131887.jpg]()
だから、本レンズの必要度は高く、かつマニアック度も高い、
惜しむらくは、1990年代の購入だったので、若干相場が高く
コスパ評価も、あまり高くはならない点であろうか。
現代での中古市場では、玉数が少なく、入手性が良く無いが
もし見つけたら、1万円台で購入は可能と思われるので、
1万円台前半くらいで購入できるのであれば、コスパは良いと
思う。
ただし、それ以上の相場だと、ちょっとコスパは厳しい、
なにせ、2万円も出すのならば前記事AFマクロ編で紹介した
TAMRON 60/2マクロが購入できてしまう、これは比較的近年
のレンズで描写力は(やや現代風すぎるが)かなり良いのだ。
また、1万円という価格帯ならば、MINOLTA時代の超優秀な
AF50/2.8macro(ミラーレス名玉編第4位)や、SONY DT30/2.8
(前回AFマクロ編)も買えてしまうのだ。
そもそも、後継機のFA50/2.8ですらも1万円台半ばで買える。
まあ現代の中古レンズの相場全般で、MF単焦点は、AF単焦点に
比べ、ちょっと高価なようにも感じる。
本レンズの「独特の立ち位置」が理解できるのであれば、
購入するのに値するレンズであろう。
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では、次のシステム、
![c0032138_17132419.jpg]()
カメラは、SONY NEX-7
レンズは、COSINA MC MACRO 100mmf/f3.5
(新品購入価格 14,000円)
ミラーレス・マニアックス第48回、補足編第3回で紹介した、
1980~1990年代頃と思われるMF単焦点中望遠マクロレンズ。
当時のコシナの超値引き戦略、すなわち定価5万円ほどの
レンズを、7割引とかで新品販売する戦略については、他の
記事でも何度か書いた通りである。
![c0032138_17132563.jpg]()
本レンズは、最短撮影距離43cmの、1/2倍マクロだ。
冒頭に記載したが、銀塩MF時代のマクロは1/2倍までのもの
が殆どである。
等倍の(あるいは1/2倍以上の)撮影倍率を得る為に、
付属品があったマクロレンズも多い。
一番多い付属品は、通称「ゲタ」と呼ばれる、接写リング
(等倍アダプター)であろう、そのマクロレンズ専用品の
場合もあるし、様々なレンズで使う事が可能な汎用品もある。
本コシナ100/3.5には、その手のアタッチメント(付属品)
は無く、その代わりにフィルター型のクローズアップレンズが
付属している。
ただし、それは、ほとんど単体の凸レンズのようなもであり、
それを装着すると収差により描写力が極端に低下する。
![c0032138_17132490.jpg]()
余談だが、「フィルター径」の事を、「アタッチメント」と
書いてある資料を以前良く見かけたが、意味がわかりにくい。
「フィルター以外の物もレンズにはつけるだろう」という
目的で、そう書こうとしているのかも知れないのだが、
アタッチメント(Attachment)とは「付属品」という意味の他、
「装着」「付着」「取り付け」等という意味があるが、
径(口径)を直接表す意味は無いと思う。
それにレンズの前にだけ付けるものではなく、後ろに装着
するものもある。
ちなみに、法律用語としての「アタッチメント」の意味は
「差し押さえ」である。
「径」という長さの量を示したいのであれば、これは単に
「フィルター径」という表現でも十分であろう。
工業的、主に製図の分野では、こうした場合、φ(ファイ)を
用いる(例:φ49mm)(注:「パイ」という読み方は間違い)
これは「円の直径」を示す用語である。
このギリシャ文字の「形」を見れば、その理由は一目瞭然だ。
(なお、φには、大文字Φと小文字φがあり、図柄の意味
からも、単位としても、小文字φを使用するのが望ましい)
さらにちなみに、「専門家」が使っているからと言って、
その用語が正しい意味を表わしている保証は全く無い。
例えば映画業界で使う「スチール写真」という言葉は誤用だ。
動画(映画)に対する「静止画」(写真)を意味するので
あれば、止まっているという意味の「still」(スティル)が
正解だろう。スチールでは「盗む(盗塁)」か「鋼鉄」だ。
外国語が日本に伝わってくる段階で、その意味、発音、読み、
表記、等が誤解されて定着する事はよくある。昔の時代で
あれば英語教育も行き届いておらず、なおさらであろう。
かといって、日本語だからといっても安心はできない、例えば
建築関連の用語で、針金の事を「番線」と呼ぶ事があるが、
これは元々は、針金の太さの単位であり、X番線(X番手)と
言うのであるが、「そこの8番線を取ってくれ」といっても、
実際にどれ位の太さなのかは良くわからないかも知れないし、
多少太さが違っても用途によっては代用できるだろうし、
次第に単位としての意味は失われ、いつのまにか「針金の総称」
として「番線」と呼ぶようになったのかと思われる。
まあ、そんな風に、専門家、業界、とかであっても、用語の
意味が間違って普及しているケースはいくらでもあるのだ。
さて、余談が長くなったが、レンズの話に戻ろう。
今回、本コシナ100/3.5の撮影倍率を等倍(近く)まで
高める為に、銀塩時代のアタッチメント(付属品)とは異なる
発想のモノを使う、ヘリコイド付きマウントアダプターである。
これは、近年(2010年代?)に登場したアイテムであり、
主な用途としては、最短撮影距離が70cm~1mと、非常に長い
レンジファインダー機用レンズを、例えばミラーレス機等に
装着する際、フランジバックやマウント径を調整する事のみ
ならず、ヘリコイド(螺旋という意味。まあ、一般的には
ピントリングのような構造のものを示す言葉)を設けて
接写リングのような機能を連続可変式に持たせて、結果的に
最短撮影距離を縮める効果を合わせ持つマウントアダプターだ。
そもそも、NEX-7はAPS-C機であるから、撮影倍率は、
フルサイズ換算で元のレンズ性能(仕様)の1.5倍となるので、
本コシナ100/3.5は、本システムにおいては、
3/4倍(0.75倍)マクロとなっているのだが、そこに加えて
ヘリコイドアダプターを伸ばす事により、最短撮影距離を
短縮し、等倍かそれ以上の撮影倍率を得る事ができる。
ただし、ヘリコイドアダプターは回転角(繰り出し量)が
大きいので、何度も回したり戻したりするのは手間だ、
簡便に倍率を高めたいならば、母艦がNEX-7であれば、むしろ
「プレシジョン・デジタルズーム機能」を併用した方が
てっとり早い(注:勿論、最短撮影距離は短縮できない)
この機能は、画素トリミングではなく、画像処理による
拡大で(この手の、画素拡張からのトリミングを「超解像」と
技術用語で呼ぶ場合もあるが、これも定義があいまいで、
方式も無数にあり、誤用してしまうケースも非常に多い)
勿論、デジタルズームは光学的な描写は変化しないので
ボケ量・質などをキープしたまま構図変更できる長所がある。
![c0032138_17132406.jpg]()
さて、コシナ100/3.5の性能であるが、一般にマクロレンズ
の設計は、近接撮影で解像力あるいは描写性能が高くなる
ようになっている。一般レンズでは無限遠で最高性能が発揮
できるようになっているので、設計コンセプトが逆だ。
だから、近接撮影で性能が落ちる一般レンズに比べ、マクロ
は非常に良く写るような印象を持つのが普通だ。
だが、本レンズには、そういう感動的な要素は少なく、
まあ普通のレンズのような印象を持ってしまう。
しかし、安価である事が大きな魅力だ。
メーカー純正の100mmAFマクロだと、中古でも(型式によるが)
3万~4万円もしてしまう、本レンズはMFとは言え、近接撮影で
AFは殆ど不要な為、新品で14000円という価格は、コスパの
観点からは極めて良い。
ただし、勿論現在では生産完了となっているセミレア品であり
中古市場でも、まず見ない。「そのマニアックさが魅力だ」
と思えば、見つけたら買えば良いし、あくまで実用本位で
あれば前記事AFマクロ編で紹介した、TAMRON90マクロの旧型
の中古を1万円台で購入した方がずっと良いであろう・・
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さて、次のシステム、
![c0032138_17132979.jpg]()
カメラは、NIKON D2H
レンズは、TAMRON SP 90mm/f2.5 (52BB)
(中古購入価格 20,000円)
ミラーレス・マニアックス第8回記事で紹介した、
1988年発売のMF単焦点中望遠マクロレンズ。
前記事で、AF版TAMRON 90マクロ(f2.8版、72E)を紹介
したが、こちらはその元祖である。
![c0032138_17132939.jpg]()
1980年代を通じ「TAMRON 90マクロ」の名前を世に知らしめし、
「ポートレートマクロ」として著名かつ人気であったf2.5版だ。
前モデルに同スペックの52B型(1979年発売)が存在し、
後継機に同スペックのAF版、52E型(1990年発売)がある。
中距離撮影での描写力を重視した、マクロレンズとしては
独特の設計コンセプトにより、汎用性が高いレンズとなっている。
思うに、1980年代のMF一眼レフ時代の交換レンズは、まだまだ
単焦点が主体であった。その際、ユーザー層の経済的理由から
も、何本もの交換レンズをズラリと揃えるのは難しい。
そんな状況で、あまり近接性能のみに特化したレンズを作って
も、ユーザーには受け入れられない。つまり、本レンズ1本で
中望遠レンズの用途をすべてカバーする事ができる、すなわち、
近接撮影、人物撮影、風景の切り取り、等が、すべてこの1本で
出来るのであれば、当時のユーザーのニーズにはドンピシャに
嵌ったのではなかろうか・・人気があった理由もうなずける。
中古購入価格が2万円とやや高価であったのは、発売から日が
浅い1990年代に購入したからだ、現代では玉数もだいぶ少ないが
上手く見つかれば、1万円台前半から入手可能であろう。
マウントはアダプトール2交換マウントである、1980年代当時の
MF用マウント、すなわちAi,FD,PK,MD,OM,Y/C,M42,AR・・
等のほぼ全てに対応でき、非常に便利だ。
なお、アダプトール2の開放f値がf2.5に制限されていると
思われる技術的理由は不明だ、昔から疑問に思っているが、
調べる手段が無い。以前、TAMRONの本社を訪問し、技術陣と
話をする機会があったが、様々な名レンズの話で盛り上がり、
この件を質問するのをすっかり忘れていた(汗)
![c0032138_17132846.jpg]()
私が本レンズを購入した1990年代は、第一次中古カメラブーム
であった、多くのマニアは、沢山のマウントの銀塩MF一眼等を
購入していた。中にはコレクションや投機がメインで、それらを
実際に使用しないマニアも居たが、私は全て実用機として写真を
撮る目的としていた、その際、各MFマウント機で共通して使える
TAMRONアダプトール2仕様のレンズは非常に重宝したのだ。
なお、マウントアダプターは、MFマウントの場合、仕様の制限上
殆ど作ることができない。だから当時は、マニアでもアダプター
を買えないので、各マウントのボディを購入するしかなかった。
(一部のマニアは、物理的な「マウント換装」を行った)
本レンズ発売時の1980年代後半は、AF一眼レフが発売され
始めた時代である、
既に、ミノルタα-7000/9000(1985年)が存在し、
キヤノンは、FDマウントのAF機、T80を歴史の闇に葬り、
新マウントのEOS 620/650(1987年)で追従した、
ニコンでも、名機F4を1988年にリリースしている。
ただ、それらはまだ一部のケースだ、市場はまだまだMF一眼が
主流であった。
ミノルタでは従来機の中心機種X-700よりもαが性能上魅力的で
あったので、MDとのマウント違いを甘んじで、αに乗り換える、
又は新規ユーザー層も多々あったかと思うが、キヤノンには
名機New F-1やT90,A-1等が健在であったので、マウント
互換性の無いEOSへの乗り換えはユーザーは躊躇したと思われる。
ニコンとペンタックスは、ユーザー利便性を強く意識して
AF機でも従来のMFマウントとの互換性を重視する戦略を取った
(これは、それから30数年が経過した現在でも継続中だ)
なお、オリンパスとコンタックスは一眼レフAF化の市場戦略
に事実上失敗した。
また、他の一眼メーカーは淘汰され、AF時代には実質的に
4メーカーのAFマウントがデファクトとなりつつあった。
この時代は、バブル期でもあったので、AF一眼レフは一般にも
かなり普及したと思われる。
バブルが崩壊した1990年代前半になって、古いMF一眼レフを
見直す動きが始まり、第一次中古カメラブームに繋がった訳だ。
結局、1980年代から1990年代にかけ、いや、デジタル一眼が
普及する直前の2000年代前半の時代まで、MF一眼レフはマニア
の間では主力のカメラであったのだ。だから、このようなMFの
レンズは、(AFマウントでは使い難い事もあって)MF一眼用の
主力レンズとして使い続けられていた状況であった。
![c0032138_17132932.jpg]()
さて、余談が長くなったが、本レンズTAMRON 90/2.5の
性能は発売当時のレベルでは申し分は無かったかも知れないが
現代の感覚においては、逆光耐性、解像力などの点で不満を
感じる場合も多いと思う。
今回使用のボディD2Hは、この古いレンズの雰囲気を得る為に
あえて、ニコン最初期のデジタル一眼(2003年)として
組み合わせている。D2H本体の描写力は、現代ではお世辞にも
良いとは言えない古い性能だが、まあ、古さと古さをコラボ
させるのも、それなりに意味があるとも思っている。
ただまあ、この歴史的な名レンズは、マニアであれば、
必携のレンズであろう、値段もさほど高く無いと思うので、
歴史的な価値も踏まえて、高コスパレンズとして抑えておく
意味は大きいと思う。
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次は今回ラストのシステム、
![c0032138_17133471.jpg]()
カメラは、PANSONIC LUMIX DMC-GX7
レンズは、OLYMPUS OM SYSTEM ZUIKO Macro 50mm/f3.5
(中古購入価格 8,000円)
ミラーレス・マニアックス第66回記事で紹介した、
1970年代~のMF単焦点標準マクロレンズ。
いわくつきのレンズだ、私は都合3回これを購入している、
これは2016年に買ったもので、レンズの程度もやや悪いが、
相場もかなりこなれていて、安価であった。
![c0032138_17133420.jpg]()
本レンズおよび、同時代のニコン55mm/3.5系の両マクロは
「非常に固い描写を持つ」という点が印象的な2本である。
(注、ニコンでは「マイクロ」と呼ぶ。言葉の意味的には
マクロよりマイクロが正しいが、前述の「技術用語の誤用」
が極端に広まってしまい、もうマイクロには戻れない感じだ)
「カリッカリ」の描写力、すなわち、近接撮影において
極端にシャープネスを追求し、ボケ質などへの配慮は無い。
これもまた設計コンセプトである。何故、そんなコンセプト
になっているかは、過去記事でも何度か紹介しているが
簡単に言うと、1970年代は、まだコピー機が普及しておらず
文書、資料などの複写に写真撮影を用いる事があったからだ。
まあ、現代で言う、いわゆる「書画カメラ」の一種である。
ニコンは当時から報道や学術分野に強かったので、新聞社や
研究室などでの、そのような用途に向けてのレンズであった
だろうし、オリンパスは医療分野に強かったので、恐らくは
医療画像(検体や患部等)の撮影あるいは複写にも用いたの
かも知れない。
で、基本的には平面被写体しか意識していない為、立体物の
撮影には、ボケ質低下などの問題で向いていない。
つまり、実用的な写真撮影用途向けのレンズではないので、
本OM50/3.5も、ニコンAi55/3.5も、入手しては飽きて手離す
と言う状況が何度か続いている。それゆえに、本レンズの
購入は3度目であり、ニコンAi55/3.5は現在は所有していない。
じゃあ、一度見放したのに、何故もう1度買うのか?
といえば、しばらくすると、これらのレンズの独特の
描写特性が、とても懐かしく、あるいは気になってくるのだ、
なにせ、現代のレンズではこのような特性を持つレンズは
まず存在しない。
まあ、絞り開放での解像感などは、現代の新鋭レンズの方が
むしろ、これらの「平面マクロレンズ」よりも上である、
例えば前記事でのTAMRON 60mm/f2の解像感がそれである。
しかも、TARMRON 60/2は、ボケ質にも配慮した現代的な
マクロだ。じゃあ、逆に、これらの「平面マクロ」を使う
為の価値、あるいは存在意義は、どこにあるのか?
これは、「あえて立体的被写体を撮影した際の、その独特な
描写特性」であろうか・・・
これは勿論、レンズの「弱点」である。「設計コンセプト外」
だからだ、「そこまでは面倒は見切れない」という設計だ。
けど、その弱点がまた「個性」になりうる、他のレンズでは
得られない唯一の特性(描写)は、マニアックな魅力を持つ。
![c0032138_17133416.jpg]()
他の具体例をあげれば、2000年代に流行した「トイレンズ」
であったり、2010年代から流行しそうな「ぐるぐるボケ」
を特徴としたレンズ群である。
前者は、ロモやホルガ、PENTAX Q等、説明の必要もあるまい。
ミラーレス・マニアックス記事でも、多数の「トイレンズ」を
紹介している。
後者の「ぐるぐるボケ」は、基本的にはレンズの「重欠点」
であり、例えば、ミラーレス第58回記事で紹介した、
MINOLTA MC ROKKOR 85mm/f1.7を補正レンズアダプターで
使用した際に発生する等がある。
又は、主に20世紀前半、あるいは、1950~1960年代頃の
超大口径(f1.1~f1.4)レンズ等ではたまに見られたが、
1970年代以降の写真用レンズでは、性能の改善により
「ぐるぐるボケ」は、ほとんど見られなくなった特性だ、
(これは像面湾曲を主因とするが、他の収差は良く補正されて
いる場合も多い=中央部の球面収差が少なくシャープである等。
つまりこれもまた、レンズの設計コンセプトの一環だ)
このユニークかつレアな描写特性は、現代では「個性」として
注目されている。近年の新製品としては、KENKO LENSBABY の
TWIST 60やTRIO 28、そしてLOMO Petzval(ペッツヴァール)
Art Lens等が発売されている(TWISTは後日紹介予定)
余談が長くなったが、本レンズOM50/3.5においても、
「トイレンズ」や「ぐるぐるボケレンズ」と同様に、
その欠点をあえて助長した個性的な描写を得るのが、非常に
マニアックな使い方だと思う。
ただ、本OM50/3.5は、曲がりなりにも、1970年代の
ちゃんとした写真用レンズだ、だからペッツヴァールのように
ぐるぐるボケも出ないし、あるいは、ボケ質における、強烈な
弱点はさほど出てこない、あくまで、ちょっとだけ変わった
描写をするマクロレンズなのだ。
![c0032138_17133424.jpg]()
その「個性」をどう見るか?で、本レンズの所有価値は変わる、
その事は、私自身でも、どうにも判断できない。だから、
買っては処分し、また買いなおすという無駄な行為を何度か
繰り返してしまった訳だ。
誰にでも薦められるMFマクロレンズではないが、この特徴を
良く理解して、それでも欲しいと思ったら、値段もそう高い
ものでは無いので、コスパは悪くなく、抑えておくのも良い
かも知れない。
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さて、今回の記事は、このあたりまでとする。
次回は、やや高価なハイコスパレンズを紹介する。
カテゴリー別に紹介するシリーズ記事。
今回第15回目は、MFマクロレンズを4本紹介する。
「マクロレンズ」とは、銀塩(フルサイズ)換算で「1/2倍
以上の撮影倍率をレンズ単体で得られるもの」とするが
今回紹介するマクロは銀塩MF時代(1970年代~1980年代)
のものであり、全て1/2倍迄に留まる、これはその当時の
一般的なスペックだ。
まずは、最初のシステム、

レンズは、SMC PENTAX-A MACRO 50mm/f2.8
(中古購入価格 20,000円)
ミラーレス・マニアックス第1回記事で紹介した、
1980年代のMF単焦点標準マクロレンズ。

対応品である。KAマウントとは何か?といえば、
1983年発売の銀塩MF一眼レフ「PENTAX Super A」で、
PENTAXでは初めてマルチモードAEが搭載された事にちなみ、
以降の PROGRAM A,A3等の機種で用いられた仕様である。
マルチモードAEとは、絞り優先、シャッター優先、
プログラムAE,マニュアル露出、と、それ以降の銀塩及び
デジタル一眼でも一般的に用いらている露出形式の事だ。
ただ、PENTAX Super Aでは、フラッシュの制御機能2種類も、
この露出モードに取り込み、合計6モードの切り替え式と
なっていた。(モードが多い方が高性能であるように見える、
という数値スペック重視の製品コンセプト)
KAマウント用のAレンズの特徴としては、絞り環に「A」
の位置が新設された、これを「A」位置にしておくと、
絞りの自動制御が可能となり、つまり「プログラムAE」や
「シャッター優先AE」が効くようになった訳だ。
2000年代初頭、デジタル一眼時代の直前まで、PENTAXのレンズ
には全て絞り環が存在していた。だが銀塩ローコストレンズの
FA-J型番や、デジタルAPS-C時代でのDA型番のレンズでは、
絞り環が省略されている。まあでもこの事はPENTAXだけの
話ではなく、EOSとαはその発売当初の1980年代から、
ニコンもGタイプレンズでは絞り環を省略し、むしろPENTAXは
長く絞り環搭載を続けた方であろう。
現代では、特殊なレンズとかレンジ機用を除き、メーカー純正
の仕様として絞り環を存在させているのは、ミラーレス機の
FUJIFILM Xマウントくらいであろうか・・
で、絞り環が無いレンズ(カメラを含めたシステム)の場合は
絞り値は、当然、カメラ側のダイヤルから制御される。
PENTAXのAレンズでは、絞りをA位置にすれば、このボディ側
からの絞り操作を受け付けるので、現代のKマウント・デジタル
一眼レフに装着しても、何ら問題なく使えるという長所がある。
ただし、Aレンズ以前の時代のMレンズやP(/K)レンズでは、
A位置が無い為、現代のPENTAXデジタル一眼で使うには、少々
手間な操作が必要だったり、最近の機種では絞りが動かない等、
不便な為、あまり使用は好ましくない。
(むしろ、より以前のM42マウントレンズの方が、
アダプター利用で、Kマウントデジタル一眼では使いやすい)

あまり高性能なものが無かった、という状況においては、
相対的に見ると、高い描写力を持ち、なかなかの逸品である。
ミラーレス・マニアックス名玉編には惜しくもノミネート
されなかった。名玉編では総合評価の平均点が4点以上の
ものを紹介したが、本A50/2.8は平均3.9点と、僅かに
ランクインには届かなかったのだ。
で、このA50/2.8 の後継機、FA50/2.8Macroは、名玉編で
16位にランクインしたのだが、本レンズとの評価点の差異は
ほんの僅かだった。

したが、現代のミラーレス時代、その点で若干問題が起こる。
つまり、マクロレンズは、MF操作をした方が使いやすいので
ミラーレス機でアダプターでMF標準マクロを装着しようと
すると、描写力の高いMF標準マクロが無いのだ。
逆に、AF時代からの標準マクロは、どれも描写力が優秀なので、
それらAF版レンズをミラーレス機に装着して使おうとすると、
ピントリングがスカスカでMF操作性が極めて悪い。
じゃあ、AF版標準マクロを、AF/デジタル一眼レフに装着すれば
良いか?と言えば、今度は、そうした一眼レフでは、MF性能が
ミラーレス機に比べて劣っているので、あまり使いたく無い。
あるいは、古いMF版標準マクロを、新しいデジタル一眼に
装着しようとしても、マウント仕様やその規格的な制約から、
使える組み合わせは極めて限られている。
よって、純正マウントと純正MF標準マクロで使えるのは、
NIKONとPENTAXのケースしか無いと思う。
ところがNIKONのマイクロ55/3.5系(現在未所有)は、
ボケ質が極めて固いので、用途の少ないレンズである。
結局、現代の純正(同一)マウント版のデジタル一眼にも、
アダプターを介して任意のマウントのミラーレス機で使う場合
でも、両方で快適に使用でき、かつ描写性能に優れるMF標準
マクロというのは、実は、本A50/2.8が、ほぼ唯一のレンズ
なのだ。

惜しむらくは、1990年代の購入だったので、若干相場が高く
コスパ評価も、あまり高くはならない点であろうか。
現代での中古市場では、玉数が少なく、入手性が良く無いが
もし見つけたら、1万円台で購入は可能と思われるので、
1万円台前半くらいで購入できるのであれば、コスパは良いと
思う。
ただし、それ以上の相場だと、ちょっとコスパは厳しい、
なにせ、2万円も出すのならば前記事AFマクロ編で紹介した
TAMRON 60/2マクロが購入できてしまう、これは比較的近年
のレンズで描写力は(やや現代風すぎるが)かなり良いのだ。
また、1万円という価格帯ならば、MINOLTA時代の超優秀な
AF50/2.8macro(ミラーレス名玉編第4位)や、SONY DT30/2.8
(前回AFマクロ編)も買えてしまうのだ。
そもそも、後継機のFA50/2.8ですらも1万円台半ばで買える。
まあ現代の中古レンズの相場全般で、MF単焦点は、AF単焦点に
比べ、ちょっと高価なようにも感じる。
本レンズの「独特の立ち位置」が理解できるのであれば、
購入するのに値するレンズであろう。
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では、次のシステム、

レンズは、COSINA MC MACRO 100mmf/f3.5
(新品購入価格 14,000円)
ミラーレス・マニアックス第48回、補足編第3回で紹介した、
1980~1990年代頃と思われるMF単焦点中望遠マクロレンズ。
当時のコシナの超値引き戦略、すなわち定価5万円ほどの
レンズを、7割引とかで新品販売する戦略については、他の
記事でも何度か書いた通りである。

冒頭に記載したが、銀塩MF時代のマクロは1/2倍までのもの
が殆どである。
等倍の(あるいは1/2倍以上の)撮影倍率を得る為に、
付属品があったマクロレンズも多い。
一番多い付属品は、通称「ゲタ」と呼ばれる、接写リング
(等倍アダプター)であろう、そのマクロレンズ専用品の
場合もあるし、様々なレンズで使う事が可能な汎用品もある。
本コシナ100/3.5には、その手のアタッチメント(付属品)
は無く、その代わりにフィルター型のクローズアップレンズが
付属している。
ただし、それは、ほとんど単体の凸レンズのようなもであり、
それを装着すると収差により描写力が極端に低下する。

書いてある資料を以前良く見かけたが、意味がわかりにくい。
「フィルター以外の物もレンズにはつけるだろう」という
目的で、そう書こうとしているのかも知れないのだが、
アタッチメント(Attachment)とは「付属品」という意味の他、
「装着」「付着」「取り付け」等という意味があるが、
径(口径)を直接表す意味は無いと思う。
それにレンズの前にだけ付けるものではなく、後ろに装着
するものもある。
ちなみに、法律用語としての「アタッチメント」の意味は
「差し押さえ」である。
「径」という長さの量を示したいのであれば、これは単に
「フィルター径」という表現でも十分であろう。
工業的、主に製図の分野では、こうした場合、φ(ファイ)を
用いる(例:φ49mm)(注:「パイ」という読み方は間違い)
これは「円の直径」を示す用語である。
このギリシャ文字の「形」を見れば、その理由は一目瞭然だ。
(なお、φには、大文字Φと小文字φがあり、図柄の意味
からも、単位としても、小文字φを使用するのが望ましい)
さらにちなみに、「専門家」が使っているからと言って、
その用語が正しい意味を表わしている保証は全く無い。
例えば映画業界で使う「スチール写真」という言葉は誤用だ。
動画(映画)に対する「静止画」(写真)を意味するので
あれば、止まっているという意味の「still」(スティル)が
正解だろう。スチールでは「盗む(盗塁)」か「鋼鉄」だ。
外国語が日本に伝わってくる段階で、その意味、発音、読み、
表記、等が誤解されて定着する事はよくある。昔の時代で
あれば英語教育も行き届いておらず、なおさらであろう。
かといって、日本語だからといっても安心はできない、例えば
建築関連の用語で、針金の事を「番線」と呼ぶ事があるが、
これは元々は、針金の太さの単位であり、X番線(X番手)と
言うのであるが、「そこの8番線を取ってくれ」といっても、
実際にどれ位の太さなのかは良くわからないかも知れないし、
多少太さが違っても用途によっては代用できるだろうし、
次第に単位としての意味は失われ、いつのまにか「針金の総称」
として「番線」と呼ぶようになったのかと思われる。
まあ、そんな風に、専門家、業界、とかであっても、用語の
意味が間違って普及しているケースはいくらでもあるのだ。
さて、余談が長くなったが、レンズの話に戻ろう。
今回、本コシナ100/3.5の撮影倍率を等倍(近く)まで
高める為に、銀塩時代のアタッチメント(付属品)とは異なる
発想のモノを使う、ヘリコイド付きマウントアダプターである。
これは、近年(2010年代?)に登場したアイテムであり、
主な用途としては、最短撮影距離が70cm~1mと、非常に長い
レンジファインダー機用レンズを、例えばミラーレス機等に
装着する際、フランジバックやマウント径を調整する事のみ
ならず、ヘリコイド(螺旋という意味。まあ、一般的には
ピントリングのような構造のものを示す言葉)を設けて
接写リングのような機能を連続可変式に持たせて、結果的に
最短撮影距離を縮める効果を合わせ持つマウントアダプターだ。
そもそも、NEX-7はAPS-C機であるから、撮影倍率は、
フルサイズ換算で元のレンズ性能(仕様)の1.5倍となるので、
本コシナ100/3.5は、本システムにおいては、
3/4倍(0.75倍)マクロとなっているのだが、そこに加えて
ヘリコイドアダプターを伸ばす事により、最短撮影距離を
短縮し、等倍かそれ以上の撮影倍率を得る事ができる。
ただし、ヘリコイドアダプターは回転角(繰り出し量)が
大きいので、何度も回したり戻したりするのは手間だ、
簡便に倍率を高めたいならば、母艦がNEX-7であれば、むしろ
「プレシジョン・デジタルズーム機能」を併用した方が
てっとり早い(注:勿論、最短撮影距離は短縮できない)
この機能は、画素トリミングではなく、画像処理による
拡大で(この手の、画素拡張からのトリミングを「超解像」と
技術用語で呼ぶ場合もあるが、これも定義があいまいで、
方式も無数にあり、誤用してしまうケースも非常に多い)
勿論、デジタルズームは光学的な描写は変化しないので
ボケ量・質などをキープしたまま構図変更できる長所がある。

の設計は、近接撮影で解像力あるいは描写性能が高くなる
ようになっている。一般レンズでは無限遠で最高性能が発揮
できるようになっているので、設計コンセプトが逆だ。
だから、近接撮影で性能が落ちる一般レンズに比べ、マクロ
は非常に良く写るような印象を持つのが普通だ。
だが、本レンズには、そういう感動的な要素は少なく、
まあ普通のレンズのような印象を持ってしまう。
しかし、安価である事が大きな魅力だ。
メーカー純正の100mmAFマクロだと、中古でも(型式によるが)
3万~4万円もしてしまう、本レンズはMFとは言え、近接撮影で
AFは殆ど不要な為、新品で14000円という価格は、コスパの
観点からは極めて良い。
ただし、勿論現在では生産完了となっているセミレア品であり
中古市場でも、まず見ない。「そのマニアックさが魅力だ」
と思えば、見つけたら買えば良いし、あくまで実用本位で
あれば前記事AFマクロ編で紹介した、TAMRON90マクロの旧型
の中古を1万円台で購入した方がずっと良いであろう・・
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さて、次のシステム、

レンズは、TAMRON SP 90mm/f2.5 (52BB)
(中古購入価格 20,000円)
ミラーレス・マニアックス第8回記事で紹介した、
1988年発売のMF単焦点中望遠マクロレンズ。
前記事で、AF版TAMRON 90マクロ(f2.8版、72E)を紹介
したが、こちらはその元祖である。

「ポートレートマクロ」として著名かつ人気であったf2.5版だ。
前モデルに同スペックの52B型(1979年発売)が存在し、
後継機に同スペックのAF版、52E型(1990年発売)がある。
中距離撮影での描写力を重視した、マクロレンズとしては
独特の設計コンセプトにより、汎用性が高いレンズとなっている。
思うに、1980年代のMF一眼レフ時代の交換レンズは、まだまだ
単焦点が主体であった。その際、ユーザー層の経済的理由から
も、何本もの交換レンズをズラリと揃えるのは難しい。
そんな状況で、あまり近接性能のみに特化したレンズを作って
も、ユーザーには受け入れられない。つまり、本レンズ1本で
中望遠レンズの用途をすべてカバーする事ができる、すなわち、
近接撮影、人物撮影、風景の切り取り、等が、すべてこの1本で
出来るのであれば、当時のユーザーのニーズにはドンピシャに
嵌ったのではなかろうか・・人気があった理由もうなずける。
中古購入価格が2万円とやや高価であったのは、発売から日が
浅い1990年代に購入したからだ、現代では玉数もだいぶ少ないが
上手く見つかれば、1万円台前半から入手可能であろう。
マウントはアダプトール2交換マウントである、1980年代当時の
MF用マウント、すなわちAi,FD,PK,MD,OM,Y/C,M42,AR・・
等のほぼ全てに対応でき、非常に便利だ。
なお、アダプトール2の開放f値がf2.5に制限されていると
思われる技術的理由は不明だ、昔から疑問に思っているが、
調べる手段が無い。以前、TAMRONの本社を訪問し、技術陣と
話をする機会があったが、様々な名レンズの話で盛り上がり、
この件を質問するのをすっかり忘れていた(汗)

であった、多くのマニアは、沢山のマウントの銀塩MF一眼等を
購入していた。中にはコレクションや投機がメインで、それらを
実際に使用しないマニアも居たが、私は全て実用機として写真を
撮る目的としていた、その際、各MFマウント機で共通して使える
TAMRONアダプトール2仕様のレンズは非常に重宝したのだ。
なお、マウントアダプターは、MFマウントの場合、仕様の制限上
殆ど作ることができない。だから当時は、マニアでもアダプター
を買えないので、各マウントのボディを購入するしかなかった。
(一部のマニアは、物理的な「マウント換装」を行った)
本レンズ発売時の1980年代後半は、AF一眼レフが発売され
始めた時代である、
既に、ミノルタα-7000/9000(1985年)が存在し、
キヤノンは、FDマウントのAF機、T80を歴史の闇に葬り、
新マウントのEOS 620/650(1987年)で追従した、
ニコンでも、名機F4を1988年にリリースしている。
ただ、それらはまだ一部のケースだ、市場はまだまだMF一眼が
主流であった。
ミノルタでは従来機の中心機種X-700よりもαが性能上魅力的で
あったので、MDとのマウント違いを甘んじで、αに乗り換える、
又は新規ユーザー層も多々あったかと思うが、キヤノンには
名機New F-1やT90,A-1等が健在であったので、マウント
互換性の無いEOSへの乗り換えはユーザーは躊躇したと思われる。
ニコンとペンタックスは、ユーザー利便性を強く意識して
AF機でも従来のMFマウントとの互換性を重視する戦略を取った
(これは、それから30数年が経過した現在でも継続中だ)
なお、オリンパスとコンタックスは一眼レフAF化の市場戦略
に事実上失敗した。
また、他の一眼メーカーは淘汰され、AF時代には実質的に
4メーカーのAFマウントがデファクトとなりつつあった。
この時代は、バブル期でもあったので、AF一眼レフは一般にも
かなり普及したと思われる。
バブルが崩壊した1990年代前半になって、古いMF一眼レフを
見直す動きが始まり、第一次中古カメラブームに繋がった訳だ。
結局、1980年代から1990年代にかけ、いや、デジタル一眼が
普及する直前の2000年代前半の時代まで、MF一眼レフはマニア
の間では主力のカメラであったのだ。だから、このようなMFの
レンズは、(AFマウントでは使い難い事もあって)MF一眼用の
主力レンズとして使い続けられていた状況であった。

性能は発売当時のレベルでは申し分は無かったかも知れないが
現代の感覚においては、逆光耐性、解像力などの点で不満を
感じる場合も多いと思う。
今回使用のボディD2Hは、この古いレンズの雰囲気を得る為に
あえて、ニコン最初期のデジタル一眼(2003年)として
組み合わせている。D2H本体の描写力は、現代ではお世辞にも
良いとは言えない古い性能だが、まあ、古さと古さをコラボ
させるのも、それなりに意味があるとも思っている。
ただまあ、この歴史的な名レンズは、マニアであれば、
必携のレンズであろう、値段もさほど高く無いと思うので、
歴史的な価値も踏まえて、高コスパレンズとして抑えておく
意味は大きいと思う。
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次は今回ラストのシステム、

レンズは、OLYMPUS OM SYSTEM ZUIKO Macro 50mm/f3.5
(中古購入価格 8,000円)
ミラーレス・マニアックス第66回記事で紹介した、
1970年代~のMF単焦点標準マクロレンズ。
いわくつきのレンズだ、私は都合3回これを購入している、
これは2016年に買ったもので、レンズの程度もやや悪いが、
相場もかなりこなれていて、安価であった。

「非常に固い描写を持つ」という点が印象的な2本である。
(注、ニコンでは「マイクロ」と呼ぶ。言葉の意味的には
マクロよりマイクロが正しいが、前述の「技術用語の誤用」
が極端に広まってしまい、もうマイクロには戻れない感じだ)
「カリッカリ」の描写力、すなわち、近接撮影において
極端にシャープネスを追求し、ボケ質などへの配慮は無い。
これもまた設計コンセプトである。何故、そんなコンセプト
になっているかは、過去記事でも何度か紹介しているが
簡単に言うと、1970年代は、まだコピー機が普及しておらず
文書、資料などの複写に写真撮影を用いる事があったからだ。
まあ、現代で言う、いわゆる「書画カメラ」の一種である。
ニコンは当時から報道や学術分野に強かったので、新聞社や
研究室などでの、そのような用途に向けてのレンズであった
だろうし、オリンパスは医療分野に強かったので、恐らくは
医療画像(検体や患部等)の撮影あるいは複写にも用いたの
かも知れない。
で、基本的には平面被写体しか意識していない為、立体物の
撮影には、ボケ質低下などの問題で向いていない。
つまり、実用的な写真撮影用途向けのレンズではないので、
本OM50/3.5も、ニコンAi55/3.5も、入手しては飽きて手離す
と言う状況が何度か続いている。それゆえに、本レンズの
購入は3度目であり、ニコンAi55/3.5は現在は所有していない。
じゃあ、一度見放したのに、何故もう1度買うのか?
といえば、しばらくすると、これらのレンズの独特の
描写特性が、とても懐かしく、あるいは気になってくるのだ、
なにせ、現代のレンズではこのような特性を持つレンズは
まず存在しない。
まあ、絞り開放での解像感などは、現代の新鋭レンズの方が
むしろ、これらの「平面マクロレンズ」よりも上である、
例えば前記事でのTAMRON 60mm/f2の解像感がそれである。
しかも、TARMRON 60/2は、ボケ質にも配慮した現代的な
マクロだ。じゃあ、逆に、これらの「平面マクロ」を使う
為の価値、あるいは存在意義は、どこにあるのか?
これは、「あえて立体的被写体を撮影した際の、その独特な
描写特性」であろうか・・・
これは勿論、レンズの「弱点」である。「設計コンセプト外」
だからだ、「そこまでは面倒は見切れない」という設計だ。
けど、その弱点がまた「個性」になりうる、他のレンズでは
得られない唯一の特性(描写)は、マニアックな魅力を持つ。

であったり、2010年代から流行しそうな「ぐるぐるボケ」
を特徴としたレンズ群である。
前者は、ロモやホルガ、PENTAX Q等、説明の必要もあるまい。
ミラーレス・マニアックス記事でも、多数の「トイレンズ」を
紹介している。
後者の「ぐるぐるボケ」は、基本的にはレンズの「重欠点」
であり、例えば、ミラーレス第58回記事で紹介した、
MINOLTA MC ROKKOR 85mm/f1.7を補正レンズアダプターで
使用した際に発生する等がある。
又は、主に20世紀前半、あるいは、1950~1960年代頃の
超大口径(f1.1~f1.4)レンズ等ではたまに見られたが、
1970年代以降の写真用レンズでは、性能の改善により
「ぐるぐるボケ」は、ほとんど見られなくなった特性だ、
(これは像面湾曲を主因とするが、他の収差は良く補正されて
いる場合も多い=中央部の球面収差が少なくシャープである等。
つまりこれもまた、レンズの設計コンセプトの一環だ)
このユニークかつレアな描写特性は、現代では「個性」として
注目されている。近年の新製品としては、KENKO LENSBABY の
TWIST 60やTRIO 28、そしてLOMO Petzval(ペッツヴァール)
Art Lens等が発売されている(TWISTは後日紹介予定)
余談が長くなったが、本レンズOM50/3.5においても、
「トイレンズ」や「ぐるぐるボケレンズ」と同様に、
その欠点をあえて助長した個性的な描写を得るのが、非常に
マニアックな使い方だと思う。
ただ、本OM50/3.5は、曲がりなりにも、1970年代の
ちゃんとした写真用レンズだ、だからペッツヴァールのように
ぐるぐるボケも出ないし、あるいは、ボケ質における、強烈な
弱点はさほど出てこない、あくまで、ちょっとだけ変わった
描写をするマクロレンズなのだ。

その事は、私自身でも、どうにも判断できない。だから、
買っては処分し、また買いなおすという無駄な行為を何度か
繰り返してしまった訳だ。
誰にでも薦められるMFマクロレンズではないが、この特徴を
良く理解して、それでも欲しいと思ったら、値段もそう高い
ものでは無いので、コスパは悪くなく、抑えておくのも良い
かも知れない。
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さて、今回の記事は、このあたりまでとする。
次回は、やや高価なハイコスパレンズを紹介する。